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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成26ネ10124 特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
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平成26ワ17390 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成27ネ10080 特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
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事件 平成 26年 (ワ) 25013号 特許権侵害差止等請求事件

原告X
同訴訟代理人弁護士 大毅 吉村祐一 石田学
同訴訟代理人弁理士 廣瀬隆行
同 補佐人弁理士龍神嘉彦 関大祐 谷口博
被告興和株式会社
被告興和創薬株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 北原潤一 米山朋宏
同 補佐人弁理士中嶋俊夫
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/01/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告らは,別紙物件目録記載1,2及び3の各製品(以下「被告製品」とい い,個別の製品をその番号に従い「被告製品1」などという。)を製造,販売 してはならない。
2 被告らは,被告製品のくすりのしおりについて,「この薬の作用と効果につ いて」及び「用法・用量(この薬の使い方)」の項目にメニエール病の記載を してはならない。
3 被告らは,被告製品に共通する添付文書及びインタビューフォームにおいて, メニエール病改善剤としての記載を削除せよ。
4 被告らは,別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイト(以下「本件ウェブサ イト」という。)において,別紙文書目録記載の文書(以下「本件文書」とい う。)を記載してはならない。
5 被告らは,原告に対し,連帯して1億1000万円及びこれに対する平成2 6年10月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,発明の名称を「メニエール病治療薬」とする特許権を有する原告が, 被告らによる被告製品の製造販売が上記特許権の侵害に当たると主張して,被 告らに対し,@特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造等の差 止め及び侵害予防に必要な行為を,A民法709条及び特許法102条2項 又は3項に基づき,損害賠償金の一部である1億1000万円及びこれに対す る不法行為の後(訴状送達日の翌日)である平成26年10月3日から支払済 みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案であ る。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実) ? 当事者 ア 原告は,メニエール病を中心とした耳科学の研究者である。
イ 被告興和株式会社は,医薬品・医療用機器・環境・省エネ関連製品等を 製造,販売する株式会社である。被告興和創薬株式会社は,医療用医薬 品・医療消耗品を販売する株式会社であり,被告興和株式会社の完全子会 社である。
? 原告の特許権 ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許出願の願書 に添付された明細書を「本件明細書」という。)を有している。
特許番号 第4778108号 発明の名称 メニエール病治療薬 出願日 平成22年11月16日(特願2010-255729 (特願2008-231796の分割)) 原出願日 平成20年9月10日 優先日 平成20年3月21日(特願2008-73884)(以 下「本件優先日」という。) 登録日 平成23年7月8日 イ 本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりであ る(以下,この発明を「本件発明」といい,その特許を「本件特許」とい う。。
