関連審決 | 無効2001-35296 |
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関連ワード | 発明者 / 技術的思想 / 創作性(創作) / 物の発明 / 技術的範囲 / 技術常識 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 参酌 / 数値限定 / 技術的意義 / 発明の要旨認定 / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正要件 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
206号
審決取消請求事件
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原告 株式会社クラレ 訴訟代理人弁理士 辻邦夫 同 辻良子 被告 ユニチカフアイバー株式会社 訴訟代理人弁理士 奥村茂樹 同 佐原哲也 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/06/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2001-35296号事件について平成15年4月9日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「紫外線遮蔽性を有する繊維構造体および該構造体を用いた繊維製品」とする特許第2888504号発明(平成3年11月1日特許出願〔特願平3-315528号〈以下「本件特許出願」という。〉,平成2年11月5日にした特願平2-300324号及び平成3年9月30日にした特願平3-280641号に基づく優先権主張〕,平成11年2月19日設定登録,以下,「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。 被告は,平成13年7月4日,本件特許を無効にすることについて審判の請求をし,無効2001-35296号事件として特許庁に係属したところ,原告は,平成14年8月7日付け第2次訂正請求書により,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」という。)をする旨の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。 特許庁は,同事件について審理した結果,平成15年4月9日,本件訂正請求は認められないとした上,「特許第2888504号の請求項1〜5に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。 2 本件訂正請求前の明細書(平成12年10月17日付け第1次訂正請求書〔甲2-2〕添付のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載 【請求項1】紫外線を反射または吸収する性能を有する成分を,繊維構造体を構成する繊維中に存在させた状態で,1重量%以上含み,波長290〜320mμの紫外線の透過率が5%以下,波長290〜400mμの紫外線の透過率が10%以下,波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上,通気度が5ml/cm↑2・sec(注,「ml/cm↑2・sec」は「ml/cm2・sec」と同義であり,以下「ml/cm2・sec」と表記する。)以上であることを特徴とする繊維構造体;ただし,“アルテーヌ”(登録商標)(東レ株式会社提供の布帛),“「XY-E」ポプリン”(登録商標)(株式会社クラレ提供の布帛)および“モディフィル”(登録商標)品番I5406-@(S-9159)(東レ株式会社提供の布帛)を除く。 【請求項2】請求項1に記載の繊維構造体を用いた衣服。 【請求項3】請求項1に記載の繊維構造体を用いた帽子。 【請求項4】請求項1に記載の繊維構造体を用いたヴェール。 【請求項5】請求項1に記載の繊維構造体を用いた日傘。 3 本件訂正の内容 本件訂正は,以下の訂正事項a〜fを含む。 ア 訂正事項a 請求項1の記載における「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上」を「波長400〜1200mμの光線の平均反射率が60%以上」と訂正すること イ 訂正事項b 段落【0006】の記載における「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上」を「波長400〜1200mμの光線の平均反射率が60%以上」と訂正し,同「400〜1200nm(400〜1200mμ)の可視光線の平均反射率」を「400〜1200nm(400〜1200mμ)の光線の平均反射率」と訂正すること ウ 訂正事項c 段落【0007】の記載における「可視光線」を「波長400〜1200mμの光線」と訂正すること エ 訂正事項d 段落【0008】の記載における「可視光線」を「波長400〜1200mμの光線」と訂正すること オ 訂正事項e 段落【0012】の記載における「透過率または反射率」を「すなわち紫外線の透過率または波長400〜1200mμの光線の反射率」と訂正すること カ 訂正事項f 段落【0016】の記載における「可視光線」を「波長400〜1200mμの光線」と訂正すること 4 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,@本件訂正は,本件明細書の記載から一義的に導き出すことができるものではないから,本件明細書に記載された事項の範囲内のものとはいえず,また,実質的に特許請求の範囲を変更するものに該当するから,平成6年法律第116号による改正前の特許法134条(以下「旧134条」という。)