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関連審決 不服2003-21492
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  援用権(援用) /  置き換え /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10465号 審決取消請求事件
原告 富士写真フイルム株式会社
訴訟代理人弁理士 牛久健司,井上正,高城貞晶
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 松浦功,井関守三,小池正彦,青木博文
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/12/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003-21492号事件について平成17年3月28日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,特許出願人が拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成5年4月23日,発明の名称を「画像信号の記録装置および方法」とする特許出願をした(甲2)。
(2) 原告は,平成15年9月30日付けの拒絶査定を受けたので,同年11月6日,拒絶査定に対する審判を請求し(不服2003-21492号事件として係属),さらに,平成17年2月10日,特許請求の範囲について補正をした(甲11)。
(3) 特許庁は,平成17年3月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月12日,その謄本を原告に送達した。
2 請求項1の発明の要旨(平成17年2月10日付けの補正後のもの) 「操作者を識別するための識別コードを入力する識別コード入力手段, 与えられる画像信号を記録すべき記録媒体に最後に記録された画像信号の駒番号を読み取る駒番号読み取り手段, 上記駒番号読み取り手段によって読み取られた駒番号の次の番号を,与えられた画像信号の駒番号と決定する駒番号決定手段, 上記識別コード入力手段から入力された識別コードと上記駒番号決定手段により決定された駒番号とを含むファイル名を決定するファイル名決定手段,および 上記ファイル名決定手段により決定されたファイル名を表すデータを上記記録媒体のファイル名記録領域に,与えられる画像信号を上記記録媒体の画像信号記録領域に記録する記録手段, を備えた画像信号の記録装置。」 3 審決の理由の要旨 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,請求項1の発明(以下「本願発明」という。)は,刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
(1) 刊行物 平成16年12月7日付けの拒絶理由で引用した特開平4-335784号公報(本訴甲3。以下「刊行物1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0010】【実施例】次に,本発明について図面を参照しながら説明する。図1は,本発明による電子スチルカメラの第1の実施例を示す構成ブロック図である。図1において,図13と同一符号が付されている構成要素は同様機能を有する構成要素を示す。本実施例における電子スチルカメラの動作は以下の通りである。先ず,連写動作時には,スイッチ118が閉成され,この閉成状態を示す信号Dがシステム制御回路115内の撮影モード判定回路1152で検出,判定され,連写動作モードが設定される。そして,スイッチ116が閉成されると,システム制御回路115は,状態信号T1を受けて,当該閉成状態を検出し,レンズ駆動回路102を制御して合焦動作を行わせると同時に連写カウンタ1154をリセットする。レンズ駆動回路102によりレンズ101が合焦制御され,ピントが合うと,図1の動作と同様に,ピントが合ったことを表示部119に表示せしめる。そして,スイッチ117が閉成されると,シャッター制御回路1151の制御により設定された時間毎にシャッターが切られ,その後,1コマ分の画像データのDCT処理,量子化処理,符号化処理等のメモリカード114への記録処理動作が終了するたびに,コマカウンタ1153および連写カウンタ1154にカウント動作を行わせる。ここで,コマカウンタ1153は,単写モード時においても1コマ撮影するたびにカウントアップする。
【0011】メモリカード114への記録動作においては,図13と同様に符号化回路111からの符号化データ,量子化テーブル110およびコードテーブル112からのテーブルデータがデータセレクタ113を介してメモリカード114に書き込まれるのであるが,本実施例ではシステム制御回路115からの動作モード情報データをも書き込んでいる。つまり,メモリカード114への記録動作では,符号化された画像データを記録する前に,連写モードを示すデータ,連写速度,連写時の番号等の各種データがデータセレクタ113を介して記録される。メモリカード114へのデータ記録は,図2に示すように,画像1データ,画像2データ,…画像5データ,…が記録され,それぞれの領域の最初の部分に上記データが記録される。つまり,第nバイトの最上位ビット(D7)に連写/単写モードを示すデータが,以後のビット(D6,D5,…D0)に連写速度を示すデータが記録され,次の(n+1)バイトには連写時の順番を示す番号データが記録される。したがって,再生時に各画像データの始めの部分を見れば,連写モードで撮影されたものか単写モードで撮影されたものかを判別,確認できる。また,連写時と同一速度で連続再生を行いたいときには,連写速度のデータを参照すれば良い。尚,単写時には上記モードを示すデータ以外の連写速度,連写時の番号は不要であるが,単写時にも同じ領域を確保しておくが,その領域の使用はしないように構成することもできる。
