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関連審決 不服2002-21545
関連ワード 技術的特徴 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 4号 審決取消請求事件
原告 岡部株式会社
訴訟代理人弁理士 福島英一
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 山田忠夫,新井夕起子,高橋泰史,大橋信彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2002−21545号事件について平成15年11月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成7年3月3日,本件特許出願「ベランダ用パイプ取付金具」(特願平7-70502号)をし,平成12年9月4日付け手続補正書により明細書の全文及び図面に関する補正(本件補正)をしたところ,本件補正は特許法17条の2第2項において準用する同法17条2項(平成6年法律第116号6条1項による改正前のもの)に規定する要件を満たしていないとの理由(平成6年法律第116号6条1項により従前の例によるとされていることに伴い適用される,同法律による改正前の特許法49条1号の規定に基づくもの)により,平成14年10月9日に拒絶査定を受けたので,同年11月7日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,同請求を不服2002-21545号事件として審理した上,平成15年11月25日「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年12月9日に原告に送達された。
2 本願発明の要旨 (1) 出願当初の特許請求の範囲の記載(下線は,本訴の争点を明らかにするために付したもの)【請求項1】 上面に下方階 のベランダ の立上 がり 壁部 の上端部 と上方階 のベランダの下面 との 間に設置 される サポート 部材 の下端部 に係合可能 な係止部 を形成 した横部材 と,該横部材の一端部に設けられ,ベランダの立上がり壁部の側面に当接可能に構成されるとともに外面に適宜数のクランプを付設した長縦部材と,前記横部材の他端部に設けられ,前記長縦部材の長さ方向の中間位置に対応する前記立上がり壁の反対側面を締付可能な締付手段を付設した短縦部材とからなることを特徴とするベランダ用パイプ取付金具。
【請求項2】 前記長縦部材を角パイプから構成し,その上下の外面にクランプを回動自在に付設するとともに,それらのクランプと対向して前記長縦部材の内側面に形成したクランプ取付用の開孔部にキャップを付設し,該キャップにより前記長縦部材をベランダの立上がり壁部の表面より浮かせることによって,それらの各キャップの部分と前記短縦部材に付設された締付手段とにより前記立上がり壁部の側面を3点で締付ける構造にしたことを特徴とする請求項1記載のベランダ用パイプ取付金具。
【請求項3】 前記横部材を伸縮調整可能に構成することにより前記長縦部材と短縦部材との間隔を調整可能にしたことを特徴とする請求項1又は2記載のベランダ用パイプ取付金具。
(2) 本件補正による特許請求の範囲の記載【請求項1】横部材と,該横部材の一端部に設けられ,ベランダの立上がり壁部の側面に当接可能に構成されるとともに外面に適宜数のクランプを付設した長縦部材と,前記横部材の他端部に設けられ,前記長縦部材の長さ方向の中間位置に対応する前記立上がり壁の反対側面を締付可能な締付手段を付設した短縦部材とからなるベランダ用パイプ取付金具において,前記長縦部材を角パイプから構成して,その上下の外面にクランプを付設するとともに,それらのクランプと対向して前記長縦部材の内側面に形成したクランプ取付用の開孔部にキャップを付設し,該キャップにより前記長縦部材をベランダの立上がり壁部の表面より浮かせることによって,それらの各キャップの部分と前記短縦部材に付設された締付手段とにより前記立上がり壁部の側面を3点で締付けるように構成したことを特徴とするベランダ用パイプ取付金具。
【請求項2】前記横部材を伸縮調整可能に構成することにより前記長縦部材と短縦部材との間隔を調整可能にしたことを特徴とする請求項1に記載のベランダ用パイプ取付金具。
(以下には,請求項に対応して,補正発明1,2と表記する。) 3 審決の理由の要点 (1) 補正後の特許請求の範囲の各請求項に記載された「横部材」について検討する。
(2) 出願当初の明細書には,「横部材」に関して,以下の記載がある。
