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事件 |
平成
26年
(ワ)
5011号
損害賠償請求事件
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当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2015/04/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 原告のために控訴の付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は,原告に対し,1億8150万円及びこれに対する平成26年12月 24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支 払え。 |
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事案の概要
本件は,原告が,「被告が中華人民共和国内において製造・販売しているエ ピクロロヒドリン(以下「被告製品」という。)は,別紙製造方法目録記載の 方法により製造されているから,蝶理株式会社(以下「蝶理」という。)が被 告製品を日本国内に輸入し販売する行為は,原告の特許権を侵害するものであ り,被告が蝶理に対し被告製品を販売する行為は,蝶理を通じて日本国内で被 告製品を販売することを目的としており,蝶理の特許権侵害行為と共同不法行 為の関係にある」旨主張して,被告に対し,民法709条,719条1項ない し2項,特許法102条2項に基づき,損害賠償 金1億 81 50万円 及びこ れ に 対 す る 民 法 所 定 の 年 5 分 の 割 合 に よ る 遅 延 損 害 金 の 支 払 を 求 め る 事案 である。被告は,国際裁判管轄が認められないとして本件訴えの却下を求めて いる。 11 前提事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 原告の特許権 原告は,発明の名称を「グリセロールからジクロロプロパノールを製造す るための方法であって,該グリセロールが最終的にバイオディーゼルの製造 における動物性脂肪の転化から生じる方法」とする特許第4167288号 (以下「本件特許1」という。)の特許権(以下「本件特許権1」という。) 及び特許第4642142号(以下「本件特許2」という。)の特許権(以 下「本件特許権2」という。)を有している(甲1,2)。 (2) 本件発明 ア 本件特許1の特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記 載は,以下のとおりである(甲5。以下,この発明を「本件発明1」とい う。)。 「グリセロールを,アジピン酸の存在下で,塩素化剤との反応に付すジク ロロプロパノールの製造方法」 イ 本件特許2の特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記 載は,以下のとおりである(甲6。以下,この発明を「本件発明2」とい う。)。 「アジピン酸の存在下でグリセロールを塩素化剤との反応に付して得られ たジクロロプロパノールの少なくとも1種のフラクションを脱塩素化水素 反応に付す,エピクロロヒドリンの製造方法」 (3) 被告及び蝶理の行為 被告は,中華人民共和国の法令に基づいて設立された,化学農薬製造業を 営む会社である(弁論の全趣旨)。蝶理は,合成樹脂,化学工業薬品等の輸 出入,売買,仲立その他の業務を目的とする株式会社である(甲14)。 被告は,中国国内において被告製品を製造し,蝶理に対して販売し,蝶理 は,被告製品を日本に輸入し,日本国内で販売している(甲13,乙2の 2 1・2,乙3)。 2 本案前の争点 本件訴えにつき国際裁判管轄が認められるか否か3 本案前の争点に関する当事者の主張 (1) 原告の主張 ア 被告製品は,別紙製造方法目録記載の方法により製造されているから, 蝶理が,被告製品を日本に輸入する行為,及び日本国内において被告製品 の譲渡及び譲渡の申出を行う行為は,特許法2条3項3号により,本件発 明1及び2の実施行為に該当し,本件特許権1及び2を侵害する行為であ る。そして,被告は,被告製品を蝶理に対して販売したものであるところ, これは,蝶理という日本の商社を通じて,日本国内で被告製品を販売する ことを目的として行われたものであるから,被告の行為は,蝶理による本 件特許権1及び2の侵害行為と,共同不法行為(民法719条1項又は2 項)の関係にある。