関連審決 | 無効2001-35089 無効2001-35096 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10194審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ3012特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10712審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10458特許取消決定取消請求参加事件 | 判例 | 特許 |
平成13行ケ245特許取消決定取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 周知技術 / 技術常識 / 明確性 / 発明の詳細な説明 / 翻訳文 / 抵触 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
115号
審決取消請求事件
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原告 日本ビシエイ株式会社 訴訟代理人弁理士 大熊考一 同 木内光春 被告 アルファ・エレクトロニクス株式会社 訴訟代理人弁理士 山田文雄 同 山田洋資 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/07/06 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2001−35089号事件について平成14年1月30日にした審決中「本件審判の請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「チツプ抵抗器」とする特許第1662312号の特許(昭和61年5月6日出願(以下「本件出願」という。同出願に係る願書に添付された明細書及び図面を併せて,「訂正前明細書」という。甲第15号証は,公告時のその内容を示す特許公報である。),平成4年5月19日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は1である。なお,登録後,後記本件訂正により,請求項の訂正及びこれに伴う発明の詳細な説明の記載の訂正がなされている。)の特許権者である。 原告は,平成13年3月6日,本件特許を無効にすることについて,審判を請求した。特許庁は,これを無効2001-35089号事件として審理した。被告は,審理の過程で,平成13年6月18日,請求項の文言の訂正を含む,訂正前明細書の訂正(以下「本件訂正」という。本件訂正の内容は,甲第16号証の訂正請求書記載のとおりである。以下,これによる訂正後のものを,「訂正明細書」という。その内容は,甲第16号証中の手続補正書に添付された明細書記載のとおりである。)を請求した。特許庁は,審理の結果,平成14年1月30日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年2月8日,その謄本を原告に送達した。 2 訂正明細書の特許請求の範囲(別紙1,2参照) 「一側面に金属箔抵抗体が貼着された絶縁性基板を,柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装し,この外装樹脂のプリント基板への取付面に板状外部接続端子を臨ませたチップ抵抗器において, 前記絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびて その外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された一対の板状外部接続端子と,これらの各板状外部接続端子と前記抵抗体とを前記外装樹脂内で接続するリード線とを備えることを特徴とするチップ抵抗器。」 (判決注・下線部が本件訂正請求による付加訂正部分である。) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件訂正を認めた上,訂正明細書の特許請求の範囲によって特定される発明(以下「本件発明」という。)は,「BULLETIN R-700b VISHAY V53 & M53/55 SERIES BULK METALTM VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS」(審判手続の甲第1号証・本訴甲第1号証,以下,これを「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)並びに,実願昭47-14317号(実開昭48-90147号公報)のマイクロフィルム(審判手続の甲第2号証・本訴甲第2号証,以下,これを「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。),「BULLETIN R-700d VISHAY V53 & M53/55 SERIES BULK METAL VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS」(審判手続の甲第3号証・本訴甲第3号証,以下,これを「引用例3」という。)に記載された発明(以下「引用発明3」という。),「BULLETIN R-800A Announcing Vishay's new "Super-S" precision resistor-Model S102C」(審判手続の甲第4号証・本訴甲第4号証,以下,これを「引用例4」という。)に記載された発明(以下「引用発明4」という。),特開昭59-200448号公報(審判手続の甲第5号証・本訴甲第5号証,以下,これを「引用例5」という。)に記載された発明(以下「引用発明5」という。),実願昭58-138762号(実開昭60-48231号公報)のマイクロフィルム(審判手続の甲第6号証・本訴甲第6号証,以下,これを「引用例6」という。)