関連審決 | 不服2013-12426 |
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事件 |
平成
26年
(行ケ)
10213号
審決取消請求事件
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原告 株式会社サンケイエンジニアリング 原告X 原告ら訴訟代理人弁護士 鮫島正洋 見憲 原告ら訴訟復代理人弁護士 篠田淳郎 原告ら訴訟復代理人弁理士 渡部温 稲田弘明 被告特許庁長官 指定代理人樋口信宏 酒井伸芳 長馬望 田中敬規 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2015/09/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 -1-事 実 及 び 理 由第1 原告らの求めた裁判特許庁が不服2013−12426号事件について平成26年7月29日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,補正却下の当否及び進歩性判断の当否である。 1 特許庁における手続の経緯原告らは,平成22年8月9日,発明の名称を「検査用プローブの製造方法」とする特許出願をした(特願2010−178350号。甲5)が,平成25年3月27日,拒絶査定を受けた(甲13)ので,同年7月1日,審判請求をする(甲16)とともに,手続補正をした(本件補正,甲15)。 特許庁は,平成26年7月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同年8月12日,原告らに送達された。 2 本願発明等の要旨(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(本願発明)は,以下のとおりである(甲9)。 「少なくとも一方の先端部に検査用接触部が形成される第1の線材及び第2の線材を接合して構成される検査用プローブの製造方法であって,前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態で前記第1の線材及び前記第2の線材を中心軸回りに回転させながら接合箇所の外周面にパルス状のレーザ光を照射することによってレーザ溶接するとともに,前記レーザ光により前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくしたことを特徴とする検査用プローブの製造方法。」-2-(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(本件補正後発明)は,以下のとおりである(甲15)。 「少なくとも一方の先端部に検査用接触部が形成される第1の線材及び第2の線材を接合して構成される検査用プローブの製造方法であって,前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態で前記第1の線材及び前記第2の線材を中心軸回りに回転させながら接合箇所の前記第1の線材及び前記第2の線材の外周面にパルス状のレーザ光を照射することによってレーザ溶接するとともに,前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量を,融点が低い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量よりも大きくしたことを特徴とする検査用プローブの製造方法。」3 審決の理由の要点(1) 本件補正却下ア 本件補正は,本願発明における,「前記レーザ光により前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくした」の構成を,「前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量を,融点が低い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量よりも大きくした」の構成にする補正(以下「補正事項1」という。)を含む。 イ 本件出願において,「線材に与えられるレーザ光のエネルギ量」と「線材に照射されるレーザ光の(単位時間あたりの)エネルギ量」は,同一ではなく,前者は後者から「線材に照射されるけれども反射・散乱等により線材に吸収されないレーザ光の(単位時間あたりの)エネルギ量」を除き,さらに,「他方の線材からの熱伝導など間接的に与えられる(単位時間あたりの)熱量」も加味して時間積分した量のことである。したがって,線材のレーザ光の吸収率の差等によっては,一方の線材に照射されるレーザ光のエネルギ量が他方のそれより大きいとしても,-3-一方の線材に与えられるレーザ光のエネルギ量が他方のそれよりも小さくなる。 したがって,補正事項1は,発明を特定するために必要な事項を変更する補正であり,限定する補正に該当せず,特許法17条の2第5項2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当しない。 ウ 本件出願において,「融点が高い側に与えられるエネルギ量」及び「融点が低い側に与えられるエネルギ量」が意味するものが明確でない旨の拒絶理由は,通知されていない。したがって,補正事項1は,特許法17条の2第5項4号に掲げる,明瞭でない記載の釈明を目的とする補正に該当しない。 エ 補正事項1が,請求項の削除(1号)又は誤記の訂正(3号)を目的とする補正に該当しないことは明らかである。 オ よって,本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に適合しないものであり,特許法159条1項で準用する特許法53条1項の規定により却下すべきものである。 (2) 本願発明の進歩性ア 特開2000−187043号公報(甲1。引用例1)記載の発明(引用発明)の認定「タングステンからなるプローブ部と,このプローブ部の後端に突き合わせ接合される銅線との間に金属材料を挟み込み,レーザ溶接又は電気抵抗溶接で両者を接合し,レーザ溶接でタングステンの線材Wと銅の線材Cuとを接合した場合には,電気抵抗溶接より加熱熱量の制御の点で優れ,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとが接合したならば,銅線120を適当な位置で切断し,さらに,タングステンの線材Wの先端を研磨して先鋭化し,異種金属接合プローブ100の接触部120とし,金属材料は,融点がタングステンより低く,かつ銅より高い,プラチナ,ニッケル,コバルト,パラジウム,クロム又はこれらの合金であって,銅の線材Cuではなく,リン青銅又はベリリウム銅の線材をタングステンの線材Wに直接突き合わせ-4-接合してもよく,接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する,LSIチップ等の半導体集積回路の電気的諸特性を測定する際に用いられる,異なる金属を接合してなる異種金属接合プローブの製造方法。」イ 特開2005−254282号(甲2。