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関連審決 無効2013-800231
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事件 平成 27年 (行ケ) 10031号 審決取消請求事件

原告株式会社高知丸高
訴訟代理人弁理士清原義博 北本友彦 西村直也 今岡大明
被告 株式会社横山基礎工事
訴訟代理人弁護士小林幸夫 弓削田博 河部康弘
訴訟代理人弁理士久保司 尾関眞里子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/10/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が無効2013-800231号事件について平成27年1月9日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩性判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯 被告は,平成10年9月7日に出願され(特願平10-252347号),その請求項1〜3に係る発明について,平成17年1月28日に特許権の設定登録がなされた特許(本件特許。特許第3640371号。発明の名称「穿孔工法用回転反力支持装置」)の特許権者である(甲8,乙2)。
原告は,平成25年12月17日,本件特許の無効審判請求をしたところ(無効2013-800231号) 特許庁は, , 平成27年1月9日, 「本件審判の請求は,成り立たない。 との審決をし, 」 同審決(謄本) 同月16日に原告に送達された。
は,2 本件発明の要旨本件特許の特許請求の範囲請求項1ないし3に記載された発明(本件発明)の要旨は,次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,例えば「本件発明1」などと表記する。分説は当裁判所が付与した。)【請求項1】 A 先端に掘削ビットを挿着したインナーロッドを回転駆動装置に連結し,重機のブーム先端から懸垂状態で当該回転駆動装置を吊下げ,上記インナーロッドの外周側に設けたアウターケーシングの回転を拘束しながら,当該回転駆動装置の回転力を用いて掘削を行う穿孔工法に用いる回転反力支持装置において, B 上記回転駆動装置に連結されたインナーロッドの外周に,着脱自在に併設したアウターケーシングと, C 上記アウターケーシングの外側面であって軸方向に固設された第1の反力プ レートと, D 上記回転駆動装置に設けられ,上記アウターケーシングの第1の反力プレートに対して干渉するようになっている第2の反力プレートと, E 穿孔芯を確保するための枠組み状のガイドフレームに設けられ,上記アウターケーシングの径に相当するスパンを介して当該ガイドフレームに固設されている反力アームと,を有しており, F 上記アウターケーシングと上記回転駆動装置とは,互いに固定連結されておらず, G 上記アウターケーシングに設けられた第1の反力プレートに対しては,上記回転駆動装置側に設けた第2の反力プレートが,上記インナーロッドの回転方向において自在に係合するようになっており, H 上記回転駆動装置によって上記インナーロッドに回転力を付与し始めた際に,当該回転駆動装置の第2の反力プレートが,上記アウターケーシングの第1の反力プレートに対して係合し, I 上記回転駆動装置によって上記インナーロッドに回転力を付与している間,上記アウターケーシングの第1の反力プレートを,穿孔芯を確保する上記ガイドフレームに固設された反力アームに係合させ,それによって上記回転駆動装置の反力を確保するようになっていることを特徴とする穿孔工法用回転反力支持装置。
【請求項2】 J 上記反力アームが,ガイドフレームに対して位置変更自在に固設されることを特徴とする請求項1記載の穿孔工法用回転反力支持装置。
【請求項3】 K 上記反力アームのフランジに,上記反力プレートが係合自在な切り欠きが軸方向に2箇所以上形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の穿孔工法用回転反力支持装置。
3 審決の理由の要旨(争点と関係の薄い部分はフォントを小さく表記する。) (1) 原告の主張した無効理由の要旨 本件発明1〜3は,本件出願日前に頒布された,以下の甲1〜4に記載された発明(甲1発明〜甲4発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができないものであり,特許法123条1項2号により無効とすべきものである。
