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追加

関連審決 無効2013-800090
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事件 平成 26年 (行ケ) 10255号 審決取消請求事件

原告 極東鋼弦コンクリート振興株 式会社
同訴訟代理人弁護士 岩坪哲 速見禎
同 弁理士 松山隆夫
被告Y
同訴訟代理人弁護士 久世勝之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/10/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2013-800090号事件について平成26年10月17日にした審決のうち,「特許第4404933号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成20年3月18日(優先権主張:平成19年11月1日,日本国。以下「本件優先日」という。,発明の名称を「プレストレスト構造物」とする ) 1 特許出願(特願2008-69055号)をし,平成21年11月13日,設定の登録を受けた(特許第4404933号。請求項の数5。甲33。以下,この「特許」を「本件特許」という。。
) ? 被告は,平成25年5月24日,本件特許の特許請求の範囲請求項1から3及び5に係る特許について,特許無効審判を請求し,無効2013-800090号事件として係属した。
? 原告は,平成26年5月16日,請求項5を削除するなどの訂正を請求した(甲34。以下「本件訂正」といい,その明細書を「本件明細書」という。。
) ? 特許庁は,同年10月17日,「請求のとおり訂正を認める。特許第4404933号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。特許第4404933号の請求項3に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同月27日,その謄本が原告に送達された。
? 原告は,同年11月21日,本件審決のうち,請求項1及び2に係る部分の取消しを求める本件審決取消訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1及び2の記載は,次のとおりである(甲34。以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」という。 。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。 。
) )【請求項1】 内ケーブル方式のプレストレスト構造物であって,/PC鋼材が挿入されるとともに,充填材が充填されるシースと,/前記シースに接続される接続部材と,/前記シース及び前記接続部材の接続部分に配置され,液体の吸収に伴う膨張によって前記シース及び前記接続部材に密接可能な膨張体と,を有し,/前記膨張体は,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成され,前記不織布は吸水膨張性繊維と基材繊維からなり,前記吸水膨張性繊維としてベルオアシス(登録商標)またはランシール(登録商標)を用いることを特徴とするプレ 2 ストレスト構造物【請求項2】内ケーブル方式のプレストレスト構造物であって,/PC鋼材が挿入されるとともに,充填材が充填されるシースと,/前記シースに接続される接続部材と,/前記シース及び前記接続部材の接続部分に配置され,液体の吸収に伴う膨張によって前記シース及び前記接続部材に密接可能な膨張体と,を有し,/前記接続部材が,前記シースと他のシースとを接続するためのジョイントシースであり,/前記膨張体は,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成され,/前記ジョイントシースの内周面と前記シースの外周面の隙間(クリアランス)が前記膨張体の厚さ以下であり,前記膨張体の少なくとも一部は,前記ジョイントシースの内周面と前記シースの外周面との間に配置され,かつ,前記膨張体の一部は,ジョイントシースの外部に露出していることを特徴とするプレストレスト構造物 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件発明1は,本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物である下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下記ウからスに記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,A本件発明1は,本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物である下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」といい,引用発明1と併せて「引用発明」ということがある。)及び下記ウからスに記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,B本件発明2は,引用発明1及び下記ウからカに記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,C本件発明2は,引用発明2及び下記ウからカに記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,というものである。
ア 引用例1:実公昭58-53876号公報(甲1) イ 引用例2:特開2003-301560号公報(甲2) ウ 周知例1:実公平7-52467号公報(甲3) 3 エ 周知例2:特開平10-82488号公報(甲4) オ 周知例3:特開2002-333086号公報(甲5) カ 周知例4:特開2001-271367号公報(甲6) キ 周知例5:特開2006-336833号公報(甲15) ク 周知例6:特開2006-26899号公報(甲16) ケ 周知例7:特開2006-14536号公報(甲17) コ 周知例8:特開2004-332895号公報(甲18) サ 周知例9:特開2004-336962号公報(甲19) シ 周知例10:特開平10-38159号公報(甲21) ス 周知例11:特開平9-239860号公報(甲22) ? 本件審決が認定した引用発明1及び引用発明2は,次のとおりである。
ア 引用発明1 内ケーブル方式のプレストレスト構造物であって,/シースと,/前記シースの接合部分にシース用ジヨイント(以下「ジョイント」と表記する。)を配し,/その両端部を係止させたものは,シール材がシースの全周にわたって配置され,一定量の水を吸って膨潤する性質を有しているシール材が膨張してシースの突条にシール材が喰い込み,シースの接合部分が密に嵌合し,/前記シースがコンクリート中でシース用ジョイントの内側に挿入された状態であり,/特殊ウレタン系の合成樹脂からなるシール材が配置されているプレストレスト構造物 イ 引用発明2 内ケーブル方式のプレストレスト構造物であって,/PCシースと,/シース用継手の第1接続管の一端側を一方のPCシースに連結し,同じく第2接続管の一端側を他方のPCシースに連結し,/第1接続管の一端側内周にシール材を取り付けて,その一端側を一方のPCシースに螺合することで,一方のPCシースと第1接続管の一端側との間にシール材を介在させるとともに,第2接続管の一端側内周にシール材を取り付けて,その一端側を他方のPCシースに螺合することで,他方の 4 PCシースと第2接続管の一端側との間にシール材を介在させ,/シール材は予め塗布しておいて,シール材を介在させることにより,水密性を確保しているプレストレス構造物 ? 本件審決が認定した本件発明1と引用発明との間の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 本件発明1と引用発明1の一致点 内ケーブル方式のプレストレスト構造物であって,/シースと,/前記シースに接続される接続部材と,/前記シース及び前記接続部材の接続部分に配置され,液体の吸収に伴う膨張によって前記シース及び前記接続部材に密接可能な膨張体と,を有し,/前記膨張体は,液体を吸収可能な材料を含んでいるプレストレスト構造物 イ 本件発明1と引用発明1の相違点(相違点1) シースにつき,本件発明1においては,PC鋼材が挿入されるとともに,充填材が充填されるのに対し,引用発明1においては,そのように構成されているか否か不明である点(相違点2) 膨張体につき,本件発明1においては,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成され,前記不織布は吸水膨張性繊維と基材繊維からなり,前記吸水膨張性繊維としてベルオアシス(登録商標)またはランシール(登録商標)を用いるのに対し,引用発明1においては,特殊ウレタン系の合成樹脂からなる点 ウ 本件発明1と引用発明2の一致点 内ケーブル方式のプレストレスト構造物であって,/シースと,/前記シースに接続される接続部材と,/前記シース及び前記接続部材の接続部分に配置され,前記シース及び前記接続部材に密接可能な部材と,を有した,プレストレスト構造物 エ 本件発明1と引用発明2の相違点 5 (相違点5) シースが,本件発明1においては,PC鋼材が挿入されるとともに,充填材が充填されるのに対し,引用発明2は,そのような構成であるか否か不明である点(相違点6) 密接可能な部材が,本件発明1においては,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成された膨張体であって,前記不織布は吸水膨張性繊維と基材繊維からなり,前記吸水膨張性繊維としてベルオアシス(登録商標)又はランシール(登録商標)を用いるのに対し,引用発明2においては,シール材からなる点 ? 本件審決が認定した本件発明2と引用発明との間の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 本件発明2と引用発明1の一致点 内ケーブル方式のプレストレスト構造物であって,/シースと,/前記シースに接続される接続部材と,/前記シース及び前記接続部材の接続部分に配置され,液体の吸収に伴う膨張によって前記シース及び前記接続部材に密接可能な膨張体と,を有し,/前記接続部材が,前記シースと他のシースとを接続するためのジョイントシースであり,/前記膨張体は,液体を吸収可能な材料を含んでいるプレストレスト構造物 イ 本件発明2と引用発明1の相違点 前記相違点1に加え,以下の相違点がある。
