関連審決 | 無効2013-800214 |
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事件 |
平成
26年
(行ケ)
10201号
審決取消請求事件
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原告 JFEスチール株式会社 同訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣 同 前田将貴 被告新日鐵住金株式会社 同訴訟代理人弁護士 増井和夫 同 橋口尚幸 同 齋藤誠二郎 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2015/09/03 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2013-800214号事件について平成26年7月24日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 住友金属工業株式会社(以下「住友金属工業」という。)は,平成13年8月31日,発明の名称を「熱間プレス用めっき鋼板」とする発明について特許出願 1(特願2001-264591号)をし,平成16年8月6日,設定の登録(特許第3582504号)を受けた(請求項数7。甲9。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。 。被告は,平成24 )年10月1日,住友金属工業を吸収合併し,本件特許権を承継取得した(乙1)。 (2) 原告は,平成25年11月8日,本件特許の請求項1ないし7に係る発明について特許無効審判を請求し,無効2013-800214号事件として係属した。 (3) 被告は,平成26年2月7日,本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲を訂正明細書記載のとおり訂正する旨の訂正請求をした(乙6,7。以下「本件訂正」という。。 ) (4) 特許庁は,平成26年7月24日,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年8月1日,原告に送達された。 (5) 原告は,平成26年8月29日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前の発明 本件訂正前の特許請求の範囲は,次のとおりである。以下,請求項1ないし7に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」といい,併せて「本件発明」という。また,本件発明に係る明細書(甲9)を「本件明細書」という。 【請求項1】表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛または亜鉛系合金のめっき層を鋼板表面に有することを特徴とする700〜1000℃に加熱されてプレスされる熱間プレス用鋼板。 【請求項2】前記酸化皮膜が亜鉛の酸化物層から成る請求項1記載の熱間プレス用鋼板。 2【請求項3】前記めっき層の片面当たりの付着量が90g/u以下である請求項1または2記載の熱間プレス用鋼板。 【請求項4】前記めっき層を鋼板表面に直接設けた熱間プレス用鋼板であって,該めっき層におけるFe含有量が80質量%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の熱間プレス用鋼板。 【請求項5】前記鋼板のC含有量が0.1 %以上,3.0 %以下である請求項1ないし4のいずれかに記載の熱間プレス用鋼板。 【請求項6】前記鋼板が780MPa級以上の高強度鋼板である請求項1ないし4のいずれかに記載の熱間プレス用鋼板。 【請求項7】表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛または亜鉛系合金のめっき層を鋼材表面に有することを特徴とする700〜1000℃に加熱されてプレスされる熱間プレス用鋼材。 (2) 本件訂正発明 本件訂正のうち,訂正事項1は,本件訂正前の請求項1において,「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」を,「亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層」と訂正するものであり(以下「本件訂正1」という。,訂正事項17は,本件訂正前の請求項 )7において,「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」を,「亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合 3金めっき層」と訂正するものである(以下「本件訂正17」という。。 ) 本件訂正後の特許請求の範囲は,次のとおりである。以下,請求項1ないし7に係る発明をそれぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明7」といい,併せて「本件訂正発明」という。また,本件訂正発明に係る明細書(乙7)を「本件訂正明細書」という。なお,下線は本件訂正に係る部分である。 【請求項1】表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層を鋼板表面に有することを特徴とする700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板。 【請求項2】前記酸化皮膜が亜鉛の酸化物層から成る請求項1記載の熱間プレス用鋼板。 【請求項3】前記めっき層の片面当たりの付着量が90g/u以下である請求項1または2記載の熱間プレス用鋼板。 【請求項4】前記めっき層を鋼板表面に直接設けた熱間プレス用鋼板であって,該めっき層におけるFe含有量が80質量%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の熱間プレス用鋼板。 【請求項5】前記鋼板のC含有量が0.1%以上,3.0%以下である請求項1ないし4のいずれかに記載の熱間プレス用鋼板。 【請求項6】前記鋼板が780MPa級以上の高強度鋼板である請求項1ないし4のいずれかに記載の熱間プレス用鋼板。 4【請求項7】表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層を鋼板表面に有することを特徴とする700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼材。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,@本件訂正はいずれも適法であるから,本件特許に係る発明は,本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される本件訂正発明である,A本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載には特許法36条6項1号(以下「サポート要件」という。)及び2号(以下「明確性要件」という。)違反はなく,本件訂正明細書の記載には平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項(以下「実施可能要件」という。)違反はない,B本件訂正発明は,特開2001-353548号公報(甲8。以下「先願明細書」という。)に記載された発明と同一ではないから,特許法29条の2の規定に違反して特許されたものではない,などというものである。 (2) 本件審決が認定した先願明細書に記載された発明(以下「先願発明」という。)は,次のとおりである。 以下の重量組成をもつ 炭素:0.15%-0.25% マンガン:0.8%-1.5% ケイ素:0.1%-0.35% クロム:0.01%-0.2% チタン:0.1%以下 アルミニウム:0.1%以下 5 リン:0.05%以下 イオウ:0.03%以下 ホウ素:0.0005%-0.01% 鋼板に亜鉛被膜が両面に連続的にメッキされ,成形前の鋼板を950℃でオーステナイト化し,プレス成形で焼入れする鋼板。 (3) 本件訂正発明1と先願発明との対比 本件審決が認定した本件訂正発明1と先願発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア 一致点 表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛を含むめっき層を鋼板表面に有する950℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス鋼板 イ 相違点 「表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えためっき層」に関し,本件訂正発明1では,「亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層」であるのに対し,先願発明では,「亜鉛被膜」である点(以下「相違点A」という。) 4 取消事由 (1) 訂正要件違反の看過(取消事由1) (2) 明確性要件,サポート要件又は実施可能要件の判断の誤り(取消事由2) (3) 本件訂正発明と先願発明の同一性判断の誤り(取消事由3) |
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当事者の主張
1 取消事由1(訂正要件違反の看過)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,本件訂正1及び17は,本件明細書の【0038】 【004 ,0】の記載によれば,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した 6事項の範囲内の訂正であり,特許法134条の2第9項において準用する特許法126条5項に適合する,と判断した。 (2) 訂正が,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。もっとも,明細書又は図面に記載された事項は,通常,当該明細書又は図面によって開示された技術的思想に関するものであるから,例えば,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「明細書又は図面に記載された範囲内において」するものであるということができる。 しかしながら,@本件訂正1及び17では,特許請求の範囲の減縮に伴って,本件明細書の【表5】の実施例8例のうち,過半数である5例を参考例に変更し,しかも,参考例として除かれた本件訂正前の実施例は,本件発明の代表的な実施例であること,A本件明細書において,上記の実施例8例は,いずれも単に,「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」の例示にすぎず,特定のめっき層の奏する作用効果についての記載はないから,参考例に対応する構成(亜鉛めっき層,亜鉛-鉄めっき層,亜鉛-アルミニウムめっき層)を特許請求の範囲から除外して,本件訂正発明の特許請求の範囲に列挙された合金めっき層に限定する理由も,かかる限定を示唆する技術的事項も,本件明細書には全く記載されていないこと,B列挙された元素から任意の元素を選択することが特許請求の範囲の減縮に当たるとしても,当該元素を選択するという技術思想が本件明細書に記載されていない以上,本件訂正によって除外された部分を除いた発明が独立した発明として本件明細書に記載されていたとはいえないことが認められる。 7 以上の事実に照らせば,本件においては,付加される訂正事項が当該「明細書又は図面に明示的に記載されている場合」であるとは判断できない特段の事情が存在するというべく,本件訂正1及び17は新たな技術思想を持ち込むものであるから,本件訂正を認めた本件審決には,特許法126条5項の解釈,適用を誤った違法があり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼす。 〔被告の主張〕 (1) 本件特許の技術思想は,亜鉛又は亜鉛系合金めっき層を設けた鋼板を熱間プレスすると優れた熱間プレス鋼板になるということであって(本件明細書の【0002】〜【0020】【0028】,その「亜鉛系合金めっき層」を,本件訂正 , )明細書に記載された一部の合金のめっき層のみに限定しても,その技術思想は本件訂正前の請求項と変わることはないのであって,本件訂正1及び17によって新たな技術思想を持ち込むものではない。 そして,「亜鉛系合金めっき層」を設けた鋼板について,700〜1000℃に加熱して熱間プレスを施すという事項そのものが,本件特許出願前の当業者の技術常識から容易に導かれることのなかった新規かつ進歩性の認められる発明である。 また,本件明細書の【0038】【0040】には,本件訂正1及び17により請 ,求項1及び7に付加された要件であるいずれの亜鉛めっき層についても,本件発明が実施できることが開示され,さらに,その熱間プレスによって優れた熱間プレス部材となるという作用・効果も,本件発明1及び7と本件訂正発明1及び7とで何ら変わることはない。このように,本件訂正の前後で,発明の構成も作用効果も全く変わっていないのであるから,本件訂正1及び17は新規事項を導入するものではない。 (2) 原告の主張について ア 原告の主張(2)@について 実施例を参考例に変更した訂正は,「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」を「亜鉛系合金のめっき層」の組成を限定するとの請求項1及び7の訂正に伴って必然 8的に行われることになった明細書の記載を形式的に整えるための変更にすぎず,訂正内容が新規事項の導入に該当するか否かとは関係がない。また,原告は,除かれた実施例の個数と当該実施例が「代表的」な実施例である点を問題にしているが,参考例に訂正された本件訂正前の実施例と,本件訂正後も実施例として残った例との間には,「代表的」か「付随的」かなどという差異はない。 イ 原告の主張(2)Aについて 亜鉛系合金めっき層の構成を本件訂正1及び17で限定した後の請求項1及び7と,本件訂正前の請求項1及び7は,発明の構成(課題解決手段)及び作用効果において,全く変わるところはない。