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関連審決 不服2012-9689
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事件 平成 26年 (行ケ) 10233号 審決取消請求事件

原告 ピーエーティーゲーエムベーハー
訴訟代理人弁理士井関勝守 金子修平
被告 特許庁長官
指定代理人安藤倫世 村上騎見高 板谷一弘 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/07/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2012-9689号事件について平成26年6月11日にした審 決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩性判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年(1999年)8月6日を国際出願日として,発明の名称を「粘膜保護用医薬としてのホスファチジルコリン」とする特許出願をした(特願2000-563262号。パリ条約による優先権主張:1998年8月6日(DE)ドイツ,1998年12月15日(DE)ドイツ。本願優先日。)が,平成24年1月16日,拒絶査定を受けたので,同年5月24日,審判請求をするとともに手続補正(本件補正)をした。
特許庁は,平成26年6月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同月24日に原告に送達された。
2 本願発明の要旨 本件補正前の請求項1記載の発明(本願発明)の要旨は,以下のとおりである。
「疾患治療のための有効濃度で,pHに依存する遅延放出形態でのホスファチジルコリンを活性物質として含む,結腸における粘膜保護用医薬。」 3 審決の理由の要点 本件補正は,補正の要件を満たさないので却下する(原告は,この点を本件訴訟において争わない。。
) 本願発明は,本願優先日前に頒布された刊行物1(Digestion, 1992, Vol.53,No.1-2, p.35-44。甲6。,刊行物2(国際公開第97/28801号。甲7の1。
)これに対応する日本語出願の公表公報(甲7の2))及び刊行物3(国際公開第96/36319号。甲8の1。これに対応する日本語出願の公表公報(甲8の2))の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたから,特許法29条2 項により特許を受けることができない。
本願発明の進歩性にかかる審決の理由の要旨は,以下のとおりである。
(1) 刊行物1(甲6)記載の発明(引用発明)の認定 「結腸炎モデルにおいて結腸粘膜損傷の修復に有効な量のホスファチジルコリンを活性物質として含む,結腸における粘膜保護用剤」 (2) 本願発明と引用発明との対比 (一致点) 「ホスファチジルコリンを活性物質として含む,結腸における粘膜保護用剤。」 (相違点1) 本願発明では,ホスファチジルコリンを「疾患治療のための有効濃度で」含む「医薬」であるのに対し,引用発明では,そのような特定がない点。
(相違点2) 本願発明では,ホスファチジルコリンを「pHに依存する遅延放出形態で」含むものであるのに対し,引用発明では,そのような特定がない点。
(3) 判断 ア 相違点1について 引用発明の「結腸における粘膜保護用剤」は,ラットの酢酸誘導結腸炎をモデルとして評価された,ホスファチジルコリンの結腸での粘膜保護用途であり,当該モデルにおいては,一定の投与濃度と投与量で結腸粘膜損傷を修復していることから,結腸粘膜損傷治癒のための有効濃度が適用されているといえる。そして,刊行物1において,潰瘍性の結腸炎を含めて結腸炎の治療の最適モデルは見つけられていないという状況下で,人間の潰瘍性の結腸炎といくつかの病理学的類似性を見せた均一な結腸炎であるラットの酢酸誘導結腸炎が,ホスファチジルコリンの潜在的有用性を評価するためのモデルとして用いられていること,酢酸誘導結腸炎のような結腸炎の実験用モデルが,潜在的な治療薬のスクリーニングのための有益なツールであり得るとされていることから,当業者であれば,一定程度の信頼性を与える,人 間の潰瘍性結腸炎のモデルであると認識するといえる。そして,刊行物1の記載からすれば,当業者は,刊行物1におけるホスファチジルコリンの作用の検討は,ホスファチジルコリンの医薬品としての使用を想定してなされたものと理解できる。
また,刊行物1において,自然発生的な人間の結腸炎と複数のメカニズムを共通するモデルである酢酸誘導性の実験用結腸炎で,粘膜修復が確認されていることから,刊行物1の記載に接した当業者は,粘膜損傷を有する結腸疾患の患者に対してホスファチジルコリンを投与すれば,粘膜損傷が修復され,結腸疾患が治療できると期待する。したがって,粘膜損傷が関与する結腸疾患の患者の治療に対する有用性が,臨床的状況での更なる調査を必要とするとはいえ,示唆されているといえ,ホスファチジルコリンを医薬として使用することは当業者が当然想到することである。
