関連審決 | 不服2001-6872 |
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関連ワード | 容易に発明 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
253号
審決取消請求事件
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原告X 被告 特許庁長官小川 洋 指定代理人 鈴木充 同 高木進 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/06/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2001-6872号事件について平成15年4月30日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成3年5月8日にした実用新案登録出願(実願平3-62960号)を,平成7年2月9日に特許出願(特願平7-59679号,発明の名称「駆動力併用伝動装置を利用した発電装置」。以下「本件出願」という。請求項の数は2である。)に変更し,平成13年2月20日に拒絶査定を受けたので,平成13年3月23日,これに対する不服の審判を請求した。 特許庁は,これを不服2001-6872号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成13年3月23日付けの手続補正書により明細書の全文の補正(以下「本件補正」という。)をした。特許庁は,審理の結果,平成15年4月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年5月22日,その謄本を原告に送達した。 2 本件補正後の特許請求の範囲【請求項1】(別紙図面A参照) 「駆動軸(主軸)(9)上に駆動軸併用伝動装置(1)を設置した発電装置。」 (「駆動軸併用伝動装置」との語は,本件補正後の,本件出願の願書に添付された明細書及び図面(以下,併せて「本願明細書」という。)の記載全体からみて,審決と同様に,「駆動力併用伝動装置」の誤記と認める。以下,この請求項1の発明を,審決と同様に「本願発明1」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明1は,特公昭28-2054号公報(以下,審決と同様に「引用例」という。)に記載された発明(以下,審決と同様に「引用発明」という。別紙図面B参照)及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである。 審決が,上記結論を導く過程において,本願発明1と引用発明との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。 一致点 「発電機の駆動力を伝達する軸上に駆動力併用伝動装置を設置した発電装置。」 相違点 「本願発明1では,「駆動軸(主軸)(9)」となっているのに対し,引用発明では,「動力集結軸17」となっている点。」 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願発明1と引用発明との相違点を看過し(取消事由1),相違点についての判断を誤ったものであり(取消事由2及び3),これらの誤りがそれぞれ結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(相違点の看過) 審決がなした,本願発明1と引用発明との一致点及び相違点の上記認定は,いずれも誤りである。 (1) 引用発明は,波力発電装置に関するものであり,波力を利用するだけなのに対し,本願発明1では,波力発電だけでなく,化石燃料の動力・水力発電・風力発電・地熱・太陽エネルギー・バイオマス・海洋温度差発電等の自然エネルギーと火力エネルギー・電気モーター等の力を利用するものである。審決は,この相違点を看過している。 フリーホイールは,一方向にだけ回転力を伝え,逆方向には空転する仕組みであり,インナーシャフト上をハブ軸が回転する二重構造になっている。引用発明の集結フリーホイール19,19も,このような構造となっているため,本願発明1のように,駆動軸(9)上にフリーホイールを設置して異なる複数の動力を併用することはできない。 (2) 引用発明は,原動軸3や原動フリーホイール12,集結フリーホイール19,19及び変速調整機構22等を備えた複雑な構造であるのに対し,本願発明1は,「駆動軸(主軸)(9)上に駆動力併用伝動装置(1)」を設けたものであり,コンパクトな構造のものである。 引用発明は,引用例の特許請求の範囲に「・・・その適当数を発電機据付体の一側又は両側若くは前後に配列して各原動軸の原動フリーホイールより発電機へ集結して伝動するようにしたことを特徴とする波動を利用する発電装置」と記載されているように,各原動軸上に原動フリーホイール12が設置され,各原動軸からの異なる系統の動力を,集結フリーホイール19,19を介して単一の動力集結軸17に集結させ,さらに,変速調整機構22を介して発電機軸(主軸)に伝動させており,その構造が複雑である。 引用発明では,フリーホイール12の内部にある原動軸3で動力源を受け,これをフリーホイール12へ伝動するという,本願発明1とは逆の伝動形式を採用し,また,発電機の駆動軸へは,ベルトではなく,歯車やチェーンを利用して動力を伝動させている。 引用発明のこれらの構造では装置のコンパクト化は不可能である。 (3) 以上のとおり,(i)本願発明1では,異なる種類の動力を併用するのに対し,引用発明では複数の異なる種類の動力を併用することができない,(ii)本願発明1の「駆動力併用伝動装置」へ駆動力を伝達する機構と,引用発明の集結フリーホイール19,19へ駆動力を伝達する機構とは異なる,(iii)本願発明1の「駆動力併用伝動装置」から駆動軸へ駆動力を伝達する機構と,引用発明の集結フリーホイール19,19から駆動軸へ駆動力を伝達する機構とは異なる(引用発明では,変速調整機構22が介在するため,動力の伝達機構を簡単にすることができない。)。審決は,これらの相違点を看過し,その相違点についての判断を遺脱したものである。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) 審決は,「特定の軸を駆動する際,該特定の軸に対し,動力を直接的に伝達するか,変速機構を介して間接的に伝達するかは,従来から,適宜実施されていることであって,共に周知の技術的事項にすぎない。」(審決書4頁4段),「相違点に係る本願発明1の構成要件は,引用発明に上記動力伝達に係る周知の技術的事項を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものというべきである。」(審決書4頁7段)と判断した。しかし,この判断は誤りである。 (1) 本願発明1は,装置をコンパクトにするという,従来技術にはない,新しい課題を解決しようとするものである。 本願発明1においては,装置をコンパクトにするために,駆動軸(9)上に一方向の動力のみを伝達する機能を備えた「駆動力併用伝動装置」(フリーホイール)を設置するとの構成を採用したものである。 (2) 本願発明1は,発電機の「駆動軸上(主軸)(9)に駆動力併用伝動装置(1)」を設け,そのフリー軸(8)でスピードの異なる動力を受け入れるようにしたため,複数の動力を併用することができ,また,エンジンや発電機の駆動力を,直接的に一つに集約することを可能にしただけでなく,このような構成により,引用発明にある各原動軸や原動フリーホイール等の構成を省略することができ,コンパクトなハイブリッド発電装置を可能としたものである。 引用発明のように,原動軸3で動力を受け,これを原動フリーホイール12を介して集結フリーホイール19,19に伝達するとの構成のものであると,本願発明1のように,駆動軸(9)上にフリー軸(8)を設置し,これにより異なる種類の複数の動力を併用することはできない。 本件における相違点の判断については,動力を直接的に伝達するかどうかだけでなく,複数の種類の動力を併用しているか,あるいは,単純でコンパクトな装置を提供しているかどうかを問題にすべきである。本願発明1では,「駆動軸(主軸)(9)上に」一方向の動力のみを伝達する機能を備えた「駆動力併用伝動装置」を設置するとの構成により,直接的に駆動力を駆動軸に伝動し,また,複数の種類の動力を併用することを可能ならしめ,コンパクトな装置を提供するものである。 (3) 被告は,特開昭52-6850号公報(乙1号証,以下「乙1文献」という。)