そして,明細書に開示された発明のうち,どの部分を請求項として権利主張するかは出願人が自由に選択できる事項であり,その選択において,当該一部を選んで請求項とする理由が明細書に記載されていることは,訂正の要件とされていない。 ウ 原告の主張(2)Bについて 本件明細書の【0038】【0040】には,本件訂正後の請求項1及び7の限 ,定された亜鉛系合金めっき層の鋼板について,本件発明が実施可能であることが明記されており,それぞれの組成の亜鉛系合金めっき層に対する発明は,独立した発明として本件明細書に明記されている。そして,前記イのとおり,明細書に記載された発明のうち,どの部分を請求項として権利主張するかは出願人が自由に選択できる。その選択において,当該一部を特に選ぶ理由が明細書に記載されている必要はない。本件明細書の【0038】【0040】に列記されたいずれの亜鉛系めっ ,き層についても,700〜1000℃に加熱して熱間プレスを施すと優れた熱間プレス鋼板となる,という点は同じであり,いずれの亜鉛系めっき層であっても,それに熱間プレスを施すということ自体が新規性・進歩性のある発明である。 2 取消事由2(明確性要件,サポート要件又は実施可能要件の判断の誤り)について〔原告の主張〕 9 本件審決は,以下のとおり,特許請求の範囲の明確性要件の判断を誤り,仮にそうでないとしてもサポート要件及び明細書の実施可能要件の判断を誤っている。これらは,どれ一つをとっても,審決の結論に影響を及ぼすものである。 (1) 明確性要件違反について 本件審決は,本件訂正発明において,「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は,700〜1000℃に加熱される熱間プレスの加熱前に形成されていてもよく,あるいは,ある程度形成されていて当該熱間プレス加熱時に形成が進んでもよく,さらには,当該熱間プレスの加熱により形成されていてもよいのであって,換言すれば,その形成(完了)は,熱間プレス直前までに行われていればよいとみることが自然であるから,本件訂正明細書の発明の詳細な説明を参照すれば,酸化皮膜の形成時期は明確であると判断した。 しかし,本件訂正発明の「熱間プレス用鋼板」は,言葉の普通の意味に基づけば,常温において取引される鋼板であると解される。そうすると,「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は,「熱間プレス用鋼板」が備えるべき構成要件であるから,特許請求の範囲に明確性要件違反がないという結論に至るためには,「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は,遅くとも熱間プレスのための加熱が始まる前に存在することが必要であると解すべきである。しかるに,本件訂正明細書には,「亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期を明らかにする記載がない。 また,本件訂正明細書の【0018】【0042】【0043】【0064】の , , ,記載を考慮しても,「表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた」という構成要件が熱間プレスのための加熱前に充足されていなくてもよいという解釈を一義的に導き出すことはできない。 したがって,本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は,明確性要件に反するから,この点を否定した本件審決は取消しを免れない。 (2) サポート要件違反について 本件訂正発明の特許請求の範囲には,「表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸 10化皮膜を備えた」と記載されているところ,本件訂正発明において,「亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は解決手段であり,「耐食性を確保でき,外観劣化が生じない熱間プレス用鋼材を提供すること」(【0014】)が解決課題である。 しかるに,本件訂正明細書の【0017】,【0019】によれば,亜鉛の蒸発を防止したのは合金化であって,亜鉛の酸化皮膜ではない。本件訂正明細書の【0018】には,「めっき層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層として全面的に形成されていることが判明した。」と記載されているが,本件訂正明細書には,この結論の根拠となる事実は全く記載されていない。 本件訂正明細書の【表5】において,「加熱後外観」の列に「均一酸化皮膜形成」との記載はあるが,上記の亜鉛の蒸発を防止する合金化の事実と矛盾するものでも,これを否定するものでもないから,亜鉛の蒸発に先立って亜鉛の酸化皮膜が形成されたか否かは不明である。そして,酸化皮膜の形成(完了)は熱間プレス直前までに行われていればよいとの本件審決の認定に従った場合,700〜1000℃に加熱されることによって酸化皮膜が形成されるとしても,同時に合金化も進むはずであるから,亜鉛の蒸発を防止したのが合金化なのか,酸化皮膜なのかは不明といわざるを得ない。 また,被告がサポート要件を充足する根拠として引用する本件訂正明細書の【表2】,【表3】,【表4】,【表5】のNo.5は,いずれも合金化溶融亜鉛めっき層である上,本件訂正発明の実施例ではなく,参考例にすぎない。また,【表5】のNo.2,3,8については,加熱後外観が「均一酸化皮膜形成」と記載されているだけであり,酸化皮膜が形成されることによって亜鉛の蒸発が防止されたことは記載されていない。 そうすると,本件訂正明細書には,酸化皮膜が亜鉛の蒸発を防止することによって課題が解決されたことを根拠付ける記載がなく,本件訂正発明に係る特許請求の範囲はサポート要件を欠く。 (3) 実施可能要件違反について 11 ア 酸化皮膜の形成条件が不明であること 甲10の明細書は,本件訂正明細書に酷似するが,甲10における実施例は,熱間プレスのための加熱前に酸化皮膜を形成しており,これに対して,甲10の比較例2,3,4及び23は,加熱前に酸化皮膜を形成する工程を経ていないために,900℃,8分間の加熱によって茶変や粉化物が生じ,本件訂正発明の課題が解決されないことになる。 ところで,本件審決は,加熱前に酸化皮膜が形成されていない「熱間プレス用鋼板」であっても,熱間プレスのための加熱によって,熱間プレス直前までに「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が形成されていれば,当該「熱間プレス用鋼板」は,本件訂正発明の構成要件を充足すると認定した。この結論に従えば,加熱前には同一の「熱間プレス用鋼板」であっても,加熱条件(温度,時間)によって,本件訂正発明となる場合もならない場合もあることになるところ,甲10の比較例2,3,4及び23は,本件訂正発明とならない場合を示している。しかし,本件訂正明細書には,加熱条件をどのように決定すれば,プレス直前までに,「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が形成されるかが不明であるから,本件訂正明細書の記載には実施可能要件違反がある。 本件審決は,この点について,本件訂正発明では,「通常想定されるケースよりは高温(例えば900℃以上)あるいは長時間(例えば5分以上)で加熱される場合」,すなわち,「充分すぎるあるいは過度な加熱が行われる場合」を考慮しておらず,甲10の比較例23のような加熱がされることを想定していないから,この比較例23の結果と本件訂正明細書の【表5】の結果を比較すること自体に無理がある旨認定した。 しかし,本件訂正明細書において,例えば,参考例1では,950℃×5分加熱と記載されているから,本件訂正発明において,900℃以上,5分以上の加熱が考慮されていないとはいえないし,この参考例1の温度及び加熱時間と,甲10の比較例の900℃×8分加熱のいずれが「充分すぎるあるいは過度な加熱」になる 12のかは不明であるから,甲10の比較例の900℃×8分の加熱では本件訂正発明に至らず,本件訂正明細書の参考例1の950℃×5分加熱では本件訂正発明に至る理由が分からなければ,当業者は本件訂正発明を実施することができない。 以上のとおり,加熱前に酸化皮膜が存在せず,熱間プレスのための加熱によって酸化皮膜が形成される場合において,熱間プレスのための加熱をいかなる条件で実施すれば,「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が形成されるかを明らかにすることが実施可能要件の重要な部分であるが,本件訂正明細書の【0050】〜【0066】をみても,当業者が,個々のめっき鋼板の構成に応じて,具体的な加熱条件を設定することを可能にするような記載は全くない。 したがって,本件訂正明細書は,実施可能要件を満たしていない。 イ 焼き入れ不可能な温度範囲を含むこと 本件訂正発明においては,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる」ことが,「熱間プレス用鋼板」の構成要件となっている。したがって,上記温度範囲の下限の700℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板を製造できることを当業者が認識し得る程度の記載が明細書になければ,特許請求の範囲に記載されている発明の少なくとも一部は実施可能要件を欠くことになる。 しかるに,本件審決は,焼き入れの意味を「鋼をオーステナイト領域まで加熱後,適当な冷却剤中で急冷し,マルテンサイト組織として硬化させる熱処理をいう。」,オーステナイト領域となる加熱温度については「Ac 3点以上の温度である」とそれぞれ認定した上で,甲23の「VII.8恒温変態図」に記載されているAc 3算定式に基づき,本件訂正明細書の【表1】記載の鋼種EのAc 3 温度を544℃と算定し,この算定結果に基づいて,鋼種Eを700℃に加熱すれば焼き入れができることは明らかである旨認定した。 しかし,上記のAc 3 算定式は,炭素量の増加によってAc 3 温度が低下することを示すものであるが,炭素量の低い領域でのみ有効なものであって,共析鋼の炭 13素量を超える領域では,状態図において炭素量の増加によってオーステナイト領域の下限を示す線が右上がりとなるために全く意味を持たなくなる結果,Ac3 温度は,共析鋼において最低となる。本件審決も,共析鋼のAc 3 温度については,「鉄に炭素が入ればその量に応じてA 3 変態点は910℃より降下し,0.85C(共析鋼)で726℃となる」旨認定している。そして,この「0.85C」は,炭素量が0.85%であることを意味する。そうすると,本件訂正明細書の【表1】記載の鋼種Eの炭素量は2%であって,共析鋼の炭素量をはるかに上回るから,本件審決の算定した544℃という値は技術的に意味がない。 したがって,鋼種Eを544℃以上である700℃に加熱すれば焼き入れが可能であるとの本件審決の認定は事実誤認である。共析鋼のAc 3 温度は725℃又は726℃であるから,当業者であれば,鋼を700℃に加熱しても焼き入れはできないと理解する。本件審決は,前記算定式の適用範囲を誤り,実施可能要件違反を看過したものであって,この誤認は審決の結論に影響を及ぼす。 〔被告の主張〕 (1) 明確性要件について 本件訂正発明は,亜鉛系めっき層の表面に形成される酸化皮膜によってめっき層の蒸発が防止され,熱間プレス後の表面状態が良好で耐食性・塗膜密着性に優れた鋼板が製造されるという発明であり,本件訂正明細書の【0018】【0042】 , ,【0043】【0064】によれば,酸化皮膜は,熱間プレス時の加熱前に予め形 ,成されていても熱間プレス時の加熱によって形成されていても,どちらでも構わない。 原告は,この点について,「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「熱間プレス用鋼板」が備えるべき構成要件であるから,明確性要件違反がないという結論に至るためには,酸化皮膜は遅くとも熱間プレスのための加熱が始まる前に存在することが必要である旨主張するが,その根拠が不明であって,本件訂正発明における酸化皮膜の形成(完了)は熱間プレス直前までに行われていればよいとみるの 14が自然であり,その形成時期について,それ以上の限定はされていない。 したがって,酸化皮膜の形成時期について,明確性要件に欠けるところはない。 (2) サポート要件について本件訂正明細書の【0050】〜【0066】には,実施例として,本件訂正発明の亜鉛系めっき鋼板の製造方法,加熱温度と時間,熱間プレスの方法が具体的に説明されており,さらに,熱間プレス後の鋼板について,塗膜密着性,塗装後耐食性を検討する試験方法も具体的に開示されている。このように,本件訂正明細書には,本件訂正発明の実施により,亜鉛めっき鋼板の表面に酸化皮膜が形成され,その酸化皮膜の作用効果として,鋼板の酸化が防止され,成形性,塗膜密着性,耐食性に優れた熱間プレス鋼板となることが記載されている。また,表面に均一な酸化皮膜が形成されているということは,その皮膜の下のめっき層の亜鉛の蒸発が防止されたことも,当然に理解できる。したがって,本件訂正明細書には,酸化皮膜の形成によって,発明の課題が解決されることが記載されており,本件訂正発明は,本件訂正明細書の記載によってサポートされている。 原告は,この点について,本件訂正明細書の【0017】〜【0019】【00 ,66】によっても,亜鉛の蒸発を防止したのが合金なのか酸化皮膜なのかは不明であって,本件訂正明細書には,酸化皮膜が亜鉛の蒸発を防止することによって課題が解決されたことを根拠付ける記載がなく,サポート要件を充足しない旨主張する。 しかし,本件訂正明細書の【0017】〜【0019】を通して読めば,めっき層の合金化によって亜鉛の蒸発が防止されるとともに,めっき層表面の酸化皮膜がバリア層として作用することでも,亜鉛の蒸発が防止されるということが理解できる。 すなわち,めっき層の合金化についての説明は,酸化皮膜の作用効果を否定する記載ではなく,両者が相まって,亜鉛の蒸発が防止されると説明されている。