運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2013-800059
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 26年 (行ケ) 10195号 審決取消請求事件

原告 AICTOKYO株式会社
被告日本碍子株式会社
同訴訟代理人弁理士 吉竹英俊
同 有田貴弘
同 吉澤勇
同 中尾和樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/10/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2013-800059号事件について平成26年7月17日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成17年7月11日,発明の名称を「無線発振装置およびレーダ装置」とする発明について特許出願(特願2006-529206号。優先権主張:平成16年7月14日,日本国)をし,平成23年10月28日,設定の登録 (特許第4849621号)を受けた(請求項の数22。以下,この特許を「本件特許」という。甲37)。
(2) 原告は,平成25年4月10日,本件特許の請求項1ないし10に係る発明について特許無効審判を請求し,無効2013-800059号事件として係属した(甲19)。
(3) 被告は,平成26年5月7日,本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲訂正明細書(甲31)及び特許請求の範囲(甲30)記載のとおり訂正する旨の訂正請求をした(以下「本件訂正」という。甲29〜31)。
(4) 特許庁は,平成26年7月17日,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月25日,原告に送達された。
(5) 原告は,平成26年8月19日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし10の記載は,次のとおりである(甲37)。なお,「/」は,原文の改行部分を示す(以下同じ。)。
【請求項1】無線信号を発振させるための無線発振装置であって,/発振用光変調器,この光変調器に入力する光搬送波を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,前記光変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換する発振用受光器,およびこの電気信号に基づいて無線信号を放射する放射手段を備えており,前記発振用光変調器に周波数fmの変調信号を入力し,前記光搬送波に対し周波数n×fm(nは1以上の所望の整数)シフトした位置に前記側帯波を重畳し,周波数2×n×fmの前記無線信号を発振させることを特徴とする,無線発振装置。
【請求項2】前記所望の整数に対応する側帯波の光強度に対する所望の整数以外の整数に対応する側帯波の光強度の抑制比が10dB以上であることを特徴とする,請求項1記載の無線発振装置。
【請求項3】所望の整数以外の整数に対応する側帯波の光強度を抑制するために光フィルタを使用することを特徴とする,請求項1記載の無線発振装置。
【請求項4】前記光変調器からの出射光を複数に分岐する手段を備えており,分岐した出射光に対応してそれぞれ前記発振用受光器および前記放射手段を備えていることを特徴とする,請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の無線発振装置。
【請求項5】前記光変調器が,強度変調器または位相変調器であることを特徴とする,請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の無線発振装置。
【請求項6】前記光変調器が,電気光学単結晶からなる基板,この基板に設けられている光導波路,およびこの光導波路に対して前記変調信号を印加するための進行波形電極を備えていることを特徴とする,請求項5記載の無線発振装置。
【請求項7】前記進行波形電極におけるギャップ幅が20μm以下であることを特徴とする,請求項6記載の無線発振装置。
【請求項8】請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載の無線発振装置を備えているレーダ装置であって,/物体から反射された信号を受信するための受信手段を備えており,この受信信号および前記無線信号に基づいて前記物体に関する情報を得ることを特徴とする,レーダ装置。
【請求項9】前記受光器から出力された前記電気信号を分岐するための電気的分岐手段,およびこの電気的分岐手段からの分岐信号と前記受信信号とをミキシングするミキサを備えていることを特徴とする,請求項8記載のレーダ装置。
【請求項10】前記発振用光変調器からの出射光を分岐するための光学的分岐手段を備えており,分岐された後の複数経路の出射光に基づいて,それぞれ前記無線信号の発振と前記受信信号の受信とを行うことを特徴とする,請求項9記載のレーダ装置。
(2) 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2ないし10及び30ないし32の記載は,次のとおりである(甲30)。以下,本件訂正後の請求項30ないし32に記載された発明を,それぞれ「本件発明30」,「本件発明31」,「本件発明3 2」といい,併せて「本件各発明」という。また,本件訂正後の明細書(甲31,37)を,図面を含めて「本件明細書」という。なお,本件訂正は,請求項1を削除するとともに,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること等を目的として,請求項30ないし32を追加するものである(下線部は訂正部分である。)。
【請求項2】無線信号を発振させるための無線発振装置であって,/発振用光変調器,この光変調器に入力する光搬送波を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,前記光変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換する発振用受光器,およびこの電気信号に基づいて無線信号を放射する放射手段を備えており,前記変調手段が前記発振用光変調器に周波数fmの変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,前記発振用光変調器において前記光搬送波に対し周波数2×fmシフトした位置に2次側帯波を1回の変調で重畳し,前記発振用受光器により周波数4×fmの前記無線信号を発振させることを特徴とし,/前記2次側帯波の光強度に対する2次以外の次数の側帯波の光強度の抑制比が10dB以上となる前記変調信号の振幅で前記変調手段が前記発振用光変調器を駆動することを特徴とし,/前記発振用光変調器に入力される前記バイアス電圧と前記発振用光変調器から出力される光出力との関係において前記光出力が最大ピークとなる前記バイアス電圧で前記変調手段が前記発振用光変調器を駆動する,/無線発振装置。
【請求項3】無線信号を発振させるための無線発振装置であって,/発振用光変調器,この光変調器に入力する光搬送波を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,前記光変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換する発振用受光器,およびこの電気信号に基づいて無線信号を放射する放射手段を備えており,前記変調手段が前記発振用光変調器に周波数fmの変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,前記発振用光変調器において前記光搬送波に対し周波数3×fmシフトした位置に3次側帯波を1回の変調で重畳し,前記発振用受光器により周波数6×fmの前記無線信号を発振させることを特徴とし,/3次以外の次数の 側帯波の光強度を抑制するために光フィルタを使用することを特徴とし,/前記発振用光変調器に入力される前記バイアス電圧と前記発振用光変調器から出力される光出力との関係において前記光出力が零になる前記バイアス電圧で前記変調手段が前記発振用光変調器を駆動し,/前記光フィルタが使用される前の前記3次側帯波の光強度に対する1次側帯波の光強度の抑制比が11dB以上となる前記変調信号の振幅で前記変調手段が前記発振用光変調器を駆動する,/無線発振装置。
【請求項4】前記光変調器からの出射光を複数に分岐する手段を備えており,分岐した出射光に対応してそれぞれ前記発振用受光器および前記放射手段を備えていることを特徴とする,請求項2〜3のいずれか一つの請求項に記載の無線発振装置。
【請求項5】前記光変調器が,強度変調器であり,前記強度変調器がマッハツェンダー型光変調器であることを特徴とする,請求項2〜4のいずれか一つの請求項に記載の無線発振装置。
【請求項6】前記光変調器が,電気光学単結晶からなる基板,この基板に設けられている光導波路,およびこの光導波路に対して前記変調信号を印加するための進行波形電極を備えていることを特徴とする,請求項5記載の無線発振装置。
【請求項7】前記進行波形電極におけるギャップ幅が20μm以下であることを特徴とする,請求項6記載の無線発振装置。
【請求項8】請求項2〜7のいずれか一つの請求項に記載の無線発振装置を備えているレーダ装置であって,/物体から反射された信号を受信するための受信手段を備えており,この受信信号および前記無線信号に基づいて前記物体に関する情報を得ることを特徴とする,レーダ装置。
【請求項9】前記受光器から出力された前記電気信号を分岐するための電気的分岐手段,およびこの電気的分岐手段からの分岐信号と前記受信信号とをミキシングするミキサを備えていることを特徴とする,請求項8記載のレーダ装置。
【請求項10】前記発振用光変調器からの出射光を分岐するための光学的分岐手段を備えており,分岐された後の複数経路の出射光に基づいて,それぞれ前記無線 信号の発振と前記受信信号の受信とを行うことを特徴とする,請求項9記載のレーダ装置。
【請求項30】無線信号を発振させるための無線発振装置であって,/発振用光変調器,この光変調器に入力する光搬送波を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部,前記光変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換する発振用受光器,およびこの電気信号に基づいて無線信号を放射する放射手段を備えており,前記変調手段が前記発振用光変調器に周波数fmの前記変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,前記発振用光変調器において前記光搬送波に対し周波数fmシフトした位置に1次側帯波を重畳し,前記発振用受光器により周波数2×fmの前記無線信号を発振させることを特徴とし,/前記光変調器からの出射光を複数に分岐する手段を備えており,分岐した出射光に対応してそれぞれ前記発振用受光器および前記放射手段を備えていることを特徴とし,前記光変調器が強度変調器であり,前記強度変調器がマッハツェンダー型光変調器であり,/前記発振用光変調器に入力される前記バイアス電圧と前記発振用光変調器から出力される光出力との関係において前記光出力が零になる前記バイアス電圧で前記変調手段が前記発振用光変調器を駆動し,/前記1次側帯波の光強度に対する3次側帯波の光強度の抑制比が15dB以上となる前記変調信号の振幅で前記変調手段が前記発振用光変調器を駆動する,/無線発振装置/を備えているレーダ装置であって,/物体から反射された信号を受信するための受信手段を備えており,この受信信号および前記無線信号に基づいて前記物体に関する情報を得ることを特徴とする,レーダ装置。
【請求項31】前記受光器から出力された前記電気信号を分岐するための電気的分岐手段,およびこの電気的分岐手段からの分岐信号と前記受信信号とをミキシングするミキサを備えていることを特徴とする,請求項30記載のレーダ装置。
【請求項32】前記発振用光変調器からの出射光を分岐するための光学的分岐手 段を備えており,分岐された後の複数経路の出射光に基づいて,それぞれ前記無線信号の発振と前記受信信号の受信とを行うことを特徴とする,請求項31記載のレーダ装置。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件訂正における訂正事項は,いずれも特許法134条の2第1項ただし書第1号,3号及び4号の規定に適合し,かつ同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するとして,本件訂正を認めた上,A本件発明2ないし10及び30ないし32は,いずれも,特許法36条4項1号又は同条6項1号ないし3号に違反する特許出願に対してされたものであるとはいえず,B本件発明2ないし10及び30ないし32は,いずれも,下記アないしオの引用例1ないし5に記載された発明等に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法29条2項の規定に違反してされたものではない,などというものである。
ア 引 用 例 1 : J.J. O’Reilly , 外 6 名 , “RACE R2005:microwave opticalduplex antenna link”,IEE PROCEEDINGS-J, 1993年12月,Vol. 140,No. 6,p.385-391 (甲4) イ 引用例2:J.J.O’Reilly,外3名,“OPTICAL GENERATION OF VERY NARROWLINEWIDTH MILLIMETRE WAVE SIGNALS”,ELECTRONICS LETTERS,1992年12月3日,Vol. 28,No. 25,p.2309-2311(甲3) ウ 引 用 例 3 : John O’Reilly , Phil Lane , “Remote Delivery of VideoServices Using mm-Waves and Optics ”,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,1994年2月,VOL.12,NO.2,p.369-375(甲5) エ 引用例4:川西哲也,井筒雅之「光FSK変調器を用いたRadio-on-UWB信号の発生」電子情報通信学会技術研究報告フォトニックネットワークPN2003-53,日本,電子情報通信学会,2004年1月21日,p.1-6(甲 1) オ 引 用 例 5 : P.Shen , 外 5 名 , “High-Purity Millimetre-Wave PhotonicLocal Oscillator Generation and Delivery”,2003年9月,InternationalTopical Meeting on Microwave Photonics,p.189-192(甲6) (2) 本件発明30について,引用例1を主引用例とする場合 ア 引用例1に記載された発明 本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)は,以下のとおりである。
無線信号を発振させるための無線発振装置であって,/マッハツェンダー変調器,このマッハツェンダー変調器に入力する光を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,前記マッハツェンダー変調器からの出射光が変調された光と前記マッハツェンダー変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換するPINフォトダイオード,及びこの電気信号に基づいて無線信号を放射する放射手段を備えており,前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器に周波数 ω の変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,前記マッハツェンダー変調器において前記光に対し周波数 ω シフトした位置に1次側帯波を1回の変調で重畳し,前記PINフォトダイオードにより周波数2×ωの前記無線信号を発振させることを特徴とし,/ 前記マッハツェンダー変調器に入力される前記バイアス電圧と前記マッハツェンダー変調器から出力される光出力との関係において前記光出力が零になる前記バイアス電圧Vπ で前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器を駆動し,/前記1次側帯波の光強度に対する3次側帯波の光強度の抑制比が15dB以上となる前記変調信号の振幅で前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器を駆動する,/無線発振装置。
イ 本件発明30と引用発明1との対比 本件審決が認定した本件発明30と引用発明1との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
