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関連審決 無効2014-800032
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事件 平成 27年 (行ケ) 10035号 審決取消請求事件

原告株式会社大原鉄工所
同訴訟代理人弁護士 高橋賢一
同訴訟代理人弁理士 吉井剛
同 吉井雅栄
被告 大阪エヌ・イー・ディー・ マシナリー株式会社
同訴訟代理人弁護士 平野惠稔
同 長谷部陽平
同 田中宏岳
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/02/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2014-800032号事件について平成27年1月27日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成21年2月13日,発明の名称を「破袋機とその駆動方法」とする発明について特許出願(特願2009-31663号。以下「本件出願」という。平成16年8月24日にした特許出願(特願2004-243744号)の分割出願)をし,平成21年8月28日,設定の登録(特許第4365885号)を受けた(請求項の数7。以下,この特許を「本件特許」という。甲2)。
(2) 原告は,平成26年2月28日,本件特許の請求項1,2及び4に係る発明について特許無効審判を請求し,無効2014-800032号事件として係属した。
(3) 特許庁は,平成27年1月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年2月5日,原告に送達された。
(4) 原告は,平成27年2月24日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の請求項1,2及び4の記載は,次のとおりである。以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明3」といい,これらを併せて「本件各発明」という。また,その明細書(甲2)を,図面を含めて「本件明細書」という。
【請求項1】矩形枠体からなる破袋室と,破袋室の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体の表面に,回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を,該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物と,破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物と,回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段とを有し,可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように,回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可 動側の垂直板からなる板状刃物が通過し,所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する破袋機。
【請求項2】固定側刃物の板状刃物は,鋭角な刃先部を有する請求項1に記載の破袋機。
【請求項4】固定側刃物は,その全部又は一部を当該刃物を保持する壁面ごとあるいは刃物の保持部ごと破袋室外へ待避可能にした請求項1に記載の破袋機。
3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件各発明は,原告が顧客に平成16年4月2日に納品したとする破袋機に係る発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものではない,などというものである。なお,引用発明は,下記アないしエに記載されたものである。
ア 甲T作成に係る平成24年10月22日付け「株式会社プリテックへ販売した破袋機の報告書」と題する書面(甲3の2)イ 甲U成に係る平成24年12月17日付け陳述書(甲4の2)ウ 甲V作成に係る平成24年12月14日付け陳述書(甲5の2)エ 甲T作成に係る平成24年12月5日付け陳述書(甲6の2)(2) 本件発明1と引用発明との対比ア 引用発明本件審決が認定した引用発明は,以下のとおりである。
直方体状の枠体Aからなる破袋室Bと,破袋室Bの一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体Cの表面に,回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を,該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物Dと,この回転体Cと平行にして破袋室Bの一方の対向壁面間には1本の非回転体Eが設けられ,この非回転体Eには板厚みを水平に垂直板からなる複数の 板状刃物が凸設され,更に,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から板厚みを水平に垂直板からなる複数の板状刃物が下方に向けて凸設され,これら非回転体E及び回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設された板状刃物が固定側刃物Fであり,夫々独立した正転タイマ及び逆転タイマにより,回転体Cが正逆転駆動を行なう駆動制御手段とを有し,可動側と固定側の複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように,回転体Cの正逆転駆動に伴って固定側刃物F間を可動刃物Dが通過し,所定間隔で噛合する固定側刃物Fと可動側刃物D間で袋体を破袋する破袋機。
イ 本件発明1と引用発明との一致点及び相違点 本件審決が認定した本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
(ア) 一致点矩形枠体からなる破袋室と,破袋室の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体の表面に,回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を,該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物と,板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物と,回転体に対して正・逆転の繰り返し駆動を行う駆動制御手段とを有し,可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように,回転体の正・逆転の繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し,所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する破袋機。
(イ) 相違点1 「板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物」に関して,本件発明1においては,「破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物」であるのに対し,引用発明に おいては,「この回転体Cと平行にして破袋室Bの一方の対向壁面間には1本の非回転体Eが設けられ,この非回転体Eには板厚みを水平に垂直板からなる複数の板状刃物が凸設され,更に,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から板厚みを水平に垂直板からなる複数の板状刃物が下方に向けて凸設され,これら非回転体E及び回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設された板状刃物が固定側刃物Fであり」である点。