そして,上記のとおり,本件訂正明細書の【0050】〜【0066】には参考例,実施例として,酸化皮膜の形成とその作用効果が説明されていることから,【0018】の「めっき層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア 15層として全面的に形成されている」との記載の根拠足り得る。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (3) 実施可能要件について ア 酸化皮膜の形成条件について (ア) 本件訂正明細書の【0064】〜【0066】には,実施例として,【0050】以下の参考例の方法を引用して,下地鋼板の組成,めっき層の形成方法(めっきの方法,付着量,めっきの組成),加熱条件,熱間プレス方法が詳細に説明され,さらに,熱間プレス後に酸化皮膜の形成が目視で確認できることや,成形性,塗膜密着性,耐食性の確認方法まで説明されている。この実施例及び参考例の説明から,当業者であれば,本件訂正発明を実施することは容易であり,実施可能要件違反はない。 (イ) 甲10は,本件特許と同じ出願人(住友金属工業)が,本件特許の出願の3か月後に出願した発明であり,本件特許を前提として更に改良した発明であって,熱間プレス工程で,過度な加熱(900℃以上)又は長時間(5分以上)加熱された場合でも,安定した品質の熱間プレス品を得るためには,バリア層の主成分であるZnO層をめっき表面にあらかじめ積極的に生成させることで,そのような過度の高温加熱が施される条件でも,品質のよい熱間プレス品が得られることを見いだした発明である。 そして,原告が引用する甲10の【表2】の試番2,3,4及び23は,加熱条件が大気炉内で900℃×8分というものである。これに対して,本件訂正明細書の実施例の加熱条件は,【0064】に「熱間プレスに先立つ加熱は,大気炉で850℃,3分間行なった」と説明されている。このように,甲10の加熱条件は,本件訂正明細書の実施例より温度が高く,加熱時間は倍以上長い。加熱条件が大きく異なるのだから,表面の酸化皮膜の状態が異なるものになることは当然にあり得ることであって,甲10の上記結果は,本件訂正明細書の【0064】以下の実施例の結果と矛盾しない。また,甲10の【表2】の試番2,3,4及び23は,甲 1610では「比較例」とされているが,これらの試番についても「耐食性」は全て「〇」とされていることから,過度の加熱によってプレス品外観に「茶変」 「粉化 ,物」は生じているが,酸化皮膜は形成されており,それにより,耐食性は確保されたものと理解される。この点からも,甲10のこれらの試番についての結果は,本件訂正明細書の記載と矛盾しない。 確かに,本件訂正発明は,加熱条件について「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる」とのみ定めており,甲10の試番2,3,4及び23の「900℃×8分」という加熱条件はこれに含まれる。しかし,本件訂正発明を実施するための具体的な加熱条件は,下地鋼板の組成,厚さ,めっき層の組成,付着量,めっき方法等によって異なってくるのであり,個々のめっき鋼板の条件に応じて,酸化皮膜が形成され亜鉛の蒸発と鋼板の酸化が防止される具体的な加熱条件は,「700〜1000℃に加熱」され「プレスされ焼き入れされる」という構成要件の範囲内で,当業者が適宜設定すればよいだけである。本件訂正明細書の【0050】〜【0066】には,酸化皮膜の形成,成形性,塗膜密着性,耐食性の確認の方法が詳細に開示されており,この実施例・参考例の記載に基づいて,当業者であれば,個々のめっき鋼板の構成に応じて,具体的な加熱条件を設定することは容易に可能であって,そのような具体的な加熱条件の設定は,設計的事項にすぎない。 したがって,甲10に,茶変・粉化物が生じた比較例が記載されているからといって,その記載ゆえに,本件訂正明細書の記載から本件訂正発明が当業者にとって実施不能であるということにはならない。 イ 焼き入れ可能な温度範囲について 原告指摘のとおり,甲23の「VII.8恒温変態図」に記載されている,式(VII?20)のAc 3 算定式は,C量が0.77%未満の亜共析鋼について適用される式であり,炭素量が2%の過共析鋼である本件訂正明細書の【表1】記載の鋼種Eには適用できない。しかし,この点についての本件審決の判断の誤りは, 17審決の結論に何ら影響を及ぼすものではない。 甲21〜23,乙5に記載されているとおり,焼き入れ可能な温度は亜共析鋼ではAc 3 変態点,過共析鋼ではAc 1 変態点であること,Ac 3 算定式及びAc 1 算定式は,甲23の「VII.8恒温変態図」の(VII?20)及び(VII?19)のとおりであること,当該変態点は下地鋼板の組成によって変動することは,当業者にとっての技術常識(周知技術)である。また,上記各算定式及び乙5に示されているように,鋼の組成(添加元素)は共析温度(Ac 1 変態点及びAc 3 変態点)に影響を与えることが広く知られており,例えば,Ni,Mn等の元素は,Ac 1 変態点及びAc 3 変態点を低下させる効果があり,このような元素を多く含む鋼板では,亜共析鋼ではAc 3 変態点,過共析鋼ではAc 1 変態点が700℃を下回る温度となり,700℃の加熱で焼き入れが可能となることも当業者ならば容易に理解できる。 そうすると,当業者であれば,本件訂正明細書の【0034】の鋼種Aの実施例や技術常識に基づいて,下地鋼板の組成に応じて「700〜1000℃」の加熱温度の範囲で,適宜,焼き入れ可能な加熱温度を設定することは容易であり,そのような加熱温度の設定は設計的事項である。 したがって,「焼き入れ可能な温度」について,本件訂正明細書は実施可能要件を充足する。 3 取消事由3(本件訂正発明と先願発明の同一性判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,先願発明を前記第2の3(2)のとおり認定した上で,本件訂正発明1と先願発明との相違点Aについて,先願明細書のめっき層の組成に関する記載のうち「亜鉛ベース合金」として具体的に開示されているものは,「亜鉛-アルミニウム合金」「亜鉛アルミニウム」 「亜鉛-鉄ベース化合物」「亜鉛-鉄-アル , , ,ミニウムベース化合物」のみであり,本件訂正発明1の発明特定事項である「亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき 18層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層」は,先願明細書に記載されていないし,甲2〜5の記載を参照しても記載されているに等しいとみることはできないから,先願発明は本件訂正発明1と同一ではない旨判断した。 (2) しかし,先願発明の被膜は,「亜鉛被膜」に限定されておらず,「亜鉛又は亜鉛ベース合金」であるから,本件審決による先願発明の認定には誤りがある。 そして,特許法29条の2における同一性判断においては,請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明特定事項とに相違がある場合であっても,それが課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないもの)である場合は,特許法29条の2の趣旨に照らして,これを実質同一と判断すべきである。 これを本件についてみると,本件訂正明細書の【0040】に,「亜鉛系めっき層の組成は特に制限がなく,Al,Mn,Ni,Cr,Co,Mg,Sn,Pbなどの合金元素をその目的に応じて適宜量添加した亜鉛合金めっき層」が記載されているように,鋼板に亜鉛系合金のめっき層を付けるに当たり,目的に応じて適宜の合金元素を適宜量添加することは本件特許出願前から周知技術に属する。本件訂正によって,本件訂正発明1において特定された添加元素は,Ni,Co,Cr,Al-Mg,Sn,Mnの6種類であるが,本件訂正明細書には,これら各元素によって,それぞれいかなる作用効果が達成されるのかを明らかにした記載もなければ,これら6種類の元素を添加した合金に共通の性質も記載されていない。また,本件訂正明細書の【表5】において,No.1〜8の実施例の相互の優劣が全く区別されておらず,添加元素の添加理由も説明されていない。さらに,本件審決は,甲20,24,乙3及び4を引用した上で,自動車用のめっき鋼板(亜鉛ベース合金)として,Zn-Ni,Zn-Co,Zn-Mn,Zn-Cr等の合金めっきを周知のものと認定し,所望の物性を得るためこれら周知のめっきをめっき層として選択することは,当業者であれば容易である旨認定している。結局,本件訂正発明1は, 19先願発明の亜鉛ベース合金について,周知技術に従った任意の添加元素を恣意的に特定したにすぎず,これらの元素は,当業者の技術常識に従って目的に応じて適宜添加されるものである。したがって,本件訂正発明1は,実質的に,先願発明と同一である。 そうすると,本件審決は,特許法29条の2における同一性の解釈を誤った結果,本件訂正発明1と先願発明との実質的同一性を認定しなかったものであるから,特許法29条の2の解釈,適用を誤った違法があり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼす。 〔被告の主張〕 (1) 先願明細書の【請求項3】 【請求項4】 【0007】 【0019】 【00 , , , ,29】 【0036】には, , 「亜鉛または亜鉛ベース合金」という,亜鉛ベース合金を広く一般的に含む記載がある。しかし,「亜鉛ベース合金」として,具体的に亜鉛以外の組成を含む合金として開示されているのは,「亜鉛-鉄」 「亜鉛-アルミ ,ニウム」「亜鉛-鉄-アルミニウム」の3種類のみである。本件訂正発明の「亜鉛 ,-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層」という合金からなるめっき層を設けた鋼板を熱間成形することは,先願明細書には開示されていない。したがって,本件訂正発明1は先願発明と同一ではない。 (2) 亜鉛系合金のめっき層に適宜の合金元素を適用するという周知技術は,本件訂正発明1のような「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板」についての技術ではない。原告主張に係る本件審決の認定も,一般的な亜鉛系合金めっきとして,又は自動車用鋼板に用いる亜鉛系合金めっきとして,適宜添加元素を加えることが周知技術であったという認定であって,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板」について,その亜鉛系合金めっき層について合金元素を適宜量添加することが周知技術で 20あったという認定ではない。 本件訂正明細書の【0016】のとおり,700〜1000℃という熱間プレス時の加熱温度は,亜鉛系めっき金属の融点以上の温度であり,そのような高温に加熱した場合,めっき層は溶融して表面より流出し,溶融・蒸発して残存しないか,残存しても表面性状は著しく劣ったものになることが予測されていた。本件訂正発明は,あえて亜鉛系めっき鋼板に,700〜1000℃に加熱する熱間プレスを施すと,当業者の予想に反して,表面に形成される酸化皮膜によりめっきの亜鉛の蒸発が防止され,かつ鋼板の鉄酸化物形成を抑制するため,表面性状が良好なまま熱間プレス鋼板として使用し得ることを見いだした点に特徴があり,明らかに新規性,進歩性が認められる発明である。したがって,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板」について,その亜鉛系合金めっき層に合金元素を適宜量添加することは,本件特許の出願以前に公開されたいかなる公知文献にも開示されていないし,当然,周知技術ではない。 また,合金は,通常,その構成(成分及び組成範囲等)から,どのような特性を有するか予測することは困難であり,ある成分の含有量を増減したり,その他の成分を更に添加したりすると,その特性が大きく変わるものであるから,先願明細書に具体的に開示されている「亜鉛-鉄」 「亜鉛-アルミニウム」 「亜鉛-鉄-アル , ,ミニウム」の3種類以外の合金をめっき層に用いた場合にも,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板」において,表面に形成される酸化皮膜により亜鉛の蒸発と鋼板の酸化が防止されるという本件訂正発明の作用効果が得られることが当然に理解されるものではない。 そうすると,亜鉛系合金めっき層に一般的に,又は自動車用鋼板の亜鉛系合金めっき層に,適宜添加元素を加えることが周知技術だったからといって,「亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層」という,先願明細書に具体的に開示されていない元 21素を添加しためっき層についても,本件訂正発明の作用効果が得られることが当然に理解されるということはできないから,相違点Aは,それが課題解決のための具体化手段における微差であって,先願明細書に記載されているに等しい事項であるということはできない。 |
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当裁判所の判断