また,単写モードのときには,モードを示すバイトのすぐ後に他のデータを記録してしまい,再生のときに単写モードであると判定された場合には次のバイトは他のデータとして扱っても良い。
【0012】図3には,図1の実施例における動作処理手順を示すフローチャートが示されている。図3を参照すると,システム制御回路115の動作制御の下,コマカウンタ1153のカウント値Cを0にリセットし(ステップS1),メモリカードの有無を判定する(ステップS2)。ステップS2において,メモリカードが有ると判定すると,スイッチ116の状態を判定し(ステップS3),on状態に至ると,合焦動作を行わせるか否かを判定する(ステップS4)。合焦動作を行わせるときには,連写カウンタ1154のカウント値Rを0にリセットした後(ステップS5),スイッチ118の状態を判定し(ステップS6),off状態(開放状態)にあるときにはスイッチ117の状態を判定する(ステップS7)。スイッチ117がon状態(閉成状態)に至ると,撮影動作が行われ(ステップS8),コマ番号C,撮影モードデータ等をメモリカード114に書き込む(ステップS9)。画像データを書き込んだ後(ステップS10),コマカウンタ1153のカウント値Cを1だけインクリメントし(ステップS11),ステップS3の処理に戻る。ステップS6において,スイッチ118がon状態(閉成状態)にあると判定すると,スイッチ117の状態を判定し(ステップS12),on状態(閉成状態)にあるとき撮影が行われる(ステップS13)。このとき,撮影のためにシャッターを切ってからの経過時間tの計数が開始される。そして,コマ番号データC,撮影モードデータ,連写速度データ,連写番号データR等をメモリカード114に書き込み(ステップS14),画像データが書き込まれると(ステップS15),連写カウンタ1154のカウント値Rを1だけインクリメントし(ステップS16),更にコマカウンタ1153を1だけインクリメントする(ステップS17)。その後,スイッチ117の状態を判定し(ステップS18),off状態のときにはステップS3の処理に戻り,on状態のときには,シャッターを切ってからの経時時間tと予め設定された撮影間隔Tとの比較処理が行われ,tがT以上に至ったときに,次の撮影のためのステップS13の処理に移行する。」 イ 「【0017】図10には本発明による電子スチルカメラの第4の実施例の構成ブロック図が示されている。本実施例は,今や広汎に使用されているパーソナルコンピュータ等で用いられているオペレーティングシステム(例えば,マイクロソフト社の登録商標であるMS-DOSと呼ばれるオペレーティングシステムで,以下「OS」と称する)のフォーマット仕様に準拠した形式で,撮影した画像を記録する場合に有効なものである。本実施例では,システム制御回路115内にファイル名を生成させ,メモリカード114の管理領域に記録させるファイル制御手段1157を設けている。設定するファイル名は,MS-DOSのようなOSの場合には,ファイル名と拡張子があるので,単写時にはファイル名だけで表現し,連写時には拡張子をカウントアップさせて表現させることにより,OS上の処理で連写,単写の区別が可能となる。例えば,単写モードで2枚の画像を撮影し,その後,連写モードで7枚の画像を撮影し,それから単写モードで2枚撮影したような場合には,以下に示すようなファイル名を各画像毎に付加させる。
nnn001nnn002nnn003.003nnn003.004nnn003.005nnn003.006nnn003.007nnn003.008nnn003.009nnn010.nnn011.本実施例によれば,パーソナルコンピュータ等の外部記憶装置を用いた画像ファイルシステムでの画像の整理(検索等)に有用な情報を付加することができる。」 ウ 「【0018】・・・(中略)・・・また,画像記録のための記録媒体も前述メモリカード以外にディスク状媒体等,他の媒体を用い得ることも明白である。」 上記イには,MS-DOSのフォーマット仕様に準拠した形式で撮影した画像を記録する点及びそのファイル名をメモリカードの管理領域に記録する点が記載されており,前記MS-DOSのフォーマット仕様によれば,記録対象となる画像データは,前記管理領域に記録されたファイル名やFATによって管理されるデータ領域に記録されることは当業者にとって技術常識である。
したがって,上記アからウ及び図面の記載を勘案すると,刊行物1には, 1コマ撮影されるたびにカウントアップされるコマ番号をカウントするコマカウンタと nnnと,上記コマカウンタにより与えられるコマ番号とを含むファイル名を生成し,前記ファイル名を記録媒体の管理領域に,撮影された画像データを前記記録媒体のデータ領域に記録するファイル制御手段と,を備えた電子スチルカメラ(以下「刊行物1発明」という。)が記載されている。
(2) 対比 本願発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明における,「コマ番号」,「撮影された画像データ」,「管理領域」,「データ領域」,「電子スチルカメラ」は,本願発明における,「駒番号」,「与えられた画像信号」,「ファイル名記録領域」,「画像信号記録領域」,「画像信号の記録装置」に相当する。
刊行物1発明における「コマカウンタ」は,与えられた画像信号の駒番号を決定するものである点で,本願発明における「駒番号決定手段」に対応する。
MS-DOSにおけるファイル名は,管理対象となる各ファイルに付与された,MS-DOSの使用者によって識別可能なコードに他ならないから,前記MS-DOSにおけるファイル名の一部を構成するものである刊行物1発明における「nnn」も,識別可能なコードであることは明らかである。よって,刊行物1発明の「nnn」は,本願発明の「識別コード」に対応し,また,刊行物1発明における「ファイル制御手段」の,nnnとコマカウンタにより与えられるコマ番号とを含むファイル名を生成する機能は,識別コードと駒番号を含むファイル名を決定する点で,本願発明における「ファイル名決定手段」の機能に対応する。