引用例2)記載の技術(引用例2記載技術)の認定「融点の高い材料にレーザービームを照射し,融点の高い方の材料を溶融し,その溶融金属からの伝熱でもう片方の融点の低い材料に間接的に熱を加え,双方を適度に溶融すれば,穴空きのないスムースな溶接ビードを得ることができ,互いに融点の異なる金属板をレーザー突合せ溶接するには,融点の高い板1(例えば1.4mm厚鋼板)と融点の低い板2(例えば1.4mm厚アルミニウム合金板)とを突合せ状態で配置し,レーザービーム7の焦点が融点の高い板の上面に位置するようにレーザーヘッドを移動させて調整し,接合する材料の融点の差の大きさによって,ビーム焦点位置のシフト量は異なるが,レーザービームを照射したときのエネルギー密度の分布に基づき,融点の高い板に照射されるレーザービームのエネルギーを融点の低い板に照射されるレーザーエネルギーよりも大きくして,両方の板が突合せ部で等しく溶融できる大きさのシフト量に設定すればよい,レーザー突合せ溶接方法。」ウ 本願発明と引用発明との対比(なお,審決においては,本件補正後発明と引用発明との対比を引用する形で本願発明と引用発明の対比を行っているため,以下では,本件補正後発明を本願発明と読み替えた上,本願発明と引用発明との対比に関連する部分のみとりあげる。)(ア) 一致点少なくとも一方の先端部に検査用接触部が形成される第1の線材及び第2の線材を接合して構成される検査用プローブの製造方法であって,前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態でレーザ光を照射するこ-5-とによってレーザ溶接する検査用プローブの製造方法。 (イ) 相違点1本願発明は,前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態で「前記第1の線材及び前記第2の線材を中心軸回りに回転させながら接合箇所の外周面にパルス状の」レーザ光を照射することによってレーザ溶接するのに際し,引用発明は,この点が明らかではない点。 (ウ) 相違点2本願発明は,「前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくした」構成を具備するのに対し,引用発明は,この点が明らかではない点。 エ 判断(ア) 相違点1について遅くとも本件出願時点において,円筒又は円柱材料を突き合わせレーザ溶接するに際し,両者を中心軸周りに回転させながら外周面にパルス状のレーザ光を照射する技術は,原子力関係の企業や,手術用針を製造する企業等,各方面で採用されるほどに一般的な周知技術であった。引用発明の異種金属接合プローブは,「接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する」必要がある。周知技術に関するレーザ溶接機メーカの提案を受けた検査用プローブの当業者が,周知技術を採用して相違点1を克服することは,引用発明の具体化に伴う,格段とはいえない創意工夫の範囲内である。 (イ) 相違点2について引用発明の異種金属接合プローブは,異種金属を「接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する」という程度にまでうまく接合する必要がある。引用例2記載技術に関するレーザ溶接機メーカーの提案を受けた検査用プローブの当業者が,引用例2記載技術を採用することは容易である。また,引用例2記載技術の-6-「接合する材料の融点の差の大きさによって,ビーム焦点位置のシフト量は異なるが,レーザービームを照射したときのエネルギー密度の分布に基づき,融点の高い板に照射されるレーザービームのエネルギーを融点の低い板に照射されるレーザーエネルギーよりも大きくして,両方の板が突合せ部で等しく溶融できる大きさのシフト量に設定すればよい」との構成によれば,レーザ光照射位置は,試行錯誤の結果にすぎない。引用発明において引用例2記載技術を採用し,相違点2を克服することは,引用発明の具体化に伴う,格段とはいえない創意工夫の範囲内である。 また,本願発明が奏する効果は,引用発明,引用例2記載技術及び周知技術から予測できる範囲内のものである。 第3 原告主張の審決取消事由1 本件補正を却下した判断の誤り(取消事由1)本願明細書(甲5)の段落【0022】に,「レーザ光の照射に際し,第1の線材110と第2の線材120のうち材料の融点が高い側のほうが,融点が低い側に対してレーザ光の照射によって与えられるエネルギ量が大きくなるようにされている。・・・このようなエネルギ量の調節は,例えば,・・・第2の線材120に照射されるレーザ光のエネルギ量を第1の線材110に照射されるレーザ光のエネルギ量より大きくし・・・てもよい。・・・」と記載されているように,補正事項1は,「レーザ光の照射に際し,第1の線材110と第2の線材120のうち材料の融点が高い側のほうが,融点が低い側に対してレーザ光の照射によって与えられるエネルギ量が大きくなるようにされている。の具体的な実現手段として挙げられている」「第2の線材120に照射されるレーザ光のエネルギ量を第1の線材110に照射されるレーザ光のエネルギ量より大きくする手段」を選択したものであり,いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮に該当するから,本件補正が目的要件に違反するとの審決の判断は誤りである。 レーザ光の反射・散乱は無視できる程度であるから,審決が, 『線材に与えられ「-7-るレーザ光のエネルギ量』は,『線材に照射されるレーザ光の(単位時間あたりの)エネルギ量』から『線材に照射されるけれども反射・散乱等により線材に吸収されないレーザ光の(単位時間あたりの)エネルギ量』を除き,さらに,『他方の線材からの熱伝導など間接的に与えられる(単位時間あたりの)エネルギ量』も加味して時間積分した量のことである」と認定したのは,失当である。 2 本願発明の進歩性判断に関する取消事由(1) 引用発明の認定の誤り(取消事由2−1)特許法29条1項3号において,刊行物に引用発明が記載されているというためには,構成のみならず,当該構成を実施し得る程度の開示が必要であるとされている。 引用例1において,異種金属接合プローブの製造に際し,いかなる方法・条件でレーザ溶接により異種金属接合を行うかについては,何らの開示も示唆もない。異種金属接合プローブの製造方法という審決が認定しようとする引用発明の構成と無関係に,引用例1に「電気抵抗溶接より加熱熱量の制御の点で優れている」というような,レーザ溶接の一般的な利点が記載されているというだけでは,引用発明の構成を実施し得る程度の開示があるということはできない。引用例1においては,基本的に,タングステンからなるプローブ部110と銅線120とを「プラチナPt等を介在させて」「電気抵抗溶接により」接合する実施形態を前提として説明がなされており,リン青銅又はベリリウム銅の線材をタングステンの線材Wに「直接突き合わせ」レーザ溶接」「 により接合することについては,何ら具体的な説明もない。 また,本件出願時において,レーザ溶接により異種金属接合を行って異種金属接合プローブを製造することについては,何らの技術常識もなかった。特開2000−88887号公報(乙2)記載の技術は,コアと,その上に設けられた下地めっき層と,表面に設けられた半田被覆層を有する球状突起25に,線材30を固定するものであるから,半田によって(半田のみを溶融させて)球状突起のコアと線材30とを固定するものであり,異種金属を溶融させて接合するものではない。特開-8-2007−225288号公報(乙3)記載の技術は,直径50〜60μm程度の接続用ピン端子2に,同径の内径を有する第一のリング体3及び第二のリング体4(直径250〜300μm程度と解される。を嵌め込んでからスポット溶接するも)のである。これは,二つの異種金属線材をその端部同士で直線状に結合するものではないし,第一のリング体3及び第二のリング体4は大きさも十分に大きいから,異種金属プローブのような「低融点材料の溶け過ぎや高融点材料の溶け不良などによる溶接品質の低下の問題」があるわけではない。特開2006−194803号公報(乙4)記載の技術は,0.1〜0.3mm程度のコンタクトプローブを構成する筒状のスリーブ5の内部にストッパ8を挿入し,スリーブ5の外面にレーザを照射して溶接するものである。これは,二つの異種金属線材をその端部同士で直線状に結合するものではないし,スリーブ5及びストッパ8は大きさ(特に長手方向の長さ)も十分に大きいから,異種金属プローブのような「低融点材料の溶け過ぎや高融点材料の溶け不良などによる溶接品質の低下の問題」があるわけではない。 乙8及び乙9においては,異種金属を接合したプローブ又はプローブと同等の極めて微細な径を有する線材同士の接合例は,一つもない。したがって,引用例1において,接合方法をレーザ溶接とした場合の具体的かつ詳細な実施例が文言上明記されていない以上,接合方法をレーザ溶接とした場合の引用発明を認定することはできない。 よって,引用例1に,レーザ溶接により異種金属接合を行ってプローブを製造する方法に係る引用発明が記載されているということはできず,審決の引用発明の認定は誤りである。 (2) 相違点の認定の誤り(取消事由2−2)本願発明は,前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態で前記第1「の線材及び前記第2の線材を中心軸回りに回転させながら接合箇所の外周面にパルス状のレーザ光を照射することによってレーザ溶接するとともに,前記レーザ光により前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネ-9-ルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくした」構成により,「融点の異なる材料からなる線材を接合する場合であっても,高融点材料の融合不良や低融点材料の溶け過ぎを防止し,両者の溶融するタイミングを合わせて良好な溶接品質を得ることができる」ということを実現しているのであるところ,この本願発明における構成は,本願発明の技術的課題の解決をするまとまりのある構成であるから,引用発明に上記構成がない点を相違点と認定すべき(「相違点A」)であり,相違点1及び2に分けて認定すべきではない。 相違点Aは,引用例2,特開昭63−140788号公報(甲3。引用例3)及び特開平1−162590号公報(甲4。引用例4)に記載がない。また,引用発明と引用例2〜4とには,課題の共通性,示唆等の組合せの動機付けとなるものがない。さらに,本願発明の効果(「融点の異なる材料からなる線材を接合する場合であっても,高融点材料の融合不良や低融点材料の溶け過ぎを防止し,両者の溶融するタイミングを合わせて良好な溶接品質を得ることができる」 は,) 本件出願時の当業者が予測し得るものではない。したがって,相違点Aは,容易想到ではない。 (3) 相違点1の容易想到性判断の誤り(取消事由2−3)ア 周知技術の認定の誤り本願発明の技術分野は,半導体の電気導通検査を行うプローブカード等に用いら「れる検査用プローブの製造方法」であり,レーザ溶接機メーカーの属する技術分野ではないから,仮に,引用例3記載技術及び同4記載技術がレーザ溶接機メーカーの属する技術分野において周知技術であったとしても,本願発明の技術分野における周知技術であったということはできない。 「円筒又は円柱材料を突き合わせレーザ溶接するに際し,両者を中心軸周りに回転させながら外周面にパルス状のレーザ光を照射する技術」が一般的に知られている技術であることの立証がなく,これは,レーザ溶接機メーカーの属する技術分野においてでさえ,周知技術であるとはいえない。 イ 相違点1に引用例3及び4記載技術を適用することの容易性判断の誤り- 10 -引用発明における「接合部の径の増大を抑え」るという課題と,引用例3及び4における,溶接部のクレータのようなくぼみが生じるという課題とは,課題が全く異なるから,相違点1に引用例3及び4記載技術を適用する動機付けはない。 また,引用例3及び4においては,溶接される二つの部材は同一の材料からなることが前提とされていると解される。これに対し,引用発明は,「リン青銅又はベリリウム銅の線材をタングステンの線材Wに直接突き合わせ接合する」ものであるから,同一の材料を溶接する引用例3及び4記載技術を適用することができるかは,全く不明であり,かえって,融点の差があることから,短時間のパルス照射では適切な溶接を行うことができないと当業者は考えるはずである。すなわち,引用発明に引用例3及び4記載技術を適用するには,阻害要因がある。 (4) 相違点2の容易想到性判断の誤り(取消事由2−4)ア 引用例2記載技術の認定の誤り引用例2には,レーザービームを積極的に融点の低い板に照射する旨の技術思想は開示されていない。引用例2記載技術は,「融点の異なる金属板をレーザーによる突き合わせ溶接で溶接して溶接金属板を製造する方法において,レーザービームを融点の高い金属板のみに照射することにより,融点の高い方の材料を溶融し,その溶融金属からの伝熱でもう片方の融点の低い材料に間接的に熱を加え,双方を適度に溶融すれば,穴空きのないスムースな溶接ビードを得る技術」であると認定されるべきであり,「融点の高い板に照射されるレーザービームのエネルギーを融点の低い板に照射されるレーザーエネルギーよりも大きく」する技術であるとの審決の認定は誤りである。 イ 相違点2に引用例2記載技術を適用することの容易性判断の誤り引用例2は,板材同士の接合に関するものであって,接合部の径の増大を抑えるなどという技術思想が含まれているはずがないから,引用発明に引用例2記載技術を適用する動機付けは全くない。 審決は,引用例2記載技術に関するレーザ溶接機メーカーの提案を受けた検査用「- 11 -プローブの当業者」を基準にして引用例2記載技術の採用容易性を判断しているが,「検査用プローブの当業者」が「引用例2記載技術に関するレーザ溶接機メーカーの提案を受け」るべきことについて,何らの立証もなく,失当である。 引用発明は,異種金属接合プローブに係る発明であり,プローブの太さは,極めて微細である。これに対し,引用例2記載技術は,金属板同士の接合に関するものであり,金属板は,スケールが格段に大きい。その上,溶接の対象となる二つの材料の融点の差は,引用発明は,引用例2記載技術の場合と比べて,格段に大きい。 したがって,プローブの製造の技術分野に属する当業者が,仮に,引用例2に接したとしても,上述したスケール及び融点の差の大きな相違から,これを引用発明に適用しようとは,到底考え付かないはずである。 ウ 相違点2に引用例2記載技術を適用しても本願発明の構成に到らないこと引用例2記載技術は,基本的に,レーザービームを融点の高い金属板のみに照射する技術であり,ビームの有効径外に拡散した1%未満のエネルギーが融点の低いアルミにも照射されている可能性があることを記載しているにすぎない。