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関連審決 無効2014-800015
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事件 平成 26年 (行ケ) 10237号 審決取消請求事件

原告 日本圧着端子製造株式会 社
訴訟代理人弁護士加藤真朗 池田聡 弁理士正林真之 林一好 芝哲央 小菅一弘 岩池満 崎間伸洋 野芳徳
被告ヒロセ電機株式会社
訴訟代理人弁護士田中伸一郎 高石秀樹 松野仁彦 弁理士須田洋之 豊島匠二
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/05/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 -1-1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が無効2014-800015号事件について平成26年9月26日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,新規性,進歩性及び明確性要件の判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯 本件発明(第5362931号発明。発明の名称「電気コネクタ組立体」)は,被告が平成22年1月21日に出願した(優先権主張:平成21年4月16日,日本)特願2010-11225号の一部を,平成24年2月29日に分割出願し(特願2012-43761号) 更にその一部を平成25年4月9日に分割出願し , (特願2013-81080号) 更にまたその一部を同年7月25日に分割出願した , (特願2013-154475号)ものであって,同年9月13日に設定登録がなされたものである(甲10,11)。
被告は,平成26年1月22日,本件特許の請求項3ないし5について無効審判請求をした(無効2014-800015号。甲12)ところ,原告は,同年4月18日,訂正請求をした(本件訂正。甲16の1ないし16の3)。
特許庁は,平成26年9月26日, 「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決をし,同審決(謄本)は,同年10月6日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨 本件訂正によって訂正された特許請求の範囲請求項3ないし5に記載された発明(本件発明)の要旨は,次のとおりである(下線部分が本件訂正によって追加された部分である。以下,請求項の番号に応じて,例えば「本件発明3」などと表記する。。
) 【請求項3】(分説は当裁判所が付した。) ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し,嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている電気コネクタ組立体において,(A) ケーブルコネクタは,突部前縁と突部後縁が形成されたロック突部を側壁面に有し,レセプタクルコネクタは,前後方向で該ロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,該ロック溝部には溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられており,ケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記係止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止部が側壁に設けられており,(B) コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上か 「が」 ( の明らかな誤記と認める。 って該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき, ) 上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケープルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し,上記ロック突部が上記ロック溝部内に進入して所定位置に達した後に上記上向き傾斜姿勢が解除されて上記ケーブルコネクタが上記コネクタ嵌合終了姿勢となったとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が上記突出部の最前方位置よりも後方に位置し,(C) 該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して,上記ケーブルコネクタの抜出が阻止されるようになっていることを特徴とする電気コネクタ組立体。
(D) 【請求項4】 ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるとき,ロック突部の突部後縁は,該突部後縁の最後方位置が最前方位置よりも下方にあることとする請求項3に記載の電気コネクタ組立体。
【請求項5】 ケーブルコネクタの前端部にはコネクタ嵌合状態でレセプタクルコネクタの前方の端壁面の位置から前方へ突出する持上げ部が設けられていて,該持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより該ケーブルコネクタの抜出が可能となっていることとする請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載の電気コネクタ組立体。
3 原告の主張した無効理由 (1) 特許法29条関係 本件発明3は,甲1に記載された発明(甲1発明)であり,特許法29条1項3号により特許を受けることができない。また,本件発明3は,甲1発明及び甲5ないし8に記載された発明(甲5ないし甲8発明)における周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない。
本件発明4及び5は,甲1発明及び甲2ないし8に記載された発明(甲2ないし甲8発明)における周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない。
甲1:特開昭63-218174号公報 甲2:特開平6-124747号公報 甲3:特開2003-36928号公報 甲4:実願昭63-80989号(実開平2-3676号)のマイクロフィルム 甲5:特開2000-252007号公報 甲6:特開平10-208784号公報 甲7:特開平10-112340号公報 甲8:特開平10-144366号公報 (2) 特許法36条関係 本件発明3は,明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえず,また,特許を受けようとする発明が明確に記載されているとはいえないから,特許法36条6項1号及び2号に違反し,本件発明3についての特許は,同法123条1項4号に該当し,無効とすべきである。
本件発明4に係る明細書の発明の詳細な説明は,当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず,また,本件発明4は,発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから,特許法36条4項1項及び同条6項1号に違反し,本件発明4についての特許は,同法123条1項4号に該当し,無効とすべきである。
4 審決の理由の要旨(争点と関係の薄い部分はフォントを小さく表記する。) 審決は,本件訂正を認めた上で,本件発明3につき,引用発明である甲1発明と同一とはいえないし,甲5〜8に記載された技術常識に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではなく,本件発明3を限定した本件発明4及び5も同様の理由で,当業者が容易に発明することができたものでもないとして,本件発明3の新規性及び進歩性並びに本件発明4及び5の進歩性を肯定する判断を示した。
また,本件発明3については,サポート要件違反はなく,「ロック突部」の意義も明確であって明確性要件違反もない,本件発明4については,実施可能なものであり,サポート要件違反はないと判断した。
(1) 本件訂正について 請求項3に係る本件訂正は,訂正前の請求項3で特定される事項に限定を付加するものであり,「特許請求の範囲減縮」を目的とするものであるから,特許法134条の2第1項ただし書1号に該当する。
そして,本件訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範 囲内においてされた訂正であり,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものでもない。
また,本件訂正後の請求項4及び5は,訂正後の請求項3の記載をそれぞれ引用しているから,特許法施行規則46条の2第2号に規定する関係を有する一群の請求項である。
したがって,本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書に掲げる事項を目的とし,同法134条の2第9項の準用する同法126条5項及び6項に適合するから,一群の請求項として当該訂正を認める。
