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関連審決 不服2014-7822
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事件 平成 27年 (行ケ) 10115号 審決取消請求事件

原告株式会社光波
訴訟代理人弁理士平田忠雄 遠藤和光 松本博行
被告特許庁長官
指定代理人小松徹三 星野浩一 富澤哲生 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/02/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2014-7822号事件について平成27年4月23日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。
争点は,補正についての目的要件及び独立特許要件(進歩性)の有無,並びに,補正前の発明の進歩性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成21年3月31日,名称を「光源モジュール」(平成25年3月8日付けで「光源モジュール及び表示装置」と補正。甲7)とする発明につき,特許出願(特願2009-87031号。甲5)をしたが,平成26年1月24日付けで拒絶査定を受けた(甲8)ので,同年4月25日,これに対する不服の審判を請求するとともに,同日付け手続補正書(甲6)により特許請求の範囲変更を含む手続補正(以下「本件補正」という。)をした。
特許庁は,平成27年4月23日,本件補正を却下した上で「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年5月12日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨 本願発明に係る明細書(甲5)及び手続補正書(甲6,7。以下,甲5と併せて「本願明細書」という。)によれば,以下のとおりである。
(1) 本件補正後の請求項1(以下「補正発明」という。)「【請求項1】発光素子と, 前記発光素子から放射される光を入射する入射面,前記入射面から入射した光を反射する反射面,及び前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面を有する光方向変換部と,嵌合部が形成されたケース部とを有する透明材料からなる光方向変換素子と, 前記光方向変換素子の前記ケース部の前記嵌合部に嵌合して前記入射面側に設けられるホルダ片とを有し, 前記ホルダ片は,前記光方向変換素子側に向けて開口する収納部を有し,前記収納部内に前記発光素子を搭載する回路基板を保持する構成を有してなり, 前記光方向変換素子の前記光方向変換部及び前記ケース部に光拡散剤を含有してなり,前記入射面に入射して前記反射面に向かう光のうち,一部の光を前記光拡散剤によって前記入射面から入射した光線の方向を変更して第1の光として前記反射面の裏側から表側に向けて透過させ,残りの光を前記光拡散剤又は前記反射面で反射させて第2の光として前記出射面から前記側面方向に出射させ, 前記光拡散剤の含有量は,前記透明材料100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下とすることにより,前記第1の光の光量と前記第2の光の光量とを所定の比率としたことを特徴とする光源モジュール。」(下線部は補正箇所。) (2) 本件補正前の請求項1(以下「補正前発明」という。)「【請求項1】発光素子と, 前記発光素子から放射される光を入射する入射面と,前記入射面から入射した光を反射する反射面と,前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面とを有する透明材料からなる光方向変換素子と, 前記光方向変換素子に設けられるホルダ片とを有し, 前記ホルダ片は,前記光方向変換素子側に向けて開口する収納部を有し,前記収納部内に前記発光素子を搭載する回路基板を保持する構成を有してなり, 前記光方向変換素子に光拡散剤を含有してなり, 前記光拡散剤の含有量は,前記透明材料100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下であることを特徴とする光源モジュール。」 3 審決の理由の要点 (1) 本件補正について 本件補正は,以下のとおり,却下すべきものである。
ア 目的要件違反 本件補正は,光方向変換素子が, 「嵌合部が形成されたケース部」を有することを限定するところ,補正前発明においては,透明材料からなる光方向変換素子が入射面,反射面,出射面を有することによって特定されていたのに対し,補正発明においては,上記特定事項に加えて, 「嵌合部が形成されたケース部」という構成によっても特定されることになったものである。そうすると,本件補正は,補正前発明には存在しなかった構成を付加するものというべきである。したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項2号かっこ書に規定する「補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」という要件を充足しない。
よって,本件補正は,その余の補正事項について検討するまでもなく,却下されるべきものである。
独立特許要件違反 本件補正は,上記のとおり却下すべきものであるが,それに加えて,補正発明は,以下の甲1(国際公開第2008/007492号)に記載された引用発明,周知の技術手段及び甲1の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(ア) 引用発明 甲1に記載された引用発明は,以下のとおりである。
「光を入射する光入射面を有する凹部,前記光入射面から入射した光を反射する光反射面,および前記光反射面で反射した光を側方に出射する光出射面を有する光方向変換部と, 前記光方向変換部の前記凹部に空隙を設けて配置され,前記光入射面に前記光を入射する発光部と, 配置空間を有するユニット本体と, 配置空間に配置された回路基板とを備え, 前記発光部は,回路基板上に搭載され, 前記ユニット本体は,前記発光ランプを保持するホルダ片を備え, 前記光方向変換部は,前記ホルダ片に嵌合する嵌合部を有する, 光源モジュールであって, 発光部はLEDであり, 光方向変換部としての光方向変換光学素子は透明材料によって形成され, 光方向変換用光学素子は,ホルダ片に嵌合する凹部(嵌合部)及びLEDを収容する凹部に加え,LEDから出射される光を入射する光入射面と,この光入射面から入射した光を反射する光反射面と,この光反射面で反射した光を側方及び斜め前後方向に出射する光出射面とを有し, LEDから出射された光が光入射面に入射すると,その大部分の光を屈折させ,これら屈折光を光反射面で全反射し,さらに光出射面から屈折させて斜め前方及び斜め後方・側方に,また光反射面(界面)からそれぞれ出射し, 回路基板は,光方向変換用光学素子の光入射側端面とホルダ片の段状部との間に介在する, 光源モジュール。」 (イ) 補正発明と引用発明との一致点と相違点【一致点】 「発光素子と, 前記発光素子から放射される光を入射する入射面,前記入射面から入射した光を反射する反射面,及び前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面を有する光方向変換部と,嵌合部が形成されたケース部とを有する透明材料からなる光方向変換素子と, 前記光方向変換素子の前記ケース部の前記嵌合部に嵌合して前記入射面側に設けられるホルダ片とを有し, 前記ホルダ片は,前記光方向変換素子側に向けて開口する収納部を有し,前記収 納部内に前記発光素子を搭載する回路基板を保持する構成を有してなる 光源モジュール。」【相違点1】 補正発明は,前記光方向変換素子の前記光方向変換部及び前記ケース部に光拡散 「剤を含有してなり,前記入射面に入射して前記反射面に向かう光のうち,一部の光を前記光拡散剤によって前記入射面から入射した光線の方向を変更して第1の光として前記反射面の裏側から表側に向けて透過させ,残りの光を前記光拡散剤又は前記反射面で反射させて第2の光として前記出射面から前記側面方向に出射させ」るのに対し,引用発明は,そのようなものでない点。
【相違点2】 補正発明は,「前記光拡散剤の含有量は,前記透明材料100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下とすることにより,前記第1の光の光量と前記第2の光の光量とを所定の比率とした」のに対し,引用発明は,そのようなものでない点。
(ウ) 相違点についての判断 本願明細書の【0027】によれば, 「前記光拡散剤の含有量は,前記透明材料100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下とすることにより,前記第1の光の光量と前記第2の光の光量とを所定の比率とした」ことの技術的な意義は,LED40から発する光が光方向変換素子10内において多方向に適度に拡散され,光方向変換素子10の光反射面12dの裏側から表側へ向けて透過する光が略均一に拡散放射され,これにより,光方向変換素子10の形状や歪みなどによる光の強弱のムラを解消することにあるものと認められる。
そして,光拡散剤は,透明な材料(樹脂等)に含ませることで,光を拡散させて,配光特性(裁判所注:審決に「配向特性」とあるのは明らかな誤記であるから,訂正した。以下同じ。)を制御し得るものであることは,例えば,特開2007-227791号公報(甲2)の【0025】,特開2007-227590号公報(甲3) の【背景技術】【0002】 , ,特開2001-77427号公報(甲4)の【0019】【0034】に記載されるように,周知の技術手段である。
, ところで,甲1の実施の形態1を説明する欄には,【0034】…光出射面29 「Cには,光拡散性をもたせるために,粗面加工を施してもよい。この粗面加工を施す代わりに,光方向変換用光学素子29に光拡散剤を混入しても光拡散性を高めることができる。」との記載がある。引用発明は,光方向変換部の入射面に入射した光を,光出射面から斜め前方及び斜め後方・側方に,また,光反射面(界面)からそれぞれ出射するものであるところ,光方向変換部に光拡散剤を混入することにより,拡散性の高い配光となり,光反射面(界面)から出射する上方向の光が増えるであろうことは,当業者に明らかな事項である。
上記を踏まえて検討すると,引用発明は,光方向変換部の光出射面から斜め前方,斜め後方,側方に,また,光反射面(界面)から上方にそれぞれ出射する光源モジュールであるところ,光源モジュールを適用する面光源の特性等に応じ,斜め前方,斜め後方,側方,光反射面(界面)からそれぞれ出射する光量に最適な光量(配光)があるものと認められる。そうすると,引用発明の光源モジュールにおいて,光源上方に出射する光量が多くなる配光となすことは,適用する面光源の特性に応じて当業者が適宜なし得ることであり,その際,配光を調整する手段として,上記の光拡散剤を用いる周知の手段を採用して,光方向変換部(光方向変換用光学素子)に光拡散剤を含有させることに困難性はない。そして,光拡散剤をどの程度含有させるかは,必要とする上方への出射光量(配光特性)や,光方向変換部の形状等に応じて,当業者が適宜設定し得る設計事項と認められ,また,光拡散剤の含有量を透明材料100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下とする数値範囲も格別のものとは認められない。