仮に,引用発明に引用例2記載技術を適用したとしても,第1の線材及び第2の線材の接合箇所の外周面にレーザ光を照射し,かつ,第1の線材と第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくするという本願発明の構成には到らない。 (5) 本願発明の効果の誤り(取消事由2−5)本願発明は,前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態で前記第1「の線材及び前記第2の線材を中心軸回りに回転させながら接合箇所の外周面にパルス状のレーザ光を照射することによってレーザ溶接するとともに,前記レーザ光により前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくした」構成により,「融点の異なる材料からなる線材を接合する場合であっても,高融点材料の融合不- 12 -良や低融点材料の溶け過ぎを防止し,両者の溶融するタイミングを合わせて良好な溶接品質を得ることができる」という効果を奏するが,当該効果は,本願発明の構成を満たすことによって初めて得られる顕著な効果である。仮に,引用発明に,引用例2記載技術を組み合わせ,さらに,引用例3及び4記載技術を組み合わせたとしても,溶接ができないか,歩留及び外観が極めて悪くなるかのいずれかとなるから,本願発明の効果は,本件出願時に当業者が予測し得ない効果である。 第4 被告の反論1 取消事由1に対し本件補正は,レーザ溶接条件に関する構成を,「線材におけるレーザ溶接条件」から,「照射光におけるレーザ溶接条件」に変更する(入れ換える)ものである。そのため,「線材におけるレーザ溶接条件」が特定されなくなった。また,本件補正は,本願発明には含まれなかった,溶融不良が問題とならない範囲内の発明にまで,発明の要旨を拡張するものである。したがって,本件補正は,減縮にも該当しない。 2 取消事由2−1に対し引用例1には,本願発明に係る技術事項について,本願発明と対比するに十分な程度に開示がされており,したがって,引用例1に記載された発明をもって,29条1項3号の「刊行物に記載された発明」に該当すると判断することができる。すなわち,レーザ溶接は,金属等を接合するための手段として,分野を問わず広く知られた技術であるから,引用例1において,接合方法をレーザ溶接とした場合の具体的かつ詳細な実施例が文言上明記されていないとしても,当業者は,接合方法をレーザ溶接とした場合の発明について十分把握可能である。 3 取消事由2−2に対し審決は,@形状の観点からの課題を相違点1とし,A材質の観点からの課題を相違点2とした上で,「融点の異なる材料からなる線材」に適したレーザ溶接のために相違点1及び2に係る構成を採用することが容易であるとの判断を示したのである- 13 -から,相違点1と相違点2をばらばらに判断し他の相違点を踏まえなかったわけではなく,また,それぞれの相違点が容易想到であるとのみ判断し発明全体としての容易想到性の判断を示さなかったわけでもなく,さらに,発明全体としての総合的な効果が顕著でないとの判断を示さなかったわけでもない。 4 取消事由2−3に対し(1) 周知技術の認定の誤りについて引用例1の記載に接した当業者が,レーザ溶接の技術分野における公知技術又は周知技術の知見を得て,引用例1と組み合わせることは,引用例1の記載自体が予定していることである。また,レーザ溶接は,金属等を接合するためのレーザ加工技術として一つの技術分野ないし業界をなすものであるから,当業者が,レーザ溶接機メーカーやレーザ加工に携わった経験のある者等と連携して,レーザ溶接の技術分野における知見を収集して創意工夫の材料とし引用発明を実施するに適したレーザ溶接設備を導入することに,特段の障害はなかったといえる。引用例3及び4記載技術は周知である。 (2) 相違点1に引用例3及び4記載技術を適用することの容易性判断の誤りについて引用発明の異種金属接合プローブは,「接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する」必要があるところ,周知技術は,溶接部にクレータ(くぼみ)が生じやすいことを前提とした技術であり接合部の径を増大させるものではないから,引用発明と課題が正反対であるとはいえない。かえって,周知技術は,溶接部に生じるクレータ(くぼみ)を最小限にして溶接肉厚の減少を抑え,機械的強度の低下を防ぐという技術であるから,まさしく「接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する」という引用発明の課題にうってつけの解決手段といえる。 そうしてみると,引用例3及び4記載の周知技術の知見を得た当業者ならば,引用例3及び4の記載を阻害要因ととらえることなく,むしろ,積極的に引用例3及び4に例示された周知技術を採用する。 - 14 -引用例3及び4には,パルスレーザが異種材料の溶接に不適である旨の記載は存在しないから,引用例3及び4の記載に接した当業者が,パルスレーザは異種材料の溶接に不適であると考えることはなく,阻害要因とはならない。原告らは,引用発明の材料の組合せを,リン青銅(又はベリリウム銅)とタングステンに限定解釈しているが,審決ではそのような引用発明の認定はしていない。また,引用発明の具体的材料は,引用例1の請求項2,3及び5に適合する材料の例示であり,引用発明を出発点とした容易推考が,これに拘束されるわけでもない。 5 取消事由2−4に対し(1) 引用例2記載技術の認定の誤りについて審決が認定した引用例2記載技術は,【請求項2】又は段落【0019】に記載されている。引用発明において,ビーム強度の裾部分の広がりを無視できないから,引用例2に開示された発明のうち,引用発明と組み合わせるべき技術思想は,【請求項2】又は段落【0019】に記載された発明である。 (2) 相違点2に引用例2記載技術を適用することの容易性判断の誤りについて外周面の構成における「前記第1の線材及び前記第2の線材の」の点は,もはや相違点ではないから,仮に,引用例2記載技術の技術思想がレーザービームを融点の高い板のみに照射するものに限られるとしても,審決の結論には影響を及ぼさない。 引用発明の異種金属接合プローブは,異種金属を「接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する」という程度にまでうまく接合する必要があるところ,スムースな溶接ビードを得ることができなければ,高い接合強度は得られないものであり,また,融点の低い方が過度に溶融すれば,形状の歪みにより接合部の径が増大するものである。したがって,引用例2記載技術に接した当業者ならば,引用例2記載技術を引用発明と組み合わせようとする。 本件出願の発明の詳細な説明においても,レーザービームを積極的に融点の低い- 15 -板に照射する旨の技術思想は開示されていない。引用例2においても,レーザービームを積極的に融点の低い板に照射する旨の技術思想が開示されていると評価できる。 (3) 相違点2に引用例2記載技術を適用しても本願発明の構成に到らないことについて引用例2記載技術において「両方の板が突合せ部で等しく溶融できる」のは,レーザビーム焦点位置のシフト量が「レーザビームにより融点の高い板に与えられるエネルギーを融点の低い側に与えられるエネルギーよりも大きく」なるように設定されたからにほかならないから,仮に,引用例2記載技術の技術思想がレーザービームを融点の高い板のみに照射するものに限られるとしても,引用発明に引用例2記載技術を適用すると本願発明の構成に到る。 