関連審決 | 異議2000-74060 |
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関連ワード | 発明者 / 製造方法 / 頒布された刊行物 / 頒布性 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 化学構造 / 優先権 / 特許出願日 / 容易に想到(容易想到性) / 不存在 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
298号
特許取消決定取消請求事件
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原告 富士ゼロックス株式会社 訴訟代理人弁理士 佐藤清孝 同 清水昇 同 牛久保学 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 城所宏 同 一色由美子 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/07/07 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が異議2000-74060号事件について平成14年4月30日にした決定を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「イエロートナー及びその製造方法」とする特許第3039191号発明(平成5年3月16日出願,平成12年3月3日設定登録,以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。 本件特許につき特許異議の申立てがされ,異議2000-74060号事件として特許庁に係属したところ,原告は,平成13年5月18日,本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲等についての訂正(以下,この訂正に係る明細書を「訂正明細書」という。)を請求した。 特許庁は,同事件につき審理した結果,平成14年4月30日,「訂正を認める。特許第3039191号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同年5月20日,原告に送達された。 2 訂正明細書の特許請求の範囲の記載 【請求項1】結着樹脂中に下記式(I)で示される化合物を含有し,トナーの体積平均粒子径d50 が2μm (以下,上記請求項1及び2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」,「本件発明2」という。) 3 決定の理由 決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件発明1は下記刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて,本件発明2は下記刊行物1ないし6に記載された発明に基づいて,それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,拒絶の査定をしなければならない特許出願に係る発明に対して付与されたものであり,取り消されるべきものとした。 記 刊行物1 ヘキスト・アクチェンゲゼルシャフト(以下「ヘキスト社」という。)作成のカタログ「Electrophotography Charge Control Agents Pigments 」(1991年5月ドイツ連邦共和国で印刷)(甲3-1,以下「本件カタロ グ」という。) 刊行物2 「Dyes and Pigments」VOL.15 NO.1,1〜14頁 刊行物3 特開昭62-157051号公報 刊行物4 特開平2-282756号公報 刊行物5 特開昭62-30259号公報 刊行物6 特開平4-242752号公報 |
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原告主張の決定取消事由
決定は,本件カタログ(甲3-1)の頒布性についての認定を誤り(取消事由),この誤った認定に基づいて本件発明1,2の進歩性を否定する結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである(本件カタログに記載された「PV Fast Yellow HG(Pigment Yellow 180,benzimidazolone)」(以下「ピグメント・イエロー180」という。)が本件明細書の請求項1,2の化学式(I)で示される化合物と同一の化学構造式を有するものであること,決定の,本件カタログに記載された発明と本件発明1,2との一致点及び相違点の認定,並びに相違点についての判断は争わない。)。 1 取消事由(本件カタログの頒布性についての認定の誤り) 決定は,クラリアントジャパン株式会社(以下「クラリアントジャパン」という。)代表者A作成の平成13年9月25日付け証明書(甲4,以下「甲4証明書」という。)に,本件カタログを平成3年(1991年)9月以降,日本国内で頒布した旨が記載されているということのみに基づいて,本件カタログが本件特許出願日前に日本国内において頒布されたと認定したが,誤りである。 (1) 本来,カタログは,顧客とのビジネス機会を求めるという性格のものであるから,誠実な商習慣上,そのカタログに記載されている製品を商品として販売し得る状況にあるか,少なくとも近日中に販売し得る状況になければ,頒布されることはあり得ない。したがって,本件カタログが頒布されたと認めるためには,その頒布開始時期として甲4証明書に記載された平成3年9月に,本件カタログに記載されたピグメント・イエロー180がフルカラートナー用顔料の商品として存在したことが前提となる。 (2) しかし,本件カタログの作成者であるヘキスト社は,平成7年10月4日にした特許出願(優先権主張日平成6年10月5日・ドイツ連邦共和国)の願書に添付した明細書(甲5)の中で,「市販のピグメント・イエロー180は,・・・フルカラートナー中で使用するのには不十分な透明性という欠点を有し,このことはこの分野でのそれの使用を最初から不可能にする」(段落【0009】)として,ピグメント・イエロー180がフルカラートナー用顔料の商品として存在していないことを自ら述べている。また,甲4証明書に本件カタログの配布先の一つとして記載されたミノルタ株式会社が平成7年3月28日にした特許出願の願書に添付された明細書(甲6)には,ピグメント・イエロー180を用いてイエロートナーを製造することが記載されており(段落【0021】,【0037】),これによれば,同社は,ピグメント・イエロー180はフルカラートナー用顔料ではないとの認識の下に上記出願を行ったものと考えられる。株式会社リコーも,平成5年2月2日にした特許出願の願書に添付した明細書(甲7)の中で,「この化合物(注,ピグメント・イエロー180)が静電潜像現像用カラートナーの着色剤として使用されたことの報告に本発明者らは未だ接していない」(【段落0013】)と述べている。 さらに,カタログが頒布されたとする時期に,ヘキスト社の日本法人であるヘキストジャパン株式会社(以下「ヘキストジャパン」という。)は,原告の担当者と良好な関係を保っており,当時他用途向けに商品化されていた「PV FAST Yellow HG」(注,ピグメント・イエロー180の商品名)を提示してフルカラー用イエロートナーの開発に協力してきたが,その間,本件カタログの提示はもとより,フルカラートナー用途としての「PV FAST Yellow HG」の紹介もされなかった。 本件発明1,2の発明者であるBは,本件特許の出願日である平成5年3月16日以前に,ヘキストジャパンにフルカラートナー用に用いるピグメント・イエロー180の購入を打診したが,「フルカラートナー用顔料として用いるピグメント・イエロー180は販売されていない」旨の回答を得ている。 なお,本件カタログに記載されているフルカラートナー用顔料は,乾式現像用のものであるところ,被告が主張する特開平5-19538号公報(乙1,以下「乙1公報」という。)は液体(湿式)現像剤に関するもの,特開平5-214284号公報(乙2,以下「乙2公報」という。)は,インクジェットプリンタに関するものであって,いずれも技術的に異なり,転用の可能性もないから,乙1公報及び乙2公報は,本件カタログにいうフルカラートナー用顔料としてのピグメント・イエロー180の存在証明にはなり得ない。 (3) 上記の事実よりすれば,本件カタログが日本国内で頒布が開始されたとされる平成3年9月には,ピグメント・イエロー180はフルカラートナー用顔料の商品としては存在しておらず,商品が存在していない以上,本件カタログがそのころ日本国内で頒布されたことはないと考えざるを得ない。 2 以上のとおり,決定は,本件カタログの頒布性についての認定を誤ったものであるから,この誤った前提に基づく本件発明1,2の進歩性の判断も誤りである。 |
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被告の反論
1 取消事由(本件カタログの頒布性についての認定の誤り)について 乙1公報及び乙2公報によれば,平成3年当時,ピグメント・イエロー180は,ヘキスト社から「PV FAST Yellow HG」の商品名で市販されていたことが明らかであり,商品として存在していたものである。したがって,商品の不存在を理由に,本件カタログの頒布を否定する原告の主張は理由がない。 しかも,本件カタログは,多くの製品が紹介されているカタログであるから,仮に,カタログ中の一部の製品が商品として存在しないとしても,そのことのみを理由にカタログが頒布されないと結論づけることはできない。 2 したがって,決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由(本件カタログの頒布性についての認定の誤り)について (1) 決定は,「刊行物1(注,本件カタログ)は,本件特許の出願日以前日本国内において頒布されたものと認められる」(決定謄本10頁第5段落)との認定を前提にして,「刊行物1の(1a)には,『Pigmemt Yellow180』が『プロセスカラー用』(3原色用)として使用できることが記載されているから,該顔料は本件発明で規定する『フルカラー用』に該当するものである。そして,刊行物2の(2c)から明らかなとおり,刊行物1に記載された『Pigmemt Yellow 180』の化学構造式は,本件請求項1に記載された式(T)で表される化学構造式と一致する。