関連審決 | 訂正2011-390120 |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
26年
(ネ)
10058号
特許権侵害差止請求控訴事件
|
---|---|
控訴人カースル株式会社 補佐人弁理士安倍逸郎 同 下田正寛 被控訴人 株式会社トライアルカンパニー 訴訟代理人弁護士 橋本吉文 同 李武哲 同 秋山理恵 同 金佑樹 同 三浦紗耶加 同 宮川峻 被控訴人補助参加人 三菱アルミニウム株式会社 訴訟代理人弁護士 佐藤恒雄 同 日野英一郎 補佐人弁理士寺本光生 同 山口洋 被控訴人補助参加人 アルファミック株式会社 訴訟代理人弁護士 山上和則 同 藤川義人 同 雨宮沙耶花 補佐人弁理士藤井淳 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2015/05/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,原判決別紙製品目録記載の各製品を製造し,譲渡し,又は譲渡等の申出をしてはならない。 3 被控訴人は,前項の各製品を廃棄せよ。 |
|
事案の概要
1 本件は,控訴人が,被控訴人が販売等をする原判決別紙製品目録1ないし6記載のイ号,ロ号,ハ号,ニ号,ホ号及びヘ号製品(後記本件製品)等は,控訴人が特許権者である,発明の名称を「通気口用フイルター部材」という発明にかかる特許権(平成8年10月8日出願,平成10年6月19日設定登録,特許番号第2791553号。ただし,平成24年12月6日付けの訂正審決〔訂正2011-390120号〕により訂正された後のもの)を侵害すると主張して,被控訴人に対し,特許法100条1項,2項に基づき,これらの製品及びこれらの製品と同一の構成を有するフィルター装置の製造等の差止め及び廃棄を求める事案である。被控訴人補助参加人三菱アルミニウム株式会社は,上記各製品のうちイ号,ロ号,ハ号及びヘ号製品の製造者であり,被控訴人補助参加人アルファミック株式会社は,ニ号及びホ号製品の製造者である。 原審は,本件製品に使用される不織布は,本件特許の特許請求の範囲記載の「120〜140%まで自由に伸びて縮む」という構成要件(構成要件B)に該当する不織布であると認めることはできないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。 原判決を不服として,控訴人が本件控訴をした。 2 前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,原判決を次のとおり補正し,当審における当事者の主張を次項で補充するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の1及び2並びに第3に摘示されたとおりであるから,これを引用する(以下,引用する原判決中の「原告」は「控訴人」と, 「被告」は「被控訴人」と適宜読み替える。。 ) (原判決の補正) (1) 原判決5頁10行目の「長さ方法」を,「長さ方向」に改める。 (2) 原判決6頁21行目の「提起している」を「提起した」に改め,同頁22行目の末尾に「なお,別件訴訟については,平成26年4月22日に請求棄却の判決がされ,控訴人が知的財産高等裁判所に控訴(平成26年(ネ)第10055号)をした。」を加える。 (3) 原判決7頁4行目ないし5行目の「発明と不明確」を「発明が不明確」と,同行目ないし6行目の「本件訂正発明」を「本件特許発明」と,それぞれ改める。 (4) 原判決8頁2行目ないし3行目の「本件発明」を「本件特許発明」と,同頁5行目の「通気層」を「通気口」と,それぞれ改める。 (5) 原判決10頁25行目の「指すもの」を「指すものと」と改める。 (6) 原判決14頁9行目の「本件発明」を「本件特許発明」と,同頁24行目,25行目及び15頁5行目の「丁4試験」をいずれも「丁8試験」と改める。 (7) 原判決19頁8行目の「甲7等試験」を「甲6等試験」に改める。 (8) 原判決19頁26行目ないし20頁1行目の「三菱アルミ製品を」を削り,同頁4行目の「行った」を「いった」に改める。 3 当審における当事者の補充的主張 (1) 控訴人 ア 甲19試験は,本件特許の特許請求の範囲の記載を忠実に再現している。実際に通気口用フィルター部材を取り付ける際には,不織布の周囲を簡易固定具で通気口に固定した後,三本の指で不織布をつまみ,引っ張る側の辺の上端部分,下端部分と中央部分の三か所又は同辺を四等分した四か所を個別に引っ張るものである。 したがって,本件特許発明の「一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき」とは,甲19試験において磁石により不織布を固定した後にダブルクリップを引っ張ることに相当する。 イ 控訴人は,原判決後,新たに第三者機関に依頼し,甲19試験と同じ方法で,磁石と面ファスナーを簡易固定具とする本件製品の測定を行った(甲21の1ないし4。以下「甲21試験」という。。甲21試験によっても,不織布の伸び率は, )本件製品すべてにおいて120〜140%の範囲内に入っており,本件製品は,本件特許発明の構成要件Bを充足する。 