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事件 平成 26年 (ワ) 34145号 損害賠償請求事件

原告 AdaZERO株式会社
同 訴 訟代理人弁護士横木雅俊 篠原芳宏
被告アスクル株式会社
同 訴 訟代理人弁護士松田政行 上村哲史 奥山健志 田中浩之 呂佳叡
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/01/14
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,4億円及びこれに対する平成27年1月8日から支払 済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,発明の名称を「Web-POS方式」とする特許権を有する原告が, 被告に対し,被告による電子商取引(Eコマース)サイトの制御方法の使用が 特許権侵害に当たると主張して,民法709条及び特許法102条3項に基づ き,損害賠償金4億円(内金請求)及びこれに対する不法行為の後の日(訴状 送達の日の翌日)である平成27年1月8日から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実) 当事者 ア 原告は,ソフトウェアの企画等,電子商取引の構築及び運営,決済端末 機販売,インターネットを利用した決済代行等を業とする株式会社であ る。
イ 被告は,インターネットによる通信販売等を業とする株式会社である。
原告の特許権 ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲 請求項1に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
特許番号 第5097246号 原出願日 平成10年1月9日 出 願 日 平成22年7月11日 登 録 日 平成24年9月28日 発明の名称 Web-POS方式 イ 本件特許権の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下, この発明を「本件発明」といい,その特許出願の願書に添付された明細書 及び図面を「本件明細書」という。)。
「 汎用のコンピュータとインターネットを用い,HTTPに基づくHT MLリソースの通信が行われるWebサーバ・クライアント・システム において,商品の販売時点における情報を管理するためのWeb-PO Sネットワーク・システムの制御方法であって, 上記Webサーバ・システムが,取扱商品に関する基礎情報を管理す る商品(PLU)マスタDBを備え,該商品(PLU)マスタDBの管理,HTTPメッセージに基づくプログラムの実行及び,HTMLリソースの生成及び供給を行うサーバ装置からなる,Web-POSサーバ・システムであり, 上記Webクライアント装置が,タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる入力手段を有する表示装置とWebブラウザを備えた,Web-POSクライアント装置であって, 上記Web-POSクライアント装置から,Webブラウザを介し,上記Web-POSサーバ・システムにアクセスすることにより,該Web-POSサーバ・システムから該Web-POSクライアント装置に対し,該Web-POSクライアント装置における商品の選択や発注に係るユーザ操作を受け付けるHTMLリソースが供給されると共に,該Web-POSクライアント装置におけるユーザ操作に基づく商品の売上情報が,該Web-POSサーバ・システムによって管理されるWeb-POSネットワーク・システムにおいて, 上記Webブラウザによる処理が,少なくとも,1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程, すなわち,上記Web-POSサーバ・システムから上記Web-POSクライアント装置に該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテゴリーに対応するカテゴリーリストを含むHTMLリソースが供給され,該供給されたカテゴリーリストを含むHTMLリソースが上記Webブラウザにおいて処理されることで,該Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に該カテゴリーリストが表示され,ユーザが,該入力手段により,該表示されたカテゴリーリストからカテゴリーを変更または入力(選択)するごとに,該変更または入 