通常,医薬とする場合には,有効量を適用することが当然であるし,有効成分のほかに何らかの医薬として許容される担体を使用するものであるから,引用発明に係るホスファチジルコリンを治療に用いるに当たり,医薬として許容される製剤中に含ませることも,ごく通常行われることにすぎない。
イ 相違点2について 本願発明の「pHに依存する遅延放出形態」という構成は,経口で適用したホスファチジルコリンを,結腸において作用させることを目的としている。引用発明の「結腸における粘膜保護用剤」は,刊行物1において,結腸へ直接ホスファチジルコリンを適用するという実験条件で用いられている。一方,結腸の炎症を改善させる剤を,結腸に到達させてその炎症を改善させるために,結腸のpHで溶解する遅延放出形態として経口で用いることは,当業者によく知られている。したがって,引用発明の「結腸における粘膜保護用剤」 結腸で作用させることを目的として, を,pHに依存する遅延放出形態とすることは,当業者が容易になし得ることである。
ウ 効果について 本願明細書(甲9,10)において,ホスファチジルコリンを含むpHに依存す る遅延放出形態での医薬の,結腸における粘膜保護効果を具体的に確認するデータは示されていない。一方,引用発明に係る結腸における粘膜保護用剤は,結腸炎のモデルである結腸粘膜が,ホスファチジルコリンにより用量依存的に修復されることを確認している。また,pHに依存する遅延放出形態とすることにより,結腸へ必要量のホスファチジルコリンを到達させる効果があることも,刊行物2(甲7の1及び2)及び刊行物3(甲8の1及び2)の記載から予測される範囲のものである。したがって,本願発明の効果は,刊行物1〜3から予測される範囲内の効果である。
エ 審判請求人の主張について (ア) 審判請求人は,刊行物1のモデルは不適当なものであると主張し,その理由として,@炎症性大腸炎の動物モデルに関する1995年発行のレビューである甲1が刊行物1のモデルに言及していないこと,A2008年発行の甲2が刊行物1のモデルを批判的に記述していること,B本願発明者の2010年の論文(甲4,5)に,本願発明の人間への適用が記述されており,慢性的な活性潰瘍性大腸炎の治療におけるホスファチジルコリン投与量は1〜4g/日であること,C動物への用量から人間への用量への変換を用いて刊行物1から計算すると,甲4に示された理想的な投与量に対して,必要のない高用量となること,をあげる。
しかし,本願発明は,対象疾患から急性のものを除いていないし,有効濃度を特定していないから,請求人の上記主張は,本願発明に基づかないものである。甲1〜5をみても,当業者が刊行物1のモデルが不適当であると認識していたとはいえず,甲2は本願優先日よりかなり後のものである。実験モデルは治験ではないから,人間で同じ方法が再現できないからといって,不適切な実験モデルであるとはいえない。
(イ) 審判請求人は,本願明細書の実施例により,腸内のルーメンにおけるホスファチジルコリンの不十分な量が潰瘍性大腸炎を引き起こすことが示されており,患者へのホスファチジルコリンの投与が結腸のルーメンの治療や保護となるこ とを示していることは明らかであると主張する。しかし,患者へのホスファチジルコリンの投与が結腸のルーメンの治療や保護となることは,明細書の記載から確認できない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り) 刊行物1において結腸粘膜損傷の修復を示したのは,ラットにおける酢酸誘導結腸炎モデルにおいてのみであり,引用発明は,あらゆる結腸炎モデルに適応可能であるわけではない。
したがって,引用発明は, 「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデルにおいて結腸粘膜損傷の修復に有効な量のホスファチジルコリンを活性物質として含む,結腸における粘膜保護用剤」として認められるべきものである。
2 取消事由2(相違点1の認定の誤り) 引用発明は上記のとおり認定されるべきであるから,本願発明と引用発明との相違点1は, 「本願発明では,ホスファチジルコリンを『疾患治療のための有効濃度で』含む『医薬』であるのに対し,引用発明では,ホスファチジルコリンを『ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデルにおいて結腸粘膜損傷の修復に有効な量で』含む『薬剤』である点。」であると認められるべきである。
3 取消事由3(相違点1についての判断の誤り) 本願発明と引用発明の治療対象には,人間とラットという種の違い,自然発生的な疾病としての結腸炎と人工的に誘導された結腸炎という違いがあるから,炎症の原因及びメカニズムが異なり,治療又は修復するのに有効な成分が異なることが明らかである。