(2) 特許法29条関係の無効理由について ア 甲1発明(引用発明)の認定 「ハウジング35とこのハウジング35に設けられた複数のコンタクト37とを有する一方のコネクタ31と 相手ハウジング39とこの相手ハウジング39の内部に設けられた複数の相手コンタクト41とを有し,また,相手ハウジング39の外部から導入されたケーブル44の一端が接続された相手コネクタ33と を有した回転挿抜コネクタにおいて, 一方のコネクタ31のハウジング35は互いに間隔をおいて対向するよう延出した対の側壁47を有し,これらの側壁47の内面には,溝部49及び係止穴51がそれぞれ形成され,これらの溝部49は,側壁47の延出方向,即ち,コネクタ突合方向の軸線とほぼ直角方向にのびるように形成され,また,溝部49には,中間部分に肩部56及び,該肩部56が形成された面と対向する面から溝内方へ突出する突出部が形成され,このようなハウジング35の対の側壁47の間には,相手コネクタ33の相手ハウジング39が嵌込まれるものであり,さらに,ハウジング35は,上記対の側壁47の内面と直角をなす端部の内面を備え, 相手コネクタ33の相手ハウジング39は,対の側面及びこれと直角をなし,一方のコネクタ31のハウジング35の対の側壁47の間に嵌込まれた際にハウジング35の上記端部の内面に対面する端面を備え,上記対の側面には,それぞれハウジング35の溝部49に嵌込まれる円柱形の回転中心突起53が形成され,さらに 上記対の側面には,一方のコネクタ31のハウジング35の係止穴51に嵌込まれる係止突起60が上記端面に寄った位置に形成され, 相手コネクタ33は,一方のコネクタ31におけるコネクタ突合方向の軸線に対して或る角度を持った状態でその回転中心突起53を溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入され,その後に,相手コネクタ33を反時計方向に回転させ,その結果,相手コネクタ33の係止突起60は,一方のコネクタ31の係止穴51に入り込み回転が停止すると共にロックされ,そして,このロックされた状態において,回転中心突起53は溝部49の上記突出部の下方に位置し, さらに,相手コネクタ33を一方のコネクタ31から引抜く際には,相手コネクタ33を時計方向に回転した後に,回転中心突起53を溝部49にて案内しつつ上方に引き抜く 回転挿抜コネクタ。」 イ 本件発明3と引用発明の対比 (一致点) 「ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し,嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている電気コネクタ組立体において, ケーブルコネクタは,ロック突部を側壁面に有し,レセプタクルコネクタは,前後方向で該ロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,該ロック溝部には溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられており,ケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記係止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止部が側壁に設けられており,コネクタ嵌合過程にてケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあり,上記ロック突部がロック溝部内に進入して所定位置に達した後に上記上向き傾斜姿勢が解除されて上記ケーブルコネクタが上記コネクタ嵌合終了姿勢となる 電気コネクタ組立体。」 (相違点) 本件発明3では,ロック突部は,突部前縁と突部後縁が形成され,また,ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し,上記ケーブルコネクタが上記コネクタ嵌合終了姿勢となったとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が上記突出部の最前方位置よりも後方に位置し,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して,上記ケーブルコネクタの抜出が阻止されるようになっているのに対し,引用発明では,回転中心突起53は,円柱形とされ,また,相手コネクタ33と一方のコネクタ31とがロックされた状態において,回転中心突起53は溝部49の突出部の下方に位置しているものの,相手コネクタ33が後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,回転中心突起53が上記抜出方向で突出部と当接して,上記相手コネクタ33の抜出が阻止されるとはされていない点。
ウ 相違点について 引用発明は,相手コネクタ33とコネクタ31とがロックされた状態において,回転中心突起53は溝部49の突出部の下方に位置している位置関係から,相手コネクタ33が後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,回転中心突起53が上記抜出方向で突出部と当接し,それにより,回転中心突起53の上方への移動が制限され,相手コネクタ33の上方への移動が制限されているが,これは,本件発明3でいう「抜出を阻止する」にほかならない。
しかしながら,上記抜出しの阻止が,その手段において,本件発明3では,ケーブルコネクタの姿勢に応じて「ロック突部」の突部後縁の最後方位置と「ロック溝部」の突出部の最前方位置との位置関係を変化させることにより行われているのに対し,引用発明では,「回転中心突起53」と「溝部49」との関係からみて,「回 転中心突起53」がコネクタ突合方向の軸線方向に突出部の下方の位置まで移動することにより行われる点で相違する。
そして,甲5〜8には,コネクタにおいて嵌合操作の支点となる突部を多角形状としたものが示されているものの,いずれも本件発明3における上記抜出しの阻止の手段が記載又は示唆されているものではない。
また,仮に,引用発明の「回転中心突起53」として,甲5〜8に記載されているような多角形状のものを採用したとしても,ケーブルコネクタの姿勢に応じた「ロック突部」の突部後縁の最後方位置と「ロック溝部」の突出部の最前方位置との位置関係が特定された本件発明3における上記抜出しの阻止の手段を直ちに構成し得るものではない。
よって,引用発明において,上記相違点に係る構成を本件発明3のようになすことが容易であるということはできない。
したがって,本件発明3は,甲1に記載された発明とはいえず,また,引用発明,及び甲2(判決注:5の明らかな誤記)〜8に示される周知の構成に基づいて,当業者が容易に発明できたものということもできない。
エ 本件発明4及び5と甲1発明とを対比すると,両者は,少なくとも上記イで挙げた相違点において相違し,当該相違点は,上記ウのように容易になし得たとはいえない。したがって,本件発明4及び5は,甲1発明とはいえず(判決注:本件無効審判請求において,本件発明4及び5が甲1発明と同一であり新規性を欠くという無効理由は主張されていないにもかかわらず(甲12),この点に対する通知や意見申立ての機会付与がなされていない可能性があり,この部分の判示は,不要かつ手続上問題がある可能性がある。,また,甲1発明,甲5(判 )決注:2の明らかな誤記)〜8に示される周知の構成に基づいて,当業者が容易に発明できたものともいうことはできない。
(3) 特許法36条関係の無効理由について ア 本件発明3の実施形態である図7に関し,図3に関する本件明細書の記載(【0030】【0039】 , )の記載を参酌すれば,図7に係る実施例におけるロック突部の突部後縁の 最後方位置が嵌合過程及び嵌合終了姿勢でどのように移動するのかは容易に理解できる。よって,本件発明3は,発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
イ 本件発明3の「ロック突部」は, 「ロック溝部」に対する前後方向の位置関係を,ケーブルコネクタの姿勢に応じて変化させることによって, 「該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して,上記ケーブルコネクタの抜出しが阻止される」ものであるから, 「嵌合終了時に突部後縁における最後方位置となる部位に着目し,上向き傾斜姿勢と嵌合終了姿勢においてその部位についての前後の位置関係を比較するもの,つまりロック突部の同じ部位について比較したもの」であることは明らかである。よって,本件発明3は明確である。
ウ 本件発明4は,本件発明3の従属項として規定されたものであって,本件発明3の「ロック突部の突部後縁」について,更に限定を加えたものであるから,本件発明4に規定されている「ロック突部の突部後縁」は,少なくとも本件発明3と同様な技術上の意義を有するものであって,実施可能なものである。
エ 本件発明3の実施形態である図7に関し,本件明細書の【0053】の記載と図7を参酌すれば,請求項4における「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるとき,ロック突部の突部後縁は,該突部後縁の最後方位置が最前方位置よりも下方にあることとする」ことは,発明の詳細な説明に記載されたものと認識し得る。
また,本件発明4は,本件発明3の従属項として規定されたものであって,本件発明3の「ロック突部の突部後縁」について,更に限定を加えたものである。よって,本件発明4は,少なくとも本件発明3と同様に本件明細書で提示された課題を解決し得ることは明らかである。
したがって,サポート要件違反はない。
原告の主張
