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関連審決 異議2001-71193
関連ワード 発明者 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  翻訳文 /  優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 620号 特許取消決定取消請求事件
原告 サン−ゴバンアブレイシブズ,インコーポレイティド 変更前の表示(特許取消決定における表示) ノートン カン パニー
訴訟代理人弁護士 上谷清,宇井正一,笹本摂,山口健司,弁理士 岩出昌 利,古賀哲次
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 鈴木孝幸,西川惠雄,高木進,大橋信彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2001-71193号事件について平成14年8月1日にした決定中,請求項6に関する部分を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,本件特許第3099965号「改良されたコーナー保持性を有するアルミナ砥石車」の特許権者である。本件特許は,平成8年4月25日の出願(優先権主張日・1995年(平成7年)5月25日,米国)に係る特許出願であって,平成12年8月18日にその設定登録がされている。本件特許公報及び下記決定上の表示はノートン カンパニーであるが,平成14年11月21日,現在の原告の表示に変更する旨の登録がされた。
本件特許について特許異議の申立てがあり(異議2001-71193号),平成14年8月1日に,平成14年3月11日付けの訂正請求を認めた上で,本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消す,との決定があり,その謄本は同年8月17日原告に送達された。
2 本件発明の要旨(上記訂正請求によって訂正された明細書の請求項6に係る発明の特許請求の範囲の記載。以下「本件発明」というときは,原告が本訴で取消しを求めている請求項6に係る発明を指す。)【請求項6】研磨材が溶融アルミナ砥粒単独から成るか又は溶融アルミナ砥粒と二次研磨材とから成り,含まれる場合二次研磨材は炭化ケイ素,立方晶窒化ホウ素,ダイヤモンド,フリント,ガーネット及び気泡アルミナから成る群から選択される砥石車に用いるガラス質結合剤であり,1000℃の温度での焼成後に,2.0〜10.0重量%のLi2O,7〜11重量%のNa 2O,0.05〜2.5重量%のK2O,52〜62重量%のSiO 2,12〜16重量%のAl 2O 3,及び9〜16重量%のB2O 3を含んで成る溶融アルミナ砥粒含有砥石車のガラス質結合剤。
3 決定の理由の要点(請求項6に係る発明に関する部分のみ) 上記訂正請求は,特許法120条の4第2項並びに同条3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合するので,当該訂正を認める。次に,特許異議の申立てについて判断する。
(1)異議申立人が提示した異議甲第1号証(米国特許第5401284号明細書(1995年3月28日発行,翻訳文として提出された異議甲第2号証(特開平7-164324号公報)を参照する),異議甲第4号証(昭和55年3月1日に改正されたJIS R 6210-1980「ビトリファイド研削砥石」)及び異議甲第5号証(特公昭50-13991号公報)には,以下の事項が記載されている。
異議甲第1号証;「ゾルゲルアルミナ研磨材とガラス質結合剤を含んで成る研削砥石であって,焼成後のガラス質結合剤が47重量%より多いSiO2,約16重量%より少ないAl2O 3,約2.5重量%より少ないK 2O,約2.0重量%より多いLi2O,及び約18重量%より少ないB 2O 3を含む研削砥石。」(特許請求の範囲第1項),「焼成後のガラス質結合剤が約1.0〜約3.4重量%のLi2O,約7〜約11重量%のNa 2O,約0.5〜約2.5重量%のK 2O,,及び約9〜約16重量%のB2O 3を含む請求項1に記載の研削砥石。」(特許請求の範囲第5項),「焼成後のガラス質結合剤が約52〜約62重量%のSiO2,約12〜約16重量%のAl2O 3を含む請求項5に記載の研磨砥石。」(特許請求の範囲第6項),「約2.0〜約3.4重量%のLi2O,約7〜約11重量%のNa 2O,約0.5〜約2.5重量%のK 2O,約52〜約62重量%のSiO 2,約12〜約16重量%のAl2O 3,約9〜約16重量%のB 2O 3を含んで成るゾルゲルアルミナ研削砥石用のガラス質結合剤。」