(相違点3) 本件発明2においては,膨張体が,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成され,前記ジョイントシースの内周面と前記シースの外周面の隙間(クリアランス)が前記膨張体の厚さ以下であり,前記膨張体の少なくとも一部は,前記ジョイントシースの内周面と前記シースの外周面との間に配置され,かつ,前記膨張体の一部は,前記ジョイントシースの外部に露出しているのに対し,引用発明1は,そのような構成を有するか否か不明な点 6 ウ 本件発明2と引用発明2の一致点 内ケーブル方式のプレストレスト構造物であって,/シースと,/前記シースに接続される接続部材と,/前記シース及び前記接続部材の接続部分に配置され,前記シース及び前記接続部材に密接可能な部材と,を有し,/前記接続部材が,前記シースと他のシースとを接続するためのジョイントシースである,/プレストレスト構造物 エ 本件発明2と引用発明2の相違点 前記相違点5に加え,以下の相違点がある。
(相違点7) 密接可能な部材が,本件発明2においては,液体の吸収に伴って膨張する膨張体であって,前記膨張体は,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成され,前記ジョイントシースの内周面と前記シースの外周面の隙間(クリアランス)が前記膨張体の厚さ以下であり,前記膨張体の少なくとも一部は,前記ジョイントシースの内周面と前記シースの外周面との間に配置され,かつ,前記膨張体の一部は,前記ジョイントシースの外部に露出しているのに対し,引用発明2においては,そのようなものか不明な点 4 取消事由 ? 本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り ア 相違点2の判断の誤り(取消事由1) イ 相違点6の判断の誤り(取消事由2) ? 本件発明2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由3) ア 相違点3について イ 相違点7について
当事者の主張
1 取消事由1(本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り-相違点2の判断の誤り)について 7 〔原告の主張〕 ? 本件審決の判断枠組みの誤り ア 本件審決は,「膨張体として,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成され,前記不織布が吸水膨張性繊維と基材繊維からなるもの」(以下「周知技術A」という。)は,本件優先日前に周知の技術事項であり,また,「シール材の吸水膨張性繊維を具現化するものとして,ベルオアシス(登録商標)やランシール(登録商標) (以下「周知技術B」という。
」 )は,本件優先日前に周知であるとして,引用発明1に周知技術A及び周知技術Bを適用することにより,相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得る旨判断した。
イ 上記判断は,「引用発明1+周知技術A+周知技術B」という二段階の組合せ判断であり,引用発明から容易に想到し得たものを基準として更に他の技術の適用の容易性を検討する,いわゆる「容易の容易」という考え方によるものである。
このように相違点を周知技術により細分化して容易想到性を肯定する判断手法が許されるならば,完全に新規の構成を有する発明でない限り,進歩性が簡単に否定され得ることになるから,上記判断手法は,採用すべきではない。
本件においては,相違点2に係る本件発明1の構成を端的に開示又は示唆する引用例はなく,引用発明1に周知技術A,Bのいずれを適用しても,本件発明1の構成には至らない。
しかしながら,本件審決は,前述した二段階の組合せ判断の枠組みを採用したことによって,相違点2に係る本件発明1の構成について容易想到性を肯定しており,この判断は,進歩性の判断基準に達しない不完全なものといえる。
以上によれば,本件審決は,判断枠組みを誤ったものといえる。
? 引用発明1に周知技術を適用する動機付けについての判断の誤り 仮に,前述した二段階の組合せ判断の枠組みを採用すること自体は許容されるとしても,以下のとおり,本件においては,引用発明1に周知技術A及び周知技術Bを適用する動機を欠いている。
8 それにもかかわらず,本件審決は,本件発明1及び引用発明1と,周知例1ないし3との間における技術的特性の相違や,ベルオアシス及びランシールの周知の技術的特性を考慮することなく,前記適用に係る動機の存在を肯定しており,この判断は,誤りである。
ア 本件発明1及び引用発明1と,周知例1ないし3との間における技術的特性の相違 (ア) 本件発明1を構成する「膨張体」及び引用発明1を構成する「シール材」は,いずれもシースと接続部材の接続部分において,内部からの充填材の漏れや,シース外部からの液体,すなわち,コンクリート打設後のセメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分の浸入を防ぐために用いられる。そして,セメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分は,いずれも強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液である(甲23)。
以上によれば,当業者は,前記「シール材」に改変を加える場合には,少なくとも強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液の浸入を防ぐ構成を採用するものといえ,上記浸入防止の効果を期待できないシール,止水部材を採用する動機は,乏しい。
(イ) 周知例1ないし3のいずれにおいても,強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液のシール,止水については,開示も示唆もされていない。
しかも,本件発明1及び引用発明1が,いずれも主として道路や建物等の大型構造物の構造力を確保するために用いられるプレストレスト構造物に係るものであり,PC鋼材の保護が強く求められるのに対し,周知例1の「繊維シート」は,広く「各種管端の接続」時に用いられるもの,周知例2の「シール部材」は,広く「コルゲート管同士を接続」する際に用いられるもの,周知例3の「膨張体」は,「電線やケーブルなどの保護のために用いられる管体を接続」する際に用いられるものである。
以上に鑑みると,周知例1ないし3に記載されている技術事項は,本件発明1及 9 び引用発明1と技術的用途において異なるものであるから,本件審決がそのような技術事項を引用発明1に適用したこと自体,誤りである。
イ ベルオアシス及びランシールの周知の技術的特性 (ア) ランシールは,@強酸性及び強アルカリ性水溶液に対して吸水量が大きく減少する,A電解質水溶液に対しても吸水量が大きく減少し,特に,Mg 2+ やCa2+イオン等の多価イオンが存在する場合,吸水量は更に減少するという技術的特性を有しており,このことは,本件優先日当時,当業者が把握している一般的な技術常識であった(甲24の1,甲25〜甲27)。
前記技術的特性は,ランシールが,その外層部に,高吸水性ポリマーであるポリアクリル酸塩系樹脂の物性を備えていること(甲26)によるものである。
すなわち,高吸水性ポリマーの吸水力は,高分子電解質と水との親和力の強さ及びイオンの浸透圧の高さに依拠するものであるから,吸水対象となる水溶液の電解質イオン濃度が高くなり,それに伴ってイオンの浸透圧が低くなれば,上記吸水力は低下する。また,高吸水性ポリマーが高分子電解質であることから,その吸水力が多価金属塩の水溶液中において特に大きく低下することは,自明のこととされている(甲27)。
ベルオアシスも,ランシールと同様に,ポリアクリル酸塩系の吸水性繊維であること(甲11,甲13,甲28〜甲30)から,ランシールの前記技術的特性を有しており,この点も,本件優先日当時,当業者が把握している一般的な技術常識であったといえる。
以上によれば,ベルオアシス及びランシールは,いずれも強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液に対しては吸水量が大きく減少するものであり,このことは,本件優先日当時,当業者間において一般的な技術常識であったといえる。