力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を含むHTMLリソースを要求するHTTPメッセージが上記Web-POSサーバ・システムに送信され,該要求のHTTPメッセージに基づき,該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品に関する基礎情報から該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報が抽出され,該抽出された商品基礎情報を含むHTMLリソースが生成されると共に,該Web-POSクライアント装置に送信され,該送信された商品基礎情報を含むHTMLリソースが該Webブラウザにおいて処理されることで,該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報からなる商品リストが該入力手段を有する表示装置に表示される,ユーザが所望するカテゴリーの商品(PLU)リストが表示される,カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程,2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程,すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上記カテゴリーに対応する上記商品(PLU)リストにおいて,ユーザが,該入力手段により,商品を特定するための商品識別情報を入力(選択)するごとに,該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報が上記Web-POSサーバ・システムに問い合わされて取得され,該取得された商品基礎情報に基づく商品の情報が該入力手段を有する表示装置に表示される,ユーザが所望する商品の情報が表示される,商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程,3)商品注文内容の表示制御過程,すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上記商品の情報について,ユーザが,該入力手段 により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく計算が行われると共に,前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報が該入力手段を有する表示装置に表示されると共に,ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)されることになる,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程,を含み, 更に,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記商品(PLU)マスタDBの1レコードが1商品に対応し,該レコードに上記商品識別情報に対応するフィールドが含まれることで,取扱商品に関する商品ごとの基礎情報が,該商品識別情報に対応するフィールドを含むレコードによって管理されることで,上記Web-POSクライアント装置におけるユーザ操作に基づく商品選択時点のPLU情報が,Webブラウザを介して,上記Web-POSサーバ・システムから供給されると共に,該PLU情報に基づく商品ごとの注文情報が,Webブラウザを介して,該Web-POSサーバ・システムにおいてリアルタイムに取得される,Web-POSネットワーク・システムによるPOS管理(商品の販売時点における情報の管理)が実現され, 更にまた,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記Web-POSクライアント装置からリアルタイムで取得(受信)した上記商品の注文情報を売上管理DBに反映する売上管理DBへの登録過程を含むことで, 上記Web-POSクライアント装置におけるユーザによる商品の注 文操作が,Webブラウザを介するだけで,該商品ごとの注文情報とし て上記Web-POSサーバ・システムにおいて取得され,該取得され た商品ごとの注文情報に基づく売上管理が実現されることを特徴とする Web-POSネットワーク・システムの制御方法。」ウ 本件発明は,以下の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件 を「構成要件A」などという。) A: 汎用のコンピュータとインターネットを用い,HTTPに基づくH TMLリソースの通信が行われるWebサーバ・クライアント・シス テムにおいて, B: 商品の販売時点における情報を管理するためのWeb-POSネッ トワーク・システムの制御方法であって, C: 上記Webサーバ・システムが,取扱商品に関する基礎情報を管理 する商品(PLU)マスタDBを備え,該商品(PLU)マスタDB の管理,HTTPメッセージに基づくプログラムの実行及び,HTM Lリソースの生成及び供給を行うサーバ装置からなる,Web-PO Sサーバ・システムであり, D: 