また,中央,右,左の順番で不織布の一辺全体を120%以上伸ばして取り付けることができることは,別件訴訟の甲34試験(甲23)によって証明できる。 ウ 参加人らは,甲21試験が製品同梱の磁石を用いていないなどと主張する。 しかし,磁石や面ファスナーは,商品の購入者が,本体のそれぞれの形状や材質により恣意的に決定するものである。レンジフードの種類は数万種類あり,したがって,購入者が同封された簡易固定具を使用するとは限らないし,レンジフード等の寸法により,使用する簡易固定具の個数や組み合わせも多数存在する。仮に同梱のものであったとしても,磁石の磁力は製品ごとに差異もあり,必ずしも一定ではないから,統一性はない。しかも,簡易固定具の違いは,簡易固定具の保持力の差であり,不織布の伸び率とは関係がない。 知財高判平成26年3月27日・平25年(行ケ)10205号においても,本件特許の「仮固定」の手段は,面ファスナやフィルター取付具に限定されず,これら以外の取付手段を採用しても構わないと判断されている。本件特許発明は,従前,縦横ともに伸縮性のない非伸縮性の固いフィルター部材ばかりであっため,フィルターが寸法不足であっても引き伸ばして簡単に取り付けられるフィルターを開発したものである。本件の争点は,不織布の伸縮性であり,仮固定具の保持力ではない。 エ 参加人らの丙3,丁8試験は,不織布の一辺を磁石により固定し,他辺を鋼板で挟み込んで引っ張っており,レンジフード用フィルター部材の実際の使用態様と乖離しているから,不適切である。実際の取り付け方法は,前記アのとおりであり,掴み幅は手の幅が限度で,一辺全体を保持して引っ張ることは想定できず,引っ張りの際の不織布のつかみ幅が異なれば,仮固定部を含む不織布全体における力の加わり方は異なる。参加人アルファミックは,幅全体を伸ばしても,細かく何か所かに分けて掴んで伸ばしても最終的に磁石が外れるまでの不織布に作用する力はほぼ同じになるはずであると指摘するが,不織布の伸縮性はゴムのようなものではないので,引っ張った後に磁石で固定すると引っ張り癖がつき,縮む力は弱まるから,同指摘は根拠がない。また,丁8試験は,データポイント後もグラフが右上がりになっており,仮固定具が一つでも微動した時点をとらえ,その後も不織布が伸び続けているにもかかわらず,伸びていないと判断しているのであり,不適切である。 参加人らの,後記公証人立会いの試験(丙16,丁14)は,仮固定の磁石の保持力の問題であり,フィルターの伸縮性を証明していない。実際にフィルターを取り付ける際には,仮固定が動きそうになったときには,手で押さえるか,磁石や取付けテープの数量を増やすかなど,より強い仮固定方法を選択するし,破れやすいフィルターを取り付けるときには,つかみ幅を長く持つ,ゆっくりと引っ張るなどの工夫をすることは常識である。 (2) 参加人三菱アルミ ア 甲21試験は,以下の点で,不適切であり,結果に信用性がない。 まず,三菱アルミ製品のうち,イ号,ロ号,ヘ号製品には,必ず製品付属の磁石を使用するよう包装袋に教示がされており,ハ号製品はロ号製品の取替用の製品であり,ロ号付属の磁石を必ず使用するよう教示がされているから,これらの製品において本件特許の「仮固定して使用」に対応する構成は,これらの付属の磁石を用いてフィルターを固定して使用することである。しかし,甲21試験の一部は,これらの製品に同梱されていない面ファスナを「製品同梱」のものであるとの誤った記載をした上,仮固定の手段に使用されているし,磁石を用いたイ号,ヘ号製品の試験には,もっとも吸着力が強いロ号製品付属のマグネットが, 「製品同梱」のものであるとの誤った記載をした上,仮固定の手段に使用されている。 また,ロ号製品についての試験は,他の製品と異なり,15cmの長さとしつつ磁石を4個使用したり,30%伸張させる前処理を行うなど,恣意的な条件設定がされている。他にも,重要な実験条件の記載が欠けている,事前に伸び癖をつけている,実際のレンジフードには使用されない吸着力の強い未塗装の鋼板が使用されている,不織布でレンジフード全体を覆うことを示していない点でも不当である。 さらに,甲21試験は,最大強度時の伸び率をデータポイントとしているが,参加人三菱アルミが甲21試験と同一の機関に依頼し,同梱の磁石,実際のレンジフードに用いられる鋼板を用いて,目視で磁石が動いた時点の伸び率を計測した試験(丙19の1ないし3。以下「丙19試験」という。)の結果によれば,いずれの三菱アルミ製品も20%伸びる前に磁石が始動した。したがって,甲21試験は,磁石が動いた距離が伸び量として反映されてしまうため,不織布の伸び率を計測したことにならない。 イ 参加人三菱アルミが,公証人立合いの下,実際にレンジフードに三菱アルミ製品を磁石で仮固定した状態で引っ張る実験を行った結果(丙16) いずれの製品 ,も120%伸びる前に磁石が外れてしまい,レンジフードを覆うことができなかった。 (3) 参加人アルファミック ア 甲21試験は,不織布の一辺の一部分しか伸ばしておらず,不織布の一辺全体を伸ばせる証拠とはいえない。丁8試験は,不織布の一辺全体を伸ばす試験であり,幅全体を同時に伸ばしても,細かく何か所かに分けて掴んで伸ばしても最終的に磁石が外れるまでの不織布に作用する力はほぼ同じになるはずであるから,本件特許発明の伸び率を測定する上では,丁8試験が適切である。 