2項ただし書及び同条5項において準用する126条2項(以下「旧126条2項」という。)の規定に適合しないから認められないとした上,A特許請求の範囲の請求項1の記載における数値の下限値又は上限値設定に関して,これらが導かれた根拠が本件明細書の記載から明らかとはいえず,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえない,B特許請求の範囲の請求項1の記載における「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」は,その記載内容が明りょうであるとはいえず,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないから,本件特許は,上記改正前の特許法36条(以下「旧36条」という。)5項2号に規定された要件を備えない特許出願に対してされたものであり,特許法123条1項4号の規定によって,無効にすべきものであるとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,本件訂正について旧134条2項ただし書及び同条5項において準用する旧126条2項で規定する訂正要件の充足性の認定判断を誤り(取消事由1),本件明細書の特許請求の範囲の記載について旧36条5項2号所定の記載要件の充足性の判断を誤った(取消事由2,3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(訂正要件の充足性の認定判断の誤り) (1) 審決は,訂正事項a〜fが本件明細書に記載された事項の範囲内のものではなく,また,実質的に特許請求の範囲を変更するものに該当すると認定判断したが,誤りである。 (2) 本件明細書(甲2-2添付)の特許請求の範囲【請求項1】の「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」との記載における「波長400〜1200mμ」と可視光線の波長範囲である波長400〜800mμとが一致しないこと,及び上記「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」との記載は,その平均反射率の測定波長範囲について,「(1)『波長400〜1200mμ』を生かして,・・・『可視光線』は『光線』であると解釈(注,以下「(1)の解釈」という。)する,または,(2)『可視光線』を生かして,・・・可視光線の波長範囲(400〜800mμ)と解釈(注,以下「(2)の解釈」という。)する,の2つの解釈が成り立つ」(審決謄本3頁第4段落)ことは,審決の説示するとおりである。しかしながら,本件明細書には,【発明が解決しようとする課題】として,「従来技術においては,・・・効率よく紫外線を吸収しかつ可視光よりも長波長の光線を反射するような紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体は得られていないのが現状である。また,蛍光増白剤を使用した衣料は紫外線遮蔽効果を有するが可視光線に対する反射効率が悪いため・・・快適性に欠ける」(段落【0004】)と記載されるとともに,【課題を解決するための手段】として,「本発明者らは,上記のような現状に鑑み鋭意検討した結果,・・・紫外線の被爆をできるだけ少なくすることが必須であり,また,可視光線以上の長波長の太陽光を反射し,透過・吸収を少なくして皮膚またはその周辺の温度の上昇を少なくし,・・・通気性の確保が必須であることを見出だして本発明に至った」(段落【0005】)と記載されており,上記記載から,本件発明が,従来得られていなかった紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体を提供することを課題としてされたもので,この課題を達成するために,「可視光線以上の長波長の太陽光を反射する」という構成を備えることが不可欠であることは,容易に理解できる。太陽光における可視光線及び赤外線(近赤外線)が加熱作用を有する熱線(吸収されて大部分が熱になる光線)であることは周知であり,【請求項1】の「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率60%以上」という記載が,上記「透過・吸収を少なくして皮膚またはその周辺の温度の上昇を少なく」するための,「可視光線以上の長波長の太陽光を反射する」という不可欠な構成における反射の程度を,波長領域400〜1200mμの光線の平均反射率を測定して数量的に規定する記載であることは,当業者が容易に理解できる。したがって,本件明細書には,可視光線以上の長波長の太陽光を反射することを必須とすることが記載され,この記載を参酌すれば,本件明細書の特許請求の範囲及びこれに対応する発明の詳細な説明における「波長400〜1200mμの可視光線」との記載については,(1)の解釈が正しく,(2)の解釈が成立する余地はないことは明白であるから,訂正事項a〜fは,いずれも,本件明細書の記載に基づいて,反射されるべき光線及び測定されるべき光線が,波長400〜800mμの可視光線のみではなく,可視光線及びそれより長波長の赤外線を含む波長400〜1200mμの光線であることを明確にしようとするものであり,本件明細書に記載された事項の範囲内のものである。 