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事件 平成 27年 (行ケ) 10017号 審決取消請求事件

原告 アルファラヴァル コーポレイト アクチボラゲット
訴訟代理人弁理士 宮崎昭夫 緒方雅昭 佐藤晶司
被告 特許庁長官
指定代理人鳥居稔 千葉成就 山村浩 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/11/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2013-11938号事件について平成26年9月11日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,@記載要件違反(特許法36条4項1号及び同条6項1号)についての判断の当否,A手続違背の有無及びB進歩性についての判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成19年(2007年)3月29日を国際出願日として,発明の名称を「遠心分離機用ロータユニット」とする特許出願をした(特願2009-504152号。パリ条約による優先権主張外国庁受理平成18年(2006年)4月4日,スウェーデン王国,甲5の1)が,平成25年2月22日,拒絶査定を受けた(甲8)ので,同年6月25日,これに対する不服審判請求をし,さらに,平成26年7月8日,手続補正をした(本件補正。甲5の5)。
特許庁は,上記請求を不服2013-011938号事件として審理をした上,平成26年9月11日に「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本は,同月30日に原告に送達された。
2 本願発明の要旨 本件補正後の請求項1記載の発明(本願発明)の要旨は,以下のとおりである(甲5の1ないし5)。
「遠心分離機用のロータユニットであって,該ロータユニットが回転軸(R)周りに配置されており,前記遠心分離機が,分離される成分の混合物を該ロータユニットに供給する入口(9)と,該ロータユニットの動作中に分離された成分用の少なくとも1つの出口(25,26)と,を有し, ロータユニットは, 前記ロータユニット内側に形成されており,前記少なくとも1つの出口(25, 26)と接続されている分離チャンバ(2)と, 前記入口(9)と前記分離チャンバとに接続されており,該分離チャンバ(2)内に半径方向に形成されている入口チャンバ(6)と, 前記分離チャンバ(2)内で互いに軸方向に離間して前記回転軸(R)と同軸に配置されている金属からなる複数の分離ディスク(10)と, を有し, 前記複数の分離ディスク(10)のうちの少なくともいくつかは,複合体を形成するように分離不能に共に接合されており, 前記複数の分離ディスクのうちの前記少なくともいくつかは,はんだ付けまたは溶接により接合部を介して互いに接合されており,前記接合部は前記入口チャンバ(6)と前記分離チャンバ(2)との間の隔壁を構成し, 前記隔壁は,前記複数の分離ディスク(10)の半径方向内側部分で,該複数の分離ディスク(10)の前記少なくともいくつかに接合されており, 前記接合部は,前記回転軸(R)を取り囲み,互いに隣接する前記複数の分離ディスク(10)のすべての対の間に設けられていることを特徴とする,ロータユニット。」 3 審決の理由の要点 (1) 当審拒絶理由についての判断 本件拒絶査定不服審判手続において,平成26年4月3日付けで示された,拒絶理由(当審拒絶理由)の理由2(第2拒絶理由)は,以下のとおりである。
「2.この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記 本願明細書の【0022】に,「(中略)」と,【0024】〜【0025】に「(中略)」と,【0026】に「(中略)」とそれぞれ記載されているが,具体的にどの部分が溶接されているのか明確でない。
一方,高い精度を要する遠心分離機のロータにおいては,分離ディスク間の隔離部材(間隔保持部材)を配置して,各分離ディスク間に正確な間隔を形成することが一般的であると認められ(例えば,平成24年5月31日付け拒絶理由で示した特表平11-506385号公報の第4頁参照),各分離ディスク間の間隔保持部材を設けることなしに,はんだ付けまたは溶接で各分離ディスク間に精度よく間隔を形成する方法が当業者にとって周知であるとは認められない。
