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関連審決 無効2013-800146
無効2012-800073
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事件 平成 26年 (行ケ) 10204号 審決取消請求事件

原告 コスメディ製薬株式会社
訴訟代理人弁護士 伊原友己
同 加古尊温
訴訟代理人弁理士 小林良平
同 小川禎一郎
被告 株式会社バイオセレンタック
訴訟代理人弁護士 尾崎英男
同 江黒早耶香
訴訟代理人弁理士 鮫島睦
同 山田卓二
同 伊藤晃
同 植村昭三
同 加藤浩
同 西下正石
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/03/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2012−800073号事件について平成26年8月12日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
1事 実 及 び 理 由第1 請求主文同旨第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等被告は,発明の名称を「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」とする特許第4913030号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は,平成24年5月2日,本件特許のうち請求項1に係る部分を無効にするとの無効審判を請求した(無効2012−800073号)。
被告は,平成25年1月22日,訂正請求をした。
特許庁は,同年4月15日,上記訂正を認めた上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
原告は,同年5月8日,知的財産高等裁判所に上記審決の取消しを求めて訴えを提起した(平成25年(行ケ)第10134号)。
知的財産高等裁判所は,同年11月27日,上記審決を取り消す旨の判決(以下「第1次審決取消判決」という。)をした。同判決は,同月28日,被告の上訴権放棄により確定した。
その後,特許庁において,上記無効審判の審理が再開された。
被告は,平成26年2月28日,訂正請求をした(以下「本件訂正」という。。
)特許庁は,同年8月12日,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし,同月21日,その謄本を原告に送達した。
原告は,同年9月5日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。
2 特許請求の範囲の記載2本件訂正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。以下,本件訂正前の請求項1の発明を「本件発明」といい,本件訂正後の請求項1の発明を「本件訂正発明」という。また,本件訂正前の明細書を「本件明細書」といい,本件訂正後の明細書を「本件訂正明細書」という。。
)本件訂正前「【請求項1】水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,該基剤に保持された目的物質とを有し,皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,グリコーゲン,デキストラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質であり,尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤。」本件訂正後「【請求項1】水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,該基剤に保持された目的物質とを有し,皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,グリコーゲン,デキストラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し,デキストランのみからなる物質は除く)であり,3尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤,及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)。
3 審決の理由審決の理由は別紙審決書写し記載のとおりであり,その要点は,原告主張の取消事由との関係では,以下のとおりである。
ア 本件訂正について訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,・・・及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)とする訂正(以下「訂正事項3」という。)は,訂正前の請求項1に記載の「経皮吸収製剤」から「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」を除くものであるから,特許請求の範囲減縮に該当し,特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 無効理由について本件訂正発明は,国際公開第2005/058162号(甲7。以下「甲7公報」という。)に記載された発明(以下「甲7発明」という。)ではないから,特許法29条1項3号の規定に該当することを理由として本4件特許を無効とすることはできない。