そうすると,上記【請求項1】の「波長400〜1200mμの可視光線」は,(1)の解釈である「波長400〜1200mμの光線」を意味するから,訂正事項a〜fのいずれの訂正も,本件明細書の特許請求の範囲における「波長400〜1200mμの可視光線」,すなわち,「波長400〜1200mμの光線」の技術的意義に変更を与えるものではなく,かつ,それ以外の構成の技術的事項を変更するものでないことが明らかである。 2 取消事由2(旧36条5項2号所定の記載要件の充足性の判断の誤り1) (1) 仮に,本件訂正が認められないものであるとしても,審決の「本件の特許請求の範囲の記載における『波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率』は,その記載の内容が明瞭であるとはいえないから,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえない」(審決謄本19頁第3段落)との判断は,誤りである。 (2) 特許請求の範囲の記載は,これに基づいて発明の要旨認定が行われ,技術的範囲が定められることからすれば,明りょうに記載することが求められるのは当然であるが,旧36条第5項第2号の規定を,特許請求の範囲におけるいかなる軽微な不備をも許容しないものと解することは妥当でなく,特許請求の範囲が果たす上記機能にかんがみ,発明の要旨認定及び技術的範囲を定めるに当たって,特許請求の範囲に記載された技術的事項の確定に支障がない程度の軽微な不備であれば,許容されるというべきである。これを本件明細書(甲2-2添付)の記載についてみると,特許請求の範囲【請求項1】の「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」との記載は,「可視光線とは眼に見える光線をいい,その波長範囲は,一般的には,400〜800mμであることは技術常識である」(審決謄本10頁第3段落)から,可視光線の平均反射率を表す場合,あえて波長範囲を表示する必要性はなく,可視光線の波長範囲(400〜800mμ)を超えた「400〜1200mμ」の波長範囲を包含している「400〜1200mμの可視光線の平均反射率」との記載に接した当業者は,これを「波長400〜1200mμの光線の平均反射率」を意味すると理解する。 また,上記記載に,(1)の解釈及び(2)の解釈が可能であるとしても,発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,(1)の解釈が正しく,(2)の解釈が成立する余地はないことは,上記1(2)のとおりであり,当業者は,これを「波長400〜1200mμの光線の平均反射率」を意味すると理解する。 したがって,本件明細書の記載は,特許請求の範囲【請求項1】の「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」との記載における「波長400〜1200mμ」と可視光線の波長範囲である波長400〜800mμとが一致しない不備があるとはいえ,この不備は,発明の要旨認定及び技術的範囲を定めるに当たって,特許請求の範囲に記載された技術的事項の確定に支障がない軽微なものであるから,旧36条5項2号所定の記載要件を充足するというべきである。 3 取消事由3(旧36条5項2号所定の記載要件の充足性の判断の誤り2) (1) 審決は,「特許請求の範囲の(イ)波長290〜320mμの紫外線の透過率が5%以下(注,以下「要件(イ)」という。),(ロ)波長290〜400mμの紫外線の透過率が10%以下(注,以下「要件(ロ)」という。),(ハ)波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上(注,以下「要件(ハ)」という。),(ニ)通気度が5ml/cm2・sec以上(注,以下「要件(ニ)」という。),とする数値の下限値(60%以上,5ml/cm2・sec以上)または上限値(5%以下,10%以下)が導かれた根拠は,特許明細書の記載からは明らかとはいえない」(審決謄本18頁第2段落)ことを理由に,「本件特許明細書(注,本件明細書)の特許請求の範囲には,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえない」(同頁下から第2段落)と判断したが,誤りである。 (2) 旧36条5項の規定によれば,特段の事情のない限り,出願人が記載した特許請求の範囲の構成要件について,目的や作用効果などの発明の構成にかかわりのない要件であるとか,技術的に意味のないことが一見して明らかな要件など,当該要件の有無ないし取捨が,特許請求の範囲記載の発明に実質的な変更をもたらさない場合を除き,発明の必須構成要件ではないと認定判断することは許されないと解すべきである。本件明細書(甲2-2添付)の特許請求の範囲記載の要件(イ)〜(ニ)は,目的や作用効果に係る要件ではなく,発明の構成に係る要件であり,技術的に意味のないことが一見して明らかな要件ではないから,その有無ないし取捨は,特許請求の範囲記載の発明に実質的な変更をもたらすものであり,発明の必須構成要件ではないと認定判断することは許されないというべきである。 (3) 本件発明の特徴は,要件(イ)〜(ニ)の組合せを満足する点にあるが,これらの上限値及び下限値が,一定の作用効果を発現するか否かの分岐点となるような境界の数値(以下「限界値」という。)ないし当該値がその値を境として作用効果上の顕著な相違を生ずる臨界的な意義を有した数値(以下「臨界値」という。)であることを見いだしたところにあるのではなく,要件(イ)〜(ニ)の組合せを満足する設計とした繊維構造体が,実現可能であり,従来得られていなかった紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体を新たに産み出した点にある。本件発明における要件(イ)〜(ニ)の数値条件が,それぞれの要件における作用効果を発揮する上で望ましい十分に意義のある数値であることは,当業者が容易に理解できることである。すなわち,要件(イ)について,人体に対する強い生理作用(障害作用)を有することが知られている波長290〜320mμの紫外線(紫外線B)の透過を5%以下に抑えれば,当該紫外線による弊害を十分効果的に防止できること,要件(ロ)について,地上に達する紫外線全体(紫外線Aと紫外線B)を遮蔽して,皮膚の炎症,黒化,がんの発生等の弊害を効果的に防止する上で望ましい十分に意義のある要件であること,要件(ハ)について,太陽光の熱線(可視光線及び近赤外線)による加熱作用を効果的に排除するために望ましい十分に意義のある要件であること,また,要件(ニ)について,通気が良好に行われて蒸したりせず着用感に優れたものとする上で望ましい十分に意義のある要件であることは,本件明細書(甲2-2添付)の記載及び本件特許出願当時における技術常識に基づいて,当業者が容易に理解できることである。 本件特許出願前には,紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体を得る上で,どのような技術的要因を考慮し,それぞれの要因についてどの程度の条件を同時に満たすことが必要かつ可能であるのかは知られておらず,検討されていなかったものであり,本件発明では,紫外線遮蔽,熱線の反射,通気性の三つの要因の組合せについて検討し,要件(イ)〜(ニ)の望ましい数値条件の組合せを同時に満たすことができ,従来得られていなかった紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体を得ることが可能であることを見いだしたものである。すなわち,本件明細書の段落【0003】記載の先行技術のように,従来は,カバーファクターを著しく大きくし(通気性が悪くなる),紫外線の遮蔽効果を高めるという技術が知られていたのであり,着用感に影響する通気性への配慮はもとより,太陽光の熱線に対する配慮は払われていなかったものである。請求人(被告)が引用する特開昭55-158330号公報(審判甲1・本訴甲5,以下「甲5公報」という。),特開昭55-12848号公報(審判甲2・本訴甲6,以下「甲6公報」という。)及び特公昭63-17926号公報(審判甲3・本訴甲7,以下「甲7公報」という。)は,このような点について何ら教示するものではなく,これらに記載された技術は,いずれも,専ら,「中がすけて見えないような合成繊維の要望が強くなってきた」(甲5の2頁左上欄第2段落)という技術的要請にこたえることを目的とした技術であり,この目的を達成する手段の一つとして,合成繊維を構成するポリマーに光遮蔽剤として酸化チタンを1%以上配合するという技術を開示しているが,紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体を提供するという課題の設定すらなく,まして,この課題を達成する上で,本件明細書の段落【0005】記載の要請を満足することの重要性を開示ないし示唆するような記載は全くなく,紫外性遮蔽率,熱線(可視光線及び赤外線)の反射率及び通気度をどのような値のものとするかについては全く触れるところがない。これに対し,本件発明は,本件明細書の記載にあるとおり,従来得られていなかった紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体を得るための繊維構造体の設計上の要件として,「太陽からの紫外線の被爆をできるだけ少なくすることが必須であり,また,可視光線以上の長波長の太陽光を反射し,透過・吸収を少なくして皮膚またはその周辺の温度の上昇を少なくし,さらに温湿度をできるだけ快適な領域に保つための通気性の確保が必須である」(段落【0005】)という技術的知見に基づいた発明であり,要件(イ)〜(ニ)の組合せを満足する設計とした繊維構造体が実現可能であり,これによって,従来得られていなかった紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体とすることが可能であることを見いだし開示したもので,この点を特徴とするものである。 このように,従来得られていなかった紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体を得ようという本件発明の目的を達成する上で,要件(イ)〜(ニ)における数値条件について,その限界値ないし臨界値を究明し,その数値によって特許請求の範囲を規定することが必要とされているものではないから,要件(イ)〜(ニ)における数値条件をわずかに外れたものが,本件発明の繊維構造体と類似の性能を有した繊維構造体となる可能性があるとしても,要件(イ)〜(ニ)は,必要かつ十分な意義を有する必須構成要件であるというべきである。 |