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)-新規性 本件発明3における「最後方位置」という用語は,本件明細書中で用いられてお らず,その意味について何の説明もなく,その意義は不明である。このため, 「ロック突部の突部後縁の最後方位置」の意味については,@ロック突部の突部後縁に関して,具体的にどの部位かは問わず,その時点,その時点におけるロック突部の突部後縁の最も後方となる位置(絶対的な最後方位置) A嵌合終了姿勢になった際に ,ロック突部における最後方位置となる特定の部位に着目し,当該部位の位置関係を上向き傾斜姿勢と嵌合終了姿勢で比較したもの(相対的な最後方位置)との二つの解釈が考えられる。そして,請求項3が明確性の要件を満たすように解釈すると,「相対的な最後方位置」の意味と考えられる。このことは,請求項4が「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるとき,ロック突部の突部後縁は,該突部後縁の最後方位置になる部位が最前方位置になる部位よりも下方にあることとする請求項3に記載の電気コネクタ組立体。」となっていないことからも裏付けられる。
(1) 「最後方位置」が相対的な最後方位置を意味すると考えた場合 ア 本件発明3 本件発明3における「最後方位置」につき, 「相対的な最後方位置」を意味すると考えると,ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢から嵌合姿勢へと変化することにより,ロック突部の突部後縁の最後方位置が後方に移動し,そのことによって,ロック突部の突部後縁の最後方位置が,突出部の最前方位置よりも後方に位置するという関連性は,特定されないはずである。それにもかかわらず,審決は,ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢から嵌合姿勢へと変化することにより,ロック突部の突部後縁の最後方位置が後方に移動し,そのことによって初めて突出部の最前方位置よりも後方に位置することになり,抜出しの阻止が可能になると認定し, 「ロック突部の突部後縁の最後方位置」を「絶対的な最後方位置」と認定した。かかる審決の認定は,本件発明3の実施例とは関係がない第3図を持ち出したことによるもので,誤りである。
イ 甲1発明 他方,甲1発明の相手コネクタ33とコネクタ31は,相手コネクタ33に設け られた回転中心突起53をコネクタ31の溝部47に挿入した後,相手コネクタ33をコネクタ31に反時計方向に回転させて嵌合固定させる構成である。甲1において,この回転中心突起53の形状は明細書上特定されていないが,図面では円柱状に描かれている。
審決の認定のように,回転中心突起が仮に円柱形であり,また,相手コネクタ33が,回転中心突起53が溝部49の右方にある状態で,上向き傾斜姿勢から水平の嵌合終了姿勢に変化するとしても,ケーブルコネクタが嵌合終了姿勢にあるとき 「に最後方位置となるロック突部における特定部位が,コネクタ嵌合過程においてケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるときは,その最後方位置よりも前方に位置すること」(要件C-1)の要件を満たす。
また,甲1発明の相手コネクタは,水平状態となって嵌合が終了すると,抜出しが阻止されるものであるし,回転中心突起53の最後方位置が溝部49の突出部よりも後方に位置するから,コネクタ嵌合終了姿勢におけるケーブルコネクタの最後 「方位置が,ロック溝部における突出部の最前方位置より後方に位置すること」 (要件C-2)の要件も満たす。
したがって,甲1発明は,本件発明3の各分説に係る構成を満たしていることになるから,新規性を欠く。
(2) 「最後方位置」が「絶対的な最後方位置」を意味すると考えた場合 審決が,本件発明3の認定に当たり,図3の実施例を持ち出したことからすると,審決は,本件発明3について,ケーブルコネクタの回転のみによって,すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成に限定されていると解釈しているようである。
しかしながら,請求項3は,嵌合過程におけるケーブルコネクタの上向き傾斜姿勢と嵌合終了姿勢におけるロック突部の最後方位置を特定しただけであり,ケーブルコネクタの回転動作でロック突部がどのように移動・変位するかという関係まで を特定したものではないと解釈することもできる。
そうすると,最後方位置が審決認定のように「絶対的な最後方位置」を意味するとしても,本件発明3は,甲1発明との間で相違点はない。
2 取消事由2(相違点判断の誤り)-進歩性 仮に,請求項3において特定された「上向き傾斜姿勢での最後方位置が,嵌合終了姿勢時と比較して前方にある」ことと「嵌合終了姿勢では突出部の最前方位置より後方に位置し」との構成が,審決が認定したとおり「絶対的な最後方位置」について特定したものであるとしても,本件発明3について進歩性を肯定した審決の判断は誤りである。
甲5〜8には,抜出しが防止できる回転式コネクタとなるための構成,すなわち,ロック突部の突部後縁の最後方位置が突出部の最後方位置よりも後方に位置するという構成が記載されているし,回転に伴う絶対的な最後方位置の変化を伴うような多角形のロック突部,すなわち,ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,ロック突部の突部後縁の最後方位置が,ケーブルコネクタが嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置する構成が記載されており,審決が認定した本件発明3と甲1発明との相違点に係る構成が記載されているといえる。そして,甲5ないし甲8発明は,コネクタという甲1発明と同一分野に属する発明であり,回転操作の際の機能等も甲1発明と共通する。したがって,甲5ないし甲8発明を適用して,審決の認定した相違点に係る構成とすることは,当業者が何の工夫もなく適宜行う程度の事項にすぎない。
なお,このことは, 「最後方位置」を「相対的な最後方位置」を指すものと解したとしても変わりない。
3 取消事由3(明確性要件の判断の誤り) 審決は,本件発明3について,進歩性判断と明確性要件の判断で, 「最後方位置」について矛盾する判断をしている。仮に,進歩性判断で示した「最後方位置」の認定,すなわち「絶対的な最後方位置」との認定が正しいのであれば, 明確性要件についての審決の判断は誤りである。
被告の反論
1 取消事由1に対し (1) 本件発明3について 本件発明3は,分説Cにより「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき」よりも「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるとき」に, 「ロック突部の突部後縁の最後方位置」の位置が後方に移動することが規定された上で, 「上記ロック突部が上記ロック溝部内に進入して所定位置に達した後に上記上向き傾斜姿勢が解除されて上記ケーブルコネクタが上記コネクタ嵌合終了姿勢となったとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が上記突出部の最前方位置よりも後方に位置」すると限定され,本件発明3は,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が,「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき」は,ロック溝部の溝部後縁から溝内方へ突出する突出部の最前方位置よりも前方に位置し,また, 「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるとき」は,上記突出部の最前方位置よりも後方に位置するものである。このことは,本件明細書の図7及びこれに対応する説明である【0049】ないし【0053】,並びに,図7が基本的構成部分を前提とする図3及びこれに対応する説明である【0030】ないし【0039】の記載から理解できる。
(2) 引用発明について 甲1には,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が,「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき」にはロック溝部の溝部後縁から溝内方へ突出する突出部の最前方位置よりも前方に位置し,ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にある 「とき」には上記突出部の最前方位置よりも後方に位置するという構成は開示されていない。すなわち, 「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき」を図示している第3図において, 「回転中心突起53」の最後方位置が溝部49の円弧状の突出部の最前方位置よりも前方に位置することは,示されていない。
なお,「ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間での相対的位置の変化」は,甲1に開示がない技術事項である。甲1においては,相手コネクタ33の「回転中心突起53」がコネクタ31の溝部49に入るときから「コネクタ嵌合過程」が始まり,「回転中心突起53」が溝部49の最下部まで進入し,続いて右端の壁及び上側の円弧状突出部と当接する場所(所定位置)に達した後,上向き傾斜姿勢が解除されてケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢に移行するのであり, 「回転中心突起53」は当該場所において円運動を行うだけである。
甲1の第3図は,第5図と比較して,回転中心突起と右端の壁の位置関係が変化しているとは認識できず,ましてや第3図では両者は当接しておらず,当接する第5図の位置に移動したことは拡大図からは確認できない。
(3) 相違点の存在 したがって,本件発明3と甲1発明には相違点が存在する。