また,甲21試験は,アルファミック製品のうち,ニ号製品については,磁力の強いヨーク付の磁石を使用しており,製品付属の磁石を使っていないし,アルファミック製品には面ファスナが同梱されていないのに「製品同梱」と記載して面ファスナを使用した実験がされるなど,恣意的な試験条件が設定されており,信用できない。 また,甲21試験は,最大強度時(最大荷重時)の伸び率をデータポイントとしているが,参加人アルファミックが甲21試験と同一の機関,同一担当者に依頼し,同梱の磁石を用いる以外には甲21試験と同じ環境で,最大強度時の伸び率を測定するとともに,同時点での磁石や不織布がどのような状態であるかを観察した試験(丁17。以下「丁17試験」という。)の結果によれば,ニ号製品の伸び率は120%未満であり,ホ号製品の伸び率は140%以上であり,120〜140%の範囲外であった。また,最大強度時には磁石が動き始めていたり,不織布に亀裂が入っていたから,同様の試験である甲21試験のデータポイントも,既に仮固定が外れている状態であったといえ, 「仮固定して使用したとき」の伸びを測定しているとはいえない。 イ 参加人アルファミックが,公証人立合いの下,実際にレンジフードにアルファミック製品を磁石で仮固定した状態で引っ張る実験(丁14)を行った結果,いずれの製品も120%伸びる前に磁石が外れてしまい,レンジフードを覆うことができなかった。 (4) 被控訴人 参加人らの主張を援用する。 |
|
当裁判所の判断
当裁判所も,本件製品が, 「仮固定して使用したとき,120〜140%まで自由に伸びて縮む」ものとは認められないから,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。 1 対象製品について 控訴人が侵害品の一つとして主張する原判決別紙製品目録記載7の製品についての主張の理由がないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の1に説示のとおりであるから,これを引用する。 2 争点(2)(本件製品が,構成要件Bの「120〜140%まで自由に伸びて縮む」不織布を使用したものかどうかについて) (1) 本件明細書の記載 本件明細書には,以下の記載がある(甲2,3)。 ア 「【0003】【発明が解決しようとする課題】 ・・・排気口へのフィルター取付け方法に使用されている不織布には平面方向に伸びない不織布を使用しているので,取付けようとする通気口に合わせて不織布を切断する必要があり,所定の幅より短い場合にはフィルターとして使用することができず,長い場合には再度切断し直す必要があり,極めて面倒であるという問題があった。本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので,比較的簡便に取付けが可能な通気口用フイルター部材を提供することを目的とする。」 イ 「【0004】【課題を解決するための手段】 ・・・ここで,一軸方向にのみ非伸縮性の不織布とは,特定の方向には伸びないが,他の方向,特に非伸縮性を有する方向と直交する方向には不織布自体が伸びる不織布をいう。 【0005】 ・・・角形の通気口の一方の幅aにのみ長さを合わせて不織布を切断し,通気口の他方の幅bについては,概略長さで不織布を切断してフィルター部材を用意する。次に,フィルター部材となる不織布の所定の幅aで切断した側の端部を,通気口の幅aの部分に合わせて固定し,該不織布の反対側の端部を,幅aの通気口の反対側の端部に固定する。この場合,概略長さで切断した不織布が幅bより短い場合には,不織布を少し引っ張って伸ばすことにより通気口全体を覆い,概略長さで切断した不織布が幅bより長い場合には,一旦不織布の端部を固定した後,そのはみ出し部分を切断する(なお,余剰部分を折り曲げてもよい)」 。 ウ 「【発明の実施の形態】【0007】 図2に示すように,本発明の一実施の形態に係る通気口用フイルター部材は,難燃性処理が行われた合成樹脂繊維からなる不織布素材10が使用されている。 ・・・この不織布素材10は,図2において矢印Aで示す幅方向には伸縮性がなく,矢印Bで示す長さ方向には約120〜140%程度まで自由に伸びて縮む性質を有している。 【0008】 このような不織布の製造方法としては,比較的伸びにくいポリエステル等の繊維を一方向に並べて不織布とすることによって製造可能であるし,場合によっては自由方向に繊維が並んだ不織布に一方向に伸びにくい繊維を多数平行に入れて製造してもよいし,その他の周知の方法によって製造してもよい。 【0009】 ・・・縦横の内側の幅がa×bであるレンジフード11の通気口12に装着する不織布13を切り出す場合には,縦方向については幅aの長さと同一か又は極めて近い長さcで切断する。そして,横方向については,好ましくは通気口12の幅bより少し短い長さdで切断する。これによって,通気口12を覆う不織布13が切り出されるが,縦方向においては通気口12の幅aと略等しいので,通気口12の幅aの一方側の端部14に一致させた状態で簡単に取っ手付き磁石15によって固定できる。