してみると,引用発明において,光方向変換部に拡散部に輝度が均一になる程度の光拡散剤を含有させ,上記相違点に係る補正発明の発明特定事項となすことは,当業者が容易に想到し得たことと認められる。
また,補正発明が奏する作用効果は,引用発明,上記周知の技術手段及び甲1の記載に基づいて当業者が容易に予測し得る程度のものであり,格別のものとは認められない。
以上により,補正発明は,引用発明,周知技術及び甲1の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 補正前発明の進歩性 補正前発明の構成要件をすべて含み,更に他の構成要件を付加したものに相当する補正発明は,引用発明,周知技術及び甲1の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正前発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件補正の目的要件についての判断の誤り) 本件補正について,補正の目的要件を欠くとした審決の判断は,誤りである。
光方向変換素子が, 「嵌合部が形成されたケース部」を有することを限定する本件補正は,本願明細書の【0013】 「光源モジュール1の光方向変換素子10は, に図1及び図2に示すように,直方形のケース部11と円形の光方向変換部12とを有している。と記載されているように, 」 補正前発明を特定するために必要な事項(発明特定事項)の「光方向変換素子」を「光方向変換部」と嵌合部が形成された「ケース部」によって限定するものであり,補正前発明と補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものといえる。
また,本願明細書の【0019】に「ホルダ片20は接着や溶着等により光方向変換素子の嵌合凹部11a内に内嵌固定される。 と記載されているように, 」 補正前の発明特定事項の「前記光方向変換素子に設けられるホルダ片」を具体的な構成の「前記光方向変換素子の前記ケース部の前記嵌合部に嵌合して前記入射面側に設けられるホルダ片」に限定するものであって,補正前発明と補正発明の産業上の利用 分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項2号かっこ書に規定する要件を充足する。
2 取消事由2(補正発明の独立特許要件の判断の誤り) (1) 引用発明の技術的意義の捉え方の誤り ア 引用発明は,光反射面(界面)29Bから出射する光を増やすことについては,開示も示唆もしておらず,光反射面(界面)29Bからの出射を課題解決に用いるものではないから,審決は,引用発明における技術的意義を誤って捉えたものである。
甲1の[0028]において, 「光出射面29Cから屈折させて斜め前方及び斜め後方・側方に,また光反射面29B(界面)からそれぞれ出射するように構成されている。 と記載され, 」 光反射面(界面)29Bから出射することが記載されているが,この意義は,次のとおりである。
甲1の光反射面29Bは,LEDを点とみなし,LEDからの光線が光反射面29Bで全反射するように設計したものであり,LEDの中心から出射した光線L1は,設計どおりに臨界角θc(42.16°)よりも大きい角度θ1で光反射面29Bに入射して全反射するが,実際にはLEDは点ではないため,LEDの中心を外れた端から出射した光線L2は,臨界角θcよりも小さい角度θ2で光反射面29Bに入射する場合があり,この場合,光反射面29Bで反射せずに透過することになる。上記段落の「光反射面29B(界面)からそれぞれ出射するように構成されている。」との記載は,このように,LEDが大きさを持っているために生じる現象を述べたものと理解するのが自然である。したがって,引用発明は,光反射面(界面)29Bからの出射を課題解決のために用いるものではない。
また,甲1の[0034]は,光方向変換素子29に光拡散剤を混入することが,光出射面29Cに粗面加工を施すことと同様に,光拡散性を高めることを開示した ものにすぎず,光拡散剤の混入が,光反射面(界面)29Bから出射する光を増やすことについては,開示も示唆もしていない。
イ さらに,引用発明においては,光反射面(界面)29Bからの出射に基づく光量を制御できないことから,補正発明の表示部における明暗差の解消に利用できるものでもない。
(2) 周知技術の認定の誤り 審決は,甲2ないし4を根拠として, 「光拡散剤は,透明な材料(樹脂等)に含ませることで,光を拡散させて,配光特性を制御し得るものであること」が周知の技術であるとした。
しかし,これらは,いずれも発光素子を封止する透光性の封止剤に拡散剤を含有させたものにすぎないところ,透光性の封止剤は,全反射するように設計された反射面を有しておらず,したがって,拡散剤は発光素子の光を反射面の裏側から表側に透過させるものでもないことから,拡散剤によって裏側から表側へ光を透過させる反射面を有した光方向変換部を備える補正発明に対して,適切な周知技術とはいえない。
甲2ないし4に記載された周知技術において,配光特性を改善すること,拡散性を高めること,及び配光特性を滑らかにすることは,いずれも,光出射面の光のむらをなくすることであって,光を増やすこととは無関係の技術である。
(3) 周知技術の適用に関する動機付けの判断の誤り ア 補正発明は,光方向変換素子の反射面に明暗部が点在しないようにし,その光方向変換素子の形状を変更しなくても,表示部における明暗差を解消することができることを課題とするものである。
イ ところで,出願時の技術水準としては,全反射面として設計された反射面から光を出射するためには,光方向変換素子の形状を変更して新たな面を設ける,ということが出願時の技術常識といえる(甲1の第3の実施の形態の第18図,本願明細書の【0038】参照)。
ウ そして,引用発明は,光出射面における光拡散性を高めるために光方向変換素子に光拡散剤を混入させたものであり,甲1の第3の実施の形態において,光方向変換素子に反射面29D及び拡散面29Eを設けて光方向変換素子の形状を変更することで,光源モジュールの上方が暗くなることによる発光ムラを抑制していることから,引用発明には,全反射面として設計された反射面から光を出射させるために光拡散剤を混入させるという技術的思想を有していないことは,明らかである。
審決は,甲1の[0034]は,光方向変換素子に光拡散剤を混入することが示されていることを挙げるが,これは,光方向変換用光学素子29に光拡散剤を混入することが光出射面29Cに粗面加工を施すことと同様に,光拡散性を高めるものであることを開示しているにすぎず,光拡散剤の混入が,光反射面(界面)29Bから出射する光を増やすことについては,開示も示唆もない。
そうすると,同段落の記載によって,同様に,光反射面(界面)から出射する光を増やすことについて開示も示唆もない甲2ないし4の周知技術を引用発明に適用する動機付けはない。
したがって,全反射面として設計された光反射面から光を出射させるという課題を,光学部材の形状を変えるという手段で解決している引用発明に,甲1記載の光拡散性を持たせる粗面加工に代えて混入される光拡散剤,又は甲2ないし4に記載の配光特性を改善し,高め,あるいは滑らかにする光拡散剤を混入させるという動機付けを見出すことができない。
(4) 光拡散剤の含有量に関する判断の誤り 審決は,光拡散剤の含有量の数値範囲について,光方向変換部に光拡散剤を混入することにより,拡散性の高い配光となり,光反射面(界面)から出射する上方向の光が増えるであろうことは,当業者に明らかな事項であるとし,含有量は当業者が適宜設計し得る設計事項であるとするが,誤りである。
補正発明における光拡散材含有量の数値範囲の意義は,以下のとおりである。
ア 光拡散剤14の含有量0.01重量%以上について 光拡散剤14の含有量を0.01重量%以上とすることにより,光方向変換素子の反射面に光の明暗部が点在しないようになり,反射面の明暗差が看板表示部2に現れないようになるという意義を有する(【0026】参照)。
イ 光拡散剤14の含有量0.01重量%以上0.1重量%以下について 光拡散剤14の含有量0.01重量%以上0.1重量%以下とすることにより,表示部における明暗差を解消することができるという意義を有する(【0036】,【0037】参照)。
このような数値範囲は,物件提出書で提出する「実験成績証明書」に記載されているように,光拡散剤の含有量に関する試作の失敗があったからこそ到達できた数値範囲である。
これに対し,引用発明は,光方向変換素子の反射面に明暗部が点在しないようにするという補正発明の課題を有しておらず,そのために光拡散剤の含有量を0.01重量%以上とすることを開示も示唆もしていない。また,引用発明は,表示部における明暗差を解消するという補正発明の課題を有しておらず,そのために光拡散剤の含有量を0.01重量%以上0.1重量%以下とすることを開示も示唆もしていない。
そうすると,引用発明において,光方向変換素子の反射面に明暗部が点在しないようにするために,光拡散剤の含有量を0.01重量%以上とするという動機付けや,表示部における明暗差を解消するために,光拡散剤の含有量を0.01重量%以上0.1重量%以下とする動機付けを得ることはできない。
(5) 補正発明の顕著な効果についての認定の誤り 本願明細書の【0026】【0037】等には,光拡散剤の含有量について,上 ,記に記載したとおりの意義が示されている。
また,実験成績証明書によれば,甲1の第1の実施の形態(比較例1),第3の実施の形態(比較例2),及び光拡散剤の含有量が0.1重量%を超えるもの(比較例 3)は,表示部に明暗差が目立つが,補正発明は,表示部の明暗差がほとんど目立たないことが分かる。
以上によれば,補正発明において,全反射面として設計された反射面から光を出射するために,0.01重量%以上0.1重量%以下の光拡散剤を光方向変換素子に混入させることで,引用発明と異なる光方向変換素子の反射面に光の明暗部が点在しないようになるという異質の効果,及び表示部の明暗差を解消できるという顕著な効果を生じるものであり,これらの効果は,当業者の予想を超えたものである。
3 取消事由3(補正前発明の進歩性判断の誤り) 補正前発明は,補正発明と同様に相違点1及び2に係る構成を有していることから,前記2と同様に,引用発明,周知の技術手段及び甲1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,進歩性を否定した審決の判断は,誤りである。
被告の反論
1 取消事由1に対し「光方向変換素子」を特定する事項として, 「光方向変換部」に加えて「ケース部」を付加する補正は,以下のとおり,発明を特定するために必要な事項を限定するもの(上位概念で記載されていた事項を下位概念とすること等)ではない。
補正前発明では,「光方向変換素子」は,実質的に「光方向変換部」(光学的機能を有するもの)が特定されているものの, 「ホルダ片」を嵌合するための手段(機械的機能を有するもの)は,何ら特定されていなかった。ところが,本件補正によると,「光方向変換素子」は,「光方向変換部」と「ケース部」とを有するとされた上で,補正前の技術的特徴に対応する「光方向変換部」 (光学的機能を有するもの)により特定されることに加え, 「ホルダ片」を嵌合するための手段である「嵌合部が形成されたケース部」 (機械的機能を有するもの)によっても新たに特定されることに なる。
