関連審決 |
無効2013-800188 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10009号
審決取消請求事件
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原告 パスカルエンジニアリング株式会社 訴訟代理人弁護士 別城信太郎 訴訟代理人弁理士 深見久郎 森田俊雄 吉田昌司 佐々木眞人 高橋智洋 被告株式会社コスメック 訴訟代理人弁護士 村林驤 井上裕史 佐合俊彦 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2015/08/04 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2013−800188号事件について平成26年12月8日にした審決中,特許第5337221号の請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの部分を取り消す。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 -1-事 実 及び 理 由第1 原告の求めた裁判主文同旨。 第2 事案の概要本件は,特許一部無効審決における同無効審決部分に対する取消訴訟である。争点は,進歩性判断(発明の要旨認定,相違点の判断)の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯原告は,名称を「流体圧シリンダ及びクランプ装置」とする発明について,平成23年10月7日に特許出願(特願2011−222846号)をし,平成25年8月9日,その設定登録(特許第5337221号,請求項の数9)を受けた(本件特許)(甲18)。 被告が,平成25年9月30日に本件特許の請求項1〜3,6〜9に係る発明についての特許無効審判請求(無効2013−800188号)をしたところ,特許庁は,平成26年5月30日付けで審決の予告をしたので,原告は,平成26年8月4日付けで訂正請求をした(本件訂正)(甲19)。 特許庁は,平成26年12月8日に「請求のとおり訂正を認める。特許第5337221号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。特許第5337221号の請求項2ないし3,6ないし9に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された。 2 本件訂正発明1の要旨本件訂正後の本件特許の請求項1の発明(本件訂正発明1)に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。 「 シリンダ本体と,このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室とを有する流-2-体圧シリンダにおいて,前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と,このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え,前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され且つ先端部が前記流体室に突出する弁体と,この弁体が当接可能な弁座と,前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え,前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧の圧力変化を介して前記出力部材が前記所定の位置に達し,前記所定の位置にあることを検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。」3 審決の理由の要点以下,本件の争点に関連する無効理由2(甲2発明に基づく進歩性欠如)について摘示する。 (1) 甲2発明の認定米国特許第3,540,348号明細書(甲2)には,次の発明(甲2発明)が記載されている。 「 低圧シリンダ20と,この低圧シリンダ20に進退可能に装備されたピストン21及び高圧ピストン26,27と,このピストン21及び高圧ピストン26,27を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為のシリンダ室22,23とを有する連続ピストンドライブにおいて,前記低圧シリンダ20内に形成され且つ一端部に圧力媒体が供給され他端部が無圧領域41に連通した流体通路と,この流体通路を開閉可能な二方パイロット弁100,101とを備え,-3-前記二方パイロット弁100,101は,前記低圧シリンダ20に形成した装着孔に進退可能に装着され且つ先端部が前記シリンダ室22,23に突出する差圧ピストンと,前記シリンダ室22,23の流体圧によって前記差圧ピストンを前記ピストン21側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記シリンダ室22,23と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え,前記ピストン21が左端又は右端の位置に達したときに,前記ピストン21により前記差圧ピストンを移動させて前記二方パイロット弁100,101の開閉状態を切り換え,前記流体通路の流体圧の圧力変化を介して前記ピストン21の反転動作可能に構成した連続ピストンドライブ。」上記記述の参考として,甲2のFIG.1及びFIG.3を下記に示す。 (2) 甲1発明及び甲1事項1・2の認定米国特許第4,632,018号明細書(甲1)には,次の発明(甲1発明)及び技術事項(甲1事項1・2)が記載されている。 ア 甲1発明「 ハウジング12と,このハウジング12に進退可能に装備されたピストン30,クッションプラグ32及びピストンロッド36と,このピストン30,クッショ-4-ンプラグ32及びピストンロッド36を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の内部室22とを有する流体駆動シリンダ10において,ハウジング121に形成され且つエア弁センサを構成する複数の空気ポート130と,この複数の空気ポート130を開閉可能なプランジャ型スイッチ100とを備え,前記プランジャ型スイッチ100は,前記ハウジング121の下部127に設けられた孔にスライド可能に支持され且つ先端部が前記内部室22に突出するプランジャ126と,このプランジャ126が当接可能な弁座と,を備え,ピストン行程の行程端で,上記クッションプラグ32によりプランジャ126を上昇させてプランジャ型スイッチ100の開閉状態を切り換え,複数の空気ポート130の間が連通されることでピストン30が所望の位置に移動したことを確認可能に構成した流体駆動シリンダ10。」