(特許請求の範囲第7項)「第2研磨材(複数種のこともある)は,好ましくは砥石の中の全研磨材の約0〜約95体積%を提供し,より好ましくは砥石の中の全研磨材の約30〜約70体積%を提供する。使用可能な研磨材には融解アルミナ,炭化ケイ素,立方晶窒化ホウ素,ダイヤモンド,フリント,ガーネット,及び発泡アルミナがある。ここで,これらの第2研磨材の例は単なる例示であり,本発明を限定するものではない。」(第4欄15〜22行目),「焼成後の結合剤は約47重量%より多いSiO2を含み,好ましくは約52〜約62重量%のSiO2,より好ましくは約54〜約60重量%のSiO2,最も好ましくは約57重量%のSiO 2を含み,約16重量%未満のAl 2O 3,好ましくは約12〜約16重量%のAl 2O 3,より好ましくは約13〜約15重量%のAl2O 3,最も好ましくは約14.4重量%のAl 2O 3を含み,好ましくは約7〜約11重量%のNa2O,より好ましくは約8〜約10重量%のNa 2O,最も好ましくは約8.9重量%のNa 2Oを含み,約2.5重量%未満のK 2O,好ましくは約0.5〜約2.5重量%のK 2O,より好ましくは約1〜約2重量%のK2O,最も好ましくは約1.6重量%のK 2Oを含み,約2.0重量%より多いLi2O,好ましくは約2.0〜約3.4重量%のLi 2O,より好ましくは約2.0〜約2.7重量%のLi2O,最も好ましくは約2.2重量%のLi 2Oを含み,約18重量%未満のB2O 3,好ましくは約9〜約16重量%のB 2O 3,より好ましくは約11〜約14重量%のB2O 3,最も好ましくは約12.6重量%のB2O 3を含み,好ましくは約0〜約2重量%のCoO,より好ましくは約0.5〜約1.3重量%のCoO,最も好ましくは約0.9重量%のCoOを含む。酸化コバルトは本発明の目的には必要でなく,着色剤としてのみ含ませる。ガラス質結合剤中に存在する他の酸化物,例えばFe2O 3,Ti 2O,CaO,MgOは,結合剤の製造に必須ではない原料中の不純物である。また,結合剤はゾルゲルアルミナ研磨材で作成した砥石に高い機械的強度を与える。」(第4欄46行目〜第5欄24行目),「【実施例】例1 種晶ゾルゲル研磨材を用いてサンプルを作成し,新規な結合剤とノートン社の標準的な市販品の結合剤の破壊係数を比較した。新規な結合剤は,予備焼成組成で30.3重量%の粉末ガラスフリット(フリットの組成は41.2重量%のSiO2,39.9重量%のB 2O 3,5.1重量%のAl 2O 3,10.3重量%のNa2O,1.3重量%のLiO,2.1重量%のMgO/CaO,及び微量のK2O),27.7重量%のカスミ石セン長岩,20重量%のケンタッキーNo.6ボールクレー,10重量%のケイ酸ナトリウム粉末,4.7重量%のフリント(石英),4.3重量%の炭酸リチウム,1重量%のケイ灰石,及び2重量%の高純度コバルトアルミネートスピネルを有した。カスミ石セン長岩,ケンタッキーNo.6ボールクレー,ケイ酸ナトリウム,フリント,炭酸リチウム,ケイ灰石の化学組成を表1に示す。
【表1】 結合剤は材料をSweco振動ミルで3時間乾式混合して調整した。結合剤に,種晶ゾルゲルアルミナと高純度ホワイト酸化アルミニウムの研磨材の1:1混合物から成る60グリットの研磨材を混合した。さらにこれらに,粉末デキストリンバインダー,液体にかわ,及び保湿剤として0.1%エチレングリコールを低速のHobart N-50ドウミキサー(混合物2Kgの容量)中で混合した。混合物を14メッシュの篩にかけ,すべての塊を壊した。次いで混合物を3つのキャビティ棒の型セットアップの中で,寸法4”×1”×1/2”の棒状試験片に加圧成形した。次いで棒状試験片を,周期キルン中で室温から1000℃まで40℃/hで昇温し,その時間に8時間保持し,次いで室温まで冷やした。また,上記の方法により,ノートン社の標準的な市販品の結合剤を用いて棒状試験片を作成した。4ポイント曲げジグを備えたインストロン4202型試験機を用い,ノッチを入れていない棒状試験片を支持スパン3”,荷重スパン1”,クロスヘッド速度0.050/分の荷重速度で試験した。サンプルの焼成した結合剤含有率は研磨材棒状試験片の10〜30重量%であった。結果を表2と,図2に示す。」(第6欄48行目〜第8欄31行目)及び「例2 種晶ゾルゲル研磨材を用いてサンプルを作成し,新規な結合剤とノートン社の標準的な市販品の結合剤のサンプルの摩耗面積と摩耗径を比較テストした。新規な結合剤は例1の新規な結合剤と同じ組成を有した。結合剤は原料をSweco振動ミルで3時間乾式混合して調整した。結合剤を混合して研磨材混合物を得た。研磨材混合物は76.56重量%の研磨材(種晶ゾルゲルの120グリッドフィラメントの50重量%,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウムが43.54重量%,36メッシュより小さい発泡アルミナが6.46重量%から成る),18.47重量%の結合剤,1.38重量%のデキストリン,3.06重量のにかわ,0.34重量%の水,及び0.18重量%のエチレングリコールからなった。