(ア) 一致点 無線信号を発振させるための無線発振装置であって,/発振用光変調器,この光変調器に入力する光搬送波を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,前記光変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換する発振用受光器,およびこの電気信号に基づいて無線信号を放射する放射手段を備えており,前記変調手段が前記発振用光変調器に周波数fmの変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,前記発振用光変調器において前記光搬送波に対し周波数fmシフトした位置に1次側帯波を重畳し,前記発振用受光器により周波数2×fmの前記無線信号を発振させることを特徴とし,/前記光変調器が強度変調器であり,前記強度変調器がマッハツェンダー型光変調器であり,/前記発振用光変調器に入力される前記バイアス電圧と前記発振用光変調器から出力される光出力との関係において前記光出力が零になる前記バイアス電圧で前記変調手段が前記発振用光変調器を駆動し,/前記1次側帯波の光強度に対する3次側帯波の光強度の抑制比が15dB以上となる前記変調信号の振幅で前記変調手段が前記発振用光変調器を駆動する,/無線発振装置。
(イ) 相違点a 相違点1 本件発明30では,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を備えているのに対し,引用発明1では,変調手段からマッハツェンダー変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部を備えていない点。
b 相違点2 本件発明30では,「前記光変調器からの出射光を複数に分岐する手段を備えており,分岐した出射光に対応してそれぞれ前記発振用受光器および前記放射手段を備えている」のに対し,引用発明1では,マッハツェンダー変調器からの出射光を複数に分岐する手段を備えていない点。
c 相違点3 本件発明30は,「物体から反射された信号を受信するための受信手段を備えており,この受信信号および前記無線信号に基づいて前記物体に関する情報を得ることを特徴とする,レーダ装置」であるのに対し,引用発明1は,無線発振装置であるにとどまり,レーダ装置ではない点。
(3) 本件発明30について,引用例2を主引用例とする場合 ア 引用例2に記載された発明 本件審決が認定した引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)は,以下のとおりである。
無線信号を発振させるための無線発振装置であって,/マッハツェンダー変調器,このマッハツェンダー変調器に入力する光を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,前記マッハツェンダー変調器からの出射光が変調された光と前記マッハツェンダー変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換するピンフォトダイオード,及びこの電気信号に基づいて無線信号を放射する放射手段を備えており,前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器に周波数 ω の変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,前記マッハツェンダー変調器において前記光に対し周波数 ω シフトした位置に1次側帯波を1回の変調で重畳し,前記ピンフォトダイオードにより周波数2×ωの前記無線信号を発振させることを特徴とし,/前記マッハツェンダー変調器に入力される前記バイアス電圧と前記マッハツェンダー変調器から出力される光出力との関係において前記光出力が零になる前記バイアス電圧Vπ で前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器を駆動し,/前記1次側帯波の光強度に対する3次側帯波の光強度の抑制比が15dB以上となる前記変調信号の振幅で前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器を駆動する,/無線発振装置。
イ 本件発明30と引用発明2との対比 本件審決が,引用発明2と引用発明1とは同一であるとして認定した,本件発明30と引用発明2との一致点及び相違点は,前記(2)イにおけるのと同一である。
(4) 本件発明30について,引用例3を主引用例とする場合 ア 引用例3に記載された発明 本件審決が認定した引用例3に記載された発明は,以下のとおりである。
(ア) 無線信号を発振させるための無線発振装置であって,/マッハツェンダー変調器,このマッハツェンダー変調器に入力する光を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,前記マッハツェンダー変調器からの出力光を反射し,前記マッハツェンダー変調器に入力するミラー,前記マッハツェンダー変調器からの出射光が変調された光と前記マッハツェンダー変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換するピンフォトダイオード,及びこの電気信号に基づいて無線信号を放射する放射手段を備えており,前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器に周波数fの変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,前記マッハツェンダー変調器において光に対し周波数2×fシフトした位置に2次側帯波を2回の変調で重畳し,前記ピンフォトダイオードにより周波数4×fの前記無線信号を発振させることを特徴とし,/1次側帯波の光強度に対する3次側帯波の光強度の抑制比が15dB以上となる前記変調信号の振幅で前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器を駆動することを特徴とし,/前記マッハツェンダー変調器に入力される前記バイアス電圧と前記マッハツェンダー変調器から出力される光出力との関係において前記光出力が零になる前記バイアス電圧Vπ で前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器を駆動する,/無線発振装置。(以下「引用発明3-1」という。なお,本件審決が,引用例3の図5に記載された事項により認定した発明である。) (イ) 無線信号を発振させるための無線発振装置であって,/マッハツェンダー変調器,このマッハツェンダー変調器に入力する光を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,前記マッハツェンダー変調器からの出射光が変調された光と前記マッハツェンダー変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換するピンフォトダイオード,及びこの電気信号に基づいて無線信号を放射する放射手段を備えており,前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器に周波数 ω の変調信号及び動作点を設 定するためのバイアス電圧を入力し,前記マッハツェンダー変調器において前記光に対し周波数 ω シフトした位置に1次側帯波を1回の変調で重畳し,前記ピンフォトダイオードにより周波数2×ωの前記無線信号を発振させることを特徴とし,/前記マッハツェンダー変調器に入力される前記バイアス電圧と前記マッハツェンダー変調器から出力される光出力との関係において前記光出力が零になる前記バイアス電圧Vπ で前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器を駆動し,/前記1次側帯波の光強度に対する3次側帯波の光強度の抑制比が15dB以上となる前記変調信号の振幅で前記変調手段が前記マッハツェンダー変調器を駆動する,無線発振装置。(以下「引用発明3-2」という。なお,本件審決が,引用例3の図3に記載された事項により認定した発明である。) イ 本件発明30と引用発明3-1との対比 本件審決は,本件発明30と引用発明3-1とは,前記(2)イ(イ)aの相違点1と同じ点で相違する旨認定した。
ウ 本件発明30と引用発明3-2との対比 本件審決は,引用発明3-2と引用発明1とは同一であるとして,本件発明30と引用発明3-2との一致点及び相違点は,前記(2)イにおけるのと同一である旨認定した。
4 取消事由 (1) 本件訂正を認めた判断の誤り(取消事由1) (2) 本件発明30の明確性要件に係る判断の誤り(取消事由2) (3) 本件発明30の容易想到性に係る認定判断の誤り(取消事由3) ア 引用例1に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り(取消事由3-1) イ 引用例2に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り(取消事由3-2) ウ 引用例3に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り(取消事由3-3) (4) 本件発明31及び32の容易想到性に係る認定判断の誤り(取消事由4)
当事者の主張
1 取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件訂正は,本件発明30の特許請求の範囲(請求項30)に「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」との発明特定事項を加えるものである(以下,この訂正事項を「本件訂正事項」という。)。
この「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」との発明特定事項には,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号」が存在し,FM変調部が,その変調信号を受け取って,その受け取った変調信号を(さらに)周波数変調するか,少なくともそのようなFM変調部が含まれるものと解される。
(2) 被告は,本件訂正事項の根拠として【0048】,【0074】及び【図9】ないし【図12】を挙げるが,これらの記載では,全て「FM変調部20が電源6に接続」されている。
また,本件明細書における「電源6」は,本件発明30の「変調手段」に相当するから,変調信号を周波数変調しているのは,FM変調部ではなく,変調手段としての電源6であるということになる。FM変調部は,電源6を制御しているにすぎない。
そうすると,本件明細書には,変調手段である電源6に接続されたFM変調部20が,電源6を制御することで,電源6が変調信号の周波数を変調している形態が記載されている。これに対し,本件明細書には,変調信号を受け取って,その受け取った変調信号を,さらに周波数変調するFM変調部20は記載されていない。
FM変調部20が電源6を制御することで,電源6が変調信号の周波数を変調するものと,変調信号を受け取って,その受け取った変調信号を周波数変調するFM変調部20とでは,FM変調部20の構成が異なるのであり,本件明細書には,電源6(変調手段)から出力され光変調器2(発振用光変調器)に入力される変調信 号を受け取って,その受け取った変調信号を周波数変調するFM変調部20は記載されておらず,また,記載されているに等しい事項であるともいえない。
(3) 被告の主張について 被告は,本件明細書の【0022】,【0023】には,光変調器に周波数fmの変調信号を入力することが開示されており,どのように周波数変調されたものであっても,目的とする無線信号を発振することができるのであるから,本件訂正事項は,新たな技術的事項を導入するものではない旨主張する。
しかし,【0022】,【0023】の「周波数fmの変調信号」は,単に,光変調器を変調するための周波数fmである変調信号を意味しており,周波数変調された結果,周波数fmとなった変調信号であると解釈することはできない。また,周波数fmの変調信号に対して,さらに周波数変調することは,これらの段落には記載も示唆もされていない。
(4) したがって,本件訂正事項は,新規事項を追加するものであって,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないから,本件訂正は,特許法134条の2第9項において準用する同法126条5項に違反する。
〔被告の主張〕(1) 本件発明30の「FM変調部」の意義 本件発明30の「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」は,変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号が発振用光変調器に入力されるときに周波数変調されたものになっているようにする技術的手段を意味する。
本件発明30の特許請求の範囲(請求項30)には,周波数変調の方式を限定する記載は存しないから,上記技術的手段は,「変調手段」→「FM変調部」→「発振用光変調器」という順序で「変調信号」を伝送し「FM変調部」において「周波数変調」を行う技術的手段であってもよいし,「変調手段」→「発振用光変調器」 という順序で「変調信号」を伝送し「FM変調部」が「変調手段」を制御することにより「周波数変調」を行う技術的手段であってもよいし,それ以外の技術的手段であってもよい。
(2) 本件明細書の記載 本件明細書の【0022】,【0023】の記載から,発振用光変調器に入力する変調信号の周波数をfmとした場合に発振する無線信号の周波数がfm又はn×fmとなり(nは2以上の整数),発振する無線信号の周波数がfm及びn×fmのいずれになるか,及び,発振する無線信号の周波数がn×fmになる場合に整数nがいくつになるかは,発振用光変調器の動作点及び変調信号の振幅によって決まることを把握できる。そして,本件発明30には,発振する無線信号の周波数が2×fmとなる発明が記載されている。
また,本件明細書の【0074】,【0075】,【図14】の記載から,レーダ装置が備える無線発振装置の役割が,周波数変調された無線信号を発振することであることを把握できる。
発振用光変調器に入力する変調信号の周波数をfmとした場合に,発振する無線信号の周波数が2×fmとなること,レーダ装置が備える無線発振装置の役割が周波数変調された無線信号を発振することであることから,発振用光変調器に入力する変調信号を周波数変調することの技術的意義は,レーダ装置が備える無線発振装置に周波数変調された無線信号を発振させることにあることを把握できる。
この技術的意義は,発振用光変調器に入力する変調信号をどのように周波数変調するかとは無関係に達成できるから,当業者は,発振用光変調器に入力する変調信号を周波数変調するに当たって,変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号が発振用光変調器に入力されるときに周波数変調されたものになっているようにする任意の技術的手段を採用できることを理解できる。
したがって,本件明細書の記載から,変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号が発振用光変調器に入力されるときに周波数変調されたものになっている ようにする任意の技術的手段を採用できることを導くことができる。
(3) 以上によれば,本件訂正事項は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
2 取消事由2(本件発明30の明確性要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件発明30に係る特許請求の範囲(請求項30)には,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」の他に,「前記変調手段が前記発振用光変調器に周波数fmの前記変調信号および動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し」という発明特定事項が規定されている。
そして,「前記」とは先に出た用語を指すものであるから,「周波数fmの前記変調信号」は,先に出た「変調信号」の周波数がfmであることを意味し,「光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」における「変調信号」が「周波数fmの前記変調信号」であることを意味するものと解釈される。
そうすると,「光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」は,「光変調器に入力される周波数fmの変調信号に対して,さらに周波数変調するFM変調部」のように解釈される。
しかし,周波数fmの変調信号に対して,さらに周波数変調を施すものは,本件明細書には開示されていない。本件発明30は,周波数fmの変調信号を用いて2fmの無線信号を得るというものであるが,「光変調器に入力される周波数fmの変調信号に対して,さらに周波数変調するFM変調部」を用いた場合,すなわち,周波数fmの変調信号に対して,さらに周波数変調を施した場合において,周波数2fmの無線信号を得ることは,本件明細書の記載によっては達成できない。