そうすると,「嵌合部が形成されたケース部」(機械的機能を有するもの)によって特定されることを追加する補正は,光方向変換部」 「 により特定される補正前の「光方向変換素子」(光学的機能を有するもの)を限定するものでない。
したがって,本件補正は,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当しない。
また,発明が解決しようとする課題が,補正前発明では,光方向の厳密な調整を不要とし,輝度ムラのない光源モジュールを提供することであったのに対し,補正発明では,嵌合部を持つ光方向変換素子を有する光源モジュールを提供することを追加している。本件補正は,発明が解決しようとする課題を追加して変更する点でも特許法17条の2第5項の規定に違反する。
2 取消事由2に対し (1) 原告の主張2(1)に対し ア 原告の主張2(1)アに対し 原告は,引用発明において光反射面(界面)29Bから出射すること自体は争っていないのであり,審決の引用発明の技術的意義の捉え方には何らの誤りはない。
原告の主張は,審決を正解しないものである。
引用発明の光源モジュールにおいて,光反射面(界面)から光が出射する具体的な理由は,原告が主張する理由(LEDが一定の大きさを持っていること)以外にも,光方向変換用光学素子の形状(直径の大きさ等)による場合や,光反射面29Bの中心部に,LED28と反対側に開口する凹部を形成することにより,光反射面29Bの中心部(凹部)から広範囲の指向角をもって光が出射する場合や,光反射面は,その成形状態のバラツキやキズ等に起因して全反射条件からはずれ,光反射面から光が出射する場合など様々である。
したがって,光反射面29Bから光が出射する原因は,LEDが一定の大きさを 持っていることには限られない。
イ 原告の主張2(1)イに対し 審決は,配光を調整する手段として, 「 …光拡散剤を用いる周知の手段を採用して,光方向変換部(光方向変換用光学素子)に光拡散剤を含有させることに困難性はない」と判断するものであって,LEDが大きさを持っているために生じる現象である光反射面(界面)からの出射を明暗差の解消に利用する旨の判断をするものではない。よって,原告の主張は,審決を正解しないものであり,失当である。
(2) 原告の主張2(2)に対し ア 審決は, 「光拡散剤は,透明な材料(樹脂等)に含ませることで,光を拡散させて,配光特性を制御し得るものであること」を周知技術と認定するものであって,「光拡散剤によって光反射面の裏側から表側に向けて光線を透過させる技術」を周知技術と認定するものではない。したがって,原告の主張は,審決を正解しない主張である。
また,審決の認定した周知技術は上記のとおりであるところ,透明な材料(樹脂等)の界面は,特開2005-167091号公報(乙2)の【0003】,甲3の【0022】記載のように屈折率や形状が条件を満たせば「光反射面」になり得ることが明らかであって,上記周知技術は,光拡散剤を含ませる透明な材料(樹脂等)が光反射面を有するか否かによって変わるものではない。
よって,光拡散剤の光反射面における作用と,光出射面における作用が異なることを前提とする原告の主張は,失当である。
イ さらに,拡散剤によって配光特性を改善すること(滑らかにすること)は,光が集中して光量が多い方向に対しては光を拡散して光量を減らし,これと同時に光量が少ない方向に対しては光量を増やすことにほかならない。そうすると,全体の光量は略一定であるとしても,配光特性を改善することにより,光量が少ない方向に対しては光量が増えるから,周知文献において,配光特性を改善すること等と光を増やすこととは無関係の技術である旨の原告の主張は失当である。
(3) 原告の主張2(3)に対し ア 原告の主張2(3)アに対し 原告が補正発明の課題と主張するもののうち,光方向変換素子の反射面に明暗部が点在しないようにすることは,補正発明の課題と認められるが, 「表示部における明暗差を解消すること」は,筐体,表示部,光源モジュール等を備える「表示装置」の課題であるとしても,補正発明である「光源モジュール」の課題とは認められない。
イ 原告の主張2(3)イに対し 甲1の[0033]の記載と図11によれば,光反射面29Bは, 「光学素子形成用素材aの中心軸線O上に配置されたLEDから出射される光線LB」が全反射する点の集合として形成されるものと解される。そうすると,光反射面29Bは,LEDの中心から出射する光線に対し,臨界角で定まる全反射条件を満たすように形成されているが,LEDの中心以外の場所(例えば,LEDの端部,光方向変換用光学素子が含有する光拡散剤)からの光に対し,必ずしも全反射する条件を満たすようには形成されてはいない。そうすると,光方向変換部に混入した光拡散剤は,光方向変換部内に分布するから,光拡散剤で拡散した光の一部は,全反射条件を満たすものではなくなり,反射面を透過する。よって,光反射面(界面)から出射する上方向の光が増えることは,当業者にとって明らかである。
また,乙2には,第1樹脂からなる第1樹脂層が光散乱粒子(補正発明の光拡散剤と同様に,ポリスチレン等の樹脂粒子,シリカ,チタンの酸化物などの無機粒子である。)を含有することにより,第1樹脂より屈折率が小さい第2樹脂からなる第2樹脂層との界面での全反射を低減することが開示されている(【0003】【00 ,08】【0009】参照) , 。
特開2008-108582号公報(乙3)には,導光板内部へ拡散剤を添加することにより,導光板内部を臨界角以下の角度で進む光(全反射を繰り返して進む光)を導光板外部に出射させることが開示されている(【0003】参照)。
以上のとおり,光方向変換部に光拡散剤を混入することにより,光反射面(界面)から出射する上方向の光が増えることは,当業者に明らかである。
ウ 原告の主張2(3)ウに対し 引用発明は, 「光出射面から屈折させて斜め前方及び斜め後方・側方に,また光反射面(界面)からそれぞれ出射」する光源モジュールであり, 「映像・看板等の表示や店舗用の照明等として有用」【0077】 ( )なものであるところ,このような光源モジュールにおいて,使用する状況に応じた所望の配光特性となるように,配光特性を適宜調整しようとすることは,一般的な課題であり,甲1においてもそのような課題が開示されている。
そして,甲1の[0062]〜[0064]の記載によれば,甲1の第1の実施の形態(光入射面29A,光反射面29B,光出射面29Cを有している)では,厚さが特に薄い面光源に使用した場合に,光源直上が暗くなる問題点を有すること,また,第3の実施の形態では,光反射面29Dを設けて光反射面29Bから光源上方向にも光を出射させることにより,超薄型の場合においても均一な面光源を得ることが記載されている。してみると,第1の実施の形態は,超薄型面光源に使用する場合に,明暗のない均一な面光源を得る旨の課題を有することを実質的に開示しており,このことは,第2の実施の形態である引用発明においても妥当する。
したがって,適用する面光源の特性に応じ,所望の配光(例えば,明暗部が生じないような配光)となるように,上記周知の技術手段を採用する動機付けがあるといえる。
(4) 原告の主張2(4)に対し 光源上方に出射する光量が多くなる配光となるように光拡散剤を用いる周知の技術を採用する際,所望の配光(例えば,明暗部が生じないように光量が均一となる配光)となるように光拡散剤の含有量を最適化又は好適化することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
光の強弱のムラを解消するのに好ましい光拡散剤の含有量は,LEDのサイズ, 光方向変換用光学素子の材料,形状,成型方法,光拡散剤の材料,形状,大きさ(粒径)等に応じて変わるものであるところ,補正発明は,光拡散剤の含有量を「前記透明材料100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下とする」と特定するものの,LEDのサイズ,光方向変換素子の材料,形状,成型方法,光拡散剤の材料,形状,大きさ(粒径)等は,何ら特定していない(発明の詳細な説明の記載も同様である。。そうすると,上記特定事項には,光の強弱のムラを解消する )という,審決が認定する以上の技術的な意味は認められない。
また, 「0.01重量%以上0.1重量%以下」という数値範囲も,例えば,特開平11-323120号公報(乙4),特開2005-259593号公報(乙5)に記載されるように,特異な数値範囲ではなく,一般に使用される数値範囲である。
(5) 原告の主張2(5)に対し 光方向変換素子の上方に出射する光量調整が容易になる作用効果は,光拡散剤を含有させて配光特性を調整することにより,当業者が容易に予測し得るものにすぎず,格別顕著な作用効果ではない。
また,明暗部が点在せず,表示部の明暗差を解消できるという作用効果についても,当業者が容易に予測できる程度のものである。
さらに,表示部における光源モジュールの直上部と光源モジュールに隣接する他の光源モジュールとの間に対応する部分との明暗差を解消することができる旨主張は,補正発明が,光源モジュールの発明であって,複数の光源モジュールを備える表示装置の発明ではないから,失当である。
3 取消事由3に対し 前記2に述べたとおり,審決の相違点1及び2の構成についての判断に誤りはないから,原告の上記主張は失当である。
当裁判所の判断
1 補正発明及び補正前発明について 本願明細書(甲5〜7)によれば,補正発明及び補正前発明につき,以下のことが認められる。
補正発明及び補正前発明は,いずれも,照明看板及び液晶ディスプレイのバックライトや照明機器等の光源に用いられる光源モジュールに関し,特に,輝度や輝度均一性の低下を防止した光源モジュールに関するものである(【0001】。
) 従来のLEDパッケージとして,LEDの真上部に,上面がじょうご形状部を有するとともに,外周に鋸歯状部を有するレンズを対向して配置し,LEDから出射される光をパッケージ軸に対して略垂直になるように出射させることで,LEDの真上部において輝度が高くなることを抑制したものがあった。
しかし,これは,レンズのじょうご形状部や鋸歯状部に当たったLEDからの光が反射・屈折され,LEDの搭載面に対して平行光になるように出射させる構成となっているので,LEDの真上部に配置されたレンズにおいて輝度の高い部分と輝度の低い部分とが発生し,輝度分布が不均一になり,輝度ムラの発生を完全に抑えることはできず,また,光学シミュレーションを用いてレンズのじょうご形状部や鋸歯状部における凹凸形状を設計したとしても,レンズは複雑な形状を有するので,設計どおりのレンズ形状が得られ難く,発光バラツキの厳格な調整は困難であり,輝度の均一性を得ることも困難であるという問題点があった(【0004】〜【0006】。
