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関連審決 無効2002-35507
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  着想 /  技術的意義 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 261号 審決取消請求事件
原告 三洋電機株式会社
原告 タカラベルモント株式会社
原告ら訴訟代理人弁護士 松本司
同 緒方雅子
原告ら訴訟代理人弁理士 稲岡耕作
被告 株式会社大廣製作所
同訴訟代理人弁護士 後藤秀継
同 赤松純子
同 玉置健
同訴訟代理人弁理士 鮫島武信
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/06/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2002―35507号事件について平成15年5月13日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,発明の名称を「自動洗髪機」とする特許第3091754号(平成7年6月28日にされた特許出願である特願平7―162582号の一部を新たな特許出願として,平成11年10月7日出願,平成12年7月21日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成14年11月27日,本件特許について無効審判の請求をした(無効2002―35507号事件)ところ,特許庁は,平成15年5月13日,「特許第3091754号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月23日,原告らに送達された。
2 本件特許に係る発明の要旨 【請求項1】洗髪に使用する温水を溜めるための貯湯タンクと,温水噴射用ノズルと, 上記貯湯タンクに溜められている温水を汲み出して上記温水噴射用ノズルに与えるためのポンプと, 洗髪コースに従って被洗髪者の髪を自動的に洗髪するよう指示するためのスタートキーと, 上記温水噴射用ノズルに至る経路に溜まっている水を前記温水噴射ノズルを通じて排出する処理の実行を手動で指示するための水抜きキーと,を有し, 前記スタートキーが操作されると,洗髪コースに従って前記ポンプを駆動して洗髪を実行し,前記スタートキーが操作されていない場合において前記水抜きキーが操作されると,前記ポンプが駆動され,前記温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行するマイクロコンピュータを備えたことを特徴とする自動洗髪機。(以下「本件発明1」という。) 【請求項2】前記マイクロコンピュータは,前記水抜きキーが操作されると,前記ポンプを予め定める条件に従って駆動することを特徴とする請求項1記載の自動洗髪機。(以下「本件発明2」という。) 【請求項3】前記マイクロコンピュータは,前記スタートキーが操作されていない場合であって,前記貯湯タンクへの給湯中または給湯完了後に前記水抜きキーの操作を受け付けることを特徴とする請求項1記載の自動洗髪機。(以下「本件発明3」という。) 3 本件審決の理由の要旨 本件審決は,次のとおり,本件発明1ないし3は,甲3に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び甲4ないし7に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
甲3:実願平5-60889号(実開平7-30902号)のCD-ROM 甲4:特開平6-217819号公報 甲5:実願平5-29963号(実開平6-87486号)のCD-ROM 甲6:特開平6-22878号公報 甲7:特開平6-142001号公報 (1) 対比 ア 本件発明1について 本件発明1と引用発明とは, 「温水噴射用ノズルと, 洗髪コースに従って被洗髪者の髪を自動的に洗髪するよう指示するためのスタートキーと,を有し, 前記スタートキーが操作されると,洗髪コースに従って洗髪を実行し,前記温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行するマイクロコンピュータを備えた自動洗髪機。」 である点で一致し,以下の点で相違する。
[相違点1] 本件発明1では,貯湯タンクとポンプとを備え,該ポンプによって前記貯湯タンクに溜められている温水をくみ出して温水噴射用ノズルに与えるものであるのに対し,引用発明では,このような貯湯タンク及びポンプについては記載がない点。 [相違点2] 本件発明1では,排水処理の実行を手動で指示するための水抜きキーを備え,前記マイクロコンピュータは,スタートキーが操作されていない場合において前記水抜きキーが操作されると,ポンプを駆動し,前記温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行するのに対し,引用発明では,このような水抜きキーは備えておらず,マイクロコンピュータに相当するコントロール部は,シャワーヘッド,ノズルヘッド,又はハンドシャワーからの吐水終了後20分継続して再度の使用がない場合,又は混合水供給経路中の残水が例えば40℃以下となったときに,排水を自動的に行う点。
