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事件 平成 26年 (行ケ) 10254号 審決取消請求事件

原告 株式会社ベルグリーンワイズ
同訴訟代理人弁護士 藏冨恒彦
同 石井雄介
同訴訟代理人弁理士 井上敬也
被告 住友ベークライト株式会社
同訴訟代理人弁護士 田中成志
同 山田徹
同 杉本賢太
同訴訟代理人弁理士 速水進治
同 鶴崎宗雄
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/11/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2014-800033号事件について平成26年10月16日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成18年1月16日,発明の名称を「青果物用包装袋及び青果物包装体」とする発明について特許出願(特願2006-7100号)をし,平成23年7月15日,設定の登録(特許第4779658号)を受けた(請求項の数3。
以下,この特許を「本件特許」という。甲54の2)。
被告は,平成24年9月13日,本件特許につき訂正審判を請求し(訂正2012-390119号),同年10月29日,訂正を認める旨の審決が確定し(請求項の数3。甲54の3),さらに,被告は,平成25年4月26日,本件特許につき訂正審判を請求し(訂正2013-390063号),同年7月12日,訂正を認める旨の審決が確定した(請求項の数3。甲54の4)。
(2) 原告は,平成26年3月3日,本件特許の請求項1ないし3に係る発明について特許無効審判を請求し,無効2014-800033号事件として係属した。
(3) 特許庁は,平成26年10月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月24日,原告に送達された。
(4) 原告は,平成26年11月21日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は,次のとおりである。以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」ないし「本件発明3」といい,本件発明1ないし3を併せて「本件各発明」という。また,訂正明細書(甲54の4)を,図面を含めて「本件明細書」という。
【請求項1】フィルムを含む包装袋であり,前記包装袋に1個以上の切れ込みがあり,切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり,Tが0.01mm以上0.1mm以下であり,青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下で あることを特徴とする青果物用包装袋。
【請求項2】切れ込み1個あたりの長さが0.1mm以上12mm以下である請求項1に記載の青果物用包装袋。
【請求項3】請求項1から2のいずれかに記載の青果物用包装袋を用いて包装されたことを特徴とする青果物包装体。
3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件発明1は,明確であって,その特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件(以下「明確性要件」ということがある。)を満たしており,A本件発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであり,その特許請求の範囲の記載は,同条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」ということがある。)を満たしており,B本件発明1及び2は,その発明の詳細な説明の記載が,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり,同条4項1号に規定する要件(以下「実施可能要件」ということがある。)を満たしており,C本件各発明は,@)下記アの引用例1に記載された発明でも,A)下記イの引用例2に記載された発明でもないから,同法29条1項3号の規定に違反して特許されたものではなく,D本件各発明は,@)下記アの引用例1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,A)下記イの引用例2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,同条2項の規定に違反して特許されたものではない,というものである。
ア 引用例1:特開2004-284654号公報(甲1)イ 引用例2:特開2005-112428号公報(甲2)(2) 本件発明1の構成要件の分説本件審決は,本件発明1(請求項1)の構成要件を,以下のとおり分説した。
A フィルムを含む包装袋であり,B 前記包装袋に1個以上の切れ込みがあり, C 切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり, D Tが0.01mm以上0.1mm以下であり, E 青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である F ことを特徴とする青果物用包装袋。
(3) 本件発明1と引用例1との対比 ア 引用例1に記載された発明 本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)は,以下のとおりである。
透湿度が5.2又は18.1g/(m2・24hrs)の延伸ポリプロピレンフィルムを用いた包装袋において,長さが0.5,1.0又は1.5mmであるスリットを少なくとも一つ以上有し,かつ,前記延伸ポリプロピレンフィルムの総面積に対し前記スリットの合計全長が50,100,250,270又は400mm/m 2の比率となるように前記スリットが形成されている包装袋に,水耕栽培されたカイワレ100g又は水耕栽培された豆苗300gを包装した包装袋。
イ 本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点 本件審決が認定した本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
(ア) 一致点 A フィルムを含む包装袋であり, B 前記包装袋に1個以上の切れ込みがある F 青果物用包装袋。
(イ) 相違点 a 相違点1 本件発明1においては,フィルムの厚みT(mm)について,構成要件D「Tが 0.01mm以上0.1mm以下であり」との特定がされているのに対し,引用発明1においては,そのような特定はされていない点。 (以下「相違点1」という。) b 相違点2 本件発明1においては,構成要件C「切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり」との特定がされているのに対し,引用発明1においては,そのような特定はされていない点。
(以下「相違点2」という。) c 相違点3 本件発明1においては,構成要件E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との特定がされているのに対し,引用発明1においては,そのような特定はされていない点。(以下「相違点3」という。) (4) 本件発明1と引用例2との対比 ア 引用例2に記載された発明 本件審決が認定した引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)は,以下のとおりである。
厚み30μmの片面熱シール性二軸延伸防曇ポリプロピレンフィルムに長さ2mmの切れ目を0.02個/cm2の割合で開け,このフィルムを120×190mmの合掌背貼り袋に加工し,これにあらかじめ7cmにカットしたグリーンアスパラガス(約100g)を入れてヒートシールにより密封包装した包装袋。
イ 本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点 本件審決が認定した本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
(ア) 一致点 A フィルムを含む包装袋であり, B 前記包装袋に1個以上の切れ込みがあり, C 切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり,D Tが0.01mm以上0.1mm以下であり,E’青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上であるF 青果物用包装袋。
(イ) 相違点 青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計について,本件発明1においては「0.08mm以上17mm以下」と限定されているのに対し,引用発明2においては,前記長さの合計は,18.24mmである点。 (以下「相違点4」という。)4 取消事由(1) 明確性要件(特許法36条6項2号)に係る判断の誤り(取消事由1)(2) サポート要件(特許法36条6項1号)に係る判断の誤り(取消事由2)(3) 実施可能要件(特許法36条4項1号)に係る判断の誤り(取消事由3)(4) 本件各発明の新規性(特許法29条1項3号)に係る判断の誤りア 引用例1に基づく新規性判断の誤り(取消事由4-1)イ 引用例2に基づく新規性判断の誤り(取消事由4-2)(5) 本件各発明の進歩性(特許法29条2項)に係る判断の誤りア 引用例1に基づく進歩性判断の誤り(取消事由5-1)イ 引用例2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由5-2)
当事者の主張
1 取消事由1(明確性要件(特許法36条6項2号)に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決における判断 本件審決は,@本件発明1において,「青果物100gあたりの切れ込みの長さ」は,袋全体の切れ込み長さの合計と,青果物用包装袋に包装されている青果物の重量又は包装される青果物のあらかじめ設定されている重量に基づいて一義的に定まる数値であると解されるから,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」という事項は,発明特定事項として不明確であるとはいえない,A本件発明1は,青果物自身の呼吸速度と包材のガス透過速度のバランスによって包装内のガス濃度を青果物の保存に適した雰囲気とするという「MA効果」を利用した青果物の包装に係るものであるが,本件明細書には,種々の青果物について本件発明1の効果が確認される実施例が記載されており,一定の効果を奏する本件発明1を理解できる旨判断した。
(2) 包装した青果物の重量及び包装袋の切れ込みの長さの合計は一義的に定まらないこと本件発明1の包装袋は,形状,大きさ,フィルムの材質の限定がなく,厚みも0.01mm以上0.1mm以下の範囲で変動するものであるから,たとえ「青果物用包装袋」との限定があったとしても,包装した青果物の重量及び包装袋の切れ込みの長さの合計は一義的に定まるものではない。
包装袋が空の状態のときには,包装袋に青果物がどの程度まで充填できるのか,その最大値についておおよその検討はつくものの,青果物の販売態様等により実際にどの程度充填されるのかは分からないから,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」の数値範囲は一義的に定まらない。
(3) 本件発明1の特許請求の範囲は,その構成要件を満たしていても,従来技術を下回る鮮度保持効果しか奏さない領域を含んでいることア 青果物は,農林水産省が定める大分類で8種類もあり,呼吸生理作用が大きく異なるものも含まれ,種類によって特性が大きく異なるにもかかわらず,本件明細書では,バナナ,緑豆モヤシ,ブロッコリー,ホウレンソウ,ニンジン及びトマトについての鮮度保持効果が確認されているのみである。その上,ブロッコリーと ホウレンソウを除くほとんどの青果物については,一つのフィルムの厚みT,L/Tについてしか鮮度保持効果が検証されていない。
イ 原告が行った実験結果によれば,少なくともきのこ類については,T,L/Tの数値が本件発明1の特許請求の範囲内であっても,良好な鮮度保持効果は得られなかった(甲22,23)。また,もやし,シイタケ,ブロッコリーの各青果物に関しては,全ての条件下で,T,L/T,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」の数値が,いずれも本件発明1の特許請求の範囲内であっても良好な鮮度保持効果が得られず,鮮度保持効果は従来技術を下回っていた(甲88〜92)。さらに,バナナ及びホウレンソウについては,大半の条件下(5条件中の4条件)で,T,L/T,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」の数値が,いずれも本件発明1の特許請求の範囲内であっても鮮度保持効果が従来技術を下回っており,わずかに1条件下のみで,従来技術と同程度の鮮度保持効果が得られたにすぎない(甲88〜92)。
ウ 以上によれば,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,発明を特定するための事項(鮮度保持効果を左右する要因となるもの)が不足しているとしか考えられない。
(4) 特許発明のパラメータ要件を満たすだけでは全ての種類の青果物に対して良好な鮮度保持効果が得られないことア 充填物の種類や量(包装袋に設けられた切れ込みの開口度),包装袋の材質によって青果物の鮮度保持性が大きく変動するにもかかわらず,切れ込みの長さと厚みのみに関するパラメータで全ての合成樹脂製の包装袋において,全ての青果物の鮮度保持性が制御できるとする本件発明1は,不明確である。
イ L/Tというパラメータは,包装袋を構成するフィルムの厚みとガス透過度とが反比例関係にあることを前提として,厚み(T)に比例させて個々の切れ込みの長さ(L)を長くしてガス透過量を確保するとの考えに基づいたものと思料されるが,本件明細書中には,フィルムの厚みとガス透過度とが反比例関係にあること については一切記載されていない。他方で,被告は,延伸ポリプロピレンフィルムの水蒸気透過度と厚みとの関係は一定ではないとも主張している。
かかる観点においても,T,L/T,青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計というパラメータのみの調整によって,全ての合成樹脂製の包装袋において全ての青果物の鮮度保持特性が制御できるとする本件発明1は,不明確である。
(5) 小括以上のとおり,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
したがって,本件審決における明確性要件に係る判断は誤りである。
〔被告の主張〕(1) 明確性要件について 本件発明1は,特許請求の範囲(請求項1)に記載の構成を採用することにより,容易な加工により作成できるMA効果を有する包装袋を提供することができ,加工後もフィルムの見栄えが悪くなることはなく,MA効果により青果物の鮮度保持が可能であるという作用効果を奏するものである(本件明細書の【0006】)。本件発明1は,包装袋に「切れ込み」を設けるとともに,「切れ込み1個あたりの長さL/フィルムの厚みTの比」及び「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」といった,従来着目されていなかった新規な視点による切れ込みの設計を提案したものである。
そして,本件明細書には,実施例及び比較例として,本件発明1の範囲内で切れ込みに関するパラメータを変更し,種々の青果物を包装対象として多くの実験を行うとともに,「品質評価結果」として,外観,食味,食感,臭いなど,多様な観点から総合評価を行った結果が示されている。
したがって,包装する青果物の種類,切れ込みの開き方(開口面積の変化),フィルムの材質などの因子が変化したときに,本件発明1の構成を満たす包装袋の青果物保持性の程度が変動することがあったとしても,本件発明1は,本件特許の出 願時における技術水準に対する優位性を失うものではなく,依然として所定の作用効果を奏するものであるから,明確性要件を満たしている。
(2) 原告の主張(2)について 原告は,本件発明1において,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」の数値範囲は一義的に定まらない旨主張する。
しかし,本件発明1は,「青果物用包装袋」という用途が限定された包装袋の発明であり,「青果物用包装」という用途を前提として袋の構成を具体的に特定した発明である。
青果物の包装という用途を前提にしているから,包装した青果物の重量及び包装袋の切れ込みの長さの合計は,それぞれ一義的に定まる。
(3) 原告の主張(3)について ア 原告は,本件明細書に記載された実施例及び比較例から,本件発明1の鮮度保持効果を理解することはできない旨主張する。
しかし,本件明細書の実施例では,バナナ,緑豆モヤシ,ブロッコリー,ホウレンソウ,ニンジン及びトマトといった,それぞれ特性の異なる多種多様の青果物について鮮度保持効果を確認している。多種多様の青果物について同様の鮮度保持効果が得られることが本件明細書から理解できるのであるから,本件明細書を見た当業者は,実施例以外の青果物についても同様の鮮度保持効果が得られるものと容易に理解することができる。
イ 原告は,甲22及び23によれば,少なくともきのこ類においては,T,L/Tの数値が本件発明1の特許請求の範囲内でも,良好な鮮度保持結果が得られなかった旨主張する。
しかし,被告が行った実験結果によれば,きのこ類においても,本件発明1の特許請求の範囲内で実施すれば良好な鮮度保持効果が得られることが確認されている(甲32)。
さらに,原告は,甲88ないし92に基づき,本件発明1の特許請求の範囲が従 来技術を下回る鮮度保持効果しか奏さない領域を含む旨主張する。
しかし,甲88ないし92の実験は,切れ込み条件1ないし5を示した上で,これと比較するための従来技術として「微細孔条件」を決定し,微細孔を設けた袋を示している。この「微細孔条件」は,本件特許の出願時における従来技術の水準を示すものではない。すなわち,特開2001-340050号公報記載の包装袋は,同公報の請求項1に記載されているとおり,少なくともナイロンを含むフィルムを必須の要素として含むものであるが,上記実験において比較対象とされた包装袋は,二軸延伸のポリプロピレンフィルムにより形成されたものであり,両者はそもそも材質において異なる。また,比較対象の包装袋は,特開平5-168398号公報記載の包装袋とも異なる。したがって,甲88ないし92の実験結果は,そもそも公知技術との比較対照実験にもなっていないから,本件発明1の特許請求の範囲が従来技術を下回る鮮度保持効果しか奏さない領域を含むことの根拠とはなり得ない。
ウ 原告は,本件発明1の効果の存否を独自の視点で評価した結果をもって,発明特定事項の不足が明らかである旨主張する。
しかし,効果の存否に関する第三者の評価結果に基づいて,発明特定事項の不足が明らかであるなどと判断することはできない。明確性要件の充足性は,あくまで,明細書の記載及び図面を考慮した上で,特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
原告の主張は,鮮度保持効果が発揮されたとする水準を独自に設けた上で,その水準に到達するのに必要な技術的要素の全てを請求項に盛り込むべきであると主張するのに等しい。このような主張は,明確性要件の充足性の判断手法とはかけ離れたものであって,失当である。
(4) 原告の主張(4)について 原告は,充填物の種類や量によって開口面積が変化するから,青果物保持性が大きく変動するにもかかわらず,「切れ込み」の長さと「厚み」に関するパラメータのみで全ての合成樹脂製の包装袋において,全ての青果物保持性が制御できるとす る本件発明1は不明確である旨主張する。
しかし,仮に,切れ込みの開く程度が変化したときに包装袋内の二酸化炭素及び酸素の量の制御状態が変化することがあったとしても,その程度が,青果物保存性に影響を与える程度のものであることについて,何ら裏付けがない。
仮に,切れ込みの開き方の程度により青果物保存性の程度が多少変動することがあったとしても,そのこと自体は記載不備の根拠とはならない。
すなわち,本件明細書の実施例及び比較例の結果には,本件発明1の条件を満たす包装袋が,様々な種類の青果物について優れた鮮度保持効果を発揮することが示されているが,青果物を保存するのであるから,一定程度のテンションが包装袋にかかっていることは自明であって,これらの実施例全体をみれば,青果物を包装した状態において開口の程度が多少変化しても,本件発明1の構成を満たす包装袋は,本件特許の出願時における技術水準に対して優れた青果物保存性を示すことが理解できる。
? 小括以上によれば,本件審決における明確性要件に係る判断に誤りはない。
2 取消事由2(サポート要件(特許法36条6項1号)に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決における判断 本件審決は,@本件明細書に実施例として記載された数値と【0010】及び【0013】の記載から,本件発明1における「切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下」及び「Tが0.01mm以上0.1mm以下」という数値範囲は,発明の詳細な説明において裏付けられているといえ,L/Tの技術的な意義も【0013】の記載から明らかである,A本件明細書の【0008】の記載,MA効果を利用した包装が土物類やきのこ類にも適用可能であること(甲2〜4)から,本件明細書に接した当業者 は,本件発明1は実施例で効果が確認された青果物のみならず,土物類やきのこ類を含む青果物全般に適用可能であると理解する,B本件明細書の【0009】の記載から,本件発明1の包装袋のフィルム素材が,実施例で用いられたポリプロピレンやポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのラミネートフィルムに限られないことは明らかである旨判断した。
(2) 良好な鮮度保持効果をもたらす技術的根拠が示されていないこと ア 本件明細書には,全ての青果物において,「L/Tが16以上250以下」という数値範囲が良好な鮮度保持効果をもたらす根拠は示されていないし,当業者において,その効果を予測し得るに足る根拠も示されてない。
本件明細書の【0013】の記載は,青果物の鮮度保持効果との関係において,その技術的意味を示したものではないし,L/Tが250を超えると切れ込み部が開きやすくなるか否かは,フィルムの材質によっても異なることを当業者であれば容易に想像できる。
したがって,本件発明1は,「切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下」という数値範囲に含まれる発明の全てが,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
イ 本件明細書の【0008】の記載は,単純に青果物を例示しただけのものであり,本件発明1がきのこ類や土物類の鮮度保持に有効であることが立証されているわけではなく,有効であることを推測するに足る根拠も示されていない。