及び特開昭60-27788号公報(乙2号証,以下「乙2文献」という。)に記載されているとおり,発電機等の被駆動体の軸に複数のフリーホイールを設けることは,周知の技術的事項にすぎない,と主張する。 しかし,乙1文献には,「この発明は波力による発電において複数の浮力体の上下運動を回転軸に一方向回転運動として変換合成しこの合成力で発電機を回転させた波力発電に関するものである。」(乙1号証1頁左下欄11行〜14行),「回転軸10とはずみ車20の間には回転軸と同方向に作動する爪車19を設ける。これによりはずみ車はこの爪車19から回転軸全体のエネルギーを受け取りその貫性により安定な出力を発電機21に伝える。」(同2頁右上欄12行〜16行)と記載されており,同文献に記載された発明は,波力発電に関するものであって,同種の波力を回転軸に集結するための爪車滑車4,4,爪車19及びはずみ車20を介して発電機21に伝動するようにしたものであり,その構造も複雑である。 乙2文献には,「波の上下動で生じる空気流を利用し・・・タービンに一定方向の気流をあたえて回転させる方式」(乙2号証2頁左上欄5行〜7行)と記載されており,同文献に記載された発明は,やはり,波力発電に関するものであって,その構造も複雑である。 乙1文献及び乙2文献に記載された発明は,いずれも本願発明1のものとは異質である。 3 取消事由3(本願発明1の顕著な作用効果の看過) 審決は,「本願発明1の効果は,引用発明及び上記動力伝達に係る周知の技術的事項に基づいて,当業者が予測できる範囲を越えるものではない。」(審決書4頁8段)と判断した。しかし,この判断は誤りである。 本願発明1においては,「駆動軸(主軸)(9)上に駆動力併用伝動装置(1)を設置した」ことにより,装置全体を無駄がなくコンパクトなものにすることができ,異なる複数の動力である電気モーターやエンジン等の動力を,駆動軸(主軸)(9)上で一つにして利用することができるという効果を奏する。 本願発明1においては,水力・風力・太陽エネルギー・地熱・海洋エネルギー・バイオマス等の自然エネルギー等の動力・化石燃料(ディーゼル・ガソリン・石油系・LNG等)の動力を併用することができるため,駆動力を必要とする産業機械・発電機・ハイブリッド自動車において,本願発明1を利用することができる。 すなわち,本願発明1の「駆動力併用伝動装置」は,ガソリンエンジンの駆動軸上にも簡単に設置することができる。 また,本願発明1においては,リング状に空洞を形成した「駆動力併用伝動装置」が駆動軸を抱き込むように差し込み設置されることにより,フライホイールとしての機能を奏し,「駆動力併用伝動装置」全体が加速を付けながら安定した回転をすることができ,装置全体が小型化されている。 このように,本願発明1は,@装置をコンパクトなものにすることができる,A複数の異なる種類の動力源の利用が可能であり,ガソリンエンジンの駆動軸上にも「駆動力併用伝動装置」を配置することにより,ハイブリッド装置としても利用することができる,B「駆動力併用伝動装置」は,フライホイールとしての機能を奏し,発電機の回転軸が安定した回転をすることができる,という顕著な作用効果を奏する。 |
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被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 原告は,引用発明は,波力を利用するだけなのに対し,本願発明1では,波力だけでなく,自然エネルギーと火力エネルギー・電気モーター等の力を利用するものである,と主張する。 しかし,本願明細書においては,その特許請求の範囲(請求項1)において,動力源として異種の動力源を使用することが規定されているわけではないし,その実施例としては,本願明細書の図1には,例えば同種のプロペラ3,3で受けた風力を動力源として併用することが記載されているのである(甲6号証)。 したがって,本願発明1は,引用発明のように,同種の動力源である波力を二つのチェーン20,20を介して動力として利用する発電装置を包含するものであるから,本願発明1と引用発明とが用いる動力源を異にしているとの原告の上記主張は失当である。 (2) 原告は,フリーホイールは,一方向にだけ回転力を伝え,逆方向には空転する仕組みであり,インナーシャフト上をハブ軸が回転する二重構造になっている,引用発明の集結フリーホイール19,19は,このような構造となっているため,駆動軸(9)上にフリーホイールを設置して異なる複数の動力を併用することはできない,と主張する。 しかし,フリーホイールは,ワンウェイクラッチとも称され(乙3号証参照),一方向にだけ回転力を伝え逆方向には空転する仕組みの総称であり,その構造には多種多様なものがあって,インナーシャフト上をハブ軸が回転しやすいようにした構造のものには限られない。引用発明の集結フリーホイール19,19も,一方向にだけ回転力を伝え,逆方向には空転する機能,すなわち,ワンウエイ機能を有するものであればよく,この集結フリーホイール19,19として,特定の構造を有するもののみが使用されるわけではない。原告の上記主張は,引用発明のフリーホイール19,19が特定構造のフリーホイールのみを使用するものであることを前提とした主張であり,失当である。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 装置をコンパクトにすることは,ほとんどの装置における普遍的な課題にすぎず,本願発明の課題もこのような普遍的な課題と軌を一にするものであって格別な課題ではない。 (2) 発電機等の被駆動体の軸に複数のフリーホイールを設けること,すなわち,動力を被駆動体の軸に直接的に伝達することは,乙1文献及び乙2文献に例示されるように,周知の技術的事項にすぎない。特定の軸を駆動する際,当該特定の軸に対し,動力を直接的に伝達するか,変速機構(中間軸を含む)を介して間接的に伝達するかは,従来から,適宜実施されてきたことである。 3 取消事由3(本願発明1の顕著な作用効果の看過)について 駆動軸(主軸)に動力を直接的に伝達するか,間接的に伝達するかは,従来から適宜実施されてきたことであることは前述したとおりである。 動力を直接的に伝達するようにすると,動力を間接的に伝達するものに比べて,変速機構の分だけ,装置がコンパクトになるものの,変速機構の機能を享受できなくなることなどは,当業者にとって自明のことにすぎない。 本願発明1の「駆動力併用伝動装置」をフライホイールのように用いることについては,特許請求の範囲の請求項1の記載から直ちに導かれることでもないし,本願明細書にも何ら記載されていない(甲6号証)。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 本願明細書の特許請求の範囲の記載(請求項1)は,次のとおりである。 「駆動軸(主軸)(9)上に駆動軸併用伝動装置(1)を設置した発電装置。」(「駆動軸併用伝動装置」との語を「駆動力併用伝動装置」の誤記と認めることは前記のとおりである。) 本願発明1の「駆動力併用伝動装置」に関して,本願明細書には,次のような記載がある(甲6号証)。 「本発明は,フリーホイールの原理を利用したものでフリーホイールのインナーシャフト上をハブ軸が回転しやすいためにある,リング,ベアリング・ダストキャップ及びインナーシャフトをフリーホイールから取り除き,そこに駆動軸(9)を形成,機構部分については,ラチェットにかぎらず,既存するタイプを含め駆動力を必要とする発電システム各々の特性に会うようなワンウェイ機能で構成する。 (本発明である駆動軸(9)上にある駆動力併用伝動装置(1))。 ※ 本発明は,駆動軸(9)上にある複数の「駆動力併用伝動装置(1)」のフリー軸(8)でスピードの異なる動力を受け入れ,同軸(9)上で複数の異なる動力を併用して発電機を駆動させることが出来る(図1)。 例えば,駆動軸(9)上に設置した駆動力併用伝動装置(1)は,2系統の動力を受けて,ひとつの動力にする。駆動力併用伝動装置(1)を2個利用して1個はエンジン動力(フリー軸で受ける(8))・あとの1個は電気モーターの動力(フリー軸で受ける(8))へ各々伝動したら,この2系統の動力は同軸上(駆動軸)(9)でひとつにすることも各々必要なとき1系統の動力でも駆動できる。」(段落【0004】) 本願明細書の上記記載からすれば,本願発明1の「駆動力併用伝動装置」とは,複数の動力源からの駆動力を,一つの発電機の駆動軸に伝達するためのものであり,個々の動力源に対応して一つずつ設けられ,一つの方向の力のみを伝える機能を有するものと認められる。 (2) 引用例には,次の記載がある(甲4号証)。 「本発明は非運動体に横架せる原動軸に対して前後へ交互に適当数の浮体を配設して,これらの前列浮体及び後列浮体に連結せる各揺動杆を上記原動軸又は適宜の補助軸を中心として回動し得べく装着すると共に,原動軸には各揺動杆に対応して一定方向に回転し得べきフリーホイールを設けて,これらのフリーホイールに前列浮体の揺動杆並びに後列浮体の揺動杆をそれぞれそれらの上昇運動を適宜伝動し得べく連係して単位動力源を構成し,その適当数を発電機据付体の一側又は両側若くは前後に配列して各原動軸の原動フリーホイールより発電機へ集結して伝動するようにしたことを特徴とする波動を利用する発電装置に係るものであって,その第1図乃至第4図に示す一実施例について以下に詳説する。」(1頁左欄10行〜24行目) 「而して各揺動杆8,8′は何れも補助軸4を支点として揺動するので上下に円滑に回動し得ると共に,各揺動杆8,8′に於けるフリーホイール11,11′への力点の回転半径に比べて浮体7,7′よりの重点の回転半径は極めて大きくなし得るから,各浮体7,7′に受けた波動は各揺動杆8,8′によりフリーホイール11,11′を経て原動軸3を極めて強力に回転することとなる。 又,押し寄せる波浪には凹凸があるため,単位動力源の各浮体7,7′の昇降度が異なり,更に時間的のずれがあるけれども,原動軸3の前後へ交互に配置された前列浮体7及び後列浮体7′によつて原動軸3の前後両側より集結されて原動軸3を間断なく回転することとなる。 而して各単位動力源の原動軸3の動力集結側に設けた原動フリーホイール12より発電機据付体1の前後の遊動鎖車14,14にかけたチェーン20,20によつて集結フリーホイール19,19を経て動力集結軸17に伝動して各単位動力源の動力を集結し,適宜の変速調整機構22を経て適当の速度にて発電機24が回転して発電される。 なお,上記の実施例は各単位動力源に発生せる動力を1個の発電機に集結したけれども,各単位動力源毎に発電機を設け,又は一列の単位動力源毎に,若くは隣接せる単位動力源毎に,更に数個の単位動力源毎に発電機を設けることができる。」(2頁左欄4行〜30行目) 引用例の上記記載によれば,引用発明においては, (ア) 単位動力源である各浮体7,7'が受ける波動は,各揺動杆8,8′,フリーホイール11,11′により,原動軸3を回転させること, (イ) 各原動軸3の回転は,原動フリーホイール12,発電機据付体1の前後の遊動鎖車14,14にかけたチェーン20,20によって,集結フリーホイール19,19の回転へと集結されること, (ウ) 集結フリーホイール19,19の回転は,動力集結軸17を回転させ,動力集結軸17の回転は,適宜の変速調整機構22を経て発電機24の回転軸を回転させること, (エ) 引用発明の集結フリーホイール19,19は,単位動力源である各浮体7,7'からの駆動力を,系統ごとに異なる二つのチェーン20,20を介して,一つの動力集結軸17に伝達するものであって,個々の系統に対応して一つ設けられ,一つの方向の力のみを伝える機能を有するものであること, が認められる。 (3) 以上からすれば,引用例には,審決が認定したとおり,「動力集結軸17上に集結フリーホイール19,19を設置した波動を利用する発電装置。」との発明(引用発明)が記載されているものと認められる。 そして,引用発明の集結フリーホイール19,19は,複数の動力源からの駆動力を,一つの発電機の駆動軸に伝達するためのもので,個々の動力源に対応して一つ設けられ,一つの方向の力のみを伝える機能を有するものであるということができ,本願発明1の「駆動力併用伝動装置」にほかならない。 そうすると,本願発明1と引用発明との一致点及び相違点についての審決の前記認定には何ら誤りはない。 (4) 原告は,(i)本願発明1では,異なる種類の動力を併用するのに対し,引用発明では複数の異なる種類の動力を併用することができない(引用発明は,波力を利用するだけなのに対し,本願発明1は,自然エネルギーと火力エネルギー・電気モーター等の力を利用するものである),と主張する。 しかし,本願発明1において,異なる種類の動力を併用するかどうかは本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)に規定されているわけではない。