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関連審決 不服2001-936
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術常識 /  優先権 /  優先日 /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 109号 審決取消請求事件
原告 アドバンストテクノロジー ラボラトリーズ インコーポレ イテッド
訴訟代理人弁理士 高橋和彦,原田邦彦
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 渡部利行,小曳満昭,林栄二,大橋信彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2001-936号事件について平成14年11月5日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,原告が,後記本願発明の特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明 出願人:原告 発明の名称:「三次元超音波画像作成装置」 出願番号:特願平10-127042号 出願日:平成7年11月21日に出願(優先権主張平成6年11月22日米国)した特願平7-325227号の一部を平成10年5月11日に新たな特許出願としたもの。
(2) 本件手続 拒絶査定日:平成12年10月24日 審判請求日:平成13年1月22日(不服2001-936号) 手続補正日:平成14年9月5日(甲20) 審決日:平成14年11月5日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成14年11月27日(原告に対し。出訴期間90日附加) 2 本願発明の要旨(上記手続補正後の特許請求の範囲請求項1の記載。以下「本願発明」という。なお,請求項2ないし22の記載は省略。)【請求項1】体内の立体領域に対して超音波を発信する発信器;該領域内の空間位置からの超音波ドップラー情報信号を受信する受信器;該領域内の該位置から受信した,該超音波ドップラー情報信号を処理して,下式:(I2+Q2)1/2によって得られる,ドップラーパワー強度を求めるドップラーパワー処理器;及び,該ドップラーパワー強度を,該領域の空間配置を保った状態で三次元表示内にBモード画像なしで表示する表示装置;からなる,体内の三次元超音波画像を作成する超音波診断画像処理装置。
3 審決の理由の要点 (1) 審決は,刊行物1(「月刊新医療」第21巻第5号,平成6年5月1日発行),刊行物2(「臨床検査」第38巻第12号,平成6年11月15日発行),刊行物3(「日本超音波医学会第64回研究発表会講演抄録集」,社団法人日本超音波医学会平成6年11月11日発行),刊行物4(特開平5-228145号公報),刊行物5(「日本超音波医学会第58回研究発表会講演論文集」,社団法人日本超音波医学会平成3年4月10日発行)を引用したが,刊行物3の記載内容としては,次のとおり認定した。
「刊行物3には,ドップラ信号のパワーに着目して血管などを表示する方式(CDEあるいは Power Doppler)で血管などを画面に描出できることが記載されているから,『体内の立体領域に対して超音波を発信する発信器;該領域内の空間位置からの超音波ドップラー情報信号を受信する受信器;該領域内の該位置から受信した,該超音波ドップラー情報信号を処理して,ドップラーパワー強度を求めるドップラーパワー処理器;及び,該ドップラーパワー強度から構築される画像を画面に表示する表示装置;からなる,体内の超音波画像を作成する超音波診断画像処理装置。』という発明が記載されていることが認められる。」 (2) 審決は,刊行物3に記載された発明と本願発明とを対比し,一致点として,次のとおり認定した。
「『体内の立体領域に対して超音波を発信する発信器;該領域内の空間位置からの超音波ドップラー情報信号を受信する受信器;該領域内の該位置から受信した,該超音波ドップラー情報信号を処理して,ドップラーパワー強度を求めるドップラーパワー処理器;及び,該ドップラーパワー強度から構築される画像を画面に表示する表示装置;からなる,体内の超音波画像を作成する超音波診断画像処理装置。』である点で一致。」 (3) 審決は,刊行物3に記載された発明と本願発明との相違点として,次のとおり認定した。
「相違点1;本願発明では,(I2+Q2)1/2によって得られる,ドップラーパワー強度を求めるドップラーパワー処理器であるのに対し,刊行物3に記載された発明には,ドップラーパワー強度に関して,そのような式が記載されていない点。 相違点2;本願発明では,ドップラーパワー強度を,該領域の空間配置を保った状態で三次元表示内にBモード画像なしで表示する表示装置であるのに対し,刊行物3に記載された発明では,ドップラーパワー強度から構築される画像を画面に表示する表示装置である点。」 (4) 審決は,上記相違点1について,次のとおり判断した。
「ドップラー信号復調器からのI信号とQ信号を使って,ドップラー信号のパワー強度が,(I2+Q2)1/2によって得られることは,当業者にとって明らかなことであり,相違点1は当業者が容易になし得ることである。」 (5) 審決は,上記相違点2について,次のとおり判断した。
