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事件 |
平成
27年
(行ウ)
348号
異議申立却下裁決取消請求事件
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ウォーター インテレクチュアル プロパティーズ インコーポレイテッド こと 原告 ウォーターアイピー エルエルシー 同訴訟代理人弁護士 加藤光宏 被告国 裁決行政庁特許庁長官 同 指定代理人宍戸崇 同 米加田貴志 同 門奈伸幸 同 平川千鶴子 同 小林大祐 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2016/01/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁長官が20141113行服特許1異議申立事件について平成26年12 1月16日にした決定を取り消す。 |
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事案の概要
1 本件は,原告が,被告に対し,国際特許出願に関する国内書面に係る手続につき特許庁長官が平成26年7月4日付けでした同手続を却下する旨の処分に対する行政不服審査法(昭和37年法律第160号。以下「行審法」という。 )に基づく異議申立てに関し,特許庁長官が平成26年12月16日付けでした同異議申立てを却下する旨の決定の取消しを求めた事案である。 2 前提事実(証拠等を掲げたもののほかは,当事者間に争いがない。なお,日本国外の事実や外国語文書に係る日付については,西暦を用いて表記し,和暦を付記することがある。) (1) 原告 原告は,アメリカ合衆国オハイオ州法に準拠して2011年(平成23年)12月11日に設立されたオハイオ州有限責任営利事業体(an Ohio For Profit Limited Liability Company)であって,ウォーター アイピー エルエルシー(「WATER IP LLC」)との名称で登記されている法人である(弁論の全趣旨)。 (2) 国際出願 2010年(平成12年)12月10日に米国特許商標庁にされた特許出願に基づく優先権を主張して,2011年(平成23年)12月9日,発明の名称を「高効率水浄化システム」とする発明について,米国特許商標庁に対し,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約に基づく国際出願(PCT/US2011/064135。以下「本件国際出願」という。 )がされているところ,本件国際出願は,ウォーター インテレクチュアル プロパティーズ インコーポレイテッド(「WATER INTELLECTUAL PROPERTIES, INC.」。以下「本件出願人」という。)を出願人としてされたものである。 本件国際出願は,日本国を指定国に含むものであり,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日に日本国にされた特許出願(特願2014-506 2399。以下「本件出願」という。 )とみなされるところ,英語でされたものであったことから,同法184条の4第1項の規定により,本件国際出願に係る明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文(明細書等翻訳文)の提出期限は,平成25年6月10日となったが,同日までに明細書等翻訳文が提出されなかったため,本件出願は,同法184条の4第3項の規定により,取り下げられたものとみなされることになる。 (以上につき,甲18) (3) 国内書面に係る手続 弁理士A(以下「A弁理士」という。)は,本件国際出願の出願人である本件出願人を代理するとして,平成25年10月18日,本件出願につき,特許庁長官に対し,明細書等翻訳文のある同日付け国内書面(以下「本件国内書面」という。)及び回復理由書(同月17日差出)を提出した。 特許庁長官は,平成26年3月10日付け(同月12日発送)で,A弁理士に対し,特許法184条の4第4項に規定する要件を満たしていないことを理由として本件国内書面に係る手続を却下すべき旨を却下理由通知書により通知した。 A弁理士は,本件出願人を代理するとして,同年4月10日,特許庁長官に対し,弁明書を提出した。 特許庁長官は,同年7月4日付け(同月8日発送)で,本件出願人に対し,弁明書に記載された弁明の趣旨を考慮しても却下の理由は解消しないとして,本件国内書面に係る手続を却下する旨の処分をし(以下「本件却下処分」という。),同処分に係る通知は,A弁理士に送達された。 (以上につき,甲19ないし23,乙1ないし5)(4) 本件却下処分に対する異議申立て手続 ア 異議申立て A弁理士は,本件却下処分の名宛人である本件出願人を異議申立人とし,同人を代理するとして,平成26年9月8日,特許庁長官に対し,本件却下処分に対する 3同月5日付け異議申立書(甲1,乙6。以下「本件異議申立 書@」という。)を提出したが(以下「本件異議申立て」といい,同申立に係る手続きを「本件異議申立手続」という。),本件異議申立書@には,異議申立人の代表者の氏名及び住所が記載されていなかったほか,代表者の資格を証明する書面及び代理人であることを証明する書面が添付されていなかった。 イ 1回目の補正命令 特許庁長官は,次の記載のある平成26年9月11日付け補正命令書(甲2,乙7。同月16日送達)により,A弁理士に対して補正を命じた(以下「本件第1補正命令」という。)。 「本命令書受領の日から30日以内に下記書面をそれぞれ提出してください。 ・・・ 1.適正な行政不服審査法による異議申立書 1通 (1) 異議申立人代表者の住所及び氏名 2.代表者の資格を証明する書面(登記事項証明書等) 1通 3.代理人であることを証明する書面 1通」 ウ 1回目の補正 A弁理士は,平成26年10月8日,特許庁長官に対し,同月7日付け補正書(甲3,乙8の1枚目)及び同日付け異議申立書(甲4,乙8の2枚目以下。以下「本件異議申立書A」という。),「STATE OF OHIO CERTIFICATE」と題する書面の写し(甲5,乙9。以下「本件代表資格証明書@」という。 )及びその訳文(甲5の訳文,乙10)並びに同年8月19日付け「POWER OF ATTORNEY」と題する書面(甲6,乙11。以下「本件委任状@」という。 )及びその訳文(甲6の訳文,乙12)を提出した(以下,これらの書面の提出による補正を「本件第1補正」という。)。 (ア) 本件異議申立書Aには,異議申立人の代表者として,「B」との人物名とその住所が記載されていた(甲4,乙8の2枚目以下)。 4 (イ) 本件代表資格証明書@には,「Ohio Secretary of State, C」の名義で,「It is hereby certified that the Secretary of State of Ohio has custody of the business records for WATER IP LLC」と記載されていたほか,法定代理人として,「D」(D)との人物が表示されていた(甲5,乙9,10)。 (ウ) 本件委任状@には,「CEO」との肩書きを有する「B」(B)との人物の記名及び署名があり,「Water Intellectual Properties, Inc.」を委任主体として,A弁理士に対し,本件却下処分に対する異議申立てに関する代理権を付与する旨の記載があった(甲6,乙11,12)。 エ 2回目の補正命令 特許庁長官は,次の記載のある平成26年10月9日付け補正命令書(甲7,乙13)により,A弁理士に対して補正を命じた(以下「本件第2補正命令」という。)。 「・・・平成26年10月7日付けで補正書を提出されましたが,下記の不備が解消していません。このため,再度補正を命じますので,本命令書受領の日から30日以内に下記書面をご提出ください。・・・ 1.適正な行政不服審査法による異議申立書 1通 (1) 異議申立人代表者の住所及び氏名 ※下記2.のとおり,異議申立書の記載と,それを証明する書面の内容が符合 しません。 2.代表者の資格を証明する書面(登記事項証明書等) 1通 ※「STATE OF OHIO CERTIFICATE」と題する書面 (以下「本件書面」という。)は,複写物であるため,代表者の資格を証明す る書面であるとは認められません。公的機関の発行した代表者の資格を証明す る書面の原本を提出してください。また,本件書面に記載された法人の名称が, 異議申立人の名称と符合せず,法人の住所が記載されていません。 本件書面:WATER IP LLC 5 異議申立人:ウォーター インテレクチュアル プロパティーズ インコーポ レイテッド 3.代理人であることを証明する書面 1通 ※委任状に署名した者と,本件書面において法定代理人とされる者とが相違し ます。仮に,本件書面が正しいのであれば,委任状は有効なものとはなりませ んが,前記のとおり,本件書面は,代表者の資格を証明する書面であると認め られないことから,委任状の有効性について判断することができません。」 (なお,上記引用中にある「本件書面」は,本判決にいう本件代表資格証明書 @を指す。) オ 2回目の補正 A弁理士は,平成26年10月30日,特許庁長官に対し,同月29日付け補正書(甲8,乙15の1枚目)及び同日付け異議申立書(甲9,乙15の2枚目以下。 以下「本件異議申立書B」という。),「OPERATING AGREEMENT of Water IP, L.L.C.」