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関連審決 不服2002-16936
関連ワード 技術的思想 /  方法の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 534号 審決取消請求事件
原告 株式会社角田ブラシ製作所
同訴訟代理人弁理士 池田仁士
被告 特許庁長官小川洋
同指定代理人 宮崎侑久
同 高木進
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/06/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2002-16936号事件について平成15年10月14日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成9年10月14日,発明の名称を「半割り式研磨ロール及びそのコア金具」とする発明につき特許出願(特願平9-294991号。以下「本件出願」という。)をし,平成14年7月1日付け手続補正書により,本件出願に係る明細書の「特許請求の範囲」等を変更した。特許庁は,平成14年8月6日,本件出願につきこれを拒絶すべき旨の査定(以下「本件拒絶査定」という。)をした。
(2) 原告は,本件拒絶査定を不服として,平成14年9月4日,本件審判の請求をした。特許庁は,同請求を不服2002-16936号事件として審理した上,平成15年10月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年11月5日に原告に送達された。
2 平成14年7月1日付け手続補正書による補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の要旨は,上記補正後の明細書の「特許請求の範囲」に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】「半割り円筒体をなし,その外周面にブラシが取り付けられ,その内周面は回転軸に当接され,2つの半割り円筒体相互の組付けにより構成される研磨ブラシにおいて, 前記円筒体のコア金具は,等厚の肉厚をもって形成された半円筒状体のアルミ製のコア本体と;該コア本体の少なくとも両端部の内周面に同心状態を保って組み付けられる同じく等厚の半円筒状体のアルミ製の介装金具と;からなり,前記コア本体と前記介装金具との組付け体に,その両側面部より実質的に軸心に向けてピン挿通孔が貫通状に開設され,このピン挿通孔に肉厚に等しい長さの取付けピンが強嵌挿されてなり, 前記コア本体に硬質合成樹脂製のブラシ取付け管が接着固定をもって外嵌されるとともに,該ブラシ取付け管に複数のブラシ植設孔が穿設され,該ブラシ植設孔のそれぞれにブラシ束が植設されてなり, 前記ブラシ植設孔は円孔をなすとともにその底部は頂角が90°又は鋭角の逆円錐形に形成され, 前記ブラシ束はその基部に線材の止め金具がその先端を突出して巻き懸けられて装着され,該止め金具の突出端を前記ブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って 押し込んで前記外管内に食込み状に係合させてなる, ことを特徴とする半割り式円筒研磨ブラシ。」 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本願発明と特開平6-169817号公報(甲5。以下「引用例1」という。)に記載の発明(以下「引用発明1」という。)とを対比すると,両者は,「半割り円筒体をなし,その外周面にブラシが取り付けられ,その内周面は回転軸に当接され,2つの半割り円筒体相互の組付けにより構成される研磨ブラシにおいて,前記円筒体のコア金具は,等厚の肉厚をもって形成された半円筒状体のアルミ製のコア本体と;該コア本体の少なくとも両端部の内周面に同心状態を保って組み付けられる同じく等厚の半円筒状体のアルミ製の介装金具と;からなり,前記コア本体と前記介装金具との組付け体に,その両側面部より実質的に軸心に向けて挿通孔が貫通状に開設され,この挿通孔に肉厚に等しい長さの取付け手段が強嵌挿されている,半割り式円筒研磨ブラシ。」という点で一致し,次の点で相違する。 ア コア本体と介装金具との組み付けが,本願発明の取付け手段は取付けピンであり,ピン挿通孔と取付けピンにより固定されているのに対して,引用発明1の取付け手段はボルトであり,ネジ孔とボルトにより固定されている点(以下「相違点1」という。)。
イ 本願発明は,「前記コア本体に硬質合成樹脂製のブラシ取付け管が接着固定をもって外嵌されるとともに,該ブラシ取付け管に複数のブラシ植設孔が穿設され,該ブラシ植設孔のそれぞれにブラシ束が植設されてなり,前記ブラシ植設孔は円孔をなすとともにその底部は頂角が90°又は鋭角の逆円錐形に形成され,前記ブラシ束はその基部に線材の止め金具がその先端を突出して巻き懸けられて装着され,該止め金具の突出端を前記ブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで前記外管内に食込み状に係合させてなる」のに対して,引用発明1は,この構成が不明である点(以下「相違点2」という。)。
(2) 相違点1について 相違点1については,固定手段としてボルトによる固定もピンによる固定も周知であり,引用発明1のボルトによる固定を,本願発明の如くピンによる固定とすることは,当業者であれば適宜なし得る程度のものと認められる。
(3) 相違点2について 相違点2については,実願昭61-5881号(実開昭62-121064号)のマイクロフィルム(甲6。以下「引用例2」という。)には,「アルミ製の円筒状をなす軸半体と,前記軸半体に外嵌される硬質合成樹脂製の中芯半体とがネジ固定されてなり,前記硬質合成樹脂製の中芯半体にブラシを植毛した半割式のロール。」の技術事項,言い換えると「コア本体に硬質合成樹脂製のブラシ取付け管が固定をもって外嵌されるとともに,該ブラシ取付け管にブラシが植設されてなる半割り式円筒研磨ブラシ。」が記載されている。また,特開昭61-265104号公報(甲7。以下「引用例3」という。)には,「合成樹脂製の部材であるローラ本体に,複数の円孔をなす植設孔が穿設され,その植設孔に刷毛が,止め針により植設される。」点の技術事項,言い換えると「合成樹脂製の部材であるローラ本体に,複数の円孔をなす植設孔が穿設され,その植設孔にブラシ束が,止め金具により植設される。」点が記載されている。 そして,引用発明1に,引用例2及び3に記載の技術事項を適用することは,それらがすべてブラシロールという同一の技術分野に属することからみて,当業者が容易になし得るものであり,引用発明1に引用例2に記載の技術事項を適用する際に,コア本体への硬質合成樹脂製のブラシ取付け管の固定手段として,引用例2に記載のネジ固定を周知の接着固定とすることは,当業者であれば適宜なし得る程度のものであり,また,ブラシの植毛方法として,植毛する部材に円孔を,その底部を逆円錐形となるように穿孔し,ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ部にワ字形の止め金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで,植毛する部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛することは周知技術(例えば実公昭28-1173号公報(甲8)参照)であるから,ブラシの植毛に関する引用例3に記載の技術事項を適用する際に,この周知技術を合わせて施し,止め金具先端部を交叉状となるように,円孔の底部の逆円錐形の角度を適宜決定して,相違点2における本願発明の構成の如くすることは,当業者であれば容易になし得るものと認める。
(4) 以上のとおり,本願発明は,引用発明1並びに引用例2及び引用例3に記載された発明(以下「引用発明2」及び「引用発明3」という。)及び甲8にみられる周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められ,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。よって,本件審判の請求は成り立たない。
当事者の主張
(原告主張の取消事由) 本件審判の手続には瑕疵があり(取消事由1),また,本件審決は,相違点1,2についての判断を誤って(取消事由2,3),本願発明は特許を受けることができないとしたものであり,これらの瑕疵が本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決は違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(審理手続の瑕疵) (1) 本件出願の審査においては,拒絶理由通知がされた後に,原告が平成14年7月1日付け手続補正書により特許請求の範囲減縮する補正をしたにもかかわらず,担当審査官は,あらためて拒絶理由を通知することなく,実質的に新たな理由を付加して本件拒絶査定をしたものであり,その手続には瑕疵がある。したがって,本件審判の手続において,担当審判長は,原告に対し,あらためて拒絶理由を通知し,原告に意見を述べる機会を与えるべきであった。しかるに,担当審判長は,原告にその機会を与えずに本件審決をした。