刊行物1発明における,「ファイル制御手段」の,生成されたファイル名を記録媒体の管理領域に,撮影された画像データを前記記録媒体のデータ領域に記録する機能は,決定されたファイル名を表すデータを記録媒体のファイル名記録領域に,与えられる画像信号を前記記録媒体の画像信号記録領域に記録する点で,本願発明における「ファイル名決定手段」の機能に対応する。
したがって,本願発明と刊行物1発明とは, 与えられた画像信号の駒番号を決定する駒番号決定手段, 識別コードと上記駒番号決定手段により決定された駒番号とを含むファイル名を決定するファイル名決定手段,および 上記ファイル名決定手段により決定されたファイル名を表すデータを記録媒体のファイル名記録領域に,与えられる画像信号を上記記録媒体の画像信号記録領域に記録する記録手段, を備えた画像信号の記録装置である点で一致し,次の点で相違する。
(相違点1) 本願発明における駒番号決定手段は,駒番号読み取り手段によって読み取られた,記録媒体に最後に記録された画像信号の駒番号の次の番号を,与えられた画像信号の駒番号と決定するのに対し,刊行物1発明におけるコマカウンタはそのようなものではない点。
(相違点2) 本願発明における,駒番号とともにファイル名を構成する識別コードは,識別コード入力手段から入力された,操作者を識別するための識別コードであるのに対し,刊行物1発明におけるnnnは,その意味が明示されていない点。
(3) 審決の判断(相違点1について) 画像信号に撮影順序を示す番号すなわちコマ番号を付加して記録する画像信号の記録装置において,記録媒体から前記コマ番号の最大値,すなわち最後に記録された画像のコマ番号を読み取り,該コマ番号の次の番号を新たに撮影された画像に割り当て,前記コマ番号とともに前記撮影された画像を記録することは,例えば拒絶理由で引用した特開昭63-286077号公報(本訴甲5)又は特開平4-137880号公報(本訴甲6)に示されるように周知技術である。したがって,刊行物1発明に前記周知技術を採用し,コマカウンタを,記録媒体から最後に記録された画像のコマ番号を読み取る手段及び該コマ番号の次の番号を与えられた画像信号の駒番号と決定する手段に置き換えることは,当業者が適宜なし得たことであり,この場合,前記記録装置の電源をオフしたとしても,次の撮影時に記録媒体の最後に記録された画像信号のコマ番号に基づき新たなコマ番号が生成されることにより,一の記録媒体に記録される画像には連続したコマ番号が付与されることは自明である。
(相違点2について) 拒絶理由で引用した特開平1-190077号公報(本訴甲4,以下「刊行物2」という。)には,画像記憶装置において,画像をファイルとして記憶する際に,ファイルの受取人すなわちファイルの所有者を識別するための識別コードに連続番号を付加したものをファイル名とすることによりファイルの管理を容易にすることが記載されているから,刊行物1発明において,ファイル名中のnnnをその所有者を識別する識別コードとし,ファイルの管理を容易にすることは,刊行物2に記載された発明に基いて,当業者が容易になし得たことである。そしてその際,刊行物1発明に係る画像信号の記録装置は電子スチルカメラであって,記録される画像ファイルの所有者は当該画像の撮影者であるとするのが妥当であるから,前記ファイルの所有者を識別する識別コードを,画像の撮影者すなわち電子スチルカメラの操作者の識別コードとすることは,当業者が適宜なし得た設計変更に過ぎない。また,この場合,操作者の識別コードを何らかの手段により画像信号の記録装置に入力する必要があることも自明であるから,前記記録装置にその操作者が前記識別コードの入力を行うための入力手段を設けることも,当業者が適宜なし得たことである。このことは,電子スチルカメラにおいて,画像データにキーボードから設定された撮影者名を付加して記録しファイルの管理を容易にすることが,拒絶理由で引用した特開平4-354483号公報(本訴甲7)に開示されていることからも明らかである。
(4) 審決のむすび したがって,本願発明は,刊行物1に記載された発明,刊行物2に記載された発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由 審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点についての判断を誤り,その結果,本願発明が刊行物1発明,刊行物2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであると誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(相違点1についての判断の誤り) 審決は,「刊行物1発明に前記周知技術を採用し,コマカウンタを,記録媒体から最後に記録された画像のコマ番号を読み取る手段及び該コマ番号の次の番号を与えられた画像信号の駒番号と決定する手段に置き換えることは,当業者が適宜なし得たことであり,この場合,前記記録装置の電源をオフしたとしても,次の撮影時に記録媒体の最後に記録された画像信号のコマ番号に基づき新たなコマ番号が生成されることにより,一の記録媒体に記録される画像には連続したコマ番号が付与されることは自明である。」と判断した。
ア 刊行物1発明の「コマカウンタ」は,電源がオンされると,必ずリセットされるものである。仮に刊行物1発明の電子スチルカメラにプリセットされるカウンタを用いるとすると,電源が再びオンされて撮影されたときに新たに得られた画像データが,メモリカードの最後に記録された画像データに上書きされ,最後に記録された画像データが消失してしまうのであって,刊行物1発明の電子スチルカメラの「コマカウンタ」に電源がオンされるとリセットされるカウンタ以外のものを用いることはあり得ないから,刊行物1発明の「コマカウンタ」をリセットされないようなカウンタに置き換えることは,刊行物1自身によって,阻害されているといわざるを得ない。
イ 刊行物1発明の「コマカウンタ」は,上記アのとおり,電源がオンされると,必ずリセットされるから,電源をオフしてしまうと,次の撮影時に記録媒体の最後に記録された画像信号のコマ番号に基づく新たなコマ番号が生成されることはあり得ない。次の撮影時に記録媒体に最後に記録された画像信号のコマ番号に基づき新たなコマ番号が生成されるためには,コマカウンタに,最後に記録された画像信号のコマ番号をプリセットする必要があるが,カウンタというものは,リセットとプリセットとが排他的に選択されるものであるから,刊行物1発明の「コマカウンタ」に,最後に記録された画像信号のコマ番号をプリセットすることは不可能である。
ウ したがって,刊行物1発明に審決が引用する周知技術を組み合わせることはできないのであって,刊行物発明1のコマカウンタを,記録媒体から最後に記録された画像のコマ番号を読み取る手段及び該コマ番号の次の番号を与えられた画像信号の駒番号と決定する手段に置き換えることは,当業者が適宜なし得たものではなく,また,刊行物1発明の電子スチルカメラの電源をオフすると,次の撮影時に記録媒体の最後に記録された画像信号のコマ番号に基づき新たなコマ番号が生成されることはないから,相違点1についての審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) ア 審決は,「刊行物1発明において,ファイル名中のnnnをその所有者を識別する識別コードとし,ファイルの管理を容易にすることは,刊行物2に記載された発明に基いて,当業者が容易になし得たことである。」と判断した。
(ア) 刊行物1発明におけるファイル名中のnnnは,撮影に用いたカメラ又は撮影モードに固有のものであって,カメラ又は撮影モードに対応して,あらかじめ固定的に定められているものであるから,刊行物1を参照した当業者がこれを変更しようとすることはなく,「刊行物1発明において,ファイル名中のnnnをその所有者を識別する識別コードと」することは,刊行物1自身によって,阻害されるといわざるを得ない。なお,被告が援用する乙1は,パーソナル・コンピュータのユーザーズ・ガイドであるところ,パーソナル・コンピュータでは,ファイル名をユーザが任意につけることは当然のことであるが,そのようなパーソナル・コンピュータにおける処理が,刊行物1発明の電子スチルカメラにそのまま適用されることはない。
(イ) 刊行物2には,発明の効果として,「受信画像を他局に転送する操作が容易であり,また,転送画像の画質が劣化することを防止できる」との記載があるにとどまり,「ファイルの管理を容易にすること」については記載がなく,その示唆もない。
(ウ) したがって,刊行物1発明に刊行物2に記載された発明を組み合わせることはできないのであって,刊行物1発明におけるファイル名中のnnnを,本願発明のように,操作者を識別するための識別コードとすることは,当業者が容易になし得たことではない。
イ 審決は,「前記ファイルの所有者を識別する識別コードを,画像の撮影者すなわち電子スチルカメラの操作者の識別コードとすることは,当業者が適宜なし得た設計変更に過ぎない。」と判断した。
(ア) 記録される画像ファイルの所有者が当該画像の撮影者であると断定することはできない。例えば,所有者がカメラを第三者に貸与し,その第三者がカメラの所有者を撮影した場合には,画像ファイルの所有者はカメラの所有者であるが,撮影者は画像ファイルの所有者とは別の第三者である。そうであれば,「記録される画像ファイルの所有者は当該画像の撮影者である」とするのが妥当であるということはできない。
(イ) 被告が援用する乙1に記載されているのは,本願発明のように,操作者を識別する識別コードをファイル名に含ませるというものではなく,「Wongさんへのメモ」と記載されているように,ファイルの所有者の名前をファイル名に含ませることである。本願発明は,操作者を識別する識別コードをファイル名に含ませ,これにより,ファイル名から,誰が操作して作成したファイルなのかを知ることができるが,所有者の名前をファイル名に含ませたのでは,誰が操作して作成したファイルなのかを知ることはできない。このように,ファイル名をユーザが任意に作成することが当然であるパーソナル・コンピュータのユーザーズ・ガイドですら,本願発明のような,操作者を識別する識別コードをファイル名に含ませることについては,記載がないばかりか,その示唆もない。
(ウ) したがって,ファイルの所有者を識別する識別コードを,画像の操作者すなわち電子スチルカメラの操作者の識別コードとすることは,当業者が適宜なし得たことではない。
ウ 審決は,「前記記録装置にその操作者が前記識別コードの入力を行うための入力手段を設けることも,当業者が適宜なし得たことである。」と判断した。
(ア) 本願発明の識別コード入力手段は,ファイル名の一部を構成する識別コードを入力するものであるが,刊行物1発明におけるファイル名中のnnnは,上記(2)ア(ア)のとおり,あらかじめ固定的に定められているものであるから,刊行物1を参照した当業者がこれを変更しようとすることはなく,刊行物1発明の電子スチルカメラに,nnnの代わりの識別コードを入力するための入力手段を設けることはあり得ない。
(イ) 審決が引用する特開平4-354483号公報(甲7)に開示されているのは,本願発明のように,操作者を識別する識別コードを入力し,入力した識別コードを,nnnの代わりにファイル名の一部とするというものではなく,画像データに撮影者名を付加することである。本願発明は,操作者を識別する識別コードをファイル名に含ませるから,例えば,ファイル名を一覧で表示したときに,ファイル名を見ただけで操作者を識別することができるが,画像データに撮影者名を付加したのでは,画像データの中身を読み取らなければ操作者を識別することができない。このように,特開平4-354483号公報に開示された思想は,本願発明の思想とは全く異なる。