甲1:特開平9-195655号公報 甲2:特開昭62-112816号公報 甲3:特開昭63-219787号公報 甲4:登録実用新案第3048609号公報 (2) 審決の理由は,要するに,本件発明1は,甲1発明〜甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし,本件発明1を更に限定した本件発明2及び本件発明3も同様であるから,本件発明1〜本件発明3についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものではないというものである。
審決が認定した甲1発明及び本件発明1と甲1発明との一致点・相違点,並びに相違点についての審決の判断は,以下のとおりである。
(3) 甲1発明の認定 「昇降可能に支持される回転駆動装置1と,先端に掘削ビット27を有し,回転駆動装置1下部の回転駆動軸3に一体回転可能に連結される掘削軸部材2と,掘削軸部材2に套嵌されると共に,回転駆動装置1の機枠6に一体的に垂下連結される固定ケーシング5と,掘削すべき地盤上の所定箇所に水平に設置され,固定ケーシング5を上下方向に自由に挿通させるが該固定ケーシング5の回転を阻止することができるケーシング挿通孔8を有するケーシング回り止め部材7と,からなる掘削装置であって, 固定ケーシング5は円筒状のケーシングからなり,この円筒状固定ケーシング5の外周面に係合用突条部17が長手方向全長に亘って条設されており,ケーシング 回り止め部材7は,前記円筒状固定ケーシング5が挿通可能な円形孔部8aと,この円形孔部8aの内周部に凹設されていて前記係合用突条部17が挿通可能な係合用凹部8bとからなるケーシング挿通孔8を備えてなるものであり, 掘削装置の使用にあっては,クレーンブームMから昇降操作用ワイヤーWを介して回転駆動装置1を吊支し,この回転駆動装置1の下部から固定ケーシング5及び掘削軸部材2を垂下した状態で,固定ケーシング5を,地盤上の所定箇所(掘孔箇所18)に固定されているケーシング回り止め部材7のケーシング挿通孔8に挿入させる。こうして固定ケーシング5をケーシング回り止め部材7のケーシング挿通孔8に挿入することにより,固定ケーシング5は,上下方向に移動可能であるがその回転が阻止される。つまり,回転駆動装置1の回転反力はケーシング回り止め部材7によって受支されることになる。しかして,昇降操作用ワイヤーWを繰り出しつつ,回転駆動装置1を作動させて掘削軸部材2を回転させながら地盤を掘削する掘削装置に係り, 先端に掘削ピット27を挿着した掘削軸部材2を回転駆動装置1に連結し,クレーンブームM先端から懸垂状態で回転駆動装置1を吊下げ,掘削軸部材2の外周側に設けた固定ケーシング5の回転を拘束しながら,回転駆動装置1の回転力を用いて掘削を行う穿孔工法に用いる回転反力支持装置。」 (4) 本件発明1と甲1発明の対比(一致点)「A 先端に掘削ビットを挿着したインナーロッドを回転駆動装置に連結し,重機のブーム先端から懸垂状態で当該回転駆動装置を吊下げ,上記インナーロッドの外周側に設けたアウターケーシングの回転を拘束しながら,当該回転駆動装置の回転力を用いて掘削を行う穿孔工法に用いる回転反力支持装置において, B 上記回転駆動装置に連結されたインナーロッドの外周に,設けられたアウターケーシングと, C 上記アウターケーシングの外側面であって軸方向に固設された第1の反力 プレートと,を有している穿孔工法用回転反力支持装置。」(相違点) ア 相違点1本件発明1は,アウターケーシングが「B …着脱自在に併設した」ものであるのに対し,甲1発明の固定ケーシング5は,そうでなく,また,本件発明1は, 「F 上記アウターケーシングと上記回転駆動装置とは,互いに固定連結されて」いないのに対し,甲1発明は,そうでない点。
イ 相違点2 本件発明1は, 「D 上記回転駆動装置に設けられ,上記アウターケーシングの第1の反力プレートに対して干渉するようになっている第2の反力プレート」を有するものであるのに対し,甲1発明は,そうでなく, また,本件発明1は, 「G 上記アウターケーシングに設けられた第1の反力プレートに対しては,上記回転駆動装置側に設けた第2の反力プレートが,上記インナーロッドの回転方向において自在に係合するようになっており,H 上記回転駆動装置によって上記インナーロッドに回転力を付与し始めた際に,当該回転駆動装置の第2の反力プレートが,上記アウターケーシングの第1の反力プレートに対して係合」しているのに対し,甲1発明は,そうでない点。
ウ 相違点3本件発明1は, 「E 穿孔芯を確保するための枠組み状のガイドフレームに設けられ,上記アウターケーシングの径に相当するスパンを介して当該ガイドフレームに固設されている反力アーム」を有するものであるのに対し,甲1発明は,そうでなく,また,本件発明1は, 「I 上記回転駆動装置によって上記インナーロッドに回転力を付与している間,上記アウターケーシングの第1の反力プレートを,穿孔芯を確保する上記ガイドフレームに固設された反力アームに係合させ,それによって上記回転駆動装置の反力を確保するようになっている」のに対し,甲1発明は,そうでない点。
