関連審決 | 不服2012-21082 |
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事件 |
平成
26年
(行ケ)
10004号
審決取消請求事件
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原告帝國製薬株式会社 訴訟代理人弁理士 草間攻 被告特許庁長官 指定代理人千葉成就 同 渡邊真 同 井上茂夫 同 堀内仁子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2015/01/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2012-21082号事件について平成25年11月28日にした審決を取り消す。 |
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前提事実
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。) 原告は,発明の名称を「包装袋」とする発明につき,平成18年10月11日を出願日とする特許出願(特願2006-278057号。以下,「本願」という。)をし,平成24年1月19日付けの手続補正書により,特許請求の範囲についての手続補正(以下「本件補正」という。)を行ったが,同年7月30日付けで拒絶査定を受けたため,同年10月25日,拒絶査定に対する不服の審判(不服2012-21082号)を請求した。 特許庁は,平成25年11月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同年12月11日,原告に送達した。 2 特許請求の範囲の記載 本件補正後の本願の特許請求の範囲(請求項の数は7である。)の請求項1の記載は,以下のとおりである(甲1。以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」という。また,本件補正後の本願の明細書及び図面を併せて「本願明細書」という。。 ) 「【請求項1】 積層シートからなる三方シールまたは四方シールの形態にある包装袋であって,積層シートとして少なくとも基材層,バリア層,難開封機能層としての二軸延伸ポリプロピレンフィルム層,及びシーラント層を含み,易開封機能であるノッチやミシン目加工を施さないことを特徴とする包装袋。」 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願出願前に頒布された国際公開2004/026715号(甲3。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 審決が認定した刊行物1発明の内容,本願発明と刊行物1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (1) 刊行物1発明の内容 「第1積層材料Aからなる周囲をヒートシールされてなる包装袋であって,第1積層材料Aとして基材1a,蒸着層1b,印刷インキ層2,接着層3,二軸延伸ポリプロピレンフィルム層からなる支持体層4,接着層3,及びシーラント層5を含む包装袋。」 (2) 一致点 「積層シートからなる三方シールまたは四方シールの形態にある包装袋であって,積層シートとして少なくとも基材層,バリア層,二軸延伸ポリプロピレンフィルム層,及びシーラント層を含む包装袋。」である点。 (3) 相違点 「本願発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルム層は「難開封機能層としての」二軸延伸ポリプロピレンフィルム層であり,易開封機能であるノッチやミシン目加工を施さないのに対し,刊行物1発明ではこのような特定がなされていない点。」 |
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当事者の主張