6 取消事由2−5に対し甲16に基づく本願発明の顕著な効果の主張は,本願明細書の発明の詳細な説明に基づかない。本願発明の効果は,予測可能な効果であって,顕著な効果とまではいえない。 第5 当裁判所の判断1 取消事由1について原告は,本件補正は,いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮に該当するから,本件補正が目的要件に違反するとの審決の判断は誤りであると主張するので,この点について判断する。 本願発明の「線材に与えられるエネルギ量」の「エネルギ量」とは,本願明細書(甲5)の段落【0006】にあるとおり,「レーザ光の照射により各線材に直接的あるいは間接的(例えば他方の線材からの熱伝導など)に与えられる熱量を,加熱開始から終了までの時間で積分したもの」を意味する。そうすると,「線材に与えられるエネルギ量」とは,当該線材にレーザ光が照射されることによって当該線材に- 16 -直接的に与えられるエネルギ量と,他方の線材にレーザ光が照射されることによって他方の線材に直接的に与えられるエネルギ量のうち,当該線材への熱伝導によって当該線材に間接的に与えられるエネルギ量とを合わせたものをいうことになる。 また,線材に照射されるレーザ光の一部は線材の表面で反射し,「銅合金は反射率が高い物質であるのでレーザ光を反射してしまい,加工外観のばらつきや溶融した銅が他のリードに飛散し接続不良となる場合がある。(乙1)とされるように,線材」の表面での反射は無視できるほど小さいとはいえないから,線材に直接的に与えられるエネルギ量とは,線材に照射されるレーザ光のうち,反射することなく線材に吸収されるレーザ光のエネルギ量をいう。 すなわち,本願発明の「線材に与えられるエネルギ量」とは,本件補正後発明の「線材に照射されるレーザ光のエネルギ量」のうち,反射することなく当該線材に吸収されるレーザ光のエネルギ量と,他方の線材に吸収されるレーザ光のエネルギ量のうち,当該線材へ熱伝導されるエネルギ量とを合わせたものをいい,本件補正後発明の「線材に照射されるレーザ光のエネルギ量」のみならず,線材の反射率(あるいは吸収率)や熱伝導率によっても変化する値である。 しかも,本件補正後発明及び本願発明は,線材の材質を特定していないことから,検査用プローブに適用可能なあらゆる材質の線材を含むもので,接合される線材の組合せによっては,線材間の反射率(あるいは吸収率)の差や熱伝導率の差によって,一方の線材に照射されるレーザ光のエネルギ量が他方の線材に照射されるレーザ光のエネルギ量よりも大きいとしても,一方の線材に与えられるエネルギ量が他方の線材に与えられるエネルギ量よりも小さくなることは当然に起こり得る。 よって,補正事項1は,本願発明の発明特定事項を変更する補正であり,特許法17条の2第5項2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正には該当しない。 取消事由1は,理由がない。 2 取消事由2−1について- 17 -(1) 引用例1(甲1)には次の記載がある。 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,LSIチップ等の半導体集積回路の電気的諸特性を測定する際に用いられるプローブ,特に異なる金属を接合してなる異種金属接合プローブと,その製造方法と,さらにはこの異種金属接合プローブを用いたプローブカードとに関する。 【0002】【従来の技術】従来のプローブカードに用いられるプローブは,硬くて弾性の高い金属,例えばタングステンやベリリウム銅等が多く用いられる。特に,耐摩耗性に優れており,直径が数十μmの線材も安価に入手可能なタングステンが用いられることが多く,現在では90%以上のプローブがタングステンから構成されている。 【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,プローブ900の後端の接続部を配線パターン910に接続する銅線920を半田付けで接続部に接続すると,・・・半田930はプローブ900の径の1.8倍程度の大きさになってしまう。 【0005】現代のLSIチップでは,プローブが接触すべき電極パッドが狭小ピッチ化しているため,プローブも狭小ピッチ化に対応する必要があるが,半田がプローブの径の1.8倍程度になるため,その狭小ピッチ化にも一定の限度があった。 【0006】本発明は上記事情に鑑みて創案されたもので,プリント基板の配線パターンの狭小ピッチ化に対応することができる異種金属接合プローブ,その製造方法及び前記異種金属接合プローブを用いたプローブカードを提供することを目的としている。 【0013】本発明の第1の実施の形態に係る異種金属接合プローブ100は,タングステンからなる略L字形状のプローブ部110と,このプローブ部110の後端に突き合わせ接合された銅線120とを有している。 【0016】タングステンの線材Wと銅の線材Cuとの間に,両者を接合させる- 18 -金属材料としての例えばプラチナPtを介在させる。・・・【0017】この状態において,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとに電気抵抗溶接機の電極をそれぞれ接触させ,5V−1500Aという低電圧,大電流を印加する。すると,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとは,一瞬にして溶着してプラチナPtを介在させた状態で接合される。 【0018】タングステンの線材Wと銅の線材Cuとが接合したならば,銅線120を適当な位置で切断する。さらに,タングステンの線材Wの先端を研磨して先鋭化し,異種金属接合プローブ100の接触部120とする。・・・【0021】なお,上述した実施の形態では,プローブ部110を構成するタングステンの線材Wと銅の線材Cuとの間に,融点がタングステンより低く,かつ銅より高い金属材料として,プラチナPtを介在させたが,ニッケルであってもよい。・・・【0022】また,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとの接合は,電気抵抗溶接以外にレーザ溶接で行うことが可能である。レーザ溶接でタングステンの線材Wと銅の線材Cuとを接合した場合には,電気抵抗溶接より加熱熱量の制御の点で優れている。 【0023】さらに,上記実施の形態では,プローブ部110と銅線120との間に挟み込まれて,両者を接合する金属材料としてプラチナPtとニッケルとを挙げたが,前記金属材料としては,コバルト,パラジウム,クロム又はこれらの合金であってもよい。要するに,金属材料としては,融点がタングステンより低く,かつ銅より高いものであることが重要である。 【0036】また,上述した実施の形態では,異種金属接合プローブ100は,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとの間にプラチナPtを介在させて突き合わせ接合して得ていたが,本発明がこれに限定されるわけではない。例えば,プラチナPtを用いることなく,銅の線材Cuではなく,リン青銅又はベリリウム銅の線材をタングステンの線材Wに直接突き合わせ接合することに構成してもよい。