甲2ないし4は,本件発明1と同様に,MA効果を利用した包装袋に関するものであるが,甲2及び3は,未貫通孔を含めた開口面積が0.05mm 2以下の孔を対象とするものであり,甲4は,7.1×10-8m2以下の微細孔を対象とするものであって,本件発明1とは異なる手段によって効果を奏する発明である。
したがって,甲2ないし4の包装袋が,きのこ類や土物類の鮮度保持に有効なものであるとしても,そのことから,本件発明1がきのこ類や土物類の鮮度保持に有効であることが証明されるはずはない。
本件発明1の構成要件を充足する包装袋であっても,良好な鮮度保持効果が得られない場合があることが明らかであり(甲22),本件発明1は,その特許請求の範囲の全領域において,全ての青果物について良好な鮮度保持効果を有するとはいえない。
ウ MA包装においては,ガス透過度だけでなく,包装袋内が高湿度になることに起因した水滴の発生を防止するために防曇性に配慮したり,包装袋内の水蒸気透過量をコントロールしたりしなければならないところ,フィルムはその材質によって,水蒸気,酸素,二酸化炭素等の透過度,硬さ,スティフネス,弾性率が大きく異なる(甲73)。
しかし,本件明細書中には,OPPフィルム及びポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのラミネートフィルムの実施例のみしか記載されていない。
(3) 実施例の開示が不十分であること ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすというためには,一つの数式に最小値と最大値が定められている場合には,その数値限定の臨界的意義が得られる効果との関係で明らかにされる必要があるというべきである。そうすると,一つの数式の上限及び下限について,上限に近い数値範囲内の実施例,下限に近い数値範囲内の実施例,上限に近く上限を超える数値範囲外の比較例,下限に近く下限を超える数値範囲外の比較例が示される必要がある。
本件発明1の特許請求の範囲には,3つのパラメータが規定されていることからすれば,わずか22例の記載だけでは,本件特許の出願当時の技術常識参酌しても,本件発明1の規定する数式(又は数値)が示す範囲内であれば所望の効果が得られると,当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載しているとはいえない。本件明細書に示されている実施例の記載から,鮮度保持効果との関係で,パラメータの数値を限定した技術的な理由を理解することはできない。
イ 本件発明1には,以下のとおり,特許請求の範囲に記載されたパラメータ以外に「フィルムの材質」と「青果物」という二つのパラメータが存する。
(ア) フィルムの材質について フィルムの材質を変えることによって,ガス透過性を調整することができ(【0007】),同一素材のフィルムであっても厚さが異なれば,ガス透過性も異なる。
したがって,同じ切れ込みを設けた包装袋であっても,フィルムの素材毎に包装袋全体のガス透過度も変化することになるのであって,フィルムの素材も実質的には本件発明1のパラメータの一つであるというべきである。
しかし,本件発明1に係る特許請求の範囲には,フィルムの材質を限定する記載はなく,本件明細書の【0009】にもフィルムの材質を限定する記載はない。
(イ) 青果物について 青果物は,農林水産省が定める大分類(甲8)で,根菜類,葉茎菜類,洋菜類,果菜類,豆類,土物類,きのこ類及びその他の野菜の8種類もあり,それぞれ呼吸生理作用も大きく異なる(甲69)。
このように,青果物の種類によって特性が大きく異なるにもかかわらず,本件明細書では,バナナ,緑豆モヤシ,ブロッコリー,ホウレンソウ,ニンジン及びトマトについての鮮度保持効果の確認しかされていない。加えて,ブロッコリーとホウレンソウを除くほとんどの青果物について,唯一のフィルムの厚みT,L/Tにおいてしか鮮度保持効果が検証されていない。
そして,甲22及び23によれば,少なくともきのこ類においては,T,L/Tの数値が本件発明の特許請求の範囲内でも良好な鮮度保持結果が得られないことが認められる。
以上によれば,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすというためには,少なくとも大別した8種類の野菜類のそれぞれについて,実施例,比較例が検討されなければならないというべきである。
(ウ) 本件明細書の発明の詳細な説明には,フィルムの種別や青果物の種類による呼吸作用の程度の差を踏まえた,実施例,比較例の記載は一切ない。
(4) 本件発明の効果が従来技術と比較して優れているとは認定できないこと 本件明細書には,比較例として,ブロッコリーとトマト以外の青果物については,「切れ込み」を設けていない包装袋の鮮度保持結果及び5mmの丸穴を8個設けた包装袋の鮮度保持結果しか示されていない。このような比較例では,本件特許の出願時の従来技術と比べた効果を認定することはできない。
他方,甲101によれば,本件発明1の特許請求の範囲に含まれるものの少なくとも一部が,従来技術と比較して,これより劣る鮮度保持効果しか奏さないものであることは明らかである。
したがって,本件明細書の記載から,本件発明1が従来技術と比べて優れた効果を奏するものであることを認定することはできない。
(5) 小括以上によれば,本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではなく,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要件を満たしているとはいえない。
したがって,本件審決におけるサポート要件に係る判断は誤りである。
〔被告の主張〕(1) サポート要件について 本件発明1に係る特許請求の範囲に記載された発明は,発明の詳細な説明に明確に記載されているとともに,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,サポート要件を満たしている。
(2) 原告の主張(2)について ア 原告は,全ての青果物において「L/Tが16以上250以下」の数値範囲が良好な鮮度保持効果をもたらす根拠は示されていないから,本件発明1はサポート要件を満たさない旨主張する。
しかし,全ての青果物において鮮度保持効果をもたらす根拠を示す必要があるとすることは,過度な要請である。本件明細書中では,バナナ,緑豆モヤシ,ブロッコリー,ホウレンソウ,ニンジン及びトマトなどの多種多様な青果物についての実 施例が記載されており,当業者であれば,実施例の記載から青果物の種類によらず本件発明1の構成を満たすことによって所期の効果を奏することを理解できる。
原告の上記主張は,全ての青果物について良好な鮮度保持結果が得られることを示す実施例が記載されていなければ,サポート要件を満たさないとするに等しく,独自の見解に基づくものであって,失当である。
イ 原告は,本件発明1がきのこ類や土物類の鮮度保持に有効であることが立証されていないから,本件発明1はサポート要件を満たさない旨主張する。
しかし,本件発明1がきのこ類についても有効であることは,本件明細書の【0008】に記載されている。また,本件明細書中の実施例の記載により,多種多様の青果物について本件発明1の効果が実証されている。
したがって,当業者であれば,本件明細書の記載から,本件発明1が,土物類,きのこ類についても有効であることを容易に理解できるし,本件発明1がきのこ類についても有効であることは,甲32によっても確認されている。
なお,原告は,甲2ないし4の包装袋が,きのこ類や土物類の鮮度保持に有効なものであるとしても,そのことから,本件発明1がきのこ類や土物類の鮮度保持に有効であることが証明されるわけではない旨指摘するが,本件審決は,MA効果を利用した包装の一般的効果が,土物類やきのこ類にも適用可能であるとすることの根拠として,甲2ないし4を挙げているのであって,原告の上記指摘は当たらない。
ウ 原告は,包装袋のフィルム材質が変われば,水蒸気,酸素,二酸化炭素等の透過度等の性質が変わるから,本件発明1はサポート要件を満たしていない旨主張する。
しかし,包装袋の材質が変わることによって,水蒸気,酸素,二酸化炭素等の透過度,その他のパラメータが多少変動するとしても,そのことをもって本件発明1の構成により得られる作用効果が否定されるわけではない。
本件明細書には,ポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのラミネートフィルムの実施例が記載されており,また,他の材質による包装袋も適用可能であるこ とも記載されているから,これらの記載を総合判断すれば,当業者は,実施例記載以外の材料による包装袋であっても本件発明1の効果が得られると理解することができる。
(3) 原告の主張(3)について ア 原告は,本件発明1の特許請求の範囲には3つのパラメータが規定されていることからすれば,本件明細書中に記載された実施例の開示では不十分であって,本件発明1はサポート要件を満たしていない旨主張する。
しかし,本件明細書には,実施例,比較例及び参考例を合わせ,23例もの記載がある。本件発明1の性質を考慮すれば,これらの記載から本件発明1が従来技術と比較して優れていることを当業者は充分に理解できる。
イ 原告は,本件発明1は,「フィルムの材質」と「青果物」も実質的なパラメータとする必要があるところ,本件明細書には,フィルムの種別や青果物の種類による呼吸作用の程度の差を踏まえた実施例,比較例の記載はないから,本件発明1は,サポート要件を満たしていない旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,独自の見解であって,失当である。「フィルムの材質」と「青果物」は物の構成そのものであって,パラメータと理解することはできない。
(4) 原告の主張(4)について 発明の効果を奏するかどうかを判断するに際しては,その発明をどのように使用するかを最適化した上で判断するべきである。
すなわち,サポート要件を満たすというために,発明に係る物をどのように使用したとしても優れた効果を発揮することまで要求されるものではない。
本件発明1が,本件明細書に記載された効果を奏することは,本件明細書及び実験成績証明書から明らかである。
(5) 小括以上によれば,本件審決におけるサポート要件に係る判断に誤りはない。
3 取消事由3(実施可能要件(特許法36条4項1号)に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決における判断 本件審決は,@本件明細書の記載から,本件発明1及び2の技術的意義を理解することができ,本件発明1及び2の青果物用包装袋を作ることができ,かつ,その青果物用包装袋を使用することができるといえる,A本件明細書の実施例と同等程度の鮮度保持効果の再現に多少の試行錯誤が必要であるとしても,そのことをもって,本件発明1及び2の実施をすることができないとまではいえない旨判断した。
(2) 明細書の記載から従来技術と比較した場合の効果を認識できないこと 本件明細書に記載された比較例は,本件特許の出願時の技術水準と比較して明らかに劣る技術に基づくものであり,当該比較例のみでは,実施例について従来技術と比較した場合の効果を認識することができない。
(3) 過度の試行錯誤を要すること 本件明細書に記載された実施例及び比較例は,一見すると,同じ条件で行われた比較対照実験であるが,真に同じ条件下で行われたとは認められないものである。
すなわち,包装袋の置かれている周囲の湿度条件が異なれば,包装袋内の湿度も変化して鮮度保持効果に多大な影響を与えるところ,本件明細書における実施例及び比較例には,湿度条件の記載がなく,これが全く考慮されていない。
そうすると,湿度条件が青果物の鮮度保持へ多大な影響を及ぼすことを熟知している当業者であれば,本件明細書に記載された実施例を見ても,鮮度保持効果の有無について認識することができず,本件発明1及び2の青果物用包装袋を作り,使用するために,湿度条件を変えて何度も鮮度保持実験をしなければならず,過度の試行錯誤が必要となる。
(4) 小括 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明1及 び2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
したがって,本件審決における実施可能要件に係る判断は誤りである。
〔被告の主張〕(1) 実施可能要件について 本件発明1及び2の青果物用包装袋を作り,使用するために,過度の試行錯誤が必要であるとはいえないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を満たしている。
(2) 原告の主張について 原告は,包装袋の周囲の湿度が異なると鮮度保持効果に影響を与えるところ,本件明細書の実施例及び比較例には,湿度条件の記載がないから,本件発明1及び2は,実施可能要件を満たさない旨主張する。
しかし,湿度条件の記載がないからといって,本件発明1及び2の実施に当たり,過度の試行錯誤が必要であるとはいえない。本件明細書には,実施例及び比較例が,記載された相違点以外は同じ条件で実験が行われたものであることが明確に記載されている。実施例及び比較例は,適切に行われた比較対照実験であり,実施例によって,本件発明1及び2の作用効果が明確に示されている。
したがって,本件発明1及び2の青果物用包装袋を作り,使用するために,過度の試行錯誤が必要であるとはいえない。
(3) 小括以上によれば,本件審決における実施可能要件に係る判断に誤りはない。
4 取消事由4-1(引用例1に基づく新規性判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件発明1についてア 相違点1について(ア) MA包装について 青果物は最も水分率が高く,かつ,呼吸作用を営む特殊な食品であるため,青果物のMA包装においては,水蒸気の管理がきわめて重要であることは,技術常識であり,水蒸気成分の透過量調整もMA包装の基本的なガスの透過量調整の一種であるから,青果物のMA包装においては,水分損失を低く抑えるように適当な水蒸気透過度を有し,かつ,適度な酸素透過度を有するプラスチックフィルムが選ばれる(甲73)。
(イ) 高防湿のフィルムを青果物の鮮度保持用フィルムとして用いることが不適切であること a 前記(ア)のとおり,青果物包装においては,良好な水蒸気透過度が必要であることが技術常識である。それにもかかわらず,当業者が,高防湿フィルムを青果物の鮮度保持包装用フィルムに使用することを考えるはずがない。
さらに,甲94には,防曇性OPPフィルムですら,通気性が低い点で,青果物包装で使用するには問題があることが記載されている。
このように,防曇性OPPよりも透湿度の低い高防湿OPPフィルムを青果物用の包装袋に使用することが技術的に不合理であることは,当業者にとって明らかであり,そのような選択を当業者がすることはあり得ない。
b 本件審決は,甲5,47及び49ないし53には,種々の包装用延伸ポリプロピレンフィルムの特性が記載されており,これら特性から,包装用途に使用される延伸ポリプロピレンフィルムの水蒸気透過度と厚みの関係が,必ずしも全てのフィルムにおいて一定であるとは認められないなどとして,引用発明1の延伸ポリプロピレンフィルムの厚みは,必ずしも本件発明1における「0.01mm以上0.1mm以下」の数値範囲内にあるとはいえない旨判断した。
しかし,青果物の包装にガス透過率が大きいフィルムが適していることを開示した文献は,枚挙にいとまがない(甲72,75〜78等)。これに対し,甲47や甲49の高防湿フィルムは,水蒸気,二酸化炭素,酸素の透過性を極端に低減させたフィルムであるから,このようなフィルムが,水蒸気透過性の向上のためにスリ ットを設けた引用発明1に使用されるとは,通常の当業者であれば想像するはずがない。また,甲51ないし53は,フィルムの防湿性を向上させるために石油樹脂を多量に添加したものであり,青果物の鮮度保持とは全く無縁のものであるから,そのような石油樹脂を添加したOPPフィルムが,水蒸気透過性の向上のためにスリットを設けた引用発明1に使用されるとは,当業者であれば想像するはずがない。
したがって,高防湿フィルムや石油樹脂を添加したフィルムの水蒸気透過度の数値を理由として,本件審決のように,延伸ポリプロピレンフィルムは,水蒸気透過度と厚みの関係は一定ではないという事項が知られていたということはできない。
c 本件審決は,引用例1には,フィルムの厚みについて限定する旨の記載はないから,甲47ないし53に記載されているような薄いフィルムであっても引用発明1におけるフィルムとして採用することができる旨判断した。
しかし,引用例1の実施例には,OPPフィルムを利用して,青果物である水耕栽培の豆苗のピロー包装袋を形成した旨が記載されているが,そのようなピロー包装袋が0.01mm(10μm)未満の厚みであると強度不足となり,0.1mm(100μm)を超える厚みであると経済性や加工特性が悪すぎて使用に適さないことは,当業者であれば容易に想像できる。
d 被告は,フィルムの素材による水蒸気透過性が多少低下したとしても,水分も水蒸気もスリットから排出されるから,引用発明1において高防湿フィルムを使用することに支障はない旨主張する。
いずれのフィルムにおいても,ガス透過度はフィルムの開孔部分のガス透過量とフィルム自身のガス透過度の和で決まるとされているように(甲94),包装袋を構成するフィルムの透過性には,開口部のみならず膜面からの透過も寄与することは明らかである。そして,スリットを設けても,青果物から発生する蒸散水分及び呼吸作用により生じた水蒸気の全てが,スリットのみから排出されるなどということはあり得ない。包装袋内で発生した水分の全てをフィルム表面に水滴を形成する前にスリットから排出されるようにするには,無包装に近いほどの開口を設けなけ ればならないことは,当業者であれば容易に推測できる。
したがって,たとえ切れ込みを設けるとしても,膜面透過性の悪い高防湿のプラスチックフィルムが青果物の鮮度保持用の包装袋の素材として不適格であることは明らかである。また,高防湿フィルムは,添加された防曇剤のブリードアウトが起こりにくいため,防曇性が不良なものとなり,包装された青果物は,形成された水滴によって腐りやすくなる(甲82)。
したがって,防曇性が不良な高防湿フィルムを,あえて青果物用包装袋に用いることを当業者が考えるはずがない。
(ウ) 特殊なフィルムを除けば透湿度から求められる厚みTの数値等が特許請求の範囲の数値と重複すること a 高防湿のフィルムを除けば,OPPフィルムメーカーの青果物包装用OPPフィルムの厚み0.020mm(20μm)当たりの透湿度は,7g/(m 2・24h)を中心に5〜8g/(m2・24h)であり(甲5),同一のフィルム素材の場合には透湿度(水蒸気透過度)とフィルムの厚みとの間に逆比例の関係が成立するということが技術常識であるから(甲6),引用発明1の「透湿度が5〜30g/(m2・24hrs)のフィルム(OPPフィルム)」という記載は,「厚みが4.7μm〜28μmのフィルム(OPPフィルム)」と同義であり,本件発明1のフィルムの厚みT(mm)が「0.01mm以上0.1mm以下」という数値範囲に含まれ,本件発明1の特許請求の範囲に記載された数値範囲と完全に重複する。
b また,そもそも,甲5や甲6の技術常識を考慮するまでもなく,引用例1には,少なくとも,厚み「0.01mm以上0.1mm以下」に含まれるOPPフィルムが記載されていたと考えるのが合理的である。
(エ) 以上によれば,相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 相違点2について 引用発明1の延伸ポリプロピレンフィルムは,透湿度が5.2又は18.1g/(m2・24h)である。OPPフィルムメーカーの青果物包装用OPPフィルムの 厚み0.020mm当たりの透湿度は,5〜8g/(m2・24h)であるから,引用発明1における延伸ポリプロピレンフィルムの厚みは一定の数値範囲,すなわち0.0055mm〜0.0308mm(5.5μm〜30.8μm)に特定することができる。そして,その数値を用いることによって,引用発明1における切れ込み1個当たりの長さ(mm)/フィルムの厚み(mm)の比(L/T)も一定の数値範囲,すなわち16.2〜272.7に特定することができ,上記数値範囲は,本件発明1の「切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下」に含まれる。
したがって,相違点2は実質的な相違点ではない。
ウ 相違点3について 本件発明1の「100gあたりの切れ込みの長さの合計」との発明特定事項は,包装袋の形状,大きさ,材質や機能等に関わりなく,「青果物の重量」と「切れ込みの長さの合計」との2つの要素のみによって特定されるパラメータであり,その特許請求の範囲においても,包装袋の形状,大きさ,材質等は特定されていない。
そうすると,引用例1の記載に基づいて,どのような形状,大きさの包装袋を想定して「100gあたりの切れ込みの長さの合計」を計算したとしても,その包装袋において「青果物100g」当たりの「切れ込みの長さの合計」が「0.08mm以上17mm以下」の数値範囲と重複することが明確であれば,引用例1には,本件発明1における「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との構成が開示されていると考えるのが合理的である。
引用例1の記載に基づいて,市販の8号袋や市販の豆苗やカイワレの包装袋を想定して「100gあたりの切れ込みの長さの合計」を計算した場合,その計算値は,本件発明1における「0.08mm以上17mm以下」に含まれる。
したがって,相違点3は実質的な相違点ではない。
エ 小括 以上によれば,本件発明1は,引用発明1と同一であって,新規性を欠く。
したがって,本件審決における本件発明1に係る引用例1に基づく新規性判断は誤りである。
(2) 本件発明2及び3について 前記(1)のとおり,本件審決における本件発明1に係る引用例1に基づく新規性判断は誤りであるから,本件審決における本件発明2及び3に係る引用例1に基づく新規性判断もいずれも誤りである。
〔被告の主張〕(1) 本件発明1についてア 相違点1について (ア) 引用発明1におけるフィルムの厚みTを,透湿度から特定することはできないから,透湿度から求められるフィルムの厚みTの数値が本件発明1の特許請求の範囲に記載された数値と重複するとはいえない。
(イ) 原告の主張(ア)について 原告は,当業者であれば,MA包装に水蒸気透過度及びガス透過度(酸素透過度,二酸化炭素透過度)の双方のコントロールが不可欠であることは熟知している旨主張する。
しかし,MA包装の設計思想は,野菜の蒸散を防止した上で,野菜の呼吸を阻害しないようにフィルムのガス透過性を制御するというものであり,MA包装における主たる制御対象はガス透過であって,水蒸気透過の制御の重要性はそれほど高いとはいえない。
(ウ) 原告の主張(イ)について a 原告は,甲47,49及び51ないし53記載のフィルムは,引用発明1には適用できない旨主張する。
しかし,引用例1の包装袋は,スリットを設け,このスリットを介して袋内部の水や水蒸気を外部に排出することで,青果物の根や株等を切り取らずに包装する際に,余剰な水分による悪影響を抑えかつ水分蒸散によるしおれが起こらないように 内部水蒸気圧を制御するという課題を解決するものである(【0006】)。フィルムの素材による水蒸気透過性が多少低下したとしても,水分も水蒸気もスリットから排出されるのであるから,引用発明1において,高防湿フィルムを使用することについて何ら支障がない。