1 本件訂正発明について (1) 本件訂正発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2(2)記載のとおりであるところ,本件訂正明細書(乙7)の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある。 ア 発明の属する技術分野【0001】本発明は,熱間プレス用鋼材,特に自動車用の足廻り,シャ-シ,補強部品などの製造に使用される熱間プレス用鋼板および鋼材に関する。 イ 従来の技術【0002】近年,自動車の軽量化のため,鋼材の高強度化を図り,使用する鋼材の厚みを減ずる努力が進んでいる。しかし,鋼材としての鋼板をプレス成形,例えば絞り形成を行うことを考えた場合,使用する鋼板の強度が高くなると絞り成形加工時に金型との接触圧力が高まり鋼板のカジリや鋼板の破断が発生したり,またそのような問題を少しでも軽減しようと鋼板の絞り成形時の材料の金型内への流入を高めるためブランク押さえ圧を下げると成形後の形状がばらつく等の問題点がある。 【0003】また,形状安定性いわゆるスプリングバックも発生し,これに対しては例えば潤滑剤使用による改善対策等もあるが,780MPa級以上の高強度鋼板ではその効果が小さい。 【0004】このように難加工材料としての高強度鋼のプレス成形には問題点が多いのが現状である。なお,以下,この種の材料を「難プレス成形材料」という。 ウ 発明が解決しようとする課題【0005】ところで,このような難プレス成形材料をプレス成形する技術として, 22成形すべき材料を予め加熱して成形する方法が考えられる。いわゆる熱間プレス成形および温間プレス成形である。以下,単に熱間プレス成形と総称する。 【0006】しかし,熱間プレス成形は,加熱した鋼板を加工する成形方法であるため,表面酸化は避けられず,たとえ鋼板を非酸化性雰囲気中で加熱しても,例えば加熱炉からプレス成形のため取り出すときに大気にふれると表面に鉄酸化物が形成される。この鉄酸化物がプレス時に脱落して金型に付着して生産性を低下させたり,あるいはプレス後の製品にそのような酸化皮膜が残存して外観が不良となるという問題がある。しかも,このような酸化皮膜が残存すると,次工程で塗装する場合に鋼板との塗膜密着性が劣ることになる。またスケールが残存する場合,次工程で塗装してもスケール/鋼板間の密着性不芳のせいで塗膜密着性が劣る。 【0007】そこで熱間プレス成形後は,ショットブラストを行ってそのようなスケールを構成する鉄酸化層を除去することが必要となるが,これではコスト増は免れない。 【0008】また加熱時にそのようなスケールを形成させないために低合金鋼やステンレス鋼を用いてもスケール発生は完全に防止できないばかりか,普通鋼に比較して大幅にコスト高となる。 【0009】このような熱間プレス成形時の表面酸化の問題に対する対策として加熱時の雰囲気とプレス工程全体の雰囲気をともに非酸化性雰囲気にすることも理論上有効ではあるが設備上大幅な高コストとなる。 【0012】このように高強度の鋼板を成形するために熱間でプレス成形する方法があるが生成した鉄酸化物を除去する工程が必要であるのと,たとえ鉄酸化物を除去しても鋼板のみでは防錆性に劣るのが現状である。 【0014】ここに,本発明の課題は,いわゆる難プレス成形材料について熱間プレスを行っても所定の耐食性を確保でき,外観劣化が生じない熱間プレス用の鋼材を提供することである。 【0015】さらに本発明の具体的課題は,耐食性確保のための後処理を必要とせ 23ずに,例えば難プレス成形材料である高張力鋼板の熱間プレス成形を可能とし,同時に耐食性をも確保できる技術を提供することである。 エ 課題を解決するための手段【0016】本発明者らは,かかる課題を解決する手段について種々の角度から鋭意検討の結果,前記のような難プレス成形材料をそのままプレス成形するのではなく,変形抵抗を低減させるべく高温状態でプレス成形を行い,同時にそのときに,後処理を行うことなく優れた耐食性を確保すべく,もともと耐食性に優れるめっき鋼板を用いてその熱間プレス成形を行うというアイデアを得た。そして,これに基づき,耐食性湿潤環境において鋼板の犠牲防食作用のある亜鉛系めっき鋼板に熱間プレスを適用することを着想した。しかし,熱間プレスは700〜1000℃という温度で加熱することを意味するのであって,この温度は,亜鉛系めっき金属の融点以上の温度であって,そのような高温に加熱した場合,めっき層は溶融し,表面より流失し,あるいは溶融・蒸発して残存しないか,残存しても表面性状は著しく劣ったものとなることが予測された。 【0017】しかしながら,さらに,その後種々の検討を重ねる内に,加熱することによりめっき層と鋼板とが合金化することで何らかの変化が見られるのではないかとの見解を得て予備試験として各種めっき組成および各種雰囲気で,実際に700〜1000℃の温度に加熱を行い,次いで熱間プレスを行ったところ,それまでの予測に反して,一部の材料について問題なく熱間プレスを行うことができることが判明した。 【0018】そこで,700〜1000℃の温度で加熱してから熱間プレスを行っても表面性状が良好であるための条件を求めたところ,めっき層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層として全面的に形成されていることが判明した。このバリア層は,熱間プレスに先立つ加熱前にある程度形成されていることが必要で,その後700〜1000℃に加熱されることによっても形成が進むと推測している。 24【0019】さらに,めっき層の分析を行ったところ,かなり合金化が進んでおり,それにより,めっき層が高融点化してめっき層表面からの亜鉛の蒸発を防止しており,かつ鋼板の鉄酸化物形成を抑制していることが判明した。しかも,このようにして加熱されためっき層は熱間プレス成形後においてめっき層と母材である鋼板との密着性が良好であることが判明した。 【0020】上記の鋼板を亜鉛めっき鋼板として利用すれば,高張力鋼板でも熱間プレス成形が行える可能性があることが分かり,さらに実用性ある技術として利用可能か否かについて検討を重ね,ここにその効果を確認し,実用性ある技術であることを確信し,本発明を完成した。 オ 発明の実施の形態【0028】本発明によれば,溶融亜鉛系めっき鋼板を酸化性雰囲気下で加熱して表面に酸化皮膜を設けることで,これがバリア層として作用し,例えば900℃以上に加熱しても,表面の亜鉛系めっき層の蒸発が防止され,加熱後に熱間プレスを行うことができる。しかも,プレス成形後は亜鉛系めっき皮膜を備えていることから,それ自体すでに優れた耐食性を備えており,後処理としての防錆処理を必要としないというすぐれた効果を発揮することができる。 【0029】素地鋼材本発明にかかる熱間プレス用の素地鋼材は,溶融亜鉛系めっき時のめっき濡れ性,めっき後のめっき密着性が良好であれば特に限定しないが,熱間プレスの特性として,熱間成形後に急冷して高強度,高硬度となる焼き入れ鋼,たとえば下掲の表1にあるような鋼化学成分の高張力鋼板が実用上は特に好ましい。 【0030】例えば,Si含有鋼やステンレス鋼のようにめっき濡れ性,めっき密着性に問題のある鋼種でもプレめっき処理等のめっき密着性向上手法を用いてめっき密着性を改善することで本発明に用いることができる。 【0034】【表1】(判決注:別紙本件訂正明細書の表の表1に示す。) 25【0035】亜鉛系めっき層/バリア層本発明において,バリア層を備えた亜鉛系めっき層を設けるには,例えば通常の溶融亜鉛めっき処理を行ったのち,酸化性雰囲気中での加熱,つまり通常の合金化処理を行えばよい。このような合金化処理はガス炉等で再加熱することにより行われるが,そのときめっき層表面の酸化ばかりでなく,めっき層と母材の鋼板との間で金属拡散が行われる。通常このときの加熱温度は550〜650℃である。 【0036】本発明による具体的なめっき操作としては,溶融した亜鉛合金めっき浴に鋼板を浸漬して引き上げる。めっき付着量の制御は引き上げ速度やノズルより吹き出すワイピングガスの流量調整により行う。合金化処理はめっき処理後にガス炉や誘導加熱炉などで追加的に加熱して行う。かかるめっき操作は,コイルの連続めっき法あるいは切り板単板めっき法のいずれによってめっきを行ってもよい。 【0037】もちろん,所定厚みのめっき層が得られるのであれば,例えば,電気めっき,溶射めっき,蒸着めっき等その他いずれの方法でめっき層を設けてもよい。 亜鉛合金めっきとしては,次のような系が開示されている。 【0038】例えば亜鉛-鉄合金めっき,亜鉛-12%ニッケル合金めっき,亜鉛-1%コバルト合金めっき,55%アルミニウム-亜鉛合金めっき,亜鉛-5%アルミニウム合金めっき,亜鉛-クロム合金めっき,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき,スズ-8%亜鉛合金めっき,亜鉛-マンガン合金めっきなどである。 【0039】めっき付着量は90g/u以下が良好である。これを超えるとバリア層としての亜鉛酸化層の形成が不均一となり外観上問題がある。下限は特に制限しないが,薄過ぎるとプレス成形後に所要の耐食性を確保できなくなったり,あるいは加熱の際に鋼板の酸化を抑制するのに必要な酸化亜鉛層を形成できなくなったりすることから,通常は20g/u程度以上は確保する。加熱温度が高くなるなど,より過酷な加熱の場合,望ましくは40〜80g/uの範囲で性能良好となる。 【0040】亜鉛系めっき層の組成は特に制限がなく,Al,Mn,Ni,Cr, 26Co,Mg,Sn,Pbなどの合金元素をその目的に応じて適宜量添加した亜鉛合金めっき層であってもよい。その他原料等から不可避的に混入することがあるBe,B,Si,P,S,Ti,V,W,Mo,Sb,Cd,Nb,Cu,Sr等のうちのいくつかが含有されることもある。 【0042】鋼板の加熱/熱間プレス成形上述のようにして用意された表層にバリア層を備えた亜鉛系めっき鋼板を次いで所定温度にまで加熱し,プレス成形を行う。本発明の場合,熱間プレス成形を行うことから,通常700〜1000℃に加熱するが,素材鋼板の種類によっては,プレス成形性がかなり良好なものがあり,その場合にはもう少し低い温度に加熱するだけでよい。本発明の場合,鋼種によってはいわゆる温間プレスの加熱領域に加熱する場合も包含されるが,いわゆる難プレス成形材料に適用するときに本発明の効果が効果的に発揮されることから,通常は,上述のように700〜1000℃に加熱する。 【0043】この場合の加熱方法としては電気炉,ガス炉や火炎加熱,通電加熱,高周波加熱,誘導加熱等が挙げられる。また加熱時の雰囲気も特に制限はないが,予めバリア層が形成されている材料の場合には,そのようなバリア層の維持に悪影響を与えない限り,特に制限はない。 【0044】このときのプレス成形に先立つ加熱温度は焼き入れ鋼であれば目標とする硬度となる焼入温度に加熱したのち一定時間保持し高温のままプレス成形を行い,その際に金型で急冷する。通常の鋼種,条件では,このときに加熱の際の最高到達温度はおよそ700℃から1000℃の範囲であればよい。 【0045】ところで,本発明によれば,亜鉛系めっき層の表面には,加熱時の亜鉛の蒸発を防止するバリア層として作用する酸化皮膜が形成されており,通常,その量は,厚さ0.01〜5.0μm程度で十分である。 【0047】かかるバリア層およびFe含有量は,熱間プレス成形の際に問題となるのであって,したがって,前述のように予めめっき層形成時の合金化処理によっ 27てバリア層が形成され,さらにプレス成形前に加熱が行われる場合には,合金化処理時の加熱条件はプレス成形直前の加熱処理を考慮した条件で行うことが好ましい。 【0048】このようにして加熱され,表面にバリア層が形成された本発明にかかる熱間プレス用鋼板には,次いで,熱間プレス成形が行われるが,このときの熱間プレス成形は特に制限はなく,通常行われているプレス成形を行えばよい。熱間プレス成形の特徴として成形と同時に焼入れを行うことから,そのような焼入れを可能とする鋼種を用いることが好ましい。もちろん,プレス型を加熱しておいて,焼き入れ温度を変化させ,プレス後の製品特性を制御してもよい。 カ 参考例 (ア) 参考例1【0050】本例では,板厚み1.0mmの表2に示す鋼種Aの溶融亜鉛めっき鋼板を650℃で合金化処理を行い,次いで大気雰囲気の加熱炉内で950℃×5分加熱して,加熱炉より取り出し,このままの高温状態で円筒絞りの熱間プレス成形を行った。このときの熱間プレス成形条件は,絞り高さ25mm,肩部丸み半径R5mm,ブランク直径90mm,パンチ直径50mm,ダイ直径53mmで実施した。成形後のめっき層の密着状態をめっき層の剥離の有無を目視判定して成形性として評価した。なお,本例においては,鋼板の温度はほぼ2分で900℃に到達していた。 【0051】このようにして得られた熱間プレス成形品について下記要領で塗膜密着性,塗装後耐食性(単に耐食性という)をそれぞれ評価した。 塗膜密着性試験本例で得た円筒絞り体から切り出した試験片に,日本パーカライジング(株)製PBL-3080で通常の化成処理条件により燐酸亜鉛処理したのち関西ペイント製電着塗料GT-10を電圧200Vのスロープ通電で電着塗装し,焼き付け温度150℃で20分焼き付け塗装した。塗膜厚みは20μmであった。 【0052】試験片を50℃のイオン交換水に浸漬し240時間後に取り出して, 28カッターナイフで1mm幅の碁盤目状に傷を入れ,ニチバン製のポリエステルテープで剥離テストを行い,塗膜の残存マス数を比較し,塗膜密着性を評価した。なお,全マス数は100個とした。 【0053】評価基準は残存マス数90〜100個を良好:評価記号○,0〜89個を不良:評価記号×とした。 塗装後耐食性試験本例で得た円筒絞り体から切り出した試験片に,日本パーカライジング(株)製PBL-3080で通常の化成処理条件により燐酸亜鉛処理を行ったのち関西ペイント製電着塗料GT-10を電圧200Vのスロープ通電で電着塗装し,焼き付け温度150℃で20分焼き付け塗装した。塗膜厚みは20μmであった。 【0054】試験片の塗膜にカッターナイフで素地に達するスクラッチ傷を入れた後,JIS Z2371に規定された塩水噴霧試験を480時間行った。傷部からの塗膜膨れ幅もしくは錆幅を測定し,塗装後耐食性を評価した。 【0055】評価基準は錆幅,塗膜膨れ幅のいずれか大きい方の値で0mm以上〜4mm未満を良好:評価記号○,4mm以上を不良:評価記号×とした。 これらの試験結果を表2にまとめて示す。 【0056】比較例として,冷延鋼板およびステンレス鋼板について950℃×5分の加熱を行ってから同様の熱間プレス成形を行い,上述のような特性評価を行った。 結果は表2にまとめて示すが,合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いた場合は良好な特性を示すが,ステンレス鋼板や冷延鋼板を用いた場合は,酸化物が形成され,黒色化し,この酸化物が剥離し,プレス成形時押し込み疵が生じた。また,塗膜密着性,耐食性も不合格であった。 【0057】【表2】(判決注:別紙本件訂正明細書の表の表2に示す。) (イ) 参考例2 29【0058】本例では,鋼種Aについて参考例1と同様の試験を繰り返したが,表3に示すとおり,めっき付着量を種々に変え,まためっき直後の合金化処理の条件を変えることによってめっき皮膜中のFe含有量を変えた。本例では合金化処理めっき鋼板にさらに熱間プレス成形に先立って(A)大気雰囲気加熱炉950℃×5分加熱と,(B)大気雰囲気加熱炉850℃×3分加熱による加熱を行った。