(ウ) したがって,刊行物1発明の電子スチルカメラにその操作者が前記識別コードの入力を行うための入力手段を設けることは,当業者が適宜なし得たことではない。
エ 以上のように,相違点2についての審決の判断は誤りである。
2 被告の反論 審決に,本願発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤りはないから,原告主張の審決取消事由の主張は,いずれも理由がない。
(1) 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)に対して ア 特開昭63-286077号公報(甲5)及び特開平4-137880号公報(甲6)に例示される周知技術は,画像信号の記録装置である点において,刊行物1発明と同じ技術分野に属し,さらに,画像信号に撮影順序を示す番号,すなわちコマ番号を付加して記録する点において,刊行物1発明と機能,作用を共通にする。そして,刊行物1発明の「コマカウンタ」は,電源がオンされると,リセットされるものであるが,このような「コマカウンタ」の動作自体と刊行物1発明の【発明が解決しようとする課題】,【作用】及び【発明の効果】とは関係がなく,また,刊行物1に,刊行物1発明の電子スチルカメラの「コマカウンタ」に電源がオンされるとリセットされるカウンタ以外のものを用いることができない旨の記載もないから,刊行物1には,刊行物1発明に前記周知技術を組み合わせることを妨げるような記載はない。
そうであれば,刊行物1発明に前記周知技術を組み合わせる動機付けはあるとみるのが妥当である。
イ 上記アのとおり,刊行物1発明に前記周知技術を組み合わせることに格別の困難はなく,刊行物1発明に前記周知技術を組み合わせたならば,当然に,「記録装置の電源をオフしたとしても,次の撮影時に記録媒体の最後に記録された画像信号のコマ番号に基づき新たなコマ番号が生成されることにより,一の記録媒体に記録される画像には連続したコマ番号が付与される」ものである。
ウ したがって,刊行物1発明に前記周知技術を採用し,コマカウンタを,記録媒体から最後に記録された画像のコマ番号を読み取る手段及び該コマ番号の次の番号を与えられた画像信号の駒番号と決定する手段に置き換えることは,当業者が適宜なし得たものであり,また,そうであれば,刊行物1発明の電子スチルカメラの電源をオフしたとしても,次の撮影時に記録媒体の最後に記録された画像信号のコマ番号に基づき新たなコマ番号が生成されるから,相違点1についての審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)に対して ア 上記1(2)アの主張について (ア) 刊行物1発明におけるファイル名中のnnnがあらかじめ固定的に定められていなければ,電子スチルカメラの動作上不都合が生じるというわけではなく,また,乙1に開示されているように,MS-DOS等のOSのファイルに,英字や数字などの文字を任意に組み合わせて作成したファイル名を付与することは周知であるから,刊行物1を参照した当業者が刊行物1発明におけるファイル名中のnnnを変更しようとすることがないとはいえない。
刊行物2に記載された発明は,画像信号の記録装置である点において,刊行物1発明と同じ技術分野に属し,さらに,画像信号に識別コードと連続番号からなるファイル名を付与して記録する点において,刊行物1発明と機能,作用を共通にする。そして,刊行物1には,刊行物1発明の電子スチルカメラのファイル名の一部を構成するnnnがどのような文字列であるのかについての記載はなく,これがあらかじめ固定的に定められたものであることを示唆する記載もない。しかも,nnnがどのような文字列かということと刊行物1発明の【発明が解決しようとする課題】,【作用】及び【発明の効果】とは関係がなく,また,刊行物1に,刊行物1発明の電子スチルカメラのファイル名の一部を構成するnnnとして,任意のものを用いることができない旨の記載もないから,刊行物1には,刊行物1発明に刊行物2に記載された発明を組み合わせることを妨げるような記載はない。
そうであれば,刊行物1発明に刊行物2に記載された発明を組み合わせる動機付けはあるとみるのが妥当である。
(イ) 刊行物2には,「識別コードとしては,受取人の名前またはコード等を使用すると便利である。」,「同じ識別コードを使用して繰返し画像が送られてくる場合があるので,上記識別コードに,連番,受信時刻等を付加し,一意性のあるファイル名とすることが望ましい。」との記載があるところ,この記載は,画像記憶装置に作成された画像ファイルを,ファイル名で管理する際に,どのようなファイル名を付与すべきかを示しており,これがファイルの管理を容易にするためのものであることは明らかである。
(ウ) したがって,刊行物1発明において,ファイル名中のnnnを,その所有者を識別する識別コードとし,ファイルの管理を容易にすることは,刊行物2に記載された発明に基づいて,当業者が容易になし得たものである。
イ 上記1(2)イの主張について (ア) 審決は,「記録される画像ファイルの所有者」が「当該画像の撮影者である」と断定したわけではなく,電子スチルカメラで記録される画像ファイルの所有者が当該画像の撮影者であるとすることが,電子スチルカメラの実際の使用状況にあてはまっていて,大抵の場合に適切であることを述べたにすぎない。
(イ) 乙1には,「同じ問題に関連するファイルには似た名前をつけること。こうするとファイルを探しやすくなります。たとえばWongさんへのメモにはWONGl.MEM,WONG2.MEMといったように名前をつけます。」と記載されているように,MS-DOS等のOSのファイル名の一部に当該ファイルに関連する者を識別するコード(例えばアルファベット表記の姓名)をつけることは周知である。