1 原告の主張(取消事由) 審決は,次のとおり,刊行物1発明の認定を誤った結果,二つの相違点を看過し,相違点の判断を誤ったものであるから,取り消されるべきである。 (1) 刊行物1発明の認定の誤り 審決は,刊行物1発明を「第1積層材料Aからなる周囲をヒートシールされてなる包装袋であって,第1積層材料Aとして基材1a,蒸着層1b,印刷インキ層2,接着層3,二軸延伸ポリプロピレンフィルム層からなる支持体層4,接着層3,及びシーラント層5を含む包装袋。」と認定した。 しかし,刊行物1には,第1積層材料Aのみ又は第2積層材料Bのみを用いてシーラント層を内側に重ね合わせ,周囲をヒートシールして構成することは開示されていない上,刊行物1発明は,「酸素バリア性が高い包装袋」(甲3・1頁5行)を提供するものであるから,酸素吸収剤層を積層させた第2積層材料Bを用いることを必須とし,これを省略することはできない。また,刊行物1には本願発明の課題である安全性の向上に関する記載はなく,刊行物1に接した当業者は,小児等が簡単に開封することができないようにするため,第1積層材料Aのみを用いた包装袋とする動機付けもない。 したがって,刊行物1発明は,「基材片面上に蒸着層を設けてなるバリア層と,合成樹脂からなるシーラント層を設けた第1積層材料と,基材片面上に蒸着層を設けてなるバリア層と,酸素吸着剤を混入させた合成樹脂からなる酸素吸着剤層,及び合成樹脂からなるシーラント層を設けた第2積層材料とを,シーラント層を内側に重ね合わせ,周囲をヒートシールしたことからなることを特徴とする包装袋。」(請求項1)と認定すべきであって,審決の刊行物1発明の認定は誤りである。 (2) 相違点の認定及び判断の誤り 審決は,上記のとおり,刊行物1発明の認定を誤った結果,本願発明と刊行物1発明の相違点である,@「本願発明は,同一の積層構造を有する積層シートを用いる三方シールまたは四方シールの形態にある包装袋であるのに対して,刊行物1発明は,それぞれ別個の積層構造を有する積層シートを用いて三方シールまたは四方シールの形態にある包装袋とする点」,A「本願発明の積層シートは,酸素吸収剤層を積層しているものではないのに対して,刊行物1発明は,包装袋を構成する一方の積層シートとして酸素吸収剤層を積層した積層シートを用いることを必須とする点」を看過した。そして,当業者は,これらの相違点にかかる構成を容易に想到することはできないのであるから,審決は相違点の判断も誤ったものである。 したがって,前記(1)の刊行物1発明の認定の誤りは結論を左右する誤りであり,審決は取り消されるべきである。 (3) 被告の主張に対する反論 ア 被告は,刊行物1には,酸素吸収剤層を含まない積層材料A同士をシーラント層5を内側にして作成した包装袋が比較例として記載されている旨主張する。 しかし,上記比較例は従来技術として記載されたものであって,本願発明の特許性の存否を対比・検討する文献として刊行物1を挙げ,刊行物 1 に記載された発明との関係において特許性の有無を検討する以上,刊行物1が本来の目的として開示する包装袋の発明から乖離した発明を刊行物1発明として認定する必要はない。 イ 被告は,本願発明は,異なる積層シートから構成される包装袋を含むものであるし,酸素吸収剤層を含む積層シートを排除するものとも認められない旨主張する。 しかし,本願明細書には,異なる積層シートを重ね合わせ,包装袋としてもよいとの記載は一切なく,請求項1の記載からしても,本願発明が,異なる積層シートから構成される包装袋を含むと解釈することはできない。 また,本願発明の「少なくとも・・・層を含む」とは,積層シートとしての層構造である基材層/バリア層/難開封機能層としての二軸延伸ポリプロピレンフィルム層/シーラント層を,少なくとも必須の構成層として含むことを意味するものであって,それ以外の機能層を積極的に含むことを意味しているものではなく,本願発明の目的に即した機能を発揮する限りにおいて,他の樹脂層を積層することまでは許容されるが,本願発明の目的と何ら関係のない酸素吸収剤層の積層までをも許容しているものではない。 2 被告の主張 (1) 刊行物1発明の認定の誤りに対し ア 刊行物1発明の目的は,アルミニウムなどの単体金属,アルミナや酸化珪素等のような無機酸化物を蒸着した蒸着薄膜を用いてガスバリア性を付加した包装袋であっても,易開封機能である切り溝を設けることによって,ガスバリア性の低下及び内容物の劣化を防止する包装袋を提供することであり,刊行物1には,切り溝からのガスの侵入を防止するために,酸素吸収層を積層材料に加えた包装袋が記載されている。また,その前提となる従来技術として,酸素吸収層6を含まない第1積層材料A同士をシーラント層5を内面にして作成した包装袋が,酸素吸収層を設けた実施例に対する比較例として記載されている。 そして,これらの記載に加えて酸素吸収層を含まない同一の積層材料同士を,シーラント層を内面にしてシールして作成した包装袋は広く知られているという技術常識を踏まえると,当業者であれば,刊行物1発明として酸素吸収層のない第1積層材料A同士をシールして作成した包装袋を,独立した包装袋の発明として認定することが可能である。 