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事件 平成 27年 (ネ) 10011号 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/06/16
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成27年6月16日判決言渡

平成27年(ネ)第10011号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審 東京地

方裁判所平成24年(ワ)第25291号)

口頭弁論終結日 平成27年4月16日

判 決



控 訴 人 兼 被 控 訴 人 X

(以下,単に「原告」という。)

訴 訟 代 理 人 弁 護 士 影 山 光 太 郎

園 山 佐 和 子



控 訴 人 兼 被 控 訴 人 金 沢 市

(以下,単に「被告」という。)

代表者金沢市公営企業管理者

訴 訟 代 理 人 弁 護 士 坂 井 美 紀 夫

長 澤 裕 子

松 本 司

指 定 代 理 人 井 口 芳 一

高 木 陽 一

武 田 丈 八



被 告 補 助 参 加 人 株 式 会 社 土 田 工 建

(以下「参加人土田工建」という。)




被 告 補 助 参 加 人 株 式 会 社 平 本 組



(以下「参加人平本組」という。)




主 文

1 原告の控訴及び被告の控訴をいずれも棄却する。

2 原告の控訴費用は原告の,被告の控訴費用(当審における補助参加によっ

て生じた費用は除く。)は被告の,当審における補助参加によって生じた費用

は各補助参加人の,それぞれ負担とする。



事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨

1 原告の控訴

(1) 原判決を次のとおり変更する。

(2) 被告は,別紙1被告物件目録記載1ないし4のマンホール用インバートを

使用してはならない。

(3) 被告は,原告に対し,56万円及びこれに対する平成24年9月10日か

ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4) 訴訟費用は,1,2審とも被告の負担とする。

(5) 仮執行宣言

2 被告の控訴

(1) 原判決中被告敗訴部分を取り消す。

(2) 原告の請求を棄却する。

(3) 訴訟費用は,1,2審とも原告の負担とする。



第2 事案の概要等

なお,呼称は,原判決に従う。



1 事案の概要

本件は,発明の名称を「マンホール用のインバート」とする特許権を有する原告

が,被告に対し,被告の管理に係る被告物件1ないし4のマンホール用インバート

は上記発明の技術的範囲に含まれるから,被告による被告物件1ないし4の使用は

上記特許権を侵害する旨主張して,@特許法100条1項に基づき,被告物件1な

いし4の使用禁止を求めるとともに,A不法行為に基づき,損害賠償金56万円及

びこれに対する平成24年9月10日(訴状送達日の翌日)から支払済みまでの民

法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は,平成26年12月15日,Aの請求のうち,33万6000円,及び,

うち16万8000円に対する平成24年9月10日以降の遅延損害金,うち16

万8000円に対する平成26年5月2日(継続的不法行為の最終日)以降の遅延

損害金の支払を求める限度で請求を認容し,@の請求及びAのその余の請求をいず

れも棄却する旨の判決を言い渡した。原告は,平成26年12月26日に,被告は,

同月15日に,原判決を不服としてそれぞれ控訴した。

2 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認

定できる事実)

原判決4頁15行目の「有している(」と「以下」の間に,「甲1,2。」を加え

るほか,原判決第2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。



第3 争点及び争点に関する当事者の主張

原判決5頁15行目及び同15頁22行目の各「被告は無過失か」を,それぞれ

「被告に過失の推定を覆滅させる事情が認められるか」と補正するほか,原判決第

2の3及び4記載のとおり(引用した別紙部分を含む。)であるから,これを引用す

る。



第4 当審における当事者の主張



1 原告

(1) 被告物件3及び4の構成要件充足性(争点1)

ア 被告物件3及び4における断面略三角形状の溝は,単独では,本件発明

の「跳返り防止用の凹溝」に相当しないから,これが導流溝1の最下部に位置してい

るかどうかは,被告物件3及び4の構成要件B,Cの充足性と関係しない。

導流溝1の最下部を含む領域が半円形断面そのものであるからといって,同領域

が「跳返り防止用の凹溝」ではないとはいえない。本件発明の実施例である【図7】,

【図8】においても,導流溝1の最下部を含む領域が半円形断面をしているが,凹

溝11の形成があるとされている。

イ 被告物件3及び4では,左右の略三角形状の溝を介して導流溝1の最下

部を含む領域が形成されている。本件発明の段部11a,11aと凸条14,14

は,導流溝最下部にあって導流溝側壁を遡上する汚水に対する抵抗を増加させて汚

水の跳返りを抑制するという技術的思想を具体化するものである。導流溝1の長手

方向に沿って形成された断面略三角形状の溝も,導流溝最下部にあって導流溝側壁

を遡上する汚水に対する抵抗を増加させて汚水の跳返りを抑制するという技術的思

想を具体化するものであると考えられる。そして,この溝は,本件発明の段部11

a,11aと凸条14,14,複数の凸条(【0028】【図8】),あるいは,波


形の凸条(【0029】【図9】)の記載を勘案すれば,詳細な説明には記載されて


いないが,遡上する汚水に抵抗を与えるものとして当業者であれば実施可能な構成

である。したがって,左右の断面略三角形状の溝を介して形成される導流溝最下部

の領域は,本件発明の跳返り防止用の凹溝に該当する。

ウ 被告物件3及び4の作用効果について,従来の凹溝のない物件との対比

試験を行ったところ(甲18),凹溝のない物件に比し,汚水,汚物の跳返りが少な

いこと,すなわち,本件発明の作用効果を奏することが裏付けられた。

(2) 無効理由(争点2)