本願発明者は,人間の結腸粘膜の炎症性疾患が起こる原因が結腸粘膜におけるホスファチジルコリンの分泌の減少であることを見出し,これを改善するためにホスファチジルコリンを結腸に到達できるようにすれば治療できるのではないかという 着想に基づいて本願発明を完成させた。
刊行物1の発行から本願優先日まで6年も空いていることは,当業者が刊行物1から本願発明を容易に想到できなかったことを示す。
動物モデルは,通常,医薬の候補成分の有効性や副作用について検討される第1ステップである前臨床試験で用いられるが,動物と人間とでは薬物代謝酵素の発現及び活性が異なるので,同一薬剤を投与しても動態が異なり,効果及び安全性が異なるから,当業者は同一の反応が生じるとは期待しない。
刊行物1から人間に適用する場合の有効量を決定することは容易ではない。
ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデルは,本願優先日である1998年においては最先端のモデルではなかった。
小動物等を用いた酢酸誘導の結腸炎モデルは,短期間の急性モデルに適するものであり,慢性の自然発症的な炎症性大腸疾患のモデルとしては特に適するとはいえない。
刊行物1には,人間に用いるのに適する有効用量についての示唆が全くない一方,本願明細書の段落0012は,本願発明における有効濃度について記載されている。
したがって,刊行物1から,疾患治療のための有効濃度でホスファチジルコリンを含む本願発明を容易に想到することはできない。すなわち,審決における「引用発明に係るホスファチジルコリンを治療に用いるにあたり,医薬として許容される製剤中に含ませることも,ごく通常行われることに過ぎない。 とした判断は誤りで 」ある。
4 取消事由4(相違点2についての判断の誤り) 刊行物2では,有効成分がニコチンであってホスファチジルコリンではない。有効成分と被覆剤等の間に望まれない相互作用が生じる場合もあるから,用いる有効成分に従って適用される被覆剤等が決定される。刊行物2を引用発明に組み合わせる動機はない。
刊行物2では,経口投与されるとニコチンを放出することなく胃を通過して,結 腸においてほぼすべてのニコチンを放出できる被覆材が設けられる。それに対して,本願発明では,有効成分を放出することなく胃を通過することを意図していないから,引用発明に刊行物2を組み合わせても本願発明に至らない。
刊行物3には,有効成分としてホスファチジルコリンを用いることの開示はなく,引用発明と組み合わせる動機がない。
以上の理由から,審決において, 「刊行物1の発明の『結腸における粘膜保護用剤』を,結腸で作用させることを目的として,pHに依存する遅延放出形態とすることは当業者が容易になし得ることである」とした判断は誤りである。
5 取消事由5(本願発明の効果についての判断の誤り) 本願明細書の,ホスファチジルコリンをpHに依存形態で下部回腸又は結腸に放出する医薬が結腸における粘膜保護効果を達成する旨【0008】【0012】, ( 〜 )及び活性物質の好ましい量(【0012】)の記載から,本願発明が結腸における粘膜保護を示すことは明らかである。
治療対象となる種や実験モデルが異なれば薬剤が示す効果は異なるから,刊行物1においてラットの結腸炎モデルで結腸粘膜保護効果が認められたとしても,人間の自然発生の結腸炎における結腸粘膜保護効果が期待できるとはいえない。
刊行物2,3には,治療に必要な量のホスファチジルコリンを下部の結腸又は回腸にて放出させることについて記載はないから,pHに依存する遅延放出形態とすることにより結腸へ必要量のホスファチジルコリンを到達させる効果が予測される範囲内とはいえない。
甲15及び甲16の記載は,本願発明の医薬による人間の結腸の粘膜保護効果について確認し,裏付けるものである。
そうすると,審決において「本願発明の効果は,刊行物1〜3から予測される範囲内の効果である」とした判断は誤りである。
6 取消事由6(審判請求人の主張についての判断の誤り) 刊行物1は,自然発生的な「疾患」を治療することについて開示しておらず, 2008年の時点で単一の動物モデルはないと理解されていたのであれば,それよりも10年も前である本願優先日の1998年8月6日の時点においても,人間の炎症性大腸疾患の特徴を再現できるような単一の動物モデルはないと理解されていたと認められるべきである。
よって,刊行物1の動物モデルが適切な動物モデルでない主張を採用しないという審決の判断は,誤りである。
本願の明細書(甲9)の段落【0008】〜【0012】には,本願発明である,活性物質のホスファチジルコリンをpH依存形態で下部の回腸又は結腸に放出する医薬が結腸における粘膜保護効果を達成する旨が開示されており ,特に段落【0012】には好ましい活性物質の含有量の記載もあり,このような記載から,本願発明の医薬が,結腸における粘膜保護を示すことは明らかである。