上記記述の参考として,甲1のFIG−1及びFIG−3を下記に示す。 -5-イ 甲1事項1「 ハウジング121の段付き孔125に,弁体であるプランジャ126のフランジ部が当接される弁座が設けられているプランジャ型スイッチ100。」ウ 甲1事項2「 ピストン行程の行程端で,クッションプラグ32によりプランジャ126を上昇させてプランジャ型スイッチ100の開閉状態を切り換え,複数の空気ポート130の間が連通されることでピストン30が所望の位置に移動したことを確認可能に構成した流体駆動シリンダ10。」(3) 一致点の認定本件訂正発明1と甲2発明との一致点は,次のとおりである。 「 シリンダ本体と,このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室とを有する流体圧シリンダにおいて,前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と,このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え,前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され且つ先端部が前記流体室に突出する弁体と,前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え,前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧の圧力変化を介して装置を作動可能に構成した流体圧シリンダ。」(4) 相違点の認定本件訂正発明1と甲2発明との相違点は,次のとおりである。 ア 相違点1-6-本件訂正発明1の開閉弁機構が,弁体が当接可能な弁座」「 を備えているのに対し,甲2発明の二方パイロット弁100,101は,弁座を有する構造となっていない点。 イ 相違点2装置を作動可能に構成した点について,本件訂正発明1では「出力部材が所定の位置に達し,前記所定の位置にあることを検知可能」にしたのに対し,甲2発明では「ピストン21の反転動作可能」にしたもので,「検知」については不明である点。 (5) 相違点の判断ア 相違点1について甲1事項1に示された構造は,開閉弁機構において周知のものである上,甲2発明の二方パイロット弁100,101の構造のものに換えて,甲1事項1に示された弁座を有する開閉弁機構を採用することを妨げる特段の事情も存在しないから,甲2発明の開閉弁機構として甲1事項1に示された弁座を有する開閉弁機構を採用し,本件訂正発明1における相違点1に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得る設計変更程度の事項にすぎない。 イ 相違点2について@ 甲1事項2「ピストン行程の行程端で,クッションプラグ32によりプランジャ126を上昇させてプランジャ型スイッチ100の開閉状態を切り換え,複数の空気ポート130の間が連通されることでピストン30が所望の位置に移動したことを確認可能に構成した流体駆動シリンダ10。 の」 「ピストン30が所望の位置に移動したことを確認可能」なことの意味が,[1]ピストン30が所望の位置まで到達する移動動作の確認と[2]ピストン30が所望の位置に移動している状態の確認との両方の意味に解せることは当業者には容易に理解される事項であるから,本件訂正発明1の「出力部材が所定の位置に達し,前記所定の位置にあることを検知可能」に相当することは,当業者に自明である。 そうすると,甲1事項2は,「出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部-7-材により弁体を移動させて開閉弁機構の開閉状態を切り換え,エア通路のエア圧の圧力変化を介して前記出力部材が前記所定の位置に達し,前記所定の位置にあること(「達したこと」は誤記と認める。)を検知可能に構成した流体圧シリンダ」と言い改めることができる。 したがって,甲1事項2は,相違点2に係る発明特定事項と共通する。 A 甲2発明の二方パイロット弁100,101は,ピストン21が右端又は左端の所定位置に来た際に差圧ピストンが押されて移動することで,弁の開閉状態が切り替わり,制御管路93から供給される圧力媒体が無圧領域41に連通するか否かで作動するスイッチの機能を有する。一方,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100も,ピストン30が行程端の所定位置に来た際にプランジャ126が押されて移動することで,弁の開閉状態が切り替わり,複数の空気ポート130の間が連通するか否かで作動するスイッチの機能を有する。 そうすると,どちらもピストンが端部の所定位置に達すると作動する開閉弁式スイッチという点で,用途もスイッチの構造も共通している。 したがって,甲2発明の二方パイロット弁100,101について甲1事項2のプランジャ型スイッチ100を適用することは,当業者であれば容易に想到し得る。 B この適用の際,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100は,位置センサの機能を有しているから,このプランジャ型スイッチ構造の開閉により,甲2発明のピストン21が移動して端部に達し,その位置にあることを検知させることも,当業者が容易に想到し得る程度の事項である。 C 原告は,甲2発明では,ピストン21が逆向きの移動を開始しても,出力部材が所定の位置にあることを検知することは不可能である旨を主張するが,本件訂正発明1は,出力部材が所定の位置に達した時に当該位置に出力部材が存在することを検知できるものでさえあればよく,ストロークエンドからピストンが逆向きの移動を開始した時にも,圧力変化によりピストンの位置を検知することが可能なものに限定されているものではない。 -8-(6) 審決判断のまとめ以上のとおり,本件訂正発明1は,甲2発明,甲1事項1及び甲1事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって,本件訂正発明1の特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。 