したがって,本件発明30に係る特許請求の範囲(請求項30)の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず,特許法36条6項2号の規定する明確性要件に違反するものである。
〔被告の主張〕 (1) 審理範囲外の主張であること 本件審判の手続においては,特許法36条6項2号に関する無効理由は審理判断されているが,「周波数fmの変調信号に対してさらに周波数変調を施せば,本件発明30の目的である周波数2fmを得ることができない」という事実は審理判断されていない。
したがって,原告の取消事由2に係る主張は,本件審判の手続において審理判断されていない無効理由に関する主張であって,本件訴訟において審理することはできない。
(2) 明確性要件(特許法36条6項2号)を満たすこと 本件発明30の特許請求の範囲(請求項30)の「前記変調手段が前記発振用光変調器に周波数fmの前記変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,」という記載から,発振用光変調器に入力されるときに変調信号の周波数がfmになっていることを把握でき,「周波数fm」は,周波数変調がされた後の変調信号の周波数であることを把握できる。
したがって,周波数fmの変調信号を発振用光変調器に入力することと,周波数2×fmの無線信号を発振することとの間に齟齬はなく,請求項30の記載は明確である。
3 取消事由3(本件発明30の容易想到性に係る認定判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 取消事由3-1(引用例1に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り)についてア 相違点1について(ア) 本件審決の判断 本件審決は,本件発明30と引用発明1との相違点1について,@引用発明1は,データ送信用の無線発振装置であるにとどまり,レーダ装置ではなく,データ送信をするために,マッハツェンダー変調器からの周波数2×ωが離れた出射光の一方 をデータによって変調するのであって,変調手段からマッハツェンダー変調器に入力される周波数ωの変調信号を周波数変調することまで想定するものではない,A変調手段からマッハツェンダー型光変調器である発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部を備えることは,甲2をはじめ,甲1,3,5,6及び8ないし18のいずれにも記載されていないとして,引用発明1に,甲1ないし3,5,6及び8ないし18に記載された技術を適用することはできず,仮に,適用したとしても,相違点1に係る本件発明30の構成に容易に想到することができたとはいえない旨判断した。
(イ) 本件審決における@の判断について 引用発明1は,マッハツェンダー型光変調器からの周波数2×ωが離れた出射光(上側側帯波と下側側帯波)の一方をデータによって変調した上で,アンテナユニットにおいて周波数2×ωが離れた出射光の差周波成分を得て,それを放出するものである。引用発明1では,マッハツェンダー型光変調器が用いられており,その駆動には変調信号が用いられるが,その変調信号の周波数は固定されない。すなわち,引用発明1におけるマッハツェンダー型光変調器は,印加される変調信号の周波数を変調する周波数変調部を有しており,また,引用発明1は,複数の端末に向けてアンテナユニットから無線信号を放射することを想定しているから,アンテナユニットから放出される無線信号の周波数が固定される必要はない。
したがって,引用発明1は,出力される周波数である2×ω(本件発明30の「2fm」に相当)を変化させるものであるし,少なくとも,アンテナから放出される信号の周波数を変化させるため,引用発明1のマッハツェンダー型光変調器に印加する周波数を変化させる動機付けが存在する。
また,引用発明1に甲2に記載された発明を組み合わせたレーダ装置においては,様々な対象物を認識するため,甲2に記載されるように,放出される無線信号の周波数を変化させる。
そうすると,引用発明1においても,マッハツェンダー型光変調器に入力される 変調信号の周波数を変調することは通常行われるものであるし,アンテナから放出される信号の周波数を固定せず,変化させることを当業者は当然に想定するといえる。
以上によれば,本件審決における「変調手段からマッハツェンダー変調器に入力される周波数ωの変調信号を周波数変調することまで想定するものではない」との認定は,誤りである。
(ウ) 本件審決におけるAの判断についてa 相違点1に係る本件発明30の構成について 本件明細書の【0048】,【0074】,【図9】ないし【図12】の記載によれば,電源6が本件発明30の「変調手段」に,光変調器2が本件発明30の「発振用光変調器」に,FM変調部20が本件発明30の「変調手段から前記発振用光変調器に印加される変調信号を周波数変調するFM変調部」にそれぞれ相当する。
したがって,相違点1に係る本件発明30の構成は,電源6(変調手段)を制御して,電源6から出力される信号を周波数変調するように電源6を制御するFM変調部を意味する。
b 変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部は,例えば,甲2(【0020】,【図2】等)に開示されているものにすぎない。
すなわち,甲2には,「FM変調器によって周波数変調される発振器の出力信号を,サブキャリア光源によって強度変調成分として光に重畳する,という技術事項」が記載されているところ,甲2における「サブキャリア光源23」,「発振器22」,「FM変調器21」は,それぞれ本件発明30の「発振用光変調器」,「変調手段」,「FM変調部」に相当し,甲2において,FM変調器21は,発振器22からサブキャリア光源23に入力される変調信号を周波数変調するから,甲2には,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変 調するFM変調部」が開示されている。
「サブキャリア光源23」が,本件発明30の「発振用光変調器」に相当することは,サブキャリア光源23が,FM変調器21によって周波数変調された発振器22の出力周波数fd(t)の信号に基づいて,搬送波に比べて周波数がfd(t)だけシフトしたサブキャリア(側帯波)を光(搬送波)に重畳するものであることから分かる。なお,甲2におけるサブキャリア光源の例は,「モードロックレーザ」である(【0016】)が,これは例示であって,モードロックレーザ以外の光源を採用することができないわけではない。また,モードロックレーザ自体も,モードロックレーザには,損失変調によるもののほか,位相変調によりモードロッキングを実現するものが存在し,位相変調によるモードロッキングにおいては,モードロッキングは,「光源と変調器とを有する系」により実現されるものであり(甲38,39),この場合,ある光源が存在し,その光源から出力された光を変調器により周波数変調した上で,駆動を安定化させるものであるから,電流によって発光強度を直接変調する直接変調方式による光変調ではない。
したがって,本件審決が,相違点1に係る本件発明30の構成について,「変調手段から前記発振用光変調器に印加される変調信号を周波数変調するFM変調部」が甲2に記載されていないと認定したのは,誤りである。
(エ) 相違点1の容易想到性について 甲2には,無線発振装置が用いられるレーダ装置が記載されており,引用発明1は,無線発振装置に関するものであるが,この種の無線発振装置がレーダ装置に用いられるものであることは,技術常識である。
したがって,引用発明1において,甲2に記載された発明を組み合わせて,レーダ装置とすることは当業者が容易になし得ることであるから,引用発明1と甲2発明を組み合わせたレーダ装置において,様々な周波数を出力するために,甲2に記載された「発振器22」(変調手段)から「サブキャリア光源23」(発振用光変調器)に入力される変調信号を周波数変調する「FM変調器21」(FM変調部) を採用し,FM変調器がマッハツェンダー変調器に印加される変調信号の周波数を変調するようにすることは,当業者であれば容易になし得る事項にすぎない。
イ 相違点2について 引用発明1は,無線発振装置に関するものであるところ,この種の無線発振装置がレーダ装置に用いられるものであることは,技術常識である。
そして,「レーダ装置において,出射光を複数に分岐した上で,分岐したそれぞれの光を受光器で発振させ,それぞれを放射すること」は周知技術である(甲2等)。
したがって,引用発明1において,上記周知技術を適用して,相違点2に係る本件発明30の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点3について 引用発明1は,無線発振装置に関するものであるところ,この種の無線発振装置がレーダ装置に用いられるものであることは,技術常識である。
そして,「無線発振装置が用いられるレーダ装置は,物体から反射された信号を受信するための受信手段を備えており,受信信号及び無線信号に基づいて物体に関する情報を得るものであること」は周知技術である(甲2)。
したがって,引用発明1において,上記周知技術を適用して,相違点3に係る本件発明30の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。
エ 小括 以上によれば,本件発明30は,引用発明1及び甲2に基づき容易に発明することができたものであるから,本件審決における引用例1に基づく容易想到性に係る判断は誤りである。
(2) 取消事由3-2(引用例2に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り)について 引用発明2は,本件審決が認定するとおり,引用発明1と同一であるから,本件審決における引用例2に基づく容易想到性に係る認定判断は,前記(1)のとおり,誤 りである。
(3) 取消事由3-3(引用例3に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り)について ア 本件審決は,引用発明3-2は引用発明1と同一であるとして,引用例1に基づくのと同様に,本件発明30は,当業者が引用例3に基づき容易に想到し得たものではない旨判断した。
しかし,引用発明3-2は,出射光の上側側帯波と下側側帯波の一方に強度変調を行うものではないから,引用発明1のように,「マッハツェンダー変調器からの周波数2×ωが離れた出射光(上側側帯波と下側側帯波)の一方をデータによって変調する」ものではない。本件審決が認定した引用発明3-2において,「マッハツェンダー変調器からの周波数2×ωが離れた出射光(上側側帯波と下側側帯波)の一方をデータによって変調する」ものとはされていない。
したがって,引用発明3-2と引用発明1とは同一ではなく,本件審決における引用例3に基づく容易想到性の認定判断は,誤りである。
イ 仮に,本件審決が認定するとおり,引用発明3-2が引用発明1と同一であるとしても,前記(1)のとおり,本件審決における引用例3に基づく容易想到性に係る認定判断は誤りである。
マッハツェンダー光変調器が,強度変調器のほか,周波数変調器として用いられることは,本件特許の出願当時の周知技術である(甲1,41,42)から,当業者であれば,引用例3に記載された1光源とマッハツェンダー光変調器とを用いる系において,周波数を固定しようなどとは想定しないことは明らかである。このことは,引用例3の「本方法は,複数チャネルでの実装を担保でき,好ましくはミリ波周波数領域におけるマッハツェンダー変調器を使用できる。」(375頁)の記載からもうかがえる。
(4) 小括 以上のとおり,本件審決には,本件発明30の容易想到性に係る認定判断を誤っ た違法があり,この違法は,本件審決の結論に影響を及ぼすものである。
〔被告の主張〕 (1) 取消事由3-1(引用例1に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り)についてア 相違点1について(ア) 本件審決における@の判断について a 引用発明1は,2つの光成分をPINフォトダイオード上で混合し2つの光成分の差周波数をミリ波信号として生成する発明である。引用例1には,@2つのエルビウムリングレーザが2つの光成分を生成する場合,AシングルDFBレーザ及びマッハツェンダー型変調器が2つの光成分を生成する場合が記載されているところ,引用発明1は,このうち,AのシングルDFBレーザ及びマッハツェンダー型変調器が2つの光成分を生成する場合についてのものである。
引用例1には,@の2つのエルビウムリングレーザが2つの光成分を生成する場合に関し,周波数同期ループが採用され,生成される2つの光信号の周波数差が固定されることが記載されており,@の場合もAの場合も,生成される2つの光信号は同じように用いられるから,@の場合に生成される2つの光信号の周波数差が固定される以上,Aの場合も,2つの光信号の周波数差が固定されないということは想定し難いのであって,Aの場合に係る引用発明1においても,生成される2つの光成分の周波数差は固定される。
そして,引用発明1において,生成される2つの光成分の周波数差2ωは,変調手段からマッハツェンダー型変調器に入力される変調信号の周波数ωにより決まるため,生成される2つの光成分の周波数差2ωを固定することは,変調手段からマッハツェンダー型変調器に入力される変調信号の周波数ωを固定することを意味する。
したがって,引用発明1は,変調手段からマッハツェンダー変調器に入力される変調信号の周波数ωを固定する。
b 引用発明1においては,生成される2つの光成分の周波数差を固定し,したがって,得られるミリ波信号の周波数を固定するのであるから,FM-CW法と呼ばれる方式のレーダ装置に関する発明である甲2に記載された発明を引用発明1に適用することには,阻害要因がある。
(イ) 本件審決におけるAの判断についてa 相違点1に係る本件発明30の構成について ? 相違点1に係る本件発明30の構成である「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」の意義は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいて認定されるが,かかる発明特定事項技術的意義を一義的に明確に理解でき,上記特段の事情は存しないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することなく,特許請求の範囲の記載に基づいて解釈されるべきである。
? 本件発明30の特許請求の範囲(請求項30)には,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号」を直接的に「周波数変調」の対象にするとも,間接的に「周波数変調」の対象にするとも記載されていない。
したがって,相違点1に係る本件発明30の構成である「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を解釈する場合は,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号」を直接的に「周波数変調」の対象にしてもよく(例えば,「変調手段」から「発振用光変調器」までの間において「変調信号」を「周波数変調」することにより,「周波数変調」された「変調信号」を「発振用光変調器」に入力する。),間接的に「周波数変調」の対象にしてもよい(例えば,「変調手段」を制御することにより,「周波数変調」された「変調信号」を「発振用光変調器」に入力する。)と解釈される。
b 甲2に「変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」が開示されていないことについて ? 相違点1に係る本件発明30の「発振用光変調器」は,光の入力を受け,入 力された光を変調し,変調された光を出力する装置を意味しており,光の入力を受けず,光源を制御することにより変調された光を光源に出力させる装置を意味しない(乙2)。
? 甲2の【0020】ないし【0022】,【図2】の記載から,「FM変調器21」から「発振器22」へ向かう信号及び「発振器22」から「サブキャリア光源23」へ向かう信号は,いずれも電気信号であり,「発振器22」に入力される信号及び「発振器22」から出力される信号は,電気信号のみである。「発振器22」に入力される信号及び「発振器22」から出力される信号が電気信号のみである以上,「発振器22」は,光の入力を受けないし,入力された光を変調しないし,変調された光を出力しない。このため,「発振器22」は,相違点1に係る本件発明30の構成である「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」の「発振用光変調器」に相当しない。