2 取消事由2に対し 甲5〜8には, 「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が, 「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき」はロック溝部の溝部後縁から溝内方へ突出する突出部の最前方 、、
位置よりも前方に位置し, 「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるとき」は同 、、
突出部の最前方位置よりも後方に位置するという構成は開示されていないから,甲1発明の「回転中心突起53」を,甲5の「係合突起30」,甲6の「突出部32b」 ,甲7の「突出部40」 ,甲8の「凸部24」のいずれかの構造と交換しても,本件発明3の当該発明特定事項を得ることはできない。
甲1発明では,相手コネクタ33がスムースに回転できるように円弧状の突出部の下側で円運動するために「回転中心突起53」は円柱状とされているのであり,単に「同じ形式のコネクタである」とか,「技術分野が同じである」というだけで,甲5の「係合突起30」 甲6の , 「突出部32b」 甲7の , 「突出部40」 甲8の , 「凸部24」のような多角形状のものと交換することはない。すなわち,甲1発明は,従来の軸方向の挿抜コネクタを改良した回転挿抜コネクタに関する発明であって, 甲1発明の課題を解決するには,回転中心突起53を中心として,ケーブル先端側を回動させることが必須であるところ,ケーブル先端側を回動させるためには,回転中心突起53は,回転に適した断面円形状(円柱)であることが必要である。したがって,回転中心突起53に,スムースな回転を妨げる円形状以外の矩形形状を採用する理由はない。しかも,甲1の図面で採用された円形状の回転突起を矩形とした場合,ケーブル先端側の回動はおよそぎこちなく安定せず,結果として,ケーブル先端側における,コネクタ31のコンタクト37と相手コネクタ33の相手コンタクト41との摺動接触や,嵌合面を利用した係止突起60と係止穴51との係合等も不安定なものとなるから,甲1発明の機能が妨げられてしまう。このように,甲1発明の技術思想に照らしても,また,甲1が発明の名称を「回転挿抜コネクタ」としており, 「回転中心突起53」の名称が付されていることに照らしても,当業者は,「回転中心突起53」の円形状突起を矩形のものに変更することを想到しない。
3 取消事由3に対し「絶対的な最後方位置」「相対的な最後方位置」なる語は原告の造語であり,何を ,意味するのか不明であるが,明確性要件の判断において,審決が,本件発明3の「ロック突部の突部後縁の最後方位置」を正しく判断していることは,原告が認めているところである。
当裁判所の判断
1 取消事由1について (1) 本件発明3について ア 本件明細書の記載事項 本件明細書(甲10,16の2)には,次の記載がある。
【0001】 本発明は,ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有する電気コネクタ組立体に関する。
・・・【0003】 特許文献1では,レセプタクルコネクタは内側に向く側壁面に嵌合突部を有しケーブルコネクタの嵌合時に,該ケーブルコネクタの嵌合凹部に上記嵌合突部が係止してコネクタの抜けを図るロック手段を形成している。該ロック手段は,ケーブルの延出側となる後部の位置で,上記側壁面に設けられている。さらに,この側壁面には前部に斜面からなるカム面が両コネクタに設けられていて,コネクタ嵌合後,ケーブルを後方に引くと,その力が上記両コネクタのカム面で上方向,すなわち,コネクタ抜出方向の力の成分を生ずるようになっていて,この力によって上記ロック手段でのロック力に抗して,コネクタの抜出を容易としている。
・・・【発明が解決しようとする課題】【0005】 このような特許文献1のコネクタにあっては,ケーブルコネクタのケーブルを後方に引く力が,意図的に加えられる場合は勿論のこと,不用意に加えられたときでも,上記カム面での抜出方向の力の発生により,ロック手段が解除されてコネクタが抜出されてしまう,すなわち意図せぬ外れを生じてしまう,ということを意味する。
【0006】 ケーブルコネクタにあってはケーブルに不用意な力,しかも,抜出方向成分をもつ力が加えられてしまうことがしばしばある。かかる不用意な力がケーブルに作用すると,特許文献1のコネクタでは,単純なケーブル延出方向の力であっても,上記カム面の働きによって上方向の成分の力が発生しコネクタを抜出してしまう。また,ケーブルに作用する不用意な力に,もともと上向き成分を伴っていると,上記抜出の傾向はさらに強くなる。
【0007】 本発明は,このような事情に鑑み,ケーブルコネクタのケーブルに不用意な力が作用しても,そして,その力が上向き方向の成分を伴っても,ケーブルコネクタを意図的に抜出させない限り,外れない電気コネクタ組立体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】【0008】 本発明に係る電気コネクタ組立体は,ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに勘合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し,嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている。
・・・【0012】 〈第二発明〉 第二発明では,ケーブルコネクタは,突部前縁と突部後縁が形成されたロック突部を側壁面に有し,レセプタクルコネクタは,前後方向で該ロック部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,該ロック溝部には溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられており,ケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記係止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止部が側壁に設けられており,コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し,上記ロック突部が上記ロック溝部内に進入して所定位置に達した後に上記上向き傾斜姿勢が解除されて上記ケーブルコネクタが上記コネクタ嵌合終了姿勢となったとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が上記突出部の最前方位置よりも後方に位置し,該ケーブルコネクタが後端側を持 ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して,上記ケーブルコネクタの抜出が阻止されるようになっていることを特徴としている。
【0013】 第二発明において,ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるとき,ロック突部の突部後縁は,該突部後縁の最後方位置が最前方位置よりも下方にあることとしてもよい。
【0014】 第一発明および第二発明において,ケーブルコネクタの前端部にはコネクタ嵌合状態でレセプタクルコネクタの前方の端壁面の位置から前方へ突出する持上げ部が設けられていて,該持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより該ケーブルコネクタの抜出が可能となってもよい。
【発明の効果】【0015】 本発明は,以上のように,ケーブルコネクタがその側壁面にロック突部,そしてレセプタクルコネクタがその側壁面の対応位置にロック溝部を有し,上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケーブルコネクタが嵌合終了の姿勢となった後は,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記ロック溝部の突出部に当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻止するようにしたので,ケーブルコネクタの後端から延出しているケーブルを不用意に引いても,そしてその引く力がたとえ上向き成分を伴っていても,ロック突部がロック溝部の突出部に当接して,ケーブルコネクタはレセプタクルコネクタから外れることはない。ケーブルを引く不用意な力は,多くの場合,上記の上向き成分を伴っており,このような力に対して,本発明は確実に対処可能となる。
【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の一実施形態のケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの嵌合前の斜視図である。
(注)図1 ・・・【図3】図1におけるV-V線でのケーブルコネクタ及びこれに対応する位置でのレセプタクルコネクタの断面図であり,(A)はコネクタ嵌合前,(B)は嵌合途中そして(C)は嵌合終了時を示す。
(注)図3 ・・・ 【図7】本発明のさらに他の実施態様を示す断面図である。
(注)図7・・・【0024】 上記ロック突部21は,図1そして図3(A)に見られるように,突部前縁21A,突部後縁21Bとを有し,両者21A,21Bは,コネクタ嵌合方向,すなわち図1にて下方に向けコネクタの後端側へ傾斜しており,本実施形態では互いに平行となっている。突部前縁21Aの上方には斜部21Cが形成されている。また,ロック部21の下端は,相手コネクタとの嵌合を容易とするテーパ部21Dが形成されている(図1参照)。