) 「成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のイソソルビトールを 経口投与されるように用いられる(ただし,イソソルビトールに対し1〜 30質量%の多糖類を,併せて経口投与する場合を除く)ことを特徴とす る,イソソルビトールを含有するメニエール病治療薬。」 ウ 本件発明は,次の構成要件に分説される。
A 成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のイソソルビトール を経口投与されるように用いられる(以下「構成要件A」という。) B (ただし,イソソルビトールに対し1〜30質量%の多糖類を,併せ て経口投与する場合を除く)ことを特徴とする, C イソソルビトールを含有するメニエール病治療薬。
? 被告製品 ア 被告らは,メニエール病改善剤(メニエール病治療薬)としての機能を 有する薬剤として,昭和43年6月1日から被告製品1を,平成20年7 月1日から被告製品2を,平成22年3月19日から被告製品3をそれぞ れ製造販売している。(甲5の1・2) イ 被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおけるメニエール病に ついての用法用量の記載は,「1日体重当り1.5〜2.0mL/kgを 標準用量とし,通常成人1日量90〜120mLを毎食後3回に分けて経 口投与する。症状により適宜増減する。」というものである。(甲3,6) 被告製品1のくすりのしおりにおける用法用量の記載は上記添付文書等 と同様であり,同2及び3のそれにおける用法用量の記載は,これに続け て,1包中のイソソルビド(イソソルビトール)含有量を説明するもので ある。(甲4の1〜3) ウ 被告らは,「めまいプロ -めまい治療に携わる皆さまへ-」と題する 本件ウェブサイト上で,メニエール病に対する治療方法として,膜迷路の 水腫軽減を目的にイソソルビド製剤を投与することに加えて,「方法は9 0〜120mL/日,分3で開始し,めまい発作の状況により適宜増減し ます。」と記載し,これに続けて本件文書の文書内容を記載している。(甲 7) エ 被告製品は,いずれも1mL当たり0.7gのイソソルビトールを含有 している。
2 争点? 被告製品における構成要件Aの充足性(なお,被告らはその余の構成要件 の充足性を争っていない。)? 本件特許についての無効理由の有無(乙3文献等の意義は後記のとおり) ア 乙3文献に基づく新規性の欠如 イ 乙11文献に基づく新規性の欠如 ウ 乙12文献に基づく新規性の欠如 エ 乙13文献に基づく新規性の欠如 オ 乙14文献に基づく新規性の欠如 カ 乙28文献に基づく新規性の欠如 キ 乙29文献に基づく新規性の欠如 ク 被告製品1の公然実施による新規性の欠如 ケ サポート要件違反又は実施可能要件違反? 損害額3 争点に関する当事者の主張? 争点?(被告製品における構成要件Aの充足性)について (原告の主張) ア 構成要件Aでは,イソソルビトールの投与量について「成人1日あたり 0.15〜0.75g/kg体重」とされているのみであるから,この投 与量を,投与開始時において設定される用量である,標準用量であるなど と限定的に解釈すべきでない。したがって,漸減の過程であろうと,上記 の範囲でイソソルビトールを投与すれば本件特許権の侵害となる。
イ 被告製品の添付文書では,用量が通常成人1日量90〜120mLとさ とおり,いずれも構成要件Aを充足する。
被告らは,本件ウェブサイトに本件文書を記載し,イソバイド(1m L当たり0.7gのイソソルビトールが含まれる。)を1日当たり60 mL又は30mL投与するものとして被告製品の販売を促進している。
次に,被告製品の添付文書及びインタビューフォームには,主要文献 又は引用文献として主に70mL/日投与した論文及び50〜140m L/日投与した論文が挙げられており,被告らのMR(医薬情報担当者 をいう。以下同じ。)は,これらを医療関係者に配布して,1日70m Lや60mLの投与を推奨している。
そうすると,被告製品1は,@1日当たり70mL,A1日当たり6 0mL,又は,B1日当たり30mL投与した場合であって,メニエー ル病患者の体重がそれぞれ@64.4kg〜322kg,A56kg〜 280kg,又は,B28kg〜140kgのときは,構成要件A所定 の投与量となる。
被告製品2は20mL分包品,被告製品3は23mL分包品であり, 分包品は1回当たりの使用量を包装したものをいうから,被告らは,1 回当たりの投与量として20mL又は23mLを想定している。
これを1包ずつ1日3回服用した場合,1日当たりの投与量は,被告 製品2で42g(20g×70%×3回),被告製品3で48.3g (23g×70%×3回)となるから,被告製品2の場合は体重56k g〜280kgの患者において,被告製品3の場合は体重64.4kg 〜322kgの患者において,構成要件A所定の投与量となる。