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被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(訂正要件の充足性の認定判断の誤り)について (1) 原告は,本件明細書(甲2-2添付)の段落【0004】及び段落【0005】の記載を根拠に,本件明細書の「波長400〜1200mμの可視光線」は,「波長400〜1200mμの光線」を意味すると主張するが,段落【0004】は,従来技術の欠点に関する記載であり,本件発明を説明した箇所ではないから,この記載を根拠にすることはできない。また,仮に根拠にし得るとしても,段落【0004】には,「効率よく紫外線を吸収しかつ可視光よりも長波長の光線を反射するような紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体は得られていないのが現状である。また,蛍光増白剤を使用した衣料は紫外線遮蔽効果を有するが可視光線に対する反射効率が悪い」とあるとおり,従来の繊維構造体は,可視光よりも長波長の光線を十分に反射しなかった,換言すれば,波長が400〜800mμである可視光よりも長い波長の光線,すなわち,波長が800mμを超える光線を十分に反射しなかったこと,従来の繊維構造体は,可視光線(波長400〜800mμ)の反射効率が悪いことが記載されているが,波長400〜1200mμの光線に関しては何らの説明もない。一方,段落【0005】は,本件発明の内容を説明する箇所であり,その「可視光線以上の長波長の太陽光を反射し」との記載を根拠にすれば,確かに,波長400〜800mμの波長を含み,それより長波長のものが含まれていると解釈することはできる。しかしながら,本件特許出願の願書に最初に添付した明細書(甲2-1,以下「当初明細書」という。)の段落【0005】には,「可視光線より長い波長の太陽光を反射し」と記載され,すなわち,波長が800mμを超える光線を反射すると記載されていたのであり,本件明細書とは,その意味内容が異なるから,このように意味内容の変遷がある段落【0005】の記載を根拠とすることはできず,他に,本件明細書において,「波長400〜1200mμの可視光線」が「波長400〜1200mμの光線」を意味すると解さなければならない根拠は全くない。 2 取消事由2(旧36条5項2号所定の記載要件の充足性の判断の誤り1)について 本件発明は,数値限定要件にのみ特徴を有する発明であるから,要件として記載された数値は厳格なものでなければならず,多義的に解釈されること自体,数値限定要件の臨界的意義ないし技術的意義を喪失しているものというべきである。 したがって,本件明細書(甲2-2添付)の特許請求の範囲【請求項1】の「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」との記載における「波長400〜1200mμ」と可視光線の波長範囲である波長400〜800mμとが一致しない不備は,軽微なものということはできない。 3 取消事由3(旧36条5項2号所定の記載要件の充足性の判断の誤り2)について (1) 特許請求の範囲には,発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載する(旧36条5項)のであり,その記載要件の充足性は,発明の詳細な説明の記載に基づいて認定判断すべきものであるところ,審決は,発明の詳細な説明に,要件(イ)〜(ニ)の各数値が導かれた根拠が記載されていないと認定判断したものであり,誤りはない。 (2) 原告は,要件(イ)〜(ニ)に臨界的意義はないと主張しているが,この主張は,各数値限定要件に臨界的意義がないから,各数値限定要件は発明の構成に欠くことができない事項ではないとした審決の認定判断を自認したものというべきである。 原告は,要件(イ)及び要件(ロ)は,紫外線の透過が少なければ紫外線による被爆が少なくなるという意義を有し,要件(ハ)は,可視光線などを反射すれば温度の上昇を防止できるという意義を有し,要件(ニ)は,通気性をよくすれば風通しがよいという意義を有していると主張するが,このようなことは,軽いものは持ち運びしやすい,小さいものは保管スペースが狭くてよいというたぐいのものであり,これらの要件を組み合わせた意義も,軽くて小さいものは持ち運びやすい上に保管スぺースが狭くてよいというたぐいのものであって,到底,技術的思想の創作である発明を構成するものではない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正要件の充足性の認定判断の誤り)について (1) 本件明細書(甲2-2添付)の特許請求の範囲【請求項1】の「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」との記載における「波長400〜1200mμ」と可視光線の波長範囲である波長400〜800mμとが一致しないこと,及び上記「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」との記載は,その平均反射率の測定波長範囲について,(1)の解釈,すなわち,「『波長400〜1200mμ』を生かして,・・・『可視光線』は『光線』である」(審決謄本3頁第4段落)との解釈,及び(2)の解釈,すなわち,「『可視光線』を生かして,・・・可視光線の波長範囲(400〜800mμ)」(同)との解釈の二つの解釈が成り立つことは,原告の自認するところであるが,原告は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,本件明細書の特許請求の範囲及びこれに対応する発明の詳細な説明における「波長400〜1200mμの可視光線」との記載については,(1)の解釈が正しく,(2)の解釈が成立する余地はないから,訂正事項a〜fが本件明細書に記載された事項の範囲内のものではなく,また,実質的に特許請求の範囲を変更するものに該当するとして,旧134条2項及び旧126条2項の適合性を否定した審決の認定判断は誤りであると主張する。 (2) そこで,まず,旧134条2項の適合性に関し,本件明細書(甲2-2添付)の記載について検討すると,本件明細書には,「【発明が解決しようとする課題】・・・従来技術においては,・・・効率よく紫外線を吸収しかつ可視光よりも長波長の光線を反射するような紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体は得られていないのが現状である。また,蛍光増白剤を使用した衣料は紫外線遮蔽効果を有するが可視光線に対する反射効率が悪いため・・・快適性に欠ける」(段落【0004】),「【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記のような現状に鑑み鋭意検討した結果,・・・可視光線以上の長波長の太陽光を反射し,透過・吸収を少なくして皮膚またはその周辺の温度の上昇を少なくし,・・・通気性の確保が必須であることを見出だして本発明に至った」(段落【0005】),「本発明は,・・・波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上,・・・であることを特徴とする繊維構造体・・・並びに該繊維構造体を用いた繊維製品である。・・・本発明の『繊維構造体』は,・・・波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上であるようなものでなければならない」(段落【0006】),「このような紫外線および可視光線に対する遮蔽性を実現するためには,構造体に紫外線を反射または吸収する性能を有する成分(A)が1重量%以上含まれていることが重要である」(段落【0007】),「有機系化合物を練り込んで用いる場合は繊維の着色および繊維の物性低下を招き易いので無機化合物が好ましく使用され,紫外線および可視光線に対する遮蔽性能のバランスがとれた二酸化チタンを主体として用いることが好ましい」,「二酸化チタンを主体とし少量の酸化アルミニウムを組み合わせて使用すると可視光線の反射性能を強調することができ,この様に目的に応じて化合物を選択することができる」(段落【0008】),「本発明で規定している平均透過率または平均反射率とは,分光光度計を用いて所定の波長範囲にわたって各波長での光の透過または反射する割合(透過率または反射率)を計測し,その波長範囲での透過率または反射率の平均値を算出して求めたものである」(段落【0012】), 「【表1】 第1表 1212345A C A-H B B-D B-F D1.6 1.5 0.9 2.1 1.8 1.7 1.94.2 3.8 2.7 14.0 2.1 3.1 13.881.3 82.4 83.1 65.2 5.8 65.8 72.0-5.4 -5.8 -6.5 0 +2.9 -0.5 -2.131.2 33.1 4.3 30.5 25.5 26.2 44.7日焼け 弱い 弱い 弱い 強い 弱い 弱い やや強い着用感 良い 良い 暑い 暑い かなり暑い 暑い 良い実施例 比較例遮熱性(℃)通気度(ml/cm2・s)着用テスト評価した織物 No.透過率-1(%)透過率-2(%)反射率(%) 」(段落【0015】),「紫外線吸収剤処理で紫外線を吸収して遮蔽しても,可視光線の透過が大きい時は暑くて着用感が悪かった(比較例4)」(段落【0016】)との記載がある。 (3) 本件明細書(甲2-2添付)の上記記載によれば,本件発明が,特定の波長の光線についてその平均反射率を規定しているのは,皮膚又はその周辺の温度の上昇を少なくして快適さを満足する繊維構造体とするためであると認められる。そして,本件明細書には,発明が解決する課題として,従来技術では可視光線に対する反射効率が悪いため蒸し暑くなり衣料としての快適性に欠けること(段落【0004】),課題を解決する手段として,可視光線以上の長波長の太陽光を反射すること(段落【0005】),発明を具体的に説明した部分において,「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上」であること(段落【0006】),「紫外線および可視光線に対する遮蔽性能のバランス」,「可視光線の反射性能」(段落【0008】),「可視光線の透過が大きい時は暑くて着用感が悪かった(比較例4)」(段落【0016】)という記載があるから,本件明細書には,快適性のために注目すべき太陽光の波長範囲について,可視光(400〜800mμ)としている箇所と,可視光及び近赤外光(400〜1200mμ)としている箇所の両者が存在していることが認められる。そうすると,原告の主張するように,可視光線及び赤外線(近赤外線)が加熱作用を有する熱線であるとしても,快適性を目的として繊維の性質を規定するための要件は,出願人が自由に選択できるものであり,可視光(400〜800mμ)の反射率により規定しても,可視光及び近赤外光(400〜1200mμ)の反射率により規定しても,いずれも,それに対応する意味を有し,前者の規定では意味のないものになるということはできない。