混合物を2.190グラム/ccの生密度を有する10”-3/16”×0.580”×5.025”の砥石に成形した。生の状態の砥石を周期キルンの中で室温から1000℃まで40℃/hで昇温し,1000℃に8時間保持し,次いで室温まで冷やした。」(第7欄46行目〜第9欄7行目)と記載されている。
例2に示された砥石は,明らかに砥石車であるから,請求項1,請求項5及び請求項6の記載並びに例2に示された砥石の構成からみると,異議甲第1号証には,「70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウム及びガラス質結合剤を含んで成る研削砥石車であって,焼成後のガラス質結合剤が約52〜約62重量%のSiO2,約12〜約16重量%のAl 2O 3,約0.5〜約2.5重量%のK 2O,約2.0〜約3.4重量%のLi2O,及び約9〜約16重量%のB 2O 3を含み,研磨材が種晶ゾルゲルの120グリッドフィラメントの50重量%,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウムが43.54重量%,36メッシュより小さい発泡アルミナが6.46重量%から成る砥石車。」の発明(引用発明1)が記載されていると認める。
また,例2に示された砥石は,明らかに砥石車であるから,請求項7の記載及び例2に示された砥石の構成からみて,異議甲第1号証には,「研磨材が種晶ゾルゲルの120グリッドフィラメントの50重量%,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウムが43.54重量%,36メッシュより小さい発泡アルミナが6.46重量%から成る砥石車に用いられるガラス質結合剤であって,約2.0〜約3.4重量%のLi2O,約7〜約11重量%のNa 2O,約0.5〜約2.5重量%のK2O,約52〜約62重量%のSiO 2,約12〜約16重量%のAl 2O3,及び約9〜約16重量%のB 2O 3を含んで成る,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウムを含有する砥石車のガラス質結合剤。」の発明(引用発明2)が記載されていると認める。
異議甲第4号証;表1に「と粒の材質による種類」が掲載されており,A,WA,PA,HA(アルミナ系)とあり,備考として「同一系統のと粒を混合したものを使用することができ,この場合は,使用したと粒の記号を併せて呼ぶ。これを混合と粒という。混合と粒の例:A/WA,C/CG」と記載されている。
(2)請求項6に係る発明(本件発明)と引用発明2とを対比すると,引用発明2の「高純度ホワイト融解酸化アルミニウム」は,溶融アルミナであるから,両者は,「砥石車に用いるガラス質結合剤であり,焼成後に,約2.0〜約3.4重量%のLi2O,約7〜約11重量%のNa 2O,約0.5〜約2.5重量%のK 2O,約52〜約62重量%のSiO 2,約12〜約16重量%のAl 2O 3,及び約9〜約16重量%のB2O 3を含んで成る溶融アルミナ砥粒含有砥石車のガラス質結合剤」の点で一致し,本件発明が,結合剤の組成が1000℃の焼成温度のものであるとしているのに対し,引用発明2は,焼成温度が1000℃とされているが,結合剤の組成がどのような焼成温度のときのものであるかが明確とされていない点(相違点4),及び本件発明が,研磨材が溶融アルミナ砥粒単独から成るのであるのに対し,引用発明2は,溶融アルミナとゾルゲルアルミナが含まれるものである点(相違点5)で相違する。
そこで相違点4についてみると,本件明細書の発明の詳細な説明実施例の欄に記載された新規の結合剤の焼結前の組成は,異議甲第1号証の実施例の欄に記載された焼成前の結合剤の組成と異なるところはないから,同じ1000℃で焼成した異議甲第1号証記載の例2の砥石の結合剤の組成は,請求項1に係る発明の焼成後の結合剤の組成と一致するはずである。したがって,相違点4は実質的なものではない。
相違点5についてみると,引用発明2においても,研磨材の一部として溶融アルミナ砥粒を使用しているものであるから,引用発明2の結合剤が,溶融アルミナ砥粒の使用に適さないということはなく,また,溶融アルミナ砥粒を研磨材とするものに対しても,所望の効果を予測し得るものと認められる。そうすると,引用発明2が,ゾルゲルアルミナ砥粒を必須の構成とするものであるとしても,引用発明2の結合剤を,溶融アルミナ砥粒のみを研磨材とする砥石車に使用することに格別の困難性があるとは認められない。