本願優先日の1998年において,酢酸による急性結腸炎モデルよりも自然発症のヒトの結腸炎に近いモデルが多く存在しており,刊行物1に開示されたヒトの疾患とは大きく異なる化学物質で誘導した急性大腸炎疾患モデルが,本願優先日時点で適切なモデルであるとはいえないから,本願優先日において,ヒト炎症性大腸疾患モデルとしてより適する自然発症モデルが選択されるべきであり,当業者があえて急性的な酢酸誘導モデルを選択する理由はない。
7 結論 審決は,上記1〜6において記載する各認定及び判断の誤りの結果 ,本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとする誤った判断をしたものであり,違法であるから取り消されるべきである。
被告の反論
1 取消事由1に対しラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデルは,結腸炎治療用化合物の試験台として適切 な,結腸炎モデルの一つであるから,下位概念である「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデル」を,上位概念である「結腸炎モデル」と認定したことに誤りはない。
2 取消事由2に対し 引用発明には,「疾患治療のための有効濃度で」という語句,及び「医薬」という語句はない。審決では,この点を相違点1として,「本願発明では,ホスファチジルコリンを「疾患治療のための有効濃度で」含む「医薬」であるのに対し,引用発明では,そのような特定がない点。
」と認定している。
したがって,審決に誤りはない。
3 取消事由3に対し (1) 人間とラットとの種の違い,自然発生と人工誘導との違いについて 動物と人間とでは,投与された薬剤の動態,効果及び安全性が完全には一致しないから, 単一のモデル」 「 でヒトの炎症性大腸疾患をあらゆる観点から網羅したモデル,すなわち「完全なモデル」がないことは,当然である。だからこそ,通常,各種の哺乳動物と人間とにおける,薬剤の効果及び安全性の類似性を期待して,当業者は動物モデルを用いて前臨床研究を行っている。特に,抗潰瘍剤の研究には,ラットを用いることが一般的である。
刊行物1の記載からすれば,当業者であれば,ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデルは,一定程度の信頼性を与える,人間の潰瘍性結腸炎のモデルであると認識するといえる。
(2) 有効量の違いについて 動物モデルの結果に基づいてその薬剤を人間に適用するに当たり,例えば,結腸を切除する等の適用の態様はもちろんのこと,量についても,単純にそのまま適用されるものではないことは,当業者であれば理解している。刊行物1にはホスファチジルコリンが用量依存的に有効であることが記載されているのであるから,これに基づいて人間への適用に必要な量を算出し検討することは,当業者であれば当然行う事項であるし,過剰投与にならない程度の,有効量を設定することも当然である。
そもそも,本願発明も,「疾患治療のための有効濃度」を具体的には特定していない。
(3) 着想の違いについて 刊行物1の研究によって,ホスファチジルコリン(リン脂質)濃度の上昇を介して結腸炎が治療されるという技術背景が,本願優先日以前に,ラットモデルにおけるものではあっても存在したのであるから,結腸における一定量以上のホスファチジルコリン濃度の存在が,結腸炎治療に必要である,という着想が,刊行物1に開示されていない新たな着想であるとはいえない。
刊行物1の発行から本願優先日の1998年までの間が6年空いているが,新薬開発のプロセスにおいて,人間への適用までには数年を要するものでもあり,期間の長さは,必ずしも,困難性を示す指標,つまり,容易想到性を否定する根拠とはならず,進歩性の判断に影響しない。
(4) 小括 以上のことから,「刊行物1に記載のラット結腸炎モデルにおいて有効性が認められた薬剤を,単純に人間に適応することは,当業者であれば行わない。」と結論付けられるものではない。
4 取消事由4に対し (1) 結腸の炎症を改善させる剤を結腸に到達させてその炎症を改善させるために,結腸のpHで溶解する遅延放出形態として経口で用いることは,本願優先日当時,広く行われていた。また,炎症の改善に限らず, 「腸内へ希釈されずに到達させたい薬物などの製剤は,胃内で崩壊せず,腸内に移行してから崩壊するようにしたい」という思想で,pHに依存する遅延放出形態である,腸溶剤,腸溶コーティングが用いられることも,当業者に周知であった。腸溶剤,腸溶コーティングは,pHの差を利用して,胃におけるよりも遅れて腸に到達してから崩壊するように作られたもの,すなわち「pHに依存する遅延放出形態」である。そして,本願優先日当時,ホスファチジルコリンを「pHに依存する遅延放出形態」とすることを妨 げる事情が当業者に存在していたとはいえず,ホスファチジルコリンに特有の「製剤としての不利益」は特段見出せない。