したがって,本件明細書の特許請求の範囲及びこれに対応する発明の詳細な説明における「波長400〜1200mμの可視光線」との記載については,(1)の解釈及び(2)の解釈とも可能であり,原告主張のように,(1)の解釈のみが正しく,(2)の解釈が成立する余地はないということはできないから,本件訂正は,本件明細書の記載から自明な事項ではなく,本件明細書に記載された事項の範囲内においてしたものとはいえないとした審決の認定判断に誤りはない。 (4) 以上によれば,原告の取消事由1の主張は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 2 取消事由2(旧36条5項2号所定の記載要件の充足性の判断の誤り1)について 原告は,本件明細書(甲2-2添付)の特許請求の範囲【請求項1】の「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」との記載は,(1)の解釈及び(2)の解釈が可能であるとしても,発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,(1)の解釈が正しく,(2)の解釈が成立する余地はなく,当業者は,これを「波長400〜1200mμの光線の平均反射率」を意味すると理解するから,この不備は,発明の要旨認定及び技術的範囲を定めるに当たって,特許請求の範囲に記載された技術的事項の確定に支障がない軽微なものであるから,旧36条5項2号所定の記載要件を充足するというべきであると主張する。 しかしながら,「波長400〜1200mμの可視光線」との記載については,(1)の解釈及び(2)の解釈とも可能であり,原告主張のように,(1)の解釈のみが正しく,(2)の解釈が成立する余地はないということができないことは,上記1(3)のとおりである。 したがって,原告の取消事由2の主張は,理由がない。 3 取消事由3(旧36条5項2号所定の記載要件の充足性の判断の誤り2)について (1) 原告は,本件明細書(甲2-2添付)の特許請求の範囲記載の要件(イ)〜(ニ)は,これらの上限値及び下限値が,一定の作用効果を発現するか否かの分岐点となるような限界値ないし当該値がその値を境として作用効果上の顕著な相違を生ぜしめる臨界値であることを見いだしたところにあるのではなく,要件(イ)〜(ニ)の組合せを満足する設計とした繊維構造体が,実現可能であり,従来得られていなかった紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体を新たに産み出した点にあるのであって,発明の構成に係る要件であり,技術的に意味のないことが一見して明らかな要件ではないから,これを発明の必須構成要件ではないと認定判断することは許されないと主張する。 (2) 本件明細書(甲2-2添付)の特許請求の範囲【請求項1】の記載は,上記第2の2のとおり,「紫外線を反射または吸収する性能を有する成分を,繊維構造体を構成する繊維中に存在させた状態で,1重量%以上含み,波長290〜320mμの紫外線の透過率が5%以下(注,要件(イ)),波長290〜400mμの紫外線の透過率が10%以下(注,要件(ロ)),波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上(注,要件(ハ)),通気度が5ml/cm2・sec以上(注,要件(ニ))であることを特徴とする繊維構造体;ただし,“アルテーヌ”(登録商標)(東レ株式会社提供の布帛),“「XY-E」ポプリン”(登録商標)(株式会社クラレ提供の布帛)および“モディフィル”(登録商標)品番I5406-@(S-9159)(東レ株式会社提供の布帛)を除く。」というものであるところ,これが,本件発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているといえるかについて検討する。 まず,本件明細書(甲2-2添付)の記載をみると,本件明細書には,上記1(2)の記載のほか,「【従来の技術】太陽光に曝されると人体は皮膚の日焼けを起こし,進行するとあざとなること,強い曝露を長時間受けていると皮膚がんになりやすいことが知られている。これらの多くは太陽光線に含まれている紫外線によって引き起こされていることが知られている。紫外線は,通常,イ)紫外線A(320〜400mμ),ロ)紫外線B(290〜320mμ),ハ)紫外線C(200〜290mμ)に3区分される。しかし,紫外線Cは太陽から地球に到達する間に大気に吸収されるので実際は紫外線AとB,特に,紫外線作用の強いBから皮膚を保護することが重要である」(段落【0002】),「本発明の繊維構造体は通気度が5ml/cm2・sec以上,好ましくは10ml/cm2・sec以上でなければならない」(段落【0010】)との記載があるが,実施例以外には,要件(イ)〜(ニ)のうちの数値要件,すなわち,要件(イ)の「5%以下」,要件(ロ)の「10%以下」,要件(ハ)の「60%以上」及び要件(ニ)の「5ml/cm2・sec以上」の意義について,具体的に記載したところはない。 