関連審決 | 不服2014-14234 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10078号
審決取消請求事件
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原告株式会社ニデック 同訴訟代理人弁護士 酒井康徳 同 弁理士 水越邦仁 被告特許庁長官 同 指定代理人栗田雅弘 刈間宏信 根岸克弘 長馬望 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/03/02 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が不服2014−14234号事件について平成27年3月18日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文第1項と同旨 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成22年9月30日,発明の名称を「眼鏡レンズ加工装置」とする特許出願(特願2010-222883号。以下「本願」という。甲9)をし,平成26年1月22日付けで拒絶理由通知を受けたことから,同年3月31日付け手続補正書(甲14)により特許請求の範囲及び明細書を補正したが,同年4月18日付けで拒絶査定(甲11)を受けた。 ? そこで,原告は,平成26年7月22日,これに対する不服の審判を請求するとともに(甲12),同日付け手続補正書(甲8)により特許請求の範囲及び明細書を補正した(以下「本件補正」という。。 ) ? 特許庁は,上記審判請求を不服2014-14234号事件として審理を行い,平成27年3月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年4月1日,その謄本が原告に送達された。 ? 原告は,平成27年4月29日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 ? 本願発明 本件補正前の特許請求の範囲請求項3の記載は,平成26年3月31日付け手続補正書(甲14)により補正された次のとおりのものである。以下,この請求項3に記載された発明を「本願発明」という。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。。 )【請求項3】眼鏡レンズを保持するレンズチャック軸を回転するレンズ回転手段と,レンズの周縁を粗加工する砥石が取り付けられた1つの加工具回転軸を回転する加工具回転手段と,前記レンズチャック軸を前記1つの加工具回転軸に向けて移動させることによって,前記レンズチャック軸と前記1つの加工具回転軸との軸間距離を変動させる軸間距離変動手段と,前記レンズ回転手段及び前記軸間距離変動手段を制御して粗加工軌跡に基づいて前記砥石によりレンズ周縁を加工する制御手段と,を備える眼鏡レンズ加工装置であって,/前記制御手段は,レンズを回転させない状態で,前記レンズチャック軸を前記1つの加工具回転軸に向けて移動させることによって,前記1つの加工具回転軸とレンズチャック軸との軸間距離を変動させ,前記砥石とレンズを1つの位置で当接させて,前記砥石を切り込ませる粗加工を複数のレンズ回転角方向でそれぞれ行う制御が可能であることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。 ? 本願補正発明 本件補正後の特許請求の範囲請求項3の記載は,次のとおりである(甲8)以下, 。 この請求項3に記載された発明を「本願補正発明」といい,本件補正後の明細書(甲8,9)及び図面(甲10)を併せて「本願明細書」という。下線部は,本件補正による補正箇所を示す。 【請求項3】眼鏡レンズを保持するレンズチャック軸を回転するレンズ回転手段と,眼鏡レンズの周縁を粗加工する砥石が取り付けられた1つの加工具回転軸を回転する加工具回転手段と,前記レンズチャック軸を前記1つの加工具回転軸に向けて移動させることによって,前記レンズチャック軸と前記1つの加工具回転軸との軸間距離を変動させる軸間距離変動手段と,前記レンズ回転手段及び前記軸間距離変動手段を制御して粗加工軌跡に基づいて前記砥石により眼鏡レンズ周縁を加工する制御手段と,を備える眼鏡レンズ加工装置であって,/前記制御手段は,レンズを回転させない状態で,前記レンズチャック軸を前記1つの加工具回転軸に向けて移動させることによって,前記1つの加工具回転軸とレンズチャック軸との軸間距離を変動させ,前記砥石と眼鏡レンズを1つの位置で当接させて,前記砥石を切り込ませる粗加工を複数のレンズ回転角方向でそれぞれ行う制御が可能であることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本願補正発明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イからエの周知例1から3に記載された慣用技術ないし周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであって,本件補正は,同法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである,A本願発明は,本願発明の構成を全て含む本願補正発明と同様に,引用発明及び上記慣用技術ないし周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 ア 引用例:特開2006-123073号公報(甲1) イ 周知例1:特開2010-179397号公報(甲2。平成22年8月19日公開) ウ 周知例2:特開2006-319292号公報(甲3) エ 周知例3:特開2000-317789号公報(甲4) ? 本件審決が認定した引用発明,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア 引用発明 眼鏡レンズを保持する軸部材を回転する眼鏡レンズ駆動装置と,眼鏡レンズの周縁を粗加工する一対の砥石が取り付けられた一対の砥石軸を回転する眼鏡レンズ加工装置と,一対の砥石軸を眼鏡レンズ駆動装置に固定された眼鏡レンズに向けて移動させることによって,軸部材と前記一対の砥石軸との軸間距離を変動させる砥石移動部と,前記眼鏡レンズ駆動装置及び前記砥石移動部を制御して粗加工軌跡に基づいて前記砥石により眼鏡レンズ周縁を加工する制御装置と,を備える眼鏡レンズの製造装置であって,/制御装置は,レンズを回転させない状態で,一対の砥石軸を眼鏡レンズ駆動装置に固定された眼鏡レンズに向けて移動させることによって,軸部材と前記一対の砥石軸との軸間距離を変動させ,一対の砥石と眼鏡レンズを2つの位置で当接させて,前記砥石を切り込ませる粗加工を複数のレンズ回転角方向でそれぞれ行う制御が可能である眼鏡レンズの製造装置。 イ 本願補正発明と引用発明との一致点 眼鏡レンズを保持するレンズチャック軸を回転するレンズ回転手段と,眼鏡レンズの周縁を粗加工する砥石が取り付けられた加工具回転軸を回転する加工具回転手段と,前記レンズチャック軸と前記加工具回転軸との軸間距離を変動させる軸間距離変動手段と,前記レンズ回転手段及び前記軸間距離変動手段を制御して粗加工軌跡に基づいて前記砥石により眼鏡レンズ周縁を加工する制御手段と,を備える眼鏡レンズ加工装置であって,/前記制御手段は,レンズを回転させない状態で,前記加工具回転軸とレンズチャック軸との軸間距離を変動させ,前記砥石を切り込ませる粗加工を複数のレンズ回転角方向でそれぞれ行う制御が可能である眼鏡レンズ加工装置である点 ウ 本願補正発明と引用発明との相違点 (ア) 相違点1 本願補正発明は,加工具回転軸が1つであり,砥石と眼鏡レンズを1つの位置で当接させて粗加工を行うものであるのに対し,引用発明は,加工具回転軸が一対であり,一対の砥石と眼鏡レンズを2つの位置で当接させて粗加工を行うものである点 (イ) 相違点2 レンズチャック軸と加工具回転軸との軸間距離を変動させる軸間距離変動手段が,本願補正発明においては,レンズチャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対し,引用発明においては,一対の砥石軸を眼鏡レンズ駆動装置に固定された眼鏡レンズに向けて移動させるというものである点 4 取消事由 本願補正発明の進歩性の判断の誤り ? 相違点1及び2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1) ? 顕著な効果の看過(取消事由2) |
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当事者の主張