に記載された発明(以下「引用発明6」という。),実願昭58-73496号(実開昭59-177934号公報)のマイクロフィルム(審判手続の甲第7号証・本訴甲第7号証,以下,これを「引用例7」という。)に記載された発明(以下「引用発明7」という。),実願昭58-77215号(実開昭59-182926号公報)のマイクロフィルム(審判手続の甲第8号証・本訴甲第8号証,以下,これを「引用例8」という。)に記載された発明(以下「引用発明8」という。)及び実願昭57-168482号(実開昭59-72725号公報)のマイクロフィルム(審判手続の甲第9号証・本訴甲第9号証,以下,これを「引用例9」という。)に記載された発明(以下「引用発明9」という。)に基づき,これに当業者の技術常識及び周知技術(米国特許第3718883号明細書(審判手続の甲第11号証・本訴甲第11号証,以下「甲11明細書」という。))を参酌しても,当業者が容易に発明することができたとは認められない,というものである。 4 審決が認定した,引用例1の開示内容,本件発明と引用発明1との一致点・相違点 (1) 引用例1の開示内容(別紙3参照) 「甲第1号証(判決注・引用例1)には,その第2頁上段,第3頁上段図面とその中央欄及び右欄の記載を参酌すると,「V SERIES」との表題の下に,概要,以下のような構成要件からなる抵抗器,及びこれに係わる技術的事項が記載されている。 (i) 抵抗器の構成として, (a) 防湿用のエポキシ樹脂コーティング(Moisture-proof epoxy coating) (b) シリコーンゴムの封止材(Silicone Rubber encapsulation) (c) エッチング処理により形成されたバルクメタル(Etched bulk metal) (d) 接合されたフレキシブル細線(Flexible welded ribbon leads) (e) セラミック基板(Ceramic substrate) (f) すずめっき銅リード(Tinned copper leads) なお,作用効果について,第3頁上段中央欄「フレキシブル細線」の括弧書内には,「抵抗体を,機械的なストレスの影響から隔離する(isolate resistive element from mechanical stresses)」旨記載されている。」(甲第12号証18頁10行目〜24行目) (2) 本件発明と引用発明1との一致点 「一側面に抵抗体が貼着された絶縁性基板を,柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装し, この外装樹脂のプリント基板への取付面に外部接続端子を臨ませたチップ抵抗器において, 前記絶縁性基板の他側面に貼着された一対の外部接続端子と, これらの各外部接続端子と前記抵抗体とを前記外装樹脂内で接続するリード線とを備えるチップ抵抗器」(甲第12号証21頁11行目〜17行目) (3) 本件発明と引用発明1との相違点 「(i) 甲第1号証(判決注・引用例1)においては,抵抗体が「金属箔抵抗体」との明示がない点, (ii)甲第1号証においては,外部接続端子が「板状」でない点, (iii)甲第1号証においては,外部接続端子が「その一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された」ものでない点」(甲第12号証21頁19行目〜24行目) (以下,順に「相違点1」,「相違点2」,「相違点3」という。) |
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原告の主張の要点
審決は,相違点3についての判断を誤っているなど,違法であり,取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件発明の進歩性の判断の誤り) (1) 審決は,「本件発明は,この相違点(iii)(判決注・相違点3)に係る「絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着」する構成において,当業者が容易になし得るものとは認められない。」(甲第12号証24頁2行目〜4行目),としている。 しかし,この判断は誤っている。 (2) 相違点3に係る構成のうち,外部接続端子が,絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されているという構成は,引用例2及び引用例6に開示されている。 ア 引用例2の第1図及び第2図(別紙4参照)には,モールド樹脂の一辺の幅よりも,僅かに小さい幅を有する端子2,5が開示されている。また,引用例6の第3図にも,同様の幅を持つ,板状の外部接続端子が開示されている(電極板3,4)。同様の構成は,甲第17ないし第21号証にも開示されている。 イ 引用発明2の端子2,5において,幅の広いものが要求されることについては,引用例2の「この欠点即ち端子からの熱伝導を避けることは,端子を細くすることで或る程度小さくすることはできるが,細くしたときは電子部品製造中端子上への部品素子の装着,接触が不安定不完全となり易く,また電子部品を印刷配線基板上へ装着するときの位置合せがしにくくなり,且つ基板上へ装着した後での端子強度が不足するなど別の欠点が生じた。」(甲第2号証3頁11行目〜18行目),との記載から明らかである。 他方,絶縁性基板は,絶縁性を確保するため,モールド樹脂の「内部」に封止されるものであるから,モールド樹脂よりも小さい幅を有することは当然である(甲第1号証,第4,5号証,第11号証,第17ないし第22号証)。 ウ したがって,引用発明2の端子2,5や,引用発明6の電極板3,4は,樹脂モールドされた絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅で絶縁性基板に貼着する,といえるのに十分な幅を有しており,かつ,その幅に対して直交する方向に伸びている。 エ 被告は,引用発明2及び引用発明6は,固体電解コンデンサに関するものであり,本件発明のチップ抵抗器とは異なる,と主張する。しかし,両者とも,チップ状の電子部品に関する発明であり,固体電解コンデンサに限定されていない。 