「刊行物1,4,5に記載されているように超音波診断装置,超音波画像処理装置においては三次元表示が求められ,実際に三次元表示を実現していることが公知であり,また,刊行物3には,Power Doppler 法での超音波画像処理装置についても,『この特徴を利用して血管の3次元表示など今後の開発が期待される。』と,三次元表示を付加することへの期待が示されているから,当業者であればその期待を実現すべく,刊行物4,5に記載されたドップラー信号を利用した超音波画像処理装置における三次元表示技術あるいはX線CTなど他の画像処理装置における三次元表示技術を刊行物3に記載された発明に適用することは容易になし得ることである。
そして,刊行物3に記載された発明はドップラ信号のパワーに着目して信号処理を行う方式(CDEあるいは Power Doppler)であり,得られた断層像データはCDE方式による特徴を有するから,その断層像データに公知の三次元表示技術を適用して得られる表示装置は,三次元表示内にBモード画像なしで表示する表示装置となることは当然である。
したがって,相違点2は当業者が容易に想到し得たことである。」 (6) 審決は,審判請求人(原告)の意見書における主張に対して,次のとおり説示した。
「本願発明は,『該ドップラーパワー強度を,該領域の空間配置を保った状態で三次元表示内Bモード画像なしで表示する表示装置』とするのみで,CDE法による測定結果を三次元表示するにすぎず,CDE法特有の三次元表示のためのデータ処理が規定されているわけではない。
請求人のいう『CFM法とCDE法の相違』は,三次元表示の基となる多数の断層像データを得るまでの相違であり,三次元表示のための計算は多数の断層像データがどのような測定方式で得られたかには関係せず,CDE法によって得た多数の断層像データを三次元表示する程度の意味においては,CFM法超音波画像処理装置における三次元表示技術や他の画像処理装置における三次元表示技術を適用することに困難はない。 そして,刊行物1から3には,CDE法では,『角度依存性がないこと,折り返し現象がみられないこと,S/Nに関しても改善されていること,雑音が減り感度の上昇があるためか血管が線状に表示されやすい傾向があること,細い血管も安定して描出される傾向がある』などの特徴が記載されており,このような特徴が刊行物3に記載された発明に公知の三次元表示技術を適用した装置に表れることは明らかであり,本願の明細書に記載された本願発明の特徴は公知のCDE法と公知の三次元表示技術との組合せによって自ずと得られるものである。」 (7) 審決は,次のとおり結論付けた。
「本願発明は刊行物1から5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。」
原告の主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(刊行物3の認定の誤りによる一致点の認定の誤り) (1) 審決は,刊行物3の記載内容として,前記第2,3(1)のとおり認定し,これを前提に,刊行物3に記載された発明と本願発明との一致点として,前記第2,3(2)のとおり認定した。しかし,刊行物3に記載された発明の認定を誤った結果,本願発明と刊行物3に記載の発明との一致点を誤って認定したものである。
(2) 刊行物3には,超音波装置のハードウェアに関する記載としては,超音波装置と探触子の機種名があるにすぎず,当該発信器,受信器,ドップラーパワー処理器及び表示装置が,それぞれ具体的に刊行物3に記載のどの手段に相当するのか不明であり,審決のような認定をすることの客観性を欠く。
発明とは技術的思想創作であり,その本質は技術思想を具現化した構成要素の集まりとしての一体的な構成にある。審決は,刊行物3にはあたかもドップラーパワーを表示する超音波診断画像処理装置に関する構成が開示されているかのように断定しているが,刊行物3は,ドップラーパワーによる診断を臨床に用いた結果の報告を目的とするものであり,超音波診断画像処理装置の構成が開示されているわけではなく,本願発明の構成と対比すべき構成を記載した文献とはいえない性質のものである。
(3) 被告は,上記の点について反論するが(後記第4,1)いずれも失当である。
すなわち,被告の主張は,審決認定の発明を導くための種々の技術的必要性にかんがみてなされた推量によって得られた結果にすぎず,刊行物3は,審決認定の発明の根拠とする証拠としては不十分である。
また,「診断用の画像をドップラー信号のパワーを用いて表示する方式の超音波診断画像処理装置」にも種々の変形,修正を施した装置が知られているのであり,本願発明の構成と対比すべき構成が何も記載されていない刊行物3のわずか数枚の画像のみをもって審決認定の装置を特定し得ないことは明らかである。審決認定の発明は,種々の変形,修正を施した装置が知られている超音波装置の様々な構成態様のうちの特定された1つであり,これを刊行物3に記載の内容から把握することはできない。
なお,被告は,乙1を用いて説明するが,審判において言及もなければ示唆もない新証拠である。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り) (1) 審決は,刊行物3に記載された発明と本願発明との相違点1について,前記第2,3(4)のとおり判断したが,誤りである。
(2) 本願発明は,ドップラーパワー強度相当値を求める手法が種々存在する中から,上記のようなI信号とQ信号を用いた手法を採用し,本願発明独特の構成,作用及び効果を有するものである。したがって,このようなI信号とQ信号を用いた手法を採用することが当業者にとって明らかであることの証拠の提示もなく,相違点1については当業者が容易になし得ることであるとする審決の判断は誤りである。