1 取消事由1(相違点1及び2に係る容易想到性の判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件審決は,相違点1につき,@眼鏡レンズの玉型加工において,1つの砥石軸で加工を行うことは従来周知の技術であるところ,装置の簡素化を図ることは,当業者が当然に考慮すべき事項であるから,一対,すなわち,2つの加工具回転軸を1つにして構成を簡素化することは,当業者が容易に想到し得たことである,A砥石の個数を単数とすること及び複数とすることのいずれも,従来から慣用されている技術であるとして,引用発明において,一対の加工具回転軸を1つにし,それに伴って,一対の砥石と眼鏡レンズを2つの位置で当接させていたものを,1つの砥石と眼鏡レンズを1つの位置で当接させて,相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得る旨判断した。また,本件審決は,相違点2につき,回転していない眼鏡レンズと回転する砥石とを当接させる際に,いずれを移動させるかは,相対的に移動させるに当たって択一的に選択し得る事項にすぎないとして,引用発明の軸間距離変動手段について,砥石軸を移動させることに替えてレンズチャック軸を移動させるように構成し,相違点2に係る本願補正発明の特定事項とすることは,当業者であれば,格別の困難性はない旨判断した。 しかし,以下のとおり,相違点1及び2の容易想到性を認めた本件審決の認定・判断は,誤りである。 ? 動機付けについて レンズチャック軸に平行な,一対,すなわち,2つの加工具回転軸に取り付けられた2つの砥石によって眼鏡レンズ周縁を加工するダブルスピンドル方式の眼鏡レンズの製造装置に係る引用発明においては,レンズチャック軸に平行な1つの加工具回転軸に取り付けられた1つの砥石によって眼鏡レンズ周縁を加工するシングルスピンドル方式を採用する動機付けを欠く。 ア シングルスピンドル方式とダブルスピンドル方式について レンズ周縁加工機については,平成7年頃までは,シングルスピンドル方式のもののみであったが,原告は,平成9年に,世界初のダブルスピンドル方式の製品の製造・販売を開始し,以後,現在に至るまで,複数回にわたる改良を重ねてきた。 ダブルスピンドル方式の特徴は,一対の砥石を眼鏡レンズに向かって移動させ,各砥石による2方向からの粗加工によって高速加工を実現するとともに,前記一対の砥石を異なる方向に回転させ,眼鏡レンズに掛かる回転負荷を互いに打ち消すことによって,眼鏡レンズのねじれ(以下「軸ずれ」という。)に対する剛性を高め,高精度加工を実現する点にあり,従来のシングルスピンドル方式に比して顕著な作用効果を奏する。 ダブルスピンドル方式のレンズ周縁加工機の存在及びダブルスピンドル方式の前記特徴は,本願出願当時,当業者に周知されていた。 イ 引用発明におけるダブルスピンドル方式の意義 ダブルスピンドル方式のレンズ周縁加工機であっても,超撥水処理が施された眼鏡レンズの軸ずれを十分に防ぐことができなかったので,引用発明は,眼鏡レンズを回転させながら加工する従来の方式に替えて,眼鏡レンズは回転させずに,一対の砥石を回転させて眼鏡レンズに当接させるという方式を採用することによって,軸ずれを確実に防止しようとした(引用例【0004】【0009】。 , ) もっとも,軸ずれは,眼鏡レンズに掛かる負荷が最も高くなる砥石との当接直後に最も発生しやすいところ(引用例【0006】,眼鏡レンズを回転させながら加 )工する従来の方式においては,眼鏡レンズと砥石との当接は,最初の1回のみであるのに対し,引用発明が採用した眼鏡レンズを回転させずに加工する方式においては,眼鏡レンズと砥石との当接を複数回繰り返す必要がある。 したがって,引用発明においては,基礎的な技術構成として軸ずれに強い装置が求められ,引用例【0013】【0038】【0040】【0042】【0045】 , , , ,の記載によれば,引用例の発明者において,眼鏡レンズを回転させずに加工する方式の実現には,ダブルスピンドル方式の特徴である一対の砥石の逆回転による軸ずれ防止が現実的に不可欠である旨を考えていたものということができる。すなわち,引用例の記載から,一対の砥石の逆回転によって軸ずれを防止するというダブルスピンドル方式の特徴と眼鏡レンズを回転させずに加工する方式とは,技術的に連関していることが認められ,引用例に接した当業者においても,同連関を認識しており,これを覆すことは容易ではないというべきである。 ウ 相違点1及び2に係る本願補正発明の構成を採用する動機付けの不存在 引用例には,一貫してダブルスピンドル方式及び同方式の特徴に対する積極的評価が記載されており 【0013】, ( ) シングルスピンドル方式の適用を示唆する記載も,同適用を動機付ける記載もない。 また,当業者は,引用発明の改良を試みる場合,少なくとも軸ずれの問題は考慮するはずであり,前記アのとおりダブルスピンドル方式のレンズ周縁加工機が独自の発展を遂げてきたことも考えて,軸ずれに強く,高精度加工を実現する方式として確立されたダブルスピンドル方式を前提として検討するのが普通である。 そもそも,相違点1及び2に係る本願補正発明に係る構成を採用することは,軸ずれを確実に防止することができ,レンズの加工に手間を要することなく玉型加工を行うという技術課題に反するものである。 エ 被告の主張について (ア) 被告は,当業者において,@引用例【0006】記載の軸ずれの原因となる物理現象は,ダブルスピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても生じるものであることを理解することができ,A引用発明が上記物理現象に対して見いだした,眼鏡レンズが回転していない状態で砥石と当接させるという解決手段は,いずれの方式においても使用できるものであり,軸ずれの課題を解決し得るものとして認識することができる旨主張する。 しかし,引用例【0006】及び【図11】の説明がダブルスピンドル方式における物理現象を指すことは明らかである。 そして,@引用例の記載は,全体においてダブルスピンドル方式に関する記載で終始一貫しており,シングルスピンドル方式を示唆する記載は全くないこと,Aダブルスピンドル方式は,シングルスピンドル方式とは装置構成等の技術的なアプローチを異にし,シングルスピンドル方式とは異なる特徴を備えた独自の技術として当業者に周知されていることに鑑みれば,当業者において,引用例及び技術常識から,前記物理現象がシングルスピンドル方式においても生じることを理解するのは,困難である。 また,引用例記載の解決手段が,粗加工時において眼鏡レンズが回転していない状態で回転する一対の砥石と当接させるというものであることは,当業者に自明である。したがって,当業者において,引用例から,眼鏡レンズが回転していない状態で回転する1つの砥石と当接させるという解決手段を見いだすことは,不可能である。 したがって,被告の主張は,前提を欠く。 (イ) 被告は,シングルスピンドル方式は,従来から行われていた眼鏡レンズ加工技術であり,それに立ち返るのは通常の発想である旨主張する。 しかし,シングルスピンドル方式の技術開発が存在することのみを根拠として,ダブルスピンドル方式に替えてシングルスピンドル方式の採用に想到することは,困難である。 (ウ) 被告は,シングルスピンドル方式の装置で用いられる技術をダブルスピンドル方式の装置に転用することは,従来から行われており,両方式が互いの技術の転用を全く考えないほど,それぞれに確立された独自の技術であるということはできない旨主張する。 しかし,シングルスピンドル方式の装置で用いられる技術をダブルスピンドル方式の装置に転用する場合,少なくとも一対の砥石でレンズを加工する技術への転用を要するところ,被告が掲げる乙第3号証及び乙第4号証の記載から,上記転用が従来から行われていたことを読み取ることはできない。また,本願補正発明が,粗加工に関するものであり,加工具として粗砥石が用いられるのに対し,乙第3号証及び乙第4号証は,いずれも粗加工の後に行われる仕上げ加工に関するものであり,加工具も溝掘用砥石,穴あけ加工具が用いられ,本願補正発明とは加工目的及び加工具が異なる。また,仕上げ加工においては,レンズの加工量が粗加工よりも少なく,砥石によるレンズへの負荷が小さいので,軸ずれの問題は発生しない。 したがって,被告が掲げる乙第3号証及び乙第4号証は,いずれもシングルスピンドル方式の装置で用いられる技術をダブルスピンドル方式の装置に転用したことを示すものということはできない。 ? 周知例2について 本件審決が,砥石の個数を単数とすること及び複数とすることのいずれも,従来から慣用されている技術であることの根拠として示す周知例2は,半導体ウェハーの加工装置に関するものであり,レンズ周縁加工機とは,技術分野が異なる。また,上記加工装置は,半導体ウェハーの面取りを行うものにすぎず,軸ずれについて検討する必要性もないので,眼鏡レンズをフレームの形状に合わせて加工するレンズ周縁加工機とは,加工の目的及び解決課題が異なる。 しかも,周知例2【0043】には,4個の砥石を使用した場合,1個の砥石を使用したときと比べて,加工時間が4分の1に短縮されて加工能率が4倍になる旨が記載されており,同記載は,砥石の個数を4個から1個にすれば,加工能率が4分の1に低下することを開示するものとみることができる。したがって,周知例2は,砥石の個数が少ないほど加工時間が長くなることを示唆する点において,砥石の個数を減らす方向への動機付けを欠くにとどまらず,砥石の個数を1個とする発想を阻害するものというべきである。 〔被告の主張〕 相違点1及び2に係る本願補正発明の構成の容易想到性を肯定した本件審決の認定・判断に誤りはない。 ? 動機付けについて ア 引用発明の課題解決手段 当業者は,引用例に記載されている「眼鏡レンズが砥石に当接した直後から,眼鏡レンズには眼鏡レンズの回転を停止する方向に力が継続して加わっている」 【0 (006】 という軸ずれの原因となる物理現象は, ) ダブルスピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても生じるものであることを理解することができる。 引用発明は,上記物理現象に対して,眼鏡レンズが回転していない状態で砥石と当接させるという解決手段を見いだしたものであるところ 【0009】, ( ) 同解決手段は,ダブルスピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても使用できるものであり,当業者であれば,上記解決手段の適用対象が,一対の砥石軸を有するダブルスピンドル方式の装置及び1つの砥石軸を有するシングルスピンドル方式の装置のいずれであるかにかかわらず,軸ずれの課題を解決し得るものとして認識することができる。 また,周知例1には,シングルスピンドル方式についても,撥水レンズ等の加工に際して軸ずれが発生する課題があり,それを軽減する方法として,レンズ回転速度を減速することが記載されている。