本件発明と同一の技術分野に属するチップ抵抗器(絶縁基板上に抵抗素子が形成され,この抵抗素子と外部の部品とを電気的に接続するための複数の電極(外部接続端子)が形成されているもの)に関して,外部接続端子が絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅で密着され,かつ,この一辺に直交する方向に延びている構成は,甲第23ないし第30号証にも開示されている。 (3) 外部接続端子を介して放熱すること,部材の接触面積が大きくなれば熱伝導が向上することは,いずれも,電子部品に関する技術分野において,よく知られた自明の技術である(甲第5号証,甲第13号証)。 例えば,引用例5には, 「かかる集積回路において,直流電力,あるいはパルス電力を印加した場合,内部発熱の熱放散径路としては半導体素子が発熱後熱が金属板を通り,金属板と外部リード線が対向する部分の封止樹脂を通り,外部引出しリード線を介し熱放散される部分と,外部引出しリード線を介さずに外部引出しリード線と対向していない封止樹脂より外部へ熱放散される部分がある。しかしながら封止樹脂は金属板,外部引出しリード線に比べ熱伝導が悪い為,前者が支配的である。」(甲第5号証1頁右欄6行目〜15行目), 「本発明による半導体装置は,金属板の半導体素子と反対の面に熱伝導の良い絶縁体基板を接着し,各々の外部引出しリード線の先端を絶縁体基板に接着させる。かかる構成により封止樹脂を通さずに外部へ熱放散を行うことができ,過渡熱抵抗を小さくすることが可能となる。・・・かかる集積回路において,直流電力,あるいはパルス電力を印加した場合,熱放散径路は,金属板33,熱伝導の良好な絶縁体基板66,外部引出しリード線44となり封止樹脂11を通さずに熱を逃がすことができ,過渡熱,抵抗,さらには熱抵抗を小さくすることができる半導体装置が得られる。」(甲第5号証2頁左欄3行目〜右欄5行目,第4図) として,外部接続端子を介して熱放散効果を高めることが開示されている。 甲第29号証及び第30号証も,このことを開示している。 本件審判と併合審判された無効2001-35096号事件の審決も,「接触面積が大きくなれば熱伝導が向上することは,当該技術分野において良く知られた技術的なに(判決注・原文ママ)自明な事項であり」(甲第13号証30頁21行目〜23行目),と説示しており,接触面積が大きいほど熱伝導が向上することが,昭和61年5月6日当時(上記無効審判事件における特許第1658620号の出願日でもある。),すなわち,本件出願当時,当業者の技術常識であったことは明らかである。 以上の技術常識によれば,放熱効果を高めるために,引用発明2の端子2,5の幅を,絶縁性基板の一辺の全長に亘る幅で貼着することは,当業者が容易に想到できることである。あえて端子2,5の幅を,それより狭くすることは,むしろ不合理な設計というべきである。 (4) 引用発明1と,引用発明2及び6とを組み合わせることは容易であり,本件発明は,これらの発明を組み合わせることにより,当業者が容易に想到できたものである。 (5) 顕著な作用効果の存在の認定の誤り ア 被告は,審判手続において,「この発明ではリードを板状として絶縁基板にできるだけ広い面積で接触するように貼り付けたから,抵抗体自身が発生する熱をこの板状のリードを通して外へ導くという効果も得られ,精度は一層向上するものである。」(甲第12号証16頁33行目〜35行目),と主張した。 イ しかし、このような作用効果は,訂正前明細書にも,訂正明細書にも全く記載されていない新規な事項であり,そもそも審判手続において考慮すべきものではない。 しかも,この作用効果は,外部接続端子が板状であり,絶縁性基板にできるだけ広い面積で貼着されているということに基づくものと解される。そして,そのような構成及びこれにより放熱が効果的に行われることは,引用例5に開示されている(甲第5号証2頁左欄19行目〜右欄5行目,第3図,第4図)(別紙5参照)。 したがって,上記作用効果は,当業者が当然に予想できるものであって,顕著なものとはいえない。 2 取消事由2(本件発明に係る特許請求の範囲(請求項の文言)の不明確性) 「絶縁性基板の一辺のほぼ全長」という語は,不明確であいまいなものである。どの程度の幅が,「ほぼ」といえるのか,「ほぼ全長」である場合とそうでない場合とにおいて,作用効果に相違があるか否かについて,訂正明細書には記載がなく,審決も明らかにしていない。 訂正前明細書の第1図及び第2図には,絶縁性基板の一辺と,板状外部接続端子との幅とが一致しているもののみが開示されている。板状外部端子の幅が,絶縁性基板の一辺より狭いものや,広いものは開示されていない。 したがって,「ほぼ全長」とは,板状外部端子の幅が,絶縁性基板の一辺と一致する場合のみを意味すると解するべきである。しかし,「ほぼ」というあいまいな表現が含まれているため,本件発明の内容があいまいになってしまうのである。 3 以上のとおり,本件発明は,進歩性(特許法29条2項)を欠くか,特許請求の範囲の文言が明確でない(同法36条6項2号)から,無効とされるべきである。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(本件発明の進歩性の判断の誤り)に対して (1) 本件発明が進歩性を欠くとの原告の主張は,審判において主張されていなかったものである。審決取消訴訟における訴訟物は,審決の違法性であり,審判段階における請求人の主張と異なる無効事由は,訴訟における審理の対象とはならない。 (2) 引用例1,3及び4は,現実に頒布されたものか否か不明であり,「刊行物」とはいえない。 「printed」という語は,単に,印刷された,ということを意味するにすぎず,当該印刷物が頒布されたことまで表すものではない。 政府機関や出版会社の印刷物であれば,現実に頒布された蓋然性も高いといえるものの,単なる民間の一企業である原告の親会社の印刷物が,印刷された以上当然に頒布もされている,と認めることはできない。 (3) 審決は,相違点1について, 「甲第1号証(判決注・引用例1)における「バルクメタル(Etched bulk metal)」は「金属箔抵抗体」といえるものであって,相違点(i)(判決注・相違点1)は実質的に相違するものとは認められない。」