この状態で,不織布13を通気口12に向けて張り付けるが,不織布13の幅dが通気口12の幅bより短い場合には,不織布13を横方向に引いて通気口12の幅bにその端部を合わせた状態で取っ手付き磁石15で固定する。 」 エ 「【0011】 ・・・比較実験のために,A,B何れの方向にも自由に伸びる不織布16を使用し,その周囲を取っ手付き磁石15で固定した状態でフィルター部材として使用したところ,時間の経過と共に油等の汚れが不織布16に付着し,通気口12の下方に垂れ下がることが確認された(略)。また,レンジフード11のファンの風力が強い場合には,ファンによって内側に吹き寄せられる(略)従って, 。 自由に伸びる不織布16の場合には,中央部分が上下に弛み易いという欠点が判明した。 【0012】 一方,直交する何れの方向にも伸びない不織布を使用して通気口12を覆った場合には, ・・・中弛みはしないが,所定の寸法に切断しないと通気口12に収まらず,収まっても丁度に取付けることは難しく,特に,幅が短い場合には全く使用できないという欠点があった。」 オ 「【0013】 なお,不織布の周囲の固定は取っ手付き磁石15によって固定したが,鉤状フックを有する面状ファスナー,クリップ等の簡易固定具で不織布の周囲を通気口に固定する場合であっても本発明は適用される。」 (2) 本件特許発明の技術的意義 本件特許発明の課題は,従前フィルターに用いられてきた不織布が,平面方向に伸びないものであることを前提として,そのような不織布を切断して使用する場合に,切断した結果,通気口の幅に足りないと使用することができないというものであった(【0003】。 ) 一方で,いずれの方向にも「自由に伸びる」不織布を使用した場合には,汚れの付着やファンによって内側に吹き寄せられることにより,不織布が伸びて中央部分が上下に弛み易いという欠点があった(【0011】。 ) 本件特許発明の技術的意義は,そのような欠点を踏まえつつ,上記課題を解決して,比較的簡便に取り付け可能な通気口用フィルター部材を提供するため 【000 (3】,不織布の構成を,一軸方向には非伸縮性であるが,当該一軸方向とは直交す )る方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したときは,120〜140%まで自由に伸びて縮むというものとすることにより,不織布の長さが通気口の一辺の幅に足りない場合に,通気口を覆うことができるように不織布を引っ張って伸ばすことにより長さを調整できる性能を有する不織布を使用したことにあると認められる(特許請求の範囲, 【0004】【0005】【0007】。 , , ) (3) 構成要件Bの「仮固定して使用したとき」の意義について 本件特許発明は, 「仮固定して使用したとき,120〜140%まで自由に伸びて縮む」ものである。このうち,「仮固定」については,本件明細書の【0009】,【0013】の記載からすれば,当業者は, 「磁石,面状ファスナー」など,レンジフードの通気口に不織布をフィルターとして取り付ける際に通常想定される,簡単に取り外しができる固定具による固定であると解するものと認められる。そして,「仮固定して使用したとき,」とは,特許請求の範囲に使用について「通気口を不織布で直接覆って使用する」と特定されていること及びフィルターの使用態様についての本件明細書の記載(【0005】【0009】 , )からすれば,通気口よりも短い幅で切断された不織布の一辺を,このような簡単に取り外しができる固定具で仮固定した状態で,反対側の端部を使用者が自らの手等で伸ばして,通気口全体を不織布で直接覆うことをいうと解するのが相当である。 (4) 構成要件Bの「120〜140%まで自由に伸びて縮む」の意義について ア 前記(3)で判示したところによれば,「仮固定して使用したとき,120〜140%まで自由に伸びて縮む」とは,前記(3)のような方法で不織布を通気口に仮固定して,通気口全体を覆うように伸ばしたときに,仮固定が維持できる状態で,120%から140%までの長さの範囲内のいずれかの長さまで自由に伸ばして,縮むことができる性能を有すること,すなわち,仮固定具が抗することができる範囲内,かつ,使用者の手等の力として想定できる範囲内の力(荷重)で,通気口全体を覆うことができるように,120%から140%までの長さの範囲内のいずれかの長さまで自由に伸ばして,縮むことができる性能を有することを意味すると解するのが相当である。 イ なお,本件特許発明は, 「自由に伸びて縮む」ものである。不織布の長さを調整して通気口に取り付ける場合,不織布が伸びるだけで縮むことがないと,通気口に仮固定する時に伸ばしすぎて弛みが生じるなどした場合に,調整して通気口の幅に合わせることができず,「比較的簡便に取付けが可能」【0003】 ( )という本件特許発明の目的を達することができない。また,前記(2)のとおり,いずれの方向にも「自由に伸びる」不織布を使用した場合には,不織布の伸びにより弛みが生じるという欠点が生じるところ,このような弛みが発生しないようにするためには,不織布は自由に伸びるだけではなく,縮むことができる性能を有することが必要である。