第3 原告主張の審決取消事由1 取消事由1(本件訂正発明1の認定の誤り)本件訂正発明1では,「前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧の圧力変化を介して前記出力部材が前記所定の位置に達し,前記所定の位置にあることを検知可能に構成した」(本件構成要件)と規定する。 審決は,本件構成要件を,「前記出力部材が所定の位置に達したときに,…前記所定の位置にあることを検知可能に構成した」と読み,出力部材が所定の位置に達した時に当該位置に出力部材が存在することを検知できるものでさえあれば、その後の出力部材の位置の検知については不明なものであっても、すべて本件訂正発明1に含まれると解釈した。 しかしながら,本件構成要件は,「前記出力部材が所定の位置に達したときに,…前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え」ると読むべきものであり,また,「前記所定の位置に『あること』を検知可能に構成した」とも規定している。そうすると,本件構成要件は,出力部材が所定の位置に達した瞬間のみ検知可能であればよいことを規定するのではなく,ある時間継続の中で所定の位置にあることが検知可能であることを規定している。なお,ここで「ある時間」とは,出力部材の駆動の1サイクルを意味する。 このことは,本件明細書の【0027】に,第1開閉弁機構30が上昇限界位置に「あること」や下降限界位置に「あること」を,【0080】に,圧力スイッチ又-9-は圧力センサが「上昇限界位置から下降したこと」を,【0081】に,圧力スイッチや圧力センサが「クランプ状態になったこと」を,それぞれ検出することが記載されていることや,圧力変化を介して出力部材4の位置を検出する本件訂正発明1の構成によれば,ある程度継続した時間,出力部材4が所定位置にあることなどからみて,明らかである。 したがって,審決の上記のような本件訂正発明1の認定には,誤りがある。 2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)審決は,甲2発明の二方パイロット弁100、101について,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100を適用することは,当業者であれば容易に想到し得ると判断する。 しかしながら,次のとおり,審決の上記判断には,誤りがある。 (1) 用途及び構造からア 二方パイロット弁100,101について甲2発明においては、例えば,ピストン21が左側のストロークエンドに達したときには,制御管路93の圧力が開放されるが,その後、ピストン21が右向きの反転移動を開始しても、制御管路93の圧力は上昇しない。したがって,甲2発明においては、ピストン21が左側ストロークエンド(所定の位置)にあるということと制御管路93の圧力とが一対一に対応してはいない。 そのため,二方パイロット弁100は,管路93の圧力変化の挙動に従って,ピストン21が所定の位置にあるのか,所定の位置にないのかを検知できない。 イ プランジャ型スイッチ100について甲1発明においては,例えば,ピストン30が左側のストロークエンドに達したときには,空気ポート130の圧力が開放され,その後、ピストン30が右向きの反転移動を開始すると、空気ポート130の圧力は再び上昇する。したがって,甲1発明においては、ピストン30が行程端(所定の位置)にあるということとエア- 10 -通路の圧力とが一対一に対応している。 そのため,プランジャ型スイッチ100は,空気ポート130の圧力変化の挙動に従って,ピストン30がストロークエンドに達した瞬間にピストン30がその位置(所定の位置にある)にあることが検知可能なだけではなく,ピストン30がストロークエンドから離れた(所定の位置にない)ことも検知可能である。 ウ 対比甲2発明の二方パイロット弁100,101は,三方弁37,38を切り換え、 これによって左右のシリンダ室の流体圧を反転させるものであるのに対し、甲1のプランジャ型スイッチ100は,ピストン30の位置を検知するものであり、両者の用途は全く異なる。また、この用途の違いに関連して、上記ア,イのとおり,甲2発明の制御管路93,94と甲1のエア通路とでは,圧力変動の挙動(スイッチとしての構造)が全く異なる。 そうすると,圧力変化の一部分のみを取り出して,両者を,ピストンが端部の所定位置に達すると作動する開閉式スイッチというだけで共通化することは、甲2発明及び甲1発明の具体的構成を無視した不当な上位概念化である。 (2) 機能から甲1事項2のプランジャ型スイッチ100の本来の機能は、ピストン30(出力部材)が左側のストロークエンド(所定の位置)に達した時に当該位置にピストン30が存在することを検知するとともに、ピストン30が右向きに反転移動を開始した時には、ピストン30が左側のストロークエンドから離れたことを検知するというものである。したがって、甲1のプランジャ型スイッチ100を甲2発明に適用するのであれば、ピストン21が左側のストロークエンドに達した時に当該位置にピストン21が存在することを検知するとともに、ピストン21が右向きに反転移動を開始した時には、ピストン21が左側のストロークエンドから離れたことを検知できるようにしなければならない。そのためには,甲2発明において、ピストン21が左側のストロークエンドにあるということと制御管路93の圧力とを一対- 11 -一に対応させなければならないことを意味する。しかしながら,このような対応関係を持たせた場合,甲2発明は機能しない。そして,往復ピストンドライブである甲2発明は,このように,制御管路93とシリンダ室22との圧力を常に関連させることが本質的な構成である。 そうすると,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100を甲2発明に適用することはできない。 (3) 小括以上のとおり,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100を甲2発明に適用する動機付けはなく、むしろ,阻害要因が存在する。 したがって,審決の相違点2の判断には,誤りがある。 第4 被告の反論1 取消事由1(本件訂正発明1の認定の誤り)に対して本件訂正発明1においては,出力部材が所定の位置を離れた時に弁体を移動させているのは,圧力媒体の力であり,出力部材ではないから,本件訂正発明1は,出力部材が弁体を移動させる場合,すなわち,「前記出力部材が所定の位置に達したとき」のみを検出の対象にしている。 