(ウ) 相違点2 「回転体に対して正・逆転の繰り返し駆動を行う駆動制御手段」及び「回転体の正・逆転の繰り返し駆動に伴って」に関して,本件発明1においては,「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」及び「回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って」であるのに対し,引用発明においては,「夫々独立した正転タイマ及び逆転タイマにより,回転体Cが正逆転駆動を行なう駆動制御手段」及び「回転体Cの正逆転駆動に伴って」である点。
4 取消事由(1) 本件発明1に係る引用発明に基づく進歩性判断の誤り(取消事由1)ア 相違点1に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1-1)イ 相違点2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1-2)(2) 本件発明2及び3に係る引用発明に基づく進歩性判断の誤り(取消事由2)
当事者の主張
1 取消事由1(本件発明1に係る引用発明に基づく進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 取消事由1-1(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り)についてア 本件審決における判断本件審決は,相違点1に係る本件発明1の構成は,@破袋室の上方開口部を広くとることが可能となる,A破袋室に投下された袋体を可動側刃物の両側で交互にか つ連続して効率良く破袋することができる,及びB袋体を十分に上下動させ,ブリッジ現象の発生を防止することができる等の効果を奏するものであるところ,引用発明の「固定側刃物F」は,反転時のこぼれ防止のためにゴム製スクレーパーから入れ替えられたものであり,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設されたものを水平から凸設するようにする理由はないから,引用発明において,相違点1に係る本件発明1の構成を備えるようにすることが,当業者であれば容易に想到することができたことであるとはいえない旨判断した。
イ しかし,相違点1に係る本件発明1の構成により奏される効果は,以下のとおり,いずれも自明な効果にすぎない。
(ア) @の効果について破袋室を有する破袋機であれば,袋体を投入する開口部(開口縁)及びその下側に破袋作用を奏する部分があることは当然の前提であるから,@の効果,すなわち,上方開口部の面積を広くとることができるという効果は,相違点1に係る本件発明1の構成から奏される自明の効果にすぎない。なお,上方開口部の容積を広くとることができるという効果を奏するとするには,固定側刃物及び回転体の設けられる深さを特定する必要があるが,本件発明1は,これらの深さを特定するものではないから,容積を広くとることができるという効果を奏するということはできない。
(イ) Aの効果について Aの効果は,両側の固定側刃物の間に回転体を設け,この回転体に可動側刃物を設けた構成から奏される自明の効果にすぎない。
(ウ) Bの効果についてBの効果が,開口縁から所定の深さの位置に固定側刃物及び回転体が設けられているために広い容積の空間があるから,袋体を十分に上下動させることができるというものであるとするならば,前記アのとおり,そのような効果を奏するとするには,固定側刃物及び回転体の設けられる深さを特定する必要があるが,本件発明1は,これらの深さを特定するものではないから,上記のような効果を奏するという ことはできない。なお,Bの効果が,上記のように広い容積の空間があるために奏されるものでないとするならば,袋体を十分に上下動させ,ブリッジ現象の発生を防止することができる点は,相違点1に係る本件発明1の構成により奏される効果ではなく,相違点2に係る本件発明1の構成により奏される効果である。
ウ 相違点1に係る本件発明1の構成により奏される効果は,前記イのとおり,平行な対向壁面から凸設された両側の固定側刃物を水平状態とすることによる自明な効果にすぎないから,回転体に可動側刃物が設けられ,その両側のうち,一方の側は水平から,他方の側は斜め上方から下方に向けて,それぞれ凸設するように固定側刃物が設けられ,回転体の両側で破袋作用を奏する構造を有する引用発明において,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設されている固定側刃物を水平から凸設するようにすることは,当業者であれば,容易に想到することができたことである。
エ さらに,本件審決における判断は,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設された「金属製スクレーパー」を水平から凸設するようにすることが,容易に想到することができたことであるか否かを問題としている点で,誤りである。
すなわち,引用発明において,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設されているのは,スクレーパーではなく,金属製の刃物であるから,この金属製の刃物を水平から凸設するようにすることが,容易に想到することができたことであるか否かが検討されなければならない。
そして,引用発明において,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設されているのが金属製の刃物であることからすれば,本件発明1と引用発明との相違点1は,要するに,本件発明1では左右の固定側刃物と中央にある回転体の可動側刃物とで構成される同じ大きさの破袋空間が回転体の両側に存在するのに対し,引用発明では,回転体の両側に存在する破袋空間が,同じ大きさではなく,一方が他方より狭いということに帰する。
ここで,破袋空間の広さを拡げるために,斜め凸設している固定側刃物を水平と し,両側の固定側刃物を水平状態とすることは,水平な対向固定刃の間に回転刃を配した公知の破砕機(甲10,12,14)を考慮すれば,当業者の技術常識であるといえる。
したがって,引用発明において,一方の狭い破袋空間を他方の破袋空間と同様の広さに拡げるために,上記技術常識に基づき,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設されている金属製の刃物を水平から凸設するようにすることは,当業者であれば,容易に想到することができたことである。
オ したがって,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断は,誤りである。
(2) 取消事由1-2(相違点2に係る容易想到性の判断の誤り)についてア 本件審決における判断本件審決は,本件発明1における「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,ホッパー3内で袋体のブリッジを防止するような正・逆転のパターンの繰り返し駆動を意味するところ,引用発明における「正逆転駆動」は,破袋した袋の回転軸への巻き付けを低減するためのものであり,本件発明1における「正・逆転パターンの繰り返し駆動」とは技術的意義が全く異なるものである旨判断した。
イ 本件審決がいうように,本件発明1における「正・逆転パターンの繰り返し駆動」と,引用発明における「夫々独立した正転タイマ及び逆転タイマによる,正逆転駆動」とは,技術的意義が全く異なる。
したがって,両者の技術的意義が異なるものであることを前提とする場合には,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断は,正当である。
ウ しかし,両者の技術的意義が異ならないとするならば,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者であれば,容易に想到することができたことである。
したがって,両者の技術的意義が異ならないことを前提とする場合には,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断は,誤りである。