上記Webクライアント装置が,タッチパネル,キーボード,マウ ス,電子ペンからなる入力手段を有する表示装置とWebブラウザを 備えた,Web-POSクライアント装置であって, E: 上記Web-POSクライアント装置から,Webブラウザを介し, 上記Web-POSサーバ・システムにアクセスすることにより,該 Web-POSサーバ・システムから該Web-POSクライアント 装置に対し,該Web-POSクライアント装置における商品の選択 や発注に係るユーザ操作を受け付けるHTMLリソースが供給される と共に,該Web-POSクライアント装置におけるユーザ操作に基 づく商品の売上情報が,該Web-POSサーバ・システムによって 管理されるWeb-POSネットワーク・システムにおいて,F1: 上記Webブラウザによる処理が,少なくとも,F2: 1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程, すなわち,上記Web-POSサーバ・システムから上記We b-POSクライアント装置に該Web-POSサーバ・システ ムの商品(PLU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品 に関する基礎情報に含まれたカテゴリーに対応するカテゴリーリ ストを含むHTMLリソースが供給され,該供給されたカテゴリ ーリストを含むHTMLリソースが上記Webブラウザにおいて 処理されることで,該Web-POSクライアント装置の入力手 段を有する表示装置に該カテゴリーリストが表示され,ユーザが, 該入力手段により,該表示されたカテゴリーリストからカテゴリ ーを変更または入力(選択)するごとに,該変更または入力(選 択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を含むHTMLリ ソースを要求するHTTPメッセージが上記Web-POSサー バ・システムに送信され,該要求のHTTPメッセージに基づき, 該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDB において管理されている取扱商品に関する基礎情報から該変更ま たは入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報が抽 出され,該抽出された商品基礎情報を含むHTMLリソースが生 成されると共に,該Web-POSクライアント装置に送信され, 該送信された商品基礎情報を含むHTMLリソースが該Webブ ラウザにおいて処理されることで,該変更または入力(選択)さ れたカテゴリーに対応する商品基礎情報からなる商品リストが該 入力手段を有する表示装置に表示される, ユーザが所望するカテゴリーの商品(PLU)リストが表示さ れる,カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過 程,F3: 2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程, すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を 有する表示装置に表示された上記カテゴリーに対応する上記商品 (PLU)リストにおいて,ユーザが,該入力手段により,商品 を特定するための商品識別情報を入力(選択)するごとに,該入 力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報が上記W eb-POSサーバ・システムに問い合わされて取得され,該取 得された商品基礎情報に基づく商品の情報が該入力手段を有する 表示装置に表示される, ユーザが所望する商品の情報が表示される,商品識別情報の入 力(選択)のための表示制御過程,F4: 3)商品注文内容の表示制御過程, すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を 有する表示装置に表示された上記商品の情報について,ユーザが, 該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく計 算が行われると共に,前記入力(選択)された商品識別情報と該 商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報に基づく商 品の注文明細情報が該入力手段を有する表示装置に表示されると 共に,ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オーダ・ボタン をクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該数量入 力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサー バ・システムにおいて取得(受信)されることになる, ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程, を含み, G: 更に,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記商品(P LU)マスタDBの1レコードが1商品に対応し,該レコードに上記 商品識別情報に対応するフィールドが含まれることで,取扱商品に関 する商品ごとの基礎情報が,該商品識別情報に対応するフィールドを 含むレコードによって管理されることで, 上記Web-POSクライアント装置におけるユーザ操作に基づく商 品選択時点のPLU情報が,Webブラウザを介して,上記Web- POSサーバ・システムから供給されると共に,該PLU情報に基づ く商品ごとの注文情報が,Webブラウザを介して,該Web-PO Sサーバ・システムにおいてリアルタイムに取得される,Web-P OSネットワーク・システムによるPOS管理(商品の販売時点にお ける情報の管理)が実現され, H: 更にまた,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記W eb-POSクライアント装置からリアルタイムで取得(受信)した 上記商品の注文情報を売上管理DBに反映する売上管理DBへの登録 過程を含むことで,上記Web-POSクライアント装置におけるユ ーザによる商品の注文操作が,Webブラウザを介するだけで,該商 品ごとの注文情報として上記Web-POSサーバ・システムにおい て取得され,該取得された商品ごとの注文情報に基づく売上管理が実 現されることを特徴とする I: Web-POSネットワーク・システムの制御方法。
エ 本件発明の構成要件F2〜F4にいう「商品基礎情報」とは商品カテゴ リー,メーカー,商品名,価格等の商品に関する基礎情報のことである。
被告の行為等ア 被告は,遅くとも本件特許権の登録日以降,インターネット上で,「ア スクル・インターネットショップ」との名称でEコマースサイト(以下「本 件ECサイト」という。)を提供している。
イ 本件ECサイトには,本件ECサイトの管理,運営を行っているシステ ム(以下「管理運営システム」という。),被告の販売管理,在庫管理及 び会計管理を担当する社内業務システム(以下「基幹システム」という。) 並びに被告の物流センター内における入出荷管理,在庫管理及び設備管理 を担当するシステム(以下「物流センターシステム」という。)が関連し ている。
ウ 顧客が本件ECサイトを通じて商品を購入する場合,管理運営システ ム,基幹システム及び物流センターシステムでは,大要,以下の処理が行 われている(甲3の1〜7,乙16)。
顧客が顧客のコンピュータの画面に表示された本件ECサイトの画 面上で購入しようとする商品を選択し,「レジ」画面の「お買い上げ」 ボタンをクリックすると,顧客のコンピュータから管理運営システム内 にあるサーバに対して注文受付完了処理を求めるリクエスト情報が送信 され,管理運営システムにおいて注文受付データが作成される。このリ クエスト情報には,Cookie情報等が含まれるが,注文された商品 に係る商品基礎情報は含まれていない。
注文受付データは管理運営システムから基幹システムに送信され,受 注の可否が審査される。審査を通過した注文受付データは基幹システム 内の受注DB(データベース)に送信され,受注DB内で受注データが 作成される。この受注データは基幹システム内の出荷DBに送信され, 出荷データが作成されるとともに,この出荷データに基づく出荷指示デ ータが作成される。
出荷指示データは基幹システムから物流センターシステムに送信さ れ,倉庫内で人手による梱包,発送作業が行われる。倉庫から商品が出 荷される際に,物流センターシステムにおいて出荷実績データが作成さ れる。
出荷実績データは物流センターシステムから基幹システム内の出荷 DBに送信され,出荷DB内にある出荷データにこの出荷実績データが 反映される。出荷実績データが反映された出荷データは出荷DBから基 幹システム内の売上DBに送信され,この出荷データに基づく売上デー タが作成される。
2 争点 構成要件充足性 被告は,後記ア〜エの点を除いて,本件ECサイトの制御方法が本件発明 の構成要件を充足することを争っていない。