(5) 相違点についての判断 ア 相違点1 甲2にはアースオーガ1(本件発明1の「回転駆動装置」に対応するもの)とケーシング20(本件発明1の「アウターケーシング」に相当するもの)との係合を解き両者を離間させた後,スクリュー22をケーシング1より脱抜する,いわゆるケーシング20を地中に置き去りとし,くい孔30の崩壊を略完全に防止する技術が記載されており,甲2に記載された構成と甲1発明とは,掘削技術という共通する技術分野に属し,甲1発明においても甲2に記載されたものと同様の課題が存することは明らかであるので,甲1発明に対して甲2に記載された構成を適用して,アウターケーシングを回転駆動装置やインナーロッドと離間可能なものとして,本件発明1の相違点1に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2 まず,甲1発明の係合用突条部17は, 「円筒状固定ケーシング5の外周面に係合用突条部17が長手方向全長に亘って条設され」るものであるのに対して,甲3に記載された帯状突起15は,固定スリーブ管12の内側に設けるものであり,設ける位置が内側と外側というように正反対であるという違いがある。
原告は,甲1の開示技術に甲3の開示技術を組み合わせ,地盤からの反力が得られるようにする場合,甲1のように固定ケーシング5の外側に係合用突条部17を設ける方法と,甲3のように固定スリーブ管12の内側に帯状突起15を設ける方法とがある,と主張する。しかしながら,甲1発明の係合用突条部17は, 「固定ケーシング5をケーシング回り止め部材7のケーシング挿通孔8に挿入することにより…その回転が阻止される」もの,すなわち,「地盤上の所定箇所(掘孔箇所18)に固定されているケーシング回り止め部材7」 (本件発明1の「ガイドフレーム」に相当するもの)に対して,円筒状固定ケーシング5(本件発明1の「アウターケーシング」に相当するもの)を回転阻止するものであるのに対して,甲3の帯状突起15は,回転駆動部8のストッパー16が固定スリーブ管12の帯状突起15と係 「合し…回転出力軸9の回転が削孔用具10に伝達されるようになる」もの,すなわ ち,固定スリーブ管12(本件発明1の「アウターケーシング」に相当するもの)に対して,回転駆動部8(本件発明1の「回転駆動装置」に相当するもの)を回転阻止するものである。つまり,両者とも「地盤からの反力が得られるようにする」ものではあるが,そのために作用する相手側の部材が異なるものであって,それらをひとまとめにして論じることはできない。
そうすると,仮に原告主張のように,甲1発明に対して甲3に記載された構成を適用した場合には,甲1の円筒状固定ケーシング5(本件発明1の「アウターケーシング」に相当するもの)には,外面の係合用突条部17(本件発明1の「第1の反力プレート」に相当するもの)に加えて,内面に甲3の帯状突起15を別途設け,甲3に記載されたストッパー16(本件発明1の「第2の反力プレート」に相当するもの)と,円筒状固定ケーシング5の内面に設けた帯状突起15と係合(本件発明1の「干渉」に相当)する構成とすると解するのが相当である。
そして,結局,本件発明1の「第1の反力プレートに対して干渉するようになっている第2の反力プレート」(ただし,「第1の反力プレート」は,アウターケーシングの「外側面」に固設されたもの)を有したものとはならない。
本件発明1は,相違点2に係る構成によって,明細書に記載された本件発明の課題を解決するための手段である「着脱自在」を,被告が主張するように合理的に図れるものであって,所定の効果を奏するものであるから,単なる設計的事項とすることはできない。
また,甲1ないし甲4すべての記載を見ても,甲1発明の回転駆動装置に「アウターケーシングの第1の反力プレートに対して干渉するようになっている第2の反力プレート」 (ただし, 「第1の反力プレート」は,アウターケーシングの「外側面」に固設されたもの)を設けることを示唆する記載は発見できない。
したがって,甲1ないし甲4すべての記載を見ても, 「係合用突条部17」に係合するストッパーを「機枠6」が有する構成,つまり,本件発明の構成Dにするのは,当業者であれば極めて容易に想到し得ることであるとはいえない。