(3) 被告は,上記の点について反論するが(後記第4,2)いずれも失当である。
まず,被告は,乙2,3を用いているが,審判において言及もなければ示唆もない新証拠である。
次に,原告もドップラーパワー強度が(I2+Q2)1/2によって求められることが公知であることを争うものではない。しかし,パワー強度を求めるには,上記式による方法以外に,刊行物3の「64-137」にも記載されているように,振幅信号を2乗する方法なども知られていたのであるが,本願発明は,上記式によるパワーを算出することに構成要件の1つとして限定したことに意義がある。この限定により,上記式に基づくパワーを求める方法以外の方法(振幅信号を2乗してパワーを求める方法等)を除外する技術思想が提供されるものである。審決は,この点を無視している。
また,本願発明は,(I2+Q2)1/2によってパワーを求めることにより,例えばカラードップラ(Color Doppler)画像に必要な信号を得るための構成を有効活用することができ,回路の大規模化を抑制し,もって大容量又は大規模メモリその他の三次元表示に必要となる回路を含めた装置全体の構成の簡素化及び低廉化に大きく貢献するという,振幅信号を2乗してパワーを求める方法などでは期待することのできない効果を奏するものである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り) (1) 審決は,刊行物3に記載された発明と本願発明との相違点2について,前記第2,3(5)のとおり判断したが,誤りである。
(a) 審決の判断は,刊行物3に記載された「3次元表示など今後の開発が期待される」ものということから,他の種類の装置における三次元表示を本願発明装置において実現するのは容易であるという論理により結論付けたものと解される。
しかしながら,このような開発の期待が存在する事実は,技術的思想創作である発明の完成に影響を及ぼすものではない。しかも,刊行物3の著者は当業者であろうから,もし審決がいうように,当業者にとって本願発明は容易になし得るものであるならば,その当業者は,上述したような開発の期待を表明するのではなく,逆に「Power Dopplerに関する装置の三次元表示は既に実現されている」旨を明確に言及するはずである。換言すれば,刊行物3における「3次元表示など今後の開発が期待される」との記述は,裏を返せば,このような三次元表示は実現に至っていないという事実を証明するものであると解するのが妥当である。このことは「3次元表示など今後の開発が期待される」という記述が字義通り意味するところからしても疑いのないものである。
さらに,刊行物3は,平成6年11月11日に発行されており,本願優先日のわずか11日前である。刊行物3は,ほぼ本件出願時の技術水準を代表するものと解することができ,刊行物3によって当該三次元表示の実現がされていないことが証明されるのであれば,正しく本願発明によって初めてPower Dopplerに関する装置の三次元表示が実現されたと推定すべきである。
(b) また,審決は,三次元表示にBモード画像なしで表示する点は当然であるという趣旨を説示するが,本願発明は,「該ドップラー強度を,該領域の空間配置を保った状態で三次元表示内にBモード画像なしで表示する」ことによって,すなわち単なる三次元表示ではなく,Bモード画像なしの三次元表示をCDE方式において行うことによって,本願明細書の段落【0007】に記載のような特有の作用効果を奏するものである。しかもこのような作用効果は,引用された他の刊行物にも何ら記載も示唆もないものである。したがって,Bモード画像なしの三次元表示をCDE方式において行うことが明らかであることの証拠の提示もなく当然であるとする判断は,妥当ではない。
(2) 被告は,上記の点について反論するが(後記第4,3)いずれも失当である。
(a) まず,被告は,「公知の期待」の実現にも難易があることを看過している。
当業者であれば誰でも容易に実現し得る期待もあるし,逆に,たとえ当業者といえども実現不可能な期待も存在する。「三次元表示を付加することへの公知の期待」があり,その期待が容易に実現し得るものであれば,その期待を表明した当業者やその他いずれかの当業者がその発明を完成させたであろう。期待が公知で,当業者に知られていればいるほど,その期待の実現に挑戦する当業者も真剣に取り組むであろう。それが期待のままに止まっているということは,「当業者が容易に発明をすることができた」ものでないことを証明している。
本願優先日のわずか11日前においては依然としてCDEの三次元表示は実現されていなかったと推定される。そして,カラードップラ法(CFM)による三次元表示の実現例を示す刊行物4及び5に記載の発明がなされた時期に照らせば,短く見積もっても,本願優先日の11日前までの約3年の期間において,カラードップラ法(CFM)による三次元表示が実現していたにもかかわらず本願発明のようなパワードップラ法(CDE)による三次元表示の実現がなされていなかったことも推定される。このような長い期間にわたり実現されなかったCDEの三次元表示を達成した本願発明には,特許に値する進歩性がある。
(b) 被告は,Bモード画像を表示から排除する点は当然である旨主張している。
しかし,被告の引用する乙1,3は,審決において言及も示唆もない上,刊行物1ないし4,乙1,3の記載は,カラードップラ法(CFM)に関するものや,パワードップラ法(CDE)であってもその二次元表示を前提とするものであるので,本願発明に独特な技術的思想の特許性を覆す理由とはならない。