したがって,審決の認定に誤りはない。 イ 原告は,刊行物1発明は酸素吸収剤層を積層させた第2積層材料Bが必須である旨主張する。 しかし,包装袋の設計においては,包装される内容物の種類,形状,内容量,保存期間などの要求項目に適合した包装材料を選択すること,要求項目が複数の場合に要求項目ごとに適した材料を積層することは技術常識である。そして,刊行物1記載の包装袋は,レーザー光を照射して易開封機能である切り溝を設ける際に生じる課題を解決するために,酸素吸収層を設けた第2積層材料Bを片面又は両面に選択し得るとしているのであって,積層材料に切り溝を設けることは,内容物保護と品質保持という包装袋にとっての本質的な機能ではないから,酸素吸収層を設けた第2積層材料Bは必須のものではない。 したがって,刊行物1の記載に接した当業者であれば,技術常識及び包装袋の本質的機能からみて第1積層材料Aを用いて包装袋を形成できることが理解できるものであり,原告の主張は理由がない。 (2) 相違点の認定及び判断の誤りに対し 原告は,本願発明の包装袋が同一の積層シートから構成されること,積層シートが酸素吸収剤層を含まないことを前提として相違点の看過を主張する。 しかし,本願発明は,異なる積層シートから構成される包装袋を含むものであるし,酸素吸収剤層を含む積層シートを排除するものとも認められないから理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明及び刊行物1の記載について (1) 本願発明の要旨 本願明細書によれば,本願発明は,医薬品,医薬部外品及び化粧品等,更には日用雑貨品等を充填する包装袋に関するものであるところ(【0001】 ,近年の包 )装形態は「誰でも容易に扱える」ように配慮されている一方で,内容物が医薬品等の場合に誤飲,誤用が生じると重大な問題を生じるにもかかわらず,これを防止できるものとはなっていない(【0006】【0007】。そこで,本願発明は,乳幼 )児,小児等が簡単に開封することができず,包装袋の内容物を容易に取り出すことができないよう安全性の向上を図った包装袋を提供することを課題として,積層シートからなる三方シールまたは四方シールの形態にある包装袋であって,積層シートとして少なくとも基材層,バリア層,二軸延伸ポリプロピレンフィルム層及びシーラント層を含み,ノッチやミシン目加工を施さないことを特徴とする包装袋を提案するものであって(【0010】【0029】,積層構造中に難開封機能層として )機械的強度の強い二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム層を設けることによって,幼児,小児等が簡単に手で開封することができないものとして内容物の誤飲・誤用等を防止するとともに,包装袋内に充填する内容物としては,医薬品としてのテープ剤,錠剤,液体等の剤型を選ばず,開封後の内容物の取り出しは従来どおり行うことができるという効果を有するものである(【0016】【0017】。 ) (2) 刊行物1発明 ア 刊行物1には,次のとおりの記載がある(甲3。図については,別紙刊行物1発明図面目録参照)。 (ア) 請求の範囲 「1.基材片面上に蒸着層を設けてなるバリア層と,合成樹脂からなるシーラント層を設けた第1積層材料と,基材片面上に蒸着層を設けてなるバリア層と,酸素吸収剤を混入させた合成樹脂からなる酸素吸収剤層,及び合成樹脂からなるシーラント層を設けた第2積層材料とを,シーラント層を内面にして重ね合わせ,周囲をヒートシールしてなることを特徴とする包装袋。 (15頁2行ないし7行) 」 (イ) 明細書 「技術分野 本発明は,積層材料を重ね合わせて周囲をヒートシールしてなる包装袋に関し,特に,易開封機能を有し,かつ酸素バリア性が高い包装袋に関する。 背景技術 従来から,包装袋には,内容物の保護と品質保持が求められており,特に,食品,医薬品,トイレタリー品等を内容物とする包装袋は,内容物の変質,漏れの観点から,内容物の種類,形状,内容量,保存期間などの要求項目に適合した包装材料の選択等の包装設計が行われている。・・・ 包装袋としては,各種のプラスチックフィルムを積層し,多層化した積層材料が用いられる。例えば,基材の片面上に,各種プラスチックフィルムを積層し,最外層にシール可能なシーラント層を設けた積層材料を用いて,積層材料同士のシーラント層を内面に重ね合わせ,周囲すなわち三方または四方をヒートシールしてなる包装袋が知られている。 