本件特許発明の特許請求の範囲の「自由に伸びて縮(む)」とは,このような点を踏まえ,不織布は伸びるだけではなく所定の範囲内で「自由に縮む」ことができることを特定したものと解される。 (5) 本件製品の構成要件Bの充足性について 前記(4)の解釈を前提として,本件製品の構成要件Bの充足性について検討する。 ア 甲12等試験及び甲6等試験について 甲12等試験及び甲6等試験によっては,本件製品が構成要件Bを充足すると認めるには足りないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の2(5)ア(ただし,原判決24頁16行目冒頭から20行目末尾までを削る。及びイに説示のとおりであ )るから,これを引用する(控訴人も,当審においてはこれらの試験に基づく主張はしていない。。 ) イ 甲19試験及び甲21試験について 控訴人は,甲19試験及び甲21試験が,本件製品が構成要件Bを充足することの根拠となると主張する。これらの試験の内容は,以下のとおりである。 (ア) 甲19試験 甲19試験は,控訴人の従業員が,本件製品(ハ号製品を除く。)について,福岡県工業技術センター化学繊維研究所の機材によって試験を行った結果をまとめたものであり,試験の内容及び結果は次のとおりである(甲19)。 @ 縦460mm,横600mmの試験片寸法とする。 A 試験片の縦方向の一端を,亜鉛鍍金鋼板(未塗装)に,イ号,ロ号,ニ号製品は,面状ファスナー4個で,ホ号,ヘ号製品は付属磁石4個で固定する。 B 試験片の縦方向の他端の中央に,幅32mmのダブルクリップを付け,そのクリップを引張速度毎分100mmにて,オートグラフ精密万能試験機で引っ張り,引張力(荷重)と不織布の伸び量(引張距離)の関係を測定する。 C 製品毎に上記荷重-ストロ-ク(伸び量)の関係を表示したグラフから, 「データポイント」を定め,その時における伸び量を読み取り,縦460mmの長さに対する伸び率を算定したものを,試験結果とする。なお,甲19試験の試験報告書には,データポイントの定め方について「データポイントの判断は,不織布の繊維斑で引張力,磁石や面状ファスナーの保持力を考慮したポイントを最大荷重とし,その時のストロークを伸び寸法としています。」とのみ記載されている。 同試験結果によれば,各製品について3回ずつ試験した縦方向の平均伸び率は,イ号製品が123.42%,ロ号製品が121.95%,ニ号製品が127.06%,ホ号製品が123.84%,ヘ号製品が120.48%であった。 (イ) 甲21試験 甲21試験は,一般財団法人カケンテストセンターが,本件製品(ハ号製品を除く。 について試験した結果をまとめたものであり, ) 試験の内容及び結果は次のとおりである(甲21の1ないし4〔各枝番含む。) 〕。 @ 縦46cm,横60cmの試験片とし,縦のつかみ間隔は42cmとする。 ただし,ロ号製品については,縦46cm,横15cmの試験片とし,不織布の厚みが厚いため,不織布を手で30%伸張させた状態で2秒間固定して不織布に伸び癖をつける。 A 試験片の縦方向の一端を,磁石4個又は面ファスナ4個で金属板に固定する(各製品ごとに2通りの固定方法で試験) ただし, 。 イ号製品について面ファスナで固定した試験については,面ファスナ14個で固定する。 イ号製品,ヘ号製品には,これらの製品付属の磁石ではなく,より磁力の強いロ号製品付属の磁石が使用され(丙17,弁論の全趣旨),ニ号製品の試験にも,同製品付属の磁石ではなく,より磁力の強くヨーク付の磁石が使用された(丁13,丁14の38頁,弁論の全趣旨)。 B 甲19試験の上記Bと同様の方法で,試験片の縦方向の他端中央部に付けたクリップを引っ張り,引張力(荷重)と不織布の伸びの関係を測定する。 C 荷重-ストロークの関係を表示したグラフから,試験片が金属板より外れるまでの,最大強度(荷重)を「データポイント」とし,同時点の伸び率(%。試験片の伸び(cm)/つかみ間隔(cm)×100)を算定したものを試験結果とする。 同試験結果によれば,各製品について3回ずつ試験した縦方向の平均伸び率は,以下のとおりであった。 マグネットによる固定 面ファスナによる固定 イ号製品 126.4% 128.4% ロ号製品 129.7% 124.9% ニ号製品 133.9% 129.6% ホ号製品 121.6% 122.8% ヘ号製品 129.6% 124.0% ウ 参加人らの行った試験について 参加人らは,丙3試験及び丁8試験が,本件製品が構成要件Bを充足しないことの根拠となると主張する。また,甲21試験についての反証として,丙19試験,丁17試験を提出する。これらの試験の内容は,以下のとおりである。 (ア) 丙3,丁8試験 丙3,丁8試験は,株式会社エフシージー総合研究所が本件製品(ハ号製品を除く。の縦方向について行った伸び率の測定試験であり, ) その試験の内容及び結果は,次のとおりである(丙3の5頁及び7ないし9頁,丁8,弁論の全趣旨)。 @ 縦46cm,横60cm(ミシン目があるものについては,600mm付近の切れ目の位置)の試験片寸法とする。 A 試験片の600mmの辺を固定端,移動端とし(伸び率の比較的高い方向である600mmの辺と直交方向に引っ張る) 引っ張る有効長を350mmとし, , 端から55mm,及びそこからさらに350mmの間隔で二本の直線でマーキング線を入れる。 