また,本件訂正明細書発明の詳細な説明は,本件訂正発明を,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められるから,同法36条4項1号に規定する要件を満たしていないことを理由として本件特許を無効とすることはできない。
さらに,本件訂正発明は,本件訂正明細書発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから,同条6項1号に規定する要件を満たしていないことを理由として本件特許を無効とすることはできない。
審決が認定した甲7発明の内容,本件訂正発明と甲7発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 甲7発明の内容「ヒアルロン酸,キトサン,プルランなどの生分解性ポリマからなる所定方向に延びる皮膚に侵入する医療用針であって,所定方向に垂直な平面で切断されたとき,先端部からの距離に依存して変化する断面積を有する三角形形状の断面を有し,所定方向に沿って連続的に一体成形される,断面積が単調増加する第1拡大領域と,断面積が単調減少する縮小領域と,断面積が単調増加する第2拡大領域とを有し,第1および第2拡大領域において最大の断面積を与える最大断面が実質的に同じ形状および断面積を有することを特徴とし,医療用針は,内部において所定方向に延び,少なくとも1つの開口部を有する少なくとも1つの通路,及び,通路に連通し,薬剤を封止する少なくとも1つのチャンバを有する医療用針の後端部に連結された保持部を有し,開口部を介して薬剤を体内に徐放させることができるものであるか,あるいは,医療用針は,所定方向に垂直な方向に延び,薬剤を収容する複数の縦孔と,縦孔を封止する生分解性材料からなる封止部を有し,体内に穿刺して5留置しておくと封止部を構成する生分解性材料が徐々に分解され,縦孔に収容された薬剤を含む微小粒体または粒体を徐放させることができる医療用針。」イ 一致点「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,目的物質とを有し,皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,前記高分子物質は,ヒアルロン酸,キトサン,あるいは,プルランであり,尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)」である点。

ウ 相違点経皮吸収製剤が目的物質を有する態様が,甲7発明では,経皮吸収製剤(医療用針)に設けられた「少なくとも1つのチャンバ」に「封止」されるか,「縦孔に収容され」ることにより保持されているのに対し,本件訂正発明においては,そのような態様を除くクレームとなっている点。
第3 原告主張の取消事由審決には,本件訂正を認めた判断の誤り(取消事由1)があり,仮に本件訂正が認められるとしても,甲7発明の認定の誤り及び新規性判断の誤り(取消事由2),実施可能要件の判断の誤り(取消事由3),サポート要件の判断の誤り(取消事由4)があり,これらの誤りはいずれも審決の結論に影響を及ぼ6すものであるから,審決は違法であり取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)訂正事項3に係る目的要件の判断の誤り審決は,訂正事項3は,訂正前の請求項1に記載の「経皮吸収製剤」から「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」を除くものであるから,特許請求の範囲減縮に該当すると判断した。
しかし,本件発明は,「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,訂正事項3が特許請求の範囲減縮に該当するというためには,訂正前の特許請求の範囲から,一定の構成・態様の経皮吸収製剤を除外するものでなければならない。しかるに,訂正事項3は,経皮吸収製剤という医療用針の使用方法を限定したものにすぎず,一定の構成・態様の経皮吸収製剤を除外するものではない。したがって,訂正事項3は,特許請求の範囲減縮には該当しない。審決の上記判断は誤りである。
独立特許要件の判断の誤り仮に,訂正事項3が特許請求の範囲減縮に該当するとした場合,訂正前の特許請求の範囲から,いかなる構成・態様の経皮吸収製剤が除かれているのか分からない。したがって,訂正事項3を認めた審決の判断は,明確性要件違反という新たな無効理由を発生させるものであり,誤りである。
2 取消事由2(甲7発明の認定の誤り及び新規性判断の誤り)審決は,甲7公報のうち特定の実施例のみに着目して,「医療用針の後端部に連結された保持部」あるいは「薬剤を収容する複数の縦孔と,縦孔を封止する生分解性材料からなる封止部」を甲7発明の必須構成要素であると認定している(審決書28頁25行目〜34行目)。
しかし,実施形態4(図16〜18)の記載及び変形例8の記載も踏まえれ7ば,そのように限定された発明を認定すべきではないことは明らかである。
したがって,甲7発明に係る審決の認定は誤りであり,その結果,審決は,本件訂正発明の新規性判断を誤ったものである。
3 取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)審決は,基剤がヒアルロン酸のみからなる場合についても実施可能要件は満たされていると判断した。
しかし,被告が審判答弁書で説明したとおり,本件訂正発明も甲7発明も,一般的な課題解決原理が提示され,その原理が妥当するものを当業者の技術常識に基づいて適宜認識できるというタイプの発明ではなく,個別具体的な物質及び製造方法の開示があって初めて発明に包含されるものが理解できるというタイプの発明であるから,発明の詳細な説明に具体的な開示がないものについては,試行錯誤して作用効果を奏するものを探さなければならない。