従来は,内容物の保護と品質保持の観点から,包装袋に酸素や水蒸気を防止するガスバリア性を付加するために,基材にアルミニウム箔などの材料を積層していたが,軽量化,廃棄性等の問題から,最近では,アルミニウム箔の代替品としてガスバリア性の優れた各種の蒸着薄膜が用いられている。 (1頁3行ないし23行) 」 「一方,包装袋には,包装袋から内容物を容易に取り出すための利便性が重要である。その方法として,多くの包装袋のシール部には,切り溝からなる易開封機能が設けられ,その切り溝をきっかけにして包装袋を開封し,内容物を容易に取り出す工夫がなされている。 この包装袋に切り溝からなる易開封機能を設ける方法として,従来は,雄型と雌型からなる金属製の金型で機械的に切り溝を包装袋の所定の位置に設けていたが,最近では,電磁波の1種であるレーザー光を利用して包装袋のシール部の所定の位置に切り溝を設けることが普及している・・・。(2頁15行ないし23行) 」 「ところが,従来のように,基材にアルミニウム箔を用いてガスバリア性を付加した包装袋は,レーザー光で切り溝を作成しても,アルミニウム箔自身がレーザー光を反射し,アルミニウム箔が切断されることはないため,ガスバリア性が低下することないが,アルミナや酸化珪素等のような無機酸化物を蒸着した蒸着薄膜を用いてガスバリア性を付加した包装袋では,レーザー光を照射して易開封機能である切り溝を設けると,該レーザー光が蒸着薄膜を切断してしまい,該切断面から包装袋内に酸素が侵入し,内容物の劣化をきたす問題が生じる。 従って,本発明は,アルミニウムなどの単体金属,アルミナや酸化珪素等のような無機酸化物を蒸着した蒸着薄膜を用いてガスバリア性を付加した包装袋であっても,易開封機能である切り溝を設けることによって,ガスバリア性の低下及び内容物の劣化を防止する包装袋を提供することを目的とする。 (3頁1行ないし13 」行) 「発明の開示 上記目的を達成するために,本発明の包装袋は下記の如く構成されている。 (1)本発明の包装袋は,基材片面上に蒸着層を設けてなるバリア層と,合成樹脂からなるシーラント層を設けた第1積層材料と,基材片面上に蒸着層を設けてなるバリア層と,酸素吸収剤を混入させた合成樹脂からなる酸素吸収剤層,及び合成樹脂からなるシーラント層を設けた第2積層材料とを,シーラント層を内面にして重ね合わせ,周囲をヒートシールされている。(3頁14行ないし22行) 」 「上記(1)・・・に記載の包装袋によれば,包装袋を構成する第2積層材料に酸素吸収層を少なくとも一層以上積層することにより,アルミニウムなどの単体金属や,アルミナや酸化珪素等のような無機酸化物を蒸着した蒸着薄膜を用いてガスバリア性を付加した包装袋に,易開封機能の切り溝をレーザー光で作成しても,切り溝から包装袋内へ侵入する酸素は,該酸素吸収層によって吸収されるため,包装袋内の酸素濃度は上昇せず,内容物の保存性が良く,容易に開封可能な利便性を有する。(5頁7行ないし14行) 」 「発明を実施するための最良の形態 以下,本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。 図1aは,基材1a片面上に蒸着層1bを設けてなるバリア層1の該蒸着層1b上に,印刷インキ層2を設け,該印刷インキ層2に接着層3を介して支持体層4を設け,更に該支持体層4に接着層3を介してシーラント層5を設けた第1積層材料Aの断面図である。 図1bは,基材1a片面上に蒸着層1bを設けてなるバリア層1の該蒸着層1b上に,接着層3を介して,酸素吸収剤を混入させた合成樹脂からなる酸素吸収剤層6bを合成樹脂層6aと合成樹脂層6aの間に設けてなる酸素吸収層6を設け,更に該酸素吸収層6に接着層3を介してシーラント層5を設けた第2積層材料Bの断面図である。(6頁2行ないし12行) 」 「図4は,図1aに示す第1積層材料Aと,図1bに示す第2積層材料Bとを,シーラント層5を内面にして重ね合わせ,三方のシール部8をヒートシール方法によりヒートシールして作成した包装袋のバリア層1上から,包装袋を開封する所定の位置に,レーザー光を照射して,該シーラント層5を除く積層部に,易開封機能の開封用の切り溝7を設けた易開封機能を有する包装袋を示す平面図である。なお,図4では,該切り溝7を包装袋の横方向に直線状に設けているが,該切り構7の形状は,直線状に限定されるものでなく,包装袋を開封する所定のシール部8のみに設けられていてもよい。また,図4では,包装袋の開封を更に容易にするためにノッチ9を設けているが,ノッチ9の必要性及び形状等は,包装設計に応じて適宜変更可能である。 