ア 被告が本件特許を無効とする主張の根拠としている後記2(2)の「飛散水



量実証試験結果報告書」(乙64,乙64報告書)には,疑問がある。

まず,乙64報告書の試験に用いた試験用マンホールインバートの形状を見ると,

構造的に C タイプ(断面半円形(直径200o),凹溝あり,段差6o)はBタイ

プ(断面半円形(直径200o),凹溝あり,段差7o)に比し段差が小さいので,

幾らか跳返りが小さいはずである。しかしながら,その試験結果は,水量を増やす

とBとCとで飛散率が大きい方が変わるというものになっており,論理に合わず,

精度に疑問がある。

イ また,乙64報告書によっても,本件特許を無効ということはできない。

Aタイプ(断面半円形(直径200o) 凹溝なし)
, の飛散率と比較した場合,B・

Cタイプの方が小さいことが判明しているし,Aタイプでの飛散率0.136%を

基準とすると,0.07〜0.09%の違いは小さいとはいえない。なお,乙64

報告書は,B・Cタイプの水の動きについての不正確な図を元にB・CタイプとA

タイプの飛散率の差がごくわずかと結論付けている点で,誤りである。不正確さの

原因は,段差部がインバートの底部から高いところにある点にある。そのために,

導流溝壁を遡上する水流が,導流溝頂部(斜面縁部)近くまで達して始めて段部によ

り内向きに力を加えられ,その結果,導流溝内から溝外(斜面)へ溢出する水も多く

なっている。水の左右への広がりを抑制することが表現されていない。

乙64報告書の実験は,10秒あるいは11秒間の水の飛散しか見ていないが,

現実には,下水には四六時中流水があり,その流量にも変動があるから,インバー

トの汚損・閉塞を考えるに当たっては,より長期の時間の経過における飛散(水)量

を検討しなければならない。流入管高254oのケースでは,飛散水量は,AはB・

Cに比し,1.8〜2.4倍あるが,この中に汚物が含まれるから,汚物は2倍残

ることになる。したがって,B・Cのインバートは,Aと比較すると,汚物付着の

防止効果がある。

(3) 被告における過失の推定覆滅事由(争点4)

一旦,ある物件が設置され,工事が終了したとしても,それ以降にメンテナンス(管



理)する必要がある。導流溝の部分は,インバートのうちでも最も汚損・閉塞が考え

られる箇所であるから,これについて,写真・図面がないということは,考え難い。

もし写真・図面がないのであれば,被告のメンテナンス(管理)が不十分というこ

とになる。

被告自身が,段部・凸条などの加工は,インバート使用前に行うべきことを認め

ている。インバート工事完成時,担当者がインバートの状態を検査・確認したので

あれば,担当者には,インバートの形状は分かっていたはずである。したがって,

被告物件1,2のような加工がなされていれば,その旨の記載・報告がなされなけ

ればならない。このような記載・報告がないのは,検査の結果問題はないと考えた

か,きちんと検査をしなかったかのいずれかであり,いずれにしろ,被告には過失

がある。

(4) 損害(争点5)

弁護士費用は,現時点では一審における30万円に20万円を加えた50万円と

なる。

2 被告

(1) 被告物件の構成要件充足性(争点1)

ア 原告の主張は,被告物件3及び4の「溝」 「汚水の跳返りを抑制する」
が,

機能(効果)を有するから,この「溝」とこれに挟まれた領域は,本件発明の「凹

溝」に該当するとの主張である。この主張は,効果が同じであれば,構成が異なっ

ても特許発明技術的範囲に属するとの主張であって,当を得ない。

【図7】で示されている請求項2の構成は,
「凸条14」で挟まれているから,そ

の間が「凹溝11」,すなわち,「くぼんだ溝」となる。被告物件3及び4の「溝」

のような「凹条」で挟まれた部分は,
「溝」に対して凸となるから,これをもって「凹

溝」(くぼんだ溝)とはいえない。

したがって,被告物件3及び4は,本件発明の技術的範囲に属しない。

イ 被告物件2は,最上流に設置されたインバートであるから,上流側の管



渠から落下する汚物は存在しないし,汚物が導流溝の内面に沿って上方に跳ね返る

こともなく,本件発明の効果を奏しないから,本件発明の技術的範囲に属しない。

(2) 無効理由(争点2)

被告が製作した3種の試験用マンホールインバートを使用し,専門の研究機関で

ある株式会社G&U技術研究センターに試験を依頼した乙64報告書によると,流

入管高さ535oで落下させた場合には,AタイプとBタイプ・Cタイプで有意差

はなく,また,流入管高さ254oで落下させた場合には,AタイプとB・Cタイ

プで有意差はあるが,その差は飛散率で0.07%から0.09%にすぎず,
「マン

ホール導流部に段差を設けても,マンホール内の汚水の飛散はなくならないと判断

されるため,自治体が行う管きょの清掃管理の負荷は軽減しない」ことが判明した。

したがって,次のことがいえる。

実施可能要件違反の有無(争点2−ア)

「跳返り防止用の凹溝」,すなわち,本件発明の作用効果を奏する凹溝の製造は,

容易とはいえない。乙64報告書の試験でも,管渠の段差が小さい場合(流入管高

さ254o)は,汚水は導流溝の側壁に沿って「遡上」したが,管渠の段差が大き

い場合(流入管高さ535o)は遡上せずに「跳ね上が」ったため,導流溝に設け

た凹溝の段差は役に立たなかった。また,管渠の段差が小さく,汚水が「遡上」し

た場合でも,従来技術との差異は飛散率(飛散水量÷総流水量)で0.07%〜0.

09%にすぎない。このように,本件発明の作用効果を奏する「跳返り防止用の凹

溝」を有するインバートを実現するためには,相当多数の実験が必要である。

イ サポート要件違反の有無(争点2−イ)

乙64報告書の試験におけるB・Cタイプは,本件発明の実施の態様であったに

もかかわらず,課題を解決しなかった。よって,本件発明は,発明の詳細な説明

記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものではない。

(3) 被告における過失の推定覆滅事由について(争点4)

原判決が,被告の過失推定を覆滅しないと判断する前提として認定した事実関係



には,誤りがある。事実関係が正しく認定されれば,被告の過失推定は覆滅される。

ア インバートのような可視部分については,写真撮影の対象外とするのが,

下水道事業における土木工事における運用として,全国的に指導されている。被告

はかかる仕様・要領に従って,検査員による目視確認をもって竣工検査を実施して

きた。このような検査運用状況に照らせば,インバートの施工完成写真が存在しな

いことをもって,インバートの完成を確認したこと自体が疑問であるということは

できない。

イ インバートは,管渠の接合や会合の状況に応じて設けられるものである

から,工区分けにより分割して施工される場合,当該工区の最上流に位置するマン

ホールでは,マンホール本体を施工しても,上流側の管渠の位置・形状が未定であ

れば,インバートは施工しない。平成19年6月21日付け数量計算書(乙20の

4)に,「既設.2」のマンホール,すなわち,被告物件2に「インバート」「1」

実施したという記載があり,平成20年1月15日付け変更数量計算書(乙26

の6)にも同様の記載があるのは,平成19年度(7−3工区)事業で,既設の被

告物件2にインバート施工のみがなされたことを示すものである。このように,乙

20ないし29が,被告物件2のインバートを含む管渠工事に関する資料であるこ

とは,間違いない。また,平成15年2月18日付け平面図(乙60の4の2)の

「既設.7」のマンホールは,被告物件4であり,平成14年度(20−3工区)