イ 本件発明2について 本件発明2と引用発明とは,上記アで挙げた一致点で一致し,上記アで挙げた相違点に加え,以下の点で更に相違する。 [相違点3] 本件発明2では,マイクロコンピュータは,水抜きキーが操作されると,ポンプを予め定める条件に従って駆動するものであるのに対し,引用発明では,マイクロコンピュータに相当するコントロール部は,そのような水抜きキーの操作に伴う処理を行わない点。 ウ 本件発明3について 本件発明3と引用発明とは,上記アで挙げた一致点で一致し,上記アで挙げた相違点に加え,以下の点で更に相違する。 [相違点4] 本件発明3では,マイクロコンピュータは,スタートキーが操作されていない場合であって,貯湯タンクへの給湯中または給湯完了後に水抜きキーの操作を受け付けるものであるのに対し,引用発明では,マイクロコンピュータに相当するコントロール部は,そのような水抜きキーの操作を受け付けるか否かの判断を行わない点。 (2) 相違点についての判断 ア 相違点1について 自動洗髪機において,貯湯タンクとポンプとを備え,該ポンプによって前記貯湯タンクに溜められている温水をくみ出して温水噴射用ノズルに与えるものは,甲4にも記載されているように,本件出願前から周知となっているものであって,引用発明においても,前記貯湯タンクとポンプとを備えた構成を採用することを妨げる特段の理由は認められないから,引用発明において,貯湯タンクとポンプとを備え,該ポンプによって前記貯湯タンクに溜められている温水をくみ出して温水噴射用ノズルに与える構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことと認められる。 イ 相違点2について 引用発明は,捨て水を時間又は温度により自動的に行うものであるが,自動洗髪機の捨て水処理に限らず,ある機能を自動で行うものから,該機能を手動で行うものに変更することは,技術的にも着想の点からも,格別の困難性を有するものとは認められず,引用発明においても,コントロール部が行っていた時間又は温度に基づく判断を使用者が行い,それに基づいて捨て水処理を使用者が手動で行う構成とすることを妨げる特段の理由は認められない。また,管路内に溜まっている水を排水するための手動スイッチを備えることは,甲5ないし7に記載されているように,本件出願前から周知のことに過ぎない。さらに,このような捨て水処理は,洗髪行程の実行中に行うものでないことも当然であるから,水抜きの手動スイッチは,洗髪のためのスタートキーが操作されていない場合に操作されることも当然の事項に過ぎない。 したがって,引用発明において,捨て水処理の実行を手動で指示するための水抜きキーを備え,マイクロコンピュータに相当するコントロール部は,スタートキーに相当する自動洗髪スイッチが操作されていない場合において前記水抜きキーが操作されると,ポンプを駆動し,シャワーヘッド及びノズルヘッドに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行する構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことと認められる。 ウ 相違点3について 上記相違点1について検討したように,引用発明において,ポンプを駆動して湯を供給するものとすることは,当業者が容易に想到し得たものであり,ポンプを捨て水処理の際にも予め定める条件に応じて駆動することは,当然行われるべきことに過ぎないことと認められる。 エ 相違点4について 「貯湯タンクへの給湯中または給湯完了後」以外の場合として通常想定されるのは,貯湯タンクが空の場合であり,捨て水処理を行うコントロール部を備えたものにおいて,貯湯タンクが空の場合には捨て水処理を行わせないようにし,貯湯タンクへの給湯中または給湯完了後に捨て水処理することに,格別の困難性は認められない。
原告ら主張に係る本件審決の取消事由の要点
本件審決は,本件発明1と引用発明との一致点を誤認した結果,相違点を看過し(取消事由1,2),また,相違点2についての判断を誤った(取消事由3)結果,本件発明1ないし3についての進歩性の判断を誤ったものであり,その誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過(1)) 本件審決は,引用発明が,スタートスイッチが操作されると,温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する捨て水処理を含めて洗髪コースを実行するものであり,本件発明1のように,事前捨て水として,温水噴射ノズルに至る経路(全経路)に溜まっている水を排水する捨て水処理を実行することにより,捨て水処理なしに洗髪行程に入るものではないにもかかわらず,この相違点を看過して,「前記スタートキーが操作されると,洗髪コースに従って洗髪を実行し,前記温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行するマイクロコンピュータを備えた」点を誤って一致点として認定したものである。
(1) すなわち,甲3には,「この捨て水用電磁弁13は,図1に示す操作パネル1d及び図7に示すコントロール部20に連動しており,吐水開始時,20分毎に自動的に開弁され,給湯源からサーミスタ12間の冷えた湯が捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出される。」(段落【0024】),「自動洗髪スイッチオンによって,電磁弁11(13の誤記)が開き,ボール1内の捨て水ノズル(図示せず)から吐水が開始し,給湯温度がサーミスタ12で温度47度を感知したら電磁弁11(13の誤記)を閉じ」(段落【0029】)と,「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」が行われることが記載され,また,「自動洗髪スイッチオンによって,‥電磁弁11(13の誤記)を閉じ,シャワーヘッド3やノズルヘッド4等へ適温湯が供給される。また,電磁弁11(13の誤記)を閉じると同時に,洗面機から吐水が飛び出ない位置に設けられたシャワーヘッド3の開閉弁3dが開かれ,その後順次残りの電磁弁を開けて捨て水を完了する。」(段落【0029】)と,「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」が行われることが記載されている。