ア 「Web-POSネットワーク・システム」,「Web-POSサーバ ・システム」及び「Web-POSクライアント装置」(構成要件B〜E 及びF2〜I)の充足性 イ 「タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる入力手段」(構 成要件D)の充足性 ウ 「注文情報」(構成要件F4,G及びH)の充足性 エ 「売上管理が実現」及び「注文情報を売上管理DBに反映する売上DB への登録過程を含む」(構成要件H)の充足性 損害の額3 争点に関する当事者の主張 (構成要件充足性)について ア 「Web-POSネットワーク・システム」,「Web-POSサーバ ・システム」及び「Web-POSクライアント装置」(構成要件B〜E 及びF2〜I)の充足性 (原告の主張) POSシステムとは,事業者が事業を営む過程で必要な情報を,その発生時点で即時に端末からサーバコンピュータに送信し,この情報をビジネスに活用できるシステムをいい,その使用は小売の実店舗に限定されるものでなくEコマースにおいても使用され得る(甲5〜10,14,乙2,4)。このことからすると,「Web-POSネットワーク・システム」とは,POS(販売時点情報管理)のために必要な情報を送信するクライアント端末(「Web-POSクライアント装置」に相当する。)とPOSを実行するサーバシステム(「Web-POSサーバ・システム」に相当する。)との間を専用線ではなくインターネット回線で接続したPOSシステムをいうと解すべきである。被告が主張する小売業者が店頭又は窓口にレジスター等の端末を設置していることは「Web-POSネットワーク・システム」の必須の要素とはならない。また,「Web-POSクライアント装置」は必ずしも「Web-POSネットワーク・システム」の制御主体が管理する端末である必要はない。
本件ECサイトにおいては,顧客のコンピュータ(「Web-POSクライアント装置」に相当する。)に入力された情報が即時に被告が管理するサーバシステム(「Web-POSサーバ・システム」に相当する。)に送信され,被告は送信された情報を商品の販売管理等に用いているから,上記のPOSシステムが採用されているといえる。したがって,本件ECサイトの制御方法は「Web-POSネットワーク・システム」,「Web-POSサーバ・システム」及び「Web-POSクライアント装置」(構成要件B〜E及びF2〜I)を充足する。
(被告の主張) POSの一般的な定義(乙1,2),本件明細書の記載(段落【0002】〜【0008】,【0014】〜【0017】)及び当業者の理解(乙5,8,12)を踏まえれば,「Web-POSネットワーク・システム」 とは,@小売業者が店頭又は窓口にレジスター等の端末を設置して,Aこ の端末で収集,取得した販売情報(売上情報)等の情報を発生時点で即時 にサーバコンピュータに送信して処理し,この情報を小売業者のビジネス に活用できるようにするシステムのうち,B端末とサーバコンピュータと をインターネット回線で接続したものをいうと解釈すべきである。
本件ECサイトの顧客のコンピュータは上記@及びAを満たさないので 「Web-POSクライアント装置」(構成要件D,E及びF2〜H)を 充足せず,管理運営システムは上記Aを満たさないので「Web-POS サーバ・システム」(構成要件C,E及びF2〜H)を充足しない。した がって,本件ECサイトの制御方法は「Web-POSネットワーク・シ ステム」(B,E,G及びI)を充足しない。
イ 「タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる入力手段」(構 成要件D)の充足性 (原告の主張) 構成要件Dは「タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる 入力手段」となっており,「又は」とも「及び」とも記載されていないが, 本件明細書の記載(段落【0032】,【0135】,【0143】)を 参酌すれば,タッチパネル,キーボード,マウス又は電子ペンのいずれか からなる入力手段と解釈すべきである。
そして,本件ECサイトの顧客が使用する一般的なコンピュータ(「W eb-POSクライアント装置」に相当する。)は,接触操作型入力装置, 文字入力装置,ポインティングデバイス又はペン型入力装置(それぞれ「タ ッチパネル」,「キーボード」,「マウス」,「電子ペン」に相当する。) のいずれかを備えているから,本件ECサイトの制御方法は構成要件Dの 「タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる入力手段」を充 足する。
なお,平成24年7月22日付け手続補正書(乙36)において「また は」の語句を削除したことは単なる誤記であり,原告には「タッチパネル, キーボード,マウス,電子ペン」の全てを備えていなければならないよう に特許請求の範囲を補正する意図はなかった。
(被告の主張) 構成要件Dの「タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる 入力手段」には選択的であることを示す「又は」の記載がないから,「入 力手段」はタッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンの全てを含むも のでなければならない。