また,甲2は,「FM変調器21」から「発振器22」へ向かう電気信号が周波数変調されていることを推認させる記載を含まないし,周波数変調されているのが技術常識であることについての立証もない。甲2発明は,「前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調する」に相当する構成も備えない。
? したがって,甲2は,相違点1に係る本件発明30の構成である「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を備えない。
(ウ) 相違点1の容易想到性について 以上によれば,引用発明1において,甲2に記載された発明を組み合わせて,相違点1に係る本件発明30の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではない。
イ 相違点2について 引用発明1において,甲2に記載された発明を適用することには,前記アのとおり,阻害要因がある。
したがって,引用発明1において,相違点2に係る本件発明30の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 相違点3について 引用発明1において,甲2に記載された発明を適用することには,前記アのとおり,阻害要因がある。
したがって,引用発明1において,相違点3に係る本件発明30の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではない。
(2) 取消事由3-2(引用例2に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り)について 本件審決における引用例1に基づく容易想到性に係る認定判断には,前記(1)のとおり,誤りはないから,本件審決における引用例2に基づく容易想到性に係る認定判断にも誤りはない。
(3) 取消事由3-3(引用例3に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り)について ア 引用発明3-2は,2つの光成分をPINフォトダイオード上で混合し2つの光成分の差周波数をミリ波信号として生成する発明である。引用例3には,@2つの光源が2つの光成分を生成する2光源技術,A1つの光源及びマッハツェンダー型変調器が2つの光成分を生成する1光源技術が記載されているところ,引用発明3-2は,このうち,Aの1光源技術についてのものである。
引用例3には,@の2光源技術に関し,2つの光成分の一方に強度変調を行い,2つの光成分の一方をデータによって変調すること,Aの1光源技術においても,2光源技術と同じように,2つの光成分の一方に強度変調を行い,2つの光成分の一方をデータによって変調することが記載されている。
そして,@の2光源技術においては,マッハツェンダー型変調器からの周波数2×ω離れた上側側帯波と下側側帯波が2つの光成分であるから,引用発明3-2は,マッハツェンダー型変調器からの周波数2×ω離れた上側側帯波と下側側帯波の一 方に強度変調を行い,マッハツェンダー型変調器からの周波数2×ω離れた上側側帯波と下側側帯波の一方をデータによって変調するものである。
したがって,引用発明3-2と引用発明1とが同一であるとした,本件審決における認定に誤りはない。
イ 引用例3の上記@の2光源技術においては,生成される2つの光信号の周波数差が固定されることが記載されており,@の2光源技術もAの1光源技術も,生成される2つの光信号は同じように用いられるから,@の場合に生成される2つの光信号の周波数差が固定される以上,Aの場合も,2つの光信号の周波数差が固定されないということは想定し難いのであって,Aの場合に係る引用発明3-2においても,生成される2つの光成分の周波数差は固定される。
そして,引用発明3-2において,生成される2つの光成分の周波数差2ωは,変調手段からマッハツェンダー型変調器に入力される変調信号の周波数ωにより決まるため,生成される2つの光成分の周波数差2ωを固定することは,変調手段からマッハツェンダー型変調器に入力される変調信号の周波数ωを固定することを意味する。
したがって,引用発明3-2は,変調手段からマッハツェンダー変調器に入力される変調信号の周波数ωを固定する。
ウ 引用発明3-2においては,生成される2つの光成分の周波数差を固定し,したがって,得られるミリ波信号の周波数を固定するのであるから,FM-CW法と呼ばれる方式のレーダ装置に関する発明である甲2に記載された発明を引用発明1に適用することには,阻害要因がある。
4 取消事由4(本件発明31及び32の容易想到性に係る認定判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決における本件発明31及び32の容易想到性に係る認定判断は,本件発明31及び32は,本件発明30をさらに限定した発明であるから,本件発明 30と同様に,甲1又は3ないし6に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないというものである。
(2) しかし,本件発明30の容易想到性に係る認定判断は,取消事由3における原告の主張のとおり,誤りであるから,本件発明31及び32の容易想到性に係る認定判断も誤りである。
〔被告の主張〕 本件審決における本件発明30の容易想到性に係る認定判断は,取消事由3における被告の主張のとおり,誤りはないから,本件発明31及び32の容易想到性に係る認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)について(1) 本件訂正事項について ア 本件訂正事項は,本件訂正の訂正事項10に含まれ,本件訂正前の請求項1,4及び5を順次に引用する請求項8を,請求項30として加入するに際し,本件訂正前の請求項1に「変調手段,前記光変調器」と規定されていたのを,「変調手段,この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部,前記光変調器」と規定したものであり,要するに,本件発明30の発明特定事項として「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を加えるものである。
イ 「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」の意義 本件発明30は,前記第2の2(2)のとおり,無線発振装置を備えているレーダ装置の発明である。本件発明30の特許請求の範囲(請求項30)には,本件発明30の無線発振装置について,発振用光変調器に周波数fmの変調信号が入力されるものであること,発振用光変調器に入力される周波数fmの変調信号が,変調手段及びFM変調部により生成されることが規定されているものの,周波数変調の手順 について特定,限定する記載は存しない。
したがって,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」は,その文言のとおり,変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部を意味し,変調手段から発せられた変調信号を発振用光変調器に伝送,入力するまでの過程で,FM変調部により周波数変調する場合も,変調手段をFM変調部が制御することにより,変調手段から周波数変調された変調信号を発するようにし,これを発振用光変調器に伝送,入力する場合も含まれるものと解される。
(2) 本件明細書の記載 ア 本件明細書には,「好適な実施形態においては,光変調器に周波数fmの変調信号を入力することによって,出射光に周波数fmの前記側帯波を重畳し,周波数fmの無線信号を発振させる。」(【0022】),「他の実施形態においては,光変調器を逓倍器として使用することができる。…発振用光変調器に周波数fmの変調信号を入力し,この際変調信号の振幅を光変調器の駆動電圧Vπのn倍(nは2以上の整数)とし,動作点は,…設定することによって,周波数n×fmシフトした位置に側帯波を重畳し,周波数n×fmの無線信号を発振させる。」(【0023】),「たとえば,図4(a)に模式的に示すように,バイアス電圧が光出力の最大ピーク位置(Vb:ON状態),あるいはバイアス電圧が光出力が零になる位置で(Vb:OFF状態)で動作させる場合に,発振用光変調器に周波数fmの変調信号として入力する。この際変調信号の振幅を光変調器の駆動電圧Vπの2倍とする。すると,出射光には,周波数2fmの側帯波が重畳される。この出射光を,搬送波の周波数foに対する感度のない受光器で受光することによって,周波数2fmの電気信号を得ることができ,これを無線信号を放射する放射手段,例えば送信用アンテナに入力することによって,周波数2fmの無線信号を発生させることができる。」(【0024】)との記載があり,また,本件各発明の実施形態に係るレーダ装置を模式的に示すブロック図である【図9】ないし【図12】とともに, 「図9の例でも,…光変調器2に対しては電源6から周波数fmの変調信号を印加する。なお,本例では,電源6からの信号をFM変調部20によって変調している。」(【0048】)との記載がある(なお,【0022】ないし【0024】,【0048】及び【図9】ないし【図12】の記載は,本件訂正により訂正されていない。甲31,37)。
「光変調器2」は「発振用光変調器」,「変調用電源6」(又は「電源6」)は「変調手段」にそれぞれ相当するから,上記記載を総合すれば,本件明細書には「変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」との技術事項が記載されているものと認められる。
イ ところで,【図9】ないし【図12】及び【0048】には,「光変調器2」(発振用光変調器)に対して「電源6」(変調手段)から周波数fmの変調信号を印加するものであって,FM変調部20によって電源6を制御することにより,電源6から発せられる変調信号を周波数fmの変調信号としている例が記載されているものと認められる。
しかし,本件明細書には,発振用光変調器に周波数fmの変調信号を入力することの技術的意義が,発振用光変調器に周波数fmの変調信号を入力することによって,光源からの光搬送波に対して,周波数fmシフトした位置に1次側帯波を重畳し,発振用受光器により周波数2×fmの無線信号を発振させることにあることが記載されているから(【0022】〜【0024】等),【0022】の「光変調器に周波数fmの変調信号を入力することによって,」との記載は,その文言のとおり,発振用光変調器に周波数fmの変調信号を入力することを記載しているものと理解される。
そして,【0048】の前記記載のように,【図9】等に記載された,FM変調部20によって電源6を制御することにより,電源6から発せられる変調信号を周波数fmの変調信号としている実施形態は,一例であることを示唆する記載も存する。
そうすると,本件明細書の上記記載を総合すれば,本件明細書には,変調手段から発せられた変調信号が,発振用光変調器に入力されるときまでに周波数fmの変調信号となっていればよいこと,すなわち,変調手段から発せられた変調信号を発振用光変調器に伝送,入力するまでの過程で,FM変調部により周波数変調する場合も,変調手段をFM変調部が制御することにより,変調手段から周波数変調された変調信号を発するようにし,これを発振用光変調器に伝送,入力する場合も含まれることが開示されているものといえる。
(3) 原告の主張について 原告は,FM変調部20が電源6を制御することで,電源6が変調信号の周波数を変調するものと,変調信号を受け取って,その受け取った変調信号を周波数変調するFM変調部20とでは,FM変調部20の構成が異なり,本件明細書には,電源6(変調手段)から出力され光変調器2(発振用光変調器)に入力される変調信号を受け取って,その受け取った変調信号を周波数変調するFM変調部20は記載されておらず,また,記載されているに等しい事項であるともいえない旨主張する。
しかし,本件発明30に係る特許請求の範囲及び本件明細書には,「FM変調部」の具体的構成について言及した記載は見当たらないことからすれば,「FM変調部」の具体的構成については,当業者において,その技術常識に基づき選択され得る構成を適宜用いればよいことが理解される。
そして,変調手段から発せられた変調信号を周波数fmに変調するFM変調部の具体的構成を,当業者において,その技術常識に基づき想定することができないとは考え難いから(原告においても,当業者において,上記FM変調部の具体的構成を想定し得ないことを主張立証するものではない。),変調手段から発せられた変調信号を周波数fmに変調するFM変調部の実施形態の記載がないことをもって,かかる技術事項が,本件明細書に記載されていないものと解すべきであるとはいえない。
なお,原告が本件明細書に記載があることを争っていない,FM変調部20が電 源6を制御することで,電源6が変調信号の周波数を変調する場合の実施形態についても,【図9】ないし【図12】に模式的に記載されているにすぎず,「FM変調部20」の具体的構成を特に記載するものではない。
(4) 小括 以上によれば,本件訂正事項は,本件明細書の記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項を導入するものではなく,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてするものであると認められ,本件審決が本件訂正事項についての訂正を認めたことに誤りはない。
したがって,原告の取消事由1に係る主張は理由がない。
2 本件各発明について (1) 本件各発明の特許請求の範囲(請求項30ないし32)の記載は,前記第2の2(2)に記載のとおりであるところ,本件明細書(甲31,37)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する【図2】,【図3】,【図4?】,【図9】〜【図12】については,別紙1の本件明細書図面目録を参照。)。
ア 技術分野 【0001】本発明は,無線発振装置およびレーダ装置に関するものである。
イ 背景技術 【0002】高度道路通信システム(ITS)において,車載レーダを始めとして,電波を利用したレーダシステムの需要が拡大している。近年では,76GHz帯を用いたレーダ装置の開発が進められており,一部実用化が開始された。
【0003】現在,車載レーダは,車体の前面に設置し前方検知し,衝突防止センサとして,前方の車の方位,距離,相対速度を測定することが可能である。今後,安全車間距離を確保して車速を制御するオートクルーズシステム(ACC)などへの需要の高まりから,前方だけでなく,追い越し車両や人などの障害物を検知し,レーン制御する必要から側方検知,さらに駐車時の補助や衝突防止などのために後 方検知の必要性があり,車体に多数のレーダを取り付ける需要が高まっている。
【0004】従来のミリ波レーダは,図1のように,FM変調器,局部発振器,電力増幅器逓倍器,電気ディバイダー,送信アンテナ,受信アンテナ,ミキサで構成されている。上記RF部分はMMIC化されているが,コストが高く,普及の課題となっている。今後,上記のように複数のレーダ装置を装備したいというニーズがあるが,上記のようにRF部分のコストが高いことから,実際上は非常に困難となっている。
【0005】さらに,発振器と電気ディバイダー間,送信アンテナおよびミキサ間においては,損失の問題から極力伝送距離を短くする必要がある。このため,発振器をアンテナの直近に設置しているので,発振器には,劣悪な環境下での高耐久性が要求されている。一方,レーダ装置として機能するためには周波数安定度,低強度雑音,低位相雑音が高く望まれ,上記双方の要求特性を満足する必要がある。
したがって発振器のコストが高くなる。
【0006】特許文献1(特開2002-162465号公報)では,モードロックレーザによるサブキャリア光源を利用したレーダ装置を開示している。この装置によれば,光ファイバと光分波器により出射光を複数経路に分けることが可能となり,1台の発振器で共用でき,さらにRF部分に必要な部品点数を飛躍的に削減できることから,コストの低減化が可能である。さらに,発振器の設置位置を自由に選択できることから,発振器への要求性能を緩和し,コストの低減化がさらに可能となる。
ウ 発明が解決しようとする課題 【0008】モードロックレーザなどのサブキャリア光源を使用したレーダ装置においては,発振スペクトルが任意のたてモード間隔にて多数出現する。このため,所望のビート周波数以外に,複数の無線信号が発生してしまう。したがって,複数の無線信号が物体から反射されてくるので,受信側に周波数フィルタを設ける必要があり,かつフィルタの通過帯域の要求仕様を厳しくすることで,多数の不要な無 線信号をカットすることが必須である。
【0009】また,モードロックレーザを使用して76GHz帯の無線信号を発生させるためには,76GHz帯の発振器が必要となる。このような発振器は,上記した2つの理由からコストが高くなる。
【0010】さらに,モードロックレーザなどのサブキャリア光源は,上記のように複数の不必要な周波数をもつ無線信号が発生してしまうために,エネルギー的に効率が悪く,特に複数経路に分岐する場合は所定の無線信号出力を確保することが難しい。所定の無線信号出力を確保するためには,大規模かつ高性能な光増幅器あるいは電力増幅器が必要となり,コスト高の原因となる。