(2) また,本件審決は,周知技術に名を借りて,新たな公知文献(実公昭28-1173号公報。甲8)に基づいて判断をしているが,新たな公知文献を判断の資料とするのであれば,担当審判長は,原告に対し拒絶理由を通知して意見を述べる機会を与えるべきであった。しかるに,担当審判長は,原告にその機会は与えずに本件審決をした。
(3) 上記のとおり,本件審判の手続には,本件審決を取り消すべき瑕疵がある。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り) 本件審決は,相違点1について前記第2の3(2)のとおり判断しているが,次に述べるとおり,その判断は誤りである。
(1) ボルトもピンも一般的な固定手段として周知・慣用のものであることは認めるが,それは,研磨ブラシの技術分野において周知・慣用の技術とはいえない。
本件審決は,何らの証拠もないのに,一般的な固定手段として周知・慣用であるにすぎないピンを,研磨ブラシの技術分野においても周知・慣用のものであると認定したものであり,その認定は誤りである。
(2)ア また,本願発明は,半割り式円筒研磨ブラシにおけるアルミ製コア金具の生産性の向上を図るべくなされたものである。ピン固定を採用することによって,@コア本体と介装金具とは,別体の,しかも,一定厚さの半円筒状のものであるため,成形が容易であって仕上がり精度も高く,組付け体も高い寸法精度が得られる,Aコア本体と介装金具とは,肉厚に穿設されたピン挿通孔内に取付けピンを強嵌挿することにより一体的に組み付けられるので,強固な構造が得られる,B組立てが容易であるとともに,削り出し工程を要せず,製作費用の低減を図り得る,Cピン挿通孔の孔開け作業は,コア本体と介装金具とを別々に行え,作業の自由度が増し,施工効率の向上を図り得る,Dコア本体と介装金具がアルミ製であると,軽量体となり,また,アルミ製のコア金具は所定の精度を保持するのでシャフトへの取り付けが確実になされ,その剛性により合成樹脂製の外管の歪み・変形を有効に阻止することとなって,コア金具の長尺化,大径化が可能となるとともに,回転式円筒研磨ブラシの重量部分は円筒軸部分すなわちシャフト側に集まるので,当該回転式円筒研磨ブラシの回転動作は円滑なものとなる,という作用効果を奏する。
イ これに対し,引用発明1は,半割筒体3とスペーサ片5を一体としてネジ孔の螺設作業をなす必要があるものであり,加工手間が懸かり,効率の悪いものである。
ウ すなわち,本願発明のピン固定は,引用発明1のボルトによる固定手段では得られない大きな利便性のあるものであり,本願発明の作用効果は,引用発明1からは予測できず,ピンと他の構成要素との有機的結合によってはじめて奏されるものである。
(3) 本件審決は,本願発明のピン固定の技術的意義,顕著な作用効果を看過した結果,上記のとおり誤った判断に至ったものである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り) 本件審決は,相違点2について前記第2の3(3)のとおり判断したが,次に述べるとおり,その判断は誤りである。
(1) 動機付けについて ア 本件審決は,引用例1,2及び3に記載の技術事項のすべてが同一技術分野に属するブラシロールであることから,引用例2及び3に記載の技術事項を引用発明1に適用し得ると判断しているが,適用することに動機付けがない。引用例1及び2に記載のものは,目的においても,具体的構成においても,本願発明とは相違しており,また,引用例3に記載のものは,目的・用途においても,基本的構成においても,本願発明とは相違している。各引用例にはこれらが互いに適用されることを示唆する記載はなく,引用例2及び3に記載の技術事項を引用発明1に適用することに動機付けがあるとはいえない。
イ 被告は,技術分野が同一であることを根拠に,引用例2及び3に記載の各技術的事項を引用発明1に適用する,あるいは,適用し得ることについての動機付けは十分であるといえ,また,上記各技術事項を引用発明1に適用する,あるいは適用し得ることについて阻害要因もない旨主張するが,技術分野が同一であるというだけで上記適用に動機付けがあるとはいえない。
すなわち,本願発明の技術的課題は,現状でのアルミ製コア金具を有する半割り式円筒研磨ブラシの製作上の難点,及び該アルミ製コア金具へのブラシ束の植毛作業の困難性にかんがみ,その生産性の向上及び性能(長尺化,径小化を含む)の向上を図ることにあり,引用発明1ないし3のいずれとも,その技術的課題を異にするものである。本件審決の上記判断は,この技術的課題の相違を考慮せずにされたものである。
被告は,発明の課題は,必要に応じて参酌される事項であるとか,課題が相違しているとしても,そのことをもって本願発明の容易推考性が否定されるものではない旨主張するが,本願発明の技術的課題,目的を考慮した上で,上記各引用例記載の技術事項の適用の動機付けを判断すべきは当然である。
(2) 構成等の相違について ア 引用例2に記載のものは,ブラシ材の植設手段の具体的開示がなく,また,その中芯半体が軸半体より取外し自在であることが必須となっており,本願発明とは基本的構成において異なる。また,本願発明と引用発明1との固定手段の相違は,技術的課題,目的の相違に基づくものであり,その技術的意義を異にしており,引用例2に記載のものは,中芯半体と軸半体とを固定接着することを示唆するものではない。したがって,相違点2の接着固定に係る構成は当業者が適宜なし得る程度のものではない。
イ また,引用例3に記載の搬送用回転ローラは,対象をじゃがいも,玉ねぎ等の農作物とし,その搬送及び磨きに使用するものであって,本願発明とはローラの用途が異なる。
引用例3に記載のローラの回転数は比較的低回転であるとともに,押付け力についても,作物を傷めることのないようさ程大きくはない。他方,本願発明の円筒研磨ブラシは,研磨材の表面仕上げに使用され,回転数も高く(通常には2000rpm),また,金属表面への研磨を達成するため大きな押付け力を要するものであり,引用例3に記載のものとは基本的構成が異なる。引用例3に記載の搬送用回転ローラを,円筒研磨ブラシに適用することは困難である。被告は,引用例3に記載の技術事項におけるローラ本体を研磨をなす具体的な対象物に適用する際に,原告が主張するように,回転数を低く,また押付け力を小さくする必要はなく,回転数及び押付け力は,適用する対象物に応じて適宜決定される設計事項である旨主張するが,引用例3には,そもそも,農作物用の搬送用回転ローラ以外の他の用途が開示されていないのであるから,被告の主張は前提において誤っている。
ウ さらに,引用例3に記載のローラでは,単一のローラ本体へブラシを植設しており,本願発明のように,@「コア本体とブラシ取付け外管との2重構造のうちブラシ取付け管に限ってブラシを植設」する点を備えたものではなく,ブラシの植設態様が相違する。また,引用例3に記載のローラにおいては,ブラシ植設孔の底部は平底であり,引用発明3は,本願発明におけるA「円孔をなすブラシ植設孔の底部は頂角が90°又は鋭角の逆円錐形に形成され,ブラシ束の基部に巻き懸けられた線材の止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで外管内に食込み状に係合させてなる」点を示唆するものではない。本件審決は,引用例3に「合成樹脂製の部材であるローラ本体に,複数の円孔をなす植設孔が穿設され,その植設孔に刷毛が,止め針により植設される。」点が記載され,引用発明1にこの技術事項を適用することは容易であると判断しているが,引用例3において,止め針の突出端の押し込みは,「底部の平底」になされるものであり,円孔の逆円錐型底部になされるものではない。
したがって,引用発明3から相違点2に係る本願発明の植設態様を想到することはできない。
被告は,植設孔の「底部」の形状について,止め針の突出端により押し込んだ際に係止されるものであれば,「底部」の形状は問わない旨主張するが,この主張は,引用例3に記載(図面を含む。)の事実を無視したものであって失当である。
(3) 周知技術の把握について ア 本件審決は,実公昭28-1173号公報(甲8)を例示して,「ブラシの植毛方法として,植毛する部材に円孔を,その底部を逆円錐形となるように穿孔し,ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ部にワ字形の止め金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで,植毛する部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛する」技術が周知技術であると認定しており,この点に関し,被告は,甲8の図面には,「素材1に穿った孔2内に,毛束3を2つ折りとしてワ字形の釘5に掛けて,釘5を孔2の底部の傾斜面に沿って押し込んで,釘5の先端部を交叉状に食い込ませた状態」が示されていることが認められる旨主張している。