これに対し,被告らは後記のとおり主張するが,被告製品2及び3の イソソルビトール含有量に対応する体重の成人はごくわずかであり,1 回に2包を服用するというのも不合理であるから,被告らの主張は信用 できない。
(被告らの主張)ア 本件明細書における解決すべき課題や本件発明の効果についての記載に 照らすと,本件発明の本質は,投与量を削減することが確実な治療効果発 現に必須であることを発見し,その治療薬を開発したこと,すなわち,イ ソソルビトール製剤の標準的な投与量(患者の個人差や病状の重篤度など に合わせて医師の判断で適宜調整する前の出発点として設定される投与量) を従来のイソソルビトール製剤の標準的な投与量より削減することにある と理解することができる。
したがって,構成要件Aは,「メニエール病の治療効果を確実に発現さ せることを目的として設定される標準用量として成人1日当たり0.15 〜0.75g/kg体重のイソソルビトールを経口投与されるように用い られる」と解釈すべきである。
イ 被告製品の添付文書,くすりのしおり及びインタビューフォームにおけ る用法用量の記載は,1日体重当たり1.5〜2.0mL/kgを標準用 量とし,通常成人1日量90〜120mLを毎食後3回に分けて経口投与 するとともに症状により適宜増減するというものである。そうすると,被 告製品は,分包品である被告製品2及び3を含め,患者の体重に応じて, 「メニエール病の治療効果を確実に発現させることを目的として設定され る標準用量として成人1日当たり1.05〜1.4g/kg体重のイソソ ルビトールを経口投与されるように用いられる」ものである。被告らは, こうした薬事法の承認を受けた用法用量と異なるそれを備えるものとして 被告製品を製造販売していない。
したがって,被告製品が構成要件Aを充足しないことは明らかである。
? 争点?(本件特許についての無効理由の有無)について (被告らの主張) 仮に,構成要件Aを「成人1日当たり0.15〜0.75g/kg体重の イソソルビトールを経口投与されるように用いられる」と解釈する場合は, 後記ア〜キの各公知文献に本件発明が開示されており(特許法29条1項3 号),後記クのとおり被告製品1として本件発明が公然実施されている(同 項2号)から,本件発明は新規性がない。これに加え,後記ケのとおり,本 件特許はサポート要件又は実施可能要件に違反する(同法36条6項1号, 4項1号)。したがって,原告は本件特許権を行使することができない(同 法104条の3第1項)。
ア 乙3文献に基づく新規性の欠如 本件優先日前の昭和62年に頒布された刊行物である「薬理と治療 V ol.15 No.11 Nov.’87」(547〜551頁)の「メニ エール病に対するイソソルビドのDosisについて―イソソルビドの効 果―」と題する文献(以下「乙3文献」という。)には,体重60kgの メニエール病の成人患者に対して1日当たり0.525g/kg体重(4 5mL相当)〜0.7g/kg体重(60mL相当)のイソソルビトール を経口投与することが有効であること(並びに,イソソルビトールに対し 1〜30質量%の多糖類を併せて経口投与する場合を除くこと及びイソソ ルビトールを含有するメニエール病治療薬であること。以下イ〜キにおい て同じ。)が示されているから,本件発明が開示されている。
イ 乙11文献に基づく新規性の欠如 本件優先日前の平成5年に頒布された刊行物である「耳鼻臨床86:4」 (499〜507頁)の「メニエール病に対するイソソルビド長期治療」 と題する文献(以下「乙11文献」という。)には,100mL中70g のイソソルビトールを含むイソソルビドを30mL,45mL又は60m L投与した症例において,回転性めまい発作がコントロールされている症 例が見られたことが記載されている。これは,体重60kgのメニエール 病の成人患者に対して1日当たり0.35〜0.7g/kg体重のイソソ ルビトールを経口投与することが有効であることを意味するから,本件発 明が開示されている。
ウ 乙12文献に基づく新規性の欠如 本件優先日前の平成3年に頒布された刊行物である「厚生省特定疾患前 庭機能異常調査研究班平成二年度研究報告書」と題する文献(以下「乙1 2文献」という。)には,体重60kgを標準として70w/v%のイソ ソルビドを含む水溶液を1日当たり60〜90mL投与することが普通で ある旨の記載がある。このうち,投与量60mLは,体重60kgのメニ エール病の成人患者についてみるとイソソルビトール0.7g/kg体重 分に当たるから,本件発明が開示されている。
エ 乙13文献に基づく新規性の欠如 本件優先日前の平成4年に頒布された刊行物である「Equilibrium Res Vol.51(2)」(260〜264頁)の「メニエール病の保存的治療に関す る検討─イソソルビドの使用経験─」と題する文献(以下「乙13文献」 という。)には,症状の推移により,イソソルビドの70w/v%濃度溶 液を当初投与量から60mL,45mL,30mLと順次減量又は継続投 与した場合において発作が予防されている症例が記載されている。これは, 体重60kgのメニエール病の成人患者に対して1日当たり0.35〜0. 7g/kg体重のイソソルビトールを経口投与することが有効であること を意味するから,本件発明が開示されている。
オ 乙14文献に基づく新規性の欠如 本件優先日前の昭和62年に頒布された刊行物である「薬理と治療 V ol.15 No.7 Jul.’87」(229〜244頁)の「Iso sorbideのメニエール病に対する用量検討試験」と題する文献(以 下「乙14文献」という。)には,1mL中に700mgのイソソルビト ールを含む内用液剤を1日3回,合計60mL又は30mL継続投与した 場合において,有用性が認められる旨記載されている。これは,体重60 kgのメニエール病の成人患者に対して1日当たり0.35〜0.7g/ kg体重のイソソルビトールを経口投与することが有効であることを意味 するから,本件発明が開示されている。
カ 乙28文献に基づく新規性の欠如 本件優先日前の平成5年に頒布された刊行物である「耳鼻臨床86:9」 (1251〜1255頁)の「イソソルビドと内リンパ水腫性難聴 -短 期的聴力改善効果について-」と題する文献(以下「乙28文献」とい う。)には,イソソルビド,すなわち被告製品1を初期投与として1日1 20mL,3週目から1日投与量を90mL,75mL,45mLと徐々 に減量投与した場合において,聴力改善効果が得られた例があった旨記載 されている。これは,体重60kgのメニエール病の成人患者に対して1 日当たり0.525g/kg体重のイソソルビトールを経口投与すること が有効であることを意味するから,本件発明が開示されている。
キ 乙29文献に基づく新規性の欠如 本件優先日前の平成7年に発表された「Acta Otolaryngol (stockh) 19 95; Suppl 519」(223〜226頁)の「Effect of Isosorbide on Hear ing Loss due to Endolymphatic Hydrops」と題する文献(以下「乙29 文献」という。)には,70%イソソルビド溶液を初期投与として1回4 0mLを1日3回,3週目から1回投与量を30mL,25mL,15m Lと徐々に減量した場合において聴力改善効果が得られた例があった旨記 載されている。これは,体重60kgのメニエール病の成人患者に対して 1日当たり0.525g/kg体重のイソソルビトールを経口投与するこ とが有効であることを意味するから,本件発明が開示されている。
ク 被告製品1の公然実施による新規性の欠如 被告製品1は本件優先日前から製造販売されてきたところ,添付文書に 記載されている「適宜増減」という語は,標準用量の2分の1から2倍程 度までをいうものと考えられているから,標準用量の2分の1である1日 体重当たり0.75〜1.0mL/kgが含まれているといえる。そうす ると,この範囲は,1日当たり0.525〜0.7g/kg体重を意味す るから,構成要件Aを充足する。したがって,被告製品1は,本件発明を 公然実施している。
ケ サポート要件違反又は実施可能要件違反の有無 本件明細書の発明の詳細な説明には,多糖類を併用せずに成人1日当た り0.15〜0.75g/kg体重のイソソルビトールを経口投与した実 施例が記載されていないところ,当業者において,モルモットに対する実 施例からヒトに対する効果を十分に予測することも,多糖類を併用した実 施例から併用しない場合の効果及びイソソルビトールの投与量を半量にし た実施例から半量未満の場合の効果を予測することもできない。したがっ て,本件発明は本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとい えないし,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は当業者が本件発明を実 施することができる程度に明確かつ十分な記載といえない。
(原告の主張)ア 乙3文献に基づく新規性の欠如 乙3文献は,イソソルビトールの用量について信憑性のあるデータを開 示していないので,当業者が所定の効果を上げることができる程度まで具 体的,客観的なものになっておらず,メニエール病の治療薬の発明として 未完成であるから,本件発明が乙3文献において開示されているとはいえ ない。
イ 乙11文献に基づく新規性の欠如 乙11文献は,メニエール病に対して有効な投与量であることが確認で きるデータが何ら存在せず,発明として未完成であるから,本件発明が乙 11文献において開示されているとはいえない。
ウ 乙12文献に基づく新規性の欠如 1日3回に分けて合計60〜90mL投与することが普通である旨の記 載の根拠が何らなく,本件発明が実質的に開示されているとはいえない。
エ 乙13文献に基づく新規性の欠如 乙13文献には,1日当たり90〜120mLの投与の有効率が記載さ れており,少量投与の有効性が確認できるデータはなく,本件発明が開示 されているとはいえない。
オ 乙14文献に基づく新規性の欠如 乙14文献は,60mL又は30mLを投与した場合の効果が90mL 投与した場合の効果を有意に下回っていると考察しており,本件発明が開 示されているとはいえない。
カ 乙28文献に基づく新規性の欠如 乙28文献は薬剤の有効性を評価するものでなく,引用例として不適切 である上,メニエール病の治療薬として有効性が認められる用量として記 載されているものではないから,本件発明が開示されているとはいえない。
キ 乙29文献に基づく新規性の欠如 上記カと同様に,乙29文献に本件発明が開示されているとはいえない。
ク 被告製品1の公然実施による新規性の欠如 「適宜増減」という語が被告らの主張のとおりの意味であることの具体 的な裏付けはないから,被告らの主張は失当である。
ケ サポート要件違反又は実施可能要件違反 イソソルビトールの動物実験における2.8g/kgがヒトにおける1 日体重当たり1.5〜2.0mL/kgに相当することは技術常識である。
多糖類はメニエール病を改善する効果を有しないから,これを併用した実 施例から併用しない場合の効果も開示されているといえるし,イソソルビ トールと同じ糖アルコールであるエリスリトールにおいて投与量を半量未 満にした例があるから,イソソルビトールの用量を半量未満にした場合の 効果も開示しているといえる。したがって,被告らの主張は失当である。
? 争点?(損害額)について (原告の主張) ア 特許法102条2項に基づく主張 被告らが被告製品及び「イソバイドシロップ70%分包30mL」を販 売したことによる年間売上高は,平成23年7月8日から平成26年8月 までで合計202億6666万6666円であるところ,そのうち本件特 許権を侵害する被告製品の割合は10%を下回らないから,その売上高は 20億2666万6666円を下らない。被告らの利益率は20%を下回 らないから,原告の損害額は少なくとも4億0533万3333円である。
イ 同条3項に基づく主張 被告製品の売上高は20億2666万6666円を下らないところ,本 件発明の実施料率は7%を下回らないから,原告の損害額は少なくとも1 億4186万6666円である。
ウ 弁護士費用 本件訴訟追行に当たって相当な弁護士費用は1000万円である。
(被告らの主張) 争う。
当裁判所の判断
1 争点?(被告製品における構成要件Aの充足性)について ? 原告は,被告製品はいずれも患者の体重及び投与量が一定の範囲内にある 場合には「成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のイソソルビト ールを経口投与されるように用いられる」ものとなるので,構成要件Aを充 足すると主張する。そこで,上記構成要件の意義について検討する。
? まず,特許請求の範囲の記載を見ると,本件発明は,所定量のイソソルビ トールを経口投与されるように用いられること(構成要件A)を「特徴とす る,イソソルビトールを含有するメニエール病治療薬」の発明であり,メニ エール病治療薬を用法用量により特定したものであるが,イソソルビトール の投与量が構成要件A所定の範囲に含まれるような用法があれば足りるのか (その範囲未満又は超過の投与量での用法があってもよいのか),用法用量 がそのような投与量のものに限られるのか(それ以外の用法用量をも有する 治療薬は本件発明の技術的範囲から除外されるのか)については,特許請求 の範囲に明示的に記載されていない。
?ア 次に,本件明細書(甲2)の記載を見ると,発明の詳細な説明の欄には 次の趣旨の記載がある。
技術分野(段落【0001】) 本発明は,イソソルビトールを含有するメニエール病治療薬であって, 主薬である単糖類又はその糖アルコールの量を削減させることにより, 確実な内リンパ水腫減荷効果を発現させ,同時に主薬の大量投与による 全身及び局所における副作用を抑制したメニエール病治療薬に関する。