事業で,既設の被告物件4にインバート施工のみがなされたことを示すものである。

したがって,乙60もまた,被告物件4の資料といえる。

ウ 請負業者らによる陳述書(乙42,43)は,左官職人が内容を確認し

て,自ら署名押印をしたものである。これらの陳述書に,被告物件1及び2の施工

工事の内容を具体的に説明する内容がなかったとしても,名義人の作成であること

に疑いはなく,被告物件1及び2が標準仕様書どおり施工されたと推認できないと

して,陳述書の記載内容を否定した原判決の判断は,誤りである。

エ 乙2の2の写真は,平成23年9月8日に原告が被告を訪問するとの連



絡を受け,念のため現況を確認するように命じられた被告職員が,同年9月6日に

手持ち(私用)のカメラで急遽撮影したものであり,検査用の竣工写真ではないか

ら,日付等が記載された小黒板が写し込まれていないとしても,何ら不自然ではな

く,作成日付に疑問はない。

オ 被告物件の特定は,平成19年前後,原告が豊蔵組の施工に疑いを持ち,

被告のみならず,複数の地方公共団体に対して調査を要望し,実際,七尾市におい

て,豊蔵組が施工したインバートの立会調査が実施されたとの情報を得たため,こ

れにならって,被告も,豊蔵組が施工し,かつ,調査による影響の少ない戸板地区

を調査場所に指定したことによるのであって,平成19年の調査対象は,被告のみ

の判断で決定されたものではない。また,被告物件2について,原告提出の写真か

ら田上本町のインバートを特定したのは,マンホールを管理する被告において,下

水が未だほとんど開通していない箇所をある程度絞ることが可能であったからにす

ぎない。

(4) 損害(争点5)

