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関連審決 不服2013-17365
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事件 平成 26年 (行ケ) 10245号 審決取消請求事件

原告 スカニアシーブイ アクチボラグ
同訴訟代理人弁理士 園田吉隆
同 小林義教
同 高木亮
被告特許庁長官
同 指定代理人中村達之
同 槙原進
同 長馬望
同 梶本直樹
同 根岸克弘
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/12/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2013−17365号事件について平成26年6月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成22年3月15日,発明の名称を「計器パネルおよび計器パネル向けのボードユニット」とする特許出願をしたが(特願2012-500742号。優先日:平成21年3月19日,優先権主張国:スウェーデン。請求項数7。
以下「本願」という。甲5),平成25年5月7日付けで拒絶査定を受けた(甲8)。
(2) 原告は,平成25年9月9日,これに対する不服の審判を請求した(甲9)。
特許庁は,これを不服2013-17365号事件として審理し,平成26年6月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月15日,原告に送達された。
(3) 原告は,平成26年11月11日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件審決が対象とした特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲5)。以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」,本願発明に係る明細書(甲5)を,図面を含めて「本願明細書」という(なお,「/」は,原文の改行部分を示す。以下同じ。)。
【請求項1】自動車向けの計器パネル(10)であって,前記パネルの外殻(20)に対して枢動するように前記自動車の前方移動の方向を見たときに観察すると前縁部で支持された持上げ可能カバー(30)を上側に備え,前記持上げ可能カバー(30)の下に格納空間(40)が区切られる,計器パネル(10)において,/前記カバーと前記格納空間の間で前記外殻(20)に対して枢動するように横縁部(62)で支持されたボードユニット(50)であって,/両横縁部(74,64)で互いに対して枢動可能に接続された1対のボード板(70,60)をさらに備え,したがって前記ボード板のうちの第1のボード板(70)を,前記カバー(30)の下で前記ボード板のうちの第2のボード板(60)に当接する後退させ た作業位置から,前記第2のボード板(60)と実質上水平の平面内に位置する展開された作業位置へ展開できるボードユニット(50)を特徴とする計器パネル(10)。
3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イないしエの周知例等に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶すべきものである,というものである。
ア 引用例:国際公開第2008/100216号(甲1の2)イ 周知例1:実願平4-86396号(実開平6-49213号)のCD-ROM(甲2)ウ 周知例2:実願平4-44844号(実開平6-962号)のCD-ROM(甲3)エ 周知例3:独国特許発明第4327869号明細書(甲4)(2) 本件審決が認定した引用発明,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明 自動車のインストルメントパネル10であって,カバー20は,後端の両側でフレーム要素12に対して枢支されて上側に設けられ,カバー20の下に電気回路,例えばヒューズ,リレーほか車両の電子電気装置など大きな部品からなるものが入る空間30が画成され,カバー20と空間30の間で,引き出し板40は,引き出しレール70のセットを介して,フレーム要素12に対して摺動可能に設けられ,引き出し板40が格納位置と展開位置を移動可能であるインストルメントパネル10。
イ 本願発明と引用発明との一致点 自動車向けの計器パネルであって,前記パネルの外殻に対して枢動するように前記自動車の前方移動の方向を見たときに観察すると前縁部で支持された持上げ可能カバーを上側に備え,前記持上げ可能カバーの下に格納空間が区切られる,計器パネルにおいて,カバーと格納空間の間で,外殻に対して相対移動可能に支持された作業テーブルを有する計器パネル。
ウ 本願発明と引用発明との相違点(ア) 相違点1 「カバーと格納空間の間で,外殻に対して相対移動可能に支持される作業テーブル」に関し,本願発明においては「カバーと格納空間の間で,外殻に対して枢動するように横縁部で支持されるボードユニット」であるのに対し,引用発明においては「カバー20と空間30の間で,引き出しレール70のセットを介して,フレーム要素12に対して摺動可能に設けられる引き出し板40」である点。
(イ) 相違点2 本願発明において,ボードユニットは,両横縁部で互いに対して枢動可能に接続された1対のボード板を備え,ボード板のうちの第1のボード板を,カバーの下でボード板のうちの第2のボード板に当接する後退させた作業位置から,第2のボード板と実質上水平の平面内に位置する展開された作業位置へ展開できるものであるのに対し,引用発明において,引き出し板40は格納位置と展開位置を移動可能であるものの,1対の板から構成されない点。
(3) 本件審決は,以下のとおりの周知技術を認定した。
周知技術1 自動車用の収納ボックスにおいて,テーブルとしての機能を有する中蓋を枢動可能に設けること。
周知技術2 車両のインストルメントパネルに収納,引き出し可能なテーブルにおいて,両横 縁部で互いに対して回動可能に接続された1対の主テーブル及び副テーブルを備え,主テーブルを,収納状態で副テーブルに当接する後退させた位置から,副テーブルと実質上水平の平面内に位置する展開された位置へ展開させること。
4 取消事由容易想到性の判断の誤り(相違点1に係る判断の誤り)
当事者の主張