(甲第12号証22頁6行目〜8行目) と説示している。 しかし,「bulk metal」は,直訳すると,大きなかさばった金属,という意味である。しかも,「TM」という表示があることから,VISHAY社の商標であると理解される。これを,金属箔抵抗体であると解する理由が不明である。 引用例1に記載された「is applied to a special ceramic substrate」の「applied」は,貼り付けるという意味であるとは限らず,適用する,という意味も有する。同じく,「It is set on the substrate」は,バルクメタルは基板に施される,という程度の意味である。貼り付ける,という意味に限定して解する理由はない。 (4) 引用例2及び6は,固体電解コンデンサ,具体的には焼結型固体タンタルコンデンサに関する発明を,実施例として開示するものである。 この種のコンデンサは,タンタル焼結体の一端からタンタル線(陽極)を進入させ,焼結体の他端側の端面及びその外周をメッキして陰極にする,という構造のものである。それには,本件発明における絶縁性基板はない。また,焼結体から外に延びる陽極は線状であるから,絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着された複数の板状外部端子も備えていない。なお,甲第17ないし第22号証も,同じく固体電解コンデンサに関するものであって,本件発明の構成を開示するものではない。 (5) 引用例1,3ないし9には,外部接続端子の一端が絶縁性基板の他側面に密着する幅が,絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅であり,かつ,この一辺に直交する方向に延びている,という本件発明の構成は開示されていない。 引用発明1に,引用発明2ないし9を適用しても,外部接続端子を板状にすることは導出されても,その幅を,絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅とすることも,その一辺に直交する方向に延びるものとすることも出てこない。 (6) 甲第23ないし第30号証に開示されているチップ抵抗器も,本件発明の進歩性を判断するにおいて,何ら参考になるものではない。 すなわち,甲第23ないし第30号証の電極は,本件発明の外部接続端子とは異なり,基板の表面(端面,裏面を含む)に形成され,基板によって支持されているもので,電極だけが,基板から分離して突出しているものではないし,その形成方法も本件発明とは異なるのであって,甲第23ないし第30号証において,電極が基板の一辺のほぼ全長に亘る幅であるからといって,本件発明の容易推考性を根拠付けるための周知技術とすることはできない。また,それらの電極は,基板の端部を包むように基板に密着するものであるから,基板の一辺に直交する方向に延びることは不可能である。 (7) 原告の主張の骨子は, ア 引用発明1における棒状の外部接続端子を,板状にすることは容易であり, イ 放熱性を高めるために,板状の外部接続端子と絶縁性基板の接触面積を多くすることとし,そのため絶縁性基板の一辺の全長に近い幅で貼着することは周知である(甲第2号証,第6号証), というものである。 しかし,アの点については,引用発明1は,そもそも放熱を必要とするものではないから,外部接続端子を板状にする必要がないのであり,イの点については,前記のとおり,板状の外部接続端子を絶縁性基板の一辺の幅のほぼ全長に亘る幅にすることは,周知とはいえない。 板状の外部接続端子と,絶縁性基板との接触面積を増やす方法は,前者を,後者の一辺の全長に近い幅で貼着するものだけではなく,外部接続端子を絶縁性基板の長さ方向に長くするものもある。例えば,引用発明1と引用発明5とを組み合わせると,外部接続端子の幅が,絶縁性基板の一辺の半分程度にしかならないものに想到するものである(別紙6参照)。 引用発明1から,本件発明の構成に至るためには,リードを板状とすることと,板状リードの幅を絶縁性基板の一辺のほぼ全長にすること,の2つの変更を経る必要がある。それぞれが困難であり,かつ,この2つの変更を一度になすことには,さらに大きな困難を伴う。したがって,本件発明が容易推考なものとはいえない。 (8) 顕著な作用効果の存在の認定の誤りに対して ア 本件発明は,本件訂正により付加された構成により,より高い放熱効果が得られ,精度が一層向上する。これは,格別の作用効果である。 イ 本件発明のチップ抵抗器は,抵抗温度係数が数ppm/℃程度の,極めて高い精度の抵抗器である。この精度を保つためには,厳しい温度管理が必要となってくる。 このことは,訂正前明細書の「この種の抵抗器では,基板の線膨張係数と抵抗体の抵抗温度係数とを適合させることにより,抵抗値の温度に対する変動を抑制し,高精度な抵抗器を得ることができる。すなわち温度上昇に伴なう抵抗体の抵抗値の変化を,基板の線膨張を利用して抵抗体に応力を加えることにより相殺し,抵抗温度係数を小さくするものである。」(甲第15号証1頁2欄4行目〜10行目。なお,訂正明細書にも同一の記載がある。)との記載にあらわれている。 このような技術思想は,引用例1には開示されていない。 2 取消事由2(本件発明に係る特許請求の範囲(請求項の文言)の不明確性)に対して 原告は,審判において,特許請求の範囲の文言の不明確性の主張をしていないから,訴訟において,新たにこの主張をすることは許されない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明の進歩性の判断の誤り)について (1) 被告は,本件発明の進歩性の欠如の主張は,原告が審判手続において提出していなかった主張であるから,本訴においてこれを主張することは,新たな無効事由の提出に当たり,許されないと主張する。 しかし,審決は,「【2】訂正の適否について」において,本件訂正を認めるとの判断を示した上で(甲第12号証2頁10行目〜31行目),本件発明の特許請求の範囲を, 「【3】本件特許発明 訂正請求により訂正(判決注・本件訂正)された本件特許請求の範囲第1項に係る発明(以下「本件発明」という。)