(2) これらの記載によれば,引用発明においては,シャワーヘッド3,5,ノズルヘッド4,又はハンドシャワー6からの吐水終了後20分継続して再度の使用がない場合,又は混合水供給経路9aの中の残水が例えば40℃以下となったとき(事前水抜き時)には,電磁弁13が開いて「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」は行われるが,「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」は行われないと解すべきである。
「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」が行われるのは,自動洗髪スイッチオンによって,電磁弁13が開いた後,サーミスタ12が温度47度を感知して,電磁弁13が閉じ,同時に,洗面機から吐水が飛び出ない位置に設けられたシャワーヘッド3の開閉弁3dが開かれてからである。
上記コントロール部による捨て水制御については,電磁弁閉止後20分毎に捨て水することに代え,混合水供給経路9a中にサーミスタを設け,混合水供給経路9aの中の残水がたとえば40℃以下となったときに捨て水する場合であっても異なるところはない。
したがって,引用発明においては,自動洗髪スイッチがオンされると,必ず「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」と「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」がなされるのであって,捨て水をせずに直ちに洗髪行程に入ることはない。2回目以降の洗髪行程においても,「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」の時間が短縮されるに過ぎない。
(3) 仮に,引用発明において,事前水抜き時に「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」をすべてのノズルから行うとすると,その吐水は,洗面機の開口から飛び出してしまい,床が水浸しになる可能性がある。けだし,引用発明では,被洗髪者が頭をボール1に置いている場合でさえ,「洗面機から吐水が飛び出ない位置に設けられたシャワーヘッド3の開閉弁3d」から開弁していくとされている(段落【0029】)のであるから,被洗髪者の頭がボール1に置かれていない場合の自動の捨て水は,洗面機の開口から吐水が飛び出す位置にあるノズル(このようなノズルがあることは,上記段落【0029】の記載から明らかである。)からも排水されて,洗面機の開口から吐水が飛び出ると推認されるのである。
また,逆に,吐水が飛び出ないノズルからだけ「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を行うとすると,その他のノズル及びそれに至る配管には,混合水供給経路9aから温水は供給されないことになって冷水が残ってしまう。
それにもかかわらず,甲3に洗面機から事前水抜き時の吐水が飛び出ないようにするための構成が一切開示されていないのは,引用発明において,事前水抜き時に「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を行うことを予定していないからである。
(4) なお,本件審決は,下記アないしオの根拠を挙げて,引用発明において,20分間隔毎の捨て水又は混合水供給経路9aの中の残水が40℃以下となったときの捨て水は,混合水供給経路9aを含む,シャワーヘッド,ノズルヘッド,又はハンドシャワーに至る経路に溜まっている水も含めて排水されるものであることが明らかであると認定するが,誤りである。
ア 本件審決が根拠として挙げる「例えば混合水供給経路9a中にサーミスタを設け,混合水供給経路9aの中の残水がたとえば40℃以下となったときに捨て水する構成としてもよい」(段落【0032】)との記載は,「20分間隔毎の捨て水」制御(段落【0031】)を,「残水が40℃以下」の場合の捨て水制御に置換することを説明しているに過ぎず,このことから引用発明における「自動の捨て水」が「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」と「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を含むという結論は導き出せない。
イ 本件審決は,引用発明の課題は,給湯源からノズルまでの流路の湯が,再使用時に冷えているのを防ぐことにあるから(段落【0007】),「前記流路内の残水を自動的に排除する制御系」(段落【0011】)における流路とは,ノズルまでの経路を含むと考えられるとする。しかしながら,引用発明の課題は,「給湯源からノズルまでの距離が長い場合,長時間の捨て水が必要となると言う問題」(段落【0008】)を解決して「使用初期の低温の洗浄水の吐出を短時間で解消」(段落【0010】)することにあると解すべきであり,かかる解釈は,「‥従来のように捨て水を長時間することなく,」(段落【0031】)との記載とも符合する。本件審決は,引用発明の課題を誤認している。
ウ 本件審決は,甲3に「吐水開始時,20分毎に自動的に開弁され,給湯源からサーミスタ12間の冷えた湯が捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出される」(段落【0024】)との記載があるからといって,20分毎の捨て水が,電磁弁13を開弁するだけであって,その下流の9aの捨て水を含まないということにはならないとする。しかしながら,「捨て水制御(20分間隔毎の捨て水)」(段落【0031】)については,「この捨て水用電磁弁13は,図1に示す操作パネル1d及び図7に示すコントロール部20に連動しており,吐水開始時,20分毎に自動的に開弁され,給湯源からサーミスタ12間の冷えた湯が捨場流路9dから洗面ボール1内に排出される。」(段落【0024】)と記載されているとおり,「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」だけを行うものと解すべきである。