(2) 本願明細書の段落【0009】の記載「経口の適用では,このような遅らせる形態で活性物質を放出する(遅延製剤)医薬が,特に適している。この活性物質放出の遅延は,胃酸に耐性で,活性物質をpH依存形態で下部の回腸または結腸に放出するカバーシールドおよび/または担体マトリックスによって,最も有効に達成される。」からみて,「薬剤の有効成分を放出することなく胃を通過すること」は,本願発明において避けるべきことであったとはいえない。
5 取消事由5に対し (1) 本願明細書の段落【0008】〜【0012】には,pHに依存する遅延放出形態としての,既に確立されているEudragit(登録商標)製剤の使用,経口適用と直腸適用にそれぞれ適した剤形と,活性物質含有量が「1〜500mg」,「100〜300mg」「10mg〜10g」「好ましくは,5gまで」という, , ,広い範囲で記載されているのみである。
(2) 引用発明に係る「結腸における粘膜保護用剤」は,結腸炎のモデルである結腸粘膜が,ホスファチジルコリンにより用量依存的に修復されることを確認しており,その試験方法と得られた結果も詳細に記載されており,刊行物1の記載から,ヒトでの結腸粘膜保護効果も期待できる。
(3) また,pHに依存する遅延放出形態とすることにより,結腸へ必要量のホスファチジルコリンを到達させる効果があることも,刊行物2及び刊行物3の,有効成分の必要量が結腸に送達できる旨の記載や,腸内へ希釈されずに到達させたい 「薬物などの製剤は,胃内で崩壊せず,腸内に移行してから崩壊するように」pHに依存する遅延放出形態とすることが技術常識であることから,予測される範囲のものである。
6 取消事由6に対し 上記3及び5と同じ
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)及び取消事由2(相違点1の認定の誤り)について (1) 刊行物1において,ホスファチジルコリンによる結腸粘膜損傷の修復を示したモデルとして具体的に記載されているのは,ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モ 「デル」のみであるから,引用発明は, 「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデルにおいて結腸粘膜損傷の修復に有効な量のホスファチジルコリンを活性物質として含む,結腸における粘膜保護用剤」と認定すべきである。
したがって,審決における引用発明の認定には,誤りがある。
(2) 上記のとおり引用発明を認定するのであるから,相違点1は,次のとおり認定されるべきである。
本願発明では,ホスファチジルコリンを「疾患治療のための有効濃度で」含む「医薬」であるのに対し,引用発明では,ホスファチジルコリンを「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデルにおいて結腸粘膜損傷の修復に有効な量で」含む「薬剤」である点。
(3) しかしながら,引用発明の認定の誤り及び相違点1の認定の誤りにもかかわらず,次に述べるとおり,相違点1についての判断において,審決は実質的に誤っているとはいえないから,取消事由1及び取消事由2は,審決取消しの理由とはならない。
2 取消事由3(相違点1についての判断の誤り)について (1) 1において認定した相違点1について判断する。
ア 刊行物1には, 「我々はPC(注:ホスファチジルコリン)とPIの両方がラットの酢酸誘導結腸炎の粘膜上の回復効果を有すると結論する。人間の潰瘍性結腸炎でのリン脂質の結腸への適用の潜在的有用性は,しかしながら,臨床的状況でのさらなる調査を必要とする。, 」「酢酸誘導結腸炎のような,結腸炎の実験用モデ ルは,それゆえ潜在的な治療薬のスクリーニングのための有益なツールであり得る。」との記載がある。
このことからすれば,刊行物1に記載された「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデル」を用いた研究は,人間の結腸炎に対するホスファチジルコリンの有用性を検討するための,前臨床研究と位置付けることができる。
さらに,刊行物1には, 「以前の研究で,我々は結腸の切除部分の中への15秒間4%の投与量での酢酸適用が,酢酸点滴後の4日目に評価されたとおり,均一な結腸炎を誘発したことを示した[11]。さらに誘発された結腸炎は,人間の潰瘍性の結腸炎といくつかの病理学的類似性を見せた[11]」 「アラキドン酸代謝が,人 。,間の炎症性腸疾患で見られるものとの比較において,酢酸誘導結腸炎におけるものと極めて類似していることが示された[13] 結腸炎は多種多様な刺激によって引 。
き起こされ得るという事実にもかかわらず,これは,同じ解決可能な炎症性要因が最終応答を調節することを暗示するかもしれない[13]。それゆえ,おそらく,結腸形態学に関しての高度の類似性が,結腸炎の病因にかかわらず存在する。さらに,自然発生的な人間の結腸炎に存在していることを知られた他のメカニズム,例えば,粘膜透過性の増加,血管新生の変化と粘膜酵素(例えばカルボキシペプチダーゼ)活性の減少,が,酢酸誘導性の実験用結腸炎においてもまた生じると報告されている[14-16]。酢酸誘導結腸炎のような,結腸炎の実験用モデルは,それゆえ潜在的な治療薬のスクリーニングのための有益なツールであり得る。との記載がある。