(イ) 前記ア(ア)のとおり,当業者が引用発明1を構成する「シール材」に改変を加える場合において,強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液の浸入を防止する効果を期待できないシール,止水部材を採用する動機は乏しいといえるとこ 10 ろ,前記(ア)によれば,ベルオアシス及びランシールのいずれも,前記溶液に対する吸水力が低く,前記効果を期待できないことは明らかであるから,当業者において,あえてベルオアシスやランシールを前記「シール材」として適用する動機が存在するとは考え難い。
特に,引用発明1の浸水防止作用は,「シール材」が吸水により膨張し,シースとシース用ジョイントとの間の空間を隙間なく埋めて高い密閉性を確保することによるものであるから,引用発明1においては,「シール材」自体が膨張するまで十分に吸水することが前提となっている。このような「シール材」につき,前記ア(ア)のとおり吸水対象となる強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度のセメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分に対する吸水力が低く,膨張性に不安があるベルオアシス及びランシールを採用することは,当業者において,当然に回避するものと考えられる。
加えて,周知例1ないし3によれば,周知技術Aが備える浸水防止の作用機序も,膨張体の十分な膨潤により隙間を完全になくすというものである。この点に鑑みると,引用発明1に周知技術Aを適用してその作用機序を発揮させる場合も,周知技術Aの「吸水膨張性繊維」については,引用発明1を構成する「シール材」の吸水対象である強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度のセメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分に対しても,「シール材」自体が膨張するまで十分に吸水するものであることが当然の前提となり,したがって,前記のとおり,前記吸水対象の溶液に対する吸水力が低く,膨張性に不安があるベルオアシス及びランシールをもって前記「吸水膨張性繊維」に置き換えることは,当業者において,当然に回避するものといえる。
(ウ) この点に関し,本件審決は,周知例5ないし11が,「管体の接続構造一般の分野であったとしても,その様な一般分野における周知な材料を,引用発明1の内ケーブル方式のシースの接続部材の分野に対して適用の可能性を検討することは,当業者が当然考慮すべき事項である。」旨を述べる。
11 確かに,周知例5ないし11のいずれにも,各技術分野においてベルオアシスやランシールを用いる構成が開示されているところ,これらの吸水の対象は,雨水や地下水程度のものにすぎない。それにもかかわらず,本件審決は,前記構成をもって,あらゆる埋設管の接続時の水密防止に適用可能であるように抽象化しており,この点において誤りがある。
本件審決は,「仮に,ベルオアシス又はランシールが,電解質イオン濃度が高いほど吸水力が低下し,また,強酸性及び強アルカリ性水溶液に対して吸水量が減少するものであったとしても,強アルカリ性,高イオン濃度であるコンクリート中において,当該低下した吸水力又は減少した吸水量となる当該ベルオアシス又はランシールが,シースの接続部分の分野において必要とされる程度の性能を十分満たすものである限り,吸水膨張性繊維の一つとして当業者ならば認識するものと認められ,原告が主張するような動機付けを否定するほどのものではない。」旨を述べる。
しかしながら,「当該低下した吸水力又は減少した吸水量となる当該ベルオアシス又はランシールが,シースの接続部分の分野において必要とされる程度の性能を十分満たすものである」ことは,本件審判において提出された証拠からは認められず,また,本件優先日当時,当業者にとって自明の技術的事項であったという事情も,うかがわれない。
〔被告の主張〕 ? 本件審決の判断枠組みの誤りについて ア 本件発明1と引用発明1は,いずれの技術分野も管体や管継手に属し,共に,プレストレスト構造物のシース管接続部分におけるシール性の確保を課題としている。
引用発明1は,上記課題解決の方法として,液体を吸収して膨張するという機能を備えたシール材を管と管継手の接続部に配置するという構成を採用した。引用発明1においては,このシール材がコンクリート中の液体等を吸収して膨張することによって,外部からの水分がシース管に染み込むのを防止するという効果を奏する。
12 イ 周知技術について(ア) 周知例1ないし3,5ないし11は,いずれも一般的な管体や管継手等の技術構造に関するものであり,様々な管体の接続部分におけるシール性の確保を課題としている。
したがって,前記周知例の各文献は,引用発明1と技術分野及び課題において共通している。
(イ) 周知例1ないし3,5ないし11は,いずれも吸水可能な材料を含む吸水膨張性繊維と基材繊維から成る不織布を管体の接続部のシール材とする構成を開示しているところ,同構成は,吸水膨張体である上記不織布を,液体を吸収して膨張するシール材として管と管継手の接続部に配置するという方法により,前記課題を解決するものである。
したがって,前記周知例の各文献は,課題解決方法についても引用発明1と共通するものといえる。
(ウ) 確かに,周知例5ないし11の各文献には,吸水膨張性繊維としてベルオアシスやランシールが例示されているのに対し,周知例1ないし3の各文献には,そのような例示の記載は,存在しない。
もっとも,ベルオアシスやランシールは,管体や管継手の接続構造において利用される不織布の吸水膨張性繊維の代表的なものであり(周知例9),この点は,原告自身,本件審判において,概要,「周知例1ないし3に記載された管継手の分野において,不織布で用いられる吸水膨張性の樹脂として,本件優先日当時に主流であった材料は,ベルオアシスやランシールである。(甲38,甲39)と,ベルオ 」アシスやランシールが本件優先日当時において現実的な唯一の選択肢であったと主張していることからも,明らかといえる。
以上によれば,管と管継手の接続部のシール材である不織布に含有する吸水膨張性繊維としてベルオアシスやランシールを使用することは,本件優先日当時において既に,その技術分野に属する当業者にとっては,周知,慣用の技術であった。
13 ウ 本件審決は,前記イ(ウ)と同旨のことを,「シール材の吸水膨張性繊維を具現化するものとして,ベルオアシス(登録商標)やランシール(登録商標)は,(中略)本件優先日前に周知である。」と述べたのであり,原告が主張する「容易の容易」という考え方による「引用発明1+周知技術A+周知技術B」という二段階の組合せ判断をしたものではない。
本件審決は,管体の接続構造一般につき,「ベルオアシス」及び「ランシール」を代表例とする吸水膨張性繊維と基材繊維から成る不織布をもって,接続部のシール材とする構成を備えた管体の接続構造は,本件優先日前に周知技術であったことを前提として,相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性について判断しており,同判断枠組みに誤りはない。
? 引用発明1に周知技術を適用する動機付けについての判断の誤りについて 前記?ア,イによれば,引用発明1と前記?イの周知技術,すなわち,管体の接続構造一般につき,「ベルオアシス」及び「ランシール」を代表例とする吸水膨張性繊維と基材繊維からなる不織布をもって,接続部のシール材とする構成を備えた管体の接続構造は,管体の接続構造という技術分野,課題,課題解決の方法・原理,そのために用いられるシール材の機能や作用において共通している。
したがって,管体と管継手等の技術分野における当業者において,引用発明1につき,前記周知技術の適用可能性を検討するのは当然のことといえ,同適用に当たり,特段の創意工夫や試行錯誤は要しない。
また,前記?イ(ウ)のとおり,原告は,本件審判において,ベルオアシスやランシールが本件優先日当時において現実的な唯一の選択肢であった旨主張しており,原告がそのように認識していたことは,本件優先日前の平成19年8月9日にランシールをシース管に用いて実験を行ったこと(甲31)からも明らかといえる。この点に鑑みると,ベルオアシスやランシールを含む不織布の適用も,当業者が当然に検討すべき事項といえる。
以上によれば,当業者は,本件優先日当時,引用発明1を出発点として前記周知 14 技術を適用することにより,相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たものといえ,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
ア 本件発明1及び引用発明1と,周知例1ないし3との間における技術的特性の相違について(ア) 周知例1ないし3は,あらゆる一般的な管体の接続構造を示すものであり,専らプレストレストコンクリート構造物に使用されるシース管のみを対象としているわけではないものの,これを除外するものではない。すなわち,一般に,管体は,地中や建築物のコンクリート中に埋設されるなど種々の環境において止水等の機能の発揮を求められるものであり,プレストレストコンクリート構造物に使用されるシース管は,その一例にすぎない。