例No.9〜23では,めっき層のFe含有量を変化させているが,これは熱間プレスに先立つ加熱以前に,合金化処理温度(500〜800℃)や時間(30分以下)を変化させることにより行った。また,No.18 〜23は,熱間プレスに先立つ加熱時の時間を3分から6分間に延長し,より過酷な条件で熱間プレスを行った。 【0059】結果を表3にまとめて示す。 いずれの例も,加熱後外観,成形性,塗膜密着性および耐食性ともに良好な結果であった。 【0060】【表3】(判決注:別紙本件訂正明細書の表の表3に示す。) (ウ) 参考例3【0061】本例では,表1の各鋼種について参考例1と同様の試験を繰り返し,得られた試験片について成形性,塗膜密着性,耐食性の評価試験を行った。結果を表4にまとめて示す。 【0062】いずれの例も,加熱後外観,成形性,塗膜密着性および耐食性ともに良好な結果であった。 【0063】【表4】(判決注:別紙本件訂正明細書の表の表4に示す。) キ 実施例【0064】表1に示す鋼種Aの成分をもち,厚さ1.0mmの鋼板を使用し,実験室でめっきを施した。電気めっきは実際の製造ラインで使用されているめっき浴を用い,実験室でめっきを施した。溶融めっきは実際の製造ラインで用いられる浴 30を実験室で再現して溶融めっきを行った。亜鉛-鉄めっきの合金化処理は550℃の溶融塩浴に浸漬する方法を用いた。得られためっき鋼板は参考例1と同様の熱間成形,評価を実施した。熱間プレスに先立つ加熱は,大気炉で850℃,3分間行った。 【0065】得られた結果を,表5に示すが,めっき方法,めっき層の組成に関係なく,良好な特性が得られている。 【0066】【表5】(判決注:別紙本件訂正明細書の表の表5に示す。) ク 発明の効果【0068】以上説明してきたように,本発明によれば,例えば高張力鋼板およびステンレス鋼板などの難プレス成形材料の熱間プレス成形が可能となり,その際に,加熱炉の雰囲気制御設備が不要となるほか,プレス成形時の鋼板酸化物の剥離処理工程も不要となり生産工程を簡素化できる。また犠牲防食効果のある亜鉛めっき層を有するためプレス成形製品の耐食性も向上する。 (2) 前記(1)の記載によれば,本件訂正明細書には,本件訂正発明に関し,以下の点が開示されていることが認められる。 本件訂正発明は,熱間プレス用鋼材,特に自動車用の足廻り,シャーシ,補強部品などの製造に使用される熱間プレス用鋼板及び鋼材に関する(【0001】。 ) 近年,自動車の軽量化のため,鋼材の高強度化を図り,使用する鋼材の厚みを減ずる努力が進んでいるが,使用する鋼板の強度が高くなると絞り成形加工時に鋼板のカジリや破断が発生したり,形状安定性いわゆるスプリングバックも発生するなど,難加工材料としての高強度鋼のプレス成形には,問題点が多かった(【0002】〜【0004】。 ) このような難プレス成形材料をプレス成形する技術として,成形すべき材料を予め加熱して成形する熱間プレス成形がある。しかし,熱間プレス成形は,加熱した鋼板を加工する成形方法であるため,鋼板の表面酸化は避けられず,この鉄酸化物 31がプレス時に脱落して金型に付着して生産性を低下させたり,プレス後の製品に酸化皮膜が残存して,外観不良,塗膜密着性の劣化といった問題があった(【0005】【0006】。そこで,熱間プレス成形後にショットブラストを行って鉄酸化 , )層を除去する,低合金層やステンレス鋼を用いる,あるいは,加熱時及びプレス工程全体の雰囲気を非酸化性雰囲気にするなどの対策が検討されてきたが,これらの対策は大幅なコスト増を招く。また,熱間プレス成形後に生成した鉄酸化物を除去する工程を行うと,たとえ鉄酸化物を除去しても鋼板のみでは防錆性に劣る(【0007】〜【0009】【0012】。 , ) そこで,本件訂正発明の課題は,難プレス成形材料について,熱間プレスを行っても所定の耐食性を確保でき,外観劣化が生じない熱間プレス用鋼材を提供することであり,さらに具体的には,耐食性確保のための後処理を必要とせずに,難プレス成形材料である高張力鋼板の熱間プレス成形を可能とし,同時に耐食性をも確保できる技術を提供することである(【0014】【0015】。 , ) 本発明者らは,かかる課題を解決する手段として,高温状態でプレス成形を行い,同時に後処理を行うことなく優れた耐食性を確保すべく,もともと耐食性に優れるめっき鋼板を用いて熱間プレス成形を行うというアイデアに基づき,耐食性湿潤環境において鋼板の犠牲防食作用のある亜鉛系めっき鋼板に熱間プレスを適用することを着想したが,熱間プレスは700〜1000℃という亜鉛系めっき金属の融点以上の温度で加熱することを意味し,このような場合,めっき層は溶融し,表面より流失し,あるいは溶融・蒸発して残存しないか,残存しても表面性状は著しく劣ったものとなることが予測された。しかし,実際に700〜1000℃の温度に加熱を行い,次いで熱間プレスを行ったところ,それまでの予測に反して,一部の材料について問題なく熱間プレスを行うことができることが判明した。そこで,亜鉛系めっき鋼板を700〜1000℃の温度に加熱してから熱間プレスを行っても表面性状が良好であるための条件を求めたところ,めっき層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層として全面的に形成されるとともに, 32めっき層は合金化が進み,それにより高融点化してめっき層表面からの亜鉛の蒸発を防止し,かつ鋼板の鉄酸化物形成を抑制し,このようにして加熱されためっき層は熱間プレス成形後においてめっき層と母材である鋼板との密着性が良好であることが判明した(【0016】〜【0020】 。 ) 本件訂正発明によれば,亜鉛系めっき鋼板を酸化性雰囲気下で加熱して表面に酸化皮膜を設けることで,これがバリア層として作用し,例えば900℃以上に加熱しても表面の亜鉛系めっき層の蒸発が防止され,加熱後に熱間プレスを行うことができ,しかも,プレス成形後は亜鉛系めっき皮膜を備えていることから,それ自体既に優れた耐食性を備え,後処理としての防錆処理を必要としないという優れた効果を発揮することができ,ひいては,例えば高張力鋼板及びステンレス鋼板などの難プレス成形材料の熱間プレス成形が可能となり,その際に,加熱炉の雰囲気制御設備が不要となるほか,プレス成形時の鋼板酸化物の剥離処理工程も不要となり生産工程を簡素化でき,また犠牲防食効果のある亜鉛めっき層を有するためプレス成形製品の耐食性も向上するとの効果を有する(【0028】【0068】。 , ) 2 取消事由1(訂正要件違反の看過)について (1) 本件訂正1及び17は,それぞれ本件訂正前の特許請求の範囲請求項1及び7に記載された「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」を,「亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層」と訂正するものであり,その訂正は,本件訂正前の特許請求の範囲請求項1及び7に含まれていた純亜鉛のめっき層を除外し,更に亜鉛系合金のめっき層について,亜鉛系合金に含まれる元素を特定することにより,特許請求の範囲を減縮するものであるから,特許法134条の2第1項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2) そして,本件訂正1及び17が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正か否かを検討するに,本件訂正1及び17 33に係るめっき層について,@「亜鉛-ニッケル合金めっき層」は,本件明細書(甲9)の【0038】及び【表5】のNo.2に,A「亜鉛-コバルト合金めっき層」は,本件明細書の【0038】及び【表5】のNo.3に,B「亜鉛-クロム合金めっき層」は,本件明細書の【0038】に,C「亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層」は,本件明細書の【0038】及び【表5】のNo.8のめっき主成分「Zn,Al,Mg」として,D「スズ-亜鉛合金めっき層」は,本件明細書の【0038】に,E「亜鉛-マンガン合金めっき層」は,本件明細書の【0038】に,それぞれ記載されていることが認められる。 そうすると,本件訂正1及び17に係るめっき層は,いずれも本件明細書に記載されたものであって,これを本件訂正後の請求項1及び7にそれぞれ選択的に記載した本件訂正後の特許請求の範囲請求項1及び7は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内のものであるから,本件訂正1及び17は,特許法134条の2第9項において準用する同法126条5項に適合するものである。 (3) 原告の主張について ア 原告は,この点について,本件訂正1及び17では,特許請求の範囲の減縮に伴って,本件明細書の【表5】の実施例8例のうち,過半数である5例を参考例に変更し,しかも,参考例として除かれた本件訂正前の実施例は,本件発明の代表的な実施例である旨主張する。 しかし,本件訂正により,本件明細書の【表5】の実施例8例が,本件訂正明細書の【表5】においてはそのうち5例が参考例へと訂正されているが,訂正請求書(乙6)によれば,上記は,本件訂正1及び17によって,本件訂正前の特許請求の範囲請求項1及び7に含まれていた純亜鉛のめっき層を除外し,更に亜鉛系合金のめっき層について,亜鉛系合金に含まれる元素を特定することにより,特許請求の範囲を減縮することに伴って,本件発明においては実施例であったものが,本件訂正発明においては参考例となることから,必然的に行われた明細書の記載の訂正 34であることが認められるから,この訂正がされたからといって,本件訂正1及び17が新規事項を導入する訂正となるものではない。 イ また,原告は,本件明細書において,8例の実施例は,いずれも単に,「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」の例示にすぎず,特定のめっき層の奏する作用効果についての記載はないから,参考例に対応する構成(亜鉛めっき層,亜鉛-鉄めっき層,亜鉛-アルミニウムめっき層)を特許請求の範囲から除外して,本件訂正発明の特許請求の範囲に列挙された合金めっき層に限定する理由も,かかる限定を示唆する技術的事項も,本件明細書には全く記載されていない旨主張する。 しかし,明細書に記載された複数の発明の中から,どの発明部分を特許請求の範囲として特許出願するかは出願人が自由に選択できる事項であり,特許請求の範囲を当該選択した発明部分に限定した理由等が明細書に記載されていないからといって,それだけでは,新規事項を導入する訂正として許されないこととなるものではない。そして,本件訂正1及び17に係るめっき層は,本件明細書に記載されていたものであって,本件明細書の【0014】〜【0020】【0028】【006 , ,8】と,本件訂正明細書の【0014】〜【0020】【0028】【0068】 , ,の記載を対照すれば明らかなように,本件発明と本件訂正発明とは,解決すべき課題,課題解決手段及び作用効果については何ら変わるところがない。また,本件明細書の【表5】においては実施例とされていたが,本件訂正によって参考例とされた「亜鉛めっき層」「亜鉛-鉄めっき層」,「亜鉛-アルミニウムめっき層」と, ,本件訂正明細書の【表5】において,本件訂正によっても実施例のままとされた「亜鉛-ニッケルめっき層」,「亜鉛-コバルトめっき層」,「亜鉛-鉄―マグネシウムめっき層」との間で,加熱後外観,成形性,塗膜密着性及び耐食性について特に差異が認められておらず,いずれも本件発明においては同等の技術的意義を有する発明として記載されているものであって,本件発明の「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」の中からどのような組成のものを選択して特許請求の範囲として訂正するかは,特許権者である被告が,本件特許に先行する発明において開示されてい 35る発明の内容その他諸般の事情を考慮して自由に決定できる事項というべきであるから,本件訂正前の特許請求の範囲請求項1及び7の純亜鉛のめっき層を除外し,更に亜鉛系合金のめっき層を,本件明細書に開示のあった本件訂正1及び17に係るめっき層に限定した本件訂正1及び17が,新規事項を導入する訂正となるものではない。 ウ さらに,原告は,列挙された元素から任意の元素を選択することが特許請求の範囲の減縮に当たるとしても,当該元素を選択するという技術思想が本件明細書に記載されていない以上,本件訂正によって除外された部分を除いた発明が独立した発明として本件明細書に記載されていたとはいえないことからすれば,本件訂正1及び17は新たな技術思想を持ち込むものとして,特許法126条5項の規定に違反する旨主張する。 しかし,列挙された元素から任意の元素を選択するという技術思想が本件明細書に記載されていないからといって,これが訂正要件違反となるものではないことは,前記イのとおりである。また,本件訂正1及び17によって除外された「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」も,本件訂正1及び17によって特許請求の範囲請求項1及び7に記載された「亜鉛系合金のめっき層」も,いずれも本件明細書の【0038】【0040】に記載された発明であることが認められ,このうち本件訂正1 ,及び17に係る亜鉛系合金のめっき層を選択して特許請求の範囲とすることが,新規事項を導入する訂正となるものではないことも,前記イのとおりである。 エ したがって,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。 (4) 以上によれば,取消事由1は理由がない。 3 取消事由2(明確性要件,サポート要件又は実施可能要件の判断の誤り)について (1) 明確性要件について 原告は,本件訂正発明の「熱間プレス用鋼板」は,言葉の普通の意味に基づけば,常温において取引される鋼板であると解されるところ,「加熱時の亜鉛の蒸発を防 36止する酸化皮膜」は,「熱間プレス用鋼板」が備えるべき構成要件であるから,遅くとも熱間プレスのための加熱が始まる前に存在することが必要であるが,本件訂正明細書には,「亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期を明らかにする記載がなく,また,本件明細書の【0018】,【0042】,【0043】,【0064】の記載を考慮しても,「表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた」という構成要件が熱間プレスのための加熱前に充足されていなくてもよいという解釈を一義的に導き出すことができず,本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は明確性要件に反する旨主張する。 