エ 本件審決は,甲3に「以上の構成において,自動洗髪スイッチオンによって,電磁弁11(13の誤記)が開き,ボール1内の捨て水ノズル(図示せず)から吐水が開始し,給湯温度がサーミスタ12で温度47度を感知したら電磁弁11(13の誤記)を閉じ,シャワーヘッド3やノズルヘッド4等へ適温湯が供給される。また,電磁弁11(13の誤記)を閉じると同時に,洗面機から吐水が飛び出ない位置に設けられたシャワーヘッド3の開閉弁3dが開かれ,その後順次残りの電磁弁を開けて捨て水を完了する。」(段落【0029】)と記載され,電磁弁13からの捨て水と,シャワーヘッドからの捨て水が行われることが説明されていることを根拠として挙げる。しかしながら,「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」と「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」の両方がなされるとの上記記載は,「自動洗髪スイッチオン」の場合の捨て水であって,事前水抜きの場合の捨て水ではない。
オ 本件審決は,甲3に,20分毎の捨て水で,前回の使用から長時間たっている場合でも,混合水供給経路9a中は適温となっており,シャワーヘッド等にただちに適温の湯を供給できる旨記載されていること(段落【0031】)を根拠に挙げる。しかしながら,前記(1)ないし(3)のとおり,「捨て水制御(20分間隔毎の捨て水)」とは,「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」としか解釈できない以上,上記記載は,引用発明において,「混合水供給経路9a中に流入 する 湯は常に適温となっているので」,「従来のように捨て水を長時間することなく,洗髪行程では シャワーヘッド3,5,ノズルヘッド4及びハンドシャワー6にただちに適温の湯を供給することが可能となる」という意味に解せざるを得ない。
(5) また,本件審決は,引用発明において,自動洗髪スイッチオンによって,捨て水が行われる(段落【0029】)のは,装置を始動したときの最初の洗髪等においてであり,「先の使用後に・・・ただちに適温の・・・」(段落【0031】)と記載されていることから,それ以後の自動洗髪においては,その開始時に捨て水の必要がないことは明らかであると認定する。しかしながら,前記(4)イのとおり,引用発明の課題は,使用初期の低温の洗浄水の吐出を短時間で解消することにあり,低温の洗浄水の吐出をなくすことではないし,甲3には,装置を始動したときの最初の洗髪と第2回目以降の洗髪とで異なることを実現するための構成も,「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」をなさずに直ちに洗髪行程を開始するための構成も記載されていないから,上記記載は,第2回以降の「自動洗髪スイッチオン」では「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」の時間が短縮されるという意味に解するほかない。
2 取消事由2(一致点の誤認,相違点の看過(2)) 本件審決は,本件発明1が「温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を前記温水噴射ノズルを通じて排出する」ものである一方,引用発明がそのような構成を有しないにもかかわらず,この相違点を看過して,「前記温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行するマイクロコンピュータを備えた」点を誤って本件発明1と引用発明の一致点と認定したものである。
すなわち,本件審決は,上記の点を一致点と認定した上,相違点2について,「本件発明1では,排水処理の実行を手動で指示するための水抜きキーを備え,前記マイクロコンピュータは,スタートキーが操作されていない場合において前記水抜きキーが操作されると,ポンプを駆動し,前記温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行する」と認定しており,あたかも,本件発明1が,温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水するもの,すなわち,温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水をどこから排水してもよいものであるかのように認定するが,本件発明1においては,「前記温水噴射ノズルを通じて排出する」との限定がなされているのであるから,かかる構成要件を看過して,上記のとおり一致点を認定したのは誤りである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り) 本件審決は,相違点2についての判断の根拠として,手動で水抜きを行う技術は甲5ないし7に開示されているとするが,これらは本件発明1と構成を異にするから,これらを引用発明に組み合わせても,本件発明1の構成にならない。
すなわち,甲5ないし7は,いずれも,本件発明1のように配管経路に溜まったすべての冷水を排水するものではない。
また,甲6に記載された発明は,多機能シャワー装置における保守点検作業の容易化,安全化を目的とする発明であって,水抜きといっても,保守点検作業のための配管からの水抜きである。
さらに,甲6,甲7に記載された発明は,いずれも他の弁の開弁時でも水抜きが優先し,水抜き中は他のスイッチの操作は受け付けないものであり,本件発明1のように「前記スタートキーが操作されていない場合において前記水抜きキーが操作されると」排水処理を実行するものではない。