すなわち,本願発明は,CDEの三次元表示をいかになすべきかについての技術的思想を提案するものである。まず,CDEの三次元表示自体は,本願明細書の記載内容から支持されるものであり,本願発明によって初めて実現されたものである。そして,本願発明は,CDEの三次元表示にとどまらず,Bモード画像なしで三次元表示を行うことも特徴としている。この特徴は,CDEの三次元表示の実現があったからこそ見出し得たものである。すなわち,CDEの三次元表示画像は,CFMの三次元表示画像と異なり,組織又は構造情報(Bモード画像)を同時に表示させなくとも当該血流情報の連続性が保たれ,あたかも従来のBモード画像情報を視認させるような情報をユーザに提供できることが判明されたのである。しかも,Bモード画像情報を表示させないことによって,Bモード画像情報に起因するノイズを激減させることにも成功したのである。したがって,本願発明により初めて,血流情報のみに基づいた良好な擬似的血管構造情報の視覚化を可能とする独特な技術的思想が提供されたのである。このような擬似的血管構造情報の視覚化は,CDEの2次元表示においてBモード画像を排しただけあるいはCFMの二次元及び三次元表示においてBモード画像を排しただけでは導き出せないものであり,CDEの三次元表示に特有のものである。
刊行物4に記載のものは,Bモード画像を積極的にCFMの血流画像に重ねてどちらも良好に表示しようとする思想に基づいており,本願発明のようなBモード画像なしでCDEの血流画像のみを三次元表示し,顕著な効果を得ようとする思想は,全く見出すことができない。もとより,刊行物4にCFMの三次元表示画像にBモード画像を重ね合わせて表示するときの問題が言及されていたとしても,本願発明の特許性を否定する理由とはならない。
(3) 審決は,結論に至るまでの過程において,審判請求人(原告)の主張に対する判断として前記第2,3(6)のとおり説示したが,この判断も誤りである。
既に主張したとおり,刊行物3は,超音波診断画像処理装置の構成を客観的に導くものではないのであって,これを前提とする判断は,失当である。また,既に主張したとおり,本願発明は,単なる三次元表示ではなく,Bモード画像なしの三次元表示をCDE方式において行うことによって,特有の作用効果を発揮しているものであり,この作用効果は,刊行物1ないし5の記載内容からは予測することのできないものである。よって,当業者がこれらの刊行物から容易に想到し得るものではない。審決は,公知のCDE法の作用効果のみを認識し,本願発明独自の特徴を看過して判断したものであって,誤りである。
4 取消事由4(相違点1及び2の組合せについての検討の不備) 審決は,相違点1及び相違点2について一応検討しているが,相違点1と相違点2の本願発明における組合せについて何の検討もしていない。各相違点を個々に検討しただけでは,本願発明の進歩性ないしは特許性を検討し尽くしたことにはならない。本願請求項1に記載の構成要件全体の組合せについての特許性の検討を欠いている審決には不備がある。
被告の主張の要点
1 取消事由1(刊行物3の認定の誤りによる一致点の認定の誤り)に対して (1) 刊行物3の講演抄録「64-139」には,ドップラー計測法によって検出測定した血流を描出した Power Doppler 画像が掲載されており,この画像は使用された超音波装置と探触子により得られたものであって,そのような画像を表示するには,ドップラー計測法超音波装置の構成として,画像に対応した体内の空間位置からの超音波ドップラー情報信号を処理して,ドップラーパワー強度を求めるドップラーパワー処理器,及び当該ドップラーパワー強度から構築される画像を画面に表示する表示装置が必要であり,そのような超音波ドップラー情報信号を得るためには,体内の立体領域に対して超音波を発信する発信器,当該領域内の空間位置からの超音波ドップラー情報信号を受信する受信器が必要であることは明らかである。このことを,信号の流れに沿って言い換えれば,審決の認定した発明のとおりとなる。なお,講演抄録での「超音波装置」という用語は,超音波診断画像処理装置といえる。
刊行物3の講演抄録「64-159」には,ドップラー信号のパワーを用いて表示する方式(CDE方式)の装置によって検出測定された断層画像が掲載されており,上記と同じ理由から,そのような画像を表示する装置には,上記ドップラー計測法超音波装置と同じ構成が必要であることも明らかである。
(2) 診断用の画像をドップラー信号のパワーを用いて表示する方式の超音波診断画像処理装置が上記の基本構成を有することは,当業者にとって技術常識であるから,刊行物3の記載と図示に接した当業者は,審決が認定した発明を把握する。なお,乙1(特開平2-268748号公報)の記載と図3,図4によれば,診断用の画像をドップラー信号のパワーを用いて表示する方式の超音波画像診断処理装置装置の基本構成が,「体内からの超音波エコー信号を得るプローブ及び送受信部,ドップラー情報信号を得る直交検波部,そのドップラー情報信号を処理してドップラーパワー値を求めるパワー演算部,そのパワー値から構築される画像を画面に表示するDSCと表示部」からなることは,当業者にとって技術常識である。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対して 乙2(実願昭62-120579号(実開昭64-25777号)のマイクロフィルム),乙3(特開平6-142103号公報)によれば,ドップラー信号復調器からのI信号とQ信号を使ってドップラー信号のパワー強度が,式「(I2+Q2)1/2」によって求められることが当業者にとって明らかである。