リン- 19 -青銅又はベリリウム銅の線材を用いると,リン青銅又はベリリウム銅は,より低抵抗であるので,測定の安定化に寄与するという利点がある。 【0044】一方,本発明に係る異種金属接合プローブの製造方法は,タングステンからなるプローブ部と,このプローブ部の後端に突き合わせ接合される銅線との間に金属材料を挟み込み,レーザ溶接又は電気抵抗溶接で両者を接合するようになっている。 【0045】従って,この方法によると,接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する異種金属接合プローブとすることができる。」【図1】(2) 引用発明の認定このように,引用例1には,上記第2の3(2)アに記載した引用発明の各構成が個別的でなく一体的関係をもって記載されていると認められるところ,審決が,引用例1の上記記載に基づき,引用発明を上記第2の3(2)アに記載のとおり認定した点に誤りはない。 (3) 原告は,引用例1において,異種金属接合プローブの製造に際し,いかなる方法・条件でレーザ溶接により異種金属接合を行うかについては,何らの開示も- 20 -示唆もなく,また,本件出願時において,レーザ溶接により異種金属接合を行って異種金属接合プローブを製造することについては,何らの技術常識もなかったのであるから,引用例1に,レーザ溶接により異種金属接合を行ってプローブを製造する方法に係る引用発明が記載されているということはできない,と主張する。 しかし,引用例1の出願時において,レーザ溶接は技術分野を問わず部材同士の接合方法として極めて一般的な技術常識であることから,引用例1の記載に接した当業者は,当該技術常識に基づき,過度な試行錯誤等を要することなく,引用発明を実施し得るものと認められる。 よって,原告の主張は理由がない。 また,原告は,引用例1においては,基本的に,タングステンからなるプローブ部110と銅線120とを「プラチナPt等を介在させて」「電気抵抗溶接により」接合する実施形態を前提として説明がなされており,リン青銅又はベリリウム銅の線材をタングステンの線材Wに「直接突き合わせ」「レーザ溶接」により接合することについては,何ら具体的な説明もない,と主張する。 しかし,引用例1には,上記(1)のとおり,タングステンからなるプローブ部110と銅線120とをプラチナPtを介在させて電気抵抗溶接により接合する実施形態の変形例として,電気抵抗溶接の代わりにレーザ溶接を用いること,及び,プラチナPtを用いることなく,銅の線材Cuではなく,リン青銅又はベリリウム銅の線材をタングステンの線材Wに直接突き合わせ接合することが記載されており,これらの記載を総合すると,引用例1には,リン青銅又はベリリウム銅の線材をタングステンの線材Wに直接突き合わせてレーザ溶接により接合することが記載されていると解される。 よって,原告の主張は理由がない。 (4) したがって,取消事由2−1には理由がない。 3 取消事由2−2について原告は,本願発明がまとまりのある構成であるから,相違点1と相違点2とに分- 21 -けて認定すべきではなく,一体的に相違点を認定すべきであると主張する。 しかし,本願発明は,@第1の線材と第2の線材とを突き合わせた状態で接合箇所の外周面にレーザ光を照射することによってレーザ溶接するとともに,レーザ光により第1の線材と第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくするとの構成により,高融点材料の融合不良や低融点材料の溶け過ぎを防止し,両者の溶融するタイミングを合わせて良好な溶接品質を得ることができて,検査用プローブにおける接合箇所の品質を向上することができるとの効果を奏するとともに,A第1の線材及び第2の線材を中心軸回りに回転させながらパルス状のレーザ光を照射するとの構成により,接合部の応力ひずみを均等化し,信頼性を高めることができるとの効果を奏するものである。このように,第1の線材と第2の線材とを突き合わせた状態で接合箇所の外周面にレーザ光を照射することによってレーザ溶接するとともに,レーザ光により第1の線材と第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくすることと,第1の線材及び第2の線材を中心軸回りに回転させながらパルス状のレーザ光を照射することは,必ずしも一体不可分な関係にはなく,技術的には両者を分けて評価することは可能である。 よって,本願発明と引用発明との相違点を上記相違点1及び2の二つに分けて認定したことに誤りはない。取消事由2−2には,理由がない。 4 取消事由2−3について(1) 周知技術の認定についてア 引用例3(甲3)には次の記載がある。 「(産業上の利用分野) 本発明はCO2レーザ光を集光照射させて行なう溶接において終端部にクレータを生じさせないうに (原文ママ) した溶接法に関する。 (1」頁左欄16行ないし右欄2行)「(従来の技術) 一般に円筒または円柱材料のCO2レーザ溶接法においては,- 22 -第1図に示すように,レーザ光1を集光レンズ2によって集光し,集光したレーザ光を被溶接物3に照射しながら,被溶接物3を回転治具4によって,一定あるいは,可変速度で回転させながら溶接が行なわれる。そして,溶接はレーザ光を被溶接物に一回転以上照射させた後,シャッタ等により,レーザ光を遮断し終了させる。」(1頁右欄3行ないし11行)「本発明は,・・・溶接部にクレータを生じさせない溶接法を提供することを目的とする。(2頁左上欄19行ないし右上欄1行)」「(問題点を解決するための手段) 本発明はレーザ光を集光照射させて行なう溶接方法において,少なくともクレータ処理時,つまり,溶接部の溶融池を漸次小さくするときにレーザ光を任意の周波数で出力するパルス発振状態で,平均出力を徐々に減衰させることを特徴とする。(2頁右上欄3行ないし8行)」「(作用) 本発明は,CO2レーザ光をパルス化することによって,金属表面での反射・吸収やプラズマ生成状態などが変化し,低出力においても安定した溶接溶込性が維持できるため,出力減衰によりクレータを小さくする効果が得られる。 2」(頁右上欄9行ないし14行)「〔発明の効果〕 以上述べた様に,本発明はCO2レーザ光をパルス発振させながら出力を徐々に減衰させるようにしたので,金属表面での反射・吸収やプラズマ生成状態などが変化し,低出力においても安定した溶接溶込性が維持できるため,溶接部にはクレータが発生せず,溶接品質を向上させることができる。(2頁右下」欄7行ないし14行)- 23 -イ 引用例4(甲4)には次の記載がある。 「針本体とパイプとの夫々の接合する端面は両者で相互に断面積が異なる為に,溶接する際の加熱がアンバランスとなり,即ちパイプが先に加熱される為に両者の全周を均一にかつ完全に溶接することが困難である等の問題があり,ほとんど実用化されていなかった。 又本件特許出願人はこの問題点を解決する為にレーザービーム又は電子ビームを使用して針本体の元端面とパイプの一端面とを突き合わせながら回転して溶接するアイレス針の製造方法を開発し」(2頁右上欄3行ないし14行)「従って本発明の実施に当たっては針本体1とパイプ2とをチャック軸3a,3bで同期して回転しながら,これ等の溶接部aにその外周側から小パワーのレーザー光6を照射することによって針本体1とパイプ2とを直線状に一体的に接合してアイレス縫合針を製造することが出来る。 (3頁左下欄5行ないし10行)」「針本体1とパイプ2とを突き合わせ,120 r.p.m(2 r.p.s)でこれ等を夫々回転させて,パルスYAGレーザービームを前記突き合わせ部に繰り返しスピード100p.p.s(1秒間に100パルス)で60パルス照射してストップした。 即ち,ビーム照射のスタート地点から1 1/5回転照射してストップした処,前記第4図に示す如く,スタート時の最初の溶接部分Aの溶接の乱れが完全に無くなって,この重ねてビームを照射した最初の溶接部分Aはそれに続く溶接部分Bと全- 24 -く同様に外観に於いてもきれいな均一な溶接痕Xとなり,更にこのビームを重ねて照射した最初の溶接部分Aの断面を観察しても溶け込み深さ,巾とも夫々溶接部分Bと同一であった。(3頁右下欄3行ないし16行)」「<発明の効果> 本発明に於いては上述の如く,少なくともビーム照射により溶接した針本体とパイプとの最初の溶接部分を重ねてビーム照射して溶接するので,ビームの照射をスタートさせた最初の溶接部分で生じた溶接の乱れや溶接の巾が狭く不完全溶接となっている部分を2回目のビーム照射によってその最初の溶接部分に続く他の部分と同様に完全にスムーズで溶接痕のきれいな溶接を確実に施すことが出来,かつ溶接部にクレーター等が発生することを防止することが出来,(4頁」右下欄8行ないし18行)ウ このように,いずれもレーザ溶接に関する技術分野の引用例3及び4には,円筒又は円柱材料を突き合わせレーザ溶接するに際し,両者を中心軸周りに回転させながら外周面にパルス状のレーザ光を照射する技術が記載され,かつ,この引用例3及び4記載技術が,円筒又は円柱材料を突き合わせレーザ溶接する上で有用であることが記載されている。当該引用例記載技術は,昭和63年及び平成元年に公開されたものである上,特に,引用例3にはレーザ溶接一般に適用し得るものとして記載されているのであるから,本願発明の出願時には,既に周知技術であったと認められる。 (2) 相違点1に引用例3及び4記載技術を適用することの容易性について- 25 -ア 引用発明に係る当業者は,線材についてのレーザ溶接に関する知見を得ようとするわけであるから,円筒様部材についてのレーザ溶接の手法を開示した引用例3及び4に接し,そこに記載の技術を引用発明に適用する動機付けがあると認められる。 そうすると,引用例3及び4に接した当業者であれば,当該引用例記載技術を適用して,引用発明において,リン青銅又はベリリウム銅の線材とタングステンの線材とを直接突き合わせてレーザ溶接により接合する際,リン青銅又はベリリウム銅の線材とタングステンの線材とを中心軸回りに回転させながらパルス状のレーザ光を照射するようにすること,すなわち,相違点1に係る本願発明の構成とすることは容易に想到し得たものと認められる。 イ 原告は,引用発明における接合部の径の増大を抑えるという課題と,引用例3及び4における,溶接部のクレータのようなくぼみが生じるという課題とは,課題が全く異なる(又は課題が正反対である。)から,相違点1に引用例3及び4記載技術を適用する動機付けはない,と主張する。 しかし,引用発明における接合部の径の増大を抑えるという課題は,プローブと銅線とを半田付けで接続することにより接続部の径が増大するという従来技術に対して設定された課題であり,そのために引用発明は,半田付けに代えてレーザ溶接を採用したというものである。そして,レーザ溶接を試みれば,引用例3及び4が開示する,溶接部にクレータのようなくぼみが生じるという課題も生じ得るのであり,両者の課題の方向性が異なるものではない。引用例3及び4記載技術のレーザ溶接技術としての有用性を理由として,引用例3及び4記載技術を積極的に採用しようという動機付けがあることは,既に述べたとおりである。 よって,原告の主張は理由がない。 ウ また,原告は,引用発明に,同一の材料を溶接する引用例3及び4記載技術を適用することができるかは全く不明であり,かえって,融点の差があることから,短時間のパルス照射では適切な溶接を行うことができないと当業者は考える- 26 -はずであるから,引用発明に引用例3及び4記載技術を適用するには阻害要因がある,と主張する。 しかし,上記(1)に記載のとおり,引用例3及び4記載技術は,同一材料であるか異種材料であるかに関わらない周知技術である。 よって,原告の主張は理由がない。 エ 以上のとおりであるから,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,引用発明,引用例3及び4に記載された事項に基づいて容易に想到し得るものである。 5 取消事由2−4について(1) 引用例2記載技術の認定ア 引用例2(甲2)には次の記載がある。 【0001】 本発明は,自動車,船舶,建材等に用いられる構造材の製造方法にかかるもので,特に,金属板を突き合わせてレーザー溶接した溶接金属板の製造方法に関するものである。 【0004】 ところが,互いに融点の異なる金属板,例えば鋼板とアルミニウム合金板を溶接すれば,いわゆるテーラードブランク材を製造できるが,融点の異なる板材をレーザー突き合わせ溶接することに技術的な困難性がある。 【0006】 従来のレーザー突合せ溶接方法で融点の異なる板をレーザー突合せ溶接する場合には,図1に示すように,融点の高い板1と融点の低い板2とを突合せ,突合せ線に沿ってレーザートーチ3を移動させながらレーザー照射4を行って,溶接ビード5を形成するものである。ところが,図2(a)に示すように融点の高い板1と融点の低い板2との突合せ部6にレーザービーム7を照射してレーザー溶接すると,図2(b)に示すように,溶接ビード5が融け落ち8て,大きな穴が貫通し穴開き9状態となり,良好な溶接ビードが形成されない。このため,融点の異なる板をレーザー突合せ溶接することは困難であった。 【0012】 そこで,本発明は互いに融点の異なる金属板をレーザー突合せ溶- 27 -接する際に,良好な溶接ビードを形成することができるレーザー突合せ溶接方法を提供することを課題とするものである。 【0015】 溶接ビード付近で大きな穴が貫通し,良好な溶接ビードが形成できない原因は,レーザービームにより,突合せ部分にレーザービームを照射した場合,即ち,両方の金属板に均等なレーザービームを投入した場合,融点の高い材料が十分溶融するようなエネルギーを照射されるので,融点の低い方の材料への投入熱量が過多となり融け落ちて,結果として穴があいてしまう。また,逆に融点の低い方の材料が適度に溶融するようなレーザービームを照射した場合,融点の高い方の材料のエッジ部が十分に溶融せずに,うまく接合できないことに原因がある。 【0016】 本発明者は,融点の高い材料にレーザービームを照射し,融点の高い方の材料を溶融し,その溶融金属からの伝熱でもう片方の融点の低い材料に間接的に熱を加え,双方を適度に溶融すれば,穴空きのないスムースな溶接ビードを得ることができることを見出して本発明を完成した。 【0018】 (1) 融点の異なる金属板をレーザーによる突き合わせ溶接で溶接して溶接金属板を製造する方法において,レーザービームを融点の高い金属板のみに照射することを特徴とするレーザーによる突合せ溶接金属板の製造方法。 【0019】 (2) 融点の異なる金属板をレーザーによる突合せ溶接で溶接して溶接金属板を製造する方法において,融点の高い方の金属板に照射するレーザーエネルギーを融点の低い方の金属板に照射するエネルギーより大きくすることを特徴とするレーザーによる突合せ溶接金属板の製造方法。 