」このことからすれば,刊行物1に記載された,ラットにおける酢酸誘導結腸炎は,人間の潰瘍性の結腸炎,炎症性腸疾患及び自然発生的な結腸炎と,病理学的類似性,アラキドン酸代謝における類似性,結腸形態学的類似性,メカニズム的類似性等を有しているといえ,薬剤の効果及び安全性に関し,人間との類似性を当業者が期待することができたものであるといえる。したがって,刊行物1に記載された「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデル」に対する知見は,人間にも適用できるものと当業者が期待できたというべきである。
よって,引用発明のラットを用いたモデルを人間に適用すること,及び引用発明の酢酸誘導結腸炎モデルを自然発生的な結腸炎に適用することは,当業者が容易になし得ることである。
イ ラット等の動物モデルの結果に基づいて,その薬剤を人間に適用するに当たり,その量は,単純にそのまま適用されるものではないことは,当業者にとって自明のことである。刊行物1には,ホスファチジルコリンが用量依存的に有効であることが記載されているのであるから,これに基づいて人間への適用に必要な量を算出し検討することは,当業者であれば当然行う事項であるし,副作用の危険性を考慮した上,当業者は,過剰投与にならない程度の有効量や有効濃度の設定を当然行うといえる。有効量や有効濃度を具体的に設定すること自体は容易ではない場合も考えられるが,本願発明においても,疾患治療のための有効濃度を具体的に特定しているわけではない。
よって,引用発明から疾患治療のための有効濃度を設定することは,当業者が容易になし得ることである。
ウ したがって,引用発明及び刊行物1の記載から,ホスファチジルコリンを,人間の結腸における粘膜保護用医薬として用いようとすること,及びその際の有効量や有効濃度を設定しようとすることは,当業者が容易になし得たことというべきである。
よって,審決の相違点1についての判断に,実質的な誤りはない。
(2) 原告は,審決の判断に対し,要するに,@本願発明と引用発明との間には,人間とラットという種の違い,自然発生的な結腸炎と人工的に誘導された結腸炎との違い等があるから,同一薬剤を投与しても,当業者は同一の反応が生じるとは期待しない点,A本願発明は,人間の結腸粘膜の炎症性疾患が起こる原因が,結腸粘膜におけるホスファチジルコリンの分泌の減少であることを見出し,これを改善するためにホスファチジルコリンを結腸に到達できるようにすれば治療できるのではないかという着想に基づいたものである点,B刊行物1の発行から本願優先日まで 6年もあいていることは,当業者は刊行物1から本願発明を容易に想到できなかったことを示す点,C刊行物1から人間に適用する場合の有効量を決定することは容易ではない点,Dラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデルが,本願優先日である1998年においては最先端のモデルではなかった点,E小動物等を用いた酢酸誘導の結腸炎モデルは,短期間の急性モデルに適するものであり,慢性の自然発症的な炎症性大腸疾患のモデルとしては特に適するとはいえない点,及びF刊行物1には,人間に用いるのに適する有効用量についての示唆が全くない一方,本願明細書の段落【0012】は,本願発明における有効濃度について記載されている点を主張する。
ア 上記主張@について 原告の上記主張@は,上記(1)アより,失当である。
イ 上記主張Aについて 刊行物1には,プロスタグランジンE1とE2アナログは実験用結腸炎において, 「結腸粘膜保護に良い結果をもたらして使用されてきた[3,10]。プロスタグランジンの細胞保護効果は,少なくとも部分的に,リン脂質濃度の限局的な増加を介することが示された[8]。しかしながら,外因性のリン脂質が単独で結腸粘膜上で細胞保護作用を奏する可能性があるかどうか,その結果としてリン脂質が結腸炎における結腸粘膜損傷の回復を強める可能性があるかどうかについては,まだ証明されていない。, 」「本研究で,我々は同じモデルを2つの規定のリン脂質である,ホスファチジルコリン(PC)とホスファチジルイノシトール(PI)の潜在的有用性を評価するために用いた。」との記載がある。このことからして,刊行物1に記載された「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデル」を用いた研究は,プロスタグランジンがリン脂質濃度の限局的な増加を介することで結腸粘膜保護効果を示すという技術背景を受けて,外因性のホスファチジルコリン(リン脂質)であっても,結腸炎における結腸粘膜損傷の回復を強めるかどうかを確認するものといえる。つまり,ホスファチジルコリン(リン脂質)濃度の上昇を介して結腸炎が治療されるという着 想は,本願優先日前に存在したといえるから,結腸における一定量以上のホスファチジルコリン濃度の存在が結腸炎治療に必要であるという着想が,刊行物1に開示されていない新たな着想であるとまではいえない。