被告の反論の要点
本件審決の判断に誤りはなく,原告らの主張する本件審決の取消事由には理由がない。
1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過(1))について 引用発明において,「事前水抜き」として「混合水供給経路9aの中の残水」を排水することは,甲3に明示されている。
すなわち,甲3の【請求項1】には,「給湯源と該給湯源に接続され電磁弁の開閉によって吐水及び停止を行う吐水装置を備え,さらに前記給湯源と吐水装置の流路中途 に,前記電磁弁閉止後所定時間経過して,又は前記電磁弁 が閉止状態 の時の残水 が設定温度以下 の場合 に,前記流路内の残水を自動的に排除する制御系を備えたことを特徴とする自動捨て水装置。」と記載されている。この記載において,「前記給湯源と吐水装置の流路中途」とは,図7の「湯」「水」と表示された給湯源からシャワーヘッド3,5,ノズルヘッド4及びハンドシャワー6までの流路における中途であり,また,「前記電磁弁が閉止状態の時の残水が設定温度以下の場合」における「残水」とは,混合水供給経路9aの中の残水である(【0032】)。そうすると,「前記流路内の残水を自動的に排除する制御系」における「前記流路」とは,「給湯源からシャワーヘッド3,5,ノズルヘッド4及びハンドシャワー6までの流路」であり,「前記流路内の残水」とは「混合水供給経路9aの中の残水」を含むものと読むのが自然である。したがって,甲3には,事前の捨て水として,「混合水供給経路9aの中の残水」を自動的に排除する制御系を備えた自動捨て水装置が明示されているといえる。
なお,甲3に吐水が飛び出ないようにするための構成が記載されていなくても,そのような構成は設計事項にすぎないから,上記記載がないことから,引用発明において,事前の水抜きとして「混合水供給経路9aの中の残水」を排出することが行われないということはできない。
2 取消事由2(一致点の誤認,相違点の看過(2))について 本件発明1も「温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理」を実行することに変わりはないのであるから,本件審決が,本件発明1と引用発明との一致点として,「温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理」を実行する点を認定したことが誤りとはいえない。
また,引用発明において,「事前水抜き」として「温水噴射ノズルを通じて混合水供給経路9aの中の残水」を排水することは,当業者が理解できる程度に開示されている。すなわち,甲3に捨て水の経路として示されている経路は,捨湯流路9dとシャワーヘッド3との2箇所であるところ,捨湯流路9dは,混合水供給経路9aより上流にあるため,混合水供給経路9a内の残水を捨場流路9dから排出することは不可能であり,他方,シャワーヘッド3は,混合水供給経路9aより下流にあるため,混合水供給経路9a内の残水をシャワーヘッド3から排出することは可能であることからすると,甲3には,事前水抜きとして,「温水噴射ノズルを通じて混合水供給経路9aの中の残水」を排水することが,当業者が理解できる程度に開示されているといえる。
仮に,甲3では「温水噴射用ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理」のみが開示され,本件発明1が備える「前記温水噴射ノズルを通じて排出する」との構成が開示されていないとしても,甲3の「温水噴射用ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理」に際して,「温水噴射ノズルを通じて排出する」ようにすることは,単なる設計事項にすぎない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について 本件審決が,相違点2について,「引用発明において,捨て水処理の実行を手動で指示するための水抜きキーを備え,マイクロコンピュータに相当するコントロール部は,スタートキーに相当する自動洗髪スイッチが操作されていない場合において前記水抜きキーが操作されると,ポンプを駆動し,シャワーヘッド及びノズルヘッドに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行する構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことと認められる。」と判断したことに,誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過(1))について 原告らは,「引用発明においては,シャワーヘッド3,5,ノズルヘッド4,又はハンドシャワー6からの吐水終了後20分継続して再度の使用がない場合,又は混合水供給経路9aの中の残水が例えば40℃以下となったとき(事前水抜き時)には,電磁弁13が開いて,「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」が行われるが,「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」は行われない。したがって,引用発明は,スタートスイッチが操作されると,温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する捨て水処理を含めて洗髪コースを実行するものであり,本件発明1のように,捨て水処理なしに洗髪行程に入るものではない。しかるに,本件審決は,本件発明1と引用発明との上記相違点を看過して,一致点を誤認した。」旨主張する。
引用発明において,事前水抜き時に,「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」が行われることについては,当事者間に争いがない。そこで,引用発明が,事前水抜き時に,「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を行う構成を備えているかどうかにつき検討する。