なお,特許権者(原告)は,意見書において,「溶融アルミナ砥粒砥石車では,1200℃で焼成されるため,親出願のように1000℃という低温で焼成する結合剤(しかも砥粒の種類も異なる)が,溶融アルミナ砥粒砥石車に1000℃焼成で使用して,1200℃で焼成された溶融アルミナ砥粒砥石車よりも高い砥石車のコーナー保持性を持つと予想する理由は全くありません。」と主張するが,従前,溶融アルミナ砥粒は,1200℃の焼成温度に耐えるために,1200℃の焼成温度に適した結合剤が選択されていたものであって,溶融アルミナ砥粒を用いた砥石が必ず1200℃で焼成されなければならないというものではない。そうすると,ゾルゲルアルミナ砥粒と溶融アルミナ砥粒を研磨材とする砥石車を1000℃で焼成していた引用発明2の結合剤を溶融アルミナ砥粒のみを研磨材とする砥石の結合剤に用いたときに,焼成温度を1000℃としたときの効果が全く予想し得ないというものではない。さらに,特許権者は,「実際,親出願の際には発明者(当業者)はそのように考えたが故に親出願ではゾルゲルアルミナ砥粒砥石車に用いる発明として出願しました。また,本発明者が親出願の結合剤が溶融アルミナ砥粒砥石に使用すると1000℃焼成して,従来の1200℃で焼成された溶融アルミナ砥粒砥石車よりも高い砥石車のコーナー保持性を持つことを見出すまでに時間がかかったために親出願が公開されたものです。本件発明は本発明者創作的営為によって初めてなされ得たものであり。それなしでは開示されることのなかった発明です。」(意見書)と主張する。しかし,本件明細書においては,例2及び例3の実施例について,それぞれ,Norton標準市販結合剤を用いて製造した砥石との効果の比較を行っているが,Norton標準市販結合剤を用いて製造した砥石の焼成温度については,例2については記載がなく,例3のものが900℃とされており,1200℃で焼成された砥石車に対する効果を確認したものではない。
したがって,本件発明は,引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 以上のとおりであるから,本件発明は,本件出願前に米国において頒布された異議甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
決定取消事由
決定は,本件発明と引用発明2との間の相違点5の容易想到性判断を誤り,本件発明の顕著な効果についての認定判断も誤ったものである。
1 決定は,引用発明2との間の相違点5の容易想到性に関し,「引用発明2においても,研磨材の一部として溶融アルミナを使用しているものであるから,引用発明2の結合剤が,溶融アルミナ砥粒の使用に適さないということはなく,また,溶融アルミナ砥粒を研磨材とするものに対しても,所望の効果を予測し得るものと認められる。そうすると,引用発明2が,ゾルゲルアルミナ砥粒を必須の構成とするものであるとしても,引用発明2の結合剤を,溶融アルミナ砥粒のみを研磨材とする砥石車に使用することに格別の困難性があるとは認められない。」と判断したが,誤りである。
「溶融アルミナ砥粒の使用に適さないことはない」ということは,「溶融アルミナ砥粒に使用できる」ということと同義であるが,「溶融アルミナに使用できる」ということと,「溶融アルミナに使用することを当業者が想到する」ということとは,別の意味である。
溶融アルミナ砥粒には,ゾルゲルアルミナ砥粒のような「焼成温度が高いと,砥粒と結合剤との間で不所望な反応が起こる」という問題がないため,ゾルゲルアルミナ砥粒用の焼成温度の低い結合剤をわざわざ用いる意味がない。特に,本件発明が課題とするコーナー保持性の向上を目指す場合には,砥石のコーナー保持性を向上させるためには焼成温度が高いほうが望ましい(少なくとも当業者はそのように考える)から,焼成温度が従来の溶融アルミナ砥石車用の結合剤より低いゾルゲルアルミナ砥石車用の結合剤を使うことを想到することは通常あり得ないからである。
2 決定は続けて,「溶融アルミナ砥粒を研磨材とするものに対しても,所望の効果を予測し得るものと認められる。」と認定するが,証拠による裏付けも,また技術常識による裏付けもない独断であり,本件発明の効果は当業者にとって予想のできないものである。
決定は,「引用発明2は研磨材の一部として溶融アルミナ砥粒を使用している」との一事をもって上記結論を導いていると思われるが,引用発明2における溶融アルミナ砥粒は,二次的な役割,ないし希釈材(コスト低減目的の増量材)として使用されているにすぎず,ゾルゲルアルミナ砥粒を必須の構成とする以上,そこで用いられる結合剤もゾルゲルアルミナ砥粒用の結合剤として捉えられる。そうであれば,たとえ引用発明2において溶融アルミナ砥粒が使用されていたとしても,そこに用いられた結合剤はあくまでゾルゲルアルミナ砥粒用の結合剤として認識されるから,これを,ゾルゲルアルミナ砥粒とは性質の異なる溶融アルミナ砥粒単独(ないしゾルゲルアルミナ砥粒以外の二次研磨材との混合)に用いた際の効果を当業者が予測し得るとは直ちにいえない。
3 決定は,原告の意見書の主張について,「従前,アルミナ砥粒は,1200℃の焼成温度に耐えるために,1200℃の焼成に適した結合剤が選択されていたものであって,溶融アルミナ砥粒を用いた砥石が必ず1200℃で焼成されなければならないというものではない。そうすると,ゾルゲルアルミナ砥粒と溶融アルミナ砥粒を研磨材とする砥石車を1000℃で焼成していた引用発明2の結合剤を溶融アルミナ砥粒のみを研磨材とする砥石の結合剤に用いたときに,焼成温度を1000℃としたときの効果が全く予想し得ないというものでもない」と認定判断するが,誤りである。
「溶融アルミナ砥粒を用いた砥石が必ず1200℃で焼成されなければならないというものではない」という認定から,「溶融アルミナ砥粒を用いた砥石は,1000℃の焼成温度でも焼成できる」との結論までは導けるが,1000℃で焼成した場合の効果(本件発明の効果)まで上記認定のみから導くことは不可能である。
本件発明では,アルミナ砥粒という点で共通性があるとはいっても,ガラス結合剤と砥粒の間の反応性に顕著な相違があり,また焼成温度にも顕著な相違があるので,当業者にすれば,ゾルゲルアルミナ砥石車と溶融アルミナ砥石車とは異なる砥石車と観念されるものである。
一方,1000℃で焼成する引用発明2のガラス結合剤は,ゾルゲルアルミナ砥石車用途のガラス結合剤という範疇を外れるものではないので,これが溶融アルミナ砥石車において上述のような効果(1200〜1350℃の温度で焼成される従来の溶融アルミナ砥石車よりも優れた性能)を奏することは,当業者が予想できるものではない。
4 「焼成温度が高いほど,砥石車の強度(コーナー保持性)は高くなる」という当業者の技術常識の下では,溶融アルミナ砥石車のコーナー保持性の向上を目指すに当たって,わざわざ「従来の溶融アルミナ砥石車用結合剤(焼成温度:1200〜1350℃)より焼成温度の低い引用発明2の結合剤(焼成温度:1000℃)を用いよう」と発想すること自体困難であるから,当業者には,「引用発明2の結合剤を溶融アルミナ砥石車に用いた際の効果(本発明の効果)」を確認する実験を行う動機がない。したがって,本件発明の効果を確認する実験それ自体に困難性がないことは,本件発明の進歩性判断において何ら影響しない。
「焼成温度が高いほど,砥石車の強度(コーナー保持性)は高くなる」という当業者の技術常識を前提とすれば,「従来の溶融アルミナ砥石車用結合剤(焼成温度:1200〜1350℃)より,焼成温度の低い,引用発明2の結合剤(焼成温度:1000℃)を用いた方が,溶融アルミナ砥石車のコーナー保持性が向上する」という効果が当業者に予測困難であったことは明らかであるから,本件発明は進歩性を有する。
5 決定は,「本件明細書においては,例2及び例3の実施例について,それぞれNorton標準市販結合剤を用いて製造した砥石との効果の比較を行っているが,Norton標準市販結合剤を用いて製造した砥石の焼成温度については,例2については記載がなく,例3のものが900℃とされており,1200℃で焼成された砥石車に対する効果を確認したものではない。」と認定判断するが,これも誤りである。
本件明細書における例2の比較例が,実際に1225℃の焼成温度で焼成された溶融アルミナ砥石車であり,そのことが翻訳の過程で欠落してしまったことは,本件PCT出願原本の公開パンフレットであるWO96/37342号パンフレット(甲第12号証の1)より明らかである。
決定は,「Norton標準市販結合剤を用いて製造した砥石の焼成温度については,例2に記載がない」ことを,「1200℃で焼成された砥石車に対する効果を確認したものでない」と認定する理由の一つとして挙げる。しかし,本件明細書に例2の比較例の焼成温度の記載がないとしても,溶融アルミナ砥石車の通常の焼成温度が1200〜1350℃であることは,当業者にとって周知の技術常識であること,及び明細書の「標準製法でNorton社の製造設備で原料を乾燥配合して生成されたNorton標準市販結合剤を用いて製造」との記載からすれば,当業者であれば,例2において比較されているのは,焼成温度が1200〜1350℃となる通常の溶融アルミナ砥石車用結合剤を用いた溶融アルミナ砥石車であることは,当然理解し得るものである。
6 決定は,「(Norton標準市販結合剤を用いて製造した砥石の焼成温度が,)例3のものが900℃とされて(いること)」も,「1200℃で焼成された砥石車に対する効果を確認したものでない。」と認定する理由の一つとする。
しかし,原告は,例3に記載されていることを本件発明の効果としているわけではない。本件発明の効果は,例2において開示されている事項である。よって,例3の記載は,そもそも本件発明の効果を認定するに当たって考慮されるべきものではない。
