関連審決 | 異議2000-70731 |
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関連ワード | 発明者 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 発明の要旨認定 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
596号
特許取消決定取消請求事件
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原告 株式会社ブリヂストン 訴訟代理人弁理士 江藤聡明 同 高村志織 同 佐竹和子 被告 特許庁長官小川 洋 指定代理人 宮坂初男 同 一色由美子 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/06/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2000-70731号事件について平成13年11月8日にした決定を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「合成樹脂磁石用組成物」とする特許第2937378号の特許(平成2年1月11日特許出願(以下「本件出願」という。),平成11年6月11日設定登録,以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。 本件特許に対して特許異議の申立てがあり,特許庁は,これを異議2000-70731号事件として審理し,その結果,平成13年11月8日に「特許第2937378号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との決定をし,平成13年12月3日にその謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲 「【請求項1】シラン系カップリング剤を用いて表面処理された磁性体粉末及びポリアミド樹脂からなる樹脂磁石用組成物であって,ポリアミド樹脂として数平均分子量が8,000〜10,500であるポリアミド-6樹脂3〜40重量%と磁性体粉末97〜60重量%からなる合成樹脂磁石用組成物。 【請求項2】シラン系カップリング剤が,アミノシラン系又はウレイドシラン系である請求項1に記載の合成樹脂磁石用組成物。」 (以下,上記請求項1記載の発明を,「本件発明1」といい,上記請求項1及び2に係る発明をまとめて「本件各発明」という。) 3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件各発明は,特開昭59-176346号公報(甲第4号証。決定が「刊行物2」として引用する文献である。)に記載された発明(以下「引用発明」という。),並びに,特開平1-278560号公報(甲第3号証)及び特開昭62-61303号公報(甲第5号証)に記載された各発明から,容易に発明をすることができたものである,と認定判断するものである。 決定が,上記結論を導くに当たり,本件発明1と引用発明との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。 一致点 「磁性体粉末及びポリアミド-6樹脂とからなる磁石用組成物である点及びその組成割合が重複する点」 相違点 「本件発明1はポリアミド-6の数平均分子量を8,000〜10,500と限定しているのに対し,刊行物2に記載された発明(判決注・引用発明)はポリアミド-6の数平均分子量を明示していない点(相違点1)」 「本件発明1はポリアミドオリゴマーについて何も明示されていないのに対し,刊行物2に記載された発明はポリアミドオリゴマーを含有するポリアミド樹脂である点(相違点2)」(以下,決定と同様に「相違点2」という。) 「本件発明1では磁性体粉末がシラン系カップリング剤で表面処理されているのに対し,刊行物2に記載された発明は該表面処理について記載されていない点(相違点3)」 |
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原告主張の決定取消事由の要点
1 決定は,本件発明1の認定を誤ったことにより,相違点2についての認定判断を誤ったものであり,この誤りが,本件各発明のいずれについても,結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 2 決定は,相違点2について,「本件請求項1には,「オリゴマー」という語は用いられていないが,ポリアミド-6樹脂中には,通常オリゴマーが含まれており,本件請求項1に係る発明において,ポリアミド樹脂中には「オリゴマー」が含有されていないものとすることはできない(・・・)。したがって,この相違点は実質的な相違点ではない。」(決定書5頁6段,7段),「刊行物2に記載された発明(判決注・引用発明)は,ポリアミド系樹脂とポリアミドオリゴマーとを混合して用いている。このポリアミド系樹脂とポリアミドオリゴマーとの混合物は,「ポリアミド樹脂」と言うことができる。」(決定書6頁末段)と認定判断した。 しかし,この認定判断は誤りである。 (1) 本件発明1に用いられる「ポリアミド6-樹脂」は,本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,1種類のポリアミド-6樹脂(分子量分布曲線が山形形状で,ピークが1か所であるもの。