(ウ) したがって,ファイルの所有者を識別する識別コードを,画像の撮影者すなわち電子スチルカメラの操作者の識別コードとすることは,当業者が適宜なし得たものである。
ウ 上記1(2)ウの主張について (ア) パーソナル・コンピュータ等において,MS-DOS等のOSのファイル名を,操作者がキーボード等の入力手段を使用して入力することは周知であり,刊行物1発明と刊行物2に記載された発明とを組み合わせた場合に,ファイル名の一部である操作者の識別コードを,何らかの手段により入力する必要があり,しかも,刊行物1発明の画像信号の記録装置がそれ単体で画像を撮影し記録するものである点からみて,前記識別コードの入力手段は画像信号の記録装置自体に設ける必要があることは,当業者にとって自明なことである。
(イ) 特開平4-354483号公報(甲7)には,電子スチルカメラにおいて,画像データのデータ領域の分類コード及び分類サブコードエリア内に,前記電子スチルカメラに接続されるキーボードから設定された撮影者名を含む分類コードを記録し,撮影画像の管理を容易にすることが記載されている。そうすると,刊行物1発明に刊行物2に記載された発明を組み合わせてなる発明と甲7に記載された発明とは,操作者(撮影者)を識別するための識別コードが,ファイル名に含まれるか,画像データに含まれるかの違いはあるものの,画像信号に操作者(撮影者)を識別するための識別コードを付与する点において,共通するのである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 乙1(マグロウヒル「MS-DOS USER'S GUIDE」昭和60年5月30日発行)には,「ファイルをディスクに記録するためには,ファイルに名前をつけなければなりません。すなわち,ファイルには固有のファイル名をつけなければなりません。・・・前述したとおり,ファイル名はディスクの中で固有でなければなりませんから,ひとつのディスクには同じファイル名の存在は許されません。」(26頁5ないし10行)との記載があり,これによれば,ファイル名は,ディスク(記録媒体)の中でファイルを特定するためにつけられる固有の名前であるということができる。そして,甲5(特開昭63-286077号公報)及び甲6(特開平4-137880号公報)によれば,審決が説示するように,「画像信号に撮影順序を示す番号すなわちコマ番号を付加して記録する画像信号の記録装置において,記録媒体から前記コマ番号の最大値,すなわち最後に記録された画像のコマ番号を読み取り,該コマ番号の次の番号を新たに撮影された画像に割り当て,前記コマ番号とともに前記撮影された画像を記録すること」は周知の技術であると認められる(なお,このことは原告も争わない。)ところ,刊行物1発明の「コマカウンタ」により与えられたコマ番号を含むファイル名を生成する場合,一つの記録媒体に同じファイル名のファイルが存在することは許されないから,コマ番号がリセットされることによる同一のファイル名の生成を避けるために,上記の周知の技術を採用し,刊行物1発明の「コマカウンタ」をリセットされないようなカウンタに置き換えることは格別困難でなく,当業者が適宜なし得たといわなければならない。
(2) 原告は,仮に刊行物1発明の電子スチルカメラにプリセットされるカウンタを用いるとすると,電源が再びオンされて撮影されたときに新たに得られた画像データが,メモリカードの最後に記録された画像データに上書きされ,最後に記録された画像データが消失してしまうのであって,刊行物1発明の電子スチルカメラの「コマカウンタ」に電源がオンされるとリセットされるカウンタ以外のものを用いることはあり得ないから,刊行物1発明の「コマカウンタ」をリセットされないようなカウンタに置き換えることは,刊行物1自身によって,阻害されていると主張する。
しかし,上記(1)のとおり,周知の技術を採用し,刊行物1発明の「コマカウンタ」をリセットされないようなカウンタに置き換えることは,当業者が適宜なし得たものであるところ,その際に,電源が再びオンされて撮影されたときに新たに得られた画像データは,最後に記録された画像データのコマ番号の次の番号が与えられるから,最後に記録された画像データに上書きされることはない。したがって,刊行物1発明の「コマカウンタ」をリセットされないようなカウンタに置き換えることは,刊行物1自身によって,阻害されているものではない。
原告の上記主張は,採用することができない。
(3) また,原告は,刊行物1発明の「コマカウンタ」は,電源がオンされると,必ずリセットされるところ,カウンタというものは,リセットとプリセットとが排他的に選択されるものであるから,刊行物1発明の「コマカウンタ」に,最後に記録された画像信号のコマ番号をプリセットすることは不可能であると主張する。
しかし,刊行物1発明の「コマカウンタ」が,電源がオンされるとリセットされるものであるとしても,上記(1)のとおり,一つの記録媒体に同じファイル名のファイルが存在することは許されないから,コマ番号がリセットされることによる同一のファイル名の生成を避ける必要がある。そうすると,当業者であれば,上記の周知の技術を採用し,刊行物1発明の「コマカウンタ」をリセットされないようなカウンタに置き換えることを試みるものと考えられる。
原告の上記主張は,採用の限りでない。
(4) したがって,相違点1についての審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 上記第3の1(2)アの主張について ア 刊行物2(甲4)には,ファイル名に関し,次の記載がある。
「画像記憶装置3は,ディスク等で構成され,コンピュータの通常のファイル管理手法によって,複数の受信画像情報をファイルとしてディスク上で管理している。つまり,受信画像とともに受信した識別コードをファイル名として上記受信画像をディスクに蓄積する。」(2頁右上欄7〜12行) 「まず,画像情報の受信開始を待ち,受信を開始すると(S1),最初のプロトコルによって,受信画像の識別コードを取り出す(S2)。その識別コードをファイル名としてディスク上にファイルを作成する(S3)。識別コードとしては,受取人の名前またはコード等を使用すると便利である。また,同じ識別コードを使用して繰返し画像が送られてくる場合があるので,上記識別コードに,連番,受信時刻等を付加し,一意性のあるファイル名とすることが望ましい。」(2頁左下欄18行ないし右下欄8行) 「次に,表示装置6に表示されている識別コードを見ながら,操作パネル5を介して,表示装置6に表示したい画像のファイル識別コードをオペレータが入力し表示キー43を押す(S12)。」(3頁左上欄3ないし6行) これらの記載によれば,刊行物2には,画像情報をファイルとして管理するコンピュータの通常のファイル管理手法において,識別コードである受取人の名前に,連番を付加して,一意性のあるファイル名を生成することが開示されている。そして,オペレータが受取人の名前を使用した識別コードを入力するのであるから,オペレータ(すなわち,操作者)が受取人である場合も含まれるものである。
そうすると,刊行物2には,画像情報のファイル名として,受取人としての操作者を識別するための識別コードに,連番を付加したものを採用することが記載されていると認められる。
イ 上記1(1)のとおり,ファイル名は,ディスク(記録媒体)の中でファイルを特定するためにつけられる固有の名前であるから,「識別コード」であるところ,刊行物1発明のファイル名の一部を構成するnnnは,「識別コード入力手段から入力された,操作者を識別するためのもの」である点は別にして,本願発明の「識別コード」に相当する。そして,審決が説示するように,「刊行物1には,1コマ撮影されるたびにカウントアップされるコマ番号をカウントするコマカウンタと nnnと,上記コマカウンタにより与えられるコマ番号とを含むファイル名を生成し,前記ファイル名を記録媒体の管理領域に,撮影された画像データを前記記録媒体のデータ領域に記録するファイル制御手段と,を備えた電子スチルカメラが記載されている」(このことは,原告も争わない。)から,刊行物1には,画像データに,識別コードと連続するコマ番号とからなるファイル名を作成することが記載されているということができる。
そうすると,刊行物1発明と刊行物2に記載された発明とは,共に,画像情報に,識別コードと連続番号からなるファイル名を付与する技術に関する発明であり,また,パーソナル・コンピュータでは,ファイル名をユーザが任意につけるものであることは当然であるから,刊行物1発明に刊行物2に記載された発明を組み合わせることに格別の困難はなく,刊行物1発明において,ファイル名中のnnnをその操作者を識別するための識別コードとすることは,当業者が容易になし得たことであると認められる。
ウ 原告は,刊行物1発明におけるファイル名中のnnnは,撮影に用いたカメラ又は撮影モードに固有のものであって,カメラ又は撮影モードに対応して,あらかじめ固定的に定められているものであるから,刊行物1を参照した当業者がこれを変更しようとすることはなく,「刊行物1発明において,ファイル名中のnnnをその所有者を識別する識別コードと」することは,刊行物1自身によって,阻害されると主張するので,検討する。
刊行物1(甲3)には,ファイル名中のnnnについて,次の記載がある。
「図10には本発明による電子スチルカメラの第4の実施例の構成ブロック図が示されている。本実施例は,今や広汎に使用されているパーソナルコンピュータ等で用いられているオペレーティングシステム(例えば,マイクロソフト社の登録商標であるMS-DOSと呼ばれるオペレーティングシステムで,以下,OSと称する)のフォーマット仕様に準拠した形式で,撮影した画像を記録する場合に有効なものである。本実施例では,システム制御回路115内にファイル名を生成させ,メモリカード114の管理領域に記録させるファイル制御手段1157を設けている。設定するファイル名は,MS-DOSのようなOSの場合には,ファイル名と拡張子があるので,単写時にはファイル名だけで表現し,連写時には拡張子をカウントアップさせて表現させることにより,OS上の処理で連写,単写の区別が可能となる。例えば,単写モードで2枚の画像を撮影し,その後,連写モードで7枚の画像を撮影し,それから単写モードで2枚撮影したような場合には,以下に示すようなファイル名を各画像毎に付加させる。
nnn001 nnn002 nnn003.003 nnn003.004 nnn003.005 nnn003.006 nnn003.007 nnn003.008 nnn003.009 nnn010. nnn011. 本実施例によれば,パーソナルコンピュータ等の外部記憶装置を用いた画像ファイルシステムでの画像の整理(検索等)に有用な情報を付加することができる。・・・」(段落【0017】) この記載によれば,刊行物1発明のファイル名は,パーソナル・コンピュータ等で用いられているOSのフォーマット仕様に準拠した形式で作成されることが開示されている。そして,パーソナル・コンピュータでは,ファイル名をユーザが任意につけることが当然であるから,刊行物1発明のファイル名の一部である「nnn」が,カメラ又は撮影モードに対応して,あらかじめ固定的に定められているものに限定されないことは明らかである。そうすると,「刊行物1発明において,ファイル名中のnnnをその所有者を識別する識別コードと」することが,刊行物1自身によって,阻害されているということはできない。
原告の上記主張は,採用することができない。
エ また,原告は,刊行物2には,発明の効果として,「ファイルの管理を容易にすること」については記載がなく,その示唆もない,と主張する。