【0030】 接合する材料の融点の差の大きさによって,ビーム焦点位置のシフト量は異なるが,例えばレーザービーム焦点の有効直径部分を融点の高い板のみに照射し,有効直径外の拡散ビームを融点の低い板に照射するようにする。 【0031】 図3(b)の溶接後の溶接断面図に示すように,融点の高い板1は,レーザービーム照射により溶融し,溶融した金属からの伝熱及び拡散ビームの熱エネルギーによって融点の低い方の板2が溶融する。突合せ部で両方の板を適度- 28 -に溶融させることができるので,穴明きのない10滑らかな溶接ビード5を得ることができる。 【0032】 レーザービームの焦点を突合せ部から融点の高い板のほうにずらすシフト量は,ビーム焦点の有効直径の大きさによって異なるが,通常その大きさは0.2〜0.3mmであるから,シフト量は0.1〜0.5mmとすることが好ましい。シフト量が少ないと,融点の低い板にレーザービームの高いエネルギーが照射されて融点の低い板の溶融が過多となり,融け落ちて,溶接部の穴明きの原因となる。一方,シフト量が多すぎると,融点の高い板の突合せ部の溶融が不充分となり,溶接ビードを形成することができなくなる。したがって,滑らかで良好な溶接ビードを得るためのシフト量を選定して,溶接を行うことが必要である。 【0033】 即ち,レーザービームを照射したときのエネルギー密度の分布に基づき,融点の高い板に照射されるレーザービームのエネルギーを融点の低い板に照射されるレーザーエネルギーよりも大きくして,両方の板が突合せ部で等しく溶融できる大きさのシフト量に設定すればよい。 【図2】 【図3】イ このように,レーザ溶接に関する技術分野の引用例2には,融点の異なる金属板を突き合わせレーザ溶接するに際し,レーザビームの照射位置を融点の高- 29 -い板側にシフトすることにより,融点の高い板への投入エネルギを大きく,融点の低い板への投入エネルギを小さくして,突合せ部で両方の板を適度に溶融させる技術が記載され,かつ,この引用例2記載技術が融点の異なる金属板を突き合わせレーザ溶接する上で有用であることが記載されている。 (2) 相違点2に引用例2記載技術を適用することの容易性についてア 引用例2記載技術は,異種金属板の突き合わせレーザ溶接に関するものであるが,溶接したい金属の融点が異なることを課題として着目した技術内容であって,金属の形状等を問わないものであると解されるから,融点の異なる金属材料を突き合わせレーザ溶接するに際し,レーザビームの照射位置を融点の高い材料側にシフトすることにより,融点の高い材料への投入エネルギを大きく,融点の低い材料への投入エネルギを小さくして,突合せ部で両方の材料を適度に溶融させるという金属板に限定されない一般的な異種金属間のレーザ溶接の要素技術を開示するものと認められる。したがって,引用発明を前提として,異種金属間のレーザ溶接に関する知見を得ようとする当業者においては,異種金属間のレーザ溶接における課題とその解決手段を開示する引用例2に接し,引用発明に引用例2記載技術を適用することを動機付けられるものと認められる。 そうすると,引用例2に接した当業者であれば,当該引用例記載技術を適用して,引用発明において,リン青銅又はベリリウム銅の線材とタングステンの線材とを直接突き合わせてレーザ溶接により接合する際,レーザビームの照射位置を融点の高いタングステンの線材側にシフトすることにより,融点の高いタングステンの線材へ与えられるエネルギを大きく,融点の低いリン青銅又はベリリウム銅の線材へ与えられるエネルギを小さくして,接合部で両方の線材を適度に溶融させるようにすること,すなわち,相違点2に係る本願発明の構成とすることは容易に想到し得たものと認められる。 イ 原告は,引用例2は,板材同士の接合に関するものであって,接合部の径の増大を抑えるなどという技術思想が含まれているはずがないから,引用発明に- 30 -引用例2記載技術を適用する動機付けは全くない,と主張する。 しかし,引用発明における接合部の径の増大を抑えるという課題は,前記4(2)イのとおり,プローブと銅線とを半田付けで接続することにより接続部の径が増大するという従来技術に対して設定された課題であり,そのために引用発明は,半田付けに代えてレーザ溶接を採用し,その結果,異種金属間のレーザ溶接を行うものである。一方,引用例2記載技術の課題は,異種金属間のレーザ溶接の品質向上を図るものであるから,両者の課題は共通し得るものであり,引用発明に引用例2記載技術を適用する動機付けが認められる。 よって,原告の主張は理由がない。 ウ 原告は,引用発明におけるプローブの太さと,引用例2における金属板の厚さとのスケールが格段に違い,また,溶接の対象となる二つの材料の融点の差は,引用発明は,引用例2に記載の技術の場合と比べて,格段に大きいから,プローブの製造の技術分野に属する当業者が仮に引用例2に接したとしても,これを引用発明に適用しようとは考え付かない,と主張する。 しかし,引用例2記載技術は,溶接対象となる異種金属の融点の差異に着目した技術であって,当該金属のサイズや材質に関わらない技術である。そして,引用例2の段落【0028】に,「シフト量は板厚,溶接速度,レーザー出力等の溶接条件によって決められる。また,溶接装置に溶接すべき板の融点,板厚,溶接速度,レーザー出力等の溶接条件を入力することにより,シフト量を自動設定することも可能である。 と記載されているとおり,」 溶接対象金属のサイズ及び材質に応じてシフト量を設定することは,試行錯誤的に適宜設定し得る事項であると考えられることから,仮に原告が主張するとおり,引用発明と引用例2記載技術との間にスケール及び融点の差の大きな相違が認められるとしても,それが適用の動機付けを否定する根拠とはならない。 よって,原告の主張は理由がない。 (3) また,原告は,相違点2に引用例2記載技術を適用しても,本願発明の構- 31 -成には到らない,と主張する。 しかし,かかる主張は,引用例2記載技術が,レーザービームを融点の高い金属板のみに照射する技術であることを前提としたものであり,上記のとおり,引用例2記載技術は,レーザービームを融点の高い金属板のみに照射する技術ではないのであるから,失当である。 (4) 以上のとおりであるから,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて容易に想到し得るものである。 6 取消事由2−5について原告が主張する本願発明の「融点の異なる材料からなる線材を接合する場合であっても,高融点材料の融合不良や低融点材料の溶け過ぎを防止し,両者の溶融するタイミングを合わせて良好な溶接品質を得ることができる」との効果は,引用例2記載技術が奏する効果と同等なものであるから,本願発明が奏する効果は,当業者が,引用発明及び引用例2ないし4に記載された事項から予測できる範囲内のものである。 取消事由2−5には,理由がない。 第6 結論以上のとおり,原告の請求には理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官清 水 節- 32 -裁判官片 岡 早 苗裁判官新 谷 貴 昭- 33 - |
事実及び理由 | |
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全容
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