・・・【0028】 ロック溝部57は,溝部前縁57Aと溝部後縁57Bとの間で上下方向に貫通して形成されている。上記溝部前縁57Aの上部には,後方へ向け溝内に突出する突出部59が設けられている。該突出部59は,ロック溝部57の入口側すなわち上縁部に,テーパ部59Aを有している。該突出部59は,このテーパ部59Aよりも下の部分が下方に延びる垂直部59Bをなしているが,この形は特に重要ではなく,本実施形態では,上記テーパ部59Aを有する突出部59となっていればよい。
上記溝部前縁57Aは突出部59の下方に位置する部分が下方に向く垂直前縁をなしているが,この垂直前縁もその形は自由であり,上記突出部59の下方に記述のロック突部を収容する空間を形成していればよい。上記ロック溝部57の溝部後縁57Bは,ロック溝部57の入口から下方に向け前方へ傾く案内傾斜部57B-1とその下方に位置する垂直部57B-2とを有している。上記案内傾斜部57B-1は,上下方向で,上記突出部59よりも下方位置にまで及んでいる。
【0029】 次に,上述したロック突部21とロック溝部57における前後方法での寸法関係について説明する。
【0030】 ロック突部21は,ケーブルコネクタ10が,図3(A)に示されるような嵌合終了時の姿勢,すなわちケーブルコネクタ10の上面,下面そしてケーブルがいずれも水平方向に延びていて前端がもち上がっていない姿勢のときに,突部前縁21Aの最前方位置と突部後縁21Bの最後方位置との距離Aが該ロック突部21の前後方向幅として最大値をとる。これに対して,レセプタクルコネクタ50のロック溝部57は,前後方向における溝幅としては,突出部59の後端位置と垂直部57B-2の位置との間の前後方向での距離Bが最小値である。本発明では,上記距離B<距離Aとなっている。すなわち,図3(A)の姿勢で上記ケーブルコネクタ10をそのまま降下させても,ロック突部21はロック溝部57の奥部までは進入できないことを意味しており,コネクタの嵌合ができない。しかしながら,図3(A)にも見られるように,ロック突部21の突部前縁21Aと突部後縁21Bはいずれも嵌合方向先方に向け後端側へ傾いていて,しかも両者は平行なので,この傾いている角度の分だけを,前端側にもち上げられる上向き傾斜させた姿勢とすれば,そのときの突部前縁21Aと突部後縁21Bとの距離A’そして上記距離Bとの関係は,距離A’<距離B<距離Aという関係となることができる。さらに,本発明では,この距離A’は,レセプタクルコネクタ50における距離Bに対して,距離A’ <距離Bの関係にあるので,したがって,上記ケーブルコネクタ10の前端側がもち上がっている上向傾斜の姿勢では,上記ロック突部21はロック溝部57の奥部まで進入可能となる。さらに,該ロック溝部57は突出部59よりも下方部分が上記ロック突部21を収容するに足りる空間を形成しているので,上記ロック突部21は,水平状態のケーブルコネクタ10の姿勢に戻ることが可能となる。このことは,この水平状態の姿勢において,ロック突部21は,ケーブルコネクタが嵌合方向とは逆方向に抜出されようとしても,距離B<距離Aの関係で,上記突出部59と干渉して,抜出できないことを意味する。
・・・【0034】 次に,図2ないし図4を参照しつつ本実施形態のケーブルコネクタ10とレセプタクルコネクタ50の嵌合接続の要領を説明する。ここで,図2は図1におけるケーブルの軸線の位置である II-II 位置でのケーブルコネクタ10の断面とこの位置に対応する位置でのレセプタクルコネクタ50の断面を示している。図3はロック溝部57の範囲内の位置である III-III 位置でのレセプタクルコネクタ50とこれに対応する位置でのケーブルコネクタ10の断面を示している。さらに,図4は,レセプタクルコネクタ50の両端子61を通る IV-IV 位置での断面と,これに対応する位置でのケーブルコネクタの断面を示している。図2ないし図4のいずれにおいても, (A)はコネクタ嵌合前, (B)は嵌合途中, (C)は嵌合終了時を示している。
【0035】 (1)先ず,端子30にケーブルCが結線されたケーブルコネクタ10を,図2(A),図3(A),図4(A)に見られるように,正規の嵌合終了時の姿勢,すなわち,ケーブルコネクタ10が水平姿勢でケーブルCが後方へ水平に延出している状態で,相手コネクタたるレセプタクルコネクタ50の上方位置へもたらす。
【0036】 (2)しかる後,ケーブルコネクタ10をそのままの姿勢で降下せしめる。この 姿勢でのケーブルコネクタ10のロック突部21における前後方向での距離Aは,図3(A)に見られるごとく,同方向でのレセプタクルコネクタ50のロック溝部57の幅(距離B)よりも大きいために,上記姿勢のままでは,ロック突部21はこのロック溝部57の奥部までは進入できない。したがって,該ロック突部21はロック溝部57の溝部前縁57Aと溝部後縁57Bの少なくとも一方に当接する(図3(B)における二点鎖線の姿勢)。
【0037】 ケーブルコネクタ10は, (1)でレセプタクルコネクタ50の上方位置にもたらされるとき,図3(A)の水平姿勢をとらずに,上向き姿勢をとってそのまま降下して図3(B)の実線の姿勢となるように降下してもよい。
【0038】 (3)次に,ケーブルコネクタ10の前端側をもち上げるように,該ケーブルコネクタ10を上向き姿勢とする。この上向き姿勢では,ロック突部21の前後方向における突部前縁21Aと突部後縁21Bとの間の距離A’は距離Aよりも小さくなっていて,該ロック突部21はその突部後縁21Bが上記溝部後縁57Bの案内傾斜部57B-1に案内されてロック溝部57内への進入が進行し,ロック溝部57の奥部まで到達する(図3(B)における実線の位置及び姿勢)。このとき,ロック突部21の突部前縁21Aに形成されている斜部21Cの下端は,図3(B)における実線で示されているように,上下方向で,突出部59の下縁よりも下方に位置している。
【0039】 (4)しかる後,ケーブルコネクタ10を嵌合終了の姿勢,すなわち,図3(A)における姿勢と同じとなるように,ケーブルコネクタ10の前端側を降下させる。
該ケーブルコネクタ10は,ロック突部21側を中心として突部後縁21Bの最後方位置がロック溝部57の溝部後縁57Bの垂直部57B-2に当接しながら時計方向に回転し,上記上向き姿勢が解除されて,水平となって嵌合終了の姿勢をとる (図3(C)参照)。上記回転の際,斜部21Cは,突出部59の下縁に近接した状態で,溝部前縁57Aに近づき,上下方向では突出部59と干渉する位置,すなわち,ロック位置にきている。
【0040】 (5)一方,ケーブル10がその前端側が降下するように回転する際,ケーブルコネクタ10の係止部22はレセプタクルコネクタ50の被係止部60を乗り越えて該被係止部60の下側に位置し,被係止部60に対して係止される。又,ケーブルコネクタ10の端子30の一対の接触片35間にレセプタクルコネクタ50の端子61が進入し,両者は電気的に接続される。
【0041】 (6)このように嵌合が終了してレセプタクルコネクタ50に対して接続されたケーブルコネクタ10は,嵌合後に不用意な後方への力がケーブルCに受けても,しかもその不用意な力が上向き成分を伴っていても,ロック突部21がロック溝部57の突出部59と当接するのでケーブルコネクタ10は嵌合終了時の水平姿勢を保って,あるいは前端側が下方に向く下向き姿勢をとるだけであり,ケーブルコネクタ10は抜出されてしまうことはない。本実施形態では,コネクタの前端側にて,ケーブルコネクタ10の係止部22とレセプタクルコネクタ50の被係止部60が係止し合っているので,ケーブルコネクタ10に前端側をもち上げようとする多少の力が作用しても,前端側が上向き姿勢をとることがなく,したがってロック突部21と突出部59との干渉とも相俟って,ケーブルコネクタ10の抜出が確実に阻止される。
【0042】 (7)ケーブルコネクタ10を意図的に抜出するときには,ケーブルコネクタ10の前端に設けられた持上げ部19に比較的大きな力を上方向に向け作用させる。
この力は,ケーブルコネクタ10の係止部22とレセプタクルコネクタ50の被係止部60との間の係止力に抗して,この係止を解除し,ケーブルコネクタ10を前 端側がもち上がる上向き姿勢にもたらす。この姿勢は,図3(B)における実線の姿勢と同じであり,ロック突部21は突出部59と干渉することがなくロック溝部57の外部へ上昇でき,ケーブルコネクタ10の抜出が可能となる。
【0043】 本発明では,図1ないし図4に示した形態以外にも変更が可能である。例えば,図1ないし図4では,ロック溝部57の溝部後縁57Bの上部たる案内傾斜部57B-1が該溝部後縁57Bの上下方向中央位置を若干越えた範囲までで,その下方に垂直部57B-2が形成されていたが,図5の形態では上記案内傾斜部57B-1がほぼ下端まで延びている。したがって,ロック突部21は,その突部後縁21Bが上記案内傾斜部57B-1に接面した傾斜状態で,すなわちケーブルコネクタ10の前端が上向き状態で,スライドするようにロック溝部57内へ進入する。その際,ロック突部21の前後方向(ケーブル延出方向)での突部前縁21Aと突部後縁21Bとの距離Aと,上記案内傾斜部57B-1に直角な方向で測った該案内傾斜部57B-1から突出部59までの最小の距離B’と,前後方向で測った上記案内傾斜部57B-1から突出部59までの最小の距離Bとの関係が,距離B<距離A<距離B’となっていて,上記上向き状態のケーブルコネクタ10のロック突部21の進入を可能とし,進入後,突部後縁21Bの最後方位置がロック溝部57の溝部後縁57Bの案内傾斜部57B-1に当接しながら,この上向き姿勢が解除されることで水平姿勢となったケーブルコネクタ10はその姿勢でもち上げられてもロック突部21が上記突出部59と干渉して,その姿勢ではケーブルコネクタ10は抜出できない。