図5は,図1aに示す第1積層材料Aと,図1bに示す第2積層材料Bとを,シーラント層5を内面にして重ね合わせ,三方のシール部8をヒートシール方法によりヒートシールして作成した包装袋のバリア層1上から,包装袋を開封する所定の位置に,該シーラント層5を除く積層部に,開封用の切り溝7を設けた包装袋の切り構断面図である(図4のY-Y’間の断面図)。 本発明の第1積層材料Aにおけるバリア層1を構成する基材1aは,包装材料として要求される保護性(破裂強さなどの力学的強さ,酸素などを透過させないガスバリア性,耐寒性などの安定性),作業性(包装機械適正など),利便性(開封性など),商品性(印刷適正など),経済性(価格など),安全・衛生性(無毒,易廃棄性など)が満足されれば,特に制約はないが,例えば,通常のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂,ポリアミド(Ny)樹脂,ポリプロピレン(PP)樹脂のいずれか1種の合成樹脂からなる1軸,又は2軸延伸フィルム,或いは塩化ビニリデンをコートした2軸延伸ポリプロピレンフィルム(KOP)を用いることができるが,ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂やポリアミド(Ny)樹脂のフィルムが好ましい。(7頁5行ないし8頁7行) 」 「第1積層材料Aの支持体層4は,合成樹脂からなり,該合成樹脂としては,本発明の該第1積層材料Aにおけるバリア層1を構成する基材1aと同様なフィルムが好ましい。(9頁20行ないし22行) 」 「本発明の第2積層材料Bにおけるバリア層1を構成する基材1a,基材1a上に設ける蒸着層1bを設ける方法は,図1aに示す第1積層材料Aと同様でよい。 第2積層材料Bの酸素吸収層6を構成する合成樹脂層6aは,通常のポリエチレンテレフタレート(PET),ポリアミド樹脂,ポリプロピレン樹脂のいずれか1種の合成樹脂からなる1軸又は2軸延伸フィルムを用いることができる。(10 」頁21行ないし11頁2行) 「(実施例2)(13頁17行) 」 「次に,包装袋のバリア性として酸素透過度を測定したところ,実施例1及び実施例2ともに・・・,かなりの酸素バリア性の劣化が認められた。 そこで,酸素吸収層6を含まない第1積層材料Aと酸素吸収層6を含む第2積層材料Bとをシーラント層5を内面にして重ね合わせて作成した包装袋と,更に酸素吸収層6を含まない該第1積層材料同士Aをシーラント層5を内面にして作成した包装袋を用いて,各々の包装袋を窒素置換を行い,該包装袋の開口部を密閉して完全密閉状態の窒素入り四方シール包装袋を120℃30分レトルト殺菌処理後,40℃90%RHの雰囲気下で2ヶ月保存し,包装袋内の酸素濃度を測定した結果,酸素吸収層6を含まない第1積層材料Aと酸素吸収層6を含む第2積層材料Bの組み合わせによる実施例1と実施例2の包装袋内の酸素濃度は0であったが,酸素吸収層6を含まない第1積層材料A同士の組み合わせによる包装袋内の酸素濃度は3%であった。(14頁5行ないし21行) 」 イ 上記記載からすれば,刊行物1に記載された発明は,積層材料を重ね合わせて周囲をヒートシールしてなる包装袋,特に,易開封機能を有し,かつ酸素バリア性が高い包装袋に関するものであり,従来技術では,アルミニウム単体金属やアルミナや酸化珪素等のような無機酸化物を蒸着した蒸着薄膜を用いてガスバリア性を付加した包装袋では,レーザー光を照射して易開封機能である切り溝を設けると,該レーザー光が蒸着薄膜を切断してしまい,該切断面から包装袋内に酸素が侵入し,内容物の劣化をきたす問題が生じていたことから,刊行物1に記載された発明は,これらの蒸着薄膜を用いてガスバリア性を付加した包装袋であっても,易開封機能である切り溝を設けることによるガスバリア性の低下及び内容物の劣化を防止する包装袋を提供することを目的としている(1頁3行ないし23行,3頁1行ないし13行)。刊行物1は,「第1積層材料Aと第2積層材料Bからなる周囲をヒートシールされてなる包装袋であって,第1積層材料Aとして基材1a,蒸着層1b,印刷インキ層2,接着層3,2軸延伸ポリプロピレンフィルム層からなる支持体層4,接着層3,及びシーラント層5を含み,第2積層材料Bとして,基材1a,蒸着層1b,接着層3,2軸延伸ポリプロピレンフィルム層の合成樹脂層6aと2軸延伸ポリプロピレンフィルムに酸素吸収剤を混入させた酸素吸収剤層6bからなる酸素吸収層6,接着層3,及びシーラント層5を含む包装袋。」