しかし,同図面には,「底部の傾斜面に沿って押し込む」とは記載されておらず,食い込ませた状態が記載されているにすぎない。したがって,甲8には,上記技術が開示されているとはいえない。甲8の図面に,ワ字形の2脚釘5の脚部が孔底の傾斜面に直交状をなして食い込む状態が開示されていることからすると,甲8記載の技術は,傾斜面に沿わせることなく(平底であれば滑ってしまう),その折曲部の突刺4が孔壁に圧入されるものであり,「傾斜面に沿って押し込む」ものではない。
イ 被告は,甲8において,ワ字形の止め金具を円孔に押し込んでいけば,止め金具の先端部は,円孔の底部の傾斜面に当接した後,該先端部は押し込みとともに,傾斜面に沿って押し込まれるものであることは明らかである旨主張するが,止め金具はワ字形をなすものであり,当初より内方へ先細状(交差状)に折り曲げられており(平行でない),当該止め金具の押し込みにより,決して,傾斜面に沿って押し込まれることはない。
ウ 本件審決は,甲8に記載の技術に関する認定を誤っている。
(4) 論理付けについて 加えて,本件審決は,「引用例2に記載の技術事項を適用する際に,コア本体への硬質合成樹脂製のブラシ取付け管の固定手段として,引用例2に記載のネジ固定を周知の接着固定とすることは,当業者であれば適宜なし得る程度のもの」であると,また,「ブラシの植毛に関する引用例3に記載の技術事項を適用する際に,この周知技術を合わせて施し,止め金具先端部を交叉状となるように,円孔の底部の逆円錐形の角度を適宜決定して,相違点2における本願発明の構成の如くすることは,当業者であれば容易になし得るもの」であると認定判断している。
上記判断は,引用発明1に,引用例2,3に記載の各技術事項を適用するに当たり,引用例2,3に記載の各技術事項に更なる技術手段を付加して適用するという,屋上屋を重ねた論理付けによるものであり,その判断に合理性があるとはいえない。
また,本件審決の判断は,引用例2に記載の技術事項に引用例3に記載の技術事項を適用し,その結果を引用発明1に適用するという2段の論理付けによるものであり,論理付けが十分でなく妥当なものとはいえない。
本件審決の判断は,本願発明を知った上での予断に基づくものであって,失当である。
(5) 顕著な作用効果について 本願発明においては,相違点2に係る構成により,@ブラシ植設孔の穴加工は,合成樹脂製のブラシ取付け管に対してのみなされるので,その作業は容易であるとともに,製作効率の向上を図り得る,また,穴加工に伴う歪みはコア金具により阻止され,所定の精度が保持される,さらに,ブラシ植設孔へのブラシ束の植設については,ブラシ束はその止め金具がブラシ植設孔からブラシ取付け管内に食い込み,該止め金具を介して強固な定着がなされるから,穴加工,ブラシ束の植設作業の効率が向上し,生産性の向上が計れる,Aブラシ植設孔へのブラシ束の植設操作において,止め金具はブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿ってブラシ取付け管内に押し込まれ,斜め方向に向かい,ブラシ取付け管に食い込むので,小さな深さで十分な定着長さが得られ,ブラシ植設孔の深さの短小化に寄与する結果,ブラシ取付け管の厚みを小さくでき,コア金具の径小化を図ることができる,という顕著な作用効果が奏される。
本件審決は,この顕著な作用効果を看過し,相違点2に係る構成による作用効果は格別のものではないと誤って認定している。
(被告の反論) 本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がない。
1 取消事由1(審理手続の瑕疵)について (1) 原告は,本件出願に係る審査において手続補正後にあらためて拒絶理由を通知することなく本件拒絶査定がされ,また,本件審判の手続において,拒絶理由が通知されないまま本件審決がなされており,上記審査,本件審判の手続には瑕疵がある旨を主張する。
しかし,本件出願の審査において,担当審査官は,原告がした明細書の「特許請求の範囲」を限定的に減縮する補正に関し,当該補正部分は周知事項であるとして(周知例として,特開平7-250711号公報を例示したものである。),本件拒絶査定をしたものであり,それに先だって通知した拒絶理由とは異なる新たな拒絶理由に基づいて本件拒絶査定をしたものではない。したがって,当該審査の手続,本件審判の手続において,担当審査官ないし担当審判長があらためて拒絶理由を通知しなかったことに手続上の瑕疵はない。
(2) また,本件審決において引用された,実公昭28-1173号公報(甲8)は,ブラシの植毛方法として,植毛する部材に円孔をその底部を逆円錐形となるように穿孔し,ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ部にワ字形の止め金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで,植毛する部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛することが周知技術であることを示すためのものである。上記技術が周知であることは,実公昭31-16861号公報(乙1)からも明らかである。
しかして,周知技術は,当業者が当然に熟知しているべき事柄であって,逐一示されなければその存在が分からないというものではないから,これを原告に提示して意見を述べる機会を付与することは必要でなく,本件審判の手続において,甲8を提示した拒絶理由を通知しなかったことに手続上の瑕疵はない。
(3) したがって,上記審査,本件審判の手続には,何らの瑕疵もない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 引用例1には,「各半割基台2は半割筒体3およびその両端部における内周面にそれぞれボルト結合等の固着手段4により固着されたスペーサ片5から構成されている。」(段落【0008】)と,スペーサ片5をボルトにより固着することが記載されている。固定手段として,ボルトによる固定もピンによる固定も周知であるから,引用発明1において,固着手段であるボルト結合に代えて,周知のピン固定を適宜採用し得ることは明らかである。
また,原告が主張する,ピン固定の効果は,いずれもピンにより固定する場合に,一般的に奏される効果であって,周知のピン固定手段が当然に有しているものである。
(2) したがって,本件審決の相違点1についての判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について (1) 動機付けについて ア 原告は,引用発明1ないし3は,本願発明とは技術的課題を異にするものであり,引用例2及び引用例3に記載の各技術事項を引用発明1に適用し得るとする動機付けはないと主張する。
しかし,発明の課題は,本願発明と引用例に記載の発明との相違点について,容易推考性を判断する際において,必要に応じて参酌される事項であり,本願発明と引用発明1ないし3の技術的課題が相違しているとしても,そのことをもって本願発明の容易推考性は否定されない。
イ 引用発明1は,ロータリー研磨体用基台についての発明であって,研磨ブラシの技術分野に属するものであり,一方,引用発明2は,ロールの用途として研磨が挙げられていることから,引用発明1の研磨ブラシと同一の技術分野に属するといえ,また,引用発明3は,その用途としては,搬送のみならず,「磨き」が挙げられていることから,具体的な対象物はともかく,引用発明1と同様な研磨をなすことが可能なものであり,引用発明1の研磨ブラシと同一の技術分野に属するといえる。
ウ したがって,引用発明1と引用例2及び3に記載の各技術事項は,同一技術分野に属するブラシロール,それも研磨をなすブラシロールに関するものであるから,引用発明1に,引用例2及び3に記載の各技術事項を適用する,あるいは適用し得ることについての動機付けは十分であるといえ,また,上記引用例の各技術事項を引用発明1に適用する,あるいは適用し得ることについて阻害要因もないものである。
(2) 構成等の相違について ア 原告は,引用発明2及び3は,本願発明とは基本的構成において異なるなどと主張する。
しかし,本件審決は,引用発明2を,「アルミ製の円筒状をなす軸半体と,前記軸半体に外嵌される硬質合成樹脂製の中芯半体とがネジ固定されてなり,前記硬質合成樹脂製の中芯半体にブラシを植毛した半割式のロール。」と認定したものである。本件審決は,引用発明2の,軸半体と中芯半体との取付け態様,中芯半体へのブラシの植毛について,引用発明1に適用可能と判断したものであって,引用例2に,ブラシ材の植設手段の具体的開示がないことは,上記認定を左右するものではない。
そして,接着は固定手段として周知であるから,引用発明1に,引用例2に記載の技術事項を適用する際にかかる周知技術を施して適用することは,当業者であれば容易になし得る程度のものである。
イ 引用例3には,発明の用途として,搬送のみならず,「磨き」が挙げられている。そうすると,具体的な対象物はともかく,本願発明と同様な研磨をなすことが可能なものであり,引用例3に記載の技術事項は,本願発明と同様な用途に用いることが可能である。そして,引用例3に記載のローラ本体を研磨をなす具体的な対象物に適用する際には,原告が主張するように,回転数を低く,また押付け力を小さくする必要はなく,回転数及び押付け力は,適用する対象物に応じて適宜決定される設計事項である。