(3) 被告の主張について 被告は,引用発明が原出願の出願前に公然実施されていたとの事実又は公然知られていたとの事実を認定するに足りる証拠はない旨主張する。
しかし,原出願の出願前に株式会社プリテックに納品された甲3の破袋機が存在し,その破袋機が株式会社プリテックで現実に稼働していたことは,証拠上明らかである(甲3〜6)。
引用発明が原出願の出願前に公然実施をされた発明又は公然知られた発明である旨の本件審決における判断に,誤りはない。
(4) 小括以上によれば,本件審決における本件発明1に係る引用発明に基づく進歩性判断は,誤りである。
〔被告の主張〕(1) 取消事由1-1(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り)について ア 原告の主張は,引用発明において相違点1に係る本件発明1の構成を備えるようにすることが容易に想到することができるとする進歩性欠如の論理付けについて,具体的な主張を欠くものであって,主張自体失当である。
なお,本件発明1は,回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動させるとともに,固定側刃物を破袋室の対向壁面より板状刃物を凸設配置したものとすることにより,@機構が簡素化され,かつ連続して効率よく破袋することができる,A袋体のブリッジ現象の発生を防止することができる,B破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがない等の顕著な作用効果を奏する発明であるから,進歩性を有することは明らかである。
イ 本件発明1における固定側刃物の取付位置の技術的意義 (ア) 本件発明1において固定側刃物(板状刃物)が破袋室の対向壁面より凸設配置される構成は,@破袋室の上方開口部を広くとることが可能となることにより,破袋室に一度に大量の袋体を投入し,効率よく破袋することができる,A回転体の 両側に破袋空間が形成されることにより,破袋室に投下された袋体を回転体の両側で交互にかつ連続して効率よく破袋することができる,B破袋室の上方のホッパー内に積み上げられた袋体を十分に上下動させ,ブリッジ現象の発生を防止することができる,C破袋後の内容物及び袋破片が回転体の上でなく回転体の両端の空間に落下することにより,袋破片の回転体への絡みつきを防止することができる,という技術的意義を有する。
(イ) 原告は,前記@の効果は,固定側刃物及び回転体が開口部から下方へどの程度の距離の位置にあるかが特定されない限り,認定できない効果である旨主張するが,当該効果は,固定側刃物及び回転体が,開口部から下方にあることにより奏されるものであるから,固定側刃物及び回転体が開口部から下方へどの程度の距離の位置にあるかを特定する必要はない。
また,原告は,前記Aの効果は,両方の固定側刃物の間に回転体を設け,この回転体に可動側刃物を設けた構成から生じる自明の効果である旨主張するが,その根拠として原告が挙げる甲9ないし15のうち,一軸破袋機に関する発明が記載されているのは甲9及び11のみであるところ,これらには,本件発明1の作用効果である効率的な破袋効果は記載されていない。
ウ 引用発明における固定側刃物の作用効果について 引用発明において,固定側刃物は,反転時のこぼれ防止のためにスクレーパーから変更されたものであって,回転体が反転するときに破袋対象となる袋体が破袋室外にこぼれ出ることを防止する作用効果を有するものである。
これに対し,引用発明における固定側刃物の取付位置,すなわち,板状刃物が斜め上方(破袋室の天井)から下方に向けて凸設配置される構成では,@天井が設けられ,破袋室の上方開口部が狭いため,破袋室に一度に大量の袋体を投入し,効率よく破袋することができず,A回転体の両側に十分な破袋空間が形成されないため,破袋室に投下された袋体を回転体の両側で交互にかつ連続して効率よく破袋することができず,B回転体の正・逆回転パターンの繰り返し駆動の際に,破袋室の上方 のホッパー内に積み上げられた袋体を十分に上下動させてブリッジ現象の発生を防止することはできず,C破袋後の内容物及び袋破片が回転体の上に落下することにより,破袋効率が落ちるだけでなく,袋破片の回転体への絡みつきを防止することができない。
エ 以上のとおり,引用発明における固定側刃物の取付位置では,本件発明1における固定側刃物の取付位置に基づく作用効果を全く奏しないから,引用発明において,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設されている固定側刃物を水平から凸設するようにすることが容易に想到することができたことであるとはいえない。
(2) 取消事由1-2(相違点2に係る容易想到性の判断の誤り)について ア 本件発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」とは,「正転,逆転を規則的に繰り返す駆動」を意味する。
したがって,本件審決が,本件発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」が「ホッパー3内で袋体のブリッジを防止するような正・逆転のパターンの繰り返し駆動」であるとしたのは誤りである。
イ しかし,引用発明における「正逆転駆動」が,本件発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」と一致するものであるか否かは証拠上明らかでないから,本件審決が,本件発明1と引用発明とが相違点2において相違すると認定したことには,誤りはない。
(3) 引用発明の公然実施性又は公知性について 本件審決は,引用発明が原出願の出願前に公然実施をされた発明又は公然知られた発明である旨判断した。
しかし,本件において,引用発明が原出願の出願前に公然実施されていたとの事実又は公然知られていたとの事実を認定するに足りる証拠はない。
したがって,取消事由1及び2に理由があるか否かにかかわらず,これらは本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(4) 小括以上によれば,本件審決における本件発明1に係る引用発明に基づく進歩性判断は,結論において誤りがないから,これを取り消すべき違法があるとはいえない。
2 取消事由2(本件発明2及び3に係る引用発明に基づく進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕 前記1のとおり,本件審決における本件発明1に係る引用発明に基づく進歩性判断は誤りであるから,本件発明2及び3に係る引用発明に基づく進歩性判断も,誤りである。
〔被告の主張〕 本件審決における本件発明1に係る引用発明に基づく進歩性判断に誤りはないから,本件発明2及び3に係る引用発明に基づく進歩性判断にも,誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件各発明について(1) 本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用する図4〜7については,別紙1本件明細書図面目録を参照。)。
ア 技術分野 【0001】この発明は,例えば家庭ごみや産業廃棄物として各種袋体に詰められて,廃棄物処理場に収集される混合ごみを,可燃性ごみと資源ごみの種類別に分別回収,あるいは袋詰めの瓶,アルミ缶,スチール缶,プラスチック容器などを材料種別で分別回収する際,これらの分離作業の前処理として行われる袋体を破砕して(以下破袋という)収容物を取出し,破砕された袋破片と袋体収容物との分離除去作業を容易にする破袋機とその駆動方法に関する。
イ 発明が解決しようとする課題【0007】これらの従来の破袋機は,袋体の大きさや内容物の違いにより,傾 斜側板や傾斜押さえ板の傾斜角度やばね強さを調節する必要があり,ばね力の設定に手間がかかる。また,切り刃に引き裂かれた袋片が絡みつき易く,処理能力の低下や停止などを誘発し易い欠点がある。
【0008】また,切り刃に引き裂かれた袋破片が絡みつく欠点を解消するため改良された従来の2軸の回転軸からなる破袋機は,左右回転軸の回転速度を変えるため装置が複雑でかつコンパクトにできない欠点がある。