したがって,本願の発明の詳細な説明は当業者がその実施をすることができる程度に明確に記載されておらず,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるともいえない。」 これに対し,請求人は,「各分離ディスク間の間隔保持部材を設けることなしに,はんだ付けまたは溶接で各分離ディスク間に」 遠心分離機用のロータユニットとし ,て利用可能なほどに「精度よく間隔を形成する」ため,どのような方法で「互いに隣接する分離ディスク同士を接合」するのかについて,意見書においても補正書においても何も説明していない。また,そのような方法が,当業者にとって周知の技術的事項であることの証拠も示していない。
したがって,平成26年7月8日付けの意見書及び手続補正書の内容を考慮しても,第2拒絶理由で指摘した点は,依然として不備である。
(2) 原査定の拒絶の理由についての判断 ア 引用発明の認定 特開平3-501705号公報(甲1,引用文献1)には,次の発明(引用発明)が記載されていると認めることができる。
「遠心分離機用のローターであって,該ローターがドライブシャフト4の軸周りに配置されており,前記遠心分離機が,分離される成分の混合物を該ローターに供給する入口パイプ13と,前記ローターに供給され混合物から分離された成分のための出口を形成する出口部材17及び孔18とを有し, ローターは,前記ローターの内部に形成されており,前記出口部材17及び孔1 8と接続されている分離室5と,前記入口パイプ13と前記分離室5とに接続されており該分離室5の半径方向内側に形成されている入口室12と, 前記分離室5内で互いに軸方向に離間して前記ドライブシャフト4の軸と同軸に配置されているプラスチックからなる複数のコンビネーションディスク6とを有し, 前記複数のコンビネーションディスク6は,各コンビネーションディスク6の半径方向内側部分に中心を取り囲むように形成した環状の部分9bに設けたスナップ-ロック結合で,一単位として取扱うことができる積重ね体を形成するように,共に分離可能に接合されており,前記環状の部分9bはコンビネーションディスク6の上面より突出し,隣接するコンビネーションディスクに接触して入口室12と分離室5を分離するシーリング部材として作用する遠心分離機のローター。」 イ 対比 (一致点) 「遠心分離機用のロータユニットであって,該ロータユニットが回転軸周りに配置されており,前記遠心分離機が,分離される成分の混合物を該ロータユニットに供給する入口と,該ロータユニットの動作中に分離された成分用の少なくとも1つの出口と,を有し, ロータユニットは, 前記ロータユニット内側に形成されており,前記少なくとも1つの出口と接続されている分離チャンバと, 前記入口と前記分離チャンバとに接続されており,該分離チャンバ内に半径方向に形成されている入口チャンバと, 前記分離チャンバ内で互いに軸方向に離間して前記回転軸と同軸に配置されている複数の分離ディスクと, を有し, 前記複数の分離ディスクのうちの少なくともいくつかは,複合体を形成するように接合部を介して互いに接合されており,前記接合部は入口チャンバと分離チャン バとの間の隔壁を構成し,前記隔壁は,前記分離ディスクの半径方向内側部分で,該分離ディスクに接合されており,前記接合部は,前記回転軸を取り囲み,互いに隣接する前記複数の分離ディスクのすべての対の間に設けられているロータユニット。」 (相違点1) 本願発明では,分離ディスクが金属から成るのに対して,引用発明ではプラスチックから成る点。
(相違点2) 本願発明では,隔壁が, 「別の部材」を,互いに隣接する,複数の分離ディスクと接合することにより形成されるのに対し,引用発明では,予めコンビネーションディスクに形成した環状の部分9bを,隣接するコンビネーションディスクと接合することにより隔壁を形成する点。
(相違点3) 本願発明では,はんだ付け又は溶接で分離不能に接合するのに対して,引用発明では,スナップロック結合で分離可能に接合する点。
ウ 判断 上記相違点1について検討すると,大型又は高速の遠心分離機の場合でも分離円板(本願発明の「分離ディスク」に相当)の変形が防止されるように金属製のものを用いることは,周知技術にすぎず,この点は当業者が容易になし得た事項にすぎないと認める。