ウ 相違点3 甲4には,回転駆動部1(本件発明1の「回転駆動装置」に相当するもの)によってオーガ7(本件発明1の「インナーロッド」に対応するもの)に回転力を付与している間,円筒ケーシング6(本件発明1の「アウターケーシング」に相当するもの)の案内部材15(本件発明1の「第1の反力プレート」に相当するもの)を,穿孔芯を確保する架台11(本件発明1の「ガイドフレーム」に相当するもの)に固設された枠体12a(本件発明1の「反力アーム」に相当するもの)に係合させ,それによって回転駆動部1の反力を確保するようになっているものが記載されている。そして,甲4に記載された構成と甲1発明とは,掘削技術という共通する技術分野に属し,甲1発明において,ケーシング回り止め部材7は,固定ケーシング5の上下方向移動を可能とするとともに回転を阻止する機能を発揮するものであれば,適宜の構造のものとすることができることは技術的に明らかであるから,甲1発明に対して甲4に記載された構成を適用して,本件発明1の相違点3に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由は,審決が,相違点2について容易想到性の判断を誤ったことである。
2 審決が,甲1発明と甲3発明を組み合わせるに当たって示唆した構成は,甲1の掘削装置と甲3の削孔装置とを組み合わせて,甲1の固定ケーシング5を回転駆動装置1の機枠6から着脱自在にしようとした当業者は,仮に甲1の掘削装置が係合用突条部17を有さない場合には甲1の固定ケーシング5の内面に甲3記載の帯状突起15を設けると共に機枠6に甲3記載のストッパー16に相当するものを設け,両者が係合する構造である。
しかしながら,そのような構成には次のような阻害要因がある。
@垂直に立てられた固定ケーシング5の上端に,機枠6を取り付ける場合,固定ケーシング5の高さは数m以上になるので,作業者は,固定ケーシング5と機枠6 との取り付け箇所を下から見上げて,取り付け作業することになる。そして,固定ケーシング5の内側に,ストッパー16を挿入しなければならないが,下から見上げているために固定ケーシング5の内側が見えないので,作業が困難である。
A固定ケーシング5の上方に排土を排出する排土口を設けた場合,固定ケーシング5の帯状突起15が障害となって,排土が排土口に到達し難くなる。
B固定ケーシング5と機枠6との間の間隙に,固定ケーシング5の内側で下から吹き上げられた排土中の石等が挟まり,固定ケーシング5を機枠6から取り外し難くなる。
C作業中における固定ケーシング5の変形等によって固定ケーシング5が機枠6から取り外せないトラブルが生じた場合,固定ケーシング5を切断して取り外さなければならず,手間がかかる。
D甲3のように固定スリーブ管12の内側に帯状突起15を設けるには,突起となる材料を管の内側に溶接等によって接続しなければならない。この接続を例えば溶接によって行おうとすれば,管内での作業空間が狭いために困難な作業となり,手間がかかる。また,内側に突起を有した管を押し出しによって製造しようとすれば多大なコストがかかる。
特に,管内での作業が難しい場合には,人の手が管内に届く位の長さに管を切断し,切断した管の内側に帯状突起15を設けてから切断した管を接合して元の長さにしなければならないので,多大な時間とコストがかかる。
E機枠6の径が固定ケーシング5の内径よりも小さい場合,駆動源が小さくなるので十分な掘削力を得られない。
したがって,審決が示唆した構成にはならない。
3 甲3に接した当業者は,掘削時に地盤からの反力を得るために,固定スリーブ管12の内側に設けた帯状突起15と,回転駆動部8のストッパー16との構成によって反力を得るという具体的な構成の知識を得るだけでなく,固定スリーブ管12の外側又は内側の径方向に突出した帯状の突起と,その突起と係合するように 回転駆動部8に設けられたストッパーとによって地盤からの反力を得るという技術思想を得る。固定スリーブ管12の外側の径方向に突出した帯状の突起から回転反力を得る構成と、固定スリーブ管12の内側の径方向に突出した帯状の突起から回転反力を得る構成との,いずれの構成によっても回転反力を得る効果は同じであるし,甲3の削孔装置のように、回転駆動部8が固定スリーブ管内に移動できるように回転駆動部8の径を固定スリーブ管の内径よりも小さくする必要がないからである。
そして,甲1発明の掘削装置の固定ケーシング5の外面には,径方向に突出した帯状の突起である係合用突条部17が設けられている。この係合用突条部17は,下方においてケーシング回り止め部材7の係合用凹部8bと係合して地盤からの反力を得ることを目的としているものであるから,機枠6が固定ケーシング5から反力を得るためにこの係合用突条部17を用いることには,容易に想到できる。
また,固定ケーシング5の外径よりも大きい機枠6が想定されるのが自然であるから,機枠6の外周縁を下方に延伸させ,その延伸部分に係合用突条部17と係合する突起を設ける構成にすることは,当業者が容易に想到できることである。