【0011】本発明の課題は,レーダ装置用の無線発振装置において,通過帯域の要求仕様の高い受信側フィルタの必要性をなくし,また高性能かつ高耐久性の発振装置や増幅器の必要性をなくすることによって,実用性の高いレーダ装置用無線発振装置を提供することである。
エ 課題を解決するための手段 【0012】本発明は,無線信号を発振させるための無線発振装置であって,発振用光変調器,この光変調器を通過する光搬送波を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,光変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換する発振用受光器,およびこの電気信号に基づいて無線信号を放射する無線信号放射手段を備えている。
加えて,本発明は,/(1)変調手段が発振用光変調器に周波数fmの変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,発振用光変調器において光搬送波に対し周波数2×fmシフトした位置に2次側帯波を1回の変調で重畳し,発振用受光器により周波数4×fmの無線信号を発振させ,2次側帯波の光強度に対する2次以外の次数の側帯波の光強度の抑制比が10dB以上となる変調信号の振幅で変調手段が発振用光変調器を駆動し,発振用光変調器に入力されるバイアス電圧と発振用光変調器から出力される光出力との関係において光出力が最大ピークとなるバイアス電圧で変調手段が発振用光変調器を駆動すること,又は/(2)変調手 段が発振用光変調器に周波数fmの変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,発振用光変調器において光搬送波に対し周波数3×fmシフトした位置に3次側帯波を1回の変調で重畳し,発振用受光器により周波数6×fmの無線信号を発振させ,3次以外の次数の側帯波の光強度を抑制するために光フィルタを使用し,発振用光変調器に入力されるバイアス電圧と発振用光変調器から出力される光出力との関係において光出力が零になるバイアス電圧で変調手段が発振用光変調器を駆動し,光フィルタが使用される前の3次側帯波の光強度に対する1次側帯波の光強度の抑制比が11dB以上となる変調信号の振幅で変調手段が発振用光変調器を駆動すること,/を特徴とする。
【0013】また,本発明は,無線信号を発振させるための無線発振装置であって,/発振用光変調器,この光変調器に入力する光搬送波を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,光変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換する発振用受光器,およびこの電気信号に基づいて無線信号を放射する放射手段を備えており,発振用光変調器に周波数fmの変調信号を入力し,この際変調信号の振幅を光変調器の駆動電圧Vπのn倍(nは2以上の整数)とすることによって,光搬送波に対し周波数n×fmシフトした位置に前記側帯波を重畳し,周波数n×fmの前記無線信号を発振させることを特徴とする。
【0014】また,本発明は,前記無線発振装置を備えているレーダ装置であって,物体から反射された信号を受信するための受信手段を備えており,この受信信号および無線信号に基づいて物体に関する情報を得ることを特徴とする。/また,本発明は,無線発振装置を備えているレーダ装置であって,物体から反射された信号を受信するための受信手段を備えており,この受信信号および無線信号に基づいて物体に関する情報を得ることを特徴とする。当該無線発信装置は,無線信号を発振させるための無線発振装置であって,発振用光変調器,この光変調器を通過する光搬送波を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,この変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部,光変調器からの出射 光を受光し,電気信号に変換する発振用受光器,およびこの電気信号に基づいて無線信号を放射する無線信号放射手段を備えている。加えて,当該無線発信装置は,変調手段が発振用光変調器に周波数fmの変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,発振用光変調器において光搬送波に対し周波数fmシフトした位置に1次側帯波を重畳し,発振用受光器により周波数2×fmの無線信号を発振させ,光変調器からの出射光を複数に分岐する手段を備えており,分岐した出射光に対応してそれぞれ発振用受光器および放射手段を備え,光変調器が強度変調器であり,強度変調器がマッハツェンダー型光変調器であり,発振用光変調器に入力されるバイアス電圧と発振用光変調器から出力される光出力との関係において光出力が零になるバイアス電圧で変調手段が発振用光変調器を駆動し,1次側帯波の光強度に対する3次側帯波の光強度の抑制比が15dB以上となる変調信号の振幅で変調手段が発振用光変調器を駆動すること,を特徴とする。
【0015】本発明者は,モードロックレーザなどのサブキャリア光源ではなく,光強度変調器や光位相変調器などの光変調器を使用したレーダ装置を発明した。この原理について,図2の模式図を参照しつつ述べる。
【0016】図2に示す無線発振装置は,光源1,光変調器2,変調用電源6,受光器7および無線信号放射手段8を備えている。光変調器2は,光導波路基板3,基板3に形成された所定パターンの光導波路5,および光導波路5を伝搬する光を変調する電極4を備えている。
【0017】光源1から周波数foの搬送波を矢印Aのように発振し,光導波路5に入射させる。図3に模式的に示すように,変調器の駆動電圧をVπとする。光変調器のλ/4の動作点において,変調器電極に周波数fm,駆動電圧±Vπ/2の変調信号を入力する。すると,光変調器2からは,周波数fmの被変調光(側帯波)が発生する。これを周波数軸としてみると,図2のように,搬送波Pのベース周波数foに対して周波数fmシフトした位置に,各側帯波R,Qが発生することになる。この時点で光変調器2から出射される出射光Bは,周波数foの搬送波P が,周波数fmで強度変調された形となる。
【0018】これらの搬送波および側帯波を受光器7に矢印Bのように入射させる。通常の受光器7の感度は,搬送波の周波数foに追随できないので,受光器7から得られる電気信号の周波数はfmのみとなる。この電気信号を無線信号放射装置8に入力することによって,例えば,周波数fmのミリ波無線信号Cを発生させることができる。
【0019】この場合,モードロックレーザによるサブキャリア光源と異なり,多数のたてモードに対応する光信号は発生しないので,無線信号を高効率で発生することが可能となる。
【0020】したがって,特開2002-162465号公報において必要であった,受信器の後段に設置されるべきフィルタを,通過帯域特性の厳しくない低コストのフィルタに変更することができ,さらに側帯波のみ発生できれば,フィルタを取り除くことができる。さらに,無線信号発生に必要な側帯波を効率的に発生させることが可能となり,サブキャリア光源に比し大出力の無線信号が発生でき,複数に分岐した場合にも高性能な光アンプまたは電力増幅器を必要としない。以上から,本発明はコストの低減効果が高い。
オ 発明を実施するための形態 【0022】好適な実施形態においては,光変調器に周波数fmの変調信号を入力することによって,出射光に周波数fmの前記側帯波を重畳し,周波数fmの無線信号を発振させる。たとえば図2,3に示す例はこの実施形態に該当する。
【0023】また,他の実施形態においては,光変調器を逓倍器として使用することができる。すなわち,発振用光変調器に周波数fmの変調信号を入力し,この際変調信号の振幅を光変調器の駆動電圧Vπのn倍(nは2以上の整数)とし,動作点は,nが偶数のとき光変調器の0もしくはλ/2に設定し,nが奇数のとき光変調器のλ/4もしくは3λ/4に設定することによって,周波数n×fmシフトした位置に側帯波を重畳し,周波数n×fmの無線信号を発振させる。このように, 発振用光変調器の駆動電圧を高くすることにより,逓倍数をあげることができ,低周波数の発振器にて高周波の無線信号発生が可能となる。
【0024】たとえば,図4(a)に模式的に示すように,バイアス電圧が光出力の最大ピーク位置(Vb:ON状態),あるいはバイアス電圧が光出力が零になる位置で(Vb:OFF状態)で動作させる場合に,発振用光変調器に周波数fmの変調信号として入力する。この際変調信号の振幅を光変調器の駆動電圧Vπの2倍とする。すると,出射光には,周波数2fmの側帯波が重畳される。この出射光を,搬送波の周波数foに対する感度のない受光器で受光することによって,周波数2fmの電気信号を得ることができ,これを無線信号を放射する放射手段,例えば送信用アンテナに入力することによって,周波数2fmの無線信号を発生させることができる。
【0025】さらに,図4(b)に示すように,バイアス電圧が光出力が1/2になる位置(Vb:π/2)で動作させる場合に,発振用光変調器に周波数fmの変調信号とし,変調信号の振幅を光変調器の駆動電圧Vπのk倍(kは奇数)とすると,出射光には,周波数k×fm(kは奇数)の無線信号を発生させることができる。なお,図4(b)ではk=3の場合を図示してあるが,kが5以上の奇数の場合も同様である。
【0026】また,図2,図3の例において,出射光から搬送波周波数foの光をフィルタでカットすることが可能である。この場合には,駆動電圧の大きさに関わらず消光比の大きい変調出力光が得られ,側帯波QとRとのビート周波数2fmの直流成分がない電気信号が受光器から発振され,周波数2fmの無線信号Cが発振される。この場合,電気信号に直流成分がないために熱雑音等のノイズの小さい無線信号が得られる。
【0027】図5に示すように,搬送波Pの周波数をfo,変調信号の周波数fmとしたときに,強度変調器あるいは位相変調器にVπより大きい適切な変調用電圧を印加することにより,foから+あるいは-側に複数の側帯波Q1,Q2,Q 3,R1,R2,R3を矢印Bのように出射させることもできる。この場合において,目的とする無線発振周波数に対応する組み合わせの側帯波,あるいは搬送波を選択し,他の光を周波数フィルタでカットする。また,複数の変調器を直列もしくは並列に組み合わせること,あるいは側帯波間の位相差を例えば光導波路長あるいは光遅波回路・マイクロ波遅波回路によって調整する。これによって,残った一組の側帯波,あるいは搬送波のビート周波数を有する無線信号を発振させることができる。
【0028】また,本発明によれば,発振用光変調器に周波数fmの変調信号を入力し,光搬送波に対し周波数n×fm(nは1以上の所望の整数)シフトした位置に側帯波を重畳し,周波数2×n×fmの無線信号を選択して発振させることができる。この場合には,周波数逓倍方式によって無線発振することになる。
【0029】具体的には,強度変調器を変調周波数fm,電圧Vp-p,バイアス電圧Vbで駆動する場合には,光電界強度は,下記式で表され,側帯波が発生する。ここで,各記号は以下のとおりである。
【0030】Jk(b): ベッセル函数b=π/4×(Vp-p/Vπ)Vb=0のとき: a1=1,a2=0Vb=Vπのとき: a1=0,a2=1 【0031】 【数1】 【0032】図15には各側帯波のスペクトル分布を模式的に示す。バイアス電圧が光出力の最大ピーク位置で動作させると(Vb:ON状態),偶数次(nが偶 数)の側帯波成分のみが発生する。逆にバイアス電圧が,光出力が零になる位置で動作させる場合(Vb:OFF状態)には,奇数次(nが奇数)の側帯波のみが発生する。これら各々の高次(n次)側帯波成分は,駆動電圧Vp-pに従って変動し,それぞれ,ある駆動電圧で最大値をとる。したがって,所望の高次(n次)成分が大きくなり,他のn次成分が小さくなるような駆動電圧を選択し,所望のn次成分をビート信号として出力させることが可能である。これを光電変換することにより,2×n×fmに相当する無線周波数を発生できる。
【0033】この場合には,所望の整数に対応する側帯波の光強度に対する所望の整数以外の整数に対応する側帯波の光強度の抑制比は,10dB以上とすることが好ましい。また,nの上限は理論的には特にないが,実用的には10以下が使い易い。
【0035】以下,各倍波の計算結果について例示する。/(2倍波発生)/入力電圧Vp-pに対し,バイアス電圧Vbで駆動した場合のn次側帯波の光強度パワーの計算値を示す。まずVb:OFF状態の場合に1次側帯波(J 1)2,および3次側帯波の 1 次側帯波に対する光パワー強度比(J3/J1)2(抑制比)を図16に示す。1次側帯波の光強度は入力電圧が(2.3Vπ)Vp-pで最大値になり,3次側帯波の抑制比は15dB以上となる。したがって,この場合,光出力は1次両側帯波の光ビート信号(2×fm)が得られる。
【0040】また,周波数逓倍方式によって無線発振する場合には,(数1)に示すようにバイアス電圧はVb:ON状態,あるいはVb:OFF状態でなくとも任意のバイアス電圧で動作させることは可能である。この場合には,光フィルタにより所望の側帯波以外の側帯波を抑制することによりS/N比の大きい高品質光ビート信号をえることができる。
【0041】本発明の無線発振装置には,無線信号放射手段は一個でも良いが,無線信号を放射する放射手段を複数個設けることができる。このためには,発振用光変調器からの出射光を分波器で複数経路に分岐し,各分岐光を対応する各受光器 に入力させる。光の分岐や伝送による減衰は少なく,したがって複数の無線放射手段を設けた場合でもコストを低く抑えることができる。
【0045】以下,本発明のレーダ装置について更に説明する。/好適な実施形態においては,受光器から出力された電気信号を分岐するための電気的分岐手段,およびこの電気的分岐手段からの分岐信号と受信信号とをミキシングするミキサとを設ける。
【0046】図8はこの実施形態に係るレーダ部21を示すブロック図である。
光源1から搬送波Aを光変調器2へと入射させ,前述のような出射光Bを発振用受光器7に入射させる。この受光器7から発振する目標周波数の電気信号を電気的分岐手段22(例えばパワーディバイダー)によって2経路に分岐する。この電気信号の一方を電気増幅器14によって増幅し,放射手段8から無線信号を矢印Dのように放射する。
【0047】分岐された他方の電気信号(目的周波数)は,ミキサ18へと伝送する。一方,物体からの反射光Eを各受信手段15A,15B,15Cによって受信し,各受信手段からの信号をスイッチ16によって選択し,増幅器17によって増幅し,ミキサ18において,分岐された電気信号とミキシングする。この出力は所定の信号処理装置19において処理し,物体の位置,速度等に関する情報を得る。
なお,受光器7と電気的分岐手段22との間にフィルタを配置し,不所望の周波数の信号をカットすることもできる。
【0048】図9の例でも,図8に示すレーダ装置を使用している。光変調器2に対しては電源6から周波数fmの変調信号を印加する。なお,本例では,電源6からの信号をFM変調部20によって変調している。
【0049】他の実施形態においては,光変調器からの出射光を分岐するための光学的分岐手段を設け,分岐された後の複数経路の出射光に基づいて,それぞれ無線信号の発振と受信信号の受信とを行うことができる。
【0050】図10は,この実施形態に係るブロック図である。/各レーダ部2 1A,21B,21C,21Dの構成は,前述した図9のレーダ部21と同様であるので,その説明は省略する。本例では,光変調器2からの出射光Bを光学的分岐手段23(例えば光カプラ)によって矢印Fのように複数に分岐させる。そして,分岐された各信号にそれぞれ対応するように,各レーダ部21A,21B,21C,21Dを設ける。そして,各レーダ部において,それぞれ無線信号の発振と受信とを行い,信号処理部19によって信号処理を行い,物体に関する情報を得る。
【0051】また,好適な実施形態においては,レーダ装置に,光変調器からの出射光を分岐するための光学的分岐手段,分岐された出射光を入射させ,受信信号によってこの出射光に変調を加えるための出射光変調用光変調器,およびこの光変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換する他の受光器を設ける。
【0052】図11は,この実施形態に係るブロック図である。/光源1から搬送波Aを光変調器2へと入射させ,前述のような出射光Bを光学的分岐手段(例えば光カプラ)23,27に入射させる。光学的分岐手段27からの出射光の一方を発振用受光器7に入射させる。この受光器7から発振する目標周波数の電気信号を電気増幅器14によって増幅し,発振手段8から無線信号を矢印Dのように発振する。
【0053】一方,分岐された他方の出射光(目的周波数)は,光変調器26へと入射させる。また,物体からの反射光Eを各受信手段15A,15B,15Cによって受信し,各受信手段からの信号をスイッチ16によって選択し,増幅器17によって増幅し,光変調器26の制御変調信号として使用する。この光変調器26からの出射光Gを他の受光器28によって受光し,電気信号に変換する。受光器28からの電気信号を信号処理部19によって処理し,物体に関する情報を得る。