また,刊行物1の(1b)には,マスターバッチとして,樹脂とともに混練することを示しているから,顔料を結着樹脂中に含有させてトナーを製造することも示されている」(同頁第6〜第8段落)と認定した上,本件発明1と刊行物1に記載された発明との相違点(1),(2)について,当該相違点に係る構成はいずれも当業者にとって容易に想到し得るものであると判断し(同頁下から第2段落〜12頁第3段落),また,本件発明2と刊行物1に記載された発明との相違点(1)〜(3)についても,当該相違点に係る構成は当業者に想到容易ないし公知の技術事項であると判断した(同12頁下から第3段落〜13頁下から第4段落)のに対し,原告は,本件カタログ(甲3-1)は,本件特許出願日前に日本国内で頒布されたものではないと主張する。 本件カタログに記載されたピグメント・イエロー180(本件カタログ上の記載「PV FAST Yellow HG(Pigment Yellow 180,benzimidazolone)」)が本件請求項1,2の化学式(I)で示される化合物と同一の化学構造式を有するものであること,決定の,本件カタログに記載された発明と本件発明1,2との一致点及び相違点の認定,並びに相違点についての判断は,原告において争っていない。 そうすると,本件の争点は,本件カタログが本件特許出願前に日本国内において頒布されたものか否かという点に尽きるから,以下,この点について検討する。 (2) 本件カタログ(甲3-1)は,ドイツ連邦共和国のヘキスト社発行の「Electrophotography/ Charge Control Agents/Pigment」(電子写真 荷電制御剤 顔料)と題する,表紙を含めて8頁の英文小冊子であって,電子写真用の荷電制御剤及び顔料に関するヘキスト社の製品群を紹介するものである。その5頁には,プロセスカラー用のカラートナー用顔料として,マゼンタにつき2種,イエローにつきピグメント・イエロー180を含む6種,シアンにつき1種の顔料と,スポットカラー用の顔料4種が掲載され,6頁には「4 一般情報」として,予備分散やヘキスト社の品質管理に関する記事があり,同頁右下欄に,「May 1991 Printed in the Federal Republic of Germany」(1991年5月 ドイツ連邦共和国において印刷)との記載がある。 以上によると,本件カタログは,1991年(平成3年)5月にドイツ連邦共和国内において印刷されたものと認められる。 (3) ところで,原告は,本件カタログが本件特許出願日前に日本国内において頒布された事実はないと主張する。しかし,甲4証明書には,本件カタログは一般顧客向けに配布されたカタログであるが,日本に送付されるまでの期間並びに商品の準備期間も必要であったことから,クラリアントジャパンが顔料添加剤事業部を引き継ぐ前のヘキストジャパンが日本において一般顧客向けに1991年(平成3年)9月から配布を開始したと記載され,その配布先として具体的に5社の名称(三木産業株式会社,株式会社巴川製紙所,ミノルタ株式会社,大日本インキ化学工業株式会社及び花王株式会社)が挙げられており,そこに記載された内容を疑うべき特段の事情は認められないから,本件カタログは,その記載内容どおり,平成3年9月以降,日本国内において,少なくとも上記5社に対し,頒布されたものと認めるのが相当である。 これに対し,原告は,平成3年9月には,ピグメント・イエロー180は乾式現像用のフルカラートナー用顔料に用いる商品として存在しておらず,存在しない商品を掲載したカタログが頒布されることは,商業常識上あり得ないから,本件カタログがそのころ頒布されたことはあり得ないと主張する。しかし,本件カタログは,多くの製品を掲載しているカタログであるから,仮に,原告主張のとおり,カタログ中の一部の製品が,当時,日本で商品として市販されていなかったとしても,そのことのみを理由に本件カタログが頒布されなかったと推論することはできない。のみならず,上記配布先のうちの1社である大日本インキ化学工業株式会社が同年7月9日に出願した静電荷現像用イエロー液体現像剤の発明に係る乙1公報には,ヘキスト社のピグメント・イエロー180を使用した実施例が記載されている(段落【0032】,【0035】)。そうすると,平成3年にはピグメント・イエロー180が日本国内において商品として入手可能な状態となっていたことは明らかであり,ピグメント・イエロー180が乾式処理用のフルカラートナー用顔料に用いる商品としては存在しなかったとしても,そのことから直ちに本件カタログの頒布性を否定することはできないから,原告の主張は,採用することができない。その他,原告が上記第3の1(2)において主張する事実も,本件カタログの頒布性に関する上記認定を左右するものではない。 (4) したがって,本件カタログは,本件特許出願前に頒布された刊行物と認められるものであるから,原告の取消事由の主張は理由がない。 2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に,決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 岡本岳 |