したがって,原告は,民事訴訟法3条の3第8号に基 づき,日本の裁判所に特許権侵害に係る訴えを提起することができる。 イ 本件では,被告の蝶理に対する販売行為により原告の有する日本の特許 権が侵害された以上,損害発生地は日本国内であり,被告の行為と損害発 生との条件関係もある。また,被告は,蝶理による特許権侵害により原告 が日本国内において損害を被ることを予見し得たものであるから,民事訴 訟法3条の3第8号の括弧書きの場合には該当しない。したがって,同号 の文言からして日本の国際裁判管轄が認められるべきである。共同不法行 為の成立が主張されていても,国際裁判管轄の審理では,関連共同性の主 張立証は不要であると解すべきである。 ウ 仮に関連共同性の主張立証が必要であるとしても,本件では,客観的関 連共同性を基礎付ける事実が立証されている。すなわち,被告は,被告製 品が蝶理によって日本に輸入され日本国内で販売されることを認識した上 3 で,少なくとも,中国国内で被告製品の販売及び引渡しを行ったものであ るし,また,被告は,蝶理に対し,日本において特許に関する問題が生じ た場合には被告において問題を解決する旨特別に表明しており,このこと からすれば,被告が蝶理に対し日本市場向けのエピクロロヒドリンとして 被告製品を積極的に売り込んだこと,及び蝶理が日本向けの被告製品を独 占的に被告から購入し日本において流通させていたことが窺われるからで ある。 エ なお,本件において民事訴訟法3条の9に規定する「特別の事情」が存 在しないことは明らかであるから,同条により本件訴えが却下されるべき ものではない。 (2) 被告の主張 ア 原告の有する特許権について日本国内で損害が生じたとしても,それを 生じさせたのは,蝶理による日本国内での被告製品の譲渡等の行為であっ て,被告が中国で行った製造販売行為ではない。原告は,被告の行為が蝶 理との共同不法行為に当たる旨主張するが,国際裁判管轄に関する判例法 理及び学説によれば,共同不法行為の事案においては比較的強固な関連共 同性が要求されているところ,被告は,中国における被告製品の製造業者 であり,蝶理は,被告製品以外の他社製品も輸出入販売する独立した商社 であり,被告と蝶理との取引関係は,日本国内に支店も子会社も持たない 中国所在の被告が,日本の商社である蝶理に被告製品を販売しているとい うものであって,通常の製造業者と商社との間の輸出入取引にすぎない。 原告が指摘する被告の表明は,製品の製造業者として販売代理店から時に 提出を求められる一般的なものにすぎず,原告の主張を裏付けるものでは ない。したがって,被告が蝶理を通じて日本国内において当該製品を輸入 販売しているなどということはできず,被告の行為と蝶理の行為が共同不 法行為に当たると評価できる余地はない。 4 イ よって,本件訴えにつき,日本の裁判所の国際裁判管轄はないから,本 件訴えは却下されるべきである。 |
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当裁判所の判断
1 民事訴訟法3条の3第8号にいう「不法行為があった地が日本国内にある」 として国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が日本国内でした 行為により原告の権利利益について損害が生じたか,被告がした行為により原 告の権利利益について日本国内で損害が生じたとの客観的事実関係が証明され れば足りる(最高裁平成13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号72 7頁,最高裁平成26年4月24日第一小法廷判決・民集68巻4号329頁 参照)。そして,本件のように,原告が共同不法行為を主張する場合には,原 則として,上記行為として,被告を含む共同不法行為者らの行為の関連共同性 を基礎付ける客観的事実関係,又は被告がした教唆ないし幇助行為についての 客観的事実関係を証明する必要があると解すべきである。 2 本件において,原告は,蝶理による被告製品の輸入販売行為が本件特許権を 侵害する行為であるとし,被告が被告製品を蝶理に対して販売した行為が,蝶 理との共同不法行為に当たるとして,民事訴訟法3条の3第8号に基づき国際 裁判管轄が認められると主張する。