次に,上記相違点2について検討すると,遠心分離機の分離円板の材料に応じて,別の部材を接合して分離円板の上面あるいは下面より突出する部分(隔離部材)を形成することは,特表平11-506385号公報(甲2,引用文献2)に記載された事項であり,当業者が適宜用い得る組立て方法であると認められ,引用発明において,コンビネーションディスク上面から突出する環状の部分9bを当該コンビネーションディスク上面に別の部材を接合することで形成することは,当業者が容易 になし得たことである。
さらに,上記相違点3について検討すると,引用文献1には,コンビネーションディスクを恒久的に相互結合することが示唆され,恒久的なあるいは封止可能な接合手段として,はんだ付け又は溶接は周知技術であるから,引用発明において,接合手段としてはんだ付け又は溶接を用いて,コンビネーションディスク及び隔壁を分離不能に接合するのは,当業者が容易になし得たことである。
また,本願発明の作用効果も,引用発明及び引用文献2に記載された事項並びに周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものと認められない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(特許法36条4項1号及び同条6項1号適用の誤り) 本願発明は,分離ディスクの剛性を増加させるように分離ディスクを圧縮工具で圧縮すると,それらが共に押圧しあい,各分離ディスクの対称性と相互の位置合わせに影響するという,従来技術(甲1)における課題を解決することを目的の一つとするものである。
本願発明では,互いに隣接する分離ディスクははんだ又は溶接により,接合部を介して互いに強固に接合されて剛性が増加しているため,更に剛性を増加させるように分離ディスクを圧縮工具で圧縮する必要はない。つまり,分離ディスクが圧縮工具で圧縮されることに起因する,対称性と相互の位置合わせへの影響は生じ得ないのであり,したがって,各分離ディスクの対称性と相互の位置合わせが改善され,各分離ディスク間に精度よく間隔を形成することが可能となるのである。各分離ディスク間に精度よく間隔を形成することが可能か否かは,分離ディスクの圧縮の有無と,接合部の構成(引用文献1のFig.4のように溝に嵌っているのか,同Fig.5のようにスナップ-ロック結合なのか,本願発明のようにはんだ付け又は溶接なのか。の問題であって, ) 間隔保持部材の有無とは無関係である。そうすると, 当業者は,本願明細書の発明の詳細な説明を,間隔保持部材があるものとして理解することはもちろん,ないものとして(つまり,間隔保持部材の記述を無視して)理解することも可能である。よって,間隔保持部材を有さない後者の構成は,なぜ各分離ディスク間に精度よく間隔を形成されるのかも含め,発明の詳細な説明に,実質的に,当業者が実施可能な程度に記載されているといえる。
審決は,請求人は,各分離ディスク間の間隔保持部材を設けることなしに,はんだ付け又は溶接で各分離ディスク間に,遠心分離機用のロータユニットとして利用可能な程に精度よく間隔を形成するため,どのような方法で互いに隣接する分離ディスク同士を接合するのかについて,意見書においても補正書においても何も説明しておらず,そのような方法が,当業者にとって周知の技術的事項であることの証拠も示していない,とする。しかしながら,分離ディスク同士を何らかの治具を用いて仮固定し,その後はんだ付け又は溶接を行い,はんだ又は溶接の溶融部が固化した後に仮固定を外せば,はんだ又は溶接の接合部のみで分離ディスク同士が強固に固定され,大きなガタも発生しないのであるから,本願明細書の図1〜10に示すいずれの態様であっても, 遠心分離機用のロータユニットとして利用可能な程に 「精度よく間隔を形成」できることは明らかである。そして,はんだ付け又は溶接を行う際に,所定の寸法精度が確保されるように,接合対象を互いにずれないように何らかの方法で仮固定するのは当業者にとって技術常識であるから,意見書では,説明するまでもないことであるとして説明を省略したのである。
2 取消事由2(手続違背) (1) 拒絶理由通知がなされていないこと 第2拒絶理由の第2段落(第2段落拒絶理由)は, 「各分離ディスク間の間隔保持部材を設けることなしに,はんだ付けまたは溶接で各分離ディスク間に精度よく間隔を形成する方法が当業者にとって周知であるとは認められない。 ことを一般的に 」述べているだけであり,各請求項との関連が全く不明であるから,審判請求人でもある原告が適切な応答をとるための配慮に著しく欠けている。間隔保持部材が規定 されていた請求項が第2段落拒絶理由に該当しなかったと仮定すれば,当該拒絶理由通知の対象となった本件補正前の特許請求の範囲(甲5の4)のうち,請求項7は第2段落拒絶理由の対象外であり,請求項1〜6,8〜18だけが第2段落拒絶理由の対象となっていたはずである。
