関連審決 | 不服2014-10780 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10089号
審決取消請求事件
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原告日本無線株式会社 訴訟代理人弁理士石田純 同 堀江哲弘 同 井口和孝 被告特許庁長官 指定代理人中川隆司 同 森川元嗣 同 富澤哲生 同 田中敬規 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/01/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2014-10780号事件について平成27年3月9日にした審決を取り消す。 |
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前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない事実又は文中掲記の証拠により容易に認定できる事実) 原告は,発明の名称を「水位警報制御装置」とする発明について,平成21年10月22日を出願日とする特許出願(特願2009-243596号。以下「本件出願」という。)をし,平成25年8月23日付手続補正書(甲3)により特許請求の範囲等の補正(以下「本件補正1」という。)をしたが,平成26年2月20日付で拒絶査定を受けたため,平成26年6月9日付で,これに対する不服の審判を請求し,同日付手続補正書(甲4)により特許請求の範囲等の補正(以下「本件補正2」という。)をした。 特許庁は,上記請求を不服2014-10780号事件として審理をした結果,平成27年3月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同年4月15日,原告に送達した(乙1)。 2 特許請求の範囲本件出願に係る本件補正1後,本件補正2前の特許請求の範囲(請求項の数5)のうち,請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,本件補正1後,本件補正2前の請求項1に係る発明を「本願発明」といい,本件補正1後,本件補正2前の明細書及び図面を併せて「本願明細書」という。なお,後記のとおり,本件補正2は審決で却下され,原告は本訴においてこの審決の判断を争っていない。)。 「水の流れに沿って配置された複数の警報局を介して前記水の流れの水位に応じた警報を送出する水位警報制御装置であって,操作者によって操作され,前記警報の送出の開始に供される第一の操作手段と,前記操作者によって操作される第二の操作手段と, 前記第一の操作手段が操作された後に,前記第二の操作手段が操作される度に,前記複数の警報局の内,前記警報が送出されるべき特定の警報局を既定の順序で選択し,または切り替える制御手段とを備えたことを特徴とする水位警報制御装置。」3 審決の理由 (1) 審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりである。その要旨は,@本件補正2は,特許法17条の2第5項の規定に適合しないので却下する,A本願発明は,特開平2-246698号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物発明」という。)と同一であり,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないから,本件出願は拒絶すべきものである,というものである。 (2) 刊行物発明の内容 審決が認定した刊行物発明の内容は,以下のとおりである。 「川沿いに設けられた複数の制御対象局2041〜2044から放水量に応じた警報を発生させる制御情報送出装置であって, オペレータによって入力され,前記警報の発生の開始に供される開始指示の入力手段14と, 前記オペレータによって入力される許可/不可情報(判決注:「許可/不許可情報」の誤記と認める。以下同じ。)の入力手段14と, 前記開始指示の入力手段14から入力を受けた後に,前記許可/不可情報の入力手段14からの入力を受ける度に,前記複数の制御対象局2041〜2044の内,前記警報が発生されるべき特定の制御対象局2041〜2044を順次に指定する対象局決定部15と を備えた制御情報送出装置。」 (3) 本願発明と刊行物発明との対比 審決が認定した本願発明と刊行物発明との対比(一致点)は,次のとおりである(アないしウは,争いがない。)。 ア 刊行物発明の「川沿いに設けられた複数の」「制御対象局204 1〜2044 」は,本願発明の「水の流れに沿って配置された複数の」「警報局」に相当し,刊行物発明の「放水量に応じた」「警報」は本願発明の「水の流れの水位に応じた」「警報」に相当し,刊行物発明の「川沿いに設けられた複数の制御対象局2041〜2044から放水量に応じた警報を発生させる」「制御情報送出装置」は,本願発明の「水の流れに沿って配置された複数の警報局を介して前記水の流れの水位に応じた警報を送出する」「水位警報制御装置」に相当する。 イ 刊行物発明の「オペレータ」は本願発明の「操作者」に相当し,刊行物発明の「オペレータによって入力され,前記警報の発生の開始に供される」「開始指示の入力手段14」は,本願発明の「操作者によって操作され,前記警報の送出の開始に供される」「第一の操作手段」に相当する。 ウ 刊行物発明の「オペレータによって入力される」「許可/不許可情報の入力手段14」は,本願発明の「操作者によって操作される」「第二の操作手段」に相当する。 エ 刊行物発明の「開始指示の入力手段14から入力を受けた後に,許可/不許可情報の入力手段14からの入力を受ける度に,複数の制御対象局2041〜2044の内,警報が発生されるべき特定の制御対象局204 1〜2044を順次に指定する」「対象局決定部15」は,本願発明の「第一の操作手段が操作された後に,第二の操作手段が操作される度に,複数の警報局の内,警報が送出されるべき特定の警報局を既定の順序で選択し,または切り替える」「制御手段」に相当する。 |
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当事者の主張
1 原告の主張する取消事由(刊行物発明の認定の誤り及びこれに基づく新規性判断の誤り) (1) 刊行物発明の認定の誤りについて 審決は,刊行物発明について,刊行物1(甲1)の3頁左上欄9行ないし同頁右上欄14行(以下「記載事項オ」という。)のうち「・・・対象局決定部15は制御決定信号と制御対象局のデータとを受け取っているときであって,入力手段14から許可/不許可情報が許可として与えられているとき送出制御部16へ該当制御対象局への発信制御及び通信の制御を指示し」という記載に基づき,「対象局決定部15は,前記開始指示の入力手段14から入力を受けた後に,前記許可/不可情報の入力手段14からの入力を受ける度に,前記複数の制御対象局204l〜2044の内,前記警報が発生されるべき特定の制御対象局204 l〜2044を順次に指定している」と認定した。しかし,入力手段14からの入力を受ける「度に」,制御対象局を「順次に指定」しているとの認定は,以下のとおり,誤っている。 ア 「度(たび)」とは「何度か繰り返された中の一回,一回。ある状態にあった,その時。」の意味であり,本願発明の構成要件において,「前記第二の操作手段が操作される度に」とは,「前記第二の操作手段が操作された一回,一回」又は「前記第二の操作手段が操作された,その時に」と解釈できる。 イ 刊行物1の3頁右上欄最終行〜右下欄8行の記載によれば,刊行物発明においては,下記参考図1に示すように,現在の制御対象局Aへの制御情報の送出が終了すると,時刻データに基づいて計時が行われ,タイムオーバーになるとブザー等の警告により入力手段14からの許可/不許可の入力が促される。一方,これらの処理とは独立して,制御決定手段11は,あらかじめ設定された制御情報セットに基づいて,所定のタイミングで制御決定信号及び制御対象局のデータを対象局決定部15に出力する。そして,対象局決定部15は,入力手段14によって「許可」の状態にあり,かつ,制御決定手段11から次の制御対象局Bを特定する制御対象局Bのデータが入力されているときに,制御対象局Bへの制御情報の送出を行う。 [参考図1] 所定のタイミング 時刻データ 時間 制御対象局A 警告 許可 次の制御対象局B の指定 (ブザー等) 入力 の指定 許可状態にあり、かつ、次の制御対象局 が指定されたときに警報発信 したがって,刊行物発明では,次の制御対象局への選択又は切り替えは,制御決定手段11によってあらかじめ設定された制御情報セットに基づいて所定のタイミングで行われるのであり,次の制御対象局への選択又は切り替えと入力手段14による「許可」の入力操作とは完全に独立した処理であり,入力手段14による「許可」の入力操作がされた「一回,一回」,又は「その時」に次の制御対象局への選択又は切り替えは行われない。 ウ さらに,刊行物1では,入力手段14によって「許可」の入力操作がされた後にさらなる許可/不許可の入力操作が禁止されておらず,参考図2に示すように,時刻データに基づいて計時がタイムオーバーした後に入力手段14による「許可」の入力操作がされ,その後,「不可」の入力操作がされたときでも,制御決定手段11は,あらかじめ設定された制御情報セットに基づいて,所定のタイミングで制御決定信号及び制御対象局のデータを対象局決定部15に出力することになる。 [参考図2] 所定のタイミング 時刻データ 時間 制御対象局A 警告 許可 不可 次の制御対象局B の指定 (ブザー等) 入力 入力 の指定 不可状態にあり、警報発信はしない また,参考図3に示すように,時刻データに基づいて計時がタイムオーバーした後に入力手段14による「許可」の入力操作がされ,その後,「不可」の入力操作がされ,さらに「許可」の入力操作がされたときでも,一度目の「許可」の入力のタイミングや二度目の「許可」の入力のタイミングで次の制御対象局が選択又は切り替えられることはなく,制御決定手段11は,あらかじめ設定された制御情報セットに基づいて,所定のタイミングで制御決定信号及び制御対象局のデータを対象局決定部15に出力することになる。 [参考図3] 所定のタイミング 時刻データ 時間 制御対象局A 警告 許可 不可 許可 次の制御対象局B の指定 (ブザー等) 入力 入力 入力 の指定 許可状態にあり、かつ、次の制御対象局 このタイミングで次の制御対象局 が指定されたときに警報発信 は指定されない これは,次の制御対象局への選択又は切り替えと,入力手段14による「許可」の入力操作とが,独立した処理であるからである。 エ 刊行物発明では,入力手段14からの許可の入力に応じて制御信号が送出されるわけではない。刊行物1には,送出制御部16に対する該当制御対象局への発信制御及び通信制御の指示については,「許可として与えられているとき」(3頁右上欄11行)との記載がされているのみで,「許可が与えられたとき」とは記載されておらず,許可の入力があった場合に,すぐに制御信号を送出するとはどこにも記載されていない。刊行物1においては,許可の入力は制御決定信号などの供給の後であるか,先であるかは不明である。「許可」は,「許すこと」であり,刊行物1においては,制御信号の送出の禁止を解除することと解される。すなわち,制御信号を送出してよい状態が設定されるだけであって,制御信号等を送出する指示ではない。許可の入力があり,制御決定信号と制御対象局のデータとを受け取っている状態であれば,送出時刻に制御信号を送出すると考えられる。 また,刊行物発明は,オペレータによる時間管理をしなくてよいことを前提としたシステムであり,警報を発生する時刻(送出時刻)はあらかじめ決まっていると解される。したがって,刊行物1において,許可の入力は,警報発生の時刻になった場合に制御信号が送出されるのを許可するものであり,この入力は送出時刻の前であればいつでもよいと解するのが自然である。 さらに,刊行物1では,「所定のタイミング」が具体的にどういうタイミングかについての記載はなく,制御決定信号等の送出タイミングは,オペレータによる「許可」のタイミングとは関連がなく,独立したタイミングであると解される。オペレータによる許可の入力があったときにすぐに制御信号を送出するのであるとすると,その許可の入力のタイミングについての時刻をオペレータが管理することになり,上記刊行物発明の前提に反する。許可を,送出処理を許可の状態におくものと解すれば,許可の入力とは,送出タイミングになったら送出してもよいという指示の入力であり,同前提とも合致する。 刊行物1では,警報制御部18により警報が発生した後に,入力手段14により許可の入力をするように記載されている。許可の入力のタイミングによって制御情報の送出タイミングがずれるのであれば,オペレータが時間管理しなければならなくなる。この観点からも,オペレータの介入と制御情報の送出タイミングとは直接の関連はないと解される。 また,警報制御部18によりブザー19が鳴動等させられるときに,次の制御対象局について送出を許可するか否かを判断するために次の制御対象局が特定されている必要はない。このことは,刊行物1において許可/不許可の入力の際にオペレータに次の制御対象局がどの局であるのかを示す情報を表示する等の処理をしていないことからも明らかである。 オ 以上によれば,刊行物発明は,「前記許可/不可情報の入力手段14からの入力を受ける度に,前記複数の制御対象局204l〜2044の内,前記警報が発生されるべき特定の制御対象局204l〜2044を順次に指定」されるものではない。 (2) 新規性判断の誤りについて 審決は,前記第2の3(3)エのとおり,刊行物発明の「開始指示の入力手段14から入力を受けた後に,許可/不可情報の入力手段14からの入力を受ける度に,複数の制御対象局2041〜2044の内,警報が発生されるべき特定の制御対象局2041〜2044を順次に指定する」「対象局決定部15」は,本願発明の「第一の操作手段が操作された後に,第二の操作手段が操作される度に,複数の警報局の内,警報が送出されるべき特定の警報局を既定の順序で選択し,または切り替える」「制御手段」に相当するとの一致点の認定をした。 しかし,前記(1)のとおり,審決は,刊行物発明の認定を誤っているため,以下のとおり,これに基づく新規性の判断も誤っている。 ア 本願発明は,「前記第二の操作手段が操作される度に,前記複数の警報局の内,前記警報が送出されるべき特定の警報局を既定の順序で選択し,または切り替える」という構成を備える。 前記(1)アのとおり,本願発明の「前記第二の操作手段が操作される度に」との構成は,「前記第二の操作手段が操作された一回,一回」又は「前記第二の操作手段が操作された,その時に」と解釈できる。 また,本願発明における,「選択し,または切り替える」は,警告指令を送出することに対応しており,本願発明では,「ステップ起動」スイッチが操作される度に,その時にポインタで特定される警報指令が送出される。したがって,本願発明の「第二の操作手段が操作される度に,・・・既定の順序で選択し,または切り替える」は,第二の操作手段が操作されると「その時に」特定の警報局が選択され,第二の操作手段が操作される度に,既定の順序で特定の警報局が選択され,警報指令が送出されることを意味している。 イ 一方,刊行物発明では,前記(1)のとおり,時刻データに基づいて制御対象局が変更されるのであり,入力手段14による許可の入力によって制御対象局は変更されるものでなく,操作者に警報を発するタイミングを決定させるものではない。 入力手段14からの許可の入力は,あらかじめ設定された送出時刻に制御信号が送出されるのを許可するだけであり,刊行物1には,「許可/不許可情報の入力手段14からの入力を受ける度に」その都度「警報局が選択される」という構成は開示されていない。 ウ したがって,審決の前記第2の3(3)エの一致点の認定は誤りであり,同認定に基づき,刊行物発明と本願発明が同一であるとした判断も誤りである。 (3) 以上によれば,本件出願を拒絶するとの審決は誤りであるから,審決は取り消されるべきである。 2 被告の主張 (1) 刊行物発明の認定の誤りについて ア 刊行物発明の「対象局決定部15」が,「前記開始指示の入力手段14から入力を受けた後に,前記許可/不許可情報の入力手段14からの入力を受ける度に,前記複数の制御対象局204l〜2044の内,前記警報が発生されるべき特定の制御対象局204l〜2044を順次に指定していること」は,審決摘示のとおり,刊行物1の記載事項ア(甲1の1頁右下欄6行ないし10行),オ(同3頁左上欄9行ないし右上欄14行)及びキ(同3頁右下欄9行ないし17行)の各記載事項から認定できる。 原告が指摘する記載事項オの一部には,前記許可/不許可情報の入力を受ける「度に」,制御対象局を「順次に」指定している点までは明文の記載がないが,このことは,記載事項アの「制御局から順次に複数の制御対象局へ制御情報を送出する」との記載に加えて,記載事項キに,実施例の動作のまとめとして,「以上のように構成された制御情報送出装置では,オペレータが放水量に応じて制御情報セットを指示し,開始指示を与えることにより,自動的に初めの制御対象局204への制御情報の送出がなされ,次の制御対象局204からは警報発生を行って,オペレータの介入を待ち,続けて制御情報を送出するか否かが決定されて処理が続く。」と記載されていることから明らかである。 さらに,このことは,刊行物1に,発明の効果として「送出処理手段による制御情報の送出は一つの制御対象局毎になされ,しかも,入力手段からの許可/不許可情報の入力で,送出処理が制御され得る」(甲1の4頁左上欄6行ないし9行)と記載されていること,及び「入力手段14はキーボード等のデータ入力用の構成のほか,タイマを有し,キーボードで不許可の情報が入力されるか,処理終了の通知から所定時間経過しても入力がないとき,不許可情報を対象局決定部15,送出制御部16へ与えて,次の制御対象局204に対する制御情報の送出処理を禁止し,キーボードで許可の入力があると該当の送出処理を許可する。」(甲1の3頁左下欄10行ないし17行)と記載されていることからみても明らかである。 加えて,記載事項オに「制御決定手段11は開始指示(実際には入力手段14からの入力による)を受けて動作を開始し,制御情報セットの正しい指定があったとき,制御決定信号を送出処理手段12内の対象局決定部15へ与え,制御情報セット中の最初の制御対象局のデータ,項目のデータ,及び次の制御対象局へ送出を行うまでの間隔である時刻データを,夫々,対象局決定部15,送出制御部16,時間管理部17へ与える。…」と記載され,記載事項カ(甲1の3頁右上欄15行ないし右下欄8行)に「制御決定手段11は制御情報セットに基づき,所定のタイミングで制御決定信号,制御対象局のデータ,項目のデータ,時刻データを出力する。」と記載され,この記載事項カの直後に「対象局決定部15が制御決定信号か制御対象局のデータを受け取らなくなったとき動作を終了し,各部がリセットされて一連の制御情報セットに基づく処理が終了する。」と記載されていることから,対象局決定部15は,制御決定信号と制御対象局のデータを制御決定手段11から受け取るものであって,対象局決定部15は,制御決定信号,制御対象局のデータという,制御対象となる局の情報をその都度受け取っていることは明らかである。 したがってこのとき,上記記載事項オにおいて,対象局決定部15は,オペレータからの許可/不許可情報が与えられる度に,制御対象局を指定しているといえる。 イ また,刊行物1の3頁左下欄15行ないし17行には,「キーボードで許可の入力があると該当の送出処理を許可する。」との記載があり,「該当の送出処理」とは,「次の制御対象局204に対する制御情報の送出処理」であるから,「キーボードで許可の入力があると該当の送出処理を許可する。」ためには,システムの内部動作として,あらかじめ,対象局決定部15は「制御決定信号と制御対象局のデータとを受け取っている」と理解するのが自然である。 刊行物1の制御情報送出装置は,タイムオーバーとなりオペレータにブザーの鳴動や表示ランプの点灯で報知している状態で,オペレータから,キーボードで不許可の入力があるか無入力ならば,次の制御対象局204への送出処理を禁止する一方,キーボードで許可の入力があると,次の制御対象局204への送出処理が許可される。仮に,あらかじめ,対象局決定部15が制御決定信号と制御対象局のデータとを受け取っていなければ,オペレータがキーボードで許可を入力しても,次の制御対象局204への送出処理を許可できないから,不合理である。 そして,この動作は,対象局決定部15が制御決定信号か制御対象局のデータを受け取らなくなったときに動作を終了して一連の制御情報セットに基づく処理が終了するまで,ある「制御情報セット」に含まれる制御対象局2041〜2044それぞれに対して繰り返されるから,制御情報送出装置というシステムの外部から見た動作としては,オペレータが許可/不許可情報を入力する度に,特定の制御対象局を規定の順序で順次に選択するものといえる。 ウ 原告は,参考図1ないし3において,刊行物発明における「所定のタイミング」は,入力手段14による「許可入力」より後のタイミングであることを前提として主張している。しかし,上記イのとおり,原告の主張するように想定することは,システム構成として不合理であり,原告の主張は前提を欠く。 エ したがって,審決の刊行物発明の認定に誤りはない。 (2) 新規性判断の誤りについて 刊行物発明の認定が誤っていないことは前記(1)のとおりであるから,同認定の誤りに基づく新規性判断の誤りについての原告の主張は,理由がない。 原告は,刊行物1では,「時刻データ」に基づいて制御対象局が変更されると主張する。しかし,「時刻データ」は,オペレータへの報知により,オペレータの入力による制御対象局の変更を補助するものにすぎない。 刊行物発明の目的は,入力手段14による次の制御対象局の指定時には,入力手段14による制御情報の項目の入力を行わずに済ませることにある。一方,本願発明の目的は,第二の操作手段による警報局の選択時に個々の警報局における警報の出力に必要な操作を簡略化することにある。そうすると,本願発明と刊行物発明は,入力手段による警報局の選択時における,他の入力操作を簡略化する点で軌を一にする。このことからも,刊行物発明における「許可/不許可情報の入力手段14」が,本願発明における「第二の操作手段」に相当することは明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明について 本願明細書(甲2,3)の記載によれば,本願発明の概要は,以下のようなものであると認められる。 (1) 本願発明は,水の流れに沿って設置された複数の警報局を介して水位の上昇の警報を発する水位警報制御装置に関するものである(【0001】)。 (2) 従来の放流警報システムでは,制御局要員が,@操作表示卓65の「操作開始」スイッチ71を押下することにより,警報の送出の対象となるべき警報局30-1に対応した「警報局1」スイッチ72-1に内蔵されたランプを点滅させ,A「警報局1」スイッチ72-1を押下すると,「サイレン」スイッチ73S等にそれぞれ内蔵されたランプを並行して点滅させ,B「サイレン」スイッチ73S等を押下すると,「起動」スイッチ74に内蔵されたランプを点滅させ,C「起動」スイッチ74を押下すると,警報局30-1宛に,警報を送出すべきことを示す「警報指令」が送出される(【0003】,【0005】,【0010】ないし【0015】)。そして,警報局30-1では,「警報指令」に基づいて「サイレン」が送出されるべき場合には,所定の期間に亘って,サイレン装置36-1を駆動することにより,警報局30-1 の周辺に居る者に対して「警報を聴取すべき旨の注意」を喚起するように構成されている(【0016】,【0017】)。 そして,従来のシステムでは,制御局要員が,警報が送出されている警報局30-1の近くの道路上を走行する移動局70に乗務している移動局要員と通話し,その通話に基づいて,「警報局30-1に対して河川40の下流側に隣接する警報局30-2から警報が送出されるべき契機」を識別すると,再び「操作開始」スイッチ71を押下し,上述の処理を繰り返すことにより,警報局30-2は,上述の警報局30-1と同様に警報を送出し,その後,制御局要員が移動局要員との通話の下で行う操作に応じて,警報局30-1〜30-Nのそれぞれによる警報の送出の確認と,これらの警報が送出されるべき契機とが適切に確保されている(【0018】,【0020】,【0021】)。 (3) しかしながら,このような契機としては,例えば,警報局30-1〜30―Nの内,所望の警報局をランダムに選択して設定され,あるいはこれらの警報局30-1〜30-Nに対して所定のインターバルで順次設定される場合もあるところ,従来の放流警報システムでは,警報が送出されるべき警報局の選択や切り替えのためには,制御局要員が,上述のとおり,操作表示卓65を介して警報局毎に煩雑な操作を行わなければならず,そのために誤操作が行われ,あるいは警報の送出が遅れる可能性があった(【0024】,【0033】)。 (4) そこで,本願発明は,既存の業務,機能及び性能の何れにも影響を及ぼすことなく,個々の警報局を介する警報の出力に必要な操作を大幅に簡略化できる水位警報制御装置を提供することを目的とし(【0034】),操作者によって操作され,警報の送出の開始に供される第一の操作手段と,操作者によって操作される第二の操作手段と,第一の操作手段が操作された後に,第二の操作手段が操作される度に,複数の警報局の内,警報が送出されるべき特定の警報局を既定の順序で選択し,または切り替える制御手段とを備えた構成(請求項1)としたことで,警報局の選択や切り替えの操作に続いて,所望の警報局に対して警報の送出のきっかけを与える操作が行われなければならなかった従来例に比べて,操作が大幅に簡略化され,かつ複数の警報局による個々の警報の送出が効率的に確度高く実現されるという効果(【0042】)を奏するものである。 2 刊行物発明の認定の誤りについて 原告は,審決の刊行物発明の認定のうち,「対象局決定部15」が,入力手段14からの入力を受ける「度に」,警報が発生されるべき特定の制御対象局を「順次に指定」しているとの認定が誤っている旨主張するので,以下,検討する。 (1) 刊行物1の記載 刊行物1(甲1)には,刊行物発明について,以下の記載がある(第1図及び第図2については,別紙刊行物発明図面のとおり)。 ア 「(産業上の利用分野) 本発明はダムからの放流警報を与えるシステムのように,制御局から順次に複数の制御対象局へ制御情報を送出する場合に用いられる制御情報送出装置に関するものである。」(1頁右下欄6行ないし10行。審決の記載事項ア) イ 「(従来の技術) この種の装置は,第2図に示されるようなダムの制御局201に設けられる。即ち,制御局201には制御情報送出装置202と,通信装置203とが備えられる。 また,川沿いに設けられた制御対象局204には,通信装置205と処理装置206とが備えられている。制御情報送出装置202から制御対象局204を指定して制御情報が通信装置203へ与えると,通信装置203は,対応する制御対象局204の通信装置205へ制御情報を送信し,通信装置205は受信した制御情報を処理装置206へ与える。ここで,制御情報が放水の警報発生要求であれば,警報の発生が処理装置206においてなされる。また制御局201においては制御対象局204l〜2044を順次に指定して制御情報の送出を行う必要があり,そのため,制御情報送出装置202は第3図のように構成されていた。31は入力部を示し,オペレータが必要時に制御対象局204と,制御情報の項目(内容)とのデータを入力するための構成である。入力部31では与えられたデータが正しいかを検査し,正しければ制御対象局決定部32へ送出する。制御対象局決定部32は与えられたデータ中の制御対象局のデータにより送出処理部33へ該当制御対象局204への発信を命じ,制御情報の項目のデータを与えて,その後の通信が送出処理部33の制御下で行われるようにする。このようにして,ある制御対象局204への制御情報の送出が行われて終了すると,オペレータは次の他制御対象局204への制御情報の送出時まで待ち,送出時となると同様の動作を繰返していた。 従って,人が時間監視を行う必要があるため,煩しくオペレータの負担が大変であった。また,第2図に示したようなシステムでは,ある放流量では放流時からどれぐらいの時間で制御局204 l 〜204 4 にて警報を発生する必要がある等が決まっているにもかかわらず,人手による監視であるため信頼性に欠けるという問題点があった。そこで,完全自動により制御情報の送出を行うことも考えられるが,建設省の規定により完全自動でなく人による点検が義務付けられている場合に対応できない。」(1頁右下欄ないし2頁右上欄) ウ 「(発明が解決しようとする課題) 上記のように従来の制御情報送出装置では,制御対象局へ順次に制御情報を送出する場合の時間管理を人手により行っていたために煩しく,信頼性に欠ける問題点があり,操作性がよく高信頼性を有しながら,人による点検によって制御情報の送出を行い得る制御情報送出装置が求められていた。 本発明はこのような従来の制御情報送出装置に対する要望に基づいてなされたもので,その目的は,操作制が優れ高信頼性を有しながら人による点検により制御情報の送出が行われ得る制御情報送出装置を提供することである。」(2頁右上欄ないし同頁左下欄) エ 「(課題を解決するための手段) 本発明では,制御局から順次に複数の制御対象局へ制御情報を送出する場合に用いられる制御情報送出装置に,制御情報を送出すべき制御対象局と,送出すべき時刻と,送出すべき制御情報の項目とに関するデータが与えられ,開始指示を受けて前記データを出力する制御決定手段と,この制御決定手段から与えられる制御対象局と項目とのデータに基づき一つの制御対象局毎に対応する制御情報の送出処理を行う送出処理手段と,前記制御決定手段から与えられる時刻のデータに基づき次の制御対象局へ制御情報を送出すべき時刻となったことを検出し,警報発生を行う警報手段と,操作によりデータ入力ができ,前記送出処理手段に対し,次の制御対象局に対する制御情報の送出処理の許可/不許可情報を与える入力手段とを備えさせて制御情報送出装置を構成した。」(2頁左下欄ないし同頁右下欄) オ 「(作用) 上記構成によると,制御対象局への制御情報を送出すべき時刻となると警報発生がされるので,人による監視に比べて煩しさがなく高信頼性を有し,送出処理手段による制御情報の送出は1つの制御対象局毎になされ,しかも,入力手段からの許可/不許可情報の入力で送出処理が制御され得るので人による点検で送出の制御がなされることになる。」(2頁右下欄) カ 「(実施例) 以下,図面を参照して本発明の一実施例を説明する。第1図は本発明の一実施例に係る制御情報送出装置のブロック図である。この制御情報送出装置は制御決定手段11,送出処理手段12,警報手段13,入力手段14を備える。この制御情報送出装置は,実際には,例えば,マイクロプロセッサ,主メモリ,I/Oポート等からなるマイクロコンピュータにより構成され,第2図に示したシステムの制御局201における制御情報送出装置202として用いられる。制御決定手段11は,制御情報を送出すべき制御対象局と,送出すべき時刻と,送出すべき制御情報の項目とに関するデータが,送出の毎あるいは予め与えられる。ここでは,予め,次のようにして与えられているものとする。」(2頁右下欄14行ないし3頁左上欄8行) 「第2図のシステムで放水を行うと,制御対象局204l〜2044の順に放水に係る水が到来し,この間隔はそれぞれが固有の時間帯を有するので,これを時刻のデータとする。また,放水量によっては,緊急非難,警戒などのレベルが異なり,制御対象局204l〜2044の相当する地域の地形によってもこれらが異なり,場合によっては制御情報を与えなくともよい。そこで,放水量毎に,制御対象局とその制御対象局に対する制御情報の項目(上記のレベルに対応する項目)とをアレンジし,これに上記時刻データを付加した制御情報セットを用意し,制御決定手段11に持たせておく。制御決定手段11は開始指示(実際には入力手段14からの入力による)を受けて動作を開始し,制御情報セットの正しい指定があったとき,制御決定信号を送出処理手段12内の対象局決定部15へ与え,制御情報セット中の最初の制御対象局のデータ,項目のデータ,及び次の制御対象局へ送出を行うまでの間隔である時刻データを,夫々,対象局決定部15,送出制御部16,時間管理部17へ与える。対象局決定部15は制御決定信号と制御対象局のデータとを受け取っているときであって,入力手段14から許可/不許可情報が許可として与えられているとき送出制御部16へ該当制御対象局への発信制御及び通信の制御を指示し,上記以外のとき「終了」となる。」(3頁左上欄8行〜右上欄14行。記載事項オ)「送出制御部16は対象局決定部15により指示された制御対象局204へ項目のデータの送出を通信装置203を介して行う。通信装置は有線または無線の回線により制御対象局204と結ばれている。送出制御部16は1つの制御対象毎に制御情報の送出処理を行い,送出処理の終了により終了信号を時間管理部17へ与える。時間管理部17は終了信号を受け取ると制御決定手段11から与えられている時刻データによる計時を開始し,タイムオーバーとなると起動信号を警報制御部18へ与える。警報制御部18はドライバ等で構成され,ブザー19,表示ランプ20が接続されている。警報制御部18は起動信号が与えられると,ブザー19を鳴動させ,表示ランプ20を点灯させて次の制御対象局204への制御情報の送出時であることを知らせる。また,警報制御部18は入力手段14へ処理終了を通知する。入力手段14はキーボード等のデータ入力用の構成のほか,タイマを有し,キーボードで不許可の情報が入力されるか,処理終了の通知から所定時間経過しても入力がないとき,不許可情報を対象局決定部15,送出制御部16へ与えて,次の制御対象局204に対する制御情報の送出処理を禁止し,キーボードで許可の入力があると該当の送出処理を許可する。なお,時間管理部17からの起動信号は所定時間後に止められ,警報制御部18によるブザー19の鳴動,表示ランプ20の点灯が止められる。一方,制御決定手段11は制御情報セットに基づき,所定のタイミングで制御決定信号,制御対象局のデータ,項目のデータ,時刻データを出力する。対象局決定部15が制御決定信号か制御対象局のデータを受け取らなくなったとき動作を終了し,各部がリセットされて一連の制御情報セットに基づく処理が終了する。また,時間管理部17が時刻の計時中に入力手段14から不許可情報を与えられたときも同様に処理が終了する。」(3頁右上欄15行ないし右下欄8行。 審決の記載事項カ) 「以上のように構成された制御情報送出装置では,オペレータが放水量に応じて制御情報セットを指示し,開始指示を与えることにより,自動的に初めの制御対象局204への制御情報の送出がなされ,次の制御対象局204からは警報発生を行って,オペレータの介入を待ち,続けて制御情報を送出するか否かが決定されて処理が続く。このため,オペレータは時間監視をせずともよく,所定の放水量に応じた制御情報の送出がなされる。」(3頁右下欄9行ないし17行。審決の記載事項キ)「しかも,この一連の制御情報の送出パターンを変えたいとき,例えば,一つの制御対象局を飛ばして情報送出をしたいとき等にフレキシブルに対応でき,便利である。」(3頁右下欄17行ないし4頁左上欄1行)キ 「[発明の効果] 以上説明したように本発明によれば,制御対象局への制御情報を送出すべき時刻となると警報発生がなされるので,人による時間監視に比べて煩しさがなく高信頼性を有する。また,送出処理手段による制御情報の送出は1つの制御対象局毎になされ,しかも,入力手段からの許可/不許可情報の入力で,送出処理が制御され得るので,人による点検で制御情報の送出がなされることになる。」(4頁左上欄) (2) 刊行物発明の概要 上記(1)によれば,刊行物発明の概要は,以下のとおりであると認められる。 ア 刊行物発明は,ダムからの放流警報を与えるシステムのように,制御局から順次に複数の制御対象局へ制御情報を送出する場合に用いられる制御情報送出装置に関するものである((1)ア)。 イ 従来,ダムの制御局に設けられた制御情報送出装置は,制御対象局を順次指定して制御情報の送出を行う必要があり,ある制御対象局への制御情報の送出が行われて終了すると,オペレータは,次の制御対象局への制御情報の送出時まで待ち,送出時となると同様の動作を繰り返しており,人が時間監視を行う必要があって,煩わしく,負担が大変であった。 さらに,従来の制御情報送出装置では,ある放流量では放流時からどれぐらいの時間で制御対象局204l〜2044にて警報を発生する必要がある等が決まっているにもかかわらず,人手による監視であるため信頼性に欠けるという問題点があった(上記(1)イ)。 ウ そこで,刊行物発明は,操作性が優れ,高信頼性を有しながら,人による点検により制御情報の送出が行われ得る制御情報送出装置を提供することを目的とし(上記(1)ウ),制御局から順次に複数の制御対象局へ制御情報を送出する場合に用いられる制御情報送出装置において,制御情報を送出すべき制御対象局と送出すべき時刻等に関するデータが与えられ,入力手段からの開始指示を受けてデータを出力する制御決定手段と,この制御決定手段から与えられる制御対象局のデータに基づき,一つの制御対象局毎に対応する制御情報の送出処理を行う対象局決定部を含む送出処理手段と,制御決定手段から与えられる時刻のデータに基づき,次の制御対象局へ制御情報を送出すべき時刻となったことを検出し,警報発生を行う警報手段と,対象局決定部を含む送出処理手段に対し,次の制御対象局に対する制御情報の送出処理の許可/不許可情報を与える入力手段とを備える構成としたことで(上記(1)エ),制御対象局への制御情報を送出すべき時刻となると警報発生がされるため,人による時間監視に比べて煩しさがなく高信頼性を有し,また,対象局決定部を含む送出処理手段による制御情報の送出は一つの制御対象局毎にされ,しかも,入力手段からの許可/不許可情報の入力で,送出処理が制御され得るので,人による点検で制御情報の送出がされるという効果を奏する(上記(1)オ,キ)。 (3) 刊行物発明の「対象局決定部15」の構成について 上記(1)カ及び(2)によれば,刊行物発明の「対象局決定部15」は,@最初は制御決定手段11が動作を開始して制御情報セットの正しい指定があったときに自動的に,その後は所定のタイミングで,制御決定手段11から,警報を発生させる制御対象局2041〜2044を特定する制御対象局のデータを,制御決定手段11にあらかじめ与えられた制御対象局の順序どおりに受け取るが,受け取った時点では,送出制御部16へ当該制御対象局に対する制御情報の送出処理をすることはなく,A許可/不許可情報の入力手段14から,許可情報の入力を受けたときに,制御決定手段11から受け取っている上記データに従って警報を発生させる制御対象局2041〜2044に該当する制御対象局に対する制御情報の送出処理を送出制御部16へ「指示」し,これによって送出制御部16が一つの制御対象局毎に制御情報の送出処理を行って,当該制御対象局からの警報発生がされ,B許可/不許可の入力手段14から,不許可情報の入力を受けたとき(入力手段14にキーボードで不許可の情報が入力された場合のほか,前の制御対象局204への制御情報の送出処理後,制御決定手段11から与えられる時刻のデータの時間(次の制御対象局への放水に係る水の到来に要する時間)を所定時間経過しても何ら入力がないときにも,不許可情報が対象局決定部15に与えられる。)には,「終了」となり,次の制御対象局に対する制御情報の送出処理を禁止し,C上記「指示」又は「終了」の処理を繰り返して,制御決定手段11から対象局決定部15が制御決定信号か制御対象局のデータを受け取らなくなったときに動作を終了し,一連の制御情報セットに基づく処理が終わるというものであると認められる。 すなわち,「対象局決定部15」は,制御決定手段11から,制御決定手段11に記憶された警報を発生させる複数の制御対象局204 1 〜204 4 の順序どおりに,一つの制御対象局毎に制御対象局のデータを受け取って,その後,許可/不許可情報の入力手段14から許可情報の入力を受けることにより,当該制御対象局に対する制御情報の送出処理を指示しており,これをもって警報が発生されるべき特定の制御対象局2041〜2044を順次に指定する処理を行っているといえる。 以上によれば,「対象局決定部15」は,「前記開始指示の入力手段14から入力を受けた後に,前記許可/不許可情報の入力手段14から許可情報の入力を受ける度に,前記複数の制御対象局204l〜2044の内,前記警報が発生されるべき特定の制御対象局204l〜2044を順次に指定する」ものであると認められる。 (4) 原告の主張について ア 原告は,刊行物発明では,次の制御対象局への選択又は切り替えは,制御決定手段11によってあらかじめ設定された制御情報セットに基づいて所定のタイミングで行われ,次の制御対象局への選択又は切り替えと,入力手段14による「許可」の入力操作とは完全に独立した処理であり,入力手段14による「許可」の入力操作がされた「一回,一回」,又は「その時」に次の制御対象局への選択又は切り替えは行われないと主張する。 (ア) 原告の上記主張は,刊行物発明の対象局決定部15が,まず,入力手段14からの許可情報の入力によって,許可状態になり,その後,所定のタイミングで制御決定手段11から,次の制御対象局のデータが入力されることを前提とするものである(参考図1参照)。 確かに,刊行物1には,制御決定手段11から対象局決定部に制御対象局データが送信される「所定のタイミング」について,対象局決定部15に対する許可情報の入力よりも前か後かについて,明示的な記載はされていない。しかし,刊行物1には,あらかじめ対象局決定部15に対してオペレータによる制御対象局に対する制御情報の送信を許可する情報の入力がされた後に,制御決定手段11から対象局決定部15に対して当該制御対象局の特定等のデータが送信されることを示唆する記載はなく,かえって,実施例においては,「対象局決定部15は制御決定信号と制御対象局のデータとを受け取っているときであって,入力手段14から許可/不許可情報が許可として与えられているとき送出制御部16へ該当制御対象局への発信制御及び通信の制御を指示し」と記載されており(前記(1)カの記載事項オ),データの受け取りが先であると理解するのが自然であるし,実施例の動作のまとめにおいては,「・・・次の制御対象局204からは警報発生を行って,オペレータの介入を待ち,続けて制御情報を送出するか否かが決定されて処理が続く。」と記載されており(前記(1)カの審決の記載事項キ),オペレータの介入という許可/不許可の操作によって,次の制御対象局204への制御情報の送出をするか否かが決定されることが記載されている。原告の主張を前提とすれば,オペレータは,次の制御対象局を把握することができない状態で,入力手段14から許可情報を入力することになるが,そもそも制御対象局から放流警報を与えることを許可するための情報である「許可情報」の性格上,そのようなシステムの構成は想定し難い上,刊行物発明の目的が,「人による点検によって制御情報の送出を行われ得る制御情報送出装置を提供すること」にあること(前記(1)ウ),その効果が,「送出処理手段による制御情報の送出は・・入力手段からの許可/不許可情報の入力で,送出処理が制御され得る」こととされていること(前記(1)オ)に鑑みれば,刊行物発明においては,制御決定手段11から対象局決定部15に次の制御対象局のデータが所定のタイミングで送信され,オペレータが当該データを確認(点検)した後,当該制御対象局に対する制御情報の送出(警報の発出)を許可するための許可情報が入力されるものであると認められる。したがって,原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。 (イ) また,原告は,上記のとおり,刊行物発明においては,次の制御対象局への選択又は切り替えは,制御決定手段11によってあらかじめ設定された制御情報セットに基づいて所定のタイミングで行われるということを主張している。 しかし,制御決定手段11によってあらかじめ設定された制御情報セットに基づいて所定のタイミングで処理がされるのは,制御決定手段11から,それぞれ対象局決定部15及び送出制御部16に対する制御対象局のデータ及び当該制御対象局に対して送信すべき制御情報の項目のデータの送信であり,これらのデータの送信のみでは,送出処理手段12から,警報が発生されるべき特定の制御対象局204に対する制御情報の送出処理が行われることはなく,警報が発生されるかどうかは未確定であるから,制御決定手段11からのデータの送信行為のみをもって,警報が発生されるべき制御対象局の指定がされたということはできない。 (ウ) なお,原告は,刊行物1では,参考図2及び3に示すような操作が可能であると主張する。しかし,参考図2及び3は,いずれも刊行物発明の対象局決定部15が,入力手段14から次の制御対象局への許可又は不許可情報の入力を受けた後に,制御決定手段11から当該次の制御対象局についてのデータが入力されることを前提とするものであり,刊行物発明の対象局決定部15がそのような構成を有するとは認められないことは前記(ア)のとおりであるから,原告の主張は理由がない。 イ 原告は,刊行物発明においては,入力手段14からの許可に応じて制御信号が送出されるわけではないと主張し,より具体的には,@刊行物1のいずれの記載においても,許可の入力やオペレータの介入は,制御情報が送信されることを許可するとしているだけであり,許可の入力があった場合に,すぐに制御信号を送出するとはどこにも記載されていないこと,A刊行物1では,オペレータによる時間管理をしなくてよいことを前提としたシステムであり,警報を発生する時刻(送出時刻)はあらかじめ決まっていると解されるから,入力手段による許可の入力は,警報発生の時刻になった場合に制御信号が送出されるのを許可するものであること,B制御決定信号等の送出タイミングは,オペレータによる「許可」のタイミングとは関連がなく,独立したタイミングであると解すべきであり,オペレータによる許可の入力があったときにすぐに制御信号を送出するのであるとすると,その許可の入力のタイミングについての時刻をオペレータが管理することになり,上記刊行物1の前提に反すること,C許可の入力のタイミングによって制御情報の送出タイミングがずれるのであれば,オペレータが時間管理しなければならなくなること,D警報制御部18によりブザー19が鳴動等させられるときに,次の制御対象局について送出を許可するか否かを判断するために次の制御対象局が特定されている必要はないことを挙げる。 (ア) しかし,上記@については,刊行物発明においては,許可の入力の前に,対象局決定部15に制御決定信号と制御対象局のデータが送信されるものと認められることは前記ア(ア)のとおりであって,ブザー19の鳴動等により次の制御対象局204への制御情報の送出時であることを知らされたオペレータから許可の入力があった場合には,すぐに制御対象局204に対する制御情報の送出が指示されるものであると認められるから,原告の主張は理由がない。 (イ) また,上記Aについては,刊行物発明は,従来は,オペレータが制御対象局への制御情報の送出終了後,自ら時間監視を行って,次の制御対象局への制御情報の送出時まで待ち,制御情報の送出処理を行わなければならなかったところ(前記(2)イ),刊行物発明においては,制御対象局への制御情報を送出すべき時刻となると警報発生がされるため,人による時間監視に比べて煩しさがなく高信頼性を有するという目的ないし効果を奏するものであり(前記(2)ウ),時刻データに基づいて制御対象局への制御情報を送出すべき時刻を経過すると,制御情報の送出時であることが警報制御部18によってブザー19,表示ランプ20でオペレータに知らされ,これを契機としてオペレータが制御情報の送出についての許可/不許可情報の入力をすることができるため(入力がないまま,警報制御部18の処理終了通知から所定時間を経過すると,不許可情報の入力がされた場合と同様の状態となる。),「オペレータによる時間管理をしなくてよい」ものである。したがって,刊行物発明は,警報発生の時刻になった場合に制御情報の送出時であることをオペレータに知らせるものではあるが,警報発生の時刻になった場合に自動的に制御対象局に対して制御情報を送出するものとは認められないから,原告の主張は理由がない。 (ウ) さらに,上記Bについては,制御決定手段11から制御対象局毎の制御決定信号等が対象局決定部15に送出されるタイミングが,オペレータによる当該制御対象局についての許可情報の入力のタイミングに先立つものと認められることは,前記(ア)のとおりである。そして,前記(イ)のとおり,許可情報の入力はオペレータの判断で行うものではあるが,刊行物発明は,その契機として制御対象局への制御情報を送出すべき時刻を管理してオペレータに知らせるものであるから,その後のオペレータによる許可の入力があったときに制御信号を送出されると解することが,「オペレータによる時間管理をしなくてよい」という刊行物発明の目的(刊行物1の前提)に反するとはいえず,原告の主張は理由がない。 (エ) また,上記Cについても,刊行物発明における「オペレータによる時間管理をしなくてよい」とされる意義は,前記(イ)のとおりであり,刊行物発明は,時刻データに基づいて鳴動するブザー19等を契機として,オペレータが許可を入力することを前提としているから,許可の入力のタイミングによって制御情報の送出タイミングが決定されることをもって,刊行物発明の前提が崩れ,オペレータが時間管理をしなければならなくなるとはいえない。したがって,原告の主張は理由がない。 (オ) 最後に,上記Dについては,次の制御対象局について送出を許可するか否かを判断する際に,次の制御対象局を把握することができないシステムであることは想定し難く,許可の判断の際には,次の制御対象局が特定されている必要があると解されることは,前記ア(ア)のとおりである。なお,刊行物1において,許可/不許可の入力の際にオペレータに次の制御対象局がどの局であるのかを示す情報を表示等する構成について具体的な記載がされていないとしても,刊行物発明の目的が「人による点検によって制御情報の送出を行われ得る制御情報送出装置を提供すること」にあることからすれば,刊行物発明は,当該点検(確認)のために,次の制御対象局を特定するデータの確認手段を備えていると解するのが技術常識に合致するというべきであり,同記載がないことは,前記認定を左右しない。 したがって,この点についての原告の主張も理由がない。 (5) 以上によれば,刊行物発明についての審決の認定が誤っていることについての原告の主張にはいずれも理由がない。 なお,前記(3)のとおり,「対象局決定部15」は,「・・・前記許可/不許可情報の入力手段14から許可情報の入力を受ける度に,・・・前記警報が発生されるべき特定の制御対象局204l〜2044を順次に指定する」ものであると認められるところ,審決の認定は,「・・・前記許可/不可情報の入力手段14からの入力を受ける度に,・・・前記警報が発生されるべき特定の制御対象局204l〜2044を順次に指定」されるとするものであるから,警報が発生されるべき制御対象局の指定がされる場合について,「許可情報の入力」という特定(限定)を付さなかった点については不十分であるが,この点は,後記のとおり,新規性の判断に影響を及ぼさない。 3 新規性判断の誤りについて (1) 本願発明の「制御手段」について 本願発明の概要は,前記1のとおりであり,本願発明は,「前記第二の操作手段が操作される度に,・・・警報が送出されるべき特定の警報局を既定の順序で選択し,または切り替える」という構成を備える。 そして,本願明細書によれば,本願発明の「制御手段」に対応すると解される「制御部」は,「警報局30-1〜30-N の内,放流警報を時系列の順に送出すべき個々の警報局を示す警報局識別子(≧0,≦(N-1))があらかじめ登録され,かつ主記憶上の所定の記憶領域に配置された警報局レジスタ11AR」を有しており( 【0054】),制御局要員によって,本願発明の「第二の操作手段」に対応すると解される「ステップ起動スイッチ22」が押下されると,ステップ警報指令処理を開始して,「警報局レジスタ11AR」に登録された既定の順序の警報局を選択し,または切り替えて,当該警報局宛に警報を送出すべきことを示す「警報指令」を送出するものである(【0063】。なお,本願明細書においては,「選択」と「切り替える」は同義の語として用いられており,本願発明においても,両語が同じ意味で用いられていることは当事者間に争いがない。)。これに対し,本件出願の請求項5に係る発明の「第三の操作手段」(【請求項5】)に対応すると解される「次局スキップスイッチ23」が押下されると,第二の操作手段が操作されたときに警報が送出されるべき警報局に代えて,前記既定の順序で後続する警報局を選択,すなわち,警報局をスキップして次の警報局を選択するものと理解される(【0057】ないし【0076】)。 以上によれば,本願発明の「制御手段」において,「第二の操作手段が操作される度に・・・警報が送出されるべき特定の警報局を既定の順序で選択し,または切り替える」とは,「第三の操作手段」が操作されたときのように,警報局をスキップして次の警報局を選択することは含まずに,警報が送出されるべき特定の警報局を,第二の操作手段が操作される度に,既定の順序で選択し,これをもって当該警報局宛に警報を送出すべきことを指示するものであると解するのが相当である。 (2) 本願発明の「制御手段」と刊行物発明の「対象局決定部15」の対比 刊行物発明の「対象局決定部15」の認定は,前記2(3)のとおりであるところ,刊行物発明の「開始指示の入力手段14」,「許可/不許可情報の入力手段14」及び「制御対象局2041〜2044」は,それぞれ本願発明の「第一の操作手段」,「第二の操作手段」及び「警報局」に相当する。 そして,刊行物発明の「対象局決定部15」は,「制御決定手段11」から,警報を発生させる複数の制御対象局2041〜2044の順を含む制御対象局のデータを順次受け取っているから,「制御決定手段11」に記憶された既定の順序で制御対象局(警報局)のデータを順次受け取っているということができ,さらに,許可/不許可情報の入力手段14(第二の操作手段)から許可情報の入力を順次受けることによって,警報を発生する制御対象局(警報局)を順次に指定して,警報の発生を指示するものであって,「制御対象局(警報局)を指定する」ことと,「制御対象局(警報局)を選択する」ことは,技術的に異なる事象を意味するとはいえないから,刊行物発明の「対象局決定部15」は,警報が送出されるべき特定の制御対象局(警報局)を,許可/不許可情報の入力手段14(第二の操作手段)が操作される度に,既定の順序で選択(指定)し,警報局宛に警報を送出すべきことを指示するものであるということができる。 したがって,刊行物発明の「対象局決定部15」は,前記(1)の本願発明の「制御手段」に相当するものといえ,また,刊行物発明の認定につき「許可情報の入力」という特定が不十分であることによって両者が一致するとの審決の認定が左右されるものとはいえず,両発明が同一であるとの審決の判断に誤りはない。 (3) 原告の主張について 原告は,刊行物発明においては,時刻データに基づいて制御対象局が変更されるものであり,入力手段14による許可の入力によって制御対象局が決定されるものではないとして,新規性の判断が誤りである旨主張する。しかし,刊行物発明においては,時刻データは,警報制御部18にブザー19の鳴動等の起動信号を与えるためのものであり(前記2(1)カの記載事項カ),時刻データに基づいて制御対象局が変更されるものではないことは,前記2(4)イ(イ)のとおりであるから,原告の主張は理由がない。 原告は,入力手段14からの許可の入力は,あらかじめ設定された送出時刻に制御信号が送出されるのを許可するだけであり,刊行物1には,「許可/不許可情報の入力手段14からの入力を受ける度に」その都度「警報局が選択される」という構成は開示されていないと主張する。しかし,同主張を採用することができないことも,前記2のとおりであるから,原告の主張は理由がない。 |
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結論
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |