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追加

関連審決 不服2014-4404
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事件 平成 26年 (行ケ) 10277号 審決取消請求事件

原告X
同訴訟代理人弁理士 滝田清暉
被告特許庁長官
同 指定代理人畑井順一
同 黒瀬雅一
同 井上茂夫
同 根岸克弘
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/09/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2014-4404号事件について平成26年11月20日に した審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成22年3月2日,発明の名称を「隔壁付きベッド及びそれに 使用する隔壁」とする特許出願をしたが(特願2010-45198号。以 下「本願」という。甲1),平成25年12月5日付けで拒絶査定を受けた (甲6)。
(2) 原告は,平成26年3月6日,これに対する不服の審判を請求するととも に,同日付け手続補正書により,特許請求の範囲の補正をした(以下「本件 補正」という。請求項数13。甲7)。
(3) 特許庁は,これを不服2014-4404号事件として審理し,平成26 年11月20日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立た ない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。) をし,その謄本は,同年12月5日,原告に送達された。
(4) 原告は,平成26年12月26日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を 提起した。
2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件補正前(平成25年10月24日付け手続補正書(甲5)による補正 後のもの。請求項数14。以下同じ。)の特許請求の範囲の記載は,次のと おりである。以下,本件補正前の請求項に記載された発明を,請求項の番号 に従って「本願発明1」などといい,併せて「本願発明」という。また,本 件補正前の明細書(甲1,4,5)を,図面を含めて「本願明細書」という。
【請求項1】部屋を分割するために使用される隔壁付きベッドであって,ベ ッドの一つの側面,又は(逆)L字型を構成する二つの側面に,少なくとも, ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有する,間仕切り用の隔壁を設けてな ると共に,前記ベッドが有する足に移動用のキャスターが設けられてなるこ とを特徴とする隔壁付きベッド。
【請求項2】前記隔壁の幅が,取り付けるベッド側面の長さ以上の幅を有す る,請求項1に記載された隔壁付きベッド。
【請求項3】前記隔壁が,高さ及び/又は長さにおいて調整可能な隔壁である, 請求項1又は2に記載された隔壁付きベッド。
【請求項4】前記隔壁が,底面に,床との間に長さ調整可能な支持具を有す る,請求項1〜3のいずれかに記載された隔壁付きベッド。
【請求項5】前記長さ調整が可能な隔壁の底部に,戸車が設けられている,請求項3又は4に記載された隔壁付きベッド。
【請求項6】前記キャスターがロック可能なキャスターである,請求項1〜5の何れかに記載された隔壁付きベッド。
【請求項7】前記二つの隔壁の接続部に,接続を隠すカバーが設けられている,請求項6に記載された隔壁付きベッド。
【請求項8】前記隔壁の,ベッド側の何れかの部分にルームライトを有する,請求項1〜7の何れかに記載された隔壁付きベッド。
【請求項9】前記隔壁の何れかの上部に,天井との間に突っ張り棒を設置することが可能な部分が少なくとも1箇所存在する,請求項1〜8の何れかに記載された隔壁付きベッド。
【請求項10】隔壁上部に存在する,前記天井との間に突っ張り棒を設置することが可能な部分が,前記隔壁の底面に設けられた支持具の位置,及び/又は,隔壁とベッド側面との系合部の位置と対応する,請求項9に記載された隔壁付きベッド。
【請求項11】部屋の内部を仕切る隔壁であって,ベッドの側面及び/又は足に固定できるように,ベッド側面及び/又は足と対応する少なくとも一箇所に,ベッド側面又は足に固定可能な固定手段を少なくとも一つ有することを特徴とする,請求項1〜10の何れかに記載された隔壁付きベッド用隔壁。
【請求項12】前記隔壁が高さ方向に補強骨を有し,該補強骨の底部に床との間の高さ調節可能な支持具を有すると共に,少なくとも前記補強骨の上部に,天井との間に突っ張り棒を設置することのできる平面を有することを特徴とする,請求項11に記載された隔壁付きベッド用隔壁。
【請求項13】前記支持具がキャスター付き支持具である,請求項12に記載された隔壁付きベッド用隔壁。
【請求項14】前記隔壁が,引き戸方式及び/又は折り畳み方式で長さが可 変となっている,請求項11〜13の何れかに記載された隔壁付きベッド用 隔壁。
(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲7)。
【請求項1】部屋を分割するために使用される隔壁付きベッドであって,ベ ッドの一つの側面,又は(逆)L字型を構成する二つの側面に,少なくとも, ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有する,間仕切り用の隔壁を設けてな ると共に,前記ベッドが有する足に移動用のキャスターが設けられてなるこ とを特徴とする隔壁付きベッド。
【請求項2】前記隔壁の幅が,取り付けるベッド側面の長さ以上の幅を有す る,請求項1に記載された隔壁付きベッド。
【請求項3】前記隔壁が,高さ及び/又は長さにおいて調整可能な隔壁である, 請求項1又は2に記載された隔壁付きベッド。
【請求項4】前記隔壁が,底面に,床との間に長さ調整可能な支持具を有す る,請求項1〜3のいずれかに記載された隔壁付きベッド。
【請求項5】前記長さ調整が可能な隔壁の底部に,戸車が設けられている, 請求項3又は4に記載された隔壁付きベッド。
【請求項6】前記キャスターがロック可能なキャスターである,請求項1〜 5の何れかに記載された隔壁付きベッド。
【請求項7】前記(逆)L字型を構成する隔壁の少なくとも一方の自由端に, 扉として機能し得る,開閉可能な隔壁が設けられている,請求項1〜6の何 れかに記載された隔壁付きベッド。
【請求項8】前記隔壁の何れかの上部に,天井との間に突っ張り棒を設置す ることが可能な部分が少なくとも1箇所存在する,請求項1〜7の何れかに 記載された隔壁付きベッド。
【請求項9】部屋の内部を仕切る隔壁であって,ベッドの側面及び/又は足 に固定できるように,ベッド側面及び/又は足と対応する少なくとも一箇所 に,ベッド側面又は足に固定可能な固定手段を少なくとも一つ有することを 特徴とする,請求項1〜8の何れかに記載された隔壁付きベッド用隔壁。
【請求項10】前記隔壁の一方の端部に,扉として機能し得る開閉可能な隔 壁を有する,請求項9に記載された隔壁付きベッド用隔壁。
【請求項11】前記隔壁が高さ方向に補強骨を有し,該補強骨の底部に床と の間の高さ調節可能な支持具を有すると共に,少なくとも前記補強骨の上部 に,天井との間に突っ張り棒を設置することのできる平面を有することを特 徴とする,請求項9又は10に記載された隔壁付きベッド用隔壁。
【請求項12】前記支持具がキャスター付き支持具である,請求項11に記 載された隔壁付きベッド用隔壁。
【請求項13】前記開閉可能な隔壁が,蛇腹方式で長さが可変となっている 隔壁である,請求項10〜12の何れかに記載された隔壁付きベッド用隔壁。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに, @本件補正のうち本件補正後の請求項13に係る補正は,「蛇腹方式で長さ が可変となっている隔壁」との事項を追加するものであるが,本願の願書に 最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「本願当初明細書 等」という。)の記載から導かれる技術的事項との関係において新たな技術 的事項を導入するものであり,本願当初明細書等に記載した事項の範囲内で するものではなく,また,本件補正のうち本件補正後の請求項7,10及び 13に係る補正は,それぞれ「扉として機能し得る,開閉可能な隔壁が設け られている」,「扉として機能し得る開閉可能な隔壁を有する」,「蛇腹方 式で長さが可変となっている隔壁」との発明特定事項を新たな請求項として 追加するものであり,特許請求の範囲減縮,請求項の削除,誤記の訂正又 は明りょうでない記載の釈明を目的とするものではないから,これらの補正 事項を含む本件補正は,特許法17条の2第3項,第5項の規定に違反する ものとして却下した上で,A本願発明1は,本願の出願前に頒布された刊行 物である特開平7-184744号公報(甲2。以下「引用例」という。) に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に 発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許 を受けることができないものであるから,本願は拒絶すべきものである,と いうものである。
(2) 本件審決が認定した引用発明,本願発明1と引用発明との一致点及び相違 点は,以下のとおりである。
ア 引用発明 ベッド1は,ベッド本体2とこのベッド本体2の外周部に立設されたベ ッド壁3とを主体として構成されており,ベッド壁3は,ベッド本体2の 約2倍の高さに形成され,ベッド本体2と一体的に構成され,平面視L字 状をなし,ベッド壁3によって寝室12を区切るベッド1。
イ 本願発明1と引用発明との一致点 部屋を分割するために使用される隔壁付きベッドであって,ベッドの (逆)L字型を構成する二つの側面に,間仕切り用の隔壁を設けてなる, 隔壁付きベッド。
ウ 本願発明1と引用発明との相違点 (ア) 相違点1 本願発明1の「隔壁」が,「少なくとも,ベッド本体部高さの3倍以 上の高さを有する」ものであるのに対し,引用発明の「ベッド壁3」は, 「ベッド本体2の約2倍の高さに形成され」ている点。
(イ) 相違点2 本願発明1の「ベッドが有する足に移動用のキャスターが設けられ て」いるのに対して,引用発明は,その点につき明らかでない点。
4 取消事由 (1) 本件補正を却下した判断の誤り(取消事由1) (2) 本願発明1の容易想到性に係る認定判断の誤り ア 本願発明1の要旨認定の誤り(取消事由2-1) イ 本願発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由2 -2) ウ 相違点に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2-3) (3) 従属項に対する判断の遺脱(取消事由3)
当事者の主張
1 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 新規事項の追加について 本件審決は,本件補正後の請求項13に係る補正は,「蛇腹方式で長さが 可変となっている隔壁」との事項を追加するものであるが,本願当初明細書 等には,隔壁が「蛇腹方式」であることは記載されておらず,隔壁が「蛇腹 方式」であることは本願当初明細書等の記載から導き出せる事項であるとも いえないとして,上記補正事項は,新たな技術的事項を導入するものであり, 本願当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものではない旨判断した。
しかしながら,「蛇腹方式」の隔壁は,本願当初明細書等の【0013】 に記載された「折りたたみ形式」の隔壁の一態様であるといえるものであり (甲10〜14),このことは,その記載から容易に理解されることである。
(2) 補正の目的について 本件審決は,本件補正後の請求項7,10及び13に係る補正は,それぞ れ「扉として機能し得る,開閉可能な隔壁が設けられている」,「扉として 機能し得る開閉可能な隔壁を有する」,「蛇腹方式で長さが可変となってい る隔壁」との発明特定事項を新たな請求項として追加するものであるから, 特許請求の範囲減縮,請求項の削除,誤記の訂正又は明りょうでない記載 の釈明を目的とするものではない旨判断した。
しかしながら,本件補正前の請求項3には「高さ及び/又は長さにおいて 調整可能」である隔壁が,同請求項14には,「引き戸方式及び/又は折り 畳み方式で長さが可変となっている隔壁付きベッド用隔壁」が記載されてい るところ,本件補正後の請求項7,10及び13に記載された隔壁は,これ らの隔壁の一態様であって,本件補正は特許請求の範囲減縮を目的とする ものであることは明らかである。また,本件補正後の請求項7,10及び1 3は,本件補正前の請求項1を減縮するものである。
(3) 以上のとおり,本件審決が本件補正を却下した判断は誤りである。
〔被告の主張〕 (1) 新規事項の追加について 本願当初明細書等には,隔壁が「蛇腹方式で長さが可変となっている」も のであることは記載されておらず,また,隔壁が「蛇腹方式で長さが可変と なっている」ことは,本願当初明細書等の記載からみて,自明な事項である とはいえない。
したがって,本件補正後の請求項13に係る補正事項は,本願当初明細書 等に記載した事項の範囲内においてするものではない。
(2) 補正の目的について 本件補正後の請求項7,10及び13に係る補正は,それぞれ「扉として 機能し得る,開閉可能な隔壁が設けられている」,「扉として機能し得る開 閉可能な隔壁を有する」,「蛇腹方式で長さが可変となっている隔壁」との 発明特定事項を新たな請求項として追加するものであるから,特許請求の範 囲の減縮,請求項の削除,誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的 とするものではない。
(3) したがって,本件審決における判断に誤りはない。
2 取消事由2-1(本願発明1の要旨認定の誤り)について 〔原告の主張〕 本件審決は,本願発明1の要旨を前記第2の2(1)のとおり認定したが,以下 のとおり,本願発明1の本質に照らし誤りである。
(1) 隔壁付きベッドについて 本願発明1は,本願明細書の【0007】に記載されているように,「工 事をすることなく,家族構成の変化のような状況の変化に対応して,簡便に ベッドを有する部屋を設けるのに適した隔壁付きベッドを提供すること,及 び,それに使用する隔壁を提供すること(第3の目的)」を目的とし,これ により,【0010】に記載されているように,「実質的な部屋数を簡便に 変更することができるので,引越の頻度を必要最小限に低減することができ る」という効果を奏するものである。
すなわち,本願発明1の「隔壁付きベッド」は,それを用いることによっ て,部屋数を実際に増やしたり間取りを変更したりする効果をもたらすもの であるから,請求項1に記載された「部屋を分割するために使用される隔壁 付きベッドであって,」との構成は,単に部屋を区切ったり仕切ったりする 間仕切りとは明確に区別される,「部屋数を変更する機能を有する隔壁付き ベッド」である点が認定されなければならない。
(2) キャスターについて 本願発明1の「隔壁付きベッド」における「ベッド本体の高さの3倍以上 の高さを有する隔壁」は,独立した部屋を構成するためのものであるから, 随時移動可能であることを前提にする使用形態を想定することが困難なもの である(請求項2〜4,9,【0013】参照)。
すなわち,本願発明1の「隔壁付きベッド」は,一旦設置したら,特別の 理由が生じない限りめったに移動させないものであるにもかかわらず,本願 発明1のベッドの足に移動用のキャスターを設けるように構成したのは,子 供の成長等の,生活状況の変化に応じて部屋数や部屋の大きさを容易に変更 することができるようにするという新規な目的を達成するためであるから, 単に移動することを目的とするキャスターが設けられているにすぎないもの とは明確に区別して,「一旦設置したら原則として動かさないもので,間取 りの変更等を十分に可能とする」ものである点が認定されなければならない。
〔被告の主張〕 本件審決は,本件補正を却下した上で,本件補正前の特許請求の範囲(請求 項1)の記載に基づき本願発明1の要旨を認定したものであり,その認定に誤 りはない。
特許請求の範囲(請求項1)には,「隔壁付きベッド」について,「単に部 屋を区切ったり仕切ったりする間仕切りとは明確に区別」することを特徴付け る構成は特定されておらず,また,「移動用のキャスター」について,「一旦 設置したら原則として移動させないもので,間取りの変更等を十分に可能」と することを特徴付ける構成は特定されておらず,原告の主張は,特許請求の範 囲(請求項1)の記載に基づかないものであって,失当である。
3 取消事由2-2(本願発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤 り)について〔原告の主張〕 (1) 一致点の認定の誤りについて ア 本件審決は,本願発明1と引用発明とが,「部屋を分割するために使用 される隔壁付きベッド」である点で一致する旨判断した。
しかしながら,本願発明1の目的及び効果から明らかなように,本願発 明1における「隔壁」は,分割される部屋を構成している既存の壁面と協 同して,新たに小さな部屋を構成するという作用,効果を有するものであ る。
これに対し,引用発明は,引用例の【0005】に記載されているよう に,「広い寝室に設置するだけで,ベッドと,その他のゾーンとを開放感 を持たせつつ区切ることができるベッドおよびこのベッドが設けられた住居を提供すること」を目的とし,これにより,【0020】に記載されているように,「このベッドを寝室に設置するだけで,ベッドと,その他のゾーンとを開放感を持たせつつ区切ることができる」という効果を奏するものであるから,引用発明における「ベッド壁3」は,既存の壁面と協同して,新たな部屋を構成するという作用,効果を有するものではない(なお,引用例において「ゾーン」が「部屋」と同義のものとして用いられているわけではないから,引用例における各ゾーンはそれぞれ独立した部屋であるとは認識されないものである。)。引用例の【0019】に,「ベッド壁3はベッド本体2の外周部の一部を除いて,つまり,ベッドに人間が入れる入口部となる部分を残して設ければよい。」と記載されているように,引用発明における「ベッド壁3」は,人間の出入りする場所を除き,ベッドの外周に沿ってベッドをぐるりと囲む壁であって,寝室の中央にこのベッドを設置すれば(請求項3),島のようにベッドが設置されるにすぎず,既存の部屋を多様化することはできても,本願発明1のように,物理的に部屋を分割することはできない。
したがって,引用発明における「ベッド壁3」は,部屋数を増加させる(部屋を構成する)機能を有しないものであって,本願発明1における「隔壁」に相当するものではなく,本願発明1と引用発明とが「部屋を分割するために使用される隔壁付きベッド」の点で一致するとの本件審決における認定は誤りである。
イ 本件審決は,本願発明1と引用発明とが,「ベッドの(逆)L字型を構成する二つの側面に,間仕切り用の隔壁を設けてなる」点で一致する旨判断した。
しかしながら,本願発明1の「隔壁」は,部屋と認められる空間を確保するために,「ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有する」ものであり, 単なる間仕切り用の壁とは本質的に異なるものである。
これに対し,引用例には,本願発明1の「隔壁」のように,部屋と認め られる空間を確保するための隔壁は記載も示唆もされていない。引用発明 において,「ベッド壁」をベッド側面よりも長くしたり(本願発明2), 天井との間に突っ張り棒を設けたり(本願発明9),ベッド本体部高さの 3倍以上の高さを有するようにしたりすること(本願発明1)は,大きな 部屋を「開放感を持たせつつ区切る」という目的(【0005】)を阻害 するものであり,引用発明における「ベッド壁」は,部屋を「開放感を持 たせつつ区切る」という間仕切りの機能を果たすべく,いくら高くてもよ いというものではない。そして,引用発明において,「ベッド壁3」の高 さが「ベッド本体2の約2倍の高さ」であるというのは,人が椅子に座っ たときの目の高さと同等か,それより若干低い高さであって,人の視界を 妨げないという点において,ほぼ上限値であると解されるものである。
以上のとおり,本願発明1における「隔壁」と引用発明における「ベッ ド壁」とはその本質的な作用,効果を異にするものである。
しかしながら,本件審決は,本願発明1の部屋を分割するための「隔 壁」が有する本質的な作用,効果を無視して「ベッド本体部高さの3倍以 上の高さを有する」「隔壁」を単なる「間仕切り」と抽象化し,引用発明 の部屋を開放感を持たせつつ区切るための「ベッド壁3」の有する本質的 な作用,効果を無視して「ベッド本体2の約2倍の高さ」を有する「ベッ ド壁3」を単なる「間仕切り」と抽象化した上で,両者 が「ベッドの (逆)L字型を構成する二つの側面に,間仕切り用の隔壁を設けてなる」 点で一致するとするものであり,誤りである。
(2) 相違点の認定の誤りについて 本件審決における前記第2の3(2)のとおりの相違点の認定は,以下のとお り,本願発明1と引用発明との本質的な相違を看過するものであり,誤りで ある。
ア 相違点1の認定について (ア) 本願発明1と引用発明の目的及び効果の相違 本願発明1は,隔壁付きベッドを設置して「一つの広い部屋」を「二 つの部屋」に分割することを目的とするものであるのに対し,引用発明 は,ベッドを設置して「広い寝室」を多様化するだけで,「広い寝室」 は「広い寝室」のままに維持することを目的とするものである。
さらに,本願発明1は,「実質的な部屋数を簡便に変更することがで きるので,引越の頻度を必要最小限に低減することができる」という効 果を奏するものであるのに対し,引用発明は,「このベッドを寝室に設 置するだけで,ベッドと,その他のゾーンとを開放感を持たせつつ区切 ることができる」という効果を奏するものである。
以上のように,本願発明1と引用発明とは,その目的及び効果の点で 相違する。
(イ) 本願発明1の「隔壁」と引用発明の「ベッド壁3」との構成の相違 本願発明1と引用発明とは,前記(ア)のとおり,その目的及び効果の 点で相違するものであるから,本願発明1における「隔壁」と引用発明 における「ベッド壁」も,その作用及び効果を異にする構成であり,両 者は,単に,その高さにおいて相違するだけでなく,発明の目的の相違 から生じる構成自体においても本質的に相違するものである。
すなわち,本願発明1の「隔壁」は,その具体的態様として,請求項 2以下に記載された態様,すなわち「隔壁の幅が,取り付けるベッド側 面の長さ以上の幅を有する」もの(請求項2),「高さ及び/又は長さに おいて調整可能な隔壁」(請求項3),「底面に,床との間に長さ調整 可能な支持具を有する」もの(請求項4),「長さ調整が可能な隔壁で あって,底部に戸車が設けられている」もの(請求項5),「何れかの 上部に,天井との間に突っ張り棒を設置することが可能な部分が少なく とも1箇所存在する隔壁」(請求項9)等を含むものであるが,ベッド 側面と「面一」の隔壁を設けても部屋を分割することはできないから, このような態様は含まない。
これに対し,引用発明における「ベッド壁3」は,ベッドの外周に沿 って立設される壁であるから,ベッド側面の長さよりも長くなることは あり得ず,他方,引用例の【0013】及び図1ないし図3に記載され ているように,ベッド壁の端部が,それぞれベッド側面の端部と「面 一」である態様を含むものである。
したがって,本願発明1の「隔壁」と引用発明の「ベッド壁3」とは, その構成においても相違する。
(ウ) 以上によれば,本件審決における相違点1の認定は,本願発明1の 「隔壁」と引用発明の「ベッド壁3」の対比について,その目的,効果 及び構成における相違点を看過するものであって,誤りである。
イ 相違点2の認定について 本願発明1と引用発明とは,前記ア(ア)のとおり,その目的及び効果の 点で相違するものであるから,両者は,単に,移動用のキャスターの有無 において相違するわけではない。
本件審決における相違点2の認定は,本願発明1の「隔壁付きベッド」 と引用発明の「ベッド1」との,目的,効果及び構成における相違点を看 過するものであって,誤りである。
また,引用例には,引用発明のベッドに「移動用キャスター」を設ける ことを示唆する記載は一切ないから,引用発明のベッドは「移動用キャス ター」を設けることをそもそも想定しないものであって,引用発明が「ベ ッドが有する足に移動用のキャスターが設けられて」いるのか明らかでな いとした本件審決における相違点2の認定は,誤りである。
ウ なお,本願発明1と引用発明とは,本願発明1が「ベッドの一つの側 面」のみに隔壁を有する構成を含むものであるのに対し,引用発明はこの ような構成を含まない点においても相違するが,本件審決は,上記相違点 を看過し,かかる相違点についての判断を遺脱した点においても,誤りで ある。
〔被告の主張〕 (1) 一致点の認定の誤りについて ア 本件審決における本願発明1と引用発明との一致点の認定に誤りはない。
イ 引用発明の「ベッド壁」は,引用発明で「ベッド壁3によって寝室12 を区切るベッド1」とされるように,「寝室12を区切る」ものであり, 部屋を「区切る」以上,「部屋を分割する」ものであることは明らかであ る。
また,引用例の【0015】及び【0016】の記載から,ベッド壁3 で,寝室12から,サンルーム(ゾーン14)と書斎(ゾーン20)が区 切られており,「ベッド壁」が,「寝室」(部屋)を,「サンルーム(ゾ ーン14)」と「書斎(ゾーン20)」とに分割する機能を備えることは 明らかである。
したがって,引用発明の「ベッド壁3」と本願発明1の「隔壁」との間 には,原告が主張するような差異はない。
ウ 本願発明1の「隔壁」が「ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有す る」ものである点については,本件審決は,本願発明1と引用発明との相 違点(相違点1)として認定し,その容易想到性について判断している。
(2) 相違点の認定の誤りについて ア 相違点1の認定について 引用発明の「ベッド壁」は,寝室を区切ってサンルームや書斎を分割す る機能を有するものであるから,本願発明1の「隔壁」と同様に,「分割 される部屋を構成している既存の壁面と協同して,新たに小さな部屋を構 成するという作用,効果を有する」ものである。
したがって,本件審決における相違点1の認定に誤りはなく,本件審決 には,原告主張に係る相違点の看過は存しない。
イ 相違点2の認定について 本願発明1の「隔壁付きベッド」の「隔壁」と引用発明の「ベッド」の 「ベッド壁」との間で,目的,効果及び構成が全く異なるというようなこ とはなく,原告の主張は,その前提において失当である。
したがって,本件審決における相違点2の認定に誤りはなく,本件審決 には,原告主張に係る相違点の看過は存しない。
ウ 本願発明1における「ベッドの一つの側面」のみに隔壁を有する構成に 係る相違点の看過との主張について 本願発明1は,「ベッドの一つの側面,又は(逆)L字型を構成する二 つの側面に」,「間仕切り用の隔壁を設けてなる」と特定されており,間 仕切り用の隔壁を,「ベッドの一つの側面」と,「(逆)L字型を構成す る二つの側面」のいずれかに選択的に設けることとされている。
これに対し,引用発明の「ベッド壁3」は,「ベッド本体2の外周部に 立設され」,「平面視L字状をな」すもの,すなわち「(逆)L字型を構 成する二つの側面」に設けられたものである。
したがって,本願発明1と引用発明とは,少なくとも「ベッドの(逆) L字型を構成する二つの側面に,間仕切り用の隔壁を設けてなる」点で一 致するものであって,本件審決が「ベッドの(逆)L字型を構成する二つ の側面に,間仕切り用の隔壁を設けてなる」ことを一致点に含めたことに 誤りはなく,本件審決には,原告主張に係る相違点の看過は存しない。
4 取消事由2-3(相違点に係る容易想到性判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 相違点1に係る容易想到性判断の誤りについて ア 本件審決は,引用発明において,間仕切り用の隔壁の高さを,どの程度 とするかは,当業者が当該引用発明を実施する際に適宜定めるべき設計的 事項であるが,本願明細書をみても,相違点1に係る本願発明1の発明特 定事項である「ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有する」とした点に 格別の臨界的意義があるものではないから,引用発明において,相違点1 に係る本願発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得 たことである旨判断した。
イ しかしながら,引用発明における「ベッド壁」は,部屋を「開放感を持 たせつつ区切る」という間仕切りの機能を果たすべく,いくら高くてもよ いというものではない。
すなわち,引用発明において,「ベッド壁3」の高さが「ベッド本体2 の約2倍の高さ」であるというのは,人の視界を妨げないという点におい て,ほぼ上限値であると解され,たとえ,「ベッド本体の約2倍の高さ」 よりも幅を持たせるとしても,ベッド本体の3倍の高さにまでなると,人 が椅子に座ったときのみならず,場合によっては,立っているときの視界 をも妨げることになって,引用発明の目的を達成することができないから, 最大でも「ベッド本体の3倍の高さ」よりは低く設定せざるを得ないはず である。
したがって,引用発明において,「ベッド壁3」の高さを「ベッド本体 部高さの3倍以上の高さを有するようにすることには阻害要因がある。
ウ 以上によれば,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断は, 誤りである。
(2) 相違点2に係る容易想到性判断の誤りについて ア 本件審決は,一般に,ベッドに足を設け,該足に移動用のキャスターを 設けることは,当業者にとって常套手段であるが,本願発明1において, ベッドに足を設け,該足に移動用のキャスターを設ける点に,格別の技術 的意義はないから,引用発明において,相違点2に係る本願発明1の発明 特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである旨判断した。
イ しかしながら,本件審決が,「ベッドに足を設け,該足に移動用のキャ スターを設けることは,当業者にとって常套手段である」との認定の根拠 として挙げる周知例(甲3,8,9)は,いずれも病院で使用するのに好 適なベッドであり,本願発明1の隔壁付きベッドや引用発明のベッドとは, 全く異なる特殊用途に使用するベッドである。これらの周知例に記載され たベッドのように,移動させる機能を本質的に必要とする場合には,足に キャスターを設けることが常套手段であるとはいえても,本願発明1や引 用発明のように,移動を前提としない場合にまで,これが常套手段である とすることはできない。
さらに,引用発明のベッドは,部屋の中央に設置するものであり,移動 するようにしたり,折り畳み式にすることには何らの利点もないから,引 用発明におけるベッドは移動を前提としないものであり,引用発明におい て,ベッドの足に移動用のキャスターを設けるようにすることには,動機 付けがない。
したがって,引用発明において,相違点2に係る本願発明1の発明特定 事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 以上によれば,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断は, 誤りである。
〔被告の主張〕 (1) 相違点1に係る容易想到性の判断の誤りについて ア 引用例の【0004】の記載によれば,引用発明は,寝室の床から天井 までを間仕切り壁で仕切ることにより開放感がなくなるという課題を解決 しようとするものであるが,引用発明の「ベッド壁3」を本願発明1のよ うにベッド本体の3倍としても,ベッド壁3と天井までとの間には十分な 空間が形成されることは明らかであって,開放感がなくなってしまい,上 記の課題を解決することができなくなるということはない。
ここで,本願明細書の【0010】に記載されているように,本願発明 1においても,「隔壁」の高さは「開放感」に影響を与えない程度のもの が想定されているから,隔壁の高さをベッドの高さの「約2倍」とするか 「3倍以上」とするかは,部屋を分割することと開放感を確保することと の間で,どちらをより重視するかにより適宜設定される設計的事項である といえる。
もともと,部屋の開放感は,部屋の床から天井までの高さとベッドの隔 壁の高さとのバランスや居住者の視線の高さ等が影響するものであり,一 概にベッド本体部高さと隔壁の高さの比のみによって決まるものではない。
人によって,開放感という感覚は違うものであるから,「約2倍」から 「3倍以上」としたからといって,格別の作用効果が生じるとはいえない。
加えて,本願明細書には,「ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有す る」ことに関し,「隔壁の高さは,ベッドとしての機能を維持する観点か ら,ベッド本体の高さの3倍以上であることが必要である」(【001 3】)と記載されているのみであって,開放感との関連で「3倍以上」と することに,格別の作用効果や臨界的意義があるということはできない。
そうすると,引用発明において,間仕切り用の隔壁の高さをどの程度と するかは,当業者がこれを実施する際に適宜定めるべき設計的事項である といえる。
イ 以上によれば,本件審決が,引用発明において,相違点1に係る本願発 明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであると した点に誤りはない。
(2) 相違点2に係る容易想到性の判断の誤りについて ア 引用例の【0019】には,ベッド1を移動させて,居住者が自分の好 みに合わせて部屋の空間を可変とすることが示されており,引用発明のベ ッド壁3を設けたベッド1は,部屋内を移動することを前提としたもので ある。
そして,家具等の重量があって持ち運びが困難なものについて,移動を 容易にするためにキャスターを取り付けることは常套手段であり,引用発 明のベッドも,重量があり持ち運びが困難であって,その上,移動するこ とが想定されるものであるから,引用発明のベッドには,移動を容易にす るためのキャスターを組み合わせる動機付けが存在する。
イ 以上によれば,本件審決が,引用発明において,相違点2に係る本願発 明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであると した点に誤りはない。
5 取消事由3(従属項に対する判断の遺脱)について〔原告の主張〕 仮に,本願発明1に進歩性の欠如する発明が含まれていたとしても,請求項 2以下の従属項に記載された発明が進歩性を欠如するとは限らないから,請求 項2以下に記載された発明についても,審理し,本件審決において,その判断 を示すべきであった。
それにもかかわらず,本件審決は,請求項2以下の従属項に記載された発明 については,判断しなかった。
このような取扱いは,審判請求費用が請求項の数に依存することとも整合し ない。
以上に照らせば,本件審決には,従属項に対する判断を遺脱した違法がある というべきである。
〔被告の主張〕 本件審決は,原査定の拒絶理由を検討した結果,本願発明1は,特許法29 条2項の規定により,特許をすることができないものであると判断し,かかる 発明を含む本件出願は特許法49条の規定により拒絶すべきであると判断した ものである。
本件審決に係る手続に違法な点は存しない。
当裁判所の判断
1 本願発明1について (1) 本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2(1)に 記載のとおりであるところ,本願明細書(甲1,4,5)には,次のような 記載がある(図1ないし図3については,別紙1の本願明細書図面目録を参 照。)。
ア 技術分野 【0001】本発明はベッドに関し,特に間仕切り機能を有するベッドに 関する。
イ 背景技術 【0002】近年,都市人口が増大するにつれ,都市部では住空間が狭く なってきたが,人口減少の兆候と共に,賃貸住宅事情が変化し始めた事も あり,広い空間が望まれ,LDKに対する需要が増大している。その一方 で,更に1部屋が欲しいという希望もあり,3畳程度の小部屋を設ける傾 向がある一方でやはり6畳程度の部屋が欲しいというニーズも強い。
【0003】例えば,書斎が欲しいという場合には3畳間があれば良いが, 状況が変化すれば,寝られるだけでも良いから寝室が欲しいという場合も 生じる,或いは,6畳を子供部屋として使用していたが子供が二人になっ たので,6畳を3畳づつに分割してそれぞれの子供の自立性を養いたいと いう場合が生じることもあれば,6畳を寝室と書斎に分割したいという場 合も生じる。
【0004】また,一つの部屋を大きく取る事による開放感を損なわない ように,ベッド本体の高さの,二倍程度の壁を有するベッドを部屋の中心 に設置することも提案されている(特許文献1:特開平7-18474 4)が,この方法に対する需要は殆どないのが実体である。
【0006】そこで本発明者は,多様なニーズに対応できる方法について 鋭意検討した結果,LDKの一角を,居住者の好みに合わせた広さ及び高 さで,ベッドを利用して簡便に寝室に変身させたり,子供の増減によって 適宜実質的な部屋数を増減させたりすることが合理的であることを見出し, 本発明に到達した。
ウ 発明が解決しようとする課題 【0007】したがって本発明の第1の目的は,自由空間から得られる開 放感に与える影響が少ない寝室を,居住者が自分の好みに合わせて簡便に 設置するに適したベッドを提供することにある。
本発明の第2の目的は,状況に合わせて適宜実質的な部屋数を変更する のに適したベッドを提供することにある。
更に本発明の第3の目的は,本発明の隔壁付きベッドに使用するに適し た隔壁を提供することにある。
エ 課題を解決するための手段 【0008】本発明の上記の諸目的は,部屋を分割するために使用される 隔壁付きベッドであって,ベッドの一つの側面,又は(逆)L字型を構成 する二つの側面に,少なくとも,ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有 する,間仕切り用の隔壁を設けてなると共に,前記ベッドが有する足に移 動用のキャスターが設けられてなることを特徴とする隔壁付きベッド,及 び,該ベッド用の隔壁によって達成された。
【0009】本発明における隔壁の長さは,取り付けるベッドの側部幅よ り長い事が好ましく,また,隔壁底部には,隔壁が破損しにくくなるよう に,床との間を調整することのできる支持具が設けられていることが好ま しい。更に,本発明においては,隔壁の長さ及び/又は高さを可変とする ことも可能であり,ベッド側の壁に読書用等のルームライトをつけること もできる上,必要に応じて,隔壁に補強骨を設けたり隔壁底面にキャスタ ーや戸車を設けたりすることもできる。
オ 発明の効果 【0010】本発明のベッドは,使用者の好みに合わせて,自由空間から 得られる開放感に与える影響を少なくするように,寝室を簡便に設置する ことができるだけでなく,実質的な部屋数を簡便に変更することができる ので,引越の頻度を必要最小限に低減することができる。また,本発明の 隔壁は,既存のベッドを隔壁付きベッドに改変するのに便利である。
カ 発明を実施するための最良の形態 【0013】図1は,大部屋の一角に,ベッドの側面に(逆)L字型に隔 壁を有する本発明のベッドを用い,簡易寝室を構成させた図である。図中 の符号1はベッド本体,2は隔壁である。この場合には,隔壁の長さは当 然ベッドの長さ及び幅より長くなるので,複数枚の隔壁を,固定手段を用 いてつなぎ合わせても良いし,例えば,引き戸や折りたたみ形式或いはそ れらを組合わせた,長さが可変である隔壁とすることもできる。長さが可 変である場合には,移動する隔壁底部に戸車を使用する必要がある。特に, 引き戸形式又は折り畳み形式である場合は,先端部近傍に取っ手を付けて おくことにより,開閉可能な扉として機能させる上で好都合である。
尚,戸車としては,床を傷付けないゴム製のものを使用することが好ま しく,また隔壁の高さは,ベッドとしての機能を維持する観点から,ベッ ド本体の高さの3倍以上であることが必要である。
【0014】図2は,6畳間を,本発明のベッドを用いて3畳間の子供用 寝室に2分割した概念図である。二つのベッドの内,一方のベッドのみが 隔壁を備えていても良いが,一つの隔壁に二つのベッドが結合しても良い ことは当然である。二人の子供の年齢差にしたがって,広さの分配を調整 することもできる。このようにすることにより,2段ベッドからの,落下 の危険性を回避することができる。
【0015】図3は,6畳間を,本発明のベッドを用いて3畳間の寝室と 書斎に分割した概念図である。図中の符号3は机,4は椅子である。好み にしたがって,分配する部屋の広さを適宜調整することは自由であり,ま た,机の配置箇所も自由に決めることができる。
キ 産業上の利用可能性 【0017】本発明のベッドは,使用者の好みに合わせて,寝室等を簡便 に設置することができるだけでなく,実質的な部屋数を簡便に変更するこ とができるので,特に賃貸住宅における居住空間を常に最適に保つのに便 利であり,これによって引越の頻度を必要最小限に低減することができ, 無駄を減らすことができるので,産業上極めて有意義である。
(2) 前記(1)の記載によれば,本願発明1の特徴は以下のとおりであると認め られる。
ア 本願発明は,間仕切り機能を有するベッドに関する(【0001】)。
近年,広い空間が望まれる一方で,更に1部屋欲しいという希望があっ たり,設ける部屋の大きさについてのニーズも多様化している(【000 2】,【0003】)。
また,従来,一つの部屋を大きく取る事による開放感を損なわないよう に,ベッド本体の高さの2倍程度の壁を有するベッドを部屋の中心に設置 することも提案されている(甲2)が,この方法に対する需要はほとんど ない(【0004】)。
そこで,このような多様なニーズに対応できる方法について検討し,L DKの一角を,居住者の好みに合わせた広さ及び高さで,ベッドを利用し て簡便に寝室に変身させたり,適宜実質的な部屋数を増減させたりするこ とが合理的であることを見いだし,本願発明に至ったものである(【00 06】)。
イ 本願発明は,自由空間から得られる開放感に与える影響が少ない寝室を, 居住者が自分の好みに合わせて簡便に設置するに適したベッドを提供する こと(第1の目的),状況に合わせて適宜実質的な部屋数を変更するのに 適したベッドを提供すること(第2の目的)及び本願発明の隔壁付きベッ ドに使用するに適した隔壁を提供すること(第3の目的)を目的とし (【0007】),本願発明1(請求項1)では,部屋を分割するために 使用される隔壁付きベッドであって,ベッドの一つの側面,又は(逆)L 字型を構成する二つの側面に,少なくとも,ベッド本体部高さの3倍以上 の高さを有する,間仕切り用の隔壁を設けてなるとともに,ベッドが有す る足に移動用のキャスターが設けられてなることを特徴とする隔壁付きベ ッドとの構成を採用した(【0008】,【0009】)。
ウ 本願発明のベッドは,使用者の好みに合わせて,自由空間から得られる 開放感に与える影響を少なくするように,寝室を簡便に設置することがで きるだけでなく,実質的な部屋数を簡便に変更することができるので,特 に賃貸住宅における居住空間を常に最適に保つのに便利であり,これによ って引越の頻度を必要最小限に低減することができるという効果を奏する (【0010】,【0017】)。
2 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について(1) 新規事項の追加について 原告は,「蛇腹方式」の隔壁は,本願当初明細書等の【0013】に記載 された「折りたたみ形式」の隔壁の一態様であるといえるものであり,この ことはその記載から容易に理解されることであるから,本件審決が,本件補 正後の請求項13に係る補正事項は新規事項の追加に該当する旨判断したの は誤りである旨主張する。
本願当初明細書等には,特許請求の範囲の請求項3に「前記隔壁が,高さ 及び/又は長さにおいて調整可能な隔壁である」との記載,請求項17に 「該隔壁が,引き戸方式及び/又は折り畳み方式で長さが可変となってい る」との記載,【0013】には「例えば,引き戸や折りたたみ形式或いは それらを組合わせた,長さが可変である隔壁とすることもできる。長さが可 変である場合には,移動する隔壁底部に戸車を使用する必要がある。特に, 引き戸形式又は折り畳み形式である場合は,先端部近傍に取っ手を付けてお くことにより,開閉可能な扉として機能させる上で好都合である。」との記 載があるものの,「蛇腹方式」を用いた隔壁は記載されていない。また,本 願当初明細書等の記載から,「蛇腹方式」を用いた隔壁であることが自明で あるともいえない。
したがって,本件補正後の請求項13に係る補正事項(「蛇腹方式で長さ が可変となっている隔壁」との事項の追加)は,新たな技術的事項を導入す るものであって,本願当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものであ るとは認められない。
そうすると,本件審決が,本件補正後の請求項13に係る補正事項は新規 事項を追加するものであるとして,上記補正事項を含む本件補正は,特許法 17条の2第3項の規定に違反するものであると判断した点に誤りはない。
(2) 補正の目的について ア 原告は,本件補正後の請求項7,10及び13に係る補正は,特許請求 の範囲の減縮を目的とするものであるから,本件審決が,これらの補正は 特許請求の範囲減縮を目的とするものではない旨判断したのは誤りであ る旨主張する。
しかしながら,特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲減縮は,同法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定する ために必要な事項を限定するもの,すなわち特許請求の範囲限定的減縮 に限られる。
本件補正が,本件補正前の請求項7,8,10及び14を削除し,本件補正後の請求項7,10及び13に特定されている事項を追加するものであることは,本件審決が認定し,原告も認めるところである。そして,本件補正後の請求項7に係る補正は,「扉として機能し得る,開閉可能な隔壁が設けられている」との発明特定事項を有する「隔壁付きベッド」の発明を,請求項10に係る補正は「扉として機能し得る開閉可能な隔壁を有する」との発明特定事項を有する「隔壁付きベッド用隔壁」の発明を,請求項13に係る補正は「開閉可能な隔壁が,蛇腹方式で長さが可変となっている隔壁である」との発明特定事項を有する「隔壁付きベッド用隔壁」の発明を,それぞれ新たな請求項として追加するものであるから,特許請求の範囲限定的減縮を目的とするものであるとは認められない。
イ 原告は,本件補正後の請求項7,10及び13に記載された隔壁は,本件補正前の請求項1,3及び14に記載された隔壁の一態様であるから特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当する旨主張する。
(ア) 本件補正前の請求項1について 本件補正前の請求項1は,「(逆)L字型を構成する二つの側面に」 「間仕切り用」として設けた「少なくとも,ベッド本体部高さの3倍以 上の高さを有する」隔壁を発明特定事項として規定するが,かかる隔壁 の「自由端」又は「端部」に設けた「扉として機能し得る,開閉可能な 隔壁」については何ら規定していない。
したがって,本件補正後の請求項7の「(逆)L字型を構成する隔壁 の少なくとも一方の自由端」に,「扉として機能し得る,開閉可能な隔 壁が設けられている」との発明特定事項は,本件補正前の請求項1には 存在しなかった隔壁を付加することを特定した事項であって,同請求項 1に記載された隔壁の一態様であるとはいえず,本件補正前の請求項1 に記載された発明特定事項を限定するものには当たらない。
また,本件補正後の請求項10の「隔壁の一方の端部」に,「扉とし て機能し得る開閉可能な隔壁を有する」との発明特定事項も,同様に, 本件補正前の請求項1に記載された隔壁の一態様であるとはいえず,本 件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定するものには当た らない。
さらに,本件補正後の請求項13は,「開閉可能な隔壁」が,「蛇腹 方式で長さが可変となっている隔壁である」と規定するものであるから, かかる発明特定事項も,本件補正前の請求項1に記載された隔壁の一態 様であるとはいえず,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項 を限定するものには当たらない。
(イ) 本件補正前の請求項3について 本件補正前の請求項3は,「前記隔壁」,すなわち,本件補正前の請 求項1に記載された「隔壁」が,「高さ及び/又は長さにおいて調整可 能な隔壁である」ことを発明特定事項として規定するものであり,かか る隔壁の「自由端」又は「端部」に設けた「扉として機能し得る,開閉 可能な隔壁」については何ら規定していない。
したがって,前記(ア)と同様に,本件補正後の請求項7,10及び1 3の発明特定事項は,本件補正前の請求項3に記載された隔壁の一態様 であるとはいえず,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を 限定するものには当たらない。
(ウ) 本件補正前の請求項14について 本件補正前の請求項14は,「前記隔壁」,すなわち,本件補正前の 請求項1に記載された「隔壁」が,「引き戸方式及び/又は折り畳み方 式で長さが可変となっている」ことを発明特定事項として規定するもの であり,かかる隔壁の「自由端」又は「端部」に設けた「扉として機能 し得る,開閉可能な隔壁」については何ら規定していない。
したがって,前記(ア)と同様に,本件補正後の請求項7,10及び1 3の発明特定事項は,本件補正前の請求項3に記載された隔壁の一態様 であるとはいえず,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を 限定するものには当たらない。
ウ そうすると,本件審決が,本件補正後の請求項7,10及び13に係る 補正事項は特許請求の範囲減縮を目的とするものではないとして,上記 補正事項を含む本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反するも のであると判断した点に誤りはない。
(3) 以上によれば,本件審決が,本件補正を却下した判断に誤りはなく,原告 の取消事由1に係る主張は理由がない。
なお,本件審決が判断の対象とした特許請求の範囲の請求項1の記載は, 本件補正の前後を通じて変わっていないから,本件補正却下の許否は,本件 の結論に影響しない。
3 引用発明について (1) 引用例に,前記第2の3(2)アに認定した引用発明が記載されていること は,当事者間に争いがない。
引用例(甲2)には,引用発明について,概略,次のような記載がある (図1及び図3については,別紙2の引用例図面目録を参照。)。
ア 特許請求の範囲 【請求項1】ベッド本体と,このベッド本体の外周部に立設されたベッド 壁とを具備してなり,前記ベッド壁は,ベッド本体の外周部の一部を除い て,ベッド本体の外周に沿って,かつベッド本体より高く形成されている ことを特徴とするベッド。
【請求項3】請求項1または2記載のベッドを設けた住居であって,住居 の寝室のほぼ中央部に前記ベッドが設置され,このベッドのベッド壁によ って寝室内が区切られて,当該ベッド壁と寝室の内壁との間に所定目的の 居住空間が設けられていることを特徴とするベッドが設けられた住居。
発明の詳細な説明 (ア) 産業上の利用分野 【0001】本発明は,ベッドとこのベッドが設けられた住居に係り, 特に,ベッドによって住居の寝室を区画することができるものに関する。
(イ) 従来の技術 【0002】住居の寝室にベッドを配置する場合,寝室の内壁に沿って 設置するのが一般的である。これは,従来,寝室は就寝や休憩以外の目 的で使用することがあまりなかったため,ベッドを設置するスペースと, その他の簡単な家具を設置するスペースとを有する比較的狭い部屋で済 み,このような比較的狭い寝室の中央部にベッドを配置すると,寝室に 家具等を設置する場所が狭くなるか,あるいは無くなったりして寝室の 空間を有効利用することができないからである。
【0003】一方,近年,一つの部屋の大きさを広くとって解放感を与 え,快適な生活を送れるような住居が提供されつつある。このような住 居において,寝室を広くとった場合,寝室に,就寝,休憩以外を目的と する,例えば,書斎,化粧場所,サンルーム等のゾーン(空間)をとる ことができるので,より快適な生活が送れる。
(ウ) 発明が解決しようとする課題 【0004】しかしながら,夫婦で1つの寝室を使用する場合,寝室に 上記のようなゾーンを設けると,就寝している者と,その他のゾーンを 使用している者とが一つの部屋に混在していることになるので,気兼ね なく各ゾーンを使用することができない。そこで,寝室をカーテンヲー ル等の間仕切り壁で仕切って,ベッドと各ゾーンとを区切った場合,従 来の狭い寝室に逆戻りするため,開放感がなくなり,寝室を広くとった 意味がなくなる。
【0005】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので,広い寝室等に 設置するだけで,ベッドと,その他のゾーンとを開放感を持たせつつ区 切ることができるベッドおよびこのベッドが設けられた住居を提供する ことを目的としている。
(エ) 課題を解決するための手段 【0006】上記目的を達成するために,本発明の請求項1のベッドは, ベッド本体と,このベッド本体の外周部に立設されたベッド壁とを具備 してなるもので,前記ベッド壁を,ベッド本体の外周部の一部を除いて, ベッド本体の外周に沿って,かつベッド本体より高く形成したことを特 徴としている。
【0008】請求項3のベッドが設けられた住居は,住居の寝室のほぼ 中央部に前記請求項1または2のベッドが設置され,このベッドのベッ ド壁によって寝室内が区切られて,当該ベッド壁と寝室の内壁との間に 所定目的の居住空間(ゾーン)が設けられていることを特徴としている。
(オ) 作用 【0009】本発明の請求項1のベッドにあっては,ベッドを寝室に設 置するだけで,ベッド壁によって,ベッドと,その他のゾーンとを開放 感を持たせつつ区切ることができる。
【0011】請求項3のベッドが設けられた住居にあっては,住居の寝 室のほぼ中央部に前記ベッドを設置することによって,ベッド壁により 寝室を間仕切り壁等を用いることなく,解放感を持たせつつ区切って所 定目的の居住空間を形成し,部屋の有効利用することができる。
(カ) 実施例 【0012】以下,本発明の一実施例について,図1ないし図3を参照 して説明する。図1および図2は本発明のベッドの一実施例を示すもの で,これらの図において符号1はベッドを示す。このベッド1はダブルベッドであり,ベッド本体2と,このベッド本体2の外周部に立設されたベッド壁3とを主体として構成されている。
【0013】前記ベッド本体2は,多数のスプリングが内蔵されて弾力性が付与されたソファー4と,このソファー4が載置される木製の載置台5とによって構成されている。なお,符号6は掛け布団またはベッドカバー,符号7,7は枕を示す。また,載置台5には引き出し等を設け,その内部を収納部としてもよい。前記ベッド壁3は平面視L字状をなすもので,ベッド本体2の外周部のうち,枕7,7が載置される上側面と,この上側面に直交する右側面に沿って形成され,その一方の端部はベッド本体2の左側面と面一にされ,また他方の端部は前記上側面と平行な下側面と面一にされている。また,ベッド壁3は所定の厚みを持ち,内部は中空に形成され,上面には面板8が貼設されている。さらに,ベッド壁3は,ベッド本体2の約2倍の高さに形成され,その下端部がベッド本体2の載置台5に着脱自在に取り付けられ,ベッド本体2と一体的に構成されている。
【0015】上記構成のベッド1は,図3に示すように,住居Jの寝室12のほぼ中央部に設置される。この寝室12は平面視ほぼ長方形状をなすもので,その前側の壁面には,そのほぼ全面に窓13が設けられ,この窓13より内側のゾーン14がサンルームとされている。また,寝室12の左側の壁面には,その一部に窓15が設けられ,その内側のゾーン16が化粧ルームとされている。さらに,寝室12の右側の壁面には書棚17が設けられ,この書棚17の左側には机18と椅子19,19が設けられ,このゾーン20が書斎とされている。なお,サンルームとされているゾーン14の両側には物入21が設けられ,扉21a…によって物品が出し入れできるようになっており,また,化粧ルームとさ れているゾーン16には,クローゼット22が設けられ,扉22a…によって衣服が出し入れできるようになっている。
【0016】前記寝室12にベッド1を設置する場合,ベッド壁3の一方の片3aを,前記窓13と所定間隔を隔てて,当該窓13と平行になるようにし,かつ,ベッド壁3の他方の片3bを前記書棚17と所定間隔を隔てて,当該書棚17と平行になるように設置する。このようにすると,ゾーン14と,ゾーン20とがベッド壁3によって,ベッド1から区切られ,それぞれの目的にあったゾーンとなる。また,化粧ルームとされるゾーン16は,前記ゾーン14,20から区切られ,ベッド1が設置されてクローゼット22を有する寝室空間となる。
【0018】上記実施例によれば,住居Jの寝室12のほぼ中央部に,ベッド壁3を有するベッド1を設け,このベッド壁3によって,寝室12を区切って,サンルームとなるゾーン14と,書斎となるゾーン20と,化粧室となるゾーン16とを区切ったので,広い寝室12を間仕切り壁等を用いることなく,有効利用することができる。また,ベッド1のベッド壁3がベッド本体2の2倍程度の高さであるので,解放感を失うことなく,各ゾーンを区切ることができる。さらに,ベッド1のベッド壁3内には収納部11が設けられ,かつ,このベッド壁3はゾーン14,20に向いているので,各ゾーンにて使用する物品を効果的に収納することができ,部屋の有効利用を図ることができる。
【0019】なお,上記実施例では,ベッド1のベッド壁3をサンルームとなるゾーン14および書斎となるゾーン20に向けて,これらゾーンを区切るようにしたが,寝室12に設けられている各種機能,設備等によって,ベッド1の設置場所を変えて,ベッド壁3によって区切るゾーンを変更することにより,部屋の空間および雰囲気を可変とすることができる。また,上記実施例では,ベッド本体2の外周部のうちの2つ の側面側にベッド壁3を設けたが,これに限ることなく,ベッド壁3は ベッド本体2の外周部の一部を除いて,つまり,ベッドに人間が入れる 入口部となる部分を残して設ければよい。
(キ) 発明の効果 【0020】以上説明したように,本発明の請求項1のベッドによれば, ベッド本体の外周部に設けるベッド壁を,ベッド本体の外周部の一部を 除いて,ベッド本体の外周に沿って,かつベッド本体より高く形成した ので,このベッドを寝室に設置するだけで,ベッドと,その他のゾーン とを開放感を持たせつつ区切ることができる。
【0022】請求項3のベッドが設けられた住居によれば,住居の寝室 のほぼ中央部に前記ベッドを設置し,このベッドのベッド壁によって寝 室内を区切って,当該ベッド壁と寝室の内壁との間に所定目的の居住空 間を設けたので,寝室を間仕切り壁等を用いることなく,解放感を持た せつつ区切って,有効利用することができる。
(2) 前記(1)の記載によれば,引用例には,引用発明に関し,以下の点が開示 されているものと認められる。
ア 引用発明は,ベッドによって住居の寝室を区画することができるものに 関する(【0001】)。
近年,一つの部屋の大きさを広くとって解放感を与え,快適な生活を送 れるような住居が提供されつつあるが,このような住居において,寝室を 広くとった場合,寝室に,就寝,休憩以外を目的とする,例えば,書斎, 化粧場所,サンルーム等のゾーン(空間)をとることができるので,より 快適な生活が送れる(【0003】)。
しかしながら,夫婦で1つの寝室を使用する場合,寝室に上記のような ゾーンを設けると,就寝している者と,その他のゾーンを使用している者 とが一つの部屋に混在していることになるので,気兼ねなく各ゾーンを使 用することができないが,寝室をカーテンウォール等の間仕切り壁で仕切って,ベッドと各ゾーンとを区切った場合,従来の狭い寝室に逆戻りするため,開放感がなくなり,寝室を広くとった意味がなくなる(【0004】)。
引用発明は,上記事情に鑑みてされたものであり,広い寝室等に設置するだけで,ベッドとその他のゾーンとを開放感を持たせつつ区切ることができるベッドを提供することを目的とするものである(【0005】)。
イ 特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の実施例に相当する引用発明のベッド1は,ベッド本体2と,このベッド本体2の外周部に立設されたベッド壁3とを主体として構成され(【0012】),ベッド壁3は平面視L字状をなすもので,ベッド本体2の外周部のうち,上側面と,この上側面に直交する右側面に沿って,ベッド本体の約2倍の高さに形成され,ベッド本体と一体的に構成されている(【0013】)。
また,特許請求の範囲の請求項3に記載された発明の実施例として,住居の寝室のほぼ中央部に引用発明のベッド1を設置する場合,ベッド壁3の一方の片を,窓と所定間隔を隔てて,当該窓と平行になるようにし,かつ,ベッド壁3の他方の片を書棚と所定間隔を隔てて,当該書棚と平行になるように設置すると,ゾーン14と,ゾーン20とがベッド壁3によって,ベッド1から区切られ,それぞれの目的にあったゾーンとなる(【0016】)。上記実施例によれば,住居の寝室のほぼ中央部に,ベッド壁3を有するベッド1を設け,このベッド壁3によって,寝室を区切って,サンルームとなるゾーン14と,書斎となるゾーン20と,化粧室となるゾーン16とを区切ったので,広い寝室を間仕切り壁等を用いることなく,有効利用することができ,また,ベッド1のベッド壁3がベッド本体2の2倍程度の高さであるので,解放感を失うことなく,各ゾーンを区切ることができる(【0018】)。
さらに,寝室に設けられている各種機能,設備等によって,ベッド1の 設置場所を変えて,ベッド壁3によって区切るゾーンを変更することによ り,部屋の空間及び雰囲気を可変とすることができる(【0019】)。
ウ 引用発明によれば,ベッド1を寝室に設置するだけで,ベッドと,その 他のゾーンとを開放感を持たせつつ区切ることができる(【0020】)。
また,引用発明のベッド1が設けられた住居によれば,寝室を間仕切り 壁等を用いることなく,解放感を持たせつつ区切って,有効利用すること ができる(【0022】)。
4 取消事由2-1(本願発明1の要旨認定の誤り)について (1) 本願発明1の要旨は,特許請求の範囲(請求項1)の記載のとおり,「部 屋を分割するために使用される隔壁付きベッドであって,ベッドの一つの側 面,又は(逆)L字型を構成する二つの側面に,少なくとも,ベッド本体部 高さの3倍以上の高さを有する,間仕切り用の隔壁を設けてなると共に,前 記ベッドが有する足に移動用のキャスターが設けられてなることを特徴とす る隔壁付きベッド。」と認定すべきである。本件審決の認定に誤りはない。
(2) 原告の主張について 原告は,本願発明1の効果や目的に照らし,請求項1に記載された「部屋 を分割するために使用される隔壁付きベッドであって,」との構成は,「部 屋数を変更する機能を有する隔壁付きベッド」である点が,また,「ベッド が有する足に移動用のキャスターが設けられてなる」との構成は,「一旦設 置したら原則として動かさないもので,間取りの変更等を十分に可能とす る」ものである点が,それぞれ認定されなければならない旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,特許請求の範囲(請求項1)の記載を 離れ,「部屋を分割するために使用される」との文言を「部屋数を変更する 機能を有する」と読み替え,「ベッドが有する足に移動用のキャスターが設 けられてなる」との「ベッド」について,「一旦設置したら原則として動か さないもので,間取りの変更等を十分に可能とする」という構成を付加する に等しいものである。
したがって,原告の上記主張は,特許請求の範囲(請求項1)の記載に基 づかないものであって,失当である。
(3) 以上によれば,原告の取消事由2-1に係る主張は理由がない。
5 取消事由2-2(本願発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り)について(1) 本願発明1と引用発明について 本願発明1は,「部屋を分割するために使用される隔壁付きベッドであっ て,ベッドの一つの側面,又は(逆)L字型を構成する二つの側面に,少な くとも,ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有する,間仕切り用の隔壁を 設けてなると共に,前記ベッドが有する足に移動用のキャスターが設けられ てなることを特徴とする隔壁付きベッド。」であり,本件審決が認定した引 用発明は,「ベッド1は,ベッド本体2とこのベッド本体2の外周部に立設 されたベッド壁3とを主体として構成されており,ベッド壁3は,ベッド本 体2の約2倍の高さに形成され,ベッド本体2と一体的に構成され,平面視 L字状をなし,ベッド壁3によって寝室12を区切るベッド1。」というも のである(なお,原告は,引用例に本件審決が認定した上記引用発明が記載 されていること自体は争っていない。)。
(2) 本願発明1と引用発明との一致点について ア 本願発明1における「部屋を分割するために使用される隔壁付きベッ ド」の意義について 本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「部屋を分割するため に使用される隔壁付きベッド」との記載があるが,「部屋を分割する」と はどのような状態をいうものか,請求項1の記載からは一義的に明らかで あるとはいえない。
そこで,本願明細書の記載を参酌すると,本願発明1の特徴は,前記1(2)記載のとおり,自由空間から得られる開放感に与える影響が少ない寝室を,居住者が自分の好みに合わせて簡便に設置するに適したベッドを提供すること(第1の目的),状況に合わせて適宜実質的な部屋数を変更するのに適したベッドを提供すること(第2の目的)を目的とするものであり,請求項1記載の構成を採用することにより,使用者の好みに合わせて,自由空間から得られる開放感に与える影響を少なくするように,寝室を簡便に設置することができるだけでなく,実質的な部屋数を簡便に変更することができるので,特に賃貸住宅における居住空間を常に最適に保つのに便利であり,これによって引越の頻度を必要最小限に低減することができるという効果を奏するものであると認められる。
本願発明1の上記特徴に照らせば,本願発明1において,「部屋を分割する」とは,「隔壁付きベッド」により仕切られる空間がこれと隣接する他の空間から完全に独立した状態で部屋を複数の領域に分けることを意味するものではなく,開放感に与える影響を少なくするように,「隔壁付きベッド」により仕切られた空間がこれと隣接する他の空間と連続した状態,すなわち,「隔壁」の高さが天井に達せず,隔壁の上端と天井との間に,開放感が得られる程度の間隙がある状態で部屋を複数の領域に分けることを意味するものと解される。
次に,本願発明1の「隔壁」について,特許請求の範囲(請求項1)には,「少なくとも,ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有する,間仕切り用の隔壁」であることが規定されている。
ここで,「隔壁」とは,「間をへだてる壁。仕切り。」を意味する用語であるが(新村出編「広辞苑 第6版」2008年1月,岩波書店発行),本願発明1に係る特許請求の範囲や本願明細書中には,「隔壁」がこれと異なる意義で用いられていることを示す記載はない。
また,本願明細書中には,ベッド本体部の高さや隔壁の高さについて, 具体的数値に言及した記載は存せず,本願発明1において「隔壁」の有す る高さの下限値は一義的に定まるものではないから,本願発明1の「隔 壁」という用語自体が,「間を隔てる壁」又は「仕切り」の高さを画する ものであるとはいえない。
したがって,本願発明1の「隔壁」は,その用語の字義のとおり,「間 を隔てる壁」又は「仕切り」を意味するものと解され,「隔壁」に該当す るか否かは,一定以上の高さや幅を有するものであるか否かにはかかわら ないものと認められる。
以上によれば,本願発明1において「部屋を分割するために使用される 隔壁付きベッド」とは,壁(仕切り)の高さが天井に達せず,壁(仕切 り)の上端と天井との間に,開放感が得られる程度の間隙がある状態で部 屋を複数の領域に分けるために使用される壁(仕切り)付きベッドを意味 するものと解される。
イ 引用発明は,前記3(2)記載のとおり,広い寝室等に設置するだけで,ベ ッドとその他のゾーンとを開放感を持たせつつ区切ることができるベッド を提供することを目的とするものであり,引用発明のベッド1を寝室に設 置するだけで,ベッドと,その他のゾーンとを開放感を持たせつつ区切る ことができ,引用発明のベッド1が設けられた住居によれば,寝室を間仕 切り壁等を用いることなく,解放感を持たせつつ区切って,有効利用する ことができるものであると認められる。
ところで,引用発明の「ベッド壁3」は,ベッド本体2の約2倍の高さ に形成されたものであるが,引用例には,ベッド本体2の高さやベッド壁 3の高さについて具体的数値に言及した記載は存しないから,「ベッド壁 3」の高さは具体的に明らかではない。
しかしながら,引用発明が,上記のとおり,ベッド1を寝室に設置する だけで,ベッドと,その他のゾーンとを開放感を持たせつつ区切ることが できるものであることからすると,「ベッド壁3」は,開放感を持たせつ つ部屋を複数の領域に分けることができる程度の高さを有する壁(仕切 り)であると解される。
したがって,引用発明の「ベッド壁3によって寝室12を区切る,ベッ ド1」は,寝室12を壁(仕切り)の高さが天井に達せず,壁(仕切り) の上端と天井との間に,開放感が得られる程度の間隙がある状態で部屋を 複数の領域に分けるために使用される壁(仕切り)付きベッドであると認 められる。
ウ 以上によれば,引用発明の「ベッド本体2と一体的に構成され」た「ベ ッド壁3によって寝室12を区切る,ベッド1」は,本願発明1の「部屋 を分割するために使用される隔壁付きベッド」に相当する。
また,引用発明の「ベッド壁3」は,「ベッド本体2の外周部に立設さ れ」,「平面視L字状をな」すものであるから,本願発明1の「ベッドの (逆)L字型を構成する二つの側面に」設けられたものであるといえる。
したがって,本願発明1と引用発明とは,「部屋を分割するために使用 される隔壁付きベッドであって,ベッドの(逆)L字型を構成する二つの 側面に,間仕切り用の隔壁を設けてなる,隔壁付きベッド。」である点で 一致する。
エ 原告の主張について 原告は,本願発明1の「隔壁」は,分割される部屋を構成している既存 の隔壁と協同して,新たに小さな部屋を構成するという作用,効果を有す るものであるのに対し,引用発明の「ベッド壁3」は,部屋数を増加させ る機能を有しないものであって,本願発明1の「隔壁」に相当しないから, 引用発明の「ベッド壁3」が本願発明1の「隔壁」に相当するとする本件 審決における一致点の認定は誤りである旨主張する。
しかしながら,本願発明1の「隔壁」も,引用発明の「ベッド壁3」も, その上端と天井との間に,開放感が得られる程度の間隙がある状態で部屋 を複数の領域に分ける機能を有する壁(仕切り)であって,本願発明1の 「隔壁」と引用発明の「ベッド壁3」とは,壁(仕切り)の高さの程度に 差異があるものの,かかる機能自体は両者に共通するものである。
そして,本願発明1の「隔壁」は,「間を隔てる壁」又は「仕切り」を 意味するものと解され,「隔壁」に該当するか否かは,一定以上の高さや 幅を有するものであるか否かにはかかわらないものと認められるから,引 用発明の「ベッド壁3」はこれに相当するものであると認められる。
したがって,引用発明の「ベッド壁3」が本願発明1の「隔壁」に相当 しないことを前提に,本件審決における一致点の認定に誤りがある旨の原 告の主張は,理由がない。
(3) 本願発明1と引用発明との相違点について ア 本願発明1と引用発明とは,本願発明1の「隔壁」が,「少なくとも, ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有する」ものであるのに対し,引用 発明の「ベッド壁3」は,「ベッド本体2の約2倍の高さに形成され」て いる点(相違点1)において相違する。
原告は,本願発明の「隔壁」は,分割される部屋を構成している既存の 隔壁と協同して,新たに小さな部屋を構成するという作用,効果を有する ものであるが,ベッド側面と「面一」の隔壁を設けても部屋を分割するこ とはできないから,このような態様を含まないものであるのに対し,引用 発明の「ベッド壁3」は,ベッドの外周に沿って立設される壁であるから, ベッド側面の長さよりも長くなることはあり得ず,ベッド壁の端部が,そ れぞれベッド側面の端部と「面一」である態様を含むものである点で相違 するにもかかわらず,本件審決はかかる相違点を看過した旨主張する。
しかしながら,前記(2)アのとおり,本願発明1の「隔壁」は,引用発明 の「ベッド壁3」と同様に,その上端と天井との間に,開放感が得られる 程度の間隙がある状態で部屋を複数の領域に分ける機能を有する壁(仕切 り)であって,「隔壁」に該当するか否かは,一定以上の高さや幅を有す るものであるか否かにはかかわらないものであると認められる。
したがって,本願発明1の「隔壁」が,その端部が,ベッド側面の端部 と「面一」である態様を含まないものであるとはいえないから,かかる態 様を含まないものであることを前提に本件審決に相違点の看過がある旨の 原告の上記主張は,理由がない。
イ また,引用例には,「ベッドを寝室に設置するだけで,ベッド壁によっ て,ベッドと,その他のゾーンとを開放感を持たせつつ区切ることができ る。」(【0009】),「寝室12に設けられている各種機能,設備等 によって,ベッド1の設置場所を変えて,ベッド壁3によって区切るゾー ンを変更することにより,部屋の空間および雰囲気を可変とすることがで きる。」(【0019】)などと,引用発明のベッド1が一旦設置した場 所から他の場所に移動され得るものであることを示唆する記載はあるもの の,引用発明のベッド1が,足を有し,該足に移動用のキャスターが設け られているものであることを示す記載はない。
したがって,本願発明1と引用発明とは,本願発明1の「ベッドが有す る足に移動用のキャスターが設けられて」いるのに対して,引用発明は, その点につき明らかでない点(相違点2)において相違する。
ウ 原告は,本願発明1と引用発明とは,本願発明1が「ベッドの一つの側 面」のみに隔壁を有する構成を含むものであるのに対し,引用発明はこの ような構成を含まない点において相違するにもかかわらず,本件審決はか かる相違点を看過し,かかる相違点についての判断を遺脱した旨主張する。
しかしながら,本願発明1は,その特許請求の範囲(請求項1)に「ベ ッドの一つの側面,又は(逆)L字型を構成する二つの側面に」,「間仕 切り用の隔壁を設けてなる」と記載されているように,その発明特定事項 として,「ベッドの一つの側面」に隔壁を設ける構成と,「(逆)L字型 を構成する二つの側面」に隔壁を設ける構成とを,選択的に規定している。
そして,本件審決は,選択的に規定された発明特定事項のうち, 「(逆)L字型を構成する二つの側面」に隔壁を設ける構成について,引 用発明と対比し,引用発明に基づき容易に発明をすることができたもので あるか否かを判断したものであるから,これと選択的に規定された,「ベ ッドの一つの側面」に隔壁を設ける構成を引用発明が備えるか否かは問題 とならない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 以上のとおり,本件審決における本願発明1と引用発明との一致点の認定 及び相違点の認定に誤りはなく,本件審決には相違点の看過は存しない。
よって,原告の取消事由2-2に係る主張は,理由がない。
6 取消事由2-3(相違点に係る容易想到性判断の誤り)について (1) 相違点1の容易想到性について ア 本願発明1と引用発明とは,本願発明1の「隔壁」が,「少なくとも, ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有する」ものであるのに対し,引用 発明の「ベッド壁3」は,「ベッド本体2の約2倍の高さに形成され」て いる点(相違点1)において相違する。
イ 引用発明は,広い寝室等に設置するだけで,ベッドとその他のゾーンと を開放感を持たせつつ区切ることができるベッドを提供することを目的と するものであり,ベッド本体の外周部の一部を除いて,ベッド本体の外周 に沿って立設され,かつ,ベッド本体より高く形成されたベッド壁を設け ることにより,引用発明のベッド1を寝室に設置するだけで,ベッドと, その他のゾーンとを開放感を持たせつつ区切ることができ,引用発明のベ ッド1が設けられた住居によれば,寝室を間仕切り壁等を用いることなく, 開放感を持たせつつ区切って,有効利用することができるというものであ る。
そして,引用発明のベッド1は,引用例の特許請求の範囲の請求項1に 記載された発明の実施例に相当するところ,請求項1は「ベッド壁は,・ ・・ベッド本体より高く形成されている」と規定するのみで,ベッド壁が ベッド本体部の高さに比べどの程度高く形成されているものであるのかや ベッド壁の高さの上限については具体的に規定していない。また,引用発 明のベッド1を設けた住居は,引用例の特許請求の範囲の請求項3に記載 された発明の実施例に相当するところ,引用例には,引用発明のベッド1 を寝室12に設けることにより,「ベッド壁3によって,寝室12を区切 って,サンルームとなるゾーン14と,書斎となるゾーン20と,化粧室 となるゾーン16とを区切った」実施例が記載されているが(【001 6】,【0018】),請求項3には「ベッド壁と寝室の内壁との間に所 定目的の居住空間が設けられている」と記載されており,ベッド壁により 区切られる空間の用途も特に限定されていない。
そうすると,引用発明において,ベッド壁3の高さをどの程度のものと するかは,これを設置する寝室の広さや天井の高さ,ベッド壁3により区 切られる居住空間(ゾーン)の用途,居住者(当該寝室を使用する者)の 特性等を考慮しながら,当業者が適宜設定し得る設計的事項であるという べきである。
ウ そして,本願発明1の隔壁の高さは,「少なくとも,ベッド本体部高さ の3倍以上の高さ」であると規定されているが,本願明細書中には,ベッ ド本体部の高さや隔壁の高さについて,具体的数値に言及した記載は存し ないから,そもそも,本願発明1は,その隔壁の高さの下限値を具体的数 値をもって規定したものではなく,さらに,「少なくとも,ベッド本体部 高さの3倍以上の高さ」に規定することに関しても,僅かに「隔壁の高さ は,ベッドとしての機能を維持する観点から,ベッド本体の高さの3倍以 上であることが必要である。」(【0013】)との記載があるのみで, 「ベッド本体部高さの3倍以上」という範囲を選択した数値的な根拠や, 当該範囲外の場合と比較して,当該範囲内の場合に顕著な作用効果を奏す ると認められるに足りる十分な検証結果等が記載されているわけではない。
したがって,本願発明1において,隔壁の高さを「少なくとも,ベッド本 体部高さの3倍以上の高さ」であると規定したことに格別の技術的意義が あると認めることはできない。
加えて,引用発明の「ベッド壁3」は,「ベッド本体2の約2倍の高さ に形成され」ているものの,引用例中にも,ベッド本体2の高さやベッド 壁3の高さについて,具体的数値に言及した記載は存しないところ,ベッ ド本体部の高さは,その用途(子供用か大人用か)やデザイン等によって も一様でないことは明らかであるから,本願発明1における隔壁の高さ (「少なくとも,ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有する」)と引用 発明における「ベッド壁3」の高さ(「べッド本体2の約2倍の高さに形 成され」)の関係も,常に前者が後者を上回るというような,一様なもの ではないこと,本願発明1の「隔壁」も引用発明の「ベッド壁3」も,い ずれも,その上端と天井との間に,開放感が得られる程度の間隙がある状 態で部屋を複数の領域に分ける機能を有する壁(仕切り)であることに照 らせば,引用発明において,ベッド壁3の高さをベッド本体2の高さの3 倍以上とすることに阻害要因があるとはいえない。
エ 以上によれば,引用発明において,相違点1に係る本願発明1の構成を 備えるようにすること,すなわち,「ベッド壁3」の高さを「少なくとも, ベッド本体部高さの3倍以上の高さを有する」ようにすることは,当業者 が容易に想到することができたものであると認められる。
(2) 相違点2の容易想到性について ア 本願発明1の「ベッドが有する足に移動用のキャスターが設けられて」 いるのに対して,引用発明は,その点につき明らかでない点(相違点2) において相違する。
イ 甲8(特開2001-128795号公報)の【0012】,図1,図 4,甲3(特開2007-2541号公報)の図7,甲9(特開2007 -332685号公報)の図7,図8には,足を有し,該足に移動用のキ ャスターを設けたベッドが開示されており,ベッドを移動させるために, ベッドに足を設け,該足に移動用のキャスターを設けることは,本願の出 願前に,当業者において周知慣用手段であったと認められる。
ウ そして,引用例には,「ベッドを寝室に設置するだけで,ベッド壁によ って,ベッドと,その他のゾーンとを開放感を持たせつつ区切ることがで きる。」(【0009】),「寝室12に設けられている各種機能,設備 等によって,ベッド1の設置場所を変えて,ベッド壁3によって区切るゾ ーンを変更することにより,部屋の空間および雰囲気を可変とすることが できる。」(【0019】)などと,引用発明のベッド1が一旦設置した 場所から他の場所に移動され得るものであることを示唆する記載があるか ら,引用発明において,ベッドを移動させるための周知慣用手段である, ベッドに足を設け,該足に移動用のキャスターを設けるという構成を採用 することには動機付けがあるというべきである。
エ 以上によれば,引用発明において,相違点2に係る本願発明1の構成を 備えるようにすること,すなわち,「ベッドが有する足に移動用のキャス ターが設けられて」いるようにすることは,当業者が容易に想到すること ができたものであると認められる。
(3) 小括 以上のとおり,本件審決における相違点1及び2に係る容易想到性の判断 に誤りはなく,原告の取消事由2-3に係る主張は,いずれも理由がない。
7 取消事由3(従属項に対する判断の遺脱)について (1) 原告は,本件審決は,請求項2以下の従属項に記載された発明について判 断しなかったから,本件審決には判断の遺脱の違法がある旨主張する。
(2) 特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は 特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発 生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与さ れるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願 であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可 分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る 特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査 定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。このことは,特 許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に 照らしても明らかである。
そして,本件審決は,本願発明1について,特許法29条2項の規定によ り特許を受けることができないと判断しているのであるから,これによって 本願が全体として同法49条2号に該当し,拒絶をすべきものとなることは 明らかである。仮に,本件審決が請求項2以下に係る発明について判断をし たとしても,本願発明1が同号に該当するものである以上,本願を拒絶すべ きものであるという結論には影響しない。
原告は,請求項2以下の従属項に記載された発明について判断しないこと は,審判請求費用が請求項の数に依存することと整合しない旨主張する。し かし,拒絶査定不服審判について,手数料額の一部が,当該特許出願に含ま れる請求項の数に応じた額とされているのは,審判請求人が当該審判で主張 する利益,すなわち特許査定がされることにより審判請求人に与えられる利 益が特許出願の全体に及ぶことに対応するものであるから,原告の上記指摘 は当たらない。
以上のとおり,本件審決に請求項2以下の従属項に記載された発明につい ての判断遺脱の違法は存しない。
(3) 以上によれば,原告の取消事由3に係る主張は理由がない。
8 結論 以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審 決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 柵木澄子
裁判官 鈴木わかな