〔原告の主張〕1 本件審決の判断について 本件審決は,相違点1について,引用例には,空間30へのアクセスを良くするための他の実施例として,引き出し板40をカバー20と連係して枢動させることが記載されているから,引用発明において,空間30へのアクセスを良くするために,周知技術1を適用して,相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは,当業者が容易に想到することができたことである旨判断した。
2 相違点1の容易想到性について (1) 引用発明は,従来のインストルメントパネルの固定されたテーブル面は,運転手が仕事をすることができる,例えば,紙文書又はポータブルコンピュータが置け,一時的に食事スペースになる平坦な面の用途に便利に使用できるようにするには,通常,あまりに小さく,シートから離れ過ぎているとの課題を解決するためのものであり,当該課題を解決するために,引用発明の引き出し板40は,カバー20と空間30の間で,引き出しレール70のセットを介して,フレーム要素12に対して摺動可能に設けられている。
しかるに,引用発明において,空間30へのアクセスを良くするために,周知技術1を適用して,カバー20と空間30の間で,引き出しレール70のセットを介して,フレーム要素12に対して摺動可能に設けられた引き出し板40の代わりに,テーブルとしての機能を有する中蓋を枢動可能に設けた場合には,カバー20のテーブル面22と中蓋を同時に作業面として使用することができなくなる。周知例1 において,中蓋6を作業面として使用するためには,本願発明の「持上げ可能カバー30」に相当する外蓋5を持ち上げる必要があり,外蓋5を閉じた状態では,中蓋6を作業面として使用することはできない。
したがって,引用発明において,空間30へのアクセスを良くするために,周知技術1を適用して,相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように特定した場合,引用発明の上記課題を解決することができないから,阻害要因が存在する。
(2) また,引用発明において,周知技術1を適用することによって空間30へのアクセスを良くし,周知技術2を適用した場合には,周知技術2の「主テーブル」が引用発明の「引き出し板40」としての機能を果たすことになるところ,カバー20のテーブル面22と主テーブルのテーブル面との間には段差が生じ,カバー20のテーブル面22と主テーブルのテーブル面とを1つのテーブル面として使用することができず,広いテーブル面を得ることはできない。
したがって,引用発明において,周知技術1を適用することによって空間30へのアクセスを良くし,周知技術2を適用したとしても,引用発明の上記課題を解決することはできないから,阻害要因が存在する。
(3) 被告の主張について 被告は,本件審決における判断は,引用発明における引き出し板40を,摺動可能であってテーブルとしての機能を有したまま枢動可能な構造とすることは,当業者が容易に想到することができた旨を述べたものであるとし,これを前提に,当業者において,引用発明に周知技術1を適用し,引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能とすることに,格別の困難性はない旨主張する。
しかし,本件審決には,引用発明の「カバー20と空間30の間で,引き出しレール70のセットを介して,フレーム要素12に対して摺動可能に設けられた引き出し板40」と周知技術1とを組み合わせ,引き出し板40を,カバー20と空間30の間で,フレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能とするための技術は何ら示されていないから,本件審決における判断を上記のように解することはでき ない。
また,引用発明において,周知技術1を適用して,引き出し板40を,カバー20と空間30の間で,フレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能とするためには,引用発明の「引き出しレール70のセット」を変形させることや,新たな部材を加えることなどにより,周知技術1の「ヒンジピン1」,「第1の結合体2」,「第2の結合体3」,「第3の結合体4」に相当する部材を得ることが必要であるところ,被告が,引き出し板40を,フレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能とする構造に係る技術常識を示す証拠として挙げる乙1ないし4は,いずれも,引用発明の「引き出しレール70のセット」を変形させることや,新たな部材を加えることなどにより,周知技術1の「ヒンジピン1」,「第1の結合体2」,「第2の結合体3」,「第3の結合体4」に相当する部材を得るための技術を開示するものではない。したがって,乙1ないし4に開示された技術をわきまえた当業者であっても,引用発明において,「引き出しレール70のセット」をどのように変形させ,どのような新たな部材を加えれば,周知技術1の「ヒンジピン1」,「第1の結合体2」,「第2の結合体3」,「第3の結合体4」に相当する部材を得られるのか,明らかであるとはいえず,引用発明において,周知技術1を適用して,引き出し板40を,カバー20と空間30の間で,フレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能とすることが容易に想到し得たことであるとはいえない。
(4) 以上のとおり,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断は誤りである。
〔被告の主張〕1 原告の主張について 原告は,カバー20と空間30の間で,引き出しレール70のセットを介して,フレーム要素12に対して摺動可能に設けられた引き出し板40の「代わりに」,テーブルとしての機能を有する中蓋を枢動可能に設けた場合には,引用発明の課題を解決することができないので,引用発明に周知技術1を適用することには阻害要 因が存在する旨主張する。