【0009】さらに,従来の複数の切り刃を放射状に配設した1つの回転軸と,これに対設した押さえ板からなる1軸の回転軸からなる破袋機は,2つの回転軸からなる2軸の破袋機に比べ機構は簡素化できるが,引き裂かれた袋破片が切り刃に絡みつくのを防止できない欠点がある。
【0010】この発明は,上述の現状に鑑み,破袋機の構成を簡素化して1つの回転軸から構成され,破袋後の引き裂かれた袋破片が絡みつく欠点を解消した構成からなる破袋機とその駆動方法を提供することを目的としている。
ウ 課題を解決するための手段 【0011】発明者らは,1軸の回転軸を有した構成において,袋体の収容物を種類別あるいは材料種別で分別回収するいずれの場合であっても,袋体を捕捉しそれを効率よく破袋して破袋後の袋破片と袋の収容物との分離が円滑に行うことが可能な可動刃物等の配置構成を目的に種々検討した結果,回転軸に対して直径方向に一対の刃物(直線状刃物)を配置しかつ回転軸方向に前記可動側刃物を例えば90度ずらして複数配置するとともに,これら可動側刃物に水平方向から対向する棒材でばね作用を有する棒状キャッチャーを所定間隔で配置し,前記刃物に対して回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行うことにより,例えば缶や瓶等をつめた袋体を効率よく破袋し袋破片が回転軸に絡みつくことなく,袋破片と缶や瓶等とを分離できることを知見した。
【0012】また,発明者らは,前記構成の破袋機において,棒状キャッチャーに換えて水平方向に固定配置される固定側刃物とすることにより,プラスチック材 を詰めた袋体の破袋並びに袋破片とプラスチックとの分離を効率よく実施できることを知見した。
【0013】さらに,発明者らは,前記構成の破袋機において,可動側刃物の駆動方法を検討した結果,基本的な動作は右回転と左回転を1パターンとして種々パターンで正・逆転パターンの繰り返し駆動をし,袋体に収容された缶や瓶,プラスチック材などに応じてその回転角度を換えることで,袋体を効率よく破袋し,かつ袋破片が回転軸に絡みつくことなく,袋破片とごみとを分離できることを知見し,この発明を完成した。
【0014】すなわち,この発明は,矩形枠体からなる破袋室と,破袋室の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体の表面に,回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を,該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物と,破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物と,回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段とを有し,可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように,回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し,所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋することを特徴とする破袋機である。
【0015】また,この発明は,上述の構成を有する破袋機において,駆動制御手段は,回転駆動源に負荷センサを有し,過大負荷時に回転体の駆動を停止させ,通常操業時,可動側刃物を水平基準点から一方向に所要角度回転した後,反対方向に前記所要角度回転させる正・逆転パターンを1単位とし,正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動を行い袋体を破袋することを特徴とする破袋機の駆動方法である。
エ 発明の効果 【0016】この発明によると,破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群とから構成され,機構が簡素化され,かつ前記回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができる。
【0017】また,この発明によると,破袋室上方のホッパー内に積み上げられた袋体は回転体が正・逆転パターンの繰り返し駆動する際に可動側刃物により押し上げられるため,袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ,1つの回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動させる構成によって,破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがない。
【0018】さらに,この発明によると,正・逆転パターンの繰り返し駆動される可動側刃物と固定刃物を組み合せた構成により,廃プラスチック材を収納した柔軟な袋体を可動側と固定側の刃物の協同により効率良く破袋できる。
オ 図面の簡単な説明【0019】【図4】この発明による破袋機の回転体の軸端側から見る側面説明図である。
【図5】この発明による破袋機の回転体の長手軸方向の正面説明図である。
【図6】A〜Cはこの発明による破袋機の袋体の破袋機能を説明する説明図である。
【図7】この発明による破袋機の回転体の軸端側から見る側面説明図である。
カ 発明を実施するための形態【0020】この発明による破袋機は,矩形枠体からなる破袋室内に,回転体表面より放射方向に凸設かつ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるよう配置した複数の板状刃物を有する可動側刃物を水平に軸支し,これを種々の正・逆転パターンの繰り返し駆動して,破袋室の壁面より水平配置される鋭角な刃先部を有する板状刃物からなる固定側刃物との間に袋体を捕捉してこれを破袋することを特徴とする。
【0021】この発明による破袋機の前提となる破袋機の構成並びに駆動方法を, 図面に基づいて詳述する。… 【0031】次に固定側刃物20に,鋭利な刃先を有する板状刃物24を採用した,本発明による破袋機の構成を説明する。図4は破袋機の回転体の軸端側から見る側面説明図,図5は回転体の長手軸方向の正面説明図である。
【0032】基本構造は,…破袋機1は,破袋室2を本体として上面にホッパー3を設け,破袋室2内に回転体10を水平配置し,回転体11の表面に放射状に且つ回転軸に直角に垂直板からなる板状刃物12を設けて可動側刃物10となした構成は全く同様であって,固定側刃物20に板状刃物24を採用したことが異なる。
すなわち,矩形枠体に形成された破袋室2の上面にホッパー3を設け,破袋室2の一方の平行な垂直対向壁面間に回転体10が回転自在に水平配置されると共に,破袋室2の他方の平行な垂直対向壁面に固定側刃物20が設けられており,ホッパー3より投下された袋体は破袋室2で破袋後に破袋室2の開口底面の排出口5より排出される構成からなる。
【0033】可動側刃物10は,回転体11の一直径方向に刃物先端部が揃う構成の板状刃物12を,回転体11軸方向に所定間隔で配置し,刃物先端部が90度ずつずれるようにしてある。回転体11は図示しない電動機などで正・逆転パターンの繰り返し駆動される。なお,板状刃物12の形状や枚数,回転体11の軸方向の配置間隔や刃先の放射角度等は,袋体とその収納物種等に応じて適宜選定される。
固定側刃物20として採用された板状刃物24は,図4と図5に示すように,板厚みを水平にした垂直板であって,鋭角な刃先先端を破袋室2内に侵入させるように,破袋室2の外壁上端に軸支するシャフト9に上端部を固着して垂下した短冊状のブラケット8に止着した構成からなり,ここでは,破袋室2内の上下方向に3段,回転体11の軸方向に2枚,1枚と交互に配置して固定側刃物20を構成する。
【0034】かかる板状刃物24を採用した構成からなる,本発明による破袋機1の作用を説明すると,図6Aに示すように,正・逆転パターンの繰り返し駆動される可動側刃物10によりワークたる袋体を上方向に押し上げる作用が働き,該ホ ッパー3内で袋体のブリッジを防止することができる。