特に,甲1発明の掘削装置の係合用突条部17は,固定ケーシング5の長手方向全長に亘って設けられており,機枠6の近傍にも設けられているので,当業者は,この係合用突条部17を用いて地盤からの反力を得ることを,容易に想到できる。
甲1発明のように固定ケーシング5の外側に係合用突条部17を設ける方法と,甲3に記載された削孔装置7のように固定スリーブ管12の内側に帯状突起15を設ける方法とは,地盤からの反力を得るために作用する相手側の部材が異なるが,地盤からの反力を得るものであることに変わりはないので,ひとまとめにして論じることができ,甲1発明と甲3に記載された削孔装置7とは,ケーシング内部に掘削装置の掘削軸を挿通して掘削を行う点で技術分野が関連し,掘削装置(アースオーガ)を支持する部材(リーダや仮設桟橋)がなくても掘削作業を可能にするという課題が共通するから,甲1発明に甲3から得られる技術思想を適用する動機付けが ある。
さらに,この係合用突条部17を回転駆動装置1の機枠6と係合させる構成とすることに,何の阻害要因もない。
甲3に記載された削孔装置7の回転駆動部8は,固定スリーブ管12内に移動できるようにその径が固定スリーブ管12の内径より小さくなければならないが,甲1発明の回転駆動装置1は固定ケーシング5内に移動しないのでその径は固定ケーシング5の内径より大きくすることができ(実際に大きい。,十分な掘削力を得る )ために回転駆動装置1は大きい方が好ましいことから,回転駆動装置1を大きくして外周縁を下方に延伸させ,その延伸部分の内周に係合用突条部17(第1の反力プレート)と係合する第2の反力プレートを設けることは,当業者が容易に想到できる。
本件特許出願時に公知であった特開平8-284473号公報(甲15)の技術思想は,甲1発明に甲3から得られる技術思想を組み合わせたときに,本件発明1のように,アウターケーシングの外側の径方向に突出した帯状の突起と,回転駆動装置の内側の径方向に突出した帯状の突起とを係合させることを示唆する。
甲1発明に甲2に記載された構成を適用して固定ケーシング5を回転駆動装置1と離間可能にすることが当業者にとって容易想到であることは,審決も認めており,甲2に記載された構成を組み合わせて固定ケーシング5が回転駆動装置1から着脱自在になった甲1発明において,回転反力を得る構成とするために,固定スリーブ管12(甲1発明の「固定ケーシング5」に対応する。)が回転駆動部8(甲1発明の「回転駆動装置1」に対応する。)から着脱自在である甲3に記載された削孔装置7の構成を組み合わせる動機付けがある。
4 よって,甲1発明に対して甲3に記載された構成を適用して,本件発明1の相違点2に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
被告の反論
1 そもそも,甲1発明と甲3発明とを組み合わせることはできない。原告が主張する阻害要因を乗り越えた甲1発明と甲3発明との組合せは,容易想到とはいえない。
甲1発明に甲3発明の「帯状突起15」を設けることは困難であり,甲1発明に甲3発明を組み合わせることには阻害要因がある。
2 本件発明1は, 「第2の反力プレート」を回転駆動装置の下側の筒体に設けるものである。これに対し,甲3発明は, 「第2の反力プレート」を回転駆動装置の機枠に設けている。しかるに,甲3発明の回転駆動装置の機枠は, 「固定スリーブ管12」の外径よりも小さいものであり,仮に「固定スリーブ管12」の外側に「係合用突状部」を設けたとしても,これと機枠に設けた「ストッパー16」「第2の反 (力プレート」に対応)とを係合させることは技術的に不可能である。
3 甲1及び甲3からは,ケーシングと回転駆動装置を「着脱自在」な構成とすべき必然性は見受けられず,甲1発明に甲3発明を組み合わせる動機付けが存在しない。
当裁判所の判断
1 原告は,審決が甲3に記載された削孔装置の構成そのままを甲1発明に適用したことが誤りであり,その審決の論理付けによれば相違点2に係る構成は容易想到といえないことを認めた上で,審決とは別の論理付けによって,相違点2に係る構成は甲1発明及び甲3に記載された構成から容易想到であると主張するものと認められる。
そして,原告が主張する論理付けは,要約すれば,@甲3に接した当業者は,固定スリーブ管12の外側又は内側の径方向に突出した帯状の突起と,その突起と係合するように回転駆動部8に設けられたストッパーとによって,地盤からの反力を得るという技術思想を得る,A甲1発明と甲3の技術思想とを組み合わせることは,当業者にとって容易想到である,というものである。
そこで,以下では,原告が主張する論理付けによって,相違点2に係る構成が容 易想到といえるか否かを検討する。