しかし,上記アのとおり,刊行物2には,画像情報をファイルとして管理するコンピュータの通常のファイル管理手法において,識別コードである受取人の名前に,連番を付加して,一意性のあるファイル名を作成することが開示されているのであり,そうであれば,刊行物2に記載された発明は,一意性のあるファイル名を作成することによって,ファイルの管理を容易にしているものということができる。
原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 上記第3の1(2)イの主張について ア 刊行物1発明の電子スチルカメラにおいて,記録される画像ファイルの所有者が当該画像の撮影者である場合があることは明らかであるから,画像ファイルの所有者を識別する識別コードを,画像の撮影者である電子スチルカメラの操作者の識別コードとすることは,当業者が適宜なし得た設計変更であるということができる。
イ 原告は,記録される画像ファイルの所有者が当該画像の撮影者であると断定することはできないから,「記録される画像ファイルの所有者は当該画像の撮影者である」とするのが妥当であるということはできない,と主張する。
確かに,記録される画像ファイルの所有者が,すべての場合に当該画像の撮影者であるとは限らない。しかしながら,上記アのとおり,記録される画像ファイルの所有者が当該画像の撮影者である場合があることは明らかであって,「記録される画像ファイルの所有者は当該画像の撮影者である」とするのが妥当でないとはいえない。
原告の主張は,採用の限りでない。
ウ また,原告は,乙1に記載されているのは,ファイルの所有者の名前をファイル名に含ませることであって,本願発明のような,操作者を識別する識別コードをファイル名に含ませることについては,記載がないばかりか,その示唆もない,と主張する。
乙1には,「同じ問題に関連するファイルには似た名前をつけること。こうするとファイルを探しやすくなります。たとえばWongさんへのメモにはWONGl.MEM,WONG2.MEMといったように名前をつけます。」との記載があるところ,このように「ファイルの所有者の名前をファイル名に含ませる」のは,「同じ問題に関連するファイルには似た名前をつけること」の一例にすぎない。そして,パーソナル・コンピュータでは,ファイル名をユーザが任意につけることが当然であるところ,そうであれば,誰が操作して作成したファイルであるのかをファイル名自体から知ることができるように,操作者の識別コードをファイル名に含ませることは,当業者が適宜なし得た設計変更にすぎないと考えられる。そうすると,刊行物1発明のファイル名が,パーソナル・コンピュータ等で用いられているOSのフォーマット仕様に準拠した形式で作成されることは,上記(1)ウのとおりであるから,刊行物1発明において,識別コードを,電子スチルカメラの操作者の識別コードとすることは,当業者が適宜なし得た設計変更にすぎない。
原告の上記主張も,採用することができない。
(3) 上記第3の1(2)ウの主張について ア 刊行物2には,「第4図は,上記実施例における操作パネル5の具体例を示す図である。この操作パネル5には,ダイヤルとして使用したりファイル識別コード等を入力する数字キー41と,ダイヤルキー42と,表示キー43と,転送キー44と,印字キー45とが設けられている。」(2頁右上欄13ないし19行)との記載があり,この記載によれば,刊行物2には,ファイル識別コードを入力するための入力手段を設けることが開示されている。そして,上記(1)アのとおり,刊行物2には,受取人の名前を使用した識別コードをオペレータが入力することが開示されているから,刊行物1発明において,ファイル名中のnnnを,操作者を識別するための識別コードとするに当たり,記録装置にその操作者が識別コードの入力を行うための入力手段を設けることは,当業者が適宜なし得たものであるといわなければならない。
イ 原告は,刊行物1発明におけるファイル名中のnnnは,あらかじめ固定的に定められているものであるから,刊行物1を参照した当業者がこれを変更しようとすることはなく,刊行物1発明の電子スチルカメラに,nnnの代わりの識別コードを入力するための入力手段を設けることはあり得ない,と主張する。
しかしながら,上記(1)イのとおり,刊行物1発明において,ファイル名中のnnnをその操作者を識別するための識別コードとすることは,当業者が容易になし得たことである。
原告の上記主張は,これと異なる前提に立つものであるから,採用の限りでない。
ウ 原告は,特開平4-354483号公報(甲7)に開示されているのは,画像データに撮影者名を付加することであり,本願発明のように,操作者を識別する識別コードをファイル名に含ませるものではないから,思想が全く異なる,と主張する。
しかし,審決は,「操作者の識別コードを何らかの手段により画像信号の記録装置に入力する必要があることも自明であるから,前記記録装置にその操作者が前記識別コードの入力を行うための入力手段を設けることも,当業者が適宜なし得たことである。このことは,電子スチルカメラにおいて,画像データにキーボードから設定された撮影者名を付加して記録しファイルの管理を容易にすることが,当審拒絶理由で引用した特開平4-354483号公報に開示されていることからも明らかである。」と説示しているところ,これによれば,審決は,「前記記録装置にその操作者が前記識別コードの入力を行うための入力手段を設けることも,当業者が適宜なし得たこと」が明らかであることを示すために特開平4-354483号公報を引用しているのであって,「操作者を識別する識別コードをファイル名に含ませる」ことを示すために引用したものではない。
原告の上記主張は,審決を正解しないものであって,採用することができない。
エ したがって,相違点2についての審決の判断に誤りはない。
結論
以上のとおりであって,原告の主張する審決取消事由は,いずれも理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 野輝久
裁判官 佐藤達文