【0035】また図4,図5に示されるとおり,可動側刃物10の正・逆転パターンの繰り返し駆動により,回転体11の軸方向に所定間隔で且つ回転方向に90度ずつずれて配列された複数の垂直板からなる可動側の板状刃物12と,同じくその両側で回転体11の軸方向に所定間隔で配列され各々の板厚みを水平にすると共に各々の鋭角な刃先先端を破袋室2内に侵入させた複数の垂直板からなる固定側の板状刃物24とが噛み合う。すなわち,可動側刃物10の正・逆転パターンの繰り返し駆動により,複数の可動側の垂直板からなる板状刃物12が複数の固定側の板厚みを水平にした垂直板からなる板状刃物24の間,特に隣接する板状刃物24,24間の中央部を上に下に通過する。この噛み合いの結果,破袋機1の破袋作用は,図6B,Cに示すように,基本的に袋体は可動側刃物10に押されて複数の板状刃物24に捕られ引き裂き破壊されるものとなる。例えば可動側刃物10は,右に180度,左に180度のパターン1と右に360度,左に360度のパターン2を交互に繰り返すとすると,パターン1では右回転で袋を捕捉し,左回転で引き裂くことができ,またパターン2では左右とも回転することにより,袋を押し切り破壊することができ,連続運転される際,かかる引き裂き,押し切りによる破袋が交互にあるいは同時に進行する。
【0036】かかる板状刃物24を採用することで,廃プラスチックなどが収容された袋体に対して,効率よく破袋することができる。すなわち,廃プラスチックなどが収容された袋体は,軽く剛体異物の混入が少ないことから,棒状キャッチャーでは両者が撓み合うことで捕捉できなくなる場合があるが,板状刃物24は固定されかつ鋭角な刃先を有し,上述のようなパターンで可動側刃物10を正・逆転パターンの繰り返し駆動すると,効率よく袋体を捉えて容易に破袋することができる。
【0037】また,図7に示すごとく,板状刃物24を採用した固定側刃物20は,複数の板状刃物24を格子状のブラケット8に止着しており,破袋室2の外壁上端に軸支するシャフト9をダンパーユニット30で大きな荷重がかかった際に回 動可能にすることで,板状刃物24群を破袋室2より待避させることができる。すなわち,廃プラスチックなどが収容された袋体では,処理ワークが不燃物なので大きな異物が投入されることが予想され,これらによって装置の停止が頻発することがないようにメンテナンスが容易になる。
【0038】この発明の破袋機において,駆動制御手段には,例えば回転駆動源に負荷センサを設けて,大きな異物などにより過大負荷となった際に,回転体の駆動を停止させたり,これを反転させて排出するなどの制御を行うと良い。また,通常操業時には,前述のように,可動側刃物を水平基準点から一方向に所要角度回転した後,反対方向に前記所要角度回転させる正・逆転パターンを1単位とし,正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す制御,あるいは複数パターンの組合せを繰り返す制御を行うことができる。
【0039】可動側刃物の回転角度は主として破袋率を向上させるためにタイマーで作動時間を変更することにより角度を変化させられるように設計するとよい。
また,周速度については,主として処理量を調整するためにインバータで速度変更できるように設計するとよい。例えば,1時間に30m3の処理を行う実施例1の装置例では,回転刃物周速は24〜48m/minを想定している。
【0040】また,駆動制御手段に,負荷センサが感知する負荷量に応じて,回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動する速度(可動側刃物の周速度)を変化させて,袋体の破袋処理量を増減させたり,負荷センサが感知する負荷量に応じて,正・逆転パターンの回転角度を予め設定された角度に変更し,回転角度が異なる正・逆転パターンの組合せを繰り返す駆動を行うなど,想定されるごみ種類と袋体の大きさ並びに処理量などの条件変化の範囲等を想定して,装置の停止や破袋不足が生じることのないようプログラミングすることができる。
実施例 【0043】飲料缶,飲料びんが収容されている袋体を想定した棒状キャッチャーを備えた前記破袋機1は,可動側刃物の正・逆転パターンの繰り返し駆動パター ンに,右に90度,左に90度のパターン1と右に180度,左に180度のパターン2を交互に繰り返す制御を行い,また,インバータモータ43により速度制御を行い,刃物周速が24〜48m/分となるようにしたところ,平均30m3/hrの処理能力を有することが分かった。… 【0048】…図8と図9に示す装置の破袋機1に図4,5の構成を採用し組み立てた構成となし,プラスチック類を収容した袋体を想定して,右に180度,左に180度のパターン1と右に360度,左に360度のパターン2を交互に繰り返す正・逆転パターンの繰り返し駆動制御をおこない,可動側刃物の周速度が35〜70m/分となるように駆動用インバーターモータ出力を選定したところ,平均60m3/hrの処理能力を有することが分かった。
ク 産業上の利用可能性 【0049】この発明によると,破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群とから構成され,機構が簡素化され,かつ前記回転体を正転・逆転させる正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができる。
【0050】また,この発明によると,破袋室上方のホッパー内に積み上げられた袋体は回転体が正・逆転パターンの繰り返し駆動する際に可動側刃物により押し上げられるため,袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ,1つの回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動させる構成によって,破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがない。
(2) 前記(1)の記載によれば,本件明細書には,本件各発明に関し,以下の点が開示されていることが認められる。
ア 本件各発明は,袋体に詰められて収集されるごみの分離作業の前処理として行われる袋体を破砕して収容物を取出し,破砕された袋破片と袋体収容物との分離除去作業を容易にする破袋機に関する(【0001】)。
従来の複数の切り刃を放射状に配設した1つの回転軸とこれに対設した押さえ板とから成る,1軸の回転軸から成る破袋機は,2つの回転軸から成る2軸の破袋機に比べ,機構は簡素化できるが,引き裂かれた袋破片が切り刃に絡みつくのを防止できないという欠点があった(【0009】)。
イ 本件各発明は,前記アの状況に鑑み,破袋機の機構を簡素化した1つの回転軸から成る破袋機において,破袋後の引き裂かれた袋破片が絡みつく欠点を解消した破袋機を提供することを目的とし(【0010】),かかる課題の解決手段として,回転軸に対して直径方向に一対の刃物(可動側刃物)を配置し,かつ回転軸方向に可動側刃物を例えば90度ずらして複数配置するとともに,これら可動側刃物に水平方向から対向する位置に固定配置される固定側刃物を所定間隔で配置し,可動側刃物に対して回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行うことにより,袋体を効率よく破袋し,袋破片が回転軸に絡みつくことなく,袋破片と缶や瓶等とを分離できることを見いだし(【0011】,【0012】),前記第2の2のとおり,本件各発明に係る特許請求の範囲の請求項1,2及び4記載の構成を採用した(【0014】)。
ウ 本件各発明によれば,破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群とから構成され,@機構が簡素化されるとともに,回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができ,A回転体が正・逆転パターンの繰り返し駆動する際に,破袋室上方のホッパー内に積み上げられた袋体を可動側刃物により押し上げるため,袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ,B1つの回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動をさせるという構成により,破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがない等の効果を奏する(【0016】,【0017】,【0049】,【0050】)。