レンズ回転速度を減速するということは,突き詰めれば,レンズを回転させないことであるから,前記記載は,シングルスピンドル方式においてもレンズを回転させないで軸ずれを軽減することを示唆するものということができる。 イ ダブルスピンドル方式に替えてシングルスピンドル方式を採用することについて シングルスピンドル方式は,本願の出願以前から同方式を採用した眼鏡レンズ加工技術について特許出願されるなど,従来から行われていた眼鏡レンズ加工技術であり,それに立ち返るのは通常の発想である。 また,眼鏡レンズ加工の技術分野においては,乙第3号証及び乙第4号証のように,シングルスピンドル方式の装置で用いられる技術をダブルスピンドル方式の装置に転用することは,従来から行われており,両方式が互いの技術の転用を全く考えないほど,それぞれに確立された独自の技術であるということはできない。 ウ 小括 以上のとおり,眼鏡レンズが回転していない状態で砥石と当接させるという引用発明の課題解決手段は,ダブルスピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても使用できるものであり,周知例1には,シングルスピンドル方式においても,レンズを回転させないで軸ずれを軽減することが示唆されている。 そして,シングルスピンドル方式は,従来から行われていた眼鏡レンズ加工技術であり,それに立ち返るのは通常の発想であることにも鑑みると,引用発明においては,前記課題解決手段の適用対象をダブルスピンドル方式の装置からシングルスピンドル方式の装置に替える動機付けが存在し,したがって,相違点1及び2に係る本願補正発明の構成を採用する動機付けが存在するものということができる。 エ 原告の主張について (ア) 原告は,引用発明におけるダブルスピンドル方式の意義に関し,引用例の記載から,一対の砥石の逆回転によって軸ずれを防止するというダブルスピンドル方式の特徴と眼鏡レンズを回転させずに加工する方式とは技術的に連関していることが認められ,引用例に接した当業者においても,同連関を認識しており,これを覆すことは容易ではない旨主張する。 (イ) しかし,引用例には,一対の砥石を同じ方向に回転させてもよい旨が記載されており(【請求項1】【0063】等) , ,各砥石の回転方向を逆にすることを必須なものとはしていない。よって,引用発明から把握される技術的思想は,粗加工時に眼鏡レンズを回転させないことが軸ずれの課題を解決する手段であり,一対の砥石の回転方向を逆にすることは,追加的な構成にすぎないということができる。 したがって,原告主張に係る技術的な連関の存在は認められないというべきである。 ? 周知例2について 周知例2は,一般的に,研磨加工という同種工具の加工技術において砥石を単数にするか複数にするかが選択的な慣用手段であることを示すものであり,そもそも,本件審決が補強的な証拠として掲げたものにすぎず,本件審決の結論に影響を与える証拠ではない。 2 取消事由2(顕著な効果の看過)について〔原告の主張〕 本願補正発明の効果は,引用発明,従来から慣用されている技術及び周知技術から予測し得る範囲内のものにとどまり,格別なものとはいえないという本件審決の認定・判断は,誤りである。 ? 引用発明における軸ずれの発生 引用発明においては,超撥水レンズのように滑りやすい眼鏡レンズを加工する場合,眼鏡レンズを回転させない状態で回転する一対の砥石と当接させる際,@一対の砥石の回転力の合力が眼鏡レンズを押し出す方向に作用することによる軸ずれ及びA基準線に対して傾斜した仮想軸の方向から加工するときに,一対の砥石が眼鏡レンズを押し込む方向に働き,仮想軸と眼鏡レンズの当接点が一致しない場合,各砥石が眼鏡レンズを回転させる方向に作用することによる軸ずれが発生しやすい。 軸ずれが発生すると,眼鏡フレームへのレンズの枠入れが困難になり,また,乱視を適切に矯正することができないという問題が生じるので,軸ずれの問題を解決する技術的意義は,大きい。 ? 本願補正発明の効果 本願補正発明は,眼鏡レンズを回転させない状態で単一の砥石に対して移動させ,砥石と1つの位置で当接させて,砥石を切り込ませる粗加工を複数のレンズ回転角方向でそれぞれ行うことによって,軸ずれの問題を実質的に解決し得るという効果を奏するものである。そのような効果は,本願出願当時において,ダブルスピンドル方式のレンズ周縁加工機が軸ずれに強く,高精度加工を実現するという当業者の技術常識に鑑みれば,技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものということができる。 ? 被告の主張について ア 被告は,本願補正発明が奏する軸ずれ防止の効果は,当業者にとって予測可能なものである旨主張する。 イ しかし,前記?のとおり,@一対の砥石の回転力の合力が眼鏡レンズを押し出す方向に作用し,軸ずれの原因となり得ること及びA基準線に対して傾斜した仮想軸の方向から加工するときに,一対の砥石が眼鏡レンズを押し込む方向に働き,仮想軸と眼鏡レンズの当接点が一致しない場合,各砥石が眼鏡レンズを回転させる方向に作用し,軸ずれの原因となり得ることについては,引用例に開示も示唆もされていない。 また,引用例には,一対の砥石の回転方向を逆向きとすることによって眼鏡レンズが確実に挟持され,軸ずれの発生を防止できる旨の積極的記載が存在する。 さらに,本願出願当時,ダブルスピンドル方式の眼鏡加工装置が軸ずれに強いという技術常識も存在していた。 被告の主張は,これらの事情を考慮せずに,1つの砥石軸を備えた眼鏡加工装置にすれば,軸ずれ防止の効果を期待できるというものであり,いわゆる後知恵にほかならず,誤りである。 〔被告の主張〕 本願補正発明が奏する軸ずれ防止の効果は,当業者にとって予測可能なものであり,同旨の本件審決の認定・判断に誤りはない。 ? 一対の砥石軸を有し,各砥石をそれぞれ異なる方向に回転させる眼鏡加工装置においては,各砥石の摩擦力を合わせたものがレンズチャック軸にかかることになる。 前記眼鏡加工装置を1つの砥石軸を有する眼鏡加工装置に替えれば,眼鏡レンズにかかる摩擦力が砥石1個分のものとなり,軸ずれの原因になり得る力が小さくなるので,軸ずれ防止の効果を奏することが期待され,そのような効果は,当業者にとって予測可能なものである。 ? 一対の砥石軸を有し,各砥石をそれぞれ異なる方向に回転させる眼鏡加工装置においては,基準線に対して傾斜した仮想軸の方向から加工するとき,各砥石軸の押し付けで眼鏡レンズに発生する力によって偶力モーメントが生じるところ,砥石軸を1つにすれば,偶力モーメントは小さくなる。 また,上記眼鏡加工装置においては,各砥石の摩擦力を合わせたものがレンズチャック軸にかかることになるが,砥石軸を1つにすれば,眼鏡レンズにかかる摩擦力が砥石1個分のものとなる。 このように,上記眼鏡加工装置を1つの砥石軸を有する眼鏡加工装置に替えれば,軸ずれの原因になり得る力が小さくなるので,軸ずれ防止の効果を奏することが期待され,そのような効果は,当業者にとって予測可能なものである。 |
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当裁判所の判断
1 本願補正発明について ? 本願補正発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2?【請求項3】のとおりであるところ,本願明細書(甲8〜10)には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用する図面については,別紙1参照)。 ア 技術分野 本発明は,眼鏡レンズの周縁を加工する眼鏡レンズ加工装置に関するものである(【0001】。 ) イ 背景技術 (ア) 眼鏡レンズの周縁を加工する加工装置においては,一対のレンズチャック軸に保持された眼鏡レンズが,レンズチャック軸の回転に伴って回転し,粗砥石等の粗加工具を押し当てられることによって,周縁に粗加工を施される。眼鏡レンズは,その表面に加工治具であるカップが固定され,このカップを介して一対のレンズチャック軸に保持される(【0002】。 ) 近年,撥水物質がレンズ表面にコーティングされた撥水レンズが多く使用されるようになってきた。この撥水レンズについては,その表面が滑りやすいので,撥水物質が施されていないレンズと同様に従来の加工制御方法を使用すると,カップの取付けが滑り,レンズチャック軸の回転角度に対してレンズの回転角度がずれてしまう,いわゆる軸ずれが発生しやすいという問題がある(【0003】。 ) (イ) 軸ずれを軽減する方法として,@レンズチャック軸にかかる負荷トルクを検知し,負荷トルクが所定値内に入るようにレンズ回転速度を減速する技術(特許文献1:特開2004-255561号公報〔甲24〕参照),A眼鏡レンズを一定速度で回転させ,眼鏡レンズが1回転する間の粗砥石の切込み量が略一定となるように,レンズチャック軸と加工具回転軸との軸間距離を変動させる技術(特許文献2:特開2006-334701号公報参照),B上記Aの技術を改良して,軸ずれが発生しないように単位時間当たりの加工体積を設定し,同加工体積が一定となるように眼鏡レンズの回転角ごとの切込み量を求めて軸間距離を制御する技術(特許文献3:周知例1参照)が提案されている(【0004】【0006】 。 , ) (ウ) 粗加工時における眼鏡レンズの回転方向の制御には,@粗砥石の回転方向と眼鏡レンズの回転方向とが逆にされるダウンカット方式と,A粗砥石の回転方向と眼鏡レンズの回転方向とが同一方向にされるアップカット方式がある。 アップカット方式においては,眼鏡レンズを粗砥石側に引っ張る力が増大し,軸ずれが大きく発生するのに対し,ダウンカット方式は,眼鏡レンズを粗砥石側に引っ張る力がアップカット方式に比較して弱いことから,通常のプラスチックレンズの場合には,ダウンカット方式が採用されている。 