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事件 |
平成
26年
(ワ)
25282号
損害賠償等請求事件
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原告 エムエフピーマネジメント リ ミテッド 原告X 上記両名 訴訟代理人弁 護士飯田圭 同 小林正和 被告楽天株式会社 同 訴訟代理人弁護士高橋雄一郎 同 訴訟代理人弁理士望月尚子 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2016/01/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は,原告らに対し,それぞれ5億円及びこれに対する平成26年10月 10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,原告らが被告に対し,被告による別紙物件・方法目録記載1の管理 装置(以下「被告装置」という。)の管理運営及び同2の管理方法(以下「被 告方法」という。また,これと被告装置を併せて「被告装置・方法」とい う。)の使用が原告らの特許権の侵害に当たる旨主張して,民法709条,特 許法102条3項又は民法703条に基づき被告装置の管理運営及び被告方法 の使用による損害賠償ないし不当利得としてそれぞれ5億円(一部請求)及び これに対する特許権侵害行為の後の日である平成26年10月10日(訴状送 達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各 支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実) 当事者 原告エムエフピー マネジメント リミテッドは,亡Yが取得した特許権 を管理・運営等する会社であり,原告Xは亡Yの相続人である。 被告は,インターネットサービス,金融サービスを提供し通信事業等を行 う会社である。 原告らの特許権 ア 原告らは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許出願の願書 に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)を共有している。 発明の名称 電子ショッピングモールシステム 特許番号 第4598070号 出 願 日 平成18年4月4日 優 先 日 平成17年4月14日 登 録 日 平成22年10月1日 イ 本件特許権の特許請求の範囲請求項4の記載は次のとおりであり(以下, この発明を「本件発明1」という。),下記の構成要件(以下,それぞれを 「構成要件A」などという。)に分説される。 「回線網を介して接続されたクライアント装置を用いた電子ショッピングモー ルを管理する管理装置であって, 前記電子ショッピングモールが扱う商品に対応づけて,前記電子ショッピングモールの全体に設定される商品分類に基づく共通カテゴリと,当該商品を取り扱う店舗ごとに設定される商品分類に基づく店舗カテゴリとを示す情報を記憶する記憶部と, 前記共通カテゴリを示す情報と前記共通カテゴリに分類される商品を示す情報を前記記憶部から取得して前記クライアント装置に送信する第1の送信部と, 前記第1の送信部により送信された前記共通カテゴリを示す情報と前記共通カテゴリに分類される商品を示す情報が前記クライアント装置により表示された後,当該表示された商品がユーザによって選択された旨が前記クライアント装置から通知された場合に,前記店舗カテゴリを示す情報と前記店舗カテゴリに分類される商品を示す情報を前記記憶部から取得して前記クライアントに送信する第2の送信部と, を備えることを特徴とする管理装置。」 記A: 回線網を介して接続されたクライアント装置を用いた電子ショッピング モールを管理する管理装置であって,B: 前記電子ショッピングモールが扱う商品に対応づけて, 前記電子ショッピングモールの全体に設定される商品分類に基づく共通 カテゴリと, 当該商品を取り扱う店舗ごとに設定される商品分類に基づく店舗カテゴ リと を示す情報を記憶する記憶部と,C: 前記共通カテゴリを示す情報と 前記共通カテゴリに分類される商品を示す情報 を前記記憶部から取得して前記クライアント装置に送信する第1の送信部 と,D: 前記第1の送信部により送信された 前記共通カテゴリを示す情報と 前記共通カテゴリに分類される商品を示す情報 が前記クライアント装置により表示された後, 当該表示された商品がユーザによって選択された旨が前記クライアント装 置から通知された場合に, 前記店舗カテゴリを示す情報と 前記店舗カテゴリに分類される商品を示す情報 を前記記憶部から取得して前記クライアントに送信する第2の送信部と, E: を備えることを特徴とする管理装置。 