【0054】好適な実施形態においては,光変調器からの出射光を分岐するための光学的分岐手段を設け,分岐された後の複数経路の出射光に基づいて,それぞれ無線信号の発振と受信信号の受信とを行う。
【0055】図12はこの実施形態に係るブロック図である。/各レーダ部25 A,25B,25C,25Dの構成は,前述した図11のレーダ部25と同様であるので,その説明は省略する。本例では,光変調器2からの出射光Bを光学的分岐手段23(例えば光カプラ)によって矢印Fのように複数に分岐させる。そして,分岐された各信号にそれぞれ対応するように,各レーダ部25A,25B,25C,25Dを設ける。そして,各レーダ部において,それぞれ無線信号の発振と受信とを行い,受光器28によって電気信号に変換し,信号処理部19によって信号処理を行い,物体に関する情報を得る。
【0057】このような光変調器として,LN(ニオブ酸リチウム)-MZ(マッハツェンダー)型光変調器,電界吸収型(EA)光変調器,半導体MZ型光変調器,SSB光変調器がある。LN-MZ型光変調器は,EA光変調器や半導体MZ型光変調器に比し低光挿入損失である特徴がある。したがって,複数に分岐した場合に光アンプまたは電力増幅器を必要としない可能性もある。
実施例 【0074】(実施例2)/次に,前記発振周波数に三角波を変調し,同様の方法で光変調器2を動作させたところ,中心周波数76GHzのFMCW信号が発振されることを確認した。この信号を送信アンテナ8から移動物体に放射し,その反射してきた信号を受信アンテナ15A,15B,15Cにて受信した。
【0075】送信信号と受信信号をミキサ18にてミキシングすることにより,図14に示すビート信号を取り出すことにより距離と相対速度を検知することができ,実際の移動物体の距離100mおよび相対速度50kmを測定することを確認した。
(2) 前記(1)の記載によれば,本件各発明の構成及びその特徴は以下のとおりであると認められる。
ア 本件各発明は,無線発振装置及びレーダ装置に関するものである(【0001】)。
従来のミリ波レーダは,RF部分のコストが高く,普及の課題となっており,車 載レーダでは,前方検知だけでなく,側方検知及び後方検知の必要性があり,車体に多数のレーダを取り付ける需要が高まっているが,RF部分のコストが高いことから,実際上は非常に困難となっている(【0003】,【0004】)。さらに,損失の問題から極力伝送距離を短くするため,発振器は,アンテナの直近に設置されており,劣悪な環境下での高耐久性が要求されるが,一方で,レーダ装置として機能するためには,周波数安定度,低強度雑音,低位相雑音が高く望まれ,上記双方の要求特性を満足する必要があり,発振器のコストが高くなる(【0005】)。
そこで,従来のモードロックレーザによるサブキャリア光源を利用したレーダ装置によれば,光ファイバと光分波器により出射光を複数経路に分けることが可能となり,1台の発振器を共用することでRF部分に必要な部品数を削減することができるため,コストの低減化が可能となる。また,発振器の設置位置を自由に選択できることから,発振器への要求性能を緩和することができ,コストの低減化が可能となる(【0006】)。
しかし,モードロックレーザなどのサブキャリア光源を使用したレーダ装置においては,発振スペクトルが任意のたてモード間隔にて多数出現するため,所望のビート周波数以外に,複数の無線信号が発生してしまい,複数の無線信号が物体から反射されてくるので,受信側に周波数フィルタを設ける必要があり,かつフィルタの通過帯域の要求仕様を厳しくすることで,多数の不要な無線信号をカットすることが必須であるという問題(【0008】),モードロックレーザなどのサブキャリア光源は,上記のように複数の不必要な周波数をもつ無線信号が発生してしまうために,エネルギー的に効率が悪く,特に複数経路に分岐する場合は,所定の無線信号出力を確保することが難しく,所定の無線信号出力を確保するためには,大規模かつ高性能な光増幅器あるいは電力増幅器が必要となり,コストが高くなるという問題(【0010】)等があった。
イ そこで,本件各発明は,レーダ装置用の無線発振装置において,通過帯域の要求仕様の高い受信側フィルタの必要性をなくし,高性能かつ高耐久性の発振装置 や増幅器の必要性をなくすることによって,実用性の高いレーダ装置用無線発振装置を提供することを課題とし(【0011】),かかる課題の解決手段として,それぞれ,請求項30ないし32に記載の構成を採用し,これにより,モードロックレーザなどのサブキャリア光源ではなく,光強度変調器や光位相変調器などの光変調器を使用したレーダ装置を発明した(【0015】)。
ウ このうち,本件発明30は,無線発振装置を備えているレーダ装置であって,物体から反射された信号を受信するための受信手段を備え,この受信信号及び無線信号に基づいて物体に関する情報を得ることを特徴とする。そして,当該無線発信装置は,無線信号を発振させるための無線発振装置であって,発振用光変調器,この光変調器を通過する光搬送波を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段,この変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部,光変調器からの出射光を受光し,電気信号に変換する発振用受光器及びこの電気信号に基づいて無線信号を放射する無線信号放射手段を備えている。加えて,当該無線発信装置は,変調手段が発振用光変調器に周波数fmの変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し,発振用光変調器において光搬送波に対し周波数fmシフトした位置に1次側帯波を重畳し,発振用受光器により周波数2×fmの無線信号を発振させ,光変調器からの出射光を複数に分岐する手段を備えており,分岐した出射光に対応して,それぞれ発振用受光器及び放射手段を備えている。また,本件発明30において,光変調器は強度変調器であり,強度変調器がマッハツェンダー型光変調器であり,発振用光変調器に入力されるバイアス電圧と発振用光変調器から出力される光出力との関係において光出力が零になるバイアス電圧で変調手段が発振用光変調器を駆動し,1次側帯波の光強度に対する3次側帯波の光強度の抑制比が15dB以上となる変調信号の振幅で変調手段が発振用光変調器を駆動すること,を特徴とする(【0014】)。
エ 本件各発明によれば,発振用光変調器から,周波数fmの側帯波が発生し,搬送波のベース周波数foに対して周波数fmシフトした位置に,各側帯波R,Q が発生することになり,発振用光変調器から出射される出射光は,周波数foの搬送波が,周波数fmで強度変調された形となる(【0017】)。また,出射光から搬送波周波数foの光をフィルタでカットすることが可能であり,この場合には,側帯波QとRとのビート周波数2fmの直流成分がない電気信号が受光器から発振され,周波数2fmの無線信号が発振されるから,電気信号に直流成分のない,熱雑音等のノイズの小さい無線信号が得られる(【0026】)。したがって,本件各発明によれば,モードロックレーザによるサブキャリア光源とは異なり,多数のたてモードに対応する光信号は発生しないので,無線信号を高効率で発生することが可能となり(【0019】),受信器の後段に設置されるべきフィルタを,通過帯域特性の厳しくない低コストのフィルタに変更することができ,さらに,側帯波のみ発生できれば,フィルタを取り除くことができる(【0020】)。
さらに,本件各発明によれば,無線信号発生に必要な側帯波を効率的に発生させることが可能となり,サブキャリア光源に比し大出力の無線信号が発生でき,発振用光変調器からの出射光を分波器で複数経路に分岐し,各分岐光を対応する各受光器に入力させる場合にも,光の分岐や伝送による減衰は少なく,複数の無線放射手段を設けた場合でも,高性能な光アンプ又は電力増幅器を必要としないことから,コストを低く抑えることができる(【0020】,【0041】)。
3 取消事由2(本件発明30の明確性要件に係る判断の誤り)について(1) 原告は,本件発明30に係る特許請求の範囲(請求項30)には,「光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」及び「周波数fmの前記変調信号」との記載があるところ,「前記」とは先に出た用語を指すものであるから,「光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」は,「変調信号」が「周波数fmの前記変調信号」であることを意味し,「光変調器に入力される周波数fmの変調信号に対して,さらに周波数変調するFM変調部」のように解釈されるが,周波数fmの変調信号に対して,さらに周波数変調を施した場合において,周波数2fmの無線信号を得ることは,本件明細書の記載によっては達成できない から,請求項30の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない旨主張する。
(2) しかし,本件発明30に係る特許請求の範囲(請求項30)の記載は,前記第2の2(2)のとおりであり,「前記変調手段が前記発振用光変調器に周波数fmの前記変調信号…を入力し」との発明特定事項における「前記変調信号」は,その文言上,それより前の「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号」を指すことは明らかである。よって,「前記変調手段が前記発振用光変調器に周波数fmの前記変調信号…を入力し」との発明特定事項は,変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号が周波数fmの変調信号であることを意味するものと解される。
そうすると,請求項30の「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」との発明特定事項は,変調手段から発振用光変調器に入力される変調信号が周波数fmの変調信号であるように,変調手段からの変調信号を周波数変調するFM変調部を意味するものと解される。
このことは,本件明細書の【0022】,【0048】,【図9】ないし【図12】等の記載からも明らかである。
したがって,本件発明30に係る特許請求の範囲(請求項30)の記載は明確であり,原告の取消事由2に係る主張は理由がない。
(3) なお,被告は,取消事由2は本件訴訟の審理範囲に含まれない旨主張する。
原告は,明確性要件違反の具体的内容は上記主張に係る事項とは異なるものの,本件審判手続において,本件発明30の特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号の規定する明確性要件を満たしていない旨主張し,本件審決において,本件発明30に係る特許請求の範囲の記載の特許法36条6項2号違反という無効理由については審理判断されている。そうすると,本件訴訟において,原告の上記主張についておよそ審理判断することができないものと解すべきではない。
4 取消事由3(本件発明30の容易想到性に係る認定判断の誤り)について (1) 取消事由3-1(引用例1に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り)についてア 引用発明1について(ア) 引用例1には,おおむね以下の記載がある(なお,訳文は,甲4に添付の原告訳又は被告訳による。)。
@ 「マイクロ波光2重アンテナリンク」(385頁,タイトル。原告訳)A 「このプロジェクトは,将来の携帯無線技術や遠隔顧客アクセス接続のためのミリ波信号を光学的に生成し,それを光ファイバにより伝送するものに関する。」(385頁左欄2行〜5行。原告訳)B 「MODALデモ機では,採用された方法は2つの光成分をコヒーレントに混合することである。」(386頁左欄35行〜36行。原告訳)C 「MODALデモ機に関して,2倍の周波数を得るように調整されたマッハツェンダー変調器に基づく2つの光成分を得ることができるような新しい方法が開発された。」(386頁左欄44行〜右欄1行。原告訳)「MODALデモ機のために,周波数2逓倍装置の中に構成されたマッハツェンダー変調器を基礎として2つの光成分を生成することを目的として新しい方法が開発された。この方法は,MODALデモ機のために提案された元来の概念である光学的な周波数同期ループを超えて優れた性能をもたらし,光学的な位相同期ループより容易な運転をもたらす。」(386頁左欄44行〜右欄1行。被告訳)D 別紙2引用例1図面目録の【図1】のとおりE 「デモ機のブロック図(図1)に示される2重周波数光源は,要求されるミリ波の搬送波の周波数だけ周波数が離れた2つの光スペクトル線を1550μmという公称波長に生成する。2重周波数光源のための2つの代替案が考案されており,これらは図2に示される。研究された第1の方法は,30GHzという周波数差を維持するために周波数同期された2つのエルビウムリングレーザ(ERLs)を検討した。周波数同期は,次のように実行できる。すなわち,ERLsの出力をPI N上で混合する。回復した30GHzの信号に対して混合を行い2GHzまで低下させる。2GHzでは,AFCユニットが一方のERLの周波数を制御できる。」(386頁右欄5行〜19行。被告訳)F 別紙2引用例1図面目録の【図2】のとおりG 「検討対象となる第2のデュアル周波数光源は,シングルDFBレーザとマッハツェンダー変調器からなるものであった。変調器のバイアス電圧をVπとし,周波数ωの信号でマッハツェンダー変調器を駆動することにより,抑圧された搬送波からω離れた2つの信号が得られた。」(387頁左欄11行〜16行。原告訳)H 「この式のベッセル関数展開は次のようになり,出力スペクトルは2ωだけ離れた2つの光成分からなり,それは光変調器のバンド幅の2倍までに相当する。他の高次成分も発生するものの,図3に示されるように,変調器のバイアスをVπから2%の範囲に調整することで,それらの強度は所望とされるキャリア信号との関係で-15dB以下に維持される。非対称マッハツェンダー干渉光フィルタは,2つのスペクトルを分離する。レーザーダイオードの周波数をこの光学フィルタが適切に動作できる範囲に調整する。」(387頁左欄24行〜下から16行。原告訳) I 「上記のように生成された光成分のひとつは,次に,アンテナユニットによって送信されるデータによって変調されるサブキャリアの集合によって振幅変調される。(中略) アンテナユニットにて,ベースユニットで生成された光成分がPINフォトダイオード上にてコヒーレントに混合される。この混合により,和周波成分と差周波成分とが形成され,これらのうちで差周波成分が得ようとするミリ波信号に相当する。」(387頁右欄3行〜下から19行。原告訳) J 「MODALであれば,基地局から数キロ離れた位置にアンテナがあっても構わない。このことは,図6に示されるような遠距離通話サービスの領域に適した技術を提供することとなる。」(388頁右欄12行〜16行。原告訳) K 「MODAL型のシステムによれば,無線顧客アクセス接続をも提供できる。
一つの基地局当たり多くの顧客にサービスを提供することができ,コストを分散できるので,この技術は非常にコストを低減できる選択肢となりうる。」(389頁左欄18行〜右欄6行。原告訳) (イ) 前記(ア)の記載によれば,引用例1には,引用発明1について,以下の点が開示されているものと認められる。
a 図1にある「デュアル周波数光源」は,シングルDFBレーザとマッハツェンダー変調器から成る(前記(ア)のB,C,D,F,G)。
b 「デュアル周波数光源」に用いられるマッハツェンダー変調器は,バイアス電圧をVπとし,周波数ωの信号で駆動されることにより,DFBレーザからの搬送波から,それぞれω離れた2つの信号を得る(前記(ア)のD,G)。
c デュアル周波数光源のマッハツェンダー変調器から出射された2つの出射光のうち一方は,図1にある,デュアル周波数光源の後段にさらに設けられたマッハツェンダー変調器により,データ入力された信号処理部による変調信号により変調されて出射され,他方は変調しないまま出射される(前記(ア)のA〜I)。
d このマッハツェンダー変調器から出射された2つの光は,PINフォトダイオードが受光し,2つの光を受光したPINフォトダイオードは,受光した2つの光の周波数の差分を取り出すことで,2×ωの無線信号を発振する(前記(ア)のH,I)。
(ウ) そして,引用例1に,前記第2の3(2)のとおりの引用発明1が記載されていることは,当事者間に争いがない。
イ 本件発明30と引用発明1との相違点1の容易想到性について (ア) 本件発明30と引用発明1とは,前記第2の3(2)イ(イ)のとおり,本件発明30では,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を備えているのに対し,引用発明1では,変調手段からマッハツェンダー変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部を備えていない点(相違点1)において相違する。
(イ) 引用発明1において,相違点1に係る構成を設ける動機付けの有無について a 引用例1には,変調手段から光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部を設けることについて,記載がない。
b そして,引用発明1のPINフォトダイオードは,前記ア(イ)のとおり,デュアル周波数光源のマッハツェンダー変調器から出射される2つの光を受光するが,この2つの光のうちの一方の光である「デュアル周波数光源のマッハツェンダー変調器からの出射光がデュアル周波数光源の後段にさらに設けられたマッハツェンダ 一次側帯波が振幅変調された光であると理解されるのに対し,PINフォトダイオードが受光する2つの光のうちの他方の光である「デュアル周波数光源のマッハツェンダー変調器から出射された出射光」は,デュアル周波数光源のマッハツェンダー変調器から出射されたそのままの光,すなわち,変調されていない一次側帯波のみの光であると理解される。
ここで,後段にさらに設けられたマッハツェンダー変調器における変調信号は,任意の変調方式の信号を選択できることは,当業者であれば,普通に理解し得る事項であり,FM変調方式は周知の変調方式にすぎない。そして,後段にさらに設けられたマッハツェンダー変調器における変調信号をFM変調された信号とするならば,この2つの光を受光したPINフォトダイオードは,受光した2つの光の周波 数の差分を取り出すことで,変調手段において変調した周波数幅で周波数変調された2×ωの無線信号を発振するものと理解される。
したがって,引用発明1は,それ自体で,PINフォトダイオード(本件発明30の「発振用受光器」に相当する。)から,2×ω(本件発明30の「2×fm」に相当する。)の無線信号を発振するものであり,「発振用受光器により周波数2×fmの無線信号を発振させるため」に,さらに,相違点1に係る本件発明30の構成,すなわち「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を設ける必要がない。
c さらに,本件発明30における「この変調手段から前記発振用光変調器に入手段」から入力される変調信号を周波数変調するものであり,「発振用光変調器」で上側一次側帯波及び下側一次側帯波の基となる変調信号がすでに周波数変調されているから,「発振用光変調器」から出射される光の上側一次側帯波及び下側一次側帯波は,いずれも周波数変調されたものとなると理解される。
そうすると,引用発明1では,変調手段において変調された周波数幅で周波数変調された2×ωの無線信号を発振していることから,引用発明1においては,変調手段において変調された周波数幅で周波数変調された2×ωの無線信号が所望する無線信号であると認められる。それにもかかわらず,仮に,引用発明1に,相違点1に係る本件発明30の構成,すなわち「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を設けた場合には,上側一次側帯波及び下側一次側帯波のそれぞれが周波数変調されることになり,2つの光を受光したPINフォトダイオードが取り出す無線信号が2×ω(本件発明30の2×fmに相当する。)となるとともに,無線信号の周波数変調の周波数幅もFM変調部が変調した周波数幅の2倍となってしまい,変調手段が変調した周波数幅で周波数変調された2×ωの無線信号を発振させることができなくなる。このように,引用発明1に,相違点1に係る本件発明30の構成を設けた場合には,引用発明1に おける所望の無線信号を発振させることができなくなってしまう。
ところで,引用発明1は,携帯無線技術や遠隔顧客アクセス接続のためのミリ波信号を光学的に生成し,それを光ファイバにより伝送するものに関するが(前記ア(ア)のA),引用発明1における所望の無線信号である,変調手段が変調した周波数幅で周波数変調された2×ωの無線信号を発振した場合には,これを受信した端末は,同無線信号を単に復調すれば足りる。これに対し,引用発明1に,相違点1に係る本件発明30の構成を設け,無線信号の周波数変調の周波数幅がFM変調部が変調した周波数幅の2倍となった2×ωの無線信号を発振した場合には,これを受信した端末は,周波数幅を元の周波数幅に戻した上で,復調するという処理が必要となる。
d 以上の点に鑑みれば,引用発明1において,相違点1に係る本件発明30の構成,すなわち「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を設ける動機付けがあるとは認められない。
(ウ) 甲2における相違点1に係る構成の開示の有無について a 甲2(特開2002-162465号公報)の記載 甲2には,以下の記載がある。
【0001】本発明はレーザ装置に関し,特にマイクロ波やミリ波などの高周波無線信号を利用して,自動車などの移動物体の距離や速度を測定する用途に用いて有用なものである。
【0003】上記監視方向の各々には,従来は図5に示されるような構成のレーダ装置が用いられていた。同図中,51はFM変調器,52は発振器,53は分波器,54は送信アンテナ,55は受信アンテナ,56はミクサ,57はフィルタである。また,58は目標物体である。
【0004】この構成はFM-CW法と呼ばれる方式のレーダ装置であり,その原理について簡単に説明する。発振器52の出力信号はFM変調器51によって,三角波またはそれに近い波形で周波数変調されている。分波器53で電力分配され た一方を送信無線信号として送信アンテナ54より空間へ放射する。目標物体58で反射された信号は受信アンテナ55で受信され,分波器53のもう一方の出力信号とミクサ56によって掛け合わされる。ミクサ56からは送信周波数と受信周波数のビート周波数を持つ信号が出力され,フィルタ57によって適切な低周波成分のみ抽出した後,信号処理が行われる。この方式では,目標物体58までの距離および目標物体58との相対速度を同時に測定することができる。
【0008】本発明は,上記従来技術に鑑み,発振器の設置位置の選択の自由度が大きく発振器への要求性能を緩和してコストを低減し得るとともに,監視部位が複数箇所に増大しても一台の発振器等の機器を共用できこの点からも装置全体のコストの低減を図り得るレーザ装置を提供することを目的とする。
【0015】<第1の実施の形態>図1は本発明の第1の実施の形態に係るレーダ装置を示すブロック図てある。同図において,1はFM変調器,2は発振器,3はサブキャリア光源,4は光分波器,5a,5bは受光器,6は送信アンテナ,7は受信アンテナ,8は光変調器,9はフィルタである。また,10は目標物体である。このうち,光分波器4,受光器5a,送信アンテナ6,受信アンテナ7,光変調器8を含む領域をアンテナ部100と呼称する。図において太線は光ファイバなどの光路,細線は電気線路を表している。
【0016】ここで,レーダの使用周波数帯を60GHzとし,サブキャリア光源3として1.5μmの波長帯で発光する,60GHzの繰り返し周波数を持つモードロックレーザを使用する。光変調器8としては,60GHzの信号に反応する電界吸収型の光変調器を使用する。受光器5aは60GHz帯の信号を検出する高速のフォトダイオードである。受光器5bは送信周波数と受信周波数のビート周波数を検出する程度の,低速のフォトダイオードである。
【0017】かかる本形態のレーダ装置の動作について説明する。発振器2の出力信号はFM変調器1によって,三角波またはそれに近い波形で周波数変調されている。その送信信号はサブキャリア光源3によって強度変調成分として光に重畳さ れる。サブキャリア光源3の出力光は,光ファイバで伝送された後,アンテナ部100に入力される。光分波器4で2分された光波の一方を受光器5aによって光電変換した後,送信無線信号として送信アンテナ6より空間へ放射する。目標物体10で反射された信号は受信アンテナ7で受信され,光変調器8によって強度変調成分として光に重畳される。ここで光変調器8には光分波器4のもう一方の出力光が入力されている。光変調器8の出力は図において太い波線で表される光路を伝わり,受光器5bに入力される。受光器5bからは送信周波数と受信周波数のビート周波数を含む信号が出力され,フィルタ9によって適切な低周波成分のみ抽出した後,信号処理が行われる。
【0020】<第2の実施の形態>図2は本発明の第2の実施の形態に係るレーダ装置を示すブロック図である。同図において,21はFM変調器,22は発振器,23はサブキャリア光源,24は光分波器,25a,25b,25cは受光器,26a,26b,26cはフィルタ,27a,27b,27cは目標物体である。
【0021】本形態は図1に示す第1の実施の形態におけるアンテナ部を複数方向(図では3方向)検知用に拡張したものである。200a,200b,200cはアンテナ部であり,それぞれ図1におけるアンテナ部100と同等の部品,すなわち光分波器,受光器,送信アンテナ,受信アンテナ,光変調器を含んでいる。図において太線は光ファイバなどの光路,細線は電気線路を表している。
【0022】かかる本形態のレーダ装置の動作について説明する。発振器22の出力信号はFM変調器21によって,三角波またはそれに近い波形で周波数変調されている。その送信信号はサブキャリア光源23によって強度変調成分として光に重畳される。サブキャリア光源23の出力光は,光ファイバで伝送された後,アンテナ部200a,200b,200cに入力される前に光分波器24によって3分岐される。3つのアンテナ部200a,200b,200cはそれぞれ目標物体27a,27b,27cとの送受信動作を行い,受信信号が重畳された光はそれぞれ受光器25a,25b,25cに入力される。ここでフィルタ26a,26b,2 6cの出力であるビート周波数を検出することにより,目標物体27a,27b,27cに関するそれぞれ距離と移動速度を決定することができる。
【0025】<第3の実施の形態>図3は本発明の第3の実施の形態に係るレーダ装置を示すブロック図である。同図において,31はFM変調器,32は発振器,33はサブキャリア光源,34は受光器,35は分波器,36は送信アンテナ,37は受信アンテナ,38はミクサ,39はフィルタである。また,40は目標物体である。このうち,受光器34,分波器35,送信アンテナ36,受信アンテナ37,ミクサ38,フィルタ39を含む領域をアンテナ部300と呼称する。図において,太線は光ファイバなどの光路,細線は電気線路を表している。
【0026】かかる本形態のレーダ装置の動作について説明する。発振器32の出力信号はFM変調器31によって,三角波またはそれに近い波形で周波数変調されている。その送信信号はサブキャリア光源33によって強度変調成分として光に重畳される。サブキャリア光源33の出力光は,光ファイバで伝送された後,アンテナ部300に入力される。受光器34によって光電変換した後,送信信号は分波器35で2分され,送信アンテナ36より空間へ放射される。目標物体40で反射された信号は受信アンテナ37で受信され,分波器35のもう一方の出力信号とミクサ38によって掛け合わされる。ミクサ38からは送信周波数と受信周波数のビート周波数を持つ信号が出力され,フィルタ39によって適切な低周波成分のみ抽出した後,信号処理が行われる。
【0028】<第4の実施の形態>図4は本発明の第2の実施の形態に係るレーダ装置を示すブロック図である。同図において,41はFM変調器,42は発振器,43はサブキャリア光源,44は光分波器,45a,45b,45cは目標物体である。
【0029】本形態は図3に示す第3の実施の形態におけるアンテナ部を複数方向(図では3方向)検知用に拡張したものである。図において太線は光ファイバなどの光路,細線は電気線路を表している。400a,400b,400cはアンテ ナ部であり,それぞれ図3におけるアンテナ部300と同等の部品,すなわち受光器,分波器,送信アンテナ,受信アンテナ,ミクサ,フィルタを含んでいる。図において太線は光ファイバなどの光路,細線は電気線路を表している。
【0030】かかる本形態のレーダ装置の動作について説明する。発振器42の出力信号はFM変調器41によって,三角波またはそれに近い波形で周波数変調されている。その送信信号はサブキャリア光源43によって強度変調成分として光に重畳される。サブキャリア光源43の出力光は,光ファイバで伝送された後,アンテナ部400a,400b,400cに入力される前に光分波器44によって3分岐される。3つのアンテナ部400a,400b,400cはそれぞれ目標物体45a,45b,45cとの送受信動作を行い,それぞれの距離と移動速度を決定することができる。
b 上記記載によれば,甲2には,「FM変調器によって周波数変調されている発振器の出力信号を,サブキャリア光源によって強度変調成分として光に重畳する」という技術事項が開示されていると認められる(【0015】〜【0017】,【図2】等)。
ところで,本件発明30は,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」と規定しており,「FM変調部」は,その文言上,変調手段から光変調器に入力される変調信号を周波数変調するものである。そして,本件明細書には,前記2(2)のとおり,本件発明30は,モードロックレーザなどのサブキャリア光源ではなく,光強度変調器や光位相変調器などの光変調器を使用したレーダ装置を発明したものであり(【0015】),光源に変調信号を入力することにより変調光(変調された光搬送波)を出力することに代えて,光源からの光搬送波を発振用光変調器に入力し,この変調器に変調信号を入力することによって,変調光(変調された光搬送波)を出力するものであることが記載されている。したがって,本件発明30の「FM変調部」には,変調手段から光源に入力される変調信号を周波数変調する態様のものは含まれないことは明らかである。
しかし,甲2において,「FM変調器によって周波数変調されている発振器の出力信号を強度変調成分として光に重畳する」作用は,サブキャリア光源によって行い。また,甲2には,光源とは別に,光変調器を設け,変調手段からこの光変調器に入力される変調信号を周波数変調することにより,光変調器に入力された光に強度変調成分を重畳することについては,何らの記載も示唆もない。
したがって,甲2に,相違点1に係る本件発明30の構成,すなわち,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」が記載されているとは認められず,引用発明1に甲2に記載された発明を適用しても,相違点1に係る本件発明30の構成には至らない。
(エ) また,甲1,3,5,6,8ないし10及び18には,光搬送波をマッハツェンダー変調器で2本の光に分離して出射し,これを発振用受光器で受光し,逓倍化された無線信号を発信する装置が記載されているにすぎず,甲11ないし17には,マッハツェンダー変調器に相当する構成が記載されているにすぎず,いずれも,相違点1に係る本件発明30の構成,すなわち,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を設けることについては,記載も示唆もない。
したがって,上記各引用例又は刊行物に,相違点1に係る本件発明30の構成,すなわち,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」が記載されているとは認められず,引用発明1に上記各引用例又は刊行物に記載された発明を適用しても,相違点1に係る本件発明30の構成には至らない。
(オ) 以上によれば,引用発明1において,相違点1に係る本件発明30の構成を設ける動機付けがなく,また,仮に,引用発明1に甲2に記載された発明,あるいは他の引用例又は刊行物(甲1,3,5,6,8ないし18)に記載された発明を適用しても,相違点1に係る本件発明30の構成にはならないから,当業者が, 引用発明1において相違点1に係る本件発明30の構成を設けるようにすることに容易に想到し得たとは認められない。
ウ 原告の主張について (ア) 原告は,引用発明1におけるマッハツェンダー型光変調器は,印加される変調信号の周波数を変調する周波数変調部を有しており,また,引用発明1は,複数の端末に向けてアンテナユニットから無線信号を放射することを想定しているから,アンテナユニットから放出される無線信号の周波数が固定される必要はなく,マッハツェンダー型光変調器に入力される変調信号の周波数を変調することは通常行われるものであるし,アンテナから放出される信号の周波数を固定せず,変化させることを当業者は当然に想定するから,アンテナから放出される信号の周波数を変化させるため,引用発明1において,変調手段からマッハツェンダー変調器に入力される周波数ωの変調信号を周波数変調するためにFM変調部を設けるようにする動機付けが存在する旨主張する。
しかし,相違点1に係る本件発明30の構成である「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」は,「発振用光変調器」から出射される光の上側一次側帯波及び下側一次側帯波は,いずれも周波数変調されたものとなると理解されるところ,引用発明1に,相違点1に係る本件発明30の構成を設けた場合には,上側一次側帯波及び下側一次側帯波のそれぞれが周波数変調されることになり,2つの光を受光したPINフォトダイオードが取り出す無線信号が2×ωとなるとともに,無線信号の周波数変調の周波数幅もFM変調部が変調した周波数幅の2倍となってしまい,変調手段が変調した周波数幅で周波数変調された2×ωの無線信号を発振させることができず,引用発明1における所望の無線信号を発振させることができなくなってしまうことは,前記イ(イ)cのとおりである。