・・・【0048】 次に,図7に示される形態にあっては,ロック突部21’がケーブルコネクタ10に設けられそしてロック溝部57’がレセプタクルコネクタ50に形成されている点では,図1ないし図5の形態と同じであるが,ロック突部21’の突部後縁2 1’Bの形態が相違し,ロック溝部57’の突出部59’が溝部後縁57’Bに設けられている点で相違している。
【0049】 ロック突部21’は,図3(B)における突部前縁21Aと斜部21Cと同様な突部前縁21’Aと斜部21’Cとを有している。これに対し,突部後縁21’Bは,ケーブル延出方向(嵌合終了時の姿勢における前後方向)に対し直角方向に延びる上部垂直部21’B-1と,その下方位置に下方に向け後方に延びる下部傾斜部21’B-2とを有している。
【0050】 一方,ロック溝部57’は前縁突出部59’Aと後縁突出部59’Bとがそれぞれ溝内方へ突出するように設けられている。上記前縁突出部59’Aは,図3の溝部前縁における突出部59よりも突出量は小さい。また,上記溝部後縁57’Bの案内傾斜部57’B-1と垂直部57’B-2との間には段部が形成されていて,後縁突出部59’Bは案内傾斜部57’B-1が垂直部57’B-2よりも溝内方に突出する部分で形成されている。この後縁突出部59’Bの突出量,すなわち段部の大きさは,上記前縁突出部59’Aの突出量よりも大きい。
【0051】 図7において,ロック突部21’の水平姿勢時の前後方向距離Aそして上向傾斜時の前後方向距離A’ そしてロック溝部57’ , の前後方向の最小溝幅の距離Bの関係は,図3(A)における距離A,距離A’そして距離Bとそれぞれ同様に,距離A’<距離B<距離Aとなっている。
【0052】 また,図7において,コネクタ前端側における,ケーブルコネクタ10の係止部22’そしてレセプタクルコネクタ50の被係止部60’は,図3における係止部22そして被係止部60と同じである。
【0053】 このような形態のケーブルコネクタ10は,図7の実線で示される前端が上向き姿勢でレセプタクルコネクタ50の上方位置から降下して,二点鎖線の位置にもたらされ,しかる後,前端の上向姿勢が解除されて水平姿勢となって嵌合終了の姿勢となる。この嵌合の過程において,前端が上向き姿勢のケーブルコネクタ10のロック突部21’の距離A’はレセプタクルコネクタ50のロック溝部57’の溝幅たる距離B’よりも小さいので,上記上向き姿勢のままロック突部21’はロック溝部57’の案内傾斜部57’B-1で案内されながらロック溝部57’内へ進入する。ロック突部21’の下部傾斜部21’B-2が,ロック溝部57’の後縁突出部59’Bの位置まで達すると,該後縁突出部59’Bに対して下部傾斜部21’B-2が該後縁突出部59’Bの下方に向けて滑動しながらケーブルコネクタ10はその前端が時計方向に回転して水平姿勢となって嵌合終了の姿勢に至る。この嵌合終了時には,上記下部傾斜部21’B-2が後縁突出部59’Bと上方向で干渉して,上記嵌合終了の姿勢あるいはケーブルCがもち上げられる前端の下向き姿勢での抜けが防止されると共に,前端側での係止部22’が被係止部60’と係止しており,この係止を解除する意図的な力が作用しない限り,多少の不用意な力が前端をもち上げようとするように作用してもこの係止は解除できず,コネクタの抜出は防止される。
イ 「ロック突部の突部後縁の最後方位置」の意義 以上の記載を前提に,本件発明3における「ロック突部の突部後縁の最後方位置」の意義を検討する。
まず,本件発明3において,ケーブルコネクタの側壁にあるロック突部は,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの嵌合に至るまでの過程を経て,その突部後縁の最後方位置が,コネクタ嵌合終了姿勢において,レセプタクルコネクタにあるロック溝部の突出部の最前方位置よりも後方の位置となり,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとすると,ロック突部がロック溝部の突出部と当接することで,抜出しを防止するものである。コネクタ嵌合過程にお いて,ロック突部がロック溝部の突出部と当接すると,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタを嵌合させることができないから,コネクタ嵌合過程において,ロック突部はロック溝部の突出部に当接しないことが必要であり,「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置」も,これに沿うように解釈する必要がある。また,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が「突出部の最前方位置よりも後方に位置」することで,ケーブルコネクタの抜出が阻止されることも必要であるから,これに沿うように解釈する必要もある。
そうすると,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタを嵌合させるためには,ロック突部の全体が,コネクタ嵌合過程において,常に,ロック溝部の前縁突出部の最後方位置と後縁突出部の最前方位置の間になければ,すなわち,ロック溝部の前後方向の最小溝幅(B)より上向き姿勢の突部前縁と突部後縁との距離(A’)が短くなければ,当該ロック溝部の突出部がロック溝部に進入できなくなる。したがって,少なくとも,コネクタ嵌合過程において,ロック突部が嵌入の支障にならないためには,溝部の後縁突出部の最前方位置との関係では,上向き傾斜姿勢時におけるロック突部の最後方位置が問題となるのであって,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」における「上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」は,上向き傾斜姿勢時におけるそれを指すことになる。
その後,嵌合過程におけるロック突部の最後方位置が,嵌合終了姿勢時におけるそれよりも前方にあることは,嵌合終了後の抜出しを防止するための要件であるが,ロック突部の形状によっては,嵌合過程において最後方位置となるロック突部の特定の部位が,嵌合終了時において最後方とならない場合がある。この点に関して,明細書の記載によれば,本件発明3では,ロック突部の水平姿勢時の前後方向距離A,上向き傾斜姿勢時の前後方向距離A’,ロック溝部57’の前後方向の最小溝幅の距離Bの関係は,距離A’<距離B<距離Aとされる。すなわち,本件発明3は, ロック突部の水平姿勢時における前後方向距離(A),ロック溝部の前後方向の最小溝幅(B)の大小関係によって,ロック突部の形状を利用して,レセプタクルコネクタを水平姿勢時に移転させた際に,溝部における突出部が作った空間にロック突部の1箇所が嵌るようにして,垂直方向への抜出しを防止するものである。したがって,本件発明3は,嵌合終了姿勢時において,ロック突部の少なくとも1箇所が突出部の最前方位置よりも後方に配置されていれば,上方向への抜出しを阻止することが可能であるという技術思想を示すものであり,「上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」もこれに基づいて解釈すべきであって,嵌合終了姿勢時における「上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」という要件は,ロック突部において,ロック突部の突部後縁の他のいずれの位置よりも後方にある位置,すなわち,ロック突部の突部後縁の最も後方となる位置を指すものというべきである。
なお,「上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」を,上向き傾斜時において最後方位置となる特定の部位と解しても,当該特定部位が,嵌合終了姿勢時においてロック溝部後縁の最前方位置よりも後方にある場合には,抜出しが不可能であるから,本件発明3の技術課題を解決できる。しかしながら,明細書の記載からすれば,本件発明3において,嵌合終了姿勢時におけるロック突部のいずれかの位置がロック溝部後縁の最前方位置よりも後方に位置すれば,垂直方向への抜出防止という技術課題を解決できることは明らかであって,上向き姿勢時における最後方位置となる特定の部位が,嵌合終了姿勢時において,ロック溝部後縁の最前方位置よりも後方にある構成に限定されるものではない。
以上によれば,本件発明3における「最後方位置」とは,ロック突部の上向き傾斜姿勢時と嵌合終了姿勢時において異なる位置を指すというべきであり,これを統一的に説明するとすれば,嵌合過程における各時点におけるロック突部の突部後縁の最も後方となる位置を意味すると解するのが相当である。
(2) 甲1発明 ア 甲1の記載事項 甲1には,次のとおりの記載がある。
「2.特許請求の範囲 1.第1の絶縁体に第1のコンタクトを組込んでなる第1のコネクタ要素と,第2の絶緑体に第2のコンタクトを組込んでなる第2のコネクタ要素とを含むコネクタにおいて,上記第1の絶緑体は上記第2のコネクタ要素の側面に対向するよう延出した側壁を有し,該側壁は,その延出方向に対し実質的に直角にのびて一端が縁部にまで至る溝部を有し,上記第2の絶緑体は上記溝部に挿入された回転中心突起を側面に有し,さらに上記第1及び第2のコンタクトは,上記回転中心突起を支点とした上記第1及び第2の絶縁体の相対的回動により互いに接触・離間されるものであることを特徴とする回転挿抜コネクタ。
