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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 26年 (ネ) 10102号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人 株式会社コンピュータ・システム研究所
訴訟代理人弁護士岩永利彦
訴訟代理人弁理士藤原英治
被控訴人 吉備システム株式会社
被控訴人 ケイ・エス・エス株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 平野和宏
上記両名訴訟代理人弁理士 森寿夫
同 木村厚
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,別紙被告製品目録1記載の製品及び別紙被告製品目録2ない し4記載の製品を組み合わせた製品を生産し,譲渡等(譲渡,貸渡し,電気通 信回線を通じた提供)をし,又は譲渡等の申出をしてはならない。
3 被控訴人らは,前項記載の製品を廃棄せよ。
4 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して1億円及びこれに対する被控訴人吉 備システム株式会社につき平成25年8月9日から,被控訴人ケイ・エス・エ ス株式会社につき同月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を 支払え。
5 被控訴人らは,控訴人に対し,別紙謝罪広告目録記載の内容の謝罪広告を別 紙謝罪広告掲載条件記載の要領で,同別紙記載の新聞に各一回,掲載せよ。
事案の概要
本件は,発明の名称を「労働安全衛生マネージメントシステム,その方法及 びプログラム」とする特許権(特許番号第4827120号。以下「本件特許 権」といい,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である控訴人が, 被控訴人らによる別紙被告製品目録1記載の製品(以下「被告製品1」という。) 及び別紙被告製品目録2ないし4記載の製品を組み合わせた製品(以下,同目 録記載の製品のそれぞれを「被告製品2」,「被告製品3」又は「積算プログ ラム」,「被告製品4」又は「安全管理プログラム」といい,また,被告製品 1及び被告製品2ないし4を組み合わせた製品を総称して「被告製品」という。) の譲渡等の行為が本件特許権の侵害又は間接侵害(特許法101条1号,2号, 4号,5号)に該当する旨主張して,被控訴人らに対し,同法100条1項及 び2項に基づき,被告製品の譲渡等の差止め及びその廃棄を,特許権侵害の不 法行為に基づく損害賠償3億9600万円の一部請求として1億円及び遅延 損害金の連帯支払を,同法106条に基づく信用回復措置として謝罪広告の掲 載をそれぞれ求める事案である。
原判決は,被告製品は,控訴人が主張する本件特許の特許請求の範囲の請求 項1,16及び18に係る発明の技術的範囲に属するものとは認められず,ま た,被控訴人による被告製品の譲渡等の行為について本件特許権の間接侵害の 成立も認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。
1 前提事実(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨によ り認められる事実である。)(1) 控訴人の特許権 ア 控訴人は,本件特許権(出願日平成17年7月14日,優先日平成16 年7月15日,設定登録日平成23年9月22日,請求項の数19)の特 許権者である(甲1,2)。
イ 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1,16及び18の記載は,次 のとおりである(以下,請求項1に係る発明を本件発明1又は「本件シス テム発明」 請求項16に係る発明を本件発明16又は と, 「本件方法発明」 と,請求項18に係る発明を本件発明18又は「本件プログラム発明」と それぞれいい,これらを併せて「本件発明」という。)。
「【請求項1】 労働安全衛生マネージメントシステムであって, 複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の各々にそれぞれ関連付 けられた各要素を含む歩掛マスターテーブルと,前記要素に関連付けられ た危険有害要因および事故型分類を含む危険情報が規定されている危険 源評価マスターテーブルとが格納されている記憶手段と, 少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を入力する入力手段と, 演算手段を使用して,前記記憶手段に格納されている前記歩掛マスター テーブルを参照して,前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工事 名称に基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素を含む内訳データを生 成する内訳データ生成手段と, 前記演算手段を使用して,前記危険源評価マスターテーブルを参照して, 前記内訳データ生成手段により生成された内訳データに含まれる各要素に基づき,当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出し,該抽出した危険有害要因および事故型分類を含む危険源評価データを生成する危険源評価データ生成手段と,を含むことを特徴とする労働安全衛生マネージメントシステム。」「【請求項16】 労働安全衛生マネージメント方法であって, 記憶手段が,複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩掛マスターテーブルと,前記要素に関連付けられた危険有害要因および事故型分類を含む危険情報が規定されている危険源評価マスターテーブルとを格納する格納ステップと, 入力手段が,少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を入力する入力ステップと, 演算手段が,前記記憶手段に格納されている前記歩掛マスターテーブルを参照して,前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工事名称に基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素を含む内訳データを生成する内訳データ生成ステップと, 前記演算手段が,前記危険源評価マスターテーブルを参照して,前記内訳データ生成ステップにより生成された内訳データに含まれる各要素に基づき,当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出し,該抽出した危険有害要因および事故型分類を含む危険源評価データを生成する危険源評価データ生成ステップと,を含むことを特徴とする労働安全衛生マネージメント方法。」「【請求項18】 労働安全衛生リスクマネージメント方法をコンピュータに実行させるための労働安全衛生リスクマネージメントプログラムであって, 記憶手段に,複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の各々にそ れぞれ関連付けられた各要素を含む歩掛マスターテーブルと,前記要素に 関連付けられた危険有害要因および事故型分類を含む危険情報が規定さ れている危険源評価マスターテーブルとを格納させる格納ステップと, 入力手段に,少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を入力させ る入力ステップと, 前記記憶手段に格納されている前記歩掛マスターテーブルを参照して, 前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工事名称に基づき,前記評 価対象工事に含まれる各要素を含む内訳データを生成させる内訳データ 生成ステップと, 前記危険源評価マスターテーブルを参照して,前記内訳データ生成ステ ップにより生成された内訳データに含まれる各要素に基づき,当該各要素 に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出し,該抽出した危険有害 要因および事故型分類を含む危険源評価データを生成させる危険源評価 データ生成ステップと, を含むことを特徴とする労働安全衛生リスクマネージメントプログラム。」ウ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要 件を「構成要件1-A」,「構成要件1-B」などという。)。
(ア) 本件プログラム発明(本件発明18) 1-A 労働安全衛生リスクマネージメント方法をコンピュータに実行 させるための労働安全衛生リスクマネージメントプログラムであ って, 1-B 記憶手段に,複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の 各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩掛マスターテー ブルと,前記要素に関連付けられた危険有害要因および事故型分 類を含む危険情報が規定されている危険源評価マスターテーブ ルとを格納させる格納ステップと, 1-C 入力手段に,少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を 入力させる入力ステップと, 1-D 前記記憶手段に格納されている前記歩掛マスターテーブルを参 照して,前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工事名称 に基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素を含む内訳データ を生成させる内訳データ生成ステップと, 1-E 前記危険源評価マスターテーブルを参照して,前記内訳データ 生成ステップにより生成された内訳データに含まれる各要素に 基づき,当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類を 抽出し,該抽出した危険有害要因および事故型分類を含む危険源 評価データを生成させる危険源評価データ生成ステップと, 1-F を含むことを特徴とする労働安全衛生リスクマネージメントプ ログラム。
(イ) 本件システム発明(本件発明1) 2-A 労働安全衛生マネージメントシステムであって, 2-B 複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の各々にそれぞ れ関連付けられた各要素を含む歩掛マスターテーブルと,前記要 素に関連付けられた危険有害要因および事故型分類を含む危険 情報が規定されている危険源評価マスターテーブルとが格納さ れている記憶手段と, 2-C 少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を入力する入力 手段と, 2-D 演算手段を使用して,前記記憶手段に格納されている前記歩掛 マスターテーブルを参照して,前記入力された評価対象工事の情 報に含まれる工事名称に基づき,前記評価対象工事に含まれる各 要素を含む内訳データを生成する内訳データ生成手段と, 2-E 前記演算手段を使用して,前記危険源評価マスターテーブルを 参照して,前記内訳データ生成手段により生成された内訳データ に含まれる各要素に基づき,当該各要素に関連する危険有害要因 および事故型分類を抽出し,該抽出した危険有害要因および事故 型分類を含む危険源評価データを生成する危険源評価データ生 成手段と, 2-F を含むことを特徴とする労働安全衛生マネージメントシステム。
(ウ) 本件方法発明(本件発明16) 3-A 労働安全衛生マネージメント方法であって, 3-B 記憶手段が,複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の 各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩掛マスターテー ブルと,前記要素に関連付けられた危険有害要因および事故型分 類を含む危険情報が規定されている危険源評価マスターテーブ ルとを格納する格納ステップと, 3-C 入力手段が,少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を 入力する入力ステップと, 3-D 演算手段が,前記記憶手段に格納されている前記歩掛マスター テーブルを参照して,前記入力された評価対象工事の情報に含ま れる工事名称に基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素を含 む内訳データを生成する内訳データ生成ステップと, 3-E 前記演算手段が,前記危険源評価マスターテーブルを参照して, 前記内訳データ生成ステップにより生成された内訳データに含 まれる各要素に基づき,当該各要素に関連する危険有害要因およ び事故型分類を抽出し,該抽出した危険有害要因および事故型分 類を含む危険源評価データを生成する危険源評価データ生成ス テップと, 3-F を含むことを特徴とする労働安全衛生マネージメント方法。
(2) 被控訴人らの行為 被控訴人吉備システム株式会社は,業として,被告製品2ないし4を生産, 譲渡し,被控訴人ケイ・エス・エス株式会社は,業として,被告製品2ない し4を譲渡している。
2 争点 (1) 本件プログラム発明(本件発明18)の構成要件充足性(争点1) (2) 均等侵害の成否(上記(1)の予備的主張)(争点2) (3) 間接侵害の成否(争点3) ア 本件システム発明(本件発明1)に係る本件特許権の間接侵害の成否(争 点3-(1)) イ 本件方法発明(本件発明16)に係る本件特許権の間接侵害の成否(争 点3-(2)) (4) 特許法104条の3第1項に基づく本件特許権の権利行使制限の成否(争 点4) ア 実施可能要件違反,サポート要件違反又は明確性要件違反の無効理由の 有無(争点4-(1)) イ 乙5を主引用例とする進歩性欠如の無効理由の有無(争点4-(2)) (5) 控訴人の損害額(争点5) ? 信用回復措置請求の可否(争点6)
争点に関する当事者の主張
1 本件プログラム発明(本件発明18)の構成要件充足性(争点1)について (1) 控訴人の主張 ア 被告製品の構成について (ア) 被告製品3(積算プログラム)と被告製品4(安全管理プログラム) は,もともと連動して機能することが予定されている機能的一体性の高い製品である。また,被告製品2ないし4を組み合わせた製品は,被告製品1として,1つのパッケージに入れて販売されている。
したがって,被告製品(被告製品1又は被告製品2ないし4を組み合わせた製品)は,規範的に見れば1個のプログラムであり,1個の物であるといえる。
そして,被告製品(被告製品1又は被告製品2ないし4を組み合わせた製品)は,次のような機能を有する。
a 被告製品を起動したパソコンのディスプレイ上の「統合システム メビウス ZERO」(被告製品2の機能)の画面から「積算システ ム」(被告製品3の機能)を選択して,起動し,「積算システム」の 「工事情報入力」画面で,工事情報をマウス等で入力し,「工事内訳」 画面において「積算入力」→「歩掛選択」を選択すると,「歩掛選択」 画面となる。この画面には,上位から下位に向かって「工種」→「種 別」→「細別」と選択できるようになっている。
(以上,甲8の1頁〜8頁)b 「工種」→「種別」→「細別」の選択入力後,画面が遷移し,「工 事内訳」画面へ戻る。この画面には,左側に「工事内容ツリー」が, 中央に「工事内訳」及びその中に「直接工事費」が表示され,「工事 内訳ツリー」と,「工事内訳」の中の「直接工事費」の「費目 施工 工種名称」の欄が対応する。そして,「工事内容ツリー」欄の中の項 目をクリックし選択すると,「工事内訳」の表示が変化し,その中に, フォルダがあれば,さらに,そのフォルダ内のものを表示できる(甲 8の9頁〜12頁)。この時点で,「積算システム」において,「S KF600」ファイルが生成されている(甲11,13)。
c 次に,「積算システム」を終了させ,「安全管理システム」(被告 製品4の機能)を立ち上げ,甲7 「安全管理システムのマニュアル」 ( 1〜2頁<積算連動を使用する場合>)に従って操作すると,画面は, 「積算インポート」画面に遷移し,さらに操作すると,甲7(1-1 2頁)の「1. 『積算連動』で『登録工事』・『積算システム』を 選択した場合」に記載された「積算工事選択(積算システム)」画面 となる。ここで,上記画面に表示された一定の工事を選択し,確定す る。
これにより,画面は,「積算データと業務のリンク確認」画面に遷 移し,その画面上左の「積算データ」項目欄のツリー上より業務を選 択すると,積算データとそれに対応した安全管理業務の内容を伴う, 「積算データと業務の対応」画面が生じ,これが表示される。
その後,上記「積算データと業務のリンク確認」の画面に遷移した 後,安全管理マネージメントを行いたい業務について,一定の項目を 入力したり,又は,上部コマンドの「リスク対策」-「リスク確認」 をクリックすると,「リスク確認」画面へ移行する。この画面で,「リ スク一覧」項目欄の業務別リスク及び「業務の選択」項目欄のツリー 上の業務名を選択すると,画面に業務別に想定されるリスクと対策の データが表示され,安全衛生の管理に必要な情報が得られる。
(以上,甲8の12頁〜22頁),d 「積算システム」は,「工種」を含むテーブル(「SKF230」 ファイル),「種別」を含むテーブル(「SKF240」ファイル) 及び「細別」を含むテーブル(「SKF250」ファイル)を含むデ ータベース(「2012_K.mdf」ファイル)を備えている。ま た,「安全管理システム」は,「リスクアセスメント」画面中の「業 務に付随するリスク」の画面を裏付けるデータベース(「AKD20 11.mdf」ファイル)を備えている。
前記bの「積算システム」で生成された「SKF600」は,「安 全管理システム」において,「工事内容.txt」という一時ファ イルにされ,このファイルから「AKFKGY」,「AKFBGY」 の各テーブルファイルを生成し,これと「AKD2011.mdf」 に含まれる「AKFRSK」のテーブルファイル(「RSK_NA IYO」(「事故型分類」及び「危険有害要因」),「RSK_G ENIN」(「危険有害要因」)の項目を含む。)等から,前記c の「リスク一覧」のファイル(「VIEW_RISK」)を生成し ている。
また,細別及びそれを示すコードは,一旦業務コード(「GYM_ ID」)という12桁の数値に変換し,これを各テーブルで参照する ような構造がとられているが,「AKFRSK」で使用されている「R SK_SAGID」などもその名称こそ異なるものの,結局「AKF GYM」など通じて業務コード「GYM_ID」と対応付けられてい る。
(以上,甲11,21)(イ) 前記(ア)によれば,被告製品(被告製品1又は被告製品2ないし4 を組み合わせた製品)は,次のとおりの構成を有する。
1-a 「労働安全衛生リスクマネージメント方法をコンピュータに実 行させるための労働安全衛生リスクマネージメントプログラムで あって,」(前記(ア)aないしd) 1-b 「HDD(ハードディスクドライブ)に,複数の工種・種別な ど,及び,前記複数の工種・種別などの各々にそれぞれ関連付け られた各種別・細別などを含む「歩掛選択」画面のデータベース と,前記種別・細別などに関連付けられたリスクの内容・原因お よび事故型を含む危険情報が規定されている「業務に付随するリ スク」の画面のデータベースとを記憶し, (前記(ア)a及びd) 」 1-c 「ディスプレイ上の「歩掛選択」画面の「工種」→「種別」→ 「細別」の選択インターフェイスにおいて,少なくとも工種・種 別などを含む評価対象工事の情報をマウスで入力し,」(前記(ア )a及びb) 1-d 「前記HDDに記憶されている前記「歩掛選択」画面のデータ ベースを参照して,前記入力された評価対象工事の情報に含まれ る工種・種別に基づき,前記評価対象工事に含まれる各種別・細 別を含む「工事内訳」画面中「直接工事費」の表題で表されたデ ータなどを生じ,」(前記(ア)b) 1-e 「前記「業務に付随するリスク」の画面のデータベースを参照 して,前記「工事内訳」画面中「直接工事費」の表題で表された データなどに含まれる各種別・細別に基づき,当該各種別・細別 に関連するリスクの内容・原因および事故型を抽出し,該抽出し たリスクの内容・原因および事故型を含む「リスク確認」画面中 「リスク一覧」のデータを生じる,」(前記(ア)c及びd) 1-f 「労働安全衛生リスクマネージメントプログラム。」(前記(ア )aないしd)イ 構成要件1-A及び1-Fについて 甲4(カタログ)の記載によれば,被告製品4(安全管理システム)は, 「労働安全リスクマネージメント方法を…実行させるための…プログラム」 である。
したがって,被告製品4を含む被告製品は,「労働安全衛生リスクマネ ージメント方法をコンピュータに実行させるための労働安全衛生リスクマ ネージメントプログラム」であるといえるから,構成要件1-A及び1- Fを充足する。
構成要件1-Bについて(ア) 「記憶手段」について 構成要件1-Bの「記憶手段」とは,HDD,メモリ,キャッシュ等 のコンピュータの記憶装置を意味する。そして,被告製品をインストー ルし,そのプログラムを実行させるパソコンに備え付けられているHD D(構成1-b)は,「記憶手段」に該当する。