背景技術(段落【0011】 【0013】 【0018】〜【002 , , 2】) 研究の結果,糖又は糖アルコールの多くは単味で大量投与すると,そ の瀉下作用ゆえに,内リンパ水腫減荷効果は発現しないことを見いだし た。従来のメニエール病治療薬は,大量(1回量21〜30g)を1日 に3回内服するが,これは最大無作用量を超える量を治療のために毎回 摂取していることとなるから,投与量を少なくして確実な治療効果を発 現させることが望まれている。現在メニエール病治療薬として臨床応用 されている糖アルコールであるイソソルビトールは,他の糖アルコール と比べて治療効果の発現に好ましく,重大な副作用が報告されていない が,独特の苦みがある。その製剤(被告興和創薬株式会社製。一般名イ ソソルビド)は,イソソルビトール含有率が70%の水溶液であるが, 1回服用量が30mL以上で,1日3回服用する必要があり,服用量が 大量であることから,服用に困難を感じる患者が多く,服用を中断する 例もある。加えて,イソソルビトールを含む糖又は糖アルコールを有効 成分とする従来のメニエール病治療薬には,減荷効果発現までに長時間 を要する,長期に服用を続けると血漿AVPの上昇が続くなどの問題が あった。
発明が解決しようとする課題(段落【0024】〜【0026】) 本発明が解決しようとする課題の第1は,従来の治療薬が作用発現ま でに長時間要する理由を突き止め,その改良を図ることにあり,第2は, 糖又は糖アルコールの性質を考慮して,できる限りその投与量を削減す ることで,安全で,しかしながら確実に,かつ迅速に作用を発現し,長 期投与にも適したメニエール病治療薬を開発することにある。
課題を解決するための手段(段落【0027】〜【0030】) 本発明の発明者は,上記課題を解決するため鋭意研究の結果,大量投 与は逆効果であり,主薬を極力削減すると同時に,添加剤は必要最小限 にとどめるべきことが分かった。すなわち,本件発明は,特許請求の範 囲に記載のとおりのメニエール病治療薬である。
発明の効果(段落【0032】) 薬剤の投与量は,個人差,病状の重篤度などに合わせて適宜調節され なくてはならず,投与量を削減しても,同等又は同等以上の効果が得ら れることは臨床で頻繁に遭遇することである。しかし,本発明で投与量 を削減する意味は,そのようないわゆる「医師のさじ加減」とは異なる。
本発明の本質は,投与薬剤量が従来のままでは治療効果が十分には発現 せず,投与量を削減して初めて治療効果が確実に増強することを発見し, 証明したことで,大量投与による様々な問題を一挙に解決する治療薬を 開発したことにある。
イ 本件明細書には実施例又は参考例としてモルモットに対してイソソルビ トール等を投与した例が多数挙げられている(段落【0044】〜【02 27】)が,モルモットの体重その他の個体差や時間的推移に基づいて投 与量を変化させた例はない。
? 上記?アの本件明細書の記載によれば,本件発明は,従来のイソソルビト ール製剤(これが被告製品1を指すことは明らかであり,その標準用量は1 日当たりイソソルビトール1.05〜1.4g/kg体重に相当する。甲3) の投与量が過大であり,そのために種々の問題が生じるところ,その投与量 を構成要件Aに記載の0.15〜0.75g/kg体重という範囲にまで削 減することによって上記の問題を解消したというものである。そうすると, 本件発明の治療薬は,構成要件A記載の範囲を超える量のイソソルビトール を投与する用法を排除し,従来より少ない量を投与するように用いられる治 療薬に限定されるということができる。換言すると,上記範囲を超える量の イソソルビトールを投与するように用いられる治療薬は,「医師のさじ加減」 個々の患者の特徴や病態の変化に応 じて医師の判断により投与量が削減された場合には構成要件Aに記載された 量で用いられ得るものであっても,本件発明の技術的範囲に属しないと解す べきである。このことは,上記?イのとおり,実施例又は参考例において, イソソルビトールの投与量を時間的推移に着目して変動させたものが見当た らないことからも裏付けられると解される。
したがって,構成要件Aの「成人1日あたり0.15〜0.75g/kg 体重のイソソルビトールを経口投与されるように用いられる」とは,上記の 用量を,患者の病態変化その他の個別の事情に着目した医師の判断による変 動をしない段階,すなわち治療開始当初から,患者の個人差や病状の重篤度 に関わりなく用いられることをいうものと解するのが相当である。
? 以上の解釈に基づき,被告製品が構成要件Aを充足するか否かについてみ るに,一般に,薬剤の用法用量は添付文書に記載され(医薬品,医療機器等 の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律52条1項1号),医薬品 の製造販売業者から提供される(同法68条の2第1項)ことが義務づけら れていることに照らすと,被告製品が構成要件Aを充足するというためには, 構成要件A所定の用法用量が添付文書に記載されていること又は製造販売業 者が提供する情報に含まれていることが必要であると考えられる。