また,本件特許の願書(乙17)の特許請求の範囲請求項1は「タッチ パネル,キーボード,マウス,電子ペンまたはスキャナ装置からなる入力 手段」となっていたところ,平成24年7月22日付け手続補正書(乙3 6)において「タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる入 力手段」と補正され,「または」の語句が削除されていることからしても, 「入力手段」は上記のように解釈すべきである。
そして,一般的なコンピュータはタッチパネル,キーボード,マウス, 電子ペンの全てを備えているとは考え難いから,構成要件Dの「タッチパ ネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる入力手段」を充足しない。
ウ 「注文情報」(構成要件F4,G及びH)の充足性 (原告の主張) 本件発明においては,「Web-POSサーバ・システム」において 「注文情報」が取得(受信)されることになっている。そして,顧客が 本件ECサイトを通じて商品を購入する場合,顧客のコンピュータから 管理運営システム内にあるサーバに対して注文受付完了処理を求めるリ クエスト情報が送信されるところ,上記サーバが「Web-POSサー バ・システム」,上記リクエスト情報が「注文情報」にそれぞれ相当す る。
したがって,本件ECサイトの制御方法は構成要件F4,G及びHを充足する。
被告は,「注文情報」とは商品基礎情報を含む情報をいうと解釈すべきである旨主張し,その根拠として,@「注文情報」は,平成23年3月27日付け手続補正書(乙27)により,補正前の「注文商品明細情報」を言い換えたものであること,A同年10月9日付け意見書(乙20)の記載,B本件明細書の記載(段落【0031】,【0138】,【0142】),C構成要件F4における「計算結果の注文情報」は商品基礎情報のみならず,計算がなされた結果としての状態のものも含んでいなければならないことを挙げる。
しかし,本件特許の特許請求の範囲には,「注文情報」に商品基礎情報が含まれていなければならない旨,商品基礎情報が「注文情報」と共にサーバ側に送信される旨の記載はないから,「注文情報」を商品基礎情報を含んだ情報と解釈することはできず,上記@〜Cは,以下のとおり,いずれも被告が主張する「注文情報」の解釈の根拠とならない。
@ 本件特許の特許請求の範囲請求項1において「注文明細情報」と「注文情報」が使い分けられていることからすれば,「注文商品明細情報」を置き換えたのは「注文明細情報」と捉えるべきである。A 上記意見書の記載は,POSを実現するためには注文された情報をサーバ側で正確に特定できる構成にする必要があること,注文された情報をサーバ側で正確に特定する実施例の一つとして,注文情報の中に商品基礎情報を含めることによって,商品注文後に改めて商品マスタDBを参照する必要をなくす構成があり得ることを指摘したものにすぎない。B 本件明細書の上記各段落の記載は,そもそも本件発明ではなく本件特許権に係る特許請求の範囲請求項3に記載された発明に関するものである し,注文情報に商品基礎情報が含まれないとしても注文情報を転送する ことによって商品供給元において商品名や価格等を特定できるシステム を構築することは可能である。C 構成要件F4の「計算結果の注文情 報」のうち「計算結果の」とは計算結果に対応した,又は計算結果を踏 まえたという意味である。
(被告の主張) 「注文情報」は,本件特許の特許願(乙17)等における「注文商品明細情報」との文言が平成23年3月27日付け手続補正書(乙27)によって補正されたものであって,「注文商品明細情報」を言い換えたものであるから,「注文情報」には商品基礎情報が含まれると解すべきである。
また,原告は,同年10月9日付け意見書(乙20)において,「本願発明では,既に受信した注文情報に,該更新以前に入力(選択)された商品の識別情報と該入力(選択)された識別情報に対応する商品基礎情報が含まれている」と説明しており,「注文情報」に商品基礎情報が含まれていることは明らかである。
さらに,本件明細書において「商品注文情報」(「注文情報」)をHTTP通信や電子メールによって各商品供給元等に送信することが説明されているところ(段落【0031】,【0138】,【0142】),各商品供給元等に単なる注文情報を送信する理由はないから,「注文情報」には商品基礎情報が含まれていると解釈すべきである。
加えて,構成要件F4においては「計算結果の注文情報」となっていることから,その計算がどこで行われていようが,構成要件F4における「注文情報」は商品基礎情報のみならず,計算がされた結果としての状態のものも含んでいなければならない。
以上によれば,「注文情報」とは,単なる注文ではなく,商品カテゴリー,メーカー,商品名,価格等の商品に関する商品基礎情報を含む情報を いうものと解される。そして,本件ECサイトにおいては,顧客のコンピ ュータから管理運営システム内にあるサーバに対して送信されるリクエ スト情報には商品基礎情報は含まれていないから,本件ECサイトの制御 方法は構成要件F4,G及びHを充足しない。