また,原告は,当業者であれば,高防湿性のOPPフィルムを用いると包装袋の内部が水蒸気で曇ってしまい,使用に耐えられないことを瞬時に理解する旨主張する。
しかし,甲87の図1は,スリットを設けないフィルムを用いたときの説明図であるところ,引用発明1では,余分な水分を外部へ排除するスリットを設けているのであるから,甲87の図1の「防曇性なし」のようにはならない。スリットを設ける引用発明1では,袋の素材として,高防湿性のOPPフィルムを用いることができる。 さらに,原告は,甲51ないし53のフィルムは,石油樹脂を多く添加したものであるから,引用発明1のような青果物包装用の袋には使用できないと主張する。
しかし,甲51ないし53に記載された用途は,これらのフィルムの代表的な用途にすぎない。当該代表的な用途以外に,これらのフィルムを使用できないとする原告の主張は誤りである。
b 原告は,ピロー包装袋に用いるフィルムの厚みを10μm未満にすると強度不足になるから,甲47ないし53に記載されているような薄いフィルムを引用発明1におけるフィルムとして採用することはできない旨主張する。
しかし,引用発明1において,使用するフィルムは「透湿度」のみによって特定され,フィルム厚みについては記載されていない。すなわち,引用例1の実施例では,引用発明1にとって適した水蒸気透過性を有するフィルムが選択されているのであり,その選択の結果が,「透湿度が5.2又は18.1g/(m 2・24h)の延伸ポリプロピレンフィルムを用いた包装袋」なのである。透湿度が5.2又は18.1g/(m2・24h)のものであれば,水蒸気透過性を含めて引用発明1に好 適に使用できるところ,甲47,49及び51ないし53のフィルムは,透湿度として5.2又は18.1g/(m2・24h)という値をとり得るものであるから,これらのフィルムを引用発明1に使用することができる。加えて,引用例1の比較例9及び10には,薄いフィルムでもピロー包装を製造できることが示されている。
(エ) 原告の主張(ウ)について a 原告は,甲47,49及び51ないし53のフィルムが,引用発明1の包装袋を製造する際に使用されるとは,当業者であれば想像するはずがないから,引用発明1のフィルムの透湿度の値からフィルムの厚みを一義的に導くことができる旨主張する。
しかし,甲6は,フィルムの材質等が全て同じであるという前提に立った上で,フィルムの厚さと気体透過率とが反比例の関係にあることを説明したものである。
フィルムの材質等が異なれば,反比例係数の値も相違するものであることは技術常識である。
引用例1には,引用発明1の包装袋の材料がポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)であるとしか記載されていない。ポリプロピレンフィルムといっても,その成分,ポリプロピレンの分子量,ポリプロピレンの結晶化度,成形方法等,さまざまな種類のものが存在し,「ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)」という事項だけではフィルム材質を特定できない。延伸ポリプロピレンフィルムは,水蒸気透過度と厚みの関係は一定でないことが知られており,フィルム材質を特定できない以上,透湿度とフィルムの厚みとの関係は,必ずしも全てのフィルムにおいて一定であるとは認められない。したがって,甲6の気体透過係数Pと気体透過率Qの関係を利用したとしても,引用発明1のフィルムの透湿度の値からフィルムの厚みを一義的に導くことができないことは明らかである。
b 原告は,引用例1には「厚み0.01mm以上0.1mm以下」に含まれるOPPフィルムが記載されていたと考えるのが合理的である旨主張する。
しかし,引用例1には,「厚み0.01mm以上0.1mm以下」に含まれるO PPフィルムは記載されていない。
(オ) 以上によれば,相違点1は実質的な相違点である。
イ 相違点2について 前記アのとおり,技術常識を考慮しても引用例1の記載から引用発明1のフィルムの厚みを特定することはできないから,相違点2は実質的な相違点である。
ウ 相違点3について(ア) 相違点3は実質的な相違点である。
(イ) 原告の主張について 原告は,引用例1の記載に基づいて,どのような形状,大きさの包装袋を想定して「100gあたりの切れ込みの長さの合計」を計算したとしても,その包装袋において「青果物100g」当たりの「切れ込みの長さの合計」が0.08mm以上17mm以下」の数値範囲と重複することが明確であれば,引用例1には相違点3に係る本件発明1の構成が開示されていると考えるのが合理的である旨主張する。
しかし,原告の上記主張によれば,どのような形状,大きさの包装袋を想定して「100gあたりの切れ込みの長さの合計」を計算したとしても,重複範囲がないということができなければ相違点とはいえないというに等しく,判断方法として失当である。
エ 小括以上によれば,本件発明1は,引用発明1と同一ではない。
したがって,本件審決における本件発明1に係る引用例1に基づく新規性判断に誤りはない。
(2) 本件発明2及び3について 本件審決における本件発明1に係る引用例1に基づく新規性判断に誤りはないから,本件発明2及び3に係る引用例1に基づく新規性判断にも誤りはない。
5 取消事由4-2(引用例2に基づく新規性判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件発明1についてア 相違点4について (ア) 本件審決は,引用発明2において,青果物100g当たりの切れ込み(切れ目)の長さの合計18.24mmは,本件発明1における0.08mm以上17mm以下の数値範囲外であるとして,相違点4は実質的な相違点である旨判断した。
(イ) 本件明細書において,青果物100g当たりの切れ込み長さの合計が17以上である比較例は,比較例13のみである。比較例13では,L/Tが600と桁外れに大きくなっており,この比較例のみでは,青果物100g当たりの切れ込み長さの合計が17mm以下であると青果物の鮮度保持にとってさらに好ましいのか否か,説明がつかない。
また,甲46では,青果物100g当たりの切れ込み長さの合計を17mm以下にした場合に,良好な鮮度保持効果を示す青果物が存在する例(ブロッコリー,アスパラ)が示されたにすぎず,特許権の効力が及び得る全ての青果物に対して,青果物100g当たりの切れ込み長さの合計が「17mm」という数値が臨界的意義を有するとは考えられない。
そうすると,引用発明2における「青果物100gあたりの切れ込み長さの合計が18.24mm」であることと,本件発明1における「青果物100gあたりの切れ込み長さの合計が17mm以下」であることとの間には,技術的な差異は認められず,実質的に同一であるということができる。
(ウ) したがって,相違点4は実質的な相違点ではない。
イ 被告の主張について(ア) 本件発明1のパラメータの意義について 被告は,本件発明1の構成要件C,D及びEは,いずれも切れ込みを特定するパラメータとなっており,構成要件C,D及びEに係るそれぞれの数値範囲の組合せによって,本件発明1特有の高度に設計された切れ込みが特定され,その解題を解決する手段として機能し,作用効果を奏するものである旨主張する。
しかし,本件発明1は青果物の鮮度保持に関する発明であるから,本件発明1の3つのパラメータの技術的意義は,青果物の鮮度保持効果との関係で技術的に説明される必要がある。しかるに,構成要件C及びDが切れ込みの断面形状を特定するものであるとしても,その断面形状が本件発明1の作用である青果物の鮮度保持効果とどのように関係するのかは全く説明されていない。また,構成要件C及びDのパラメータを特定し,これらと構成要件Eとを組み合わせることによって,どのようなメカニズムで,フィルムの素材にかかわらず,呼吸生理作用が異なる全ての青果物に対して,良好な鮮度保持効果が得られるのかについて,本件明細書には,一切説明されていない。
(イ) 相違点4’は実質的な相違点ではないこと 仮に,被告が主張するように,本件発明1と引用発明2とが,後記相違点4’において相違するとしても,以下のとおり,相違点4’は実質的な相違点ではない。
すなわち,引用例2には,所定の長さ(2mm)の切れ目を所定の割合(0.02個/cm2)で設けた所定の大きさ(120×190mm)の合掌背貼り袋の中に,一定重量(約100g)の青果物(グリーンアスパラガス)を入れることが明確に記載されている。
他方,本件明細書中には,構成要件Eの技術的意義,すなわち,「100gあたり合計長が0.08mm以上17mm以下」であるとどのようなメカニズムによってフィルムの素材とは無関係に全ての青果物に対して鮮度保持効果が得られるのかということについての説明はない。
したがって,「100gあたりの切れ込みの長さの合計」という概念は,特段の技術的な意味を有する新規な考え方ではなく,甲84,93,119等に示された「一定の大きさの包装袋に設ける切れ込みの個数を調整すること」や甲121に示された「包装する青果物重量に対し,総開孔面積が0.4〜4.0mm 2/Kg」とするように調整することと同じ公知の考え方であるというべきである。
そして,当業者であれは,引用例2の記載から,「青果物100gあたりの切れ 込みの長さの合計」を容易に想起することができるから,引用例2には,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が18.24mm」の青果物鮮度保持用包装袋が開示されているといえる。
そうすると,本件明細書中には,どのようなメカニズムによって「100gあたり合計長が0.08mm以上17mm以下」であるとフィルムの素材とは無関係に全ての青果物に対して鮮度保持効果が得られるかが説明されていないのであるから,「17mm」という数値には,特段の技術的な根拠があるわけではなく,単なる数値限定にすぎない。
したがって,相違点4’は実質的な相違点ではない。
ウ 小括以上によれば,本件発明1は,引用発明2と同一であって,新規性を欠く。
したがって,本件審決における本件発明1に係る引用例2に基づく新規性判断は誤りである。
(2) 本件発明2及び3について 前記(1)のとおり,本件審決における本件発明1に係る引用例2に基づく新規性判断は誤りであるから,本件審決における本件発明2及び3に係る引用例2に基づく新規性判断もいずれも誤りである。
〔被告の主張〕(1) 本件発明1についてア 相違点の認定について(ア) 本件発明1の構成要件C,D及びEの技術的意義について 本件発明1における切れ込みはフィルムを貫通するものであるから,切れ込みをフィルム厚み方向と垂直な方向からみたとき,その断面形状は,横の長さは切れ込み長さL,縦が「フィルムの厚み」Tの略矩形の形状となる。構成要件Dにおけるフィルムの厚みTは,上記断面形状の縦の長さを示し,構成要件CにおけるL/Tは,断面形状の縦横比を示し,いずれも切れ込みの断面形状を特定するパラメータ となっている。一方,構成要件Eにおける「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」は,包装される青果物重量との関係で切れ込みの長さの合計を規定したものである。
このように,本件発明1の構成要件C,D及びEは,いずれも切れ込みを特定するパラメータとなっており,構成要件C,D及びEに係るそれぞれの数値範囲の組合せによって,本件発明1特有の高度に設計された切れ込みが特定され,その課題を解決する手段として機能し,作用効果を奏するものである。
(イ) 本件発明1における構成要件C,D及びEの技術的意義を踏まえれば,本件発明1と引用発明2との相違点は,次のとおり認定されるべきである。
本件発明1においては,構成要件E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との特定がされているのに対し,引用発明2においては,そのような特定はされていない点。(以下「相違点4’」という。)イ 相違点4’について相違点4’は実質的な相違点である。
ウ 相違点4について(ア) 相違点4は実質的な相違点である。
(イ) 原告の主張について 原告は,本件発明1の青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計の数値範囲の上限が臨界的意義を有さないことを理由として,相違点4は実質的な相違点ではない旨主張する。
しかし,青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計の数値範囲の上限が臨界的意義を有するか否かと,相違点4が実質的な相違点であるかどうかは,別の問題である。
エ 小括以上によれば,本件発明1は,引用発明2と同一ではない。
したがって,本件審決における本件発明1に係る引用例2に基づく新規性判断に誤りはない。
(2) 本件発明2及び3について 本件審決における本件発明1に係る引用例2に基づく新規性判断に誤りはないから,本件発明2及び3に係る引用例2に基づく新規性判断にも誤りはない。
6 取消事由5-1(引用例1に基づく進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件発明1についてア 本件審決における判断 本件審決は,相違点3について,引用例1には,包装袋における切れ込み(スリット)の長さの合計を青果物の量に応じて好適化するという技術的思想について,記載も示唆もされておらず,引用例2,甲3及び4を参照しても,引用発明1において,相違点3に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得たものではないから,相違点1及び2について判断するまでもなく,本件発明1は,引用発明1に引用例2,甲3及び4に記載された発明を組み合わせることにより容易に発明をすることができたものではない旨判断した。
イ 相違点3の容易想到性について (ア) 引用発明1の青果物用鮮度維持包装袋の包装対象は,水耕栽培の豆苗やカイワレに何ら限定されるものではなく,水分を多く含む野菜,果実,きのこ類等の鮮度維持を意図するものであり,たとえ水分含有率が通常の青果物より高いものであっても,青果物にほかならず,水耕栽培の豆苗やカイワレも,紛れもなく青果物である。
一方,制御対象に関しては,青果物はその種類によって水分含有率,呼吸生理作用が異なるから,鮮度保持を行うに当たって,水分管理に重点を置くか,酸素及び二酸化炭素の透過性に重点を置くかを異ならせる必要があるものの,どの青果物に対しても,水分管理と酸素及び二酸化炭素の制御とが不可欠である。
引用発明1の包装対象が水耕栽培の豆苗やカイワレに限定されない以上,引用発明1の制御対象と引用発明2の制御対象とは,何ら異ならない。また,引用発明1の包装対象が水耕栽培の豆苗やカイワレに限定されず,呼吸する青果物を広く包装対象としている以上,引用発明1が「空気中の酸素と青果物の呼吸による二酸化炭素」をも制御対象の由来とすることは明らかである。
そうすると,引用発明1と引用発明2,甲3及び4とは,包装対象,制御対象及びその由来を全て同じくするから,スリット,切れ目や切れ込みの設計思想,スリット,切れ目や切れ込みの長さや密度等の好適条件をも同じくするものであるといえる。
(イ) そして,引用発明1の包装袋における青果物の鮮度保持が,余剰の水分の制御のみでは達成されず,引用発明1の「スリット」が,引用例2の包装袋の「切れ目」と同様に,包装袋内の酸素や二酸化炭素の透過量の制御に寄与していることは,当業者において当然に理解できることである。
引用例2の包装袋は,「青果物の鮮度保持」及び「電子レンジによる加熱調理を可能とすること」の両者を目的とするものではあるが,引用例2の【0017】には,「5mm以下の切れ目」であれば,包装体内の酸素濃度のコントロールに好ましいことが記載されているから,「青果物の鮮度保持」のみを考慮して,実施例4に記載されている包装袋のスリットの個数や長さ等を適宜変更することは,当業者の能力に基づく当然の発想である。
(ウ) 以上によれば,引用発明1と引用例2,甲3及び4とを組み合わせ,引用発明1において相違点3に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者において,容易に想到し得たことである。
ウ 以上のとおり,本件審決における本件発明1に係る引用例1に基づく進歩性の判断は誤りである。
(2) 本件発明2及び3について 前記(1)のとおり,本件審決における本件発明1に係る引用例1に基づく進歩性判 断は誤りであるから,本件発明2及び3に係る引用例1に基づく進歩性判断も,いずれも誤りである。
〔被告の主張〕(1) 本件発明1についてア 相違点3の容易想到性について (ア) 引用発明1では,包装対象は「水耕栽培されたカイワレ100g又は水耕栽培された豆苗300g」であり,主たる制御対象は「水蒸気及び水分」,その由来は「水分を含むスポンジ由来」であるのに対し,引用発明2では,包装対象は「青果物」であり,主たる制御対象は「酸素及び二酸化炭素」,その由来は「空気中の酸素と青果物の呼吸による二酸化炭素」である。
上記のとおり,引用発明1と引用発明2とでは,包装対象及び主たる制御対象が異なるから,水分の排出を制御する引用発明1におけるスリットの設計と,水分の排出を意図しない引用発明2の切れ目の設計とでは,思想,長さや密度等の好適条件が大きく相違することは自明である。
したがって,引用発明1におけるフィルムのスリットの長さ,密度等の条件を,引用発明2においてフィルムに設けられるスリット(切れ目)と同様の条件とすることについて,当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(イ) 仮に,引用発明1におけるフィルムのスリットの長さ,密度等の条件を,引用発明2においてフィルムに設けられるスリット(切れ目)と同様の条件としたとしても,本件発明1における相違点3の構成,すなわち,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」という事項を備えることにはならない。
(ウ) 甲3及び4も,引用発明2と同様に,青果物を包装対象とし,酸素及び二酸化炭素を制御対象とし,この制御の目的でフィルムにスリットを設けたものであって,引用発明1と甲3及び4とは,包装対象及び制御対象が大きく異なり,スリットないし切れ目の設計思想,長さや密度等の好適条件が大きく相違する。
したがって,引用発明1におけるフィルムのスリットの長さ,密度等の条件を,甲3及び4の記載に基づいて好適化することが,当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
(エ) 以上によれば,引用発明1と引用例2,甲3及び4とを組み合わせ,引用発明1において相違点3に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者において,容易に想到し得たことではない。
イ 原告の主張について 原告は,引用発明1の包装対象が水耕栽培の豆苗やカイワレに何ら限定されない旨主張する。しかし,当事者間に争いのない引用発明1は,「水耕栽培されたカイワレ100g又は水耕栽培された豆苗300gを包装した包装袋」であるから,上記主張は,引用発明1についての誤った理解に基づくものであり,失当である。
ウ 以上のとおり,本件審決における本件発明1に係る引用例1に基づく進歩性の判断に誤りはない。
(2) 本件発明2及び3について 前記(1)のとおり,本件審決における本件発明1に係る引用例1に基づく進歩性判断に誤りはないから,本件発明2及び3に係る引用例1に基づく進歩性判断にも誤りはない。
7 取消事由5-2(引用例2に基づく進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件発明1についてア 相違点4又は相違点4’の容易想到性について (ア) 引用例2の包装袋は,「青果物の鮮度保持」及び「電子レンジによる加熱調理を可能とすること」の両者を目的とするものではあるが,引用例2の【0017】)には「5mm以下の切れ目」であれば,包装体内の酸素濃度のコントロールに好ましいことが記載されているから,「青果物の鮮度保持」のみを考慮して,実施例4に記載されている包装袋のスリットの個数や長さ等を適宜変更することは, 当業者の能力に基づく当然の発想である。
(イ) そして,前記6〔原告の主張〕イのとおり,引用発明2と引用例1に記載された発明とは,技術分野及び課題が同一又は共通するから,引用発明2において,引用例1に記載された発明を組み合わせる動機付けがある。
(ウ) 引用発明2におけるフィルムとして,引用例1に記載された「50〜400mm/m2の比率となるようにスリットが形成されている」フィルムを用いれば,青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計は,本件発明1における「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との数値範囲と重複する。
(エ) 以上によれば,引用発明2において,引用例1,甲3及び4に記載された発明を組み合わせ,相違点4又は相違点4’に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
イ 以上のとおり,本件発明1は,引用発明2と引用例1,甲3及び4とを組み合わせることにより容易に発明をすることができたものである。
したがって,本件審決における本件発明1に係る引用例2に基づく進歩性判断は誤りである。
(2) 本件発明2及び3について 前記(1)のとおり,本件審決における本件発明1に係る引用例2に基づく進歩性判断は誤りであるから,本件発明2及び3に係る引用例2に基づく進歩性判断も,いずれも誤りである。
〔被告の主張〕 (1) 本件発明1について ア 相違点4’の容易想到性について 本件発明1と引用発明2とは,前記5〔被告の主張〕(1)アのとおり,相違点4’において相違する。
引用例2には,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」という概念が 記載も示唆もされていない。
また,引用例2の記載から,引用例2の実施例4に記載された袋に実際に設けられた切れ目の「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」を特定することはできない。
引用例2に記載のない部分を想像で補い,種々の仮定を用いることで「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」の計算値を求めることは可能であるとしても,当該計算値は,引用例2の実施例4に記載された袋に実際に設けられた切れ目の100g当たり合計長と同じものとはいえない。
したがって,引用発明2において,相違点4’に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,引用発明2と引用例1,甲3及び4とを組み合わせることにより,容易に想到し得たことではない。
イ 相違点4の容易想到性 (ア) 仮に,本件審決が認定するとおり,本件発明1と引用発明2とが,相違点4において相違するとしても,以下のとおり,引用発明2において,相違点4に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,引用発明2と引用例1,甲3及び4とを組み合わせることにより,容易に想到し得たことではない。
(イ) 引用発明2と引用発明1とは,前記6〔被告の主張〕(1)ア(ア)のとおり,包装対象及び制御対象が大きく異なるから,スリットないし切れ目の設計思想,長さや密度等の好適条件が大きく相違する。
したがって,引用発明2におけるフィルムに代えて,引用例1に記載された「フィルムの総面積に対し前記スリットの合計全長が50〜400mm/m 2の比率」となるフィルムを用いることが,当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 以上のとおり,本件審決における本件発明1に係る引用例2に基づく進歩性の判断に誤りはない。
(2) 本件発明2及び3について 前記(1)のとおり,本件審決における本件発明1に係る引用例2に基づく進歩性判断に誤りはないから,本件発明2及び3に係る引用例1に基づく進歩性判断にも誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件各発明について(1) 本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲54の4)の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用する表については,別紙本件明細書図表目録を参照。)。
ア 技術分野【0001】本発明は,青果物用の包装袋に関するものである。
イ 背景技術 【0002】青果物は,大気よりも適度な低酸素,高二酸化炭素環境下においては呼吸が抑制されて劣化や追熟が軽減され,過度な低酸素,高二酸化炭素環境下においては異常代謝によって異臭,トロケなどの劣化が促進されることが知られている。近年,この原理を利用して青果物の鮮度保持を行う包装の実用化が進んでいる。
これは,青果物を包装し,青果物自身の呼吸速度と包材のガス透過速度のバランスによって包装内のガス濃度を青果物の保存に適した雰囲気にするものであり,MA(Modified Atmosphere)包装と呼ばれている。しかし,通常青果物の包装用に使用されているポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムといった資材をそのまま使用すると,ガス透過速度不足によって包装体内の酸素が不足して青果物が異常呼吸を行い,青果物の劣化が促進される。従って,包装袋の酸素透過速度を包装した青果物の呼吸速度に適したものにするため,フィルムに微細孔等を加工しなくてはならなかった。
【0003】特開平9-252718号公報では,少なくとも最内層が熱融着性樹脂層からなる多層フィルムに,孔径が数μm〜数十μmの微細な貫通あるいは未貫通の孔を無数に形成することにより,その多層フィルムの酸素透過度を制御する 青果物の鮮度保持包材について記載されている。しかしながら,この方法では,フィルムに無数の傷をつけるため,フィルムが白っぽくなって透明性が低下し,中には異物が付着しているように見えて見栄えが悪くなるという欠点があり,加工に関しても,ダイヤモンドの粉末を付着させた特殊なロールにフィルムに押し付けてフィルムを削るためきわめて特殊な装置が必要であり,多種多様な青果物の呼吸速度や特性に合わせた多種類のフィルムを量産することが困難であった。従って,加工が容易で青果物の呼吸速度等の特性に合わせた酸素透過速度を有し,フィルムの見栄えが悪くないMA効果を有する包装袋の開発が切望されている。
ウ 発明が解決しようとする課題 【0004】本発明は,フィルムへの加工が容易であり,加工を施してもフィルムの見栄えが悪くなることなく,MA効果による青果物の鮮度保持が可能であり,簡易な仕組みで安価に,しかも小ロットで製造することができる青果物用の包装袋を提供することを目的とする。
エ 課題を解決するための手段 【0005】フィルムを含む包装袋であり,前記包装袋に1個以上の切れ込みがあり,青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が,0.08mm以上17mm以下である青果物用包装袋である。更に好ましい形態としては,切れ込み1個あたりの長さが0.1以上12mm以下であり,切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり,Tが0.01mm以上0.1mm以下である青果物用包装袋である。また,上記に記載の青果物用包装袋を用いて包装された青果物包装体である。
オ 発明の効果 【0006】本発明により,容易な加工により作成できるMA効果を有する包装袋を提供することができる。本発明の包装袋は,加工後もフィルムの見栄えが悪くなることはなく,MA効果により青果物の鮮度保持が可能である。
カ 発明を実施するための最良の形態 【0007】従来使用されているMA包装に使用されるフィルムとしては,次の3通りのものが考えられる。(イ)貫通した微細孔をあけたフィルム,(ロ)貫通あるいは未貫通の傷又はクラックをフィルムにつけたもの,(ハ)フィルムの材質自体を変えることによって透過性を調整するものである。ただ,これらの方法では,(イ)の場合は,特殊な生産設備が必要で高価格である。(ロ)の場合は,特殊な生産設備が必要であり,多種類の酸素透過速度のフィルムの量産が難しく高価格である。フィルムに全長数百μm以下の無数の傷を設ける方法であり,例えば,フィルムをダイヤモンドの粉末が付着したロールに押し当ててフィルム表面を削ったものがあり,一般的に特定の形状を有していない傷をつけるためフィルムの見栄えが悪くなる。加工程度によるガス透過量の把握が難しく,小刻みなガス透過量の管理ができない。(ハ)の場合は,材質の配合やポリマーの構造によってガス透過量を調節するため,ガス透過量の調整巾が小さいうえ,最小生産ロットが大きくなるといったような問題がある。
【0008】本発明の包装袋で鮮度保持可能な青果物としては,例えば,バナナ,マンゴー,ウメなどの果実,ダイコン,ニンジンなどの根菜類,トマト,キュウリ,ナスなどの果菜類,緑豆モヤシ,大豆モヤシ,トウミョウなどの芽物類,シイタケ,エリンギなどの菌茸類,キクやカーネーションといった花卉,或は苗などである。
また,これらをカットした,いわゆるカット野菜やカットフルーツ用としても使用可能であり,これらの青果物に限定されるものではない。
【0009】本発明の包装袋はフィルムを含み,フィルムとしては,合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムが好ましい。合成樹脂フィルムの材質としては,特に限定されないが,例えば,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート,ポリスチレン,ナイロン(ポリアミド),エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA),ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート・アジペート或いはポリ乳酸などが挙げられる。半合成樹脂フィルムの材質としては,例えば,セロハンをあげることができる。これらの内いずれかの素材を単独あるいはラミネ ートして用いればよい。包装袋は,これらフィルムと金属箔,紙や不織布を貼り合わせた袋でも良い。
【0010】フィルムの厚みは,強度の点より0.01mm以上が好ましく,経済的な点を考えると0.1mm以下が好ましく,0.01〜0.065mmがより好ましい。また,これらのフィルムは,延伸加工,防曇加工や印刷を施してもよく,銀や銅などの無機系抗菌剤やキチン,キトサン,アリルイソチオシアネートなどの有機系抗菌剤を塗布或はフィルムに練りこんで用いても良い。
【0011】本発明では,包装袋に長さ0.1mm以上12mm以下の切れ込みを1個以上設ける。切れ込みの長さが12mmを越えると,フィルムの変形によって切れ込み部分が開きやすくなるので酸素透過速度の制御が難しくなる。上限の好ましい範囲は8mm以下,さらに好ましくは5mm以下である。切れ込み長さの下限は0.1mmであり,0.1mm未満では,切れ込みを多く入れる必要があり量産しにくくなり,加工がむずかしくなる。下限の好ましい範囲は0.5mm以上,さらに好ましくは1mm以上である。
【0012】包装袋に包含した青果物100gあたりの切れ込み長さの合計は,0.08mm以上,20mm以下である。0.08mm未満では,包装した青果物が酸欠(嫌気)状態になって,トロケ(水浮き)やアルコール発酵による異臭発生などの劣化を生じやすく,20mmを超えると,包装袋内が充分な低酸素濃度及び高二酸化炭素濃度にならないため,顕著な鮮度保持効果が得にくい。さらに好ましくは,青果物100gあたりの切れ込み長さの合計は,1mm以上,17mm以下である。なお,包装体内のガス濃度の偏りを軽減するために切れ込み数を複数個とし,適宜これらを散らばらせて配置する方法が好ましい。
【0013】切れ込み1個分の長さをL(mm),フィルムの厚みをT(mm)としたとき,L/Tの比が16以上,250以下であることが好ましい。L/Tの比が16未満では,フィルムに加工を施しにくくなる可能性があり,250を超えると切れ込み部が開きやすくなる恐れがある。さらに好ましくは,L/Tの比は3 0以上,180以下である。
【0014】包装袋に設けられる切れ込みの形状としては,特に限定されない。
切れ込みは一本の直線でもかまわないし,S字型,U字型,半円形,波型のような曲線部を有する形状,V字型,L字型,H字型,T字型,W字型,コ字型,×印のように角を有する形状でもよい。切れ込みの形状は,ここに示したものに限らない。
切れ込みの形状は,複数種組み合わせて使用してもよい。
【0015】フィルムへの切れ込みの加工は,カッターのような鋭利な刃物で切っても良いし,所望の形状の切れ込みができるようにした型で打ち抜いても良い。
また,レーザーによる加工も可能である。切れ込みの加工時期は,特に限定されない。フィルムの製作時に行っても良いし,製袋時,或は製袋後に行っても良い。ロールの状態で加工する場合は,印刷やスリットなどと同時並行して加工することもでき,横ピロー機や縦ピロー機などの自動包装機で青果物を包装する際に加工することもできる。また,切れ込みの加工は,手作業でも可能であり袋1枚でも容易に作製可能である。
【0016】包装体内の酸素濃度は,0.04〜19%,炭酸ガス濃度が2〜26%であることが好ましい。酸素濃度が,0.04%未満や二酸化炭素濃度が26%を超えると,青果物はガス障害を起こして異臭,トロケ,内部褐変などの劣化を生じやすい。逆に,酸素濃度が19%を超えたり,二酸化炭素濃度が2%未満であったりする場合は,青果物の呼吸抑制効果が小さいため,黄化防止,褐変防止,内容成分の減少などが起こる可能性がある。
【0017】本発明の包装体には,袋状のもののほかに,豆腐のコンシューマーパックでよく見られるような容器に本発明と同様の切り込みを有するフィルムを熱シールなどで貼り付けた形態のものや,トレーに青果物を載せ本発明と同様の切り込みを有するフィルムにて青果物を包装した形態も含まれる。ただし,これらは,青果物を収納後に開口部を密封し,切れ込み以外からのガス漏れを青果物の鮮度保持に影響が出ない程度に防止しなければならない。
【0018】包装袋の密封方法は,酸素透過速度のコントロールが可能な方法であれば,どのような方法でも差し支えないが,ヒートシール,のり付け,金属あるいは樹脂製かしめ,輪ゴム,テープ止め,ジッパーなどが使用できる。また,ヒートシールに適さないフィルムを用いる場合は,シーラント層をラミネートあるいはコーティングすることで形成すれば良い。例えば,アクリル樹脂をコーティングしたセロハンフィルム,ポリエチレンテレフタレート(PET)に線状低密度ポリエチレン(LLDPE)ポリスチレンとEVAをラミネートしたフィルムが挙げられる。また,タッパーのようにフィルムを用いないものでも容器に切れ込みを入れることで,ガス透過速度を制御することができる。
実施例 【0019】以下実施例で本発明を説明する。なお,本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例1》防曇加工を施した厚さ0.03mmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムで内寸130×280mmの袋を作製した。この袋には,長さ5mmの直線の切れ込み1個をデザインナイフにより設けた。この袋に,およそ220gのエクアドル産バナナ(グリーンチップの状態)1本を入れて開口部をヒートシールで密封し,20℃で5日間保管した(n=3)。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びバナナの品質評価結果を表1に記した。(バナナ100gあたりの切れ込みの長さは,2.3mm) 《参考例1》長さが10mmの切れ込みを1個入れた以外は実施例1と同様にバナナを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びバナナの品質評価結果を表1に記した。(バナナ100gあたりの切れ込みの長さは,4.5mm) 【0020】《比較例1》切れ込みを入れていない以外は,実施例1と同様にバナナを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びバナナの品質評価結果を表1に記した。
《比較例2》切れ込みの代わりに直径5mmの孔を8個空けた以外は,実施例1と同様にバナナを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びバナナの品質評価結果を表1に記した。
【0022】《実施例3》防曇加工を施した厚さ0.03mmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムで内寸190×260mmの袋を作製した。この袋には,長さ1mmの直線の切れ込み1個を入れた。この袋に,270gの緑豆モヤシを入れて開口部をヒートシールで密封し,10℃で4日間保管した(n=3)。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及び緑豆モヤシの品質評価結果を表2に記した。
(緑豆モヤシ100gあたりの切れ込みの長さは,0.4mm) 《比較例3》切れ込みを入れていない以外は,実施例3と同様に緑豆モヤシを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及び緑豆モヤシの品質評価結果を表2に記した。
《比較例4》切れ込みの代わりに直径5mmの孔を8個空けた以外は,実施例3と同様に緑豆モヤシを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及び緑豆モヤシの品質評価結果を表2に記した。
【0024】《実施例4》ポリプロピレン(厚さ0.025mm)と線状低密度ポリエチレン(厚さ0.02mm)のラミネートフィルム(厚さ0.045mm)で内寸230×330mmの袋を作製した。この袋には,長さ8mmの直線の切れ込み3個を入れた。この袋に,およそ360gのブロッコリー1個を入れて開口部をヒートシールで密封し,25℃で3日間保管した(n=3)。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びブロッコリーの品質評価結果を表3に記した。(ブロッコリー100gあたりの切れ込みの長さは,7mm) 《実施例5》長さ8mmの切れ込みを5個入れた以外は実施例4と同様にブロッコリーを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びブロッコリーの品質評価結果を表3に記した。(ブロッコリー100gあたりの切れ込みの長さは,11mm) 《参考例2》長さ20mmの切れ込みを2個入れた以外は実施例4と同様にブロッコリーを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びブロッコリーの品質評価結果を表3に記した。(ブロッコリー100gあたりの切れ込みの長さは,11mm) 《参考例3》幅0.05mmに加工した,カミソリの刃により長さ0.05mmの切れ込みを800個入れた以外は実施例4と同様にブロッコリーを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びブロッコリーの品質評価結果を表3に記した。(ブロッコリー100gあたりの切れ込みの長さは,11mm)なお,切れ込みの加工は,実施例5の方がはるかに容易であった。
【0025】《比較例5》切れ込みを入れていない以外は,実施例4と同様にブロッコリーを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びブロッコリーの品質評価結果を表3に記した。
《比較例6》切れ込みの代わりに直径5mmの孔を8個空けた以外は,実施例4と同様にブロッコリーを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びブロッコリーの品質評価結果を表3に記した。
《比較例7》長さ8mmの切れ込みを10個入れた以外は実施例4と同様にブロッコリーを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びブロッコリーの品質評価結果を表3に記した。(ブロッコリー100gあたりの切れ込みの長さは,22mm) 【0027】《実施例8》ポリプロピレン(厚さ0.025mm)と線状低密度ポリエチレン(厚さ0.02mm)のラミネートフィルム(厚さ0.045mm)で内寸230×350mmの袋を作製した。この袋には,長さ10mmの直線の切れ込み6個を入れた。この袋に,およそ370gのホウレンソウを入れて開口部をヒートシールで密封し,20℃で3日間保管した(n=3)。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びホウレンソウの品質評価結果を表4に記した。(ホウレンソウ100gあたりの切れ込みの長さは,16mm) 《実施例9》長さ5mmの切れ込みを6個入れた以外は実施例8と同様にホウレンソウを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びホウレンソウの品質評価結果を表4に記した。(ホウレンソウ100gあたりの切れ込みの長さは,8mm) 【0028】《比較例9》切れ込みを入れていない以外は,実施例8と同様にホウレンソウを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びホウレンソウの品質評価結果を表4に記した。
《比較例10》切れ込みの代わりに直径5mmの孔を8個空けた以外は,実施例8と同様にホウレンソウを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びホウレンソウの品質評価結果を表4に記した。
【0030】《実施例10》厚さ0.025mmの防曇処理を施した二軸延伸ポリプロピレンフィルムで内寸200×280mmの袋を作製した。この袋には,長さ1mmの直線の切れ込み1個を入れた。この袋に,3本(およそ730g)のニンジンを入れて開口部をヒートシールで密封し,15℃で5日間保管した(n=3)。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びニンジンの品質評価結果を表5に記した。(ニンジン100gあたりの切れ込みの長さは,0.1mm) 《比較例11》切れ込みを入れていない以外は,実施例10と同様にニンジンを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びニンジンの品質評価結果を表5に記した。
《比較例12》切れ込みの代わりに直径5mmの孔を8個空けた以外は,実施例10と同様にニンジンを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びニンジンの品質評価結果を表5に記した。
【0032】《実施例11》厚さ0.025mmの線状低密度ポリエチレンで内寸150×250mmの袋を作製した。この袋には,長さ3mmの直線の切れ込み1個を入れた。この袋に,2個(およそ340g)のトマト(品種:桃太郎)を入れて開口部をヒートシールで密封し,25℃で4日間保管した(n=3)。このと きの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びトマトの品質評価結果を表6に記した。
(トマト100gあたりの切れ込みの長さは,0.9mm) 《比較例13》長さ15mmの切れ込みを5個入れた以外は実施例11と同様にトマトを保管した。このときの袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度及びトマトの品質評価結果を表6に記した。(トマト100gあたりの切れ込みの長さは,22mm) (2) 前記(1)の記載によれば,本件明細書には,本件各発明に関し,以下の点が開示されていることが認められる。
ア 本件各発明は,青果物用の包装袋に関するものである(【0001】)。
青果物は,大気よりも適度な低酸素,高二酸化炭素環境下においては呼吸が抑制されて劣化や追熟が軽減され,過度な低酸素,高二酸化炭素環境下においては異常代謝によって異臭,トロケなどの劣化が促進されることが知られており,この原理を利用して,青果物自身の呼吸速度と包材のガス透過速度のバランスによって包装内のガス濃度を青果物の保存に適した雰囲気にするMA包装の実用化が進んでいる(【0002】)。
しかし,この青果物の包装用に通常使用されているポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムといった資材をそのまま使用すると,ガス透過速度不足によって包装体内の酸素が不足して青果物が異常呼吸を行い,青果物の劣化が促進されることから,包装袋の酸素透過速度を,包装した青果物の呼吸速度に適したものにするため,フィルムに微細孔等を加工しなくてはならず,フィルムが白っぽくなって透明性が低下し,中には異物が付着しているように見えて見栄えが悪くなるという欠点があり,加工に関しても,ダイヤモンドの粉末を付着させた特殊なロールにフィルムを押し付けてフィルムを削るため,極めて特殊な装置が必要であり,多種多様な青果物の呼吸速度や特性に合わせた多種類のフィルムを量産することが困難であるという問題があった(【0002】,【0003】)。
イ 本件各発明は,フィルムへの加工が容易であり,加工を施してもフィルムの 見栄えが悪くなることなく,MA効果による青果物の鮮度保持が可能であり,簡易な仕組みで安価に,しかも小ロットで製造することができる青果物用の包装袋を提供することを目的とし(【0004】),解決手段として,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を,青果物の種類やフィルムの材質に関わらず,青果物の保存に適した雰囲気とすることを可能とし,かつ,フィルムへの加工が容易であり,簡易な仕組みで安価に製造することができるように,各特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(【0011】〜【0013】,【0016】)。
このうち,本件発明1は,フィルムを含む包装袋に1個以上の切れ込みを設け,かつ,設ける切れ込みの形状を,@青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計が,0.08mm以上17mm以下であり,A切れ込み1個当たりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり,BTが0.01mm以上0.1mm以下であることを特徴とするものと規定したものである(【0005】)。
ウ 本件各発明により,容易な加工により作成できるMA効果を有する包装袋を提供することができ,加工後もフィルムの見栄えが悪くなることはなく,MA効果により青果物の鮮度保持が可能であるという効果を奏する(【0006】)。
2 取消事由1(明確性要件(特許法36条6項2号)に係る判断の誤り)について (1) 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を 基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
上記のとおり,特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関して,「特許を受けようとする発明が明確であること。」を要件としているが,同号の趣旨は,それに尽きるのであって,その他,発明に係る機能や作用効果を左右する要因となる事項の全てを記載することを要件としているわけではない。
(2) 「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」についてア 原告は,本件発明1は構成要件E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との発明特定事項を含むものであるところ,包装した青果物の重量及び包装袋の切れ込みの長さの合計は一義的に定まらない旨主張する。
しかし,本件発明1は,特許請求の範囲(請求項1)に記載されているとおり,所定の長さの切れ込みが設けられた「青果物用包装袋」の発明であるところ,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」は,包装袋全体に設けられた切れ込みの長さの合計と,青果物用包装袋に包装されている青果物の重量又は包装される青果物のあらかじめ設定されている重量とに基づいて,一義的に定まる数値であると認められる。
したがって,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」との発明特定事項は,不明確であるとはいえない。
イ 原告は,本件発明1の包装袋は,形状,大きさ,フィルムの材質の限定がなく,厚みも0.01mm以上0.1mm以下の範囲で変動するものであるから,「青果物用包装袋」との限定があったとしても,包装した青果物の重量及び包装袋の切れ込みの長さの合計は一義的に定まらない旨主張する。
しかし,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」は,包装袋全体の切れ込みの長さの合計と,青果物用包装袋に包装されている青果物の重量又は包装される青果物のあらかじめ設定されている重量とに基づいて定まるものであって,包 装袋の形状,大きさやフィルムの材質に関わるものではない。
本件発明1は,「青果物用包装袋」の発明であり,本件明細書の【0015】には,「切れ込みの加工時期は,特に限定されない。フィルムの製作時に行っても良いし,製袋時,或は製袋後に行っても良い。」と記載されているのであるから,包装袋に青果物を入れた状態を想定し,包装される青果物の重量をあらかじめ設定することは,当業者が普通に行うことである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告は,包装袋が空の状態のときには,包装袋に青果物がどの程度まで充填できるのか,その最大値についておおよその検討はつくものの,青果物の販売態様等により実際にどの程度充填されるのかは分からないから,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」の数値範囲は一義的に定まらない旨主張する。
しかし,包装袋全体の切れ込みの長さの合計と包装される青果物のあらかじめ設定されている重量とに基づいて一義的に定まった「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」の数値が,その後の包装袋を使用する際の青果物の充填量や充填方法いかんによって,明確でなくなるというものではない。包装袋を使用する際の青果物の充填量や充填方法いかんは,当該包装袋が本件発明1の技術的範囲に属するか否かに係る問題であって,明確性要件の問題ではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 発明特定事項の不足について ア 原告は,本件発明1の特許請求の範囲には,その構成要件を満たしていても,従来技術を下回る鮮度保持効果しか奏さない領域が含まれており,本件発明1は,発明を特定するための事項が不足している旨主張する。
しかし,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のとおりであり,その構成の意義は一義的に明らかであって,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすようなものではないから,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,@青果物は,種類によって特性が大きく異なるから,本件明細書に記載された実施例からは,本件発明1が鮮度保持効果を有することについての検証が不十分であること,A原告が行った実験結果によれば,種々の青果物について,本件発明1を適用しても良好な鮮度保持効果が得られないばかりか,従来技術を下回る鮮度保持効果しか得られなかったことを根拠に,本件発明1は発明を特定するための事項(鮮度保持効果を左右する要因となる事項)が不足している旨主張する。
しかし,特許請求の範囲には,特許出願人が発明を特定するために必要と認める事項の全てを記載すればよいのであり(特許法36条5項),同条6項に規定する要件を満たす範囲で,発明特定事項として何を挙げるかは特許出願人の意思に委ねられている。そして,特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲の記載に関して,特許を受けようとする発明が明確であることを要件とすることに尽きるのであって,発明に係る機能や作用効果を左右する要因となる事項の全てを記載することを要件としているわけではない。
したがって,発明特定事項(鮮度保持効果を左右する要因となる事項)の不足をもって明確性要件違反をいう原告の上記主張は,理由がない。
(4) 良好な鮮度保持効果の不奏効について 原告は,充填物の種類や量,包装袋の材質によって青果物の鮮度保持性が大きく変動するにもかかわらず,切れ込みの長さと厚みのみに関するパラメータで全ての合成樹脂製の包装袋において,全ての青果物の鮮度保持性が制御できるとする本件発明1は不明確である旨主張する。
しかし,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)に記載された構成は,その意義が一義的に明らかであって,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすようなものではないことは,前記(3)アのとおりである。
原告の上記主張は,要するに,充填物の種類や量,包装袋の材質によって青果物の鮮度保持性が大きく変動するから,本件発明1は,全ての合成樹脂製の包装袋に おいて,全ての青果物の鮮度保持性を制御し得る発明としての特定事項に欠け,不明確である旨主張するものと解されるが,前記(3)イと同様に,理由がない。
(5) 小括 以上によれば,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(サポート要件(特許法36条6項1号)に係る判断の誤り)について (1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
(2) そこで,特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比する。
ア まず,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりである。
イ 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記1(1)のとおり,本件発明1は,青果物が,大気よりも適度な低酸素,高二酸化炭素環境下においては呼吸が抑制されて劣化や追熟が軽減され,過度な低酸素,高二酸化炭素環境下においては異常代謝によって異臭,トロケなどの劣化が促進されるという原理を利用して,青果物自身の呼吸速度と包材のガス透過速度のバランスによって包装内のガス濃度を青果物の保存に適した雰囲気にするMA包装(【0002】)において,フィルムへの加工が容易であり,加工を施してもフィルムの見栄えが悪くなることなく,MA効果による青果物の鮮度保持が可能であり,簡易な仕組みで安価に,しかも小ロットで製造することができる青果物用の包装袋を提供することを目的とし(【0004】),かかる課題を解決する手段として,本件発明1は,フィルムを含む包装袋 に1個以上の切れ込みを設け,かつ,切れ込みの形状を@青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下であり,A切れ込み1個当たりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり,BTが0.01mm以上0.1mm以下であるように形成することによって(【0005】),容易な加工により作成できるMA効果を有する包装袋を提供することができ,加工後もフィルムの見栄えが悪くなることはなく,MA効果により青果物の鮮度保持が可能であるという効果を奏するものであること(【0006】)が記載されている。
そして,鮮度保持可能な青果物に限定はなく,カットした野菜やフルーツ用としても使用可能であり(【0008】),包装袋はフィルムを含むが,フィルムの材質は特に限定されず(【0009】),フィルムの厚みは,強度の点から,0.01mm以上が好ましく,経済的な点を考えると0.1mm以下が好ましく(【0010】),包装袋に切れ込みを1個以上設けるが(【0011】),包装袋に包含した青果物100g当たりの切れ込み長さの合計が,0.08mm未満では,包装した青果物が酸欠(嫌気)状態になって,トロケ(水浮き)やアルコール発酵による異臭発生などの劣化を生じやすく,20mmを超えると,包装袋内が充分な低酸素濃度及び高二酸化炭素濃度にならないため,顕著な鮮度保持効果が得にくいことから,包装袋に包含した青果物100g当たりの切れ込み長さの合計は,0.08mm以上20mm以下であり,好ましくは,青果物100g当たりの切れ込み長さの合計は,17mm以下であること(【0012】),切れ込み1個分の長さをL(mm),フィルムの厚みをT(mm)としたとき,L/Tの比が16未満では,フィルムに加工を施しにくくなる可能性があり,250を超えると切れ込み部が開きやすくなるおそれがあることから,L/Tの比が16以上250以下であることが好ましいこと(【0013】),酸素濃度が,0.04%未満や二酸化炭素濃度が26%を超えると,青果物はガス障害を起こして異臭,トロケ,内部褐変などの劣化を生じやすく,酸素濃度が19%を超えたり,二酸化炭素濃度が2%未満であ ったりする場合は,青果物の呼吸抑制効果が小さいため,黄化防止,褐変防止,内容成分の減少などが起こる可能性があることから,包装体内の酸素濃度は,0.04〜19%,炭酸ガス濃度が2〜26% であることが好ましいこと(【0016】)が記載されている。
ウ さらに,実施例として,以下の記載がある。
@ 【表1】には,厚さ0.03mmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムで作製し,長さ5mmの直線の切れ込み1個を設けた袋に,約220gのバナナ(グリーンチップの状態)1本を入れて(バナナ100g当たりの切れ込みの長さは2.3mm。L/T=167),開口部をヒートシールで密封し,20℃で5日間保管した実施例1における,袋内の酸素濃度,二酸化炭素濃度,品質評価結果が,参考例1(長さが10mmの切れ込みを1個入れた以外は実施例1と同様であり,バナナ100g当たりの切れ込みの長さは,4.5mm,L/T=333),比較例1(切れ込みを入れていない以外は実施例1と同様である),比較例2(切れ込みの代りに直径5mmの孔を8個空けた以外は,実施例1と同様である)における品質評価結果等とともに記載されている(【0019】〜【0021】)。
A 【表2】には,厚さ0.03mmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムで作製し,長さ1mmの直線の切れ込み1個を設けた袋に,270gの緑豆モヤシを入れて(緑豆モヤシ100g当たりの切れ込みの長さは0.4mm。L/T=33),開口部をヒートシールで密封し,10℃で4日間保管した実施例3における,袋内の酸素濃度,二酸化炭素濃度,品質評価結果が,比較例3(切れ込みを入れていない以外は実施例3と同様である),比較例4(切れ込みの代りに直径5mmの孔を8個空けた以外は,実施例3と同様である)における品質評価結果等とともに記載されている(【0022】,【0023】)。
B 【表3】には,ポリプロピレン(厚さ0.025mm)と線状低密度ポリエチレン(厚さ0.02mm)のラミネートフィルム(厚さ0.045mm)で作製し,長さ8mmの直線の切れ込み3個を設けた袋に,約360gのブロッコリーを 入れて(ブロッコリー100g当たりの切れ込みの長さは7mm。L/T=178),開口部をヒートシールで密封し,25℃で3日間保管した実施例4,長さ8mmの切れ込みを5個入れた(ブロッコリー100g当たりの切れ込みの長さは11mm。L/T=178)以外は実施例4と同じにした実施例5における,袋内の酸素濃度,二酸化炭素濃度,品質評価結果が,参考例2(長さが20mmの切れ込みを2個入れた以外は実施例4と同様であり,ブロッコリー100g当たりの切れ込みの長さは,11mm,L/T=444),参考例3(長さが0.05mmの切れ込みを800個入れた以外は実施例4と同様であり,ブロッコリー100g当たりの切れ込みの長さは,11mm,L/T=1),比較例5(切れ込みを入れていない以外は実施例4と同様である),比較例6(切れ込みの代りに直径5mmの孔を8個空けた以外は,実施例4と同様である),比較例7(長さ8mmの切れ込みを10個入れた以外は,実施例4と同様である)における品質評価結果等とともに記載されている(【0024】〜【0026】)。
C 【表4】には,ポリプロピレン(厚さ0.025mm)と線状低密度ポリエチレン(厚さ0.02mm)のラミネートフィルム(厚さ0.045mm)で作製し,長さ10mmの直線の切れ込み6個を設けた袋に,約370gのホウレンソウを入れて(ホウレンソウ100g当たりの切れ込みの長さは16mm。L/T=222),開口部をヒートシールで密封し,20℃で3日間保管した実施例8,長さ5mmの切れ込みを6個入れた(ホウレンソウ100g当たりの切れ込みの長さは8mm。L/T=111)以外は実施例8と同じにした実施例9における,袋内の酸素濃度,二酸化炭素濃度,品質評価結果が,比較例9(切れ込みを入れていない以外は実施例8と同様である),比較例10(切れ込みの代りに直径5mmの孔を8個空けた以外は,実施例8と同様である)における品質評価結果等とともに記載されている(【0027】〜【0029】)。
D 【表5】には,厚さ0.025mmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムで作製し,長さ1mmの直線の切れ込み1個を設けた袋に,約730gのニンジン(3 本)を入れて(ニンジン100g当たりの切れ込みの長さは0.1mm。L/T=40),開口部をヒートシールで密封し,15℃で5日間保管した実施例10における,袋内の酸素濃度,二酸化炭素濃度,品質評価結果が,比較例11(切れ込みを入れていない以外は実施例10と同様である),比較例12(切れ込みの代りに直径5mmの孔を8個空けた以外は,実施例10と同様である)における品質評価結果等とともに記載されている(【0030】,【0031】)。
E 【表6】には,厚さ0.025mmの線状低密度ポリエチレンで作製し,長さ3mmの直線の切れ込み1個を設けた袋に,約340gのトマト(2個)を入れて(トマト100g当たりの切れ込みの長さは0.9mm。L/T=120),開口部をヒートシールで密封し,25℃で4日間保管した実施例11における,袋内の酸素濃度,二酸化炭素濃度,品質評価結果が,比較例13(長さ15mmの切れ込みを5個入れた以外は実施例11と同様である)における品質評価結果等とともに記載されている(【0032】,【0033】)。
これら実施例における品質評価結果は,いずれも比較例における品質評価結果よりも良好な鮮度保持効果が認められたことが記載されている。
エ 以上のように,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1において,青果物用包装袋を,@フィルムを含む包装袋に1個以上の切れ込みを設け,かつ,青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下であり,A切れ込み1個当たりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり,BTが0.01mm以上0.1mm以下であるように形成すること(所定範囲の長さの切れ込みを所定範囲の厚さのフィルムに設けること)によって,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を,青果物の種類やフィルムの材質に関わらず,青果物の保存に適した雰囲気とすることを可能とし,かつ,フィルムへの加工が容易であり,加工を施してもフィルムの見栄えが悪くなることなく,簡易な仕組みで安価に,しかも小ロットで製造することができることが記載されており,また,包 装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を青果物の保存に適した雰囲気にすることにより,青果物の鮮度保持が可能となることも,当業者であれば理解できる事項である。
したがって,本件明細書には,本件発明1において,青果物用包装袋を,@フィルムを含む包装袋に1個以上の切れ込みを設け,かつ,青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下であり,A切れ込み1個当たりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり,BTが0.01mm以上0.1mm以下であるように形成することによって,本件発明1の上記課題が解決されることが記載されているから,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,本件明細書の記載により,当業者が本件発明1の上記課題を解決できると認識できる範囲内のものということができ,サポート要件を充足するというべきである。
(3) 原告の主張について ア 原告は,本件明細書には,全ての青果物において「L/Tが16以上250以下」という数値範囲が良好な鮮度保持効果をもたらす根拠は示されておらず,当業者において,その効果を予測し得るに足る根拠も示されていないから,「切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下」という数値範囲に含まれる発明の全てが,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない旨主張する。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1において,青果物用包装袋を,その特許請求の範囲に記載された所定範囲の長さの切れ込みを同所定範囲の厚さのフィルムに設けることによって,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を,青果物の種類やフィルムの材質に関わらず,青果物の保存に適した雰囲気とすることを可能とし,かつ,フィルムへの加工が容易であり,加工を施してもフィルムの見栄えが悪くなることなく,簡易な仕組みで安価に,しかも小ロットで製造することができることが記載されて おり,また,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を青果物の保存に適した雰囲気にすることにより,青果物の鮮度保持が可能となることも,当業者であれば理解できる事項であるから,サポート要件を充足するというべきであることは,前記(2)のとおりである。
なお,本件発明1の特許請求の範囲が青果物の種類を限定しないものであるからといって,本件発明1が全ての青果物において良好な鮮度保持効果をもたらすことを実施例をもって示さなければ,サポート要件の充足性が認められないというものではない。
イ 原告は,本件発明1がきのこ類や土物類の鮮度保持に有効であることが立証されているわけではなく,有効であることを推測するに足る根拠も示されていないから,本件発明1は,その特許請求の範囲の全領域において,全ての青果物について良好な鮮度保持効果を有するとはいえない旨主張する。
(ア) しかし,本件明細書には,鮮度保持可能な青果物に限定はなく,カットした野菜やフルーツ用としても使用可能であることが記載 されており(【0008】),また,本件発明1は,青果物用包装袋を,その特許請求の範囲に記載された所定範囲の長さの切れ込みを同所定範囲の厚さのフィルムに設けることによって,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を,青果物の種類やフィルムの材質に関わらず,青果物の保存に適した雰囲気とすることを可能とするものであることが記載されている。
そして,青果物自身の呼吸速度と包材のガス透過速度のバランスによって包装内のガス濃度を青果物の保存に適した雰囲気にすることにより,青果物の鮮度保持が可能となる効果(MA効果)が,青果物の種類にかかわらず認められる効果であることは,本件明細書の【0002】の記載のみならず,例えば,甲2の【0003】,甲3の【0002】,甲4の【0002】等の記載からも明らかであるといえる。
そうすると,本件明細書には,本件発明1において,青果物用包装袋を,その特 許請求の範囲に記載された所定範囲の長さの切れ込みを同所定範囲の厚さのフィルムに設けることによって,原告の指摘するきのこ類,土物類を含め青果物の種類に関わらず,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を青果物の保存に適した雰囲気とし,青果物の鮮度保持が可能となることが開示されているといえる。
(イ) 加えて,被告が,平成26年4月1日から同月4日までの間,きのこ類に関しても本件発明1が本件明細書に記載された効果を奏することを明らかにする目的で行った実験は,二軸延伸ポリプロピレン(厚さ0.020mm)と線状低密度ポリエチレン(厚さ0.025mm)のラミネートフィルム(厚さ0.045mm)で内寸200mm×300mmの袋を作製し,袋内にシイタケを約300g入れて,開口部をヒートシールで密封したもの(それぞれの実験例のサンプル数n=3)を,保存期間を3日間,保存環境を温度19.6℃(平均),湿度64%(平均)として保存した後,各実験例の袋中の酸素濃度,二酸化炭素濃度及びシイタケの品質について評価を実施したものである(甲32)。この実験により,本件発明1の技術的範囲に属さない@実験例1(袋に切れ込みを入れない例),A実験例2(袋に0.2mmの切れ込みを1個入れた例であり,シイタケ100g当たりの切れ込みの長さの合計は0.07mm,L/T=4.4)及びB実験例3(袋に8mmの切れ込みを20個入れた例であり,シイタケ100g当たりの切れ込みの長さの合計は53mm,L/T=178)では,シイタケの品質が劣化していたのに対し,本件発明1の技術的範囲に属するC実験例4(袋に8mmの切れ込みを1個入れた例であり,シイタケ100g当たりの切れ込みの長さの合計は2.7mm,L/T=178)及びD実験例5(袋に2mmの切れ込みを1個入れた例であり,シイタケ100g当たりの切れ込みの長さの合計は0.67mm,L/T=44.4)では,シイタケの品質がバランス良く維持されたという結果が得られたことが認められる。
また,被告が,平成25年4月22日から同月25日までの間,ブロッコリーに 関して,本件発明1の「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」構成についてその臨界的意義を明確にする目的で行った実験は,ポリプロピレン(厚さ0.025mm)と線状低密度ポリエチレン(厚さ0.02mm)のラミネートフィルム(厚さ0.045mm)で内寸230mm×330mmの袋を作製し,袋内にブロッコリーを約360g入れ,開口部をヒートシールで密封したもの(それぞれの実験例のサンプル数n=3)を,保存期間を3日間,保存環境を温度24.8℃(平均),湿度39.3%(平均)として保存した後,各実験例の袋中の酸素濃度,二酸化炭素濃度及びブロッコリーの品質について評価を実施したものである(甲46)。この実験により,本件発明1の技術的範囲に属する@実験例A1(袋に8mmの直線の切れ込みを7個入れた例であり,ブロッコリー100g当たりの切れ込みの長さの合計は15.6mm,L/T=178)では,ブロッコリーの品質がバランス良く維持されたのに対し,本件発明1の技術的範囲に属さないA実験例A2(袋に8mmの直線の切れ込みを9個入れた例であり,ブロッコリー100g当たりの切れ込みの長さの合計は20mm,L/T=178)では,ブロッコリーの品質が劣化していたという結果が得られたことが認められる。
さらに,同様の目的で,被告が,平成26年6月20日から同月30日までの間,グリーンアスパラガスに関して行った実験は,厚み0.030mmの片面熱シール性二軸延伸防曇ポリプロピレンフィルムを120mm×190mmの合掌背貼り袋に加工し,袋内にあらかじめ7cmにカットしたグリーンアスパラガス100gを入れ,開口部をヒートシールで密封したもの(それぞれの実験例のサンプル数n=6)を,保存期間を10日間,保存環境を温度10.2℃(平均),湿度94%(平均)として保存した後,各実験例の袋中の酸素濃度,二酸化炭素濃度及びグリーンアスパラガスの品質について評価を実施したものである(甲46)。この実験により,本件発明1の技術的範囲に属する@実験例B1(袋に1.8mmの切れ込みを9個入れた例であり,グリーンアスパラガス100g当たりの切れ込みの長さ の合計は16.2mm,L/T=60)では,グリーンアスパラガスの品質がバランス良く維持されたのに対し,本件発明1の技術的範囲に属さないA実験例B2(袋に2mmの切れ込みを9個入れた例であり,グリーンアスパラガス100g当たりの切れ込みの長さの合計は18mm,L/T=67)及びB実験例B3(袋に2.1mmの切れ込みを9個入れた例であり,グリーンアスパラガス100g当たりの切れ込みの長さの合計は18.9mm,L/T=70)では,グリーンアスパラガスの品質が劣化していたという結果が得られたことが認められる。
このように,本件発明1において,青果物用包装袋を,その特許請求の範囲に記載された所定範囲の長さの切れ込みを同所定範囲の厚さのフィルムに設けることによって,原告の指摘するきのこ類に属するシイタケや,ブロッコリー,グリーンアスパラガスについても,青果物の鮮度保持が可能となることが認められる。
(ウ) なお,原告は,本件発明1がその特許請求の範囲の全領域において,全ての青果物について良好な鮮度保持効果を有するとはいえないことの根拠として,原告の行った実験結果(甲13,22,23,88〜92)を挙げる。
しかし,このうち,甲13,22及び23の実験は,それぞれ本件発明1の「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」構成の下限値付近の実験例1例を示すものにすぎず,これらの実験結果をもって,前記(ア)の認定を左右するに足りないというべきである。また,本来,青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計は,袋内の酸素濃度と比例し,袋内の二酸化炭素濃度と反比例する関係にあると考えられるが,甲88ないし92の実験結果の一部には,この関係があるとは認められないものが存することに鑑みれば,上記実験結果をもって,前記(ア)の認定を左右するに足りないというべきである。
ウ 原告は,フィルムはその材質によって,水蒸気,酸素,二酸化炭素等の透過度等が異なるにもかかわらず,本件明細書中には,OPPフィルム及びポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのラミネートフィルムの実施例のみしか記載されていないから,サポート要件を満たさない旨主張する。
しかし,本件明細書には,包装袋はフィルムを含むが,フィルムの材質は特に限定されないことが記載されており(【0009】),また,本件発明1は,青果物用包装袋を,その特許請求の範囲に記載された所定範囲の長さの切れ込みを同所定範囲の厚さのフィルムに設けることによって,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を,青果物の種類やフィルムの材質に関わらず,青果物の保存に適した雰囲気とすることを可能とするものであることが記載されている。
フィルムの材質によって,水蒸気,酸素,二酸化炭素等の透過度に差があるとしても,そのことから,直ちに本件発明1の作用効果が否定されるとはいえない。
エ 原告は,本件発明1の特許請求の範囲には,3つのパラメータが規定されていることからすれば,本件明細書に記載された程度の実施例では,当業者において本件発明1による効果が得られると認識できる程度に具体例を開示して記載しているとはいえない旨主張する。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,実施例等の記載とあいまって,本件発明1において,青果物用包装袋を,その特許請求の範囲に記載された所定範囲の長さの切れ込みを同所定範囲の厚さのフィルムに設けることによって,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を,青果物の種類やフィルムの材質に関わらず,青果物の保存に適した雰囲気とすることを可能とし,かつ,フィルムへの加工が容易であり,加工を施してもフィルムの見栄えが悪くなることなく,簡易な仕組みで安価に,しかも小ロットで製造することができることが記載されている。また,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を青果物の保存に適した雰囲気にすることにより,青果物の鮮度保持が可能となることも,当業者であれば理解できる事項であるから,サポート要件を充足するというべきであることは,前記(2)のとおりである。
オ 原告は,本件発明1には,特許請求の範囲に記載されたパラメータ以外に「フィルムの材質」と「青果物」という二つのパラメータが存在するにもかかわら ず,本件明細書には,フィルムの種別や青果物の種類による呼吸作用の程度の差を踏まえた実施例等の記載がないから,サポート要件を満たさない旨主張する。
しかし,本件発明1の特許請求の範囲には,フィルムの材質や青果物の種類を限定する記載は存しない。そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,実施例等の記載とあいまって,本件発明1において,青果物用包装袋を,その特許請求の範囲に記載された所定範囲の長さの切れ込みを同所定範囲の厚さのフィルムに設けることによって,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を,青果物の種類やフィルムの材質に関わらず,青果物の保存に適した雰囲気とすることを可能とし,かつ,フィルムへの加工が容易であり,加工を施してもフィルムの見栄えが悪くなることなく,簡易な仕組みで安価に,しかも小ロットで製造することができることが記載されている。
したがって,本件明細書中に,本件発明1が「フィルムの材質」と「青果物」というパラメータを規定した発明であることを前提とする実施例等の記載がないことをもって,サポート要件違反をいう原告の主張は,失当である。
カ 原告は,本件明細書の記載から,本件発明1が従来技術と比べて優れた効果を奏するものであることを認定することはできないから,サポート要件を満たさない旨主張する。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1において,青果物用包装袋を,その特許請求の範囲に記載された所定範囲の長さの切れ込みを同所定範囲の厚さのフィルムに設けることによって,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を,青果物の種類やフィルムの材質に関わらず,青果物の保存に適した雰囲気とすることを可能とし,かつ,フィルムへの加工が容易であり,加工を施してもフィルムの見栄えが悪くなることなく,簡易な仕組みで安価に,しかも小ロットで製造することができることが記載されているから,当業者であれば,実施例等の記載を含め本件明細書の記載から,本件発明1が所定の作用効果を奏するものであることを理解できるといえる。
なお,本件発明1の効果は,青果物の鮮度保持効果を奏することのみならず,これとともに,フィルムへの加工が容易であり,加工を施してもフィルムの見栄えが悪くなることなく,簡易な仕組みで安価に,しかも小ロットで製造することができるという効果を奏することにあるから,鮮度保持効果のみを捉えて,本件発明1の効果が従来技術と比較して劣ることを指摘する原告の主張は,当を得ない。
(4) 小括以上によれば,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(実施可能要件(特許法36条4項1号)に係る判断の誤り)について(1) 特許法36条4項1号実施可能要件を定める趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号),物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を製造し,使用することができる程度の記載があることを要する。
(2) 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)及び本件発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載は,前記第2の2のとおりであり,本件発明1は,フィルムを含む包装袋に1個以上の切れ込みを設け,かつ,切れ込みの形状を@青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下であり,A切れ込み1個当たりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり,BTが0.01mm以上0.1mm以下であるように形成した青果物用包装袋であり,本件発明2は,上記@ないしBに加え,C切れ込み1個当たりの長さが0.1mm以上12mm以下であるように形成した青果物用包 装袋である。
厚みが0.01mm以上0.1mm以下であるフィルムを用いて所定の形状及び大きさの包装袋を作製すること,当該フィルムに,フィルムの厚さTに対する比(L/T)が16以上250以下となり,かつ,長さLの合計が包装袋で包装することを予定している青果物100g当たり0.08mm以上17mm以下となるように,切れ込みを1個以上形成することにより,本件発明1の青果物用包装袋を容易に製造することができ,本件発明2の青果物用包装袋は,上記に加え,切れ込みを,その1個当たりの長さLが0.1mm以上12mm以下となるように形成することにより,容易に製造することができる。また,このようにして製造された包装袋に青果物を入れて,本件発明1及び2の包装袋を青果物用包装袋として使用することも容易である。そして,これらの本件発明1及び2の包装袋の作製については,本件明細書の発明の詳細な説明にも記載されている(【0009】〜【0015】,【0018】,【0019】,【0022】,【0024】,【0027】,【0030】,【0032】)。
以上によれば,当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願当時の技術常識に基づいて,本件発明1及び2を実施することが可能であったと認められる。
(3) 原告の主張について ア 原告は,本件明細書に記載された比較例は,本件特許の出願時の技術水準と比較して明らかに劣る技術に基づくものであり,当該比較例のみでは,実施例について従来技術と比較した場合の効果を認識することができない旨主張する。
しかし,前記(1)のとおり,物の発明について実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を製造し,使用することができる程度の記載があるか否かによるというべきであって,明細書に記載された比較例の態様いかんにより実施可能要件の充足性が左右されるものではない。原告の上 記主張は,実施可能要件に関する主張としては失当である。
イ 原告は,本件明細書における実施例及び比較例には,湿度条件の記載がなく,これが全く考慮されていないところ,湿度条件が青果物の鮮度保持へ多大な影響を及ぼすことを熟知している当業者であれば,本件明細書に記載された実施例を見ても,鮮度保持効果の有無について認識することができず,本件発明1及び2の青果物用包装袋を作り,使用するために,湿度条件を変えて何度も鮮度保持実験をしなければならず,過度の試行錯誤が必要となる旨主張する。
本件明細書に記載された実施例及び比較例における鮮度保持効果の検証実験は,包装袋に青果物を入れて数日間保管するというものであって,明細書に記載された保管温度や保管期間以外の条件については,当業者において,技術常識に照らして適当と考えられる条件を設定することで,特段の試行錯誤を要することなく行い得るものであると認められる。
原告は,湿度条件の記載がないことを指摘するものの,前記(1)のとおり,特許法36条4項1号は,実施例や比較例に記載された実験を完全に同一の条件で再現し得るまでの記載を要求する趣旨の規定であるとは解されないから,湿度条件の記載がないことをもって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないとはいえない。
(4) 小括以上によれば,取消事由3は理由がない。
5 取消事由4-1(引用例1に基づく新規性判断の誤り)について(1) 引用発明1についてア 引用例1(甲1)に前記第2の3(3)アの引用発明1が記載されていることは当事者間に争いがなく,引用例1には,次のような記載がある。
(ア) 特許請求の範囲 【請求項1】透湿度が5〜30g/(m2・24hrs)のフィルムを用いた包装袋において,長さが0.5〜1.5mmであるスリットを少なくとも一つ以上有し, かつ,前記フィルムの総面積に対し前記スリットの合計全長が50〜400mm/m2の比率となるように前記スリットが形成されていることを特徴とする青果物用鮮度維持包装袋。
(イ) 発明の属する技術分野 【0001】この発明は,包装袋に関し,特には水分を多く含む野菜,果実,きのこ類や水分を含んだスポンジ等を苗床に使う水耕栽培の農作物等の鮮度を維持するために内部水蒸気圧を制御する青果物用鮮度維持包装袋に関する。
(ウ) 従来の技術 【0002】収穫された野菜や果物,きのこ類等を販売流通させる際,根や株を付けた状態の方が鮮度維持に適していることが知られている。また,最近では,水分を含んだスポンジ等を苗床に使って前述の根や株に土や雑菌が付かない水耕栽培の方法が発達し,用いられるようになっている。そして,これらの青果物をより新鮮な状態に保ちながら販売流通させるには,青果物の水分保持のためにトレイラップ包装やフィルム包装等を行う必要がある。
【0003】ところが,青果物の根や株を切り取らずに包装する場合では,容器内部に余剰な水分が充満し,青果物に水っぽさ,腐り,異臭,とろけ等様々な悪影響を及ぼすだけでなく,容器内部への水滴の付着によって見た目が悪くなるという問題があった。
【0004】この問題を解決する方法として,トレイラップ包装やフィルム包装等の容器に所定の開孔面積を有した補助穴を設ける手段が一般化している(例えば,特許文献1参照。)。しかしながら,例えば,図5に示したように,補助穴が貫通した大きな穴(貫通孔)50である場合は,該貫通孔50の開孔部51が常に所定の開孔面積で開放した状態となる。そのため,常に水分が容器外部へ放出されることとなり,鮮度維持に必要な水分が蒸散して過度の乾燥が進行し,青果物等がしおれてしまうという現象が起こる。一方,レーザーや加熱針等で設けた小さな穴である場合では,水滴によってその穴がふさがってしまう等の問題があるため水分の制 御が難しく,それに加えてコストも上がってしまうという欠点があった。また,他の方法としては,水分の蒸発量を予め計算しておき,それに応じて流通させることも可能であるが,流通環境の変化による蒸発量の推測が極めて困難であり,実用的ではなかった。
(エ) 発明が解決しようとする課題 【0006】この発明は前記の点に鑑みなされたものであって,青果物の根や株等を切り取らずに包装する際に,余剰な水分による悪影響を抑えかつ水分蒸散によるしおれが起こらない内部水蒸気圧を制御する青果物用鮮度維持包装袋を提供することを目的とするものである。
(オ) 課題を解決するための手段 【0007】すなわち,請求項1の発明は,透湿度が5〜30g/(m2・24hrs)のフィルムを用いた包装袋において,長さが0.5〜1.5mmであるスリットを少なくとも一つ以上有し,かつ,前記フィルムの総面積に対し前記スリットの合計全長が50〜400mm/m2の比率となるように前記スリットが形成されていることを特徴とする青果物用鮮度維持包装袋に係る。
【0008】請求項2の発明は,前記スリットが,前記包装袋の上部と中部の双方またはいずれか一方に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の青果物用鮮度維持包装袋に係る。
(カ) 発明の実施の形態 【0009】以下添付の図面に従ってこの発明を詳細に説明する。図1は本発明の包装袋の一実施例を示す斜視図,図2はスリット加工されたフィルムの部分斜視図,図3はスリット加工工程の一例を表した概略図,図4は開孔ロールの他の例を示す概略図である。
【0010】図1は,この発明の一例を示す青果物用鮮度維持包装袋10(以下,包装袋10)であって,果実やきのこ類,水分を含んだスポンジ等を苗床に使う水耕栽培の農作物等,水分を多く含む豆苗やカイワレ等の被包装物(図示せず)を収 納し,ピロー包装によって包装したものである。この包装袋10は,透湿度が5〜30g/(m2・24hrs)の合成樹脂フィルム11からなり,該フィルム11上に長さが0.5〜1.5mmであるスリット15が少なくとも一つ以上形成されている。
【0011】前記スリット15は,後述するスリット加工工程において,前記フィルム11の総面積(単位はm 2 )に対し前記スリット15の合計全長(単位はmm)が50〜400mm/m 2の比率,すなわち,フィルム11の面積1m 2あたりに,スリット15の長さが合計で50〜400mmとなるように形成されることを特徴とするものである。特に,好ましくは,前記スリット15の合計全長の比率(スリット率)を250〜270mm/m2とするとよい。
【0013】ここで,上記のように構成された包装袋10の作用について説明する。この包装袋10は,前述した従来の補助穴のように所定の開孔面積を有したものとは異なり,開孔面積が不規則に変化するスリット15によって包装袋10の内部水蒸気圧の制御を行うものである。
【0014】前記スリット15は,包装袋10の内部水蒸気圧の変化に伴って開孔面積を変化させる。例えば,前記包装袋10内の水蒸気圧と外部の水蒸気圧とが等しい(余剰水分がなく,乾燥もしていない)場合は,図2(a)に示すように,スリット15が略閉鎖状態となる。このように前記スリット15が略閉鎖状態となっていると,該スリット15の開孔面積が極めて小さくなるため,包装袋10の内部と外部の水蒸気の流通がフィルム11によって妨げられるようになる。したがって,この包装袋10では,被包装物の鮮度維持に必要な水分が外部に放出されにくくなり,前記被包装物の乾燥やしおれ等を防ぐことができる。
【0015】一方,包装袋10内部に余剰水分がたまって該包装袋10内の水蒸気圧が外部の水蒸気圧力より高くなった場合は,図2(b)に示すように,スリット15が内圧によって押し開かれて開放した状態となる。この状態では,前記スリット15の切れ目が開いて開孔部16が形成されて開孔面積が大きくなり,包装袋 10の内部と外部の水蒸気が流通可能になる。したがって,前記包装袋10内にたまっていた余剰水分が外部に放出されるように作用し,被包装物の腐りやとろけ等を防止することができる。
【0016】このように,本発明の包装袋10では,包装袋10の内部水蒸気圧が変化することによって,スリット15が図2(a)に示した略閉鎖状態と図2(b)に示した開放状態との間で開孔面積を不規則に変化させて,内部水蒸気圧の制御を行うように作用する。また,前記開孔部16はスリット15によって形成されているため,内部水蒸気圧の変化に合わせて開孔面積が適宜変化するように構成されている。
【0017】また,本発明では,一つのスリットの長さを0.5〜1.5mmと設定しているため,包装袋の強度が損なわれることなく効率よく内部水蒸気の制御を行うことができる。すなわち,スリットの長さが1.5mmよりも長い場合は,包装袋に何らかの力がかかった際にスリットが裂け拡がってしまうおそれがあり,0.5mmよりも短ければ,水滴によってスリットの開孔部が塞がれてしまい内部水蒸気の制御に不都合が生じる。
【0025】このスリット加工工程においては,スリット形成の際に,従来の補助穴のようにレーザー等の特殊な装置を用いる必要がないため,作業を極めて容易に行うことができる。すなわち,スリット作成の際にはその長さの調整を管理するだけでよく,その調整が加工時のテンションの制御のみで容易に行うことができるのである。したがって,加工工程が極めて簡略化かつ管理容易となり,コストが大幅に軽減される。
【0028】次に,この発明の包装袋10について,具体的な実施例を説明する。
以下の実施例では,被包装物M1として水耕栽培されたカイワレ100g,被包装物M2として水耕栽培された豆苗300gを用いた。そして,以下に示す実施例及び比較例のように包装袋10のフィルム材質及びフィルムの透湿度を適宜変更し,前述した製造工程にしたがって該包装袋10を製造してカイワレまたは豆苗を包装 した。
【0029】この実施例及び比較例では,それぞれフィルムの透湿度及びフィルム材質の異なるフィルム1〜5を使用した。「フィルム1」は透湿度5.2g/(m2・24hrs)の延伸ポリプロピレンフィルム(OPP),「フィルム2」は透湿度18.1g/(m2・24hrs)の延伸ポリプロピレンフィルム(OPP),「フィルム3」は透湿度28.0g/(m2・24hrs)の直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPE),「フィルム4」は透湿度168.0g/(m 2・24hrs)の延伸ポリスチレンフィルム(OPS),「フィルム5」は透湿度28.0g/(m2・24hrs)の延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)である。
【0031】「実施例1」「フィルム1」を使用し,フィルム1m 2あたりにスリット長1.0mmのスリットを50個形成して「実施例1」を得た。実施例1において,フィルム1m2あたりのスリットの合計全長(スリット率)は50(mm/m2)である。
【0032】「実施例2」「フィルム1」を使用し,フィルム1m 2あたりにスリット長1.0mmのスリットを100個形成して「実施例2」を得た。実施例2において,フィルム1m2あたりのスリットの合計全長は100(mm/m 2)である。
【0033】「実施例3」「フィルム1」を使用し,フィルム1m 2あたりにスリット長1.0mmのスリットを250個形成して「実施例3」を得た。実施例3において,フィルム1m2あたりのスリットの合計全長は250(mm/m 2)である。
【0034】「実施例4」「フィルム1」を使用し,フィルム1m2あたりにスリット長1.0mmのスリットを400個形成して「実施例1」を得た。実施例4において,フィルム1m2あたりのスリットの合計全長は400(mm/m 2)である。
【0035】「実施例5」「フィルム2」を使用し,フィルム1m 2あたりにスリット長1.0mmのスリットを50個形成して「実施例2」を得た。実施例5において,フィルム1m2あたりのスリットの合計全長は50(mm/m2)である。
【0036】「実施例6」「フィルム2」を使用し,フィルム1m 2あたりにスリ ット長1.0mmのスリットを100個形成して「実施例6」を得た。実施例6において,フィルム1m2あたりのスリットの合計全長は100(mm/m 2)である。
【0037】「実施例7」「フィルム2」を使用し,フィルム1m 2あたりにスリット長0.5mmのスリットを500個形成して「実施例7」を得た。実施例7において,フィルム1m2あたりのスリットの合計全長は250(mm/m 2)である。
【0038】「実施例8」「フィルム2」を使用し,フィルム1m 2あたりにスリット長1.0mmのスリットを250個形成して「実施例8」を得た。実施例8において,フィルム1m2あたりのスリットの合計全長は250(mm/m 2)である。
【0039】「実施例9」「フィルム2」を使用し,フィルム1m 2あたりにスリット長1.5mmのスリットを180個形成して「実施例9」を得た。実施例9において,フィルム1m2あたりのスリットの合計全長は270(mm/m 2)である。
【0041】「実施例11」「フィルム2」を使用し,フィルム1m 2あたりにスリット長1.0mmのスリットを400個形成して「実施例11」を得た。実施例11において,フィルム1m 2あたりのスリットの合計全長は400(mm/m 2)である。
(キ) 発明の効果 【0073】以上説明したように,この発明の包装袋によれば,透湿度が5〜30g/(m2・24hrs)のフィルムを用い,該フィルムの総面積に対して,長さが0.5〜1.5mmであるスリットの合計全長が50〜400mm/m 2の比率となるように前記スリットが形成されているため,包装袋の内部水蒸気圧の変化に伴って前記スリットの開孔面積が変化し,前記包装袋の内部水蒸気圧の制御を極めて良好に行うことができる。
【0074】また,本発明では,一つのスリットの長さを0.5〜1.5mmと設定しているので,包装袋の強度を損なうことなく,効率的に包装袋の内部水蒸気圧の制御を行うことができる。
【0075】さらに,本発明では,従来の補助穴の代わりにスリットを形成して いるので,包装袋の製造が容易になるとともに安価で提供することができる。
イ 前記アの記載によれば,引用例1には,引用発明1に関し,以下の点が開示されていることが認められる。
(ア) 引用発明1は,包装袋に関し,特には水分を多く含む野菜,果実,きのこ類や水分を含んだスポンジ等を苗床に使う水耕栽培の農作物等の鮮度を維持するために内部水蒸気圧を制御する青果物用鮮度維持包装袋に関する(【0001】)。
青果物の根や株を切り取らずに包装する場合,容器内部に余剰な水分が充満し,青果物に水っぽさ,腐り,異臭,とろけ等様々な悪影響を及ぼすだけでなく,容器内部への水滴の付着によって見た目が悪くなるという問題がある(【0002】,【0003】)。
従来のフィルム包装等では,所定の開孔面積を有した補助穴を設ける手段が一般化しているが,補助穴が貫通した大きな穴(貫通孔)である場合,該貫通孔の開孔部が常に所定の開孔面積で開放した状態となるため,常に水分が容器外部へ放出されることとなり,鮮度維持に必要な水分が蒸散して過度の乾燥が進行し,青果物等がしおれてしまうという現象が起き,一方,レーザーや加熱針等で設けた小さな穴である場合,水滴によってその穴がふさがってしまうため,水分の制御が難しく,加えてコストも上がってしまうなどの欠点があった(【0004】)。
(イ) 引用発明1は,前記(ア)の点に鑑み,青果物の根や株等を切り取らずに包装する際に,余剰な水分による悪影響を抑え,かつ水分蒸散によるしおれが起こらないように内部水蒸気圧を制御する青果物用鮮度維持包装袋を提供することを目的とし(【0006】),かかる課題の解決手段として,透湿度が5〜30g/(m 2・24hrs)のフィルムを用いた包装袋において,長さが0.5〜1.5mmであるスリットを少なくとも一つ以上有し,かつ,前記フィルムの総面積に対し前記スリットの合計全長が50〜400mm/m2の比率となるように前記スリットが形成されていることを特徴とする青果物用鮮度維持包装袋の構成を採用した請求項1記載の発明の実施例に係る発明である(【0007】,【0028】,【002 9】,【0031】〜【0039】,【0041】)。
(ウ) 引用発明1によれば,包装袋の内部水蒸気圧の変化に伴って,スリットの開孔面積が変化し,包装袋の内部水蒸気圧の制御を極めて良好に行うことができ(【0073】),一つのスリットの長さを0.5〜1.5mmと設定しているので,包装袋の強度を損なうことなく,効率的に包装袋の内部水蒸気圧の制御を行うことができ(【0074】),従来の補助穴の代わりにスリットを形成しているので,包装袋の製造が容易になるとともに安価で提供することができる(【0075】)。
(2) 本件発明1について ア 本件発明1と引用発明1とが,前記第2の3(3)イ(イ)のとおり,相違点1ないし3において相違することは,当事者間に争いがない。
原告は,相違点1ないし3は,いずれも実質的な相違点ではない旨主張するので,まず,相違点3(本件発明1においては,構成要件E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との特定がされているのに対し,引用発明1においては,そのような特定はされていない点)が実質的な相違点であるか否かについて判断する。
イ 相違点3について (ア) 引用発明1は,包装袋に設けるスリットの形状を,スリット一つ当たりの長さ,フィルムの総面積に対するスリットの合計全長により特定しているものの,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計長」により特定するものではなく,引用発明1において特定された事項から,引用発明1における青果物100g当たりのスリットの合計長を特定することはできない。
したがって,相違点3は,実質的な相違点であるというべきである。
(イ) 原告の主張について 原告は,本件発明1の「100gあたりの切れ込みの長さの合計」との発明特定事項は,包装袋の形状,大きさ,材質等に関わりなく,「青果物の重量」と「切れ 込みの長さの合計」との2つの要素のみによって特定されるパラメータであるから,引用発明1において,どのような形状,大きさの包装袋を想定して「100gあたりの切れ込みの長さの合計」を計算したとしても,その包装袋において「青果物100g」当たりの「切れ込みの長さの合計」が「0.08mm以上17mm以下」の数値範囲と重複することが明確であれば,引用例1には,本件発明1における「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との構成が開示されていると考えるのが合理的である旨主張する。
しかし,引用例1には,前記(1)のとおり,引用発明1が,青果物の根や株等を切り取らずに包装する際に,余剰な水分による悪影響を抑え,かつ水分蒸散によるしおれが起こらないように内部水蒸気圧を制御する青果物用鮮度維持包装袋を提供することを目的とするものであり,所定の長さのスリットを設けることにより,包装袋の内部水蒸気圧の変化に伴って,スリットの開孔面積が変化し,包装袋の内部水蒸気圧の制御を極めて良好に行うことができ,一つのスリットの長さを0.5〜1.5mmと設定しているので,包装袋の強度を損なうことなく,効率的に包装袋の内部水蒸気圧の制御を行うことができ,従来の補助穴の代わりにスリットを形成しているので,包装袋の製造が容易になるとともに安価で提供することができるという効果を奏するものであることが記載されているにすぎず,設けるスリットの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もない。したがって,相違点3に係る本件発明1の構成が,青果物の種類や包装袋の形状や材質等にかかわりなく「100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」ことを規定するものであるからといって,引用発明1において,かかる構成が実質的には開示されているということはできない。
ウ 以上によれば,本件発明1と引用発明1とは,少なくとも相違点3において相違するから,本件発明1が引用発明1と同一であるとは認められない。
したがって,本件審決における本件発明1に係る引用例1に基づく新規性判断に誤りはない。
(3) 本件発明2及び3について 本件発明1が引用発明1と同一であるとはいえないことは,前記(2)のとおりであるから,本件発明1に限定を加えた本件発明2及び3についても,引用発明1と同一であるとはいえない。
よって,本件審決における本件発明2及び3に係る引用例1に基づく新規性判断にも,誤りはない。
(4) 小括以上によれば,取消事由4-1は理由がない。
6 取消事由4-2(引用例2に基づく新規性判断の誤り)について(1) 引用発明2についてア 引用例2(甲2)に前記第2の3(4)アの引用発明2が記載されていることは当事者間に争いがなく,引用例2には,次のような記載がある。
(ア) 特許請求の範囲 【請求項1】高分子フィルムを合掌背貼りした袋であり,前記袋の合掌背貼り部のシール強度が0.1〜0.6kgf/15mm(JIS Z 0238)であり,前記合掌背貼り部以外の袋のシール強度より小さく,合掌背貼り部のシール幅が1〜20mmであり,合掌背貼り方向と平行方向にある袋の長さ(LP)と合掌背貼り方向と垂直方向にある袋の長さ(LV)の比LP/LVが1以上10以下であることを特徴とする包装袋。
【請求項10】高分子フィルムが,開口部1個の開孔面積が0.05mm 2以下である微細孔,未貫通及び/又は貫通のクラック,或いは切り込みの内少なくとも1種を有している請求項1記載の包装袋。
(イ) 技術分野【0001】本発明は,電子レンジで加熱可能な包装袋に関するものである。
(ウ) 背景技術 【0002】近年,調理済み冷凍食品やチルド食品等を包装袋から取り出し食器 に移し代えて電子レンジで加熱調理するかわりに,包装袋ごと加熱調理する食品が増えてきている。しかし,密封した包装体では,加熱時に発生する水蒸気により膨張,破裂し内容物の飛散で電子レンジを汚したり,取りだそうとした際にやけどをしたりする危険性がある。また,青果物においても,包装袋から取り出し食器等に移し代えて電子レンジで加熱調理するかわりに,包装袋ごと加熱する青果物が増えてきているが,上記と同様の問題が発生している。一方,青果物に関しては,消費者の食品に対する安全性,衛生性を求める傾向が強まり,鮮度が良くて添加剤を含まないものが要求され始めてきた。青果物をすぐ食べられるようにカット,洗浄した状態で流通販売し,消費者が購入後電子レンジでそのまま加熱調理し,すぐに食べられるという商品があれば,新鮮な食品を簡便に食べるという消費者の要求に適した商品となる。
【0003】だが,消費者が簡便に食することができるようにカット,洗浄した青果物は鮮度を保つことが難しく,満足のいく状態で消費者に届けることは困難であった。この新鮮さ,衛生性に関して,添加物等を用いずに青果物自身の呼吸により包装内のガス濃度を野菜の保存に適した雰囲気にするというMA(Modified Atmosphere)効果を有する青果物用鮮度保持資材が開発され,主に流通用に使用されている。青果物は収穫後も呼吸を続けており,大気(酸素約21%,二酸化炭素約0.04%)よりも酸素濃度が低く,二酸化炭素濃度が高い環境下に置くと呼吸が抑制され鮮度保持が可能であることが知られている。しかし,包装体内が過度に低酸素,高二酸化炭素の環境になると,青果物が呼吸障害を起こして劣化を促進することになってしまい,逆に酸素濃度が高すぎたり,二酸化炭素濃度が低すぎると十分な鮮度保持効果が得られない。このため包装内を適切な酸素濃度,炭酸ガス濃度にコントロールすることが極めて重要である。
【0004】青果物は種類,温度や切り方等により呼吸量が全く異なるため,青果物のMA包装においては,それらに応じて包装体のガス透過量を調節する必要がある。そこで,フィルムに設けた微細孔(孔径数百μm以下)や傷を作りその数や 大きさによってガスの透過量を調節するフィルムが複数のメーカーによって開発されている。このMA包装技術を用い,かつ電子レンジで簡便に加熱調理できる食品を作ろうとする場合,いくつかの問題があった。これらのフィルムで青果物を包装する場合,袋状に加工された後内容物を入れ,ヒートシールなどによって密封して使用する。しかし,多くは生食用であり加熱調理用のものもそのまま電子レンジにかけて食するというところまで簡便化された商品はほとんどなかった。このように密封した包装体では,加熱時に発生する水蒸気により膨張,破裂し内容物の飛散で電子レンジを汚したり,取りだそうとした際にやけどをしたりする危険性がある。
密封を必要とするMA包装ではこれらの問題を防ぐための工夫ができなかった。
【0005】一般の調理済み食品や半調理済み食品に用いられている包装に穴をあけるという方法は,MA包装の場合,加熱調理時の水蒸気を十分に逃せるぐらいまでに,大きな穴をあけたり,ガス透過率の高いフィルムを使うと,流通時では包装内が大気と成分が変わらずMA包装による保存性が出なくなってしまう。それ以外の方法でも,コスト高,技術的に困難,生産性が悪いなどの理由で実用性に乏しかった。素材自体を易剥離性にして内圧の上昇で開封させる方法は比較的実用性のある方法であるが,青果物の包装としては大きな問題があった。青果物包装において包装内の防曇性はきわめて重大な役割を持っている。1つは中味がよく見えると言うことである。青果物を買う際には注意深く観察してから買う消費者が多いため包装が曇っているとそれだけで売れ行きに悪い影響が出る。また,包装内が結露している場合,青果物の多くでその水滴が付着した部分から腐敗など品質低下が始まり,よりはやく商品価値が失われることが知られている。そのため,一般に青果物の包装材は防曇性のすぐれた材料がよく用いられている。しかし,イージーピール層をもうけた易剥離性素材で,青果物包装として十分な防曇性がある素材は今のところない。
【0006】特開平7-184538号公報では,部分的にシール部にあらかじめコート剤を塗布することにより開封しやすくした鮮度保持包装であるが,この形 態では内圧の上昇で開封する際に蒸気がそちらの方向に強く吹き出しているためやけどをしやすく,また電子レンジ内を汚す危険性も高い。また中にたまった水分があればこぼれてやけどや電子レンジの汚れの原因になる。以上のように青果物の鮮度保持包装として必要な特性を有しかつ,そのまま電子レンジで加熱調理できるような青果物包装体はなかった。
(エ) 発明が解決しようとする課題 【0007】本発明は,そのまま袋ごと電子レンジによる加熱調理でき,その際確実に開口し,開口後も持ち運びしやすく,簡便でかつ低コストの包装袋を提供することを目的とする。更に,本発明は,新鮮な青果物の流通中における鮮度低下を抑えられかつ,そのまま袋ごと電子レンジによる加熱調理でき,その際確実に開口し,開口後も持ち運びしやすい簡便かつ低コストの青果物鮮度保持用の包装袋を提供することを目的とする。
(オ) 課題を解決するための手段 【0008】高分子フィルムを合掌背貼りした袋であり,前記袋の合掌背貼り部のシール強度が0.1〜0.6kgf/15mm(JIS Z 0238)であり,前記合掌背貼り部以外の袋のシール強度より小さく,合掌背貼り部のシール幅が1〜20mmであり,合掌背貼り方向部と平行方向にある袋の長さ(LP)と合掌背貼り方向と垂直方向にある袋の長さ(LV)の比LP/LVが1以上10以下である包装袋である。…包装袋が青果物用の包装袋であり,高分子フィルムが,開口部1個の開孔面積が0.05mm2 以下である微細孔,未貫通及び貫通のクラック,あるいは切り込みの内少なくとも1種を有しており,青果物を入れて包装袋の口を密封シールした後,24時間以内の包装袋内の酸素濃度が0.2〜18%,炭酸ガス濃度が2〜21%であり,…包装袋である。
(カ) 発明の効果 【0009】本発明の方法に従うと,包装袋に入れられたレトルト食品又は冷凍食品を電子レンジで過熱する際,包装袋のまま過熱することができ,加熱時に発生 する水蒸気により包装袋が膨張,破裂し,内容物の飛散で電子レンジを汚したり,取りだそうとした際にやけどをしたりすることがない。また,青果物の包装袋として用いることができ,青果物の鮮度を保持しながら青果物を保存することができ,更に電子レンジにて加熱することも可能である。
(キ) 発明を実施するための最良の形態 【0017】包装袋に青果物をいれて保存する場合,青果物に対する鮮度保持効果が得られるためには,青果物を入れてシール後24時間以内に包装体内の酸素濃度を内容物に応じて0.2〜18%,二酸化炭素濃度2〜21%の範囲内にし,その状態が開封するまで安定して保持されることが好ましい。酸素濃度が下限値未満であれば,青果物が嫌気呼吸を行いエタノール,アセトアルデヒドを生じ劣化が早まり,上限値を超えれば呼吸抑制効果が小さく鮮度保持効果が弱くなる可能性がある。二酸化炭素濃度が21%を長期的に超えたままだと,炭酸ガス障害が生じるという問題がある。例えば,ブロッコリーでは酸素5〜15%,ニンジンでは酸素8〜17%で鮮度保持効果が大きい(二酸化炭素はいずれも21%以下が好ましい)。
24時間以内であるのは,いたみやすい青果物の場合,ガス濃度の変化が遅すぎると,その間に変色など品質低下が生じるためで,カットゴボウ,カットタマネギ,カットジャガイモなど変色しやすい青果物では包装体内のガス濃度を早く所定の範囲にするためにガス置換等の手段を用いても構わない。包装体全体の酸素透過量は,内容物の青果物の呼吸量に応じてコントロールすることが好ましい。包装体内の酸素濃度を精度良くコントロールするためには,高分子フィルムに微細孔(開口面積0.05mm2 以下)や貫通・未貫通の傷,クラック,全長5mm以下の切れ目等少なくとも1種の加工が施されているのが好ましい。
(ク) 実施例 【0023】《実施例4》東洋紡績(株)製の厚み30μmの片面熱シール性二軸延伸防曇ポリプロピレンフィルムに長さ2mmの切れ目を0.02個/cm 2 の割合で開けた。また,合掌背貼り部分には大日本インキ化学工業のディックシールA -811Pを厚み2μmコートした。このフィルムを120×190mmの合掌背貼り袋に加工し(LP/LV=1.58,背貼り部分の幅5mm,背貼り部分のシール強度0.4kgf/15mm,その他の部分は1.0kgf/15mm),これにあらかじめ7cmにカットしたグリーンアスパラガス(約100g)を入れてヒートシールにより密封包装した。12℃で保存したところ48時間経過後の酸素濃度は8.8〜10.7%,二酸化炭素濃度10.1〜12.0%であり,保存5日目でも外観,臭気ともほとんど変化がなく新鮮な状態が保たれた。そのままの状態で電子レンジで3分加熱したところ,約1分で背貼りの中央部分が破裂することなく開き,加熱調理されていた。このときレンジ内に水分などの漏れは無く,包装体上部をつまんで持ち上げても水分やアスパラガスがこぼれることなく運ぶことができた。食味も初期の状態とほとんど差がなかった。
イ 前記アの記載によれば,引用例2には,引用発明2に関し,以下の点が開示されていることが認められる。
(ア) 引用発明2は,電子レンジで加熱可能な包装袋に関するものである(【0001】)。
青果物自身の呼吸により包装内のガス濃度を野菜の保存に適した雰囲気にするというMA効果を有する青果物用鮮度保持資材が開発され,主に流通用に使用されている(【0003】)。青果物は種類,温度や切り方等により呼吸量が全く異なるため,青果物のMA包装においては,それらに応じて包装体のガス透過量を調節する必要があり,フィルムに設けた微細孔や傷を作りその数や大きさによってガスの透過量を調節するフィルムが複数のメーカーによって開発されている(【0004】)。
このMA包装技術を用い,かつ電子レンジで簡便に加熱調理できる食品を作ろうとする場合,密封した包装体では,加熱時に発生する水蒸気により膨張,破裂し,内容物の飛散で電子レンジを汚したり,取り出そうとした際にやけどをしたりする危険性があり(【0004】),包装に穴をあけるという方法をMA包装に用いる 場合,加熱調理時の水蒸気を十分に逃せるぐらいまでに大きな穴をあけたり,ガス透過率の高いフィルムを使うと,流通時では包装内が大気と成分が変わらずMA包装による保存性が出なくなってしまう等の問題があった(【0005】)。そのため,青果物の鮮度保持包装として必要な特性を有し,かつそのまま電子レンジで加熱調理できるような青果物包装体はなかった(【0006】)。
(イ) 引用発明2は,上記(ア)の点に鑑み,新鮮な青果物の流通中における鮮度低下を抑えられ,かつ袋ごと電子レンジにより加熱調理することができ,その際確実に開口し,開口後も持ち運びしやすい,簡便かつ低コストの青果物鮮度保持用の包装袋を提供することを目的とし(【0007】),かかる課題の解決手段として,高分子フィルムが,開口部1個の開孔面積が0.05mm2以下である微細孔,未貫通及び/又は貫通のクラック,あるいは切り込みの内少なくとも1種を有している,高分子フィルムを合掌背貼りした袋であり,前記袋の合掌背貼り部のシール強度が0.1〜0.6kgf/15mm(JIS Z 0238)であり,前記合掌背貼り部以外の袋のシール強度より小さく,合掌背貼り部のシール幅が1〜20mmであり,合掌背貼り方向と平行方向にある袋の長さ(LP)と合掌背貼り方向と垂直方向にある袋の長さ(LV)の比LP/LVが1以上10以下であることを特徴とする包装袋の構成を採用した請求項10記載の 発明の実施例に係る発明である(【0008】,【0023】)。
(ウ) 引用発明2によれば,青果物の包装袋として用いることができ,青果物の鮮度を保持しながら青果物を保存することができ,さらに,電子レンジで過熱する際,包装袋のまま過熱することができ,加熱時に発生する水蒸気により包装袋が膨張,破裂し,内容物の飛散で電子レンジを汚したり,取り出そうとした際にやけどをしたりすることがない(【0009】)。
(2) 本件発明1について ア 本件発明1と引用発明2の相違点 (ア) 本件審決は,本件発明1と引用発明2が,前記第2の3(4)イ(イ)のとおり, 相違点4(青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計について,本件発明1においては「0.08mm以上17mm以下」と限定されているのに対し,引用発明2においては,前記長さの合計は,18.24mmである点)において相違する旨認定した。
これに対し,被告は,本件発明1と引用発明2の相違点は,相違点4’(本件発明1においては,構成要件E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との特定がされているのに対し,引用発明2においては,そのような特定はされていない点)と認定されるべきである旨主張する。
(イ) 本件発明1における構成要件Eの意義について 本件発明1は,前記1(2)のとおり,フィルムへの加工が容易であり,加工を施してもフィルムの見栄えが悪くなることなく,MA効果による青果物の鮮度保持が可能であり,簡易な仕組みで安価に,しかも小ロットで製造することができる青果物用の包装袋を提供することを目的とし,かかる課題の解決手段として,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を,青果物の種類やフィルムの材質に関わらず,青果物の保存に適した雰囲気とすることを可能とし,かつ,フィルムへの加工が容易であり,簡易な仕組みで安価に製造することができるように,包装袋に,フィルムを含む包装袋に1個以上の切れ込みを設け,かつ,設ける切れ込みの形状を,@青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計が,0.08mm以上17mm以下であり,A切れ込み1個当たりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり,BTが0.01mm以上0.1mm以下であると規定したものである。
したがって,本件発明1において,上記@ないしBのパラメータは,3つのパラメータの組合せにより,本件発明1の包装袋に設けられる切れ込みの形状を特定し,課題の解決手段として機能し,本件発明1の作用効果を奏するものであると認められる。
(ウ) ところで,引用発明2は,包装袋に設ける切れ目の形状を,切れ目一つ当 たりの長さ,単位面積当たりの個数により特定しているものの,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計長」により特定するものではない。
そうすると,本件審決における相違点4及び一致点E’の認定は,引用発明2が,包装袋に設ける切れ目の形状を「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計長」により特定するものであることを前提とするものであって,誤りであるというべきである。
そして,本件発明1が,包装袋に設ける切れ込みの形状を構成要件C及びDに規定されたパラメータとあいまって,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計長」により特定するものであるのに対し,引用発明2は,包装袋に設ける切れ目の形状を,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計長」により特定するものではないことを踏まえれば,両発明は,少なくとも,被告の主張する相違点4’,すなわち,「本件発明1においては,構成要件E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との特定がされているのに対し,引用発明2においては,そのような特定はされていない点」において相違するものである。
イ 相違点4’について(ア) 原告は,相違点4’は,実質的な相違点ではない旨主張する。
しかし,引用発明2は,前記ア(ウ)のとおり,包装袋に設ける切れ目の形状を,切れ目一つ当たりの長さ,単位面積当たりの個数により特定しているものの,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計長」により特定するものではない。
そして,引用例2には,前記(1)のとおり,引用発明2が,新鮮な青果物の流通中における鮮度低下を抑えられ,かつ袋ごと電子レンジにより加熱調理することができ,その際確実に開口し,開口後も持ち運びしやすい,簡便かつ低コストの青果物鮮度保持用の包装袋を提供することを目的とし,フィルムに開口面積が所定数値以下の開口部を設け,かつ,フィルムの合掌背貼り部のシール強度やシール幅,袋の形状を調整することで,青果物の包装袋として用いることができ,青果物の鮮度を 保持しながら青果物を保存することができ,さらに,電子レンジで過熱する際,包装袋のまま過熱することができ,加熱時に発生する水蒸気により包装袋が膨張,破裂し,内容物の飛散で電子レンジを汚したり,取り出そうとした際にやけどをしたりすることがないという効果を奏するものであることが記載されているにすぎず,設ける切れ込みの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もない。したがって,相違点4’にかかる本件発明1の構成が,引用発明2において,実質的に開示されているということはできない。
(イ) 原告は,本件発明1の構成要件C及びDが切れ込みの断面形状を特定するものであるとしても,その断面形状が本件発明1の作用である青果物の鮮度保持効果とどのように関係するのか,さらに,構成要件C及びDのパラメータと構成要件Eとを組み合わせることによって,どのようなメカニズムで,フィルムの素材にかかわらず,呼吸生理作用が異なる全ての青果物に対して,良好な鮮度保持効果が得られるのかについて,本件明細書には説明がないから,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」という概念は,特段の技術的な意味を有する新規な考え方ではなく,「一定の大きさの包装袋に設ける切れ込みの個数を調整すること」や「包装する青果物重量に対し総開孔面積を調整すること」と同じ公知の考え方である旨主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,本件明細書には,本件発明1が,包材のガス透過速度,透過量を調整し,包装内のガス濃度(酸素濃度,二酸化炭素濃度)を,青果物の種類やフィルムの材質に関わらず,青果物の保存に適した雰囲気とすることを可能とし,かつ,フィルムへの加工が容易であり,簡易な仕組みで安価に製造することができるように,包装袋に,フィルムを含む包装袋に1個以上の切れ込みを設け,かつ,設ける切れ込みの形状を,@青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計が,0.08mm以上17mm以下であり,A切れ込み1個当たりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり,BTが0.01mm以上0.1mm以下であると規定したものであることが記載され ていることから,本件発明1において,上記@ないしBのパラメータは,3つのパラメータの組合せにより,本件発明1の包装袋に設けられる切れ込みの形状を特定し,課題の解決手段として機能し,本件発明1の作用効果を奏するものであると認められる。
したがって,上記@のパラメータである「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」に特段の技術的意義がないなどということはできない。
(ウ) 原告は,当業者であれば,引用例2の記載から,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」を容易に想起することができるから,引用発明2には,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が18.24mm」の青果物鮮度保持用包装袋が開示されている旨主張する。
しかし,引用発明2は,包装袋に設ける切れ目の形状を,切れ目一つ当たりの長さ,単位面積当たりの個数により特定しているものの,「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計長」により特定するものではなく,また,引用例2には,設ける切れ込みの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もないから,引用発明2に「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が18.24mm」の包装袋が開示されているということはできない。
(エ) 以上によれば,本件発明1と引用発明2とは,少なくとも相違点4’において相違するから,本件発明1が引用発明2と同一であるとは認められない。
したがって,本件審決における本件発明1に係る引用例2に基づく新規性判断は,相違点の認定に誤りがあるものの,結論において正当である。
(3) 本件発明2及び3について 本件発明1が引用発明2と同一であるとはいえないことは,前記(2)のとおりであるから,本件発明1に限定を加えた本件発明2及び3についても,引用発明2と同一であるとはいえない。
よって,本件審決における本件発明2及び3に係る引用例2に基づく新規性判断 も,結論において正当である。
(4) 小括以上によれば,取消事由4-2は理由がない。
7 取消事由5-1(引用例1に基づく進歩性判断の誤り)について(1) 本件発明1について ア 原告は,本件発明1と引用発明1との相違点3は引用発明1に引用例2,甲3及び4に記載された発明を組み合わせることにより容易に想到し得るものである旨主張する。
イ 甲3及び甲4の記載内容(ア) 特開2005-230004号公報(甲3)甲3には,以下の記載がある。
【請求項5】包装袋が,開口部1個の開孔面積が0.05mm2 以下である微細孔,未貫通及び/又は貫通のクラック,或いは距離5mm以下の切り込みの内少なくとも1種を有している請求項1,2,3又は4に記載の青果物の包装体。
【0002】近年,青果物の鮮度保持を目的とし,青果物自身の呼吸により包装内のガス濃度を野菜の保存に適した雰囲気にするというMA(ModifiedAtmosphere)効果を有する青果物用鮮度保持資材が開発されたことや,消費者の安全志向の高まり等もあり,通常は裸或いはネット等で包装されていたものも樹脂フィルム製の袋で包装されるようになってきた。樹脂フィルム製の袋で包装される場合,フィルムに遊び部分が多いと手で掴む,輸送中に転がるなどして徐々に余分なフィルム部分にシワが入っていってしまう。…また,青果物が袋内で動き回るため,青果物自身も傷みやすくなるという欠点も見受けられた。
【0004】本発明は,青果物の鮮度保持が可能で,シワになりやすい素材を用いてもシワが生じにくく,さらに見栄えが良好な青果物の包装体を提供することを目的とする。
【0012】包装袋に青果物をいれて保存する場合,青果物に対する鮮度保持効 果が得られるためには,青果物を入れてシールした後24時間後の包装体内の酸素濃度を0.05〜18%,二酸化炭素濃度を2〜25%の範囲内にし,その状態が開封するまで安定して保持されることが好ましい。更には12時間後に上記の範囲であることがより好ましい。酸素濃度が下限値未満であれば,青果物が嫌気呼吸を行いエタノール,アセトアルデヒドを生じ劣化が早まり,上限値を超えれば呼吸抑制効果が小さく鮮度保持効果が弱くなる可能性がある。二酸化炭素濃度が25%を長期的に超えたままだと,炭酸ガス障害が生じるという問題がある。例えば,ブロッコリーでは酸素6〜15%,二酸化炭素6〜15%,ニンジンでは酸素8〜17%,二酸化炭素4〜13%で鮮度保持効果が大きい。
【0013】包装袋の青果物100gあたりの酸素透過速度は,50〜5000cc/100g・day・atmであることが好ましい。酸素透過速度がこの範囲を外れると青果物の鮮度保持が保てなく可能性がある。
【0014】合成樹脂フィルム或いは半合成樹脂フィルム自体の酸素透過速度では,多種の青果物に対してそれらの鮮度保持に必要な酸素透過速度に及ばない場合がある。この場合は,開口部1個の開孔面積が0.05mm2 以下である微細孔,未貫通及び/又は貫通のクラック,或いは距離5mm以下の切り込みのいずれかをフィルムに加工して酸素透加速度を調節することが好ましい。開口面積が0.05mm2 を超えたり,切り込みの距離が5mmを超えると1袋あたりのこれら加工数が少なくなり,包装体あたりの酸素透加速度を調節する精度が悪くなる可能性がある。
(イ) 特開2003-274849号公報(甲4) 甲4には,以下の記載がある。
【請求項5】包装体が開孔面積7.1×10 -8m2 以下の微細孔を1個以上有する合成樹脂製フィルムまたは表面に貫通あるいは未貫通の傷,クラックや長さ5mm以下の切り込みを有する合成樹脂フィルムで構成されてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の青果物の包装体。
【0002】青果物の鮮度保持資材に包装体内を大気中よりも低酸素,高二酸化 炭素濃度条件に保つことで青果物の呼吸を抑制し鮮度を維持するMA(Modified Atmosphere)包装がある。MA包装は…,包装体内が多湿状態になりカビが発生しやすい点が問題となっている。
【0003】本発明の目的は,MA効果によって青果物の鮮度が保持でき,かつ通常青果物を密封包装すると発生しやすくなるカビが発生し難くい青果物の包装体を提供することである。
【0012】包装体の酸素および二酸化炭素透過速度を速くするには,開孔面積7.1×10-8 以下の微細孔や貫通あるいは未貫通の傷,クラックや長さ5mm以下の切り込みをフィルムに1個以上もうければよい。開孔面積は7.1×10 -8m2 以下,切り込みは5mm以下であるのは,孔や切り込みが大きすぎると酸素や二酸化炭素などの透過速度を制御するのが困難になるためである。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,甲3及び4には,包装袋内の酸素及び二酸化炭素の濃度を青果物の保存に適した雰囲気にするというMA効果を利用した包装袋であって,長さ5mm以下の切れ込みを設けた包装袋が記載されていると認められる。
しかし,包装袋に設ける切れ込みの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もない。
ウ 相違点3の容易想到性について (ア) 引用例1には,前記5(1)のとおり,包装袋に設けるスリットの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もない。
また,引用例2にも,前記6(1)のとおり,包装袋に設ける切れ込みの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もない。
さらに,甲3及び4にも,前記イのとおり,いずれも包装袋に設けるスリットの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載 も示唆もない。
(イ) したがって,引用発明1において,引用例2,甲3及び4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
よって,当業者が,引用発明1において,引用例2,甲3及び4に記載された発明を組み合わせることにより,相違点3に係る本件発明1の構成を備えるようにすることを容易に想到し得たということはできない。
エ 原告の主張について 原告は,引用例2には,「5mm以下の切れ目」であれば,包装体内の酸素濃度のコントロールに好ましいことが記載されているから(【0017】),「青果物の鮮度保持」を考慮して,実施例4に記載されている包装袋のスリットの個数や長さ等を適宜変更することは,当業者が当然に想起することである旨主張する。
しかし,前記イ(ア)のとおり,引用例2には,包装袋に設ける切れ込みの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もないから,「包装体内の酸素濃度を精度良くコントロールするためには,高分子フィルムに…全長5mm以下の切れ目等少なくとも1種の加工が施されているのが好ましい。」(【0017】)との記載に接したとしても,当業者において,包装袋に設ける切れ込みの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想に容易に着想し得たとはいえない。引用発明2は,前記6(1)のとおり,新鮮な青果物の流通中における鮮度低下を抑えられ,かつ袋ごと電子レンジにより加熱調理することができ,その際確実に開口し,開口後も持ち運びしやすい,簡便かつ低コストの青果物鮮度保持用の包装袋を提供することを目的とし,かかる課題の解決手段として,フィルムに開口面積が所定数値以下の開口部を設け,かつ,フィルムの合掌背貼り部のシール強度やシール幅,袋の形状を調整するという構成を採用するものである。そして,引用発明2は引用例2の実施例4に基づく発明であるところ,実施例4では,包装袋に長さ2mmの切れ目を0.02個/cm 2の割合で設けることで,他の構成とあいまって,「保存5日目でも概観,臭気ともほとんど変化 がなく新鮮な状態が保たれた。そのままの状態で電子レンジで3分加熱したところ,約1分で背貼りの中央部分が破裂することなく開き,加熱調理されていた。このときレンジ内に水分などの漏れは無く,包装体上部をつまんで持ち上げても水分やアスパラガスがこぼれることなく運ぶことができた。食味も初期の状態とほとんど差がなかった。」(【0023】)という良好な結果が既に得られているのであるから,青果物の鮮度保持のみを考慮して,あえて実施例4に記載されている包装袋のスリットの個数や長さ等を変更する動機付けがあるともいえない。
オ 以上によれば,引用発明1において,相違点3に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者において容易に想到し得たことではないから,相違点1及び2について判断するまでもなく,本件発明1は,引用発明1に引用例2,甲3及び4に記載された発明を組み合わせることにより容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって,本件審決における本件発明1に係る引用例1に基づく進歩性判断に誤りはない。
(2) 本件発明2及び3について 本件発明1が引用発明1に基づき容易に発明をすることができたものであるとはいえないことは,前記(1)のとおりであるから,本件発明1に限定を加えた本件発明2及び3についても,引用発明1に基づき容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって,本件審決における本件発明2及び3に係る引用例1に基づく進歩性判断にも,誤りはない。
(3) 小括 以上によれば,取消事由5-1は理由がない。
8 取消事由5-2(引用例2に基づく進歩性判断の誤り)について (1) 本件発明1について ア 本件発明1と引用発明2とは,前記6(2)アのとおり,少なくとも相違点4’ において相違するところ,原告は,相違点4’は引用発明2に引用例1,甲3及び4に記載された発明を組み合わせることにより容易に想到し得るものである旨主張する。
イ 相違点4’の容易想到性について 引用例2には,包装袋に設けるスリットの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もない。
また,引用例1,甲3及び4にも,包装袋に設ける切れ込みの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もない。
以上のとおり,引用発明2,引用例1,甲3及び4には,いずれも包装袋に設けるスリットの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もないから,引用発明2において,引用例1,甲3及び4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
したがって,当業者が,引用発明2において,引用例1,甲3及び4に記載された発明を組み合わせることにより,相違点4’に係る本件発明1の構成を備えるようにすることを容易に想到し得たとはいえない。
ウ 原告の主張について 原告は,引用発明2と引用例1に記載された発明とは,技術分野及び課題が同一又は共通する発明であるところ,引用発明2におけるフィルムとして,引用例1に記載された「50〜400mm/m 2 の比率となるようにスリットが形成されている」フィルムを用いれば,青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計は,本件発明1における「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との数値範囲と重複する旨主張する。
しかし,引用例2及び引用例1には,いずれも包装袋に設ける切れ込みの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想については,記載も示唆もないから,当業者において,包装袋に設ける切れ込みの合計長を包装する青果物量に応じて好適化するという技術的思想に容易に着想し得たとはいえない。引用発 明2は,前記6(1)のとおり,新鮮な青果物の流通中における鮮度低下を抑えられ,かつ袋ごと電子レンジにより加熱調理することができ,その際確実に開口し,開口後も持ち運びしやすい,簡便かつ低コストの青果物鮮度保持用の包装袋を提供することを目的とし,かかる課題の解決手段として,フィルムに開口面積が所定数値以下の開口部を設け,かつ,フィルムの合掌背貼り部のシール強度やシール幅,袋の形状を調整するという構成を採用するものである。そして,引用発明2は引用例2の実施例4に基づく発明であるところ,実施例4では,包装袋に長さ2mmの切れ目を0.02個/cm2の割合で設けることで,他の構成とあいまって,既に良好な結果が得られているのであるから,青果物の鮮度保持のみを考慮して,あえて実施例4に記載されている包装袋のスリットの個数や長さ等を変更する動機付けがあるともいえない。
エ 以上によれば,引用発明2において,相違点4’に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者において容易に想到し得たことではないから,本件発明1は,引用発明2に引用例1,甲3及び4に記載された発明を組み合わせることにより容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって,本件審決における本件発明1に係る引用例2に基づく進歩性判断は,相違点の認定に誤りがあるものの,結論において正当である。
(2) 本件発明2及び3について 本件発明1が引用発明2に基づき容易に発明をすることができたものであるとはいえないことは,前記(1)のとおりであるから,本件発明1に限定を加えた本件発明2及び3についても,引用発明2に基づき容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって,本件審決における本件発明2及び3に係る引用例2に基づく進歩性判断も,結論において正当である。
(3) 小括 以上によれば,取消事由5-2は理由がない。
9 結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 柵木澄子
裁判官 鈴木わかな