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事件 平成 27年 (ワ) 14339号 損害賠償請求事件
東京都新宿区<以下略> (特許登録原簿〔乙区〕上の住所) 神奈川県足柄下郡<以下略>
原告株式会社ジンム
同訴訟代理人弁護士 吉村俊信 相模原市<以下略>
被告相模原市
同訴訟代理人弁護士 小林幸夫
同 弓削田博
同訴訟復代理人弁護士 河部康弘
同 指定代理人菊地原恒市
同 長井勝己
同 境賢
同 小形誠司
同 柴田貴弘
同 渡邊修平
同 長谷川伸
同 川村彰
同 山ア哲哉
同 清水寛誉
同 三木優
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2015/10/14
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 11 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成27年6月2日から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。
事案の概要
1 本件は,発明の名称を「地盤強化工法」とする特許第3793777号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。 )について専用実施権(専用実施権設定登録の申請受付年月日・平成22年10月14日。以下「本件専用実施権」という。)を有するという原告が,相模原市営上九沢団地(以下「本件市営団地」という。)を賃貸して賃料収入を得てきた被告に対し,本件市営団地の建設工事(以下「本件工事」という。)に伴って本件市営団地の敷地内に施工された免震人工地盤(以下「本件免震人工地盤」という。)は,本件特許に係る発明の技術的範囲に属するものであり,被告は,上記賃貸行為により,本件免震人工地盤を原告の許諾なく使用したものであるから,本件専用実施権侵害して原告に同発明の実施料相当額の損害を被らせ,又は法律上の原因なく原告の損失の下に同発明の実施料相当額の利得を得たとして,不法行為による損害賠償金又は不当利得金1000万円(平成22年10月14日〔本件専用実施権設定登録の申請受付年月日〕から平成27年5月27日〔本件訴訟の提起日〕までの間の実施料相当額合計2805万円の一部)及びこれに対する平成27年6月2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠等により容易に認められる事実) (1) 本件専用実施権 2 ア 原告の有する本件専用実施権の対象である本件特許権は,次の内容の本件特許に係るものである(以下,本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。参照の便宜のため,同特許の特許公報の写し〔甲2〕を本判決末尾に別添として添付する。なお,本件特許は平成15年6月30日以前にされた出願に係るものであるから,本件特許に係る明細書は特許請求の範囲を含むものである〔平成14年法律第24号附則1条2号,3条1項,平成15年政令第214号〕。)(甲1,2)。
特 許 番 号 特許第3793777号 発明の名称 地盤強化工法 出 願 日 平成7年8月14日 出 願 番 号 特願平7-237509 登 録 日 平成18年4月21日 イ 本件特許権は,平成18年4月21日,特許権者を「神奈川県横浜市<以下略> 株式会社ジンム」として登録された後,アーク株式会社,株式会社ドオンファクトリー,株式会社エシックスに順次移転され,原告の代表者であるA(以下「A」という。)に移転され(本件特許権の移転登録の申請受付年月日・平成22年10月14日),更にAから日本知財開発株式会社に持分100分の30が移転された。この間,原告は,Aから,本件専用実施権(範囲を全部とする)の設定を受けた(本件専用実施権設定登録の申請受付年月日・平成22年10月14日)(甲1。なお,原告の本店所在地は,本件特許の特許登録原簿の乙区2番記載の専用実施権者「株式会社ジンム」の住所と異なっており,また,平成21年経済産業省令第5号による特許登録令施行規則〔昭和35年通商産業省令第33号〕の改正により,職権による登録の場合のみ登録年月日を記録することになったため,本件特許の特許登録原簿の甲区4番にはAへの本件特許権の移転の登録年月日の記載がなく,同移転の効力発生時期が必ずしも明らかでないことから,原告が特許権者から専用実施権の設定を受けたかどうかは定かとはいえないし,同原簿の乙区2 3 番には本件専用実施権の設定の登録年月日の記載がないため,同設定の効力が発生し得る時期も定かとはいえないが,被告は,原告が本件専用実施権設定登録を受けた者であることを争っていない。)。
(2) 本件特許発明 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項に係る発明を「本件特許発明」という。)。