2 取消事由1(本件発明1に係る引用発明に基づく進歩性判断の誤り)につい て (1) 原告は,本件発明1は引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである旨主張する。
引用発明が,原出願の出願前に公然知られた発明,又は公然実施をされた発明であることについては,当事者間に争いがあるものの,この点は措き,原告が認める本件審決の認定した引用発明の内容を前提に,原告の上記主張について,以下判断する。
(2) 引用発明について ア 本件審決が認定した引用発明の構成は,前記第2の3(2)アのとおりである(別紙2に,原告が引用発明の破袋機の要部の斜視図であるとして甲3の2に添付した図面を掲記する。)。
イ 甲4の2及び甲6の2の記載によれば,引用発明に係る破袋機は,運転試験の結果,@負荷による逆転が発生すると,ゴム製の抜け止めスクレーパーの保持力が弱いため,背面から抜けが見られる,A投入直後から,主として,回転ドラムに袋等の巻き付きが発生し,ある程度まで巻き付くと,固定刃によりそれ以上膨張はしないものの,逆転による清掃を行ってもほとんどほぐれない,といった問題が確認されたため,これらの問題に対する対処として,@既設の固定刃を刃を長くした刃物と入れ替える,A反転時のこぼれ防止のため,ゴム製スクレーパーから固定刃に入れ替える,B既設の回転ドラムの刃の配列及び向きを改造する,という解決案が示され,改造が施された,というものである。
そうすると,引用発明において,固定側刃物Fのうち「回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設された板状刃物」は,負荷による逆転が発生すると,ゴム製の抜け止めスクレーパーの保持力が弱いために背面から抜けが見られるという問題に対する解決手段として設けられたものであって,ゴム製スクレーパーが設けられていた位置にそのまま配置されたものである,ということになる。
(3) 取消事由1-1(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り)について ア 本件発明1における固定側刃物の配置位置について (ア) 本件発明1における固定側刃物は,破袋室の対向壁面のうち,回転体を水平に軸支する対向壁面とは別の,平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板から成る複数の板状刃物を,回転体の軸方向に配列したものである。
そして,本件発明1における固定側刃物は,前記1(2)のとおり,破袋機の機構を簡素化した1つの回転軸から成る破袋機であって,破袋後の引き裂かれた袋破片が絡みつく欠点を解消したものを提供することを課題とする本件発明1において,可動側刃物に水平方向から対向する位置に,回転軸方向に所定間隔で固定配置されることによって,可動側刃物に対して回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行うことと相俟って,@破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができ,A袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ,B破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがない等の効果を奏するものである。
(イ) 原告の主張について 原告は,相違点1に係る本件発明1の構成により奏される効果は,平行な対向壁面から凸設された両側の固定側刃物を水平状態とすることによる自明な効果にすぎない旨主張する。
しかし,本件発明1における固定側刃物は,破袋室の対向壁面のうち,回転体を水平に軸支する対向壁面とは別の,平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板から成る複数の板状刃物を,回転体の軸方向に配列したものであるところ,本件発明1は,上記固定側刃物の配置と,可動側刃物に対して回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行うこととが相俟って,前記(ア)の@ないしB等の効果を奏するものであるから,これらの効果が,平行な対向壁面から凸設された両側の固定側刃物が水平状態とされた構成のみによる自明な効果にすぎないということはできない。
イ 引用発明における固定側刃物の配置位置について 引用発明における固定側刃物は,@破袋室Bの対向壁面間に,回転体Cと平行に設けられた非回転体Eに,板厚みを水平に凸設配置された垂直板から成る複数の板状刃物と,A回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から下方に向けて板厚みを水平に凸設配置された垂直板から成る複数の板状刃物と,により構成される。
そして,前記(2)イのとおり,引用発明の固定側刃物Fのうち,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設された板状刃物は,負荷による逆転が発生すると,ゴム製の抜け止めスクレーパーの保持力が弱いために背面から抜けが見られるという問題に対する解決手段として設けられたものであって,ゴム製スクレーパーが設けられていた位置にそのまま配置されたものである。
ウ 相違点1の容易想到性について (ア) 引用発明の固定側刃物Fのうち,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設された板状刃物は,前記イのとおり,負荷による逆転が発生すると,ゴム製の抜け止めスクレーパーの保持力が弱いために背面から抜けが見られるという問題に対する解決手段として設けられたものであって,ゴム製スクレーパーが設けられていた位置にそのまま配置されたものであるから,引用発明において,上記板状刃物は,負荷による逆転が発生した際に背面からの抜けが生じないように袋体を保持するという作用効果を奏するものであるということができる。
これに対し,引用発明から,固定側刃物を,可動側刃物に水平方向から対向する位置に,回転軸方向に所定間隔で固定配置するとともに,可動側刃物に対して,回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行うことによって,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋するようにする,袋体のブリッジ現象の発生を防止するようにする,あるいは,破袋後の袋破片の回転体や固定側刃物への絡みつきを防止するようにする,という技術的思想を読み取ることはできない。
そうすると,引用発明において,固定側刃物Fのうち回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設された板状刃物に関し,負荷による逆転が発生した際に背 面からの抜けが生じないように袋体を保持するという作用効果を奏する上記板状刃物の配置位置を,可動側刃物に水平方向から対向する位置に配置するように変更する動機付けがない。
(イ) 甲10,12及び14の記載内容 a 実開平6-45640号公報(甲10)甲10には,以下の記載がある。
【0001】この考案は,工作機械等より排出される切粉を効率よく細断処理するようにした切粉細断装置に関するものである。
【0006】以下本案の実施例について説明する。本装置は…フレームA(1)とフレームB(2)で囲まれた鉄枠の中心にスプラインを施したシャフト(7)をブッシュ(8)によりフレームA(1),フレームB(2)に支持してある。シャフト(7)には回転刃A(3),回転刃B(4)を交互に配列しシャフト(7)の一端をチエーンカップリング(8)によりギヤーモーター(11)の軸に直結させ,フレームB(2)には固定刃A(5),固定刃B(6)をとりつけてある。鉄枠の上にはホッパー(13)が取り付けてある。上記細断装置は,ベースプレート(16)に固定してあり,別途設けた架台(12)の上にベースプレート(16)を固定し,前記細断装置の下にパレット(14)を設置してある。切粉がホッパー(13)に投入されると,回転刃A(3)及び,回転刃B(4)が固定刃A(5)とかみ合って切粉を細断する。ある一定時間たつと,自動的に逆転し回転刃A(3),回転刃B(4)がかみ合って切粉を細断する。この正転,逆転を繰り返すのは一方のみの回転では切粉が溜まり易いのでそれを防ぐ為である。スペーサー(15)も溜まりを防ぐために取り付けてある。