原告は,要件(イ)について,人体に対する強い生理作用(障害作用)を有することが知られている波長290〜320mμの紫外線(紫外線B)の透過を5%以下に抑えれば,当該紫外線による弊害を十分効果的に防止できること,要件(ロ)について,地上に達する紫外線全体(紫外線Aと紫外線B)を遮蔽して,皮膚の炎症,黒化,がんの発生等の弊害を効果的に防止する上で望ましい十分に意義のある要件であること,要件(ハ)について,太陽光の熱線(可視光線及び近赤外線)による加熱作用を効果的に排除するために望ましい十分に意義のある要件であること,また,要件(ニ)について,通気が良好に行われて蒸したりせず着用感に優れたものとする上で望ましい十分に意義のある要件であることは,本件明細書(甲2-2添付)の記載及び本件特許出願当時における技術常識に基づいて,当業者が容易に理解できることであると主張するが,上記各数値要件について,その技術的意義が明らかに記載されているとは認められない。すなわち,要件(イ)の波長290〜320mμの紫外線透過率「5%以下」の意義について,具体的に明らかにした記載はなく,上記1(2)の「【表1】第1表」(段落【0015】)の実施例・比較例を対比してみても,実施例・比較例のいずれもが5%以下のものであり,「5%以下」の技術的意義は明らかではない。要件(ロ)の波長290〜400mμの紫外線の透過率「10%以下」についても,実施例が「4.2%」,「3.8%」であるのに対して,比較例は,10%以下である「2.7%」,「2.1%」,「3.1%」のものと,10%以上である「14.0%」,「13.8%」のものがあり,10%以上のものは着用テストで「日焼け」の項目が「強い」,「やや強い」とされ,これらの数値が,日焼けに関係していることは理解できるものの,紫外線が強いと日焼けするという程度の常識的な結果を示すにとどまるものであり,「10%以下」とすることの技術的意義は明らかではない。要件(ハ)の波長400〜1200mμの可視光線の反射率「60%以上」についても,実施例が「81.3%」,「82.4%」であるのに対して,比較例は,60%以上である「83.1%」,「65.2%」,「65.8%」,「72.0%」と,60%以下の「5.8%」のものがあり,5.8%のものは着用テストで「着用感」の項目が「かなり暑い」とされているが,「65.2%」や「65.8%」,「83.1%」のものでも「暑い」とされ,それ以外に反射率と関係する評価項目は見当たらないから,「60%以上」とすることの技術的意義は明らかではない。要件(ニ)の通気度「5ml/cm2・sec以上」についても,比較例のうち5ml/cm2・sec以下のものは1例にすぎず,他の4例は,最低でも25.5ml/cm2・secのものであり,実施例は,「31.2ml/cm2・sec」,「33.1ml/cm2・sec」であって,これらから,「5ml/cm2・sec以上」の技術的意義が明らかであるとは認められない。また,原告は,本件発明の特徴は,要件(イ)〜(ニ)の組合せを満足する設計とした繊維構造体が,実現可能であり,従来得られていなかった紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体を新たに産み出した点にあると主張するが,比較例4は,要件(イ)〜(ニ)のすべてを満足していても着用感テストがよくないのであるから,要件(イ)〜(ニ)を満足するだけでは,「従来得られていなかった紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体を新たに産み出した」とはいえず,また,2実施例のみから,要件(イ)〜(ニ)を満足するもの全体が実現可能であるというのに十分であるとも認められない。 (3) 本件発明は,繊維構造体に係るものであり,「紫外線を反射または吸収する性能を有する成分を1重量%以上含む」との要件以外は,その繊維構造体の示す性質(特性)による特定がされており,紫外線を反射又は吸収する性能を有する成分を1重量%以上含むとの構成のみから,他の性質による要件がすべて実現されるものとは認められないから,本件発明は,専ら,達成すべき結果,すなわち繊維構造体の特性を,数値範囲として規定した物の発明であるということができる。したがって,本件発明が解決しようとする課題と解決手段との関係,すなわち,本件発明の目的である,紫外線の遮断による紫外線の影響の減少,可視光等の反射による遮熱に基づく快適性及び通気による快適性と特定の光線の反射率,透過率及び通気度の具体的な数値要件との個々の関係が,明細書の記載によって明らかになっていなければ,特許請求の範囲記載の数値範囲の技術的意義が当業者に明らかになっているということができないというべきである。しかしながら,本件明細書(甲2-2添付)には,上記関係について明らかにする記載はなく,数値範囲の技術的意義が当業者に明らかになっているということができないことは上記のとおりであるから,当該数値が,発明の構成に欠くことができない事項であるということはできない。 (4) したがって,本件明細書(甲2-2添付)には,本件発明が解決しようとする課題と解決手段との関係が明らかになるように記載されておらず,発明の技術的意義が明らかに記載されているとはいえないから,本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】の上記数値範囲の記載は,当業者にとって,その技術的な意義が不明確であると認められるから,旧36条5項2号に規定する要件を満たさないというべきであり,これと同旨の審決の認定判断を誤りということはできず,原告の取消事由3の主張は理由がない。 4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 早田尚貴 |