エ 「売上管理が実現」及び「注文情報を売上管理DBに反映する売上DB への登録過程を含む」(構成要件H)の充足性 (原告の主張) 被告のサーバシステムの内部を役割に応じて管理運営システム,基幹シ ステム及び物流センターシステムの3つに分類することができるとして も,これら3つのシステムとユーザコンピュータが相互に連携して本件E Cサイトにおける商品の受注や発送という一連の業務を達成する機能を 果たしていることからすれば,これら3つのシステムを一体として本件E Cサイトのシステムとして捉えるべきである。
「反映」とは「転じて,影響が他に及んで現れること」をいうから,注 文情報が形を一切変えることなく売上管理DBに記録されることまで要 求されるものではない。基幹システム内の売上DBには出荷実績データに 基づいて作成された売上データが反映されるところ,この売上データは注 文受付データを基礎にして生成される情報であるから,本件ECサイトの システムは「注文情報を売上管理DBに反映する売上DBへの登録過程を 含む」ということができ,「売上管理が実現」している。したがって,本 件ECサイトの制御方法は構成要件Hを充足する。
(被告の主張) 基幹システムは被告の社内全般の業務に係るシステムであり,本件E Cサイトの管理は基幹システムが担当する業務の一部にすぎない。物流 センターシステムにおける業務には人手による梱包,発送作業が含まれ ている。これらのことからすれば,管理運営システム,基幹システム及 び物流センターシステムを一体として本件ECサイトのシステムと捉え るべきではなく,管理運営システムのみを本件ECサイトのシステムと して考えるべきである。
管理運営システムは,本件ECサイトを通じて顧客からの注文を受け 付ける過程までを担当するシステムであり,売上管理DBを備えていな い。したがって,管理運営システムにおいては,注文情報を売上管理D Bに反映する登録過程は存在せず,売上管理が実現されていないから, 構成要件Hの「売上管理が実現」及び「注文情報を売上管理DBに反映 する売上DBへの登録過程を含む」を充足しない。
管理運営システム,基幹システム及び物流システムを一体のシステム と捉えたとしても,基幹システム内の売上DB(「売上管理DB」に相 当する。)に反映されるのは,出荷実績データに基づいて作成された売 上データであって,注文情報ではない。したがって,「注文情報を売上 管理DBに反映する売上管理DBへの登録過程」が存在しないので,本 件ECサイトの制御方法は構成要件Hを充足しない。
(損害の額)について (原告の主張) 平成24年9月28日から平成26年12月24日までの間の本件EC サイトにおける商品の販売による売上額は1年当たり少なくとも1780 億円であるところ,本件発明の実施に対し原告が受けるべき金銭の額は売上 額の3%を下らないから,原告は,少なくとも119億円(1780億円× 3%÷365日×817日)の損害を被った(特許法102条3項)。
また,原告は,弁護士費用として上記金額の10%相当額の損害を被った。
(被告の主張) 争う。
当裁判所の判断
1 争点 H)の充足性)について のとおり,本件ECサイトにおいては,顧客が商品を 購入する場合,顧客のコンピュータから注文受付完了処理を求めるリクエス ト情報(これには商品基礎情報は含まれていない。)が送信され,このリク エスト情報が管理運営システム内にあるサーバにおいて受信されることに なる。
原告は,上記リクエスト情報が構成要件F4,G及びHの「注文情報」に 当たる旨主張するので,以下検討する。
ア 本件発明において,「注文情報」は,Web-POSクライアント装置 の入力手段によりユーザがオーダ操作を行うとWeb-POSサーバ・シ ステムが取得するもの(構成要件F4),ユーザ操作に基づく商品選択時 点のPLU情報に基づく情報としてWebブラウザを介してWeb-P OSサーバ・システムがリアルタイムに取得するもの(構成要件G),商 品ごとの情報として売上管理DBに登録され,これに基づく売上管理が実 現されるもの(構成要件H)とされている。そうすると,「注文情報」と は,特許請求の範囲の文言上,特定の商品がユーザによって注文されたこ とに関する情報をいうものということができるが,その具体的な内容につ いては本件特許の特許請求の範囲に明示的な記載がない。