「【請求項1】上面に下方階のベランダの立上がり壁部の上端部と上方階のベランダの下面との間に設置されるサポート部材の下端部に係合可能な係止部を形成した横部材と,該横部材の一端部に設けられ,ベランダの立上がり壁部の側面に当接可能に構成されるとともに外面に適宜数のクランプを付設した長縦部材と,前記横部材の他端部に設けられ,前記長縦部材の長さ方向の中間位置に対応する前記立上がり壁の反対側面を締付可能な締付手段を付設した短縦部材とからなることを特徴とするベランダ用パイプ取付金具。」「【請求項3】前記横部材を伸縮調整可能に構成することにより前記長縦部材と短縦部材との間隔を調整可能にしたことを特徴とする請求項1又は2記載のベランダ用パイプ取付金具。」「【0004】【課題を解決するための手段】本発明は,上面に下方階のベランダの立上がり壁部の上端部と上方階のベランダの下面との間に設置されるサポート部材の下端部に係合可能な係止部を形成した横部材と,該横部材の一端部に設けられ,ベランダの立上がり壁部の側面に当接可能に構成されるとともに外面に適宜数のクランプを付設した長縦部材と,前記横部材の他端部に設けられ,前記長縦部材の長さ方向の中間位置に対応する前記立上がり壁の反対側面を締付可能な締付手段を付設した短縦部材とからベランダ用パイプ取付金具を構成したことを特徴とする。……さらに,前記横部材を伸縮調整可能に構成することにより前記長縦部材と短縦部材との間隔を調整可能に構成することができる。」「【0005】【作用】本発明によれば……。また,上方階のベランダの下面と下方階のベランダの立上がり壁部の上端部との間にサポート部材を設置する場合には,そのサポート部材の下端部を前記横部材の上面に形成した係止部に係合することにより極めて容易に設置することができる。さらに……。また,横部材を伸縮調整可能に構成して前記長縦部材と短縦部材との間隔を調整可能に構成することにより立上がり壁部の厚さに対する適用範囲を拡大できる。」「【0006】【実施例】以下,図面を用いて本発明の実施例に関して説明する。図面は本発明の一実施例としてベランダの立上がり壁部に形成された開口部を塞ぐための防護用のパイプを取り付ける場合の取付状態を示したもので,図1は縦断面図,図2は正面図,図3は部分拡大図を示したものである。図中,1,2は適宜階数のPCベランダを例示したもので,3,4はその立上がり壁部である。5,6は立上がり壁部3,4の上端部の手摺り部分に固定したベランダ用パイプ取付金具である。このパイプ取付金具5,6は,図2に示すように,立上がり壁部3,4の途中に形成された開口部7,8の両側の上端部に固定され,後述のクランプを介して防護用のパイプ9,10が取り付けられるように構成されている。また,それぞれの取付金具5,6の上面には,サポート部材9が設置され,端太角材10を介して上方階のベランダの立上がり壁部4の底面を支持している。
【0007】前記パイプ取付金具5,6は,図3に示すように,上方に位置する横部材11と……長縦部材12と……短縦部材13とから構成される。なお,本実施例においては,前記横部材11は立上がり壁部3,4の上端面に安定して当接するように角パイプから形成され……。そして,前記横部材11の上面には,各階のベランダの立上がり壁部間に設置される前記サポート部材9の下端部が係合可能な逆U字状の係止部14が形成されている。……。
【0008】図4は他の実施例を示した部分拡大図,図5はその平面図,図6は底面図である。本実施例は,前記実施例と比べ,横部材21に対して摺動可能に嵌入された挿入部22の挿入量を調整してその長さを伸縮調整することにより,立上がり壁部3,4の厚さに応じて長縦部材23と短縦部材24との間隔を調整し得るように構成した点で特徴を有する。なお,図中,25は調整用の止めピンで,前記挿入部22の所定の数カ所に開孔された係合孔に挿通することにより段階的に位置決めを行う。……。」「【0010】【発明の効果】本発明によれば,ベランダの立上がり壁部を利用することにより必要なパイプを簡便かつ強固に取り付けることが可能である。その場合,前記締付手段による締付位置を長縦部材の長さ方向の中間位置に対応する位置としたので安定かつ確実な締付作用が得られる。特に,前記キャップを介した3点締付構造とした場合には締付作用が更に安定する。また,前記横部材の上面に形成した係止部を利用することにより各階のベランダ間に設置するサポート部材の設置作業が極めて容易になる。さらに,横部材を伸縮調整可能に構成し,前記長縦部材と短縦部材との間隔を調整可能に構成することにより,立上がり壁部の厚さに対する適用範囲を拡大することができる。」 (3) 上記のとおり,出願当初の明細書の記載によれば,「横部材」は,その上面にサポート部材を係合させるための「係止部」を形成したものについてしか記載されておらず,そのような「係止部」を有しない「横部材」については何らの記載も示唆もない。この点,図3〜5も同様である。
一方,補正発明1,2は,「横部材」にそのような「係止部」を設けることについて何ら記載されていないから,補正発明1,2が「係止部」のない「横部材」を構成要素の一部とする「ベランダ用パイプ取付け金具」を含むことは明らかであって,そのような「係止部」を有しない「横部材」は,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではない。
(4) 以上のように,本件補正は,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法17条の2第2項において準用する同法17条2項(判決注・平成6年法律第116号6条1項により従前の例によるとされていることに伴い適用される,同法律による改正前の特許法の規定)に規定する要件を満たしていない。
原告主張の審決取消事由
補正発明1,2は,「3点締付構造」を技術的特徴とする発明に補正されたものであって,「係止部」の有無は構成要件としていない。すなわち,ここでの問題は,「係止部」の有無を構成要件としない,「3点締付構造」を技術的特徴とする補正発明1,2の成立性と,それらの補正発明1,2が出願当初の明細書又は図面に記載されていたか否かである。けだし,出願当初の明細書又は図面に記載され,かつ成立性を備える発明は,先願権によって保護される範囲内のものであり,それを特許請求の範囲に上げるか否かは,また出願人の補正権の範囲内の専権事項であるからである。
「3点締付構造」における支持目的物は,長縦部材の外面に付設したクランプを介して取り付けられるパイプであると解すべきであり,「係止部」の支持目的物である各階のベランダ間に設置するサポート部材とは,その支持対象を異にしていることから,「3点締付構造」を技術的特徴とする補正発明1,2において,必ず「係止部」についても同時に採用しなければならないという技術的に不可分な必然性は存在しない。「3点締付構造」との関連では,その前提要件としての取付金具に係る構成要件としては,横部材と,その横部材の一端部に設けられた外面にクランプを付設した長縦部材と,他端部に設けられた前記長縦部材の長さ方向の中間位置に対応する立上がり壁の反対側面を締付可能な締付手段を付設した短縦部材を備えれば十分であると解される。
したがって,「係止部」の有無を要件としない構成(本件補正後の請求項1中「横部材と,……長縦部材と,短縦部材とからなるベランダ用パイプ取付金具において,」の構成)と,「3点締付構造」を技術的特徴とする構成(本件補正後の請求項1中,上記に続く構成)は,出願当初の明細書に記載された事項の範囲内である。
これに反する審決の認定判断は誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
出願当初の明細書又は図面に,サポート部材を係合するための「係止部」を有しない「横部材」について何らの記載も示唆もない以上,補正が,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではないことは明らかであり,審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 当初明細書(甲4)の記載によれば,本願発明(出願当初の請求項1ないし3の発明を総称して「本願発明」という。)は,建築現場においてPCベランダ等の立上がり壁部の開口部に防護用のパイプを設置する場合などに好適なベランダ用パイプ取付金具に関するものであり(【0001】),その目的とするところは、
PCベランダ等のベランダ構成部材に付設される壁つなぎ用のアンカーなどに頼らずに、簡便に必要なパイプを取り付けることが可能なベランダ用パイプ取付金具を提供することにある(【0003】)ことが認められる。
補正前の特許請求の範囲における本願発明の構成にある横部材は,当初明細書の記載によれば,長縦部材と短縦部材を架橋し,壁部の側面を締め付ける手段に関する構成のものであることが明らかであり,横部材の上部にサポート部材を係止することが,PCベランダ等の立上がり壁部の開口部に防護用のパイプを設置する場合などにおいて,技術的に関連するものであることの記載は,当初明細書にはない。
2 なるほど,当初の特許請求の範囲の記載に従って,【0004】【課題を解決するための手段】には,「上面に下方階のベランダの立上がり壁部の上端部と上方階のベランダの下面との間に設置されるサポート部材の下端部に係合可能な係止部を形成した横部材」との記載があり,また,【0010】【発明の効果】に,「横部材の上面に形成した係止部を利用することにより各階のベランダ間に設置するサポート部材の設置作業が極めて容易になる」との記載がある。
しかしながら,【0005】【作用】には,「上方階のベランダの下面と下方階のベランダの立上がり壁部の上端部との間にサポート部材を設置する場合には、そのサポート部材の下端部を前記横部材の上面に形成した係止部に係合することにより極めて容易に設置することができる」との記載があり,この記載からみると,横部材の上部にサポート部材を係止することは,本願発明にとって付加的な要素にすぎないものと認められる。上記【0004】,【0010】の記載もこの付加的な要素についての手段及び効果について触れたものと認めることができる。
当初明細書には,実施例の説明においてもサポート部材に関する記載があるが,あくまでも実施例に関するものにすぎず,上記認定を妨げるものではない。
3 そして,立上がり壁部の開口部を塞ぐ防護用のパイプを設置するに当たり,壁部の側面を締め付けるために,横部材の上部にサポート部材を上方から係止する構成が,技術的視点から見て必然的に伴うものと認めることはできないから,「出願当初の明細書の記載によれば,「横部材」は,その上面にサポート部材を係合させるための「係止部」を形成したものについてしか記載されておらず,そのような「係止部」を有しない「横部材」については何らの記載も示唆もない。」とした審決の認定は誤りである。
この認定を前提にして,「本件補正は,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない」とし,本件審判請求を成り立たないものとした審決は誤りであり,取り消されるべきである。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由があるので,原告の請求は認容されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久