しかし,本件審決は,引用発明における「カバー20と空間30の間で,引き出しレール70のセットを介して,フレーム要素12に対して摺動可能に設けられる引き出し板40」に,「自動車用の収納ボックスにおいて,テーブルとしての機能を有する中蓋を枢動可能に設けること」との周知技術1を適用して,引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能とし,相違点1に係る本願発明の発明特定事項である「カバーと格納空間の間で,外殻に対して枢動するように横縁部で支持されるボードユニット」のように特定すること,すなわち,引用発明における引き出し板40を,摺動可能であってテーブルとしての機能を有したまま枢動可能な構造とすることは,当業者が容易に想到することができたことであると判断したものであって,引き出し板40の「代わりに」,テーブルとしての機能を有する中蓋を枢動可能に設けることが容易に想到することができることであると判断したものではない。
原告の上記主張は,その前提において誤りがある。
2 相違点1に係る容易想到性について (1) 引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能とする構造としては,@引き出し板40をフレーム要素12の引き出しレール70に対して摺動可能かつ枢動可能とする構造(乙1の【0010】〜【0013】,【図2】,乙2の【0017】〜【0019】,【図1】)A引き出しレール70をフレーム要素12に対して枢動可能として,引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能とする構造(乙3の【0008】,【0009】,【0021】,【図11】,乙4の【0031】)の2つが考えられるところ,いずれの構造も当業者にとって本願の優先日前に技術常識であった。
そして,引用例には,空間30へのアクセスを良くするための他の実施例として,引き出し板40をカバー20と連係して枢動させることが記載されており(図7,8),当該構造は,引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動 可能な構造を示唆している。
したがって,上記技術常識を備えた当業者が,引用発明において,周知技術1を適用し,引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能とすることに,格別の困難性はない。
(2) また,相違点2に関し,引用発明における引き出し板40に代えて,周知技術2のテーブルを適用することにより,引用発明の課題を十分に解決できる。
本件審決は,本願発明と引用発明との相違点を便宜上2つに分けて判断したが,総合的な検討の結果,本願発明は容易想到であると判断したものであって,相違点1及び2を併せて検討すれば,引用発明において,周知技術1を適用することによって空間30へのアクセスを良くし,周知技術2を適用することによって引用発明の課題を解決できるものである。
したがって,引用発明において,周知技術1を適用することに阻害要因は存在しない。
(3) 以上によれば,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本願発明について(1) 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記載は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本願明細書(甲5)には,次のような記載がある(図1〜5については,別紙1本願明細書図面目録を参照。)。
ア 技術分野 【0001】本発明は,自動車向けの計器パネルに関し,パネルの外殻に対して枢動するように自動車の前方移動の方向に観察すると前縁部で支持された持上げ可能カバーを上側に備え,持上げ可能カバーの下に格納空間が区切られる。本発明はまた,そのような計器パネル向けのボードユニットに関する。
イ 背景技術 【0002】知られている慣行では,そのような計器パネルには,計器パネルの後ろの座席に座る人のための作業場所として機能する引出し板が提供される。しかし,そのような引出し板は,計器パネル内の下にある空間へのアクセスを妨げることがある。
発明の概要 【0003】本発明の目的は,格納空間とボードユニットの両方を備えることができ,ボードユニットを格納空間内へ後退でき,格納空間へのアクセスを妨げない,導入部に示した種類の計器パネルを提案することである。
【0006】本発明の一態様によれば,計器パネルは,カバーと格納空間の間で外殻に対して枢動するように横縁部で支持されたボードユニットを有する。これにより,ボードユニットは,格納空間の上のさらなるカバーとして機能することが可能になり,したがって,持ち上げられると格納空間を露出させ,下ろされると作業表面として機能する。
【0007】ボードユニット自体は,両横縁部で互いに対して枢動可能に接続された1対のボード板を備え,したがって第1のボード板を,カバーの下で第2のボード板に当接する後退させた作業位置から,第2のボード板と実質上水平の平面内に位置する展開された作業位置へ展開することができる。したがってボードユニットの表面積は,展開された作業位置で2倍になる。
【0008】本発明の一実施形態によれば,ボードユニットは,外殻の前端部で枢動するように支持される。この場合ボードユニットは,下ろされると,ボード板を後退させた状態でも,展開させた状態でも,常に格納空間を覆う。
【0009】別の実施形態によれば,ボードユニットは,外殻の後端部で枢動するように支持される。この場合もボードユニットは,前方へ展開されると格納空間を覆うが,後方へ展開されると,ボード板を後退させた状態でも,展開させた状態でも,作業位置で格納空間を露出させる。この実施形態では,後方へ展開されたボードユニットは,完全に展開された作業位置で使用者の方へさらに突出する。した がってこの場合,別法として,半分後方へ展開された作業位置で,すなわち上部板が後退された位置に残っている状態で,ボードユニットを使用することも可能であろう。
【0010】さらなる実施形態によれば,ボードユニットは,外殻に沿って移動するように支持される。この場合ユニットは,望みに応じて上部板を後退させた状態でも,展開させた状態でも,所望の使用位置まで後方へ任意で移動させることができる。
エ 発明を実施するための形態 【0015】図1に示したモジュール10は,トラックなどの市販の自動車内で乗客側にある他に図示しない計器パネルの一体部分であるものとする。
【0016】モジュール10は,上側に開口40をもつ成型されたプラスチック外殻20を備え,開口40は,カバー30によって閉じることができる。カバー30は,詳細に図示しないが,外殻20の両側壁22で枢動するように支持された前縁部を有し,それによって,図1に示す開いた位置からカバーを下ろして,外殻20内の開口を閉じることが可能になる。詳細に図示しないが,ロック機構が,カバー30を下ろした位置で固定する。カバー30は,図示しない下ろした位置にあるとき,様々な物体,たとえば書類の一時的な格納のためのトレー状の凹部32(図2,3)を上側に有することができる。
【0017】開口内には,トレー状の挿入部42が配置され,カバー30の下の格納空間を区切る。挿入部42の下の空間内には,プラスチックの外殻20内に,図示しない車両部品,たとえば電気ヒューズ用のホルダを配置することができる。
前縁部で,挿入部42は,外殻20の両側壁22にある軸44の周りで詳細に図示しない枢動軸受を介して持ち上がるように支持され,挿入部42の下の空間へのアクセスを可能にする。… 【0018】図2〜4に見られるように,1対の後退可能なボード板60および70を備えるボードユニット50を,トレー状の挿入部42の上で開口40内に嵌 合させることができる。
【0019】図5に最もはっきりと示すように,2つのボード板60および70は,それぞれ1対の共通の横縁部64および74にある1対の対向する枢動軸受52によって,互いに対して枢動可能に接続される。枢動軸受52の共通の幾何学上の軸は,板60,70の相互に面している作業表面の平面内にほぼ位置し,したがって縁部64,74は互いに当接し,たとえば図3に示すように,ボードユニット50の展開された作業位置を区切る。
【0020】図5に戻ると,一方のボード板60は,枢動軸受52の反対側の横縁部62に1対の対向する軸受保持器66を有し,軸受保持器66によって,適切な図示しない枢動ピンを用いて,ボードユニット50を外殻20の両側壁に枢動可能に接続することができる。
【0021】上部ボード板70を図3に示す後方へ展開された作業位置へ容易に展開するために,この場合上部ボード板70の自由端部72は,図5に示すように,下部ボード板60の前縁部62を越えていくぶん突出し,したがって使用者は,自由端部72の下をつかむことができる。… 【0022】図2および3による実施形態では,ボードユニット50は,外殻20の前縁部で挿入部42と同じ軸44の周りを枢動するように支持される。挿入部42を露出させるには,使用者は,ボードユニット50を持ち上げ,また挿入部42の下の空間を露出させるには,ボードユニット50と挿入部42の両方を持ち上げる。… 【0023】図4による実施形態では,ボードユニット50は,外殻20の後端部で軸48の周りを枢動するように支持される。したがって,この場合板70は,実線の形で示す格納および作業位置にあるときに最も低くなる。鎖線で示す作業位置への展開は,まずボードユニット全体を軸48の周りで180度枢動させて挿入部42を露出させることを伴う。この場合,ボードユニット50は,1)ユニット50が外殻20内で前方へ展開され,それによってボード板60の下面が作業表面 として機能できる作業位置,2)ユニット50が後方へ展開されるが,板60,70が後退される作業位置,および3)ユニット50が前方へ展開され,板70が板60から展開される作業位置という3つの作業位置を有することができる。この実施形態では,挿入部42が後方枢動軸48(図示せず)の周りを枢動するように支持されることも考えられる。
【0024】図5に簡略化した形で示すように,外殻20の壁22内の対向する長手方向ガイド24,たとえば溝(図5には1つのみを示す)内で,連続して枢動可能なボードユニット50を案内することも可能である。したがって,その場合ボードユニット50を引き出し,持ち上げ,かつ展開させることが可能であり,任意の所望の中間作業位置を使用することも可能である。各長手方向ガイド24は,挿入部42の後縁部を越えて延びることができ,したがって,ボードユニット50が後方へ押された位置にあるとき,挿入部を後退させることができる。長手方向ガイド24を持上げ可能な挿入部42にしっかりと接続することも可能である。
【0025】様々な実施形態のすべての作業位置では,ボードユニット50の少なくとも一部は,外殻20の水平支持表面26(図2〜4)によって支持される。
(2) 前記(1)の記載によれば,本願発明の特徴は以下のとおりであると認められる。
ア 本願発明は,パネルの外殻に対して枢動するように,自動車の前方移動の方向に観察すると,前縁部で支持された持上げ可能カバーを上側に備え,当該カバーの下に格納空間が区切られる,自動車向けの計器パネルに関する(【0001】)。
従来の計器パネルは,その後ろの座席に座る人のための作業場所として機能する引出し板を備えるが,その引出し板が計器パネル内の下にある空間へのアクセスを妨げることがあるという問題があった(【0002】)。
イ 本願発明は,格納空間とボードユニットの両方を備えることができ,ボードユニットを格納空間内へ後退することができ,格納空間へのアクセスを妨げない計器パネルを提案することを目的とする(【0003】)。
ウ 本願発明に係る計器パネルは,カバーと格納空間との間で外殻に対して枢動するように横縁部で支持されることによって,格納空間の上のさらなるカバーとして機能することが可能なボードユニットを有する(【0006】,【0016】)。
そして,ボードユニットは,第1のボード板と第2のボード板とを備え,両ボード板は,共通の横縁部で互いに対して枢動可能に接続される結果,第1のボード板は,カバーの下で第2のボード板に当接する後退した作業位置から,第2のボード板と実質上水平の平面内に位置する展開された作業位置へと展開することができる(【0007】,【0019】)。
エ 本願発明に係る計器パネルは,ボードユニットを外殻に対して枢動させることにより,ボードユニットの下にある空間を露出させることができる(【0022】,【0023】)。また,第1のボード板を後退した作業位置から展開した作業位置へと展開させて,ボードユニットの表面積を2倍にすることができる(【0007】)。
2 引用発明及び周知技術1について (1) 引用例(甲1の2)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については,別紙2引用例図面目録を参照。)。
ア 技術分野 この発明は自動車のインストルメントパネルに関し,上げ下げ可能なカバーを有し,該カバーは,持ち上げられたポジションにおいてパネル内に空間が画成され,下げられたポジションにおいてテーブル面として機能する。(明細書1頁4行〜6行)イ 背景 特に,トラックでは,しばしば,乗客位置に,運転手が仕事をすることができる,例えば,紙文書またはポータブルコンピュータが置け,一時的に食事スペースになる,平坦な面が必要である。しかしながら,従来のインストルメントパネルの固定されたテーブル面は,通常,上記用途に便利に使用できるようにするには,あまり に小さく,シートから離れすぎている。そのため,このテーブル面を大きくできるようにすることが望まれている。(明細書1頁9行〜13行)ウ 発明の概要 その為,本発明の目的は,車両の乗客席に座った人のための作業面として便利に使用することができるくらいに大きい,平坦な面を提供することができる,導入で述べたようなインストルメントパネルを提案することである。
本発明の1つのバージョンによれば,インストルメントパネルは,第2のテーブル面を有した引き出し板を有している。この引き出し板は,後退位置と拡張位置との間で,カバーの下で,動くように支持されている。その結果,必要なときに2倍にすることができ,使用しないときに車両運転台の貴重なスペースを占有することがない作業面となる。(明細書1頁16行〜24行)エ 実施例の詳細な説明 (ア) 図1ないし6は,発明の実施例にしたがって,自動車の助手席側のインストルメントパネル10のフレーム要素12を描いている。フレーム要素12は,図示のように閉鎖した端部でなく,インストルメントパネル10の隣接する図示しないフレーム要素に向かって,側方に空いていても良い。
インストルメントパネル10は,その上面に,平坦なテーブル面22を有し,上げ下げできるカバー20を備える。テーブル面22は,例えば,物を一時的に保管したり,雑多な書類事務を行う場所や,また食事スペースとして用いることができる。
例えば,図1ないし3から分かるように,引き出し板40が,カバー20の下に入り込むように設けられ,板40の両側の引き出しレール70に沿って,カバー20から引き出される。引き出し板40は,テーブル面42と前面を覆う板46を有し,該前面を覆う板46は,テーブル面22及び42からものが滑り落ちないように上に突出した縁取り48を有する。引き出し板40は,さらに,以下に詳述するように,押しボタン52を備え,利用者が手をかける握り開口50を有する。
図6でさらに細部が分かるように,引き出しレール70のセットは,入れ子式に組み立てられた3つのレール72,74,76から成る。例示されるように,内側レール72は,フレーム要素12に固着され,外側レール76は,引き出し板40に固着され,中間レール74が引き出し板40の長さを引き出すことができるように,内外レール72,76の間に設けられている。
図3に戻って,カバー20は,一対のジャーナル26(1つだけが図示されている)によって後端の両側で枢支されている。図3に示されているように,カバー20が持ち上げられ,引き出し板40が引き出されたときに,空間30が,容易にアクセスできるように,パネル10内に画成される。空間30には,典型的には,電気回路,例えばヒューズ,リレーほか車両の電子電気装置など大きな部品からなるものが入る。さらに空間30へのアクセスを良くするために,図7及び8に示した他の実施例においては,内側引き出しレール72がフレーム要素12ではなくカバー20に固着されることにより,引き出し板40がカバー20と連係して動くように支持される。(明細書3頁15行〜4頁13行) (イ) 図6の拡大図に非常に明らかに示されているように,カバーのテーブル面22が板40のテーブル面42とほぼ共通面を形成するように,引き出し板40は,板40が完全に引き出されたときにカバー20の前端部24に連結するように構成された後端部44を有している。他の実施形態は可能であるが,表現された実施形態の後端部44は,カバーの前端部24を収容する階段状のレッジの形状をしている。よって,レッジ44は,前端部24の厚さに相当する深さを有している。よって,引き出し板40は,拡張位置で完全にロックされる。結果として生じる合成テーブル面22,42が完全に平らで水平となることを保証するために,図5,6に示されているように,ジャーナル26に対するカバーのベアリングアイ28に,半径方向のクリアランス,又は長方形の横開口部を持たせ,板40が引き出されたときに,カバー20が全体として,いくらか沈むようにすることも可能である。板40の後退位置では,ベアリングアイ28がジャーナル26に固く固定され,カバー 20の遊びを防ぐように,カバー20は,上向きに押される。(明細書4頁14行〜28行) (2) 引用例に前記第2の3(2)アのとおりの引用発明が記載されていることは,当事者間に争いがなく,前記(1)の記載によれば,引用例には,引用発明に関し,以下の点が開示されているものと認められる。
ア 引用発明は,自動車のインストルメントパネルに関し,上げ下げ可能なカバーを有し,該カバーは,持ち上げられたポジションにおいてパネル内に空間が画成され,下げられたポジションにおいてテーブル面として機能する(前記(1)ア)。
イ 従来のインストルメントパネルの固定されたテーブル面は,通常,便利に使用できるようにするには,あまりに小さく,シートから離れすぎているという問題があるため,引用発明は,かかる課題を解決し,車両の乗客席に座った人のための作業面として便利に使用することができるくらいに大きい,平坦な面を提供することができるインストルメントパネルを提案することを目的とする(前記(1)イ,ウ)。
ウ 引用発明は,第2のテーブル面を有する引き出し板を有しており,引き出し板は,カバーの下で後退位置と拡張位置との間を動くように支持される結果,必要なときは2倍にすることができ,使用しないときは貴重なスペースを占有しない作業面になるという効果を奏するものである(前記(1)ウ)。
具体的には,インストルメントパネル10は,カバー20の上面に平坦なテーブル面22が設けられるとともに,引き出し板40にテーブル面42(第2のテーブル面)が設けられ,引き出し板40が拡張位置まで引き出されると,カバー20のテーブル面22が引き出し板40のテーブル面42とほぼ共通面を形成し,平らで水平な合成テーブル面22,42が生じる。反対に,引き出し板40が後退位置にあると,引き出し板40がカバー20の下に入り込む結果,引き出し板40のテーブル面42は使用できなくなるものの,カバー20のテーブル面22は依然として使用することができる(前記(1)エ(ア),(イ))。
(3) 周知例1の記載 ア 周知例1(甲2)には,おおむね以下のような記載がある(図1については,別紙3周知例図面目録参照。)。
【0001】本考案は,自動車用の中蓋付きアームレストに関するものである。
【0002】自動車のアームレストのうちボックスタイプと呼ばれるものは,ボックス状のアームレスト本体に蝶番により蓋を取り付けたものであるが,自動車の高級化に伴い,蓋を外蓋と中蓋の2枚とし,中蓋にテーブルとしての機能を持たせたものが知られている。… 【0007】…図1…は本考案の実施例を示すもので,前述のとおり1はヒンジピン,2はこのヒンジピン1に取り付けられた第1の結合体,3はこのヒンジピン1に取り付けられた第2の結合体,4は第3の結合体である。第1の結合体2はアームレスト本体7に固定され,第2の結合体3は中蓋6に固定され,第3の結合体4は外蓋5に固定されている。また5aはヒンジ構造を隠蔽するために外蓋5の後端部に形成された隠蔽部であり,この隠蔽部5aには第2の結合体3のための切り欠き部5bが形成されている。
【0009】このように構成された本考案の中蓋付きアームレストは,共通のヒンジピン1を中心として外蓋5と中蓋6とを自由に開閉できるものであり,… 【0010】…本考案の中蓋付きアームレストは外蓋を開いて中蓋をテーブルとして使用できる… イ 前記アによれば,自動車用の収納ボックスにおいて,テーブルとしての機能を有する中蓋を枢動可能に設けること(周知技術1)は,本願の優先日前に周知の技術であると認められる。
3 取消事由(相違点1に係る判断の誤り)について(1) 相違点1の容易想到性について ア 本件審決は,引用例には,引き出し板40をカバー20と連係して枢動させることが記載されているから,引用発明において,空間30へのアクセスを良くするために,周知技術1を適用して,相違点1に係る本願発明の構成を備えるように することは容易に想到することができる旨判断した。
イ 引用発明は,前記2(2)のとおり,@従来のインストルメントパネルの固定されたテーブル面は,あまりに小さく,シートから離れすぎているという問題があるため,かかる課題を解決し,作業面として便利に使用することができるくらいに大きい,平坦な面を提供することができるインストルメントパネルを提案することを目的とするものであり,Aインストルメントパネル10であって,カバー20の上面に平坦なテーブル面22を設けるとともに,引き出し板40にテーブル面42(第2のテーブル面)を設け,カバー20と空間30の間で,引き出し板40が,引き出しレール70のセットを介して,フレーム要素12に対して摺動可能であることにより,B引き出し板40を拡張位置まで引き出すと,カバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面42とが同時に使用可能になって2倍の作業面が得られるとともに,テーブル面42というシートにより近い作業面を得られ,引き出し板40を後退位置に戻すと,カバー20のテーブル面22のみが使用可能になって省スペースの作業面が得られるという効果を奏するものである。
ウ 本件審決は,引用発明において,空間30へのアクセスを良くするために,周知技術1を適用して,相違点1に係る本願発明の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到することができる旨判断するのみで,引用発明において,どのように周知技術1を適用し,どのような構成に想到するというのかについては,何ら言及していない。このため,本件審決における上記判断に関し,原告は,@引用発明において周知技術1を適用し,引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能に設けるのに代えて,枢動可能に設けることが,容易に想到することができると説示したものであると主張するのに対し,被告は,A引用発明において周知技術1を適用し,引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能に設けることが,容易に想到することができると説示したものであると主張する。
エ そこで,まず,前記ウ@の場合,すなわち,引用発明において周知技術1を適用し,テーブル面42(第2のテーブル面)が設けられた引き出し板40を,後 端(自動車の前方移動の方向を見たときに観察すると前縁部)でフレーム要素12に対して枢動するように設ける場合について検討する。
上記の場合,引用発明の引き出し板40はカバー20の下に設けられているから,同じように後端でフレーム要素12に対して枢支するように設けられたカバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面22とを同時に使用することはできないことになる。引用発明は,前記イのとおり,大きい,平坦な面を提供することができるインストルメントパネルを提案することを目的とし,引き出し板40を拡張位置まで引き出すと,カバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面42とが同時に使用可能になって2倍の作業面が得られるという効果を奏するものであるところ,周知技術1を適用すると,カバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面22とを同時に使用することができないことになり,引用発明の効果が失われ,その課題を解決することができないこととなる。また,引き出し板40は,後端(自動車の前方移動の方向を見たときに観察すると前縁部)でフレーム要素12に対して枢動するように設けられるだけであって,シートに向けて移動するものではないから,従来のインストルメントパネルの固定されたテーブル面がシートから離れすぎているという課題を解決することもできないこととなる。
したがって,引用発明において周知技術1を適用し,引き出し板40を,後端でフレーム要素12に対して枢動するように設けることには,阻害要因がある。
オ 次に,前記ウAの場合,すなわち,引用発明において周知技術1を適用し,引き出しレール70のセットを介して,フレーム要素12に対して摺動可能に設けられた引き出し板40を,さらに,後端でフレーム要素12に対して枢動するように設ける場合について検討する。
(ア) 引用発明は,前記イのとおり,大きい,平坦な面を提供することができるインストルメントパネルを提案することを目的とし,引き出し板40を拡張位置まで引き出すと,カバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面42とが同時に使用可能になって2倍の作業面が得られるという効果を奏するものである ところ,かかる課題や効果の観点からは,引用発明において,周知技術1を適用して,引き出し板40を,カバー20と空間30の間で,フレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能に設ける動機付けがあるとはいえない。