b 特開2003-260378号公報(甲12) 甲12には,以下の記載がある。
【0001】本発明は,破砕機および破砕方法に関するものである。更に詳しくは,長く太い廃材も短時間で処理することができる,処理能力に優れた破砕機およ び破砕方法に関する。
【0040】(作用)…本実施の形態に係る破砕機Aの作用を説明する。(1)処理容器1に上部の投入口10から,廃材等の被処理物を所要量投入する。投入された被処理物は,処理容器1内の回転ドラム2の上部にたまる。なお,処理容器1は,一方向へ長い構造で,回転ドラム2もそれに対応して軸方向へ長い構造であるので,被処理物が建設廃材の柱や梁等の長いものであっても,前処理などする必要はなく,そのまま投入することができる。
【0041】(2)油圧制御ユニット4を操作して油圧モータユニット3を駆動し,回転ドラム2を一方向へ回転させる。回転ドラム2の回転によって,移動刃体21が回転移動し,被処理物は各移動刃体21によって処理容器1の一方の側面板11(または側面板12)側へ寄せられる。
【0042】(3)被処理物は,回転ドラム2が更に回転することによって,その全長にわたって各移動刃体21と各固定刃体16で噛み込まれ,表面側から削られ,または破砕されて細片化される。各移動刃体21は回転ドラム2の外周面に螺旋状に設けられているので,各移動刃体21は固定刃体16との間で被処理物を噛み込むときに一度に噛み込むことがなく,順次噛み込んでいくので,破砕処理に要する動力すなわち回転ドラム2を回転させるのに要する動力を平均化することができる。これにより,特に駆動系に無理な力が作用せず,機械の破損を防止することができる。なお,被処理物の噛み込みによる負荷が大きすぎて回転ドラム2の回転が停止した場合は,逆方向に回転させれば,上記と同様に破砕処理ができる。つまり,回転ドラム2の回転方向の制御は,一方向に回転しているときに過負荷によって停止したら,逆方向に回転させるという,ごく単純な制御でよい。
【0043】(4)被処理物が細片化されたものは,処理容器1下部の斜面板111,121を通り,作動しているベルトコンベヤ5の搬送部に落ち,処理容器1の外部へ送り出される。このように,被処理物の一端側から削るのではなく,長手方向の全体を削っていくので,被処理物が建築物の柱や梁等のように長尺で太いも のであっても,短時間での破砕処理が可能になる。また,移動刃体21のタイミングをずらしながら固定刃体16と協働させることにより被処理物を削って細片化するので,被処理物は各移動刃体21と固定刃体16によって小さな範囲で削られることになり,より細かな細片化ができる。
c 実開平7-7742号公報(甲14)甲14には,以下の記載がある。
【0001】この考案は,工作機械等より排出される切粉を効率よく細断処理するようにした切粉細断装置に関するものである。
【0002】従来の切粉処理機は一軸のシャフトに回転刃を固定させ,両側に固定刃を固定しそのかみ合わせで,切粉を引っかけるようにして切断していた。
【0006】以下本案の実施例について説明する。
本装置は…,フレームA(1)とフレームB(2)で囲まれた鉄枠に互いに平行にセットされたスプラインを施したシャフトA(7)およびシャフトB(8)をフレームA(1)に支持してある。シャフトA(7),シャフトB(8)には両刃を備えた回転刃A(5),回転刃B(6)をそれぞれ交互に配列し固定してある。そして,シャフトA(7)の一端をチエーンカップリング(10)によりギヤーモーター(13)の軸に直結させ,シャフトA(7),シャフトB(8)の他の一端をギヤー(17)で連結してある。…フレームB(2)の内側には固定刃A(3)を固定し,シャフトA(7)とシャフトB(8)の間の中央に固定刃B(4)をライナー(19)と共に固定してある。それからフレームA(1)とフレームB(2)で囲まれた鉄枠の上にホッパー(15)が固定してある。… 切粉がホッパー(15)に投入されると,回転刃A(5)及び回転刃B(6)が切粉を巻き込むように回転し固定刃B(4)とかみ合って細断していく。ある時間たつとギヤーモーター(13)が逆転して回転刃A(5),回転刃B(6)が外向きに回転し固定刃A(3)とかみ合って切粉を細断する。正転と逆転を繰り返させるのは,一方のみの回転だと刃先にたまりが出来るのを防ぐためである。… d 前記aないしcには,固定側刃物を,可動側刃物に水平方向から対向する位置に固定配置する細断装置又は破砕機が記載されているが,a及びcに記載された細断装置は,工作機械等より排出される切粉を細断処理する装置に関し,bに記載された破砕機は廃材を破砕処理する装置に関するものであって,本件発明1や引用発明のように,袋体を破砕処理する装置に関するものではない。
そして,前記aないしcには,固定側刃物を,可動側刃物に水平方向から対向する位置に,回転軸方向に所定間隔で固定配置するとともに,可動側刃物に対して,回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行うことによって,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋するようにする,袋体のブリッジ現象の発生を防止するようにする,あるいは,破袋後の袋破片の回転体や固定側刃物への絡みつきを防止するようにする,という技術的思想については,記載も示唆もない。
(ウ) 以上によれば,引用発明において,固定側刃物Fのうち回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から凸設された板状刃物の配置位置を,可動側刃物に水平方向から対向する位置に配置するように変更する動機付けはなく,また,甲10,12及び14は,そもそも,袋体を破砕処理する装置に関するものではなく,固定側刃物を可動側刃物に水平方向から対向する位置に固定配置するとともに,可動側刃物に対して,回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行うことによって,連続して効率よく破袋するようにする,袋体のブリッジ現象の発生を防止するようにする,あるいは,破袋後の袋破片の回転体や固定側刃物への絡みつきを防止するようにするという技術的思想については,記載も示唆もないから,引用発明において,甲10,12及び14に記載された発明を適用する動機付けもない。
したがって,引用発明において,相違点1に係る本件発明1の構成を備えるようにすることが,当業者において容易に想到することができたことであるとはいえない。
エ 小括 以上によれば,取消事由1-1は理由がない。
(4) 取消事由1-2(相違点2に係る容易想到性の判断の誤り)についてア 本件発明1における「正・逆転パターンの繰り返し駆動」の意義について (ア) 本件発明1は,「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」を有するが,この「正・逆転パターンの繰り返し駆動」が具体的にどのような回転体の駆動を意味するものかについては,特許請求の範囲(請求項1)の記載からは明確ではない。
(イ) そこで本件明細書の記載を参酌すると,前記1(1)記載のとおり,本件明細書には,本件発明1は,可動側刃物に対して「回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動」を行うことにより,袋体を効率よく破袋し袋破片が回転軸に絡みつくことなく,袋破片と缶や瓶等とを分離できることを見いだしたものであることが記載されている(【0011】)。