そうすると,本件訂正明細書発明の詳細な説明には,基剤としてヒアルロン酸のみを使用する場合について具体的な記載がない以上,基剤がヒアルロン酸のみの場合については,本件訂正明細書には,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
4 取消事由4(サポート要件の判断の誤り)前記3のとおり,本件訂正発明は,発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に記載されていない実施態様を含むのであるから,サポート要件も欠いているというべきである。
第4 被告の主張1 取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)について原告は,訂正事項3は特許請求の範囲減縮に該当するとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,訂正事項3は,本件特許に係る別件の無効審判事件(無効2013−800146号)において新規性欠如の証拠として提出された国際公開896/08289号(乙5)に記載された発明と本件発明が同一でないことを明確にするとともに,経皮吸収製剤保持用具を用いて皮膚に挿入する実施態様を本件発明から除外し,本件訂正発明の経皮吸収製剤が保持用具を用いることなく皮膚に挿入できる物理的強度を有することを明確にするものである。
すなわち,訂正事項3は,乙5に記載の薬18や本件明細書の図12の経皮吸収製剤111のように,物理的強度が,経皮吸収製剤保持用具を用いることなく皮膚へ挿入するのに十分でない,物理的強度の弱い経皮吸収製剤を除くものである。
したがって,訂正事項3は,特許請求の範囲減縮に該当する。
原告は,訂正事項3は,経皮吸収製剤という医療用針の使用方法を限定したものにすぎないと主張する。
しかし,訂正事項3によって請求項1の記載に新たに付加された文言は,「(但し,・・・経皮吸収製剤を除く)」であるとおり,訂正事項3は,請求項1に記載の経皮吸収製剤の範囲から,上記の「・・・経皮吸収製剤」を除くものであって,特定の使用方法を除くなどとは記載していない。
前記 のとおり,訂正事項3は,物理的強度が,経皮吸収製剤保持用具を用いることなく皮膚へ挿入するのに十分でない,物理的強度の弱い経皮吸収製剤を除くものであって,「物」から「物」を除外して特許請求の範囲減縮するものであることは明らかである。
2 取消事由2(甲7発明の認定の誤り及び新規性判断の誤り)について原告は,実施形態4(図16〜18)の記載及び変形例8の記載も踏まえれば,審決の甲7発明の認定は誤りであり,その結果,審決は本件訂正発明の新規性の判断を誤ったものであると主張する。
しかし,原告は,実施形態4(図16〜18)の記載及び変形例8の記載も踏まえると,相違点がどのように解消するのかについて具体的な主張をしてい9ない。原告が指摘する実施形態4及び変形例8は薬剤を保持しておらず,本件訂正発明の「目的物質」に対応する物質が存在しない。
したがって,本件訂正発明が新規性を欠如するということはいえず,審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)について原告は,審判答弁書における被告の主張を引用して,本件訂正明細書発明の詳細な説明実施可能要件を満たさないものであると主張する。
しかし,審判答弁書における被告の主張は,本件訂正発明が甲7発明であるとする無効理由に対する反論として,甲7公報記載のランセットはヒアルロン酸では製造できないと主張したものである。原告が主張するような,「本件訂正発明も甲7発明も,一般的な課題解決原理が提示され,その原理が妥当するものを当業者の技術常識に基づいて適宜認識できるというタイプの発明ではなく,個別具体的な物質及び製造方法の開示があって初めて発明に包含されるものが理解できるというタイプの発明である」などということは,被告は主張していない。
そもそも,本件訂正明細書発明の詳細な説明にはヒアルロン酸の記載があり,ヒアルロン酸のみを基剤として用いて本件訂正発明の所定の作用効果を有する経皮吸収製剤を製造できる以上,実施可能要件は満たされている。
4 取消事由4(サポート要件の判断の誤り)について前記3のとおり,ヒアルロン酸のみを基剤成分とする本件訂正発明について実施可能要件が満たされている以上,サポート要件も満たされていることは明らかである。
第5 当裁判所の判断当裁判所は,取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)は理由があり,審決は違法であって,取消しを免れないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
101 取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)について原告は,本件発明は「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,訂正事項3が特許請求の範囲減縮に該当するというためには,訂正前の特許請求の範囲から,一定の構成・態様の経皮吸収製剤を除外するものでなければならないのに,訂正事項3は,経皮吸収製剤という医療用針の使用方法を限定したものにすぎず,一定の構成・態様の経皮吸収製剤を除外するものではないから,特許請求の範囲減縮には該当しないと主張する(前記第3の1)ので,以下,検討する。
特許法134条の2第1項ただし書は,特許無効審判における訂正は,特許請求の範囲減縮(1号),誤記又は誤訳の訂正(2号),明瞭でない記載釈明(3号),他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること(4号)を目的とする場合に限って許容される旨を定めているところ,訂正が特許請求の範囲減縮(1号)を目的とするものということができるためには,訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として,訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であるというべきである。