B 試験片の上端のマーキング線を,島津製作所製卓上試験機EZ-Lの上側治具に,ネジで完全に固定する。 C 同じく,下側は,JFE製カラー鋼板を治具とし,各製品付属の磁石4個で固定する。 D 引張速度100mm毎分で引っ張り,目視で磁石の状態を観察し続け,いずれかの磁石が動いた瞬間の引張試験機のストローク値を記録する。磁石が4個あるため見落としする可能性があるため,伸び量と張力のグラフから,直線性が変化する部分を抽出し,目視の値と比較して,小さいほうの値を磁石が動いた伸び量とする。 同試験結果によれば,各製品について3回ずつ試験した最大伸び率は,イ号製品が107%,ロ号製品が103%,ニ号製品が107%,ホ号製品が114%,ヘ号製品が112%であった。 (イ) 丙19試験,丁17試験 丙19試験及び丁17試験は,一般財団法人カケンテストセンターが,本件製品(ハ号製品を除く。)について試験した結果をまとめたものであり,前記イ(イ)の甲21試験@ないしBと同様の方法により,ただし,試験片を仮固定する磁石については製品同梱のものとして,引張試験を行ったものである(丙19の1ないし3,丁17の1。ただし,丙19試験については,面ファスナによる仮固定試験は行っておらず,金属板は塗装鋼板であり,そのうちロ号製品については,試験片の幅は60cmとし,事前の伸び癖はつけていない。。 ) 同試験結果によれば,三菱アルミ製品(イ号,ロ号及びヘ号製品)について3回ずつ試験し,試験片を固定するマグネットの移動が目視で確認できた時点での縦の平均伸び率は,イ号製品が116.2%,ロ号製品が106.3%,ヘ号製品が115.5%であった(丙19の1ないし3) 。 また,アルファミック製品(ニ号,ホ号製品)について3回ずつ試験し,マグネットで固定した試験片が金属板より外れるまでの,最大強度(荷重)時の伸び率(試料の伸び/つかみ間隔×100)を算定した結果の平均値は,ニ号製品が115.4%,ホ号製品が155.1%であり,同最大強度時の簡易固定具と試料の挙動を観察した結果は,ニ号製品については,マグネットがゆっくり動いている状態又はいずれかのマグネットが金属板から完全に外れる直前の状態であり,ホ号製品については,上下のマグネット部において不織布が破断する状態又は不織布が破断ないし不織布に亀裂が発生する状態となった(丁17の1,丁18の1)。 エ 上記イ及びウの認定を前提として,検討する。 (ア) 本件特許発明は,「仮固定して使用したとき,120〜140%まで自由に伸びて縮む」ものであり,前記(4)アのとおり,同構成に該当するというためには,不織布が,通気口に仮固定して,通気口全体を覆うように伸ばしたときに,仮固定が維持できる状態で,120%から140%までの長さの範囲内のいずれかの長さまで自由に伸ばして,縮むことができる性能を有することが必要である。 しかし,控訴人の行った甲19試験及び甲21試験は,いずれも試験片の縦方向の一端については,その全辺を仮固定具で固定しているものの,他方の辺については,その辺の中央部のみをダブルクリップで把持し,試験片を山形に引っ張っているものであり,同辺の両端部付近は伸ばしていないから,通気口全体を覆うことができるように試験片を伸ばしているものではない。そして,中央部だけではなく,同辺の両端部付近をも引っ張り,辺全体が通気口を覆うようにすれば,縦方向の引っ張っていない方の辺を保持している仮固定具に係る総合的な引張力が大きくなることは明らかであり,仮固定具が抗することができる範囲内の力で中央部のみを120〜140%の範囲内の長さまで伸ばすことができるとしても,仮固定具が抗することができる範囲内の力で,通気口全体を覆うことができるように辺全体を120〜140%の範囲まで伸ばせるとは限らないのであるから,甲19試験及び甲21試験は,本件製品が,仮固定が維持できる状態で,通気口全体を覆うように120%ないし140%の範囲内の長さまで伸ばせることを証するものとはいえない。 また,甲19試験及び甲21試験は,前記イ(ア)及び(イ)のとおり,製品毎の荷重-ストロ-ク(伸び量)の関係を表示したグラフから,「データポイント」を定め,同「データポイント」時の伸び量(ストローク値)に基づいて伸び率を算定したものであり,いずれも,原則として,グラフ上で荷重(N)が最大となった時点(控訴人の主張によれば,甲19試験については,グラフが横ばい又は右下がりになった時点)を,「データポイント」としている。しかし,前記ウ(イ)のとおり,参加人アルファミックが同じ試験機関において行った同様の追加試験である丁17試験によれば,グラフ上での最大荷重時には,既に簡易固定具が動いていたり(丁18の1によれば,複数の磁石が当初の位置から相当程度動いており,実際の使用状況を想定すれば,フィルターが取り付けられる通気口の枠部分は狭いことが通常であると考えられるから,仮固定具が動くような状況では,仮固定が維持できる状態に当たるとはいえない。また,磁石が動き始めた後に不織布がずれた部分までも,伸びとしてストローク値(伸び寸法)に含まれることになり,実際の不織布自身の伸びとは異なることになる。