は,以下のとおりのものである。 「一側面に・・・(判決注・本件発明の特許請求に係る文言(請求項)の摘示)・・・チップ抵抗器。」」(甲第12号証2頁32行目〜3頁5行目), と認定し,原告(審判請求人)の主張を, 「【4】審判請求人の主張 (4-1)無効とすべき理由の概要 本件審判請求人は,以下の証拠方法を提出するとともに,本件発明についての特許を無効とすべき理由について,要点,以下のとおり主張している。 「本件特許発明の出願前の技術水準を考慮すると,甲第1号証(判決注・引用例1)に記載された抵抗器の外部接続端子を,甲第2号証(判決注・引用例2)に記載されたチップ状電子部品に基づいて「板状」とし,「外部接続端子の外部突出端を,外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出させ,前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲させる」ことによって,本件特許発明と同一のチップ抵抗器を構成することは,当業者にとって容易に成しうることである。また,訂正による外部接続端子の「その一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された」構成が甲第1号証に開示されていない点については,甲第2号証(判決注・引用例2)等他の刊行物から容易である。 従って,本件特許発明は,その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものと認められ,特許法第29条第2項に該当するので,同法123条第1項第2号により無効にすべきものである。」(甲第12号証3頁6行目〜24行目) と摘示し,さらに, 「(iii)「(3)被請求人の主張する理由3について・・・ ・・・従って,かかる訂正及び作用効果の主張は到底認められるべきものではなく,仮に,訂正請求書の通りの訂正がなされたとしても,その課題及びこれを解決する手段に特許性が認められるような斬新性が得られるものではない。」(弁駁書第5頁末4行〜第6頁第6行)」(甲第12号証12頁34行目〜13頁31行目) と摘示している。 以上からは,原告が,本件訂正の可否とは別に,本件発明の進歩性を争っており,かつ,その具体的な理由も主張していたことは明らかである。 取消事由1が,審判で提出されなかった新しい主張であるということはできない。 (2) 引用例1,3及び4の頒布の有無について ア 引用例1,3及び4の作成時期は,次のとおりであると認められる(甲第1,第3,第4号証)。 (ア) 引用例3は,Vishay Intertechnology, inc(以下「Vishay社」という。)のVISHAY RESISTIVE SYSTEMS GROUP(以下「Vishayシステム」という。)の作成した印刷物であると認められる。 引用例3の1枚目の末尾には,「1975 Vishay All Rights Reserved Printed in U.S.A.」との記載がある。この記載から,引用例3は,1975年(昭和50年)に印刷されたものと認められる。 同じく,Vishayシステムが作成したと認められる引用例4にも,その2枚目の末尾に,「Copyright 1977 Vishay Resistive Systems Group. All rights reserved. Printed in U.S.A. 」と記載されており,1977年(昭和52年)に印刷されたものと認められる。 (イ) 引用例3の4枚目の末尾には,「10M 10/75 AN Printed in U.S.A.」との記載がある。この記載のうち「75」は,前記のとおり,引用例3が1975年に印刷されたと認められること,「AN」には,「in the year」の意味があること(研究社 リーダーズ英和辞典初版)から,1975年を意味するものと認められる。 そうすると,引用例1の4枚目の末尾の「5M 11/74 AN Printed in U.S.A」との記載も,1974年(昭和49年)に印刷されたことを意味するものと認めることができる。 イ 頒布の有無について (ア) 引用例1,3及び4には,それぞれその一枚目の右上部に「BULLETIN」の語が,同枚目の末尾には,Vishayシステムの住所と電話番号等が記載されている(甲第1,第3,第4号証)。「BULLETIN」とは,「公報,会報,小新聞」という意味である(前記辞典)。 (イ) 引用例1,3及び4は,その表題などから見て,例えば開発に関する文書のように,限られた特定の範囲において配布され,閲覧される性質のものではなく,また,Vishayシステムの連絡先が明記され,その製品の特徴を強調する内容となっていることからすると,社外,例えば顧客等に向けて頒布されることを予定して印刷されたものであると認めることができる。そうすると,これらの文書は,特段の事情が認められない限り,その取引先等に頒布されたと推認するのが相当であり,本件においては,それらの頒布の事実を否定すべき特段の事情は認められない。 (ウ) 以上のとおりであるから,引用例1,3及び4は,その印刷後間もない時期,遅くとも本件出願時まで(おおよそ9年ないし12年の期間がある。)には,頒布されていたと認めることができる。 (3) 相違点1(引用発明1のバルクメタル(Etched Bulk Metal)が,金属箔抵抗体であると明示されていないとの点)について ア 被告は,引用例1の「Etched Bulk Metal」は,本件発明の「金属箔抵抗体」ではない,と主張する。 イ 訂正明細書によれば、本件発明の金属箔抵抗体は,次のようなものと説明されている(甲第16号証)。 (ア) 「アルミナやガラス等の絶縁性基板に,ニッケル,クロームなどを含む金属箔抵抗体を貼着し,この金属箔抵抗体にフォトエッチングなどにより抵抗パターンを形成して抵抗チップとし,リード線をこの抵抗体に接続した後,全体を樹脂で外装した金属箔抵抗器・・・」(訂正明細書1頁18行目〜21行目) (イ) 「12は金属箔抵抗体であり,ニッケル,クローム,銅,アルミニウム等を含む合金を圧延して箔に仕上げ,さらに真空中(約10-6Torr)で熱処理して圧延に伴なう加工ひずみを除去し所望の抵抗温度特性を得ている。」