2 甲3から得られる技術思想 (1) 原告は,甲3に接した当業者は,固定スリーブ管12の内側に設けた帯状突起15と回転駆動部8のストッパー16との係合によって地盤からの反力を得るという具体的な構成の知識を得るだけでなく,固定スリーブ管12の外側又は内側の径方向に突出した帯状の突起と,その突起と係合するように回転駆動部8に設けられたストッパーとによって,地盤からの反力を得るという技術思想を得ると主張する。
(2) しかし,原告の主張は,以下に述べるとおり,採用することができない。
ア 甲3発明は,斜面に垂直に削孔することができる削孔装置に関するものである。
そして,甲3には,その実施例として,クレーン4のロープ6により吊下される回転駆動部8と,回転駆動部8の中心から下方に延びる回転出力軸9と,回転出力軸9の下端に設けられた削孔用具10と,回転駆動部8の外周に若干の間隙を介して嵌合されるように回転駆動部8の上部から削孔用具10の部分まで下方に延びる固定スリーブ管12と,固定スリーブ管12の下端外周に設けた一対の固定アーム13と,固定スリーブ管12の下部に設けた掘屑吐出口14と,固定スリーブ管12の内周面にその上端から所定ストローク長さだけ下方に延びるよう互いに180°離間した位置で内方に突出して設けた帯状突起15と,帯状突起15の側面に係合するよう回転駆動部8の外周面に互いに180°離間した位置で外方に突出するように設けたストッパー16とにより構成される削孔装置7が記載されている(別紙図面目録3の第1図ないし第3図)。
また,他の実施例として,固定スリーブ管12の下端外周に一対の固定アーム13を設ける代わりに,固定スリーブ管12の下端部外周に嵌合したリングの外周に一対の固定アーム13を固定するとともに,リング17の内周面に形成した凹溝18を固定スリーブ管12の下端部外周に軸方向に設けた突出リブ19に係合させて, リング17が固定スリーブ管12と相対的に円周方向には回動しないが軸方向には所定長さだけ摺動自在にした削孔装置7が記載されている(別紙図面目録3の第4図,第5図)。
いずれの実施例の削孔装置7も,一対の固定アーム13が地面に掘った係合溝に係合した状態で回転駆動部8を駆動させると,回転駆動部8及び回転出力軸9が回転するが,回転駆動部8のストッパー16が固定スリーブ管12の帯状突起15と係合して回転駆動部8の回転が止まり,回転出力軸9の回転が削孔用具10に伝達されて削孔が始まる。回転駆動部8は,削孔の進行によって削孔用具10と共に固定スリーブ管12に相対的に下降し,固定スリーブ管12の下部に位置するようになったところで削孔の1ストロークが完了する。ここで,固定スリーブ管12は,その下端外周に設けた一対の固定アーム13(又は,その下端部外周に嵌合したリング17の外周に固定された一対の固定アーム13)が地面に掘った係合溝に係合しているから,削孔が進んでも地上に留まることが明らかである。
これら2つの実施例の削孔装置7は,一対のアーム13を固定スリーブ管12に取り付ける構造が異なるだけで,回転駆動部8の外周に若干の間隙を介して固定スリーブ管12が嵌合される構造に違いはない。また,一対の固定アーム13及び帯状突起15を設ける位置が,いずれも「例えば互いに180°離間した位置」とされて,円周方向に適宜変更可能なことが示唆されていることを除けば,回転駆動部8及び固定スリーブ管12の構造(特に,回転駆動部8の外周に若干の間隙を介して固定スリーブ管12が嵌合される構造)の変更を示唆する記載はない。さらに,甲3には,これら2つの実施例の削孔装置7以外の削孔装置は記載されていない。
したがって,甲3には,回転駆動部8の外周に固定スリーブ管12が嵌合され,削孔の進行によって回転駆動部8が固定スリーブ管12の内部を相対的に下降する態様の削孔装置7だけが記載されており,それ以外の態様の削孔装置は記載も示唆もされていない。
イ 回転駆動部8が固定スリーブ管12に相対的に下降できるのは,回転駆 動部8の外周に固定スリーブ管12が嵌合されているから,すなわち,回転駆動部8の外径が固定スリーブ管12の内径より小さいからに他ならない。
このように,甲3に記載された削孔装置7では,回転駆動部8のストッパー16と固定スリーブ管12の帯状突起15とを係合させて回転駆動部8の回転を止めるものであるから,ストッパー16は回転駆動部8の外周面に,帯状突起15は固定スリーブ管12の内周面に,それぞれ設けるしかなく,その逆は考えられない。
ウ そうすると,甲3に接した当業者は,固定スリーブ管12の内側の径方向に突出した帯状の突起によって地盤からの反力を得るという技術思想は理解するが,逆に,固定スリーブ管12の外側の径方向に突出した帯状の突起を設け,これによって地盤からの反力を得るという技術思想を理解することはない。
(3) 原告は,甲3に接した当業者が固定スリーブ管12の外側又は内側の径方向に突出した帯状の突起によって地盤からの反力を得るという技術思想を得る理由として,@固定スリーブ管12の外側の径方向に突出した帯状の突起から回転反力を得る構成と,固定スリーブ管12の内側の径方向に突出した帯状の突起から回転反力を得る構成とのいずれによっても,回転反力を得る効果は同じであること,A甲3に記載された削孔装置7のように,回転駆動部8が固定スリーブ管12内に移動できるように回転駆動部8の径を固定スリーブ管12の内径よりも小さくする必要はないことを挙げる。
しかし,上記@の点については,通常,特定の効果を奏する構成が技術的に1つに限定されるとは限らないから,ある構成が甲3に記載された構成と同じ効果を奏することを理由として,その構成が甲3に開示されていると認識することは許されない。したがって,原告の主張は失当である。
また,上記Aの点は,前記(2)で述べたとおりであるから,誤りである。
(4) 以上によれば,甲3に接した当業者は,固定スリーブ管12の内側の径方向に突出した帯状の突起と,その突起と係合するように回転駆動部8(の外周面)に設けられたストッパーとによって,地盤からの反力を得るという技術思想を得る ものの,それを更に上位概念化して,固定スリーブ管12の外側又は内側の径方向に突出した帯状の突起と,その突起と係合するように回転駆動部8に設けられたストッパーとによって,地盤からの反力を得るという技術思想を得ることは許されない。
したがって,原告の前記論理付けは,その前提に誤りがある。
3 甲1発明への適用の容易想到性 (1) 以上のとおり,原告の論理付けはその前提に誤りがあるから,甲1発明と甲3から得られる技術思想との組合せが当業者にとって容易想到か否かは検討するまでもないが,念のため検討すると以下のとおりである。
(2) 原告は,甲1発明について,@固定ケーシング5の外面にその長手方向全長に亘って設けられた係合用突条部17の目的はケーシング回り止め部材7の係合用凹部8bと係合して地盤からの反力を得ることであるから,機枠6が固定ケーシング5から反力を得るために機枠6の近傍にも設けられた係合用突条部17を用いることは,当業者が容易に想到できる,A機枠6の径は固定ケーシング5の外径より大きいと想定するのが自然であるから,機枠6の外周縁を下方に延伸させた部分に係合用突条部17と係合する突起を設けることは当業者が容易に想到できる,B係合用突条部17を回転駆動装置1の機枠6と係合させることに阻害要因はないと主張する。
また,原告は,甲3に記載された削孔装置7の回転駆動部8は固定スリーブ管12内に移動できるようにその径が固定スリーブ管12の内径より小さくなければならないが,甲1発明の回転駆動装置1は固定ケーシング5内に移動しないのでその径は固定ケーシング5の内径より大きくすることができ(実際に大きい。,十分な )掘削力を得るために回転駆動装置1は大きい方が好ましいことから,回転駆動装置1を大きくして外周縁を下方に延伸させ,その延伸部分の内周に係合用突条部17(第1の反力プレート)と係合する第2の反力プレートを設けることは当業者が容易に想到できると主張する。
しかし,甲1発明の回転駆動装置1の機枠6は,固定ケーシング5が機枠6に一体的に垂下連結されるから,既に固定ケーシング5を介してケーシング回り止め部材7から反力を得ていることが明らかであり,更に係合用突条部17を用いて固定ケーシング5から反力を得る必要がない。また,回転駆動装置1を大きくしたとしても,既に固定ケーシング5を介して反力を得ているのであるから,大きくした回転駆動装置1の外周縁を下方に延伸させる必要もない。したがって,当業者には,甲1発明において機枠6が係合用突条部17を用いて固定ケーシング5から反力を得る構成を採用する動機付けがない。
(3) 原告は,甲1発明のように固定ケーシング5の外側に係合用突条部17を設ける方法と,甲3に記載された削孔装置7のように固定スリーブ管12の内側に帯状突起15を設ける方法とは,地盤からの反力を得るために作用する相手側の部材が異なるが,地盤からの反力を得るものであることに変わりはないので,ひとまとめにして論じることができ,甲1発明と甲3に記載された削孔装置7とは,ケーシング内部に掘削装置の掘削軸を挿通して掘削を行う点で技術分野が関連し,掘削装置(アースオーガ)を支持する部材(リーダや仮設桟橋)がなくても掘削作業を可能にするという課題が共通するから,甲1発明に甲3から得られる技術思想を適用する動機付けがあると主張する。
しかし,甲1発明の固定ケーシング5と甲3に記載された削孔装置7の固定スリーブ管12とは,以下に述べるとおり,回転駆動装置(回転駆動装置1,回転駆動部8)との間で必要とされる関係が異なるから,両者をひとまとめにして論じることはできない。
まず,甲1の図1にも示されているように,甲1発明の回転駆動装置1は昇降可能に支持され,その下部の回転駆動軸3には先端に掘削ビット27を有する掘削軸部材2が一体回転可能に連結されているから,地盤の掘削を始めると,掘削ビット27,掘削軸部材2及び回転駆動装置1は,全体として下に移動する。掘削ビット27は,当然,掘削中の孔の底に位置するから,掘削軸部材2は,掘削が進むに連 れて下の方から順次,掘削された孔の中に入って行くことが明らかである。固定ケーシング5は,回転駆動装置1の機枠6に一体的に垂下連結されるから,地盤の掘削を始めると,回転駆動装置1と共に下に移動し,掘削が進むに連れて,掘削軸部材2と共に掘削された孔の中に入って行くと認められる。このように,甲1発明の固定ケーシング5は,回転駆動装置1と共に下に移動するから,回転駆動装置1と固定ケーシング5とは,固定ケーシング5の軸方向に相対移動可能である必要がない。
これに対して,甲3に記載された削孔装置7の回転駆動部8は,削孔の進行によって固定スリーブ管12に相対的に下降し,回転駆動部8の中心から下方に延びる回転出力軸9は,その下端に設けられた削孔用具10と共に,削孔が進むに連れて孔の中に入って行く一方,固定スリーブ管12は,削孔が進んでも地上に留まるから,回転駆動部8と固定スリーブ管12とは,固定スリーブ管12の軸方向に相対移動可能であることが必要不可欠である。そして,固定スリーブ管12の内周面の帯状突起15及び回転駆動部8の外周面のストッパー16は,回転駆動部8と固定スリーブ管12とを固定スリーブ管12の軸方向に相対移動可能にしつつ,地盤からの反力を得ることを可能にするための構造であると認められる。
そうしてみると,甲1発明と甲3に記載された削孔装置7とは,技術分野及び課題が共通するとしても,甲3に記載された削孔装置において,回転駆動部8と固定スリーブ管12との相対移動を可能にするための反力支持構造(固定スリーブ管12の内周面の帯状突起15及び回転駆動部8の外周面のストッパー16)を,回転駆動装置1と固定ケーシング5とが相対移動する必要のない甲1発明に適用する動機付けがあると認めることはできない。
(4) 原告は,本件特許出願時に公知であった特開平8-284473号公報(甲15)の技術思想は,甲1発明に甲3から得られる技術思想を組み合わせたときに,本件発明1のように,アウターケーシングの外側の径方向に突出した帯状の突起と,回転駆動装置の内側の径方向に突出した帯状の突起とを係合させることを 示唆すると主張する。
しかし,甲15に記載されているのは,同文献の図1ないし図3(別紙図面目録4)に示されているように,第1の管体1の内側のガイド部材19と第2の管体3の外側のガイド部材20とを係合させることにより,第1の管体1の内部に挿入され,第1の管体1に対して軸方向に移動可能な第2の管体3が,その周方向に回転することを防止する技術であるから,本件発明1のようなアウターケーシングと回転駆動装置との係合を示唆するものではない。
(5) 原告は,甲1発明に甲2に記載された構成を適用して固定ケーシング5を回転駆動装置1と離間可能にすることが当業者にとって容易想到であることは審決も認めており,甲2に記載された構成を組み合わせて固定ケーシング5が回転駆動装置1から着脱自在になった甲1発明において,回転反力を得る構成とするために,固定スリーブ管12(甲1発明の「固定ケーシング5」に対応する。)が回転駆動部8(甲1発明の「回転駆動装置1」に対応する。)から着脱自在である甲3に記載された削孔装置7の構成を組み合わせる動機付けがあると主張する。
しかし,審決が,相違点1の判断において,甲1発明に甲2に記載された構成を適用することが容易想到としたのは,掘削後にケーシングを地中に置き去りにするために回転駆動装置との係合を解く構成についてである。甲2のアースオーガ1とケーシング20は, 掘削中は係合されており,その係合の構造は,アースオーガー1の下端に垂下された固定筒18の下端に設けられた係止片19を,ケーシング20の上端内周部に設けられた係合溝21に係合させた後,係合溝21と,同じくケーシング20の上端内周部に係合溝21と適宜の間隔をもって設けられた突条23との間にスペーサーを挿入するものであるから(甲2,別紙図面目録5の図4),上下方向のみならず,回転方向にも固定されている。
したがって,甲1発明に甲2に記載された構成を組み合わせても,やはり,掘削中においては,甲1発明と同じく,回転駆動装置1と固定ケーシング5は固定されているといえ,甲3に記載された削孔装置7の構成を組み合わせる動機付けがある とはいえない。
(6) 以上のとおりであるから,原告の主張は,いずれも採用することができず,甲1発明と甲3から得られる技術思想とを組み合わせることは,当業者にとって容易想到であると認めることができない。
結論
以上のとおり,原告の請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 新谷貴昭