(1) 甲3には,捨て水に関して,次のような記載がある。
@「【請求項1】 給湯源と該給湯源に接続され電磁弁の開閉によって吐水及び停止を行う吐水装置を備え,さらに前記給湯源と吐水装置の流路中途に,前記電磁弁閉止後所定時間経過して,又は前記電磁弁が閉止状態の時の残水が設定温度以下の場合に,前記流路内の残水を自動的に排除する制御系を備えたことを特徴とする自動捨て水装置。」(【実用新案登録請求の範囲】) A「ところが,使用後長時間放置しておくと,湯の供給源とノズルまでの流路に残っている湯が冷えてしまう。このため,再び使用するときには,この流路中に残って冷たくなった水が押し出されるようにしてノズルから放出されることになり,特に冬の寒冷期では使用者に不快感を与えてしまう。」(段落【0007】) B「そこで,本考案において解決すべき課題は,使用初期の低温の洗浄水の吐出を短時間で解消し,常に快適に使用できるようにすることにある。」(段落【0010】) C「【課題を解決するための手段】本考案の自動水捨て装置は,上記課題を解決するために,給湯源と該給湯源に接続され電磁弁の開閉によって吐水及び停止を行う吐水装置を備え,さらに前記給湯源と吐水装置の流路中途に,前記電磁弁閉止後所定時間経過して,又は前記電磁弁が閉止状態の時の残水が設定温度以下の場合に,前記流路内の残水を自動的に排除する制御系を備えたことを特徴とする。」(段落【0011】) D「【作用】給湯源と吐水装置の流路中途の残水は,吐水装置の使用の如何にかかわらず,予め設定された時間あるいは温度によって自動的に外部に排出されるため,冷めた残水が給湯源と吐水装置の流路内に滞ることが無い。」(段落【0012】) E「ハウジング2の内部には,シャワーヘッド3,5,ノズルヘッド4及びハンドシャワー6にそれぞれ適当な温度の温水を供給する湯水混合栓9を備える。湯水混合栓9からの混合水供給経路9aには,シャワーヘッド3,5,ノズルヘッド4及びハンドシャワー6の全てが接続され,シャワーヘッド3,5に向かう水側及び湯側の流路にそれぞれ逆止弁9b,9cを備える。逆止弁9cには捨て水用サーミスタ12が連設され,さらにサーミスタ12には捨て水用電磁弁13を備えた捨湯流路9dが接続される。」(段落【0023】) F「この捨て水用電磁弁13は,図1に示す操作パネル1d及び図7に示すコントロール部20に連動しており,吐水開始時,20分毎に自動的に開弁され,給湯源からサーミスタ12間の冷えた湯が捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出される。」(段落【0024】) G「以上の構成において,自動洗髪スイッチオンによって,電磁弁11(「13」の誤記と認める。以下同じ。)が開き,ボール1内の捨て水ノズル(図示せず)から吐水が開始し,給湯温度がサーミスタ12で温度47度を感知したら電磁弁11を閉じ,シャワーヘッド3やノズルヘッド4等へ適温湯が供給される。
また,電磁弁11を閉じると同時に,洗面機から吐水が飛び出ない位置に設けられたシャワーヘッド3の開閉弁3dが開かれ,その後順次残りの電磁弁を開けて捨て水を完了する。」(段落【0029】) H「ここで,先の使用後に流路系に残る湯や水が冷えてこれが吐出されるのを防ぐため,上記したように,シャワーヘッド3,5,ノズルヘッド4,又はハンドシャワー6からの吐水終了後20分継続して再度の使用がない場合,上記した捨て水制御(20分間隔毎の捨て水)が行われる。これによって,前回の使用から長時間たっている場合でも,混合水供給経路9a中は常に適温となっているので,従来のように捨て水を長時間することなく,シャワーヘッド3,5,ノズルヘッド4及びハンドシャワー6にただちに適温の湯を供給することが可能となる。」(段落【0031】) I「なお,上記実施例では,電磁弁閉止後20分毎に捨て水する構成としたが,無論これに限定されず,例えば混合水供給経路9a中にサーミスタを設け,混合水供給経路9aの中の残水がたとえば40℃以下となったときに捨て水する構成としてもよい。この場合,先の実施例に比べ,特に無駄な捨て水を排除することができる。」(段落【0032】) J「【考案の効果】給湯源と吐水装置の流路中途の残水は,吐水装置の使用の如何にかかわらず,予め設定された時間あるいは温度によって自動的に外部に排出されるため,冷めた残水が給湯源と吐水装置の流路内に滞ることが無く,速やかに適温を吐水することができ,常に快適な使用が可能となる。」(段落【0033】) (2)ア 前記(1)の@Cの記載によれば,引用発明は,「給湯源と吐水装置の流路中途に,前記電磁弁閉止後所定時間経過して,又は前記電磁弁が閉止状態の時の残水が設定温度以下の場合に,前記流路内の残水を自動的に排除する制御系を備えたことを特徴とする自動捨て水装置」というものであり,そこでは,制御系は,給湯源と吐水装置の流路内の残水を排除するものとされており,給湯源と吐水装置の流路のうちの特定部分のみの残水を排除するものに限定されていない。
イ また,前記(1)のABDJの記載によれば,引用発明は,給湯源と吐水装置の流路の冷めた残水が使用者に不快感を与えるという問題の解決を課題とし,給湯源と吐水装置の流路中途に冷めた残水が滞ることがなく,速やかに適温の湯を供給することができ,常に快適な使用が可能となるとの作用効果を有するものである。