を開示するものであって,包装袋を構成する第2積層材料に酸素吸収層を少なくとも一層以上積層することにより,アルミニウムなどの単体金属や,アルミナや酸化珪素等のような無機酸化物を蒸着した蒸着薄膜を用いてガスバリア性を付加した包装袋に,易開封機能の切り溝をレーザー光で作成しても,切り溝から包装袋内へ侵入する酸素は,該酸素吸収層によって吸収されるため,包装袋内の酸素濃度は上昇せず,内容物の保存性が良く,容易に開封可能な利便性を有するという効果があることが記載されている(5頁7行ないし14行)。 2 取消事由について (1) 審決は,刊行物1発明を「第1積層材料Aからなる周囲をヒートシールされてなる包装袋であって,第1積層材料Aとして基材1a,蒸着層1b,印刷インキ層2,接着層3,二軸延伸ポリプロピレンフィルム層からなる支持体層4,接着層3,及びシーラント層5を含む包装袋。」と認定した。これに対し,原告は,刊行物1には,第1積層材料Aのみを用いてシーラント層を内側に重ね合わせ,周囲をヒートシールして構成することは開示されていないから,審決の認定は誤りである旨主張する。 確かに,刊行物1の特許請求の範囲の請求項1には,「基材片面上に蒸着層を設けてなるバリア層と,合成樹脂からなるシーラント層を設けた第1積層材料と,基材片面上に蒸着層を設けてなるバリア層と,酸素吸収剤を混入させた合成樹脂からなる酸素吸収剤層,及び合成樹脂からなるシーラント層を設けた第2積層材料とを,シーラント層を内面にして重ね合わせ,周囲をヒートシールしてなることを特徴とする包装袋。」と記載されており,刊行物1に主として記載されている発明は,第1積層材料Aのみを用いてシーラント層を内側に重ね合わせ,周囲をヒートシールして構成する包装袋ではない。 しかし,刊行物1には,刊行物1に主として記載された発明の実施例との比較例(従来技術)として酸素吸収剤層を含まない第1積層材料A同士の組み合わせによる包装袋が記載されている(甲3・14頁5行ないし21行)。また,本願の出願前に刊行された特開2005-178149号公報(甲8【0030】ないし【0036】,特開2006-103119号公報(甲9【0029】ないし【003 )2】 ,登録実用新案第3001013号(甲10) ) ,特開2004-314985号公報(乙1【0025】ないし【0027】,特開2005-305856号公 )報(乙2【0019】【0020】【0062】,特開2003-312718号 , , )公報(乙3【0074】ないし【0077】)には,いずれも酸素吸収剤層を含まない同一の積層材料同士を,シーラント層を内面にしてシールして作成した包装袋が記載されており,これらの記載によれば,同一の積層材料同士を,シーラント層を内面にしてシールして作成した包装袋は,本願出願当時,当業者にとって周知の技術であったと認められる。さらに,審決が刊行物1発明を認定する際に引用した刊行物1発明の摘示についてみると,(a)「包装袋としては、・・・基材の片面上に、各種プラスチックフィルムを積層し、最外層にシール可能なシーラント層を設けた積層材料を用いて、積層材料同士のシーラント層を内面に重ね合わせ、周囲すなわち三方または四方をヒートシールしてなる包装袋が知られている」(第1頁第14-18行)として包装袋の従来技術が摘示された上で,(b)「本発明の包装袋は、・・・第1積層材料と、・・・シーラント層を内面にして重ね合わせ、周囲をヒートシールされている」(第3頁第17-22行) (c) , 「図1aは、基材1a片面上に蒸着層1bを設けてなるバリア層1の該蒸着層1b上に、印刷インキ層2を設け、該印刷インキ層2に接着層3を介して支持体層4を設け、更に該支持体層4に接着層3を介してシーラント層5を設けた第1積層材料A」(第6頁第4-7行及び図1a) (d) , 「第1積層材料Aの支持体層4は、合成樹脂からなり、該合成樹脂としては、本発明の・・・基材1aと同様なフィルムが好ましい」(第9頁第20-22行)(e) , 「基剤1aは、・・・ポリプロピレン(PP)樹脂のいずれか1種の合成樹脂からなる1軸、又は2軸延伸フィルム、或いは塩化ビニリデンをコートした2軸延伸ポリプロピレンフィルム(KOP)を用いることができる」(第7頁第22行-第8頁6行)という摘示がされており,刊行物1に主として記載されている第1積層材料及び第2積層材料を用いた包装袋のうち,第2積層材料に関する部分が意図的に除かれていることが窺われる。 