これを訂正事項3について見ると,訂正事項3は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを,「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,・・・及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)」に訂正するものである。
そうすると,本件発明は,「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,本件訂正発明も,「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり,そのためには,訂正事項3によって除かれる「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収11納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であること,言い換えれば,「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様が,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要というべきである。
しかし,「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様によっても,経皮吸収製剤保持用具の構造が変われば,それに応じて経皮吸収製剤の形状や構造も変わり得るものである。また,「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様によるか否かによって,経皮吸収製剤自体の組成や物性が決まるというものでもない。
したがって,上記の「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様は,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえない。
以上のとおり,訂正事項3によって除かれる「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」は,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であるとはいえない。
12そうすると,訂正事項3による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,技術的に明確であるとはいえないから,訂正事項3は,特許請求の範囲減縮を目的とするものとは認められない。
被告は,訂正事項3は,乙5に記載の薬18や本件明細書の図12の経皮吸収製剤111のように,物理的強度が,経皮吸収製剤保持用具を用いることなく皮膚へ挿入するのに十分でない,物理的強度の弱い経皮吸収製剤を除くものであるから,特許請求の範囲減縮するものであることは明らかであると主張する(前記第4の1)。
しかし,訂正事項3の「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される」は,経皮吸収製剤の物理的強度には何ら言及するものではなく,単に,経皮吸収製剤保持用具を用いて皮膚に挿入されることをいうだけである。そして,経皮吸収製剤保持用具は,物理的強度が低く,単独では皮膚に挿入できないような経皮吸収製剤のみならず,十分な強度を有し,単独でも皮膚に挿入できる経皮吸収製剤についても用いることができるものである。そうすると,訂正事項3の上記記載をもって,経皮吸収製剤の物理的強度を限定するものであると認めることはできない。このことは,本件明細書(甲1)に,保持用具を用いることを経皮吸収製剤の強度と関連づけた記載がなく,保持用具を用いることの効果について「きわめて簡便かつ確実に皮膚に挿入することができる。」(【0050】)との記載があることとも矛盾しない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
以上のとおり,訂正事項3が特許請求の範囲減縮に該当するとの審決の判断には誤りがある。そして,訂正事項3は,特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものであるから,同訂正事項を含む本件訂正は一体として許容されるべきものではない(最高裁判所昭和53年(行ツ)第27号,第28号同1355年5月1日第一小法廷判決・民集34巻3号431頁参照)。
そうすると,本件特許に係る無効理由の有無は,本件発明について判断すべきであるところ,本件発明は甲7公報に記載された発明であって特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものであることは,確定した第1次審決取消判決の判示するところである。
したがって,本件訂正を認めた審決の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものであるから,原告主張の取消事由1は理由がある。
2 結論以上によれば,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は違法であり取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官 石 井 忠 雄裁判官 西 理 香14裁判官 田 中 正 哉15
事実及び理由
全容
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