このことは,本件明細書に,出力部材が所定の位置を離れた瞬間を検出する構成やそれによる作用効果に関する記載,そして,原告が主張するような「ある時間」を意味する記載がないことからみても,明らかである。 2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)に対して(1) 用途及び構造からア 二方パイロット弁100,101について甲2発明は,例えば,ピストン21が行程端(所定の位置)に到達したときに,二方パイロット弁100の差圧ピストンが移動することによって,弁体の開閉状態- 12 -が切り替わり,制御管路93から供給される圧力媒体が無圧領域41に連通するか否かで作動するスイッチの機能を有するものである。 イ プランジャ型スイッチ100について甲1発明は,従来の位置センサであるリミットスイッチに代わるものとして提案されたものであるところ,従来のリミットスイッチの用途は,ピストンが所定の位置に達したときに,ピストンを反転動作させるためのスイッチの機能を有するものである(原文明細書第1欄19〜22行目)。 ウ 対比甲1事項2の位置センサもスイッチの機能を有し,ピストンの反転動作をさせるスイッチとして適用できることが明記されているから,甲1発明の機能や適用分野は,甲2発明の機能や適用分野と全く同一である。 (2) 機能から甲2発明の二方パイロット弁100,101は,スイッチの機能を有するものであり,例えば,ピストン21が反転動作を開始しても,制御管路93の圧力はゼロのままであることは,甲2発明の本質的な構成ではない。これは,甲2発明においては,制御管路93を流れる圧力流体とピストン21を駆動させる圧力流体を同一の供給源から供給しなくても,あるいは,例えば,両者につき,空圧などの別種の圧力流体を用いても,甲2発明の作用効果を得られることからも明らかである。 (3) 小括以上のとおり,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100を甲2発明の二方パイロット弁100,101に適用する動機付けがあり,阻害事由も存在しない。 したがって,審決の相違点2の判断には,誤りはない。 第5 当裁判所の判断1 認定事実(1) 本件発明について- 13 -本件訂正後の明細書及び図面(本件明細書)の記載によれば,本件訂正発明1は,次のとおりのものと認められる。 ア 技術分野本件訂正発明1は,特に出力部材が前進限界位置や後退限界位置などの所定の位置に達した際に,出力部材の動作に連動させてシリンダ本体内のエア通路の連通状態を開閉弁機構により切り換え,エア圧の変化を介して前記出力部材の位置を検知可能にした流体圧シリンダ及びクランプ装置に関するものである。【0001】( )イ 解決課題本件訂正発明1の目的は,出力部材が所定の位置に達したことをシリンダ本体内のエア通路のエア圧の圧力変化を介して確実に検知可能であり,検出スペースを別途設けないことにより小型化可能であり,また,長期間の使用や加工条件によってエア通路が閉塞しないで出力部材の所定の位置を検出できる信頼性や耐久性を向上し得る流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供することである。 (【0007】 【0〜010】)ウ クランプ装置の全体構成本件訂正発明1の液体圧シリンダは,@シリンダ本体10と,このシリンダ本体10に進退可能に装備された出力部材4と,この出力部材4を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動するための流体室14,15とを有し,Aシリンダ本体10内に形成され,かつ,一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路21,22と,エア通路21,22を開閉可能な開閉弁機構30,50とを備え,B開閉弁機構30,50は,シリンダ本体10に形成した装着孔に進退可能に装着され,かつ,先端部が流体室14,15に突出する弁体31,51と,この弁体31,51が当接可能な弁座32a,52aと,流体室14,15の流体圧によって弁体31,51を出力部材4側に進出させた状態に保持する流体圧導入室33,53と,流体室14,15と流体圧導入室33,53とを連通させる流体圧導入路34,54とを備え,C出力部材4が所定の位置に達したときに,出力部材4により- 14 -弁体31,51を移動させて開閉弁機構30,50の開閉状態を切り換え,エア通路21,22のエア圧の圧力変化を介して出力部材4が所定の位置に達し,所定の位置にあることを検知可能に構成されている。【0027】等)(ピストンロッド部材4aが上昇限界位置(アンクランプ位置)に達したとき,ピストン部4pが上端壁部材12の下面に当接し,大径ロッド部4eが第1挿通孔12bに挿入状態になる。【0032】( )ピストンロッド部材4aが下降限界位置(クランプ位置)に達したとき,ピストン部4pが下端壁部材13の上面に当接状態になる。 【0032】( )- 15 -エ 第1エア通路21第1エア通路21は,上流側エア通路21aと,この上流側エア通路21aに,第1開閉弁機構30を介して接続された下流側エア通路21bとを備えている。上流側エア通路21aの上流端はベース部材2に形成された第1エア供給路21sに接続され,下流側エア通路21bの下流端はベース部材2に形成された第1エア排出路21eに接続されている。【0034】( )上流側エア通路21aは,シリンダ部材11と上端壁部材12の内部に形成された鉛直のエア通路と,上端壁部材12の内部に形成された水平なエア通路とを備えている。下流側エア通路21bは,シリンダ部材11と上端壁部材12の内部に形成されている。【0035】( )- 16 -オ 第2エア通路22第2エア通路22の上流端はベース部材2に形成された第2エア供給通路22sに接続され,第2エア通路22の下流端は,取付穴2bを介してベース部材2に形成された第2エア排出通路22eに接続されている。第2エア通路22の下流端部- 17 -には,第2開閉弁機構50が接続されている。第2エア通路22は,シリンダ部材11と下端壁部材13の内部に形成された鉛直のエア通路と,下端壁部材13の内部に形成された水平なエア通路とを備えている。 【0036】( )カ 第1開閉弁機構30第1開閉弁機構30は,第1挿通孔12bの上端部の外周側付近において上端壁部材12の壁部の内部に配設され,第1エア通路21の上流側エア通路21aの下流端部を開閉可能に設けられている。