I信号とQ信号を用いた手法は,上記のとおり当業者にとって明らかなものであって,その作用及び効果も当然に明らかなものであり,この手法を採用したからといって独特の構成となるものではなく,また,独特の作用及び効果を奏するものとなることもない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対して (1) 審決の相違点2についての判断に誤りはない。
(a) 相違点2に関し,本願発明の構成は,「該ドップラーパワー強度を,該領域の空間配置を保った状態で三次元表示内にBモード画像なしで表示する表示装置」とするのみで具体的な回路の限定はない。この程度の表示装置であれば,CDE方式の超音波診断画像処理装置について三次元表示を付加することへの公知の期待と,X線CTなど他の画像処理装置における公知の三次元表示技術や,CDE方式でないとしてもドップラー信号を利用した超音波診断画像処理装置における公知の三次元表示技術(刊行物4,5)に基づき,当業者が容易にCDE方式の超音波診断画像処理装置に付加することができたといえる。
刊行物3が本願優先日の11日前に発行されたものであっても,本願優先日前に,刊行物3や他の刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められることに変わりはない。
(b) 刊行物4の図4,図5,図9に図示されているように,三次元表示技術は,複数の断層面データを収集して実空間ボリュームメモリのデータを得て,それを二次元平面に投影することを原理としている。
刊行物2の図2a(通常の速度表示)と図2b(パワー(エナジー)表示)を対比し,あるいは,刊行物3の講演抄録「64-139」に掲載されたColor Doppler画像とPower Doppler画像を対比してみればわかるように,断層面データを得るという限度では両方式に相違はなく,いずれの方式でも複数の断層面データを収集して実空間ボリュームメモリのデータを得て,それを二次元平面に投影することができることは,当業者が容易に理解できることである。
そうすると,他の種類の装置における三次元表示技術をCDE方式の超音波診断画像処理装置に利用することは,当業者が容易になし得ることといえる。
そもそも,ドップラー信号は,血流など動く物体から得られるものである。したがって,CDE方式であれ他の方式であれ,ドップラー法による検出測定で得られた断層画像にはBモード画像はなく,そのような断層画像を基礎とする三次元画像にもBモード画像がないことは,原理上当然のことである。
刊行物2にも記載があるように,Bモードは,背景すなわち固定組織を検出し描出するための超音波測定であって,通常の超音波診断画像処理装置は,両方の検出測定(及び画像描出)ができる構成を有し,Bモードによる検出測定(及びBモード画像描出)とドップラー法による検出測定(及びドップラー画像描出)とは別に行われ,Bモード像,血流像を選択的に,又は組合せて表示するものである。このことは,刊行物4,乙1,3にも記載,図示されている。
上記のとおり,ドップラー法での検出測定による画像には,そもそもBモード画像はなく,それ以外の本願明細書【0007】に記載された作用効果は,CDE方式の検出測定に基づくものであり,公知のことである。上記のように三次元表示される画像は,断層面データを基礎としているから,結局,本願明細書【0007】に記載された作用効果は,刊行物3に記載されたCDE方式の超音波診断画像処理装置に公知の三次元表示技術を付加したことによって自ずと得られるものにすぎない。
別の観点からいうと,公知の三次元表示技術(刊行物4)でも,ドップラー法による血流画像とBモード画像を重ね合わせて表示することには,対象物の表面を表示すればその内部状態が観察できなくなり,また逆に対象物の内部を表示すればその表面状態が観察できなくなるなどの問題があることは,当業者に知られているのであるから,刊行物4に記載されたドップラー信号を利用した超音波診断画像処理装置における三次元表示技術,あるいはX線CTなど他の診断画像処理装置における三次元表示技術を,刊行物3に記載された発明に適用するに当たって,三次元表示内にBモード画像なしで表示する表示装置とすることは,当業者にとってむしろ自然である。
(2) 原告は,審決が審判請求人(原告)の主張に対する判断として説示した部分も非難するが,既に主張したように理由がない。
4 取消事由4(相違点1及び2の組合せについての検討の不備)に対して そもそも相違点1は,ドップラー信号のパワー強度を求める原理式ともいえる当業者にとって明らかなことであり,本願発明における相違点2との組合せに何の困難もない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物3の認定の誤りによる一致点の認定の誤り)について (1) 刊行物3(甲18)の記載について検討する。
(a) 刊行物3の「64-137」には,「超音波パワー(エネルギー)表示法の腎疾患への応用」について,次のような記載がある。
「[装置と方法]カラードプラ法では,Wall motion filter を通したあと,受診信号相互の位相差を求めることでドプラ偏移速度を算出し,位相成分のみを利用している。しかし,信号には位相と共に振幅成分が含まれているので,この振幅を2乗すれば信号のパワーに比例した量になり,ドプラ偏移成分のパワーが表示されることになる。ただし,本研究では演算を容易とするために,積分値(信号のエネルギー)を演算している。使用装置はアキュソン128XP型及びアロカSSD-680型であり,検査方法は通常の超音波検査法と全く同様にして行われた。」(201頁左欄14〜28行) 「新しく開発されたパワー表示法は,…腎内あるいは腫瘍内の血管の分布が明瞭に描出される」(201頁右欄26〜29行) これらの記載によれば,刊行物3の「64-137」には,超音波装置により超音波ビームを体の腎へ照射し,受診信号のドップラー偏移成分の振幅を2乗することにより,信号のパワーに比例した量を求めてドップラー偏移成分のパワーを表示することと,その演算を容易にするために積分値(信号のエネルギー)を演算することが記載され,その結果,血管の分布を明瞭に描出することができたことが記載されている。
(b) 刊行物3の「64-139」には,「"Power Doppler"による肝実質及び肝腫瘍内血流の評価」について,次のような記載があるほか,Power Dopplerの画像を画面表示した様子が示されている。
「最近Rubin等によって開発された"Power Doppler"はドップラー効果によって生じるPower Spectrum Curve Shapeの変化を定量化し表示するものであり」(203頁左欄1〜4行) 「方法:超音波装置はAcuson 128XP,探触子はLinear Allay 4MHz及びCurved Allay 5MHzを使用した。」(203頁左欄12〜14行) 「水平方向の血流に関してはPower Dopplerが明らかに検出率が高く血管構築の連続描出,その走行の把握に優れていた。」(203頁左欄37行〜右欄2行) これらの記載及び画像の表示によれば,刊行物3の「64-139」には,超音波装置により体の肝に超音波を照射して,肝の状況をドップラーパワーの画像で画面表示することが記載され,その結果,血管構築の連続描出,その走行の把握に優れていたことが記載されているといえる。
(c) 刊行物3の「64-159」には,「体外法による胃,腸管壁のカラードプラ信号の検討」について,次のような記載があるほか,CDEの画像を画面表示した様子が示されている。
「『…方法』…装置はAcuson 128XP-10を使用し,4.0MHz,7.0MHzの探触子を使用した。…装置は,通常の速度表示カラードプラ法のみでなく,Energy表示(Doppler信号のpower)が可能であり,検討には同一の装置を用いた。」(223頁左欄9〜15行) 「両者を比較するとCDE法が,…血管のつながりも良好に観察できた。」(223頁左欄25〜27行) 「CDE法は…血管もその連続性の描出がより明瞭であった。」( 223頁左欄30〜33行) 「これまでの速度表示法と比較しCDEでは,Doppler信号のpower spectrum を使用しその強さに応じて輝度表示をするものである。」( 223頁左欄36〜38行) これらの記載及び画像の表示によれば,刊行物3の「64-159」には,超音波装置により体の胃,腸に超音波を照射して,胃,腸の状況をCDEの画像で画面表示することが記載され,その結果,血管の連続性の描出が明瞭であったことが記載されているといえる。
(2) 上記刊行物3の「64-139」に記載のドップラーパワーの画像,「64-159」に記載のCDEの画像は,照射した超音波の反射波に基づいたドップラーパワー強度から構築される画像であることは明らかなので,刊行物3の「64-139」,「64-159」には,体内の立体領域に対して超音波を発信し,その領域内の空間位置から受信した超音波に基づき,ドップラーパワー強度から構築される画像を画面に表示する超音波診断画像処理装置が記載されているといえる。
さらに,超音波を照射し,照射した超音波の反射波からドップラーパワー強度を得るに当たっては,例えば刊行物3の「64-137」に記載のように,照射した超音波の受診信号からドップラー偏移成分を得て,得られたドップラー偏移成分を演算すること,すなわち超音波ドップラー情報信号を受信し,その超音波ドップラー情報信号を処理することも明らかである。
そうすると,刊行物3の「64-139」,「64-159」においてドップラーパワー強度から構築される画像を画面に表示するのに使用した超音波診断画像処理装置は,上記のような機能を奏するための具体的手段を有することは明らかであり,刊行物3についての審決の認定は,是認し得るものであり,本願発明と刊行物3記載の発明との一致点についての審決の認定にも誤りはない。
(3) 原告は,発信器,受信器,ドップラーパワー処理器及び表示装置が,それぞれ具体的に刊行物3に記載のどの手段に相当するのか不明であること,刊行物3は,ドップラーパワーによる診断を臨床に用いた結果の報告を目的とするものであり,超音波診断画像処理装置の構成が開示されているわけではないこと,「診断用の画像をドップラー信号のパワーを用いて表示する方式の超音波診断画像処理装置」にも種々の変形,修正を施した装置が知られているのであり,本願発明の構成と対比すべき構成が何も記載されていない刊行物3のわずか数枚の画像のみをもって審決認定の装置を特定し得ないことは明らかであること,乙1は,審判において言及もなければ示唆もない新証拠であることなどを主張する。
しかし,前判示のとおり,刊行物3には,Acuson 128XP等の超音波診断画像処理装置を使用し,体内の立体領域に対して超音波を発信し,その領域内の空間位置から受信した超音波に基づき,ドップラーパワー強度から構築される画像を画面に表示できたことが記載されている。そして,診断用の画像をドップラー信号のパワーを用いて表示するドップラー計測法超音波装置の基本構成等に関する技術常識(乙1の第3図等)に照らせば,刊行物3において,本願発明の発信器,受信器,ドップラーパワー処理器及び表示装置に対応する具体的構成が明示されていないとしても,刊行物3で使用された上記装置が,前認定のような超音波の送信,受信及び受信した信号の処理とその結果の表示を行うための手段を備えているものと理解し得ることは明らかである。