ウ 上記主張Bについて 刊行物1の発行から本願優先日まで6年の間が空いていることだけを理由として,本願発明に至ることの困難性を推認することはできないから,上記主張Bは失当である。
エ 上記主張Cについて 上記主張Cは,上記(1)イより,失当である。
オ 上記主張Dについて 本願優先日の頃に,刊行物1に記載された「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデル」よりも適切な炎症性大腸疾患のモデルがあったとしても,そのことによって,刊行物1に記載された「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデル」における知見の信用性に疑義が生じるものではない。したがって,上記主張Dは失当である。
カ 上記主張Eについて そもそも本願発明は,「結腸における粘膜保護用医薬」と特定されているのみで,慢性の自然発症的な炎症性大腸疾患のみを対象とするものではない。この点は,本願明細書の段落【0001】に, 「本発明は・・・活性物質としてホスファチジルコリンを含む医薬に関する。該医薬は・・・結腸粘膜の他の炎症性疾患(・・・感染性腸炎/大腸炎,放射線照射,抗生物質,化学療法剤,医薬品または化学薬品による炎症)の治療・・・に適している。」と記載されており,本願発明の対象として短期間かつ急性の炎症性疾患も包含されていることは明らかである。したがって,上記主張Eは,特許請求の範囲及び本願明細書の記載に基づく主張とはいえず,失当である。
キ 上記主張Fについて 本願明細書の段落【0012】には, 「本発明の主題は,結腸で粘膜保護効果を達 成するのに充分な治療上の有効量でのホスファチジルコリンを含む医薬である。最終製剤の活性物質の含量は,1〜500mgであり,100〜300mgが好ましい。・・・疾患の重篤度に従って,剤は,1日に1回または数回適用される。」との記載があるが,特許請求の範囲に有効濃度の記載はなく,また,本願明細書中に有効量や有効濃度を具体的に確認した実施例等が記載されてはいないから,上記した含量及び適用回数は,あくまで目安にすぎず,ホスファチジルコリンの薬効との関係が具体的に裏付けられたものとはいえない。したがって,本願発明における具体的な有効濃度等は,本願明細書に記載されているとはいえず,また,発明特定事項ともされていないから,上記主張Fは失当である。
(3) 以上より,取消事由3には,理由がない。
3 取消事由4(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は,要するに,@刊行物2の有効成分はホスファチジルコリンではなく,有効成分と被覆剤等の間に望まれない相互作用が生じる場合もあるから,刊行物2を引用発明に組み合わせる動機はない点,A刊行物2では,経口投与されると,胃を通過して,結腸においてほぼすべてを放出できる被覆材が設けられるが,本願発明では,有効成分を放出することなく胃を通過することを意図していない点,B刊行物3には,有効成分としてホスファチジルコリンを用いることの開示がない点を主張する。
(2) 上記主張@及びBについて 刊行物2及び3のみならず,結腸の炎症を改善させる剤を結腸に到達させてその炎症を改善させるために,結腸のpHで溶解する遅延放出形態として経口で用いることは,結腸の炎症を改善させる剤の有効成分が何であるかにかかわらず,本願優先日前から,広く行われていたことである(乙5,6)。また,炎症の改善に限らず,「腸内へ希釈されずに到達させたい薬物などの製剤は,胃内で崩壊せず,腸内に移行してから崩壊するようにしたい」(乙11の1140頁左欄「腸溶剤」「腸溶コーテ ,ィング」の項)という技術思想で,pHに依存する遅延放出形態である,腸溶剤,腸 溶コーティングが用いられることも,当業者に周知であった。腸溶剤,腸溶コーティングは,pHの差を利用して,胃におけるよりも遅れて腸に到達してから崩壊するように作られたもの,すなわち, 「pHに依存する遅延放出形態」である(乙10の357頁左欄「腸溶コーティング」の項)。そして,本願優先日当時,ホスファチジルコリンを「pHに依存する遅延放出形態」とすることを妨げる事情があったとは推認できず,原告もそのような事情を具体的に主張立証しているわけではない。したがって,引用発明のホスファチジルコリンを「結腸の炎症を改善させる剤」として用いようとした場合に,結腸で作用させることを目的として,pHに依存する遅延放出形態とすることは,当業者が容易になし得たことといえる。