また,引用発明の波力発電も,本願発明1において利用され得るものであり,引用発明の集結フリーホイール19,19は,複数の動力源からの駆動力を,一つの発電機の駆動軸に伝達するためのもので,個々の動力源に対応して一つ設けられ,一つの方向の力のみを伝える機能を有するものであることは,上記のとおりである。以上からすれば,原告が主張する点は,何ら相違点とはならないものである。 原告は,(ii)本願発明1の「駆動力併用伝動装置」へ駆動力を伝達する機構と,引用発明の集結フリーホイール19,19へ駆動力を伝達する機構とは異なる,(iii)本願発明1の「駆動力併用伝動装置」から駆動軸へ駆動力を伝達する機構と,引用発明の集結フリーホイール19,19から駆動軸へ駆動力を伝達する機構とは異なる(引用発明では,変速調整機構22が介在するため,動力の伝達機構を簡単にすることができない。),と主張する。 しかし,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)の記載においては,「駆動力併用伝動装置」の具体的構造が特定されているわけでもなく,また,動力源から「駆動力併用伝動装置」までの伝動機構が特定されているわけでもない。原告の上記(ii)の主張は,特許請求の範囲の記載に基づいた主張といえるものではなく,失当である。また,本願発明1は,駆動軸(主軸)(9)上に設置される「駆動力併用伝動装置」を備える点,すなわち,「駆動力併用伝動装置」により,駆動力を直接,駆動軸(主軸)に伝動することを特徴とするものであり,審決は,原告が上記(iii)で主張する点を相違点として認定しているのである。審決の相違点の認定に誤りはない。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,審決の相違点の判断が誤りである,として,まず,本願発明1は,装置をコンパクトにするという,従来技術にはない,新しい課題を解決しようとするものである,と主張する。 しかし,一般に,装置をコンパクト化することは,省資源化が求められるなか,ほとんどの装置における普遍的な課題であり,発電装置にあっても省資源化の必要があることは自明である。本願発明1における装置をコンパクトにするという課題は,このような普遍的な課題と軌を一にするものであって,新規なものではない。原告の上記主張は失当である。 (2) 原告は,審決が,本願発明1と引用発明との相違点について,動力伝達に係る周知の技術的事項を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものと判断したことは誤りである,と主張する。 確かに,引用発明においては,前述のとおり,集結フリーホイール19,19の回転が,動力集結軸17を回転させ,動力集結軸17の回転は,適宜の変速調整機構22を経て発電機24の回転軸を回転させていることが認められ,引用発明の集結フリーホイール19,19(本願発明1の「駆動力併用伝動装置」に該当する。)は,発電機24の回転軸を直接回転させるものではなく,変速調整機構22を経て発電機24の回転軸を間接的に回転させるものである。 しかし,乙1文献及び乙2文献にも記載されているように,駆動源からの駆動力を,発電機の回転軸に伝達する場合において,フリーホイールを発電機の回転軸上に設け,フリーホイールからの回転力を発電機の回転軸に直接伝達することは,本件出願前に周知の技術事項であると認められるから(乙1,2号証),引用発明において,変速調整機構22を介して間接的に伝動することに替え,上記周知の技術事項を採用することは,当業者ならば容易に想到し得ることというべきである。また,引用発明において,伝達機構を,間接的なものから直接的なものに変更することを妨げる要因は見当たらない(甲4号証)。 原告は,本件においては,動力を直接的に伝達するかどうかだけでなく,複数の種類の動力を併用しているか,あるいは,単純でコンパクトな装置を提供しているかどうかを問題にすべきである,本願発明1では,「駆動軸(主軸)(9)上に」一方向の動力のみを伝達する機能を備えた「駆動力併用伝動装置」を設置するとの構成により,直接的に駆動力を駆動軸に伝動し,また,複数の種類の動力を併用することを可能ならしめ,コンパクトな装置を提供するものである,と主張する。 