と題する書面の写し(甲10,乙16。以下「本件代表資格証明書A」という。)及びその訳文(甲10の訳文,乙17),同月24日付け「POWER OF ATTORNEY」と題する書面の写し(甲11,乙18。以下「本件委任状A」という。)及びその訳文(甲11の訳文,乙19)並びに上申書(甲12,乙14。以下「本件上申書」という。)を提出した(以下,これらの書面の提出による補正を「本件第2補正」という。)。 (ア) 本件異議申立書Bには,異議申立人の代表者として,「E」との人物名とその住所が記載されていた(甲9,乙15の2枚目以下)。 (イ) 本件代表資格証明書Aには,「F」(F),「G」(G),「B」(B),「H」(H),「E」(E)及び「I」(I)との各人物の記名及び署名があるほか,次の記載があった(甲10,乙16,17)。 「ウォーター アイピー エルエルシーの運営契約」 「5.1 マネージメント 会社の事業及び業務については,Eが退職又はメンバ 6ーの多数決による投票によって解任されるまでは,同人又は同人によって指名されたものによって管理される。・・・ 5.1.1 マネージャーは,会社の日々の事業及び業務を管理し,監督し,指揮する。この点につき,マネージャーは,会社の事業及び業務に適したあらゆる法的措置をとる権限を有する会社の代表者である。」 (ウ) 本件委任状Aには,「Treasurer」との肩書きを有する「E」(E)との人物の記名及び署名があり,「Water IP LLC」を委任主体として,A弁理士に対し,本件却下処分に対する異議申立てに関する代理権を付与する旨の記載があった(甲11,乙18,19)。 (エ) 本件上申書には次の記載があった(甲12,乙14)。 「特願2014-506399の出願人のアメリカ合衆国オハイオ州に法人登記された会社の名称は,『Water IP LLC(ウォーター アイピー エルエルシー)』であるが,商号(Doing Business As)である『Water Intellectual Properties,Inc.(ウォーター インテレクチュアル プロパティーズ インコーポレイテッド)』を出願人の名称として,2011年12月9日に米国特許庁に国際出願し・・・この国際出願の日本国特許庁への国内移行手続きを平成25年10月28日に行ったものである。 平成26年10月29日付けで本件上申者が提出した異議申立書の添付書面につき,代表者の資格を証明する書面については,本書面の原本は異議申立人の会社に備え付けられるものであることから,写しを添付する。・・・代理人であることを証明する書面については,現在,本書面の原本を現地より取り寄せているところであり,写しを添付する。原本については,取り寄せ次第,提出する。」 カ 3回目の補正 A弁理士は,平成26年11月25日,特許庁長官に対し,同月21日付け補正書(甲13,乙20),同年10月24日付け「POWER OF ATTORNEY」と題する書面(甲14,乙21。以下「本件委任状B」という。)及びその訳文(甲14の 7訳文,乙22)を提出した(以下,これらの書面の提出による補正を「本件第3補正」という。)。 本件委任状Bには,「TREASURER」との肩書きを有する「E」(E)との人物の記名及び署名があり,「Water IP LLC」を委任主体として,A弁理士に対し,本件却下処分に対する異議申立てに関する代理権を付与する旨の記載があった(甲14,乙21,22)。 キ 申立ての却下等 特許庁長官は,平成26年12月16日付けで,本件異議申立ては,行審法13条1項及び同法48条が準用する同法15条2項の規定に違背してされたものであるところ,同法48条が準用する同法21条の規定に基づき,2度,補正を命じたが,補正命令に適正に対応した補正がされなかったとして,同法47条1項の規定により,本件異議申立てを却下する旨の決定(以下「本件決定」という。 )をし(甲15,乙23),同決定は,ほどなくA弁理士に送達された(弁論の全趣旨)。 原告は,平成27年6月5日,同月4日付け訴状を当庁に提出し,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 3 争点 (1) 本件決定は,行審法13条1項の解釈適用を誤ったものであり,取り消されるべきか(争点1) (2) 本件決定は,行審法48条が準用する同法21条に違反してされたものであり,取り消されるべきか(争点2) 4 争点に対する当事者の主張 (1) 争点1(本件決定は,行審法13条1項の解釈適用を誤ったものであり,取り消されるべきであるか)について 【原告の主張】 本件決定は,本件異議申立てが行審法13条1項の規定に違反するものと認定して却下した。 8 しかしながら,原告は,登記上の名称は「ウォーター アイピー エルエルシー(Water IP LLC)」(以下,この名称を「名称LLC」という。)であるが,商号(Doing Business As)として,「ウォーター インテレクチュアル プロパティーズ インコーポレイテッド(Water Intellectual Properties, Inc.)」との名称も用いており(以下,この名称を「名称INC」という。 ),名称LLCが示す法的主体と名称INCが示す法的主体とは同一である。本件第2補正時に提出された本件上申書でも,同旨が説明されている。 名称LLCが示す法的主体と名称INCが示す法的主体が同一であることは,@名称LLCと名称INCとが,会社形態の部分を除いて同一の名称といえ,住所も共通すること,A米国において,一事業体が事業ごとに名称を使い分けることは一般的であり,商号(Doing Business As)を用いることも一般的であること(甲17)からも明らかである。 本件異議申立手続において提出された本件委任状Bは,名称LLCの記載とともに,代表者としてEの記名及び署名があり,同人は,本件代表資格証明書Aの5.1.1の規定により,名称LLCが示す法的主体の代表者である(なお,本件代表資格証明書Aは名称LLCが示す法的主体の定款の写しであるが,定款の原本は会社に備え付けられなければならないから,写しの提出が認められるべきである。この点において,行審法13条1項の「書面」を原本又は公的機関が発行した認証謄本に限るとの解釈は誤りである。)。そして,上記のとおり,名称LLCが示す法的主体と名称INCが示す法的主体は一致するのであるから,本件委任状Bにより,名称INCが示す法的主体である異議申立人の代表者が,本件異議申立てに関する代理権を授与したことが明らかに認められる。 そうすると,本件委任状B及び本件代表資格証明書Aにより,異議申立人の代表者及び代理人の資格は証明されていたというべきであるから,本件異議申立ては,行審法13条1項の規定に違反するものではない。したがって,本件異議申立てが同規定に違反するとの理由でされた本件決定は,同規定の解釈適用を誤ったもので 9あり,取り消されるべきである。 【被告の主張】 ア 行審法13条1項違反について (ア) 代表者の資格の証明について 行審法13条1項は,「代表者若しくは管理人,総代又は代理人の資格は,書面で証明しなければならない。」と規定するところ,同条項にいう「書面」とは,官公署等の公的機関や公証人によって発行又は認証された原本又は認証謄本であることを要すると解すべきである。 本件代表資格証明書@は認証謄本の写しにすぎず,また,本件代表資格証明書Aは,定款の写しであって原本又は認証謄本ではない上,公的機関が発行したものでも公証人等による認証を受けたものでもない。そうすると,本件では,そもそも法人の代表者の資格を証明する「書面」が提出されていたとはいえない。 さらに,本件代表資格証明書Aは,法人の構成員として6名の署名がある中で,どの人物が代表者の資格を有しているか明らかではないし,本件代表資格証明書@に署名のあるDは,本件代表資格証明書Aに記名及び署名がある6名のうちのどの人物にも該当しない。 加えて,本件異議申立てにおける異議申立人の名称は「ウォーター インテレクチュアル プロパティーズ インコーポレイテッド」(名称INC)であり,本件代表資格証明書@及び同Aに記載されている法人の名称である「WATER IP LLC」又は「Water IP, L.L.C.」(名称LLC)と異なっているところ,両法人が同一法人格であることを認めるに足りる証拠は一切提出されていない。 したがって,本件異議申立ては,書面により本件異議申立人の代表者の資格を証明していない点において,行審法13条1項の規定に違反するものである。 (イ) 代理人の資格の証明について 本件委任状@には,法人の「CEO」として「B」の記名及び署名があるが,上記(ア)のとおり法人の代表者が証明されていない以上,本件委任状@の有効性は明 10らかではない。 本件委任状Aは,委任状の写しであるから,上記(ア)で述べた理由により行審法13条1項の「書面」には当たらないし,この点を措くとしても,本件委任状Bについて後述するのと同様の理由により,その有効性は明らかではない。 本件委任状Bには,「Water IP LLC」の「TREASURER」として「E」の記名及び署名があるが,上記(ア)のとおり法人の代表者が証明されていない上,「TREASURER」という語が通常「会計係,出納係」を意味することからすれば,役職名の記載からしても代表者による授権がされたかが不明であって,本件委任状Bの有効性は明らかではない。また,上記(ア)のとおり,名称INCと名称LLCとが同一法人であることを認めるに足りる証拠は一切提出されていないから,名称LLCが表示された本件委任状Bでは,異議申立人が委任主体であるかも明らかではない。 したがって,本件異議申立ては,書面により本件異議申立人の代理人の資格を証明していない点において,行審法13条1項の規定に違反するものである。 イ 小括 よって,本件異議申立てが行審法13条1項の規定に違反することを理由にこれを却下した本件決定は,同規定の解釈適用を誤ったものではなく,適法である。 (2) 争点2(本件決定は,行審法48条が準用する同法21条に違反してされたものであり,取り消されるべきか)について 【原告の主張】 ア 上記(1)のとおり,名称INCが示す法的主体と名称LLCが示す法的主体とは一致するが,このことは,A弁理士が本件第2補正の際に提出した本件上申書において説明していた。 行審法48条が準用する同法21条は,補正の回数を制限していないから,同条の趣旨からして,特許庁長官は,本件上申書による法的主体の同一性の説明が不十分というのであれば,証拠の提出を求めるなど,さらなる補正の機会を異議申立人に与えるべきであった。本件決定は,かかる機会を与えないまま本件異議申立てを 11却下した点において,手続上違法であり,取り消されるべきである。 イ 上記(1)のとおり,本件代表資格証明書Aは定款であって,原本を提出することができないものであるから,写しによる提出が認められるべきであるが,このことは,A弁理士が本件第2補正の際に提出した本件上申書において説明していた。 特許庁長官は,定款の写しを代表者の資格を証明する書面として用いることができないというのであれば,「公証人等の証明権限のある者によって外国法人の代表者の資格が証明ないし認証された書面」を提出すべき旨を明確に指示し,さらなる補正の機会を異議申立人に与えるべきであった。本件決定は,かかる機会を与えないまま本件異議申立てを却下した点において,手続上違法であり,取り消されるべきである。 【被告の主張】 本件異議申立手続を専門家たる弁理士が行っていること,2度の補正命令にもかかわらず本件異議申立ての瑕疵が解消されなかったことからすれば,本件決定が手続上違法となるものではない。 |
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当裁判所の判断
1 争点1(本件決定は,行審法13条1項の解釈適用を誤ったものであり,取り消されるべきであるか)について (1) 行審法13条1項は,同法に基づく不服申立てにおいて,代表者の資格は,書面で証明しなければならないと規定する。 しかるところ,本件異議申立書@には,異議申立人の代表者の資格を証明する書面が添付されていなかったことから,特許庁長官は,同書面の提出等を求める本件第1補正命令を発し,その後,さらに本件第2補正命令を発したところ,これらの補正期間内に,異議申立人の代表者の資格を証明する書面として,本件代表資格証明書@及び同Aが提出された。 しかしながら,本件代表資格証明書@及び同Aは,いずれも,「WATER IP LLC」又は「Water IP, L.L.C.」(名称LLC)に係る書面であるところ,一般に,米国 12におけるLLC(limited liability company)とINC(Incorporated)とは,法人の形態として異なり,コーポレートガバナンスや課税等においても異なる規整を受け得るものであるから(弁論の全趣旨),名称LLCが示す法的主体の代表者の資格について言及されるにとどまる本件代表資格証明書@及び同Aをもって,本件出願人の名称たる「WATER INTELLECTUAL PROPERTIES, INC.」(名称INC)が示す法的主体の代表者の資格を証明することにはならないことは明らかである。 この点について,原告は,@名称LLCと名称INCとが,会社形態の部分を除いて同一の名称といえ,住所も共通すること,A米国において,一事業体が事業ごとに名称を使い分けることは一般的であり,商号(Doing Business As)を用いることも一般的であることから,名称LLCが示す法的主体と名称INCが示す法的主体が同一であることは明らかである旨主張するが,上記@及びAの事情及びA弁理士が提出した上申書(乙14)の記載のみをもって,直ちに両法的主体が同一のものであると認めることは,困難というほかない。 したがって,本件異議申立ては,異議申立人の代表者の資格を証明する書面が提出されなかったという点において,行審法13条1項の規定に違反する不適法なものであったというべきである。 (2) 行審法13条1項は,代理人の資格についても,書面で証明しなければならないと規定する。 しかるところ,本件異議申立書@には,異議申立人の代理人の資格を証明する書面が添付されていなかったことから,特許庁長官は,同書面の提出等を求める本件第1補正命令を発し,その後,さらに本件第2補正命令を発したところ,これらの補正期間内に,異議申立人の代理人の資格を証明する書面として,本件委任状@及び同Aが提出され,また,補正期間後に本件委任状Bが提出された。 しかしながら,そもそも,前記(1)のとおり,本件異議申立てにおいて異議申立人の代表者の資格が証明されていなかったのであるから,本件委任状@ないし同Bが,異議申立人の代表者により作成されたものといえるか判然とせず,したがって, 13本件委任状@ないし同Bに各記載された代理人(A弁理士)の資格についても,証明されていなかったというほかない。 また,上記の点を措くとしても,本件委任状@は,「Water Intellectual Properties, Inc.」(名称INC)を委任主体として表示しているものの,本件代表資格証明書@において法定代理人と表示された人物(D)と異なる人物(B)の記名及び署名があり,異議申立人の代表者により作成された委任状であるかが明らかではないし,本件委任状A及び同Bについては,「Water IP LLC」(名称LLC)を委任主体として表示しており,前記(1)のとおり名称LLCが示す法的主体と名称INCが示す法的主体が同一であるとは証明されていないのであるから,やはり異議申立人の代表者により作成された委任状であるかが明らかではないというべきである。 したがって,本件異議申立ては,異議申立人の代理人の資格を証明する書面が提出されなかったという点において,行審法13条1項の規定に違反する不適法なものであったというべきである。 (3) なお,上記に認定説示したところによれば,本件異議申立てに係る異議申立書(本件異議申立書@ないし同B)には,異議申立人の代表者の氏名及び住所が適式に記載されていたとは認め難いから,本件異議申立ては,行審法48条が準用する同法15条2項の規定にも違反する不適法なものであったというべきである。 (4) 以上のとおり,本件異議申立ては不適法なものであったと認められるから,本件決定が行審法47条1項により同申立てを却下したことは正当であって,原告の主張は採用することができない。 2 争点2(本件決定は,行審法48条が準用する同法21条に違反してされたものであり,取り消されるべきか)について 原告は,名称INCが示す法的主体と名称LLCが示す法的主体との同一性や,定款の写しを代表者の資格を証明する書面として用いることにつき,提出された書面では不十分というのであれば,証拠の提出や「公証人等の証明権限のある者によ 14って外国法人の代表者の資格が証明ないし認証された書面」を提出すべき旨を明確に指示するなどして,さらなる補正の機会を異議申立人に与えるべきであり,かかる機会を与えないまま本件異議申立てを却下した本件決定は手続上違法であると主張する。 しかしながら,行審法48条が準用する同法21条には,相当の期間を定めて補正を命じた後,不備を解消するに足りる補正がされなかった場合に,再度補正を命じなければならない旨の規定はないこと,特許庁長官は,本件第1補正命令を発して本件第1補正がされた後にも,2度目の補正命令となる本件第2補正命令を発しており,同命令において「公的機関の発行した代表者の資格を証明する書面の原本を提出してください。」「本件書面に記載された法人の名称が,異議申立人の名称と符合せず,法人の住所が記載されていません。」と,本件第1補正により提出された各種書面では不十分である理由を具体的に明示してさらなる書面の提出を求めているのであって,それにもかかわらず,本件第2補正で提出された本件代表資格証明書Aは,「Water IP, L.L.C.」(名称LLC)の定款の写しであって,本件第2補正命令で指摘した問題点が何ら解消されていないこと,その他前記前提事実において摘示した事実関係からすれば,特許庁長官が,本件第2補正命令の後,さらなる補正の機会を与えることなく本件異議申立てを却下したことは,行審法48条が準用する同法21条に反するものではなく,また,実質的にみても違法とは認められない。 3 結論 以上のほか,原告は,本件決定が取り消されるべきであるとして,本件においては,出願人ないし異議申立人の名称を補正する術がないとか,日本と米国では,ビジネス慣習,会社の形態,代表等に関する登記の有無等,種々の事情の相違があるなど,縷々主張するが,いずれも本件決定を取り消すべき理由となるものとは認められず,採用することができない。 よって,本件請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決 15する。 |
裁判長裁判官 | 嶋末和秀 |
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裁判官 | 鈴木千帆 |
裁判官 | 天野研司 |