(3) 上記主張Aについて 本願発明の特許請求の範囲には,有効成分を放出することなく胃を通過することを排除する趣旨の記載はない。また,本願明細書の段落【0009】の記載「経口の適用では,このような遅らせる形態で活性物質を放出する(遅延製剤)医薬が,特に適している。この活性物質放出の遅延は,胃酸に耐性で,活性物質をpH依存形態で下部の回腸または結腸に放出するカバーシールドおよび/または担体マトリックスによって,最も有効に達成される。
」からみて, 「疾患治療に必要な量のホスファチジルコリンを下部の結腸または回腸にて放出できるようにする」ためには,薬剤が胃でも放出されながら通過してもよいかもしれないがその量は少ないことが好ましく,「薬剤の有効成分を放出することなく胃を通過すること」はなお好ましいことが自明であるから,有効成分を放出することなく胃を通過することが排除されているとは認められない。
したがって,上記主張Aは,本願発明の特許請求の範囲及び本願明細書の記載に基づかずに刊行物2との相違を述べるものであり,失当である。
4 取消事由5(本願発明の効果についての判断の誤り)について (1) 原告は,要するに,@本願明細書の段落【0008】〜【0012】の記載から,本願発明が結腸における粘膜保護を示すことは明らかである点,A刊行物 1においてラットの結腸炎モデルで結腸粘膜保護効果が認められたとしても,人間の自然発生的な結腸炎における結腸粘膜保護効果が期待できるとはいえない点,B刊行物2,3には,ホスファチジルコリンについて記載はないから,pHに依存する遅延放出形態とすることにより結腸へ必要量のホスファチジルコリンを到達させる効果が予測される範囲内とはいえない点,及びC甲15及び甲16の記載は,本願発明の医薬による人間の結腸の粘膜保護効果について確認し,裏付けるものである点を主張する。
(2) 上記主張@〜Bについて 刊行物1には,結腸炎のモデルである結腸粘膜が,ホスファチジルコリンにより用量依存的に修復されることが記載されており,当該モデルはラットにおける酢酸誘導結腸炎ではあるものの,その試験方法と得られた結果も詳細に記載されているから,人間での結腸粘膜保護効果を期待できるといえる。また,pHに依存する遅延放出形態とすることにより,結腸へ必要量のホスファチジルコリンを到達させることは,上記3に記載したように,当業者が容易になし得たことといえ,その結果,人間での結腸粘膜保護効果を奏するであろうことも,当業者の予測の範囲内のことといえる。
一方,本願明細書の段落【0008】〜【0012】には,ホスファチジルコリンを経口製剤とするための手段が説明されているが,具体的には,pHに依存する遅延放出形態としての,既に確立されているEudragit(登録商標)製剤の使用,経口適用に適した剤形と,活性物質含有量が「1〜500mg」及び「100〜300mg」と記載されているのみであり,また,本願明細書の実施例には,リン脂質トランスポーターであるMDR3関連タンパク質と,潰瘍性大腸炎の関係が示されているのみであって,患者へのホスファチジルコリンの投与が,結腸における粘膜保護効果を示すことまでは記載されていない。つまり,本願明細書には,本願発明が結腸においてどの程度の粘膜保護を示すのかは明らかにされていない。
上記主張@〜Bは,失当である。
(3) 上記主張Cについて 該主張の根拠となる甲15及び16は,いずれも本願の出願から10年以上経過後に発表又は頒布されたものであり,その内容も,本願出願前から当業者に周知の事項であったともいえないから,これらに記載された事項を,本願明細書の内容を補足するものとして参酌することはできない。したがって,上記主張Cは失当である。
(4) よって,本願発明が,引用発明からでは予測できないほどの顕著な効果を奏するものとは推認できず,この点に関する審決の判断に誤りはない。
5 取消事由6(審判請求人の主張についての判断の誤り)について (1) 原告は,要するに,@刊行物1は,自然発生的な疾患を治療することについて開示していないし,2008年時点でも人間の炎症性大腸疾患の特徴を再現できるような単一の動物モデルはないと理解されていたから,刊行物1のモデルは不適切なものである点,A本願明細書の記載から,本願発明の医薬が結腸における粘膜保護を示すことは明らかである点,及びB本願優先日の1998年において,酢酸による急性結腸炎モデルよりも自然発症のヒトの結腸炎に近いモデルが多く存在しており,刊行物1に開示されたヒトの疾患とは大きく異なる化学物質で誘導した急性大腸炎疾患モデルが本願優先日時点で適切なモデルであるとはいえないから,本願優先日において,ヒト炎症性大腸疾患モデルとしてより適する自然発症モデルが選択されるべきであり,当業者があえて急性的な酢酸誘導モデルを選択する理由はないと主張する。
(2) 上記主張@は,上記2(2)の主張@,D及びEにおいて既に検討した理由により,失当である。
(3) 上記主張Aは,上記4において既に検討した理由により,失当である。
(4) 上記主張Bは,上記2(2)の主張Dにおいて既に検討した理由により,失当である。
結論
以上のとおり,原告の請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 新谷貴昭