本件訂正明細書の【0018】には,酸化皮膜は熱間プレスに先立つ加熱前にある程度形成されることが必要で,その後熱間プレス加工のための700〜1000℃の加熱によっても形成が進むと推測されることが記載され,【0042】,【0043】には,酸化皮膜は,熱間プレス加工のため700〜1000℃に加熱する前に,予め形成されている場合と形成されていない場合があることを前提として,熱間プレスのための加熱方法には,予め酸化皮膜が形成されている材料の場合には,酸化皮膜の維持に悪影響がない限り特に制限がないことが記載され,さらに【0064】,【表5】には,実施例No.2,3として,電気めっきを施した後,熱間プレスに先立つ加熱を大気炉で850℃,3分間行ったものについて均一な酸化皮膜が形成されたことが記載されているところ,電気めっきにおいてはめっき層は加熱されないことから,上記実施例はいずれも熱間プレスに先立つ加熱前に予め酸化皮膜が形成されていない場合であって,この場合の酸化皮膜は,熱間プレスのための加熱(大気炉で850℃,3分間)により形成されたものと理解することができる。 そうすると,本件訂正発明の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は,熱間プレスの加熱前に,予め形成されている場合,ある程度形成されていてその後熱間プレスの加熱時に形成が進む場合,予め形成されていないが熱間プレスの加熱により形成される場合のいずれでもよいことから,その形成時期は熱間プレスの直前 37までであればよいと解するのが相当である。したがって,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1及びこれを引用する請求項2ないし6並びに請求項7の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明を参照すれば,明確というべきである。そして,本件訂正発明の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に,本件訂正発明の「熱間プレス用鋼板」及び「熱間プレス用鋼材」を,常温において取引される鋼板及び鋼材とする限定は何ら付されていないから,「熱間プレス用鋼板」及び「熱間プレス用鋼材」が備えるべき「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が,遅くとも熱間プレスのための加熱が始まる前に存在することが必要であるとすることもできない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (2) サポート要件について ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。 そこで,特許請求の範囲の記載と本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比するに,本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は前記第2の2(2)のとおりである。そして,本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,前記1(1)のとおり,本件訂正発明は,耐食性確保のための後処理を必要とせずに,難プレス成形材料である高張力鋼板の熱間プレス成形を可能とし,同時に耐食性をも確保できる技術を提供することを目的とし(【0014】 【0015】 ,かかる課題を解決する手段 , )として,亜鉛系めっき鋼板を酸化性雰囲気下で加熱してめっき層表面に亜鉛の酸化皮膜を形成することで,これが下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層とし 38て作用し,同時にめっき層は合金化が進み,それにより高融点化してめっき層表面からの亜鉛の蒸発を防止し,鋼板の鉄酸化物形成を抑制するため,加熱後に熱間プレスを行うことができ,このようにして加熱されためっき層は熱間プレス成形後において母材である鋼板との密着性が良好であり,しかも,プレス成形後は亜鉛系めっき皮膜を備えていることから,それ自体既に優れた耐食性を備え,後処理としての防錆処理を必要としないという作用効果が得られるものであり(【0016】〜【0020】 【0028】 ,発明の実施の形態として,素地鋼材の組成等( , ) 【0029】【0030】【0034】,亜鉛系めっき層のめっき操作方法,亜鉛合金め , , )っきの種類,めっき付着量及び亜鉛系めっき層の組成等(【0035】〜【0040】 ,鋼板の加熱方法及び加熱条件並びに熱間プレスの方法等( ) 【0042】〜【0045】 【0047】 【0048】 , , )が記載され,さらに,成形後のめっき層の密着状態の判定方法,塗膜密着性及び塗装後耐食性の評価方法(【0050】〜【0055】)が記載された上で,参考例1ないし3については,加熱後外観において均一な酸化皮膜が形成され,成形性,塗膜密着性,耐食性ともに評価基準を満たすこと(【0056】〜【0063】 【0066】 , )が記載され,実施例として,「亜鉛-ニッケルめっき」及び「亜鉛-コバルトめっき」については電気めっき後に,「亜鉛-アルミめっき」については溶融めっき後に,いずれも熱間プレスに先立つ加熱を大気炉で850℃,3分間行ったところ,加熱後外観において均一な酸化皮膜が形成され,成型性,塗膜密着性,耐食性ともに 評価基準を満たすこと(【0064】〜【0066】 ,これに対して,比較例として,亜鉛系めっきを付 )着させないCr-Mo鋼,冷延鋼板及びステンレス鋼については,いずれも均一な酸化皮膜が形成されず,鋼板に酸化物が形成され,黒色化して酸化物が剥離し,プレス成形時に押し込み疵が生じ,塗膜密着性,耐食性も評価基準を満たさなかったこと(【0056】【0057】 , )が記載されている。 以上のように,本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明において,亜鉛系めっき鋼板の表面に酸化皮膜が形成されることにより,鋼板の酸化が防 39止され,成形性,塗膜密着性,耐食性に優れた熱間プレス鋼板となることが記載されており,また,亜鉛系めっき鋼板の表面に酸化皮膜が形成されることによって,皮膜の下のめっき層の亜鉛の蒸発が防止されることも,当業者であれば理解できる事項である。したがって,本件訂正明細書には,鋼板の亜鉛系めっきの表層に酸化皮膜が形成されることによって,本件訂正発明の上記課題が解決されることが記載されているから,本件訂正発明の特許請求の範囲は,本件訂正明細書の記載により,当業者が本件訂正発明の上記課題を解決できると認識できる範囲のものということができ,サポート要件を充足するというべきである。 イ 原告の主張について 原告は,この点について,本件訂正明細書の【0017】,【0019】によれば,亜鉛の蒸発を防止したのは合金化であって,亜鉛の酸化皮膜ではないこと,めっき層表面の亜鉛の酸化皮膜が下層の亜鉛の蒸発を防止するバリア層として形成されているとの【0018】の記載の根拠となる事実は記載されていないこと,【表5】には,加熱後外観において均一な酸化皮膜が形成された旨の記載はあるが,亜鉛の蒸発を防止する合金化の事実と矛盾するものでも,これを否定するものでもないから,亜鉛の蒸発に先立って亜鉛の酸化皮膜が形成されたか否かは不明であること,酸化皮膜の形成(完了)は熱間プレス直前までに行われていればよいとすれば,700〜1000℃に加熱されることによって酸化皮膜が形成されるとしても,同時に合金化も進むから,亜鉛の蒸発を防止したのが合金化なのか,酸化皮膜なのかは不明であることなどからすれば,本件訂正明細書には,酸化皮膜が亜鉛の蒸発を防止することによって課題が解決されたことを根拠付ける記載がなく,本件訂正発明に係る特許請求の範囲はサポート要件を欠く旨主張する。 しかし,本件訂正明細書の【0017】〜【0019】によれば,めっき層表面の酸化皮膜がバリア層として作用するとともに,めっき層の合金化も進むことにより,両者が相まって亜鉛の蒸発が防止されることが理解できる。そして,前記アのとおり,本件訂正明細書の参考例及び実施例には,亜鉛めっき鋼板の表面に酸化皮 40膜が形成されることにより,鋼板の酸化が防止され,成形性,塗膜密着性,耐食性に優れた熱間プレス鋼板となることが記載されており,また,亜鉛めっき鋼板の表面に酸化皮膜が形成されることによって,皮膜の下のめっき層の亜鉛の蒸発が防止されることも,当業者であれば理解できる事項である。殊に,本件訂正明細書の【表5】の実施例及び参考例のNo.1,5,7はいずれも合金化処理を行っていないものであるが,均一な酸化皮膜が形成され,成形性,塗膜密着性,耐食性に優れた熱間プレス鋼板となることが記載されている。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 ウ 以上のとおりであるから,本件訂正発明はサポート要件を充足するというべきである。 (3) 実施可能要件について ア 前記(2)アのとおり,本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,発明の実施の形態として,素地鋼材の組成等(【0029】 【0030】 【0034】 ,亜鉛 , , )系めっき層のめっき操作方法,亜鉛合金めっきの種類,めっき付着量及び亜鉛系めっき層の組成等(【0035】〜【0040】 ,鋼板の加熱方法及び加熱条件並び )に熱間プレスの方法等(【0042】〜【0045】【0047】 【0048】 , , )が記載され,さらに,成形後のめっき層の密着状態の判定方法,塗膜密着性及び塗装後耐食性の評価方法(【0050】〜【0055】)が記載された上で,参考例1ないし3については,加熱後外観において均一な酸化皮膜が形成され,成形性,塗膜密着性,耐食性ともに評価基準を満たすこと(【0056】〜【0063】 【00 ,66】)が,実施例として,「亜鉛-ニッケルめっき」及び「亜鉛-コバルトめっき」については電気めっき後に,「亜鉛-アルミめっき」については溶融めっき後に,いずれも熱間プレスに先立つ加熱を大気炉で850℃,3分間行ったところ,加熱後外観において均一な酸化皮膜が形成され,成型性,塗膜密着性,耐食性ともに評価基準を満たすこと(【0064】〜【0066】)が,これに対して,比較例として,亜鉛系めっきを付着させないCr-Mo鋼,冷延鋼板及びステンレス鋼に 41ついては,いずれも均一な酸化皮膜が形成されず,鋼板に酸化物が形成され,黒色化して酸化物が剥離し,プレス成形時に押し込み疵が生じ,塗膜密着性,耐食性も評価基準を満たさなかったこと(【0056】 【0057】 , )が,それぞれ記載されている。 そうすると,当業者であれば,かかる本件訂正明細書の記載及び本件特許の出願日当時の技術常識に基づいて,本件訂正発明を実施することが可能であったというべきである。 イ 酸化皮膜の形成条件について (ア) 原告は,甲10(特許第3582511号公報)の明細書は,本件訂正明細書に酷似するが,甲10における実施例は,熱間プレスのための加熱前に酸化皮膜を形成しているのに対して,甲10の比較例2,3,4及び23は,加熱前に酸化皮膜を形成する工程を経ていないために,900℃,8分間の加熱によって茶変や粉化物が生じ,本件訂正発明の構成要件を充足しないところ,加熱前に酸化皮膜が存在せず,熱間プレスのための加熱によって酸化皮膜が形成される場合において,熱間プレスのための加熱をいかなる条件(温度,時間)で実施すれば,「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が形成されるかを明らかにすることが実施可能要件の重要な部分であるが,本件訂正明細書の【0050】〜【0066】をみても,当業者が,個々のめっき鋼板の構成に応じて,具体的な加熱条件を設定することを可能にするような記載は全くないことから,本件訂正明細書は,実施可能要件を満たしていない旨主張する。 (イ) しかしながら,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するか否かは,当業者が,本件訂正明細書の記載に基づいて,本件特許の出願日当時の公知技術及び技術常識等を斟酌して,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるかを判断すべきものである。 しかるに,甲10は,本件特許の出願人である住友金属工業が,本件特許の出願日(平成13年8月31日)の2か月後である同年10月23日に出願し,平成1 425年5月8日に公開され,平成16年8月6日に設定登録を受けたものであるから,そもそも甲10は,本件特許の出願日当時の公知文献とはいえない。よって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するか否かの判断において,甲10を公知技術として斟酌することはできない。したがって,仮に甲10記載の比較例が本件訂正発明の構成要件を充足しないとしても,当該比較例について,どのような条件(温度,時間)で加熱すれば,「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が形成されるかが本件訂正明細書に記載されていなければ,実施可能要件を充足しないという原告の主張は,採用することができない。 (ウ) また,甲10によれば,甲10記載の発明は,耐食性確保のための後処理を必要とせずに,難プレス成形材料である高張力鋼板の熱間プレス成形を可能とし,同時に耐食性をも確保できる技術を提供することを目的とし(【0014】 【00 ,15】 ,かかる課題を解決する手段として,亜鉛系めっき鋼板を酸化性雰囲気下 )で加熱してめっき層表面に亜鉛の酸化皮膜を形成することで,これが下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層として作用することが判明したが,熱間プレス工程において,通常想定されるケースよりも高温(例えば900℃以上)あるいは長時間(例えば5分以上)にわたる過度の加熱が行われた場合でも,安定した品質の熱間プレス品を得るためには,熱間プレス時の加熱段階で表面に生成するバリア層の主成分であるZnO層を亜鉛めっき表面に予め積極的に生成させることで,過度の加熱が施される条件でも,品質の良好な熱間プレス品が得られることを見いだし,プレス成形後は亜鉛系めっき皮膜を備えていることから,それ自体既に優れた耐食性を備え,後処理としての防錆処理を必要としないという作用効果が得られるものであり(【0016】〜【0021】 【0030】 ,成形後の表面状態の目視判定 , )と本件訂正発明と同様の塗膜密着性及び塗装後耐食性の評価方法(【0067】〜【0073】)が記載され,実施例及び比較例が【表2】(別紙甲10の表の表2に示す。)に記載された発明ということができる。 このように,甲10は,本件訂正発明を前提として,熱間プレス工程で,通常想 43定されるケースよりも高温(900℃以上)あるいは長時間(5分以上)にわたる過度の加熱が行われた場合でも,安定した品質の熱間プレス品を得るために,バリア層の主成分であるZnO層をめっき表面に予め積極的に生成させることで,過度な加熱が施される条件でも,品質のよい熱間プレス品が得られることを見いだした,本件訂正発明の改良発明である。そして,比較例として,熱間プレスによる加熱前に予めZnOの酸化皮膜を生成する工程を経ていない亜鉛系めっき鋼板については,【表2】の試番2〜4及び23に記載されているように,900℃,8分間の加熱によって,耐食性は評価基準を満たすものの,プレス品の外観に茶変や粉化物が見られ,塗膜密着性が評価基準に達しないものとされている。プレス品外観として「茶変,粉化物有」と記載されている原因は,「ZnOは…加熱・酸化雰囲気からめっき層および鋼材の酸化を防ぐための「バリア層」の役目を果たす。その効果が認められるのはZnOに含まれるZn量として10mgm -2 以上である。これより少ないと鋼材の酸化がひどくなり,鋼材のスケールが発生しプレス時に金型にビルドアップ(付着)することがある他,表面品質が低下するという欠点がある。」との記載(【0041】)に照らせば,これら比較例についてはZnO量がそれぞれ1.2,8.2,6.5,2(単位はmgm -2 )にすぎず,実施例と比較してもZnO量が不足することによって,めっき層表面の酸化皮膜が薄く,表面品質が低下していることによるものと考えられる。それでも,「耐食性」については評価基準を満たしていることから,酸化皮膜が形成され,これにより耐食性が確保されていることが理解できる。 これに対して,本件訂正明細書の【表5】においては,実施例及び参考例ともに,加熱後外観については「均一な酸化皮膜」が形成されているかどうかしか評価されておらず,本件訂正発明の改良発明である甲10の実施例及び比較例のように,「茶変,粉化物」の有無はそもそも評価基準とされていない。なお,本件訂正発明の【表2】の比較例は,いずれも酸化皮膜が形成されていないことから,酸化物が形成されて黒色化し,酸化膜が剥離し,耐食性も評価基準を満たしていないことが 44認められるが,甲10の比較例は,これとは異なり,酸化皮膜が形成されていることから,耐食性について評価基準を満たしていることが理解できる。そうすると,甲10の試番2〜4及び23の比較例については,塗膜密着性については評価基準を満たさないものの,本件訂正発明の「表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた」との構成要件を充足していることが理解できる。 したがって,甲10の試番2〜4及び23の比較例が,本件訂正発明の要件を充足しないことを前提とする原告の前記(ア)の主張は,採用することができない。 ウ 焼き入れ温度について (ア) 原告は,本件訂正発明においては,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる」ことが,「熱間プレス用鋼板」の構成要件となっているから,上記温度範囲の下限の700℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板を製造できることを当業者が認識し得る程度の記載が明細書になければ,特許請求の範囲に記載されている発明の少なくとも一部は実施可能要件を欠くことになるところ,本件審決が,甲23の「VII.8恒温変態図」記載のAc 3算定式に基づき,本件訂正明細書の【表1】記載の鋼種EのAc 3 温度を544℃と算定し,この算定結果に基づいて,鋼種Eを700℃に加熱すれば焼き入れが可能である旨認定したことについて,上記Ac 3算定式は炭素量の低い領域でのみ有効であり,共析鋼の炭素量を超える領域では全く意味を持たないものであって,鋼種Eの炭素量は2%と共析鋼の炭素量をはるかに上回るから,本件審決の算定した544℃という値は技術的に意味がなく,本件審決は,上記算定式の適用範囲を誤り,実施可能要件違反を看過したものである旨主張する。 (イ) そこで検討するに,本件特許の出願日当時,以下の事項が当業者に周知の技術であったことが認められる。 a 焼き入れとは,鋼をオーステナイト領域にまで加熱後,適当な冷却剤中で急冷し,マルテンサイト組織として硬化させる熱処理であること(甲21)。 b 焼き入れ温度は,亜共析鋼ではA 3 温度以上30〜50℃が,過共析鋼では 45A1温度以上30〜50℃が適当であること(乙5)。 c 亜共析鋼とは炭素鋼においては0.8%以下の炭素含有量をもつ鋼であり,過共析鋼とは,共析以上の炭素含有量をもつγ鉄(0.8%C以上)を徐冷することにより得られる鋼であり,その組織はパーライト相とパーライト相を網状に取り囲むセメンタイト(Fe 3 C)相によって構成されるものであること(株式会社日刊工業新聞社「理工学辞典」8頁・247頁(平成8年3月28日発行)。 ) d フェライト形成元素であるTi,Mo,Si,W及びCrはその量を増すにつれて共析温度が上昇し,これに反して,オーステナイト形成元素であるNi及びMnはその量を増すにつれて共析温度は次第に下がり,合金元素量(%)が,Niの場合は約3%を超えると,また,Mnの場合は約4%を超えると,それぞれ鋼の共析温度が700℃を下回ること(乙5)。 e 鋼を加熱した場合にオーステナイト領域に変態する温度は,亜共析鋼についてはAc3点,過共析鋼についてはAc 1点であること(甲22)。 f 炭素やその他の合金成分はオーステナイト変態に種々の影響を及ぼし,その第一が,Ac 1 点とAc 3 点を変化させることであり,化学成分値から亜共析鋼のAc 3 点は,「Ac 3 (℃)=910-203(%C) 1/2 -15.2(%Ni)+44.7(%Si)+104(%V)+31.5(%Mo)+13.1(%W)」の計算式により計算でき,さらにこれ以外の含有成分の影響については,「-[30(%Mn)+11(%Cr)+20(%Cu)-700(%P)-400(%Al)-120(%As)-400(%Ti) 」の式を追加することで補えること。 ]また,化学成分値から過共析鋼のAc 1 点は,「Ac 1 (℃)=723-10.7(%Mn)-16.9(%Ni)+29.1(%Si)+16.9(%Cr)+290(%As)+6.38(%W)」の計算式により計算できること(甲23)。 (ウ) そうすると,本件訂正明細書の【表1】記載の鋼種Eは,含有炭素量2%であって,過共析鋼であるから,焼き入れ温度は,Ac 3 点ではなく,Ac 1 点となり,Ac 3点の計算式を適用することはできない。したがって,本件審決が,鋼 46種Eの焼き入れ温度について,Ac 3 点の計算式に基づき,これを544℃と算定した判断には誤りがあるといわなければならない。 しかしながら,当業者であれば,本件訂正明細書の【表1】記載の鋼種Eについては,上記Ac1 点の計算式に従い,723-10.7(0.5%Mn)-16.9(0%Ni)+29.1(0.3%Si)+16.9(12%Cr)+290(0%As)+6.38(3.1%W)=949℃となり,鋼種Eを用いて本件訂正発明を実施する場合には,Ac 1点の949℃以上に加熱すれば焼き入れ可能であることが理解でき,しかも,上記温度は本件訂正発明の温度条件である700〜1000℃の範囲内にあるから,鋼種Eを用いて本件訂正発明を実施することが可能である。 また,上記のとおり,炭素やその他の合金成分はオーステナイト変態に種々の影響を及ぼし,その第一が,Ac 1 点とAc 3 点を変化させることであること,フェライト形成元素であるTi,Mo,Si,W及びCrはその量を増すにつれて共析温度が上昇し,これに反して,オーステナイト形成元素であるNi及びMnはその量を増すにつれて共析温度は次第に下がること,Ac 1 点及びAc 3 点については上記各計算式を用いて算定できることは,いずれも周知の技術事項であったことからすれば,当業者であれば,素地鋼材の組成に応じて,700〜1000℃の加熱温度の範囲で,焼き入れ可能な加熱温度を適宜設定することができるというべきである。したがって,当業者であれば,本件訂正発明の記載及び上記周知の技術に基づき,上記温度範囲の下限の700℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板を製造できることを理解し得ることから,本件訂正明細書の発明の詳細な説明は実施可能要件を充足するものである。 そうすると,本件審決には,鋼種Eの焼き入れ温度の算定方法を誤った違法があるけれども,この点の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではなく,原告の前記(ア)の主張は,採用することができない。 (4) 以上によれば,取消事由2は理由がない。 47 4 取消事由3(本件訂正発明と先願発明の同一性判断の誤り)について (1) 先願明細書(甲8)には,おおむね,次の記載がある。 ア 特許請求の範囲【請求項1】 鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する金属または金属合金で被覆された圧延鋼板,特に熱間圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を製造する方法であって,鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階と,鋼板ブランクの型打ちによって部品を成形する段階と,型打ち前または型打ち後に,腐食に対する保護,鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る金属間合金化合物で表面を被覆する段階と,型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と,を含んで成る方法。 【請求項3】 被膜を形成する金属または金属合金が5μm-30μmの範囲の厚みの亜鉛または亜鉛ベース合金から成ることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項4】 金属間合金が亜鉛-鉄ベース化合物または亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項5】 成形前及び/または熱処理前の鋼板に700℃を上回る高温を作用させることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項6】 特に型打ちによって得られた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れすることを特徴とする請求項1に記載の方法。 イ 発明の実施の形態【0006】本発明の好ましい実施態様においては,方法が,-鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階と,-部品を熱間成形するために被覆鋼板ブランクに高温を作用させる段階と,-腐食に対する保護,鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る金属間合金化合物で表面を被覆する段階と,-鋼板ブランクを型打ちによって成形する段階と,-鋼の硬度及び被膜の表面硬度などの機械的特性を強化するために形成部品を冷却 48する段階と,-型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と,から成る。 【0007】本発明の別の特徴は:-被膜を形成する金属または金属合金が5μm-30μmの範囲の厚みの亜鉛または亜鉛ベース合金から成る;-金属間合金が亜鉛-鉄ベース化合物または亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物である;-成形前及び/または熱処理前の被覆鋼板に700℃を上回る高温を作用させる;-主として型打ちによって得られた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れする;などである。 【0019】圧延鋼板を例えば亜鉛または亜鉛-アルミニウム合金によって被覆し得る。 【0021】部品を成形するためまたは熱処理するために,炉で鋼板に好ましくは700℃-1200℃の範囲の高温を作用させる。被膜によって酸化に対する障壁が形成されるので炉の雰囲気は管理不要である。亜鉛ベースの被膜は温度上昇に伴って処理温度に依存する種々の相を含む表面合金層に変態し,600HV/100gを上回る高い硬度をもつようになる。 ウ 実施例【0028】実施例1:鋼に設けた亜鉛被膜1つの実施態様では,以下の重量組成をもつ鋼から熱間圧延鋼板の帯材を製造する:炭素:0.15%-0.25%マンガン:0.8%-1.5%ケイ素:0.1%-0.35%クロム:0.01%-0.2% 49チタン:0.1%以下アルミニウム:0.1%以下リン:0.05%以下イオウ:0.03%以下ホウ素:0.0005%-0.01%【0029】厚み1mmの冷間圧延鋼板から,厚み約10μmの亜鉛被膜が両面に連続的にメッキされた部品を製造する。成形前の鋼板を950℃でオーステナイト化し,ツール内で焼入れする。被膜は低温及び高温の腐食防止及び脱炭防止などの本来の機能に加えて,成形処理中に潤滑剤の機能を果たす。