「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,前期テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地を配置する地盤強化工法であって,前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたことを特徴とする地盤強化工法。」 (3) 構成要件の分説 本件特許発明構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成要件を原告の主張に従い「分説A」などという。なお,原告は,請求項1における「前期テーブル」との記載につき「前記テーブル」とすべきところを誤記したものであると主張し,分説Bにおいて「前期テーブル」を「前記テーブル」と読み替えている。)。
A 鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し, B 前記テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,ま たは,人工造成地を配置する地盤強化工法であって, C 前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け,前記テーブルが既 存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたこと D を特徴とする地盤強化工法。
(4) 被告の行為 被告は,平成12年3月頃,鹿島建設株式会社ほか3社の共同企業体(以下「鹿島建設ら」という。)に対し,相模原市<以下略>における本件工事を発注 4 し,遅くとも平成15年頃までに,本件免震人工地盤を含む本件市営団地の引渡しを受け,その頃以降,本件市営団地を賃貸して,賃料収入を得ている(甲4,5)。
3 争点 (1) 本件免震人工地盤は本件特許発明技術的範囲に属するか(争点1) ア 本件特許発明物の発明か(争点1-ア) イ 分説AないしDの充足性(争点1-イ) (2) 原告の損害又は損失の額(争点2)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件免震人工地盤は本件特許発明技術的範囲に属するか)について (1) 争点1-ア(本件特許発明物の発明か)について 【原告の主張】 ア 本件特許発明は,建設工事により構築される構築物の構造・構成に関するものであり,経時的要素のない発明であるから「物の発明」である。なお,建設業界において,「工法」は,必ずしも「方法」を意味せず,構造ないし構成を意味する場合があることは,当業者の常識である。
この点,被告は,本件特許発明が構築物の工事方法に関する「方法の発明」であると主張するが,誤りである。
イ 発明は,解決すべき問題を発見し,その問題を解決することを目的として,目的を果たすために必要な作用・効果を実現することのできる新規の技術を考案することである。その技術が新規の「構造・構成」であれば,「物の発明」であり,「手順・プロセス」が新規のものであれば「方法の発明」である。また,一部に「手順・プロセス」が含まれていても,「構造・構成」に発明性を備えるものは「物の発明」である。「手順・プロセス」が発明性を備えるものであれば,「手順・プロセス」を構成する「物(構造・構成)」が新規のものでなくても「方法の発明」である。
5 ウ 本件特許発明を構成する要素は,「テーブル」と「緩衝材」である。本件特許発明は,「テーブル」と「緩衝材」によって構成される「構造」によって,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】の作用及び段落【0015】の効果を得ることを目的とする「物の発明」である。「建築物」,「橋」,「道路」,「造成地」は,「テーブル」が保護すべき対象であって,「都市,街区」を構成する要素として例示された,いわゆる機能的クレームとしての記載と解すべきものである。
本件特許発明は,地盤の欠点(地震動,液状化,地崩れなど)から「都市,街区」を保護することを目的としている。この目的を果たすための「構造・構成」は,「テーブル」と「緩衝材」によって,「都市,街区」を保護する作用・効果を得ることができる。
エ 本件特許発明は,「テーブル」と「テーブルの上部」に配置される建造物等の施工方法(テーブルの設置を,建造物等の配置の前にするか又は後にするか)によって,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】の作用及び段落【0015】の効果を得ることを目的とする「方法の発明」ではない。テーブルを「設置し」と建築物等を「配置する」の前後関係は,技術的には何ら価値がなく,建築物等を「配置する」こと自体は,本件特許発明構成要件ではない。