2.特許請求の範囲第1)項記載の回転挿抜コネクタにおいて,上記第1及び第2の絶緑体間を上記第1及び第2のコンタクトの接触状態でロックするロック装置を備えたことを特徴とするもの。」「3.発明の詳細な説明〔産業上の利用分野〕 本発明は,一方のハウジングを他方のハウジングに対し回動させることで接続又は切離しの作用を得ることのできるコネクタに関する。」「〔従来例〕 通常のコネクタは,軸方向の挿抜によって電気的な接続又は切離しを得るようになっている。そのコネクタは,第7図に示すように,一方のコネクタ1と,このコネクタ1に着脱可能に嵌合する他方のコネクタ(以下相手コネクタと呼ぶ)3とを有している。一方のコネクタ1は,電気絶縁材料によって作られたハウジング5と,このハウジング5に組込まれたピンコンタクトのような複数 の導電性のコンタクト7とを有している。ハウジング5の一側には溝部9が形成されている。・・・ ハウジング5の溝部9には,相手コネクタ3が着脱可能に嵌合される。相手コネクタ3は電気絶縁材料によって作られた相手ハウジング15と,この相手ハウジング15の内部に組込まれたソケットコンタクトのような複数の導電性の相手コンタクト(図示せず)とを有している。・・・相手ハウジング15の上面には,第8図に示すように,ロックレバー19が形成されている。このロックレバー19は一端が相手ハウジング15の上面に接続されたものである。ロックレバー19の上面には,突起部21が形成されている。突起部21はハウジング5の溝部9の内面から上面にまで貫通して形成された係止穴23に係止される。これによりハウジング5と相手ハウジング15とは嵌合状態にロッックされる。また,コンタクト7と相手コンタクトとはロックレバー19を下向きに押すと突起部21が係止穴23から離脱して引き抜きが可能である。・・・〔発明が解決しようとする問題点〕 しかしながら,このようなコネクタによれば,挿入が不完全であるとロックレバー19の突起部21が相手の係止穴23に止まらないため,後にケーブル17を引張るような時,コネクタ1から相手コネクタ3が外れてしまうという問題がある。
また,係止穴23とこれに対応する突起部21とを設けるためにハウジング5や相手ハウジング15の所要スペースが大きくなり,したがって,特に高密度化を必要とするコネクタとしては不向きである。
それ故に本発明の目的は,確実な嵌合を得ることができ,かつ小型化が可能なコネクタを提供することにある。」「〔実施例〕 第1図は本発明の回転挿抜コネクタの一実施例を示している。
図示の回転挿抜コネクタは,一方のコネクタ31(第1のコネクタ要素)とこのコネクタ31に挿抜可能にして嵌合する相手コネクタ(第2のコネクタ要素)33とを有している。
一方のコネクタ31は,電気絶縁材料によって作られたハウジング(第1の絶縁体)35と,・・・とを有している。
また,相手コネクタ33は電気絶縁材料によって作られた相手ハウジング(第2の絶縁体)39と・・・を有している。相手コンタクト41には,・・・相手ハウジング39の外部から導入されたケーブル44の一端が接続されている。・・・ 一方のコネクタ31のハウジング35は互いに間隔をおいて対向するよう延出した対の側壁(その一方のみを47で示した)を有している。これらの側壁47の内面には,溝部49及び係止穴51がそれぞれ形成されている。これらの溝部49は,側壁47の延出方向,即ち,コネクタ突合方向の軸線とほぼ直角方向(実質的に直角方向)にのびるように形成されている。また溝部49には中間部分に肩部56が形成されている。このようなハウジング35の対の側壁47の間には,相手コネクタ33のハウジング39が嵌込まれる。
一方,相手コネクタ33のハウジング39の対の側面には,それぞれ,ハウジング35の溝部49に嵌込まれる回転中心突起53が形成されている。これらの突起53はまた肩部56に当接するものである。さらに相手コネクタ33のハウジング39の対の側面には,一方のコネクタ31のハウジング35の係止穴51に嵌込まれる係止突起60が形成されている。
次に,第3図及び第6図をも参照して回転挿抜コネクタの嵌合について説明する。
先ず,相手コネクタ33は一方のコネクタ31におけるコネクタ突合方向の軸線 に対して或る角度を持った状態でその回転中心突起53をハウジング35の溝部49に挿入される。
溝部49に挿入された回転中心突起53は,第3図に示すように,溝部49の中間部分の肩部56で停止する深さまで挿入される。この状態では,コンタクト37の接触部39と相手コンタクト46とは,第4図に示すように,互いに軸方向を異にしている。
その後に,相手コネクタ33を反時計方向に回転させる。この結果,相手コネクタ33の係止突起60は,第5図に示すようにコネクタの係止穴51にしっかりと入り込み回転が停止すると共にロックされる。即ち,係止突起60と係止穴51とが協働してロック装置を構成する。その際,コンタクト37の接触部39と相手コンタクト41のソケット部46とは,第6図にも示すように,回転しながら摺動し嵌合接触する。さらに,相手コネクタ33をコネクタ31から引抜く際には,相手コネクタ33を時計方向に回転した後に,溝部49にて案内しつつ上方に引き抜く。」「〔発明の効果〕以上実施例により説明したように,本発明の回転挿抜コネクタによれば,コネクタの両側に,相手コネクタの回転中心突起に対応する溝部が係合しているため,コネクタあるいは相手コネクタが破壊しない限り,ケーブルを引張っても嵌合が外れることがない。また,回転挿抜コネクタは,大きな形状のロックレバーや係止穴を必要としないため小型化が可能である。」 イ 甲1に開示された技術思想 以上によれば,甲1には,次のような発明が記載されていると理解することがで きる。
従来,コネクタ1のハウジング5の一側に形成された溝部9に相手ハウジングを有する相手コネクタ3が着脱可能に嵌合されるコネクタにおいて,突起部21を形成したロックレバー19を相手ハウジング15の上面に形成し,この突起部21をハウジング5の溝部9の内面から上面まで貫通して形成された係止穴23に係止させることにより,ハウジング5と相手ハウジング15とを嵌合状態にロックできるコネクタが知られていた。
しかしながら,このようなコネクタは,挿入が不完全であると突起部21が係止穴23に止まらないため,ケーブル17を引張る時,コネクタ1から相手コネクタ3が外れてしまい,また,係止穴23と突起部21を設けるためにスペースが大きくなるという課題があった。
甲1発明はこのような課題を解決するためになされたものであり,実施例として,一方のコネクタ31のハウジングの対の側壁47に溝部49及び係止穴51を形成し,相手コネクタ33のハウジング39の対の側面にこの溝部49に嵌め込まれる回転中心突起53と係止穴51に嵌め込まれる係止突起60が形成されている。そして,前記溝部49はコネクタ突合方向の軸線とほぼ直角方向に伸びるようにされ,また中間部分に肩部56が形成されて,回転中心突起53は溝部49の中間部分に形成されたこの肩部56に当接するように構成されている。
そして,このようなコネクタ31と相手コネクタ33を嵌合させるときには,まず,コネクタ31に対して角度を持った状態で相手コネクタ33の回転中心突起53を溝部49の肩部で停止する深さまで挿入し,相手コネクタ33を回転させ,相手コネクタ33の係止突起60をコネクタ31の係止穴51に入り込ませてコネクタ31と相手コネクタ33を嵌合させる。
ウ したがって,審決の甲1発明の認定に誤りはない(回転中心突起の形状については,下記(3)アで述べる。。
) (3) 本件発明3と甲1発明の対比について ア 甲1発明における嵌合の仕組みについて 甲1には,コネクタ31と相手コネクタ33との嵌合過程について,「先ず,相手コネクタ33は一方のコネクタ31におけるコネクタ突合方向の軸線に対して或る角度を持った状態でその回転中心突起53をハウジング35の溝部49に挿入される。溝部49に挿入された回転中心突起53は,第3図に示すように,溝部49の中間部分の肩部56で停止する深さまで挿入される。・・・その後に,相手コネクタ33を反時計方向に回転させる。この結果,相手コネクタ33の係止突起60は,第5図に示すように・・・ロックされる。」と記載されているが,甲1の第3ないし6図を参照すると,次の事項がわかる。
まず,相手コネクタ33のハウジング39の側面に設けられている回転中心突起53が挿入されるコネクタ31のハウジング35の溝部49は,「コネクタ突合方向の軸線とほぼ直角方向にのびるように形成され」,「中間部分に肩部56が形成されている」ものである。第3ないし5図の記載において,コネクタ突合方向は,紙面の左右方向となり,これに対して直角方向とは紙面の上下方向をいうと解されるから,溝部49は,まず紙面の上下方向に延びるように形成される。そして,中間部分に形成される肩部56は,紙面の左右方向,すなわちコネクタ突合方向のうちケーブル44側に溝部49を曲げるように形成されていることが第3図,第5図及び第1図の記載からわかる。そして,コネクタ31と相手コネクタ33とを嵌合させるには,まず,相手コネクタ33はコネクタ31のコネクタ突合方向の軸線に対してある角度を持った状態,すなわち,相手コネクタ33の前端がもち上がって相手コネクタ33が上向き傾斜姿勢にある状態で,相手コネクタ33の回転中心突起53をコネクタ31の溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入する。そうすると,溝部49は,コネクタの突合方向に対し直交する方向に延びるように形成されているから,相手コネクタ33の回転中心突起53もコネクタの突合方向に対し直交する方向に挿入されるが,肩部56において溝部49が折れ曲がるように形成されているため,肩部56で形成される溝部49の底面に回転中心突起53が当た り,ここで停止する状態となる。そして,この状態のままで,相手コネクタ33を,回転中心突起53を中心に反時計回りに回転させると,相手コネクタ33をコネクタ31からコネクタ突合方向に直交する溝部方向に動かすことになり,両者の嵌合状態が解除されてしまう。そこで,甲1発明では,この状態で相手コネクタ33を回転させるのではなく,回転中心突起53を肩部56に沿って動かすことで,相手コネクタ33をコネクタ31に対してコネクタ突合方向のケーブル44側にずらした状態にして,相手コネクタ33をコネクタ突合方向に直交する溝部方向に動かすことができないようにし,その後,回転中心突起53を中心に相手コネクタ33を回転させているといえる。このことが第3図に示されており,甲1発明は,この状態で相手コネクタ33を回転させてコネクタ31を嵌合状態とする(第5図)ものである。