イ 本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の欄には,本件発明の実施形態 が記載されているところ(段落【0027】〜【0134】,【図1】〜 【図21】),この実施形態においては,「Web-POSクライアント 装置」の表示画面に「明細フォーム」(カテゴリ,メーカコード,商品番 号,商品名,単価,数量,金額といった注文商品明細が表示されているも の。【図10】〜【図12】,【図17】〜【図21】。)が表示され, 「オーダ・ボタン」のクリックに応答して,「Web-POSサーバ・シ ステム」へ明細フォーム中のカテゴリ,メーカコード等の全フィールドを 送信し,「Web-POSサーバ・システム」においてこの明細フォーム を受信することとなっているところ(段落【0056】,【0111】〜 【0125】,【0127】,【図12】),「オーダ・ボタン」のクリ ックにより「Web-POSサーバ・システム」が受信するのが「注文情 報」であることから(構成要件F4),上記明細フォームは「注文情報」 に相当するので,「注文情報」には商品名,価格等の商品基礎情報が含ま れている。また,本件明細書には本件発明の他の実施形態の説明も記載さ れているが(段落【0134】〜【0139】),いずれも「明細フォー ム」を利用するものであり,「注文情報」に商品基礎情報を含まない構成 についての記載は見当たらない。
これら本件明細書の記載を考慮して「注文情報」の意義を解釈すると, 本件発明は,「Web-POSクライアント装置」の表示画面に明細フォ ームその他商品基礎情報を含む情報を表示した上で,「オーダ・ボタン」 のクリックに応答して,これらの情報を「Web-POSサーバ・システ ム」に送信するという構成を採用したものと認められる。したがって,「W eb-POSクライアント装置」が送信して「Web-POSサーバ・シ ステム」が受信する商品の注文に関する情報にカテゴリ,メーカコード, 商品名,価格等の商品基礎情報が含まれていない場合には,構成要件F4, G及びHの「注文情報」に当たらないと解するのが相当である。
ウ 「注文情報」を上記のように解釈することは,本件特許の出願経過にお ける原告の説明とも一致する。すなわち,原告は,平成23年10月9日 付け意見書(乙20)において,引用文献1(乙11)との相違点につき, @引用文献1における注文情報は購入者ごとに生成される情報であって, この購入者ごとの注文情報は,商品識別情報等を含んだ商品ごとの情報で ある本件発明の「注文情報」とは異なる(乙20の11〜12頁),A引 用文献1には,商品注文明細情報の生成及び表示過程に関する詳細な記載 がなく,ユーザが注文した情報に売上管理等に必須となる商品識別情報及 びこれに対応する商品基礎情報が含まれていないのに対し,本件発明では 「注文情報」に商品識別情報とこれに対応する商品基礎情報が含まれてい る(同12〜13頁)と説明しており,これら@及びAの説明は上記の解 釈と整合するということができる。
エ 他方,本件ECサイトにおいては,前記前提事実 顧客 のコンピュータから管理運営システム内にあるサーバに対して送信され るリクエスト情報には注文された商品に係る商品基礎情報が含まれてい ないから,上記リクエスト情報は「注文情報」に当たらない。したがって, 本件ECサイトの制御方法が構成要件F4,G及びHを充足すると認める ことはできない。
オ これに対し,原告は,@本件特許の特許請求の範囲には「注文情報」に 商品基礎情報が含まれていなければならないなどといった記載がない,A 前記意見書(乙20)の記載は,POSを実現するためには注文された情 報をサーバ側で正確に特定できる構成にする必要があること,注文された 情報をサーバ側で正確に特定する実施例の1つとして注文情報の中に商 品基礎情報を含める構成があり得ることを指摘したものにすぎないから, 構成要件F4,G及びHの「注文情報」とは商品基礎情報を含む情報をい うと解釈することはできない旨主張する。
そこで判断するに,上記@については,前記イで説示したとおり,本件 特許の特許請求の範囲の記載に加え本件明細書の記載を参酌すると「注文 情報」には商品基礎情報が含まれると解釈すべきであるから,特許請求の 範囲にその旨の明示的な記載がないことをもって,「注文情報」に商品基 礎情報が含まれている必要はないと解釈すべきことにはならない。
また,上記Aについては,上記意見書(乙20)には「この点,本願発 明では,既に受信した注文情報に,該更新以前に入力(選択)された商品 の識別情報と該入力(選択)された識別情報に対応する商品基礎情報が含 まれているので,改めて,商品マスタDBを参照する必要はなく,注文明 細情報が実データとして管理されます。」との記載があるところ(乙20 の13頁),上記記載部分は,POSの一般論に言及したもの,あるいは 一つの実施例に言及したものではなく,本件発明について説明したものと いうべきである。
したがって,原告の上記各主張はいずれも採用することができない。
以上のとおり,本件ECサイトの制御方法は,構成要件F4,G及びHを 充足しないから,本件発明の技術的範囲に属するとは認められない。
2 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由 がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 藤原典子
裁判官 中嶋邦人
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