第1開閉弁機構30は,弁体31と,キャップ部材32と,弁座32aと,油圧導入室33(流体圧導入室)と,油圧導入路34(流体圧導入路)と,内部のエア通路35a〜35fとを備え,上端壁部材12の装着孔36にキャップ部材32と環状部材37を介して組み込まれている。 【0(038】)装着孔36は,上端壁部材12に水平に貫通状に形成されている。装着孔36の途中部に環状部材37が固定的に装着され,その外周側がシール部材37sによりシールされている。装着孔36の開放側部分を塞ぐキャップ部材32が螺合により固定され,シール部材32sによりシールされている。環状部材37の円形壁部には装着孔36の小径孔36aと同径の貫通孔37aが形成されている。弁体31は,キャップ部材32と環状部材37の内部に形成される収容室と,貫通孔37aと,小径孔36aに水平方向へ移動可能に装着されている。 【0039】( )弁体31は,先端部がクランプ用油室14の筒状部14aに部分的に突出可能な弁体本体38と,この弁体本体38に可動に外嵌された可動弁体39とで構成されている。弁体31は,装着孔36に対して水平方向に約1.0 〜2.0mm 程度移動可能である。可動弁体39は,弁体本体38に対して水平方向に相対的に約1.0〜2.0mm 程度移動可能である。【0040】( )弁体本体38は,小径軸部38aと大径軸部38bとを一体形成したものである。 小径軸部38aが小径孔36aと貫通孔37aに挿通され,大径軸部38bの基端側部分がキャップ部材32の凹穴32bに摺動自在に内嵌されている。可動弁体3- 18 -9は,環状部材37とキャップ部材32との間の収容室において大径軸部38bに外嵌されている。【0041】( )環状部材37の外周部に上流側エア通路21aに連通した環状のエア通路35aが形成されている。このエア通路35aは環状部材37の壁部内のエア通路35bに連通されている。環状部材37と可動弁体39の間に,キャップ形状のエア通路35cが形成され,キャップ部材32には上記のエア通路35cに連通可能な水平向きのエア通路35dが形成されている。キャップ部材32の外周部には,エア通路35dに連通する環状のエア通路35eと,このエア通路35eに連通し,かつ,下流側エア通路21bの上流端部に連通するエア通路35fが形成されている。 (【0042】)可動弁体39は小径筒部39aとテーパ筒部39bとを有する。テーパ筒部39bは,テーパ外周面を有する。キャップ部材32の端面には上記のエア通路35c,35d間を開閉する為の環状弁座32aが形成されている。可動弁体39のテーパ筒部39bの端面には,環状弁座32aに当接・離隔可能な環状弁面39vが形成されている。【0043】( )(判決において着色した。)- 19 -キ 第1開閉弁機構30の作用クランプ油室14に油圧が供給され,ピストンロッド部材4aが下降途中又は下降限界位置(クランプ状態)のとき,小径ロッド部4dが第1開閉弁機構30に対向する。そのため,第1開閉弁機構30においては,油圧導入室33に導入された油圧を弁体31が受圧して弁体本体38が進出状態になり,弁面39vが弁座32aから離隔して閉弁状態から開弁状態に切換わり,エア通路35a〜35fが連通状態となる。このとき,弁体31の係合軸部38cの段部により環状部材37の環状係合部39cが奥方へ押動されるため,確実に閉弁状態から開弁状態になる。 (【0046】【図9】)(判決において着色した。)これに対して,クランプ装置1のクランプ用油室14の油圧がドレン圧に切換えられ,アンクランプ油室15に油圧が供給され,クランプ装置1がアンクランプ状態になったときは,油圧導入室33の油圧がドレン圧になり,ピストンロッド部材4aの大径ロッド部4eにより弁体本体38がキャップ部材32側へ押動される。 - 20 -そして,弁体本体38と可動弁体39との間にはシール部材42「シール部材40」(は誤記と認める。 の摩擦力が作用するため,) 弁体本体38と共に可動弁体39も移動し,弁面39vが弁座32aに当接して開弁状態から閉弁状態に切換わり,エア通路35cとエア通路35dの間が閉じられる。 【0047】( 【図2】)この閉弁状態では,可動弁体39に作用するエア圧によっても可動弁体39が閉弁側へ付勢される。この閉弁状態への切換えにより,第1開閉弁機構30よりも上流側において,上流側エア通路21a内のエア圧が上昇するので,圧力スイッチ21nによりピストンロッド部材4aが上昇限界位置に達したことを検出することができる。【0048】( )ク 第2開閉弁機構50第2開閉弁機構50は下端壁部材13の中央部分の装着孔56に鉛直姿勢に配設され,第2開閉弁機構50は,第2エア通路22の下流端部を開閉可能に設けられている。第2開閉弁機構50は,弁体51と,キャップ部材52と,弁座52aと,油圧導入室53(流体圧導入室)と,油圧導入路54(流体圧導入路)と,内部のエア通路55a〜55dとを備え,下端壁部材13の鉛直の装着孔56にキャップ部材52と環状部材57を介して組み込まれている。【0050】( )内部のエア通路として,環状部材57の外周部には第2エア通路22の下流端部に連通した環状エア通路55aが形成されている。環状部材57の壁部には環状エア通路55aに連通したエア通路55bが形成されている。環状部材57と可動弁体59の間には,上記のエア通路55bに連通したキャップ状のエア通路55cが形成されている。キャップ部材52には上記のエア通路55cに連通可能なエア通路55dが形成されている。キャップ部材52の上端面には環状弁座52aが形成され,可動弁体59の下面には環状弁座52aに当接・離隔可能な環状弁面59vが形成されている。【0053】( )- 21 -(判決において着色した。)ケ 第2開閉弁機構50の作用クランプ装置1がアンクランプ状態のとき,アンクランプ油室15に油圧が充填されているため,油圧導入孔54から油圧導入室53へ油圧が導入され,油圧導入室53の油圧により弁体51が上方へ付勢されて上方へ移動し,環状弁体59の環状係合部59cと弁体51の小径軸部58cの段部の係合を介して,可動弁体59も上方へ移動し,環状弁面59vが環状弁座52aから離隔して開弁状態を保持する。【0054】( 【図3】)クランプ装置1のクランプ油室14に油圧を供給し,かつ,アンクランプ油室15の油圧をドレン圧に切換えると,ピストンロッド部材4aが下降限界位置まで下降し,クランプ装置1がアンクランプ状態からクランプ状態に切換えられ,ピストン部4pが下端壁部材13の上面に当接状態になる。すると,弁体本体58がピストン部4pにより下方へ押動され,シール部材62の摩擦力を介して可動弁体59も下方へ移動して,環状弁面59vが環状弁座52aに当接して開弁状態から閉弁状態に切換えられる。