ウ 特に,前記(1)のIでは,混合水供給経路9a中にサーミスタを設け,混合水供給経路9aの中の残水がたとえば40℃以下となったときに捨て水する構成が,実施例として記載されている。この記載は,残水がたとえば40℃以下となった場合に,事前水抜きとして「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」がどのように行われるかについて,具体的に言及するものではない。しかしながら,上記ア,イの各点を総合すれば,引用発明における捨て水の技術的意義が,流路に残っている冷えた湯を温水と入れ替えることにあることは明らかであるから,前記(1)のIの記載のように,混合水供給経路9a中にサーミスタを設けて,残水の温度を感知することは,混合水供給経路9a中の残水の入れ替え,すなわち,「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を意図したものと解すべきである。
エ 上記ア及びイの点に,前記(1)のFないしHの記載を併せてみても,甲3において,シャワーヘッド3,5,ノズルヘッド4,又はハンドシャワー6からの吐水終了後20分継続して再度の使用がない場合に「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を行うことが開示されているとまではいえない。しかしながら,上記アないしウを総合すると,甲3には,明示的ではないものの,残水温度がたとえば40℃以下となった場合に,事前水抜きとして「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を行うことが実質的に開示されているということができる。
本件審決が「20分間隔毎の捨て水又は混合水供給経路9aの中の残水が40℃以下となったときの捨て水は,混合水供給経路9aを含む,シャワーヘッド,ノズルヘッド,又はハンドシャワーに至る経路に溜まっている水も含めて排水されるものである」と説示したうち,少なくとも,「混合水供給経路9aの中の残水が40℃以下となったときの捨て水」に関する部分は,上記と同旨を述べたものとして是認できる。
したがって,「引用発明においては,事前水抜きとして「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」が行われない」との原告らの主張は,理由がない。
(3) これに対し,原告らは,まず,第3,1,(3)のとおり,甲3に,洗面機から事前水抜き時の吐水が飛び出ないようにするための構成が一切開示されていないのは,引用発明において,事前水抜き時に,「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を行うことを予定していないからである旨主張する。確かに,甲3には,すべてのノズルからの吐水が洗面機から飛び出ないための構成は,具体的に開示されていない。しかしながら,甲3には,「洗面機から吐水が飛び出ない位置に設けられたシャワーヘッド3の開閉弁3d」(前記(1)のG)が開示されているところ,仮に,引用発明において,開閉弁3dのような洗面機から吐水が飛び出ない位置に設けられたノズルからだけ「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を行い,その他のノズル及びそれに至る配管からは捨て水が行われず,そこには混合水供給経路9aからの温水が供給されないとしても,「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」が行われる以上,吐水が飛び出すことなしに,「速やかに適温の湯を供給することができ,常に快適な使用が可能となる」との作用効果(前記(2)イ)を達成できるものである(なお,本件発明1は,「上記温水噴射用ノズルに至る経路に溜まっている水を前記温水噴射ノズルを通じて排出する」ものにすぎず,特に,すべてのノズルを通じて残水を排出するものに限定されていない。)。したがって,「甲3に,洗面機から事前水抜き時の吐水が飛び出ないようにするための構成が開示されていない」ということはできない。
また,原告らは,前記(1)のIの記載は,「20分間隔毎の捨て水制御」を「残水が40℃以下」の場合の捨て水制御に置換することを説明しているにすぎない旨主張する。しかしながら,混合水供給経路9a中に設けたサーミスタにより,20分継続して再度の使用がない場合(前記(1)のFH)と同様な捨て水用電磁弁13の開閉制御(「捨湯流路9dから洗面ボール1内に排出する捨て水」制御)を行うことは,技術常識上考えられない。すなわち,仮に,混合水供給経路9a中に設けたサーミスタにより残水温度を感知して,捨て水用電磁弁13の開閉制御を行うとすると,残水温度がたとえば40℃以下となった場合には,コントロール部20が,捨て水用電磁弁13に対して開放の指示を出すように制御が行われるものと考えられるところ,このような捨て水用電磁弁13の開閉制御だけでは,混合水供給経路9aに温水の流通はなされないから,混合水供給経路9aの残水温度が上昇することはなく,捨て水用電磁弁13に対して開放の指示が出され続けるという制御態様となってしまうが,当業者がそのような不合理な制御態様を採用することはおよそ考えられない。したがって,混合水供給経路9aにサーミスタを設けることは,「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を行い,同経路内へ温水を流通させることを前提とするものというべきである。
さらに,原告らは,引用発明の課題は,「給湯源からノズルまでの距離が長い場合,長時間の捨て水が必要となると言う問題」(段落【0008】)を解決して「使用初期の低温の洗浄水の吐出を短時間で解消」(段落【0010】)することにあると解すべきである旨主張する。しかしながら,上記段落【0008】,【0010】の記載は,洗髪行程において捨て水を行う場合の技術課題を一般的に述べたものであり,「短時間で解消」するための捨て水の態様について具体的に示すものではないから,上記記載の内容は,前記(2)イの点も併せ参照すれば,「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を行うことと何ら矛盾するわけではなく,かかる記載があるからといって,引用発明において「混合水供給経路9a内の冷水を排出する捨て水」を行うことが想定されていないということはできない。