,不織布に亀裂や破断が生じていたことからすれば,甲1 )9試験及び甲21試験の「データポイント」も同様の状況であった可能性が高く,甲19試験及び甲21試験が,同各試験の平均伸び率まで,本件製品の中央部を,仮固定が維持できる状態で,120〜140%まで伸ばすことができることを証するものであるとも直ちにいえない。 さらに,甲19試験及び甲21試験の一部は,各製品付属の固定具を使用せず,より磁力が強い磁石を使用したり,付属していない面ファスナを使用したり,通気口にフィルターとして取り付ける際に想定される不織布の大きさではない試験片(ロ号製品)とするなどして,本件製品の伸び率を算定する上での設定条件も適切とはいえない。 したがって,甲19試験及び甲21試験によっても,本件製品が本件特許発明の技術的範囲に属することを認めるには足りない。 なお,控訴人は,中央,右,左の順番で不織布の一辺全体を120%伸ばして取り付けることを証する証拠として「引張取付写真資料」と題する書面(甲23)を提出する。しかし,これは,本件製品についての試験結果ではない上,その内容は,控訴人の従業員が,他社製品を120%以上伸ばした状態で金属板に仮固定した後を撮影した写真等であり,どのような手順で伸ばしたのか,その際の荷重はどのようなものであったのかも立証されておらず,本件製品の構成要件Bの充足性を証する証拠とはいえない。 (イ) かえって,前記ウ(イ)のとおり,丙19試験によれば,三菱アルミ製品については,縦方向の一辺を仮固定する手段を製品同梱の磁石とし,ロ号製品については通気口にフィルターとして取り付ける際に実際に想定される不織布の幅とし,仮 「固定して伸ばす」という以外の要素を加えることとなる伸ばし癖をつける前処理を行わないものとする以外には,甲21試験と同様の条件で試験を行った結果では,他辺の中央部付近のみを引っ張った場合であっても,仮固定が維持できる状態では,120%以上の長さには伸びなかったものである。 また,丙3試験及び丁8試験は,実際に用いられる幅の不織布の一端を製品同梱の磁石で仮固定して,他端全体を引っ張り,磁石がずれたときの伸びを測定するものであるから,不織布を通気口に仮固定して,通気口全体を覆うように伸ばしたときに,仮固定が維持できる状態で,120%ないし140%までの長さの範囲内のいずれかの長さまで自由に伸ばして縮むことができるかどうかを確認する上では,甲19試験及び甲21試験よりは適切な試験であるといえるところ,前記ウ(ア)のとおり,丙3,丁8試験の結果によれば,本件製品については,仮固定が維持できる状態で,120%から140%までの範囲内の長さまで伸ばすことはできなかったものである。 以上によれば,本件全証拠によっても,本件製品が本件特許発明の技術的範囲に属することを認めることはできない。 オ 控訴人の主張について (ア) 以上に対し,控訴人は,甲19試験及び甲21試験は,特許請求の範囲の記載を忠実に再現しており,不織布を固定した後にダブルクリップを引っ張ることが,本件特許発明の「仮固定して使用したとき」に相当する旨主張する。 しかし,特許請求の範囲においても「通気口を不織布で直接覆って使用する」と特定されていること,不織布は,通気口全体を覆わなければフィルターとしての役割を果たし得ないところ,不織布の一か所を引っ張るだけでは通気口全体を覆うことはできないことからすれば,「仮固定して使用したとき」とは,前記(3)のとおりの意味と解するのが相当であり,控訴人の主張は採用することができない。 (イ) また,控訴人は,@本件特許発明は,不織布の伸縮性についての発明であり,仮固定具の保持力は関係がない,A磁石や面ファスナーは商品の購入者が,本体のそれぞれの形状や材質により当然のこととして恣意的に決定するものであり,本件特許発明の構成要件Bを充足するかどうかを,製品同梱の磁石を用いている場合と特定する必要性はない,B知財高判平成26年3月27日・平成25年(行ケ)第10205号も,仮固定の手段は面ファスナやフィルター取り付け具に限定されないと判断している,などと主張する。 しかし,@については,本件特許発明の特許請求の範囲の「仮固定して使用したとき,120〜140%まで自由に伸びて縮み」という記載は,特許請求の範囲を減縮する目的で,平成24年12月6日付け訂正審決により認められたものである(甲3)。そして,特許請求の範囲で「仮固定して使用したとき,120〜140%まで自由に伸びて縮み」という特定がされているのであるから,本件特許発明の不織布は,仮固定具が維持できる状態で,通気口全体を覆うように伸ばしたときに,120%から140%までの長さの範囲内のいずれかの長さまで伸びること,すなわち,仮固定具が抗することができる範囲内,かつ,使用者の手等の力として想定できる範囲内の力で,120〜140%の範囲内のいずれかの長さまで伸びるものと特定されているのであり,どのような力によるものかにかかわらず120〜140%伸びる不織布であることが発明の内容とされているものではない。そして,不織布が破断しない範囲では,仮固定具の保持力が強いほど不織布はより長く伸びることは明らかであるから,仮固定具の保持力が,本件特許発明の充足性と関係がないとはいえない。 Aについては,一般に,フィルターに同梱される磁石等の仮固定具の手段や保持力の大きさ,種類は,製品の厚さや取付け方などに応じて製品毎に異なるもので,一律ではないものであり(丙17),本件製品においては,ロ号製品の取替用であるハ号製品を除き,いずれも,付属品として磁石8個が同梱され,包装紙の使用上の注意にも,磁石で取り付けるよう記載され,磁石の使用位置も例示されているのであるし(丙1の1・2・4,丁2,3),ハ号製品の包装紙にも,必ずロ号製品の磁石を使用するよう記載されているのであるから(丙1の3),本件製品の不織布は,いずれも,各付属の磁石による使用を想定して製造,販売されたものであると認められる。控訴人は,商品の購入者は,付属の磁石を用いるとは限らないことを前提として,本件製品の構成要件該当性を判断する上での仮固定具の保持力は限定する必要がない旨主張するが,前記のとおり,仮固定具の保持力が高い(大きい)場合には,不織布の伸び率も大きくなり,仮固定具の保持力が低い(小さい)場合には,不織布の伸び率も小さくなるのであるから,仮固定具の保持力を問題とせずに伸び率のみを検討することはできないし,控訴人が主張するような使用態様がされていることを証する証拠はないから,上記主張は採用することができない。 Bについては,本件特許発明の「仮固定」の手段が,磁石や面ファスナなどに限られず,それ以外のフィルターを取り付ける際に想定される簡易固定具であっても良く,磁石や面ファスナを仮固定の手段として用いていない製品であっても,本件特許発明の技術的範囲に入り得ることは控訴人の主張するとおりであるが(なお,控訴人が指摘する知財高裁判決中の記載部分は,公開特許公報特開平9-75643の段落【0074】を転記した部分にすぎない。,構成要件Bの「仮固定して使 )用したとき」とは,前記(3)のとおり,不織布をフィルターとして取り付ける際に通常想定される仮固定具による固定であるから,被疑侵害品が特定の仮固定具による使用を想定して販売されている場合には,被疑侵害品が本件特許発明の技術的範囲に入るかどうかは,当該想定される仮固定具で固定し,当該仮固定具が抗する力で通気口全体を覆うように伸ばしたときに,一定の範囲内の長さまで伸びるかどうかにより判断されるべきであるから,控訴人の主張は採用することができない。 (ウ) さらに,控訴人は,丙3,丁8試験は,レンジフード用フィルター部材の実際の使用態様と乖離しており,引っ張りの際の不織布のつかみ幅(手の幅との違い)によって,仮固定部を含む不織布全体における力の加わり方は異なるから,不適切であると主張する。 確かに,実際のフィルターの取付けの場合には,丙3試験,丁8試験のように,フィルター部材のうち仮固定がされていない一辺全体を同時に把持した状態で,フィルターを引っ張ることが想定されないことは控訴人の主張するとおりである。しかし,本件特許発明は,不織布が「自由に伸びて縮む」ものであるため(前記(4)イ) 仮固定されていない他辺の中央部の一箇所を掴んで引っ張り, , これを仮固定具で固定した後,順次同他辺の右端と左端を掴んで,通気口全体を覆うことができるように仮固定具で固定するとしても,結局は,幅全体を伸ばすために必要な力が一方の辺を固定する磁石にかかるため,当初から不織布の幅全体を掴んで伸ばしたとしても,最終的に不織布を固定する磁石に作用する力はほぼ同じとなるものと考えられる。したがって,丙3,丁8試験が辺全体を掴んで伸ばした場合に,120%伸びる前に磁石が動いてしまったことを示すものであれば,同辺を複数回に分けて辺全体が通気口を均等に覆うように順次掴んで伸ばしても,全体を120%伸ばす前にいずれかの磁石が動くことを証するものと同視することができる。控訴人は,不織布は,伸び癖がつくから,中央,右,左を順次引っ張った場合には,幅全体を同時に伸ばす場合と比較して仮固定具にかかる力は小さいと主張するが,仮に本件製品を中央,右,左に順次引っ張った場合には伸び癖がつき,縮む力がない又は弱いものであるとしたら,本件特許発明の「自由に伸びて縮む」という構成を充足するものかどうか疑問であるし,具体的にかかる力にどの程度の差が生じうるのかも証拠上不明であるから,同主張は,丙3試験及び丁8試験が,甲19試験及び甲21試験よりは適切であるとの前記判断を左右するものとはいえない。 カ 以上によれば,甲6等試験,甲12等試験,甲19試験又は甲21試験をもって,本件製品が「120〜140%まで自由に伸びて縮む」ことを証明する証拠と評価することはできないし,他にこれを立証する的確な証拠はない。したがって,本件製品に使用される不織布が,構成要件Bの「120〜140%まで自由に伸びて縮む」不織布であると認めることはできない。 |
|
結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理由がない(なお,控訴人は,当審の口頭弁論終結後,弁論の再開を申し立てているが,その内容はJIS規格の試験に関する立証などをしようとするものであり,前記のとおり構成要件Bへの該当性はJIS試験の結果によって判断されるべきものではなく,その他の点も当裁判所の判断を左右するものではないから,同申立ては採用しない。。 ) よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 設樂一 |
---|---|
裁判官 | 大寄麻代 |
裁判官 | 平田晃史 |