) そこで,補正発明及び補正前発明は,上記問題点を解決するために,光方向の厳密な調整を不要とし,輝度ムラのない光源モジュールを提供することを目的とし,上記目的を達成するため,@発光素子と,光方向変換素子とを有し,前記光方向変換素子に光拡散剤を含有してなることを特徴とする光源モジュールであり,A前記光方向変換素子は,前記発光素子から放射される光を入射する入射面と,前記入射面から入射した光を反射する反射面と,前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面とを有してなることを特徴とし,B前記光方向変換素子に設け られるホルダ片を有し,前記ホルダ片は,前記光方向変換素子側に向けて開口する収納部を有し,前記収納部内に前記発光素子を搭載する回路基板を保持する構成を有してなることを特徴とし,さらに,前記光方向変換素子は透明材料からなり,前記光拡散剤の含有量は,前記透明材料100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下であり,この光拡散剤によって光反射面の裏側から表側に向けて透過する光が拡散放射されることを特徴とし 【0007】 本件補正前後の ( , 【0008】,【0027】,それぞれ,請求項1記載の構成をとったものである。
) これにより,光方向変換素子10から光反射面12dへの出射光の指向性を容易に変更させることが可能となり,また,光の光路を容易に変更することができるので,光方向の厳密な調整を行うことなく,光源モジュール1からの光を均一に分散できるようになり,光学的な均一性の効果が得られ,さらに,光方向変換素子10の光入射面12b,12cに入射した光を側方,斜め前方,及び斜め後方に変換して出射することができるので,1つのLED40が照射する範囲が拡大され,色むらや発光ムラの発生を十分に抑制することができる(【0028】 。
) 2 取消事由1(本件補正の目的要件についての判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,補正前発明においては,透明材料からなる光方向変換素子が入射面,反射面,出射面を有することによって特定されていたのに対し,補正発明においては,上記特定事項に加えて, 「嵌合部が形成されたケース部」という構成によっても特定されることになったとして,本件補正の目的要件を欠くと判断したのは,誤りであると主張するので,以下,検討する。
(2) 本件補正が,特許法17条の2第5項2号にいう「特許請求の範囲減縮」に該当するためには,請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,補正前発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である必要がある。
本件補正は,前記第2,2のとおり,請求項1において,透明材料からなる「光方向変換素子」について, 「前記発光素子から放射される光を入射する入射面と,前記入射面から入射した光を反射する反射面と,前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面とを有する」 「前記発光素子から放射される光を入射 を,する入射面,前記入射面から入射した光を反射する反射面,及び前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面を有する光方向変換部と,嵌合部が形成されたケース部とを有する」とする補正事項を含むものである。
(3) 本願明細書における「光方向変換素子」について ア 本件補正前の本願明細書には,以下の記載がある。
【0012】[第1の実施の形態](光源モジュール) 図1及び図2において,全体を示す符号1は,光源モジュールの一構成例を模式的に示している。この光源モジュール1の基本構成は,光を側面方向へ変換する光方向変換素子10と,光方向変換素子10に内嵌固定されたホルダ片20と,ホルダ片20に保持固定 された回路基板30と,回路基板30上に搭載された発光素子40(以下,「LED40」という。)により構成されている。LED40はケーブル50と電気的に接続されている。
【0013】(光方向変換素子) 光源モジュール1の光方向変換素子10は,図1及び図2に示すように,直方形のケース部11と円形の光方向変換部12とを有している。このケース部11及び光方向変換部12は,例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂を射出成形することで一体的に形成される。光方向変換素子10の材質としては,PMMA樹脂に限定されるものではなく,例えばポリカーボネート,エポキシシリコーン等の透明樹脂,透明ガラス,又は着色された各種の透明材料を用いることができる。
【0014】(ケース部) 光方向変換素子10のケース部11は,図1及び図2に示すように,下面に開放する矩形状の嵌合凹部11aを有している。その嵌合凹部11aを形成する長手方向対向側壁には二組一対の切欠き11b,11bが形成されており,長手方向左右両側の対向側壁には二組一対の凸部11c,11cが突出形成されている。ケース部11の嵌合凹部11aにはホルダ片20が内嵌固定されている。光方向変換素子10及びホルダ片20に囲まれた露呈部分には封止樹脂13が充填されている。ケース部11の切欠き11bにはケーブル50が挿通されている。ケース部11の凸部11cは,図示しない相手方の光源モジュール取付用部材に係止される。
【0015】(光方向変換部) 光方向変換素子10の光方向変換部12は,図1及び図2に示すように,均一の外径を有する扁平状の円柱体からなる。この光方向変換部12は,回路基板30上に搭載されたLED40と対応する部位に截頭円錐形の凹部12aを有している。この凹部12aは, LED40から出射される光を入射する第1及び第2の光入射面12b,12cからなる。
この光方向変換部12は更に,第1の光入射面12bから入射した光を反射する光反射面12dと,この光反射面12dで反射した光を屈折させて側方,斜め前方,及び斜め後方に出射する光出射面12eとを有している。この光入射面12b,12c,光反射面12d,及び光出射面12eには鏡面加工を施すことが好適である。
【0019】(ホルダ片) 光源モジュール1のホルダ片20は,例えばABS樹脂などの樹脂材料からなる。このホルダ片20は,図1及び図2に示すように,細長いブロック板により構成されている。
ホルダ片20の内部には,光方向変換素子10側に開放する収納空間21が形成されている。その収納空間21の中間部の一部は,回路基板30を載置支持する支持面を有する段状部22をもつ階段形状をなしている。その段状部22には図示しないピン挿通孔が上下方向に貫通して穿設されている。そのピン挿通孔には光方向変換素子10の同じく図示を省略したホルダ片位置決め用ピンが挿通される。ホルダ片20は接着や溶着等により光方向変換素子の嵌合凹部11a内に内嵌固定される。
イ 以上のとおり,本願明細書には,光源モジュール1について,光を側面方向へ変換する光方向変換素子10と,光方向変換素子10に内嵌固定されたホルダ片20と,ホルダ片20に保持固定された回路基板30と,回路基板30上に搭載された発光素子40(LED40)により構成されており,光方向変換素子は,同一素材で一体的に形成されたケース部11と円形の光方向変換部12を有していることが記載されている。そして,光方向変換部12は,回路基板30上に搭載されたLED40と対応する部位に,裁頭円錐形のLED40から出射される光を入射する第1及び第2の光入射面12b,12cからなる凹部12aを有し,さらに,第1の光入射面12bから入射した光を反射する光反射面12dと,この光反射面12dで反射した光を屈折させて側方,斜め前方,及び斜め後方に出射する光出射面12eを有すること,光方向変換素子に含まれるケース部11は,下面に開放す る矩形状の嵌合凹部11aを有し,ホルダ片20が接着や溶着等により光方向変換素子の嵌合凹部11aに内嵌固定されていることが,それぞれ示されている。
一方,光方向変換素子がケース部と円形の光方向変換部からなり,ホルダ片が光変換素子の嵌合凹部11aに内嵌固定されるということが,補正前発明又は補正発明の課題であることを示す記載は存在しない。
(4) 以上を前提に,本件補正の目的要件について検討する。
発明特定事項の限定について 補正前発明は,請求項において「前記光方向変換素子に設けられるホルダ片とを有し」と特定され, 「光方向変換素子」に「ホルダ片」を設けることが記載されるとともに, 「前記発光素子から放射される光を入射する入射面と,前記入射面から入射した光を反射する反射面と,前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面」を「有する」ことが記載されているところ,この「前記発光素子から放射される光を入射する入射面と,前記入射面から入射した光を反射する反射面と,前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面」は,本願明細書の記載によれば,「光方向変換部」と呼ばれるものである。そうすると,「光方向変換素子」中には, 「光方向変換部」と「ホルダ片」を設ける部分が記載されているものの,その「ホルダ片」を設ける部分の具体的形状が特定されていないものと解される。一方,補正発明は,「光方向変換部」を明示するとともに,「光方向変換素子」の具体的形状,ホルダ片を設ける態様などについて,請求項に記載のとおり「嵌合部が形成されたケース部」に限定したものである。
そうすると,本件補正は,補正発明の「光方向変換素子」を前記のとおり規定することによって,補正発明を特定するために必要な事項を限定するものと認められる。
イ 産業上の利用分野及び解決課題について 補正発明及び補正前発明は,いずれも, 「光源モジュール」であり,両者の産業上の利用分野は同一である。
また,前記1のとおり,補正発明及び補正前発明の解決しようとする課題は,光方向の厳密な調整を不要とし,輝度ムラのない光源モジュールを提供することである。
したがって,補正発明及び補正前発明の解決しようとする課題は,同一であると認められる。
ウ よって,本件補正は,補正前発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,補正前発明と補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから,特許法17条の2第5項2号にいう「特許請求の範囲減縮」に該当し,これを目的要件違反とした審決の判断は,誤りである。
(5) 被告の主張について 被告は,本件補正によれば,補正発明は,「光方向変換部」(光学的機能を有するもの)により特定されることに加え, 「ホルダ片」を嵌合するための手段である「嵌合部が形成されたケース部」 (機械的機能を有するもの)によっても新たに特定されることになり,「光方向変換部」により特定される補正前の「光方向変換素子」(光学的機能を有するもの)を限定するものでないと主張する。
しかし,前記のとおり,補正前発明の「光方向変換素子」は,請求項1にあるとおり,『入射面』と, 「 ・・・『反射面』と,・・・『出射面』とを有する『透明材料』からなる」もの,すなわち, 「光方向変換部」を「有する」「透明材料」からなるも ,のであるとともに, 「前記光方向変換素子に設けられるホルダ片とを有し」と特定され, 「光方向変換素子」に「ホルダ片」を設けるものである(被告は,これを機械的機能と称する。)から,本件補正は,発明特定事項を新たに追加するものではなく,上記主張を採用することはできない。