ウ 本願発明が要件とする「前記ブラシ植設孔は円孔をなすとともにその底部は頂角が90°又は鋭角の逆円錐形に形成され,前記ブラシ束はその基部に線材の止め金具がその先端を突出して巻き懸けられて装着され,該止め金具の突出端を前記ブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで前記外管内に食込み状に係合させてなる,」点について,本件審決は,周知技術として認定しており,後記(3)に述べるとおり,この認定に誤りはない。
また,本件審決は,引用発明3について,「複数の円孔をなす植設孔が穿設され,その植設孔に刷毛が,止め針により植設される」ものと認定したものである。この植設孔の「底部」の形状については,止め針の突出端により押し込んだ際に係止されるものであれば,その形状は問わないというべきである。
(3) 周知技術の把握について ア 原告は,本件審決の周知技術の認定には誤りがあると主張する。
しかし,本件審決が周知例として例示した実公昭28-1173号公報(甲8)の図面には,素材1に穿った孔2内に,毛束3を2つ折りとしてワ字形の釘5に掛けて,釘5を孔2の底部の傾斜面に沿って押し込んで,釘5の先端部を交叉状に食い込ませた状態が開示されていることが認められる。そして,「傾斜面に沿って押し込」む点については,円孔が逆円錐形の底部を有し,これにワ字形の止め金具を挿入するものであるから,ワ字形の止め金具を円孔に押し込んでいけば,止め金具の先端部は,円孔の底部の傾斜面に当接した後,該先端部は押し込みとともに,傾斜面に沿って押し込まれるものであることは明らかである。
甲8の記載に従ってみれば(部材を括弧書きで示す。),そこに開示された周知技術は,「ブラシの植毛方法として,植毛する部材(素材1)に円孔(孔2)を,図に示される如く,その底部を逆円錐形となるように穿孔し,ブラシ束(毛束3)を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ部にワ字形の止め金具(2脚釘5)を掛け,該止め金具(2脚釘5)を上記円孔(孔2)の底部の傾斜面に沿って押し込んで,植毛する部材(素材1)に止め金具(2脚釘5)の先端部を,図に示される如く,交叉状に食い込ませて植毛すること。」ということになる。
イ 上記のとおり,本件審決の甲8に関する解釈に誤りはなく,その周知技術の認定に誤りはない。
(4) 論理付けについて ア 原告は,本件審決の論理付けが妥当ではない旨主張する。
しかし,引用発明1に,引用例2に記載の技術事項を適用する際に周知又は慣用技術を施して適用することは,当業者であれば容易になし得る程度のものである。また,引用発明1に,引用例3に記載の技術事項を適用する際も同様である。
イ また,本件審決は,引用発明1に,引用例2及び3に記載の各技術事項を別個に適用しており,上記各技術事項を適用する際にそれぞれ周知技術を施したものであることは,明らかである。
すなわち,本件審決は,引用発明1の半割り式円筒研磨ブラシのコア本体へ,引用例2の技術事項である,半割り式円筒研磨ブラシにおいて,コア本体に硬質合成樹脂製のブラシ取付け管を固定をもって外嵌する点を適用し,その際に,ブラシ取付け管の固定手段として,引用例2に記載のネジ固定を周知の接着固定(以下,(被告の反論)中において「周知技術1」という。)とすることは,当業者であれば適宜なし得る程度のものであるとしたものである。なお,この引用例2に記載のネジ固定については,本件審決は,引用発明2の認定において,「ネジ固定されてなり,」と認定しており,固着手段の「ネジ固定」により固定されている部材が,特に取り外し自在であると認定していないが,これは本願発明自体が,「接着固定」であって,取り外しを問題にするものではないからである。
また,本件審決は,引用発明1のブラシを取り付けるにあたり,ブラシの植毛に関する引用例3に記載の合成樹脂製の部材であるローラ本体に,複数の円孔をなす植設孔を穿設し,その植設孔にブラシ束を,止め金具により植設する技術事項,及び植毛する部材に円孔をその底部を逆円錐形となるように穿孔し,ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ部にワ字形の止め金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで,植毛する部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛するという周知技術(以下,(被告の反論)中において「周知技術2」という。)を合わせて施し,止め金具先端部を交叉状となるように,円孔の底部の逆円錐形の角度を適宜決定して,本願発明の如く構成することは容易であるとしたものである。
ウ 上述の如く,本件審決は,引用例2及び3に記載の各技術事項を引用発明1に別個に適用したものであり,また,その適用の際に,上記各周知技術をそれぞれ考慮して本願発明の進歩性を判断したものであって,論理付けに誤りはない。
(5) 顕著な作用効果について ア 原告の主張する作用効果の1つは,本件明細書に,「本円筒研磨ブラシBの本体部は内側のアルミ製のコア金具2と外側の合成樹脂製のブラシ取付け管5との合成によるので,全体的に軽量化するとともに,全体的な外径精度並びに長さ方向へのたわみ精度が向上し,大径化・長尺化が可能となる。」(段落【0024】)と記載されていることに基づくものである。ここで上記「合成」は,本件明細書の「ブラシ取付け管5も2つの半円筒状体よりなり,コア本体6に接着をもって固定される。」(段落【0020】)の記載より「接着」を意味するものと解される。
しかし,上記構成は,引用発明2に周知技術1を施したものと同じであって,上記の作用効果は,引用発明2に周知技術1を施したものから推測できる程度のものである。
イ 上記原告の主張する作用効果の他の1つは,本件明細書に,「ブラシ植設孔22の形成が合成樹脂材のブラシ取付け管5に対してなされるので穴加工が容易であるとともに,該ブラシ植設孔22へのブラシ束23の植設に付き,ブラシ束23はその止め金具26がブラシ植設孔22からブラシ取付け管5内に食い込み,該止め金具26を介して強固な定着がなされる。これにより,穴加工,ブラシ束23の植設作業の効率が向上し,生産性の向上を図ることができる。」(段落【0024】)と記載されていることに基づくものである。
しかし,上記構成は,引用発明1に適用される引用例3に記載の合成樹脂製のロール本体に,植毛に関する周知技術2を施したものと同じであって,上記作用・効果は,引用発明3及び周知技術2のものから推測できる程度のものである。
ウ したがって,本願発明の作用・効果は,引用発明1ないし3及び2つの周知技術1,2により当業者が予測し得る程度のものであり,格別なものではない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(審理手続の瑕疵)について (1) 原告は,本件出願の審査において,拒絶理由通知が発せられた後に原告において明細書の「特許請求の範囲」を減縮する補正をしたから,担当審査官は,あらためて拒絶理由を通知すべきであるのに,これを怠り実質的に新たな拒絶理由により本件拒絶査定をしており,上記審査の手続には瑕疵があるとし,そうである以上,本件審判の手続において,担当審判長は,あらためて拒絶理由を通知し,原告に意見を述べる機会を与える必要があったのに,これを怠って本件審決に至ったものであり,本件審判の手続には瑕疵がある旨主張する。
しかしながら,出願の審査において,拒絶理由の通知がされた後に出願に係る明細書の「特許請求の範囲」が補正により減縮されたとしても,先に通知した拒絶理由が解消されないときには,担当審査官は,あらためて特許法50条の規定による拒絶理由の通知をして,出願人に意見を述べる機会を与える必要はなく,先にした拒絶理由通知を前提として拒絶査定をすることができるものと解される。
(2) 本件についてみると,前記第2の1の事実に証拠(甲3,10,11)及び弁論の全趣旨を併せれば,本件出願の審査において,担当審査官は,拒絶理由の通知後に本件出願に係る明細書の「特許請求の範囲」等につき補正がされたものの,その補正に係る事項は周知技術に属するとの認定の下,本願発明は,先に通知した拒絶理由で引用した引用文献及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,との理由で本件拒絶査定をしたことが認められる。このように補正された事項が周知・慣用技術に属するような場合,周知・慣用技術は,当業者が,当然知っているべき技術であり,先に通知した拒絶理由は解消されないことになると考えられるから,担当審査官は,上記のとおり,あらためて拒絶理由の通知を発することなく,拒絶査定をすることができるというべきである。そして,後記説示のとおり,上記補正の内容は周知技術に属するとの本件拒絶査定における認定にも誤りはないから,本件出願の審査において,あらためて拒絶理由を通知しなかったことに手続上の瑕疵はない。