以上のことから,相手コネクタ33は,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態(甲1の第3図の状態)では,コネクタ突合方向の軸線に対してある角度をもった状態,すなわち,相手コネクタ33の前端がもち上がって,上向き傾斜姿勢にある状態であり,この状態から相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了状態にしていることがわかる。このときの回転の中心は回転中心突起53であるから,回転中心突起53の断面が円形であるとすると,相手コネクタ33の回転の前後で,回転中心突起53の最後方位置(ケーブル44側の位置)は変わらないことになる。そして,甲1の第3図の記載,回転中心突起56は,肩部56の中で回転するときの中心となるものであり,相手コネクタ33が円滑に回転するように形成されていると解されることや,回転させる前後及びその途中において,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上下左右方向に移動できるような隙間が回転中心突起53と肩部56との間に生じるのはコネクタ同士の確実な嵌合という観点から見て望ましいものではないことを考慮すると,回転中心突起53の断面の形状は,基本的には円形が想定されていると考えられる。
もっとも,円滑な回転動作やコネクタの確実な嵌合に支障が出ない限度で,回転 中心突起53の断面が円形以外の形状となることも許容されているものと解される。
そして,回転中心突起の断面が円形でない場合には,その形状に応じて回転中心突起53の最後方位置が相手コネクタ33の回転の前後で変わることになるが,甲1にはそのような事項は記載されていないのであって,回転によって,回転中心突起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術思想が記載されているとはいえない。
したがって,甲1発明は,コネクタ31から相手コネクタ33が外れることを防止するために,回転中心突起53が肩部56の上面に当接して,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上方へ動くのを防いでいるものであるが,回転中心突起53の上方に肩部56の上面が位置するように,相手コネクタ33が傾斜している状態で肩部56の前側から後側(ケーブル側)へ回転中心突起53を移動させているものであって,相手コネクタ33の回転により回転中心突起56の最後方位置が後方(ケーブル側)へ移動するものではないから,甲1発明は回転中心突起56の断面形状に関する事項を特定した発明ではないと考えられる。
イ 対比 以上を前提に,本件発明3と対比すると,甲1発明は,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケープルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置」するものではないという点において,本件発明3と相違する。したがって,回転中心突起53の形状を円柱状に限定した審決の甲1発明の認定の当否にかかわらず,相違点を肯定した審決の判断に誤りはない。
(4) 原告の主張に対する判断 ア 原告は,本件発明の請求項3を引用する請求項4の記載を根拠に,本件発明3の「ロック突き部の突部後縁の最後方位置」は,嵌合終了姿勢になった際にロック突部における最後方位置となる特定の部位であると主張する。
しかしながら,請求項4には,「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるとき,ロック突部の突部後縁は,該突部後縁の最後方位置が最前方位置よりも下方にあることとする請求項3に記載の電気コネクタ組立体。」と記載されているから,請求項4でいう該突部後縁の「最後方位置」は,ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときの位置である。ロック突部の突部後縁の「最後方位置」という記載について,ロック突部の突部後縁の他のいずれの位置よりも後方にある位置を示すと解することができるのであるから,それを示すために,請求項の記載を「該突部後縁の最後方位置になる部位」と改めるべき必要はない。
よって,当該記載から,本件発明3でいう「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が,嵌合終了姿勢になった際に,ロック突部の中で最後方位置となる特定の部位を指すものということはできず,原告の上記主張は失当である。
イ また,原告は,本件発明3の解釈において,図3の実施例を持ち出して,ケーブルコネクタの回転のみによって位置変化を起こす構成に限定したことが誤りであるとも主張する。
しかしながら,本件明細書において,図3に関するロック突部とロック溝部における嵌合前後での寸法関係(【0030】)については,図7と同様となることは,【0051】に明確に記載されているところであって,本件発明3は,ケーブルコネクタの回転のみによって,すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成に限定されていると解される。原告の主張は,明細書の記載に基づかないものであって,採用できない。
2 取消事由2について 原告は,本件発明3と甲1発明との相違点の判断は,甲1発明のロック突部の形状として,甲5〜8に示されたような多角形状を採用することが容易か否かに帰着し,そのような多角形状のロック突部は,甲5〜8に示されるようにコネクタの技術分野において周知の形態であり,当業者であればコネクタの設置場所や作業性な どを勘案して,ロック突部として周知の形態である多角形状を甲1発明の回転突起の形状として採用し,相違点に係る本件発明3の構成とすることは適宜なし得る事項であると主張する。
しかしながら,甲1発明は,上記1で検討したように,相手コネクタ53の回転中心突起53を溝部49の肩部56において,前側から後側(ケーブル44側)へ移動させることにより,回転中心突起53が肩部56の上面に当接することで,相手コネクタ33がコネクタ31から上方へ外れることを防止するものである。そして,甲5〜8は,ロック突部のコネクタ嵌合過程と終了時点におけるそれぞれの最後方位置の関係やロック溝部の突出部との関係を示唆するものでもない。したがって,甲1発明における回転中心突起53の断面形状を多角形状のものとしたとしても,回転中心突起を溝部内で前後に移動させることを想定していない本件発明3に想到することはできない。
よって,原告の主張は失当である。
3 取消事由3について 原告は,審決が,進歩性判断と明確性要件の判断で, 「最後方位置」について矛盾する判断をしていると主張するところ,この主張は,原告による審判請求時の主張(甲12)を併せ読むと,実質的には, 「最後方位置」について,ロック突部の特定の部位における位置を指すのか,嵌合過程各時点においてロック突部の最も後ろになる位置を指すのか不明確であるという趣旨と解される。
しかしながら,本件発明3の技術的意義は上記1で述べたとおりであって,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が,ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるときに,コネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置することで,コネクタ嵌合過程ではロック溝部に設けられた突出部に阻止されることなく「ロック突部の突部後縁」が挿入できるようにしたものであるから,明細書の記載を併せ読めば,同文言が嵌合過程各時点においてロック突部の最も後ろになる位置を指すことは明確である。
請求項3において,「上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」という記載の前に「ロック突部」が言及されているのは,「ケーブルコネクタは,突部前縁と突部後縁が形成されたロック突部を側壁面に有し,レセプタクルコネクタは,前後方向で該ロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し」という箇所だけであるから,「上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」と記載されている「上記」は「ロック突部」又は「ロック突部の突部後縁」が既に言及済みであることを表しているだけであって,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が既に言及されていることを当然に意味しない。上記解釈は請求項3の記載にも反するものではない。
確かに,審決は,明確性要件の判断において,上記第2の4(3)イのとおり,「最後方位置」を嵌合終了時に突部後縁における最後方位置だけを問題にするかのように説示しており, 「最後方位置」の解釈に関して必ずしも適切でない部分があるというべきであるが,そうであるとしても,本件発明3について,特許請求の範囲に記載された発明の内容が不明確でないという結論に誤りはなく,原告の主張は失当である。
結論
以上のとおり,原告の請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 新谷貴昭