したがって,本件発明1及び引用発明1と,周知例1ないし3との間に,技術的特性の相違が存在するとはいい難い。
(イ) そして,前記?イの点も併せ考えると,周知例1ないし3は,あらゆる管体等を想定しており,技術分野,課題及びその解決方法において引用発明1と共通している。この点に鑑みると,当業者において,引用発明1につき,周知例1ないし3の記載により認められる周知技術の適用を検討することは当然のことといえ,これらの文献のいずれにも,強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液に直接言及した記載がないことは,上記適用を否定する理由にならない。
イ ベルオアシス及びランシールの周知の技術的特性について(ア) 本件明細書(甲34)には,プレストレスト構造物において浸入を防ぐべき水分の性質についての記載はなく,また,ベルオアシス及びランシールに言及されているのは,【0024】のみであるところ,同段落に,これらの繊維の技術的特性についての記載はない。
この点に鑑みると,本件明細書に関し,@原告自身,プレストレスト構造物において浸入を防ぐべき水分の性質を考慮することなく,管体の接続構造に用いられる不織布中の吸水膨張性繊維として,周知のベルオアシス及びランシールを例示した 15 にすぎないこと,A原告を含む当業者は,原告が主張するベルオアシス及びランシールの技術的特性を課題として認識しておらず,ベルオアシス及びランシールの選択については,最も代表的な吸水膨張性繊維の例示という以外に,格別の技術的意義は存しないことがうかがわれる。
以上によれば,本件発明1の進歩性の有無を判断するに当たり,原告が主張する強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液に対するベルオアシス及びランシールの技術的特性を考慮すべき理由はない。
(イ) 本件発明1に係る当業者は,プレストレストコンクリート構造物,管体,管継手といった技術分野の当業者であり,同技術分野とは異なる機能性繊維の技術分野に属するベルオアシスやランシールの技術的特性について詳細な知識を有しているとはいい難く,したがって,本件優先日当時,原告が主張するベルオアシス及びランシールの技術的特性を認識していたことについては,疑問がある。
(ウ) そもそも,原告が主張するベルオアシス及びランシールの技術的特性自体,これらの繊維が,コンクリートやモルタルに対して,全く吸水,膨張をしないというものではなく,一定の吸水膨張性は認められるものの,その程度が中性の水分に対する吸水膨張性よりも劣るというものにすぎない。そして,ベルオアシス及びランシールが,コンクリートやモルタルに対して一定程度の吸水,膨張をする以上,管体の接続部に用いる不織布中のベルオアシス又はランシールの密度,不織布の厚み,管体と管継手との間隔等の調整により,十分なシール性を確保できることは,明らかといえる。
以上に鑑みると,プレストレストコンクリート構造物,管体,管継手といった技術分野の当業者は,たとえ,本件優先日当時,原告が主張するベルオアシス及びランシールの技術的特性を認識していたとしても,引用発明1にこれらの繊維を適用することを当然に検討したはずである。
(エ) 以上によれば,原告が主張するベルオアシス及びランシールの技術的特性は,引用発明1にこれらの繊維を適用すること自体を否定する理由にはならない。
16 2 取消事由2(本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り-相違点6の判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件審決は,引用発明2を主たる引用発明とした場合,引用発明1を主たる引用発明とした場合と同様の理由により,当業者は,本件優先日当時,相違点6に係る本件発明1の構成を容易に想到し得る旨判断しているが,同判断は,前記1の〔原告の主張〕と同様の理由により,誤りである。
〔被告の主張〕 前記1の〔被告の主張〕と同様である。
3 取消事由3(本件発明2に係る容易想到性の判断の誤り)について〔原告の主張〕 ? 相違点3について 本件審決は,相違点3の判断に当たり,本件発明2の「前記膨張体の一部は,ジョイントシースの外部に露出している」という構成につき,ジョイントシースの延在方向のみに露出しているものも含む旨を認定したものと理解される。
しかしながら,「外部に露出」とは,外部に「あらわに,むき出しになること」であり,「むき出し」とは,「何の覆いもなくむき出すこと」であるところ(甲37),膨張体の一部がジョイントシースの延在方向から見えていても,延在方向と直角方向にジョイントシースが存在すれば,膨張体の全ての部分にジョイントシースという覆いが存在しているのであるから,膨張体の一部は,「何の覆いもなくむき出している」とはいえない。また,ジョイントシースの延在方向から見て露出しているものの,直角方向から見ると露出していない膨張体は,シース内部に存在するものと表現するのが適切であり,前記構成に含まれないものというべきである。
本件発明2の前記構成についてこのように理解すれば,周知例1ないし3には,少なくとも相違点3に係る構成は開示も示唆もされておらず,したがって,引用 17 発明1に周知例1ないし3を適用しても,本件発明2の構成に想到することはできないといえるから,本件発明2に係る容易想到性を認めた本件審決の判断には,誤りがある。
? 相違点7について 本件審決は,相違点7の判断に当たり,相違点3についての判断と同様に,本件発明2の「前記膨張体の一部は,ジョイントシースの外部に露出している」という構成につき,ジョイントシースの延在方向のみに露出しているものも含む旨を認定した上,周知例1ないし3に記載された周知技術を引用発明2に適用することによって相違点7に係る本件発明2の構成を容易に想到できる旨判断しているが,前記?によれば,同判断は,誤りである。
〔被告の主張〕 膨張体の一部がジョイントシースの延在方向のみに露出している場合も,膨張体の当該部分は,外部に何の覆いもなくむき出した状態にあるといえるから,本件発明2の「前記膨張体の一部は,ジョイントシースの外部に露出している」という構成に該当し,これと同旨の認定を前提として相違点3及び7に係る本件発明2の構成を容易に想到することができると判断した本件審決に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件発明1について ? 本件発明1に係る特許請求の範囲は,前記第2の2【請求項1】のとおりであるところ,本件明細書(甲34)の発明の詳細な説明には,概ね,次の記載がある(下記記載中に引用する図面については,別紙1参照。 。
) ア 技術分野 本発明は,充填材の漏れや,PC鋼材に対する水分等の液体の浸入を阻止することのできるプレストレスト構造物に関するものである(【0001】。
) イ 背景技術 プレストレストコンクリート構造は,橋,道路,建物など各種のコンクリート構 18 造物において,圧縮強度に強いコンクリートの性能を発揮させるために,PC鋼材によりコンクリート躯体にプレストレスを導入したものであり,PC鋼材がコンクリート躯体内を挿通する内ケーブル方式と,コンクリート躯体外を挿通する外ケーブル方式があるところ,いずれの方式においても,通常,PC鋼材は,シース内を挿通することによって保護されている。
従来,複数のシースを接続して長尺のシースを構成する場合には,一方のシースの端部を他方のシースの端部に挿入し,この接続部分にビニールテープを巻き付けることによって,シース内に充填されるグラウトのシース外漏出及びシース外の水分等のシース内浸入を防止するようにしていた(【0002】【0003】。
, ) ウ 発明が解決しようとする課題 しかしながら,上記のとおりシース同士の接続部分にビニールテープを巻き付ける構成は,グラウトのシース外漏出及び水分等のシース内浸入の防止という点において,不十分であった。
そこで,本発明は,グラウトのシース外漏出や水分等のシース内浸入を効率良く防止できるプレストレスト構造物の提供を目的としたものである(【0004】,【0005】。
)エ 課題を解決するための手段 本発明に係るプレストレスト構造物は,@PC鋼材が挿入されるとともに,充填材が充填されるシース,Aシースに接続される接続部材,Bシースと接続部材の接続部分に配置され,液体の吸収に伴って膨張することにより,シース及び接続部材に密接可能な膨張体を有し,同膨張体は,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成されていることを特徴とするものである。
接続部材としては,シースと他のシースとを接続するためのジョイントシースや,PC鋼材の定着具を用いることができる。
ジョイントシースを用いる場合において,膨張体の少なくとも一部を,ジョイントシースの内周面とシースの外周面との間に配置し,液体の吸収に伴う膨張によっ 19 て,ジョイントシースの内周面及びシースの外周面に密接させることができる。また,膨張体の少なくとも一部を,ジョイントシースの端部を覆う位置に固定しておき,液体の吸収に伴う膨張によって,ジョイントシース及びシースの外周面に密接させることもできる(【0006】〜【0008】。
) オ 発明の効果 本発明によれば,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成される膨張体が,液体の吸収に伴う膨張によってシース及び接続部材に密接するので,シース及び接続部分における密閉性を向上させることができる。すなわち,密接した膨張体が,充填材のシース外漏出及び水分等の液体のシース内浸入を阻止できる(【0012】。