また,本件発明1は,破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群とから構成され,かつ前記回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,@破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができ,A袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ,B破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがない等の効果を奏するものであるところ(【0016】,【0017】,【0049】,【0050】),本件明細書には,その作用について,「正・逆転パターンの繰り返し駆動される可動側刃物10によりワークたる袋体を上方向に押し上げる作用が働き,該ホッパー3内で袋体のブリッジを防止することができる。」(【0034】),「可動側刃物10の正・逆転パターンの繰り返し駆動により,複数の可動側の垂直板からなる板状刃物12が複数の固定側の板厚みを水平にした垂直板からなる板状刃物24の間,特に隣接する板状刃物24,24間の中央部を上に下に通過する。この噛み合いの結果,破袋機1の破袋作用は,…基本的に袋体は可動側刃物10に押されて複数の板状刃物24に捕られ 引き裂き破壊されるものとなる。例えば可動側刃物10は,右に180度,左に180度のパターン1と右に360度,左に360度のパターン2を交互に繰り返すとすると,パターン1では右回転で袋を捕捉し,左回転で引き裂くことができ,またパターン2では左右とも回転することにより,袋を押し切り破壊することができ,連続運転される際,かかる引き裂き,押し切りによる破袋が交互にあるいは同時に進行する。」(【0035】)との記載がある。
さらに,実施例としては,可動側刃物の正・逆転パターンの繰り返し駆動パターンとして,@右に90度,左に90度のパターン1と右に180度,左に180度のパターン2を交互に繰り返す駆動の例(【0043】)及びA右に180度,左に180度のパターン1と右に360度,左に360度のパターン2を交互に繰り返す駆動の例(【0048】)が記載されている。
(ウ) 上記のとおり,本件明細書には,本件発明1の可動側刃物に対する駆動は,回転ではなく,正・逆転パターンの繰り返し駆動であることが記載されているが,「パターン」の用語は一般に「型」といった意味であることに照らすと,これは,単なる右回転又は左回転の駆動ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとした,当該パターンの繰り返し駆動であることを意味するものと解される。そして,本件明細書中には,正・逆転パターン中の右及び左の回転角度が一定の角度以下であることを示す記載は存しないから,本件発明1における正・逆転パターン中の右及び左の回転角度は一定の角度以下のものに限られないものと解される。
他方で,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」という発明特定事項は,原出願の願書に最初に添付した明細書等に記載されていた「揺動回転駆動」を補正することにより,加えられたものであること(本件審決書51頁18行ないし24行)や「パターン」は「型。類型。様式。」といった意味を有する用語であること(岩波書店「広辞苑」第6版)に加え,本件発明1は,回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,@破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができ, A袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ,B破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがない等の効果を奏するものであること及び本件明細書には,1パターン中の右と左の回転角度が同じ角度とされた駆動についての記載しかないことに照らすと,正・逆転パターンは,1パターン中の右回転と左回転がどちらか一方に偏った駆動を意味するものではなく,1パターン中の右回転と左回転が均衡した駆動を意味するものと解される。
(エ) ところで,本件明細書の【0013】及び【0015】には,可動側刃物を水平基準点から一方向に所要角度回転した後,反対方向に前記所要角度回転させる正・逆転パターンを1単位とし,正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動に関する記載があるが,これらの記載は,特許請求の範囲の請求項5ないし7に記載された破袋機の駆動方法の発明に係る記載であって,これらの記載から,本件発明1における「正・逆転パターンの繰り返し駆動」が,上記のように複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動に限られるものであると解することはできない。また,【0043】及び【0048】の記載も,そこに開示された実施例は,本件発明1のみならず,請求項5ないし7に記載された発明にも対応するものであると解されるから,上記記載から,本件発明1における「正・逆転パターンの繰り返し駆動」が,上記のように複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動に限られるものであると解することもできない。
(オ) 以上のとおり,本件明細書の記載を参酌すれば,本件発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」とは,単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして,1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解される。
イ 引用発明における「正逆転駆動」について 引用発明は,「夫々独立した正転タイマ及び逆転タイマにより,回転体Cが正逆転駆動を行なう駆動制御手段」を備え,回転体Cに対して正逆転駆動を行うもので あるが,その具体的な駆動いかんについては明らかでない。
ウ 相違点2の容易想到性について 前記アのとおり,本件発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」とは,単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして,1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解されるのに対し,引用発明における「正逆転駆動」がどのような駆動を行うものであるかは明らかではない。
そして,前記(3)ウ(ア)のとおり,引用発明から,固定側刃物を,可動側刃物に水平方向から対向する位置に,回転軸方向に所定間隔で固定配置するとともに,可動側刃物に対して,回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行うことによって,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋するようにする,袋体のブリッジ現象の発生を防止するようにする,あるいは,破袋後の袋破片の回転体や固定側刃物への絡みつきを防止するようにする,という技術的思想を読み取ることはできない。
そうすると,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成を備えることを容易に想到することができたとはいえない。
エ 小括以上によれば,取消事由1-2は理由がない。
(5) 以上のとおり,本件発明1は,引用発明に基づき容易に発明をすることができたとはいえず,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(本件発明2及び3に係る引用発明に基づく進歩性判断の誤り)について 本件発明1が引用発明に基づき容易に発明をすることができたものであるとはいえないことは,前記2のとおりであるから,本件発明1に限定を加えた本件発明2及び3についても,引用発明に基づき容易に発明をすることができたものであると はいえない。
よって,取消事由2は理由がない。
4 結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 柵木澄子
裁判官 鈴木わかな