レンズの材質が熱可塑性の素材の場合,粗加工時には研削水が使用されないので(特許文献4:特開2006-305698号公報) ダウンカット方式を採用する ,と,粗砥石の回転方向に排出される加工くずが熱を受けて粘りを持ちやすく,熱で溶かされた加工くずが粗加工済みのレンズ周縁に付着し,その後の仕上げ加工の加工精度に影響する。アップカット方式においては,粗砥石の回転方向に排出される加工くずが粗加工の未加工部分側に排出されるので,溶かされた加工くずがレンズ周縁に付着しにくい。このような要因により,熱可塑性素材のレンズの場合には,アップカット方式が採用されている(【0005】【0006】 。 , ) ウ 発明が解決しようとする課題 撥水コーティングは,熱可塑性の素材のレンズにも施されるようになってきており,撥水コーティングが施された熱可塑性のレンズをアップカット方式で加工しようとすると,前記イの各提案に係る加工制御によっても軸ずれの問題を十分に抑えきれず,また,軸ずれを避けようとすると,加工時間が大幅に長くなるという問題がある(【0007】。 ) 本発明は,上記の問題に鑑み,熱可塑性レンズの軸ずれを効果的に抑え,効率よく加工を行うことができる眼鏡レンズ加工装置の提供を技術課題とする(【0008】。 ) エ 課題を解決するための手段 本発明は,前記ウの課題を解決するために,特許請求の範囲の各請求項記載の構成を備え,レンズ回転手段及び軸間距離変動手段を制御する制御手段は,第1粗加工時において複数のレンズ回転角方向において切込みを行う際,順次所定の角度ごとに切り込ませることによって,眼鏡レンズを1回転分回転させたときに第1粗加工が完了されるように制御することを特徴とする(【0009】。 ) オ 発明の効果 本発明によれば,熱可塑性レンズの軸ずれを抑えて効率よく加工を行うことができる(【0010】。 ) カ 発明を実施するための形態 (ア) 【図1】は,眼鏡レンズ加工装置の概略構成図である。 加工装置1のベース170上には,一対のレンズチャック軸102L及び102Rを回転可能に保持するキャリッジ101が搭載されている。 レンズLEの周縁は,砥石スピンドル(加工具回転軸)161aに取り付けられた加工具としての砥石群168の各砥石に圧接されて加工される 【0011】 ( , 【0012】。 ) a 砥石群168,砥石スピンドル161a及びモータ160によって,砥石回転ユニットが構成される。砥石群168は,粗砥石162,高カーブレンズの前ヤゲン形成用の前ヤゲン加工面及び後ヤゲン形成用の後ヤゲン加工面を持つ仕上げ砥石163,低カーブレンズに使用されるヤゲン形成用のV溝及び平加工面を持つ仕上げ砥石164,ヤゲン形成用のV溝及び平加工面を持つ鏡面砥石165から構成される。粗砥石162の直径は,100mmほどである。砥石スピンドル161aは,モータ160により回転される(【0013】。 ) b レンズチャック軸102R,102L,キャリッジ101の右腕101Rに取り付けられたモータ110,左腕101Lに取り付けられたモータ120及びモータ120の回転軸に取り付けられたエンコーダ121によって,レンズ回転ユニットが構成される。 レンズチャック軸102Rは,モータ110により,レンズチャック軸102L側に移動する。また,レンズチャック軸102R及び102Lは,モータ120により,ギヤ等の回転伝達機構を介し,同期して回転される。 エンコーダ121は,レンズチャック軸102R及び102Lの回転角を検知するものであり,加工時にレンズチャック軸102R及び102Lに加わる負荷トルクを検知できる(【0014】。 ) c X軸方向に伸びるシャフト103及び104に沿って移動可能な支基140,支基140に搭載されたキャリッジ101,モータ145並びにモータ145の回転軸に取り付けられたエンコーダ146によって,X軸方向移動ユニットが構成される。 キャリッジ101は,モータ145の駆動によってX軸方向(レンズチャック軸の軸方向)に移動する。エンコーダ146は,キャリッジ101(すなわち,レンズチャック軸102R及び102L)のX軸方向の移動位置を検知する。 また,支基140,キャリッジ101,支基140に固定されているシャフト156,157及びY軸移動用モータ150,ボールネジ155並びにY軸移動用モータ150の回転軸に取り付けられたエンコーダ158によって,Y軸方向移動ユニット(軸間距離変動ユニット)が構成される。 シャフト156及び157は,Y軸方向(レンズチャック軸102L及び102Rと砥石スピンドル161aとの各軸間距離が変動される方向)に延びており,キャリッジ101は,シャフト156及び157に沿ってY軸方向に移動可能に支基140に搭載されている。Y軸移動用モータ150の回転は,Y軸方向に延びるボールネジ155に伝達され,ボールネジ155の回転によって,キャリッジ101はY軸方向に移動する。エンコーダ158は,レンズチャック軸のY軸方向の移動位置を検知する(【0015】。 ) (イ) 眼鏡レンズ前面及び後面のカーブ形状並びにレンズ外径の測定が終了すると,粗加工工程に移行する。【図6】は,粗加工動作を説明する模式図である。 軸ずれを抑制する粗加工動作は,以下のとおりである。なお,眼鏡レンズのチャック中心(回転中心)102Cがレンズの光学中心OCであるものとする(【0034】。 ) a 制御ユニット50は,眼鏡レンズ加工装置全体の統括 制御を行うとともに, ・各種測定結果及び入力データに基づいて演算処理を行うものである。 制御ユニット50は,入力された玉型データに基づき,粗砥石162によって加工される粗加工軌跡RTを演算する。粗加工軌跡RTは,玉型に仕上げ代(例えば,2mm)を付加して演算される。 制御ユニット50は,粗加工の第1段階として,複数のレンズ回転角方向Ni(i=1,2, ・ ・) 3, ・ で,眼鏡レンズを回転させずに(レンズLEの回転を停止し),粗砥石162を粗加工軌跡RT(その付近も含む)まで粗砥石162を切り込ませる。すなわち,レンズ回転角方向Niは,レンズLEを回転させずに粗砥石162を切り込ませる方向となる。 【図6】においては,複数のレンズ回転角方向Niとして,N1,N2,N3,N4,N5及びN6の6方向から粗砥石162を切り込ませる例が示されている。2方向の間の角度Nθ1,Nθ2,Nθ3,Nθ4,Nθ5及びNθ6は,それぞれ60度で等分とされている。実際には,粗砥石162の回転中心は固定され,レンズLEが回転するところ, 【図6】においては,相対的に,レンズLEのチャック中心102Cを中心にして,N1からN6の各方向に粗砥石162の中心が位置するものとして図示されている。 第1段階の粗加工後,制御ユニット50は,粗加工の第2段階として,レンズLEを回転させながら,粗加工軌跡RTに従ってY軸方向へのレンズチャック軸102R及び102Lの移動位置を制御し,第1段階の粗加工後に残った加工領域RBの粗加工を行う。第2段階におけるレンズLEの回転方向は,粗砥石162の回転方向とレンズLEの回転方向とが同一方向となるアップカット方式で行われる【0 (025】【0035】。 , ) b 第1段階の粗加工を具体的に説明する。制御ユニット50は,N1方向をY軸方向にセットし,レンズLEを回転させずにレンズチャック軸102L及び102Rを移動し,粗砥石162が粗加工軌跡RTに到達するまで切り込みを行う。 【図7】は,N1方向に粗砥石162を切り込ませたときの図であり,領域RA1が,レンズLEを回転させずに削り取られる部分である。 次に,制御ユニット50は,レンズチャック軸102L及び102Rを移動させてレンズLEを粗砥石162から離間させた後,モータ120を駆動してレンズLEを角度Nθ1(60度)回転させ, 【図8】のように,N2方向をY軸方向に一致させる。その後,再び,レンズLEを回転させずに砥石162側に移動させて,粗砥石162を粗加工軌跡RTまで切り込ませる。このときに削り取られる部分が,領域RA2である。 以後,レンズLEの1回転分に当たるN3,N4,N5及びN6の各方向で,同じ動作が繰り返され, 【図9】に示すように,領域RA3,RA4,RA5及びRA6が順次削り取られる。粗加工軌跡RTの外側に残った領域RBが,第2段階で加工される部分となる(【0036】。 ) c このような第1段階の加工シーケンスにおいては,レンズLEが粗加工されるときに回転していないことから,レンズLEに加わる回転負荷(負荷トルク)は小さく,軸ずれの発生が抑えられる。 すなわち,レンズLEに加わる回転負荷は,粗砥石162の回転によってレンズLEと粗砥石162との間に発生する摩擦力(粗砥石162の回転方向に沿う摩擦力)の影響を受ける。レンズLEが回転されながら粗砥石162によって粗加工される場合,レンズチャック軸102L及び102Rの回転力が加わり,レンズLEをその回転方向にある粗砥石162側に引っ張る力が働くので,レンズLEに加わる回転負荷が増え,これが軸ずれを発生させる要因となる。 これに対して,レンズLEを回転させない場合,レンズLEには粗砥石162の中心が位置するY軸方向への押し付け力が大きく働き,この押し付け力の反力によって粗砥石162の回転による摩擦力も相殺され,レンズLEを回転させようとする回転負荷はほとんど発生しなくなり,軸ずれの発生が抑えられる。したがって,第1段階の粗加工においては,Y軸方向の負荷のみを考慮すればよい【0038】。 ( ) d Y軸方向の負荷が一定値を超えないようにするためには,簡易的には,Y軸方の移動速度をあらかじめ設定された許容値以下とする。Y軸方向の負荷は,単位時間当たりの加工量と相関があるので,好ましくは,単位時間当たりの加工量を一定以下にすることにより,Y軸方への負荷も小さくでき,Y軸方向のずれを抑えることができる。