争う。



第5 当裁判所の判断

1 当裁判所は,当事者双方の当審における追加主張を踏まえても,原審判決の

限度で原告の請求は認容されるべきであり,本件各控訴は棄却されるべきものと判

断する。

その理由は,次のとおり原判決を補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の

「第3 当裁判所の判断」(理由中に引用した別紙部分を含む。)に記載のとおりで

あるから,これを引用する。

2 原判決の補正

(1) 原判決19頁22行目から20頁1行目までを,次のとおり改める。

「 被告物件1ないし4の構成について,原告は,別紙「原告主張の被告物件目録



1」ないし「原告主張の被告物件目録4」に記載のとおりであると主張するが,こ

れを認めるに足りる証拠はない。

予備的に,原告は,被告物件1ないし4の構成について,別紙2−1ないし2−

4のとおりであると主張するが,平成24年6月27日の時点における被告物件1

の構成が別紙2−1のとおりであること,平成24年9月12日の時点における被

告物件2の構成が別紙2−2のとおりであること,平成25年10月28日の時点

における被告物件3及び4の構成が,別紙2−3及び別紙2−4のとおりであるこ

とは,当事者間に争いがない。

そこで,これらが本件発明の技術的範囲に含まれるか否かについて検討する(以

下では,特に断らない限り,被告物件は,上記各時点の構成を有するものを指す。。
)」

(2) 原判決24頁11から12行目の「段落【0031】にも,
「一体成形して

もよい」と例示的に記載されているにすぎず,」を,「段落【0016】や段落【0

019】は,それぞれ「マンホール用のインバート10は,上部開放の導流溝10

aの最下部に跳ね返り防止用の凹溝11を形成してなる(図1) 」「かかるマンホ
。,

ール用のインバート10は,マンホールMHの最下部に組み込んで使用する(図2,

3)」というもので,インバートの構成や使用方法について記載されているだけで


ある。しかも,その製法について,段落【0031】では,
「インバート10は,セ

メントによって一体成形する他,塩化ビニルのような硬質樹脂材料により一体成形

してもよい。 と記載されていて,
」 インバートの原料としては硬質樹脂材料を用いる

のも可能であることや,インバートの製法として1つの型に1回の射出で完成させ

るという方法が採用可能なことが例示的に触れられているだけで,インバート成形

時に併せて凹溝も形成されるかどうかについての言及はなく,」と改める。

(3) 原判決29頁4行目の「いうものうではない」を「いうものではない」と

改める。

(4) 原判決32頁5行目から42頁25行目までを,次のとおり改める。

「4 争点4(被告に過失の推定を覆滅させる事情が認められるか)について



(1) 被告は,過失推定の覆滅事由として,被告が,管渠築造工事の完了ごとに,

一般的な形状のインバートであることを確認した上で,引渡しを受けていたこと,

被告が,インバートを適切に管理してきたこと,原告又は原告の関係者が,一般的

な形状のインバートを,本件特許権を侵害する態様に施工したことを主張する。

特許法103条は,
「他人の特許権・・・を侵害した者は,その侵害の行為につい

て過失があったものと推定する。」と規定している。ここにいう「侵害」とは,特許

権者又は使用権者以外の第三者が,特許発明実施することであり(特許法68条

参照),物の発明の場合の実施とは,具体的には,その物の生産のみならず使用も含

まれる(特許法2条3項1号)。本件発明は,マンホール用のインバートに関する発

明であるから,本件特許の特許権者でも使用権者でもない被告は,本件発明の技術

的範囲に含まれるインバートを生産した場合はもちろんのこと,本件発明の技術的

範囲に含まれるインバートを使用した場合も,本件特許権を侵害したことになる。

そして,上記で認定したとおり,少なくとも,平成24年6月27日の時点におけ

る被告物件1の構成が別紙2−1のとおりであり,平成24年9月12日の時点に

おける被告物件2の構成が別紙2−2のとおりであるから,被告は,そのころには,

被告物件1及び2を,本件特許権を侵害する態様で使用していたものと認められる。

したがって,被告は,かかる被告物件1及び2の使用行為についての過失が推定さ

れることになる。

そして,特許法103条で推定されている過失とは,特許権侵害の予見義務又は

結果回避義務違反のことを指すから,過失推定の覆滅事由としては,特許権の存在

を知らなかったことについて相当の理由があるといえる事情,自己の行為が特許発

明の技術的範囲に属さないと信じることについて相当の理由があるといえる事情な

どが挙げられる。

以上を前提に,被告に過失推定の覆滅事由が認められるか検討する。

(2) まず,被告は,過失推定の覆滅事由として,管渠築造工事の完了ごとに,

一般的な形状のインバートであることを確認した上で,引渡しを受けていたことを



主張する。これは,自己の行為が特許権を侵害しないと信じることについて相当の

理由があるといえる事情を指摘するものと解される。

しかしながら,かかる主張は,被告が,被告物件1及び2の施工時において,十

分な注意を払っていたこと,すなわち,特許発明の生産時における過失の覆滅事由

を指摘するものにすぎず,その後の使用時における過失の覆滅事由とはいえない。

なぜならば,被告物件1及び2が,一旦,本件特許を侵害しない態様で施工された

としても,その後,仕様が変更され,本件特許を侵害する可能性があるからである。

生産の時点で,特許侵害の有無を確認していれば,その後の使用期間中は,一切注

意を払う必要がないとはいえない以上,その後,被告が生産時の確認をもって,そ

の後の使用時に特許侵害がないと信じたとしても,これを正当化することはできな

い。下水道法3条は,公共下水道の設置のみならず,維持その他の管理をも市町村

が行うと規定しており,被告には,法律上,公共下水道の維持管理権限が付与され

ているのであって,インバート使用についての維持管理責任を果たすことについて,

法的な障害はない。

したがって,被告の主張は理由がない。

(3) 次に,被告は,インバートを適切に管理してきたと主張する。これは,自

己の行為が特許権を侵害しないと信じることについて相当の理由があるといえる事

情を指摘するものと解される。そこで,被告のインバートの施工以降の管理が,被

告の行為が特許権を侵害しないと信じるに足りるものであるかを判断する前提とし

て,被告の管理状況に関する事実を見ると,次のとおりと認められる(特に証拠を

掲示していないものは,当事者間に争いがなく,弁論の全趣旨により認められる。 。


ア 被告は,被告物件2,3及び4の各マンホールの工事を含む「平成14

年度 田上本町地内(20−3工区)管渠築造工事」について,平成15年9月2

5日,請負者である新和建設株式会社から引渡しを受けた(乙60の27,弁論の

全趣旨)。

イ 被告は,被告物件1のマンホールの工事を含む「平成18年度 若宮町



ほか1町地内(61工区)管渠築造工事」について,平成19年3月29日,請負

者である参加人土田工建から引渡しを受けた(乙19の2,弁論の全趣旨)。

ウ 原告は,被告企業局建設課に対し,平成19年7月11日,一部の業者

(株式会社豊蔵組)が施工したインバートに特許権侵害の疑いがある旨を申し出た

後,同月19日,同課に対し,金沢市内にあるすべてのインバートの調査と対応を

要求した。原告は,同月31日,同課に対し,同市旭町周辺を自ら調査したい旨申

し出たが,同年8月2日,調査希望場所を同市旭町から田上本町地区へ変更した。

原告は,同課に対し,同年9月10日,平成11年度から平成18年度までの全工

区のインバート調査を要求したところ,同課は,場所を限定しての現場確認であれ

ば可能である旨回答した。

被告企業局建設課は,原告が平成19年7月11日に株式会社豊蔵組による施工

侵害の疑いを指摘していたことから,同社施工箇所を含む戸板第二土地区画整理

地区内のマンホールで,未だ下水が通っておらず,マンホール開閉による支障が少

ない8か所(別紙「金沢市戸板第二土地区画整理事業 設計図(2/2)〔答弁書別紙


2の1〕におけるNo.1ないしNo.8)を選定し,同年11月27日,上記8

か所のマンホールのインバートの形状について調査を実施した(平成19年調査)。

このとき,参加人土田工建が施工した1か所のマンホール(答弁書別紙2の1の

No.5〔人孔番号126442〕)のインバートについては,原告から「特許に似

ている」旨の指摘がされたが,他の7か所のマンホールのインバートについては,

特許権侵害の指摘はなかった(乙1)。

エ 原告は,被告が,平成19年調査の結果を認識していたにもかかわらず,

特許権侵害がなかったと主張し始めたとして,被告に対し,平成22年6月1日,

要旨,特許権侵害があったことをうやむやにしないで欲しい,調査には被告の職員

3人が立ち会って「特許の形」を確認しており,その際,施工業者は参加人土田工

建であることを原告に知らせてくれたこと,参加人土田工建は下請に直させると約

束したことなどを記載した書面を送付したところ,被告市民局広報広聴課から,参



加人土田工建が手直しを約束したということは確認できず,被告企業局では本件に

関し責任はないと考えており,原告と参加人土田工建との間で再度話し合いをして

ほしい旨回答された(甲9)。

原告が,上記経緯を踏まえ,被告市長に対し,平成22年8月4日,これまでの

経緯を書面にて回答するよう要求したところ(丙2の2・4頁),被告企業局建設課

は,原告に対し,同年10月8日付けで,
「被告は特許侵害の有無について確定した

判断をする立場にない」旨の回答書を送付した(丙2の2・5頁)。

また,原告は,参加人土田工建に対し,平成22年11月12日付で警告書を送

付した。同書には,特許権侵害の有無を判断するために裁判をする準備をしている

こと,裁判になれば200万から300万円の費用もかかるため,侵害があったこ

とを認め,通常実施権を100万円で買わないか,賢明な判断を待つなどの記載が

あった(丙2の1,2の2)。

オ 原告は,被告市長に対し,平成23年8月6日,
「発明・発見,特許をめ

ざす人たちへ」と題する書面を送付し,特許権侵害を認めない被告の対応に不満を

伝えた(乙44の1)。

カ 原告は,代理人弁護士を通じ,被告市長に対し,平成24年6月18日

付け「ご連絡」と題する書面(甲4の1)に,
「金沢市若宮町の戸板第二土地区画整

理地区所在のマンホールにおいて,本件特許発明の使用が確認されております。・
・・

なお,当該マンホール以外にも金沢市田上本町の田上本町土地区画整理地区所在の

マンホールにおいても,本件特許発明の使用が確認されております。などと記載し,


被告に善処を願う旨の連絡書を同月20日に送付した(甲4の2)。

キ 被告企業局維持管理課は,平成24年6月26日,平成19年調査にお

いて原告が確認した8か所のマンホールのインバートを対象として,再調査(平成

24年6月調査)を実施したが,上記8か所すべてのマンホールのインバートの形

状について,原告が主張するような事実は認められなかった。

被告企業局建設課は,平成24年6月27日,戸板第二土地区画整理地区内の参



加人土田工建が施工した2か所のマンホール(答弁書別紙2の1におけるNo.9

及びNo.10)のインバートを対象として,追加調査を実施した。なお,被告は,

当該2か所のマンホールのインバートが上流側に設置され,段差もないことから,

下水の跳ね返りがなく,原告が主張する特許権侵害が疑われる施工の可能性が低い

と考えたため,平成19年調査の対象としていなかったが,上記カの連絡書の送付

を受け,当該2か所を新たに調査の対象とした。

その結果,新たに調査した上記2か所のマンホール(答弁書別紙2の1における

No.9〔人孔番号126445,本件訴訟における被告物件1のマンホール〕及

びNo.10〔人孔番号126448〕)のインバートに,モルタルで上塗りされた

加工を発見した(上記No.9につき乙2の2の写真B,上記No.10につき乙

2の2の写真C)。

ク 被告企業局維持管理課は,平成24年7月3日,上記キに記載のモルタ

加工部分の調査を行い,同月17日,当該部分が強度的に脆く,破片により汚水

の流れを妨げるおそれがあると判断し,当該部分を完全に撤去し,断面半円形のイ

ンバート底部に加工を施さない状態にした(答弁書別紙2の1におけるNo. 〔人


孔番号126445,本件訴訟における被告物件1のマンホール〕につき乙2の4

の写真F,同No. 〔人孔番号126448〕
10 につき乙2の4の写真G,乙3)。

ケ 被告公営企業管理者は,平成24年7月18日,原告に対し,原告の指

摘する4か所のマンホールのインバートについては,平成19年3月29日に一般

的形状のものとして工事完了を確認していること,上記4か所のうち2か所ににつ

いては,平成24年6月28日に何者かによりインバートが細工された形跡を確認

し,これを写真で記録の上,引渡しを受けた時の形状に戻したこと,したがって,

特許権侵害行為及び特許発明の使用行為はないことなどを記載した返答書を送付し

た(甲7)。

コ 原告の代理人弁護士は,被告の代理人弁護士に対し,平成24年7月2

5日付け通知書を同月27日に送付して,答弁書別紙2の1におけるNo.9(人



孔番号126445,本件訴訟における被告物件1のマンホール)及びNo.10

(人孔番号126448)の各マンホールのインバートの写真公開を求めたが,被

告公営企業管理者は,同年8月3日,被告情報公開及び個人情報保護に関する条例

6条の規定に基づき,行政情報の公開請求を行うよう回答した(甲6の1,6の2,

8)。

サ 被告は,本件訴訟の訴状が送達した後の平成24年9月12日,金沢市

田上本町地内にある複数のマンホールのインバートについて,調査を実施した。原

告は,これまで補助参加人土田工建が金沢市戸板第二土地区画整理地区内で施工し

た4か所のマンホール(答弁書別紙2の1のNo.5,No.6,No.9及びN

o.10)のインバートを問題にしていたにもかかわらず,訴状では,田上本町土

地区画整理地区内に存在するマンホールのインバートについての特許権侵害も主張

し,所在を特定しなかった。しかし,被告において,訴状と共に提出されていた甲

3号証の写真4の擁壁や側溝の状況を参考にしたところ,同号証の写真4のマンホ

ールは,金沢市田上本町土地区画整理地区内の人孔番号173821のマンホール

(別紙「金沢市田上本町土地区画整理事業 設計図」
〔答弁書別紙1の1〕における

No.1)であると推測されたため,当該マンホールを含む複数のマンホールのイ

ンバートを調査した(平成24年9月調査)。その結果,被告は,答弁書別紙1の1

におけるNo.1ないしNo.3のマンホール(人孔番号173821ないし17

3823,本件における被告物件2ないし4のマンホール)のインバートに加工

施されていたことを発見した。

シ 被告は,平成24年9月13日,答弁書別紙1の1におけるNo.1な

いしNo.3のマンホール(被告物件2ないし4のマンホール)について,被疑者

不詳として,建造物侵入の疑いで石川県警察金沢中警察署へ被害通報した(乙6,

53)。

以上を前提に,被告による被告物件1及び2の使用についての過失推定に関し,

被告において,当該物件の使用が本件特許を侵害していないと信じるに足りる事情



が認められるかを検討する。

上記認定事実によれば,被告物件1及び2の管渠築造工事完了後から,被告物件

1及び2がそれぞれ別紙2−1及び2−2の状況であることが確認された平成24

年までにおいて,被告が,地域を限定して実施した小規模な平成19年調査以外に,

インバートの形状の確認及び保全のための具体的措置を講じた形跡はない。また,

被告は,原告から,特許権侵害の疑いを指摘された後も,インバータの形状の調査

に消極的な姿勢を示し,特許権侵害の有無の全面的な調査をせず,3年経過後も特

許権侵害の有無を確定的に判断する立場にはないと表明するなど,自主的に,イン

バートの形状の変更の有無の確認作業をしなかったと認められる。このように,被

告は,被告物件1及び2の施工後,その使用期間中,平成19年調査以外に確認及

び保全的措置を全く行っておらず,原告による特許権侵害指摘後も長期間確認等の

調査をしなかった以上,被告が,被告物件1及び2の使用について,施工時の確認

のみで,その後の侵害がないと信じることに相当な理由があると認められるもので

はない。なお,被告は,被告物件1及び2についてモルタル加工部分を撤去したり,

被告物件1について石川県警察金沢中央警察署へ被害通報したりしているが,前者

は,特許権侵害発覚後の是正措置,後者は,将来的な特許権侵害の再発防止措置を

講じたものにすぎず,いずれも,特許権侵害状態での使用よりも後の時点の事情で

あり,使用に特許権侵害がないと信じたことを正当化する理由とはいえない。

以上の次第であって,被告のインバート管理の状況から過失推定の覆滅を認める

こともできない。

(4) さらに,被告は,過失の推定の覆滅事由として,原告ないし原告の関係者

が本件特許権侵害の状態を作出したとも主張する。このような事情が認められるの

であれば,被告による特許権の侵害が認められないのは当然である。

しかしながら,被告が,上記のように原告ないし原告の関係者が本件特許権侵害

の状態を作出したと主張する根拠は,つまるところ,原告が,被告市内に多数ある

マンホールのインバートの中から,被告物件を特定できた点が不自然であるという



点に尽きる。この点について,原告は,被告物件1を特定できた事情に関し,同業

者から情報が入ることもあると述べるだけであり,疑問を差し挟む余地がないわけ

ではない。しかしながら,原告が,当初は,被告に対してすべてのマンホールの調

査を求めていたこと(前記(3)ウ),原告が調査を求めたマンホールのほとんどが本

件特許権侵害の状態でなかったこと(前記(3)ウ,キ),本件特許権を侵害するマン

ホールの特定等に相当な費用や時間を要すること,損害賠償請求が容認されても必

ずしも高額になるとは限らないことなどを考慮すると,原告の被告物件1の特定の

経過だけを理由として,本件特許を侵害する施工工事の主体が原告ないし原告の関

係者であると推認することはできない。したがって,過失の推定を覆滅することは

できない。

(5) 以上によれば,被告に過失推定の覆滅は認められない。」

3 当審における当事者の主張に対する判断

(1) 原告

ア 被告物件3及び4の構成要件充足性

(ア) 原告は,被告物件3及び4における左右の断面略三角形状の溝を介し

て形成される導流溝最下部の領域は,導流溝最下部にあって導流溝側壁を遡上する

汚水に対する抵抗を増加させて汚水の跳返りを抑制するという技術的思想を具体化

するものであるから,本件発明の「跳返り防止用の凹溝」に該当する旨主張する。

【被告物件3】





【被告物件4】




しかしながら,
「凹溝」とは,凹んだ溝ということであり,少なくとも周囲の領域

よりも凹んだ空間を伴う必要がある。被告物件3及び4の左右の断面略三角形状の

水は,その周囲の領域より凹んではいるが,それは「最下部」にはない。また,左

右の溝に挟まれた領域は,左右の溝との深さを比較すると,左右の溝よりも凹んで

いるとはいえず,「凹溝」とはいえない。

確かに,本件明細書において実施例を示した【図7】及び【図8】には,
「最下部」

に符号11の領域が設けられており,この部分の面は,周辺の凸条14の面よりも



深くなっており,しかも,最下部の面の幅は,半円形の導流溝全体に比して,やや

広く設置されている。

【図7】 【図8】




しかしながら,上記【図7】及び【図8】では,符号11の領域の両外側には1

4という凸条部分があることから,その凸条14と比較した場合に,符号11の領

域が凹んでいると評価できるのに対し,被告物件3及び4は,そのような凸条部分

が存在しない点において,上記【図7】及び【図8】と大きく相違する。

しかも,本件明細書を見ると,
「凹溝11は,断面半円形の導流溝10aの最下部

に対し,小さい段部11a,11aを介して断面円弧状に長手方向に形成されてい

る。(
」【0017】,
)「凹溝11は,左右の凸条14,14を介して形成することが

できる(図7)。凸条14,14は,左右に一対を形成することにより,導流溝10

aの最下部に凹溝11を形成することができる。【0027】, 導流溝10aは,

」 )「

複数の凸条14,14…を介して複数の凹溝11,11…を形成してもよい(図8) 」



【0028】,
)「また,導流溝10aは,複数の凸条14,14…を波形に形成す

ることにより,複数の凹溝11,11…を形成してもよい(図9) 」【0029】
。( )

などと記載されており,本件発明は,導流溝最下部と導流溝側壁に段差を設け,そ

の段差が導流溝側壁を遡上する汚水を直接受け止める抵抗となり,汚水の跳返りを

抑制することを予定しているのであって,そのような導流溝最下部を「凹溝」と表

現している。本件発明における「凹溝」とは,汚水の跳返りの抵抗を増やす構成す

べてを表現する用語として使用されたものではない。

したがって,被告物件3及び4の導流溝最下部の領域には,左右の断面略三角形

状の溝が形成されており,汚水の跳返りの抵抗を増やす構成であるとしても,遡上



する汚水を直接受け止める抵抗となる凸条の構成がない以上,
「凹溝」であるとはい

えない。

(イ) また,原告は,被告物件3及び4に作用効果があることをもって,構

成要件充足性が認められるような主張をするが,通常,特定の発明の作用効果を発

揮するための構成が技術的に1つに限定されるとは限らず,本件発明の有する作用

効果を生じ得る構成も複数のものが想定されるから,作用効果の存在を理由に構成

要件の充足を主張する原告の論理付けは失当である。

イ 損害

原告は,被告の不法行為に起因する損害として弁護士費用は増額されるべき旨主

張するが,本件においては,被告の控訴に対応するだけでなく,原告自らが控訴し

ているのであって,この控訴は上記のとおり棄却されるべきであるから,原告の弁

護士費用を増額すべきような事情は認められない。

(2) 被告

過失推定の覆滅について

被告は,原判決の事実認定には誤りがあり,事実関係が正しく認定されれば,被

告の過失は否定されるべき旨主張する。

しかしながら,被告が主張しているとおり,被告が,マンホールのインバートの

設置の時点で,本件特許権を侵害する状態でないことを確認していたとしても,そ

れだけでは,被告の過失推定が覆滅できないことは上記2で説示したとおりである。

被告の主張は,前提において誤りがあり,採用できない。

イ 被告物件2の構成要件充足性

被告は,被告物件2は最上流に設置されたインバートであるから,上流側の管渠

から落下する汚物は存在しないし,汚物が導流溝の内面に沿って上方に跳ね返るこ

ともなく,本件発明の効果を奏しないと主張する。

しかしながら,被告の主張は,被告物件2の具体的な使用状況からして,本件発

明の効果を発揮する場面が想定できないというだけであり,被告物件2が構造上本



件発明の効果を奏し得ないと主張するものではないから,失当である。

ウ 無効理由について

被告は,乙64報告書の実験をもって,本件発明は実施可能要件及びサポート要

件に違反すると主張する。

(ア) 乙64の実験結果から理解できる事実は次のとおりである。

@ 断面半円形(直径200mm)の導流溝の最下部に段差7mmの凹

溝を形成した試験用マンホールインバート(Bタイプ)及び段差6mmの凹溝を形

成した試験用マンホールインバート(Cタイプ)は,いずれも,試験用マンホール

インバートの最下部から254mmの高さに設けた流入管から10秒間に5リット

ル又は11秒間に20リットルの水を流下させたときの飛散率が,0.064%,

0.046%,0.087%,0.094%であり,凹溝を形成しなかった試験用

マンホールインバート(Aタイプ)の飛散率0.136%,0.163%に比べて

小さい。飛散率は,流下水量を基準として,飛散水量の多寡を表すものであるから,

本件発明の作用効果の有無は,飛散率の比をもって判断するのが相当といえ,Aタ

イプの飛散率が,Bタイプの飛散率及びCタイプの飛散率との平均値の2. (水
5倍

量が10秒間に5リットルの場合)又は1.8倍(水量が11秒間に20リットル

の場合)と認められる以上,有意な差を示すものといえる。

A 他方,流入管を設ける高さを試験用マンホールインバートの最下

部から535mmとしたときは,水量が10秒間に5リットルの場合も11秒間に

20リットルの場合も,Aタイプの飛散率(1.726%,2.967%)とB・

Cタイプの飛散率(1.446%,1.514%,2.649%,2.522%)

との間に有意差がない。

(イ) 上記@の事実は,本件発明の加工を施したインバートは,加工を施

していないインバートに比べて,汚水の跳返りを抑制する効果を奏することを,定

量的に示すものである。

他方,上記Aの事実は,本件発明の加工を施したインバートが汚水の跳返りを抑



制する効果を奏することを,必ずしも否定するものではない。すなわち,本件発明

は,導流溝最下部に凹溝を設けること,つまり,導流溝最下部と導流溝側壁に段差

を設けることで,段差のある管渠から導流溝に落下した汚水の跳返りが断面半円形

の導流溝の側壁に沿って遡上する際に受ける抵抗を増し,汚水の跳返りを抑制する

ものであるから,管渠の段差が大きくなり,導流溝に落下して側壁に沿って遡上す

る汚水の跳返りの勢いが,断面半円形の導流溝の側壁に沿って遡上する際に受ける

抵抗を凌駕するほど強くなれば,汚水跳返り抑制効果を十分奏しないことは,実験

を経るまでもなく自明である。このことは,本件明細書の発明の詳細な説明におい

て,「ただし,管渠P1,P2の段差は,60cm未満に設定することが好ましく,

インバート10は,導流溝10aの径を下流側の管渠P2の径に適合させるものと

する。(
」【0022】)と記載され,管渠の段差は無制限に大きくできるものではな

いことを前提とした説明があることからも裏付けられる。

なお,乙64報告書では,流入管の高さを試験用マンホールインバートの最下部

から535mmにした場合(管渠P1,P2の段差を53.5cmに設定した場合),

管渠P1,P2の段差が60cm未満であるにもかかわらず,汚水の跳返りを抑制

する効果が失われる結果になっている。しかしながら,段差のある管渠から導流溝

に落下して断面半円形の導流溝の側壁に沿って遡上する汚水の跳返りの程度は,管

渠と導流管の段差の程度のみならず,汚水の流量,管渠の構造等による条件の違い

により変動すると考えられる。そうすると,
【0022】の記載は,インバート底部

に施された跳返り防止用の凹溝が効果を発揮する条件の一応の目安を提示したもの

と解されるから,乙64報告書の結果は,
【0022】の記載と矛盾するものではな

い。

(ウ) 以上によれば,本件発明は実施可能であり,課題を解決するといえる

から,被告の主張は理由がない。



第6 結論



以上より,原告の請求は33万6000円の支払,及びうち16万8000円に

対する平成24年9月10日以降の,うち16万8000円に対する平成26年5

月2日以降の,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度

で理由があり,その余の請求は理由がなく,これと結論を同じくする原判決は相当

であるから,原告,被告の本件各控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり

判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

清 水 節




裁判官

片 岡 早 苗




裁判官

新 谷 貴 昭





別紙1

被告物件目録



1 金沢市若宮町 戸板第二土地区画整理地区内

人孔番号126445のマンホールに設置されたインバート



2 金沢市田上本町 田上本町土地区画整理地区内

人孔番号173821のマンホールに設置されたインバート



3 金沢市田上本町 田上本町土地区画整理地区内

人孔番号173822のマンホールに設置されたインバート



4 金沢市田上本町 田上本町土地区画整理地区内

人孔番号173823のマンホールに設置されたインバート



以上





別紙 「原告主張の被告物件目録1」ないし「原告主張の被告物件目録4」





- 27 -
- 28 -
- 29 -
- 30 -
- 31 -
- 32 -
- 33 -
- 34 -
別紙2−1

被告物件1(人孔番号126445のマンホールに設置されたインバート)の

構造及び図面



1 インバートの構造

(1) 内径約900oのマンホールに設置された二股に分岐したインバートであ

って,第1図において右上方(方向は第1図を前提とする。以下同じ。)の内径

200oの断面半円形の導流溝1の両側面に以下のモルタル2が塗布されてい

る。

(2) モルタル2の導流溝1の左側壁の塗布位置,厚さは次のとおりである。

ア 垂直方向

上端から約20oから約70oまでの,垂直方向で50o幅に塗布されて

いる。

イ 水平方向

塗布上辺では約510o幅で,塗布下辺では約530o幅に連続して塗布

されている。

ウ 厚み

各部分の塗布の最大厚みは約4oと推定される。

(3) モルタル2の導流溝1の右側壁の塗布位置,厚さは次のとおりである。

ア 垂直方向

A1−A2線断面(第2図)付近では上端から約70oまでの垂直方向で

70o幅に,

B1−B2線断面(第3図)等その他の部分では上端から約20oから約

70oまでの垂直方向で50o幅に塗布されている。

イ 水平方向

塗布上辺及び塗布下辺は約350o幅に連続して塗布されている。



ウ 厚み

各部分の塗布の最大厚みは約4oと推定される。

2 図面の説明

第1図 平面図

第2図 第1図のA1−A2線断面図

第3図 第1図のB1−B2線断面図

なお,各図はいずれもフリースケールである。





別紙2−2

被告物件2(人孔番号173821のマンホールに設置されたインバート)の

構造及び図面



1 インバートの構造

(1) 内径約900oのマンホールに設置されたインバートであって,内径200

oの断面半円形の導流溝1の両側面に以下のモルタル2が塗布されている。

(2) モルタル2の導流溝1の左側壁の塗布位置,厚さは次のとおりである。

ア 垂直方向

A1−A2線断面(第2図)では上端から約86oまでの高さまで,

B1−B2線断面(第3図)では上端から約85oまでの高さまで,

C1−C2線断面(第4図)では上端から約86oまでの高さまで,

D1−D2線断面(第5図)では上端から約85oまでの高さまで,

各塗布されている。

イ 水平方向

左側壁の上端では約770oの幅に,下端では約710oの幅にわたって

連続して塗布されている。

ウ 厚さ

モルタル2の塗布厚さは,導流溝1の上端では0oであるが,下方にいく

につれて増加し,その最大厚さは

A1−A2線断面(第2図)では約5.70o,

B1−B2線断面(第3図)では約6.35o,

C1−C2線断面(第4図)では約5.45o,

D1−D2線断面(第5図)では約6.20o

の各厚さである。



(3) モルタル2の導流溝1の右側壁の塗布位置,厚さは次のとおりである。

ア 垂直方向

A1−A2線断面(第2図)では上端から約85oまでの高さまで,

B1−B2線断面(第3図)では上端から約88oまでの高さまで,

C1−C2線断面(第4図)では上端から約90oまでの高さまで,

D1−D2線断面(第5図)では上端から約96oまでの高さまで,

連続して各塗布されている。

イ 水平方向

右側壁の上端では約750oの幅に,下端では約660oの幅にわたって

連続して塗布されている。

ウ 厚さ

モルタル2の塗布厚さは,導流溝1の上端では0oであるが,下方にいく

につれて増加し,その最大厚さは

A1−A2線断面(第2図)では約6.40o,

B1−B2線断面(第3図)では約6.90o,

C1−C2線断面(第4図)では約4.65o,

D1−D2線断面(第5図)では約6.40o

の各厚さである。

2 図面の説明

第1図 平面図

第2図 第1図のA1−A2線断面図

第3図 第1図のB1−B2線断面図

第4図 第1図のC1−C2線断面図

第5図 第1図のD1−D2線断面図

なお,各図はいずれもフリースケールである。





- 39 -
別紙2−3

被告物件3(人孔番号173822のマンホールに設置されたインバート)の

構造及び図面



1 インバートの構造

(1) 内径約900oのマンホールに設置されたインバートであって,内径200

oの断面半円形の導流溝1の両側面が削られて「溝」(図中の灰色部分。以下,

同様。)が形成されている。

(2) 導流溝1左側壁の「溝」の位置,大きさは次のとおりである。

ア 垂直方向

A1−A2線断面(第2図)では上端から約78.3oの位置から,

B1−B2線断面(第3図)では上端から約77.1oの位置から,

C1−C2線断面(第4図)では上端から約78.3oの位置から,

D1−D2線断面(第5図)では上端から約73.8oの位置から,

各形成されている(削られている)。

イ 水平方向

第1図に示すように約815oの幅にわたって連続して形成されている。

ウ 形状,大きさ

形状は断面略三角形状であって,大きさは元の削られた円弧面を斜辺とし

て,他の2辺を深さ,幅で表すと以下のようになる。

A1−A2線断面(第2図)では深さ6.25o,幅20o

B1−B2線断面(第3図)では深さ3.80o,幅15o

C1−C2線断面(第4図)では深さ8.40o,幅30o

D1−D2線断面(第5図)では深さ11.30o,幅35o

(3) 導流溝1右側壁の「溝」の位置,大きさは次のとおりである。



ア 垂直方向

A1−A2線断面(第2図)では上端から約78.3oの位置から,

B1−B2線断面(第3図)では上端から約78.3oの位置から,

C1−C2線断面(第4図)では上端から約80.2oの位置から,

D1−D2線断面(第5図)では上端から約84.1oの位置から,

各形成されている(削られている)。

イ 水平方向

第1図に示すように約760oの幅にわたって連続して形成されている。

ウ 形状,大きさ

形状は断面略三角形状であって,大きさは元の削られた円弧面を斜辺とし

て,他の2辺を深さ,幅で表すと以下のようになる。

A1−A2線断面(第2図)では深さ7.05o,幅15o

B1−B2線断面(第3図)では深さ3.40o,幅15o

C1−C2線断面(第4図)では深さ6.50o,幅25o

D1−D2線断面(第5図)では深さ6.75o,幅30o

である。

2 図面の説明

第1図 平面図

第2図 第1図のA1−A2線断面図

第3図 第1図のB1−B2線断面図

第4図 第1図のC1−C2線断面図

第5図 第1図のD1−D2線断面図

なお,各図はいずれもフリースケールである。











別紙2−4

被告物件4(人孔番号173823のマンホールに設置されたインバート)の

構造及び図面



1 インバートの構造

(1) 内径約900oのマンホールに設置されたインバートであって,二股の導流

溝11と導流溝12が合流する。導流溝11,12はいずれも内径200oの

断面半円形であるが,その各両側面が削られて「溝」(図中の灰色部分。以下,

同様。)が形成されている。

(2) 導流溝11左側壁の「溝」の位置,大きさは次のとおりである。

ア 垂直方向

A1−A2線断面(第2図)で上端から約76.4oの位置から,形成さ

れている(削られている)。

イ 水平方向

第1図に示すように約400oの幅にわたって連続して形成されている。

ウ 形状,大きさ

形状は断面略三角形状であって,大きさは元の削られた円弧面を斜辺とし

て,他の2辺を深さ,幅で表すと深さ9.00o,幅30oである。

(3) 導流溝11右側壁の「溝」の位置,大きさは次のとおりである。

ア 垂直方向

A1−A2線断面(第2図)で上端から約72.4oの位置から,形成さ

れている(削られている)。

イ 水平方向

第1図に示すように約380oの幅にわたって連続して形成されている。

ウ 形状,大きさ



形状は断面略三角形状であって,大きさは元の削られた円弧面を斜辺とし

て,他の2辺を深さ,幅で表すと深さ6.45o,幅40oである。

(4) 導流溝12左側壁の「溝」の位置,大きさは次のとおりである。

ア 垂直方向

B1−B2線断面(第3図)で上端から約75.1oの位置から,形成さ

れている(削られている)。

イ 水平方向

第1図に示すように約415oの幅にわたって連続して形成されている。

ウ 形状,大きさ

形状は断面略三角形状であって,大きさは元の削られた円弧面を斜辺とし

て,他の2辺を深さ,幅で表すと深さ8.10o,幅35oである。

(5) 導流溝12右側壁の「溝」の位置,大きさは次のとおりである。

ア 垂直方向

B1−B2線断面(第3図)で上端から約77.1oの位置から,形成さ

れている(削られている)。

イ 水平方向

第1図に示すように約380oの幅にわたって連続して形成されている。

ウ 形状,大きさ

形状は断面略三角形状であって,大きさは元の削られた円弧面を斜辺とし

て,他の2辺を深さ,幅で表すと深さ4.35o,幅30oである。

2 図面の説明

第1図 平面図

第2図 第1図のA1−A2線断面図

第3図 第1図のB1−B2線断面図





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