ところで,引用例には,「図3に示されているように,カバー20が持ち上げられ,引き出し板40が引き出されたときに,空間30が,容易にアクセスできるように,パネル10内に画成される。」,「さらに空間30へのアクセスを良くするために,図7及び8に示した他の実施例においては,内側引き出しレール72がフレーム要素12ではなくカバー20に固着されることにより,引き出し板40がカバー20と連係して動くように支持される。」との記載があり,かかる記載によれば,引用発明について,空間30へのアクセスの改善という課題があることが示されているということができる。しかし,空間30へのアクセスの改善という課題の解決手段として,引用例に示された当該「他の実施例」(図7,8)は,引き出しレール70のセットを構成する内側引き出しレール72を,フレーム要素12ではなくカバー20に固着することにより,引き出し板40がカバー20と連係して動くようにする形態を示しているにすぎず,引き出し板40を,カバー20と空間30との間で,フレーム要素12に対して摺動かつ枢動できるようにすることやその構成について示唆するものではない。
(イ) 周知例等の記載 a 乙1(実願平4-63246号(実開平6-27349号)のCD-ROM) 乙1には,おおむね以下のような記載がある(図2については,別紙3周知例図面目録参照。)。
【0001】本考案は,車室内で簡単に安定した状態で事務をとること等を可能とするデスクに関する。
【0010】ここで,前記ホルダ2は,ドア1の内面に沿って偏平な縦長の長方形状の箱体2Aから構成される。この箱体2Aの背壁の上端部の2か所と下端部の 1か所は夫々タッピングネジ4等によりドア1の内壁に固定される。箱体2Aの上端部には開口部2aが形成されると共に,両側壁には上・下に長く延びるスライド溝2bが形成される。
【0011】一方,前記デスク本体3は,縦長の長方形状の板材から構成される。
この板材の上端部の車室内方に向いた面には取っ手3aが取り付けられている。かかるデスク本体3の下端部の両側壁には夫々ピン5が固定取付され,該ピン5が前記ホルダ2のスライド溝2bにスライド自由に支持される。この場合,デスク本体3をホルダ2内に収納した状態で,該ホルダ2外部からスライド溝2bに挿入されたピン5をネジ6によってデスク本体3の両側壁に固定取付する。
【0012】従って,前記ピン5をスライド溝2bに沿ってスライドすることによりデスク本体3がスライドする。デスク本体3を下方にスライドすることにより,デスク本体3がホルダ2に収納される位置となる(図2(A)参照)。この状態で,取っ手3aはホルダ2から張り出しているため,ドア1の取っ手を兼ねることができる。
【0013】デスク本体3を上方にスライドすることにより,デスク本体3がホルダ2から張り出す位置となる(図2(B)参照)。又,ピン5をスライド溝2bの上端位置で回動することによりデスク本体3がホルダ2から張り出す位置から車室内に水平に延びる位置へと回動する(図2(C)参照)。即ち,上記ピン5を設けた構成が,デスク本体3をホルダ2から張り出す位置と車室内に略水平に延びる位置との間に回動自由に支持する本考案に係る支持手段を構成する。
b 乙2(特開平9-309367号公報) 乙2には,おおむね以下のような記載がある(図1については,別紙3周知例図面目録参照。)。
【0001】本発明は,自動車に装備する車載用テーブルに関する。
【0017】ガイド機構30は,前記収納ボックス部12の側板13に設けた樹脂製ガイドレール40と,前記テーブル板20の後端部に回動可能に設けられかつ 前記ガイドレール40にスライド可能に設けられた樹脂製スライダ50とからなる。
ガイドレール40は,ほぼI型状をなしており,そのベース部40aとともにほぼ逆U型状をなすように形成された取付部40bを一体に有している。その取付部40bは前記側板13の上縁後半部に嵌着されている。また前記取付部40bと側板13との間には,係合突起17と係合孔41とからなる係合手段が設けられている。
図では側板13に係合突起17が形成されている一方,取付部40bに係合孔41が形成されているが,逆に側板13に係合孔41を形成する一方,取付部40bに係合突起17を形成してもよい。その係合手段の係合突起17と係合孔41は,ガイドレール40の取付部40bの弾性変形を利用して係合することにより,グラブボックス10にガイドレール40を抜け止めしている。
【0018】また前記ガイドレール40の前端部には,スライダ50の前方への抜け止めを果たす突起状の抜け止め用ストッパ43が設けられている。またガイドレール40の取付部40bの後端部上面には,スライダ50の後述する弾性片53と係合してそのスライダ50の位置決めを果たす突起状の位置決め用ストッパ44が形成されている。
【0019】前記ガイドレール40には,グラブボックス10への取り付けに先立ってほぼC型状のスライダ50がスライド可能に係合されている。スライダ50の反レール側の側面には回転支軸51が一体に突出されている。この回転支軸51は,前記テーブル板20の後端部に形成したボス部22の軸孔22aに回動可能に係入されている。
c 乙3(特開平10-16623号公報) 乙3には,おおむね以下のような記載がある(図11については,別紙3周知例図面目録参照。)。
【0001】この発明は車両用引出しテーブル装置に関する。
【0008】以下,この発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。図1と図2において,車載のインストルメントパネル1の所定位置に組付けられたグラブ ボックス2内の天井部近傍にねじなどによって取付けられるリテーナ11は,金属製の平板材によって形成され,その左右両側部が断面L字状に折返されることで,同リテーナ11の左右両側部には,摺動レール21を引出し案内するためのガイド溝を有するガイド部12がそれぞれ形成されている。前記リテーナ11の両ガイド部12には,左右一対をなす摺動レール21が引出し及び押込み可能に組付けられる。
【0009】前記一対の摺動レール21は,合成樹脂材の射出成形によって断面略I型状にそれぞれ形成され,その相対する内側には,テーブル31を引出し案内するためのガイド溝22が形成されている。摺動レール21の上下両面の長手方向には,図3に示すように,リテーナ11のガイド部12に対する摺動抵抗を軽減するための所要数の凸条23がそれぞれ形成されている。さらに,摺動レール21は,リテーナ11の奥行寸法と略同じ又は若干短い長さ寸法をもち,リテーナ11のガイド部12に対し,略半分程度の引出し量において引出されるようになっている。
【0021】また,前記実施の形態では,車両用引出しテーブル装置のリテーナ11がグラブボックス2の内部に組付けられる場合を例示したが,これに限るものではない。例えば,図10に示すように,引出しテーブル装置のリテーナ11をコンソールボックス4に組付けてもよい。さらに,図11に示すように,引出しテーブル装置のリテーナ11をドアトリム5に沿って格納される格納位置と,ドアトリム5から水平状に張出される使用位置とに回動可能に組付けてもよい。
d 乙4(特開2005-104230号公報) 乙4には,おおむね以下のような記載がある(図3については,別紙3周知例図面目録参照。)。
【0001】この発明は,乗り物用座席,特にシートバックの頂部にヘッドレストを備えた前後動自在の乗り物用座席に関するものである。
【0031】シートバック3の背面3bには,該シートバック3の背面3bに沿った閉成状態と,略水平な全開状態とに,下側LWOに配設したヒンジ13を中心 に回転自在に支持されてなると共に該全開状態で固定部材14aに対して可動部材14bが前後にスライド可能なると共にテーブル部14cを有するテーブル14を配設してなるので,使用時のテーブル14の高さが後席7のシートクッション8に着座する乗員10にとって適切であり,しかも,テーブル14のテーブル部14cを,後側RRにスライドさせることで,乗員10の手前側に移動でき,テーブル14の使用性が著しく向上する。
e 周知例1には,前記2(3)の記載があるが,自動車用の収納ボックスにおいて,テーブルとしての機能を有する中蓋を,外蓋(引用発明のカバー20に相当する。)と空間との間で,摺動可能かつ枢動可能に設けることやその構成については記載も示唆もない。
f また,被告が挙げる乙1ないし4には,前記aないしdの各記載があり,これらの記載から,本願の優先日前に,自動車内の装備として摺動可能かつ枢動可能なテーブルが当業者の技術常識であったものと認められるが,テーブル(中蓋)を,その上側に設けられた外蓋と空間との間で,摺動可能かつ枢動可能に設けることやその構成については記載も示唆もない。
(ウ) 以上によれば,本願の優先日前に,摺動可能かつ枢動可能なテーブルが技術常識であるとしても,引用例には,引き出し板40を,カバー20と空間30の間で,フレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能に設けることやその構成については記載も示唆も存せず,また,周知例(周知例1及び乙1ないし4)にも,テーブルとしての機能を有する中蓋を,外蓋と空間との間で,摺動可能かつ枢動可能に設けることやその構成については記載も示唆も存しないから,引用発明において,上記技術常識を踏まえて周知技術1を適用し,引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能に設けることが容易に想到することができたということはできない。
カ 以上のとおり,引用発明において周知技術1を適用し,@引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能に設けるのに代えて,枢動可能に設けることも, A引き出し板40をフレーム要素12に対して摺動可能かつ枢動可能に設けることも,容易に想到することができたということはできない。
(2) 被告の主張について 被告は,相違点2に関し,引用発明における引き出し板40に代えて,周知技術2のテーブルを適用することにより,引用発明の課題を十分に解決できるから,相違点1及び2を併せて検討すれば,引用発明において,周知技術1を適用することによって空間30へのアクセスを良くし,周知技術2を適用することによって引用発明の課題を解決できるのであって,引用発明において,周知技術1を適用することに阻害要因は存在しない旨主張する。
しかし,引用例には,引用発明が,大きい,平坦な面を提供することができるインストルメントパネルを提案することを目的とし,引き出し板40を拡張位置まで引き出すと,カバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面42とが同時に使用可能になって2倍の作業面が得られるという効果を奏するものであることが記載されるとともに,さらに,空間30へのアクセスの改善という課題を解決する手段として,引き出しレール70のセットを構成する内側引き出しレール72を,フレーム要素12ではなくカバー20に固着することにより,引き出し板40がカバー20と連係して動くようにする形態が開示されており,かかる形態によれば,引き出し板40を拡張位置まで引き出すと,カバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面42とが同時に使用可能になって2倍の作業面が得られるという上記効果を維持しつつ,空間30へのアクセスを良くすることができるという効果をも奏し得ることが開示されているといえる。
そうすると,カバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面42とが同時に使用可能になって2倍の作業面が得られるという効果とともに,空間30へのアクセスを良くするという効果を奏するにもかかわらず,引用例や周知例に何らの記載も示唆もないのに,当業者において,周知技術1を適用した上で,更に周知技術2を適用することにより,周知技術1を適用することでカバー20のテーブ ル面22と引き出し板40のテーブル面22とを同時に使用することができなくなるのを回避することを想起し,あえて引用発明において周知技術1を適用することを,容易に想到することができたということはできない。
したがって,被告の上記主張は,理由がない。
(3) 小括 以上によれば,引用発明において,周知技術1を適用することにより,相違点1に係る本願発明の構成を備えるようにすることが容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断には誤りがあり,原告の取消事由に係る主張は,理由がある。
4 結論よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 田中芳樹
裁判官 柵木澄子