その結果,第2エア通路22のエア圧が上昇するため,圧力スイッチ22nによりピストンロッド部材4aが下降限界位置に移動してクランプ状態になったことを確実に検知することができる。 【0055】( 【図10】)- 22 -(判決において着色した。)コ 作用効果本件発明1の流体圧シリンダによれば,クランプ本体10内のエア通路21,22を開閉する第1,第2開閉弁機構30,50を,シリンダ本体10に形成した装着孔36,56に組み込むことで,第1,第2開閉弁機構30,50をクランプ本体10内に組み込むことができるため,出力部材4の上昇限界位置と下降限界位置を検出可能な油圧シリンダ1を小型化することができる。 (【0018】【0056】)また,本件発明1の流体圧シリンダによれば,第1,第2開閉弁機構30,50は,クランプ油室14内の油圧を油圧導入室33に導入し,その油圧を弁体31に作用させて,弁体31を出力部材4側へ突出状態に保持できるため,信頼性と耐久性の面で有利である。そして,出力部材4が所定の位置に達したときに,出力部材4により弁体31,51を移動させて第1,第2開閉弁機構30,50の開閉状態を切換えるため,エア通路21,22のエア圧を介して出力部材4の所定の位置を確実に検知することができる。【0019】( 【0057】)(2) 甲2発明について甲2には,次の記載がある(訳文は,甲2添付訳文による。。 )- 23 -「 本発明は,油圧または空圧で往復移動されるピストンドライブに関し,より詳しくいえば,行程端位置での低圧ピストンの移動によって反転動作の制御圧力を付与する複動ブースタに関する。本発明は,圧力ブースタに限定されるものではなく,大多数の形態に同様に適用でき,例えば,油圧または空圧で駆動される作動器にも適用できるが,以下の記述では複動式の圧力ブースタに限定して説明する。(原文明細書第1欄6〜15行目)」「 実施例に示された連続ピストンドライブは,油圧複動力式ブースタであって,図1に基づく公知の手法により,次のように構成される。低圧シリンダ20内のピストン21が上記シリンダを2つのシリンダ室22及び23に分割し,高圧シリンダ24,25及びモータ駆動におけるピストンロッドの役割を果たす高圧ピストン26,27が設けられる。その高圧は,配管30,31内の逆止弁28,29を通って消費設備に交互に導入される。高圧ピストン26,27は,戻りストローク中に,配管34,35内の逆止弁32,33を介して圧力媒体を吸い込む。上記配管34,35は,2つの三方弁37,38(図1,4,5及び7)によって,圧力配管39と,液体容器または無圧領域41へ続く戻し配管40とに,交互に接続される。低圧シリンダ20の前記シリンダ室22及び23は,分岐42,43を通って戻し流れへ交互に接続される。この点は,全ての回路で同様である。さらに,これらの回路の全てにおいて,上記個々の室の状態は,参照文字『p』又は『0』によって示され,それらが正圧力『p』又は零圧力『0』であることを示している。(原文明細書第2欄36〜55」行目)- 24 -「 ピストン21が左方へストロークしているときには,三方弁38の制御室96及び管路94,99,43に圧力が無いのに対して,三方弁37の制御スペース96[翻訳注記:制御室96]及び管路93,98,42に圧力『p』が付与されている。連携された2つの二方パイロット弁100,101は,上記ストローク中にバネ[翻訳注記:図2に示されたバネ(参照数字なし)]の押す力で閉じられたままであり,管路98,99が前記の制御スペース[翻訳注記:制御室96]を,分岐路42,43を介して等ポテンシャルの低圧シリンダ20へ接続するので,上記の管路98,99によって上記の圧力状態を確実に保持する。例え- 25 -ば,ピストン21が左方へ移動するときには,シリンダ室23は,三方弁37を介して無圧領域41のリザーバに接続された分岐路43を通って圧抜きされる。また,その分岐路43は,制御管路99,94を介して前記の制御室96[翻訳注記:図9の制御室96]へ接続されて,その制御室を無圧状態に保っている。これと同時に,シリンダ室22は,三方弁38を介して圧力源へ接続された分岐路42を介して圧力媒体を受け入れる。また,その分岐路42は,制御管路98,93を介して三方弁37の制御室96[図8の制御室96]へ接続され,その制御室の圧力を保持する。(原文明細書第3欄52〜70行目)」「 上記の作動ピストン21の左端位置における反転動作は,前記パイロット弁100の機械的な動作によってなされ,それにより,前記三方弁37の制御室[翻訳注記:図8の制御室96]が圧抜きされると共にシリンダ室23が圧力『p』を受け入れる。これと同時に,前記三方弁38の制御室[翻訳注記:図9の制御室96]に管路99を介して圧力が付与され,それにより,この弁[翻訳注記:三方弁38]が切り換えられると共にシリンダ室22が圧抜きされる。上記の移動方向を反転させた後,前記パイロット弁100がバネ押し手段[翻訳注記:図2に示されたバネ(参照数字なし)]によって休止位置へ復帰されるが,制御管路98は,前記三方弁37の制御スペース[翻訳注記:前記図8の制御室96]が次の反転動作までは圧力を受けないようしている。前記の二方パイロット弁100,101は,図2に示すように,バネ[翻訳注記:図2に示されたバネ(参照数字なし)]の押し力が,ピストン[翻訳注記:図2のパイロット弁100のピストン(参照数字なし)]の反対側に作用する圧力に基づく力よりも大きくなるように設計すればよい。復帰動作を備えた弁は,上記バネの- 26 -押し力に代えて,図3に基づく差圧ピストン[翻訳注記:図3のパイロット弁100のピストン(参照数字なし)]を使用してもよい。(原文明細書第3欄71行〜第4欄14行目)」上記記載によれば,甲2発明は,@ピストン21が左端に到達すると,二方パイロット弁100の差圧ピストンがピストン21により左方に押されることによって,制御管路93が無圧領域41に通じることにより,A圧力配管39から三方弁37を介して制御管路93に至っていた圧油が,放出され,Bこれにより三方弁37が切り替わり,C圧油が,圧力配管39から三方弁37を介して導出シリンダ管路43を通ってシリンダ23に流入するとともに,D制御管路94に至る圧油により三方弁38が切り替わり,Eシリンダ室22の圧油が三方弁38を介して戻し配管40に排出され,Fピストン21が右側に反転動作をするもの(ピストン21が右端に到達した場合の反転動作も上記同様である。)と認められる。 (3) 甲1発明について甲1には,次の記載がある(訳文は,甲1添付訳文による。。 )「 本発明の位置センサ取付け装置は,従来発明の位置センサ取付け構造における多くの問題点を克服できる。本発明の位置センサ取付け装置は,シリンダへの確実なネジ接続を提供し,それと同時に,位置センサを収容すると共に支持するハウジングが,連結部材によって提供- 27 -されたネジ接続に対して自由に回転される。このようにして,シリンダ及び連結部材に対して上記ハウジングが所望の方向へ回転され,そのため,離れて配置された制御装置へ位置センサを接続するための電気配線またはその他の連結部品が機械の形状に応じてハウジングから導出される。これにより,位置センサのハウジングから導出される電気配線またはその他の連結部品が,特殊な取付け構造の必要性なしで任意の有効スペースに配置されるので,機械全体のデザインを簡素化できる。(原文明細書第2欄32〜51行目)」「 図面・特には図1を参照すると,本発明の教示に従って構成された取付け装置に設置した位置センサを有する流体駆動・膨張室シリンダ10が示されている。従来と同様に,上記の流体駆動シリンダ10は,典型的には円形断面を有する中空円形状のハウジング12を含んでいる。第1と第2のエンドプレート14及び16は,それぞれ,上記ハウジング12の反対側の端部に取付けられると共に,図示しない複数の締結ロッドによって相互に連結される。 凹形の内部空所18及び20は,それぞれ,上記の第1と第2のエンドプレート14及び16に形成されると共に,上記シリンダハウジング12の内部に連通されて,封止された内部室22を形成している。 孔24及び26のような複数の孔は,それぞれ,上記エンドプレート14及び16に形成され,上記シリンダ10内で上記の室22への入口および排出の接続を提供している。 ピストン30は,上記の室22内に滑動するように配置されると共に,その室22内で一端から他端へ軸方向に移動される。上記ピストン30の前面34に,拡大されたクッション突起またはプラグ32が取り付けられる。拡大されたピストンロッド36は,その一端が上記クッションプラグ32に連結されると共に,上記ピストン30と軸方向へ同行移動される。 上記ピストンロッド36の反対側の端部は,前記エンドプレート14に形成された孔38を通って滑動するように配置され,そのピストンロッドの外端40が前記シリンダ10から外方へ移動可能に延びている。任意の作業部品または部分は,上記ピストンロッド36の外端40に連結されて,上記シリンダ10内でピストン30が一端から他方へ移動したときに所望の動作を行う。(原文明細書第3欄8〜40行目)」- 28 -「 上記シリンダ10にピストン位置センサが設けられる。その位置センサは,図1に参照数字50で例示したように,典型的には,前記エンドプレート14に形成した孔52に取り付けられる。上記の位置センサは,ピストンロッドプラグ32に近接して配置されて,シリンダ10内のピストン30行程の行程端を検出する。 シリンダ10には,どのようなタイプの位置センサを取り付けてもよい。例示であって限定されるものではないが,前記の位置センサ50は,ピストン行程の行程端で強くなった圧力を検出する圧力動作センサで構成してもよい。それに代えて,図1に示されたような近接スイッチを,シリンダ10の室22の端部でクッションプラグ32を検出するために,前記孔52内に取付けてもよい。最後に,図3の100に示すようなプランジャ型スイッチを,ピストン行程の行程端で上記クッションプラグ32に実際に接触させて検出するために,前記孔52内に取付けてもよい。(原文明細書第3欄52行〜第4欄3行目)」- 29 -「 図3についていえば,プランジャ型スイッチ100が記載されている。そのスイッチ100は,エア弁センサを利用するように変更されている。そのスイッチ100は,段付き孔125を有するハウジング121を含み,そのハウジング121の下端が,円筒状に形成されると共に,前述したセンサ62[翻訳注記:センサ用ハウジング62の誤記と解される]と同様の方法で前記シリンダ孔52内へ延設される。上記ハウジング121の下部127はプランジャ126をスライド可能に支持し,そのプランジャ126は,前記クッション32[翻訳注記:クッションプラグ32]に係合されると共に,ハウジング121の内部に配置されたバネ128の付勢力に抗して上昇される。上記プランジャ126が上昇すると,その1つが参照数字130で示されている複数の空気ポートの間が連通され,従来の方法により,適切な検出装置が,ピストン30が所望の位置へ移動したことを確認する。(原文明細書第5」欄12〜27行目)上記記載によれば,甲1発明及び甲1事項2は,前記第2,3(2)ア,ウのとおりのものと認められる。 2 取消事由1(本件訂正発明1の認定の誤り)について原告は,本件訂正発明1は,出力部材が所定の位置に達したことのほかに,出力- 30 -部材がその所定の位置に一定時間あることも検知するものである旨を主張する。 本件構成要件は,「前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧の圧力変化を介して前記出力部材が前記所定の位置に達し,前記所定の位置にあることを検知可能に構成した」として,「前記所定の位置に達し」たことと「前記所定の位置にあること」の両者を区別し,それぞれを検知するとしているから,語義を考慮すれば,前者は,出力部材が所定の位置まで移動したことを,後者は,出力部材が所定の位置にとどまった状態にあることを規定するものと解される。 しかしながら,本件構成要件は,「前記所定の位置にあること」とのみ規定するものであって,所定の位置にとどまった状態にある時間を限定するものではなく,本件明細書にも,この点について何らの記載もない。 そうであれば,「前記所定の位置にあることを検知可能」とは,出力部材が到達した瞬間に所定の位置にとどまった状態にあることのみが検知可能である場合も含むのであるから, 出力部材が所定の位置に達した時に当該位置に出力部材が存在する「ことを検知できるものでさえあれば,その後の出力部材の位置の検知については不明なものであっても,全て本件訂正発明1に含まれる」とした審決の認定(審決40頁30〜33行目)には,誤りはない。原告は,「所定の位置にある」時間が,出力部材の駆動の一サイクルである旨を主張するが,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。 以上のとおりであり,原告の上記主張は,採用することができない。 審決の本件訂正発明1の認定に誤りは認められず,取消事由1は,理由がない。 