) カ 発明を実施するための最良の形態-実施例1 図1は,2つのシースの端部をジョイントシースによって接続した構造を示す断面図である(【0015】。
) (ア) シース10,11は,プラスチック等の樹脂によって円筒状に形成され,互いに略等しい径を有し,各端部である10a,11aは,互いに当接している。
また,各シースの外周面及び内周面は凹凸状に形成されており,その断面形状は,図1のとおり波形状である。
各シースの内部には,PC鋼材(不図示)が挿入されるとともに,充填材としてのグラウトが充填される。これによって,各シースの内部は,PC鋼材及びグラウトによって占められることになる。
ジョイントシース12は,プラスチック等の樹脂によって円筒状に形成され,各シースの径(最外径)よりも大きな径(内径)を有している。また,ジョイントシース12は,シース10とシース11の接続部分を覆うように配置され,断面が波形状に形成されている。各シースは,それぞれジョイントシース12の端からその内部に挿入されている(【0016】〜【0018】。
) (イ) 膨張体20,21は,いずれもシート状であり,前者は,ジョイントシー 20 ス12の一端における内周面とシース10の外周面との間に挟まれ,シース10の周方向に沿って配置されており,後者は,ジョイントシース12の他端における内周面とシース11の外周面との間に挟まれ,シース11の周方向に沿って配置されている。
ジョイントシース12の内周面とシース10の外周面との間の隙間(クリアランス)を,膨張体20の厚さ以下とすれば,膨張体20をジョイントシース12及びシース10に密接させることができ,同様に,ジョイントシース12の内周面とシース11の外周面との間の隙間(クリアランス)を,膨張体21の厚さ以下とすれば,膨張体21をジョイントシース12及びシース11に密接させることができる。
なお,各膨張体は,いずれも水分等の吸収に伴う膨張によってジョイントシース及びシースに接触するものであれば足り,上記膨張前においては,ジョイントシースの内周面やシースの外周面に接触させなくてもよい。
実施例では,図1に示すように,各膨張体20,21の一部がジョイントシース12の外部に露出しているが,これに限るものではない。すなわち,各膨張体20,21をジョイントシース12の内部に収容させることもできる(【0019】〜【0022】。
) (ウ) 膨張体20,21は,同一の構成であり,水分等の液体を吸収することにより膨張する材料によって構成されている。
膨張体20,21として,例えば,不織布形状のものを用いることができる。不織布は,@不織布としての形状,機能を維持するための基材繊維と,A水分等を吸収する吸水膨張性繊維から構成される。@基材繊維としては,特に合成樹脂繊維であることが望ましく,ポリエステル繊維,アクリル繊維,ナイロン繊維,ポリプロピレン繊維などの合成樹脂繊維を使用できる。A吸水膨張性繊維としては,例えば,ベルオアシス(登録商標),ランシール(登録商標)等を用いることができる(【0023】【0024】。
, ) (エ) 本実施例では,ジョイントシース12とシース10との間にこれらと接触 21 する膨張体20を,ジョイントシース12とシース11との間にこれらと接触する膨張体21を,それぞれ配置していることから,各シース内部のグラウトの漏出を効率良く阻止できる(【0027】。
) また,ジョイントシース12の外部に存在する水分等が,ジョイントシース12とシース10,11との各隙間に浸入すると,膨張体20,21は,それぞれ上記の浸入した水分等を吸収して膨張し,膨張体20はジョイントシース12及びシース10に,膨張体21はジョイントシース12及びシース11に圧接する。これによって,上記水分等が,ジョイントシース12の内部,すなわち,シース10,11の内部に浸入することを阻止できる(【0028】。
) ? ベルオアシス及びランシールについて ベルオアシスは,ポリアクリル酸ナトリウム塩を主成分とするポリマーを直接紡糸し,繊維形状化させた高吸水・高吸湿繊維であり(甲11,甲12,甲30),ランシールは,繊維形態を維持する部分として内層にアクリル繊維を,高吸水性部分として外層に高吸水性樹脂を配した,ポリアクリロニトリルをベースポリマーとする特殊2層構造高吸水性繊維である(甲14,甲24の1,甲25,甲26)。
? 本件発明1の特徴 前記?及び?によれば,従来のプレストレストコンクリート構造物においては,複数のシースを接続する場合,接続部分にビニールテープを巻き付けることによってグラウトのシース外漏出及びシース外の水分等のシース内浸入を防止するようにしていたものの,ビニールテープでは上記漏出,浸入を十分に防止できないという問題があった。
本件発明1のプレストレスト構造物は,@PC鋼材が挿入されるとともに,充填材が充填されるシース,Aシースに接続される接続部材,Bシースと接続部材の接続部分に配置され,液体の吸収に伴って膨張することにより,シース及び接続部材に密接可能な膨張体を有するものであり,同膨張体は,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成されている。そして,同不織布は,@不織布としての形状, 22 機能を維持するための基材繊維と,A水分等を吸収する吸水膨張性繊維から構成されており,前記吸水膨張性繊維として,ベルオアシス又はランシールが用いられる。
本件発明1は,シース同士を接続する接続部材を用いるとともに,シースと接続部材の接続部分に,液体を吸収可能な材料,すなわち,ベルオアシス又はランシールという吸水膨張性繊維と基材繊維から成る不織布によって構成される膨張体を配置することにより,同膨張体が液体の吸収に伴って膨張することによってシース及び接続部材に密接し,前記接続部分からシース内の充填材がシース外に漏出すること及びシース外の水分等の液体がシース内に浸入することを阻止するものである。
2 取消事由1(本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り-相違点2の判断の誤り)について ? 引用発明1について 引用例1(甲1)によれば,本件審決が認定したとおりの引用発明1(前記第2の3?ア)が記載されていることが認められ,同発明につき,以下のとおり開示されている(下記記載中に引用する図面については,別紙2参照。。
) ア 従来,プレストレストコンクリート用の表面に螺状の突部を設けたシース用ジョイントについては,シース内を通過する水圧に耐え切れないなどの問題点があった。また,上記シース用ジョイントは,コンクリート内に埋設されるので,各種の酸,アルカリ,金属塩等に対する耐久性が求められる。
引用発明1を構成するシース用ジョイントは,これらの点に着目して,水漏れや外部からの染み込みを防止し,酸,アルカリ,金属塩等に対し,コンクリート内で優れた耐久性を備えることなどを目的として考案されたものである。
イ 引用発明1を構成するシース用ジョイントは,第1図のとおり,円筒を長手方向に分割した複数枚の弧板から成り(第1図においては3枚),隣接する弧板の縁部同士は蝶番等を介して開閉可能に連接されている。
各弧板の内壁面は,特殊ウレタン系の合成樹脂から成るシール材によって被覆されている。このシール材は,一定量の水を吸って膨潤する性質を有している(分子 23 間のベンゼン核が水に触れると膨張拡大し,内部が結晶水化する。。
) 引用発明1のプレストレスト構造物においては,第2図のとおり,突き合わされたシースの当接部分(シースの接合部分)に,シース用ジョイントを構成する弧板のシール材によって被覆された内壁面を合わせ,シース用ジョイントによって上記接合部分の周囲を包み込むようにして,両端の弧板(第1図における第1弧板2と第3弧板2b)を係止する。上記係止のとき,シースの螺条突部(突条)がシール材に深く喰い込むことになる。
ウ 前記イのとおり,シース用ジョイントをシースの接合部分に配することによって,シース用ジョイントを構成する弧板の内壁面を被覆するシール材が,シースの全周にわたって配置されることになる。
そして,シール材は,吸水により膨張すれば,シースの突条に更に深く喰い込み,これによって,シースの接合部分が密に嵌合し,その締付力が強くなることから,数トンの水圧にも耐えられるようになり,水漏れや外部からの染み込みを防止でき,コンクリート内に埋設されていても,酸,アルカリ,金属塩等に犯されるおそれもない。
? 本件発明1と引用発明1との間の一致点及び相違点 いずれも,本件審決が,「一致点」並びに「相違点1」及び「相違点2」として認定したとおり(前記第2の3?ア,イ)である。
? 周知技術について ア 各文献が開示する技術(ア) 周知例2には,コルゲート管の接続構造に関し,高吸収性ポリマーの繊維と通常の繊維が混在した不織布を用いたシール部材を具備するパッキンが開示されており,同シール部材は,接続対象の一対のコルゲート管の端部にまたがって外嵌されるソケットの内壁と,コルゲート管の山部との隙間に挟まれることによって同隙間をシールすること,前記高吸水性ポリマーが所要量の液体を吸水して膨張することによって繊維間の隙間がなくなり,シール性がより高められることが記載され 24 ている(甲4【請求項1】〜【請求項3】【0001】【0005】【0006】。
, , , ) (イ) 周知例3には,電線やケーブル等の保護のために用いられる管体を接続する管継手に関し,接続する管体の端部を差し込む接続部における管体との対抗面に,ポリエチレンテレフタレート(PET)等の繊維を用いた不織布と繊維状の高吸水性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物で構成した膨張体を一体成形した管継手が開示されており,これによって管体の接続を行えば,外部から浸入してきた水によって膨張体が水分を含んで膨張し,管体の表面に圧接して気密性が得られる旨が記載されている(甲5【請求項1】【請求項2】【0001】【0005】〜【0007】 , , , ,【0014】【0023】。
, ) (ウ) 周知例6には,吸水性高分子を含有する不織布層とこれに積層一体化された合成樹脂層から成る二層構造を有する管継手であり,不織布が「PET(ポリエチレンテレフタレート)」から成り,吸水性高分子として「繊維状のもの(例えばカネボウ合繊株式会社製「ベルオアシス」登録商標や東洋紡績株式会社製「ランシール」登録商標)」が,不織布を構成する繊維に適宜のバインダとともに混合されているものが開示されており,不織布中の吸水性高分子が水分を吸収すれば,不織布部分が管継手と管体との間で膨れ上がり,両者間での防水性,止水性が得られる旨が記載されている(甲16【0026】〜【0028】【0038】。
, ) (エ) 周知例7ないし9のいずれにおいても,管継手で形成される接続部,すなわち,管体と管継手本体との間に高い防水性,止水性を備えさせるために,内面に吸水性不織布が施された管継手であり,吸水性不織布としては,@PET繊維等の樹脂製の基材繊維と,高融点水膨張樹脂材料が繊維化された水膨張繊維であるベルオアシスとが,バインダによって結合されて形成される不織布又はA低融点水膨張樹脂材料が繊維化された水膨張繊維であるランシールが,加工時の熱で溶融して基材繊維に結合されて形成される不織布が使用されているものが開示されている(甲17【請求項1】【0001】【0003】【0004】【0016】〜【001 , , , ,8】,甲18【請求項1】 【0001】 【0002】 【0005】 【0006】 , , , , , 25 【0010】 【0011】 【0035】 【0036】 【0039】 【0042】 , , , , , ,【0043】,甲19【請求項1】 【請求項2】 【0001】 【0002】 【00 , , , ,04】【0005】【0007】【0008】【0011】〜【0013】【00 , , , , ,22】〜【0024】【0026】【0032】【0034】。
, , , ) イ 周知技術の認定 以上によれば,周知例2,3,6ないし9の各文献は,いずれも,管又は管体の接続に際し,吸水膨張性繊維と基材繊維から成る不織布を用いた接続部材(周知例2記載の「パッキン」,周知例3及び周知例6ないし9記載の「管継手」)を使用することによって,接続対象である管又は管体と前記接続部材との接続部分に前記不織布が配置され,前記吸水膨張性繊維が水分を吸収して膨張することにより前記接続部分の隙間をふさぎ,高い止水性を確保できるという技術を開示しており,さらに,周知例6ないし9の各文献は,前記吸水膨張性繊維としてベルオアシス又はランシールを用いる技術を開示している。これらによれば,管又は管体の接続に際し,接続対象である管又は管体と接続部材との接続部分の止水性を高めるために,同接続部分に吸水膨張性繊維と基材繊維から成る不織布によって構成される膨張体を配置すること,前記吸水膨張性繊維としてベルオアシス又はランシールを用いることは,本件優先日である平成19年11月1日当時において,周知の技術(以下「本件周知技術」という。)であったということができる。
? 相違点2に係る容易想到性について ア 引用発明1の課題及びこれを解決するための手段について 前記?によれば,以下のとおり認められる。すなわち,従来,プレストレストコンクリート用の表面に螺状の突部を設けたシース用ジョイントについては,シース内を通過する水圧に耐え切れないなどの問題点があった。また,上記シース用ジョイントは,コンクリート内に埋設されるので,各種の酸,アルカリ,金属塩に対する耐久性が求められる。
引用発明1は,これらの点に着目して,シース用ジョイントを,@シース内を通 26 過する水圧に耐える強度を備えるとともに,A水漏れや外部からの染み込みを防止し,コンクリート内に埋設されていても各種の酸,アルカリ,金属塩等に浸食されない耐久性を備えたものにすることを課題とするものである。
そして,引用発明1は,上記課題を解決するための手段として,「シースの接合部分に,吸水膨張性を備えた特殊ウレタン系の合成樹脂から成るシール材により内壁面を被覆された弧板によって構成されるシース用ジョイントを配し,その際,前記シール材がシースの全周にわたって配置されるようにするという構成」,すなわち,接続部材であるシース用ジョイントと接続対象であるシースとの間に,吸水膨張性を備えた特殊ウレタン系の合成樹脂から成るシール材を配置するという構成を採用した。
前記構成においては,シール材が吸水により膨張してシースの突条に深く喰い込むことによって,シースの接合部分が密に嵌合し,その締付力が強くなることから,シース用ジョイントは,シース内を通過する水圧にも耐えられるようになり,かつ,水漏れや外部からの染み込みを防止し,コンクリート内に埋設されていても,各種の酸,アルカリ,金属塩等に浸食されるおそれがないものとなり,前記課題が解決される。
イ 引用発明1において本件周知技術を採用する動機付けについて(ア) 課題及び課題解決手段の共通性 前記アによれば,引用発明1において,シース同士の接続に際し,水漏れや外部からの染み込みを防止することは,シース内を通過する水圧に耐える強度を備えることと並んで,解決すべき課題の1つである。そして,引用発明1は,接続対象であるシースと接続部材であるシース用ジョイントとの間に,吸水膨張性を有する特殊ウレタン系の合成樹脂から成るシール材を配置し,同シール材が吸水膨張によりシースの接合部分を密に嵌合させるようにすることによって,これらの課題を解決しようとするものである。
他方,本件周知技術は,前記?イのとおり,管又は管体の接続に際し,接続対象 27 である管又は管体と接続部材との接続部分の止水性の確保を課題とし,同接続部分に吸水膨張性繊維と基材繊維から成る不織布によって構成される膨張体を配置し,その吸水膨張性繊維としてベルオアシス又はランシールを用いて,同吸水膨張性繊維が吸水膨張により前記接続部分の隙間をふさぐことによって,前記課題を解決するものである。
したがって,引用発明1と本件周知技術とは,複数の管状のものを接続するに当たり,接続部分の止水性を確保することを課題とし,接続対象物と接続部材との間に吸水膨張性を有する物質を含むものを配置して同物質が吸水膨張により接続対象物と接続部材との隙間をふさぐようにすることによって,前記課題を解決しようとする点,すなわち,前記課題解決手段の点において共通している。
(イ) ベルオアシス及びランシールの用途 引用発明1を構成する接続部材であるシース用ジョイントは,プレストレストコンクリート用の表面に螺状の突起を設けたものであり,コンクリート内に埋設されるものであるから,同シース用ジョイントとこれによって接続されるシースとの間に配置される吸水膨張性を有する物質は,ほぼ常時,コンクリートに接することになるものと考えられる。
この点に関し,本件優先日である平成19年11月1日の前に頒布された刊行物であるカネボウ繊維株式会社「カネボウ2000年の素材 展開 『ベルニート』,『ベルオアシス』 『セルモクラシア』 , 」繊維科学 1999年11月号(甲30)には,ベルオアシスの用途は,光ファイバーケーブル用止水材等の通信材料,結露防止シート等の農業・園芸材料など幅広く,その中には土木・建築材料も含まれる旨が記載されており,コンクリート養生シートが製品例として挙げられている。また,同様に本件優先日前に頒布された刊行物である曽根正夫ほか「特殊2層構造高吸水性繊維『ランシール』の開発」平成7年9月繊維学会誌51巻9号(甲14)には,ランシールの用途も,産業資材分野では電線ケーブル止水等,農園芸分野では活着シートなど幅広く,土木分野ではコンクリート養成マットにも使用されてい 28 る旨記載されている。
(ウ) 引用発明1における本件周知技術の採用 以上によれば,当業者は,本件優先日当時,引用発明1につき,シースの接合部分の水漏れや外部からの染み込みを防止するという課題の解決のために,@前記(ア)のとおり,引用発明1と本件周知技術とは,同じく接続部分の止水性の確保を課題とし,接続対象物と接続部材との間に吸水膨張性を有する物質を含むものを配置して同物質が吸水膨張により接続対象物と接続部材との隙間をふさぐようにするという課題解決手段の点において共通性があること,Aさらに,前記(イ)のとおり,引用発明1においては吸水膨張性を有する物質がほぼ常時コンクリートに接することになるところ,本件周知技術において用いられるベルオアシス及びランシールにつき,ベルオアシスは,土木・建築材料を含む幅広い用途に実用化され,コンクリート養生シートにも使用されており,ランシールも,土木分野を含む広範な分野において活用され,コンクリート養成マットにも使用されていることに着目して,本件周知技術の採用を容易に想到することができたというべきである。そして,引用発明1において本件周知技術を採用すること,すなわち,接続対象であるシースと接続部材であるシース用ジョイントとの間に配置する吸水膨張性を有する物質として,特殊ウレタンの合成樹脂に代えて,吸水膨張性繊維と基材繊維から成る不織布によって構成される膨張体を配置し,その吸水膨張性繊維としてベルオアシス又はランシールを用いることは,相違点2に係る本件発明1の構成にほかならない。