例3における比較例が900℃で焼成されているのは,従来のゾルゲルアルミナ砥石車用の標準結合剤を用いたからである。例3は,本件発明に係る結合剤が,従来のゾルゲルアルミナ砥石車用結合剤と比較しても有利であることを示すための記載である。また,900℃という焼成温度は,従来のゾルゲルアルミナ砥石車の最適焼成温度であることは当業者に周知であるから,当該焼成温度のみからでも,当業者であれば,ゾルゲルアルミナ砥石車用の標準結合剤を用いたものであることは,容易に認識できることである。
当裁判所の判断
1 異議甲第1号証(甲第5号証の1。訳文は,異議甲第1号証の米国出願を優先権主張とした特開平7-164324号公報(甲第5号証の2)による。)には,以下の記載がある。
(1-1)「約2.0〜約3.4重量%のLi2O,約7〜約11重量%のNa 2O,約0.5〜約2.5重量%のK 2O,約52〜約62重量%のSiO 2,約12〜約16重量%のAl2O 3,及び約9〜約16重量%のB 2O 3を含んで成るゾルゲルアルミナ研削砥石用のガラス質結合剤。」(【特許請求の範囲 請求項7】) (1-2)「本発明は砥石に関係し,具体的には優れたコーナー保持性を有するゾルゲルアルミナ砥粒を含む砥石に関係する。さらに本発明は,優れた機械強度と優れたコーナー保持性を可能にする結合剤組成物に関係する。」(【0001】) (1-3)「ゾルゲルアルミナ研磨材は,好ましくは砥石の中の全研磨材の約5〜約100体積%を提供し,...第2研磨材(複数種のこともある)は,好ましくは砥石の中の全研磨材の約0〜95体積%を提供し,...使用可能な研磨材には融解アルミナ,...及び発泡アルミナがある。」(【0015】) (1-4)「研磨材混合物は76.56重量%の研磨材(種晶ゾルゲルの120グリッドフィラメントが50重量%,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウムが43.54重量%,36メッシュより小さい発泡アルミナが6.46重量%からなる)」(【0029】例2) 2 また,寺田召二他3名著「低温焼成ビトリファイド研削トイシ(第1報)ガラス結合材を使用するための基礎的考察」名古屋工業技術試験所報告第7巻第9号(昭和33年9月)66〜72頁(乙第1号証)には, (2-1)「...最も多く使用されているのはビトリファイド研削トイシであって,これは結合材にケイ酸塩鉱物を使用したものである.この種のトイシは普通の場合1350℃前後の温度に焼成されたときに所要のカタサを持つトイシとなる.この焼成温度を引下げることができれば,従来よりも大幅にトイシの生産コストを引下げ,安価なトイシができるはずである....普通のビトリファイド研削トイシは,通常は焼成温度が高くなるに従い強度も大きくなるが,ガラスを結合材とする場合には一定の温度以上に焼成すると逆に強度が低下した.」(66頁「1.まえがき」の項) (2-2)「この実験ではト粒にホワイト・アランダム(以下WAで示す)を用いた.粒度は#60である....」(66頁「2.試料の調製及び実験方法」の項) (2-3)「図1に抗張力の測定結果を示す.この結果によると940℃まではトイシの抗張力は増加しているが,それ以上の温度では逆に抗張力は低下してゆく傾向がみられる.」(67頁「3.実験結果とその考察」の項) 3 上記(1-1)及び(1-4)の記載から,異議甲第1号証には,決定が認定した引用発明2が記載されていることは明らかであるが,さらに,(1-3)の記載に合わせ,「融解アルミナ」が「溶融アルミナ」と同義であることにかんがみると,異議甲第1号証には,研磨材混合物として,ゾルゲルアルミナ約5体積%と溶融アルミナ約95体積%との混合物も好ましい範囲として推奨されているということができる。
そして,上記(1-2)に示された目的をも併せて勘案すると,異議甲第1号証には,「優れたコーナー保持性を有するゾルゲルアルミナ砥粒を含む砥石に関係し,さらには,優れた機械強度と優れたコーナー保持性を可能にする結合剤組成物に関係するものであって, 研磨材がゾルゲルアルミナ約5体積%と溶融アルミナ約95体積%との混合物から成る砥石車に用いられるガラス質結合剤であって,約2.0〜約3.4重量%のLi2O,約7〜約11重量%のNa 2O,約0.5〜約2.5重量%のK 2O,約52〜約62重量%のSiO2,約12〜約16重量%のAl 2O 3,及び約9〜約16重量%のB2O 3を含んで成る,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウムを含有する砥石車のガラス質結合剤。」(「引用発明2′)が開示されているものと認めることができる。この引用発明2′は,溶融アルミナが95体積%であり,ゾルゲルアルミナ5体積%である点で,決定が認定した引用発明2をより具体的に認定したものである。
そして,乙第1号証の(2-1)の記載によれば,ガラスなどに代表されるケイ酸塩鉱物を結合剤とするビトリファイド砥石において,生産コスト等の面から焼成温度低下の試みがなされていたことが明らかであるとともに,(2-2)及び(2-3)の記載によれば,研磨剤として,溶融アルミナの一種であるホワイト・アランダムを採用し,ガラスを結合剤とした砥石を作って,抗張力を測定したところ,940℃まではトイシの抗張力は増加しているが,それ以上の温度では逆に抗張力は低下していく傾向がみられたことが報告されている。
4 引用発明2′と本件発明とを比較すると,両者は,優れた機械強度とコーナー保持性を可能にする砥石のガラス質結合剤を提供するという目的において一致し,さらにその結合剤組成と成分範囲においても一致するが,本件発明は,研磨剤として溶融アルミナ単独か,若しくはこれに二次研磨剤(ただし特定成分であって,ゾルゲルアルミナは含まない。)を含むものから成るのに対して,引用発明2′は,ゾルゲルアルミナを約5体積%含み,残部約95体積%は溶融アルミナから成る点でのみ相違するものである。つまり両者は研磨材のうち,約95体積%は共に溶融アルミナ砥粒であるものの,残部約5体積%がゾルゲルアルミナ砥粒であるか,あるいは溶融アルミナ砥粒であるかの違いしかない。
原告は,「たとえ少量でもゾルゲルアルミナ砥粒を含む砥石車は,仮に二次研磨材として溶融アルミナ砥粒を多量に含むとしても,全体としてはゾルゲルアルミナ砥石車として把握されるべきものであり,砥石の性能はゾルゲルアルミナ砥粒によって決まるものであり,溶融アルミナ砥粒などの二次研磨材は二次的な役割,特に溶融アルミナ砥粒では希釈材(コスト低減目的の増量材)として使用されているにすぎないものである。そして,ゾルゲルアルミナ砥粒を併せて含むとしても,ゾルゲルアルミナ砥粒の性能を失わないようにするために,ゾルゲルアルミナ砥石車に開発されている上述の製造条件が採用されなければならないものである。」と主張する。
しかしながら,「たとえ少量でもゾルゲルアルミナ砥粒を含む砥石車は,全体としてはゾルゲルアルミナ砥石車として把握されるべき」という原告の主張は,少量の含有量の極限,すなわち限りなく0に近い含有量を考えた場合,首肯することはできないし,溶融アルミナ砥粒に関しても,砥粒である以上は研磨材としての作用を具備することは否定できないから,単なる増量材であるとの主張も採用することはできない。
5 加えて,引用発明2′が開示する約95体積%が溶融アルミナ砥粒であって,残部約5体積%がゾルゲルアルミナ砥粒である砥石をモデル化して考察してみる。
この種の砥石において,各砥粒はほぼ均一な粒径を有していると考えられるから,体積%の比率はそのまま砥粒数の比率を表すものと理解できる。
そこで,上述した引用発明2′においては,100個の砥粒を任意に採取した場合,溶融アルミナ砥粒95個とゾルゲルアルミナ砥粒5個とが得られる。
これら100個の砥粒を10×10個の正方形をなす桝目の中に各1個ずつ配置し,上下左右の砥粒同士が結合剤によって結合されるとすると,結合部分の総数は9×9=81箇所となる。外縁部の砥粒は結合箇所が2又は3箇所であるのに対し,それ以外の内部に位置する砥粒は上下左右4箇所の結合箇所を有するから,ゾルゲルアルミナ砥粒がすべて内部に位置したと仮定しても(このように仮定することは,後述の溶融アルミナ砥粒同士の結合箇所を最も少なくなるように見積もることにほかならない。),それらの結合箇所は全体で4箇所×5個=20箇所である。100個のうち,5個しかないゾルゲルアルミナ砥粒同士が隣接して位置する可能性はほとんど0であるから,結合箇所全体の81箇所のうち,ゾルゲルアルミナ砥粒と溶融アルミナ砥粒との結合箇所は20/81=24.7%,溶融アルミナ同士の結合箇所は61/81=75.3%となり,引用発明2′における結合箇所の約3/4は溶融アルミナ砥粒同士の結合箇所ということになる。
すなわち,溶融アルミナ砥粒を約95体積%含み,残部約5体積%がゾルゲルアルミナ砥粒から成る砥石は,少なく見積もっても結合剤の約3/4が,溶融アルミナ砥粒同士の結合に費やされることになる。そして,これらの部分についても,強力に結合しない限りは,性能の優れた砥石とはなり得ないことは明らかであるから,引用発明2′における結合剤が溶融アルミナ砥粒同士の結合剤としても優れたものであることは,当業者であれば当然に想到し得る事項にすぎない。
6 そして,乙第1号証に記載されるとおり,溶融アルミナ砥粒から成る砥石に関しても,コスト低減等の面から焼成温度の低温化が図られていたことを併せて考慮すれば,引用発明2′が開示する研磨材のうち約95体積%が溶融アルミナ砥粒であって,残部約5体積%がゾルゲルアルミナ砥粒である砥石のための結合剤を溶融アルミナ砥粒100%の砥石に適用してみようとすることは,当業者であれば容易に想到し得るものと判断せざるを得ない。
7(1) 本件明細書では,@「アルミナ研磨材を用いた実験用結合剤(注:本件発明に係る結合剤)は,目直し補正が半分に軽減され,目直し間隔当たりの部品数が3倍になったことで,。」(甲第3号証の9欄45〜47行参照)(傍点付与)と説明するとともに,原告準備書面には,A「...ゾルゲルアルミナ砥粒は,原告が開発した比較的新しい砥粒である。...溶融アルミナ砥粒とゾルゲルアルミナ砥粒はアルミナという点では共通するが,製法,結晶組織,性質及び物性が全く異なり,砥粒として全く異なる,全く別種の砥粒である。
ゾルゲルアルミナ砥粒は溶融アルミナ砥粒を凌駕するものとして開発され,潜在的にものであるが,生産量とも関係するが,コストが高いという問題点があった。」(原告準備書面(1)6頁14行〜7頁1行)(傍点付与)との主張がある。
他方,異議甲第1号証(甲第5号証の2)には,B「【産業上の利用分野】本発明は砥石に関係し,...さらに本発明は,優れた機械強度と優れたコーナー保持性を可能にする結合剤組成物に関係する。」(【0001】)と記載されている。
そして,前記乙第1号証には,C「この種のトイシは普通の場合1350℃前後の温度に焼成されたときに所要のカタサを持つトイシとなる.この焼成温度を引下げることができれば,従来よりも大幅にトイシの生産コストを引下げ,安価なトイシができるはずである.」及び「普通のビトリファイド研削トイシは,通常は焼成温度が高くなるに従い強度も大きくなるが,ガラスを結合材とする場合には一定の温度以上に焼成すると逆に強度が低下した.」との記載がある。
(2) 原告は,本件発明の効果の比較対象として,専ら「溶融アルミナ砥石車(ゾルゲルアルミナ砥粒を含まない)に,従来の溶融アルミナ砥粒用の標準結合剤(焼成温度:1200〜1350℃)を用いたもの」を挙げて,その優位性を主張しているが,引用発明2′は,「溶融アルミナ砥粒を95体積%含み,残部5体積%がゾルゲルアルミナ砥粒から構成される砥石車に,本件発明と同じ結合剤を使用して1000℃で焼成したもの」である。
そして上記@の明細書記載によれば,本件発明は,従来の溶融アルミナ砥粒を従来の結合剤にて焼成したものと比較して,6倍の性能を発揮するようになったのに対し,上記Aの原告主張によると,引用発明2′においては,ゾルゲルアルミナ砥粒は,潜在的には,溶融アルミナ砥粒の数倍の性能を発揮できるもの,としている。
本件発明の実施例における性能倍率の6倍と,引用発明2′における性能倍率の数倍との主張は一致する範囲であるとともに,両者を比較した場合の性能倍率の優劣は不明である。
すなわち,仮に原告主張の,「たとえ少量でもゾルゲルアルミナ砥粒を含む砥石車は,仮に二次研磨材として溶融アルミナ砥粒を多量に含むとしても,全体としてはゾルゲルアルミナ砥石車として把握されるべき」との立場をとって,ゾルゲルアルミナ砥粒を極少量とした場合の極限を考えれば,本件発明は当該極限において,その構成が引用発明2′と一致するものである。
また,乙第1号証によれば,生産コストの面等から研削砥石の焼成温度を低温化しようとする動機が本願出願前からあったこと,及びそのための研究の過程で,「通常は焼成温度が高くなるに従い強度も大きくなるが,ガラスを結合材とする場合には,一定の温度以上に焼成すると逆に強度が低下した」ことが報告されていることが明らかである。
(3) そうだとすると,1200〜1350℃で焼成することが機械強度やコーナー保持性の面で当然とされてきた溶融アルミナ砥粒砥石(車)に関して,異議甲第1号証に開示された機械強度とコーナー保持性に優れた,1000℃で焼成するガラス質結合剤を適用してみようとする動機は,当業者であれば当然に想到するものと認められ,かつその作用効果に関して,研磨材が溶融アルミナ95体積%とゾルゲルアルミナ5体積%との混合物から成るゾルゲルアルミナ砥石(車)において,ゾルゲルアルミナ砥粒を極少量に減少したものと同等程度,あるいはそれを外挿した延長線上の性能を発揮するであろうことは,当業者が当然に予測し得ることにすぎないものと認められる。
8 決定は,溶融アルミナとゾルゲルアルミナの体積%を具体的に特定していない引用発明2と本件発明との間の構成の相違点を認定して,本件発明の構成の容易想到性を判断しているが,以上に判断したところによると,本件発明の効果に関する部分も含め,本件発明は異議甲第1号証に記載の発明に基づいて容易に想到することができるとした決定の判断に誤りはないことに帰する。
結論
以上のとおり,原告主張の決定取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久