ウ 本件特許権の特許請求の範囲請求項7の記載は次のとおりであり(以下,この発明を「本件発明2」といい,本件発明1と併せて「本件各発明」という。),下記の構成要件(以下,それぞれを「構成要件A’」などという。)に分説される。 「回線網を介して接続されたクライアント装置を用いた電子ショッピングモールを管理し,記憶部を有する管理装置で実行される管理方法であって, 前記記憶部は,前記電子ショッピングモールが扱う商品に対応づけて,前記 電子ショッピングモールの全体に設定される商品分類に基づく共通カテゴリと, 当該商品を取り扱う店舗ごとに設定される商品分類に基づく店舗カテゴリとを 示す情報を記憶し, 前記共通カテゴリを示す情報と前記共通カテゴリに分類される商品を示す情 報とを前記記憶部から取得して前記クライアント装置に送信する第1の送信ス テップと, 前記第1の送信ステップで送信された前記共通カテゴリを示す情報と前記共 通カテゴリに分類される商品を示す情報が前記クライアント装置により表示さ れた後,当該表示された商品がユーザによって選択された旨が前記クライアン ト装置から通知された場合に,前記店舗カテゴリを示す情報と前記店舗カテゴリに分類される商品を示す情報とを前記記憶部から取得して前記クライアントに送信する第2の送信ステップと, を備えることを特徴とする管理方法。」 記A’: 回線網を介して接続されたクライアント装置を用いた電子ショッピン グモールを管理し,記憶部を有する管理装置で実行される管理方法であっ て,B’: 前記記憶部は, 前記電子ショッピングモールが扱う商品に対応づけて, 前記電子ショッピングモールの全体に設定される商品分類に基づく共通 カテゴリと, 当該商品を取り扱う店舗ごとに設定される商品分類に基づく店舗カゴリ と を示す情報を記憶し,C’: 前記共通カテゴリを示す情報と 前記共通カテゴリに分類される商品を示す情報と を前記記憶部から取得して前記クライアント装置に送信する第1の送信ス テップと,D’: 前記第1の送信ステップで送信された 前記共通カテゴリを示す情報と 前記共通カテゴリに分類される商品を示す情報 が前記クライアント装置により表示された後, 当該表示された商品がユーザによって選択された旨が前記クライアント装 置から通知された場合に, 前記店舗カテゴリを示す情報と 前記店舗カテゴリに分類される商品を示す情報と を前記記憶部から取得して前記クライアントに送信する第2の送信ステッ プと, E’: を備えることを特徴とする管理方法。 被告の行為等ア 被告は,本件特許権の優先日より前から現在に至るまで,インターネットを介して接続されたパソコン,スマートフォン等のユーザ端末を用いた「楽天市場」という名称のインターネット・ショッピングモール(以下「楽天市場」という。)のサービスを提供している(ただし,本件特許権の優先日より前の楽天市場に用いられていた管理装置及び管理方法が現在用いられている被告装置・方法と同一か否かは,当事者間に争いがある。)。 イ 被告装置・方法の内容は別紙被告装置・方法説明書記載のとおりであり,その概要は以下のとおりである。 被告装置は楽天市場を管理するサーバ装置であり,被告方法は当該サー バ装置で実行される管理方法である。 楽天市場には,その全体に共通する商品分類が設定されており,楽天市 場に出店する店舗管理者は,楽天市場で扱う商品に対し,この共通して設 定されている商品分類に基づく商品ジャンルを登録し,被告装置・方法は その情報を記憶部に記憶する。 上記店舗管理者は,店舗ごとに独自の商品分類を設定することができ, 楽天市場で扱う商品に対し,上記独自の商品分類に基づくカテゴリを登録 し,被告装置・方法はその情報を記憶部に記憶する。 ユーザは,ユーザ端末からインターネットを介して楽天市場のトップペ 選択 することにより(例,別紙被告装置・方法説明書中写真1の青枠で囲まれ た部分「食品・ドリンク・お酒」→写真2の同「ワイン」→写真3の同 「赤ワイン」),それぞれのジャンルに登録された商品を表示させること ができる(写真4の青枠で囲まれた部分等)。ユーザがその商品の一つを 選択すると(写真4の赤枠で囲まれた部分),ユーザ端末はその旨を被告 装置・方法に通知し,被告装置・方法はこれを受けて当該商品の登録され 囲まれた部分)及び店舗ごとのカテゴリに分類される商品を示す情報(写 真5の赤枠で囲まれた部分)を記憶部から取得してユーザ端末に送信し, ユーザ端末に表示させる。 