したがってまた,本件出願の審査手続に上記の瑕疵があることを前提として,本件審判の手続に瑕疵があるとする原告の主張は,その前提において失当である。
(3) 原告は,本件審決は,周知技術に名を借りて,新たな公知文献(実公昭28-1173号公報(甲8))に基づいて判断をしているが,新たな公知文献を判断の資料とするのであれば,担当審判長は,原告に対し,あらためて拒絶理由を通知して意見を述べる機会を与えるべきであったのに,これを怠って本件審決に至ったものであり,本件審判の手続には瑕疵がある旨主張する。
しかしながら,本件審決は,審査段階で通知した拒絶理由で引用された公知文献に周知技術を組み合わせることにより,相違点1,2に係る本願発明の構成を想到することは容易であると判断したものであり,新たな拒絶理由に基づいて本件拒絶査定を維持したものでないことは明らかである。原告は,本件審決がその判断に引用した実公昭28-1173号公報(甲8)は周知例ではなく,公知文献にすぎないかのようにいうが,甲8は,本件出願の審査段階での上記補正に係る事項が周知技術に属することを明らかにするための証拠として引用されたものであり,それが周知技術を開示したものであることは後記に説示するとおりである。
しかして,このような周知技術に係る文献を引用して拒絶査定を維持することは,審判において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には当たらないから,本件において,甲8を提示した拒絶理由を通知して,原告に意見を述べる機会を与えることは要しないというべきである。
上記原告の主張は採用できない。
(4) したがって,本件拒絶査定,本件審決に手続上の瑕疵はなく,原告主張の取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,本願発明において,ピンによる固定は他の構成要素と有機的に結合するものであって,研磨ブラシの技術分野においては,ピンによる固定とネジによる固定とでは技術的意義が異なるから,ネジによる固定をピンによる固定とすることが容易であるとはいえない旨を主張する。
(2)ア そこで,まず,本願発明におけるピン固定の技術的意義について検討するに,本件明細書(甲3,4)には次のとおり記載されている。
(ア) 「【従来の技術】一般に,この種の半割り式研磨ロールのコア金具は,2つの半円筒体相互の組付けをもって構成され,各半円筒体は両端の厚肉部と中央の薄肉部とから形成され,厚肉部にはボルト挿通用の孔が貫通状に開設される。そして,このコア金具の外周にはバフ又はブラシが取り付けられる。しかして,このコア金具は従来より鋳造をもって成形されることを通常とするが,その成形上の手間,製作精度,及び成形後の加工手間と種々問題がある。すなわち,成形過程においては一品毎の砂型の作成,固化に要する時間,巣の発生等,熟練と手間を要する。また,製作精度において高い寸法精度を得ることが困難であり,回転軸への取付けにおいて密着性が得られず,また,回転軸とともに回転する際には振れが生じるという欠点がある。」(段落【0002】) (イ) 「(作用)このコア金具によれば,コア本体と介装金具とはそれぞれ別体をもって組み付けられるものであり,それぞれ高い成形精度で作製され,それらの組付け体も高い寸法精度が得られる。コア本体と介装金具との組付けは,それらの肉厚に穿設されたピン挿通孔内に取付けピンを強嵌挿することにより一体化されるので,組立てが容易であるとともに,強固な構造が得られる。」(段落【0006】) (ウ) 「取付けピン8及びピン挿通孔 取付けピン8は,コア本体6と介装金具7とを所定の取付け位置関係を保持して一体的に組み付けるものであって,円柱状をなし,コア本体6の側面に貫通状に穿設されたピン挿通孔13と介装金具7の側面に貫通状に穿設されたピン挿通孔14とに跨がってがた付くことなく嵌挿入される。」(段落【0012】) (エ) 「(第1実施形態の作用・効果)以上のように本実施形態の研磨ロールのコア金具2によれば,コア本体6と介装金具7とが別体となっており,コア本体6並びに介装金具7は実質的に一定厚さの半円筒状体をなすので,その成形が容易で,かつ,仕上がり精度もよく,それらの組付け体も高い寸法精度を得ることができる。コア本体6と介装金具7との組付けは,それらの肉厚に穿設されたピン挿通孔13,14内に取付けピン8を強嵌挿することにより一体化されるので,強固な構造が得られるとともに,組立てが容易であり,削り出し工程を要せず,製作費用の低減を図りうる。」(段落【0017】) (オ) 「【発明の効果】本発明の半割り式研磨ロールのコア金具によれば,コア本体と介装金具とが別体となっており,コア本体並びに介装金具は実質的に一定厚さの半円筒状体をなすので,その成形が容易で,かつ仕上がり精度もよく,それらの組付け体も高い寸法精度を得ることができる。更に,コア本体と介装金具との組付けはそれらの肉厚に穿設されたピン挿通孔内に取付けピンを強嵌挿することにより一体化されるので,強固な構造が得られるとともに,組立てが容易であり,削り出し工程を要せず,製作費用の低減を図りうる。」(段落【0026】) イ 上記認定の記載からすると,ピンは,別体で形成されたコア本体と介装金具とを,一体化することを目的として用いられるものであり,コア本体と介装金具とを一体化することにより,強固な構造を得るとともに,一体化手段としてピンを用いることにより,組立てを容易とし,削り出し工程を不要とし,製作費用の低減を図るという作用効果を奏するものと認められる。
(3) また,原告は,ピン固定を採用することによって,前記第3(原告主張の取消事由)2(2)アの@ないしDの作用効果を奏すると主張している。
しかし,コア本体と介装金具とを一体化することにより強固な構造を得ること(上記A)は,ピン自身が本来的に有している作用効果であり,成形の容易性(上記@),コア金具の長尺化等(上記D)については,コア本体を介装金具と別体で形成することから得られる効果であって,ピン固定によりもたらされる効果ではない。また,削り出し工程を不要として製作費用の低減を図ること(上記B),孔開け作業の効率化(上記C)は,孔開け作業をコア本体と介装金具とで別々に行うことの効果,すなわち半割り式研磨ロールの製造の上で奏される効果であって,本願発明で採用されたピン固定の構成自体により奏される効果であるとはいえない。そうすると,本願発明のピン固定は,コア本体と介装金具とを結合するというピン固定本来の機能を果たしているにすぎず,ピン固定と他の構成とが相俟って,格別の作用効果が奏されていると認めることはできない。
したがって,本願発明において,ピン固定が他の構成と有機的に結合しているとも認めることはできず,ピン固定を研磨ブラシの技術分野において用いたことに格別の技術的意義を認めることはできない。
(4) 一方,引用例1(甲5)には,「【実施例】次に図面により本発明のロータリーブラシ用またはロータリー研磨体用基台の実施例を説明する。図1は本発明の基台を使用したロータリーブラシの一例を示す断面図であり,図2はそれを正面からみた部分断面図である。ロータリーブラシ用またはロータリー研磨体用基台1は一対の半割基台2からなり,各半割基台2は半割筒体3およびその両端部における内周面にそれぞれボルト結合等の固着手段4により固着されたスペーサ片5から構成されている。」(段落【0008】)と記載されており,この記載によれば,固着手段4は,半割筒体3とスペーサ片5とを固着するために用いられているものであることが認められる。
そして,引用例1の上記記載において「ボルト結合等の固着手段4」と記載されていることからすると,ボルト結合は,半割筒体3(コア本体)とスペーサ片(介装金具)との固着手段4の例示であると解されるから,引用発明1において,固着手段4として,ボルト結合でなければならない理由はないということができ,他の固着手段を用いることも,当業者が容易に想到できるというべきである。
そして,弁論の全趣旨によれば,ピン固定は,機械の技術分野において周知の固着手段であると認められるから,研磨ブラシの技術分野の当業者においても,当然に知悉しているものであり,前記(3)のとおり,ピン固定を研磨ブラシの技術分野において用いたことに格別の技術的意義も認められないことをも考慮すれば,引用発明1において,ボルト結合に代えてピン固定を採用することには何ら困難性はないというべきである。
なお,原告は,引用発明1の固着手段4では,半割筒体とスペーサ片とを一体としてネジ孔の螺設作業をなす必要があるとし,ピン固定の優位性を主張するが,仮に,原告主張のとおりであるとしても,本願発明は「もの」の発明であるところ,上記の作用効果は,半割り式研磨ロールの製造方法の発明の場合に得られるものであって,当該「もの」の発明の場合に得られるものではない。
(5) 以上のとおり,本件審決の相違点1についての判断が誤りであるとはいえず,原告主張の取消事由2には理由がない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について (1) 動機付けについて 原告は,引用例2及び3に記載の技術事項を引用発明1に適用することには動機付けがないというべきであり,この点に関する本件審決の判断は誤っている旨を主張する。