以下同じ。)を使用するものであり,2種類のポリアミド-6樹脂(分子量分布曲線が異なる山形形状のものを混合したもの。以下同じ。)を使用するものではないと解すべきである。 本件明細書には,従来技術として,「一方,低分子量ポリアミド(数平均分子量n(=3000〜15,000)と高分子量ポリアミド( n=15,000〜30,000)のブレンドポリアミドを用いる方法(特開昭61-179506号)も提案されているが,低分子量ポリアミドの混入比は最大で75%であり,流動性向上には充分ではない。」(甲8号証2頁左欄9行〜14行)との記載があり,[課題を解決するための手段]には,「本発明者らはポリアミド-6樹脂の数平均分子量に注目し,数平均分子量が適切な範囲にあるポリアミド-6樹脂を単独に用いることにより流動性と混練押出し時のストランド強度,成形品強度に優れた合成樹脂磁石用組成物が得られることを確認し,本発明に至った。」(同2頁左欄21行〜25行)との記載がある。 本件明細書の上記記載からすれば,数平均分子量が異なるポリアミドを配合した従来の技術では,合成樹脂磁石用組成物の流動性が不充分であるとの課題があったため,本件発明1においては,1種類のポリアミド-6樹脂を使用することにより,この課題を解決したものであることが明確である。本件明細書の「課題を解決するための手段」における,「ポリアミド-6樹脂を単独に用いる」との意味は,1種類のポリアミド-6樹脂を使用するという意味であることは明らかである。 本件明細書では,その実施例においても,1種類のポリアミド-6樹脂を使用しており,本件明細書の記載も上記趣旨で首尾一貫している。 本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明における上記記載からみても,ポリアミド樹脂として特定の数平均分子量のものを1種類のみ用いた合成樹脂磁石用組成物であることは明らかである。 (2) 引用発明におけるポリアミド-6樹脂は,請求項1に記載された数平均分子量の範囲に入るものであるものの,ポリアミド系樹脂とポリアミドオリゴマーの2種類のポリアミド-6樹脂を配合しているものである。これに対し,本件発明1における「ポリアミド-6樹脂」は,前記のとおり,1種類のポリアミド-6樹脂を使用するものであるから,引用発明におけるポリアミド-6樹脂とは明確に異なるものである。相違点2が実質的な相違点ではないとした決定の判断は誤りである。 ポリアミド(ナイロン)は,分子構造中にアミド基(-NHCO-)を有する線状ポリマーの総称である。ポリアミドの中に,本件発明1の「ポリアミド-6樹脂」があり,これは,ε-カプロラクタムを単独のモノマーとして開環重合で得られるものである。 本件発明1の「ポリアミド-6樹脂」は,その重合成分が1種類であるから,得られる分子量分布曲線のピークは1か所であって,きれいに正規分布する,と考えるのが当業者の技術常識である(甲6号証の図3及び甲第7号証の図1参照)。これに対し,引用発明におけるような2種類のポリアミド-6樹脂の場合,その分子量分布曲線についてはピークが2か所見られるのである。 ポリアミドに限らず,ポリマーは,モノマーから合成されるものであるから,ある程度の幅の分子量分布を持ち,未反応物,低分子量のもの(オリゴマー),あるいは極めて高分子量のものを含むものであることも技術常識である。本件発明1の「ポリアミド-6樹脂」にも,オリゴマーがこの技術常識の範囲内で含まれることになる。しかし,引用発明のように,ポリアミド系樹脂にポリアミドオリゴマーを積極的に混合したポリアミド-6樹脂は,本件発明1の「ポリアミド-6樹脂」には含まれないのである。 |
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被告の反論の骨子
決定の認定判断はいずれも正当であって,決定を取り消すべき理由はない。 原告は,本件発明1に用いられる「ポリアミド-6樹脂」は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,1種類のポリアミド-6樹脂を使用するものであり,2種類のポリアミド-6樹脂を使用するものではない,と主張する。しかし,原告のこの主張は,本件明細書の特許請求の範囲の記載に基づいた主張ではない。 本件発明1における「ポリアミド-6樹脂」は,その特許請求の範囲において「数平均分子量が8,000〜10,500であるポリアミド-6樹脂」と規定されているだけであって,数平均分子量が上記範囲内のポリアミド-6樹脂であればよく,2種類のポリアミド-6樹脂を使用したものを排除しているかどうか,換言すれば,その分子量分布がどのようになっているかについては,本件明細書においては何も記載されていない。 ポリアミド-6樹脂の数平均分子量は,数平均分子量の異なるポリアミド-6樹脂(例えば,数平均分子量が5,000のものと,数平均分子量が11,000のものとの2種類)を混合することにより,「8,000〜10,500」の範囲に調整することができるものであり,本件発明1は,このようなものも含むものである。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明1について (1) 本件明細書には,次の記載がある(甲8号証)。 産業上の利用分野 本発明は合成樹脂磁石の成形において,高い流動性を有するため型充填性が向上し,磁力の均一性,磁力の向上などを可能とする合成樹脂磁石用組成物に関するものである。 