加えて,前記1?によれば,本件発明1も,複数の管状のものを接続するに当たり,接続部分の止水性を確保することを課題とする点,接続対象物と接続部材との間に吸水膨張性を有する物質を含むものを配置して同物質が吸水膨張により接続対象物と接続部材との隙間をふさぐようにすることによって前記課題を解決しようとする点において,引用発明1及び本件周知技術と共通している。
ウ 小括 したがって,当業者は,本件優先日当時,引用発明1に本件周知技術を採用する 29 ことによって,相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたというべきであり,これとほぼ同旨の本件審決の判断に誤りはない。
? 原告の主張について ア 原告は,本件審決の判断は,「引用発明1+周知技術A+周知技術B」という二段階の組合せ判断であり,引用発明から容易に想到し得たものを基準として更に他の技術の適用の容易性を検討する,いわゆる「容易の容易」という考え方によるものであるところ,このような判断枠組みは誤りである旨主張する。
しかしながら,本件審決は,「膨張体として,液体を吸収可能な材料を含む不織布によって構成され,前記不織布が吸水膨張性繊維と基材繊維からなるもの」を周知例3ないし5によって「本件優先日前に周知の技術事項」と認定した上で,同技術事項のうち「吸水膨張性繊維」の具体例として「ベルオアシスやランシール」が本件優先日前に周知されていたことを,周知例5ないし11によって認定したにすぎない。同認定によれば,「ベルオアシスやランシール」は,「本件優先日前に周知の技術事項」の内容を具体化するものであって,「他の技術」ではないことは,明らかといえる(なお,周知例1には,「ポリエステル繊維等を素材とする不織布で,吸水膨張性樹脂素材である高吸水性ポリマーを繊維自体に混合包含させたもの又は繊維の外周面若しくは繊維間に付着保持させたもの」は開示されているが,高吸水性ポリマー自体を繊維形状化させた吸水膨張性繊維と基材繊維から成る不織布については開示されておらず,したがって,本件審決は,周知例1が前記不織布を開示している旨解した点においては誤りがあるといえるものの,この誤りは,本件審決の結論に影響するものではない。。
) したがって,本件審決の判断枠組みは,原告の主張する「容易の容易」という考え方によるものとはいえないから,原告の主張は前提を欠き,採用できない。
イ 原告は,本件発明1を構成する「膨張体」及び引用発明1を構成する「シール材」は,いずれもシースと接続部材の接続部分において,強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液であるセメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水 30 分の浸入を防ぐために用いられるものであるから,当業者において,前記「シール材」に改変を加える場合,強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液の浸入防止の効果を期待できないシール,止水材を採用する動機は乏しいことを前提として,周知例1ないし3のいずれにおいても,強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液のシール,止水については開示も示唆もされていない上,本件発明1及び引用発明1が,いずれもプレストレスト構造物に係るものであり,PC鋼材の保護が強く求められるのに対し,周知例1の「繊維シート」,周知例2の「シール部材」及び周知例3の「膨張体」は,それぞれ,「各種管端の接続」時,「コルゲート管同士を接続」する際,「電線やケーブルなどの保護のために用いられる管体を接続」する際に用いられるものであることに鑑みると,周知例1ないし3に記載されている技術事項は,本件発明1及び引用発明1と技術的用途において異なるものであるから,本件審決がそのような技術事項を引用発明1に適用したこと自体,誤りである旨主張する。
(ア) 引用発明1を構成する「シール材」及び本件発明1を構成する「膨張体」が吸収する液体の性質について a 引用例1の記載 この点に関し,引用例1には,「シール材」が防止すべき浸潤に関しては,「水漏れや外部からの染み込み」と記載されているのみであり,また,「シール材」の材質についても,「ウレタン系のシール材」 「特殊ウレタン系の合成樹脂からなるシ ,ール材」「このシール材は一定量の水を吸って膨潤する性質を有している(分子間 ,のベンゼン核が水に触れると膨張拡大し,内部が結晶水化する。 。
) 」と記載されているにとどまり,「シール材」が吸収する液体の性質については,何ら言及されていない。
なお,引用例1には,「コンクリート内に埋設されるために,各種の酸,アルカリ,金属塩等に対して耐久性が要求される」との記載があるが,これは,引用発明1を構成するシース用ジョイント本体及びシースそのものの強度について述べたも 31 のと解され,「シール材」が吸収する液体の性質に関連する記載とは解されない。
b 請求項1及び本件明細書の記載 請求項1においては,「液体の吸収に伴う膨張によって(中略)密接可能な膨張体」 「液体を吸収可能な材料を含む不織布」と記載されているのみで, , 「液体」の性質を示す記載はない。
本件明細書(甲34)においても,「膨張体」が防止すべきシース内への浸潤に関しては,「シース外の水分等」 【0003】等) 「水分等の液体」 【0005】 ( , (等)など抽象的な記載にとどまり,「膨張体」の材質に関しても,「液体を吸収可能な材料を含む不織布」 【0012】 , ( ) 「水分等の液体を吸収することによって膨張する材料によって構成されている。 ( 」 【0024】)と記載されており,「膨張体」が吸収する液体の性質については何ら触れられていない。
c セメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分のアルカリ濃度,電解質イオン濃度について 前記?によれば,引用発明1を構成する「シール材」は,プレストレストコンクリート用の表面に螺状の突部を設けたシース用ジョイントを構成する弧板の内壁面を被覆するものであり,当該シース用ジョイントはコンクリート内に埋設されることに鑑みると,「シール材」が吸収する液体には,原告が主張するセメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分が少なからず含まれるものと考えられる。また,本件発明1を構成する「膨張体」も,PC鋼材によりコンクリート躯体にプレストレスを導入したプレストレスト構造物を構成するものであるから,「膨張体」が吸収する液体にも,セメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分が含まれるものと推認される。
もっとも,セメントには低アルカリのものと高アルカリのものとがあり,また,セメントペーストの電解質イオン濃度は,低アルカリのセメントを使用して作製されたものと高アルカリのセメントを使用して作製されたものとで異なり,セメントの材齢,温度にも影響される(甲23)。これらの点に鑑みると,セメントペース 32 ト及び硬化後のコンクリート中の水分のアルカリ濃度や電解質イオン濃度は,低アルカリ,高アルカリなどのセメント自体の材質,材齢,温度等の諸条件によって変動するものと推認することができ,セメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分が,必ずしも強アルカリ性,高濃度の電解質イオンを帯びた溶液になるとは限らない。
d 検討 以上のとおり,引用発明1を構成する「シール材」及び本件発明1を構成する「膨張体」のいずれについても,その吸収する液体には,セメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分が含まれるものと考えられるが,同水分が,必ずしも強アルカリ性,高濃度の電解質イオンを帯びた溶液になるとは限らない。
そして,引用例1には,「シール材」が吸収する液体の性質に関する記載はなく,本件特許に係る請求項1及び本件明細書にも,「膨張体」が吸収する液体の性質に関する記載はない。
以上によれば,引用発明1を構成する「シール材」及び本件発明1を構成する「膨張体」のいずれについても,強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液に対する吸水力を備えることが,必須とされているとまではいうことはできない。
したがって,原告の前記主張のうち,引用発明1を構成する「シール材」及び本件発明1を構成する「膨張体」が,強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液であるセメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分の浸入を防ぐために用いられているという点は,上記セメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分を強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液のみに限定している点において正確性を欠くものというべきである。