ア そこで検討するに,出願に係る発明の進歩性の有無は,一般には,本願発明と主引用例に記載された発明との構成の一致点,相違点を認定し,主引用例に記載の発明に副引用例に記載の発明を適用することにより上記相違点に係る構成を想到することが容易かどうかを検討して判断すべきものと解される。そして,その判断において考慮されるのは,主引用例に記載の発明に副引用例に記載の発明を組み合わせる動機付けの存在であるが,主引用例,副引用例に記載された各発明が同一技術分野に属する技術であれば,当業者がそれらの技術の組合せについて検討することはたやすいことであり,この場合には,両発明の組合せに阻害要因があるなどの特別の事情がない限り,一般的には,両発明の組合せの動機付けが存在するというべきである。
上記両発明の組合せの動機付けの1つとして,他に,主引用例,副引用例に記載された各発明の目的が同一であることを挙げることができる。しかしながら,進歩性が問題となる出願に係る発明と主引用例,副引用例に記載された各発明の目的の異同については,これを必ず考慮しなければならないというものではない。なぜなら,出願に係る発明の目的は,出願人が認識する従来技術が有している技術的課題によって主観的に定まるものであり,必ずしも,客観的なものとはいえないし,主引用例に記載の発明に副引用例に記載の発明を組み合わせて出願に係る発明が容易に想到できるのであれば,当該発明の目的は客観的に達成されることになるからである。
イ 引用例1に研磨ブラシであるロータリーブラシに関する技術事項が開示されていることは原告の自認するところであり,また,引用例2(甲6)には「アルミ製の円筒状をなす軸半体,前記軸半体に外嵌される硬質合成樹脂製の中芯半体とがネジ固定してなり,前記硬質合成樹脂製の中芯半体に植毛した半割式のロール」の技術事項,引用例3(甲7)には「合成樹脂の部材であるローラ本体に,複数の円孔をなす植設孔が穿設され,その植設孔に刷毛が,止め針により植設される」との技術事項がそれぞれ開示されている。しかして,引用例2,3に記載の技術事項はいずれもブラシに関する技術であり,引用発明1の研磨ブラシとは同一の技術分野に属するものであるから,引用発明1には引用発明2,3を適用する動機付けが存在するというべきである。
(2) 構成の相違(接着固定とネジ固定)について 原告は,引用例2に記載のものは,ブラシ材の植設手段の具体的開示がなく,また,その中芯半体が軸半体より取外し自在であることが必須となっており,本願発明とは基本的構成において異なり,また,本願発明と引用発明1との固定手段はその技術的意義を異にしており,引用例2に記載のものは,中芯半体と軸半体とを固定接着することを示唆するものではないから,相違点2の接着固定に係る構成は当業者が適宜なし得る程度のものではない旨主張するので,以下検討する。
ア 本願発明における「接着」の技術的意義 本願発明における「接着」の技術的意義についてみるに,本件明細書(甲3,4)の「特許請求の範囲」の請求項1には,「前記コア本体に硬質合成樹脂製のブラシ取付け管が接着固定をもって外嵌される」と記載されている。同請求項1には,他に,「接着固定」について規定する記載は認められないから,この「接着固定」が,いかなる態様のものであるかは上記請求項1の記載からは必ずしも明らかでないが,その「発明の詳細な説明」中には,「該ブラシ取付け管5も2つの半円筒状体よりなり,コア本体6に接着をもって固定される。」(段落【0020】)と記載されていることから,本願発明において「接着固定」とは,コア本体と硬質合成樹脂製のブラシ取付け管とを接着により固定することを意味しているものと認められ,「接着」の技術的意義は,コア本体と硬質合成樹脂製のブラシ取付け管とを空間的に一体化することにあるものと解される。
イ(ア) 本件明細書(甲3,4)の「発明の詳細な説明」の項には,「接着」に関連して,別の観点から次のとおり記載されている。
a 「(第1実施形態)・・・図1〜図3に示すように,Rは本実施形態の半割り式研磨ロール(以下,単に「研磨ロール」という)であり,該研磨ロールRは回転軸1に取り付けられて回転駆動される。しかして,この研磨ロールRは,装着される回転軸1の中心を含む平面をもって2分割された半割り体Ra,Rbが合体されて一体とされ,それぞれの半割り体Ra,Rbは,半円筒状をなすコア金具2と,該コア金具2の外側に積層状に巻き付けられる同じく半円筒状のバフ3とからなる。そして,この半割り研磨ロールRは,それぞれの半割り体Ra,Rbが独立して取付け具4をもって回転軸1に取り付けられ,一体となったとき,コア金具2並びにバフ3は横断面形状において真円状を保持する。」(段落【0007】,【0008】) b 「取付けピン8は,コア本体6と介装金具7とを所定の取付け位置関係を保持して一体的に組み付けるものであって,円柱状をなし,コア本体6の側面に貫通状に穿設されたピン挿通孔13と介装金具7の側面に貫通状に穿設されたピン挿通孔14とに跨がってがた付くことなく嵌挿入される。」(【0012】) c 「(第2実施形態)・・・この実施形態においては,回転式円筒研磨ブラシへの適用を示し,Bはその円筒研磨ブラシである。・・・この円筒研磨ブラシBにおいても,半割り体Ba,Bbとされ,コア金具2はコア本体6と介装金具7とが取付けピン8で一体化されること・・・は先の実施形態と同じである。・・・本円筒研磨ブラシBにおいて特徴的なことは,コア本体6に硬質合成樹脂製のブラシ取付け管5が外嵌されるとともに,該ブラシ取付け管5に多数のブラシ植設孔22が穿設され,このブラシ植設孔22にブラシ束23が植設されてブラシ3Aが取り付けられるものである。・・・ブラシ取付け管5は所定の厚みを持つ直円筒状をなし,コア本体6よりも短くされ,その内径はコア本体6の外径に一致し,コア本体6の外側に密着状に嵌合され,コア本体6に一体的に固定される。・・・該ブラシ取付け管5も2つの半円筒状体よりなり,コア本体6に接着をもって固定される。・・・ブラシ植設孔22は,横断形状が円形をなし,ブラシ取付け管5に一定深さにわたって穿設されるとともに,ブラシ取付け管5の外周に一定の間隔を保って多数穿設される。」(段落【0018】〜【0021】)。
d 「この第2実施形態の円筒研磨ブラシBによれば,・・・以下の効果を有する。本円筒研磨ブラシBの本体部は内側のアルミ製のコア金具2と外側の合成樹脂製のブラシ取付け管5との合成によるので,全体的に軽量化するとともに,全体的な外径精度並びに長さ方向へのたわみ精度が向上し,大径化・長尺化が可能となる。また,ブラシ植設孔22の形成が合成樹脂材のブラシ取付け管5に対してなされるので穴加工が容易であるとともに,該ブラシ植設孔22へのブラシ束23の植設に付き,ブラシ束23はその止め金具26がブラシ植設孔22からブラシ取付け管5内に食い込み,該止め金具26を介して強固な定着がなされる。これにより,穴加工,ブラシ束23の植設作業の効率が向上し,生産性の向上を図ることができる。」(段落【0024】) これらの記載によれば,半割り式研磨ロールは,半割りのコア本体6と半割りのブラシ取付け管5とが接着により一体化している半割り体の状態で,半割り体のブラシ取付け管5に対するブラシ植設孔の穴加工がなされ,次いで,ブラシ植設孔へのブラシ植設がなされるという工程を経て製造されること,また,かかる製造工程によれば,半割り体を形成した後に,穴加工を含めたブラシ植設作業を行うため,ブラシ植設作業が容易で,研磨ロールを所定の精度に保持できることが認められ,穴加工を含めたブラシ植設作業に先立ち,予め,コア本体6とブラシ取付け管5とを一体化して半割り体を作製しておくこと,すなわち,「接着工程」を「ブラシ植設工程」の前工程として採用したことに「接着」の技術的意義を認めることができる。
(イ) しかしながら,本願発明は「もの」の発明であるから,その構成要件が有する技術的意義については,あくまでも,その構成要件を形成する部材の形状,構造,部材の空間的配置等によりもたらされる技術的意義が把握されるべきであり,「もの」の製造される工程においてもたらされる技術的意義を把握することは適切でない。
そうすると,本願発明において,「接着固定」,すなわち,コア本体と硬質合成樹脂製のブラシ取付け管とを接着により固定することの技術的意義は,コア本体と硬質合成樹脂製のブラシ取付け管とを空間的に一体化することにあると解すべきである。他方,「接着工程」を「ブラシ植設工程」の前工程として採用したことによる「接着」の技術的意義は,「接着」による「固定」と,ブラシ植設工程に先立つ「接着工程」の採用という,特定の製造工程とを組み合わせることにより発揮されるものであって,製造方法とは切り離された「もの」の発明において発揮されるものではなく,本願発明における「接着固定」の技術的意義は,回転式円筒研磨ブラシの製造工程において,穴加工を含めたブラシ植設作業に先立ち,コア本体と硬質合成樹脂製のブラシ取付け管とを一体化しておくことにあるのではないと認められる。
ウ 引用発明2における「ネジ固定」の技術的意義 (ア) 引用例2(甲6)には,次のとおり記載されている。
a 「中芯半体6の外周に不織布7を接着固定した状態のものを用意する。第4図に示すように軸半体5の中央部5aの外周に上記不織布7を接着固定された中芯半体6の内周6aを当接させる。次にネジ12を軸半体5の周縁部両側の凹部5c側より貫通孔5e1〜5e 4に挿入し中芯半体6のネジ孔6b 1〜6b 4に螺入する。」(明細書6頁7〜13行) b 「このようにして組付けられたロール半体3,4を・・・回転軸2を介在させて互いに対向させる。そして,ネジ11を固定部5bの孔5dより挿入し回転軸2の孔2aを挿通させて軸半体8のネジ孔8aに螺合させる。」(同6頁18行〜7頁2行) c 「新品の不織布7(10)を設けられた中芯半体6(9)を複数本用意しておけば,即座に新品の不織布7(10)に交換できる。また高価な軸半体5,8は一組あれば良いため,ユーザの経済的な負担が小さい。・・・また,中芯半体6,9は,合成樹脂等により安価に成型されているため,摩耗した不織布7,10と共に捨てても経済的な損失は小さくて済む。」(同7頁16行〜8頁5行) (イ) 上記記載によれば,ネジ12が,軸半体5,8と中芯半体6,9とを固定するためのものであることは明らかであり,引用発明2において,ネジ固定の技術的意義は,軸半体5,8と中芯半体6,9との空間的な一体化にあるといえる。
エ そうすると,本願発明の「接着固定」と,引用発明2の「ネジ固定」とは,技術的意義において一致するというべきである。これらの技術的意義が相違しているとする原告の主張は採用できない。
他方,上記ウ(ア)cの記載からすると,引用発明2において,軸半体5と 中芯半体6とを固定するために,「ネジ」を用いたのは,軸半体5と中芯半体6との固定を解いて,中芯半体6を新品に交換できるようにするためと認められるところ,中芯半体の交換は,経済的要因を考慮してのことであって,技術的要因からの要請によるものではないから,「ネジ」による固定によらず,他の固定手段も採用でき,また,経済的に許されるのであれば,中芯半体を交換する必要のないものとすることも当業者に明らかである。しかして,「接着」が固定手段の1つであることは技術常識に属することであり,上記のとおり,引用発明2において,「ネジ」以外の固定手段を採用できることは明らかであるから,引用発明2における軸半体5と中芯半体6との固定手段として「接着」を用いることは,当業者ならば容易に想到できることというべきである。
原告は,引用発明2において,中芯半体が取り外し自在であることから,「接着」を採用することは容易ではない旨主張するが,上記したとおり,引用発明2において,中芯半体を取り外し自在とする必然性はないといえるから,原告の主張は採用できない。
以上のとおり,本願発明における「接着固定」と,引用発明2における「ネジ固定」とは,技術的意義を同じくするものであり,両者は,互いに,代替可能なものということができる。したがって,相違点2の接着固定に係る部分は当業者が適宜なし得る程度のものであるとした本件審決の判断に誤りはない。
なお,本件審決は,引用発明2の,軸半体と中芯半体との取付け態様,中芯半体へのブラシの植毛に係る技術事項について,これを引用発明1に適用することが可能であると判断したものにすぎず,引用例2に,ブラシ材の植設手段の具体的開示がないことは,上記判断を左右するものではない。
(3) 用途の相違(円筒研磨ブラシと搬送用回転ローラ)について 原告は,用途の異なる,引用例3に記載の搬送用回転ローラを,円筒研磨ブラシに適用することは困難である旨を主張する。
ア そこで,検討すると,引用例3(甲7)には,「本発明は,・・・農作物の搬送及び磨きに使用される刷毛ローラに関する」(1頁1欄12〜13行)と記載されており,この記載から,引用例3に記載の刷毛ローラが,農作物の搬送及び磨きに使用されるものであることが認められる。
イ しかし,引用例3(甲7)には,「ローラ本体1は木材,合成樹脂材等によって丸軸に形成され,そのローラ本体1の外周に軸芯方向及び周方向に適宜間隔をおき,軸芯Oに沿った一方向及び周方向の夫々所定角度だけ傾斜させて植設孔2が穿設され,その植設孔2に刷毛3が嵌挿着固定されてローラ本体1外に適宜長さ延長突出される。」(2頁4欄15行〜5欄1行)と記載されており,この記載から,引用例3(甲7)のローラは,合成樹脂製ローラ本体に,複数の円孔をなす植設孔が穿設され,その植設孔に刷毛が植設されたものであると認められる。そうすると,引用例3に記載のローラは,引用発明1のローラとは,磨きを目的とした回転式円筒ブラシである点で同一技術分野に属するものであり,また,合成樹脂製の円筒部にブラシを植毛する点で,植設構造を同じくするものである。そうすると,引用例3に記載のローラの用途が,農作物の搬送及び磨きに利用されるものであるとはいえ,引用例3に記載されたブラシの植設態様を,引用発明1に適用することには,十分な動機付けがあるというべきである。
原告は,引用例3に記載のローラの回転数は比較的低回転であるとともに,押付け力についても作物を傷めることのないようさ程大きくはないのに対し,本願発明の円筒研磨ブラシは,研磨材の表面仕上げに使用され,回転数も高く,また,金属表面への研磨を達成するため大きな押付け力を要するものであり,引用例3に記載のものとは基本的構成が異なる旨主張する。しかしながら,引用例3に記載の技術事項におけるローラ本体を研磨をなす具体的な対象物に適用する際に,原告が主張するように,回転数を低く,また押付け力を小さくする必要はなく,回転数及び押付け力は,適用する対象物に応じて適宜決定されるべき設計事項であり,この点の構成の差異は,上記技術事項を引用発明1に適用する阻害要因とはならない。
(4) 構成の相違(ブラシ植設に関する構成)について ア 原告は,引用例3(甲7)に記載のローラでは,単一のローラ本体へブラシを植設しており,本願発明のように,コア本体とブラシ取付け管とからなる2重管構造のうち,ブラシ取付け管にブラシを植設する態様とは相違すると主張する。
確かに,引用例3(甲7)に記載のものは,単一のローラ本体にブラシを植設するものであり,2重管構造を採用する引用発明1とは,ローラ本体の構造が相違するが,上述したとおり,引用発明1と引用発明3とは,磨きを目的とする回転式円筒ブラシである点で同一技術分野に属するものであり,また,合成樹脂製の円筒部に,ブラシを植毛する点で,植設構造を同じくするものである。2重管構造であるか否かは,合成樹脂製の円筒部にブラシを植設することと直接関係のないことであるから(上述のとおり,本願発明は,「もの」の発明であり,2重管構造とした状態で植毛する植毛工程を構成要件とする「製造方法」の発明ではない。),引用例3に記載されたブラシの植設態様を引用発明1に適用することに格別の創意は要しないといえる。
イ 原告は,引用例3に記載のローラにおいては,ブラシ植設孔の底部は平底であり,引用発明3は,本願発明における「円孔をなすブラシ植設孔の底部は頂角が90°又は鋭角の逆円錐形に形成され,ブラシ束の基部に巻き懸けられた線材の止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで外管内に食込み状に係合させてなる」点を示唆するものではないし,また,引用発明3において,止め針の突出端の押し込みは,「底部の平底」になされるものであり,円孔の逆円錐型底部になされるものではない旨主張する。
(ア) 確かに,引用例3(甲7)の「ローラ本体1に傾斜穿設した植設孔2 に対する刷毛3の嵌挿着固定は,・・・必要長さの倍の長さを有した刷毛3’をU字形に半折し,これを植設孔2に嵌合して止め針6で固着する形態(第4図)等,何れでも良いものである。」(2頁5欄7〜16行)という記載,また,その第4図の記載からみて,引用発明3は,ブラシ植設孔の底部は頂角が90°又は鋭角の逆円錐形に形成されている点,止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込む点の構成を有していないことが認められる。
しかしながら,本願発明において,ブラシ植設孔の底部は頂角が90°又は鋭角の逆円錐形に形成されている点についてみるに,本件明細書(甲3,4)には,@「このブラシ植設孔22は,先端の刃先が円錐形をなすドリルをもって穿孔されるものであり,従ってその先端の形状に対応して孔底22bは円錐形をなす。このブラシ植設孔22は例えば,径が5mm,深さが10mm,孔底22bの角度が90°の諸元を採り,各孔22は千鳥に配され,15mmの間隔を保つ。」(段落【0021】),A「ブラシ取付け管5の素材は金属に比べ軟質であるので,容易に穿孔される。従って,その先端角は鋭角状を採りうる。ブラシ束23のブラシ植設孔22への植込み作業は,次のようにしてなされる。ブラシ繊維25の6〜10本と(「を」の誤記と認める。)一束とし,その中央に止め金具26を巻き懸け,該止め金具26の突出両端が下方になるように折り込み,その状態を保持しつつ,所定の工具を介してブラシ植設孔22に押し込む。その押込み力により,止め金具26の突出両端はブラシ植設孔22の孔底22bの傾斜面に沿って折り曲げられブラシ取付け管5内に食い込む。」(段落【0023】)と記載されている。 上記記載によれば,本願発明においては,ブラシ取付け管5の素材が軟質であることから,ブラシ植設孔の底部の頂角を,90°又は鋭角とできることが認められるものの,このことにより,「もの」の発明として格別の作用効果が奏されていると認めることはできない。
そうすると,ブラシ植設孔の底部は頂角が90°又は鋭角の逆円錐形に形成されている点は,刃先の先端角度が,90°又は鋭角である円錐形をなすドリルを用いた穿孔作業の結果というべきであって,この点には格別の技術的意義を認めることはできず,当業者が,ブラシ取付け管素材の材質に応じて適宜決定し得ることというべきである。
(イ) また,止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込む点についてみると,この点は,本件明細書の上記(ア)Aの記載からして,止め金具26をブラシ取付け管5内に食い込ませるための作業工程の一部であるということができ,本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1には,かかる作業工程により得られる止め形状が特定されているわけではない。
そうであれば,本願発明において,「ブラシ植設孔の底部は頂角が90°又は鋭角の逆円錐形に形成されている点」,「止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込む点」の有する技術的意義は,本件明細書(甲3,4)における「該ブラシ植設孔22へのブラシ束23の植設に付き,ブラシ束23はその止め金具26がブラシ植設孔22からブラシ取付け管5内に食い込み,該止め金具26を介して強固な定着がなされる。」(段落【0024】)との記載から明らかなとおり,止め金具26を介して,ブラシ束を強固に定着させることにあるのであって,止め形状が特定されていない以上,他に,格別の技術的意義があると認めることはできない。
したがって,引用発明3においては,止め針の突出端の押し込みは,「底部の平底」になされているから,円孔の逆円錐型底部に適用できないとすることはできない。
(5) 周知技術の把握について 原告は,本件審決が周知例として引用した甲8の技術は,傾斜面に沿わせるものではなく,本件審決は,周知技術の認定を誤っている旨主張する。
ア 本件審決が引用した文献(実公昭28-1173号公報(甲8))及び実公昭31-16861号公報(乙1)からすると,円孔が逆円錐形の底部を有するブラシ植設孔を形成し,このブラシ植設孔に,ブラシ繊維の束を巻き懸け,突出両端が下方になるように折り込んでなる止め金具を圧入するブラシ束の定着手法は,本件出願前周知の技術であることが認められる。
確かに,甲8,乙1には,止め金具の突出端が,ブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込まれるかどうかは明記されていないが,円孔が逆円錐形の底部を有し,これにワ字形(ワ字形という以上,突出両端が閉じているとは想定できないし,突出両端を完全に閉じてしまう必要性があるとは認められない。)の止め金具を挿入するのであるから,止め金具を円孔に押し込んでいけば,止め金具の先端部が,円孔の底部の傾斜面に当接するであろうことは容易に理解され,傾斜面に当接した後,該先端部は押し込みとともに,傾斜面に沿って押し込まれることも明らかである。
本願発明において,止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込む点は,上記周知技術を採用するにあたり,押し込みの過程において,必然的に生じるものにすぎないというべきである。
イ そうすると,本件審決が,ブラシの植毛方法として,植毛する部材に円孔をその底部を逆円錐形となるように穿孔し,ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ部にワ字形の止め金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで,植毛する部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛することが周知技術であると認定し,この周知技術の適用は当業者が容易に行えるとした点に誤りはない。なお,止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込む点に格別の技術的意義が認められないことは,上述のとおりである。
(6) 論理付けについて 原告は,本件審決は,引用例2の技術事項に引用例3の技術事項を適用し,その結果を引用発明1に適用するという2段の論理付けを行っている,また,引用発明1に引用例2,3記載の各技術事項を適用するに当たり,引用例2記載の技術事項,引用例3記載の技術事項にそれぞれ更なる技術手段を付加して適用するという,屋上屋を重ねた論理付けを行っており,本件審決の論理付けは妥当性を欠く旨主張する。
しかしながら,本件審決は,相違点2について,前記のとおり,引用発明1に対し,引用例2及び3に記載の各技術事項を個別に適用することが容易であると判断していることが認められるから,原告が主張するような2段の論理付けを行っているわけではない。
また,本件審決は,引用例2及び3について,「コア本体に硬質合成樹脂製のブラシ取付け管が固定をもって外嵌されるとともに,該ブラシ取付け管にブラシが植設されてなる半割り式円筒研磨ブラシ。」,「合成樹脂製の部材であるローラ本体に,複数の円孔をなす植設孔が穿設され,その植設孔にブラシ束が,止め金具により植設される。」点が記載されていると,引用例2及び3の記載から認識される技術的思想を認定した上で,引用例2に記載の技術事項における「固定」の一態様として,「接着」が周知であると,また,引用例3に記載の技術事項における「植設孔にブラシ束が,止め金具により植設される」ことの一態様として,「ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ部にワ字形の止め金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで,植毛する部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛すること」が周知であると認定しているものである。
本件審決は,その上で,引用発明1に対し,周知技術を包含している,引用例2及び3に記載の技術事項を適用することは想到容易と判断したものであって,原告が主張するような屋上屋を重ねた論理付けを行っているわけではない。
相違点2についての本件審決の認定判断が正当なものであることは前記(1)ないし(5)に説示したとおりであり,本件審決の論理付けが妥当ではない旨の原告の主張は採用できない。
(7) 顕著な作用効果について 原告は,本願発明においては,相違点2に係る構成により,@ブラシ植設孔の穴加工は,合成樹脂製のブラシ取付け管に対してのみなされるので,その作業は容易であるとともに,製作効率の向上を図り得る,また,穴加工に伴う歪みはコア金具により阻止され,所定の精度が保持される,さらに,ブラシ植設孔へのブラシ束の植設については,ブラシ束はその止め金具がブラシ植設孔からブラシ取付け管内に食い込み,該止め金具を介して強固な定着がなされるから,穴加工,ブラシ束の植設作業の効率が向上し,生産性の向上が計れる,Aブラシ植設孔へのブラシ束の植設操作において,止め金具はブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿ってブラシ取付け管に押し込まれ,斜め方向に向かい,ブラシ取付け管に食い込むので,小さな深さで十分な定着長さが得られ,ブラシ植設孔の深さの短小化に寄与する結果,ブラシ取付け管の厚みを小さくでき,コア金具の径小化を図ることができる,という顕著な作用効果が奏される旨を主張する。
しかしながら,上記@の作用効果についてみるに,止め金具がブラシ植設孔からブラシ取付け管に食い込む構成を採用することにより,止め金具を介してブラシ束の強固な定着が図れることはそのとおりであるとしても,それが直ちに上記のような穴加工等の作業効率の向上,生産性の向上につながるとは考えらず,その作用効果は,特定の作業工程から生ずる作用効果にすぎず,「もの」の発明である本願発明の奏する作用効果とはいえない。また,止め金具がブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿ってブラシ取付け管内に押し込まれ,斜め方向に向かってブラシ取付け管に食い込むことにより奏されるとする上記Aの作用効果については,本件明細書には記載のないものであり,そのような作用効果が得られるとしても,上記構成から予測される範囲内のものと考えるほかなく,格別な効果と認めることはできない。
したがって,本願発明において,相違点2に係る構成により,顕著な作用効果が奏されるとの原告の主張は採用できない。
(8) 以上のとおり,本件審決の相違点2についての判断に誤りがあるとはいえず,原告主張の取消事由3には理由がない。
4 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,その他,本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見出せない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 沖中康人