(イ) 「歩掛マスターテーブル」について a 構成要件1-Bの「工事名称」とは,「要素」を含んだ,上位概念 の作業をいい,「要素」とは,「工事名称」に比べて下位概念の工程 や工法等の作業その他工程や工法で使用される機械等をいう。これら は,本件特許に係る明細書(以下,図面を含めて,「本件明細書」と いう。甲2)の段落【0007】の記載から明らかである。
次に,構成要件1-Bの「歩掛マスターテーブル」にいう「歩掛」 とは,公共土木工事業界において使用される用語であり,「はん用的 な各種の工法において標準的に用いられる機械,労働力,材料等の組 合せ,当該組合せによる標準的な生産能力,当該工法の標準的な適用 範囲等を定めたもの」(甲9),すなわち,「ある工程や材料に対す る標準的な数量や規格や適用範囲」を規定したものをいい,いわゆる 積算ソフトに使用されるものをいう。
以上によれば,構成要件1-Bの「複数の工事名称,および,前記 複数の工事名称の各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩掛マ スターテーブル」とは,いわゆる積算ソフトで参照・使用される特定 の情報を有したデータのデータベースであり,少なくとも,複数の作 業の名称,及びその複数の作業の各々に含まれる各要素の標準的な規 格などの情報を含むものをいう。
したがって,少なくとも,ある作業の名称の情報と,その下位概念 の作業の規格等の情報の二つのデータを含んだデータベースであれば, 上記「歩掛マスターテーブル」に該当する。
b 被告製品を動作させた際に「歩掛選択」画面を上位から下位に(又 はその逆の下位から上位に)遷移する操作(前記ア(ア)a)ができる。
例えば,「直接工事費」の画面から「一位代価表」などに遷移できる が,それぞれの項目(工種,種別,細別)には,実際のデータが紐付 けされており,それらのデータは,標準的な数量,規格,適用範囲な どである。そして,例えば,「機械土木」は「バックホウ」に比べて 上位概念であるので,「機械土木」は「工事名称」,「バックホウ」 は「要素」となり,また,「バックホウ」は「土砂類」に比べて上位 概念であるので,「バックホウ」は「工事名称」,「土砂類」は「要 素」となる。
このように「歩掛選択」画面を上位から下位に遷移する操作ができ るためには,「工事名称」に関連付けられた「各要素」が,「工事名 称」と同一のデータベースに含まれていることが必要である。
したがって,被告製品を動作させたときの「歩掛選択」画面を裏付 けるデータベース(「2012_K.mdf」ファイル。前記ア(ア) d)は,少なくとも「工事名称」の情報と,「各要素」の規格等の情 報の二つのデータを含んでいることになるから,構成要件1-Bの「複 数の工事名称,および,前記複数の工事名称の各々にそれぞれ関連付 けられた各要素を含む歩掛マスターテーブル」に該当する。
(ウ) 「危険源評価マスターテーブル」について a 構成要件1-Bの「危険有害要因」とは,労働安全衛生に悪影響を 及ぼす状況,リスクの内容,原因などをいい,「事故型分類」とは, 例えば,「切れ,こすれ」,「つまずき」などの上記状況等により発 生する事故の分類を示したものをいう(本件明細書の段落【0040】 及び図9参照)。また,構成要件1-Bの「危険情報」とは,「危険 有害要因」や「事故型分類」の含まれている情報をいう。
以上によれば,構成要件1-Bの「前記要素に関連付けられた危険 有害要因および事故型分類を含む危険情報が規定されている危険源評 価マスターテーブル」とは,工種,作業名,作業工程,有害要因,事 故型分類などの危険(リスク)に関する情報を有したデータベースを いう。
したがって,少なくとも,作業ごとに悪影響を及ぼす「状況,リス クの内容,原因」などの情報と,それらの「状況」などにより発生す る事故を分類した情報を含む情報が定められているデータベース(例 えば,本件明細書の図9記載のデータベース)は,上記「危険源評価 マスターテーブル」に該当する。
b 被告製品を動作させた際の「リスクアセスメント」画面中の「業務 に付随するリスク」の画面は,「リスクの内容」,「原因」の入力項 目等があるため,「危険源有害要因」を含み,かつ,「事故型」の入 力項目があるため,「事故型分類」を含むものである。
そして,「業務に付随するリスク」の画面を裏付けるデータベース (「AKD2011.mdf」ファイル。前記ア(ア)d)は,「危険 源評価マスターテーブル」に該当する。
そして,上記データベース等に含まれるテーブル等が,業務コード (GYM_ID)等で紐付けされた上で,「要素」に当たる細別な どと対応付けられているのであるから,上記データベースは,構成 要件1-Bの「前記要素に関連付けられた危険有害要因および事故型 分類を含む危険情報が規定されている危険源評価マスターテーブル」 に該当する。
(エ) 「格納させるステップ」に当たる命令について 「歩掛マスターテーブル」をHDD等に格納させる命令は,被告製品 を構成する「積算システム」中のプログラム(被告製品3)又はその一 部が該当する。
また,「危険源評価マスターテーブル」をHDD等に格納させる命令 は,被告製品を構成する「安全管理システム」(被告製品4の機能)の インストーラーなどが該当する。
したがって,被告製品は,「記憶手段」に「歩掛マスターテーブル」 と,「危険源評価マスターテーブル」とを「格納させる格納ステップ」 に当たる命令を含むものである。
(オ) 小括 以上によれば,被告製品は,構成要件1-Bを充足する。
構成要件1-Cについて(ア) 構成要件1-Cの「評価対象工事」とは,危険源評価の対象となる 工事をいい,「工事名称」や数量等を含んだ概括的なものである(本件 特許に係る特許請求の範囲の請求項4,本件明細書の段落【0024】 参照)。
そして,「入力手段」とは,いわゆるパソコンやクライアントコンピ ュータ等に備え付けられた,マウス,キーボード等の入力装置のことで あるから,構成要件1-Cの「入力手段に,少なくとも工事名称を含む 評価対象工事の情報を入力させる入力ステップ」とは,少なくとも評価 対象工事に当たる上位概念的な作業に関し,マウスでクリックするか, キーボードで直接入力するなどの入力動作を命じる命令を意味する。
(イ) 被告製品を動作させたときの「歩掛選択」画面での「工種」→「種 別」→「細別」の選択→確定の入力,又は唯一の「細別」の選択→確定 の入力は,ディスプレイのインターフェイス上に表示された工事をマウ スで選択し,クリックし,それによりその情報を入力させるものである から,「工事名称」の入力に当たる。この入力された工事名称は,危険 源評価の対象となる工事(「評価対象工事」)に含まれるから,上記入 力操作は,「入力手段に,少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情 報を入力させる」ことに該当する。
そして,上記入力操作ができるためには,その裏付けとして,上記の 操作を可能とさせるコマンド(命令)があるはずであるから,被告製品 は,「入力手段に,少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を入 力させる入力ステップ」に当たる命令を含むものである。
したがって,被告製品は,構成要件1-Cを充足する。
構成要件1-Dについて (ア)a 構成要件1-Dの「内訳データ」とは,工事(作業)の名称,そ の作業に含まれる各「要素」の名称,歩掛コードなどを含むデータを いい,少なくとも,各「要素」,例えば,掘削,押土,整地作業など の下位概念の作業に関するデータ(例えば,本件明細書の表1記載の データ)を含むものである。「要素」は,任意の項目のその「一つ下 位の階層」の項目に限定されず,さらに下位の階層,さらにその下位 の階層など何段階も下の階層の項目であってもよい。また,データの 上位概念,下位概念は,そのデータの属性そのもので決定され,デー タベースの階層の上下にかかわらず,当該データに紐付けされたデー タであれば,当該データの下位概念のデータたり得るから,「内訳デ ータ」に含まれる。
そして,元のデータを記憶している単数又は複数のデータベース等 から,あるキーワードや項目の選択などを基準にして一部を抽出した り,全部を並べ替えるなどして,中間的なデータベースを作成し,そ の中間的なデータベースを元にして最終的なデータベースを作成する という慣用的な手法における,中間的なデータベースは,上記「内訳 データ」に当たる。
b 構成要件1-Dの「内訳データを生成させる」にいう「生成」とは, 元のファイルとは異なった新たなデータ構造の作成を意味し,用い られるデータは元のファイルの全部か一部かを問わない。また,S QL(リレーショナルデータベースの操作を行うための言語の一つ) では,「CREATE文」や「SELECT文」が,元のファイル とは異なった新たなデータ構造を作成することになるため,これら の命令で記述された場合,「生成」に当たる。
加えて,「格納」とは「記憶,記録」を,「参照」とは「照らし合 わせて見ること。引き比べて参考にすること。」を,「基づく」とは, 「基として起る。基礎にする。よりどころにする。」をそれぞれ意味 すること(広辞苑)からすると,構成要件1-Dは,「前記記憶手段 に記憶されている前記歩掛マスターテーブルを参照」し,「前記入力 された評価対象工事の情報」に含まれる上位概念の作業をよりどころ にして,それよりも下位概念の工程や工法等の作業,その他工程や工 法で使用される機械等を含む「内訳データ」を生成させる「内訳デー タ生成ステップ」を意味する。
(イ) 被告製品においては,工種・種別・細別又は細別のみ 「工事名称」 ( に相当)を入力することにより,歩掛データベース(「2012_K. mdf」)中に含まれる,工種(「SKF230」)・種別(「SKF 240」)・細別(「SKF250」)に関連付けられたこれらよりも 下位概念であるさらに細かい工程や機械等の情報(「要素」に相当)を 含むデータベース(「SKF250A」)が参照されているから,「前 記記憶手段に記憶されている前記歩掛マスターテーブルを参照し」てい る。
また,「SKF250A」には,BT_CODEというコードが含ま れており,これは,細かい工程や工法等の作業,その他工程や工法で使 用される機械等のデータ(例えば,種別を規定したテーブル「SKF2 40」中の「KOU_PRN_NAME」で表されるデータ)と関連付 けられており,「工事名称」の入力により上記データを取り出すことに なるから,取り出された情報は,工事名称に比べて下位概念,すなわち 「要素」に当たる。
そして,その結果,自動で上記「要素」を含む「SKF600」が生 成されるから,被告製品の「SKF600」は,「前記入力された評価 対象工事の情報」に含まれる上位概念の作業をよりどころにして,それ よりも下位概念の,工程や工法等の作業,その他工程や工法で使用され る機械等を含む「内訳データ」(構成要件1-D)に当たる。
したがって,被告製品は,構成要件1-Dの「前記記憶手段に格納さ れている前記歩掛マスターテーブルを参照して,前記入力された評価対 象工事の情報に含まれる工事名称に基づき,前記評価対象工事に含まれ る各要素を含む内訳データを生成させる内訳データ生成ステップ」に当 たる命令を含むものといえるから,同構成要件を充足する。
(ウ) これに対し被控訴人らは,被告製品3(積算プログラム)において 「SKF600」を生成するためには,操作者が,設計書に基づいて, 特定の工程に対応する工種・種別・細別(9桁の歩掛コード)の選択を 繰り返して,工事全体のデータを入力する必要があるから,「SKF6 00」は,構成要件1-Dの「内訳データ」に該当しない旨主張する。
しかしながら,被告製品においては,工事全体のデータを入力する場 合のほか,操作者がリスク評価したい一部の「種別」などを任意に入力 する場合においても,「SKF600」が生成されるから,「SKF6 00」は,構成要件1-Dの「内訳データ」に該当することに変わりは なく,被控訴人らの上記主張は失当である。
構成要件1-Eについて(ア) 被告製品においては,「業務に付随するリスク」の画面を裏付ける データベースである「AKD2011.mdf」(前記ウ(ウ)b)は, 「危険源評価マスターテーブル」(構成要件1-B)に該当し,また, 「SKF600」(前記オ(イ))は,「内訳データ」(構成要件1- D)に該当する。
そして,被告製品においては,「積算システム」で生成された「S KF600」は,「安全管理システム」において,「工事内容.tx t」という一時ファイルにされ,このファイルから「AKFKGY」, 「AKFBGY」の各テーブルファイルを生成し,これと「AKD2 011.mdf」に含まれる「AKFRSK」のテーブルファイル 「R ( SK_NAIYO」(「事故型分類」及び「危険有害要因」),「R SK_GENIN」(「危険有害要因」)の項目を含む。)等から, 「リスク一覧」のファイル(「VIEW_RISK」)が「生成」さ れている。
以上によれば,「VIEW_RISK」は,「危険源評価マスター テーブル」である「AKD2011.mdf」中のAKFRSKテー ブルを参照し,「内訳データ」である「SKF600」に含まれる「各 要素に基づき」,「各要素に関連する」RSK_NAIYOやRSK_ GENINを「抽出」して,それらを含んで「生成」されているとい える。
したがって,被告製品は,構成要件1-Eの「前記危険源評価マスタ ーテーブルを参照して,前記内訳データ生成ステップにより生成された 内訳データに含まれる各要素に基づき,当該各要素に関連する危険有害 要因および事故型分類を抽出し,該抽出した危険有害要因および事故型 分類を含む危険源評価データを生成させる危険源評価データ生成ステッ プ」に当たる命令を含むものといえるから,同構成要件を充足する。
(イ) これに対し被控訴人らは,被告製品4(安全管理プログラム)は, 積算データの作業項目をそのまま使うのではなく,独自に設定した「業 務ツリー」から対象作業(「業務」)を選択するものであるから,構成 要件1-Eの「内訳データに含まれる各要素に基づき,当該各要素に関 連する危険有害要因および事故型分類を抽出」との構成を有しない旨主 張する。
しかしながら,被控訴人らの主張は,積算データから対象作業を直接 選択するのではなく,間接的に選択するというにすぎず,「各要素に 基づき,当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出」 することに変わりはないから,理由がない。
キ まとめ 以上のとおり,被告製品は,本件発明18の構成要件を全て充足するか ら,その技術的範囲に属する。
(2) 被控訴人らの主張 ア 被告製品の構成について 被告製品2は,被告製品3(積算プログラム)又は被告製品4(安全管 理プログラム)を稼働させるためにそれぞれのプログラムの起動制御やバ ージョン管理等を行う必須の基本プログラムであり,被告製品3又は被告 製品4に付随して販売されるものではあるが,被告製品3及び被告製品4 の両プログラムを1個のプログラムとして統合するためのプログラムでは ない。被控訴人らは,被告製品3又は被告製品4をそれぞれ独立したプロ グラムとして販売しており,被告製品2ないし4を併せて購入した顧客に 対してこれらを1つのパッケージに入れて送付することはあっても,被告 製品2ないし4を組み合わせた製品を1個のプログラムとして販売してい るわけではない。
したがって,被告製品(被告製品1又は被告製品2ないし4の組み合わ せた製品)は,1個のプログラムとして機能するものではないから,被告 製品が1個のプログラムであることを前提とする控訴人主張の被告製品の 構成は,否認する。
構成要件1-A及び1-Fについて 被告製品3(積算プログラム)で作成した積算データを被告製品4(安 全管理プログラム)で利用する場合における被告製品4の技術思想と本件 発明18の技術思想と異なるから,被告製品は,構成要件1-A及び1- Fを充足しない。
構成要件1-Bについて (ア) 「歩掛マスターテーブル」について a 本件明細書の記載事項(段落【0007】,【0010】,【00 14】及び【0030】)によれば,構成要件1-Bの「歩掛マスタ ーテーブル」とは,「内訳データ」(構成要件1-D)の作成のため に参照(利用)される対象であり,複数の工事の名称及び複数の工事 の各々に含まれる各要素(工程)の単位数量当たりの標準数値からな る標準統計情報を含むデータベースである。
b 被告製品3(積算プログラム)には歩掛データベースが格納されて いるが,被告製品3では「内訳データ」(構成要件1-D)が生成さ れることはなく,歩掛データベースは,工事費用の積算を行うための 積算データの作成の際に参照されるにすぎないから,構成要件1-B の「歩掛マスターテーブル」に該当しない。
(イ) 「危険源評価マスターテーブル」について a 本件明細書の記載事項(段落【0017】ないし【0019】,【0 023】,【0026】及び【0031】)によれば,構成要件1- Bの「危険源評価マスターテーブル」は,歩掛マスターテーブル上に 構築されている各要素に基づき危険源評価を作成する際参照されるも のである。
b 被告製品4(安全管理プログラム)にはリスクテーブルが格納され ているが,被告製品4では「内訳データ」(構成要件1-D)が生成 されることはなく,リスクテーブルは「内訳データ」に含まれる各要 素に基づき危険源評価を生成する際に参照されるものではないから, 構成要件1-Bの「危険源評価マスターテーブル」に該当しない。
(ウ) 小括 以上によれば,被告製品は,「歩掛マスターテーブル」及び「危険源 評価マスターテーブル」を備えていないから,構成要件1-Bを充足し ない。
構成要件1-Cについて 被告製品が構成要件1-Cを充足することは認める。
構成要件1-Dについて (ア) 構成要件1-Dの「内訳データ」は,「複数の工事名称,および, 前記複数の工事名の各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩掛マ スターテーブル」を参照して,特定の評価対象工事の情報に含まれる「工 事名称」に基づき生成されるものであり,「前記評価対象工事に含まれ る各要素」を含むものであって,「工事名称」を入力することにより, 「工事名称」と「歩掛マスターテーブル」を対応付けて,工事に含まれ る要素を抽出するというステップで生成される。この「工事名称」(構 成要件1-D)は,実際に入力される「工事名称」そのものであり,か つ,「内訳データ」を生成するためにコンピュータ内部において確定し たものであることが必須である。
また,本件明細書の記載事項(段落【0006】,【0007】)に よれば,「内訳データ」は,データベースではなく,危険源評価マスタ ーテーブルを検索する際の検索条件(項目)となる特定の評価対象工事 に含まれる各要素という特定のデータである。
(イ) 「SKF600」ファイルは,被告製品3(積算プログラム)にお いて,工事費用の積算を行うために生成される積算データである。被告 製品3において「SKF600」を生成するためには,操作者が,設計 書に基づいて,一つの工程に対応する工種・種別・細別(9桁の歩掛コ ード)の選択を繰り返して,工事全体のデータを入力する必要があり, 「SKF600」は,工事全体の工程の集合体であるといえる。また, 工種・種別・細別は,9桁の歩掛コードで確定される工程 「工事名称」 ( ) であって,それぞれが上位概念下位概念の関係にはなく, 「工事名称」 と「要素」の関係にもないから,「SKF600」は,複数の工程から なる「工事名称」の集合体であるともいえる。この9桁の歩掛コードは, 実際に入力される「工事名称」そのものではないから,構成要件1-D の「工事名称」に該当しない。
そうすると,「SKF600」の生成は,構成要件1-Dの「前記入 力された評価対象工事の情報に含まれる工事名称に基づき,前記評価対 象工事に含まれる各要素を含む内訳データを生成させる」ことに該当し ない。
また,「SKF600」は,複数の工程からなる「工事名称」の集合 体であり,特定の「評価対象工事に含まれる各要素」を含むものではな いから,構成要件1-Dの「内訳データ」に該当しない。
したがって,被告製品は,構成要件1-Dを充足しない。
構成要件1-Eについて 構成要件1-Eは,「危険源評価マスターテーブル」を参照して,「内 訳データに含まれる各要素」に基づき,「当該各要素に関連する危険有害 要因および事故型分類を抽出」し,「危険源評価データ」を生成する構成 のものである。
しかしながら,被告製品は,「危険源評価マスターテーブル」の構成(前 記ウ(ウ))を備えていないし,「内訳データ」の構成(前記オ(イ))も備 えていない。また,被告製品4(安全管理プログラム)は,積算データの 作業項目をそのまま使うのではなく,積算データを安全管理プログラムに 格納された業務マスターテーブルの業務体系に組み直した新たな業務ツリ ーを作成し,積算データのうち歩掛コードのみを利用して,業務ツリーか ら対象作業(業務)を選択し,選択した業務の業務コードに対応した作業 コードを抽出し,当該作業コードに対応したリスク内容をリスクテーブル から抽出する構成のものであるから,被告製品は,「内訳データに含まれ る各要素」に基づき,「当該各要素に関連する危険有害要因および事故型 分類を抽出」する構成も備えていない。
したがって,被告製品は,構成要件1-Eを充足しない。
キ まとめ 以上によれば,被告製品は,本件発明18の構成要件A,B,Dないし Fを充足しないから,その技術的範囲に属しない。
2 均等侵害の成否(争点2)について (1) 控訴人の主張 被告製品における「SKF600」の生成は,評価対象工事の工事全体の データを入力することによって生成されものである点で,本件発明18の構 成要件1-Dの「前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工事名称に 基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素を含む内訳データを生成させる」 構成と相違するとしても,それ以外の点においては本件発明18の構成要件 を全て充足し,被告製品は,以下のとおり,均等の成立要件を全て満たして いるから,本件発明18と均等なものとして,本件発明18の技術的範囲に 属する。
ア 相違部分が本質的部分でないこと(第1要件) 本件発明18の課題は,「既に存在し,定量化されている建設工事積算 システムにおける歩掛データや積算データを効率的に利用して,人手やコ ストをかけずに簡易かつ簡便に危険源評価データを自動生成し,このデー タを編集した危険源評価書(表)を出力する労働安全衛生マネージメント システムを提供すること」にあり(本件明細書【0005】),本件発明 18は,上記課題を解決するためのステップの一つとして, 「内訳データ」 を,「歩掛データや積算データ」と「危険源評価データ」の間を仲介する 手段として設けたものである。
そうすると,「内訳データ」が工事の一部のデータを入力することによ って生成させるのか,工事の全部のデータを入力することによって生成さ れるのかという点は,本件発明18の技術的思想の中核的,特徴的な部分 に関わるものではなく,被告製品における本件発明18との相違部分は, 本件発明の本質的部分ではない。
イ 作用効果の同一性(置換可能性)(第2要件) 被告製品は,前記(ア)の本件発明18の課題を解決することができるか ら,本件発明18と同一の作用効果を奏する。
置換容易性(第3要件) 当業者は,被告製品の製造等の時点において,構成要件1-Dの「内訳 データ」に関し,工事の一部のデータを入力することによって「内訳デー タ」を生成する構成を,被告製品のように工事全体のデータを入力するこ とによって「内訳データ」を生成する構成に置き換えることは,当業者が 被告製品の製造等の時点において容易に想到することができたものとい える。
公知技術との同一性又は容易推考性の不存在(第4要件)被告製品は,本件特許の優先日当時における公知技術と同一ではなく,ま た,当業者が上記公知技術から容易に推考できたものではない。
意識的除外不存在(第5要件) 被告製品が本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に 除外されたものに当たるなどの特段の事情は,存在しない。
カ 小括 以上のとおり,被告製品は,均等の成立要件を全て満たしているから, 本件発明18と均等なものとして,その技術的範囲に属する。
(2) 被控訴人らの主張 控訴人の主張は争う。
3 間接侵害の成否(争点3)について (1) 本件システム発明(本件発明1)に係る本件特許権の間接侵害の成否(争 点3-(1)) ア 控訴人の主張 (ア) 被告製品(被告製品1又は被告製品2ないし4を組み合わせた製品) をインストールしたパソコンは,システムであることは明らかである(以 下,上記パソコンを「被告システム」という。)。
前記1(1)アによれば,被告システムは,次のとおりの構成を有する。
2-a 労働安全衛生マネージメントプログラムをインストールしたパ ソコン(システム)であって, 2-b 複数の工種・種別など,及び,前記複数の工種・種別などの各 々にそれぞれ関連付けられた各種別・細別を含む「歩掛選択」画 面のデータベースと,前記種別・細別に関連付けられたリスクの 内容・原因および事故型を含む危険情報が規定されている「業務 に付随するリスク」の画面のデータベースとが記憶されているH DDと, 2-c 少なくとも工種・種別などを含む評価対象工事の情報を入力す るディスプレイ上のインターフェイス及びマウスと, 2-d CPU(中央演算処理装置)を使用して,前記HDDに格納さ れている前記「歩掛選択」画面のデータベースを参照して,前記 入力された評価対象工事の情報に含まれる工種・種別などに基づ き,前記評価対象工事に含まれる各種別・細別を含む「工事内訳」 画面中「直接工事費」の表題で表されたデータを生じさせる手段 と, 2-e 前記CPUを使用して,前記「業務に付随するリスク」の画面 のデータベースを参照して,「工事内訳」画面中「直接工事費」 の表題で表されたデータに含まれる各種別・細別に基づき,当該 各種別 細別に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出し, ・ 該抽出したリスクの内容 原因および事故型を含む ・ 「リスク確認」 画面中「リスク一覧」のデータを生じさせる手段と, 2-f を含む労働安全衛生マネージメントプログラムをインストール したパソコン(システム)。
(イ) 被告製品は,「労働安全リスクマネージメント方法を…実行させる ための…プログラム」であるから,被告システム(被告製品をインスト ールしたパソコン)は,「労働安全衛生マネージメントシステム」に該 当し,構成要件2-A及び2-Fを充足する。
加えて,被告システムに備え付けられているHDDは「記憶手段」に 該当すること,被告システムには,「演算手段」であるCPUが存在す ることからすると,前記1(1)ウないしカと同様の理由により,被告シス テムは,構成要件2-Bないし2-Eを充足する。
そうすると,被告システムは,本件発明1の構成要件を全て充足する から,その技術的範囲に属する。
また,被告システムは,構成要件2-Dの構成を備えていない点で本 件発明1と相違するとしても,前記2(1)と同様の理由により,被告シス テムは,本件発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属する。
(ウ) 被告製品を購入したユーザーが被告製品をパソコンにインストール する行為は,物の発明である本件発明1のシステムの生産に当たる。
そして,被告製品は,本件発明1のシステムの「生産にのみ用いる物」 (特許法101条1号)であるから,被控訴人らによる被告製品の生産, 譲渡について,本件発明1に係る本件特許権の間接侵害が成立する。
また,仮に上記間接侵害が成立しないとしても,被告製品は,本件発 明1のシステムの「生産に用いる物であってその発明による課題の解決 に不可欠なもの」(特許法101条2号)に当たり,被控訴人らは,本 件発明1が特許発明であること及び被告製品が本件発明1の実施に用い られることを知りながら,業として,その生産,譲渡を行っているから, 被控訴人らの上記行為について,本件発明1に係る本件特許権の間接侵 害が成立する。
イ 被控訴人らの主張 控訴人の主張は争う。
(2) 本件方法発明(本件発明16)に係る本件特許権の間接侵害の成否(争点 3-(2)) ア 控訴人の主張 (ア) 前記1(1)アによれば,被告製品(被告製品1又は被告製品2ないし 4を組み合わせた製品)をインストールしたパソコンの使用(以下「被 告方法」という。)は,次のとおりの構成を有する。
3-a 労働安全衛生マネージメントプログラムをインストールしたパ ソコンによる労働安全衛生マネージメントの方法であって, 3-b HDDが,複数の工種・種別など,及び,前記複数の工種・種 別などの各々にそれぞれ関連付けられた各種別・細別を含む「歩 掛選択」画面のデータベースと,前記種別・細別に関連付けられ たリスクの内容・原因及び事故型を含む危険情報が規定されてい る「業務に付随するリスク」の画面のデータベースとを記憶し, 3-c ディスプレイ上のインターフェイス及びマウスが,少なくとも 工種・種別などを含む評価対象工事の情報を入力し, 3-d CPUが,前記HDDに格納されている前記「歩掛選択」画面 のデータベースを参照して,前記入力された評価対象工事の情報 に含まれる工種・種別などに基づき,前記評価対象工事に含まれ る各種別・細別を含む「工事内訳」画面中「直接工事費」の表題 で表されたデータを生じ, 3-e 前記CPUが,前記「業務に付随するリスク」の画面のデータ ベースを参照して,前記「工事内訳」画面中「直接工事費」の表 題で表されたデータに含まれる各種別・細別に基づき,当該各種 別・細別に関連するリスクの内容・原因及び事故型を抽出し,該 抽出したリスクの内容・原因及び事故型を含む「リスク確認」画 面中「リスク一覧」のデータを生じる, 3-f 労働安全衛生マネージメントプログラムをインストールしたパ ソコンによる労働安全衛生マネージメントの方法。
(イ) 被告製品は,「労働安全リスクマネージメント方法を…実行させる ための…プログラム」であるから,被告方法(被告製品をインストール したパソコンの使用)は,「労働安全リスクマネージメント方法」に該 当し,構成要件3-A及び3-Fを充足する。
また,前記(1)ア(イ)と同様の理由により,被告方法は,構成要件3- Bないし3-Eを充足する。
そうすると,被告方法は,本件発明16の構成要件を全て充足するか ら,その技術的範囲に属する。
また,被告方法は,構成要件3-Dの構成を備えていない点で本件発 明16と相違するとしても,前記2(1)と同様の理由により,被告方法は, 本件発明16と均等なものとして,その技術的範囲に属する。
(ウ) 被告製品を購入したユーザーが被告製品をパソコンにインストール して,そのパソコンを使用する行為は,方法の発明である本件発明16 の方法の使用に当たる。
そして,被告製品は,本件発明16の「方法の使用のみ用いる物」 (特許法101条4号)であるから,被控訴人らによる被告製品の生産, 譲渡について,本件発明16に係る本件特許権の間接侵害が成立する。
また,仮に上記間接侵害が成立しないとしても,被告製品は,本件発 明16の「方法の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に 不可欠なもの」(特許法101条5号)に当たり,被控訴人らは,本件 発明16が特許発明であること及び被告製品が本件発明16の実施に用 いられることを知りながら,業として,その生産,譲渡を行っているか ら,被控訴人らの上記行為について,本件発明16に係る本件特許権の 間接侵害が成立する。
イ 被控訴人らの主張 控訴人の主張は争う。
4 特許法104条の3第1項に基づく本件特許権の権利行使制限の成否(争点 4)について(1) 被控訴人らの主張 本件発明に係る本件特許には,以下のとおりの無効理由があり,特許無効 審判により無効にされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の 規定により,本件特許権は,行使することができない。
実施可能要件違反,サポート要件違反又は明確性要件違反の無効理由の 有無(争点4-(1)) (ア) 実施可能要件違反について 本件発明は,いずれも「内訳データを生成する」ことを構成に含むも のである(本件発明1につき構成要件2-Dの「内訳データを生成する 内訳データ生成手段」,本件発明16につき構成要件3-Dの「内訳デ ータを生成する内訳データ生成ステップ」,本件発明18につき構成要 件1-Dの「内訳データを生成させる内訳データ生成ステップ」)。
しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,「内訳データを 生成する」ことを具現する記載が全くなく,本件特許の優先日当時の技 術常識に基づいても,当業者がどのようにして「内訳データを生成する」 ことを具現するかを理解することができない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明について 当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえな いから,本件発明に係る本件特許には,特許法36条4項1号要件(実 施可能要件)違反の無効理由がある。
(イ) サポート要件違反及び明確性要件違反について 前記(ア)によれば,本件発明は本件明細書の発明の詳細な説明に記載 されているものといえないから,本件発明に係る本件特許には,特許 法36条6項1号の要件(サポート要件)違反の無効理由がある。
同様に,本件発明の特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとす る発明」が明確であるとはいえないから,本件発明に係る本件特許に は,特許法36条6項2号要件(明確性要件)違反の無効理由がある。
イ 乙5を主引用例とする進歩性欠如の無効理由の有無(争点4-(2)) 本件発明は,以下のとおり,本件特許の優先日前に頒布された刊行物である乙5(特開2001-350819号公報)に記載された発明と乙3(特開平6-44211号公報)及び乙7(特開昭61-49070号公報)に記載された公知技術に基づいて,当業者が容易に想到することがで きたものであるから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項違反(進歩性欠如)の無効理由がある。
(ア) 乙5記載の発明について 乙5の記載事項(段落【0001】,【0024】,【0025】, 【0030】,【0038】ないし【0040】,【0048】ないし 【0051】,【0069】,【0074】,図2,図3及び図10(別 紙乙5図面参照))を総合すれば,乙5には,以下の構成を有する情報 管理装置(以下「乙5装置発明」という。)が記載されている(以下, 各構成を「構成2-A’」,「構成2-B’」などという。)。
2-A’ 安全管理に関する情報が得られる建設工事の情報管理装置で あって, 2-B’ 事業区分から細別へと順次ツリー構造として構築されている 工事体系データベースと,前記工事体系データベースの要素に 関連付けられた安全管理に関する情報が規定されている管理情 報データベースとが格納された記憶手段と, 2-C’ 評価対象工事の工事名称を入力するキーボード等と, 2-D’ 前記記憶手段に格納されている工事体系データベースを参照 して,前記入力された評価対象工事の工事名称に基づき,前記 工事名称の下位の作業項目を順次検索するキーワード管理部と を備え, 2-E’ 前記キーワード管理部は,前記管理情報データベースを参照 して,前記順次検索された下位の作業項目に基づき,前記順次 検索された下位の作業項目に関連する安全管理に関する情報を 検索する 2-F’ 情報管理装置。
(イ) 本件発明1と乙5装置発明との対比について a 本件明細書の記載事項によれば,本件発明1の構成要件2-Aの「労 働安全衛生マネージメントシステム」は,建設関連の会社を対象とし (段落【0001】),「労働衛生災害リスクを最小化し,将来の発 生リスクを回避する」(段落【0002】)ためのものである。
乙5装置発明は,構成2-A’のとおり,「建設工事の情報管理装 置」であるから,建設関連の会社を対象とし,「安全管理に関する情 報が得られる」構成を備えており,その「安全管理に関する情報」は, 「労働衛生災害リスクを最小化し,将来の発生リスクを回避する」こ とに役立つことは自明である。
そうすると,乙5装置発明は,建設関連の会社を対象とし,かつ, 得られる情報は労働安全衛生マネージメントシステムの規格に沿った 情報であるといえるから,本件発明1の構成要件2-Aの「労働安全 衛生マネージメントシステム」の構成を備えている。これと同様に, 乙5装置発明は,本件発明1の構成要件2-Fの構成を備えている。
b(a) 構成要件2-Bの文言,本件明細書の記載事項(段落【0005】, 【0006】,【0014】)及び控訴人の主張によれば,構成要 件2-Bの「歩掛マスターテーブル」とは,いわゆる積算ソフトで 参照・使用される特定の情報を有したデータのデータベースであっ て,「複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の各々にそれ ぞれ関連付けられた各要素」を含むものである。
乙5装置発明の構成2-B’の「工事体系データベース」は,乙 5の図10(別紙乙5図面参照)に示すように,「事業区分」から 「細別」へと順次ツリー構造として構築されているから,「複数の 工事名称,および,前記複数の工事名称の各々にそれぞれ関連付け られた各要素を含むデータベース」であるといえる。また,上記「工 事体系データベース」は,積算で用いるツリー構造(乙6,10な いし13)に基づいているから,「いわゆる積算ソフトで参照・使 用される特定の情報を有したデータのデータベース」であるといえ る。
そうすると,構成2-B’の「工事体系データベース」は,構成 要件2-Bの「歩掛マスターテーブル」に該当する。
(b) 乙5装置発明の構成2-B’の「管理情報データベース」には, 「安全管理に関する情報」が規定されているところ,その「安全管 理に関する情報」(安全管理情報)は,乙5の段落【0024】, 図2及び図3(別紙乙5図面参照)記載のとおり,構成要件2-B の「危険有害要因および事故型分類を含む危険情報が規定されてい る危険源評価マスターテーブル」における「危険有害要因および事 故型分類」と同種の情報である。
そうすると,構成2-B’の「管理情報データベース」は,構成 要件2-Bの「危険源評価マスターテーブル」に該当する。
(c) 前記(a)及び(b)によれば,乙5装置発明は,本件発明1の構成要 件2-Bの構成を備えている。
c 乙5装置発明の構成2-C’は,構成要件2-Cの「少なくとも工 事名称を含む評価対象工事の情報を入力する入力手段」に該当する。
そうすると,乙5装置発明は,本件発明1の構成要件2-Cの構成を 備えている。
d 控訴人主張の定義によれば,構成要件2-Dの「内訳データ」とは, 「ツリー構造のデータベースにおいて,任意の階層の任意の項目につ いて,その一つ下位の階層の項目」をいい,「内訳データの生成」と は,「下位の階層の項目が検索(抽出)されたこと」をいう。
乙5装置発明においては,上位概念から下位概念へと検索して管理 情報を得ることができるが(乙5の段落【0048】,【0069】, 【0074】),ツリー構造になっているため,直接的に工事の規格 を検索することはできず,一旦下位の階層を検索することになる。例 えば,別紙乙5図面の図10において,「種別」に対応した「護岸工」 が入力された場合,「護岸工」の下位の「細別作業」である「流用土 盛土」及び「コンクリート打設」が検索され,さらに,これに対応付 けられた「規格」が検索される。この例では,「護岸工」の項目につ いては,「護岸工」の下位の「細別作業」である「流用土盛土」及び 「コンクリート打設」が「内訳データ」に該当する。そして,乙5装 置発明において「流用土盛土」及び「コンクリート打設」が検索され たことは,「下位の階層の項目が検索(抽出)されたこと」に相当す るから,「内訳データの生成」に該当する。
そうすると,乙5装置発明の構成2-D’の「工事名称の下位の作 業項目を順次検索する」構成は,構成要件2-Dの「内訳データの生 成」に該当するといえるから,乙5装置発明は構成要件2-Dの構成 を備えている。
e 前記dのとおり,乙5装置発明の構成2-D’の「工事名称の下位 の作業項目を順次検索する」構成は,構成要件2-Dの「内訳データ の生成」に該当することからすると,構成2-E’の「順次検索され た下位の作業項目」は,構成要件2-Eの「内訳データ生成手段によ り生成された内訳データに含まれる各要素」に該当する。
そして,構成2-E’は,「前記順次検索された下位の作業項目」 に基づき,「前記順次検索された下位の作業項目に関連する安全管理 に関する情報」を検索する構成であること,この「安全管理に関する 情報」(安全管理情報)は,「危険有害要因および事故型分類」と同 種の情報であることからすると,構成2-E’においては,「内訳デ ータに含まれる各要素」(「前記順次検索された下位の作業項目」) に基づいて,当該各要素に関連する「危険有害要因および事故型分類」 と同種の情報(前記b(b))を検索(抽出)しているといえる。
そうすると,乙5装置発明は,構成要件2-Eのうち,「演算手段 を使用して,前記危険源評価マスターテーブルを参照して,前記内訳 データ生成手段により生成された内訳データに含まれる各要素に基づ き,当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出」す る構成を備えている。
他方で,乙5には,構成要件2-Eの「危険源評価データ」を生成 することについての記載はない。
f 以上によれば,本件発明1と乙5装置発明とは,本件発明1では, 「抽出した危険有害要因および事故型分類を含む危険源評価データ」 (以下,単に「評価データ」という場合がある。)が生成されるのに 対し,乙5装置発明では,「評価データ」が生成されない点において 相違するが(以下,この相違点を「本件相違点」という。),その余 の構成は一致する。
(ウ) 本件発明1の容易想到性について a 乙3及び乙7には,コンピュータを用いて工事災害防止を図るシス テムにおいて,対象工事・作業の評価データを生成する技術が開示さ れており,本件特許の優先日当時,上記技術は公知であったものであ る。
b 本件発明1は,「1つの工事であっても様々な多数の要素(作業工 程)から構成されており,さらに,建設会社では多数の工事を抱えて いるのが通常であるため,多数の工事の各要素の危険源を適切に評価 した危険源評価表を作成するのは非常に労力や時間がかかる」(本件 明細書の段落【0004】)という従来の課題を解決するために,構 成要件2-Bの構成を採用したことにより工事の項目が体系的に構成 され,対象作業の選択や検索が容易になるという作用効果を奏するも のであるが,前記(イ)bのとおり,乙5装置発明においても,構成要 件2-Bに該当する構成2-B’の構成を有しているから,本件発明 1と同一の作用効果を奏するものであり,本件発明1と乙5装置発明 は,同一の技術思想を有している。
c 前記a及びbによれば,当業者は,乙5装置発明において,乙3及 び乙7記載の公知技術(コンピュータを用いて工事災害防止を図るシ ステムにおいて,対象工事・作業の評価データを生成する技術)を適 用し,本件相違点に係る本件発明1の構成を採用することを容易に想 到することができたものである。
したがって,本件発明1は,当業者が,乙5に記載された発明(乙 5装置発明)と乙3及び乙7記載の公知技術に基づいて容易に発明を することができたものであるから,進歩性が欠如している。
(エ) 本件発明16及び本件発明18の容易想到性について a 本件発明16は,物の発明である本件発明1を方法の発明のカテゴ リーとしたものであって,本件発明1の構成要件と実質的に同じ構成 要件を有している。
乙5装置発明は,情報管理装置に係る発明であり,コンピュータの 行う処理をハード資源を用いて具体的に実現したものであるが,コン ピュータの行う処理の部分に着目すれば,乙5装置発明を構成2-A ’ないし構成2-F’と実質的に同じ構成を備えた方法の発明として 認定することも可能である。
そうすると,前記(ウ)と同様の理由により,本件発明16は,当業 者が,乙5に記載された発明と乙3及び乙7記載の公知技術に基づい て容易に発明をすることができたものであるから,進歩性が欠如して いる。
b 本件発明18は,本件発明1をプログラムの発明のカテゴリーとし たものであって,本件発明1の構成要件と実質的に同じ構成要件を有 している。
前記aと同様の理由により,本件発明18は,当業者が,乙5に記 載された発明と乙3及び乙7記載の公知技術に基づいて容易に発明を することができたものであるから,進歩性が欠如している。
(2) 控訴人の主張 ア 実施可能要件違反,サポート要件違反又は明確性要件違反の無効理由の 有無(争点4-(1))に対し (ア) 実施可能要件違反の主張に対し 被控訴人らは,本件明細書の発明の詳細な説明には,「内訳データを 生成する」ことを具現する記載が全くなく,本件特許の優先日当時の技 術常識に基づいても,当業者がどのようにして「内訳データを生成する」 ことを具現するかを理解することができないから,本件明細書の発明の 詳細な説明は,本件発明について当業者が実施できる程度に明確かつ 十分に記載したものとはいえず,本件発明に係る本件特許には,実施 可能要件違反の無効理由がある旨主張する。
a しかしながら,本件発明の特許請求の範囲記載の「内訳データ」の 生成処理は,基本的なデータベースの処理であり,そのとき参照され るデータベースの構成自体も,「工事名称」と「要素」という二つの 項目が関連付けられた極めてシンプルなものであり,そのデータベー スに対して,「工事名称」やそれに準ずる検索用コードを検索キーと してそれに関連する「要素」を生成するといっただけのものである。
そのようなものであるならば,本件明細書の段落【0020】ない し【0029】,図1及び図2等の記載は,当業者が,「内訳データ を生成する」ために十分に具体的な記載であるといえる。
b 本件発明の特許請求の範囲記載の「工事名称」とは,「要素」を含 んだ上位概念の作業をいい,「要素」とは,「工事名称」に比べて, 下位概念の,「工程や工法等の作業,その他工程や工法で使用される 機械等」をいう。もっとも,本件明細書には,「要素」に関し,「要 素(作業工程)」,「要素(工程)」のように,「作業工程」又は「工 程」を括弧書きで併記した箇所もあるが,「要素」の典型例が「作業 工程」や「工程」であるため,それを記載したにすぎず,本件明細書 全体をみれば,当業者は,「要素」は様々なものが含まれ得ることを 容易に理解することができるし,特許請求の範囲の記載においても「要 素」を「作業工程」又は「工程」に限定する記載はない。
また,本件発明の特許請求の範囲記載の「歩掛マスターテーブル」 は,いわゆる積算ソフトで参照・使用される特定の情報を有したデー タのデータベースといった程度の意味であり,「前記複数の工事名称 の各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む」ものである。そして, 「作業工程」以外の「要素」であっても,「工事名称」に関連付けら れた「要素」の取捨選択は当業者において困難なことではないから, 当業者は,「工事名称」があれば,それに関連付けられる必要な「要 素」を抽出することができる。
c 以上によれば,被控訴人らの上記主張は理由がない。
(イ) サポート要件違反及び明確性要件違反の主張に対し 前記(ア)aのとおり,本件明細書の段落【0020】ないし【002 9】,図1及び図2等の記載は,当業者が,「内訳データを生成する」 ために十分に具体的な記載であり,また,本件明細書の段落【0018】 の記載から,当業者は本件発明18の課題を解決することができるもの と認識する。
したがって,本件発明は本件明細書の発明の詳細な説明に記載されて いるものといえるから,本件発明に係る本件特許にはサポート要件違 反の無効理由があるとの被控訴人らの主張は理由がない。
また,本件発明の特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする 発明」が明確であるから,本件発明に係る本件特許には明確性要件違 反の無効理由があるとの被控訴人らの主張も理由がない。
イ 乙5を主引用例とする進歩性欠如の無効理由(争点4-(2))に対し (ア) 乙5記載の発明について 以下のとおり,乙5には,構成2-A’ないし2-E’の開示がない から,被控訴人ら主張の乙5装置発明は記載されていない。
a 構成2-A’について (a) 乙5の記載事項全体をみると,乙5には,「所望の管理情報を出 力する建設工事の情報管理装置」が記載されているが,出力される 情報に各種多様なものがあり,その各種多様なものの中の一部に「安 全管理情報」を含むにすぎず,「安全管理情報」だけが得られるも のではないから,乙5には,構成2-A’の「安全管理に関する情 報が得られる建設工事の情報管理装置」の開示はない。
したがって,乙5には,構成2-A’の開示はない。
(b) かえって,乙5の記載事項(請求項1,段落【0012】,【0 013】,【0049】,【0058】,図5ないし8等)によれ ば,乙5には,次のような「所望の管理情報を出力する建設工事の 情報管理装置」(以下「乙5記載の情報管理装置」という場合があ る。)が記載されている。
「所望の管理情報を出力する建設工事の情報管理装置であって, 大事業区分から細別区分へと順次ツリー構造として構築されてい る情報であって,細別区分の各情報に代表作業用キーワードおよび 当該代表作業で行う工事の規格が含まれ,さらに,当該情報は,原 価管理情報,安全管理情報,品質管理情報,工程管理情報,ミス・ ロス・改善情報,その他施工技術情報等の各種管理情報等を含むよ うな情報,が格納されているデータ管理部と, 目的物と作業内容から構成されている代表作業用キーワードと, 当該代表作業で行う工事の規格と,を入力する入力部と, 前記データ管理部を参照して,前記代表作業用キーワードと規格 とを基にして,所望の管理情報を検索する代表作業用キーワード管 理部と, からなる建設工事における情報管理装置。」b 構成2-B’について 乙5記載の情報管理装置は,「キーワード」と「規格」の二つの情 報で検索するため,これらが必須であり,乙5には,構成2-B’の 「工事体系データベースの要素に関連付けられた安全管理に関する情 報が規定されている管理情報データベース」の記載はない。
乙5に記載されているのは,工事体系の規格に関連付けられるのか, 含まれるのかは判然としないものの,規格に何らかの形式で関わりが ある各種管理情報のみである。
これら各種管理情報には,「安全管理情報」が含まれるが,あくま で「項目群の中の1つの項目」にすぎないから,この「安全管理情報」 が構成2-B’の「安全管理に関する情報が規定されている管理情報 データベース」であるということはできない。
また,乙5には,「工事体系データベース」らしきものが記載され ているが,構成2-B’の「事業区分から細別へと順次ツリー構造と して構築されている工事体系データベース」といったシンプルな構成 のものではない。
したがって,乙5には,構成2-B’の開示はない。
c 構成2-C’について 被控訴人らの「構成2-C’」の主張は,乙5記載の「代表作業用 キーワード」が「評価対象工事の工事名称」に相当することを前提と するもののようである。
しかしながら,乙5記載の「代表作業用キーワード」は,「何を(目 的物)どうする(作業内容)」から構成されるキーワード(段落【0 074】等)であって,「コンクリート打設」のように「目的物」が 「コンクリート」,「作業内容」が「打設」というように「工事名称」 とみなせるものもあるが,一般的に積算工事体系の工事の名称には材 料や目的物のみ規定したもの(例えば,「表層」,「上層路盤」,「基 礎材」等)や,作業内容のみを規定したもの(例えば,「埋戻し」, 「人力掘削」等)もあるから,必ずしも「代表作業用キーワード」が 「評価対象工事の工事名称」に相当するものとはいえない。
したがって,乙5には,構成2-C’の開示はない。
d 構成2-D’について 乙5の記載事項(請求項7,段落【0018】,【0033】,【0 074】)の記載事項によれば,乙5記載の情報管理装置は,「キー ワードによって最上位概念の事業区分から順次下位概念の代表作業ま で情報を検索する必要がないため,迅速に情報を得ることができる」 ものであって,「情報の検索は,キーワード・規格解析部によって, 代表作業以外に,どの工事区分,工種区分であっても,上位概念から 検索するのではなく,所望の工事区分の情報を直接検索することがで きる」もの(段落【0033】 であるから, ) 各キーワード管理部 「事 ( 業区分作業用キーワード管理部515」,「工事区分作業用キーワー ド管理部516」,「工種作業用キーワード管理部517」,「種別 作業用キーワード管理部518」,「代表作業用キーワード管理部5 19」 が上位から下位へと順次検索するような流れは存在せず, ) 「キ ーワード・規格解析部512」の働きによって,各キーワード管理部 のうちの1つのみが動作し,上位から下位への階層を経ずに,直接的 に,任意の階層の情報にアクセスする流れがあるだけである。そして, 乙5の段落【0074】には,「代表作業用キーワード」を用いるこ とによって,「ツリー状のデータの上位から検索する必要がなく,情 報の検索を迅速に得ることができる」ことが発明の効果として記載さ れている。
したがって,乙5には,構成2-D’の「前記記憶手段に格納され ている工事体系データベースを参照して,前記入力された評価対象工 事の工事名称に基づき,前記工事名称の下位の作業項目を順次検索す るキーワード管理部」の開示はない。
e 構成2-E’について 前記dのとおり,乙5には,構成2-D’の開示がなく,ツリー状 のデータを上位から下位へ順次検索されるような処理は存在しないか ら,構成2-E’の「前記順次検索された下位の作業項目」も存在し ない。
したがって,乙5には,構成2-E’の開示はない。
f 小括 以上によれば,乙5には,被控訴人ら主張の乙5装置発明は記載さ れていない。
(イ) 本件発明1と乙5装置発明との対比について 前記(ア)のとおり,乙5には,被控訴人ら主張の乙5装置発明は記載 されていないから,本件発明1と乙5装置発明との対比に関する被控訴 人らの主張は,その前提において,失当である。
また,仮に乙5に乙5装置発明が記載されているとしても,本件発明 1と乙5装置発明との間には,少なくとも,次のような相違点(相違点 AないしC)がある。
(相違点A) 本件発明1は,「労働安全衛生マネージメントシステム」(構成要件 2-A)であるのに対し,乙5装置発明は,安全管理に関する情報が得 られる「建設工事の情報管理装置」(構成2-A’)である点。
(相違点B) 本件発明1は,「前記要素に関連付けられた危険有害要因および事故 型分類を含む危険情報が規定されている危険源評価マスターテーブル」 (構成要件2-B)を含むのに対し,乙5装置発明は,「前記工事体系 データベースの要素に関連付けられた安全管理に関する情報が規定され ている管理情報データベース」(構成2-B’)を含む点。
(相違点C) 本件発明1では,「前記演算手段を使用して,前記危険源評価マスタ ーテーブルを参照して,前記内訳データ生成手段により生成された内訳 データに含まれる各要素に基づき,当該各要素に関連する危険有害要因 および事故型分類を抽出し,該抽出した危険有害要因および事故型分類 を含む危険源評価データを生成する危険源評価データ生成手段」(構成 要件2-E)を含むのに対し,乙5装置発明では,「前記キーワード管 理部は,前記管理情報データベースを参照して,前記順次検索された下 位の作業項目に基づき,前記順次検索された下位の作業項目に関連する 安全管理に関する情報を検索する」(2―E’)点。
(ウ) 本件発明1の容易想到性の主張に対し 仮に乙5に乙5装置発明が記載されていることを前提としても,以下 のとおり,当業者が,乙5装置発明と被控訴人ら主張の公知技術に基づ いて相違点AないしCに係る本件発明1の構成を容易に想到することが できたものとはいえない。
a 相違点Aの容易想到性について 乙5装置発明は,「建設工事の情報管理装置」(2-A’)であり, 建設工事を行う会社の主として総務や営業などの管理部門又は情報管 理部門向けの装置であるのに対し,本件発明1は,建設工事の「労働 安全衛生マネージメントシステム」(構成要件2-A)であり,建設 工事を行う会社の主として実際に作業を行う現場部門向けの装置であ る点で相違する。
また,乙5装置発明の目的は,「どのような事業区分で仕事をして いる者であっても,所望の建設工事にかかる情報を簡単および迅速で, かつ有効利用ができる」(段落【0011】)ことにあるから,乙5 装置発明は,建設工事に係る情報の検索閲覧装置にすぎないものであ り,乙5装置発明には,建設工事に係る情報が,何らかの形式で評価 (アセスメント)が可能になるような思想は全くない。他方で,本件 発明1は,「労働安全衛生マネージメントシステム」であり,その思 想の本質は,工事の各要素の危険源を適切に評価(アセスメント)す ることが可能ならしめるものであり,「評価」,さらには「リスクの 評価」という視点を有する点において,両発明の思想は大きく異なる。
乙5には, 「評価」という視点や思想についての記載や示唆はなく, 被控訴人ら主張の乙3や乙7とを組み合わせることの動機付けとなる ような記載も示唆もないから,当業者が相違点Aに係る本件発明1の 構成(構成要件2-Aの「労働安全衛生マネージメントシステム」の 構成)に想到することは困難である。
また,仮に乙5に乙3及び乙7を組み合わせることができたとして も,当業者が相違点Aに係る本件発明1の構成(「労働安全衛生マネ ージメントシステム」の構成)に想到することは困難である。
b 相違点Bの容易想到性について 乙5記載の「安産管理情報」が規格に含まれ,この規格は,本件発 明1の「要素」と似た概念のものである。
しかしながら,乙5が開示するのは,規格に含まれる「安全管理情 報」にすぎず,これは,漠然としたリスク情報であって,「危険有害 要因および事故型分類」が特定されたものではないから,乙5には, 「危険有害要因および事故型分類」の開示はない。
また,乙5の段落【0009】の記載に照らすと,乙5装置発明の 目的は,「情報を各部門で共有することができるだけでなく,情報の 蓄積量を少なく,簡単かつ迅速に所望のデータを得」ることであって, 乙5には,労働安全衛生に関する記載や示唆はない。他方で,乙3は, 労働災害を防止することを目的とするものではあるが,乙5と乙3は, 課題が全く異なるから,建設工事を対象とするという両者の共通性の みをもって乙5に乙3を組み合わせる動機付けにはならない。
加えて,乙5は,情報の共有やそれを簡単迅速に活用することを目 的とした「情報管理部門」を対象としたものであるのに対し,乙3は, 工事作業を実際に行う「現場部門」を対象としたものであり,このよ うな対象部門の相違や部門の隔たりに照らすと,乙5に乙3を組み合 わせることは困難である。
したがって,乙3や本件特許の優先日当時の技術常識参酌しても, 当業者が,乙5から相違点Bに係る本件発明1の構成(構成要件2- Bの「前記要素に関連付けられた危険有害要因および事故型分類を含 む危険情報が規定されている危険源評価マスターテーブル」の構成) に想到することは困難である。
c 相違点Cの容易想到性について 乙5装置発明の「下位の作業項目に関連する安全管理に関する情報 を検索する」構成(構成2―E’)は,検索された「下位の1つの作 業項目(工程や規格)」に係る「漠然としたリスク」を得る構成であ って,「1つの工程や規格」に係る漠然としたリスクを得る構成にす ぎない。このことは,乙3又は乙7においても同様にあてはまる。
他方で,相違点Cに係る本件発明1の「前記演算手段を使用して, 前記危険源評価マスターテーブルを参照して,前記内訳データ生成手 段により生成された内訳データに含まれる各要素に基づき,当該各要 素に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出し,該抽出した危 険有害要因および事故型分類を含む危険源評価データを生成する危険 源評価データ生成手段」(構成要件2-E)の構成は,「内訳データ」 の各要素という対象工事に含まれる,その下位概念の各要素といった, まとまった「複数の工程や規格」といった単位で,当該「複数の工程 や規格」「危険有害要因および事故型分類を含む危険源評価データ」 の を生成する構成である。
このようなまとまりのある「各要素を含む内訳データ」を活用して, まとまった各要素に関連する「危険有害要因および事故型分類を含む 危険源評価データ」を管理して労働安全衛生に資するという構成は, 仮に乙5に乙3又は乙7を組み合わせることができたとしても,当業 者が想到することは困難である。
したがって,当業者が,相違点Cに係る本件発明1の構成(構成要 件2-Eの「危険源評価データ生成手段」の構成)に想到することは 困難である。
d 小括 以上のとおり,当業者は,相違点AないしCに係る本件発明1の構 成を容易に想到することができたものとはいえないから,本件発明1 は当業者が乙5に記載された発明(乙5装置発明)と乙3及び乙7記 載の公知技術に基づいて容易に発明をすることができたとの被控訴人 らの主張は,理由がない。
(エ) 本件発明16及び本件発明18の容易想到性の主張に対し 前記(ウ)と同様の理由により,本件発明16及び本件発明18は当業 者が乙5に記載された発明と乙3及び乙7記載の公知技術に基づいて容 易に発明をすることができたとの被控訴人らの主張は,いずれも理由が ない。
5 控訴人の損害額(争点5)について(1) 控訴人の主張 ア 特許法102条2項損害額 3億6000万円 (ア) 被控訴人らは,遅くとも平成24年7月から,被告製品1を製造・ 販売している。被告製品1の1個当たりの販売価格は,少なくとも10 0万円である。
また,被控訴人らは,遅くとも同月から,被告製品1を複製権付きの 形式(ダウンロード可能(複製可能)なサーバで使用可能なシステム向 けの販売形式)で製造・販売している。この複製権付きの形式の被告製 品1の1個当たりの販売価格は,少なくとも5000万円である。
(イ) 本件訴訟提起前の1年間(平成24年7月から平成25年7月半ば までの間)における被控訴人らによる被告製品1の販売数量は,合計4 00個を下らない。
また,上記1年間における被控訴人らによる複製権付きの形式の被告 製品1の販売数量は,少なくとも1個ある。
そして 被控訴人らにおける被告製品1の利益率は,販売価格の80 %である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,被控訴人らが本件特許権の侵害行為に より受けた利益の額は3億6000万円となるから,特許法102条2 項により,控訴人が受けた損害額は,同額と推定される。
(100万円×400個+5000万円×1個)×80%=3億600 0万円 イ 弁護士費用・弁理士費用 3600万円 ウ 小括 以上によれば,控訴人は,被控訴人らに対し,特許権侵害不法行為に 基づく損害賠償として損害額3億9600万円(前記ア及びイの合計額) の一部である1億円及びこれに対する不法行為の後である被控訴人吉備シ ステム株式会社につき平成25年8月9日から,被控訴人ケイ・エス・エ ス株式会社につき同月10日(いずれも訴状送達日の翌日)から各支払済 みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めること ができる。
(2) 被控訴人らの主張 控訴人の主張は争う。
6 信用回復措置請求の可否(争点6)について (1) 控訴人の主張 控訴人の製品に比べて粗悪な被告製品の出現により,積算ソフト等の市場 は混乱を来たし,控訴人の業務上の信用が毀損された。
控訴人の業務上の信用を回復するには,被控訴人らに対し,特許法106 条に基づく信用回復措置として,別紙謝罪広告目録記載の内容及び別紙謝罪 広告掲載条件記載の条件の謝罪広告の掲載を命じる必要性がある。
(2) 被控訴人らの主張 控訴人の主張は争う。
当裁判所の判断
本件の事案に鑑み,争点4-(2)(乙5を主引用例とする進歩性欠如の無効理 由の有無)から判断する。
1 争点4-(2)(乙5を主引用例とする進歩性欠如の無効理由の有無)につい て(1) 本件明細書の記載事項等について ア 本件発明の特許請求の範囲(請求項1,16及び18)の記載は,前記 第2の1(1)イのとおりである。
イ 本件明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載があ る(下記記載中に引用する図面及び表については別紙明細書図面を参照)。
(ア) 【技術分野】 【0001】 本発明は,建設関連の会社を対象とした労働安全衛生マネージメント システム,その方法及びプログラムに関する。
(イ) 【背景技術】 【0002】 労働安全衛生マネージメントシステムOHSAS(Occupati onal Health and Safety Assessmen t Series)18001は,国際的な規模で認証を行っている諸 機関(例えば,ロイド,SGS,日本規格協会)などが参加した国際コ ンソーシアムが策定した労働安全衛生マネージメントシステムの規格で ある。この規格は,企業などの組織内での労働衛生災害リスクを最小化 し,将来の発生リスクを回避する活動を継続的に改善しているかどうか をチェックするためのものである(…)。また,OHSAS18001 は,ISO14001規格と同様に,計画,実施及び運用,点検及び是 正処置,経営層による見直し,という,プラン(計画)-ドゥー(実行) -チェック(点検)-アクション(見直し)から成るいわゆるデミング サイクルで構成されるものであり,OHSAS18001の求めるマネ ージメントシステムでは,このサイクルの実施が求められている。
【0003】 従って,この労働安全衛生規格に準拠(登録審査及び維持審査に合格) するためには,事業活動のすべてを網羅して,労働安全衛生における危 険源,即ち,リスクを抽出しこれの影響を算出・評価しなければならな いが,手計算でも,コンピュータを用いるにしても,手際よく,定量的 に処理する方法を模索しているのが現状である。このような状況におい て,企業が独自に労働安全衛生関連の書類を整えその登録を受けること は非常に困難であり,一般的には,専門の労働安全衛生コンサルタント に依頼し,危険源評価に関する書類を作成してもらう必要があった。さ らに,この規格は一定の周期で維持審査があり,上述したデミングサイ クルを常時実践し続け,危険源評価表を作成する必要があった。
【0004】 ところで,建設会社では,施工する工事に関して労働者及び周辺に影 響を及ぼす要素(典型的なものは,工事作業者の転落,転倒,工事用重 機による作業者のけがなど)が多数存在し,これらの各要素の影響を考 慮した危険源評価表を作成する必要があるが,1つの工事であっても様 々な多数の要素(作業工程)から構成されており,さらに,建設会社で は多数の工事を抱えているのが通常であるため,多数の工事の各要素の 危険源を適切に評価した危険源評価表を作成するのは非常に労力や時間 がかかるものであった。
(ウ) 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 上述した諸問題に鑑みて,本発明は,建設関連の会社を対象とした労 働安全衛生マネージメントシステムであって,より詳細には,既に存在 し,定量化されている建設工事積算システムにおける歩掛データや積算 データを効率的に利用して,人手やコストをかけずに簡易かつ簡便に危 険源評価データを自動生成し,このデータを編集した危険源評価書(表) を出力する労働安全衛生マネージメントシステムを提供することを目的 とする。
【0006】 また,従来の建設業界では,いわゆる歩掛を用いた積算方式(積み上 げ)を使って歩掛積算テーブルを構築し,或いは標準的な積算テーブル を用いて,これに適合した工事単位を工事名称として使用し,単価計算 や入札などを行ってきていた。しかしながら,諸官庁によって,コスト の削減,価格の透明性などを目的として,工事を構成する個々の要素の 単価を積み上げずに,包括的な施工対象の工事別のユニットプライス型 積算方式(施工単価形式)を用いた入札・受注の形態に変化してきてい る。このようなユニットプライス形式とは,発注者と受注者の取引価格 をベースに,工事目的物の施工単価(ユニットプライス)を調査・決定 する方式である。具体的には,例えば,工事目的物の工事名称がアスフ ァルト舗装工(車道部),契約単位が200m 3,その値段が2千万円 などの形式である。…(エ) 【課題を解決するための手段】 【0007】 上述した諸課題を解決すべく,本発明による労働安全衛生マネージメ ントシステムは, 労働安全衛生マネージメントシステムであって, 複数の工事の名称,および前記複数の工事の各々に含まれる各要素(工 程)の単位数量あたりの標準数値からなる標準統計情報を含む歩掛マス ターテーブルと,工事に関連する各要素別の危険有害要因およびそれに 関連付けられた事故型分類を含む危険情報が規定されている危険源評価 マスターテーブルとが格納されている記憶手段と, 少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報(例えば,工事名称(工種)=バックホウ掘削など)を入力する入力手段と, 前記歩掛マスターテーブルを参照して,前記入力された評価対象工事の情報に基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素(及び,望ましくはそれらの標準的な数値情報)を含む内訳データを演算手段を使用して生成する内訳データ生成手段と, 前記生成された内訳データに基づき,前記危険源評価マスターテーブルを参照して,危険有害要因データおよび事故型分類データ(これは,各危険有害要因に対応する個別リスクに相当する)を含む危険源評価データを前記演算手段を使用して生成する危険源評価データ生成手段と, 前記危険源評価データを編集し危険源評価表として出力する出力手段(プリンタ,またはCRTなど)と,を含むことを特徴とする。
本発明によれば,評価対象工事の簡易な情報を提供するだけで,歩掛マスターテーブルのデータを利用することによって,その工事に関連する各要素の危険源評価データを自動的に労力や人手をかけずに自動的に生成し,危険源評価データを含む危険源評価表を出力することができるようになる。また,対象工事に関する数値情報が与えられてなくても,対象工事を標準的な数量の工事と仮定して,これに含まれる各要素に対する標準的な歩掛データの数値を使用して数値情報を付加することもできる。このように,本発明によれば,労働安全衛生コンサルタントなどの助けを得ずに簡易かつ自動的に危険源評価表を作成することが可能となる。
【0009】 また,本発明による労働安全衛生マネージメントシステムは, 前記評価対象工事の情報は,その数量(例えば,工事名称がバックホ ウ掘削である場合は,数量(工事規模)=100m 3など,或いは対象 工事に含まれる各要素(工程)の各数値情報)をも含み, 前記内訳データ生成手段は,前記評価対象工事に含まれる各要素の少 なくとも一部は,それらの数量をも含む内訳データを演算手段を使用し て生成する, ことを特徴とする。
本発明によれば,与えられた数値情報を利用することによって,より 詳細かつ適切な危険源評価データを作成することが可能となる。
【0014】 …建設会社では,多数の工事に関する詳細なデータを含む建設積算(建 設情報管理)システムを導入して,通常の積み上げ方式であってもユニ ットプライス形式であっても,工事に含まれる詳細な工程(要素),そ の各工程の詳細な単価などの蓄積情報を持つデータベース(さらに,標 準統計情報を含む歩掛マスターテーブル,当該会社にカスタマイズされ た統計情報を含む建設積算データテーブルも含まれている。)を保持し ている場合が多い。本発明は,建設業界ではこのような建設積算システ ムが導入されている場合があることに着目し,この建設積算システム(本 システムから見て外部にあるシステムであるため便宜上「外部システム」 と呼ぶ。)に蓄積されているデータを利用することによって,当該建設 会社の工事関連の危険源評価データを自動的に生成することを可能にす る。従って,建設会社に建設積算システムが導入されており必要な工事 関連データが存在すればこのデータをそのまま利用することによって, 人手をかけずに危険源評価データ(危険源評価表など)を自動的に作成 することが可能となる。
(オ) 【発明を実施するための最良の形態】 【0020】 以降,諸図面を参照しつつ,本発明の実施態様を詳細に説明する。主として従来の積み上げ形式の積算方式に準拠したシステムの形態で説明するが,ユニットプライス形式の積算方式であっても本発明は同様に実現でき,同様の効果が得られるものである。
図1は,本発明による労働安全衛生マネージメントシステムの基本的な構成を示すブロック図である。図に示すように,本発明による労働安全衛生マネージメントシステム100は,記憶手段110,入力手段120,内訳データ生成手段125,危険源評価データ生成手段130,出力手段135,受信手段140,及び更新手段145を具える。労働安全衛生マネージメントシステム100は,インターネット,WAN,LAN,有線・無線電話回線網などのネットワーク200を介して端末122,建設積算システムやPDA,携帯機器,携帯電話などの外部システム250と接続されている。また,端末122の一部は本システム100に直接ローカルで接続されている。
【0021】 記憶手段(装置)110は,複数の工事の名称,および前記複数の工事の各々に含まれる各要素の単位数量あたりの標準数値からなる標準統計情報を含む歩掛マスターテーブル112と,工事に関連する各要素別の危険有害要因およびそれに関連付けられた事故型分類を含む危険情報が規定されている危険源評価マスターテーブル114とを格納している。
さらに,記憶手段110は,実際に受注した,工事の名称,および前記工事に含まれる各要素の単位数量あたりの実数値からなるカスタマイズされた統計情報を含む建設積算データテーブル116をも含む。
【0023】 ユニットプライス型積算方式では,目的工事に含まれる個々の要素(工程),例えば,建設資材や燃料などの単価や数量などには着目しないた め,基本的には歩掛積算テーブルを作成する必要はない。しかしながら,ユニットに含まれる各要素に基づきユニットプライスを決定するときの根拠や社内での原価管理などのために歩掛積算テーブルを構築する必要性がある。さらに,危険源評価データを算出するためには,歩掛積算テーブル上に構築されている各要素の情報が必須である。そこで,本発明によるシステムでは,従来からある歩掛積算テーブルに構築されているこれらの要素のデータを継承して有効利用を図るものである。
【0024】 入力手段120は,ローカル接続された,或いはネットワークを介して接続された端末122を介して評価対象工事(危険源評価の対象となる工事)の名称およびその数量を入力する。
【0025】 内訳データ生成手段125は,記憶手段110に格納されている前記歩掛マスターテーブル112を参照して,前記入力された評価対象工事の名称およびその数量に基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素およびそれらの数量を含む内訳データを演算手段(例えばMPU,CPUなど。図示せず)を使用して生成する。さらに,内訳データ生成手段125は,評価対象工事に含まれる各要素と,建設積算データテーブル116に含まれるカスタマイズされた統計情報内の各要素とを比較して,合致する要素が所定の閾値を超える場合は,建設積算データテーブル116をも参照して,評価対象工事およびその数量に基づき,内訳データを生成することもできる。
【0026】 危険源評価データ生成手段130は,前記生成された内訳データに基づき,前記危険源評価マスターテーブル114を参照して,危険有害要因データおよび事故型分類データを含む危険源評価データを前記演算手 段を使用して生成する。即ち,内訳データに含まれる情報と合致する情報が危険源評価データの項目に含まれる場合は,その項目を抽出し,さらにこの項目に関連付けられている事故型分類データの項目も抽出して危険源評価データとする。
出力手段135は,危険源評価データを編集し危険源評価表(書)として端末122に出力したり,或いは,エクセルなどの表計算アプリケーションに準拠したファイルとして出力したり,さらにはプリンタ(図示せず)に印刷したりする。
【0028】 図2は,本発明による労働安全衛生マネージメントシステムにおける処理ステップの一例を詳細に説明するフローチャートである。
図に示すように,ステップS10では,参照するデータベースとして,手動で,或いは所定の閾値を用いて,歩掛マスターテーブル,積算データテーブル(実際の受注工事),或いは工事区分テーブルを使うかを選択する。
歩掛マスターテーブルを参照することが選択された場合は,複数の階層のうちどの階層(階層は,後で詳細に説明する。)でデータを集約するのかを選択する(S12a)。次に,建設積算管理システムなどのような外部システムなどから供給された省庁一覧表から評価対象工事が関連する所望の省庁に対応した歩掛データテーブルを選択し,この選択した省庁の下の階層にある工種リストから1つの工種(例えば土木工事)を選び出す(S14a)。選ばれた工種の下の階層にある種別リストから1つの種別(例えば機械土工(土砂))を選び出し,さらに,この選んだ種別の下の階層にあるリストから少なくとも1つのものを評価対象工事として選択する。
或いは,工種の選択以降は,その選択で表示される一覧から対象でな い項目を除外することによって非表示にしたり,生成された内訳データの一覧から対象でない項目を除外することによって非表示にしたりすることもできる。この非表示設定は,記憶しておき,次回の選択時に自動的に除外して非表示にする構成をとることも可能である。
或いは,評価対象工事の情報は,別途,工事の名称及びその数量を直接的に入力したり,外部システムから評価対象工事の情報を受信したりすることもできる。この評価対象工事の情報に基づき,選択した省庁用の歩掛マスターテーブルを参照して,前記評価対象工事に含まれる各要素および望ましくはそれらの数量を含む内訳データを演算手段を使用して生成する(S16a)。
【0031】 ステップS16a,16bで作成された内訳データは,一旦,記憶装置に格納しておく(S18a)。… 生成された内訳データに基づき,工種別リンクテーブル,工事区分別リンクテーブル,危険源評価マスターテーブル,或いは関連法規データベースを参照して,危険有害要因データおよび事故型分類データを含む危険源評価データを前記演算手段を使用して生成する(S20)。生成された危険源評価データは,一旦,記憶装置に格納しておく(S22)。
その後,危険源評価データを編集し,危険源響評価表として出力する(S24)。
【0032】 図3は,上述したステップS12aなどにおける階層の指定,および,評価対象工事に適応した歩掛データベース(マスターテーブル)を指定するための画面インターフェイスの一例を示す図である。図に示すように,工種(最も大雑把で高レベルの階層であり,例えば,土工(土木工事)など),種別(その下の階層であり,例えば,機械土工など),の 2階層があり,ユーザは,画面内の所望の階層のラジオボタンを選択する。また,この例では歩掛データベースは省庁別に設けられており,ユーザは,評価対象工事の歩掛データベースとして最適なものを「省庁名」をキーとして選択する。
【0033】 図4は,評価対象工事に対応する所望の歩掛データベースを選択するための画面インターフェイスの一例を示す図である。図に示すように,省庁として国土交通省が選択され,工種として土工,種別として機械土工(土砂),規格としてブルドーザ掘削押土が選択されている。図中の右側で,さらに,詳細なレベルでの選択も可能である。
【0034】 図5は,工種(a),種別(b)の各階層を選択したときに,内訳データを集約(グループ化)するときのグループ(項目)の一例を示す図である。階層を選択した場合は,図に示すような階層下のグループに内訳データは集約されることとなる。
【0035】 図6は,評価対象工事を選択するための画面インターフェイスの一例を示す図である。ユーザは,工事情報ツリー(リスト)から分類別にグループ化されたものから1つの分類(この図の例では旧建設省発注工事)を選択し,その下の階層のリストから1つのグループ(この図の例ではリスク評価用工事)を選択し,さらにその下の階層のリストから1つのカテゴリ(この図の例ではリスク評価用工事1)を選択する。このようにして,評価対象工事を選択するが,本システムは,1つの工事のみならず複数の工事をも選択することも可能である。
このような選択の下で,さらに,選択されたカテゴリである「リスク評価用工事1」において,さらに幾つかの階層(レベル)で抽出条件を 規定することもできる。
【0036】 図7は,積算工事データベース内の所望の建設積算データテーブルにアクセスするための画面インターフェイスの一例である。図6で選択された評価対象工事の「リスク評価用工事1」には,これに対応する積算工事データベースが関連付けられており,評価対象工事を選択すると,このような関連付けられた建設積算データテーブルが呼び出され,後続処理である内訳データ作成でこのテーブルが利用される。
或いは,選択された評価対象工事と同様の種類の要素を含むその他の積算工事データベースのデータテーブルを代用することもできる。
【0037】 図8は,工種(工事種類)リンクテーブルの一例を示す図である。図に示すように,工種,作業名,工程(各工程には歩掛コードが関連付けられている)などのリストを持ち,各工程は,対応する危険源評価マスターテーブルの項目が関連付けられている。例えば,以下の表のような「内訳データ」(表1)と「工種リンクテーブル」(表2)とを歩掛コードなどでマッチング処理を行い,合致するデータを危険源評価マスターテーブルより取得し,危険源評価データを生成すること可能となる。
即ち,この表の例では,歩掛コードB0001,B0002をキーとして表2のような工種リンクテーブルを検索し,同じキーB0001,B0002を持つものを探し出し,その探し出した項目に関連付けられている危険源評価マスターテーブルの該当項目から危険源評価データを抽出する。
【0038】【表1】(判決注・別紙明細書図面参照)【0039】 【表2】(判決注・別紙明細書図面参照)【0040】 図9は,危険源評価マスターテーブルの一例を示す図である。図に示すように,危険源評価マスターテーブルは作業工程で分類されており,この図では,右側に,人力掘削に関する作業工程(掘削作業や持ち場の点検など)とその有害要因(通路,岩石など)およびそれに関連付けられた事故型分類(つまずき,切れなど)が表示されている。…【0041】 図10は,本発明による労働安全衛生マネージメントシステムによって生成された危険源評価データを示す図である。この危険源評価データは,生成された内訳データに基づき,(工種リンクテーブルを介して)危険源評価マスターテーブルを参照して生成されたものである。例えば,図10では,「人力掘削」を評価対象工事として含み,この工事に含まれる各要素(作業工程)のうちの要素「工具,保護具の点検」,及び「持ち場,周囲の点検」については,「その他:切れ,こすれ」及び「通路:つまずき」という有害要因(起因物)及びその事故型分類を表示するものである。そして,このデータには各有害要因に関する重要度,発生可能性,評価などの数値情報・ランク付けなども含まれる。ユーザは,これらの数値情報で労働安全リスクを容易に評価することが可能となる。
…【0043】 図12は,本発明による労働安全衛生マネージメントシステムで作成された危険源評価表を示す図である。本発明による労働安全衛生マネージメントシステムによれば,図に示すような危険源評価表を労働安全衛生規格コンサルタントなどのサポートなしで,さらには何ら人手をかけずに自動的に作成することが可能である。
(カ) 【産業上の利用可能性】 【0046】 本発明の効果をまとめると以下のようになる。そもそも,定量化と迅 速化が難しい労働安全衛生マネージメントシステムに対して現実的な手 段を提供できる。また,労働安全衛生マネージメントシステムは,時系 列的にデータの蓄積と評価精度を上げてゆくことが望ましいが,本発明 は蓄積や経験の少ない初期段階から成熟段階まで,概算的評価と詳細評 価を比較しながら,発展する手段を提供できる。… 【0047】 本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが,当業者であれば本 開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意され たい。従って,これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることを留 意されたい。例えば,各部材,各手段,各ステップなどに含まれる機能 などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり,複数の部材,手段, ステップなどを1つに組み合わせたり或いは分割したりすることが可能 である。
ウ 前記ア及びイによれば,本件明細書には,本件発明1に関し,次のよう な開示があることが認められる。
(ア) 国際コンソーシアムが策定した,企業等の組織内での労働衛生災害 リスクを最小化し,将来の発生リスクを回避する活動を継続的に改善し ているかどうかをチェックするための労働安全衛生規格(労働安全衛生 マネージメントシステムの規格)である「OHSAS18001」に準 拠(登録審査及び維持審査に合格)するためには,事業活動のすべてを 網羅して,労働安全衛生における危険源(リスク)を抽出し,その影響 を算出・評価しなければならず,手計算でも,コンピュータでも,手際 よく,定量的に処理する方法を模索しているのが現状であって,企業が 独自に労働安全衛生関連の書類を整えその登録を受けることは非常に 困難であり,一般的には,専門の労働安全衛生コンサルタントに依頼し, 危険源評価に関する書類を作成してもらう必要があり,さらに,この規 格は一定の周期で維持審査があるため,そのために危険源評価表を作成 する必要があるという問題があった(段落【0002】 【0003】 。
, ) また,建設会社では,施工する工事に関して労働者及び周辺に影響を 及ぼす要素(工事作業者の転落,転倒,工事用重機による作業者のけが 等)が多数存在し,これらの各要素の影響を考慮した危険源評価表を作 成する必要があるが,一つの工事であっても様々な多数の要素(作業工 程)から構成されており,さらに,建設会社では多数の工事を抱えてい るのが通常であるため,多数の工事の各要素の危険源を適切に評価した 危険源評価表を作成するのは非常に労力や時間がかかるという問題があ った(段落【0004】)。
一方で,従来の建設業界では,いわゆる歩掛を用いた積算方式(積み 上げ)を使って歩掛積算テーブルを構築し,あるいは標準的な積算テー ブルを用いて,これに適合した工事単位を工事名称として使用し,単価 計算や入札などを行っていた(段落【0006】)。
(イ) 「本発明」は,上記の問題点に鑑み,建設関連の会社を対象とし, 「既に存在し,定量化されている建設工事積算システムにおける歩掛デ ータや積算データを効率的に利用して,人手やコストをかけずに簡易か つ簡便に危険源評価データを自動生成し,このデータを編集した危険源 評価書(表)を出力」する労働安全衛生マネージメントシステムを提供 することを目的とするものであり(段落【0005】),この目的を達 成するための手段として,「複数の工事の名称,および前記複数の工事 の各々に含まれる各要素(工程)の単位数量あたりの標準数値からなる 標準統計情報を含む歩掛マスターテーブルと,工事に関連する各要素別 の危険有害要因およびそれに関連付けられた事故型分類を含む危険情報が規定されている危険源評価マスターテーブルとが格納されている記憶手段と,少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報(例えば,工事名称(工種)=バックホウ掘削など)を入力する入力手段と,前記歩掛マスターテーブルを参照して,前記入力された評価対象工事の情報に基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素(及び,望ましくはそれらの標準的な数値情報)を含む内訳データを演算手段を使用して生成する内訳データ生成手段と,前記生成された内訳データに基づき,前記危険源評価マスターテーブルを参照して,危険有害要因データおよび事故型分類データ(これは,各危険有害要因に対応する個別リスクに相当する)を含む危険源評価データを前記演算手段を使用して生成する危険源評価データ生成手段と,前記危険源評価データを編集し危険源評価表として出力する出力手段(プリンタ,またはCRTなど)と,を含む」ことを特徴とする「労働安全衛生マネージメントシステム」の構成を採用した(段落【0007】)。
「本発明」によれば,評価対象工事の簡易な情報を提供するだけで,既に存在し,定量化されている建設工事積算システムにおける「歩掛マスターテーブルのデータ」を利用することによって,その工事に関連する「各要素」の「危険源評価データ」を自動的に労力や人手をかけずに自動的に生成し,「危険源評価データを含む危険源評価表」を出力することができるようになり,また,対象工事に関する数値情報が与えられてなくても,対象工事を標準的な数量の工事と仮定して,これに含まれる「各要素」に対する標準的な歩掛データの数値を使用して数値情報を付加することもできるので,労働安全衛生コンサルタントなどの助けを得ずに簡易かつ自動的に「危険源評価表」を作成することが可能となり(段落【0007】),これにより,定量化と迅速化が難しい労働安全 衛生マネージメントシステムに対して現実的な手段を提供できるという 効果を奏する(段落【0046】)。
(2) 乙5の記載事項について 乙5には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については 別紙乙5図面を参照)。
ア 特許請求の範囲 【請求項7】大事業区分から細別区分へと順次ツリー構造として構築され ている情報がデータ管理部に格納されている建設工事の情報管理装置にお いて, キーワード,規格等,および修正データ等を入力する入力部と, 前記入力部において入力されたキーワードおよび規格等を解析するキーワ ード・規格解析部と, 解析されたキーワードによって事業区分に関する情報を検索する事業区分 作業用キーワード管理部と, 解析されたキーワードによって工事区分に関する情報を検索する工事区分 作業用キーワード管理部と, 解析されたキーワードによって工種に関する情報を検索する工種作業用キ ーワード管理部と, 解析されたキーワードによって種別に関する情報を検索する種別作業用キ ーワード管理部と, 解析されたキーワードによって代表作業に関する情報を検索する代表作業 用キーワード管理部と, 前記各管理部によって検索される情報が格納されているデータ管理部と, から構成されていることを特徴とする建設工事における情報管理装置。
【請求項9】前記代表作業用キーワード管理部によって検索された原価管 理情報,安全管理情報,品質管理情報,工程管理情報,ミス・ロス・改善 情報,その他施工技術情報は,積算されて出力部から出力されることを特徴とする請求項7または請求項8記載の建設工事における情報管理装置。
【請求項10】前記代表作業用キーワード管理部によって検索された原価管理情報,安全管理情報,品質管理情報,工程管理情報,ミス・ロス・改善情報,その他施工技術情報は,所望のものがキーワードに基づいて積算され,予算書,見積書,工程管理表,安全管理表,品質管理表の少なくとも一つが出力部から出力されることを特徴とする請求項7または請求項8記載の建設工事における情報管理装置。
発明の詳細な説明(ア) 【発明の属する技術分野】 【0001】本発明は,事業区分,工事区分,工種等が異なっても,同 じ目的物に対する作業内容で対処できる建設工事における情報管理方法 および情報管理装置に関するものである。本発明でいう「建設工事」は, 「建築工事」および「土木工事」に関連する一切を含むものである。ま た,本発明は,さらに,工事の規模である大,中,小,あるいは規格等 を適当に分けておくと,どのような事業区分で仕事をしている者であっ ても,所望の建設工事にかかる情報を簡単および迅速で,かつ蓄積され た情報を得ることができる建設工事の情報管理方法および情報管理装置 に関するものである。
【0002】本出願人は,異なる事業区分,工事区分,工種等の中であ っても,同じ作業が多いことに着目し,作業の対象となる目的物と前記 作業をどうするかが判る作業内容とから構成される代表作業用キーワー ドというものを考えた。すなわち,本出願人は,「何を(目的物)どう する(作業内容) というキーワードに注目することにより, 」 事業区分, 工事区分,工種等が異なっても,前記キーワードにかかる工事の内容が 同じであることに気付いた。
(イ) 【従来の技術】 【0003】図10は従来行われている建設工事における情報の管理方 法を説明するための図である。建設会社には,事業区分毎に,「部」ま たは「事業部」が設けられている。図10において,たとえば,「河川 事業部」,「港湾事業部」,「道路事業部」,「トンネル事業部」,「ビ ルディング事業部」等がある。前記事業部の下部には,たとえば,「築 堤・護岸部」,「浚渫部」,「堤部」,「樋門・樋管部」がある。さら に,前記「築堤・護岸部」で扱う工事の種類である工種として「河川土 工」があり,前記「河川土工」内に,工事の内容種別として「掘削工」, 「護岸工」,…がある。
【0004】前記「掘削工」を細別すると,「土砂掘削」 「軟岩掘削」 , , 「硬岩掘削」がある。また,前記「土砂掘削」には,工事規格として, 大規模,中規模,小規模に別れている。さらに,前記「軟岩掘削」には, たとえば,規格が二通りある例が示されている。
【0005】会社の組織は,ツリー構造になっているのが普通であり, 組織に基づいて情報が管理されている。… 【0006】建設業界は,談合またはそれに近い方法により入札が行わ れる場合が多いため,事業区分,工事区分,工種等が異なると,工事内 容が略同じであっても,見積価格が異なる場合が多くあった。したがっ て,図10に示すような事業部制は,情報が他部門に流通しないだけで なく,自分の部門においても改善された情報の蓄積が少ない。
(ウ) 【発明が解決しようとする課題】 【0007】しかし,これからは,市場経済であり,競争に勝残るため には,同じ社内の異なる部門の情報であっても,共有することにより, 他社より優れた工事,利益を少しでも多くあげることができる工事が必 要である。そのためには,社内において,できるだけ同じ情報を共有し て,全体の情報を少なくすると共に有効に活用できるように蓄積する必要がある。
【0008】そこで,本出願人は,事業区分,工事区分,工種,細別等を作業内容や作業目的を分析することによって,事業区分が異なっても,全く同じ作業内容が非常に多いことに気付いた。図11は事業区分に基づく作業の細別を説明するための図である。図11において,たとえば,「河川」 「港湾」, , 「道路」における工事には,それぞれ「土砂掘削」,「軟岩掘削」,「硬岩掘削」,「流用土盛土」,「コンクリート打設」があり,作業内容が略同じである。作業内容で異なるのは,作業の規模が大きい場合と小さい場合,あるいは,特別な仕様や規格がある場合である。
【0009】本出願人は,前記作業内容と規模等に注目することで,情報を各部門で共有することができるだけでなく,情報の蓄積量を少なく,簡単かつ迅速に所望のデータを得られることに気付いた。また,本出願人は,蓄積情報をツリー状に構築しているにもかかわらず,キーワードの付けかたにより,ツリー状に構築された情報を下方から検索できるようにして,膨大な情報の中から,所望の情報を簡単および迅速で,かつ有効に活用できることに気付いた。また,前記情報は,ツリー状に構築されているため,必要に応じて,従来と同じように上位から順次検索することも可能である。
【0010】本出願人は,作業の対象となる「何を(目的物)どうする(作業内容)」,に注目した結果,「何をどうする」というキーワードで情報を検索することができることが判った。本出願人は,さらに,前記キーワードの「どうする」に対して,規格等(以下,本明細書では,大,中,小,の規模,施行地の形状,地質,含水量,面積的制約,振動,騒音,隣地条件,住民感情,使用材料の諸条件,汚染物質,美観,生態 系,・・・を分類して体系化したものを施行条件または規格等と記載す る。)を加味するだけで,事業区分,工事区分,工種等が異なっても, 同じ作業内容で行えることに気付いた。
【0011】本発明は,従来の課題を解決するためのものであり,どの ような事業区分で仕事をしている者であっても,所望の建設工事にかか る情報を簡単および迅速で,かつ有効利用ができる建設工事における情 報管理方法および情報管理装置を提供することを目的とする。
(エ) 【発明の実施の形態】 【0022】(第1発明)建設工事における情報管理は,たとえば,事 業区分-工事区分-工種-種別-代表作業-工事規格のように,大事業 区分から代表作業区分へと順次ツリー構造として構築されている。第1 発明は,上記のように建設工事における情報がデータ管理部に格納され ている建設工事の情報管理方法である。本出願人は,上記情報管理にお いて,「何を(目的物)どうする(作業内容)」というキーワードに注 目することにより,事業区分等が異なっても,情報としては同じものが 使用できることに気付いた。また,前記キーワードの情報を蓄積するこ とによって,次の建設工事を行う際に有効に利用することができる。
【0023】第1発明は,「何を(目的物)どうする(作業内容)」と いう代表作業用キーワードの他に,当該代表作業で行う工事の規格等を 入力する。前記規格等には,大,中,小,の規模,施行地の形状,地質, 含水量,面積的制約,振動,騒音,隣地条件,住民感情,使用材料の諸 条件,汚染物質,美観,生態系,…等がある。前記代表作業用キーワー ドと規格等を基にして,代表作業用キーワード管理部が所望の情報を検 索する。前記検索された情報は,データ管理部から出力される。本発明 は,河川の工事,港湾の工事,道路の工事,トンネルの工事,あるいは ビルディング,…の工事のいずれであっても,コンクリート打設は,同 じであり,異なるとすれば,前記規格等によって異なるのみである。
【0024】(第2発明)第2発明の建設工事における情報管理方法において,前記代表作業用キーワードと規格等を基にして検索される情報は,原価管理情報,安全管理情報,品質管理情報,工程管理情報,ミス・ロス・改善情報,その他施工技術情報の内の少なくとも一つである。
原価管理情報は,機械,人,材料(物)等直接工事にかかる費用に関する情報である。安全管理情報は,工事にかかる安全情報で,事故暦等を入力しておくと,同じ工事を次に行う場合に参考になる。
【0030】 (第7発明)第7発明の建設工事における情報管理装置は,たとえば,事業区分-工事区分-工種-種別-代表作業-工事規格のように,大事業区分から代表作業へと順次ツリー構造として構築されている情報がデータ管理部に格納されている。入力部は,各情報に関するキーワード,たとえば,事業区分作業用キーワード,工事区分作業用キーワード,工種作業用キーワード,種別作業用キーワード,代表作業用キーワード,あるいは原価管理キーワード,工程管理キーワード,安全管理キーワード,品質管理キーワード,ミス・ロス,改善キーワード,技術情報キーワード,規格等(たとえば,大,中,小の規模,施行地の形状,地質,含水量,面積的制約,振動,騒音,隣地条件,住民感情,使用材料の諸条件,汚染物質,美観,生態系等),および修正データ等を入力する。
【0031】キーワード・規格解析部は,前記入力部において入力された前記各キーワードおよび規格等をキーワード記憶部および規格記憶部に多数記憶されているキーワードを参照して,どこの区分に属するものであるかについて解析する。前記キーワード・規格解析部によって解析されたキーワードおよび規格等は,事業区分に関する情報を検索するものである場合,事業区分作業用キーワード管理部に送られる。前記解析 されたキーワードおよび規格は,工事区分に関する情報を検索するものである場合,工事区分作業用キーワード管理部に送られる。
【0032】前記解析されたキーワードおよび規格は,工種に関する情報を検索するものである場合,工種作業用キーワード管理部に送られる。
前記解析されたキーワードおよび規格は,種別に関する情報を検索するものである場合,種別作業用キーワード管理部に送られる。前記解析されたキーワードおよび規格は,代表作業に関する情報を検索するものである場合,代表作業用キーワード管理部に送られる。データ管理部には,前記各管理部によって検索される情報が格納されている。
【0033】キーワード・規格解析部は,「何を(目的物)どうする(作業内容)」というキーワードからなる代表作業用キーワードと規格を解析して,このキーワードに基づいてデータ管理部の情報を検索する。すなわち,第7発明は,キーワードによって最上位概念の事業区分から順次下位概念の代表作業まで情報を検索する必要がないため,迅速に情報を得ることができる。また,第7発明における情報の検索は,キーワード・規格解析部によって,代表作業以外に,どの工事区分,工種区分であっても,上位概念から検索するのではなく,所望の工事区分の情報を直接検索することができる。
【0036】 (第9発明)第9発明の建設工事における情報管理装置は,どの事業区分の部署からもアクセスすることができ,「何を(目的物)どうする(作業内容)」というキーワードと規格等を入力することにより,前記代表作業用キーワード管理部によって検索された原価管理情報,安全管理情報,品質管理情報,工程管理情報,ミス・ロス・改善情報,その他施工技術情報を積算して出力部から出力する。第9発明は,前記キーワードと規格を入力することにより,所望の代表作業における各種情報の全てが迅速に得ることができる。
【0037】(第10発明)第10発明の建設工事における情報管理装 置は,どの事業区分の部署からもアクセスすることができ,「何を(目 的物)どうする(作業内容)」というキーワードと規格等を入力するこ とにより,前記代表作業用キーワード管理部によって検索された原価管 理情報,安全管理情報,品質管理情報,工程管理情報,ミス・ロス・改 善情報,その他施工技術情報に基づいた情報が積算され,表計算部,情 報積算部,および見積書等作成部によって,予算書,見積書,工程管理 表,安全管理表,品質管理表の少なくとも一つが出力部から出力する。
予算書,見積書,工程管理表,安全管理表,品質管理表の作成は,従来 の市販されているソフトウエアを使用することにより,簡単に得ること ができる。
(オ) 【実 施 例】 【0038】図1は本発明の一実施例で,コンクリート打設を代表作業 用キーワードにした際の情報を説明するための図である。本発明は,図 10における細別を代表作業用キーワードとすることにする。そして, 図1は代表作業用キーワードの一つであるコンクリート打設について説 明する。コンクリート打設には,「コンクリート打設にかかる原価管理 情報」,「コンクリート打設にかかる安全管理情報」,「コンクリート 打設にかかる品質管理情報」,「コンクリート打設にかかる工程管理情 報」,「コンクリート打設にかかるミス・ロス・改善管理情報」,「コ ンクリート打設にかかるその他の施工技術管理情報」等がある。
【0039】前記各管理情報には,図10と同様に,規格等により分け られている。コンクリート打設の規格は,大規模,中規模,小規模の三 つに分けられていると仮定する。たとえば,前記規模において,大規模 はコンクリートの容積が30立米以上,中規模はコンクリートの容積が 10立米から30立米未満,小規模はコンクリートの容積が10立米未 満のものとする。また,規格等の場所には,原価が記載されている。
【0040】前記代表作業用キーワードには,コンクリート打設の他に,土砂掘削,軟岩掘削,硬岩掘削,…があるだけでなく,多くの細別の中にさらに多くの代表作業用キーワードが設けられている。
【0041】図2は本発明の実施例で,代表作業用キーワードと規格(大)で検索された情報の一例を説明するための図である。図3は本発明の実施例で,代表作業用キーワードと規格(小)で検索された情報の一例を説明するための図である。図2および図3は,代表作業用キーワード「コンクリート(何を)打設(どうする)」および規格(大規模)または規格(小規模)を基にして検索された情報の一例を示すものである。図2および図3において,検索された情報は,たとえば,原価管理情報,安全管理情報,品質管理情報,工程管理情報,ミス・ロス・改善管理情報,およびその他の施工技術情報等からなっている。
【0042】原価管理情報について,図2および図3を比較すると,大規模のコンクリート部材打設に関する原価管理情報は,ポンプ車が1台必要であり,作業員が10人,コンクリートが500立米必要であることが記載されている。これに対して,小規模のコンクリート部材打設に関する原価管理情報は,一輪車が1台必要であり,作業員が5人,コンクリートが3立米必要であることが記載されている。
【0043】ポンプ車1台/1日50000円,人件費を一人20000円,コンクリート1立米10000円とすると,前記大規模のコンクリート打設には,50000円+20000円×10+500×10000円=525万円となる。コンクリート打設における1立米当たりの原価は,10500円となる。これに対して,前記小規模のコンクリート打設は,20000円×5+3×10000円=13万円となる。コンクリート打設おける1立米当たりの原価は,40000円を超えるこ とになる。
【0044】図2および図3は説明のための例示であり,数値が必ずしも正確ではない。また,大規模コンクリート打設には,安全管理情報は,ポンプ車,コンクリートミキサー車,砂利運搬車の出入り等に関する安全を確保するために交通整理を行う管理人が必要になる。品質管理情報は,コンクリートを養生させる際に発生する熱を抑制する等の技術情報および品質管理情報が記載されている。さらに,コンクリートを養生するのに必要な費用も記載されている。
【0045】図2および図3に例示された工程管理情報は,ポンプ車の使用日数,時間等,作業時間等が記載されている。さらに,ミス・ロス・改善情報およびその他の施工技術情報が記載されている。これらの情報は,工事を行う度に少しずつ修正されることによって,代表作業にかかる各種情報が蓄積され,その後の作業に有効利用されることになる。
【0046】図2および図3に記載された情報は,金額,物(人件費も含む),および日数(時間)等を考慮して積算することによって見積書あるいは予算書が作成できる。また,前記情報は,物の使用時間,作業時間等を積算することで,工程管理表が作成できる。たとえば,見積書の作成は,見積用のキーワードであることを認識できるようにしておけば,見積用のキーワードに記載されている費用を表計算ソフトによって積算することによって作成できる。
【0048】図4は会社の各部門が情報処理装置とネットワークによって接続されている状態を説明するための図である。各部門は,建設にかかる情報を上位概念から下位概念へと検索する以外に,代表作業用をキーワードとして入力することで,図2および図3に示されているような管理情報が直ちに得ることができる。建設会社の情報処理装置41は,たとえば,河川部門42,港湾部門43,道路部門44,トンネル部門 45,およびビルディング部門46にネットワークを介して接続されている。そして,前記代表作業用キーワードは,「何が(目的物)どうする(作業内容)」という覚え易いキーワードから構成されているため,数多くの代表作業用キーワードが存在していても,情報の検索が容易である。
【0049】図5は本発明の一実施例を説明するためのブロック構成図である。図5において,入力部511は,代表作業用キーワード,作業の規格等,またはその他の情報等を入力するためのキーボード等から構成されている。キーワード・規格解析部512は,入力部511によって入力された情報が代表作業用キーワードであるか,あるいは規格等であるかを解析する。キーワード・規格解析部512は,入力された情報がキーワード記憶部513に登録されている事業区分作業用キーワード,工事区分作業用キーワード,工種作業用キーワード,種別作業用キーワード,あるいは代表作業用キーワードの中のいずれであるかを調べる。
【0050】次に,キーワード・規格解析部512は,入力部511から入力された情報が規格記憶部514に記憶されている規格であるか否かを調べる。キーワード・規格解析部512は,入力された情報が事業区分作業用キーワードであると判断した場合,入力されたキーワードを事業区分作業用キーワード管理部515に送る。前記事業区分作業用キーワード管理部515は,前記キーワードに基づいて事業区分用の情報をデータ管理部520から検索する。データ管理部520は,前記検索された事業区分作業用キーワードに基づいた情報を出力部521から出力させる。
【0051】キーワード・規格解析部512は,同様に,工事区分作業用キーワード,工種作業用キーワード,種別作業用キーワードを解析して,入力されたキーワードを工事区分作業用キーワード管理部516, 工種作業用キーワード管理部517,種別作業用キーワード管理部518にそれぞれ送る。各キーワード管理部は,前記キーワードに基づいてそれぞれの情報をデータ管理部520から検索する。データ管理部520は,検索されたそれぞれのキーワードに基づいた情報を出力部521から出力させる。
【0052】さらに,キーワード・規格解析部512は,入力部511から入力された情報が代表作業用キーワードであり,かつ規格記憶部514に登録されている規格が入力されていると判断した場合,前記代表作業用キーワードと規格に関連するキーワードの全てを代表作業用キーワード管理部519に送る。代表作業用キーワード管理部519は,入力された代表作業用キーワードおよび規格に関連する情報をデータ管理部520から検索する。データ管理部520は,前記検索された代表作業用キーワードと規格に基づいた情報を出力部521から出力させる。
【0053】図6は本発明の一実施例で,キーワードと規格を入力することにより所望のデータが出力されるためのフローチャートが示されている。図7は図6のフローチャートに続くものであり,(a)-(a),および(b)-(b)(図示されていない)で接続されている。図6において,図5の入力部511によって,たとえば,代表作業用キーワードおよび必要により規格等が入力される(ステップ61)。キーワード・規格解析部512は,入力されたキーワードが代表作業用キーワードであるか否かをキーワード記憶部513を基にして調べる(ステップ62)。前記キーワード・規格解析部512は,次に,入力されたキーワードに付いている規格「大」があるか否かを規格記憶部514によって調べる(ステップ63)。
【0054】キーワード・規格解析部512は,代表作業用キーワードと規格「大」とを代表作業用キーワード管理部519に送る(ステップ 64)。前記代表作業用キーワード管理部519は,データ管理部52 0に代表作業用キーワードと規格「大」がデータ管理部520にあるか 否かを検索する(ステップ65)。データ管理部520は,出力部52 1に前記検索されたデータを出力するように命じる(ステップ66)。
【0055】キーワード・規格解析部512は,ステップ62において, 代表作業用キーワードでないと判断した場合,種別作業用キーワードで あるか否かをキーワード記憶部513によって調べる(ステップ67)。
次のステップ68からステップ70までは,種別作業用である点が異な るだけで同じ処理を行う。また,ステップ67において,種別作業用キ ーワードでない場合,工種作業用キーワード,工事区分キーワード,あ るいは事業区分キーワードであるか否かを順次調べる(以降のステップ は図示されていない)。
【0056】ステップ63において,キーワード・規格解析部512は, 入力されたキーワードに規格「大」が付いていないと判断した場合,規 格が「中」であるか否かを規格記憶部514によって調べる(ステップ 71)。キーワード・規格解析部512は,代表作業用キーワードと規 格「中」とを代表作業用キーワード管理部519に送る(ステップ72)。
前記代表作業用キーワード管理部519は,データ管理部520に代表 作業用キーワードと規格「中」がデータ管理部520にあるか否かを検 索する(ステップ73)。データ管理部520は,出力部521に前記 データを出力するように命じる(ステップ74)。
【0057】キーワード・規格解析部512は,ステップ71において, 規格が「中」でないと判断した場合,規格が「小」であるか否かを規格 記憶部514によって調べる(ステップ75)。次のステップ76から ステップ77までは,規格「中」の処理と同じである。
(カ) 【0068】以上,本発明の実施例を詳述したが,本発明は,前記 実施例に限定されるものではない。そして,本発明は,特許請求の範囲 に記載された事項を逸脱することがなければ,種々の設計変更を行うこ とが可能である。本発明の実施例は,説明を判り易くするために,正確 な記載でない所があるだけでなく,一例を挙げたに過ぎない。また,本 実施例のブロック構成図は,詳細に内部を説明していないが,公知また は周知の技術によって達成されるものである。
【0069】本実施例は,事業区分から種別までがツリー構造になって いるものについて,ツリー構造の上位からも検索できると共に,「何を (目的物)どうする(作業内容)」をキーワードとして,直接検索がで きるという説明をしたが,必ずしも,ツリー構造に情報を蓄積して置く 必要がない。特に,建築工事と土木工事との体系は,異なっており,発 注者の積算体系と受注者の積算や予算管理体系が異なっている。したが って,本発明は,「何を(目的物)どうする(作業内容)」をキーワー ドとする場合と,従来の検索方法を同時に使用できるようにしておくこ ともできる。
【0070】フローチャートに記載された技術は,当業者であれば,プ ログラムを組むことができる程度のものである。さらに,本実施例のブ ロック構成図およびフローチャートは,単なる一例を挙げたに過ぎず, 他の方法および手段によっても達成できる。本発明の実施例は,工事の 区分を事業区分,工事区分,工種区分,種別作業,代表作業等に分けて 説明したが,必ずしも,このような言葉の区分に分ける必要がない。し たがって,本発明は,工事区分等の言葉を代えて分けられた作業に対し て権利が及ぶものである。
(キ) 【発明の効果】 【0073】本発明によれば,「何を(目的物)どうする(作業内容)」 から構成される代表作業用キーワードを用いて,実際に使用される作業 の原価管理情報,安全管理情報,品質管理情報,工程管理情報,ミス・ ロス・改善管理情報,その他(施工技術情報)等を検索することができ る。また,前記何を(目的物)どうする(作業内容)から構成される代 表作業用キーワードに係る情報は,事業区分や工事区分が異なっていて も共通するため,情報処理装置に蓄積する情報量が少なくて済む。「何 を(目的物)どうする(作業内容)」から構成される代表作業用キーワ ードは,目的物と作業内容が入っているため,数が多くなっても容易に 覚えることができる。
【0074】本発明によれば,「何を(目的物)どうする(作業内容)」 から構成される代表作業用キーワードを用いることによって,ツリー状 のデータの上位から検索する必要がなく,情報の検索を迅速に得ること ができる。また,本発明によれば,情報がツリー状に構築されているの で,必要に応じて,情報を上位概念のものから順次検索することも可能 になっている。
(3) 乙5記載の発明等について ア 前記(2)の乙5の記載事項(図面を含む。以下同じ。)によれば,乙5に は,次のとおりの情報管理装置(以下「乙5発明」又は「乙5装置」とい う。)が記載されていることが認められる。
「大事業区分から細別区分へと順次ツリー構造として構築されている情報 がデータ管理部に格納されている建設工事の情報管理装置において, キーワード,規格を入力する入力部と,前記入力部において入力された キーワードおよび規格等を解析するキーワード・規格解析部と, 解析されたキーワードによって事業区分に関する情報を検索する事業区 分作業用キーワード管理部と,解析されたキーワードによって工事区分に 関する情報を検索する工事区分作業用キーワード管理部と, 解析されたキーワードによって工種に関する情報を検索する工種作業用 キーワード管理部と,解析されたキーワードによって種別に関する情報を 検索する種別作業用キーワード管理部と,解析されたキーワードによって 代表作業に関する情報を検索する代表作業用キーワード管理部と,前記各 キーワード管理部によって検索される情報が格納されているデータ管理部 と,前記各キーワード管理部によって検索される情報を出力させる出力部 と,から構成され, 入力されたキーワードが代表作業用キーワード(例えば,「細別」)と 規格である場合には,前記代表作業用キーワード管理部は,原価管理情報, 安全管理情報,品質管理情報,工程管理情報,ミス・ロス・改善管理情報, およびその他の施工技術情報等からなる管理情報をデータ管理部から検索 するものであり, 前記原価管理情報は,例えば,「ポンプ車 1 作業員 10 コンク リート 500」(「代表作業用キーワード(細別)」が「コンクリート 打設」で「規格」が「大」の場合),「1輪車 1 作業員 5 コンク リート 3」(「代表作業用キーワード(細別)」が「コンクリート打設」 で「規格」が「小」の場合)等の情報が含まれ, 前記安全管理情報は,工事に係る安全情報で,事故歴等を入力しておく と,同じ工事を次に行う場合に参考になる情報であり,例えば,「ポンプ 車等車の出入りと通行人を誘導する管理人 1」(「代表作業用キーワー ド(細別)」が「コンクリート打設」で「規格」が「大」の場合)や「1 輪車運転中,障害物によるバランスに注意」(「代表作業用キーワード(細 別)」が「コンクリート打設」で「規格」が「小」の場合)等の情報であ る, 建設工事における情報管理装置。」イ 前記(2)の乙5の記載事項によれば,乙5には,乙5発明(乙5装置)に 関し,次のような開示があることが認められる。
(ア) 従来,建設会社では,事業区分ごとに「部」又は「事業部」が設け られ,それぞれの組織において工事区分,工種,種別,細別,規格等の 情報をツリー状に構築して管理されていたため,同じ作業内容に関する 情報であっても事業区分ごとに別々に管理され,情報が共有されていな かったが,建設会社が今後,市場で競争に勝ち残るためには,他社より 優れた工事を行い,利益を少しでも多くあげることが必要であり,その ためには,社内において,異なる部門の情報であっても,できるだけ同 じ情報を共有して,全体の情報を少なくするとともに有効に活用できる ように蓄積する必要がある(段落【0003】ないし【0007】)。
(イ) 乙5発明は,どのような事業区分で仕事をしている者であっても, 所望の建設工事に係る情報を簡単及び迅速に,かつ有効利用ができる建 設工事における情報管理装置を提供することを目的とし(段落【001 1】),建設会社の社内において大事業区分から細別区分へと順次ツリ ー構造として構築されている情報について,代表作業用キーワードを用 いて作業の原価管理情報,安全管理情報,品質管理情報,工程管理情報, ミス・ロス・改善管理情報,及びその他の施工技術情報等を検索するこ とができる構成としたものである(段落【0030】,【0036】な いし【0041】,【0053】,【0073】)。
(4) 本件発明1と乙5発明との対比 ア 構成要件2-A及び2-Fについて (ア) 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明1の「労 働安全衛生マネージメントシステム」の語を特に規定する記載はない。
次に,本件明細書(甲2)には,「労働安全衛生マネージメントシス テム」が建設関連の会社を対象とするものであることの記載はあるが(段 落【0005】),「労働安全衛生マネージメントシステム」の語を定 義した記載はない。もっとも,本件明細書には,労働安全衛生の国際的 な規格である「OHSAS18001」に準拠(登録審査及び維持審査 に合格)した危険源評価書(表)を出力する労働安全衛生マネージメン トシステムを提供することを目的とする旨の記載はあるが(前記(1)ウ (ア)(イ)) 本件発明1の , 「労働安全衛生マネージメントシステム」が, 「OHSAS18001」に準拠したものに限定される旨の記載はない。
以上によれば,「労働安全衛生」に関する情報を管理する装置であれ ば,本件発明1の「労働安全衛生マネージメントシステム」(構成要件 2-A及び2-F)に該当するものと解される。
(イ) 乙5の段落【0024】の「安全管理情報は,工事にかかる安全情 報で,事故暦等を入力しておくと,同じ工事を次に行う場合に参考にな る。」との記載によれば,乙5記載の「安全管理情報」は,同じ工事を 次に行う場合に参考になる「工事にかかる安全情報」であるから,「労 働安全衛生」に関する情報であるといえる。
そして,前記(3)アのとおり,乙5発明は,「安全管理情報」を管理の 対象とする情報管理装置であるから,本件発明1の「労働安全衛生マネ ージメントシステム」(構成要件2-A及び2-F)に該当するものと 認められる。
(ウ) これに対し控訴人は,乙5には,「所望の管理情報を出力する建設 工事の情報管理装置」が記載されているが,出力される情報に各種多様 なものがあり,その各種多様なものの中の一部に「安全管理情報」を含 むにすぎず,「安全管理情報」だけが得られるものではないから,乙5 記載の情報管理装置は,「労働安全衛生マネージメントシステム」(構 成要件2-A)の構成を備えていない点で相違する旨(前記第3の4(2) イ(ア),(イ)の「相違点A」)主張する。
しかしながら,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明 細書には,本件発明1の「労働安全衛生マネージメントシステム」を構 成する装置から「労働安全衛生」に関する情報以外の情報を併せて管理 するものを除く旨の記載はないから,乙5発明が,「労働安全衛生」に 関する「安全管理情報」以外の情報を管理するものであっても,本件発 明1の「労働安全衛生マネージメントシステム」に該当することを否定 することはできず,控訴人の上記主張は採用することができない。
構成要件2-Bについて(ア) 「歩掛マスターテーブル」について a 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の文言によれば,本件発 明1の「歩掛マスターテーブル」は,「複数の工事名称,および,前 記複数の工事名称の各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む」も のであるが,同請求項1には,「工事名称」又は「工事名称の各々に それぞれ関連付けられた各要素」を規定した記載はない b 次に,本件明細書には,「歩掛マスターテーブル」の語を定義した 記載はない。一方で,本件明細書には,「本発明は,…より詳細には, 既に存在し,定量化されている建設工事積算システムにおける歩掛デ ータや積算データを効率的に利用して,…労働安全衛生マネージメン トシステムを提供することを目的とする。」(段落【0005】), 「従来の建設業界では,いわゆる歩掛を用いた積算方式(積み上げ) を使って歩掛積算テーブルを構築し,或いは標準的な積算テーブルを 用いて,これに適合した工事単位を工事名称として使用し,単価計算 や入札などを行ってきていた。」(段落【0006】)との記載があ る。
上記記載によれば,「歩掛マスターテーブル」には,本件特許の優 先日当時,建設業界で既に存在していた建設工事積算システムにおい て構築されていた歩掛を用いた積算方式(積み上げ)を使った歩掛積 算テーブルあるいは標準的な積算テーブルが含まれるものと解される。
また,本件明細書には,「複数の工事名称,および,前記複数の工 事名称の各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩掛マスターテ ーブル」にいう「工事名称」又は「要素」の語について定義した記載 はない。もっとも,本件明細書には,「要素」の語に関し,「1つの 工事であっても様々な多数の要素(作業工程) (段落 」 【0004】 , ) 「複数の工事の各々に含まれる各要素(工程) (段落 」 【0007】 , ) 「対象工事に含まれる各要素(工程))」(段落【0009】),「工 事に含まれる詳細な工程(要素)」(段落【0014】),「目的工 事に含まれる個々の要素(工程),例えば,建設資材や燃料などの単 価や数量など」(段落【0023】),「この工事に含まれる各要素 (作業工程)」(段落【0041】)など,「要素」の後に括弧書き で「工程」又は「作業工程」を付加した記載があるが,本件明細書に は,「要素」が「工程」又は「作業工程」と同義であることを明示し た記載はないこと,「建設資材や燃料など」が「要素」に含まれるこ との記載もあること(上記段落【0023】)に照らすと,「要素」 は,「工程」又は「作業工程」に限定されるものではないと解される。
c 証拠(甲9,乙6,10ないし13)によれば,@公共事業執行の 各プロセスに密接に関連している契約・積算に関しては,工事内容の 細分化方法を工種の分類毎に標準的に設定した「工事工種体系」が構 築され,工事工種体系は,「工事区分」(レベル1),「工種」(レ ベル2),「種別」(レベル3),「細別」(レベル4),「規格」 (レベル5)等からなる「体系ツリー図」で構成されていること,A 建築工事積算システムを用いた請負工事費の積算は,体系ツリー図の 中から必要な工種を選択することにより決定され,取引項目(細別) ごとに必要な積算項目を示した「新土木工事積算大系工事工種歩掛対 応表」(別冊)から施工歩掛を選択し,選択した施工歩掛に対して「工 事歩掛要覧」を用いて単価を算出することによって行われること,B 「歩掛」とは,単価計算を行う最小限の構成であり,その内容は,各 種の工法において標準的に用いられる機械,労働力,材料等の組合せ, 当該組合せによる標準的な生産能力,当該工法の標準的な適用範囲や 各項目の単価等を定めたものであることは,本件特許の優先日当時, 技術常識であったことが認められる。
d 前記aないしcによれば,本件発明1の「複数の工事名称,および, 前記複数の工事名称の各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩 掛マスターテーブル」(構成要件2-B)にいう「工事名称」とは, 本件特許の優先日当時,既に存在していた建設工事積算システムで使 用されていた工事工種体系の「体系ツリー図」における「工事区分」, 「工種」,「種別」,「細別」等の具体的な名称のいずれかをいい, また,本件発明1の「工事名称の各々にそれぞれ関連付けられた各要 素」とは,体系ツリー図上,当該「工事名称」に紐付けられたもので あれば,「関連付けられた」ものといえるから,当該「工事名称」に 紐付けられた「工種」,「種別」,「細別」,「規格」等の各項目及 びそれらの項目に紐付けられた作業工程,作業内容,標準単価等を含 むものと解される。
したがって,本件発明1の「工事名称の各々にそれぞれ関連付けら れた各要素」にいう「要素」は,当該「工事名称」に紐付けられたも のであれば,当該「工事名称」からみて体系ツリー図の「一つ下位の 項目」のものに限らず,その下位のものや,更にその下位のもの等も 含むものと解される。
e 乙5発明の「データ管理部」に格納されている「大事業区分から細 別区分へと順次ツリー構造として構築されている情報」 図10 は, (別 紙乙5図面参照)記載のツリー図を前提とするものである。図10の ツリー図には,「事業区分」,「工事区分」,「工種」,「種別」,「細別」及び「工事の規格」の各項目が体系的に分類され,各項目ごとに具体的な名称が例示されているが,上記各項目の分類は,本件特許の優先日当時,建設工事積算システムで使用されていた工事工種体系の「体系ツリー図」と同種のものといえるから,図10の上記各項目に例示された具体的な名称は,構成要件2-Bの「工事名称」に該当するものと認められる。
また,図10に示された「工事区分」に関する情報(例えば,「築堤・護岸」)は,その上位の項目の「事業区分」に関する情報(例えば,「河川」)に紐付けられているから,「事業区分」に関する情報を「工事名称」とみた場合には,「工事区分」に関する情報は当該「工事名称」に関連付けられた「要素」(構成要件2-B)に該当し,同様に,「工種」に関する情報,「種別」に関する情報,「細別」に関する情報及び「規格」に関する情報は,それぞれその上位にある「工事区分」に関する情報,「工種」に関する情報,「種別」に関する情報及び「細別」に関する情報を「工事名称」とみた場合,当該「工事名称」に関連付けられた「要素」(構成要件2-B)に該当するものと認められる。
そして,乙5の記載事項(段落【0039】,【0042】,【0043】,【0046】,図2)によれば,「代表作業用キーワード(細別)」及び各「規格」によって検索された「原価管理情報」に記載されているポンプ車の台数,作業員の数及びコンクリートの量に基づき,具体的な原価の額(段落【0043】)を算出し,それらの金額,物(人件費も含む)及び日数等を考慮して積算することによって見積書あるいは予算書を作成できること(段落【0046】)からすると,乙5装置の「データ管理部」には,上記ポンプ車の台数,作業 員の数及びコンクリートの量等に対応する「歩掛」に係る情報が格納 されているものと認められる。
そうすると,乙5発明の「データ管理部」に格納されている「大事 業区分から細別区分へと順次ツリー構造として構築されている情報」 及び「歩掛」に係る情報は,本件発明1の「複数の工事名称,および, 前記複数の工事名称の各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩 掛マスターテーブル」(構成要件2-B)に該当するものと認められ る。
(イ) 「危険源評価マスターテーブル」について a 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の文言によれば,本件発 明1の「危険源評価マスターテーブル」は,「前記要素に関連付けら れた危険有害要因および事故型分類を含む危険情報が規定されている」 ものであるが,同請求項1には,「事故型分類」に係る「分類」の方 式や態様を規定した記載はない。
次に,本件明細書には,「事故型分類」の語を定義した記載はない。
一方で,本件明細書には,「事故型分類」に関し,「事故型分類デー タ(これは,各危険有害要因に対応する個別リスクに相当する)」(段 落【0007】),「有害要因(通路,岩石など)およびそれに関連 付けられた事故型分類(つまずき,切れなど)」(段落【0040】, 図9),「「その他:切れ,こすれ」及び「通路:つまずき」という 有害要因(起因物)及びその事故型分類」(段落【0041】,図1 0)との記載がある。上記記載によれば,「事故型分類」とは,「危 険有害要因」に対応して発生し得る事故の内容を意味するものと解さ れる。
b 乙5発明の「データ管理部」に格納されている「安全管理情報」は, 「工事にかかる安全情報で,事故歴等を入力しておくと,同じ工事を 次に行う場合に参考になる」情報であり(乙5の段落【0024】),例えば,「代表作業用キーワード(細別)」が「コンクリート打設」で「規格」が「大」の場合は,「ポンプ車等車の出入りと通行人を誘導する管理人 1」であり,「代表作業用キーワード(細別)」が「コンクリート打設」で「規格」が「小」の場合は,「1輪車運転中,障害物によるバランスに注意」である(乙5の段落【0041】,【0044】,図2及び3)。
しかるところ,上記「安全管理情報」の「ポンプ車等車の出入りと通行人を誘導する管理人 1」とは,「大規模コンクリート打設」には,「ポンプ車,コンクリートミキサー車,砂利運搬車の出入り等に関する安全を確保するために交通整理を行う管理人が必要になる。」(乙5の段落【0044】)というものであり,「ポンプ車等車の出入り」という「危険有害要因」に対応して発生し得る交通事故(「事故型分類」)に対する予防策として交通整理を行う管理人が必要であることを示したものといえるから,上記「安全管理情報」は,本件発明1の「危険有害要因および事故型分類を含む危険情報」に該当することが認められる。
また,上記「安全管理情報」の「1輪車運転中,障害物によるバランスに注意」とは,「障害物」という「危険有害要因」に対応して「1輪車運転中に障害物によってバランスを崩すことによる事故」(「事故型分類」)が発生し得ることを示したものといえるから,上記「安全管理情報」も,本件発明1の「危険有害要因および事故型分類を含む危険情報」に該当することが認められる。
そして,乙5発明の「データ管理部」に格納されている「原価管理情報」 「安全管理情報」 乙5の図1ないし図3に示すように, 及び は,いずれも「代表作業用キーワード(細別)」(「コンクリート打設」) 及びその各「規格」(「大」,「中」,「小」)ごとに関連付けられ て格納されていることが認められ, 「安全管理情報」の格納の態様は, 「工事名称」(「代表作業用キーワード(細別)」)に関連付けられ た「要素」(「規格」)に関連付けられたものといえるから,乙5発 明の「データ管理部」には,「前記要素に関連付けられた危険有害要 因および事故型分類を含む危険情報が規定されている危険源評価マ スターテーブル」(構成要件2-B)が格納されているものと認めら れる。
c これに対し控訴人は,乙5が開示するのは,規格に含まれる「安全 管理情報」にすぎず,これは,漠然としたリスク情報であって,「危 険有害要因および事故型分類」が特定されたものではないから,乙5 には,「危険有害要因および事故型分類」の開示はなく,危険源評価 マスターテーブル」(構成要件2-B)の開示もない旨(前記第3の 4(2)イ(イ)の「相違点B」,(ウ)b)主張する。
しかしながら,前記bのとおり,乙5記載の「安全管理情報」は, 本件発明1の「危険有害要因および事故型分類を含む危険情報」に該 当するから,控訴人の上記主張は,その前提において採用することが できない。
構成要件2-Cについて(ア) 乙5発明の「入力部」は,「代表作業用キーワード(細別)」等の 「工事名称」を入力するものであり,「工事名称」を入力することは「評 価対象工事」の情報を入力することにほかならない。
そうすると,乙5発明の「入力部」は,本件発明1の「少なくとも工 事名称を含む評価対象工事の情報を入力する入力手段」に該当すること が認められる。
(イ) これに対し控訴人は,乙5記載の「代表作業用キーワード」は,「何 を(目的物)どうする(作業内容)」から構成されるキーワード(段落 【0074】等)であって,「コンクリート打設」のように「目的物」 が「コンクリート」,「作業内容」が「打設」というように「工事名称」 とみなせるものもあるが,一般的に積算工事体系の工事の名称には材料 や目的物のみ規定したものや,作業内容のみを規定したものもあるから, 必ずしも「代表作業用キーワード」が「評価対象工事の工事名称」に相 当するものとはいえない旨(前記第3の4(2)イ(ア)c)主張する。
しかしながら,前記イ(ア)dのとおり,本件発明1の「工事名称」と は,本件特許の優先日当時,既に存在していた建設工事積算システムで 使用されていた工事工種体系の「体系ツリー図」における「工事区分」, 「工種」,「種別」,「細別」等の具体的な名称のいずれかをいうもの と解されるところ,乙5記載の「代表作業用キーワード」は「細別」に 関する情報に該当するから,「評価対象工事の工事名称」に相当するこ とは明らかである。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
構成要件2-Dについて(ア) 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の文言によれば,@本件 発明1の「内訳データ」は,「前記評価対象工事に含まれる各要素を含 む」データであり,「前記記憶手段に格納されている前記歩掛マスター テーブル」を参照して,「前記入力された評価対象工事の情報に含まれ る工事名称」に基づき,「内訳データ生成手段」によって生成されるも のであること,A本件発明1は,「内訳データに含まれる各要素」に基 づいて,「当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類」を抽 出することを理解することができる。
一方で,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「内訳デー タ」の形式や態様を特定する記載はない。
(イ) 前記イ(ア)e認定のとおり,乙5発明の「データ管理部」に格納さ れている「大事業区分から細別区分へと順次ツリー構造として構築され ている情報」及び「歩掛」に係る情報は,本件発明1の「複数の工事名 称,および,前記複数の工事名称の各々にそれぞれ関連付けられた各要 素を含む歩掛マスターテーブル」(構成要件2-B)に該当する。
また,前記イ(イ)b認定のとおり,乙5発明の「データ管理部」に格 納されている「原価管理情報」及び「安全管理情報」は,いずれも「代 表作業用キーワード(細別)」(「コンクリート打設」)及びその各「規 格」(「大」,「中」,「小」)ごとに関連付けられて格納されている ことが認められ,「安全管理情報」の格納の態様は,「工事名称」(「代 表作業用キーワード(細別)」)に関連付けられた「要素」(「規格」) に関連付けられたものであり,「安全管理情報」は,本件発明1の「危 険有害要因および事故型分類を含む危険情報」に該当するから,乙5発 明の「データ管理部」には,「前記要素に関連付けられた危険有害要因 および事故型分類を含む危険情報が規定されている危険源評価マスター テーブル」が格納されている。そして,乙5発明では,入力された評価 対象工事の情報に含まれる要素である「規格」に基づき,危険源評価マ スターテーブルを参照し,「当該要素に関連する危険有害要因及び事故 型分類を抽出」しているものと認められる。
しかるところ,乙5の段落【0053】には,「図6は本発明の一実 施例で,キーワードと規格を入力することにより所望のデータが出力さ れるためのフローチャートが示されている。図7は図6のフローチャー トに続くものであり,(a)-(a),および(b)-(b)(図示さ れていない)で接続されている。図6において,図5の入力部511に よって,たとえば,代表作業用キーワードおよび必要により規格等が入 力される(ステップ61)。キーワード・規格解析部512は,入力さ れたキーワードが代表作業用キーワードであるか否かをキーワード記憶部513を基にして調べる(ステップ62)。前記キーワード・規格解析部512は,次に,入力されたキーワードに付いている規格「大」があるか否かを規格記憶部514によって調べる(ステップ63)。」との記載がある。上記記載中の「たとえば,代表作業用キーワードおよび必要により規格等が入力される」との記載によれば,「規格等」は,必要により入力されるものであるから,乙5において,「所望のデータ」が出力されるために, 「代表作業用キーワード」の入力は必須であるが,「規格」の入力は必須とはされていないことを理解することができる。
一方で,乙5発明の「データ管理部」に格納されている「安全管理情報」は,「代表作業用キーワード(細別)」(「工事名称」)に関連付けられた「規格」(「要素」)に関連付けられて格納されているから,「所望のデータ」として具体的な「安全管理情報」を出力するためには,「規格」が特定されなければならない。
そうすると,乙5において,「代表作業用キーワード」のみを入力して,「安全管理情報」を出力する場合には,「代表作業用キーワード」に基づいて,当該「代表作業用キーワード」に関連付けられた「規格」の情報が読み出され,当該情報に基づいて「安全管理情報」が出力されていることを理解することができる。
そして,上記「規格」の情報は,前記イ(ア)eのとおり,乙5発明の「歩掛マスターテーブル」に格納されているものであって,「前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工事名称」である「代表作業用キーワード」に基づいて,乙5発明の「歩掛マスターテーブル」から読み出された,「前記評価対象工事に含まれる要素」である「規格」に係るデータであるから,本件発明1の「内訳データ」に該当し,また,乙5発明には,上記情報を読み出す手段としての「内訳データ生成手段」が 存在するものと認められる。
以上によれば,乙5には,乙5発明が,構成要件2-Dの「演算手段 を使用して,前記記憶手段に格納されている前記歩掛マスターテーブル を参照して,前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工事名称に 基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素を含む内訳データを生成す る内訳データ生成手段」の構成を備えていることが実質的に開示されて いるものと認められる。
構成要件2-Eについて 前記エ(イ)によれば,乙5発明では,「内訳データ」に含まれる「要素」である「規格」に基づき,「危険源評価マスターテーブル」を参照し,「当該要素に関連する危険有害要因及び事故型分類を抽出」(安全管理情報)しているものと認められる。
他方で,乙5には,乙5発明が,「演算手段を使用して,前記危険源評価マスターテーブルを参照して,前記内訳データ生成手段により生成された内訳データに含まれる各要素に基づき,当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出し,該抽出した危険有害要因および事故型分類を含む危険源評価データを生成」する「危険源評価データ生成手段」(構成要件2-E)の構成を備えていることについての記載はない。
カ 一致点及び相違点 前記アないしオによれば,本件発明1と乙5発明には,次のとおりの一致点及び相違点があることが認められる。
(一致点)「労働安全衛生マネージメントシステムであって, 複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩掛マスターテーブルと,前記要素に関連付けられた危険有害要因および事故型分類を含む危険情報が規定されている危険源 評価マスターテーブルとが格納されている記憶手段と, 少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を入力する入力手段と, 演算手段を使用して,前記記憶手段に格納されている前記歩掛マスター テーブルを参照して,前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工事 名称に基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素を含む内訳データを生 成する内訳データ生成手段と を含むことを特徴とする労働安全衛生マネージメントシステム。」であ る点。
(相違点) 本件発明1では,「演算手段を使用して,前記危険源評価マスターテー ブルを参照して,前記内訳データ生成手段により生成された内訳データに 含まれる各要素に基づき,当該各要素に関連する危険有害要因および事故 型分類を抽出し,該抽出した危険有害要因および事故型分類を含む危険源 評価データを生成する危険源評価データ生成手段」(構成要件2-E)の 構成を備えているのに対し,乙5発明では,上記構成を備えていない点。
(5) 本件発明1の容易想到性について ア 相違点の容易想到性について 相違点に係る本件発明1の構成は,「危険源評価データ生成手段」 「前 が 記演算手段を使用して,前記危険源評価マスターテーブルを参照して,前 記内訳データ生成手段により生成された内訳データに含まれる各要素に基 づき,当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出し,該 抽出した危険有害要因および事故型分類を含む危険源評価データを生成す る」(構成要件2-E)というものである。
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載には,「危険源評価デ ータ」が抽出した危険有害要因及び事故型分類を含むことのみが特定され ており,その形式や態様等が特定されているわけではないから,「危険源 評価データ」は,抽出した危険有害要因及び事故型分類を含むものであり さえすれば足りるものと解される。
他方,乙5発明において,「内訳データ」に含まれる「要素」である「規 格」に基づき,「危険源評価マスターテーブル」を参照し,「当該要素に 関連する危険有害要因及び事故型分類」(「安全管理情報」)を抽出して いることは,前記(4)オ認定のとおりである。
そして,乙5発明において,上記抽出した「安全管理情報」を利用する ためにこれをデータとして出力し,「危険有害要因及び事故型分類を含む 危険源評価データ」を「生成」するように構成することは,当業者であれ ば格別の困難なく行うことができたことが認められる。
したがって,乙5に接した当業者であれば,相違点に係る本件発明の構 成(構成要件2-Eの構成)を容易に想到することができたものと認めら れる。
イ 小括 以上によれば,本件発明1は,当業者が乙5に記載された発明に基づい て容易に想到することができたものと認められる。
(6) 本件発明16の容易想到性について ア 本件発明16は,「労働安全衛生マネージメント方法」に関する発明で あるところ,本件発明1の「労働安全衛生マネージメントシステム」で行 われる情報処理を処理ステップとして特定し,方法の発明としたものであ るから,両者は,発明のカテゴリーが相違するのみであって,実質的な相 違はない。
また,前記(2)の乙5の記載事項に照らすと,乙5にも,同様に,乙5装 置で行われる情報処理を処理ステップとして特定し,方法の発明とした発 明が記載されているものということができ,これと乙5装置との間には実 質的な相違はない。
そうすると,本件発明16と乙5に記載された方法の発明との間には, 本件発明1と乙5発明(乙5装置)と同様の一致点及び相違点(前記(4) カ)が存在するものと認められる。
イ 本件発明16が,本件発明1の「労働安全衛生マネージメントシステム」 で行われる情報処理を処理ステップとして特定し,「方法」の発明とした ものである以上,前記(5)と同様の理由により,相違点に係る本件発明16 の構成を容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件発明16は,当業者が乙5に記載された発明に基づい て容易に想到することができたものと認められる。
(7) 本件発明18の容易想到性について ア 本件発明18は,「労働安全衛生リスクマネージメントプログラム」に 関する発明であるところ,本件発明1の「労働安全衛生マネージメントシ ステム」で行われる情報処理を処理ステップとして特定し,プログラムの 発明としたものであるから,両者は,発明のカテゴリーが相違するのみで あって,実質的な相違はない。
また,前記(2)の乙5の記載事項に照らすと,乙5にも,同様に,乙5装 置で行われる情報処理を処理ステップとして特定し,プログラムの発明と した発明が記載されているものということができ,これと乙5装置との間 には実質的な相違はない。
そうすると,本件発明18と乙5に記載されたプログラムの発明との間 には,本件発明1と乙5発明(乙5装置)と同様の一致点及び相違点(前 記(4)カ)が存在するものと認められる。
イ 本件発明18が,本件発明1の「労働安全衛生マネージメントシステム」 で行われる情報処理を処理ステップとして特定し,「プログラム」の発明 としたものである以上,前記(5)と同様の理由により,相違点に係る本件発 明18の構成を容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件発明18は,当業者が乙5に記載された発明に基づい て容易に想到することができたものと認められる。
(8) まとめ 以上のとおり,本件発明は,当業者が乙5に記載された発明に基づいて容 易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠くものであり,本 件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法1 23条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認め られるから,同法104条の3第1項の規定により,控訴人は,被控訴人ら に対し,本件発明に係る本件特許権を行使することはできない。
2 結論 以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理由がない。
よって,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は結論において相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)被告製品目録11商品名「積算システムメビウスZERO」(被告製品1)2被告製品1の説明被告製品1は,別紙被告製品目録2ないし4記載の被告製品2(統合システム),被告製品3(土木積算システム)及び被告製品4(安全管理システム)の各ソフトを必須の一部とする土木積算及び安全管理マネージメントためのパーソナルコンピュータ用パッケージソフトである。
(別紙)被告製品目録21商品名「積算システムメビウスZERO統合システム」(被告製品2)2被告製品2の説明被告製品2は,「積算システムメビウスZERO」の各機能(積算機能,安全管理マネージメント機能など)を制御するソフトである。
(別紙)被告製品目録31商品名「積算システムメビウスZERO土木積算システム」(被告製品3)2被告製品3の説明被告製品3は,「積算システムメビウスZERO」の積算ソフト機能を発ソフトである。
(別紙)被告製品目録41商品名「積算システムメビウスZERO安全管理システム」(被告製品4)2被告製品4の説明被告製品4は,「積算システムメビウスZERO」の安全管理マネージメント機能を発揮するソフトである。
(別紙)謝罪広告目録当社ら,吉備システム株式会社及びケイ・エス・エス株式会社は,当社らの販売するソフト「積算システムメビウスZERO」が,株式会社コンピュータ・システム研究所様の特許権を侵害することを知りながら,今まで販売しておりました。
その結果,当社らの販売するソフト「積算システムメビウスZERO」が市場でシェアを伸ばし,ユーザー各位を混乱させ,株式会社コンピュータ・システム研究所様に多大なご迷惑をおかけしました。
ここに,当社の販売するソフト「積算システムメビウスZERO」が株式会社コンピュータ・システム研究所様の特許権を侵害することを明言するとともに,速やかに販売を中止し,ご迷惑をおかけした株式会社コンピュータ・システム研究所様に心よりお詫び申し上げます。
(別紙)謝罪広告掲載条件1使用する活字(1)「株式会社コンピュータ・システム研究所様に対する謝罪文」という見出10.5ポイントのゴシック体(2)本文10.5ポイントの明朝体2掲載場所記事下広告部とする。
3謝罪広告を掲載する新聞は以下のとおりとする。
(1)朝日新聞全国版(2)読売新聞全国版(3)毎日新聞全国版 (別紙)明細書図面【図1】【図2】 【図3】【図4】 【図5】【図6】 【図7】【図8】 【図9】【図10】【図12】 【表1】【表2】 (別紙)乙5図面【図1】【図2】 【図3】【図4】 【図5】【図6】 【図7】【図10】 【図11】
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 神谷厚毅