そして,以上の事実を踏まえて,審決の刊行物1発明に関する認定を善解すれば,審決は,刊行物1の請求項1に記載されている発明を刊行物1発明として認定したものではなく,刊行物1に記載されている従来技術として,前記比較例に代表されるような酸素吸収剤層を含まない第1積層材料Aのみを用いてシーラント層を内側に重ね合わせ,周囲をヒートシールすることによる包装袋を刊行物1発明として認定したものと解される。 したがって,原告の主張は理由がない。 (2) 原告の主張について ア 原告は,刊行物1発明は,「酸素バリア性が高い包装袋」を提供するものであるから,酸素吸収剤層を積層させた第2積層材料Bを用いることを必須とし,これを省略することはできないので,審決は,相違点として,「本願発明は,同一の積層構造を有する積層シートを用いる三方シールまたは四方シールの形態にある包装袋であるのに対して,刊行物1発明は,それぞれ別個の積層構造を有する積層シートを用いて三方シールまたは四方シールの形態にある包装袋とする点。」を看過した旨主張する。 しかし,前記判示したとおり,審決が認定した刊行物1発明は,刊行物1の請求項1に記載されている発明ではなく,刊行物1に記載されている従来技術であると認められるから,原告の主張はその前提を欠くものである。 したがって,原告の主張は理由がない。 イ 原告は,刊行物1に記載された比較例は従来技術として記載されたものであって,本願発明の特許性の存否を対比・検討する文献として刊行物1を挙げ,刊行物1に記載された発明との関係において特許性の有無を検討する以上,刊行物1が本来の目的として開示する包装袋の発明から乖離した発明を刊行物1発明として認定する必要はない旨主張する。 しかし,特許公報に記載されている発明を引用発明として認定する場合,当該特許公報の特許請求の範囲に記載された発明以外の技術を認定することができないわけではなく,明細書に記載されている従来技術を引用発明として認定することも許されるものである。そして,前記(1)で判示したとおり,審決は,刊行物1に記載された従来技術を刊行物1発明として認定したものであって,同技術が刊行物1に主として記載されている発明ではないことは,前記認定を左右しない。 したがって,原告の主張は理由がない。 ウ 原告は,本願発明の「少なくとも・・・層を含む」については,本願発明の目的に即した機能を発揮する限りにおいて,他の樹脂層を積層することまでは許容されるが,本願発明の目的と何ら関係のない酸素吸収剤層の積層までをも許容しているものではない旨主張し,審決は,「本願発明の積層シートは,酸素吸収剤層を積層しているものではないのに対して,刊行物1発明は,包装袋を構成する一方の積層シートとして酸素吸収剤層を積層した積層シートを用いることを必須とする点」を看過したと主張する。 しかし, 前記(1)に判示したとおり,審決は,刊行物1に記載された従来技術を刊行物1発明として認定したのであるから,刊行物1発明は,包装袋を構成する一方の積層シートとして酸素吸収剤層を積層した積層シートを用いることを必須とする原告の主張は,その前提を欠くものであって理由がない。 3 まとめ 以上のとおり,原告主張の取消事由には理由がなく,審決が認定した相違点に関する判断については当事者間に争いがない。したがって,本願発明は刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決の結論に誤りはない。 4 なお,本件の審理に鑑み,一言付言する。本件は,刊行物1発明の認定が問題となった事案であり,審決は刊行物1に記載されている従来技術を認定したものと解され,原告の主張に理由がないことは前記2で判示したとおりである。しかし,審決は,この点の説示が必ずしも明確でなかったため,本件訴訟にまで至ったものと思われる。審決において,特許公報等の刊行物を用いて引用発明を認定する際に,特許請求の範囲等に記載されている発明自体ではなく,当該刊行物に従来技術として記載されている発明を認定する場合には,当事者に誤解を与えないようにするため,「刊行物には,従来技術として,次の発明が記載されている。」などの表現を用いて,その旨を明示することが望ましい。 |
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結論
よって,原告の請求は理由がないから,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 一 |
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裁判官 | 大寄麻代 |
裁判官 | 平田晃史 |