従来の技術 合成樹脂磁石用組成物として各種の樹脂がバインダーとして用いられており,特にポリアミド-6樹脂は機械的強度に優れ,かつ比較的安価であることから多用され,その中でも流動性が良好である数平均分子量1,1000のポリアミド-6樹脂が主に使用されている。しかしながら上記のポリアミド-6樹脂においても流動性は充分ではなく,磁性体粉末と複合し樹脂磁石用組成物とした時の溶融粘度は高い。このため複雑形状品の成形においての型充填に問題があり,さらに磁力及び磁力均一性の向上に限界があった。(甲8号証1頁左欄下から3行〜右欄下から3行) [発明が解決しようとする課題] 本発明は上記の問題点に対し,流動性と混練押出し時のストランド強度,成形品強度とに優れた合成樹脂磁石用組成物を提供しようとするものである。 [課題を解決するための手段] 本発明者らはポリアミド-6樹脂の数平均分子量に注目し,数平均分子量が適切な範囲にあるポリアミド-6樹脂を単独に用いることにより流動性と混練押出し時のストランド強度,成形品強度に優れた合成樹脂磁石用組成物が得られることを確認し,本発明に至った。 即ち,本発明の合成樹脂磁石用組成物は,シラン系カップリング剤を用いて表面処理された磁性体粉末及びポリアミド樹脂からなる樹脂磁石用組成物であって,ポリアミド樹脂として数平均分子量が8,000〜10,500であるポリアミド-6樹脂3〜40重量%と磁性体粉末97〜60重量%からなる。 ポリアミド-6樹脂の数平均分子量が8,000未満のものを使用した場合流動性には優れるが成形品の強度,特に衝撃強度の低下が著しい。一方ポリアミド-6樹脂の数平均分子量が10,500以上の場合成形品強度には優れるが流動性は著しく低下し,このため複雑形状品での型充填性が悪くなり,また磁力の均一性にも劣る。さらにこの場合流動性が低下するため,磁性体粉末の含有率を高くして高磁力成形品を得るということが困難である。(同2頁左欄16行〜39行) ハ.発明の効果 (1)第1表に示したように,本発明に係る合成樹脂磁石用組成物を用いることにより流動性を示すメルトフロー値が著しく向上する。 (2)このような流動性向上により,特に磁性体粉末を高充填した高磁力合成樹脂磁石の製造が容易になる。 (3)複雑形状品の型充填性が改良出来る。 (同3頁左欄下から2行〜4頁右欄1行) 本件明細書の上記記載及び特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明1は,合成樹脂磁石用組成物において,従来から用いられている数平均分子量11,000のポリアミド-6樹脂よりも高い流動性を得るために,数平均分子量8,000〜10,500のポリアミド-6樹脂を用いることを,その特徴とする発明であると認められる。 (2) 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明における従来技術の説明(低分子量ポリアミドと高分子量ポリアミドを混合する方法が,流動性向上には十分ではないこと),及び,「本発明者らはポリアミド-6樹脂の数平均分子量に注目し,数平均分子量が適切な範囲にあるポリアミド-6樹脂を単独に用いる ことにより流動性と混練押出し時のストランド強度,成形品強度に優れた合成樹脂磁石用組成物が得られることを確認し,本発明に至った。」(下線付加)との記載を参酌すれば,本件発明1の「数平均分子量が8,000〜10,500であるポリアミド-6樹脂」における「ポリアミド-6樹脂」は,1種類のポリアミド-6樹脂を使用するものであり,2種類のポリアミド-6樹脂を使用するものではない,と認定すべきであると主張する。 発明の進歩性判断の審理に当たってなされる当該発明の要旨の認定は,明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきである(特許法70条1項)。もっとも,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,その用語が一義的に明確に解釈することができるものであるかどうかという点も含めて,発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して,解釈する必要がある(70条2項参照)。そして,特許請求の範囲に記載された用語の意義が一義的に明確である場合には,特許請求の範囲の記載に従って,その発明の要旨の認定をすべきであり,その用語の意義が一義的に明確でない場合には,発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲の記載を解釈すべきであるものの,その用語が本来的に有する意義を超えて,その用語の意義の解釈をなすことができないことは当然であり,いずれの場合にも,用語の意義の解釈の名の下に,特許請求の範囲に新たな用語を付加して記載したのと同様な結果となる解釈をして,発明の要旨の認定をすることができないことは当然である。(最2小判平成3年3月8日民集45巻3号123頁参照) 本件明細書の特許請求の範囲(請求項1)は,前記のとおりのものであり,「数平均分子量が8,000〜10,500であるポリアミド-6樹脂」と規定されているだけであって,この「ポリアミド-6樹脂」が1種類のものであることとか,2種類のものは含まないこととか,についての記載はない。 ポリアミド(ナイロン)は,分子構造中にアミド基(-NHCO-)を有する線状ポリマーの総称であり,その中に,ポリアミド-6樹脂があり,これは,ε-カプロラクタムを単独のモノマーとして開環重合で得られるものであることは,原告が認めるところであり,「ポリアミド-6樹脂」との用語の意義は一義的に明確である。また,ポリアミドに限らず,ポリマーは,モノマーから合成されるものであるから,ある程度の幅の分子量分布を持ち,未反応物,低分子量のもの(オリゴマー),あるいは極めて高分子量のものを含むものであることが技術常識であることも,原告が認めるところである。このように,ポリマーは,分子量の異なる重合体分子の混合物であるから,その分子量は,通常,混合物中の分子の各分子量を平均することにより表わされる。分子量を平均する方法の一つが,本件発明1で用いられている「数平均分子量」である。そして,「数平均分子量」とは,「ある重合度の分子」の分子量と分子数の積(「ある重合度の分子」全重量)をすべての重合度について足し合わせた合計値を,全分子数で割ったものと定義されることは,ポリマーの技術分野における技術常識であるから,「数平均分子量」との用語の意義も一義的に明確である(弁論の全趣旨)。そして,本件明細書の発明の詳細な説明をみても,「数平均分子量」及び「ポリアミド-6樹脂」との用語の意義が,一義的に明確であることについて疑いを生じさせる趣旨の記載もない(甲8号証)。 原告が指摘する,本件明細書の発明の詳細な説明における従来技術についての上記記載と,「単独に用いる」等の上記記載は,本件発明1の「ポリアミド-6樹脂」が1種類のものであることを示唆するような記載ではあるものの,本件発明1をそのようなものに限定することを明示する記載ではないことはもとより,何よりも,本件発明1をそのようなものに限定するのであれば,その旨を特許請求の範囲に明記すべきである。すなわち,本件出願について適用される旧特許法(平成2年法律第30号による改正前の特許法)36条4項2号は,特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(・・・)に区分してあること」と規定しているのであるから,本件発明1の「ポリアミド-6樹脂」を1種類のものに限定するのであれば,その趣旨が明確に理解できるように特許請求の範囲に記載すべきである。本件明細書の特許請求の範囲(請求項1)にその旨を明記しなかった以上,本件発明1の「数平均分子量が8,000〜10,500であるポリアミド-6樹脂」は,その特許請求の範囲(請求項1)に記載されたとおりのものと解するほかないことは明らかである。原告の上記主張は,特許請求の範囲にその旨の記載がないにもかかわらず,本件発明1の「ポリアミド-6樹脂」が1種類のものであると解すべきであり,2種類のものを混合したものは含まない,との主張であって,このような主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,到底採用することができない。 (3) 原告は,本件発明1の「ポリアミド-6樹脂」については,その重合成分が1種類であるから,得られる分子量分布曲線のピークは1か所であって,きれいに正規分布する,と考えるのが当業者の技術常識である,これに対し,引用発明におけるような2種類のポリアミド-6樹脂の場合,その分子量分布曲線についてはピークが2か所見られるのである,と主張する。 確かに,ポリアミド-6樹脂は,上記のとおりε-カプロラクタム単独の開環重合反応で合成されるものであるから,通常の重合反応により得られたままの樹脂は,特定の分子構造のポリアミド分子の混合物からなる樹脂状物質であって,分子量分布曲線のピークが1か所となる分布をしているものであることは,原告のいうとおり技術常識であると考えられる。しかしながら,本件発明1の「ポリアミド-6樹脂」は,特許請求の範囲に記載された数平均分子量の範囲内のポリアミド-6樹脂であればよいのであるから,これをε-カプロラクタム単独の開環重合反応で合成されたままの樹脂に限定して解する必要はないのであり,例えば,異なる重合条件で合成された,2種類のポリアミド-6樹脂を混合したものは,その分子量分布曲線についてのピークが2か所見られるとしても,特定の分子構造のポリアミド分子の混合物からなる樹脂状物質であり,その数平均分子量が「8,000〜10,500」の範囲内にある限り,本件発明1における「ポリアミド-6樹脂」に含まれると解するほかないのである。原告の上記主張は,本件発明1における「ポリアミド-6樹脂」は,その分子量分布曲線のピークが1か所のものに限られることを前提とするものであって,その前提自体が,特許請求の範囲に記載されていないことを本件発明1の構成とするものであり,発明の進歩性の判断の前提としてなされる発明の要旨認定において,採用することができないものであることは前記のとおりである。 原告は,引用発明におけるポリアミド-6樹脂は,ポリアミド系樹脂とポリアミドオリゴマーの2種類のポリアミド-6樹脂を使用しているものであるから,本件発明1における「ポリアミド-6樹脂」(1種類のポリアミド-6樹脂を使用するもの)とは明確に異なる,と主張する。 しかし,原告のこの主張も,本件発明1における「ポリアミド-6樹脂」が,1種類のものを使用するものであることを前提とするものである。発明の進歩性の判断の前提としてなされる発明の要旨認定において,本件発明1の要旨をそのようなものに限定して解釈するとの前提自体を採用し得ないことは,前記のとおりであるから,原告の上記主張も理由がない。 2 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由は理由がなく,その他,決定には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 瀬順久 |