しかし,本願発明1は,その特許請求の範囲(請求項1)の記載から明らかなように,異なる種類の動力を併用することを前提とするものではないことは上述したとおりであるし,本願発明1が,引用発明に比し,駆動力を駆動軸に直接的に伝動し,コンパクトな機構のものであるとはいえるものの,その機構自体は,当業者が容易に想到できるものであることも上述したとおりである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 原告は,乙1文献に記載された技術は,波力発電に関するものであって,同種の波力を回転軸に集結するための爪車滑車4,4,爪車19及びはずみ車20を介して発電機21に伝動するようにしたものであり,その構造も複雑である,乙2文献に記載された技術は,やはり,波力発電に関するものであって,その構造も複雑である,と主張する。 しかし,乙1文献及び乙2文献によれば,駆動源からの駆動力を,発電機の回転軸に伝達する場合において,フリーホイールを発電機の回転軸上に設け,フリーホイールからの回転力を発電機の回転軸に直接伝達することは,本件出願前に周知の技術事項であることは上記のとおりである。また,この認定は,駆動源の相違,あるいは,駆動源からフリーホイールまでの動力伝達機構の相違によって左右されるものでもないから,原告の上記主張は,採用し得ないものである。 3 取消事由3(本願発明1の顕著な作用効果の看過)について 原告は,本願発明1は,@装置のコンパクトなものにすることができる,A複数の異なる種類の動力源の利用が可能であり,ガソリンエンジンの駆動軸上にも「駆動力併用伝動装置」を配置することにより,ハイブリッド装置としても利用することができる,B「駆動力併用伝動装置」は,フライホイールとしての機能を奏し,発電機の回転軸が安定した回転をすることができる,という顕著な作用効果を奏する,と主張する。 上記@の効果についてみると,確かに,本願発明1においては,「駆動力併用伝動装置」を「駆動軸(主軸)(9)」上に設けており,引用発明に比べると,変速調整機構等の間接伝動手段を有していない分だけコンパクトであるということができる。 しかしながら,引用発明において,駆動軸に動力を直接的に伝達するようにすることは,当業者が容易に想到し得ることであることは前記のとおりであり,駆動軸に動力を直接的に伝動するとの構成を採用すれば,間接伝動手段を省略することができ,コンパクトな装置となることは,当業者にとって自明のことであるから,上記@の効果が格別のものであるということができないことは明らかである。 上記Aの効果についてみると,本願発明1においては,複数の異なる動力源を用いることが,特許請求の範囲(請求項1)に記載された構成とはなっていないことは前記のとおりである。したがって,上記Aの複数の異なる種類の動力源を利用し得るとの効果が,本願発明1の構成(特許請求の範囲に記載された構成)に基づいた作用効果であるということはできない。また,本願発明1は,「駆動軸(主軸)(9)上に駆動力併用伝動装置(1)を設置した発電機。」(請求項1)との構成であって,ガソリンエンジンの駆動軸上に「駆動力併用伝動装置」を設置するものではないから,原告が主張する上記Aの効果のうち,ガソリンエンジンの駆動軸上に「駆動力併用伝動装置」を配置することにより,ハイブリッド装置としても利用できるとの効果が,本願発明1の構成に基づいた効果であるということはできない。 上記Bの効果についてみると,「弾み車」(フライホイール)とは,「回転軸に取り付けた重い車で,クランク軸に与える力の変動を緩和して,回転を滑らかにするもの。」(広辞苑第5版)である。これに対し,「駆動力併用伝動装置」(フリーホイール)は,回転軸に駆動力を伝動するためのものであるから,フライホイールの機能を奏するとはいい難いし,本願明細書にも,本願発明1の「駆動力併用伝動装置(フリーホイール)」が,フライホイールの機能を有することについては何ら説明がされていないから,原告が主張する上記Bの効果が,本願発明1の作用効果であると認めることはできない。 4 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由は,いずれも理由がないことが明らかであり,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 若林辰繁 |