そうすると,マッハツェンダー型光変調器に入力される変調信号の周波数を変調し得ることが周知であり,かつ,変調が通常行われるものであったとしても,引用 例1に接した当業者において,引用発明1において,相違点1に係る本件発明30の構成を設けるようにすることを当然に想起するものとは認められない。
そして,引用例1には,相違点1に係る本件発明30の構成,すなわち「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を設けることについて開示も示唆もないことは,前記イのとおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(イ) 原告は,甲2には,サブキャリア光源の例として,モードロックレーザが挙げられているが,これは例示であって,モードロックレーザ以外の光源を採用することができないわけではなく,また,モードロックレーザ自体も「光源と変調器とを有する系」により実現されるものであり,直接変調方式による光変調ではないことから,甲2の「サブキャリア光源23」は,本件発明30の「発振用光変調器」に相当する旨主張する。
しかし,甲2には,「FM変調器によって周波数変調されている発振器の出力信号を,サブキャリア光源によって強度変調成分として光に重畳する」という技術事項が開示されているものの,甲2に記載された発明は,発振器の設置位置の選択の自由度が大きく,発振器への要求性能を緩和してコストを低減し得るとともに,監視部位が複数箇所に増大しても,一台の発振器等の機器を共用することができ,装置全体のコストの低減を図り得るレーザ装置を提供することを目的とし(【0008】),かかる課題を解決し得る構成として,「アンテナより送信する無線信号を光に重畳するためのサブキャリア光源」(【0033】)を用いることが記載されているのみで,光源とは別に,光変調器を設け,変調手段からこの光変調器に入力される変調信号を周波数変調することにより,光変調器に入力された光に強度変調成分を重畳することについては,何らの記載も示唆もない。このように,甲2に,相違点1に係る本件発明30の構成,すなわち,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」が記載されているとは認められない。そして,モードロックレーザが「光源と変調器とを有する系」によ り実現されるものであったとしても,モードロックレーザによって,FM変調器によって周波数変調されている発振器の出力信号を,サブキャリア光源によって強度変調成分として光に重畳することが実現されるのであるから,モードロックレーザが用いられることが記載されているからといって,甲2に,光源とは別に光変調器を設け,変調手段からこの光変調器に入力される変調信号を周波数変調することにより,光変調器に入力された光に強度変調成分を重畳するために,「この変調手段から前記発振用光変調器に入力される変調信号を周波数変調するFM変調部」を設けることが開示されているとは認められない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ 以上によれば,相違点2及び3について判断するまでもなく,本件発明30は,引用例1に基づき容易に発明することができたものであるとはいえず,本件審決における,本件発明30の引用例1に基づく容易想到性に係る認定判断に誤りはない。
したがって,原告の取消事由3-1に係る主張は理由がない。
? 取消事由3-2(引用例2に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り)について 原告は,引用発明2は,引用発明1と同一であるから,本件審決における引用例2に基づく容易想到性に係る認定判断は,取消事由3-1と同様に誤りである旨主張する。
しかし,本件審決における,本件発明30の引用例1に基づく容易想到性に係る認定判断に誤りはなく,取消事由3-1に理由がないことは,前記(1)のとおりである。
したがって,原告の取消事由3-2に係る主張も理由がない。
? 取消事由3-3(引用例3に基づく容易想到性に係る認定判断の誤り)について ア 原告は,引用発明3-2は,出射光の上側側帯波と下側側帯波の一方に強度 変調を行うものではないにもかかわらず,本件審決が,引用発明3-2と引用発明1とが同一であるとして,引用例1に基づくのと同様に,本件発明30は,当業者が引用例3に基づき容易に想到し得たものではない旨判断したのは誤りである旨主張する。
(ア) 引用発明1及び引用発明3-2が,それぞれ前記第2の3(2)及び(4)ア(イ)に記載されたとおりのものであることは,当事者間に争いがないところ,引用発明3-2の内容と引用発明1の内容とを対比すると,両者に相違はなく,引用発明3-2の内容と引用発明1の内容とは,同一であると認められる。
(イ) 引用例3には,おおむね以下の記載がある(なお,訳文は,甲5に添付の原告訳又は被告訳による。)。
@「次に,マッハツェンダー光変調器の最大駆動周波数の4倍のミリ波信号を発生する方法を紹介する。」(369頁右欄8行〜11行。原告訳) A「光学的にミリ波を生成する技術は2つに分類される。1つ目は2つの光源を用いるものであり,所望の周波数分だけ周波数の離れた2つの光をPINフォトダイオードにてコヒーレントに混合するものである。次の方法は,単一の光源を用いてミリ波を生成するものである。」(370頁右欄6行〜11行。原告訳) B「直接レーザの出力の強度を変調することにより生成されたミリ波信号へ変調を加えることは簡単である。…この信号は増幅され,放射される。」(371頁右欄33行〜372頁左欄5行。原告訳) C 「新規なマッハツェンダーに基づいた周波数逓倍方法,マッハツエンダーを用いた周波数2倍化方法」(372頁左欄下から4行〜5行。原告訳) D「出力のベッセル関数による展開により,スペクトル成分の強度を表現することができる。…ここでJiはi次の第1の種類のベッセル関数である。変調器がVπ(ε=0)にバイアスされると,搬送波成分v0は全ての偶数次成分と共に抑圧される。その結果,2つのv0を中心として2ω離れた2つの強い成分が生じる。
高次成分は,比較的強度が弱くバイアス点を適切に制御することで,2つの主な成 分に比べて少なくとも15dB以下となるように抑圧することができる。…変調されたミリ波を生成するために,この方法は,上述したように,使用することができる。配置のブロック図を図3に示す。この構成では,ファイバマッハツェンダー干渉型フィルタは,前述したように,変調を加えることができるように,2つの光成分を分離するために使用される。」(372頁右欄14行〜27行。原告訳) E 「マッハツェンダーに基づいた周波数4倍化方法」(372頁右欄下から2行。
原告訳) F 別紙3引用例3図面目録【図3】のとおり G「図5は,提案されたシステムのトポロジーを示す。DFBレーザは,周波数v0の単一光要素を放出し,図5(a)に示されるように,それは減衰せずにマッハツェンダーフィルター1(MZF1)を通過して,マッハツェンダー変調器1(MZM1)へと至る。MZM1は,Xπ にバイアスされる。…この信号はミラーにより反射されて,MZM1に戻る。…変調器を2回通過したあと,場は次のように書ける。…」(373頁左欄3行〜17行。原告訳) H「変調器をVπ(ε=0)でバイアスすることにより,次のようなスペクトルが得られる。…v0+2f及びv0-2fの2つの線は,MZF1の出力アームに重畳され,v0の線はフィルタにより強度が弱められる。図5(d)に示されるように,出力は,4f離れた線からなる。これらの成分のひとつは,(e)にしめされるMZF2を越えて伝搬し,変調されたサブキャリアの形式をとる変調がMZM2により重畳される;変調された光信号(f)は,再びMZF2を越え,変調されない光信号とともに(g)に出力される。これは,変調の重畳を可能ならしめる代替の方法である。pinフォトダイオードにおけるこの光信号の混合により,MZF2に印加された変調を含むミリ波信号が変調器MZM1の駆動周波数の4倍の周波数に生成される。」(373頁右欄9行〜24行。原告訳) I 別紙3引用例3図面目録【図5】のとおり J「本方法は,複数チャネルでの実装を担保でき,好ましくはミリ波周波数領域 におけるマッハツェンダー変調器を使用できる。それは,所望のミリ波周波数の半分のバンド幅を有する変調器とすればよいからである。」(375頁左欄下から14行目〜18行目。原告訳) K「本稿にて,ファイバに基づく変調ミリ波の発生と伝送方法の利点を概説し,いくつかのシステムトポロジーの説明を与えた。」(373頁左欄下から1行〜最終行。原告訳) (ウ) 前記(イ)の記載によれば,引用例3には,引用発明3-2(本件審決が,引用例3の図3に記載された事項により認定した発明)について,以下の点が開示されているものと認められる。
a DFBレーザからの光搬送波を受光して変調する光変調器は,マッハツェンダー変調器である(前記(イ)の@,C,D,F)。
b 変調手段がマッハツェンダー変調器に周波数fの変調信号及び動作点を設定するためのバイアス電圧を入力し(マッハツェンダー変調器に入力されるバイアス電圧とマッハツェンダー変調器から出力される光出力との関係において光出力が零になるバイアス電圧Vπで変調手段がマッハツェンダー変調器を駆動する。),マッハツェンダー変調器において光に対し周波数fシフトした位置に1次側帯波を重畳する(前記(イ)のD,F)。
c マッハツェンダー変調器から出射された周波数fシフトした1次側帯波(「v0-f」,「v0+f」)は,マッハツェンダーフィルタにより分離される(前記(イ)のD,F)。
d マッハツェンダーフィルタで分離された2つの出射光のうち一方(「v0-f」)は,図3にある,マッハツェンダー変調器の後段にさらに設けられたマッハツェンダー変調器で変調信号(モジュールサブキャリア)により変調されて出射され,他方(「v0+f」)は,マッハツェンダー変調器の後段にさらに設けられたマッハツェンダー変調器を通過せず,変調されないままである(前記(イ)のD,F)。
e この2つの光は,PINフォトダイオードが受光し,2つの光信号を混合し, 受光したPINフォトダイオードは,受光した2つの光の周波数の差分を取り出すことで,2×fの無線信号を発振する(前記(イ)のF,H)。
(エ) 以上によれば,引用発明3-2における,PINフォトダイオードが受光する2つの光のうちの一方の光(図3の「v0- 変調された光,すなわち,一次側帯波が変調された光であると理解される。これに対して,PINフォトダイオードが受光する2つの光のうちの他方の光(図3の「v0+f」)は,マッハツェンダー変調器から出射されたままの光,すなわち,変調されていない一次側帯波のみの光であると理解される。
したがって,引用発明3-2は,出射光の上側側帯波と下側側帯波の一方に強度変調を行うものではないことを前提とする原告の上記主張は,理由がない。
(オ) なお,原告の主張のうちには,引用例3の図5の記載に基づき,引用発明3-2が出射光の上側側帯波と下側側帯波の一方に強度変調を行うものではない旨主張するかのような部分が存するが(平成27年5月11日付け原告第6準備書面10頁),本件審決が,引用例3の図5に記載された事項により認定した発明は,引用発明3-1であって,引用発明3-2ではない。
この点を措いても,図5の記載からは,@DFBレーザから出射された光搬送波は,マッハツェンダーフィルタで分離され,分離された一方が,マッハツェンダー変調器に入力されること,Aマッハツェンダー変調器に入力する光を変調し,側帯波を重畳させるための変調手段がマッハツェンダー変調器に周波数fの変調信号を入力し,マッハツェンダー変調器において,入力された光に対し周波数fシフトした位置に1次側帯波を重畳すること,Bマッハツェンダー変調器から出射された周波数fシフトした1次側帯波(「v0-f」,「v0+f」)は,その後段に設けられたミラーで反射され,マッハツェンダー変調器に入力されること,Cこれにより,4f離れた2本の1次側帯波(「v0-2f」,「v0+2f」)が得られること,Dこの2本の1次側帯波はマッハツェンダーフィルタで分離され,分離された一方 (「v0-2f」)は,図5にある,マッハツェンダー変調器の後段にさらに設けられたマッハツェンダー変調器で変調信号(モジュールサブキャリア)により変調されて出射されるが,他方(「v0+2f」)は,マッハツェンダー変調器の後段にさらに設けられたマッハツェンダー変調器を通過せず,変調されないままであること,Eこの2つの光は,PINフォトダイオードが受光し,2つの光信号を混合し,受光したPINフォトダイオードは,受光した2つの光の周波数の差分を取り出すことで,4×fの無線信号を発振することが,理解される。
したがって,図5の記載を参照しても,PINフォトダイオードが受光する2つの光のうちの一方の光(図5の「v0-側帯波が変調された光であると理解されるのに対して,PINフォトダイオードが受光する2つの光のうちの他方の光(図3の「v0+2f」)は,マッハツェンダー変調器から出射されたままの光,すなわち,変調されていない一次側帯波のみの光であると理解されるから,いずれにせよ,引用発明3-2は,出射光の上側側帯波と下側側帯波の一方に強度変調を行うものではないことを前提とする原告の上記主張は,理由がない。
(カ) 以上のとおり,引用発明3-2の内容は,引用発明1の内容と同一であるとした本件審決における判断に誤りはない。
イ 原告は,引用発明3-2が引用発明1と同一であるとしても,本件審決における引用例3に基づく容易想到性に係る認定判断は,取消事由3-1と同様に誤りである旨主張する。
しかし,本件発明30の引用例1に基づく容易想到性に係る認定判断に誤りはなく,取消事由3-1に理由がないことは,前記(1)のとおりであるから,本件審決における本件発明30の引用例3に基づく容易想到性の判断にも誤りはない。
ウ したがって,原告の取消事由3-3に係る主張も理由がない。
(4) 小括 以上のとおり,本件審決における本件発明30の容易想到性に係る認定判断に誤りはない。
5 取消事由4(本件発明31及び32の容易想到性に係る認定判断の誤り)について原告は,本件審決における本件発明30の容易想到性に係る認定判断は誤りであるから,本件審決における本件発明31及び32の容易想到性に係る認定判断も誤りである旨主張する。
しかし,前記4のとおり,本件審決における本件発明30の容易想到性に係る認定判断に,誤りはない。
そして,本件発明31は,本件発明30の従属項であって,本件発明30をさらに限定した発明であり,本件発明32は,本件発明31の従属項であって,本件発明30を限定した本件発明31をさらに限定した発明である。
以上によれば,本件審決における本件発明31及び32の容易想到性に係る認定判断にも誤りはない。
したがって,原告の取消事由4に係る主張は理由がない。
6 結論 以上の次第であるから,原告主張の取消事由(本件発明30ないし32に関するもの)は,いずれも理由がない。また,原告は,本件審決全体の取消しを請求しながら,本件発明2ないし10についての取消事由を何ら主張しない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
追加
(別紙1)本件明細書図面目録【図2】【図3】【図4?】 【図9】【図10】【図11】 【図12】 (別紙2)引用例1図面目録【図1】386頁「図1MODALデモ機ブロック図」(被告訳)図中の訳(被告訳)twinfrequencyopticalsource:2周波数光源opticalmodulator:光変調器polarisationcontroller:偏光調整器datain:データ入力dataout:データ出力signalprocessing:信号処理 【図2】386頁図2「2重周波数光源選択」(被告訳)図中の訳(被告訳)DFBlaser:DFBレーザopticalmodulator:光変調器isolator:アイソレーターopticalfilter:光フィルターsignalsource:信号源controlunit:制御ユニット (別紙3)引用例3図面目録【図3】373頁図3「マッハツェンダー周波数2逓倍法」(被告訳)図中の訳(原告訳)DFBlaser:DFBレーザMach-Zehndermodulator:マッハツェンダー変調器Mach-Zehnderfilter:マッハツェンダーフィルタModulatedsub-carriers:変調されたサブキャリアSigsource:信号源Biasandamplification:バイアスと増幅 【図5】374頁図5「マッハツェンダーを用いた周波数4倍化方法」(原告訳)図中の訳(原告訳)DFBlaser:DFBレーザMach-Zehnderfilter:マッハツェンダーフィルタModulatedsub-carriers:変調されたサブキャリアModulator:変調器Mirror:鏡
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 柵木澄子
裁判官 鈴木わかな