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に「設置し」,「配置する」の文言があるが,これは施工の手順を意味するのではない。「物の発明」であっても,仕様説明のために動詞を用いた記載をすることは,本件特許の出願時の当業者にとって常識である。その例として,鹿島建設株式会社が有する発明の名称を「防災都市」とする特許第3160659号の特許(以下「鹿島特許」という。)に係る発明がある。鹿島特許の特許請求の範囲の請求項1は,「家並を形成できる範囲に区画した街区を1単位として免震構造の人工地盤を造成し,人工地盤上には戸建住宅や共同住宅などの建物を構築し,前記人工地盤の下方に地下空間を形成し,該地下空間のマットスラブから構築した柱の上部に設置した免震装置を介して前記柱で人工地 6 盤を支持し,前記地下空間内に駐車場や備蓄倉庫,水槽,防災センターなどの防災施設を設け,防災センター,水槽などの免震対策を必要とする施設は人工地盤から吊下げ,かかる街区を複数造成し,これら街区を地下道で連結することを特徴とした防災都市。」とするものである。この「造成し」,「構築し」,「形成し」,「支持し」,「設け」,「吊下げ」「造成し」,「連結する」などを施工の手順を記載したものであると解し,鹿島特許に係る発明を「方法の発明」であると解すると施工不能となるから,同発明は,「方法の発明」ではなく,「物の発明」である。
オ(ア) 被告は,東京地裁平成25年(ワ)第5071号同26年2月26日判決(以下「別件第一審判決」という。 )が本件特許発明を「方法の発明」であると判断した旨主張するが,その控訴審判決である知財高裁平成26年(ネ)第10030号同年7月23日判決(以下「別件控訴審判決」という。)は,「経時的要素を含むものであっても『物の発明』であることを妨げるものではない」ことを前提とした説示をしている(なお,別件控訴審判決は,結論として,本件特許発明における「テーブル」の設置と「建築物等」の配置との間に経時的な「前後関係」を認めた上,訴訟の対象であった人工地盤は,設置の「前後関係」が異なるとして,本件特許発明構成要件を充足しない旨判断したが,本件における被告の主張を採用したものではない。)。
(イ) 被告は,「建築物・・・」と「テーブル」の前後関係を根拠として,方法の発明である旨主張するが,この前後関係(手順・プロセス)に発明性はなく,本件特許に係る出願が特許査定を受ける過程においても,上記前後関係が拒絶理由とされたり,発明として評価されたことはない。
【被告の主張】 ア 本件特許発明は,「物の発明」ではなく,「方法の発明」(特許法2条3項2号参照)である。別件第一審判決も,本件特許発明を「方法の発明」であると明確に判断している。
方法の発明は,発明の構成中に経時的要素を含むものと解するのが相当であ 7 る。これを本件特許発明についてみると,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1のうち,「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,前記テーブルの上部に立設された建築物や道路,橋などの構造物,または人工造成地を配置する地盤強化工法であって」との記載は,地盤にテーブルを設置した後に,その上部に建築物等を配置する工法であると解されるのであって,「設置し」と「配置する」の関係は時系列的な前後関係があるといえるから,本件特許発明は「方法の発明」と解するのが相当である。
ウ 本件特許発明が「方法の発明」である以上,その「実施」とは,本件特許発明に係る「方法の使用」である。しかし,被告は,本件工事の発注者にすぎない。
本件工事において本件特許発明に係る方法が使用されたか否かにかかわらず,被告につき本件特許発明実施行為を観念することはできない。
(2) 争点1-イ(分説AないしDの充足性)について 【原告の主張】 ア 本件免震人工地盤の構成は,別紙「イ号物件目録」(以下,同別紙の記載「ア」ないし「エ」の各構成を「構成ア」ないし「構成エ」という。)記載のとおりである。
イ(ア) 構成アの「緑で囲まれた街区の中央部にクスノキ広場とせせらぎ広場を設け,この二つの広場を8の字型に囲む人工地盤を構築し,」は,分説Aを充足する。
すなわち,上記人工地盤は,21棟で構成される街区全体,その総重量11万トンを支えるに十分な構造や強度を有する「鉄骨などの構造材で強化,形成された人工地盤」であることは当業者の常識であるから,分説Aの「テーブル」に該当する。
(イ) 構成イの「前記人工地盤上に6階建てから14階建てまでの21棟の集合住宅群を配置し,」は,分説Bを充足する。すなわち,「前記人工地盤上に6階建てから14階建てまでの21棟の集合住宅群を配置し,」は,分説Bの「前記テーブルの上部に,立設された建築物・・・を配置する。」に該当する。
(ウ) 構成ウの「前記人工地盤と地盤との中間に介在させた242体の免震装置が 8 街区全体を支持する免震構造物となっている」は,分説Cを充足する。すなわち,上記「前記人工地盤と地盤との中間に介在させた242体の免震装置」は,分説Cの「前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材」に該当する。分説Cの緩衝材は,砕石,ゴム,発泡スチロール,砂などを含む(本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】参照)。その内の「ゴム」は,積層ゴム系アイソレーターを含む「免震ゴム支承」の免震装置の通称であることは,当業者の常識である。また,上記「242体の免震装置が街区全体を支持する免震構造物」は,免震装置によって街区全体(人工地盤を含む)を支持している一つの免震構造物と解される。したがって,構成ウは,分説Cの「前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたこと」と同意義であり,これに該当する。
(エ) 構成エの「免震人工地盤」は,分説Dの「地盤強化工法」を充足する。すなわち,上記「免震人工地盤」は,免震を目的とした人工地盤を構築して地盤を強化するものであるから,地震を含めた地盤の欠点に対応するようにテーブルを構築して地盤を強化するとする分説Dと同意義である。
(オ) 鹿島建設らが21棟の集合住宅群の敷地に施工した本件免震人工地盤は,本件免震人工地盤の上部に配置される同集合住宅群を地震から保護する作用効果を目的とするものであるから,地震対策という面において本件特許発明と同じ作用効果を有する。
ウ まとめ 以上のとおりであるから,鹿島建設らが本件工事において施工し,被告が引渡しを受けた本件免震人工地盤は,本件特許発明技術的範囲に属する。
【被告の主張】 本件特許発明が「物の発明」ではなく,「方法の発明」である以上,被告は,原告が「物」として特定した対象物件(本件免震人工地盤)については認否不能であり,これを前提とした原告の主張については争う。
9 2 争点2(原告の損害又は損失の額)について 【原告の主張】 (1) 本件免震人工地盤は,本件特許発明技術的範囲に属するものであり,被告は,本件免震人工地盤を含む本件市営団地の賃貸行為により,本件免震人工地盤を原告の許諾なく使用したものであるから,本件専用実施権侵害して原告に同発明の実施料相当額の損害を被らせ,又は法律上の原因なく原告の損失の下に同発明の実施料相当額の利得を得たものである。
不法行為に基づく損害額は,原告が本件特許の専用実施権の設定を受けた平成22年10月14日から平成27年5月27日(本件訴訟の提起日)に至るまで同発明の実施料と同額である。
被告の不当利得額は,原告が本件特許の専用実施権の設定を受けた平成22年10月14日から平成27年5月27日(本件訴訟の提起日)に至るまでの同発明の実施料相当額である。
(2) 本件特許発明実施料相当額 本件特許発明実施料相当額は,本件市営団地の住戸の賃料収入の3パーセントとするのが相当である。被告が平成22年10月14日から平成27年5月13日(本件訴訟の提起前の日)までの55か月間に得た賃料収入の総額は,次のとおり9億3500万円である。
ア 本件市営団地の1戸当りの月額賃料は,平均4万3050円である。
イ 上記の平均賃料に被告の管理戸数395戸を乗じて算出される被告の1か月当たりの賃料収入は1700万円(1万円未満は切捨)であり,被告が上記期間に得た賃料収入総額は,9億3500万円である。
ウ 原告が平成22年10月14日から平成27年5月13日(本件訴訟の提起前の日)までの55か月間に被った損害は,9億3500万円の3パーセントの2805万円である。
また,被告が上記の期間中に得た不当利得額は,9億3500万円の3パーセン 10 トの2805万円である。
エ 以上より,原告は,不法行為(本件専用実施権侵害)による損害賠償金又は不当利得金1000万円(平成22年10月14日〔本件専用実施権設定登録の申請受付年月日〕から平成27年5月27日〔本件訴訟の提起日〕までの間の実施料相当額合計2805万円の一部)及びこれに対する平成27年6月2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【被告の主張】 否認し,争う。
当裁判所の判断
1 争点1-ア(本件特許発明物の発明か)について (1)ア 「発明」は,「自然法則を利用した技術的思想のうち高度のもの」をいい,「物の発明」と「方法の発明」に分類され,「方法の発明」は,さらに,生産物を伴わない単純な方法の発明物を生産する方法の発明に分類されるところ,「物の発明」と「方法の発明」とは,特許法上,明文で判然と区別されており,与えられる特許権の効力も明確に異なる(特許法2条3項参照)。そして,当該発明がいずれの発明に該当するかは,まず,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべきものである(最高裁平成10年(オ)第604号同11年7月16日第二小法廷判決・民集53巻6号957頁,平成14年法律第24号による改正前の特許法70条1項参照)。
イ そして,「物の発明」は,技術的思想である発明が生産,使用又は譲渡のできる対象として具現化されているものをいうと解されるから,「物の発明」についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになる(なお,特許が「物の発明」についてされている場合において,特許請求の範囲にその物の製造方法〔経時的要素〕の記載があるいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームも存在するところであるが, 11 「物の発明」についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である〔最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・裁判所時報1629号参照〕。)。
これに対し,方法の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,経時的要素(時間的要素)を記載して特定することになる。
(2)ア 以上を前提に,本件特許発明について見るに,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1には,その末尾に「地盤強化工法」と記載されているところ,「工法」の通常の意味は,「工事の方法」であると解される。
この点,原告は,建設業界において,「工法」を「構造・構成」と同義に使用することは当業者の常識である旨主張するが,本件証拠によっても,そのような常識の存在を認めるには足りない。
イ また,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮すべきところ(平成14年法律第24号による改正前の特許法70条2項参照),本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,「上記構成の地盤強化工法によれば,鉄骨などの構造材で強化され,テーブルを地盤上に形成し,前記テーブルの上部に,建築物や道路,橋,などの構造物,または,人工造成地を配置するようにしたので,」(段落【0005】),「施工手順としては,…テーブル1を配置し,しかる後に,テーブル1内に基礎6を設けて,建築物7を築造する」(段落【0008】)などと記載されており,分説Aと分説Bの時間的前後関係を裏付ける記載がある。
そうすると,本件特許発明構成要件のうち,分説A「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,」と分説B「前記テーブルの上部に,立設 12 された建築物や道路,橋などの構造物,または人工造成地を配置する地盤強化工法であって,」によれば,本件特許発明は,地盤に「テーブル」を設置した後に,「テーブルの上部」に構造物等を配置する「工法」であると解され,分説A及び分説Bの「テーブル」は,そのような順序で施工されるものと解するのが相当である。
この点,原告は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載のうち,「設置し」,「配置する」との文言については,施工の手順を意味するものではなく,「物の発明」であっても,仕様説明のために動詞によって記載することは本件特許の出願時の当業者にとって常識であった旨主張し,これを裏付けるものとして鹿島特許を掲げる。
しかし,鹿島特許(平成15年6月30日以前にされた出願に係るものであるから,特許請求の範囲は明細書から分離されていない。)に係る明細書の特許請求の範囲の各請求項の末尾には,「防災都市。」と記載されていることから(甲7),同特許に係る各発明は,「防災都市」に関するものであることが一義的に明らかであって,「工法」に関するものと解する余地はなく,したがって,鹿島特許の存在は,何ら原告の主張の根拠となるものでない。
ウ 以上によれば,本件特許発明は,「物の発明」でなく,「方法の発明」であることが明らかであるというべきである。
(3)ア 上記(2)の点をひとまず措いて,原告が主張するように,「工法」を「構造又は構成」と解することを想定したとしても,「物の発明」であるというためには,いかなる「物」の構造又は構成についての発明であるかが当該特許請求の範囲に明確に示されていること,換言すると,生産,使用又は譲渡の対象となる物が特許請求の範囲に示されていることが必要である。
しかし,原告は,「テーブル」と「緩衝材」によって構成される「構造」につき,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】の作用や段落【0015】の効果を得ることを目的とする「物の発明」である旨主張するにとどまり,「テーブル」と「緩衝材」によって構成される「物」が何か,すなわち本件特許発明の対象 13 となる「物」が何であるかを明らかにした主張をしていない。
また,本件特許の出願時において,本件特許発明の対象となる「物」をその構造又は特性により直接特定することが不可能であったとか,およそ実際的でなかったなどの事情は,何ら主張立証されていないから,仮に,本件特許発明を「物の発明」と解するならば,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合しないことになるところ,本件特許が出願され,特許査定されたものである以上,あえて本件特許発明を「物の発明」であるとして上記要件を満たさないとするよりも,前記のとおり,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に従って,これを「方法の発明」と解釈することが合理的であることは,明らかである。
イ 以上によれば,本件特許発明は,「方法の発明」であって,「物の発明」であるとは認められない。これに反する原告の主張は,いずれも採用することができない。
2 上記1のとおり,本件特許発明は,「物の発明」とは認められないから,争点1-イに関する原告の主張は,そもそも,その前提を欠くものであって,採用することができず,したがって,本件免震人工地盤が本件特許発明技術的範囲に属するとは,認められない。
結論
よって,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 嶋末和秀
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