仮に,当審拒絶理由において,第2段落拒絶理由の対象が請求項1〜6,8〜18であり,請求項7は対象外であることが明示的に示されていれば,審判請求人でもある原告は,請求項7で請求項1を限定する補正を行っていた可能性がある。請求項7で請求項1を限定する補正を行っていれば,その補正が認められ,特許法36条違反は審決の理由となっていなかった蓋然性が高い。
(2) 請求項7の特許性 引用文献2には, 「前述の分離円板間の隔離部材は,任意の適当な種類のものとすることができる。それは,分離円板と一体のものであることができるか,あるいはそれらを溶接,半田付けまたは接着などの何らかの好適な方法で固定することができる。別法として,それらを分離円板間に着脱可能な形で取り付けることが可能である。」と記載されている。しかしながら,ここに記載されているのは分離円板と隔離部材を一体とすることができるということであって,請求項7の, 「前記複数の分離ディスク(10)は,少なくとも間隔保持部材(10a)の位置で互いに接合されており」という要件とは無関係である。すなわち,分離円板と隔離部材を有する遠心分離機では,一般に分離円板-隔離部材-分離円板-隔離部材-分離円板という順序で積層されるところ,刊行物2が開示しているのは「分離円板-隔離部材」の接合である。一方,請求項7が規定しているのは分離円板(分離ディスク)同士の接合である。
したがって,被告は,平成24年5月31日付け拒絶理由通知書で,請求項7に相当する請求項11に対して進歩性に係る拒絶理由を通知していると主張するが,通知された拒絶理由の内容自体は失当である。
3 取消事由3(進歩性についての判断の誤り) 審決は,本願発明の「はんだ付け手段によってロータユニットの一部を共に接合することは,より薄い分離ディスクを同じ空間内で使用することが可能であるため,より多くの分離ディスクを使用することができることを意味する。これにより,分離の効果が高められる。」という効果を看過したものである。
引用発明の場合,スナップ-ロック結合は突起を必要とするだけでなく,突起の裏側にも,隣接する分離ディスクの突起と係合するための空間を必要とする。このため,突起の高さと一定の平面部の厚さを必要とし,結果的に一つの分離ディスク当たりの必要高さ(高さは突起と平面部を含めた全高を意味する。)が大きくなる。
これに対し,はんだ付け又は溶接による接合では,突起は不要であり,分離ディスクの肉厚も大きな制約を受けない。したがって,分離ディスクの高さは,引用発明の分離ディスクよりも大幅に小さくすることができる。本願明細書の図4に示すように引き込み部材14を分離ディスクの間に挟む態様でも,同部材14の分離ディスクの間に挟まれる部分は薄い板材でよいので,必要高さに対する影響は軽微である。しかも,はんだ付け又は溶接は,一般に,極めて薄く形成することが可能である。この結果,一つの分離ディスク当たりの必要高さが小さくなり,同じロータユニットの内部により多くの分離ディスクを設けることができる。このことは,単に分離ディスクの材料を変更し(相違点1),これに応じて接合手段を変更する(相違点3)だけでは得られない効果であるし,当業者が容易に予想できる効果であるともいえない。接合部としてはんだ付け又は溶接を用いることは,単なる接合方法の変更ではなく,分離ディスクの枚数を増やし分離の効果を高めるという,当業者が予測できない,格別顕著な効果を生じさせるものである。
また,本願発明では,分離ディスクの接合部が入口チャンバと分離チャンバとの間の隔壁を構成している。その際,接合部がはんだ付け又は溶接で形成されるため,隔壁の信頼性(シール性)が高められる。審決によれば,引用文献1の環状の部分9b(Fig.5)は,隣接するコンビネーションディスクと接合することにより隔壁を形成する,とされるが(相違点2),スナップ-ロック結合では隙間やガタが 発生しやすく,シール性において不利である。本願発明では,接合部は,分離ディスク同士の接合手段として用いられるだけでなく,入口チャンバと分離チャンバとの間の隔壁に優れたシール性を与える。この効果は当業者が予測できる範囲の効果を上回るものであり,本願発明は進歩性を有している。
被告の反論
1 取消事由1に対し 本願明細書に記載されたすべての実施形態及びすべての図で,間隔保持部材10aを有するロータユニットが記載され,間隔保持部材10aを有さない実施形態の記載はなく,また,間隔保持部材を有さなくてもよい旨の記載はない。そして,遠心分離機においては,遠心分離を受ける液体用に分離室を多くの薄い流動空間に分け,分離ディスク間の隔離部材(間隔保持部材)を配置することが一般的であり(例えば,甲2) 適切に遠心分離を行うために分離ディスク間の薄い流動空間を正確に ,形成する必要があることは明らかである。
これに対し,原告は,一般的なはんだ付け又は溶接を行う際に,所定の寸法精度が確保されるように,接合対象を互いにずれないように何らかの方法で仮固定することが,当業者にとって技術常識である旨の主張をする。しかしながら,具体的にどのような治具を用い,分離ディスクのどの箇所を仮固定した上ではんだ付け又は溶接を行い,はんだ又は溶接の溶融部が固化した後にどのように仮固定を外せば可能であるかについての説明はなく,また,そのことについて具体的な証拠も示していない。原告の主張には根拠がない。
また,仮に原告の主張のとおりであるとしても,本願発明は「回転に関して動的に安定している遠心分離機用ロータユニットを提供することを目的」としたものであるところ,本願発明において,間隔保持部材を設けることなしに,分離ディスクのような薄板状の部材を半径方向内側部分ではんだ付け又は溶接するだけで,遠心分離機の分離ディスクとして回転する場合でも回転に関して動的に安定したものと すること,及び,適切に遠心分離を行うために必要な薄い流動空間を正確に形成できることまでは,明細書の記載から明らかではなく,技術常識でもない。
2 取消事由2に対し (1) 第2段落拒絶理由は,請求項1に「間隔保持部材」が記載されていないことを指摘するものであって,まずは,唯一の独立請求項である請求項1を対象とするものある。
そして,原告も理解するように,当審拒絶理由通知は,特許法50条の規定に基づく拒絶理由の通知であり,この拒絶理由の通知に対しては,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする補正が認められるものであるから,原告の判断で補正が必要と判断すれば, 「請求項7」を請求項1に限定する補正が可能であったはずである。
したがって,第2段落拒絶理由が,請求項1に「間隔保持部材」が記載されていないことを指摘するものであることは明らかであって,その指摘に対する対応も,十分,取り得たものであったから,審判請求人でもある原告が適切な応答をとるための配慮に著しく欠けているものであったとはいえない。
(2) 原告は,当審拒絶理由で請求項7が第2段落拒絶理由の対象外であることが明示的に示されていなかったために,請求項7で限定された請求項1の進歩性が判断される機会が失われたのであり,当審拒絶理由が適切に通知されていれば,請求項7で限定された請求項1の進歩性が認められ,特許法29条第2項は審決の理由となっていなかった可能性があり,その場合,審決のすべての理由が解消され,特許すべきとの審決がなされていた蓋然性が高い旨主張する。
しかしながら,原告が主張する「請求項7」で特定する間隔保持部材について,平成24年5月31日付け拒絶理由通知書(甲9)の理由1において,請求項1〜22に拒絶の理由がある旨を説明する際に, 「そして,刊行物2の従来技術,6頁第3〜7,13〜16行に記載されているように,積層体を形成する分離板と間隔保持部材とを金属とし,それらを溶接,半田付けにより固定することは,従来からご く普通に知られた手段であって,また,いくつかを分離不能にすることにも上述のとおり格別な効果は見あたらないことからみれば,少なくともいくつかを分離不能にすることは当業者が容易になし得たことである。」と説明し,「請求項7」に相当する「請求項11」 (甲5の2)に対して進歩性に係る拒絶理由を通知しており,原告が主張するように,直ちに進歩性に係る拒絶理由も解消されていると判断できるものではない。
3 取消事由3に対し (1) 機械装置を構成する材料として金属を採用した際には,それらの金属の固着方法として,はんだ付け又は溶接は,極めて一般的であって,固着後,解体が考慮されない場合や,強固な固定が求められる場合には,金属の固着方法として第一に考慮される方法であるといえる。そして,はんだ付けは二つの金属の接合部間に加熱溶融したはんだを介在させる結合であり,溶接は二つの金属の接合部を加熱溶融する結合であることから,スナップ-ロック結合のような機械的な構造による結合と比較して,はんだ付け又は溶接が一般に極めて薄く形成可能であることは,その接合態様から明らかである。
よって,はんだ付け又は溶接は,スナップ-ロック結合のような機械的な構造による結合と比較して薄く形成可能であるから,はんだ付け又は溶接により,ロ-タユニットの内部により多くの分離ディスクを設けることができることは,引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものではない。
(2) 原告は,本願発明の接合部が,スナップ-ロック結合と比べて信頼性が高く,強度面でも有利であるという効果を併せ持ち,隙間の生じやすいスナップ-ロック結合と比べて隔壁としての信頼性にも優れている旨主張する。しかしながら,これらの効果は,接合手段として周知のはんだ付け又は溶接を採用することにより当然得られる効果でしかなく,引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものではない。
当裁判所の判断
1 取消事由2(手続違背)について (1) 認定事実 ア 特許庁は,平成24年5月31日,原告に対し,同年1月25日付け手続補正後の請求項1ないし22記載の発明(同請求項11は,本件補正後の請求項7と同じである。 は, ) 引用文献1及び2を含む刊行物に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨の拒絶理由を通知した(甲9)。
イ 原告は,平成24年11月5日,請求項2及び8ないし10を削除することを含む手続補正をした(甲5の3)。当該手続補正前の請求項11は,同手続補正後の請求項7である。
ウ 特許庁は,平成25年2月22日,平成24年5月31日付け拒絶理由通知書記載の理由によって本件出願を拒絶すべきものであると査定した(甲8) ま 。
た,同日付けの補正却下決定には,請求項1に係る発明は,引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない旨が記載されている(甲10)。
エ 原告は,平成25年6月25日,拒絶査定不服審判請求をするとともに,手続補正をした(甲5の4)。
オ 特許庁は,平成26年4月3日,原告に対し,以下の概要の拒絶理由(当審拒絶理由)を通知した(甲7)。
「1.この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記 特許請求の範囲の請求項1の「複数の分離ディスクのうちの前記少なくともいくつかは,前記入口チャンバ(6)と前記分離チャンバ(2)との間の隔壁を構成す るはんだ付けまたは溶接によって互いに接合されている」の記載は,発明の詳細な説明の記載を参照しても「隔壁を構成するはんだ付けまたは溶接」の具体的な説明は認められず,実際にどのような構成を意味するのか不明確である。
よって,請求項1〜18に係る発明は明確でない。
2.この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記 本願明細書の【0022】に,「(中略)」と,【0024】〜【0025】に「(中略)」と,【0026】に「(中略)」とそれぞれ記載されているが,具体的にどの部分が溶接されているのか明確でない。
一方,高い精度を要する遠心分離機のロータにおいては,分離ディスク間の隔離部材(間隔保持部材)を配置して,各分離ディスク間に正確な間隔を形成することが一般的であると認められ(例えば,平成24年5月31日付け拒絶理由で示した特表平11-506385号公報の第4頁参照),各分離ディスク間の間隔保持部材を設けることなしに,はんだ付けまたは溶接で各分離ディスク間に精度よく間隔を形成する方法が当業者にとって周知であるとは認められない。
したがって,本願の発明の詳細な説明は当業者がその実施をすることができる程度に明確に記載されておらず,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるともいえない。
なお,上記理由1及び理由2が解消された際に,原査定の理由が妥当であると判断される可能性がある点に留意されたい。」 カ 原告は,平成26年7月8日,第2段落拒絶理由に対して,以下の意見を含む意見書と共に,本件補正を行ったが,唯一の独立請求項である請求項1に請求項7の発明特定事項を追加する形式で減縮する補正は行わなかった(甲5の5,甲6)。
「なお,審判長殿は,拒絶理由通知書において『各分離ディスク間の間隔保持部 材を設けることなしに,はんだ付けまたは溶接で各分離ディスク間に精度よく間隔を形成する方法が当業者にとって周知であるとは認められない。』と指摘していますが,本願発明は,各分離ディスク間の間隔保持部材を設けないというわけではなく,図面でも符号10aで示されているように,間隔保持部材10aを許容するものです。なお,遠心分離機用のロータユニットにおいて,一般に,分離ディスク間の隙間は小さいので,例えば図2に示すように接合部27(図2ではその厚みが誇張して描かれている。)によって,互いに隣接する分離ディスク同士を接合することは可能です。」 本件補正後の請求項7は,次のとおりである。
「前記複数の分離ディスク(10)は,少なくとも間接保持部材(10a)の位置で互いに接合されており,該間接保持部材(10a)は,前記複数の分離ディスク(10)の一部を形成している,請求項1から6のいずれか1項に記載のロータユニット。」 (2) 原告の主張 原告は,第2段落拒絶理由は,各分離ディスク間の間隔保持部材を設けることなしに,はんだ付け又は溶接で各分離ディスク間に精度よく間隔を形成する方法が当業者にとって周知であるとは認められないことを一般的に述べているだけであり,各請求項との関連が不明であって,請求項7が第2段落拒絶理由の対象外であることが明示されていれば,原告は,請求項7で請求項1を限定する補正を行っていた,と主張する。
(3) 判断 確かに,前記(1)オの第2拒絶理由については,理由1と異なり,拒絶理由の対象となる請求項が明示されておらず,特に,第2段落拒絶理由においては,すべての請求項が対象となるものではないにもかかわらず,その点が明示されておらず,明確性を欠くものといわざるを得ない(この点は審決においても示されていない。。
) しかしながら,第2段落拒絶理由は,明らかに,間隔保持部材を設けない場合を 想定したものであり,当事者は,その場合を対象として拒絶理由を通知されているものと読み取れる。原告も,上記意見書において,本願発明に間隔保持部材を設ける構成が含まれていることを説明しているのであるから,間隔保持部材を設ける構成であれば第2段落拒絶理由が該当しないことを認識していたといえる。そうすると,原告は,かかる意見書を提出するとともに,間隔保持部材を設けない構成は含まれないよう,各請求項を補正することも可能であったといわざるを得ない。
したがって,第2段落拒絶理由が請求項7を含まないことを明示しなかったことは適切ではないものの,これによって,原告が請求項7で請求項1を限定する補正を行う機会が奪われたとはいえない。
(なお,原告は,請求項7で請求項1を限定する補正をすれば,特許法36条の記載要件違反は審決の理由とならなかったと主張するのであるが,審決における特許法36条の記載要件に係る判断は,後記2のとおり誤りであるから,原告が上記のような手続補正を行い得なかったことによって,原告に実質的な不利益は生じていないといえる。) 原告の主張には,理由がない。
2 取消事由1(特許法36条4項1号及び同条6項1号適用の誤り)について (1) 特許法36条4項1号について ア 審決は,本願発明のうち,間隔保持部材を有さない構成において,各分離ディスク間に精度よく間隔を形成する方法が,発明の詳細な説明に,当業者が実施可能な程度に記載されていない,とする。
イ しかしながら,複数の部材を相互にはんだ付け又は溶接により接合する場合に,当該複数の部材は,一定の時間相互に近接保持される必要があるが,様々な治具等によって空間内の特定の位置に固定されることは,技術常識といえる。例えば,従来,@フルフェイスホイール用リムとディスクを溶接する際に,治具によって両者を仮固定する(甲12の1) A動圧軸受を構成するシャフトとスラストプ ,レートとを溶接する際に,両者を調芯用治具に仮固定する(甲12の2),B電動機ロータと支持ディスクとを溶接を含む手段で接合する際に,組立て治具により両者 を仮固定する(甲12の3),Cベースとフィールドスルーとを,はんだプリフォームによりはんだ付けする際に,テフロン製治具で両者を仮固定する(甲12の4)ことが開示されており,このことは,本件発明のように,多数の分離ディスクが含まれる場合も同様である。そして,当業者にとって,各分離ディスクの間隔をどの程度とするか,また,その間隔の精度をどの程度とするかは,各分離ディスクの固定手段により適宜調整可能なことである。
したがって,審決の特許法36条4項1号に関する判断には,誤りがある。
ウ これに対して,被告は,本願発明において,間隔保持部材を設けることなしに,はんだ付け又は溶接するだけで,遠心分離機の分離ディスクとして回転する場合でも回転に関して動的に安定したものとすること,及び,適切に遠心分離を行うために必要な薄い流動空間を正確に形成できることまでは,明細書の記載から明らかではなく,技術常識でもない,と主張する。しかしながら,本願発明のような遠心分離機において,間隔保持部材を設けることが必須であるといった技術的知見の存在を裏付けるに足る適切な証拠は提出されていない。
被告の主張には,理由がない。
(2) 特許法36条6項1号について ア 審決は,本願発明のうち,間隔保持部材を有さない構成が発明の詳細な説明に記載されていない,とする。
イ 確かに,発明の詳細な説明中,実施例においては,間隔保持部材を有さない構成は挙げられておらず,かかる構成が含まれることは明示されてはいない。
しかしながら,本願発明は,分離ディスクの凹部内に配置されている封止部材による摩耗などに起因するディスク強度の問題や 【0003】,これを回避するためね ( )じ接続を採用し,さらに,分離ディスクを圧縮する構成によった場合の各分離ディスクの対称性や相互の位置合わせへの悪影響といった問題(【0004】)を解消するために,金属製のディスクをはんだ付け又は溶接によって接合するという構成を採用したものであるところ,間隔保持部材の有無は,上記各課題の解決には関連し ないのであるから,間隔保持部材がない構成が記載されていないと解することはできない。
よって,審決の特許法36条6項1号に関する判断には,誤りがある。
ウ 被告は,遠心分離機においては遠心分離を受ける液体用に分離室を多くの薄い流動空間に分け,分離ディスク間の隔離部材(間隔保持部材)を配置することが一般的であり,適切に遠心分離を行うために分離ディスク間の薄い流動空間を正確に形成する必要があることは明らかである,と主張する。
しかしながら,被告の摘示する特表平11-506385号公報(甲2)には,間隔保持部材を機能させる場合,すなわち,間隔保持部材が必要な場合には,分離ディスクに固定するとの記載しかなく,間隔保持部材が必須ということは読み取れないし,他にこの点を認めるに足る証拠もない。
被告の主張には,理由がない。
(3) 小括 以上のとおり,取消事由1については,原告の主張に理由があると判断する。しかしながら,本願発明に係る特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載が,特許法36条4項1号及び同条6項1号の要件を満たすものであっても,本願発明が特許法29条2項に該当する場合は,特許を受けることができないとする審決の結論は妥当であって取り消すことができない。したがって,次に,取消事由3について検討する。
3 取消事由3(進歩性についての判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,@はんだ付け手段によってロータユニットの一部を共に接合することは,より薄い分離ディスクを同じ空間内で使用することが可能であるため,より多くの分離ディスクを使用することができ,分離の効果が高められるという効果と,A分離ディスクの接合部がはんだ付け又は溶接で形成されるため,隔壁の信頼性(シール性)が高められるという効果を看過したものである,と主張する(なお,原告は,本願発明と引用発明との相違点1ないし3について,それらが, 構成上容易想到であるという審決の判断は争っていない。 。
) (2) しかしながら,上記@の効果は,はんだ付け又は接合による結合が,スナップ-ロック結合のような機械的な結合に比して空間的に薄く形成することが可能であるという一般的な効果から当然に予測される効果である。また,上記Aの効果も,はんだ付け又は溶接がシール性の高い接合手段であるという一般的な効果から当然に予測される効果にすぎない。
原告の主張には,理由がない。
結論
以上のとおり,取消事由1には理由があるが,取消事由2及び3には理由がない。
よって,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 新谷貴昭
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