合金被膜は焼入れ処理中にツールからの排熱を妨害することがなく,この排熱をむしろ促進する。全処理工程にわたって部品が基本の被膜によって確実に保護されているので,成形及び焼入れの後,部品の酸洗いまたは保護はもはや不要である。 【0036】実施例2:鋼に設けた亜鉛アルミニウム被膜約1mmの鋼板に10μmの被膜を形成する。この被膜は50-55%のアルミニウムと45-50%の亜鉛とから成り,任意に少量のケイ素を含有する。 【0038】熱間成形中に,亜鉛とアルミニウムと鉄とが合金化して密着性の均質な亜鉛-アルミニウム-鉄被膜が形成される。腐食試験では,この合金層が極めて優れた腐食防止効果を有していることが示される。 (2) 先願明細書に記載された発明の認定 本件審決は,先願発明として,前記第2の3(2)のとおり,所定の元素の重量組成をもつ鋼板に「亜鉛被膜」が両面に連続的にめっきされ,成型前の鋼板を950℃でオーステナイト化し,プレス成形で焼入れする鋼板と認定した。 しかし,先願明細書の実施例1(【0028】 【0029】 , )及び実施例2(【0036】 【0038】 , )の記載によれば,先願明細書には,所定の元素の重量組成をもつ鋼板に「亜鉛被膜」だけでなく,「亜鉛-アルミニウム被膜」が両面に連続的にめっきされている鋼板も開示されているのであるから,先願明細書に記載され 50た発明としては,以下のとおり認定するのが相当である。 以下の重量組成をもつ炭素:0.15%-0.25%マンガン:0.8%-1.5%ケイ素:0.1%-0.35%クロム:0.01%-0.2%チタン:0.1%以下アルミニウム:0.1%以下リン:0.05%以下イオウ:0.03%以下ホウ素:0.0005%-0.01%鋼板に亜鉛又は亜鉛-アルミニウム被膜が両面に連続的にめっきされ,成形前の鋼板を950℃でオーステナイト化し,プレス成形で焼入れする鋼板(以下「先願発明’」という。。 ) (3) 本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1と先願発明’との対比 (ア) 先願明細書には,めっきされた亜鉛又は亜鉛-アルミニウム被膜が酸化皮膜を有することについての明示的な記載はない。 ところで,甲2(社団法人溶接学会「溶接学会全国大会講演概要-第52集-」,平成5年3月15日発行)には,合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき表面にZnO系酸化皮膜が存在することが,甲3(特開平5-320854号公報)には,溶融亜鉛めっき処理された鋼板を,酸素濃度25%以上の酸化性雰囲気に保たれた高周波誘導加熱炉に導入し合金化処理することにより,めっき層の上層に緻密でかつ均一な酸化皮膜(ZnO)が形成されること(【0008】 【0035】 【003 , ,6】)が,甲4(特開平11-229104号公報)には,通常,めっき層の合金化処理は400〜600℃で大気雰囲気中で施され,合金化処理後のめっき層表面 51には,Al酸化物(Al 2 O 3 など)及びZn酸化物(ZnOなど)等からなる,薄い酸化皮膜が生成すること(【0026】)が,甲5(特開平10-195621号公報)には,Znめっき浴中に所定量の特定の金属を含有させてめっき後,合金化炉を用いて所定の加熱条件化でZn-Fe合金化とともに酸化膜を形成させること(【0004】)が,それぞれ記載されている。 甲2ないし5の上記記載を考慮すると,先願発明’のように,甲4の加熱条件(400〜600℃)より更に高温の950℃の大気雰囲気中において,亜鉛又は亜鉛-アルミニウム被膜が存在するのであれば,その表面が酸化することは,当業者であれば容易に理解できる事項である。そして,亜鉛又は亜鉛-アルミニウムの酸化皮膜が形成されると,その酸化皮膜が下層の亜鉛の蒸発を防止するバリア層として機能することも,当業者であれば理解できる事項である。 したがって,本件訂正発明1と先願発明’とは,「表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛を含むめっき層」である点で共通する。 (イ) 先願発明’の「950℃でオーステナイト化」することは,950℃に加熱することであるから,本件訂正発明1の「700〜1000℃に加熱」とは,「950℃に加熱」する点で一致する。 (ウ) 先願明細書の鋼板は熱間プレス用の鋼板であるから,先願発明’の「鋼板」は,本件訂正発明1の「熱間プレス用鋼板」と一致する。 イ 本件訂正発明1と先願発明’との一致点及び相違点 そうすると,本件訂正発明1と先願発明’の一致点及び相違点は,以下のとおりであると認められる。なお,一致点については,当事者間に争いがない。 (ア) 一致点 表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛を含むめっき層を鋼板表面に有する950℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス鋼板 (イ) 相違点 「表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えためっき層」に関し,本 52件訂正発明1では,「亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層」であるのに対し,先願発明’では,「亜鉛又は亜鉛-アルミニウム被膜」である点(以下「相違点A’」という。。 ) ウ 相違点A’について 本件訂正発明1における亜鉛合金皮膜は,「亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層」である。これに対して,先願発明’の「亜鉛又は亜鉛-アルミニウム被膜」を形成する合金めっき層としては,先願明細書の【請求項3】【0007】【001 , ,4】に「亜鉛又は亜鉛ベース合金」として,亜鉛をベースとして含む合金一般を広く意味する記載があるが,先願明細書において,「亜鉛ベース合金」として具体的に亜鉛以外の組成を含む合金として開示されているのは,「亜鉛-鉄」 「亜鉛-ア ,ルミニウム」及び「亜鉛-鉄-アルミニウム」の3種類であって,本件訂正発明1記載の上記合金に係る記載はない。 ところで,合金は,その構成(成分及び組成範囲等)から,どのような特性を有するか予測することは困難であり,また,ある成分の含有量を増減したり,その他の成分を更に添加したりすると,その特性が大きく変わるものであって,合金の成分及び組成範囲が異なれば,同じ製造方法により製造したとしても,その特性は異なることが通常である(弁論の全趣旨)。そうすると,先願明細書には,本件訂正発明1において特定されている上記のめっき合金が具体的に開示されていない以上,先願明細書に,先願発明’の「亜鉛又は亜鉛-アルミニウム被膜」を形成する合金として,本件訂正発明1において特定されている上記のめっき合金が記載されている又は記載されているに等しいということはできない。 したがって,相違点A’は,実質的な相違点であって,先願明細書に開示された 53発明は本件訂正発明1と同一ではないとした本件審決の判断に誤りはない。 エ 原告の主張について (ア) 原告は,本件訂正明細書の【0040】に記載されているように,鋼板に亜鉛系合金のめっき層を付けるに当たり,目的に応じて適宜の合金元素を適宜量添加することは本件特許出願前から周知技術に属するものであって,本件審決も,甲20,24,乙3及び4を引用した上で,自動車用のめっき鋼板(亜鉛ベース合金)として,Zn-Ni,Zn-Co,Zn-Mn,Zn-Cr等の合金めっきを周知のものと認定し,所望の物性を得るためこれら周知のめっきをめっき層として選択することは,当業者であれば容易である旨認定していること,本件訂正発明1において特定された添加元素は,Ni,Co,Cr,Al-Mg,Sn,Mnの6種類であるが,本件訂正明細書には,これら各元素によって,それぞれいかなる作用効果が達成されるのかを明らかにした記載もなければ,これら6種類の元素を添加した合金に共通の性質も記載されていないし,本件訂正明細書の【表5】において,No.1〜8の実施例の相互の優劣が全く区別されておらず,添加元素の添加理由も説明されていないことからすれば,本件訂正発明1は,先願発明の亜鉛ベース合金について,周知技術に従った任意の添加元素を恣意的に特定したにすぎず,これらの元素は,当業者の技術常識に従って目的に応じて適宜添加されるものであるから,本件訂正発明1は,実質的に,先願発明と同一である旨主張する。 (イ) 本件審決があげた甲20(岡本篤樹「当社の自動車用薄板製品と利用技術」住友金属48巻4号16〜17頁,平成8年発行)には,自動車用表面処理鋼板として,純亜鉛の電気めっきより数倍の耐食性があり薄目付けが可能なZn-Ni合金電気めっき鋼板が代表的なものとして使用されていることが,甲24(社団法人日本鉄鋼協会「第138・139回西山記念技術講座 表面処理技術の進歩と今後の動向」47頁,平成3年5月1日発行)には,この10年余の間に亜鉛めっきの主として耐食性向上の目的からいくつかの合金めっきが開発され,代表的なものとして,Zn-Co,Zn-Ni,Zn-Mnが示され,このうちZn-Ni系は 54既に自動車用防錆鋼板として大量に生産されていることが,乙3(特開平7-126863号公報)には,発明の名称を「金属板及びメッキ金属板のフレキシブル生産設備」とする発明のめっき金属体のめっきとして,通常用いられるZn-Al-Mgめっき,Zn-Crめっきが可能であること(【0025】)が,乙4(めっき技術便覧編集委員会編「めっき技術便覧 3版」日刊工業新聞社295〜296頁,昭和52年10月30日発行)には,銅合金めっきの一つとして銅-亜鉛ブロンズめっきが,各種合金めっきの一つとしてすず-亜鉛合金めっきが,それぞれ記載されている。これらは,一般的な亜鉛系合金めっき又は自動車用鋼板に用いる亜鉛系合金めっきとして,上記の各合金めっきが周知の技術であったことを示すものということができる。 ところで,本件訂正発明は,前記1(2)のとおり,耐食性湿潤環境において鋼板の犠牲防食作用のある亜鉛系めっき鋼板に熱間プレスを適用することを着想したが,熱間プレスは700〜1000℃という亜鉛系めっき金属の融点以上の温度で加熱することを意味し,このような場合,めっき層は溶融し,表面より流失し,あるいは溶融・蒸発して残存しないか,残存しても表面性状は著しく劣ったものとなることが予測されたところ,実際に700〜1000℃の温度に加熱を行い,次いで熱間プレスを行ったところ,予測に反して,一部の材料について問題なく熱間プレスを行えることが判明したことから,亜鉛系めっき鋼板を700〜1000℃の温度に加熱してから熱間プレスを行っても,めっき層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層として全面的に形成されるとともに,めっき層は合金化が進み,それにより高融点化してめっき層表面からの亜鉛の蒸発を防止し,かつ鋼板の鉄酸化物形成を抑制するため,表面性状が良好な熱間プレス鋼板を見いだした発明である。 そうすると,一般的に,鋼板に亜鉛系合金のめっき層を付けるに当たり,目的に応じて適宜の合金元素を適宜量添加することが本件特許出願前から周知技術に属するものであって,殊に,甲20,24,乙3及び4に示されているように,一般的 55な亜鉛系合金めっき又は自動車用鋼板に用いる亜鉛系合金めっきとして,Zn-Ni,Zn-Co,Zn-Mn,Zn-Cr等の合金めっきが周知であったとしても,700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板に使用するために,亜鉛系合金めっき層に適宜の合金元素を適宜量添加することが周知であったということはできず,また,Zn-Ni,Zn-Co,Zn-Mn,Zn-Cr等の合金めっきを,かかる熱間プレス用鋼板に使用できることが周知であったということもできない。そして,本件訂正明細書の【0040】には,同段落記載の合金元素を目的に応じて適宜量添加した亜鉛合金めっき層であっても,本件訂正発明の熱間プレス用鋼板のめっき層として使用できる旨の記載があるが,これが本件特許の出願日当時の技術常識であったことを認めるに足りる証拠もない。そうすると,先願明細書の記載及び本件特許の出願日当時の技術常識を勘案しても,先願明細書には,本件訂正発明1において特定されているめっき合金が具体的に開示されていない以上,先願明細書に,先願発明’の「亜鉛又は亜鉛-アルミニウム被膜」を形成する合金として,本件訂正発明1において特定されているめっき合金が記載されている又は記載されているに等しいということはできない。 また,本件訂正発明1において亜鉛めっきに添加する元素として特定されたNi,Co,Cr,Al-Mg,Sn,Mnの6種類について,本件訂正明細書に各元素によって達成される作用効果の記載や,これら6種類の元素を添加した合金に共通する性質の記載,本件訂正明細書の【表5】に,No.1〜8の実施例の相互の優劣及び添加元素の添加理由の記載が,いずれもされていないからといって,先願明細書に本件訂正発明1において特定されているめっき合金が記載されている又は記載されているに等しいことにつながるものではない。 したがって,原告の前記(ア)の主張は採用することができない。 (4) 本件訂正発明2ないし6は,本件訂正発明1の発明特定事項の全てをその発明特定事項として含むから,本件訂正発明1についての前記(3)の説示は,全て本件訂正発明2ないし6にも妥当する。また,本件訂正発明7は,本件訂正発明1 56の「熱間プレス用鋼板」が「熱間プレス用鋼材」である点以外は,本件訂正発明1の発明特定事項の全てをその発明特定事項として有するから,本件訂正発明1についての前記(3)の説示は,全て本件訂正発明7にも妥当する。 (5) したがって,本件訂正発明は,特許法29条の2の規定に違反して特許されたものではなく,取消事由3は理由がない。 5 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。 よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 高部眞規子 |
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裁判官 | 田中芳樹 |
裁判官 | 柵木澄子 |