また,被告は,発明が解決しようとする課題が,補正前発明では,光方向の厳密な調整を不要とし,輝度ムラのない光源モジュールを提供することであったのに対し,補正発明では,嵌合部を持つ光方向変換素子を有する光源モジュールを提供することを追加しており,本件補正は,発明が解決しようとする課題を追加して変更 するものである旨主張する。
しかし,前記のとおり,補正発明は,補正前発明と同様の課題を有しているが,それに加えて,光方向変換素子がケース部と円形の光方向変換部からなり,ホルダ片が光変換素子の嵌合凹部11aに内嵌固定されるということが,補正前発明又は補正発明の課題であることを示す記載は存在せず,ケース部の形状やホルダ片の固着態様に格別の意義があるとは認められないから,光方変換素子の「光方向変換部」以外の形状を限定したからといって,新たな課題を追加したものとはいえない。
(6) 以上により,取消事由1には理由がある。
したがって,本件補正は,補正の目的要件を満たすものであるから,以下,補正発明の独立特許要件についての検討を行う。
3 取消事由2(補正発明の独立特許要件の判断の誤り)について (1) 引用発明について ア 甲1には,光源モジュールにおける光方向変換素子に関し,概ね以下の記載がある(なお,引用発明の認定は,下記に摘記した以外の段落,図に基づいてなされている部分があるが,引用発明の認定自体に争いがないため,争点に関わらない記載は省略した。。
)請求の範囲[1]光を入射する光入射面を有する凹部,前記光入射面から入射した光を反射する光反射面,および前記光反射面で反射した光を側方に出射する光出射面を有する光方向変換部と,前記光方向変換部の前記凹部に空隙を設けて配置され,前記光入射面に前記光を入射する発光部とを備えたことを特徴とする光源モジュール。
[2]さらに,配置空間を有するユニット本体と,配置空間に配置された回路基板とを備え,前記発光部は,回路基板上に搭載されている請求の範囲第1項に記載の光源モジュール。
・・・[0004]また,LEDの輝度は単体としてのLED素子の発光特性に依存するが,LED素子単体の色むら・輝度むらが存在することが既に知られており,照明の品質が要求される用途においては発光特性の均一なLED素子を揃えることが要求される。現実には所望の発光特性に対する許容範囲に収まるLED素子を選別して用いている。
[0005]従来,個々のLED素子に発光特性のばらつきがあっても,照度の均一化が図れる面発光装置として,例えば,・・・発明の開示発明が解決しようとする課題・・・[0008]特許文献2,3によると,レンズが反射部のみならず鋸歯部を有するものであるため,レンズの形状が複雑になり,製造コストが嵩むという問題があった。また,LEDからの光がレンズの光軸と直角な方向に出射されるため,発光量及び色のばらつきが平均化されず,発光むら及び色むらの発生を十分に抑制することができないという問題もあった。
[0009] 特許文献4によると,複数のLEDユニットを一方向に並列して配置する構造であるため,LEDユニットの並列方向と直角な方向の寸法に変更があると,LEDユニットの長さを変更する必要があった。この結果,照明の規模・形状や用途に応じてLEDユニットを設計変更しなければならず,汎用性がないという問題があった。また,面状に発光させるために,複数のLEDユニットがそれぞれ拡散レンズによって一体的に覆われているため,レンズ材料の使用量が多くなり,この場合にも製造コストが嵩むという問題があった。
[0010]従って,本発明の目的は,取付作業の簡素化及び製造コストの低廉化を図ることができるとともに,発光むら及び色むらの発生を十分に抑制することができ,かつ汎用性のある光源モジュール,面発光ユニット及び面発光装置を提供することにある。
・・・ [0015][第1の実施の形態]・・・[0025]<発光ランプ7,7,…の構成> 発光ランプ7,7,…は,図8に示すように,それぞれが光取出側に白色光を出射する発光部としてのLED28及びこのLED28からの出射光を入射して側方に出射する光方向変換部としての光方向変換用光学素子29を有し,回路基板6のランプ搭載側に実装されている。発光ランプ7,7,…のうち互いに隣り合う2つの発光ランプ7,7間の寸法は間隔は100mm程度に設定されている。
[0026]LED28は,図9に示すように,青色光を発する青色LED素子284及びこの青色LED素子284から発する青色光で励起されて黄色光を発する珪酸塩系の蛍光体285を含有する封止樹脂286をパッケージ282で封止してなり,回路基板6の素子搭載側に配置されている。そして,青色LED素子284から発する青色光と蛍光体から発する黄色光との混合に基づいて前述したように白色光を出射するように構成されている。青色LED素子284としては,例えば発光波長領域を450nm〜460nmとするGaN系半導体化合物からなる青色LED素子が用いられる。蛍光体285としては,珪酸塩系の蛍光体の他に,例えばYAG(Yttrium Aluminum Garnet)蛍光体等のガーネット系蛍光体を用いてもよい。
・・・[0028]光方向変換用光学素子29は,図8に示すように,LED28から出射される光を入射する光入射面29Aと,この光入射面29Aから入射した光を反射する光反射面29Bと,この光反射面29Bで反射した光を側方(斜め前後方向)に出射する光出射面29Cとを有し,回路基板6のランプ搭載側に配置され,全体がPMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂等の透明材料によって形成されている。そして,LED28から出射 された光が光入射面29Aに入射すると,その大部分の光を屈折させ,これら屈折光を光反射面29Bで全反射し,さらに光出射面29Cから屈折させて斜め前方及び斜め後方・側方に,また光反射面29B(界面)からそれぞれ出射するように構成されている。
[0029] ここで,光反射面29Bに入射する光線の光学的現象につき,図10を用いて説明する。屈折率n1の物質から屈折率n2の物質に光線LBが入射すると,スネルの法則により,次の関係が成り立つ。
n1・sin(θ1)=n2・sin(θ2) n1[0030]光方向変換用光学素子29の光入射側端部には,面発光ユニット3の幅方向(ユニット長手方向と直角な方向)に並列し,かつユニット本体5内で回路基板6の両側側縁を段状部14に圧接可能な鍔部29a(図3に示す)が設けられている。光方向変換用光学素子29の光入射側端面には,回路基板6のピン孔6A,6Bに嵌合する位置決め用ピン(図示せず)が設けられている。光方向変換用光学素子29の光入射面29A及び光反射面29B・光出射面29Cには鏡面加工が施されている。光方向変換用光学素子29の材料としては,PMMA樹脂の他に,ポリカーボネート及びエポキシ・シリコーン等の透明樹脂材料や透明ガラスが用いられる。この場合,透明材料からなる光方向変換用光学素子29に限定されず,着色が施された光方向変換用光学素子としてもよい。
[0031]光入射面29Aは,図8に示すように,第1光入射面29b及び第2光入射面29cからなり,光学素子形成用素材(略円柱体)の一方側端部に開口端面(光入射側 端面)に向かって漸次広がる截頭円錐形状の凹部290を設けることにより形成されている。凹部290は,LED28を収容する大きさをもつ空間部によって形成されている。
これにより,第1光入射面29bとLED28の光取出面28Aとの間には空隙G(G≒0.3mm)が形成される。また,第2光入射面29cにはLED28の側面から出射される光が入射する。これにより,第2光入射面29cに入射する光(例えば黄色光)が拡散され,色むらを抑制することができる。
[0032]光反射面29Bは,図8に示すように,光学素子形成用素材(略円柱体)の他方側端部に開口端面(光取出側)に向かって漸次広がる漏斗状の凹部291を設けることにより形成されている。そして,光入射面29Aから到達する光を全反射するように構成されている。光反射面29Bは,等価的に回転2次曲面,特に回転放物面あるいは回転双曲面の一部としてもよい。光反射面29Bには,反射効率を高めるために,アルミニウム等の金属膜を蒸着してもよく,ニッケル等の無電解めっき処理を施してもよい。光反射面29Bの中心部には,LED28と反対側に開口する凹部を形成してもよい。これにより,光反射面29Bの中心部(凹部)からの光の出射が広範囲の指向角をもって行われる。
[0033]光反射面29B(漏斗状の外面)の形状は,例えば次に示す光学的シュミレーションによって決定される。先ず,図11に示すように,略円柱状の光学素子形成用素材(PMMA樹脂)aの軸線方向寸法(光方向変換用光学素子29の軸線方向寸法)Lを設定するとともに,その一方側端面に中心軸線O上の点を中心とする仮想円の外径(光反射面29Bの最大外径)Dを設定する。次に,光学素子形成用素材aの他方側端面からその一方側端面に向かって寸法L1(L>L1)離間する仮想面V1上で,予め光学素子形成用素材aの中心軸線O上に配置されたLEDから出射される光線LBを法線bと42.16°(臨界角)以上の角度αをもって全反射させる。この場合,仮想面V1上での光線LBの反射点を集合すると,これら反射点が外径D1(D>D1)の円周に沿って配置さ れる。そして,これら試行を光学素子形成用素材aの一方側端面と平行な任意の仮想面上で繰り返し実施して全ての反射点を集合する。これら反射点の集合によって光反射面29Bが形成される。
[0034]光出射面29Cは,図8に示すように,均一の外径をもつ円周面で形成されている。そして,前述したように光反射面29Bで反射した光を斜め前方及び斜め後方・側方に出射するように構成されている。また,光出射効率を高めるために,内部反射と屈折を起こし難い構造とし,鏡面であることが好ましい。光出射面29Cは円周面で形成されている場合について説明したが,多角柱(三角柱,四角柱,…)の側面で形成してもよい。光出射面29Cには,光拡散性をもたせるために,粗面加工を施してもよい。この粗面加工を施す代わりに,光方向変換用光学素子29に光拡散剤を混入しても光拡散性を高めることができる。
・・・[0039]図12(b)に示すように,LED28と光方向変換用光学素子29の光入射面29Aとの間に空隙がある場合は,入射範囲が広がるため,入射した光が全て光反射面29Bに照射するようにするためには,光方向変換用光学素子29の直径が大きくなってしまう。直径を大きくしない場合は,LED28から水平に近い方向に出射された光(蛍光体層の距離が長いため,黄色寄りの光となる)は,光方向変換用光学素子29の光取出面29Cで全反射し,光反射面29Bから出射し,光方向変換用光学素子29の中心軸上に黄色光が集光してしまい,発光ランプ7を2次元状に配列して面光源を構成した場合に黄色い部分ができることがある。
・・・[0043]〔面発光装置1の動作〕 図13は,本発明の第1の実施の形態に係る面発光ユニットを備えた面発光装置の動作を説明するために示す断面図である。
[0044]図13に示すように,先ず電源部(図示せず)から面発光ユニット3,3,…のLED28が通電されると,これらLED28から白色光を出射する。
[0045]次いで,LED28から出射した白色光を光方向変換用光学素子29の光入射面29Aに入射させて光反射面29Bで反射し,この光反射面29Bで反射した光を光出射面29Cから斜め前後方向及び側方に出射する。また,一部の白色光を光反射面29Bで反射せず,光反射面29B(界面)から前方に出射する。これら出射光は,光軸に沿って光拡散部材4(図1に示す)に直接入射する光,面発光ユニット3,3,…(カバー11の光取出側面11B)及びケース2の内面(背面板2Cのユニット実装面2c及び側面板2A,2Bの光反射部2a,2b)に反射されて光拡散部材4に入射する光と様々である。
また,光方向変換用光学素子29からの出射光には,光拡散部材4に到達しても反射される光も存在する。
・・・[0047][第1の実施の形態の効果] 以上説明した第1の実施の形態によれば,次に示す効果が得られる。
・・・[0049](2)光方向変換用光学素子29の光出射面29Cから光が斜め前後方向及び側方に,またその一部が前方にそれぞれ出射され,さらにこれら出射光が混合されることに基づいて光の面発光が行われるため,LED素子の単体特性としての発光量及び色むらのばらつきが平均化され,発光むら及び色むらの発生を十分に抑制することができる。
・・・[0054][第2の実施の形態] 図14は,本発明の第2の実施の形態に係る面発光ユニットの全体を示す組立斜視図である。図15は,本発明の第2の実施の形態に係る面発光ユニットの発光ランプを説明するために示す断面図である。図15(a)は図14のA-A断面図を,図15(b)は図14のB-B断面図をそれぞれ示す。図16は,本発明の第2の実施の形態に係る面発光ユニットの発光ランプにおける光方向変換部を説明するために示す図である。図16(a) は斜視図を,図16(b)は平面図を,図16(c)は下面図をそれぞれ示す。図17は,本発明の第2の実施の形態に係る面発光ユニットの発光ランプにおける光方向変換部を説明するために示す断面図である。図14〜図17において,図1〜図8及び図13と同一又は同等の部材・部位については同一の符号を付し,詳細な説明は省略する。
・・・[0058]光方向変換用光学素子105は,図15(a)(b)及び図16(a)〜(c) ,に示すように,ホルダ片104に嵌合する凹部(嵌合部)108及びLED28を収容する凹部109に加え,LED28から出射される光を入射する光入射面29Aと,この光入射面29Aから入射した光を反射する光反射面29Bと,この光反射面29Bで反射した光を側方及び斜め前後方向に出射する光出射面29Cとを有し,ユニット本体102のランプ搭載側に配置され,全体が光方向変換用光学素子29と同様にPMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂等の透明材料によって形成されている。そして,LED28から出射された光が光入射面29Aに入射すると,その大部分の光を屈折させ,これら屈折光を光反射面29Bで全反射し,さらに光出射面29Cから屈折させて斜め前方及び斜め後方・側方に,また光反射面29B(界面)からそれぞれ出射するように構成されている。
・・・[0061][第2の実施の形態の効果] 以上説明した第2の実施の形態によれば,第1の実施の形態の効果(1)〜(6)と同様の効果が得られる。
[0062][第3の実施の形態] 図18は,本発明の第3の実施の形態に係る面発光ユニットの発光ランプにおける光方向変換部を説明するために示す断面図である。この第3の実施の形態の光方向変換用光学素子は,第1の実施の形態の光方向変換用光学素子29において,上部の光反射面29Bと側面の光出射面29Cとの間に傾斜した光反射面29Dを設けたものである。
[0063]LED28から出射された光を光方向変換用光学素子29の底面の第2光入射面29cから入射した光を,上面の光反射面29Bで反射させ,側面の光出射面29C からほとんど出射させるが,光反射面29Bと光出射面29Cとの間に概円錐の一部形状の光反射面29Dを設けることにより,光反射面29Bで反射した光の一部を光反射面29Dで反射させ,さらに底面の微細な凹凸からなる拡散面29Eで拡散反射させて,上部の光反射面29Bから光を出射させる。なお,光方向変換用光学素子29に拡散面29Eを設けずに基板6の上面に拡散面を設けてもよい。
[0064]これにより,第1の実施の形態では,光を全面的に側面出射させているため,厚さが特に薄い面光源に使用した場合に光源直上が暗くなってしまう。光源上方向にも光を出射させることにより,超薄型の場合においても均一の面光源を得ることができる。
図8図15 図18 イ 甲1によれば,引用発明について,以下のとおり認められる。
甲1に記載された発明は,光源モジュール,面発光ユニット及び面発光装置に関し,特に発光部として発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)を用いた光源モジュール,面発光ユニット及び面発光装置に関するものである([0001])。
従来,個々のLED素子に発光特性のばらつきがあっても,照度の均一化が図れる面発光装置及びその発光モジュールとして複数の従来例があり,例えば,LEDからの光を全反射する反射部及びこの反射部からの光を光軸と直角な方向に出射する鋸歯部を有するレンズとを備えたものなどがあったが,レンズの形状が複雑になり,製造コストが増加し,また,LEDからの光がレンズの光軸と直角な方向に出射されるため,発光量及び色のばらつきが平均化されず,発光むら及び色むらの発生を十分に抑制することができないという問題があった([0005]〜 [0008])。
そこで,甲1に記載された発明の目的は,取付作業の簡素化及び製造コストの低廉化を図ることができるとともに,発光むら及び色むらの発生を十分に抑制することができ,かつ,汎用性のある光源モジュール,面発光ユニット及び面発光装置を提供することにある([0010])。
甲1に記載された発明は,上記目的を達成するために,光を入射する光入射面を有する凹部,前記光入射面から入射した光を反射する光反射面,及び前記光反射面で反射した光を側方に出射する光出射面を有する光方向変換部と,前記光方向変換部の前記凹部に空隙を設けて配置され,前記光入射面に前記光を入射する発光部とを備えた光源モジュールを提供することを特徴とする([0011])。
引用発明は,そのうち,第1の実施の形態(図8参照)と同様の光方向変換部を有する第2の実施の形態(図15参照)に基づき([0054]),前記第2,3,(1)イ(ア)のとおりの構成を有する光源モジュールである。引用発明の光方向変換用光学素子29は,図8に示すように,LED28から出射される光を入射する光入射面29Aと,この光入射面29Aから入射した光を反射する光反射面29Bと,この光反射面29Bで反射した光を側方(斜め前後方向)に出射する光出射面29Cとを有し,回路基板6のランプ搭載側に配置され,全体がPMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂等の透明材料によって形成されており,LED28から出射された光が光入射面29Aに入射すると,その大部分の光を屈折させ,これら屈折光を光反射面29Bで全反射し,さらに,光出射面29Cから屈折させて斜め前方及び斜め後方・側方に,また,光反射面(界面)29Bからそれぞれ出射するように構成されている([0028])。このように,光方向変換用光学素子29の光出射面29Cから光が斜め前後方向及び側方に,また,一部の白色光が光反射面29Bで反射せず,光反射面(界面)29Bから前方に出射し,さらに,これら出射光が混合されることに基づいて光の面発光が行われるため,LED素子の単体特性としての発光量及び色むらのばらつきが平均化され,発光むら及び色むらの発生を十分に抑制することができるというものである([0045],[0049])。
(2) 原告の主張2(1)(引用発明の技術的意義の捉え方の誤り)について 原告は,引用発明は,光反射面(界面)29Bから出射する光を増やすことについて,開示も示唆もしておらず,光反射面(界面)29Bからの出射を課題解決に用いるものではないから,審決は引用発明における技術的意義を誤って捉えたもの である旨主張する。
そこで検討するに,引用発明における,光反射面(界面)29Bは,LEDの中心から出射した光線が全反射するように光学シミュレーションにより設計されるが,LEDは実際には点ではなく,一定の幅をもっているために,中心を外れた端から出射した光線は,光反射面29Bで反射せずに透過することがあるなど,様々な理由により,必ずしも光反射面(界面)で全反射するわけではないことは,当事者間に争いがなく,技術的にも正当といえる。そして,前記(1)に認定したとおり,引用発明において,LED28から出射された光が光入射面29Aに入射すると,その大部分の光を屈折させ,これら屈折光を光反射面29Bで全反射させるが,その一部が光反射面(界面)29Bから出射することは,甲1に記載された事項である。
審決は,このことをもって,引用発明を「・・・LEDから出射された光が光入射面に入射すると,その大部分の光を屈折させ,これら屈折光を光反射面で全反射し,さらに光出射面から屈折させて斜め前方及び斜め後方・側方に,また光反射面(界面)からそれぞれ出射し,」と認定したものであると解される。そして,その上で,前記の相違点1として, ・ 「・ ・前記入射面に入射して前記反射面に向かう光のうち,一部の光を前記光拡散剤によって前記入射面から入射した光線の方向を変更して第1の光として前記反射面の裏側から表側に向けて透過させ,残りの光を前記光拡散剤又は前記反射面で反射させて第2の光として前記出射面から前記側面方向に出射させ」るのに対し,引用発明は,そのようなものでない点。」と認定しており,引用発明において,上記の光学シミュレーションによって光反射面(界面)29Bで全反射するよう設計されたが,様々な理由により,自然に光反射面29Bで反射せずに透過(出射)する光があるということ以上に,引用発明が,あえて,光反射面29Bで反射せずに透過する光量を増やすことを課題解決としている旨を認定したものではない。
したがって,引用発明における技術的意義の捉え方に,原告が上記に主張する誤りがあるとはいえない。
また,原告は,引用発明においては,光反射面(界面)29Bからの出射に基づく光量を制御できないことから,補正発明の表示部における明暗差の解消に利用できるものでもない旨主張する。
しかし,審決は,引用発明が光反射面(界面)29Bからの出射に基づく光量を制御できるものと認定していないから,上記主張は失当である。
(3) 原告の主張2(2)(周知技術の認定の誤り)について 原告は,審決が認定した周知技術は,補正発明に対し適切な周知技術ではないと主張するので,以下,検討する。
ア 甲2ないし4に記載の技術について (ア) 甲2に記載の技術 a 甲2には,以下の記載がある。
【技術分野】【0001】 本発明は,発光装置の製造方法および発光装置に係り,特に発光素子を透光性樹脂で封止する構造の発光装置の樹脂封止方法および透光性樹脂内の含有物分布構造に関する。
【0013】 < 第1の実施形態>支持体上に実装されて外部端子に電気的に接続された発光素子を透光性樹脂により封止した発光装置を製造する際,透光性樹脂に発光素子からの光を吸収して異なる波長を有する光を発する蛍光物質および拡散剤を含ませておき,前記蛍光物質を前記発光素子に近い部分に偏在するように沈降させ,当該蛍光物質の沈降部分よりも前記発光素子から離れた部分に拡散剤を分散させることにより,配光特性および量産性に優れた発光装置を実現した。
【0014】 図4は,第1の実施形態の樹脂封止方法により得られた発光装置の一例を概略的に示す側断面図である。図4中,発光素子(例えばLEDチップ)409(裁判所注:403の誤記である。以下同じ。)は,支持体上に実装され,外部端子に電気的に接続されている。本例では,支持体は上端部にカップ部を有するマウントリード405であり,外部端子としてマウントリード405およびインナーリード406が設けられている。そ して,本例では,カップ部底部に発光素子409がフェースアップ状態でダイボンディングされ,発光素子409の2つの電極が導電性ワイヤ407によりマウントリード405の先端部とインナーリード406の先端部に接続されている。さらに,カップ部内の発光素子409および導電性ワイヤ407は,蛍光物質および拡散剤を含む透光性樹脂411により封止されている。
【0015】 ここで,蛍光物質は透光性樹脂411内で主に発光素子に近い部分に偏在しており,拡散剤は蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子409から離れた上方部分に分散して光拡散層を形成している。さらに,発光素子409の実装部を含むように樹脂モールドにより凸レンズ404が配設されることによってランプ型または砲弾型の発光装置が得られる。
【0022】 上記配光特性の測定は,発光素子403上でマウントリード405とインナーリード406を結ぶ直線上(0°方向)において,出射光の出射角度θの中心を0°として-90°〜+90°の範囲において配光色度を測定した。そして,配光色度の変化(色ムラ)として色度図のy軸の数値の最大値と最小値との差Δyを表1に示している。
このΔyが小さいほど色ムラが少ないといえる。
【表1】【0023】 表1によれば,TiO2 を0.1%添加すると配光特性が改善され,TiO2 の添加量をさらに増やすとさらに改善されることが分かる。
【0024】 図1(a)〜(e)は,変成シリコーン樹脂/YAGの重量を一定とし,TiO2 の添加量を0%,0.1%,0.2%,0.3%,0.4%に変化させた場合にそれぞれ硬化の透光性樹脂中におけるYAGの沈降状態(YAG,TiO2 の分布状態)を観察した結果を模式的に示した。ここで,11はカップ部の側壁,12は主にYAGの沈降 層を含む樹脂層,13は樹脂層,14はTiO2 ,403はカップ部の凹部内に配置された発光素子,407は発光素子403とリードとの間をボンディング接続した導電性ワイヤである。
【0025】 これらの結果から,透光性樹脂中において,YAGは,その重量により樹脂硬化前に沈降し,LEDチップ近傍の底部に偏在していることが分かる。また,TiO2は,YAGが偏在する部分よりもLEDチップから離れた部分(上方)にほぼ均一に分散して光拡散層を形成していることが分かる。このような構造によれば,発光装置の配光特性が改善していることが判明した。また,透光性樹脂に蛍光物質および拡散剤を予め含ませておくだけで配光特性を改善できるので,量産性に優れ,低コストで発光装置を実現することができる。また,光利用効率が良く,小電力駆動が可能になる。
【0045】 本明細書において拡散剤とは,中心粒径が1 n m 以上5 μ m 未満のものをいう。1nm以上5 μ m 未満の拡散剤は,蛍光物質からの光を良好に乱反射させ,大きな粒径の蛍光物質を用いることにより生じやすい色ムラを抑制することができ好ましい。拡散剤の光拡散作用により,発光装置の色度ばらつきが改善される。1 n m 以上1μ m 未満が特に好ましい。また,本発明における拡散剤は,従来の拡散剤に比べて,透光性樹脂との屈折率差が大きいため拡散作用が高い。このため,本発明における拡散剤は,含有量を少量としても色ムラの少ない光を得ることができる。これに対し,従来の拡散剤が本発明の拡散剤と同等な拡散効果を得るには,光を屈折及び反射させる回数を増やす必要がある。このため,従来の拡散剤では含有量を増やすしかなく,光度も低下してしまう。
b 以上によれば,甲2には,発光装置の発光素子を封止する透光性樹脂内に,拡散剤であるTiO2 を添加すると,透光性樹脂中をほぼ均一に分散して光拡散層を形成し,光を吸収して異なる波長の光とし,蛍光物質からの光を良好に屈折及び反射させて乱反射させることで,配光特性が改善されることが開示されている。
(イ) 甲3に記載の技術 a 甲3には,次の記載がある。
【請求項1】発光素子は透光性樹脂により覆われており,前記透光性樹脂とは材質が異なり,かつ,発光素子より大きさの大きい拡散物が複数含有されている発光装置。
【技術分野】【0001】 本発明は,発光装置に関する。また,特に装飾用の照明に使用される発光装置に関する。
【背景技術】【0002】 従来存在する発光装置は拡散性の高い配光を得るため,粉体状の拡散剤を透光性樹脂内に混入させている。
【発明が解決しようとする課題】【0004】 従来技術により得られる発光装置は,粉体状の拡散剤により発光素子からの光を拡散して発光装置から出射するものである。このような発光装置は特定の用途には有効な発光装置であった。
b 以上によれば,甲3には,従来技術として,発光装置の発光素子を透光性樹脂により覆い,透光性樹脂内に混入させた粉体状の拡散剤により,拡散性の高い配光を得られることが開示されている。
(ウ) 甲4に記載の技術 a 甲4には,以下の記載がある。
【0017】 (発光素子の配置)形成されたマウントリード105上に上述のLEDチップ101を2個用いてそれぞれAgを含有させたエポキシ樹脂であるAgペースト104により,ダイボンド固着させる。ダイボンド固着されたLEDチップ101はカップの中心に対して,それぞれほぼ左右対称に配置される。各LEDチップ間の距離が短くなればなるほど正面光度が高くなる。
【0019】 (モールド部材102)発光素子101とリード電極105,106とが電気的に接続されたものに発光観測面側から見て楕円状レンズを形成すべく,楕円状の凹形状をしたキャスティングケース内を用いる。キャスティングケース内には,エポキシ樹脂を流し込むとと共にLEDチップが配置された上述のリードフレーム先端を差し込み,15 0℃1時間で仮硬化させる。キャスティングケースからリードフレームを取り出し120℃5時間で本硬化させ発光ダイオードを形成させる。なお,モールド部材102は,エポキシ樹脂,イミド樹脂などの透光性,耐光性に優れた樹脂のほか,低融点ガラスなどを利用することもできる。また,モールド部材には,所望に応じて発光素子から放出される波長の一部をカットするフィルター効果を持つ着色剤や,劣化を防止させるための紫外線吸収剤,配光特性を滑らかにする拡散剤など種々の添加剤を含有させることもできる。
b 以上によれば,甲4には,発光ダイオードの発光素子(LEDチップ)をモールドする透光性のモールド部材に拡散剤を添加して,配光特性を滑らかにすることが開示されている。
(エ) 以上の甲2ないし4に開示された内容に照らせば,光源モジュール等の発光装置において,発光素子を覆いその光を入射し出射する透明な材料に光拡散剤を含有させ,光の屈折率を変えて拡散させ,配光特性を制御することは,当業者にとって従来周知の技術であると認められる。
イ 乙2及び3に記載の技術について (ア) 乙2に記載の技術 a 乙2には,図面と共に次の記載がある。
【技術分野】【0001】 本発明は,光半導体装置に関する。
【発明が解決しようとする課題】【0003】 しかしながら,前記光半導体装置においても,第1の封止樹脂と第2の封止樹脂の屈折率差により,その界面において光が全反射して外部に取り出せない光が依然多く存在する。
【0004】 本発明の目的は,光取り出し効率の高い光半導体装置を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】【0007】 本発明の光半導体装置は,以下の態様を有する。
第1の態様:光半導体素子の表面に,第1樹脂と光散乱粒子を含有する第1樹脂層を有し,該第1樹脂より屈折率が小さい第2樹脂からなる第2樹脂層で第1樹脂層が封止されてなることを特徴とする光半導体装置第2の態様:光半導体素子の表面に,第1樹脂と光散乱粒子を含有する第1樹脂層を有し,該第1樹脂より屈折率が小さい樹脂からなる複数の樹脂層で第1 樹脂層が封止されてなり,かつ前記複数の樹脂層の樹脂の屈折率が最外の樹脂層に向かって,順次小さいことを特徴とする光半導体装置【0008】 いずれの態様においても,本発明では,光半導体素子を封止する第1樹脂層に光散乱粒子が含有されているため,第1樹脂層と第2樹脂層(第2の態様においても,第1樹脂層を封止する樹脂層を第2樹脂層という)との界面での全反射を低減することができ,光取り出し効率を格段に向上させることができる。
【0009】 光散乱粒子としては,ポリスチレン等の樹脂粒子,シリカ等の無機粒子等が挙げられるが,これらの中でも,屈折率が1.54〜2.50の,高屈折率を有する無機粒子が好ましい。かかる無機粒子としては,チタン,ジルコニウム,インジウム,亜鉛,錫,アンチモン等の酸化物等が挙げられる。
【0010】 光散乱粒子の平均粒径は,散乱効果を効率的に得,透過率を低減させないようにするためには,100nm〜2μmが好ましい。
【符号の説明】【0078】 1 光半導体素子 2a リードフレーム 2b 基板 2c 導電層 3 ワイヤ 4 光散乱粒子 5 第1樹脂層 6 第2樹脂層7 第3樹脂層 b 以上によれば,乙2には,光半導体装置において,光半導体素子の表面に第1樹脂と光散乱粒子を含有する第1樹脂層を有し,該第1樹脂より屈折率が小さい第2樹脂からなる第2樹脂層で第1樹脂層が封止されて構成し,第1樹脂層に光散乱粒子を含有させたことで第1樹脂層と第2樹脂層との界面での全反射を低減させることが開示されている。
(イ) 乙3に記載の技術 a 乙3には,図面とともに次の記載がある。
【技術分野】【0001】 本発明は,面光源装置に関する。
【背景技術】【0002】 液晶表示装置等に用いる面光源装置の方式としては,光源を導光板のエッジ部に取り付けるエッジライト方式と,光源を拡散板の直下に配置し,拡散板により光を拡散させる直下型方式があり,比較的画面サイズの小さい液晶表示装置ではエッジライト方式を採用することが主流となっている。
【0003】 エッジライト方式では,導光板のエッジ部に取り付けられた光源より発せられた光が導光板のエッジ部より入射し,導光板表面に対して臨界角以上で進む一部の光が導光板の外に出射する。エッジ部より入射した臨界角以下の角度で進むほとんどの光は,表面で反射を繰り返して導光板内部を進んで行き,導光板の出射面からはほとんど出射しない。このような導光板内部を臨界角以下の角度で進む光を導光板外部に出射させるために,導光板内部へ屈折率の異なる拡散剤を添加したり,導光板表面上に拡散反射層を構成させることが行われている。
【図面の簡単な説明】【0047】【図1】冷陰極管光源を用いた面光源装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】【0048】1 導光板2,2’ 冷陰極管3 反射板5,5’ ランプリフレクター6,6’ 拡散フィルム7 プリズムシート8 拡散反射層【図1】 b 以上によれば,乙3には,面光源装置において,光源より発せられた光が導光板のエッジ部より入射し,導光板表面に対して臨界角以下の角度で進むほとんどの光は,表面で反射を繰り返して導光板内部を進んで行き導光板の出射面からはほとんど出射しないため,導光板内部へ屈折率の異なる拡散剤を添加することで,導光板内部を臨界角以下の角度で進む光を導光板外部に出射させることが開示されている。
(ウ) したがって,発光装置において,光源から放射される光を入射し外部へ出射する材料に対して,材料内に光拡散剤を含有させて,全反射面から一部光を通過させて光を出射するように構成することは,当業者にとって従来周知の技術と認められる。
ウ 原告の主張について (ア) 原告は,審決が周知技術を認定した根拠とした甲2ないし4について,いずれも発光素子を封止する透光性の封止剤に拡散剤を含有させたものにすぎず,透光性の封止剤は全反射するように設計された反射面を有しておらず,拡散剤は発光素子の光を反射面の裏側から表側に透過させるものでもないことから,拡散剤によって裏側から表側へ光を透過させる反射面を有した光方向変換部を備える補正発明に対し,適切な周知技術ではないと主張する。
しかし,審決は,単に,「光拡散剤は,透明な材料(樹脂等)に含ませることで,光を拡散させて,配光特性を制御し得るものであること」が周知の技術であると認定したものであるところ,前記イからも明らかなとおり,発光素子から入射する光は,界面における屈折率や形状等により,透過するか反射するかが異なるにすぎないものであるから,光拡散剤を含有させる透明な材料が,光反射面を有しないとしても,周知技術と補正発明との技術分野が異なるものではなく,前者の後者への適用に阻害事由があるものでもない。したがって,審決の認定に誤りはない。
また,上記イ(ウ)のとおり,発光装置において,光源から放射される光を入射し外部へ出射する材料に対して,材料内に光拡散剤を含有させて,全反射面から一部光を通過させて光を出射するように構成することも,当業者にとって従来周知の技術と認められる。
(イ) 原告は,甲2ないし4の技術において,配光特性を改善すること,拡散性を高めること,及び配光特性を滑らかにすることは,いずれも,光出射面の光のむらをなくすることであって,光を増やすこととは無関係の技術である旨主張する。
しかし,前記ア(エ)のとおり,上記の各技術は,いずれも光源モジュール等の発光装置において,発光素子から光を入射し出射する透明な材料に光拡散剤を含有させ,光の屈折率を変え,光を拡散させて配光特性を制御するというものである。そして,界面に入射する光が反射する臨界角に基づいて反射面を光学的シミュレーションにより設計した場合において,その入射光の屈折率を光拡散剤により拡散,乱反射さ せると,界面に入射する光は,当該設計と異なる角度で入射することとなる結果,所期の設計よりも界面に反射あるいは透過する光の量が増えたり減ったりすることは自明のことである。さらに,上記イ(ウ)のとおり,発光装置において,光源から放射される光を入射し外部へ出射する材料に対して,材料内に光拡散剤を含有させて,全反射面から一部光を通過させて光を出射するように構成することも,周知である。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(4) 原告の主張2(3)(周知技術の適用に関する動機付けの判断の誤り)について ア 前記(1)のとおり,引用発明は,甲1に記載された第1の実施の形態と同様の光方向変換部を有する第2の実施の形態に基づいて認定されたもので,LED28から出射された光が光入射面29Aに入射すると,その大部分の光を屈折させ,これら屈折光を光反射面29Bで全反射し,さらに,光出射面29Cから屈折させて斜め前方及び斜め後方・側方に,一部が光反射面(界面)29Bからそれぞれ出射して透過するように構成し,それぞれの方向に出射させた出射光が混合されることによって,LED素子の単体特性としての発光量及び色むらのばらつきが平均化され,発光むら及び色むらの発生を十分に抑制することができるというものである。
ところで,甲1には,前記(1)アのとおり,第3の実施の形態について,[0062]〜[0064]の記載がある。これらの記載によれば,第1の実施の形態では,光反射面で屈折した光を全面的に側面出射させているため,厚さが特に薄い面光源に使用した場合に光源直上が暗くなってしまうことから,光源上方にも光を出射させることにより,超薄型の場合においても均一の面光源を得ることができる旨が記載されており,光反射面29Dを有しない第1の実施の形態では,光源直上,すなわち,光反射面29Bの直上が暗くなるという課題があることが示されている。そして,このような第1の実施の形態における課題は,光方向変換部が同様のものである第2の実施の形態(引用発明)においても当てはまる。
そうすると,このような課題を有する引用発明において,均一の光源を得るため に,上記(3)アにおいて認定した周知の技術を採用し,光方向変換素子の光方向変換部及びケース部に光拡散剤を含有して,光の屈折率を変えて拡散させ,配光特性を制御し,補正発明の相違点1に係る発明のように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。
したがって,認定した周知技術を引用発明に適用した審決の判断に誤りはない。
イ 原告の主張について 原告は,甲1では,第3の実施の形態において,光方向変換素子に反射面29D及び拡散面29Eを設けて光方向変換素子の形状を変更することで,光源モジュールの上方が暗くなることによる発光ムラを抑制しており,引用発明は,光拡散剤を混入させるという技術思想を有していない旨主張する。
しかし,甲1に課題を解決する別の方法が記載されているとしても,透明材料に光拡散剤を混入させて光の屈折率を変え,光を拡散させて配光特性を制御することは,上記のとおり,当業者にとっての周知の技術であるから,これを適用して補正発明に至ることを妨げるものではない。
(5) 原告の主張2(4)(光拡散剤の含有量に関する判断の誤り)について 原告は,光拡散剤の含有量に関する数値範囲に技術的意義があるから,その含有量について当業者が適宜設計し得る設計事項であるとした審決の判断は,誤りであると主張する。
しかし,光拡散剤の含有量について,本願明細書には, 「透明樹脂100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下であることが好適である」「光拡散剤 ,14の含有量が0.1重量%を超すと,光方向変換素子10の機械的強度の低下をもたらすので好ましくない。一方,光拡散剤14の含有量が0.01重量%未満であると,光拡散効果が得られないばかりでなく,方向変換素子10の光反射面12dに光の明暗部が点在するので好ましくない。 ( 」【0026】, )「透明樹脂100重量%に対する光拡散剤14の添加量を0.01重量%以上0.1重量%以下の範囲内に調整することで,LED40から発する光が光方向変換素子10内において多 方向に適度に拡散され,光方向変換素子10の光反射面12dの裏側から表側へ向けて透過する光が略均一に拡散放射される。 【0027】,透明樹脂100重量% 」 ( )「に対する光拡散剤14の含有量を0.01重量%以上0.1重量%以下の範囲内に調整することで,光方向変換素子10から光反射面12dへの出射光の指向性を容易に変更させることが可能となる。 ・ ・ 透明材質からなる光方向変換素子10に0. ・01重量%以上0.1重量%以下の拡散剤14を調合することで,光の光路を容易に変更することができるので,光方向の厳密な調整を行うことなく,光源モジュール1からの光を均一に分散できるようになり,光学的な均一性の効果が得られる。」(【0028】)との各記載及びその他の記載(【0036】【0037】等)がある ,が,上記の数値範囲で調整すれば,適切な配光が可能であると定性的に述べるにすぎないものであり,当該数値範囲において補正発明を実施した場合に,当該数値範囲外のものと比較して臨界的な作用効果を奏すると認められるに十分な実験結果等が記載されているわけではない。
そして,光源装置において,光源の光を入射し広範囲に光を出射する透明な材料に,光拡散剤を含有させる際に,含有させる光拡散剤が少ないと十分な光拡散の効果が発揮されず,一方,多すぎると,材料の強度や耐熱性に問題が生じることは,当業者にとって従来普通に知られていることである(例えば,特開2005-259593号公報(乙5) 【0016】 ところ, の ) 材料に含有させる光拡散剤の量は,当業者が適宜設定すべき設計的事項である。
また,光源の光を入射し広範囲に光を出射する透明な材料において,その透明な材料に含有させる光拡散剤の量として,透明樹脂100重量%に対する光拡散剤の添加量を0.01重量%〜0.1重量%とすることは,当業者にとって普通に含有させる量である(乙4の【0024】,乙5の【0016】を参照。。
) 以上を勘案すると,引用発明において,光方向変換素子に光拡散剤を含有させる際に,光拡散剤の含有量を「透明材料100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下」とし,補正発明の相違点2に係る発明のように構成することは,当 業者が容易に想到し得たことである。
したがって,相違点2に関する審決の判断に誤りはない。
(6) 原告の主張2(5)(補正発明の顕著な効果についての認定の誤り)について 原告は,全反射面として設計された反射面から光を出射するために0.01重量%以上0.1重量%以下の光拡散剤を光方向変換素子に混入させることで,引用発明と異なる光方向変換素子の反射面に光の明暗部が点在しないようになるという異質の効果,及び表示部の明暗差を解消できるという顕著な効果を生じるものであり,これらの効果は,当業者の予想を超えたものと主張する。
しかし,原告の主張は,そもそも,補正発明の効果について引用発明のみが有する効果と比較するものであって,主張自体失当である。
また,補正発明の光拡散剤の含有量に関する効果については,上記に述べたとおり臨界的な作用効果が認められないものであるところ,そのような効果は,引用発明に相違点に係る構成を組み合わせることにより当然に予測可能なものにすぎず,当業者が予測できない格別の効果が導かれるものではない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(7) 以上のとおり,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正発明は,進歩性を欠き,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,補正を却下した審決の判断に誤りはない。
したがって,取消事由2は,理由がない。
4 取消事由3について 補正発明は,補正前発明の構成要件をすべて含み,更に他の構成要件を付加して限定を加えたものであるところ,上記のとおり,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正前発 明も補正発明と同様に,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,審決における補正前発明の容易想到性の判断に誤りはなく,取消事由3は理由がない。
5 以上によれば,本件補正が目的要件を欠くとした審決の判断には誤りがあり,取消事由1には理由があるが,補正発明が独立特許要件を欠くとした審決の予備的な判断には誤りがなく,取消事由2には理由がない結果,本件補正を却下した審決の判断に誤りはない。また,補正前発明が進歩性を欠くとした審決の判断に誤りがなく,取消事由3にも理由がない。
結論
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 中村恭
裁判官 中武由紀