(イ) 引用発明1における本件周知技術の採用について 加えて,前記?イのとおり,@引用発明1と周知例2,3,6ないし9から認定される本件周知技術とは,複数の管状のものを接続するに当たり,接続部分の止水性を確保するという課題及び接続対象物と接続部材との間に吸水膨張性を有する物 33 質を含むものを配置して同物質が吸水膨張により接続対象物と接続部材との隙間をふさぐようにするという前記課題の解決手段において共通しており,Aさらに,本件周知技術は,引用発明1においてはほぼ常時コンクリートに接することになる吸水膨張性を有する物質として,土木・建築材料を含む幅広い用途に実用化され,コンクリート養生シートにも使用されているベルオアシス及び同様に土木分野を含む広範な分野において活用され,コンクリート養成マットにも使用されているランシールを用いるものである。
これらの点に鑑みると,当業者は,本件優先日当時,引用発明1に本件周知技術を採用することを容易に想到できたものということができる。
(ウ) 以上によれば,原告の前記主張は,採用できない。
ウ 原告は,前記イと同様の前提の下,ベルオアシス及びランシールは,いずれも強アルカリ性かつ高い電解質イオン濃度の溶液に対しては吸水量が大きく減少するものであり,この特性は,本件優先日当時,当業者間において一般的な技術常識であったといえるから,当業者において,ベルオアシス及びランシールを引用発明1を構成する「シール材」として適用する動機が存在するとは考え難く,むしろ,同適用を当然に回避するものと考えられる旨主張する。
(ア) 前記イのとおり,引用発明1を構成する「シール材」が吸収する液体には,セメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分が含まれると考えられるものの,それらが必ずしも強アルカリ性,高濃度の電解質イオンを帯びた溶液であるとは限らない。しかも,前記?イのとおり,ベルオアシスは,土木・建築材料を含む幅広い用途に実用化され,コンクリート養生シートにも使用されており,ランシールも,同様に,土木分野を含む広範な分野において活用され,コンクリート養成マットにも使用されている。加えて,引用例1において,引用発明1の「シール材」が防止すべき浸潤に関しては,「水漏れや外部からの染み込み」と記載されていることに鑑みると,「シール材」が吸収する液体の量は,「漏れ」や「染み込み」程度の比較的少量のものと推認できる。
34 以上の事実によれば,ベルオアシス及びランシールは,引用発明1を構成する「シール材」が吸収する液体に含まれるセメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分に対しても,十分に吸収膨張できるものであり,当業者は,本件優先日当時,この事実を認識していたものと推認することができる。現に,原告が本件優先日前の平成19年8月9日に行った実験において,吸水膨張性繊維をランシールとし,基材繊維をポリエステルとする不織布をシースとジョイントシースとの接続部に配した試験体を,混練したコンクリートモルタルを満たした鋼製容器に入れ,日本道路公団規格が定める「内ケーブル用ポリエチレン製シース」の「5.12定着具接続部外圧試験」の手順(甲41)に従い,試験体の内圧を0.1MPaまで真空引きして試験体にコンクリートモルタルからの外圧が掛かるようにして5分間圧力を保持したところ,試験体内部へのモルタル水の漏れはなかった(甲31)。
(イ) また,ランシールは,純水に対しては自重の150倍など相当に吸水力が高く,同吸水力に比べれば,強アルカリ性の溶液や高い電解質イオン濃度の溶液に対する吸水力は低いものの,それでも,pH13の強アルカリ性の溶液に対して1g当たり約25mlの吸水,濃度4%のMgCl2(塩化マグネシウム)の溶液及びCaCl2(塩化カルシウム)の溶液に対して,それぞれ1g当たり約20mlの吸水が確認された(甲24の1の第2図,第3図)など,一定量の吸水力を示したことが認められる(甲14,甲24の1,甲25〜甲27)。
ベルオアシスも,純水に対しては自重の80倍,生理食塩水に対しては自重の45倍と,かなり吸水力が高いものであるが,pH13の強アルカリ性の溶液に対しても1g当たり47g吸水したというデータが存在する(甲11,甲30)。
本件証拠上,高い電解質イオン濃度の溶液に対するベルオアシスの吸水力を直接示すものはないが,ベルオアシス及びランシールを含む高吸水性ポリマー一般の電解質イオン濃度溶液に対する吸水量を示す以下のデータがある。すなわち,@リン酸カリウム,硫安,カ性ソーダ,塩化ナトリウム,クエン酸及び塩化カルシウムに対する吸水力を示すデータにおいて,最も吸水力が低い塩化カルシウムに対しても 35 電解質濃度が1wt%の溶液に対し,1g当たり約10gの吸水が確認された(甲27の図1.8)。ANaOH(水酸化ナトリウム),NaCl(塩化ナトリウム)及びMgCl2の電解質溶液に対する吸水力を示すデータにおいて,最も吸水力が低いMgCl2の電解質溶液に対しても塩濃度が3wt%の溶液に対し,1g当たり10gを超える吸水が確認された(甲27の図2.8)。B高吸水性ポリマーの多価金属塩水溶液中での吸収量を示すデータにおいても,Mg(マグネシウム)塩では吸水量の減少が比較的緩やかであり(多価金属塩濃度60mg/mlの溶液に対し,1g当たり約10gの吸水量),Ca(カルシウム),Sr(ストロンチウム),Ba(バリウム)塩では,かなりの吸水量の減少がみられたものの(多価金属塩濃度60mg/mlの溶液に対し,1g当たり数グラム程度の吸水量),全く吸水しない状態には至らなかった(甲27の図4.30)。これらによれば,少なくとも,ベルオアシスが高い電解質イオン濃度の溶液に対して一律に吸水力を失うことはないものと推認できる。
現に,本件特許の特許公報(甲33),本件訂正請求書(甲34)を含め,本件訴訟に提出されているベルオアシス又はランシールに言及する文献(甲11〜甲19,甲21,甲22,甲24の1,甲25,甲26,甲28〜甲31。ただし,本件審判手続における原告の主張内容を記載した審判事件答弁書〔甲38〕及び口頭審理陳述要領書〔甲39〕並びに本件審決取消訴訟提起後に各当事者が実施した実験の結果を記載した報告書〔甲36,乙7〕及び原告の従業員が作成した陳述書〔甲40〕を除く。)のいずれにも,ベルオアシス又はランシールが強アルカリ性の溶液や高い電解質イオン濃度の溶液に対して不適であることを明示する記載は,見られない。
そして,ベルオアシスについては,「原綿の混合率により吸水・吸湿力を調整することが可能。 (甲30)とされ,ランシールについても, 」 「製品に加工される際,混率を自由に設定することで吸水スペースを与えつつ最適商品としてのデザインが可能である。(甲14)とされている。
」 36 加えて,前記(ア)のとおり,引用発明1の「シール材」が吸収する液体の量は,「漏れ」や「染み込み」程度の比較的少量のものと推認できる。
以上によれば,引用発明1の「シール材」が吸収する液体に含まれるセメントペースト及び硬化後のコンクリート中の水分が強アルカリ性,高濃度の電解質イオンを帯びるものであったとしても,ベルオアシス及びランシールは,必要に応じて混合率を調整することにより,接続部分の止水性の確保という課題を解決するに足りる吸水膨張を実現できるものと考えられ,当業者も,本件優先日当時,そのように認識していたものと推認することができる。
(ウ) 以上に鑑みると,当業者において,本件優先日当時,引用発明1の「シール材」にベルオアシス又はランシールを用いることを回避するまでの事情があるとは認め難いというべきであり,原告の前記主張は採用できない。
? 小括 以上によれば,取消事由1は理由がないから,取消事由2について判断するまでもなく,本件発明1の容易想到性を認めた本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件発明2に係る容易想到性の判断の誤り)について ? 原告は,本件発明2の「前記膨張体の一部は,ジョイントシースの外部に露出している」という構成につき,ジョイントシースの延在方向から見て露出しているものの,直角方向から見ると露出していない膨張体は,シース内部に存在するものと表現するのが適切であり,外部に「露出」,すなわち,「何の覆いもなくむき出している」とはいえず,前記構成に含まれないというべきであるとして,本件審決は,相違点3及び7の判断に当たり,前記構成について,膨張体の一部がジョイントシースの延在方向のみから見て露出しているものも含むという認定をし,同認定を前提として,前記各相違点に係る容易想到性を肯定した点において誤りがある旨主張する。
しかしながら,本件発明2に係る特許請求の範囲は,前記第2の2【請求項2】のとおりであり,請求項2及び本件明細書(甲34)のいずれにおいても,膨張 37 体の一部がジョイントシースの延在方向のみから見て露出している場合を除くなど「露出」の意味を限定する趣旨の記載はない。
また,本件発明2において,膨張体の一部がジョイントシースの延在方向のみから見て露出している場合も,その「一部」は,何の覆いもなくむき出しているということができる。
以上によれば,本件発明2の「前記膨張体の一部は,ジョイントシースの外部に露出している」という構成には,膨張体の一部がジョイントシースの延在方向のみから見て露出している場合も含まれるものと解すべきであり,したがって,原告の前記主張は,前提を欠き,採用できない。
? 小括 以上のとおり,取消事由3も理由がない。
4 結論 したがって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 田中芳樹
裁判官 鈴木わかな