測定又は入力されたレンズの外径,レンズの前面形状及び後面形状,レンズ厚,粗加工軌跡RT並びに粗砥石162の半径を基にY軸方の単位移動距離ごとの加工量を求め,この加工量が単位時間に対して一定以下となるように,レンズLEのY軸方向への移動速度を制御する。これによって,Y軸方向へのレンズLEの位置ずれを発生させずに済む(【0039】。 ) ? 本願補正発明の特徴 前記?によれば,本願補正発明の特徴は,以下のとおりである。 ア 本願補正発明は,眼鏡レンズの周縁を加工する眼鏡レンズ加工装置に関するものである(【0001】。 ) イ 眼鏡レンズの周縁を加工する加工装置においては,加工治具であるカップを介して一対のレンズチャック軸に保持された眼鏡レンズが,レンズチャック軸の回転に伴って回転し,粗砥石等の粗加工具を押し当てられることによって,周縁に粗加工を施される(【0002】。 ) 粗加工時における眼鏡レンズの回転方向の制御には,@粗砥石の回転方向と眼鏡レンズの回転方向とが逆にされるダウンカット方式と,A粗砥石の回転方向と眼鏡レンズの回転方向とが同一方向にされるアップカット方式がある。 アップカット方式においては,眼鏡レンズを粗砥石側に引っ張る力が増大し,レンズチャック軸の回転角度に対してレンズの回転角度がずれてしまう,いわゆる軸ずれが大きく発生するので,通常のプラスチックレンズの粗加工には,上記の力がアップカット方式よりは弱いダウンカット方式が採用されている。 他方,レンズの材質が熱可塑性の素材の場合,粗加工時には研削水が使用されないので,ダウンカット方式を採用すると,粗砥石の回転方向に排出される加工くずが熱を受けて粘りを持ちやすく,熱で溶かされた加工くずが粗加工済みのレンズ周縁に付着するのに対し,アップカット方式においては,粗砥石の回転方向に排出される加工くずが粗加工の未加工部分側に排出されることから,溶かされた加工くずがレンズ周縁に付着しくい。そこで,熱可塑性素材のレンズの粗加工には,アップカット方式が採用されている(【0003】【0005】。 , ) ウ 近年,眼鏡レンズとして撥水レンズが多く使用されるようになってきたが,撥水レンズは,表面が滑りやすいので,撥水物質が施されていないレンズと同様に従来の加工制御方法を使用すると,カップの取付けが滑り,軸ずれが発生しやすい(【0003】。 ) そのような軸ずれを軽減する方法は,複数提案されているものの(【0004】, )撥水コーティングが施された熱可塑性のレンズをアップカット方式で加工しようとすると,それらの提案に係る加工制御によっても軸ずれの問題を十分に抑えきれず,また,軸ずれを避けようとすると,加工時間が大幅に長くなるという問題がある【0 (007】。 ) 本願補正発明は,上記の問題に鑑み,熱可塑性レンズの軸ずれを効果的に抑え,効率よく加工を行うことができる眼鏡レンズ加工装置の提供を技術課題としたものである(【0008】。 ) エ 本願補正発明は,前記ウの課題を解決するために,本件補正後の特許請求の範囲請求項3記載の構成を備え,レンズ回転手段及び軸間距離変動手段を制御する制御手段は,第1粗加工時において複数のレンズ回転角方向において切込みを行う際,順次所定の角度ごとに切り込ませることによって,眼鏡レンズを1回転分回転させたときに第1粗加工が完了されるように制御することを特徴とする(【0009】。 ) オ 本願補正発明によれば,熱可塑性レンズの軸ずれを抑えて効率よく加工を行うことができる(【0010】。 ) 2 引用発明について ? 引用例(甲1)の特許請求の範囲請求項1には,以下のとおり記載されている。 玉型加工前の眼鏡レンズを眼鏡レンズの厚み方向に沿って延びる軸部材により保持し,玉型加工前の眼鏡レンズの垂直基準線に沿った方向及び垂直基準線に直交する水平基準線に沿った方向の各方向から,玉型加工前の眼鏡レンズの外周端面に,回転する一対の砥石を当接させるとともに,前記一対の砥石を眼鏡レンズの中心に向かって移動させ,玉型加工前の眼鏡レンズを粗加工する粗加工工程と,/前記軸部材を回転駆動して,前記粗加工された眼鏡レンズを回転させながら,眼鏡レンズの外周端面に,回転する一対の砥石を当接させて粗加工する回転粗加工工程と,/前記軸部材を回転駆動して,前記眼鏡レンズを回転させながら,前記眼鏡レンズの外周端面に,回転する一対の砥石を当接させて,眼鏡レンズの外周端面を仕上げ加工する仕上げ加工工程とを備え,/前記粗加工工程において,玉型加工前の眼鏡レンズには,前記軸部材からの回転駆動力をかけないで,粗加工することを特徴とする眼鏡レンズの製造方法。 ? 引用例(甲1)の発明の詳細な説明には,おおむね,以下のとおり記載されている(下記記載中に引用する図面については,別紙2参照)。 ア 技術分野 本発明は,眼鏡レンズの製造方法,制御プログラム及び眼鏡レンズの製造装置に関するものである(【0001】。 ) イ 背景技術 従来から,眼鏡レンズを眼鏡フレームに枠入れする際には,眼鏡フレームのフレーム形状に合わせて眼鏡レンズの周縁部を研削する,いわゆる玉型加工が行われている。 玉型加工の方法として,軸部材の保持部に固着した玉型加工前の円形の眼鏡レンズを軸部材の一対の軸部材本体で挟持し,軸部材を回転させて,眼鏡レンズを回転駆動するとともに,眼鏡レンズの周囲に複数の砥石を配置し,これらの砥石を回転させながら,回転する眼鏡レンズに当接させる方法が使用されている。 上記の加工方法においては,軸部材の保持部を,眼鏡レンズの光学中心やフレーム形状の中心となる位置に固着し,眼鏡レンズを保持している。なお,同固着には,一般的に粘着テープが用いられている。 そして,砥石を回転させながら,回転する眼鏡レンズの中心に向かって移動させ,眼鏡レンズをフレーム形状に加工している。 砥石の回転制御は,砥石軸を回転させるサーボモータの回転トルクを監視することによって行われており,回転トルクが上限値を超えると,砥石の移動が停止され,眼鏡レンズに過剰な負荷がかからないようになっている(【0002】。 ) ウ 発明が解決しようとする課題 (ア) しかしながら,前記イの砥石の回転制御方法においては,サーボモータの回転トルクが上限値を超えた後,砥石の移動を停止するまでの間に,眼鏡レンズに高い負荷がかかり,その負荷によって眼鏡レンズと保持具との相対位置がずれ,眼鏡レンズの軸部材に対する取付位置や取付角度がずれてしまい,いわゆる軸ずれが発生する。軸ずれが発生すると,眼鏡レンズを所望の形状に加工することが困難となる。 そこで,眼鏡レンズと保持部との間に滑り止めシール及び粘着テープを設ける方法,すなわち,眼鏡レンズの表面の滑り性を低下させるために,眼鏡レンズ表面に滑り止めシールを貼り付け,さらにその上に粘着テープを貼り付けて滑り止めシールにすき間なく密着させ,この粘着テープに軸部材の保持部を固着させることで軸ずれを防止する方法が提案されている。 しかしながら,上記方法については,滑り止めシール及び粘着テープという2つの部材を眼鏡レンズ表面に貼り付ける作業及び加工終了後にこれらの部材を眼鏡レンズからはがす作業を要し,眼鏡レンズの加工に手間が掛かるという問題がある。 また,近年,高い防汚性能を備えた眼鏡レンズが望まれており,表面に超撥水処理が施された眼鏡レンズが登場しているところ,そのような眼鏡レンズには滑り止めシールが十分に固着せず,軸ずれの発生を確実に防止できないという問題もある(【0004】。 ) (イ) 本発明の目的は,軸ずれを防止することができ,眼鏡レンズの加工に手間を要さずに,玉型加工を行うことができる眼鏡レンズの製造方法及び製造装置を提供することである(【0005】。 ) エ 課題を解決するための手段 (ア) 本発明者らが鋭意研究を重ねた結果,前記イの従来の方法(眼鏡レンズと軸部材の保持部との固着には,粘着テープのみを使用し,滑り止めテープは使用しない。)によって眼鏡レンズ及び砥石を回転させながら粗加工を行ったところ,【図11】のとおり,眼鏡レンズと砥石とを当接させた直後に,眼鏡レンズを回転させるモータの電流値が最大となることが判明した。モータの電流値は,モータのトルク値に比例するものであるから,モータの電流値が最大となるとき,モータのトルク値も最大となる。そして,モータのトルク値は,眼鏡レンズにかかるトルク値と略一致しているので,眼鏡レンズには,砥石に当接した直後から,眼鏡レンズの回転を停止する方向に力が継続して加わっているということができる。 したがって,回転する眼鏡レンズにその回転を停止する方向の力が加わり,その力が眼鏡レンズをねじるような方向に作用して,眼鏡レンズの軸部材に対する位置ずれや角度ずれ,すなわち,軸ずれが発生しやすくなるものと考えられる。本発明は,このような知見に基づいて案出されたものである。 なお, 【図11】において,点線は,屈折率1.67,屈折力が-4ディオプトリのレンズを加工した際の電流値の変化を示し,実線は,屈折率1.67,屈折力が+4ディオプトリのレンズを加工した際の電流値の変化を示している 【0006】。 ( ) (イ) すなわち,本発明の眼鏡レンズの製造方法は,玉型加工前の眼鏡レンズをその厚み方向に沿って延びる軸部材により保持し,@玉型加工前の眼鏡レンズの垂直基準線に沿った方向及び垂直基準線に直交する水平基準線に沿った方向の各方向から,玉型加工前の眼鏡レンズの外周端面に,回転する一対の砥石を当接させるとともに,前記一対の砥石を眼鏡レンズの中心に向かって移動させ,玉型加工前の眼鏡レンズを粗加工する粗加工工程と,A前記軸部材を回転駆動して粗加工された眼鏡レンズを回転させながら,眼鏡レンズの外周端面に回転する一対の砥石を当接させて粗加工する回転粗加工工程と,B前記軸部材を回転駆動して前記眼鏡レンズを回転させながら,前記眼鏡レンズの外周端面に回転する一対の砥石を当接させて,眼鏡レンズの外周端面を仕上げ加工する仕上げ加工工程とを備えるものである。前記@の粗加工工程において,玉型加工前の眼鏡レンズには,前記軸部材からの回転駆動力をかけないで粗加工することを特徴とする(【0007】。 ) (ウ) 前記(イ)の「玉型加工前の眼鏡レンズには,軸部材からの回転駆動力をかけないで粗加工する」とは,軸部材をモータ等で回転駆動させない状態をいい,上記状態として,眼鏡レンズが回転しないように眼鏡レンズ及び軸部材を完全に固定した状態が例示できる。もっとも,眼鏡レンズ及び軸部材を完全に固定せずに,一対の砥石の回転力が眼鏡レンズに伝わることにより,眼鏡レンズ及び軸部材が多少動いてしまう状態であってもよい。 前記(イ)@の粗加工工程において,眼鏡レンズの垂直基準線及び水平基準線に沿った各方向から一対の砥石をそれぞれ眼鏡レンズに当接させる際には,垂直基準線方向から一対の砥石を当接させて加工した後,水平基準線方向から一対の砥石を当接させて加工してもよく,水平基準線方向から一対の砥石を当接させて加工した後,垂直基準線方向から一対の砥石を当接させて加工してもよい。また,砥石を二対用意して,垂直基準線方向及び水平基準線方向の双方から同時に眼鏡レンズに当接させて加工してもよい(【0008】。 ) (エ) 本発明では,粗加工工程において,玉型加工前の眼鏡レンズに軸部材からの回転駆動力をかけないで粗加工を行っており,眼鏡レンズが回転していない状態で,回転する一対の砥石が眼鏡レンズの外周端面に当接することとなる。 前記(ア)のとおり,眼鏡レンズを回転駆動する従来の方法においては,眼鏡レンズを回転する砥石に当接させると,回転する眼鏡レンズにその回転を停止する方向の力が加わり,その力が眼鏡レンズをねじるような方向に作用して軸ずれが発生しやすくなっていたが,本発明においては,眼鏡レンズ自体が回転していないので,上記力が加わることはなく,軸ずれが発生しにくくなる(【0009】。 ) このように,本発明では,軸ずれが発生しにくくなるので,少なくとも滑り止めシールは不要となり,したがって,滑り止めシールを眼鏡レンズに貼り付ける作業及び加工終了後に滑り止めシールを眼鏡レンズからはがす作業も不要になることから,眼鏡レンズの製造にかかる手間を省くことが可能となる。さらに,眼鏡レンズ表面の材質等によっては,粘着テープも不要になり,そうなれば,より一層,眼鏡レンズの製造に掛かる手間を省くことができる(【0010】。 ) (オ) さらに,本発明では,少なくとも前記(イ)@の粗加工工程において,回転する一対の砥石は,回転方向が互いに逆向きであることが好ましい。 このような本発明によれば,一対の砥石の回転方向を逆向きとすることで,眼鏡レンズにおいては,一方の砥石から作用する回転力と他方の砥石から作用する回転力とが打ち消し合うこととなる。これにより,眼鏡レンズは一対の砥石によって確実に挟持されることとなり,軸ずれの発生を防止することができる(【0013】。 ) (カ) 本発明の眼鏡レンズの製造装置は,玉型加工前の眼鏡レンズをフレーム形状に玉型加工する眼鏡レンズの製造装置であって,@玉型加工前の眼鏡レンズをその厚み方向に沿って支持する軸部材及びこの軸部材を回転駆動する眼鏡レンズ回転駆動部を有する眼鏡レンズ駆動装置と,A前記軸部材に保持された眼鏡レンズを加工する一対の砥石,この砥石を支持する砥石軸,この砥石軸を回転駆動する砥石軸回転駆動部及び前記砥石を前記軸部材に支持された眼鏡レンズに対して移動させる砥石移動部を有する眼鏡レンズ加工装置と,B前記眼鏡レンズ駆動装置の眼鏡レンズ回転駆動部の駆動制御,前記眼鏡レンズ加工装置の砥石軸回転駆動部の駆動制御,及び砥石移動部の駆動制御を行うコンピュータとを備えている。同コンピュータは,実行するプログラムを格納した記憶部を有し,同記憶部には,前記(イ)の眼鏡レンズの製造方法に係る制御プログラムが記憶されている。 このような本発明の眼鏡レンズの製造装置は,前記(イ)の眼鏡レンズの製造方法を実行するものであり,同様の効果を奏することができる 【0018】 0020】。 ( 【 , ) オ 発明を実施するための最良の形態 (ア) 眼鏡レンズLの製造装置の構成 a 【図1】には,本実施形態の眼鏡レンズLの製造装置1が示されている。 製造装置1は,玉型加工前の平面略円形形状の眼鏡レンズLをフレーム形状に合わせて玉型加工し,フレーム形状に応じた眼鏡レンズLとするものである。 玉型加工前の眼鏡レンズLは,表面に超撥水加工が施された眼鏡レンズである。 製造装置1は,製造装置本体2とこれを覆う筐体(図示略)を備えており,製造装置本体2は,@平板状の台であるメインベース21,Aメインベース21上に設置された側面略逆T字型のサブベース22,B眼鏡レンズ駆動装置23,C眼鏡レンズ加工装置24及びD眼鏡レンズ駆動装置23と眼鏡レンズ加工装置24を制御する制御装置25を備えている。 サブベース22は,メインベース21上に設置される基部221とその上に設けられた正面略長方形形状の壁部222を備えており,壁部222は,その長辺がX軸に沿うように配置されている(【0021】。 ) b 眼鏡レンズ駆動装置23は,眼鏡レンズLを挟持して回転駆動するものであり,眼鏡レンズLを挟んで対向する@上部チャック部231とA下部チャック部232を備えている。 上部チャック部231は,押さえシリンダ231Aを備えており,押さえシリンダ231Aは,例えば,空気圧シリンダであり,@円筒状のシリンダ本体231BとA軸部材231Cを備えている。 押さえシリンダ231Aのシリンダ本体231Bは,ホルダ231Dを介して,サブベース22の壁部222に取り付けられ,その正面略中央部分に固定されている。ホルダ231D内部には軸受けが設けられており,押さえシリンダ231Aを回転可能に保持している(【0022】。 ) c 押さえシリンダ231Aが備える軸部材231Cは,眼鏡レンズLの厚み方向に沿って延びており,シリンダ本体231B内を上下(Z軸方向に沿って移動)するものである。軸部材231Cは,眼鏡レンズLの表面に当接して他の軸部材232Dとともに,眼鏡レンズLを挟持する。軸部材231Cの先端部には,例えば,ゴム製のレンズ押さえ231C1が取り付けられている。 押さえシリンダ231Aにおいては,電磁弁231Eを制御することによってシリンダ本体231B内部の空気圧を調整し,軸部材231Cを摺動させる 【002 (3】。 ) d 眼鏡レンズ駆動装置23の下部チャック部232は,@サブベース22の基部221に設置されたターンテーブル232AとAその上に設置されたシリンダ232Bを備えている。 ターンテーブル232Aは,シリンダ232Bを回転駆動するものであり,平面円形形状のターンテーブル本体232A1及びそれから下方に延びる回転軸232A2を有している。 メインベース21の裏面には,ターンテーブル232Aの設置位置に応じて凹部が設けられており,回転軸232A2は,メインベース21表面を貫通して上記凹部内に達している。この凹部内には,回転軸232A2及びモータ232Eの回転軸にかみ合ったギアが設置されている。 モータ232Eを駆動させると,上記ギアによってターンテーブル232Aが回転駆動し,それに伴ってターンテーブル232A上に設置されたシリンダ232Bが回転駆動し,後記eのとおりシリンダ232Bが備える軸部材232Dに下方側から支持された眼鏡レンズLも回転駆動することとなる。すなわち,モータ232Eは,本発明の眼鏡レンズ回転駆動部に該当するものである(【0024】。 ) e シリンダ232Bは,押さえシリンダ231Aと略同様の構造であり,@シリンダ本体232C及びAその内部を摺動する軸部材232Dを備えている。 軸部材232Dは,眼鏡レンズLの厚み方向に沿って延びており,眼鏡レンズLの表面を下方側から支持するものである。軸部材232Dは,軸部材231Cと対向配置されており,軸部材232D及び軸部材231Cにより,眼鏡レンズLを表裏面から挟持する。 軸部材232Dは,@シリンダ本体232C内部を摺動する軸部材本体232D1,Aその先端に取り付けられた装着部232D2及びBゴム等の材料で構成される保持部232D3を備えている。 保持部232D3の表面に粘着テープTを貼り付け,同粘着テープTを介して,眼鏡レンズLの表面に印刷された眼鏡レンズの中心(例えば,眼鏡レンズの幾何学中心)を示す基準点に固定する。このようにして眼鏡レンズLが固定された保持部232D3を装着部232D2にはめ込み,眼鏡レンズLを軸部材本体232D1に装着する。 なお,装着部232D2には,保持部232D3が装着部232D2に対して回転してしまわないように,回り止めが形成されている。 シリンダ232Bにおいては,電磁弁232Fを制御することによって,シリンダ本体232C内部の空気圧を調整し,軸部材232Dを摺動させる【0025】。 ( ) f 眼鏡レンズ加工装置24は,眼鏡レンズLを研削加工するものであり,@研削部241とAこれを移動させる一対の移動部(砥石移動部)242を備えている。 研削部241は,@一対の砥石241A,Aこれらに接続された砥石軸241B,Bこれを回転駆動させる砥石軸回転駆動部241C及びC基体241Dを備えている。 砥石241Aは,円柱形状の複数(例えば3つ)の砥石本体241A1〜241A3をZ軸方向に沿って重ね合わせたものであり,うち最下部に配置された砥石本体241A1が,眼鏡レンズLの粗加工に使用されるものである(【0026】。 ) g 砥石軸241Bは,砥石241Aを保持するものであり,砥石軸241Bの上端は,基体241Dの上面部に設置されたプーリに固定されている。 砥石軸回転駆動部241Cは,基体241Dの上面部に設置されており,砥石軸241Bを回転駆動するモータ241C1等を備えている。モータ241C1が駆動すると,前記プーリが回転し,これに伴って砥石軸241Bが回転する(【0027】) 。 一対の移動部(砥石移動部)242は,電動スライダであり,眼鏡レンズ駆動装置23を挟んで対向配置され,研削部241の一対の砥石241Aを眼鏡レンズ駆動装置23に固定された眼鏡レンズLに対して接近・離間させるものである。 