ところが,前記前提事実?イのとおり,被告製品の添付文書,インタビュ ーフォーム及びくすりのしおりに記載された用量に構成要件A所定の用量は 含まれていない。なお,上記添付文書等には「症状により適宜増減する」と いう記載があるが,ここにいう適宜増減とは,投与開始時の患者の病状やそ の後の変化を踏まえ,医師の判断により投与量を増減させることをいうと解 される(甲49,50,乙26参照)から,適宜増減の結果イソソルビトー ルの投与量が構成要件A所定の範囲に含まれる場合があるとしても,これを もって被告製品が本件発明の技術的範囲に属するということはできない。
また,前記前提事実?ウの本件ウェブサイトは,医師に対する情報提供の 趣旨を含んでいると解されるが,投与量の漸減について記載したものであっ て,投与開始時における用量には構成要件A所定の用量が含まれていない。
したがって,被告製品が構成要件Aを充足するということはできない。
? これに対し,原告は,@構成要件Aの解釈に関し,漸減の結果,投与量が 構成要件A所定の範囲内に至った場合も含まれる,AMRが治療開始当初か ら構成要件A所定の範囲で投与すべき旨の情報提供を行っている,B被告製 品2及び3は20mL,23mLの分包であり,構成要件A所定の範囲内の 投与量を前提にしたものであると主張する。
そこで判断するに,上記@については,前記?において説示したところに 反する。
上記Aについては,被告らのMRが1日当たり60〜70mLの投与を推 奨したことなど原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
上記Bについては,前記前提事実?イ及びウのとおり,被告製品2及び3 の添付文書,インタビューフォームは被告製品1と同一であり,くすりのし おりも,分包の内容の説明が付加されたことを除いてはこれと同一である。
加えて,証拠(甲3,乙6,15)及び弁論の全趣旨によれば,被告らは分 包品として被告製品2(20mL)及び3(23mL)のほか30mLのも のを製造販売していること,被告製品3の販売に当たり,被告興和株式会社 は,追加販売する被告製品3がメニエール病に対する1回標準量となり得る か説明を求める旨の独立行政法人医薬品医療機器総合機構からの照会に対し, 体重40kgのメニエール病患者についての1日標準量が60〜80mL, 1回標準量が20〜26.7mLであることなどを示した上で,1回標準量 となり得ると考える旨回答したことが認められる。また,各分包につき被告 製品の標準用量(1日体重当たり1.5〜2.0mL/kg)及び用法(3 回に分けて経口投与)から計算すると,被告製品2は体重30〜40kg, 同3は34.5〜46kg,30mLの分包品は45〜60kgの患者の1 回標準量となると考えられる。そうすると,日本人の体重分布において40 kg以下の者が少ないことを考慮しても,被告らが治療開始時から標準的に 構成要件A所定の投与量をもって用いられるものとして上記各分包品を製造 販売したと認めるのは困難である。
したがって,原告の上記各主張はいずれも採用することができない。
2 結論 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録1次の販売名及び承認番号を有する経口浸透圧利尿・メニエール病改善剤販売名イソバイドシロップ70%承認番号22200AMX00856販売開始昭和43年6月製造販売元被告興和株式会社販売元被告興和創薬株式会社2次の販売名及び承認番号を有する経口浸透圧利尿・メニエール病改善剤販売名イソバイドシロップ70%分包20mL承認番号22200AMX00858販売開始平成20年7月製造販売元被告興和株式会社販売元被告興和創薬株式会社3次の販売名及び承認番号を有する経口浸透圧利尿・メニエール病改善剤販売名イソバイドシロップ70%分包23mL承認番号22200AMX00855販売開始平成22年3月製造販売元被告興和株式会社販売元被告興和創薬株式会社 (別紙)ウェブサイト目録被告らが作成した次のウェブサイトURL(URLは省略)名称「めまいプロ」(被告らの「医療関係者の方々へ」と題するウェブサイト内所在) (別紙)文書目録1文書名実践めまいの治療-急性期の応急処置と主な疾患の治療方法について-2文書内容「減量は30mLずつとし,最終的に30mL/日にて発作が起きないことを確認した時点で終了します。」
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 藤原典子
裁判官 萩原孝基
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