そして,刊行物3が臨床の結果報告を目的とするものであるとしても,刊行物3の記載として前判示のことが認められる以上,その目的いかんにより前認定が左右されるものではない。また,仮に,上記装置として種々の変形,修正を施したものが知られているとしても,そのことが直ちに,当業者が刊行物3から前認定の発明を理解することを妨げる理由となるものではない。
なお,乙1は,技術常識ないしは本件出願当時(優先権主張日当時)の技術水準を裏付ける資料とする趣旨で提出されたものであるから,本訴で証拠とすることは妨げられない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) ドップラー信号のパワー強度を求める際の技術水準についてみると,乙2の〔従来の技術〕欄には,ドップラー信号復調器からのI信号とQ信号を使って,電力合成器にて式(I2+Q2)1/2の演算処理をして,ビデオ信号出力を得ることが記載されており,乙3の段落【0010】にも,ドップラー信号復調器からのI信号とQ信号を使って,式(I2+Q2)1/2の演算処理をして血流のパワー値を求めることが記載されている。そうすると,ドップラー信号復調器からのI信号とQ信号を使って,ドップラー信号のパワー強度が,(I2+Q2)1/2によって求められることは,本件出願当時(優先権主張日当時)の技術常識であったと認められる。
上記技術水準を考慮すれば,刊行物3記載の発明において,ドップラーパワー処理器で超音波ドップラー情報信号を処理して,ドップラーパワー強度を求めるに当たり,I信号とQ信号を使った相違点1に係る式(I2+Q2)1/2によりドップラーパワー強度を得るようにすることは,当業者が容易になし得るものというべきである。
したがって,相違点1についての審決の判断は,是認し得るものである。 (2) 原告は,本願発明は,ドップラーパワー強度相当値を求める手法が種々存在する中から,(I2+Q2)1/2によってパワーを求める手法に限定したことに意義があり,この限定により,例えば,カラードップラ(Color Doppler)画像に必要な信号を得るための構成を有効活用することができ,回路の大規模化を抑制し,もって大容量又は大規模メモリその他の三次元表示に必要となる回路を含めた装置全体の構成の簡素化及び低廉化に大きく貢献するという,振幅信号を2乗してパワーを求める方法などでは期待することのできない効果を奏するものであることなどを主張する。
しかしながら,原告が本願発明の効果として主張する点は,当業者が刊行物3記載の発明及びドップラーパワー強度を(I2+Q2)1/2によって求める上記技術常識から予測し得る程度のものであるというべきであって,原告の主張は,採用することができない。
また,乙2,3は,上記のとおり,技術常識ないしは本件出願当時(優先権主張日当時)の技術水準を裏付ける資料とする趣旨で提出されたものであるから,本訴で証拠とすることは妨げられない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について (1) 審決の前記第2,3(5)の第1段落部分の判断の当否について,原告の主張(前記第3,3(1)(a)及び(2)(a))をふまえつつ検討する。
(a) 刊行物3の「64-139」には,「肝内低速血流(門脈,静脈)の描出は,垂直方向の血管に対しては従来のColor DopplerとPower Dopplerの違いはなかった。しかし水平方向の血流に関してはPower Dopplerが明らかに検出率が高く血管構築の連続描出,その走行の把握に優れていた。この特徴を利用して血管の3次元表示など今後の開発が期待される。」(203頁左欄35行〜右欄4行)との記載がある。これによれば,刊行物3には,ドップラーパワー強度の画像表示が,血管構築の連続描出,その走行の把握に優れている特徴を利用して,ドップラーパワー強度の画像表示を血管の三次元表示に利用することへの期待が示唆されているものと認められる。
そして,ドップラーパワー強度によるものも従来の超音波診断装置によるものも,多数の空間的に隣接する断層像データを得て,これらの断層像データに基づいて三次元表示するものであって,本件全証拠によっても,得られた断層像データを三次元表示する技術に関する限り,従来の超音波診断装置の三次元表示技術をドップラーパワー強度の画像を表示する刊行物3記載の発明に適用することにつき,阻害要因となるべき事由が存在するものとは認られない。
したがって,ドップラーパワー強度から構築される画像を表示する刊行物3記載の発明において,ドップラーパワー強度の画像表示を三次元表示することへの上記期待に基づいて,例えば,刊行物4に記載の超音波画像処理装置における三次元表示技術を採用することは,当業者が容易になし得るものというべきである。
審決の上記判断は,是認し得るものであって,誤りはない。
(b) 原告は,開発の期待が存在する事実は,技術的思想創作たる発明の完成に影響を及ぼすものではなく,「公知の期待」の実現にも難易があること,それが期待のままに止まっているということは,当業者が容易に発明をすることができたものでないことを証明していること,短く見積もっても,本件優先権主張日の約3年前から,刊行物4,5記載のカラードップラー法による三次元表示が実現していたにもかかわらず,本願発明のようなパワードップラー法による三次元表示が実現されていなかったのであるから,本願発明には進歩性があることなどを主張する。