(訂正明細書3頁1行目〜4行目) 以上の記載からは,本件発明における金属箔抵抗体は,ニッケル,クロームなどの合金からなる箔であり,絶縁性基板に貼着され,フォトエッチングなどにより抵抗パターンが形成されて抵抗チップとなり,リード線が接続されるものであると認められる。 ウ 引用例1に開示されている「Etched Bulk Metal」とは,次のようなものと説明されている。 (ア) 「その特性が知られ,制御可能な専有の「バルクメタル」は,特別なセラミック基板に貼り付けられる。その抵抗パターンは,ビシェイ社によって開発された超精密技術に基づくフォトエッチングによって形成される。(A proprietary BULK METAL of known and controllable properties is applied to a special ceramic substrate. A resistive pattern is then photoetched by an ultra-fine technique developed by Vishay.)。」(甲第1号証2枚目上段左欄3行目〜8行目・「外国文献(甲第1,4,3及び11号証)翻訳文(抄訳)」と題する書面(以下「訳文」という。)1頁7行目〜9行目) (イ) 「バルクメタル(登録商標)としては,その電気的,機械的,温度的特性を得るために特別な合金が選択される。」(同2枚目上段中欄1行目〜3行目・訳文1頁11行目〜12行目) (ウ) 「バルクメタルは,特別の専有の過程によって,基板に取り付けられる。この過程においてビシェイ社の抵抗体に生じる冶金学的変化は,巻線を巻く過程,蒸着過程といった他の種類の精密抵抗器の製造過程におけるものとは異なっている。ビシェイ社の抵抗器の合金は,その製造過程において,引っ張り,巻き付け,加工硬化やストレスを受けることがないため,抵抗体は本来の外形的,物理的,電気的特性を維持している。(It is set on the substrate ・・・ characteristics.)。」(同2枚目上段中欄3行目〜右欄3行目・訳文1頁12行目〜18行目) (エ) 引用例1の3枚目の上段には,「V SERIES」の製品の図があり,そのうちの中央図には,「Etched Bulk Metal」が,「Ceramic substrate」(セラミックの基板)に取りつけられ,この「Etched Bulk Metal」に「Flexible welded ribbon leads」(柔軟性のあるリード線)が溶接され,このリード線が「Tinned copper leads」(錫メッキをされた銅線)に接続されている図が示されている(訳文2頁2行目〜14行目)。 エ 以上からは,引用発明1にいう「Etched Bulk Metal」も,合金からなる箔であり(フォトエッチングにより抵抗パターンが作成されることと,前記引用例1の3枚目上段中央の図から,この「Etched Bulk Metal」は,箔といえるほど薄いものと認められる。),フォトエッチングにより抵抗パターンが形成されて抵抗チップとなり,絶縁性基板に貼着され,リード線が接続されるものであると認められる。 したがって,「bulk」,「metal」という語の辞書的な意味がどうであれ,引用発明1の「Etched Bulk Metal」が,本件発明の金属箔抵抗体に該当することは明らかである(被告は,上記引用例1の記載中「is applied to」は適用するとの意味であり,「It is set on the substrate」は,基板に施す,との意味であると主張するが、仮にそのように翻訳したとしても,「Etched Bulk Metal」が,本件発明の金属箔抵抗体に該当するとの結論が左右されるものではない。)。 (4) 相違点2に係る構成(引用発明1の外部接続端子を板状とすること)及び,相違点3のうち,外部接続端子の外部突出端が外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折り曲げられている,との構成の容易推考性について ア 審決は, 「チップ型電子部品において,外部接続端子を,「板状」に構成すること,及び「外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲」することは,甲第2号証(判決注・引用例2)に開示されており,また従来より周知の技術的事項(前掲甲第2,6,7,9号証参照(判決注・引用例2,6,7及び9をそれぞれ指す。))であるから,甲第1号証(判決注・引用例1)における「棒状」の外部接続端子を,「板状」とし,「取付面方向へ折曲」等とする技術的事項を採用することは当業者が容易になし得ることと認められる。」(甲第12号証22頁13行目〜19行目) と説示している。 イ 引用例2には,次のとおりの記載がある。 「本考案は合成樹脂被覆モールドされたチツプ状電子部品の電極引出用端子の改良に関するものである。 混成集積回路等の印刷回路基板に直接取付けるコンデンサ,抵抗等の電子部品は一般に第1図に示す如くフエイスボンデングに適するようにリード線端子に代つて板状端子2が用いられている。 この板状端子2は平板状で一般に部品の相対する二面から引出され第1図に示す如く端子2の先端即ち基板等との接続部3が本体底面に近接するように鍵状に曲げ加工されている。」(甲第2号証1頁13行目〜2頁5行目) 「・・・端子からの熱伝導を避けることは,端子を細くすることで或る程度小さくすることはできるが,細くしたときは電子部品製造中端子上への部品素子の装着,接触が不安定不完全となり易く,また電子部品を印刷配線基板上へ装着するときの位置合せがしにくくなり,且つ基板上へ装着した後での端子強度が不足するなど別の欠点が生じた。」(甲第2号証3頁11行目〜18行目) ウ 引用例6には,次のとおりの記載がある。 「この考案は,例えばチツプ型固体電解コンデンサのようなチツプ電子部品に関する。 従来,上記のチツプ型固体電解コンデンサには,第1図に示すようなものがあつた。同図において,1は本体部で,概略直方体状に合成樹脂によつて形成されており,その内部にはコンデンサ素子(図示せず)が埋設されている。このコンデンサ素子の陽極と陰極とには電極板3,4が本体1内において電気的に接続されている。これら電極板3,4は本体1の端壁部5,6からそれぞれ引出され,概略L字状をなすように折曲げられ,そのL字状部の底部3a,4aが本体1の底面部7の両端部に位置せしめられている。底面部7において,電極板の底部3a,4aに挟まれた部分には突出部8が形成されており,その底面8aは電極板の底部3a,4aの底面と同一平面に位置している。」(甲第6号証1頁12行目〜2頁7行目)(別紙7参照) エ 引用例9には,次のとおりの記載がある。 「従来,絶縁性合成樹脂でモールドされる超小型の電解コンデンサ等の電子部品においては,その端面から引き出した板状端子は部品本体の端面に沿って底面方向に直角に折り曲げ,更にその中間部を部品本体の底面部に沿ってL字型に折曲している。 このようなチップ型電子部品では,プリント基板の配線導体に直接半田付けすることから,板状端子は部品本体の底面部に沿って水平に折曲されていることが望ましい。」(甲第9号証1頁17行目〜2頁6行目) オ 以上のとおり,チップ型電子部品において,外部接続端子が,ある程度幅のある板状であり,それらが同部品の相対する二面から引出され,同端子の先端が本体底面に近接するように鍵状(L字状)に折り曲げられている構成は,本件出願当時,周知なものであり,しかも,この構成は,チップ状電子部品を,プリント基板等に,安定して確実に接続することを容易にする,という効果を発揮するものと理解される。 したがって,この周知技術を,同じチップ状の電子部品である引用発明1に適用して,相違点2,及び相違点3の一部に係る構成,すなわち,外部接続端子を板状にし,その外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折り曲げられている構成にすることは,当業者が容易に推考できることである,と認められる。 カ 引用発明2,6及び9が,チップ状電子部品に係るものであり,チップ状抵抗器を含むとしても,そこに具体例として開示されているのは,固体電解コンデンサに関するものであり,被告が指摘するとおり,本件発明の金属箔抵抗体を貼着した絶縁性基板を有するチップ状電子部品について,具体的に記載されているものではない。 しかし,引用発明2,6及び9から抽出し,引用発明1に適用するのは,外部接続端子を板状にすることと,部品の相対する二面から引出され,同端子の先端が本体底面に近接するように鍵状(L字状)に折り曲げること,である。そして,引用発明2等のこの部分の構成は,それ自体意味を持つものであり,それだけを独立して認識し,抽出することに何ら困難はなく,さらに,チップ抵抗器である引用発明1にとっても好ましい性質(基板への安定した取付)を備えさせるものなのである。 キ 引用発明1において,その棒状の外部接続端子を板状にすることが,困難なものであるとは認められない。かえって,引用発明1と同じ構造の抵抗器である引用発明4では,この外部接続端子は「NEW UNIT CONSTRUCTION ("PADDLE LEADS")(幅広のリード)」となっていることからは,引用発明1の外部接続端子を,板状とすることが可能である,と認められるのである(甲第4号証)。 ク チップ状電子部品の相対する二面から外部接続端子が引出される構成についても,引用発明1がそれを採用することを阻害する事由の存在は見当たらない。このことは,引用発明1と同じ構造のチップ状抵抗器を開示する甲11明細書で,その第6図AないしDにおいて,外部接続端子が相対する方向から引き出される構成が開示されていることから,明らかである(甲第11号証)(別紙8,9参照)。 ケ 以上のとおりであって,相違点2に係る構成及び相違点3のうち,外部接続端子を板状として,その外部突出端が外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折り曲げられている,との構成の容易推考性を肯定した審決の前記判断に誤りはない。 (5) 相違点3のうち,外部接続端子が,絶縁性基板に,その一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着され,その一辺に直交する幅で延びている,との構成の容易推考性について ア 審決は,この点について, 「この外部接続端子を「絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着」するように構成することは,甲第1乃至9号証(判決注・引用例1ないし9)からも認めることができず,また「板状」になす際には当然に絶縁性基板に「その一辺のほぼ全長に亘る幅」で貼着するものとなるものではなく,さらに当業者における技術常識乃至設計上の技術的事項であるものとも認められない。・・・ 甲第2号証はチップ状電子部品に関するもので・・・外部接続端子の一端部が外装樹脂内で絶縁性基板の他側面に密着する幅が「その一辺のほぼ全長に亘る幅で」あり,かつ「この一辺に直交する方向に伸びて」いるという本件発明の上記構成は記載されておらず,示唆もされていない。・・・」(甲第12号証23頁8行目〜35行目), として,引用例1ないし9のいずれにも,外部接続端子の一端部が外装樹脂内で絶縁性基板の他側面に密着する幅がその一辺のほぼ全長に亘る幅であり,かつこの一辺に直交する方向に延びているという本件発明の構成は記載も示唆もされていない,としている。 イ 引用例2には,「この欠点即ち端子(判決注・板状端子2)からの熱伝導を避けることは,端子を細くすることで或る程度小さくすることはできる」(甲第2号証3頁11行目〜13行目),との記載があり,板状端子の幅と熱伝導との関連が示され,板状端子の幅を広いものにすれば,これを介する熱伝導が高くなることが開示されているといえる。 ウ 引用発明4は,引用発明1と同じ構造のチップ抵抗器(ただし,前記のとおり,幅広(PADDLE)の外部接続端子を採用している。)であり,引用例4は,引用発明4の特徴として,「ビシェイ社は,その有名なS102の改良型を進歩させてきました。