3 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について相違点2は,前記第2,3(4)イのとおり,本件訂正発明1では「出力部材が所定の位置に達し,前記所定の位置にあることを検知可能」にしたのに対し,甲2発明では「ピストン21の反転動作可能」にしたもので,「検知」については不明である- 31 -点である。 そして,甲1事項2は,前記第2,3(2)ウのとおり,「ピストン行程の行程端で,クッションプラグ32によりプランジャ126を上昇させてプランジャ型スイッチ100の開閉状態を切り換え,複数の空気ポート130の間が連通されることでピストン30が所望の位置に移動したことを確認可能に構成した流体駆動シリンダ10。」である。 審決は,@甲2発明の二方パイロット弁100,101も,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100も,ピストンが端部の所定位置に達すると作動する開閉弁式スイッチという点で,用途もスイッチの構造も共通しているとして,甲2発明の二方パイロット弁100,101について甲1事項2のプランジャ型スイッチ100を適用することは,当業者であれば容易に想到し得る,A適用されたプランジャ型スイッチ100に,甲2発明のピストン21が移動して端部に達し,その位置にあることを検知させることは,当業者が容易に想到し得ると判断する。 これに対し,原告は,甲2発明の二方パイロット弁100,101と,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100とは,用途,構造及び機能を異にし,動機付けがなく,阻害要因が存する旨を主張するので,以下,検討する。 甲2発明は,前記1(2)のとおりであり,ピストン21が左端の所定の位置に達したときに,差圧ピストンがピストン21に押されて移動することにより,二方パイロット弁100,101の開閉状態が切り換えられ,制御管路93から供給される圧力媒体が無圧領域41に連通することにより,三方弁37が切り替わって圧力配管39からシリンダ23に圧力媒体が流入するなどして,ピストン21が右側に反転動作をするものである。そうすると,甲2発明の二方パイロット弁100,101は,ピストンが端部の所定位置に達すると作動する開閉式スイッチであるともいえる。 しかしながら,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100は,どのような分野でも用い得る慣用技術等であるとまではいえないから,甲2発明の二方パイロット弁- 32 -100,101を,用途やスイッチの構造が共通しているとの点をもって,直ちに甲1事項2のプランジャ型スイッチ100に置換可能であるとはいえない。 そして,相違点2は,本件訂正発明1においては,「出力部材の位置検知」であるのに対し,甲2発明においては,「ピストンの反転動作」というものであるから,甲2発明の二方パイロット弁100,101を検知機能を有する甲1事項2のプランジャ型スイッチ100に置換するには,まず,甲2発明の二方パイロット弁100,101に検知機能を持たせることが動機付けられなければならない(なお,甲2発明の二方パイロット弁100,101の開閉機構がピストン21の往復動作と連動しているからといって,二方パイロット弁100,101がピストン21の行程端を検知しているとはいえない。。 )そこで,検討してみると,甲2発明の二方パイロット弁100,101は,圧力媒体の流路回路を切り換え,ピストン21が自動的に反転動作をするための動作切替手段の一部である。そうすると,当業者が,自動往復運動をしているピストン21の行程端を検知しようと試みて,動作切替手段の一部にすぎない二方パイロット弁100,101にピストン21の行程端の検知機能を持たせようとする合理的理由がないから,甲2発明の二方パイロット弁100,101を,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100に敢えて置換しようと動機付けられるとはいい難い。 被告は,@甲2発明の二方パイロット弁100,101にはスイッチの機能がある旨を主張するが,そのように解したとしても上記結論が左右されないことは,上記説示のとおりである。また,被告は,A甲1事項2のプランジャ型スイッチ100にはピストンを反転動作させるためのスイッチの機能がある旨を主張するが,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100は,ピストン30の位置を確認可能にしたものであり,ピストン30の反転動作は,プランジャ型スイッチ100の機能によるものではない。さらに,被告は,B「リミットスイッチのようなセンサによって操作される制御弁は,機械の順次動作におけるタイミングに合わせてピストンを所望の方向へ移動させることによって上記シリンダを制御するために用いられる。 と」- 33 -の甲1の記載を指摘するが,リミットスイッチは,一般に,位置を検知する手段にすぎず,当然に,ピストンを反転動作させる手段でもあることにはならない。そして,上記記載に続く,「機械の順次動作における次のステップが起こる前に上記ピストンが最伸長または最後退の行程位置へ移動したのを知ることが頻繁に必要になるので,ピストンの行程の行程端において上記ピストンロッドの外端または当該ピストンロッドに連結した作業部分にリミットスイッチが接触するように,当該リミットスイッチが使用されてきた。」との記載を併せかんがみれば,甲1は,リミットスイッチを,ピストンの位置を検知するための手段としているにすぎないと認められる。 したがって,上記被告の主張は,いずれも,採用することができない。 以上のとおりであり,甲2発明の二方パイロット弁100,101を甲1事項2のプランジャ型スイッチ100に置換させることはできないから,相違点2に係る本件訂正発明1の構成は,当業者が容易に想到することができない。 そうすると,審決の相違点2の判断には,誤りがある。 よって,取消事由2は,理由がある。 第6 結論以上のとおり,取消事由2は理由があるから,原告の請求は理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官清 水 節- 34 -裁判官中 村 恭裁判官中 武 由 紀- 35 - |
事実及び理由 | |
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全容
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