そして,原告は,共同不法行為の関連共同 性を裏付ける客観的事実関係又は教唆ないし幇助行為についての客観的事実関 係として,@被告は被告製品が蝶理によって日本に輸入され日本国内で販売さ れることを認識していたこと,A被告は蝶理に対し日本において特許権侵害の 問題が生じた場合には被告において問題を解決する旨の表明をしていること, B被告は蝶理に対し被告製品を積極的に売り込んだこと,C蝶理は日本向けの 被告製品を独占的に被告から購入していたことを主張する。 そこで検討すると,本件において,被告は,日本の商社である蝶理に対して 被告製品を販売したものであり(乙2の1・2,乙3),また,この販売に 際して,「今後,日本において特許に関する問題が発生することがあれば, 5 江蘇揚農化工集団有限公司は,蝶理株式会社に協力し,誠心誠意,問題を解 決することを約束する。ここに特別に表明する。」旨の声明(甲13)を差 し入れたと認められるから,被告は被告製品が日本に輸入され日本国内で販 売されることを認識していたと認められ(前記@),かつ,被告は蝶理に対 し日本において特許権侵害の問題が生じた場合には被告において問題を解決 する旨の表明をしていると認められる(前記A)。しかしながら,一方 ,前 記B及びCの事実についてはこれを認めるに足りる証拠がなく,後者につい ては,かえって,被告と蝶理との間の取引は独占的なものでないことが認め られる(乙3)。そして,前記@及びAの事実は,一般的な製造業者と商社 との間の国際商取引の範囲を超えるものではないといえるから,これらの事 実のみをもって,被告と蝶理の行為の関連共同性を基礎付けるものというこ とはできないし,蝶理に対する被告の教唆ないし幇助行為を認めることもで きない。 したがって,関連共同性を基礎付ける客観的事実関係又は教唆ないし幇助行 為についての客観的事実関係が証明されているとはいえず,その他本件訴えに つき我が国の国際裁判管轄を認めるべき特段の事情も窺われないから,本件に おいて「不法行為があった地が日本国内にある」とは認められない。 3 なお,原告は,被告が被告製品を中国国内で蝶理に対して販売した行為と日 本国内における損害発生(本件特許権侵害)との間には条件関係が存在するか ら,蝶理との共同不法行為についての関連共同性の主張立証がなくても,被告 の上記行為のみに基づき国際裁判管轄が認められる旨も主張する。 しかしながら,そもそも,本件において原告は,被告の行為が蝶理との共同 不法行為に当たる旨を主張しているのであって,蝶理の行為と無関係に被告の 行為のみで不法行為に当たる旨の主張はしていないから,そうであれば,国際 裁判管轄の審理においても,共同不法行為を前提とした関連共同性等の客観的 事実関係の証明が必要であるというべきである。 6 また,属地主義の原則が採られている我が国特許法の下においては,被告に よる中国国内における被告製品の販売行為それ自体は,我が国特許法に照らし て適法な行為であり,被告による中国国内における被告製品の販売行為それの みでは我が国特許法上違法となり不法行為の成立要件を具備するものではない というべきである。このように,我が国特許法に照らして適法な行為のみをと らえてこれにより我が国特許法に基づき原告が有する権利利益(本件特許権) について損害が生じたということはできない。 したがって,少なくとも本件について,関連共同性の主張立証もないのに, 被告による中国国内における被告製品の販売行為のみに基づき我が国の国際裁 判管轄を認めることはできない。 4 以上のとおりであって,本件訴えは,我が国の国際裁判管轄が認められない ものとして不適法であるから,これを却下することとし,主文のとおり判決す る。 |
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追加 | |
7(別紙)当事者目録ベルギーブリュッセル<以下略>原告ソルヴェイ・エスエー同訴訟代理人弁護士窪田英一郎柿内瑞絵乾裕介今井優仁中岡起代子同訴訟代理人弁理士塩澤寿夫渡辺紫保同訴訟復代理人弁護士石原一樹中華人民共和国江蘇省<以下略>被告江蘇揚農化工集団有限公司同訴訟代理人弁護士山内貴博郷家駿平同訴訟復代理人弁護士近藤正篤以上8(別紙)製造方法目録以下の第1および第2の工程からなる,エピクロロヒドリンの製造方法。 第1の工程:グリセロールを,アジピン酸の存在下で,塩素化剤との反応に付し,ジクロロプロパノールを得る。 第2の工程:第1の工程により得られたジクロロプロパノールの少なくとも1種のフラクションを脱塩素化水素反応に付し,エピクロロヒドリンを得る。 9 |
裁判長裁判官 | 沖中康人 |
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裁判官 | 宇野遥子 |
裁判官 | 藤田壮 |