関連審決 | 不服2014-7563 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10072号
審決取消請求事件
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原告X 同訴訟代理人弁理士 橋昌義 被告特許庁長官 同 指定代理人槙原進 同 加藤友也 同 梶本直樹 同 山村浩 同 根岸克弘 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/02/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2014-7563号事件について平成27年2月16日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成25年1月28日,発明の名称を「電気自動車の発電システム」とする発明について,特許出願をした(請求項数1。特願2013-27106号。以下「本願」という。甲1)。 (2) 特許庁は,平成25年12月13日付けで拒絶査定をしたため(甲5),原告は,平成26年4月7日,これに対する不服の審判を請求した。 (3) 特許庁は,これを不服2014-7563号事件として審理し,平成27年2月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年3月28日,原告に送達された。 (4) 原告は,平成27年4月23日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲1)。以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」,本願発明に係る明細書(甲1)を,図面を含めて「本願明細書」という。 車両のエンジンと,前記エンジンで駆動する主動力伝達シャフトに差動ギアで接続された発電用動力伝達シャフトと,2個のローターに個別に接続して駆動する2台の発電機で走行する電気自動車,の発電システム3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願発明は,@特表2010-532288号公報(甲3。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)と同一であるか,又はA引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条1項3号又は2項に該当し,特許を受けることができないものであって,本願は拒絶すべきものである,というものである。 (2) 引用発明本件審決が認定した引用発明は,以下のとおりである。 車両の内燃機関Vと,内燃機関Vで駆動する変速機入力シャフトGEWにアクスルギヤ装置(差動装置)で接続されたフロントアクスルと,2台の電気機械E1,E2で走行するハイブリッド車,の発電システム(3) 本願発明と引用発明との一致点 本件審決は,引用発明における「内燃機関V」,「変速機入力シャフトGEW」,「アクスルギヤ装置(差動装置)」,「フロントアクスル」,「2台の電気機械E1,E2」,「ハイブリッド車」は,本願発明における「エンジン」,「主動力伝達シャフト」,「差動ギア」,「発電用動力伝達シャフト」,「2個のローターに個別に接続して駆動する2台の発電機」,「電気自動車」にそれぞれ相当するとして,本願発明と引用発明は,次の点で一致すると認定した。 「車両のエンジンと,エンジンで駆動する主動力伝達シャフトに差動ギアで接続された発電用動力伝達シャフトと,2個のローターに個別に接続して駆動する2台の発電機で走行する電気自動車,の発電システム」である点4 取消事由(1) 引用発明の認定の誤り(取消事由1)(2) 新規性に係る判断の誤り(取消事由2)(3) 進歩性に係る判断の誤り(取消事由3) |
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当事者の主張
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について〔原告の主張〕 引用例の図1では,電気機械E1は,変速機入力シャフトGEWに接続されており,リアアクスルには接続されていない。また,図3及び【0021】は,2台の電気機械E1,E2がフロントアクスルに直に接続されている態様を開示するにすぎない。 そうすると,引用例には,電気機械E1がリアアクスルには接続されず,変速機入力シャフトGEWに直接接続されたもの,又は2台の電気機械E1,E2がアクスルギヤ装置で接続されたフロントアクスルのホイールに直に割り当てられたものが開示されているにすぎない。 したがって,本件審決における引用発明の認定は,誤りである。 〔被告の主張〕 (1) 本件審決は,引用例の記載(特に,図3に示された実施形態)に基づいて,引用発明を認定したものであり,その認定に誤りはない。 (2) 原告の主張について 原告は,引用例の図1では,電気機械E1が変速機入力シャフトGEWに接続されていて,リアアクスルには接続されていないから,引用発明の認定に誤りがある旨主張する。 しかし,本件審決は,引用例の図3の実施形態に基づいて引用発明を認定したのであり,図1の実施形態に基づいて引用発明を認定したものではないし,電気機械E1がリアアクスルに接続されることは,引用発明の内容として認定されてもいない。 また,そもそも,「2台の発電機」がリアアクスルに接続されることは,本願発明の発明特定事項ではない。 2 取消事由2(新規性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決における判断 本件審決は,引用発明の「フロントアクスル」が本願発明の「発電用動力伝達シャフト」に相当すると認定し,本願発明は引用発明と同一である旨判断した。 (2) しかし,引用発明の「フロントアクスル」は,以下のとおり,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」に相当するものではない。 ア 引用発明の「フロントアクスル」は,タイヤを含み,走行に直接用いられるものである。 これに対し,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」は,本願明細書において,この構成とは別に後輪車軸,前輪車軸が明記されていることから明らかなように,これらの車軸とは別に,発電用のために特別に設けられたものである。 したがって,引用発明の「フロントアクスル」と本願発明の「発電用動力伝達シャフト」とは,異なる構成である。 イ 引用例の図3に記載された実施形態では,電気機械E1,E2は,フロントアクスルに接続されることにより,フロントアクスルに対する動力の増強,エネルギの回生及び電気走行が可能となるのであり(引用例【0021】),この動作のために,電気機械E1,E2とタイヤとの間に,クラッチK1,K2を設け,その上で,クラッチK1,K2をつなげる又は切る等の複雑な動作を行うことが必要となる。すなわち,引用例の図3では,電気機械E1,E2は,いずれの駆動においても,フロントアクスルとのクラッチを介した接続が必須となり,この前提を排することは,引用発明の前提を覆すことになる。 したがって,引用発明の「フロントアクスル」と本願発明の「発電用動力伝達シャフト」とは,異なる構成である。 ウ 引用発明では,クラッチK1,K2の動作が必要であり,常時エネルギーの補給が可能であるとはいえない。 これに対し,本願発明の発電システムでは,フロントアクスル等の車軸とは別の「発電用動力伝達シャフト」を別途設け,2個のローターに個別に接続して駆動する2台の発電機で走行するものとしている。そして,その結果,本願発明は,@発電機の稼動に自動車の車軸を利用しないことから,車軸は車軸本来の機能を果たすことができるという効果,A限られた車両構成領域内で発電機を広域的に利用可能となり,発電機を2台以上設置することで発電が常時可能となるので,車両は走行中常時エネルギーの補給ができるという効果を奏する(本願明細書【0003】)。 したがって,引用発明の「フロントアクスル」と本願発明の「発電用動力伝達シャフト」とは,異なる構成である。 エ 引用発明における発電方式は,車両のブレーキを使用したときしか発電できないが,本願発明における発電用動力伝達シャフトは,主動力伝達シャフトが駆動していれば,たとえ車両にブレーキがかかっている状態でも発電ができる。 本願発明の上記効果は,本願発明の構成により初めて実現することができるものである。すなわち,制御方法による効果ではなく,有用な制御方法を実現できるシステム構成による効果である。 本願発明の上記効果に制御方法が関連するからといって,これが特許請求の範囲の記載に基づかないものであるとするのは,不当である。 (3) 小括 以上のとおり,引用発明の「フロントアクスル」は,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」には相当しない。 したがって,本願発明は,引用発明と同一ではないから,本件審決における新規性に係る判断は,誤りである。 〔被告の主張〕(1) 「発電用動力伝達シャフト」と「フロントアクスル」 本願明細書の記載(【0005】〜【0007】,【0011】等)によれば,本願発明における「発電用動力伝達シャフト」は,エンジンに接続された主動力伝達シャフトの動力を,差動ギアから続いて発電機に伝達して発電させる軸状の動力伝達部材として機能するものであると理解できる。 これに対し,引用発明における「フロントアクスル」は,内燃機関Vで駆動する変速機入力シャフトGEWにアクスルギヤ装置(差動装置)で接続されたものであって,内燃機関Vに接続された変速機入力シャフトGEWの動力を,アクスルギヤ装置(差動装置)から続いて電気機械E1,E2に伝達して発電させる軸状の動力伝達部材として機能するものである。 以上のとおり,本願発明における「発電用動力伝達シャフト」と引用発明における「フロントアクスル」は,いずれも,エンジンに接続されたシャフトの回転運動を,ギア装置(歯車)に続いて発電機に伝達する軸状の動力伝達部材として機能するものである。引用発明の「フロントアクスル」は,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」に相当する。 したがって,本件審決が,引用発明の「フロントアクスル」は,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」に相当すると認定したことに誤りはない。 (2) 原告の主張についてア 原告の主張(2)アについて 原告は,本願発明の発電用動力伝達シャフトは,車軸とは別に,発電用のために設けられたものであり,引用発明におけるフロントアクスルとは明確に異なる旨主張する。 しかし,本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1には,発電用動力伝達シャフトについて,「前記エンジンで駆動する主動力伝達シャフトに差動ギアで接続された」と特定されているにすぎず,車軸とは別に,発電用のために設けられたものとは特定されていないから,引用発明のようなフロントアクスルと兼用する態様を含み得る。 イ 原告の主張(2)イについて 原告は,引用例の図3では,電気機械E1,E2は,いずれの駆動においてもフロントアクスルとのクラッチを介した接続が必須となり,この前提を排することは,引用発明の前提を覆すことになる旨主張する。 しかし,図3からも明らかなように,電気機械E1,E2は,変速機入力シャフトGEWにアクスルギヤ装置(差動装置)とフロントアクスルを介して接続されており,クラッチを介在させて変速機入力シャフトGEWにつながるフロントアクスルに接続されているわけではない。また,引用例の記載(【0021】)やクラッチK1,K2の制御動作からみて,引用発明において,本願発明と同様の走行動作をする上では,クラッチK1,K2は必須のものではない。 ウ 原告の主張(2)ウについて 原告は,本願発明の発電システムは,フロントアクスル等のアクスルとは別の「発電用動力伝達シャフト」を別途設け,2個のローターに個別に接続して駆動する2台の発電機で走行するものとすることにより,その効果を奏する旨主張する。 しかし,本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1には,フロントアクスル等のアクスルとは別の「発電用動力伝達シャフト」を別途設け,2個のローターに個別に接続して駆動する2台の発電機で走行するものとしたことは,特定されていない。 したがって,原告の上記主張は,請求項1の記載に基づくものではない。 エ 原告の主張(2)エについて 原告は,引用発明における発電方式は,車両のブレーキを使用したときしか発電できないが,本願発明においては,発電用動力伝達シャフトは,主動力伝達シャフトが駆動していれば,たとえ車両にブレーキがかかっている状態であっても発電できるという効果を奏する旨主張する。 しかし,本願発明のシステム構成と引用発明の発電システムとの間には差異がない。また,原告が引用発明と相違すると主張する上記制御方法は,本願発明において特定されていない。 (3) 小括 以上のとおり,引用発明の「フロントアクスル」は,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」に相当する。 したがって,本願発明は,引用発明と同一であるから,本件審決における新規性に係る判断に誤りはない。 3 取消事由3(進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 引用発明の「フロントアクスル」と本願発明の「発電用動力伝達シャフト」とは,前記2〔原告の主張〕のとおり,異なる構成であるにもかかわらず,本件審決は,前者が後者に相当するとして,この点に係る相違点を看過した。 したがって,本件審決における進歩性に係る判断は,誤りである。 〔被告の主張〕 引用発明の「フロントアクスル」が,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」に相当するものであることは,前記2〔被告の主張〕のとおりである。 したがって,本件審決には,相違点の看過はなく,その進歩性に係る判断にも誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明について(1) 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本願明細書(甲1)には,おおむね次のような記載がある(図1については,別紙1の本願明細書図面目録を参照。)。 ア 技術分野 【0001】この発明は電気のみで走行する電気自動車においてエンジンの主動力伝達シャフトの駆動力と差動ギアを利用して発電機を稼働させる発電システムである。 イ 背景技術 【0003】先行技術として,特開平6-169505号公報がある。(特許文献1参照)当該技術は車両の車軸の回転力を利用して発電機を稼働する事により発電し車両の駆動に資すると主張している発明である。 1)該先行技術の課題発電機を自動車の可動部品である車軸の動力を利用することにより発電機を駆動させようと試みたが車軸の構成上車軸では発電機をスムーズに稼働する事が出来ないという事に有った。その原因は本来,車軸は自動車の車輪を駆動する事を目的に構成制作されているので発電機を稼働するのに適していない事に有った。 2)該課題を解決する手段発電機を稼働させる手段として自動車の車軸を利用するのをやめ車軸を駆動するエンジンの主動力伝達シャフトの駆動力の余力と,該余力を利用する手段として差動ギアを活用発電機駆動用動力伝達シャフトの駆動に役立て利用し発電機を稼働させる発電システムを創設する。 3)効果エンジンの主動力伝達シャフトの活用は,発電機の稼働に自動車の車軸を利用しない事から該車軸は自動車の車軸本来の機能を果たせるだけでなく差動ギアを利用する事により,限られた車両構成領域内で,発電機を広域的に利用可能となり発電機を2台設置可能となるので常時充発電が可能な事から車両走行時常時エネルギーの補給が可能となり現状のエネルギー補給のためエネルギー補給所での車両の一時停止に伴う走行時間のロスが無くなる利点は多大である。 【0004】さらに特開平11-332021号公報がある。(特許文献2参照)当該技術は特許文献2に記載のハイブリッド車両において,モーター機能と発電機能の両面を有する電動機を利用しているが,該電動機駆動用蓄電池が電力を消失した場合当該車両のエンジンの駆動力を利用して該電動機の発電機能を稼働それにより生じた電気を利用して該電動機が有する発電機能をモーター機能に転換して電動機を駆動して自動車の車軸の駆動に利用しようという発明である(例えば特許文献2参照)。即ち当該発明はハイブリド車両の車軸を可動させるのに付設してある電動機を利用し,該電動機駆動の為の電池が消耗した際,車両のエンジンの駆動を利用し,該電動機のモーター機能を一時停止,エンジンの動力伝達シャフトの稼働力を利用して該電動機が有している発電機能を利用して発電,該電動機のモーター機能の駆動に役立てようという発明である。 1)該発明の課題付属電動機の蓄電池が消耗した場合畜電池の消耗の都度稼働している電動機のモーター機能を一時停止,電動機の発電機機能機器をエンジンに接続し発電する必要がある。即ち電動機が有するモーター機能と発電機能を交互に用いる為高い出力を要する坂道走行時に於いて該電動機のモーター機能を利用中該電動機の蓄電池の電気が消耗した場合該電動機の発電機能が利用できないという不都合が生じる。詰まりこの場合該電動機が有するモーター機能と発電機能を同時に利用できない事にある。 2)課題の解決手段モーター機能を有する電動機を車軸駆動に専用に使用し,別途,発電機を駆動させる発電システムを構成し,車軸稼働専用電動機の可動用蓄電池に充電する方式とする。 3)効果電動機の蓄電池充電用発電機を設置する事により電動機は車軸駆動専用に使用でき,該電動機の蓄電池が消耗した場合発電機で常時予備蓄電池に給電可能となる。 即ち,ハイブリッド車両に付設の電動機は車軸のモーター機能に限定,発電機を別途設置すれば大きな出力を要する坂道で給油,給電等の施設が無い地域でも車両は連続走行可能となる。 ウ 発明が解決しようとする課題 【0005】現在,電気自動車が長距離走行する場合蓄電池を一定数量積載する事が必要になっている。しかし,蓄電池の積載数量は車両の構成から限度がある。 それを解決する為本件発明がなされた。ハイブリッド自動車は車輪をモーターとガソリン又は瓦斯エンジンで駆動させるため長時間走行の場合は途中一時停車してスタンドでエネルギーの補給をしなければならない。この時間的ロス及び手間は大きい,これを回避できれば時間的,経済的利益は計り知れない。更に本システムを搭載する車両が普及すれば国内に網の目のように張り巡らされているエネルギースタンドは不要になるだけではなく自動車に使用されているガソリンの大半が不要になる。 エ 課題を解決する手段 【0006】以上の課題を解決する為本発明は発電機を効率良く簡易に可動させるのに最適なシステムを提供する。これを実現する為車両のエンジンに接続してある主動力伝達シャフトと,差動ギアを活用して発電機可動用動力稼働シャフトと,接続,エンジンの動力を発電機のローターに伝達して発電機を稼働させる事を提案する。 1)エンジンの主動力伝達シャフトは車両が走行中常時回転しているので,発電機の稼働は必要に応じ何時でも可能となる。 2)エンジンの動力伝達シャフトの利用は車輪駆動の余力を利用するので主動力伝達シャフトの利用は車軸の駆動に支障をきたさない。 3)差動ギアはエンジンの主動力伝達シャフトの動力を,車両内で広域的に利用するべく2台の発電機の駆動を可能とする役割を果たす。 オ 発明の効果 【0007】本発明は2台の発電機を稼働させ一定量の電気を確保することが可能となり設置してある当初設置の蓄電池の電力が消耗した場合予備の蓄電池を使用してエンジンを駆動,該エンジンの駆動力を利用して発電機を稼働し消耗した蓄電池に電気を補充する事が可能となるので従来なされていたガソリン車及びハイブリッド車の給油,給電作業が必要無くなるだけでなく,是により自動車ユーザーが本発明の発電機稼働システムで走行する電気自動車を導入すれば経済的負担は大幅に軽減される。特に,原油輸入国である我が国にとり自動車用ガソリンの精製に要する原油量は相当多く,自動車産業が消費する石油量の節減は我国経済に計り知れない利益をもたらすだけでなく現在世界的に求められている地球温暖化瓦斯削減の必要性に大きく寄与する事にも成り得る。 カ 発明を実施する為の形態 【0008】図は,本実施形態にかかる発電機稼働に至る実施の概略を示す概略図である。本実施形態では発電機10を車両構成空間の最適スペ-スに設置,エンジンの主動力伝達シャフト3の動力は,車両の前輪13,後輪15の各車軸に伝達され車輪の駆動に使用されると共に,その余力を発電機の稼働に使用する為に発電機の稼働に利用するのに適した位置へ該シャフトの駆動力の余力を引き込むため発電機用動力伝達シャフト8を施設し発電機用差動ギア6,7に接続する。該差動ギアに接続されたシャフト8はエンジンの主動力伝達シャフト3の動力により駆動する。差動ギア6,7に接続されたシャフト8には発電機のローター9が接続されており発電機が稼働する。したがつてエンジンの主動力伝達シャフト3が駆動すれば必要に応じシャフト8が駆動これによりローター9が駆動,発電機10が稼働する。 以上の構成によりエンジン1,蓄電池2,エンジンの主動力伝達シャフト3,発電用シャフト8,発電機用差動ギア6,7,ローター9,発電機10の,合計8種類の部材の組み合わせにより発電機10を効率良く稼働させる事が出来る。 【0009】ハイブリット車は蓄電池を搭載して走行する電気自動車であるが補助動力としてガソリンエンジン又は瓦斯エンジンを使用する構成に成っているが長距離走行の場合エネルギーの補給に伴い一時停車の時間を必要とし車両が連続走行できないという課題が残されている。更に走行エリアに電気,ガソリン,瓦斯等の燃料補給基地が無い場合走行目的が達成できないという不具合が生じる。 【0010】本発明は前記課題を解決する為成されたものである。 【0011】【図1】1.蓄電池2のエネルギーでエンジン1を駆動,エンジン1の駆動力で主動力伝達シャフト3を駆動,主動力伝達シャフト3の駆動力を,1.号発電機用差動ギア6,または2号発電機用差動ギア7,を作動し,発電機動力伝達シャフト8を駆動,これによりローター9が駆動,発電機10が稼働する。2.-A蓄電池2のエネルギーでエンジン1を駆動,エンジン1の駆動力により主動力伝達シャフト3が駆動,前輪用差動ギア4を作動して該シャフト3の駆動力を前輪車軸12に伝達それに伴い前輪13が駆動する。2,-B 蓄電池2のエネルギーエンジン1を駆動エンジン1の駆動力により主動力伝達シャフト3が駆動,後輪用差動ギア5を作動して,該シャフト3の駆動力を後輪車軸14に伝達それに伴い後輪15が駆動する。 (2) 前記(1)の記載によれば,本願発明の特徴は,以下のとおりであると認められる。 ア 本願発明は,電気のみで走行する電気自動車において,エンジンの主動力伝達シャフトの駆動力と差動ギアを利用して発電機を稼働させる発電システムに関する(【0001】)。 電気自動車が長距離走行する場合,蓄電池を一定数量積載することが必要であるが,蓄電池の積載数量は車両の構成から限度があるという問題がある。また,ハイブリッド自動車は,車輪をモーターとガソリン又は瓦斯エンジンで駆動させるため,長時間走行の場合は途中一時停車して,スタンドでエネルギーの補給をしなければならないが,この時間的なロス及び手間は大きいという問題がある(【0005】)。 イ 本願発明は,前記アの問題を解決することを課題とするものであり,発電機を効率良く簡易に可動させるのに最適なシステムを提供することを目的とし,その手段として,車両のエンジンに接続してある主動力伝達シャフトに,差動ギアを活用して,発電用動力伝達シャフトを接続し,エンジンの動力を,2台の発電機のそれぞれのローターに伝達して,2台の発電機を稼働させるという構成を採用した(請求項1,【0006】)。 本願発明の構成では,@エンジンの主動力伝達シャフトは,車両が走行中常時回転しているので,発電機の稼働は必要に応じいつでも可能となる,Aエンジンの動力伝達シャフトの利用は車輪駆動の余力を利用するので,主動力伝達シャフトの利用は,車軸の駆動に支障をきたさない,B差動ギアは,エンジンの主動力伝達シャフトの動力を車両内で広域的に利用するべく2台の発電機の駆動を可能とする役割を果たす,ことになる(【0006】)。 ウ 本願発明は,2台の発電機を稼動させるので,一定量の電気を確保することが可能となり,当初設置の蓄電池の電力が消耗した場合,予備の蓄電池を使用してエンジンを駆動し,当該エンジンの駆動力を利用して発電機を稼働し,消耗した蓄電池に電気を補充することが可能となる。 したがって,従来なされていたガソリン車及びハイブリッド車の給油や給電作業が不要となるだけでなく,自動車のユーザーの経済的負担は大幅に軽減される(【0007】)。 2 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について(1) 引用例(甲3)の記載引用例(甲3)には,おおむね次のような記載がある(図1及び図3については,別紙2の引用例図面目録を参照。)。 ア 技術分野【0001】本発明は,少なくとも1つの電気機械を有するハイブリッド車に関し,その電気機械は,駆動段階時の,内燃機関に対する少なくとも補助駆動装置として設けられる。 イ 背景技術【0002】ハイブリッド車は通常,内燃機関および電気機械を装備し,内燃機関は通常,電気エネルギ蓄積装置,例えば,車両用バッテリを充電するか(シリアルハイブリッド),または駆動シャフトに機械的に連結されるか(パラレルハイブリッド)のいずれかのみであるか,あるいはその両方が可能である。この場合のハイブリッド車の燃料消費またはエネルギ消費を低減できるようにするために,電気機械は,車両がブレーキをかけられているときに発電機として使用され,したがって,電気エネルギ蓄積装置が充電される。つまり,電気機械は電動ブレーキとして機能し,エネルギを回生する。さらに,これは,ハイブリッド車のブレーキライナの摩耗を低減して,摩耗による交換を少なくし,ひいては保守コストを下げることができる。これに加えて,またはこれに代えて,モータとしての電気機械の少なくとも補助的な運転モードを提供することが可能である。その結果として,内燃機関でハイブリッド車を駆動するほかに,補助的に電気駆動する(動力を増強する)ことが可能である。さらに,例えば,排出制限がある場合に短い距離の間,電気機械を用いて電気のみで走行させることができる。 ウ 発明が解決しようとする課題【0003】特に,完全な電気走行だけでなく,相応する電気エネルギ量の回生および十分な動力増強にも,十分な容量の電気機械が必要である。しかし,この電気機械は,相応する設置空間を必要とし,車両の重量を増加させ,その結果,その運動性能にも影響を及ぼす。 【0004】本発明の目的は,これを改善することである。 エ 課題を解決するための手段【0006】後部搭載型内燃機関,電気エネルギ蓄積装置,および少なくとも1つの電気機械を有し,内燃機関がリアアクスルを駆動するハイブリッド車では,一般的に大きくて重い電気機械をリアアクスルから離して,特に,フロントアクスルの領域に設けることは多数の利点がある。これは,重い電気機械が内燃機関および変速機の重量をさらに増加させて,リアアクスルにかかる負荷をもたらすといったことがないことにより,ハイブリッド車の重量配分をよりバランスのとれたものにする。さらに,増設用の設置空間が得られ,そのほとんどが内燃機関および変速機によってすでに占有された,リアアクスルの領域の内部空間に大容積の電気機械をさらに収容する必要がない。したがって,運動性能を最適化し,ハイブリッド車の設置空間を利用するために,電気機械のそれぞれの配置を個々に選択することができる。さらに,本発明は,少なくともフロントアクスルの電気駆動装置をより簡単に実装できることと,電気機械を離して配置するのに使用される機械部品,例えば,シャフトなどを,内燃機関を用いた相応する四輪駆動用に使用することが可能になることとにより,ハイブリッド車のモジュール式四輪駆動のための基本部を提供する。最後に,本発明は,後部搭載型内燃機関を備えたハイブリッド車において,ホイール負荷が比較的大きいためにリアアクスルよりも有利なフロントアクスルでエネルギを回生するオプションを提供する。 【0009】本発明の第1の好ましい実施形態では,少なくとも1つの電気機械が,変速機から離れて変速機入力シャフトに設けられる。この場合,重い電気機械が非被駆動アクスルの方に移ったために,ハイブリッド車の重量配分が最適化される。内燃機関は,停止状態中かまたは走行中のいずれかで電気機械を用いて有利に始動することができる。さらに,特に変速機入力シャフトの長さを相応した設定にすることで,きわめて簡単な方法で,ハイブリッド車の望ましくかつ利用可能な設置空間に電気機械を配置することができる。リアアクスルを介してエネルギを回生することができ,リアアクスルにつながった変速機入力シャフトを介して動力を増強し,電気で走行することができる。さらに,電気機械および変速機入力シャフトを用いて,内燃機関の負荷点をシフトすることができる。 【0010】これに関連して,この場合に,少なくとも任意選択的に(例えば,内燃機関を用いた)従来の全輪駆動を有利な形で実施できる。このために,変速機入力シャフトは,フロントアクスルの領域まで電気機械を越えて延長され,クラッチおよびアクスルギヤ装置を介してフロントアクスルに機械的に連結される。その結果として,変速機が(「直接」,すなわち,増速も減速もなく,したがってギヤ損失なしに)つながると,内燃機関によりフロントアクスルを駆動することができる。この場合に,回生,動力増強,および電気走行を行うために,アクスルギヤ装置の効率レベルを考慮して,リアアクスルか,またはリアアクスルおよびフロントアクスルの両方かのいずれかを使用することができる。 【0011】独立した電気機械がそれぞれのクラッチを介してフロントアクセルの各ホイールに割り当てられる場合,さらなる利点が得られる。今度は,変速機入力シャフトへの連結は,フロントアクスルギヤ装置(差動装置)を介して形成される。その結果として,フロントアクスルにおいて電気による「可変トルク配分」(ホイールに限定したトルクの分配によって車両運動性能制御ができること)が可能になり,その場合に,差動装置において基本ロックトルクを調整することができる。 オ 発明を実施するための形態【0018】図1〜3は,本発明の第1の実施形態の3つの異なるバージョンを示している。この実施形態では,少なくとも1つの電気機械E1,E2が,内燃機関Vの変速機入力シャフトGEWに必ず設けられている。内燃機関Vは,車両の停止状態からと走行中の両方で(例えば,自由回転や電気走行の段階後に)電気機械E1,E2によって始動される。したがって,内燃機関Vが始動する場合に,独立した電気機械が内燃機関V自体に付いている必要はなく,これは,ハイブリッド車内の設置空間と重量配分の改善とに関して利点をもたらす。 【0019】図1は,内燃機関Vによって駆動されるリアアクスルに電気機械E1を単に機械連結しただけの,構造的に特に単純な問題解決手段を示している。これはすでに完全なハイブリッド機能をもたらしている。したがって,変速機入力シャフトGEWおよび電気機械E1を用いて,内燃機関Vの負荷点をシフトさせることができる。電気モータとして駆動される,変速機入力シャフトGEWにつながった電気機械E1によって動力を増強でき,発電機として動作する電気機械E1によってリアアクスルからエネルギを回生することができる。リアアクスルにつながった変速機Gを電気機械E1が使用することで,電気走行も可能である。これに関連して,電気機械E1と変速機Gとの間の変速機入力シャフトGEWにクラッチを設けることもさらに可能である。アイドリング通電をなくして省力化し,例えば,低速度などの特定の動作範囲にわたって良好な調整を行うために,前記クラッチは,電気機械E1の切り離しを可能にする。 【0021】本発明の第1の実施形態の異なるバージョンが図3で示されている。 この場合,2つの電気機械E1,E2が設けられ,フロントアクスルのそれぞれのホイールに割り当てられている。アクスルギヤ装置の効率レベルを考慮して,リアアクスルかまたは両アクスルのいずれかを介した動力の増強,エネルギの回生,および電気走行が可能である。さらに,フロントアクスルにおいて電気による「可変トルク配分」を提供することができ,その場合に,アクスルギヤ装置(差動装置)において基本ロックトルクを設定することができる。車両が停止した状態で内燃機関Vを始動させるために,クラッチK1,K2が切られ,クラッチK0がつながって,内燃機関Vが2つの電気機械E1,E2で牽引始動される。電気走行の場合,クラッチK1,K2がつながり,クラッチK0が切られる。次に,内燃機関Vを始動させるために,クラッチK0がつながり,それと同時に,電気機械E1,E2が始動して,内燃機関V用の駆動トルク/始動トルクを発生させる。 (2) 前記(1)の記載によれば,引用例には以下の点が記載されているものと認められる。 ア 引用発明は,駆動段階時における内燃機関に対する補助駆動装置としての機能を果たす少なくとも一つの電気機械を有するハイブリッド車に関する(【0001】)。 イ ハイブリッド車では,完全な電気走行だけでなく,相応する電気エネルギー量の回生および十分な動力増強にも,十分な容量の電気機械が必要であるが,この電気機械は,相応する設置空間を必要とし,車両の重量を増加させ,その結果,その運動性能にも影響を及ぼすという問題がある(【0002】,【0003】)。 ウ 引用発明は,ハイブリッド車における前記イの問題を改善することを目的とし(【0004】),後部搭載型内燃機関,電気エネルギー蓄積装置(バッテリ),及び少なくとも一つの電気機械を有し,内燃機関がリアアクスルを駆動するハイブリッド車であって,電気機械をリアアクスルから離して,フロントアクスルの領域に設けるという構成である(【0006】)。 引用発明では,電気機械E1,E2が,内燃機関Vで駆動する変速機入力シャフトGEWとフロントアクスルギヤ装置(差動装置)を介して連結されたフロントアクスルのそれぞれのホイールに割り当てられている(【0009】,【0010】,【0021】,図3)。 エ 引用発明では,アクスルギヤ装置の効率レベルを考慮して,リアアクスル又は両アクスルのいずれかを介した動力の増強,エネルギーの回生及び電気走行が可能である(【0021】)。 オ 引用発明においては,運動性能を最適化し,ハイブリッド車の設置空間を利用するために,電気機械のそれぞれの配置を個々に選択することができる(【0006】,【0009】)。 (3) 以上によれば,引用例には,「車両の内燃機関Vと,内燃機関Vで駆動する変速機入力シャフトGEWにアクスルギヤ装置(差動装置)で接続されたフロントアクスルと,2台の電気機械E1,E2で走行するハイブリッド車,の発電システム」が記載されているものと認められる。 (4) 原告の主張について原告は,引用例の図1では,電気機械E1は,変速機入力シャフトGEWに接続されており,リアアクスルには接続されていない,図3は,2台の電気機械E1,E2がフロントアクスルに直に接続されている態様を開示するにすぎないなどとして,本件審決における引用発明の認定には誤りがある旨主張する。 しかし,そもそも,本件審決は,引用発明の内容として,電気機械E1,E2がリアアクスルに接続されることを認定したものではないし,また,電気機械E1,E2がフロントアクスルに接続されない態様を認定したものでもない。 (5) 以上によれば,本件審決における引用発明の認定に誤りはなく,原告の取消事由1に係る主張は理由がない。 3 取消事由2(新規性に係る判断の誤り)について(1) 本願発明の新規性 ア 引用発明の「内燃機関V」,「変速機入力シャフトGEW」,「アクスルギヤ(差動装置)」は,その構成及び機能から,本願発明における「エンジン」,「主動力伝達シャフト」,「差動ギア」にそれぞれ相当する。 イ 本願発明の「電気自動車」がハイブリッド車を含むことは明らかであるから(本願明細書【0005】,【0007】,【0009】,【0010】),引用発明の「ハイブリッド車」は,本願発明の「電気自動車」に相当する。 ウ 引用発明の「電気機械E1」及び「電気機械E2」は,発電機として動作するものであるから(引用例【0019】,【0021】),引用発明の「2台の電気機械E1,E2」は,本願発明の「2台の発電機」に相当し,引用発明のハイブリッド車は,「発電システム」を備えている。 エ ハイブリッド車における発電機において,動力を伝達するためのシャフトをローターに接続して発電機を駆動することは,技術常識であるから(乙1【0028】,【0029】,図3),引用発明の「電気機械E1」,「電気機械E2」においても,それぞれローターに接続して駆動することは,当業者にとって,明らかであり,引用例に記載されているに等しい事項であるといえる。 したがって,引用発明の「2台の電気機械E1,E2」は,本願発明の「2個のローターに個別に接続して駆動する2台の発電機」に相当する。 オ 本願発明の「発電用動力伝達シャフト」は,エンジンで駆動する主動力伝達シャフトに差動ギアを介して接続されたシャフトであって,主動力伝達シャフトと発電機との間で動力を伝達するものである(請求項1,【0006】,【0007】)。 引用発明における「フロントアクスル」は,内燃機関Vで駆動する変速機入力シャフトGEWにアクスルギヤ装置(差動装置)を介して接続されたシャフトであって,変速機入力シャフトGEWと電気機械E1,E2との間で動力を伝達するものであるから,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」に相当する。 カ そうすると,本願発明と引用発明に差異はないから,本願発明は引用発明と同一であると認められる。 したがって,本願発明は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものである。 (2) 原告の主張について ア 原告は,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」は,車軸とは別に,発電用のために特別に設けられたものであるから,引用発明の「フロントアクスル」と本願発明の「発電用動力伝達シャフト」とは,異なる構成である旨主張する。 しかし,本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1には,「エンジンで駆動する主動力伝達シャフトに差動ギアで接続された発電用動力伝達シャフト」との記載があるのみであり,「発電用動力伝達シャフト」が車軸とは別に設けられたシャフトであることは特定されていない。 また,本願明細書の記載によれば,本願発明は,前記1(2)のとおり,電気自動車において,エンジンの主動力伝達シャフトの駆動力と差動ギアを利用して発電機を稼働させる発電システムに関するものであり,@電気自動車が長距離走行する場合,蓄電池を一定数量積載することが必要であるが,蓄電池の積載数量は車両の構成から限度があるという問題,Aハイブリッド自動車は,車輪をモーターとガソリン又は瓦斯エンジンで駆動させるため,長時間走行の場合は途中一時停車して,スタンドでエネルギーの補給をしなければならないが,この時間的なロス及び手間は大きいという問題を解決することを課題とし,その手段として,車両のエンジンに接続してある主動力伝達シャフトに,差動ギアを活用して,発電用動力伝達シャフトを接続し,エンジンの動力を,2台の発電機のそれぞれのローターに伝達して,2台の発電機を稼働させるという構成を採用したというものであり,2台の発電機を稼動させるので,一定量の電気を確保することが可能となり,ガソリン車及びハイブリッド車の給油や給電作業が不要となるだけでなく,自動車のユーザーの経済的負担が軽減されるという効果を奏するものである。以上の,本願発明の課題,解決手段及び作用効果に照らせば,本願発明において,「発電用動力伝達シャフト」が車軸とは別に設けられたシャフトであることを要するとはいえない。 したがって,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」は,車軸とは別に設けられたシャフトに限られず,車軸を兼ねる態様のものもこれに含まれるものと解される。 本願明細書の【0003】には「発電機を稼働させる手段として自動車の車軸を利用するのをやめ」,「発電機の稼働に自動車の車軸を利用しない事から」などという記載があり,また,実施形態として,車軸とは別に「発電用動力伝達シャフト」を設ける態様が記載されているが(【0008】,【0011】,図1),【0003】は,先行技術文献(特許文献1)に記載された技術の課題,当該課題を解決する手段,効果に関する記載にすぎず,また,実施形態は,本願発明の一つの実施形態を示すものにすぎない。したがって,これらの記載があるからといって,直ちに,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」が車軸とは別に設けられたシャフトであることを要するものということはできない。かえって,本願発明に係る特許請求の範囲の記載及び本願明細書の発明の詳細な説明の全体から把握される本願発明の特徴に照らせば,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」には,車軸とは別に設けられたシャフトに限られず,車軸を兼ねる態様のシャフトも含まれるものと解されることは,上記のとおりである。 以上によれば,原告の上記主張は,理由がない。 イ 原告は,引用例の図3では,電気機械E1,E2は,いずれの駆動においても,フロントアクスルとのクラッチを介した接続が必須であって,引用発明の「フロントアクスル」と本願発明の「発電用動力伝達シャフト」とは,異なる構成である旨主張する。 しかし,引用例の図3において,クラッチを介してフロントアクスルと接続されるのは,ホイールであって,電気機械E1,E2ではない。電気機械E1,E2は,フロントアクスルとクラッチを介さずに直接接続され,変速機入力シャフトGEWからアクスルギヤ装置(差動装置)を介してフロントアクスルに伝達された動力が伝達されるように構成されている。クラッチは,ホイールへの動力伝達のために設けられたものであり,変速機入力シャフトGEWと電気機械E1,E2との間の動力伝達のために設けられたものではない。 また,引用例に記載された発明において,電気機械の接続において,フロントアクスルとクラッチを介した接続が必須ではないことは,図3とは別の実施例に係る図5に,電気機械E1,E2が,フロントアクスル及びホイールと,クラッチを介さずに直接接続された形態が開示されていることからも明らかであるといえる。 したがって,引用発明における電気機械E1,E2の接続において,フロントアクスルとのクラッチを介した接続が必須である旨の原告の上記主張は,理由がない。 加えて,本願発明の特許請求の範囲の請求項1には,「発電用動力伝達シャフト」と発電機との接続について,クラッチを介した接続であるか否かは何ら特定されていないから,クラッチを介した接続であることを理由に,引用発明の「フロントアクスル」が本願発明の「発電用動力伝達シャフト」とは異なる構成であるとする原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,失当である。 以上によれば,原告の上記主張は,理由がない。 ウ 原告は,本願発明は,車軸とは別の「発電用動力伝達シャフト」を別途設け,2個のローターに個別に接続して駆動する2台の発電機で走行するという構成により,その作用効果を奏するものであるから,引用発明の「フロントアクスル」と本願発明の「発電用動力伝達シャフト」とは,異なる構成である旨主張する。 しかし,本願発明の「発電用動力伝達シャフト」には,車軸とは別に設けられたシャフトに限られず,車軸を兼ねる態様のものも含まれるものと解されることは,前記アのとおりである。 したがって,本願発明が車軸とは別の「発電用動力伝達シャフト」を別途設けるものであることを前提とする原告の上記主張は,理由がない。 エ 原告は,引用発明における発電方式は,車両のブレーキを使用したときしか発電できないが,本願発明は,その構成により,主動力伝達シャフトが駆動していれば,たとえ車両にブレーキがかかっている状態でも発電ができるという効果を奏する旨主張する。 しかし,本願発明の特許請求の範囲の請求項1は,前記第2の2記載のとおりであり,原告が引用発明にはない本願発明の効果であるとして主張する上記効果を奏するための構成が特定されていないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,失当である。 したがって,原告の上記主張は,理由がない。 (3) 小括 以上によれば,本件審決が本願発明は引用発明と同一であって,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるとした点に誤りはなく,原告の取消事由2に係る主張は,理由がない。 4 結論 以上のとおり,本願発明は,引用発明と同一であって,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶すべきものであるとした本件審決の判断に誤りはない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 柵木澄子 |
裁判官 | 鈴木わかな |