(4) したがって,原告らの取消事由1の主張は,理由がない。
2 取消事由2(一致点の誤認,相違点の看過(2))について 原告らは,「本件審決は,本件発明1が「温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を前記温水噴射ノズルを通じて排出する」ものである一方,引用発明がそのような構成を有しないにもかかわらず,この相違点を看過して,「前記温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行するマイクロコンピュータを備えた」点を誤って一致点として認定した。」旨主張するので,検討する。
(1) 本件審決は,排水経路の点については,本件発明1と引用発明との対比において,一致点として,「前記温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行するマイクロコンピュータを備えた自動洗髪機。」と認定し,相違点2として,「本件発明1では,…前記マイクロコンピュータは,…前記温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行する」と認定するのみであるから,本件発明1の構成のうち「前記温水噴射ノズルを通じて排出する」点についての対比の検討を怠ったものと認められる。
(2) しかしながら,甲3には,「シャワーヘッド3の開閉弁3dが開かれ,その後順次残りの電磁弁を開けて捨て水を完了する。」(段落【0029】)と記載されていることから,シャワーヘッド等に至る経路に溜まっている冷水は,自動洗髪スイッチオン時には,シャワーヘッド等から捨て水されることが認められるところ,シャワーヘッド等に至る経路の残水がたとえば40℃以下となったときの事前捨て水であっても(甲3に,この場合の事前捨て水が開示されていることについては,前記1のとおり),捨て水である以上,排出部位を異なるものとすべき事情は見当たらないし,シャワーヘッド等は,温水噴射ノズルに他ならない。したがって,甲3には,「温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水を前記温水噴射ノズルを通じて排出する」点が開示されているものであるから,本件発明1と引用発明とは,上記の点においても一致するというべきである。
(3) そうであれば,本件審決に相違点を看過した誤りはなく,また,上記判断遺脱は,本件審決の結論に影響を及ぼさないものであることが明らかであるから,原告らの主張する取消事由2は理由がない。
(なお,そもそも,温水噴射ノズルに至る経路に溜まっている水をどの経路から排出するかは,当業者が必要に応じて適宜行う設計事項というべきであるから,仮に,原告ら主張の点に関して相違点の看過があるとしても,本件審決の進歩性判断の結論に何ら影響を与えるものではない。) 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について 原告らは,「本件審決は,相違点2についての判断の根拠として,手動で水抜きを行う技術は甲5ないし7に開示されているとするが,これらに記載のものは本件発明1と構成を異にするから,引用発明に組み合わせても,本件発明1の構成にならない。」旨主張するので,検討する。
(1) 本件審決は,甲5ないし7から,「管路内に溜まっている水を排水するための手動スイッチを備えること」が周知であると認定したのであり,原告らが主張するように,甲5ないし7の構成を引用発明に組み合わせることにより本件発明1の構成とすることができる旨判断したものではないから,原告らの上記主張は,本件審決の判断を正解するものでなく,その前提を欠き,理由がない。
なお,管路内に溜まっている水を自動的に排水する自動排水手段を備えた装置において,排水動作を指示するための手動キーを備えることは,甲5ないし7に記載されているように,本件出願時において周知であったと認められるから,本件審決の上記認定は相当である。
(2) 上記のとおり,原告らの主張は理由がないが,念のため,本件審決の相違点2についての判断についてみても,同判断は相当である。
すなわち,乙4ないし9によれば,自動装置において,スタートキーとは別に設けた手動キーの操作により一連の手順を開始させるようにすることは,各種技術分野において採用されていることが認められ,かかる手動キーを採用するか否かは,利用者の便宜等を考慮して,当業者が適宜決定し得ることということができる。
引用発明は,シャワーヘッド,ノズルヘッド,又はハンドシャワーからの吐水終了後20分継続して再度の使用がない場合,又は混合水供給経路中の残水が例えば40℃以下となったときに,排水を自動的に行うコントロール部を備えたものであり,排水動作を指示する手動キーを有していないものであるが,上記のとおり,自動装置において,この種の手動キーを採用するかどうかは,当業者が適宜決定し得ることといえるから,引用発明において,手動キーを備え,手動キーの操作により自動排水動作を行うようにすることは,当業者であれば容易に想到し得ることが明らかである。
したがって,引用発明において,一定の条件が整ったときに排水を自動的に行うようにしたコントロール部に代えて,手動スイッチの操作により排水を自動的に行うようにしたコントロール部を採用し,本件発明1の構成とすることは,当業者ならば容易に想到し得ることというべきである。
(3) したがって,原告らの取消事由3の主張も理由がない。
4 結論 以上のとおり,原告らの取消事由の主張はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告らの本件請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 青蜉]
裁判官 清水節
裁判官 沖中康人