しかしながら,仮に,本件出願日(優先権主張日)前において,ドップラーパワー強度の画像表示を三次元表示することにつき,期待はあったものの,実現に至っていなかったとしても,直ちに相違点2に係る構成への想到が容易でなかったということはできない。出願前に同一の構成が実現されていないということは,発明の新規性はともかく,進歩性の判断に直結するものではない。実現されていない理由次第では,進歩性,容易想到性判断において考慮し得る一事情にはなり得るが,その理由は種々のものが想定されるところ(技術的には実現不可能でなくとも,コスト面が障害となって,開発が試みられず実現しないこともあり得る。),本件全証拠によっても,実現されていない理由や事情として,上記(a)で説示した容易想到性の判断を妨げるに足りるような事情があることを認めることはできない。
(2) 審決の前記第2,3(5)の第2段落部分の判断の当否について,原告の主張(前記第3,3(1)(b)及び(2)(b))をふまえつつ検討する。
(a) Bモードは,超音波が発射されてから,反射波が返ってくるまでの伝搬時間と反射波の強度に基づいて組織の構造情報を得るものである。したがって,ドップラーパワー強度を求めるために,組織の動き又は血管内の血液の流れの速度に応じた反射波の周波数変化に基づいた超音波ドップラー情報信号を得るに当たり,Bモードに係る反射波が返ってくるまでの伝搬時間と反射波の強度に基づいた情報を利用すべき必然性も,Bモードに係る上記情報を形成すべき必然性もない。
また,取消事由1に関して判示したところからも明らかなように,ドップラーパワー強度に基づいた表示は,血管の連続性や分布を明瞭に描出できる特性を備えているため,刊行物3に記載のドップラーパワー強度に基づいた表示を三次元表示にした場合,それ自体で血管の立体構造を表示できるのであり,組織の構造情報に係るBモード画像をあえて付加する必要性がないことは明らかである。
審決の上記判断は,是認し得るものであって,誤りはない。
(b) 原告は,本願発明は,単なる三次元表示ではなく,Bモード画像なしの三次元表示をCDE方式において行うことによって,本願発明特有の作用効果を奏するものであり,このような作用効果は,引用された他の刊行物にも何ら記載も示唆もないこと,刊行物1ないし4,乙1,3の記載は,カラードップラ法に関するものや,パワードップラ法でも二次元表示を前提とするものであるので,本願発明に独特な技術的思想の特許性を覆す理由とはならないこと,本願発明のCDEの三次元表示画像は,組織又は構造情報(Bモード画像)を同時に表示させなくとも当該血流情報の連続性が保たれ,あたかも従来のBモード画像情報を視認させるような情報をユーザに提供できることが判明し,しかも,Bモード画像情報を表示させないことによって,Bモード画像情報に起因するノイズを激減させることにも成功したのであって,本願発明により初めて,血流情報のみに基づいた良好な擬似的血管構造情報の視覚化を可能とする独特な技術的思想が提供されたことなどを主張する。
しかしながら,前判示のとおり,刊行物3記載のドップラーパワー強度の表示を三次元表示にした場合,それ自体で血管の立体構造を表示できるのであり,Bモード画像をあえて付加する必要性がないことは明らかであり,本願発明の明細書記載の作用効果も当業者が予測し得る程度のものであるというべきである。
そして,もともとドップラーパワー強度に基づいた表示では,血管の連続性や分布を明瞭に描出できるだけでなく,例えば,刊行物2に「エナジー法では,雑音が減り,感度の上昇がある」(1296頁左欄下から10〜9行)と記載されているように,ノイズを低減できることも周知であり,しかも,前判示のとおり,刊行物3記載のドップラーパワー強度の画像表示を三次元表示にした場合,それ自体で血管の立体構造を表示できることも明らかであるので,原告が主張する血流情報のみに基づいた良好な擬似的血管構造情報の視覚化を可能とする点は,刊行物3記載の発明及びドップラーパワー強度に基づいた表示が有する上記特性から,当業者が予測し得る程度のものであるというべきである。
また,Bモード画像情報を表示させないことによって,Bモード画像情報に起因するノイズを激減させることにも成功した点も,前判示のとおり,刊行物3記載のドップラーパワー強度に基づいた表示を3次元表示にした場合,Bモード画像をあえて付加する必要性がないので,格別のものとはいえないというべきである。
なお,乙1,3は,技術常識ないしは本件出願当時(優先権主張日当時)の技術水準を裏付ける資料とする趣旨で提出されたものであるから,本訴で証拠とすることは妨げられない。
(3) 審決の前記第2,3(6)の判断について原告が主張するところは,基本的に前記(1),(2)の主張と同旨のものであって,既に判示したところに照らせば,採用し得ないことが明らかである。
(4) 以上のとおり,相違点2についての審決の判断(前記第2,3(5)(6))は,是認し得るものであって,原告主張の取消事由3は,理由がない。
4 取消事由4(相違点1及び2の組合せについての検討の不備)について 相違点についての検討として審決が説示するところをみれば,審決は,ドップラー信号のパワー強度を相違点1に係る式により得ることが当業者にとっては明らかなことであるとの前提の下で,相違点2の容易想到性について判断し,本願発明の容易想到性を総合的に判断したものと理解できる。
したがって,取消事由4も理由がない。
5 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利
裁判官 高野輝久