2 争点 被告装置・方法について構成要件D及びD’の充足性 被告装置について構成要件C及びDの充足性 なお,被告は,被告装置が構成要件A,B及びEを,被告方法が構成要件 A’,B’,C’及びE’をそれぞれ充足することについては争っていない。 本件各発明に係る特許(以下「本件特許」という。)の無効理由の有無 被告は,本件特許権の優先日(平成17年4月14日)より前に楽天市場 に用いられていた管理装置及び管理方法(以下「旧被告装置・方法」とい う。)に基づき,以下のとおり本件特許には無効理由がある旨主張する。 ア 商品名「Baby-G Starry Amulet」を例とする旧被 告装置・方法(乙2〜7。以下「例1」という。)の公然実施に基づく新 規性欠如(特許法29条1項2号) イ 商品名「トマトのフェットチーネ1食」を例とする旧被告装置・方法 (乙8〜13。以下「例2」という。)の公然実施に基づく新規性欠如 (同上) ウ 書籍「楽天市場の賢い買い方・使い方」(乙16。以下「乙16文献」 という。)に記載された発明(以下「乙16発明」という。)に基づく新 規性及び進歩性欠如(同条1項3号,2項) エ 上記「Baby-G Starry Amulet」に係るインターネ ットサイトの画面(乙6,7。以下「乙6・7画面」という。)に基づく 新規性及び進歩性欠如(同上) 原告らの損害・損失額3 争点に関する当事者の主張 及びD’の充足性)について (原告らの主張) ア 構成要件D及びD’の「店舗カテゴリに分類される商品を示す情報」とは, 店舗カテゴリに分類され,かつ,商品を示す情報であり,商品の名称,価格, 紹介,画像等商品に関する内容を示す情報であればこれに該当する。 被告装置・方法においては,別紙被告装置・方法説明書中写真5のとおり, 店舗カテゴリ(緑枠で囲まれた部分)に分類される商品の名称,内容等を示す 情報(赤枠で囲まれた部分)が表示されているから,被告装置・方法はそれぞ れ構成要件D及びD’を充足する。 イ 被告は「店舗カテゴリに分類される商品を示す情報」とは店舗カテゴリに分 類される商品リスト(商品群)に限られる旨主張するが,そのように限定解釈 すべきことは本件明細書に何らの根拠もない。 また,被告装置・方法は,共通カテゴリから絞ったある商品を選択すること によりある店舗のカテゴリを表示し,当該選択した商品のみならず当該店舗の 他の商品についても閲覧,選択,購入等ができ,まさに本件各発明と同じ効果 を奏するのであって,効果の点も限定解釈の根拠となるものではない。 (被告の主張) 電子ショッピングモールの各店舗が独自に設定したカテゴリに基づいてユ ーザが商品を閲覧,選択,購入等することができ,店舗の独自性を反映する ことができるとの効果(本件明細書段落【0019】)に照らせば,本件各 発明では店舗カテゴリでも商品を選択できなければならないから,構成要件 D及びD’の「店舗カテゴリに分類される商品を示す情報」は店舗カテゴリに分 類される商品リスト(商品群)であると解釈すべきである。 これに対し,原告らが指摘する別紙被告装置・方法説明書中の写真5は一つの 商品の表示のみであり,店舗によって付与されたカテゴリに分類される商品群表 示は存在しない。したがって,被告装置・方法は構成要件D及びD’を充足し ない。 (原告らの主張) ジャンルを示す情報及び楽天市場のジャンルに分類される商品を示す情報を 記憶部から取得してユーザ端末に送信する送信部を備えるから構成要件Cを って選択された 旨がユーザ端末から通知されると,その通知を受けて,店舗ごとのカテゴリ を示す情報及び店舗ごとのカテゴリに分類される商品を示す情報を記憶部か ら取得してユーザ端末に送信する送信部を備えるから構成要件Dを充足する。 これに対し,被告は,被告装置において送信部に相当する構成は一つしか 存在しない旨主張する。しかし,「第1の送信部」及び「第2の送信部」は 特許請求の範囲及び本件明細書の記載上物理的に別個であるものに限定され ていない。 (被告の主張) 構成要件Cには「第1の送信部」が,構成要件Dには「第2の送信部」が 規定されているところ,被告装置においては,インターネット回線と接続す る「送信部」に相当する構成は一つしか存在しない。したがって,被告装置 は構成要件C及びDを充足しない。 (被告の主張) 被告は,本件特許権の優先日より前から旧被告装置・方法を用いて楽天市場のサービスを提供しており,下記ア〜エはその具体例であるところ,上記があり,原告らは本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 ア 例1の公然実施に基づく新規性欠如 平成16年6月〜平成17年1月当時,楽天市場には「ファッション ・ブランド」,「腕時計」,「カシオ」という楽天市場全体に共通する 商品分類に基づく共通カテゴリが設定されており,楽天市場のトップペ ージから上記カテゴリを順次選択していき,最下位の「カシオ」を選択 すると同カテゴリに分類されるカシオの腕時計の商品リストが表示され た。その中の1商品「【Baby-G】Starry Amulet BGT-3010CS-4B2JR」を選択すると,「Bless Y ou事業部」という楽天市場中の店舗が作成した画面に移動し,同画面 には,同店舗独自の商品分類に基づくカテゴリリスト及び同リストに含 まれるカテゴリ「レディス」に分類される商品が表示されていた。 る(旧被告装置・方法が構成要件A・A’及びE・E’と一致し,B・ B’の「記憶部」,C・C’の「第1の送信部」及び「第1の送信ステ ップ」並びにD・D’の「第2の送信部」及び「第2の送信ステップ」 を有することは,充足論における原告ら主張の前提となっている。下記 イ〜エにおいて同じ。)。したがって,本件各発明はいずれも公然実施 された例1の旧被告装置・方法と実質的に同一であり,新規性を欠く。 イ 例2の公然実施に基づく新規性欠如 平成16年8月〜10月当時,楽天市場には「フード・ドリンク・ワ イン」,「麺類」,「パスタ」,「パスタ」(直前のカテゴリ「パス タ」の下位のカテゴリ)という楽天市場全体に設定される商品分類に基 づく共通カテゴリが設定されており,楽天市場のトップページから上記 カテゴリを順次選択していき,最下位の「パスタ」を選択すると同カテ ゴリに分類されるパスタの商品リ ストが表示された。その中の1商品 「トマトのフェットチーネ1食」を選択すると,「中仙道宿」という楽 天市場中の店舗が作成した画面に移動し,同画面には同店舗の商品分類 に基づくカテゴリリスト及び商品「トマトのフェットチーネ1食」が表 示され,同商品は同店舗の商品分類に基づくカテゴリ「【単品】生パス タ色々」に分類されていた。 本件各発明はいずれも新規性を欠く。 ウ 乙16文献に基づく新規性及び進歩性欠如 乙16文献は,平成13年1月6日に発行された当時の楽天市場にお けるオンラインショッピングの方法を記載した書籍である。 乙16文献には,楽天市場のトップページから,楽天市場全体に設定 される商品ジャンル「ドリンク・アルコール類」,「ビール・地ビー ル」,「地ビール」,「北海道」を順次選択して画面表示させていくと それぞれのジャンルの商品リストが表示され,その中から商品を選んで 選択すると,当該商品を販売している「はこだてビール」という楽天市 場中の店舗のホームページにアクセスし,同店舗が設定した「はこだて ビールオリジナルギフトセット」というジャンルから商品を選ぶことが できること,すなわち乙16発明が記載されている。 以上の特徴を備える乙16発明は本件各発明の全ての構成要件と一致 し,本件各発明はいずれも新規性を欠く。 なお,乙16発明において記憶部及び送信部(送信ステップ)が存在 することは自明であるが,乙16文献にその記載がないと解したとして も,サーバが磁気ディスク等の情報記憶要素を有すること,インターネ ットと接続される以上LANポート等の通信手段を有することは技術常 つの機能を果たすことも許容されるならば,これらを設けることは当業 者にとって容易想到であるから,本件各発明は進歩性を欠く。 エ 乙6・7画面に基づく新規性及び進歩性欠如 乙6・7画面は例1における画面の一部であり,「腕時計>カシオ」 という楽天市場全体に設定される商品分類に基づく共通カテゴリの存在 及び同カテゴリに分類される商品群が画面に表示されること,この画面 に表示された商品の一つを選択すると表示される画面には,楽天市場の 店舗が独自に設定した「レディス」というカテゴリの存在及び同カテゴ リに分類される商品が表示されることが示されている。 以上の特徴を備える乙6・7画面に示された発明は,本件各発明の全 ての構成要件と一致し,本件各発明はいずれも新規性を欠く。 なお,乙6・7画面に記憶部及び送信部(送信ステップ)の記載がな いと解したとしても,これが当業者にとって容易想到であることは上記オ 原告らは,@本件各発明においては,店舗カテゴリを示す情報は商品に 対応づけられている必要があるが,旧被告装置・方法では店舗カテゴリを 示す情報が商品ページに対応づけられている,A本件各発明においては, 店舗カテゴリに分類される商品を示す情報を有している必要があるが,旧 被告装置・方法は店舗カテゴリに分類される商品ページを示す情報を有し ているとし,これらの相違点により本件各発明は商品が抽出・検索可能と なっている旨主張する。 しかし,旧被告装置・方法において,商品と商品ページは実体として同 じであるし,「対応」とは二つの要素の関係づけの問題であるから,店舗 カテゴリに商品を対応させるということは商品に店舗カテゴリを対応させ るということにほかならない。原告らは,「データベース型の構成」と 「ページ階層型の構成」が異なると主張するが,通常の用語法では両者は 排他的な概念ではなく,旧被告装置・方法は,商品データの保存にデータ ベースを用いるとともに,分類ページ(店舗カテゴリページ)から商品ペ ージへのリンクを張って両者を併用している。 また,商品が抽出・検索可能となっていることは本件各発明の作用効果 ではないし,この点をおくとしても,旧被告装置・方法でも商品の抽出・ 検索は可能である。 カ なお,例1(乙6・7画面を含む。)及び例2に用いた画面は,米国の 非営利団体「インターネット・アーカイブ」の提供する閲覧サービス「ウ ェイバックマシン」から出力したものであるところ,原告らは,その一部 が閲覧できなかったことをもってこれら画面が過去に公衆送信されていた か否か疑わしい旨主張する。しかし,インターネット・アーカイブが保存 していない情報を事後的に作り出したり保存された情報を改変したりする ことは部外者には不可能であり,原告らの疑念には理由がない。 (原告らの主張) ア 旧被告装置・方法は,「前記電子ショッピングモールが扱う商品に対応 づけて,・・・当該商品を取り扱う店舗ごとに設定される商品分類に基づ く店舗カテゴリとを示す情報を記憶する記憶部」(構成要件B及びB’) を有しない。 すなわち,本件各発明においては,構成要件B及びB’の文言によれば, 店舗カテゴリを示す情報は商品に対応づけられていなければならず,商品 を単位として,ある商品に対してある店舗カテゴリが付与されていなけれ ばならない。また,本件明細書の発明の詳細な説明においても,商品ごと に店舗カテゴリ等の情報が保存されることが記載されている(段落【00 29】,【0046】,図5等)。このように,本件各発明は,商品を単 位として,各商品に対応づけて店舗ごとのカテゴリを記憶する形式である 「データベース型」を採用したものである。 これに対し,旧被告装置・方法においては,商品ページ(ウェブペー ジ)を単位として,各ページ上に商品が表示列記されているだけであり, 具体的な商品の情報は商品ページをベースとして当該商品ページの中に登 録される。このような記憶の方法は「ページ階層型」であり,データベー ス型とは全く異なる。旧被告装置・方法においては,店舗カテゴリを示す 情報は商品に対応づけられておらず,「店舗カテゴリを示す情報が商品に 対応づけられる」という構成を有しない。 データベース型とページ階層型が区別され,本件各発明の技術的範囲が データベース型に限られることは,「データベース」の一般的意義,本件 明細書の上記記載,本件各発明の技術分野の特許出願における用語法等か ら明らかである。 なお,被告装置・方法においては,本件各発明同様,商品に当該店舗カ テゴリが登録される,すなわち,商品をベースとして店舗カテゴリを示す 情報を登録するのであり,商品を単位として店舗カテゴリに分類されてい るのであるから,旧被告装置・方法と同じであるということはできない。 イ 本件各発明の構成要件D及びD’の「店舗カテゴリに分類される商品を 示す情報」において,「情報」は商品を単位としなければならず,商品を 単位として店舗カテゴリが対応づけられる結果,商品が店舗カテゴリに分 類され,これにより商品が抽出・検索可能となっている。 これに対し,旧被告装置・方法においては,情報は商品ではなくウェブ ページを単位としており,リンクによってつながった複数のウェブページ がツリー構造で構成されているにすぎない。また,商品が分類されている のではなくウェブページに表示列記されているにすぎず,商品の抽出・検 索ができない。したがって,旧被告装置・方法は「店舗カテゴリに分類さ れる商品を示す情報」に相当する構成を有しない。 ウ 以上のとおり,本件各発明は,旧被告装置・方法を用いる例1,例2, 乙16発明及び乙6・7画面のいずれとの関係においても新規性を有する。 また,乙16発明及び乙6・7画面は,いずれも,各ウェブページ上に 各商品が表示列記されている構成を開示しているにとどまるところ,当該 構成に代えて店舗カテゴリを示す情報を商品に対応づける構成についての 補強証拠はないし,それ自体完結したシステムである旧被告装置・方法に データベース型の構成を組み合わせる動機付けも示唆もない。したがって, 本件各発明は進歩性を有する。 エ なお,被告の主張する例1,例2及び乙6・7画面はインターネット・ アーカイブに記録された画像であるとのことであるが,原告らはウェイバ ックマシンで被告主張の画面を表示させることができなかった。すなわち, 被告はインターネット・アーカイブに何らかの操作を加えている可能性が 高く,本件優先日以前に当該画像部分がインターネット上に表示されてい たのかは疑わしい。 (原告らの主張) 本件特許の登録日である平成22年10月1日から平成26年9月26日 の間,被告が被告装置を管理運営し,被告方法を使用して楽天市場のサービ スを提供したことによる売上高は4861億0400万円,本件特許の相当 実施料率は3.5%,本件各発明の寄与率は3割を下らない。したがって, 被告による本件特許権の侵害により原告らが受けた損害(特許法102条3 項)又は損失(民法703条)の額は少なくとも51億0409万2000 円である。 また,本件に関し原告らが要した弁護士費用は5000万円を下らない。 (被告の主張) 争う。 |
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当裁判所の判断
1 規性及び進歩性欠如)について 事案に鑑み,被告主張の無効理由のうち乙16発明に基づく新規性の欠如に ついて判断する。 おりであり,それぞれ構成要件A〜E及びA’〜E’に分説される。 原告らは,乙16発明に基づく新規性欠如の無効理由につき,本件各発明 における記憶形式が「データベース型」であるのに対して乙16発明が「ペ ージ階層型」であることを根拠に,本件各発明と乙16発明は,構成要件B 及びB’のうち「商品に対応づけて・・・共通カテゴリと・・・店舗カテゴ リとを示す情報を記憶」するとの構成及び構成要件D及びD’のうち「店舗 カテゴリに分類される商品を示す情報」との構成を乙16発明が有しない点 で相違すると主張するものである(本件各発明のその余の構成については, 記憶部及び送信部ないし送信ステップを有する点を含め,乙16発明と本件 各発明が一致することを原告らは争っていない。)。 まず,本件各発明の構成要件B及びB’並びに構成要件D及びD’のうち 上記争いのある各構成の解釈につき検討する。 ア 構成要件B及びB’につき,本件各発明の特許請求の範囲には,「共通 カテゴリと・・・店舗カテゴリとを示す情報」が「商品に対応づけて」記 憶される旨記載されている。この「対応」の語は,本件明細書(甲2)に おいて特段の定義等はされておらず,普通の意味で使用されているとみら れるので,「@互いに向きあうこと,相対する関係にあること,A両者の 関係がつりあうこと,B相手や状況に応じて事をすること」(広辞苑〔第 6版〕1671頁),「二つの物事が互いに一定の関係にあること」(大 辞林〔新装第2版〕1514頁)といった意味を有すると解される。また, 特許請求の範囲の記載は単に「対応づけて・・・記憶する」というもので あり,対応の態様や記憶の形式,情報の入力方法等について限定は付され ていない。そうすると,商品と共通カテゴリ及び店舗カテゴリを示す情報 は,相互に何らかの関係を持って結び付けられるように記憶されていれば 足りると考えられる。 イ 構成要件D及びD’についても,特許請求の範囲には「店舗カテゴリに 分類される商品を示す情報」とあるのみであり,商品の分類方法,情報の 単位や記憶形式等についての限定はない。そうすると,当該店舗が取り扱 う商品につき,ある商品がどの店舗カテゴリに属するか,あるいは,ある 店舗カテゴリにどの商品が属するかを識別するに足りるものであれば,上 記の情報に当たると解することができる。 ウ 以上の特許請求の範囲の記載に加え,念のため,本件明細書の発明の詳 細な説明の記載をみると,【発明を実施するための最良の形態】欄に,商 品名,ショッピングモールカテゴリ名,店舗カテゴリ名等を商品情報テー ブルに記憶する構成(原告らのいうデータベース型)が記載されているが (段落【0029】,図5),これは「例えば」として記載されたもので あり,本件各発明の実施形態をこのような構成に限定するものでないこと は明らかである。 また,本件各発明が解決しようとする課題(従来の電子ショッピングモ ールシステムでは,ショッピングモールの運営者が設定したカテゴリに従 って商品が分類され,各店舗が取扱商品を独自のカテゴリに従って分類す ることができないという問題があったため,各店舗が独自性をアピールで きる電子ショッピングモールシステムを提供するものとすること。段落 【0005】〜【0007】)及び本件各発明の効果(ユーザが,電子シ ョッピングモール全体の共通カテゴリだけでなく,各店舗が独自に設定し たカテゴリにも基づいて商品を閲覧,選択,購入等することができ,店舗 の独自性が反映されること。段落【0019】,【0063】)に照らし てみても,ある共通カテゴリが示された場合に当該カテゴリに属する商品 を,ある商品が示された場合に当該商品が属する店舗カテゴリを導き出せ れば,上記の課題を解決して効果を奏することができると解される。 そうすると,上記ア及びイの特許請求の範囲の文言解釈は,発明の詳細 な説明の記載により裏付けられるとみることができる。 次に,乙16発明が本件各発明の前記争いのある各構成を備えているかについて検討する。 ア 乙16文献には次の趣旨の記載がある。(乙16) 楽天市場のオンラインショッピングなら,ジャンルを掘り下げていく だけで目的の商品まで簡単にたどり着くことができる。ここでは北海道 ・函館の地ビールを検索する。トップページの「商品名で調べる」又は 「商品別」をクリックして商品名で探すこともできる。表示されている ジャンル名「ドリンク・アルコール類」から開始し,その先は「ビール ・地ビール」→「地ビール」→「北海道」とジャンルが絞られていき, その度にそれぞれのジャンルでの検索結果に商品名が表示される。金額 も表示されるので,わざわざ店のホームページにアクセスしなくても商 品を選べるのは利点だ。(66頁) 商品別で検索したときも,商品名をクリックすれば,店舗のホームペ ージにアクセスして,その商品の紹介ページが見られる。「はこだてビ ール」の店舗のホームページには「オリジナルギフトセット」というジ ャンルがあり,このジャンルの画像や価格,セット名を一覧表示するこ とができたので,その中から商品を選ぶことにした。(68頁)イ 楽天市場のトップページから順次表示されるものであり,楽天市場の全体 ルギフトセット」のジャンルは,特定の商品を取り扱う店舗のホームペー ジに表示されるものであり,当該店舗が設定した商品分類に基づく店舗カ テゴリであると,それぞれ認めることができる。 そして,乙16文献に記載されたインターネットショッピングモールに 係る発明(乙16発明)においては,ある共通カテゴリが示された場合に )の であるから,商品と共通カテゴリ及び店舗カテゴリを示す情報が相互に結 び付けられるように記憶されていると認められる。また,ある店舗が取り 扱う商品に係る情報から当該店舗独自のカテゴリ及びこれに分類される商 品が表示される(同)のであるから,ある商品がどの店舗カテゴリに属す るか,その店舗カテゴリにどの商品が属するかを識別するに足りる情報が 記憶されているということができる。 ウ 以上によれば,乙16発明は,本件各発明の前記争いのある各構成をい ずれも備えていると認められる。 これに対し,原告らは,@本件各発明が「データベース型」であるのに対し乙16発明は「ページ階層型」であって,両者は情報を記憶する形式が全く異なる,A本件各発明は商品に対応づけて店舗ごとのカテゴリを記憶することにより商品を抽出・検索可能としているが,乙16発明は商品がウェブページに表示列記されているだけであって商品の抽出・検索ができない旨主張する。 そこで判断するに,@について,本件各発明において情報を記憶する形式等に限定はなく,原告らのいうデータベース型に限られないと解すべきこと ・検索が可能であることは本件各発明が解決しようとする課題としても本件各発明の効果としても記載されていない上(段落【0005】〜【0007】, 【0019】,【0063】参照),乙16文献記載の構成においても商品 の検索は可能とされている(乙50)。したがって,原告らの上記主張はい ずれも採用することができない。 以上によれば,乙16発明は本件各発明と同一の発明であると認められ, 本件特許は新規性の欠如を理由として無効にされるべきものとなるから,原 告らが本件特許権を行使することはできない(特許法104条の3第1項)。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいず れも理由がない。 2 結論 よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 長谷川浩二 |
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裁判官 | 藤原典子 |
裁判官 | 萩原孝基 |