移動部242が備える移動ステージ242Dには,これに固定された基体241Dを介して砥石軸241B及び砥石241Aが取り付けられているので,砥石241Aは,移動ステージ242Dの移動に伴って移動することになる(【0028】,【0029】。 ) h 制御装置(コンピュータ)25は,眼鏡レンズ駆動装置23及び眼鏡レンズ加工装置24とを制御するものであり,@データや制御信号の入出力を行う入出力制御部251,A記憶部252及びB制御部253を備えている。 制御部253は,眼鏡レンズLの加工の際に,記憶部252に記憶されたプログラムに応じた制御信号を生成して,眼鏡レンズ駆動装置23及び眼鏡レンズ加工装置24の駆動制御を行う(【0030】【0033】。 , ) (イ) 眼鏡レンズLの粗加工 a 制御装置25の制御部253が,砥石軸241Bを回転駆動するモータ241C1に制御信号を出力する。このとき,眼鏡レンズ駆動装置23のモータ232Eには制御信号が出力されず,モータ232Eは,停止した状態となっている。 眼鏡レンズ加工装置24のモータ241C1は,制御信号に基づいて駆動し,これによって砥石軸241B及び砥石241Aが回転駆動する。 さらに,制御部253が,移動部242のDCサーボモータに制御信号を出力し,これによって,一対の移動ステージ242Dがそれぞれホルダ231Dに向かって移動する。同移動に伴って,一対の砥石241Aが眼鏡レンズLの中心に向かって移動していく(【0037】。 ) b 一対の砥石241Aが玉型加工前の眼鏡レンズLの外周端面に当接する直前に,制御部253から所定の制御信号が前記DCサーボモータに出力され,一対の砥石241Aの移動速度が低下する。 眼鏡レンズLに,水平基準線Hに沿った方向から一対の砥石241Aが当接する。 なお,一対の砥石241Aの回転方向は,逆方向となっている。 砥石241Aが所定の位置まで進むと,制御部253から,砥石241Aの回転を停止するとともに,基準位置に戻すための制御信号が出力される。そして,砥石241Aは,眼鏡レンズLから離間して基準位置まで戻される。 以上のような操作により,眼鏡レンズLは,図10の(A)の平面略円形形状の状態から,図10(B)に示すような形状となる。なお,図10において符号Hは,水平基準線を示し,符号Pは垂直基準線を示す(【0038】【0039】。 , ) c 次に,眼鏡レンズLの垂直基準線P及び水平基準線Hとが交わる眼鏡レンズLの中心点を通るとともに,軸部材231C及び232Dと略直交する仮想軸J1を想定して,これに沿った方向から眼鏡レンズLの研削を行う。ここでは,垂直基準線P及び水平基準線Hに対し45°傾斜した仮想軸J1を想定して,仮想軸J1方向から眼鏡レンズLの研削を行う(図10(C)。 ) この研削は,眼鏡レンズ駆動装置23のモータ232Eを停止した状態とし,眼鏡レンズLを回転させずに,行われる。砥石241Aを回転させた状態で基準位置から眼鏡レンズLに向かって移動させ,眼鏡レンズLに当接する直前に移動速度を低下させる。なお,一対の砥石241Aの回転方向は,逆方向となっている。 砥石241Aが所定の位置まで進むと,前記bと同様に,制御部253からの制御信号によって,砥石241Aは,眼鏡レンズLから離間して基準位置まで戻される(【0040】【0041】。 , ) d 同様にして,眼鏡レンズLの垂直基準線P方向,眼鏡レンズLの垂直基準線P及び水平基準線Hが交わる眼鏡レンズLの中心点を通るとともに,軸部材231C及び232Dと略直交する仮想軸J2に沿った方向からの眼鏡レンズLの研削を行う(【0042】〜【0046】【図10】 , (D)(E)。 , ) ? 引用発明の特徴 引用例(甲1)には,本件審決が認定したとおりの引用発明(第2の3?ア)が記載されていることが認められ,前記?の記載によれば,引用発明の特徴は,以下のとおりのものと認められる。 ア 従来から,眼鏡フレームのフレーム形状に合わせて眼鏡レンズの周縁部を研削する玉型加工の方法として,軸部材の保持部に固着した玉型加工前の円形の眼鏡レンズを軸部材の一対の軸部材本体で挟持し,軸部材を回転させて,眼鏡レンズを回転駆動するとともに,眼鏡レンズの周囲に複数の砥石を配置し,これらの砥石を回転させながら,回転する眼鏡レンズに当接させる方法が使用されていた 【000 (1】【0002】。 , ) イ しかし,上記方法においては,軸ずれが発生することから,これを防止する方法として,眼鏡レンズと保持部との間に滑り止めシール及び粘着テープを設ける方法が提案されているものの,同方法においては,眼鏡レンズの加工に手間が掛かるほか,表面に超撥水処理が施された眼鏡レンズを加工する場合は軸ずれの発生を確実に防止できないという問題があった(【0003】【0004】。 , ) 引用発明は,これらの課題を解決するために,軸ずれを防止することができ,眼鏡レンズの加工に手間を掛けずに,玉型加工を行うことができる眼鏡レンズの製造装置の提供を目的としたものである(【0005】。 ) ウ 引用発明は,前記アの従来の玉型加工の方法において,回転する眼鏡レンズには,砥石に当接した直後から,その回転を停止する方向の力が加わり,その力が眼鏡レンズをねじるような方向に作用して,眼鏡レンズの軸部材に対する位置ずれや角度ずれ,すなわち,軸ずれが発生しやすくなるという知見に基づいて(【0006】,眼鏡レンズにこれを保持する軸部材からの回転駆動力をかけないで,すなわ )ち,眼鏡レンズを回転させないで粗加工をするという課題解決手段を採用した 【0 (007】【0008】。 , ) エ したがって,引用発明においては,粗加工の際,眼鏡レンズが回転していな鏡レンズ自体が回転していないので,砥石に当接しても,前記ウのとおり軸ずれの原因となっていた上記回転を停止する方向の力が加わることはなく,軸ずれが発生しにくくなる。その結果,少なくとも滑り止めシールは不要となり,眼鏡レンズ表面の材質等によっては,粘着テープも不要になり,眼鏡レンズの製造に掛かる手間を省くことができる(【0009】【0010】。 , ) オ さらに,少なくとも粗加工工程において,回転する一対の砥石は,回転方向が互いに逆向きであることが好ましい。 一対の砥石の回転方向を逆向きとすることで,眼鏡レンズにおいては,一方の砥石から作用する回転力と他方の砥石から作用する回転力とが打ち消し合うこととなる。これにより,眼鏡レンズは一対の砥石によって確実に挟持されることとなり,軸ずれの発生を防止することができる(【0013】。 ) 3 取消事由1(相違点1及び2に係る容易想到性の判断の誤り)について ? 加工具回転軸の個数について ア 原告は,平成8年3月26日,発明の名称を「レンズ研削加工装置」とする特許出願(特願平8-97444号)をし,平成19年11月2日,特許権の設定の登録を受けているところ(特許第4034842号。甲18) 同特許発明は, , 「眼鏡枠に嵌合するように眼鏡レンズを研削加工するレンズ研削加工装置に関する」(【0001】 ものであり, ) 「所定位置で一つの回転軸に取り付けられて高速回転されるレンズ研削用の複数種類の砥石」 (【0002】 により研削加工を行う従来の装 )置においては, 「機械剛性はあまり高くなく,加工時間も長く掛かるという欠点があった」【0003】 ( )ことから,「大量のレンズを精度良く,短時間で加工するレンズ研削加工装置を提供することを技術課題」【0004】 ( )とし,主に「砥石を取付ける砥石軸を前記レンズ回転軸と平行に複数設け,同一種類のレンズの粗加工を行う粗加工砥石を複数の砥石軸にそれぞれ設け,粗加工砥石により被加工レンズにかかる回転負荷を互いに打ち消すように砥石軸の回転方向をそれぞれ定め,複数の粗加工砥石を同時に使用する砥石軸回転手段」【請求項1】【0005】 ( , )を設けることによって,上記課題を解決するものである。 すなわち,上記特許発明は,従来の加工具回転軸を1つとするスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置においては,機械剛性があまり高くなく,加工時間も長いという問題があったことから,複数の加工具回転軸(砥石軸)をレンズ回転軸と平行に複数設け,同一種類のレンズの粗加工を行う粗加工砥石を上記複数の加工具回転軸にそれぞれ設け,複数の粗加工砥石を同時に使用する構成を採用して,上記問題を解決したものということができる。 イ ダブルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置は,上記アの構成を採用した眼鏡レンズ加工装置の1つであるから,加工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式のものに比して,機械剛性が高く,加工時間も短いという利点を有するものと推認することができる。 ? 引用発明について ア 引用発明の構成 (ア) 前記2?のとおり,引用発明は,従来の玉型加工の方法においては軸ずれが発生することから,同方法において,回転する眼鏡レンズには,砥石に当接した直後から,その回転を停止する方向の力が加わり,その力が眼鏡レンズをねじるような方向に作用して軸ずれが発生しやすくなるという知見に基づいて,眼鏡レンズにこれを保持する軸部材からの回転駆動力をかけないで,すなわち,眼鏡レンズを回転させないで粗加工をするという課題解決手段を採用したものである。 なお,砥石の回転方向については,互いに逆向きであることが好ましい旨の記載はあるものの(【0013】,それが必須であるとまでの記載はなく,特許請求の範 )囲請求項1にも,砥石の回転方向は特定されていないことから,砥石の回転方向を逆向きとすることは,課題解決手段として不可欠なものとまではいうことができない。 (イ) そして,従来の玉型加工の方法とは,軸部材の保持部に固着した玉型加工前の円形の眼鏡レンズを軸部材の一対の軸部材本体で挟持し,軸部材を回転させて,眼鏡レンズを回転駆動するとともに,眼鏡レンズの周囲に複数の砥石を配置し,これらの砥石を回転させながら,回転する眼鏡レンズに当接させる方法であるところ(【0002】, ) この方法は,複数の砥石を回転させながら同時に眼鏡レンズに当接させるというものであるから,各砥石を取り付ける砥石数と同数の加工具回転軸を備えた装置を使用するものということができる。 (ウ) したがって,引用発明は,複数の加工具回転軸を備え,複数の砥石によって眼鏡レンズを加工する装置を用いる従来の玉型加工の方法において問題とされていた軸ずれの発生を防止するために,眼鏡レンズを回転させないという構成を採用したものと認められる。 イ 引用例の記載について そして,前記2?のとおり,特許請求の範囲請求項1に「各方向から,玉型加工前の眼鏡レンズの外周端面に,回転する一対の砥石を当接させる」との記載があり,課題を解決する手段にも同様の記載が見られ 【0007】 ( , 【0008】 , 等) また,発明を実施するための最良の形態においても,眼鏡レンズの粗加工に使用される一対の砥石がそれぞれ一対の砥石軸に取り付けられている装置が記載されている【0 (026】〜【0029】【0037】【図1】。これらの記載は,いずれも一対の , , )加工具回転軸を備えたダブルスピンドル方式の構成を示すものである。 他方,引用例には,加工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式についての記載はなく,示唆もされていない。加工具回転軸が複数あること自体に起因して何らかの問題が発生する,又は,加工具回転軸を1つとすることにより何らかの効果が期待できるなどといった,シングルスピンドル方式を採用する動機付けにつながり得ることも何ら示されていない。 ? 相違点1の容易想到性について ア 本願補正発明と引用発明の間に前記第2の3?ウ(ア)のとおりの相違点1が存在することは,当事者間に争いがない。 イ 動機付けについて (ア) 前記?アのとおり,引用発明は,複数の加工具回転軸を備え,複数の砥石によって眼鏡レンズを加工する装置を用いる従来の玉型加工の方法に,眼鏡レンズを回転させないという構成を採用したものである。 そして,前記?イのとおり,引用例には,加工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式についての記載はなく,示唆もされていない。加工具回転軸が複数あること自体に起因して何らかの問題が発生する,又は,加工具回転軸を1つとすることにより何らかの効果が期待できるなどといった,シングルスピンドル方式を採用する動機付けにつながり得ることも何ら示されていない。 (イ) 加えて,前記?イのとおり,ダブルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置は,加工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置に比して,機械剛性が高く,加工時間も短いという利点を有するものと推認することができるのに対し,シングルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置がダブルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置に比して優位な点があることは,本件証拠上,認めるに足りない。 (ウ) したがって,当業者において,本願出願当時,引用発明に係る一対の加工具回転軸を備えたダブルスピンドル方式の眼鏡レンズの製造装置につき,あえて加工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式の構成を採用することについては,動機付けを欠き,容易に想到し得ないというべきである。 ? 相違点2の容易想到性について ア 相違点2について 相違点2は,前記第2の3?ウ(イ)のとおり,レンズチャック軸と加工具回転軸との軸間距離を変動させる軸間距離変動手段が,本願補正発明においては,レンズチャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対し,引用発明においては,一対の砥石軸を眼鏡レンズ駆動装置に固定された眼鏡レンズに向けて移動させるというものである点をいい,本願補正発明と引用発明との間に,このような相違点が存在することは,当事者間に争いがない。 引用発明の砥石軸は,本願補正発明の加工具回転軸に相当し,また,引用発明の眼鏡レンズは,本願補正発明のレンズチャック軸に相当する軸部材に保持されているものであるから,引用発明における上記軸間距離変動手段は,実質において,一対の加工具回転軸をレンズチャック軸に向けて移動させるというものである。 よって,相違点2は,実質的には,軸間距離変動手段が,本願補正発明においては,レンズチャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対し,引用発明においては,一対の加工具回転軸をレンズチャック軸に向けて移動させるというものである点をいうものと認められる。 イ 本願補正発明における軸間距離変動手段は,加工具回転軸が単数であることを前提とするものであり,加工具回転軸が複数の場合に同手段を採用することは,事実上不可能である。 したがって,相違点2は,相違点1に係る加工具回転軸の個数差を前提とするものということができ,相違点1に係る本願補正発明の構成が容易に想到し得ない以上,相違点2に係る本願補正発明の構成も容易に想到し得るものではない。 ? 被告の主張について ア 被告は,当業者において,引用例に記載されている「眼鏡レンズが砥石に当接した直後から,眼鏡レンズには眼鏡レンズの回転を停止する方向に力が継続して加わっている」【0006】 ( )という軸ずれの原因となる物理現象は,ダブルスピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても生じるものであることを理解することができることを前提として,眼鏡レンズが回転していない状態で砥石と当接させるという上記物理現象に対する引用発明の解決手段は,ダブルスピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても使用できるものであり,当業者であれば,上記解決手段の適用対象が,いずれの方式の装置であるかにかかわらず,軸ずれの課題を解決し得るものとして認識することができる旨主張する。 本件証拠上,加工具回転軸の個数と軸ずれとの間に何らかの関係があるものとは認めるに足りず,したがって,たとえ,当業者において,上記解決手段がダブルスピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても引用発明の課題である軸ずれを防止し得る旨を認識したとしても,それは,引用発明の一対の加工具回転軸を1個の加工具回転軸とすることには,つながらない。 イ 被告は,周知例1には,シングルスピンドル方式においてもレンズを回転させないで軸ずれを軽減することが示唆されている旨主張する。 確かに,周知例1には,軸ずれを軽減する方法として「レンズチャック軸に掛かる負荷トルクを検知し,負荷トルクが所定値内に入るようにレンズ回転速度を減速」すること(【0003】【0004】 , )が記載されているものの,同記載は,レンズが一定の速度で回転していることを前提とするものであり,レンズを回転させないことを示唆するものということはできない。周知例1において,ほかにレンズを回転させないことを示す記載はない。 ウ 被告は,シングルスピンドル方式は,従来から行われていた眼鏡レンズ加工技術であり,それに立ち返るのは通常の発想である旨主張する。 しかし,前記アと同様に,本件証拠上,加工具回転軸の個数と引用発明が課題とする軸ずれとの間に何らかの関係があるものとは認めるに足りない以上,当業者が,引用発明の加工具回転軸の個数を変えることに想到することは考え難い。 エ 被告は,眼鏡レンズ加工の技術分野においては,シングルスピンドル方式の装置で用いられる技術をダブルスピンドル方式の装置に転用することは,従来から行われており,両方式が互いの技術の転用を全く考えないほど,それぞれに確立された独自の技術であるということはできない旨主張する。 しかし,被告の主張するとおり,シングルスピンドル方式の装置及びダブルスピンドル方式の装置のいずれにおいても適用し得る技術が存在するとしても,それをもって,当業者が,引用発明の一対の加工具回転軸を1個の加工具回転軸とすることに想到するとは考え難い。 ? 小括 以上によれば,相違点1及び2に係る容易想到性は認められず,引用発明に基づいて本願補正発明が容易に想到できるとした本件審決の判断は,誤りというべきである。 したがって,原告主張の取消事由1は,理由がある。 4 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由1には理由があり,その余の点について判断するまでもなく,本件審決は取消しを免れない。 よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙1)本願明細書掲載の図面(甲10)【図1】(眼鏡レンズ加工装置の概略構成図)【図6】(第1段階の粗加工の説明図)【図7】(N1方向に粗砥石を切り込ませたときの説明図)【図8】(N2方向に粗砥石を切り込ませたときの説明図)【図9】(第1段階で粗加工される領域と第2段階で粗加工される領域の説明図)(別紙2)引用例掲載の図面(甲1)【図1】(本発明の実施形態に係る製造装置を示す斜視図)【図10】(各製造工程における眼鏡レンズの形状を示す模式図)【図11】(眼鏡レンズを回転させるモータの電流値と,時間とを示す図) |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 田中芳樹 |
裁判官 | 鈴木わかな |