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関連審決 不服2012-26151
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事件 平成 26年 (行ケ) 10082号 審決取消請求事件

原告 ベーアーエスエフシュバイツ アーゲー
訴訟代理人弁理士津国肇 田中洋子 川田秀美
訴訟復代理人弁理士 膝舘祥治
被告特許庁長官
指定代理人日比野隆治 山田靖 新居田知生 板谷一弘 堀内仁子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/03/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
-1-事 実 及 び 理 由第1 原告の求めた裁判特許庁が不服2012−26151号事件について平成25年11月18日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,@補正却下の当否及びA進歩性判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯原告の前身であるチバ ホールディング インコーポレーテッドは,平成15年1月23日を国際出願日とする特許出願(特願2003−563509号。パリ条約による優先権主張:平成14年1月31日(本願優先日),欧州特許庁)の一部について,平成20年9月24日,発明の名称を「ミクロ顔料混合物」とする分割出願をした(特願2008−244190号,特開2009−84572号,甲3)が,平成24年8月28日,拒絶査定を受け(甲6),同年12月28日,審判請求をするとともに手続補正(本件補正,甲7の1,2)をした。
特許庁は,平成25年11月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同年12月3日に原告に送達された。
本願出願人であるチバ ホールディング インコーポレーテッドは,平成21年6月23日,ビーエーエスエフ スペシャルティ ケミカルズ ホールディングゲーエムベーハーに合併されたが,同社は,平成22年4月26日,名称を現在の「ベーアーエスエフ シュバイツ アーゲー」へ変更した(甲8,9の1,9の2,10)。
2 本願発明の要旨(1) 本件補正前の請求項1記載の発明(補正前発明)の要旨は,以下のとおり-2-である(甲5)。
「【請求項1】(a)式:【化1】〔式中,R1は,C1〜C12アルキル;又はフェニル置換C1〜C12アルキルである〕の微粉化UV広域吸収体1〜60重量%と,(b)疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン1〜60重量%とを含む,UV−吸収体混合物。」(2) 本件補正後の請求項1記載の発明(補正発明)の要旨は,以下のとおりである(甲7の2。下線部を付した部分が本件補正で追加,変更された部分である。 。
)「【請求項1】(a)式:【化1】〔式中,R1は,C1〜C12アルキル;又はフェニル置換C1〜C12アルキルで-3-ある〕の微粉化UV広域吸収体1〜60重量%と,(b)平均粒径が10nm〜150nmの粒状二酸化チタンを含み,TiO 2の量は,分散物が40重量%を超える固体含量を有するような量であり,オイルが,植物油,脂肪酸グリセリド,脂肪酸エステル又は脂肪族アルコールから選択される,オイル分散物1〜60重量%とを含む,UV−吸収体混合物。」3 審決の理由の要点(争点と関係が薄い部分はフォントを小さく表記する。)本件補正は,補正の要件を満たさず,補正前発明は,特開2001−151657号公報記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到できたから,特許法29条2項により特許を受けることができない。
(1) 補正却下本件補正は,請求項1の「(b)」において,補正前の「二酸化チタン」が,「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された」ものであったものを,当該記載を削除して,「金属セッケンで被覆され」ないものにまで拡張するとともに,「平均粒径が10nm〜150nmの粒状」であり,また,「分散物が40重量%を超える固体含量を有するような量であり,オイルが,植物油,脂肪酸グリセリド,脂肪酸エステル又は脂肪族アルコールから選択される,オイル分散物」であるという,金属セッケンによる被覆とは関係のない事項について限定するものであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(平成18年改正前特許法)17条の2第4項2号に規定された「特許請求の範囲減縮」に該当しない。
また,本件補正が,平成18年改正前特許法17条の2第4項1号に規定された請求項の削除,同3号に規定された誤記の訂正,同4号に規定された明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。
したがって,本件補正は,平成18年改正前特許法17条の2第4項に違反する-4-ので,同法159条1項の準用する同法53条1項により却下すべきものである。
(2) 補正前発明の進歩性ア 特開2001−151657号公報(甲1。刊行物1)記載の発明(引用発明)の認定「 オ キ シ エ チ レ ン 化 ポ リ ジ メ チ ル / メ チ ル セ チ ル メ チ ル シ ロ キ サ ン ( ABIL EM90D-GOLDSCHMIDT) 2グラム,フェニルトリメチルシロキシトリシロキサン(DOWCORNING 556COSMETIC grade fluid-DOW CORNING) 3グラム,C 1 2 /C 1 5 アルコールベンゾアート(WITOCONOL TN-WITOCO) 8グラム,TINOSORB M の名で市販の微粒化形態のメチレンビス(テトラメチルブチルヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール)平均粒径:150nm〜200nm 5グラム,ドロメトリゾールトリシロキサン 2グラム,2,4−ビス−{4−[2−エチルヘキシルオキシ]−2−ヒドロキシフェニル}−6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン 2グラム,酸化チタン(TITANIUM DIOXIDE MT 100TV TAYCA) 3グラム,グリセリン 5グラム,硫酸マグネシウム 0.7グラム,防腐剤 適量,及び脱塩水 組成物全体を100gとする量を含むW/Oエマルション組成物。」イ 補正前発明と引用発明の対比(一致点)(a)式:【化1】〔式中,R1は,C1〜C12アルキル;又はフェニル置換C1〜C12アルキルである〕の微粉化UV広域吸収体1〜60重量%と,(b)二酸化チタン1〜60重量%-5-とを含む,UV−吸収体混合物。」(相違点)二酸化チタンが,補正前発明においては「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン」と特定されているのに対し,引用発明においてはそのような特定がなされていない点ウ 判断引用発明の「酸化チタン(TITANIUM DIOXIDE MT 100TV TAYCA)」は,国際公開第00/02529号(甲2の1。刊行物2。刊行物2は英文で記載されているから,これに対応する日本語の公開特許公報である特表2002−520264号公報(甲2の2)による。)によれば,アルミナとステアリン酸アルミニウムで被覆した二酸化チタンであると認められる。
他方,本願明細書の【0013】の記載によると,補正前発明に係る「油分散化二酸化チタン」とは,「微粉化二酸化チタン」を「ステアリン酸アルミニウム」等の「金属セッケンで被覆」したものを意味すると認められる。
よって,引用発明における「酸化チタン(TITANIUM DIOXIDE MT 100TV TAYCA)」は,補正前発明の詳細な説明において金属セッケンとして挙げられている「ステアリン酸アルミニウム」で被覆された「酸化チタン」であるから,補正前発明の「金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン」に相当する。
そして,刊行物2に記載されているとおり,一般的に,「脂肪酸と 1 価又は多価金属・・・との塩」による被覆は,「疎水性」を付与する目的で行われると認められ,特に,引用発明の「酸化チタン」におけるステアリン酸アルミニウムによる被覆を,「疎水性表面を付与するため」のものとすることは容易になし得るものである。
また,それによる格別の効果も認められない。
以上のとおり,補正前発明は,本願優先日前に頒布された刊行物1及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない。
-6-第3 原告主張の審決取消事由1 取消事由1(補正却下の判断の誤り)本件補正の目的は,審決が認定したように「二酸化チタン」の内容を補正することではなく,油分散化二酸化チタン」「 の内容を明確に限定的に減縮することである。
SPF値に関して相乗作用効果を示す特定の微粉化有機UV吸収体及び微粉化無機顔料の混合物を提供するという発明の技術的課題の解決手段として,従来技術の小さな粒径の二酸化チタンではなく,油分散化二酸化チタンを用いている点に鑑みると,補正発明に係る「油分散化二酸化チタン」との用語は,一体不可分であって,単なる「二酸化チタン」とは異なる概念を示す。したがって,「油分散化」と「二酸化チタン」とを分説して解釈すべきではない。それにもかかわらず,審決は,補正発明の技術的課題の解決手段を考慮せずに,補正前発明の構成要件(b)を細かく分説した上で補正の目的を判断したものであって,発明の構成要件の認定手法,ひいては補正の目的の認定手法として妥当性を欠く。
本願明細書の【0013】に「油分散化二酸化チタン(本発明に係る)は,微粉化二酸化チタンであり」と記載されていること,【0096】に「実施例2:微粉化二酸化チタンの調製」として「オイル分散物を製造するための方法」が具体的に記載されていることからすると,本件補正は,補正前発明における「油分散化二酸化チタン」の内容を具体的に規定したものであり,「油分散化二酸化チタン」の下位概念に相当するから,本件補正の目的は,特許請求の範囲減縮といえる。
2 取消事由2(補正前発明に関する容易想到性についての判断の誤り)(1) 引用発明刊行物1に記載された発明は,有機UV遮蔽剤と非遮蔽の特定のオルガノ修飾シリコーンとを必須の構成要件とし,安定性と耐水性が良好なエマルションを提供することを技術的課題とするものであるが,「ナノ顔料類をさらに含有してもよい」と記載されているとおり,二酸化チタンは単なる任意成分にすぎない。そして,刊行-7-物1には,二酸化チタンとして,具体的には,「酸化チタン(TITANIUM DIOXIDE MT100TV TAYCA)」のみが開示されているが,これは「アルミナとステアリン酸アルミニウムで被覆した」二酸化チタンであって,粉末状の酸化チタンナノ顔料である。
(2) 補正前発明の認定の誤り補正前発明の技術的課題は,SPF値に関して相乗作用効果を示す特定の微粉化有機UV吸収体及び微粉化無機顔料の混合物を提供することである。したがって,その解決手段としての必須構成要件である「油分散化二酸化チタン」は,特定の微粉化有機UV吸収体との組合せにおいて,SPF値に関して相乗作用効果を示すものを意味すると解すべきである。そして,本願明細書【0013】の「油分散化二酸化チタン(本発明に係る)は,微粉化二酸化チタンであり,微粉化二酸化チタンの粒子は,疎水性表面性能を示し」という記載と,具体的態様が記載された実施例2(【0096】)の記載を考慮すれば,補正前発明の「油分散化二酸化チタン」とは,「疎水表面性能が付与された微粉化二酸化チタン」が「オイル中に分散されたオイル分散物」であると解釈すべきである。
(3) 相違点の認定及び判断の誤りそうすると,補正前発明における「油分散化二酸化チタン」は,オイル中に分散されたオイル分散物であるのに対し,公刊物1に記載された酸化チタンは,粉体状である点で相違する。
補正前発明における技術的課題は,SPF値に関して相乗作用効果を示す特定の「微粉化有機UV吸収体及び微粉化無機顔料の混合物の提供」にあるのに対し,引用発明の技術的課題は,「安定性と耐水性が良好なエマルションの提供」にあり,補正前発明と引用発明とでは,解決すべき技術的課題が相違する。また,刊行物1及び2には,オイル分散物である「油分散化二酸化チタン」について記載されておらず,それについての示唆もない。さらに,刊行物1における「通常の抗日光組成物で一般に得られるものに匹敵する抗日光組成物を得ることを可能にする」との記載からすると,引用発明は,SPF値において相乗作用効果を奏さないと解される。
-8-そうすると,引用発明の「粉体状」の二酸化チタンに代えて,「オイル分散物」である「油分散化二酸化チタン」を採用することには相当の困難性があるというべきであって,補正前発明が,当業者が容易に発明できたものであるとの審決の判断には,誤りがある。
なお,審決の認定したとおり,補正前発明の「油分散化二酸化チタン」を,微粉化二酸化チタンをステアリン酸アルミニウム等の金属セッケンで被覆したものであることを前提としても,補正前発明は,当業者が容易に想到できる発明とはいえない。補正前発明における「油分散化二酸化チタン」は,疎水性表面性能が付与された粒子であるのに対し,引用発明に開示された酸化チタンは,アルミナとステアリン酸アルミニウムとで被覆された粒子であり,親水性と疎水性とを併せ持つ両親媒性の粒子であって,両者ではエマルション組成物における挙動が大きく異なるから,この点の相違点を捨象することは誤りであるし,両親媒性の無機顔料に変えて疎水性表面を付与する構成をあえて採用する動機付けはない。
第4 被告の反論1 取消事由1に対し補正対象の認定に関する審決の手法に誤りはない。
審決は,本件補正の検討に際し,補正前発明に係る「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン」を分説して解釈しているわけではなく,一体不可分のまとまりのある構成,すなわち,「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された」という技術的事項と「油分散化」という技術的事項の両者を兼ね備えた「二酸化チタン」として認識している。審決は,補正対象を,単なる「二酸化チタン」の内容の補正と認定したのではない。
原告の主張は,補正前発明に係る「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン」という用語について,「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された」という技術的事項を考慮せず,単なる「油分-9-散化二酸化チタン」と捉えて補正対象を解釈している点において,補正対象の認定手法として妥当性を欠く。補正前発明の技術的課題の解決の観点からみても,当該「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された」という技術的事項を切り離して,上記用語の技術的意義を解釈すべき理由は見当たらない。
本件補正は,「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン」を「平均粒径が10nm〜150nmの粒状二酸化チタンを含み,TiO2の量は,分散物が40重量%を超える固体含量を有するような量であり,オイルが,植物油,脂肪酸グリセリド,脂肪酸エステル又は脂肪族アルコールから選択される,オイル分散物」と補正しようとするものであるから,少なくとも「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された」という技術的事項を削除するものであることは明らかである。また,「油分散化」とは,金属セッケンによる被覆がもたらす「油分散性の」「油相への分散に適した」といった性状を単に表現,したものにすぎず,「油分散化二酸化チタン」自体が「オイル分散物」であるとはいえない。したがって,本件補正は,補正前発明に係る「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン」を下位概念化するものではない。
したがって,本件補正の目的が限定的減縮に該当しないとした審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2に対し取消事由2の根幹をなすのは,補正前発明に係る「油分散化二酸化チタン」とは「オイル分散物」のことであるとの解釈であり,これは上記取消事由1と相通ずるものであるところ,上記1のとおり,この原告の解釈が誤りである以上,取消事由2もまた理由がない。
(1) 補正前発明の認定の誤り審決の補正前発明の認定に誤りはない。
補正前発明に係る「油分散化二酸化チタン」は,その文言から理解されるとおり,- 10 -「油分散化」という修飾を伴うものの,「二酸化チタン」であることに違いはないから,二酸化チタンを含む混合物である「オイル分散物」を意味するとはいえない。
本願明細書の【0013】【0014】【0096】の記載を見ても,, , 「油分散化二酸化チタン」を「オイル分散物」と解釈する理由は見当たらない。
本願明細書全体を精査すると,【0016】に「本発明の使用に適切なUV吸収体混合物は,種々の方法において調製できる。」と記載され,【0020】に「微粒子の調製に適切なあらゆる公知のプロセスを,微粉化UV吸収体の調製に使用することができ」ると記載されるとともに,その一例として「硬質粉砕媒体,例えばボールミル中のジルコニウムシリケートボール及び水中又は適切な有機溶媒中の保護界面活性剤又は保護ポリマーを用いた湿式磨砕(ポンピング可能な分散物のための低粘度微粉化プロセス)」と記載されていること,【0097】には,【0096】とは異なる調製手法として「150nm 未満の平均一次粒径を有する無塵及び安定な固体微粉化UVフィルターを作成するための別の方法」が記載されていること,【0026】には,「微粉化UV吸収体混合物はまた,粉末形態で乾燥して使用できる。」とも記載されていることを総合すると,【0096】の「実施例2:微粉化二酸化チタンの調製」は,単に微粉化二酸化チタンの調製手法の一例(上記【0020】記載の湿式磨砕の例)を示すにとどまり,「油分散化二酸化チタン」と「オイル分散物」が同等であることを裏付けるものではない。
原告の主張に従い,「油分散化二酸化チタン」という文言を「オイル分散物」に置き換えると,「金属セッケンで被覆されたオイル分散物」となるところ,油相であるオイル分散物を金属セッケンで被覆するという技術的に不可解なものとなってしまうし,「1〜60重量%」という含有量が規定する対象物も変更されてしまうから,かかる主張は取り得ない。
(2) 相違点の認定及び判断の誤り補正前発明の認定に誤りはないから,原告の主張するような新たな相違点は存在しないし,その点の判断も不要である。
- 11 -なお,引用発明における「粉体状」の二酸化チタンに代えて,「オイル分散物」である「油分散化二酸化チタン」を採用することには相当の困難性があるとはいえない。化粧品用超微粒子酸化チタンは,超微粒子であるがゆえに,使用上の問題点として,「分散性」の問題が知られており,その改良手法として,高級脂肪酸などの有機物を表面処理することはもとより,予め油に高度に分散させておくことも,当業者間において既に周知である(乙1)。そして,引用発明は,「W/Oエマルション組成物」であるところ,その成分である「酸化チタン(TITANIUM DIOXIDE MT100TV TAYCA),すなわち,疎水性表面を有する,金属セッケンで被覆された二」酸化チタンは,当該W/Oエマルション組成物の油相に分散することができ,なおかつ分散しているものであるから,これを「油分散化」なる用語を用いて特定することに困難性はないし,このように油相に分散された形態は,一種の「オイル分散物」にほかならない。本願明細書には,粉末状の二酸化チタンをオイル分散物にすることによって有利な効果があることを認めるに足りる記載は見出せない。
第5 当裁判所の判断1 取消事由1について(1) 本願明細書の記載事項「二酸化チタン」及び「油分散化二酸化チタン」に関して,本願明細書(甲3)には,次のとおりの記載がある。
【0009】「微粉化TiO2」とは,200nm 未満,好ましくは10〜100nm,最も好ましくは25〜60nm の平均一次粒径を有する酸化チタンの粒子を意味する。
【0010】有機化合物と共照射する場合,これらの微細な金属酸化物の光酸化的欠点を減らすために,2%〜15%の範囲の,シリカ(SiO 2),アルミナ(Al2O3),水酸化アルミニウム(AlOH3)又は二酸化ジルコニウム(ZrO2)のような無機- 12 -化合物を用いた前被覆が必要である。
【0011】さらに,有機処理(表面被覆)は,TiO2の微細粒子の分散性を改良するために頻繁に使用され;有機物質の例は,脂肪酸及びその誘導体(金属セッケン),又はメチコーン,ジメチコーン又はトリエトキシカプリルイルシランのようなシリコーン,又は European UV Sun Filters Conference Proceedings,Benefits of surfacecoating on micro-fine oxides , T.Miyoshi ら , Miyoshi Kasei Inc. , 章「Surface-coated micro-fine metal oxides」,pp84〜85中に開示されている物質である。
【0012】水分散化二酸化チタンは,微粉化二酸化チタンであり,この微粉化二酸化チタン粒子を,粒子に親水性表面性能を付与する物質で被覆する。このような物質の例としては,シリカ,酸化鉄,アルミナ又は亜鉛が挙げられる。
【0013】油分散化二酸化チタン(本発明に係る)は,微粉化二酸化チタンであり,微粉化二酸化チタンの粒子は,疎水性表面性能を示し,この目的のために,微分化二酸化チタンの粒子を,ポリメチルメタクリレート,イソプロピルチタントリイソステアレート,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸マグネシウム,ラウリン酸アルミニウム又はステアリン酸亜鉛,メチル水素ポリシロキサン,酸化ポリシロキサン,グリセリン,ステアリルアルコール,Steareth−7,Steareth−10,ステアリン酸,ラウリル酸,シメチコーン又はジメチコーンのような金属セッケンで被覆する。
【0014】微粉化二酸化チタンは,化粧品最終配合物の製造中に,水相(水分散化)又は油相(油分散化)のいずれかに組み込むことができる。
【0015】- 13 -本発明のさらなる実施形態では,水分散化微粉化二酸化チタン及び油分散化二酸化チタンの両方の混合物を,本UV吸収体混合物において使用する。
・・・【0096】実施例2:微粉化二酸化チタンの調製:オイル分散物を製造するための方法は,粒状粉砕媒体の存在下で,上記オイル中のTiO2のための有機分散剤の存在下で,オイル中の粒状二酸化チタンを微分化する工程であって,ここで,上記TiO2の量は,分散物が40重量%を超える固体含量を有するような量である工程と,粒状TiO 2が10nm〜150nm の平均粒径を有するような時間,上記微粉化する工程を続ける工程とを含む。この方法は,GB−A−2206339Aに記載されている。オイルは,植物油,脂肪酸グリセリド,脂肪酸エステル又は脂肪族アルコールであってもよい。典型的には,分散剤は,ヒドロキシカルボン酸又は遊離カルボン酸のポリエステル又は塩,脂肪酸アルカノールアミド及びカルボン酸のモノエステル及びそれらの塩,あるいはアクリル酸又はメタクリル酸のポリマー又はコポリマーとして,例えば,このようなモノマーのブロックコポリマーのような代替の分散剤であってもよい。使用する分散剤の量は,TiO2の重量に基づいて,5%〜35重量%,好ましくは5%〜20重量%の量であってもよい。
【0097】150nm 未満の平均一次粒径を有する無塵及び安定な固体微粉化UVフィルターを作成するための別の方法は,US−A−5811082に記載されている。TiO2顔料10〜80重量部は,ワックス;天然ワックス,例えば植物ワックス(カルナウバ,カンデリラ,ホホバ),動物ワックス(ミツロウ,ラノリンワックス),鉱物ワックス(パラフィン,セレシン,オゾケライト)又は合成ワックス(ポリエチレンワックス,プロピレンワックス,長鎖脂肪族アルコールワックス,長鎖カルボン酸ワックス)又はろう状界面活性剤(陰イオン性,陽イオン性,非イオン性)- 14 -90〜20重量部中に分散される。
(2) 本件補正について本件補正は,特許請求の範囲請求項1の(b)成分を「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン」から「平均粒径が10nm〜150nmの粒状二酸化チタンを含み,TiO2の量は,分散物が40重量%を超える固体含量を有するような量であり,オイルが,植物油,脂肪酸グリセリド,脂肪酸エステル又は脂肪族アルコールから選択される,オイル分散物」に補正しようとするものである。
本件補正前の「油分散化」の意味は,特許請求の範囲の記載からは必ずしも判然としないが,発明の詳細な説明における【0013】【0014】の記載を踏まえ,ると,「金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン」とは,微粉化され,疎水性表面性能を示し,油相に分散化することができるように金属セッケンで被覆された「二酸化チタン」を意味すると解される。したがって,補正前発明のUV−吸収体混合物における,「二酸化チタン」は,金属セッケンで被覆されたものに限られていたというべきである。
一方,補正発明における「オイル分散物」は,「二酸化チタン」がオイルに分散されてなる分散物であるが,特許請求の範囲の記載上,「二酸化チタン」に「金属セッケンで被覆された」という制限がなくなっている以上,金属セッケンで被覆されているものといないものの両方を含むといわざるを得ないから,金属セッケンで含まれていなかったものを新たに発明の対象に加えたことになる。また,補正発明における「二酸化チタン」は,「オイル分散物」の一成分にすぎず,「オイル分散物」そのものではないから,「オイル分散物」中における「二酸化チタン」以外の成分であるオイル等の成分が,補正前発明には含まれていなかったにもかかわらず,補正発明ではその対象となり,発明の対象が付加されたことになる。
したがって,本件補正は,(b)成分を限定的に減縮するものではなく,そのものの意味するところを変更するものであるから,特許法17条の2第4項いずれの号- 15 -に規定された事項にも該当しない。
(3) 原告の主張についてア 原告は,「油分散化二酸化チタン」は,単なる二酸化チタンとは異なる概念であって,審決が,「油分散化」と「二酸化チタン」とを分説して解釈したのは,本願発明の技術的課題の解決手段を考慮しない点において,誤りである旨主張する。
しかしながら,「油分散化」という文言は,「二酸化チタン」と分説するか否かにかかわらず,「二酸化チタン」にかかる修飾語として,「二酸化チタン」自体の性状を表す語句であるし,かかる要件が,金属セッケンによる被覆がもたらす親油性を表現するもので,本願発明の技術的課題を解決するためのものであることを,審決も前提にした上で,「油分散化」の意味を検討し,補正の目的を認定・判断しているから,審決の判断手法に問題はない。原告は,分説をしなければ,あたかも,補正前発明における「油分散化二酸化チタン」の意味が,発明の対象物であるはずの「油に分散された二酸化チタン」ではなく,「二酸化チタンを含有するオイル分散物」と解釈可能であるかのごとき,誤った前提に立つものであって,採用できない。
イ 原告は,本願明細書には「油分散化二酸化チタン(本発明に係る)は,微粉化二酸化チタンであり」【0013】( )と記載され,「実施例2:微粉化二酸化チタンの調製」として「オイル分散物を製造するための方法」が具体的に記載されているから,本件補正は,補正前発明における「油分散化二酸化チタン」の内容を具体的に規定するものであって,特許請求の範囲減縮を目的とするものである旨主張する。
しかしながら,【0012】に「水分散化二酸化チタンは,微粉化二酸化チタンであり」との記載があることや【0015】において微粉化二酸化チタンにつき「水分散化」「油分散化」の2種類について記載があることを併せ考えると,「微粉化二酸化チタン」が「油分散化二酸化チタン」と同義とはいえない。
【0013】の「油分散化二酸化チタン(本発明に係る)は,微粉化二酸化チタンであり」との記載は,その直後に,その表面が金属セッケンにより被覆されていることの記載が併せてあ- 16 -ることからすると,「油分散化二酸化チタン」が微粉化された形態のものであることを意味するにすぎないと解される。また,「微粉化二酸化チタンの調製」と題する実施例2には,オイル中で粒状二酸化チタンを微粉化してオイル分散物を製造する方法が記載されているが,二酸化チタンの表面を金属セッケンで被覆することについては記載がないから,実施例2は,表面が金属セッケンにより被覆されている「油分散化二酸化チタン」の製造,すなわち,補正前発明の製造を説明するものとはいえず,実施例2に関する【0096】の記載をもって,補正前発明における「油分散化二酸化チタン」を解釈することもできない。
したがって,本願明細書の記載から原告の主張を導くことはできず,採用できない。
(4) 小括以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2について(1) 刊行物1(特開2001−1151657号公報。甲1)の記載事項刊行物1には,次のとおりの記載がある。
【特許請求の範囲】【請求項1】(a)少なくとも1つの水性相と(b)少なくとも1つの脂肪相;(c)エマルションに不溶の少なくとも1種の有機UV遮蔽剤を,平均粒子径が0.01〜2μmの範囲で変わる微粒化された形態で含む,UV線を遮蔽することができる少なくとも1種の光保護系;(d)オキシアルキレン化基を含んでなる少なくとも1種の非遮蔽オルガノ修飾シリコーン,を含有し,上記不溶性有機UV遮蔽剤が,微粒化された2,4,6−トリス[p−(2’−エチルヘキシル−1’−オキシカルボニル)アニリノ]−1,3,5−トリアジンと,次の構造;- 17 -を有する化合物とは異なることを特徴とする化粧品用又は皮膚用の油中水型エマルション。
・・・【発明の詳細な説明】・・・【0007】本出願人は,驚くべきことにまた予期しないことに,エマルションの相に不溶性の微細化された不溶形態での少なくとも1種の有機UV遮蔽剤と少なくとも1種の非遮蔽の特定のオルガノ修飾シリコーンを含む特定のエマルションが,化粧品性能の特徴が油/水又は水/油エマルションの形態の通常の抗日光組成物で一般に得られるものに匹敵する抗日光組成物を得ることを可能にするばかりでなく,良好な安定性と高められた水に対する安定性を示すことを発見した。これらの発見が本発明の基礎をなす。
・・・【0031】本発明に係るベンゾトリアゾールタイプの有機UV遮蔽剤としては,次の構造:[上式中,T12及びT13は,同一でも異なっていてもよく,C 1−C4アルキル,C5−C12シクロアルキル又はアリール残基から選ばれる一又は複数の基で置換さ- 18 -れていてもよいC1−C18アルキル基を示す]を有するメチレンビス(ヒドロキシフェニル−ベンゾトリアゾール)誘導体を挙げることができる。これらの化合物はそれ自体既知であり,米国特許第5237071号,同第5166355号,英国特許出願公開第2303549号,DE19726184号及び欧州特許出願公開第893119号(本明細書の一部を構成する)に記載されている。
【0032】上記の式(8)において,C 1−C18アルキル基は,直鎖状又は分枝状であり,例えば,メチル,エチル,n−プロピル,イソプロピル,n−ブチル,イソブチル,tert−ブチル,tert−オクチル,n−アミル,n−ヘキシル,n−ヘプチル,n−オクチル,イソ−オクチル,n−ノニル,n−デシル,n−ウンデシル,n−ドデシル,テトラデシル,ヘキシルデシル又はオクタデシルであり;C5−C12シクロアルキルは例えばシクロペンチル,シクロヘキシル,シクロオクチルであり;アリール基は例えばフェニル又はベンジルである。
【0033】式(8)の化合物としては,次の構造を有するものが特に好適である:2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−- 19 -(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール]なる命名の化合物(a)はフェアマウントケミカル社からミキシム(MIXXIM)BB/100の名称で純粋な形態で,また,チバガイギー社からティノソーブ(TINOSORB)Mなる名称で微粒化された形態で販売されている。2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(メチル)フェノール]なる命名の化合物(c)は,フェアマウントケミカル社からミキシムBB/200の名称で販売されている。
・・・【0043】また,本発明に係る組成物は,人工的に皮膚を日焼けした状態にするための薬剤(自己サンタン剤),例えばジヒドロキシアセトン(DHA)を更に含有してもよい。本発明の化粧品組成物は,また,被覆された又は被覆されていない,金属酸化物の顔料又はナノ顔料類(一次粒子の平均粒径:一般的に,5nm〜100nm,好ましくは10nm〜50nm),例えば,全てそれ自体よく知られているUV保護剤である,酸化チタン(アモルファス,又はルチル及び/又はアナターゼ型の結晶),酸化鉄,酸化亜鉛,酸化ジルコニウム又は酸化セリウムのナノ顔料類をさらに含有してもよい。一般的なコーティング剤はアルミナ及び/又はステアリン酸アルミニウムである。このような,被覆された又は被覆されていない金属酸化物のナノ顔料類は,特に,欧州特許出願公開第0518772号及び欧州特許出願公開第0518773号に記載されている。
・・・【0048】・・・実施例【表1】- 20 -(2) 引用発明の認定刊行物1の実施例【表1】に記載された「酸化チタン(TITANIUM DIOXIDE MT 100TVTAYCA)」の組成,構造ないし性質は,製造販売元であるテイカ株式会社に対する調査嘱託の結果及び乙2によれば,二酸化チタンの表面を水酸化アルミニウムで被覆し,その上を更にステアリン酸アルミニウムとステアリン酸の複合層で被覆してなり,ステアリン酸のほとんどが水酸化アルミニウムとジステアリン酸アルミニウム(金属セッケン)を形成し,アルキル鎖を表層に向けて存在していることにより疎水性を呈するものであると認められる。ここにいう被覆層のステアリン酸アルミニウム及びジステアリン酸アルミニウムはいずれも金属セッケンである。
この点,公開特許公報である刊行物2(特表2002−520264号公報,甲2の2)には,同じ酸化チタンである MT 100TV につき,アルミナとステアリン酸アルミニウムで被覆されていると記載されており(【0019】,親水性,疎水性の両)方の性質を持つかのような記載となっているが,同公報はフランス国のロレアルの特許出願に係るものにすぎないから,同公報中の記載が,製造販売元であるテイカ株式会社自身による構造の分析報告を覆すに足りるものではない。
(3) 相違点の認定及びそれについての判断について- 21 -補正前発明の(b)成分「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン」は,微粉化された二酸化チタンであって,表面が金属セッケンにより被覆されていることにより,油相に分散化するための疎水性表面性能が付与されたものである。他方,上記(2)のとおり,引用発明における二酸化チタンも,金属セッケンで被覆されたもので,表面は疎水性を有する。
そうすると,審決は,補正前発明と引用発明の相違点として「二酸化チタンが,本件発明においては「疎水性表面を付与するために,金属セッケンで被覆された油分散化二酸化チタン」と特定されているのに対し,引用発明においてはそのような特定がなされていない点」を認定したが,実質的には,二酸化チタンの金属セッケンによる被覆が,補正前発明では「疎水性表面を付与するため」のものであるのに対して,引用発明では目的が不明である点ということになる。しかしながら,被覆の目的いかんによって発明の構成が変化するわけではないから,補正前発明と引用発明に構成上の実質的な相違点はないというべきである。したがって,相違点に係る容易想到性を問題とする余地もまたないし,補正前発明が引用発明にはない顕著な効果を見出したものとも認められない。
したがって,補正前発明は特許を受けることができないと判断した審決の結論に誤りはない。
(4) 原告の主張について原告は,引用発明の酸化チタン(TITANIUM DIOXIDE MT 100TV TAYCA)は,アルミナとステアリン酸アルミニウムとで被覆され,親水性と疎水性とを併せ持つ両親媒性粒子であるから,油相と水相の界面に存在し,エマルションの安定化をもたらすのに対して,本件発明の「油分散化二酸化チタン」は,金属セッケンで被覆して疎水性表面性能が付与された粒子であり,油中水型エマルションでは専ら油相に存在し,エマルションの安定化には寄与しない,引用発明は良好な安定性を示す抗日光組成物を得るという課題の解決のために上記両親媒性粒子を用いたのだから,補正前発明の疎水性表面性能が付与された粒子に変える動機付けはない旨主張する。
- 22 -しかしながら,引用発明におけるテイカ株式会社製の MT 100TV の酸化チタンは,前記のとおり,二酸化チタンの表面にアルミナ層が形成され,その上にステアリン酸アルミニウムとステアリン酸の複合層が形成されたものであり,専ら疎水性を呈するものであるから,原告の主張は,前提において誤りである。
(5) 小括以上のとおりであるから,取消事由2は理由がない。
第6 結論以上のとおり,原告の請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官清 水 節裁判官新 谷 貴 昭裁判官鈴 木 わ か な- 23 -
事実及び理由
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