このS102は,世界で最も精密な抵抗器として,工業及び軍事の全体に亘って,長く知られております。」(甲第4号証1枚目左欄本文1行目〜3行目)(訳文4頁5行目〜7行目),「長期的な安定-S102C抵抗器の顕著な特徴は,ビシェイのバルクメタルの技術を基礎としています。特別な合金から成る固体層は,その電気的特性,機械的特性及び熱応力特性の組み合わせに応じて選択されます。そして,不要な冶金学的又は構造的変化を導かない独特の工程によって,注意深くセラミックの基板に貼り合わされます。その後,「幅広のリード」が,抵抗器チップに溶接されます。セラミック基板と,より一層放熱効率に優れた特性を持つリード部材との組み合わせが,S102C(抵抗器)の優れた耐湿性及び耐高温放置特性と,負荷寿命耐性の向上の大きな要因となっています。」(甲第4号証1枚目左欄本文7行目〜18行目・訳文4頁11行目〜18行目),と述べている。 すなわち,幅広のリードを用いることにより,より効率的な熱放散ができ,耐熱性が高まる,としている。 エ 引用例5には,「本発明による半導体装置は,金属板の半導体素子と反対の面に熱伝導の良い絶縁性基板を接着し,各々の外部引出しリード線の先端を絶縁体基板に装着させる。かかる構成により封止樹脂を通さずに外部へ熱放散を行うことができ,過渡熱抵抗を小さくすることが可能となる。」(甲第5号証2頁目左欄3行目〜8行目)(別紙5参照),と記載されている。 オ 上記の引用例2,4及び5からは,熱伝導の良い絶縁性基板に貼着されたリード(引用発明1の「Tinned copper lead」,本件発明の外部接続端子に該当)が,熱放散効果を上げ得ること,この熱放散効果は,リードの幅が広いほど高くなることが,本件出願当時周知の技術であり,かつ,そのような熱放散効果は,引用発明1と同構造で,棒状のリードの代わりに幅広のリードを採用する引用発明4において,好ましい性質(高い耐熱性、負荷寿命特性)をもたらすと考えられていたことを認めることができる。 引用発明1において,板状の外部接続端子を採用し,かつ,チップ抵抗器の相対する二面から,それぞれ端子を引き出す構成とすることを,当業者が容易に推考できることは,前記のとおりである。そして,当業者であれば,そのような構成を採用する場合,なるべく広い面積で絶縁性基板に接合させるため,板状の外部接続端子の幅を絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅とすることは,熱放散が最も高くなる基本的な態様の一つとして,容易に推考できる,設計的な事項である,というべきである(それ以上幅を広くしても,接触面積を増やすという観点からは無意味であり,むしろ,部品の小型化という観点からは有害となるといえる。)。 そして,その場合,外部接続端子が,絶縁性基板の一辺に直交する方向に延びている構成となることは,ごく自然なことである。 カ 被告は,引用発明1と5を組み合せると,別紙6のような構成が想到されるにすぎない,と主張する。しかし,外部接続端子を,チップ抵抗器の相対する2面から引き出す構成を採用する以上,別紙6の(C)のような引出し方を採用する必然性は全くない。 また,被告が主張するように,絶縁性基板と外部接続端子の接触面積を増やす方法としては,例えば,外部接続端子の幅ではなく,長さを,絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る態様とすることも考えられることは事実である。しかし,可能な複数の方法が存在するとしても,上記相違点3に係る構成は,それら複数の方法のうちの最も基本的なものの一つであることはいうまでもないから(前記のとおり,周知の技術思想である,接触面積を最大にし,かつ,部品の小型化に抵触しないという要請にかない,かつ,部品の安定取付にも寄与するものである。),当該構成を採用することは,当業者が容易に推考し得る設計事項の一つである,とする上記判断の妨げとなるものではない。 キ 以上のとおりであるから,相違点3のうち,外部接続端子が,絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着され,この一辺に直交する方向に延びているという本件発明の構成もまた,本件出願当時,引用例2,4及び5の周知技術に基づいて,当業者が想到することは容易であった,というべきであり,この点に関する審決の前記判断は誤りであって,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。 (6) 顕著な作用効果の存在の認定の誤りについて ア 被告は,本件訂正により付加された構成(外部接続端子が,絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着され,この一辺に直交する方向に延びている,との構成)により,より高い放熱効果が得られ,精度が一層向上する,と主張する。 しかし,既に述べたとおり,上記構成は容易に推考できるものであり,これにより高い放熱効果が得られることは,周知技術であって,当業者が当然に予測できるものであるから,上記作用効果を特許性の根拠とすることはできない。 イ 被告は,本件発明は,引用例1には開示されていない,温度上昇に伴う抵抗体の抵抗値の変化を,基板の線膨張を利用して抵抗体に応力を加えることにより相殺し,抵抗温度係数を小さくするという技術思想を有している,と主張する。 引用発明1に,引用例2,4ないし6,9に記載の技術を適用して,本件発明の構成に容易に想到することができることは,既に述べたとおりである。被告が主張する上記技術思想を要することなく,本件発明の構成に至ることができる以上,上記技術思想が,引用例1(ないし他の引用例)に開示されていないとしても,そのことは,本件発明の特許性の判断に何ら影響するものではない。 2 結論 以上のとおりであるから,原告が主張する取消事由1は理由があり,その余の点について判断するまでもなく,審決は取消を免れない。そこで,原告の本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |