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事件 平成 15年 (行ケ) 240号 審決取消請求事件
原告 株式会社大林組
原告 シマヅネットワークシステム株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 中島敏
上記両名訴訟代理人弁理士 一色健輔
同 黒川恵
被告 株式会社竹中工務店
同訴訟代理人弁理士 中島淳
同 加藤和詳
同 西元勝一
同 福田浩志
同 美濃好美
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/07/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら (1) 特許庁が無効2002-35513号事件について平成15年4月30日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は,当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告らは,発明の名称を「現場管理システム」とする特許第3005605号(平成8年3月4日出願。平成11年11月26日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許の請求項1ないし4,及び7に係る発明に対して特許異議の申立てがされ,同申立ては異議2000-72983号事件として特許庁に係属した。
原告らは,同事件において,平成14年1月31日,本件特許に係る明細書について訂正請求をした。
(2) 特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成14年3月5日,原告らの上記訂正請求を認容した上,「特許第3005605号の請求項1ないし4,及び7に係る特許を維持する。」との決定をし,同決定は確定した。
(3) 被告は,平成14年12月2日,特許庁に対し,本件特許を無効とすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,同請求を無効2002-35513号事件として審理した上,平成15年4月30日,「特許第3005605号の請求項1ないし4,及び7に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年5月12日に原告らに送達された。
2 前記1(1)の訂正後の本件特許に係る発明の要旨は,同訂正後の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された,次のとおりのものである(甲6,8。以下,請求項1ないし4,及び7に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」,及び「本件発明7」という。)。
【請求項1】 各地に点在して設けられた建設現場又は資材や機材のストック現場における,工事の進捗状況,資材や機材の調達状況,異常事態の発生状況等の各種の現場情報を管理するための現場管理システムであって, 各現場に設置された現場ユーザ端末と,該現場ユーザ端末と通信網を介して接続されるホスト・センタと,前記通信網を介して前記ホスト・センタと接続される,関連営業所に設置された関連ユーザ端末とからなり,前記現場ユーザ端末には前記現場情報が人手を介することなく所定時間間隔毎に連続して自動的に蓄積されるとともに,該現場情報が該現場ユーザ端末から前記ホスト・センタに自動的に転送され,該現場情報を,前記関連営業所に設置された関連ユーザ端末により入手して,現場のみならずこれらの関連営業所においても現場情報をリアルタイムで管理することを特徴とする現場管理システム。
【請求項2】 建設工事を行うために各地に点在して設けられた建設現場における,工事の進捗状況,資機材の調達状況,異常事態の発生状況等の各種の施工情報を管理するための建設現場の現場管理システムであって, 建設現場に設置された現場ユーザ端末と,該現場ユーザ端末と通信網を介して接続されるホスト・センタと,前記通信網を介して前記ホスト・センタと接続される,建設会社の本社,支社,請負業者,施工機械のメーカ,材料の供給業者等の関連営業所に設置された関連ユーザ端末とからなり,前記現場ユーザ端末には,工事の進捗情報,材料の消費情報,工事機械のメンテナンス情報等の施工現場における作業情報が人手を介することなく所定時間間隔毎に連続して自動的に蓄積されるとともに,該作業情報が該現場ユーザ端末から前記ホスト・センタに自動的に転送され,該作業情報を関連営業所に設置された関連ユーザ端末により入手して,建設現場のみならずこれらの関連営業所においても建設現場の施工情報をリアルタイムで管理することを特徴とする建設現場の現場管理システム。 【請求項3】 前記現場ユーザ端末が,施工機械等を自動管理する現場施工管理システムと接続し,当該管理システムにより管理される施工状況を前記通信網を介してホスト・センタに転送することを特徴とする請求項2に記載の建設現場の現場管理システム。 【請求項4】 前記ホスト・センタが,ファックスサーバを備え,施工状況に応じて予め設定された指示書面を,建設現場及び関連営業所に設けられたファクシミリ装置に転送することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の建設現場の現場管理システム。 【請求項7】 前記通信網が,ビデオテックス通信網,公衆通信網,私設通信網,または衛星通信網により構成されることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の現場管理システム。
3 本件審決の理由の要旨は,次のとおりである。
(1) 本件発明1について ア 本件発明1と特開平5-26784号公報(甲2。以下「刊行物1」という。)に記載の発明(以下「引用発明1」という。)とを対比すると,両発明は,「各地に点在して設けられた建設現場又は資材や機材のストック現場における,異常事態の発生状況の現場情報を管理するための現場管理システムであって,各現場に設置された現場ユーザ端末と,該現場ユーザ端末と接続されるホスト・センタと,前記ホスト・センタと接続される,現場以外の場所に設置された関連ユーザ端末とからなり,前記現場ユーザ端末には前記現場情報の一部が蓄積されるとともに,該現場ユーザ端末から前記ホスト・センタに転送され,現場以外の場所に設置された関連ユーザ端末により入手して,現場のみならず現場以外の場所においても現場情報を管理する現場管理システム。」の点で一致しており,次の点で相違している。 (ア) 現場ユーザ端末とホスト・センタの接続に関し,本件発明1は,通信網を介して接続されるのに対し,引用発明1は,どのような手段で接続されているのか明らかでない点(以下「相違点1」という。)。 (イ) 関連ユーザ端末と情報の管理場所に関し,本件発明1は,関連ユーザ端末が通信網を介してホスト・センタと接続され,関連営業所に設置され,関連営業所においても情報を管理しているのに対し,引用発明1は,関連ユーザ端末が支店や本社に設置されるホスト・センタに付設され,情報が現場以外の場所である支店や本社においても管理される点(以下「相違点2」という。)。 (ウ) 現場情報に関し,本件発明1は,情報内容が工事の進捗状況,資材や機材の調達状況,異常事態の発生状況等の各種の現場情報であり,現場ユーザ端末に人手を介することなく所定時間間隔毎に連続して自動的に蓄積されるとともに,現場ユーザ端末からホスト・センタに自動的に転送され,関連ユーザ端末により入手して,リアルタイムで管理するのに対し,引用発明1は,情報内容が異常事態の発生状況の現場情報であり,一部の現場情報(センサ21〜26の検出データ)は,現場ユーザ端末に蓄積され,ホスト・センタに転送され,管理されるものの,どのように現場ユーザ端末に蓄積され,どのように現場ユーザ端末からホスト・センタに転送されるか明らかでなく,該一部の現場情報については,関連ユーザ端末により入手されるか否か明らかでなく,該一部の現場情報をどのように管理するのか明らかでなく,他の現場情報(状態監視カメラの映像信号)は,ホスト・センタに入力され,関連ユーザ端末により入手され,管理されるものの,現場ユーザ端末に蓄積され,現場ユーザ端末からホスト・センタに転送されるか否か明らかでなく,該他の現場情報をどのように管理するのか明らかでない点(以下「相違点3」という。)。 イ 相違点1について 「第1回・建築生産と管理技術・パネルディスカッション報文集 1990年主題「施行管理の効率化」日本建築学会建築経済委員会第25〜40頁」(甲3。以下「刊行物2」という。)には,各現場に設置された建築G業務用のパソコン,設備G業務用のパソコン,事務G業務用のパソコン(本件発明1の「現場ユーザ端末」に相当。)がVAN(同「通信網」)を介してVANホストコンピュータ,大阪本店ホストコンピュータ(同「ホスト・センタ」)に接続することが記載されており,該事項を引用発明1に適用し,本件発明1の相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。 ウ 相違点2について 刊行物2には,社内各部コンピュータ,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社のパソコン(同「関連ユーザ端末」)がVAN(同「通信網」)を介してVANホストコンピュータ,大阪本店ホストコンピュータ(同「ホスト・センタ」)に接続することが記載されており,社内各部コンピュータ,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社のパソコンは,それぞれ社内各部,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社(同「関連営業所」)に設置されることは明らかであり,刊行物1に現場以外の場所である支店や本社等においても管理することが記載されており,端末をどこに設置しようとホストコンピュータの情報を端末で入手し得るようにすることが可能なことは明らかであるから,関連ユーザ端末の設置と情報の管理場所を関連営業所とし,本件発明1の相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。 エ 相違点3について 現場情報を工事の進捗状況,資材や機材の調達状況,異常事態の発生状況等の各種の現場情報とすることは,必要に応じ適宜なし得ることである。さらに,刊行物1には,故障発生を管理することが記載されており,故障は,いつ発生するか予測が困難なものであるから,常時データを管理することが求められる。つまり,センサ21〜26の検出データは,端末機に人手を介することなく所定時間間隔毎に連続して自動的に蓄積されるとともに,端末機からホストコンピュータに自動的に転送され,現場のみならず支店や本社等においてもリアルタイムで管理すること,状態監視カメラの映像信号についてもリアルタイムで管理されることが示唆されているものと認められる。
そして,刊行物1には,専門の知識を有する保守要員が現場情報である状態監視カメラの映像信号を入手し,保守情報を指示することが記載されているから,より正確な現場情報を得るためにセンサ21〜26の検出データを端末で入手することは当然のことであり,また,状態監視カメラの映像信号をセンサ21〜26の検出データと同様に端末機に人手を介することなく所定時間間隔毎に連続して自動的に蓄積するとともに,端末機からホストコンピュータに自動的に転送することは必要に応じ適宜なし得ることであるから,本件発明1の相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。
オ そして,本件発明1の構成によってもたらされる効果も,引用発明1及び刊行物2記載の発明(以下「引用発明2」という。)から当業者が容易に予測しうる程度のものである。 (2) 本件発明2について ア 本件発明2と引用発明1とを対比すると,両発明は,「建設工事を行うために各地に点在して設けられた建設現場における,異常事態の発生状況の施工情報を管理するための建設現場の現場管理システムであって,建設現場に設置された現場ユーザ端末と,該現場ユーザ端末と接続されるホスト・センタと,前記ホスト・センタと接続される,現場以外の場所に設置された関連ユーザ端末とからなり,前記現場ユーザ端末には,工事機械のメンテナンス情報の施工現場における作業情報の一部が蓄積されるとともに,該現場ユーザ端末から前記ホスト・センタに転送され,現場以外の場所に設置された関連ユーザ端末により入手して,建設現場のみならず現場以外の場所においても建設現場の施工情報を管理する建設現場の現場管理システム。」の点で一致しており,次の点で相違している。
(ア) 現場ユーザ端末とホスト・センタの接続に関し,本件発明2は,通信網を介して接続されるのに対し,引用発明1は,どのような手段で接続されているのか明らかでない点(以下「相違点4」という。)。
(イ) 関連ユーザ端末と情報の管理場所に関し,本件発明2は,関連ユーザ端末が通信網を介してホスト・センタと接続され,建設会社の本社,支社,請負業者,施工機械のメーカ,材料の供給業者等の関連営業所に設置され,関連営業所においても情報を管理しているのに対し,引用発明1は,関連ユーザ端末が支店や本社に設置されるホスト・センタに付設され,情報が現場以外の場所である支店や本社においても管理される点(以下「相違点5」という。)。 (ウ) 作業情報,施工情報に関し,本件発明2は,情報内容が,工事の進捗状況,資機材の調達状況,異常事態の発生状況等の各種の施工情報及び工事の進捗情報,材料の消費情報,工事機械のメンテナンス情報等の施工現場における作業情報であり,作業情報が現場ユーザ端末に人手を介することなく所定時間間隔毎に連続して自動的に蓄積されるとともに,現場ユーザ端末からホスト・センタに自動的に転送され,関連ユーザ端末により入手して,建設現場の施工情報をリアルタイムで管理するのに対し,引用発明1は,情報内容が,異常事態の発生状況の施工情報及び工事機械のメンテナンス情報の施工現場における作業情報であり,一部の作業情報あるいは施工情報(センサ21〜26の検出データ)は,現場ユーザ端末に蓄積され,ホスト・センタに転送され,管理されるものの,どのように現場ユーザ端末に蓄積され,どのように現場ユーザ端末からホスト・センタに転送されるか明らかでなく,該一部の作業情報あるいは施工情報については,関連ユーザ端末により入手されるか否か明らかでなく,該一部の作業情報あるいは施工情報をどのように管理するのか明らかでなく,他の作業情報あるいは施工情報(状態監視カメラの映像信号)は,ホスト・センタに入力され,関連ユーザ端末により入手され,管理されるものの,現場ユーザ端末に蓄積され,現場ユーザ端末からホスト・センタに転送されるか否か明らかでなく,該他の作業情報あるいは施工情報をどのように管理するのか明らかでない点(以下「相違点6」という。)。 イ 相違点4について 相違点1について述べたとおりである。
ウ 相違点5について 刊行物2には,社内各部コンピュータ,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社のパソコン(本件発明2の「関連ユーザ端末」に相当。)がVAN(同「通信網」)を介してVANホストコンピュータ,大阪本店ホストコンピュータ(同「ホスト・センタ」)に接続することが記載されており,社内各部コンピュータ,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社のパソコンは,それぞれ社内各部,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社(同「建設会社の本社,支社,請負業者,施工機械のメーカ,材料の供給業者等の関連営業所」)に設置されることは明らかであり,刊行物1に現場以外の場所である支店や本社等においても管理することが記載されており,端末をどこに設置しようとホストコンピュータの情報を端末で入手し得るようにすることが可能なことは明らかであるから,関連ユーザ端末の設置と情報の管理場所を建設会社の本社,支社,請負業者,施工機械のメーカ,材料の供給業者等の関連営業所とし,本件発明2の相違点5に係る構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
エ 相違点6について 作業情報及び施工情報を工事の進捗状況,資機材の調達状況,異常事態の発生状況等の各種の施工情報及び工事の進捗情報,材料の消費情報,工事機械のメンテナンス情報等の施工現場における作業情報とすることは,必要に応じ適宜なし得ることである。 また,刊行物1には,故障発生を管理することが記載されており,故障は,いつ発生するか予測が困難なものであるから,常時データを管理することが求められる。つまり,センサ21〜26の検出データは,端末機に人手を介することなく所定時間間隔毎に連続して自動的に蓄積されるとともに,端末機からホストコンピュータに自動的に転送され,現場のみならず支店や本社等においてもリアルタイムで管理すること,状態監視カメラの映像信号についてもリアルタイムで管理されることが示唆されているものと認められる。
そして,刊行物1には,専門の知識を有する保守要員が作業情報あるいは施工情報である状態監視カメラの映像信号を入手し,保守情報を指示することが記載されているから,より正確な作業情報あるいは施工情報を得るためにセンサ21〜26の検出データを端末で入手することは当然のことであり,また,状態監視カメラの映像信号をセンサ21〜26の検出データと同様に端末機に人手を介することなく所定時間間隔毎に連続して自動的に蓄積するとともに,端末機からホストコンピュータに自動的に転送することは必要に応じ適宜なし得ることであるから,本件発明2の相違点6に係る構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。 オ そして,本件発明2の構成によってもたらされる効果も,引用発明1,2から当業者が容易に予測しうる程度のものである。 (3) 本件発明3について ア 本件発明3は,本件発明2を引用し,本件発明2を「現場ユーザ端末が,施工機械等を自動管理する現場施工管理システムと接続し,当該管理システムにより管理される施工状況を前記通信網を介してホスト・センタに転送する」と技術的に限定したものである。
イ 上記の限定した事項について検討すると,本件明細書の段落【0008】に従来技術として「工事用機械の進歩により,工事の多くの部分で自動化が図られ,かかる工事用機械の自動化により,工事用機械は,多くの場合,不意の故障や異常事態を容易に知らせることができるように構成されている」と記載されているように,施工機械等が自動化されていることは,周知技術であり,自動化するためには,施工機械等を自動管理する現場施工管理システムが存在することは明らかである。したがって,現場ユーザ端末が施工機械等を自動管理する現場施工管理システムと接続し,上記限定した構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。
また,現場端末が機械等を自動管理する管理システムと接続し,当該管理システムにより管理される情報をホスト・センタに転送することは周知技術(例えば,特開平3-14322号公報参照。該文献の「プロセス入出力装置」が「自動管理する管理システム」に相当する。)であり,該周知技術を適用して上記限定した構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。
ウ そして,本件発明3の構成によってもたらされる効果も,引用発明1,2から当業者が容易に予測しうる程度のものである。 (4) 本件発明4について ア 本件発明4は,本件発明2又は3を引用し,「前記ホスト・センタが,ファックスサーバを備え,施工状況に応じて予め設定された指示書面を,建設現場及び関連営業所に設けられたファクシミリ装置に転送する」と技術的に限定したものである。
イ 上記の限定した事項について検討すると,刊行物1には,「ホストコンピュータ30は,前記動作状態の良否に関する判定結果に基づいて,各作業機械11乃至16に故障が生じていることや故障が発生する可能性があること,さらには,各作業機械11乃至16における故障発生部位(又は故障発生が予測される部位)を判別し,その旨を示す信号を前記端末機20に返送する。」(段落【0009】)と記載されており,「故障発生部位を判別し,その旨を示す信号」は,状況に応じて予め設定されたものであることは明らかであり,「第17回建設業情報システム研究会講演予稿集」財団法人日本生産性本部情報事業部,1989年2月7日発行」(甲4)に記載されたように情報の転送手段としてファクシミリを採用することは周知技術であるから,該技術を適用して,本件発明4の上記限定した構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。
ウ そして,本件発明4の構成によってもたらされる効果も,引用発明1,2から当業者が容易に予測しうる程度のものである。 (5) 本件発明7について ア 本件発明7は,本件発明1ないし4のいずれかを引用したものを含み,本件発明1ないし4を「通信網が,ビデオテックス通信網,公衆通信網,私設通信網,または衛星通信網により構成される」と技術的に限定したものを含んでいる。
イ 上記の限定した事項について検討すると,「「第10回建設マネジメント問題に関する研究発表・討論会 講演集」土木学会建設マネジメント委員会,1992年12月,293頁〜306頁」(甲5)には,情報伝送路として,ISDN,衛星通信,無線通信(移動体通信)を用いることが記載されており,該事項を適用して,本件発明7の上記限定した構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。
ウ そして,本件発明7の構成によってもたらされる効果も,引用発明1,2及び甲5記載の発明から当業者が容易に予測しうる程度のものである。
当事者の主張
(原告ら主張の取消事由) 本件審決は,@本件発明1と引用発明1との一致点,相違点2,3の認定を誤り,その結果,本件発明1の進歩性に関する判断を誤り(取消事由1,2),また,A本件発明2と引用発明1との一致点,相違点5,6の認定を誤り,その結果,本件発明2の進歩性に関する判断を誤り(取消事由3),B本件発明2の進歩性の判断を誤った結果,本件発明3及び4の進歩性に関する判断を誤り(取消事由4),C本件発明1ないし4の進歩性に関する判断を誤った結果,本件発明7の進歩性に関する判断を誤った(取消事由5)ものであり,その誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであり,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点,相違点についての認定誤り) (1) 一致点の認定誤り 本件審決は,引用発明1においても,「ホスト・センタと接続される,現場以外の場所に設置された関連ユーザ端末とからなり」,現場ユーザ端末に蓄積された現場情報を「現場以外の場所に設置された関連ユーザ端末により入手して・・・現場情報を管理する現場管理システム」の構成が採用されているとして,これらの点で本件発明1と引用発明1が一致すると認定したが,誤りである。
ア すなわち,引用発明1は,各建設現場における作業機械の作動状態の情報を「各建設現場毎に設置された(現場)端末機20」で収集して,該情報を所定の場所に設置された「ホストコンピュータ30」に転送し,「該ホストコンピュータ30にて」「あらかじめ設定された基準値と比較し」,「比較結果に基づいてホストコンピュータ30が建設用作業機械の故障の発生を予知ないし検出して,故障発生の予知ないし検出結果を(現場)端末機20に転送するようにした,建設用作業機械の故障発生集中管理方法」であり,刊行物1には,その全体を精査しても上記以外の構成は開示されていない。 上記から明らかなように,引用発明1は,ホストコンピュータ30と現場端末機20から構成され,ホストコンピュータ30において現場情報を集中管理する発明である。したがって,引用発明1には「関連ユーザ端末」がそもそも存在しないのであり,それゆえ現場情報を「関連ユーザ端末により入手して」現場情報を管理する現場管理システムも当然開示されていないのである。
イ 本件審決が一致点の認定を誤ったのは,本件審決が引用発明1の「ディスプレイ32」が本件発明1の「関連ユ-ザ端末」に「相当する」ものであり,かつ引用発明1において,「ディスプレイ32」がホストコンピュータ30に「付設され」ていることが本件発明1の「関連ユーザ端末」がホスト・センタに「接続され」ているのに「相当する」と認定したことによるものである。
(ア) しかし,引用発明1の「ディスプレイ」は「端末」とは別個の装置で あって,引用発明1の「ディスプレイ32」は本件発明1の「関連ユーザ端末」の機能を果たすものではなく,したがって「ディスプレイ32」が「関連ユーザ端末」に相当するということはできない。
すなわち,ディスプレイとは「コンピューターの出力として図形・文字等を画面に一時的に表示する装置」(広辞苑第五版1816頁。甲11)である。また,「図解コンピュータの大百科」(株式会社オーム社発行27〜28頁。
甲12)には,「ディスプレイはテレビジョンと同じ」との標目で「単にディスプレイといえば,パソコンなど,コンピュータの出力画面の装置を意味するので,CRT(Cathode Ray Tube)とはかぎらず,液晶ディスプレイなども含まれる,また,ディスプレイはモニタと呼ぶ場合もある。」,「コンピュータのディスプレイにしろ,家庭のテレビジョンにしろ,その目的は画面に映像を映し出すことである。」と記されている。
他方,本件発明1の「端末」は「端末装置」の略である。端末装置とは「コンピュータシステムで,利用者の手元にあって中央処理装置とデータのやりとりをするための装置」(甲11の1698頁)である。また,甲12の707頁の「データ通信システムの構成」の標目において,「データ端末装置は,端末装置,または単に端末と呼ばれる。」と記され,「データ端末装置は,環境からデータを受け取り(データ入力),通信回線に送信する(データ送信),逆に,通信回線からデータを受信し(データ受信),環境に出力する(データ出力),これらの操作をするために,データ端末装置は,図2・9のような4つの機能を持っている。」とし,図2・9では「データ端末装置の構成と機能」として「(1)入出力機能」,「(2)伝送制御機能」,「(3)ローカル処理機能」,「(4)記憶機能」と記載されている。
上記のとおり,引用発明1の「ディスプレイ32」はコンピュータ等の出力画面装置であるのに対し,本件発明1の「端末装置」は,現場情報を管理すべく,中央処理装置とデータの送受信を行う装置である。上記「ディスプレイ32」はデータの送受信を行う機能を奏し得ないのであるから端末装置とは明確に異なる。
(イ) 次に,「付設され」とは「付属して設けること」(甲11の2335頁)を意味し,引用発明1において「ホストコンピュータ30に付設されたディスプレイ32」とは「ホストコンピュータ30にディスプレイ32が付属して設けられること」を意味する(このことは刊行物1の図1にも示されている。)。
これに対し,本件発明1において「接続され」とは,「前記通信網を介して前記ホストセンタと接続される,関連営業所に設置された関連ユーザ端末」との文脈で使用されている。すなわち,本件発明1における関連ユーザ端末は,「本社や支社,請負業者,工事用材料の供給業者,工業用機械のメーカー,他の建物現場や搬送業者等の関連営業所に複数設置される」ものである。本件発明1は,「建設現場又は資材や機材のストック現場における,工事の進捗状況,資材や機械の調達状況,異常事態の発生状況等の各種の現場情報を管理するための現場管理システム」の発明であり,建設現場や資材,機材の調達,ストック等にはこれら業務に関連する各企業が関与していることが当該分野の常識であるから,本件発明1において,「関連営業所」が「これらに関連する企業の営業所」を意味することは文言上明白であり,本件明細書にも例示として,本社,支社,請負業者,材料の供給業者,搬送業者等が示されている(段落【0011】,【0020】)。
したがって,「接続され」とは,「ホスト・センタ」とこれと隔離された地にある「関連営業所」との間で「通信網を介して送受信が可能なように接続され」の意味であり,メカトロシステム事典(メカトロシステム事典編集委員会編,甲13の28頁)にも「周辺装置は中央処理装置のそばにあって制御装置を介して動作するものであり,端末装置は中央処理装置から離れて,通信回線を介して動作するものである。」として,「表示装置」と「端末装置」が区別して分類されているのであるから,当該技術分野の用語として「接続され」が「付設され」に相当するということは到底できない。
(ウ) 引用発明1には,上記のとおり「関連ユーザ端末」が存在せず,「ホストコンピュータ30に付設されたディスプレイ32」を有するにすぎないのであるから,引用発明1において,現場情報を現場以外の場所に設置された「関連ユーザ端末」により入手して,現場情報を管理するということもあり得ないのは当然のことである。
(2) 相違点2,3についての認定誤り ア 相違点2について 本件審決は,本件発明1と引用発明1とは,相違点2において相違する旨認定しているが,誤りである。
(ア) 引用発明1では「関連ユーザ端末」が存在しないから,「関連営業所に設置された関連ユーザ端末において現場情報を管理する」こともそもそもありえない。
本件審決は,引用発明1について,関連ユーザ端末がホスト・センタに「付設され」,支店や本社において情報が管理されているとする。しかし,引用発明1においてホスト・センタに「付設され」ているのは「ディスプレイ32」であって,「関連ユーザ端末」でなく,「ディスプレイ32」が「関連ユーザ端末」と異なり,現場情報を管理する機能を有するものでないことは既に述べたとおりである。
(イ) しかるに,本件審決の相違点2についての認定は,引用発明1においても関連ユーザ端末が存在することを前提とするものであり,その認定が誤りであることは明らかである。
イ 相違点3について 本件審決は,本件発明1と引用発明1とは,相違点3において相違する旨認定しているが,誤りである。
(ア) 引用発明1では,「関連ユーザ端末」そのものが存在せず,「関連ユーザ端末」により「該一部の現場情報」が入手されることもなく,管理することもないのは既に述べたところであり,さらに,それに止まらず,「ディスプレイ32」には状態監視カメラの映像信号が表示されるのみであって,それ以外の現場情報が表示されることは示されておらず,状態監視カメラの映像信号が「関連ユーザ端末」により入手され,管理されることもない。
(イ) しかるに,本件審決の相違点3についての認定は,引用発明1に「関連ユーザ端末」が存在して,同端末から一部の現場情報が入手され,管理されることを前提としたものであり,その認定が誤りであることは明らかである。
ウ 本件審決の一致点,相違点についての認定は,本件発明1と引用発明1とのかかる本質的差異を看過してなされたものであるから,すべて誤りというほかない。
2 取消事由2(本件発明1の進歩性に関する判断誤り) (1) 引用発明1は,「ホスト・センタ」における現場情報の集中管理方法の発明であるのに対し,本件発明1は,「ホスト・センタ」の設置場所とは無関係に「関連営業所」において現場情報をリアルタイムで管理できる発明であって,両者は,技術構成も技術思想も全く異なるものである。
本件発明1においては,「ホスト・センタ」をどこに設置しようと,その設置場所に限定されることなく,「関連ユーザ端末」を所望の「関連営業所」に自由に設置することができるから,「ホスト・センタ」の設置場所に拘束されることなく,「関連営業所」がどこにあっても,該「関連ユーザ端末」から現場情報をリアルタイムで管理することができる。その結果,各「関連営業所」に蓄積された専門知識を活用しつつ,最適の方法や使用材料,製品等を選択しながら効率よく現場を管理して行くことが当然の効果としてできることとなる(段落【0023】,【0064】)。
(2) 本件発明1の上記技術構成は,引用発明1において全く開示されるところがない。
すなわち,引用発明1においては,「ディスプレイ32」は「ホストコンピュータ30」に付設されており,「ディスプレイ32」に表示された作業機械の動作状態の映像を監視する「専門の知歳を有する保守要員」も「ホストコンピュータ30のある場所に待機する」(段落【0009】)ことに限られている。引用発明1には,所望の「関連営業所」に自由に設置される「関連ユーザ端末」は全く存在せず,該「関連ユーザ端末」による現場情報の管理も存在しない。
引用発明2においても同様である。
(3) 次に,情報の管理に関しても,本件発明1と引用発明1では全く異なる。
すなわち,引用発明1における現場情報の管理方法は,現場情報を「該ホスト・センタにあらかじめ設定された基準値と比較」することであり,また「現場作業機械の動作状態の映像」を「専門の知識を有する保守要員」が監視する場合も「ホストコンピュータ30」に「付設されたディスプレイ32」によってなされる。このように,引用発明1に開示されているのは,「ホストコンピュータ」の設置場所における集中管理であり,かつ「あらかじめ設定されホスト・センタに入力されている基準値による管理」であることを特徴とするもの(刊行物1記載の【請求項1】)である。
これに対し,本件発明1では,「関連営業所」において現場情報をリアルタイムで管理するのであるから,かかる技術構成の結果として「ホスト・センタにあらかじめ設定された基準値と比較」するに止まらず,「各関連営業所に蓄積された専門知識を活用する」ことが上記のように当然にできる。
(4) 当業者は,本件明細書の「特許請求の範囲」に記載された構成から本件発明1の効果を上記のように理解するのであり,これは本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載によっても裏付けられる。
すなわち,本件発明1の効果について,本件明細書には,「この発明の現場管理システムによれば,通信網を介してホスト・センタと接続されることにより,当該現場のみならず,本社,支社,材料の供給業者,搬送業者等の関連営業所においても,現場の状況に関する情報をリアルタイムで逐次容易に入手することができるので,かかる最新の情報に基づき,各関連営業所に蓄積された専門知識を活用しつつ,最適の方法や使用材料,製品等を選択しながら効率良く現場を管理して行くことができる。」(段落【0020】),「【発明の効果】「この発明の管理システムによれば,通信網を介してホスト・センタと接続されることにより,当該現場のみならず,本社,支社,材料の供給業者,搬送業者等の関連営業所においても,現場の状況に関する情報をリアルタイムで逐次容易に入手することができるので,かかる最新の情報に基づき,各関連営業所に蓄積された専門知識を活用しつつ,最適の方法や使用材料,製品等を選択しながら効率良く現場を管理して行くことができる。」(段落【0064】)と記載されている (5) 上記のとおり,本件発明1と引用発明1の間には共通の技術構成も技術思想も存在しないのであり,また本件発明1は引用発明1等に比べて顕著な効果を有するものであるから,本件発明1が引用発明1に基づき,または引用発明1に引用発明2を適用して,容易に発明できたものとすることは到底できない。
3 取消事由3(本件発明2と引用発明1との一致点,相違点についての認定誤り,本件発明2の進歩性に関する判断誤り) 本件審決は,本件発明2についても,本件発明2と引用発明1との対比において,引用発明1の「付設され」を本件発明2の「接続され」に相当するとし,また「ディスプレイ32」を本件発明2の「関連ユーザ端末」に相当すると判断したことにより,本件発明1の場合と同様の誤りを犯している。本件審決は,本件発明2と引用発明1との対比における一致点,相違点の認定,本件発明2の進歩性に関する判断については,原告らが本件発明1について述べた指摘がすべて当てはまる。
したがって,本件発明2の進歩性を否定した本件審決の判断は,誤りである。
4 取消事由4(本件発明3及び4の進歩性に関する判断誤り) 本件発明3は,本件発明2を引用して付加的な限定を加えたものであり,また,本件発明4は,本件発明2又は3を引用して付加的な限定を加えたものである。
したがって,本件発明2の進歩性に関する本件審決の判断が上記のとおり誤ったものである以上,本件発明3及び4の進歩性に関する本件審決の判断も誤ったものというべきである。
5 取消事由5(本件発明7の進歩性に関する判断誤り) 本件発明7は本件発明1ないし4のいずれかを引用して付加的な限定を加えたものである。
したがって,本件発明1ないし4の進歩性に関する本件審決の判断が誤ったものである以上,本件発明7の進歩性に関する本件審決の判断も誤ったものというべきである。
(被告の反論) 本件発明1ないし4,及び7が進歩性を有しないとした本件審決の判断に誤りはない。
1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点,相違点についての認定誤り)について (1) 一致点の認定誤りについて ア 引用発明1の「ディスプレイ32」が本件発明1の「関連ユーザ端末」に相当するとした本件審決の認定に誤りはない。
(ア) 「端末装置」の機能について 「端末装置」とは,データを入力及び出力するための装置をいうと解 すべきではなく,データを入力あるい出力するための装置であり,データの入力と出力の両方の機能を有している装置のみならず,入力又は出力のいずれか一方の機能を有する装置をも含むものと解すべきである(科学大辞典・国際科学振興財団編・丸善株ュ行866頁(乙4),理工学辞典・東京理科大学理工学辞典編集委員会編・鞄刊工業新聞発行915頁(乙5),エレクトロニクス用語辞典・トヨタ自動車潟gヨタ技術会発行248頁(乙8))。
また,表示装置単独では端末装置を構成しないというものではなく,原告らが主張するように「表示装置,印刷鍵盤装置」などが端末装置を構成する1つの要素として用いられるのであれば,表示装置のみが端末装置を構成する要素として用いられることもあり得るものであり,この場合には,表示装置単独で端末装置を構成するものである。現に,乙4には,端末装置として「CRTなどの表示装置」が例示されており,それ以外にも,表示装置を「端末装置」として例示した文献は,以下のように多数存在する(エレクトロニクス用語図解事典・オーム社発行251頁(乙6),電子辞書「国語大辞典(新装版)」(乙7),前掲乙8,「JEITAの市場調査発表」・ASCII24のホームページ(乙9))。
IT技術分野で使用される技術用語は急速に変化し多様化しており,原告らが提出する甲11ないし甲13は自己の主張に沿う都合の良い証拠を収集したに過ぎないものである。
(イ) 「関連ユーザ端末」の機能について 本件発明に係る請求項1(以下「本件請求項1」という。)には,「関連ユーザ端末」に関して,@「前記通信網を介して前記ホスト・センタと接続される,関連営業所に設置された関連ユーザ端末」,A「該現場情報を,前記関連営業所に設置された関連ユーザ端末により入手して,現場のみならずこれらの関連営業所においても現場情報をリアルタイムで管理する」と記載されているに過ぎない。しかして,これらの記載によれば,「関連ユーザ端末」は,現場情報の入手手段として記載されているに過ぎず,これらのいずれの記載からも「現場情報をリアルタイムで管理する」主体を特定することはできない。
また,本件明細書の「発明の詳細な説明」や本件特許出願に係る添付図面を参照しても,本件発明1において,「関連ユーザ端末」が,現場情報を管理する機能を有している必要性は認められないし,上記「発明の詳細な説明」中にも,それが現場情報を管理するとは記載されていない。そうすると,本件発明1の「関連ユーザ端末」は,現場情報を入手する入手手段として機能すればよいものであり,引用発明1の「ディスプレイ32」は,この機能を十分に果たすことができるものである。
イ 引用発明1の「付設され」が本件発明1の「接続され」に相当する,とした本件審決の認定に誤りはない。
(ア) 本件請求項1には,「各現場に設置された現場ユーザ端末と」,「該現場ユーザ端末と通信網を介して接続されるホスト・センタと」,及び「前記通信網を介して前記ホスト・センタと接続される,関連営業所に設置された関連ユーザ端末とからなり」と記載され,「現場ユーザ端末」が各現場に設置され,「関連ユーザ端末」が関連営業所に設置されることは記載されているが,「ホスト・センタ」が設置される箇所については特定されていない。
原告らは,本件発明1における,「関連ユーザ端末」は「本社や支社,請負業者,工事用材料の供給業者,工事用機械のメーカー,他の建物現場や搬送業者等の関連営業所に複数設置される」ものであって,「ホスト・センタ」の一部としてこれに付設されるものではないと主張するが,本件請求項1には,「関連ユーザ端末」が「本社や支社,請負業者,工事用材料の供給業者,工事用機械のメーカー,他の建物現場や搬送業者等の関連営業所に複数設置される」ものである点については何ら記載がない。
本件明細書の段落【0011】には,「本社や支社,請負業者や搬送業者等の関連営業所」と記載され,段落【0020】には,「本社,支社,材料の供給業者,搬送業者等の関連営業所」と記載され,「請負業者」は段落【0011】のみ記載され,「材料の供給業者」は段落【0020】のみ記載されているものであり,本件明細書においては各々の段落番号で関連営業所の意味する内容が異なっているので,「関連営業所」が意味することは本件明細書の文言上明白とはいえない。また,本件発明に係る請求項2の「関連営業所」については,「建設会社の本社,支社,請負業者,施工機械のメーカ,材料の供給業者等の関連営業所」と記載して「関連営業所」を特定し,同請求項5の「関連営業所」についても,「電力本社,支社,石炭灰搬入業者等の関連営業所」と記載して「関連営業所」を特定し,同請求項6の「関連営業所」についても,「製品販売業者の本社,支社,あるいは配送センター等の関連営業所」と記載して「関連営業所」を特定している。同請求項2,5,6において,「関連営業所」を上記のように特定しているのは,「関連営業所」がどのようなものか文言上明白でないからにほかならないものであり,同請求項1においては単に「関連営業所」と記載されていることからも,「関連営業所」が意味することは本件明細書の文言上明白でない。
したがって,本件請求項1において,「関連ユーザ端末」が設置される「関連営業所」が「ホスト・センタ」と隔離された地にあるということが特定されているとはいえない。
(イ) 本件請求項1には,「関連ユーザ端末」に関して,「前記通信網を介して前記ホスト・センタと接続される」と記載されているだけであって,通信網を介して接続されることは記載されているものの,送受信が可能なように接続される点については何ら記載がない。
上記ア(ア)で説明したように,端末装置には送信機能又は受信機能のい ずれかのみを持ったものが存在する。一方,本件発明1において送受信が可能なように接続するためには,「関連ユーザ端末」に送信機能及び受信機能の両方の機能を備えていることが必要である。しかしながら,本件請求項1には「関連ユーザ端末」が送信機能及び受信機能の両方の機能を備えている点については特定されていない。
したがって,本件発明1の「関連ユーザ端末」には,送信機能及び受信機能の両方の機能を備えたもののほか,送信機能又は受信機能のいずれかを備えたものも含まれるものであり,上記請求項1の記載からは,「接続され」の語が「通信網を介して送受信が可能なように接続され」を意味するということはできない。これと異なる見解に立って,引用発明1における「付設され」が本件発明1における「接続され」に相当するものではないとする原告らの主張は失当である。
そして,引用発明1で,「ディスプレイ32」が機能するためには,「ディスプレイ32」と「ホストコンピュータ30」とが電気的に接続されている必要があることは明らかであり,「ディスプレイ32」が「ホストコンピュータ30」に「付設され」と表現されたとしても,電気的な接続関係を考えるならば,「付設され」が「接続され」に相当していることは明らかである。
(2) 相違点2,3についての認定誤りについて ア 相違点2について 本件発明1の「関連ユーザ端末」は「現場情報を管理する」機能を有していないこと,引用発明1には「関連ユーザ端末」に相当する「ディスプレイ32」が記載されていることは前述したとおりである。したがって,引用発明1においても「関連ユーザ端末」が存在するとした上で,本件発明1と引用発明1とは,相違点2,すなわち「関連ユーザ端末と情報の管理場所」の点で相違するとした本件審決の認定に誤りはない。
イ 相違点3について (ア) 一部の現場情報(センサ21〜26の検出データ)について 引用発明1には「関連ユーザ端末」に相当する「ディスプレイ」が存在し,この「ディスプレイ」が「ホストコンピュータ」に接続されていることは前述したとおりである。
そして,専門の知識を有する保守要員が,より正確な現場情報を得るために「ディスプレイ」により「該一部の現場情報」を入手し,管理することは当然のことであり,引用発明1では,関連ユーザ端末により「該一部の現場情報」が入手されることもなく,管理することもないとの原告らの主張は失当である。
(イ) それ以外の現場情報(状態監視カメラの映像信号)について 上記(ア)で説明したように,専門の知識を有する保守要員が,より正確な現場情報を得るために「ディスプレイ」により上記(ア)に記載の情報以外の現場情報を入手し,管理することは当然のことであり,また,「ディスプレイ」は表示装置であるところ,専門の知識を有する保守要員が,現場情報を入手するためには「ディスプレイ」に表示することが必須である。したがって,「ディスプレイ」に状態監視カメラの映像信号以外の現場情報が表示され得ることは当然のことである。
(ウ) 現場情報の管理主体について 刊行物1には,「関連ユーザ端末」がそれ自身で自動的に「状態監視カメラの映像信号」を入手して,管理することが記載されていないとしても,専門の知識を有する保守要員によってディスプレイ上に表示された各作業機械の動作状態の映像を確認し,映像中に不審な箇所がある場合には保守情報を端末機に送出することが記載されているから,同刊行物には,専門の知識を有する保守要員が管理主体となることを前提に,「状態監視カメラの映像信号が関連ユーザ端末により入手され,管理されること」が記載されているといえる。
原告らは,本件発明1において,現場情報の管理は,「関連ユーザ端末」がそれ自身で自動的に現場情報を入手し,かつ管理する場合のみを意味すると解しているようであるが,本件請求項1には,「該現場情報を,前記関連営業所に設置された関連ユーザ端末により入手し」と記載されているだけで,現場情報を入手し,管理する主体については何ら特定されていない。したがって,本件発明1における「現場情報の管理」には,関連ユーザ端末それ自身が現場情報を入手,管理する場合のほか,オペレータ(例えば,専門の知識を有する保守要員)が「該現場情報を前記関連営業所に設置された関連ユーザ端末により入手」し,これを管理する場合も含まれると解すべきである。
(エ) 相違点3についての認定誤りをいう原告らの主張はいずれも失当で あり,本件審決の相違点3についての認定に誤りはない。
2 取消事由2(本件発明1の進歩性に関する判断誤り)について (1) 本件発明1においてはリアルタイムでの管理がなされるとの点について 本件審決の認定するとおり,刊行物1には「ディスプレイ」によって状態監視カメラの映像信号についてリアルタイムで管理することが示唆されている。したがって,引用発明1から,「関連営業所」において現場情報をリアルタイムで管理する本件発明1を想到することはできない旨の原告らの主張は,失当である。
また,本件発明1においても,現場情報は「現場ユーザ端末」から「ホスト・センタ」に自動的に転送され,「関連営業所」においては,「ホスト・センタ」に転送された現場情報を利用できるだけである。このように,リアルタイムでホスト・センタに集積された情報を利用可能にしたことを「リアルタイムでの管理」というのであれば,引用発明1においても,「センサ21〜26」の検出データが端末機から「ホストコンピュータ」に自動的に転送され,転送されたデータは「ディスプレイ」を介して利用されるものであり,これは,「リアルタイム」での管理を行うことにほかならない。
したがって,引用発明1に,刊行物2に開示されたパソコン間の接続に関する技術事項を適用して,「ホスト・センタ」に転送された現場情報を「関連ユーザ端末」から入手し,これを「関連営業所」で管理する本件発明1を構成することは容易というべきである。
(2) 本件発明1においては「ホスト・センタ」の設置場所と無関係に「関連営業所」においてリアルタイムで管理するとの点について 本件発明1においては,「ホスト・センタ」との関係で「関連ユーザ端末」の設置場所を限定するものでないことは原告らも自認するところであり,その設置場所に限定がない以上,「ホスト・センタ」を「関連ユーザ端末」とともに「関連営業所」に設置してもよく,この場合には引用発明1と全く同一の構成になる。
原告らは,「関連ユーザ端末を所望の関連営業所に自由に設置することができる」と主張しているが,本件請求項1には「関連営業所に設置された関連ユーザ端末」と記載されているだけであり,所望の関連営業所に自由に設置することができる点については何ら記載がない。
(3) 本件発明1においては,情報管理に当たり関連営業所に蓄積された専門知識が活用できるとの点について 「各関連営業所に蓄積された専門知識を活用することができる」という効果は,「関連営業所」において現場情報を利用することができれば,適宜発揮される効果に過ぎない。なお,本件請求項1には,「各関連営業所」に蓄積された「専門知識を活用しつつ現場の状況に適応した情報を提供して管理していく点」については,何ら特定されていない。
(4) 刊行物2には,社内各部コンピュータ,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社のパソコン(本件発明1の「関連ユーザ端末」に相当)がVAN(同「通信網」に相当)を介してVANホストコンピュータ,大阪本店ホストコンピュータ(同「ホスト・センタ」に相当)に接続されることが記載されており,社内各部コンピュータ,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社のパソコンは,それぞれ社内各部,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社(同「関連営業所」に相当)に設置されることは明らかである。
また,刊行物2には,各現場または作業所に設置された業務用のパソコン(本件発明1の「現場ユーザ端末」に相当)がVAN(同「通信網」に相当)を介してVANホストコンピュータ,大阪本店ホストコンピュータ(同「ホスト・センタ」に相当)に接続されることが記載されている。
したがって,仮に,原告らが主張するように,引用発明1の「ディスプレイ32」が本件発明1の「関連ユーザ端末」に相当せず,また,引用発明1の「付設され」が本件発明1の「接続され」に相当しないとしても,引用発明2に,引用発明1に開示された現場情報の収集方法を適用して,ホスト・センタに自動的に転送された現場情報を「関連ユーザ端末」から入手し得るようにすることは,当業者が容易に成し得る程度のことである。また,「関連ユーザ端末」から現場情報が入手されれば,この情報を「関連営業所」においてリアルタイムで管理することも,当業者が容易になし得る程度のことである。
3 取消事由3(本件発明2と引用発明1との一致点,相違点についての認定誤り,本件発明2の進歩性に関する判断誤り)について 前記1,2で述べたとおり,本件審決の本件発明1と引用発明1との一致点,相違点の認定,本件発明1の進歩性に関する判断に誤りはない。
したがって,この点に誤りがあることを前提に,本件審決の本件発明2と引用発明1との一致点,相違点の認定,本件発明2の進歩性に関する判断に誤りがあるとする原告らの主張は,その前提を欠き,理由がない。
4 取消事由4(本件発明3及び4の進歩性に関する判断誤り)について 本件発明2の進歩性に関する判断に誤りがないことは前記3に述べたとおりであり,したがって,上記判断に誤りがあることを前提に本件発明3及び4の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとする原告らの主張は,その前提を欠き,理由がない。
5 取消事由5(本件発明7の進歩性に関する判断誤り)について 本件発明1ないし4の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがないことは,前記1ないし4に述べたとおりであり,したがって,上記判断に誤りがあることを前提として本件発明7の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとする原告らの主張は,その前提を欠き,理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点,相違点についての認定誤り)について (1)ア 刊行物1(甲2)には,次の記載がある。
(ア) 「各建設現場において所定の作業を行う建設用作業機械の動力源乃至該動力源によって駆動される駆動機構の部分に,該動力源乃至駆動機構の作動状態を検出する状態検出センサを配設し,該状態検出センサの検出結果を前記各建設現場毎に設置された端末機で収集して,該端末機から所定の場所に設置されたホストコンピュータに転送し,該ホストコンピュータにて前記状態検出センサの検出した値をあらかじめ設定された基準値と比較し,前記比較結果に基づいて前記ホストコンピュータが前記建設用作業機械の故障の発生を予知乃至検出して,該故障発生の予知乃至検出結果を前記端末機に転送するようにした,ことを特徴とする建設用作業機械の故障発生集中管理方法。」(【請求項1】) (イ) 「図1において,11乃至16は,各作業現場(図示せず)にて稼動している建設用作業機械であり,11はブルドーザー,12はトンネル工事用のロードヘッダ,13は無人搬送車,14はシールド掘削機,15はタワークレーン,16はプラント装置である。尚,以後はこれらを総称して作業機械11乃至16と称する。これらの作業機械11乃至16の夫々には,それらの作動状態を検出,監視するための状態検出センサ21乃至26が付設されており,それらの検出結果は,図中では省略して1台のみを示しているが,前記各作業機械11乃至16が配置された作業現場(図示せず)毎に設置された端末機20に入力されるようになっている。」(段落【0005】) (ウ) 「各状態検出センサ21乃至26からの信号が入力された前記端末機20は,その入力データを例えば支店や本社等に設置されて前記端末機20とオンライン接続されたホストコンピュータ30に転送する。
このホストコンピュータ30には,前記各作業機械11乃至16の例えば動作音,振動,動力源の温度,作動用流体の流量及び圧力,給電電力の電流及び電圧,連続運転時間等に関する基準値が設定,保持されたデータベース31が設けられており,該ホストコンピュータ30では,前記各状態検出センサ21乃至26(但し,状態監視用カメラを除く)の検出結果データを前記基準値と比較して,各作業機械11乃至16の動作状態の良否を判定する。また,前記ホストコンピュータ30には,前記各状態検出センサ21乃至26のうち前述した状態監視用カメラからの映像信号が入力され,その映像,即ち,前記各作業機械11乃至16の動作状態の映像が,ホストコンピュータ30に付設されたディスプレイ32上に表示されるようになっている。
そして,前記ホストコンピュータ30は,前記動作状態の良否に関する判定結果に基づいて,各作業機械11乃至16に故障が生じていることや故障が発生する可能性があること,さらには,各作業機械11乃至16における故障発生部位(又は故障発生が予測される部位)を判別し,その旨を示す信号を前記端末機20に返送する。一方,前記ディスプレイ32上に表示された各作業機械11乃至16の動作状態の映像は,前記ホストコンピュータ30のある場所に待機している,専門の知識を有する保守要員(図示せず)によって確認され,その映像中に不審な箇所がある場合には,例えば前記保守要員のキー操作等により保守情報をホストコンピュータ30から端末機20に送出する。
これに伴って,各作業現場に設置された前記端末機20の例えばディスプレイやプリンター(共に図示せず)から,前記ホストコンピュータ30にて判別された故障情報や前記保守要員が指示した保守情報が出力され,各作業現場側では,その出力情報に基づいて前記各作業機械11乃至16の状態管理やメンテナンスを行うことができる。」(段落【0007】〜【0010】) イ 上記記載及び出願願書に添付された【図1】(甲2)の記載からすれば,本件審決の認定するとおり,刊行物1には,各建設現場における,建設用作業機械の「検出センサ21乃至26」の検出データ,状態監視カメラの映像信号を管理するための故障管理システムであって,各現場に設置された「端末機20」と,該「端末機20」と接続される支店や本社等に設置された「ホストコンピュータ30」と,前記「ホストコンピュータ30」に付設される,「ディスプレイ32」とからなり,前記「端末機20」には「検出センサ21乃至26」の検出データが入力されるとともに,該「検出センサ21乃至26」の検出データが該「端末機20」から前記「ホストコンピュータ30」に転送され,状態監視カメラの映像信号は,前記「ホストコンピュータ30」に入力され,状態監視カメラの映像信号を「ディスプレイ32」により入手して,現場のみならずこれらの支店や本社等においても「検出センサ21乃至26」の検出データ,状態監視カメラの映像信号を管理する故障管理システムが記載されているということができる。
(2) 一致点の認定について ア 刊行物1の記載によれば,引用発明1の「ディスプレイ32」は,状態監視カメラの映像信号を出力するものであることが明らかであり,刊行物1には,それが入力機能を備えていることの開示はない。
他方,本件発明1は,「前記現場ユーザ端末には前記現場情報が人手を介することなく所定時間間隔毎に連続して自動的に蓄積されるとともに,該現場情報が該現場ユーザ端末から前記ホスト・センタに自動的に転送され,該現場情報を,前記関連営業所に設置された関連ユーザ端末により入手して,現場のみならずこれらの関連営業所においても現場情報をリアルタイムで管理することを特徴とする現場管理システム。」(本件請求項1)であり,端末装置(本件発明1にいう「端末」とは「端末装置」の略語と認められる。)という場合,入力装置と出力装置の両方を備えているのが通常である(甲11ないし14参照)ことをも考慮すれば,本件発明1は,「該現場情報を,関連ユーザ端末により入手」する点において,該端末がホスト・センタから必要な情報を選択入手するに必要な入力機能を備えていることを推認させるものである。
また,本件明細書(甲6,7)には,「建設会社の本社・支社Bに設置された関連ユーザ端末装置26は,関連ユーザ端末27やファクシミリ28,必要に応じてLAN29を介して接続された業務管理用のコンピュータとしてのサーバ30等を備え,ネットワークセンター3にアクセスすることにより,ネットワークセンター3に転送(アップロード)された建設現場からの情報を自身の関連ユーザ端末27に転送(ダウンロード)して,当該関連ユーザ端末装置26によって建設現場A,Dにおける施工状況を直接管理することができるようになっている。」(段落【0031】),また,「マシンメーカ・材料のメーカCに設置された関連ユーザ端末装置32もまた,同様に,関連ユーザ端末33やファクシミリ34,必要に応じてLAN35を介して接続された業務管理用のコンピュータとしてのサーバ36等を備え,ネットワークセンター3にアクセスすることにより,ネットワークセンター3にアップロードされた建設現場からの情報を自身の関連ユーザ端末33にダウンロードして,当該関連ユーザ端末装置32によって建設現場A,Dにおける施工状況を直接管理することができるようになっている。」(段落【0032】)と記載されており,現場情報をリアルタイムで管理するについても,該端末の入力機能により行うことを想定しているものと推認される。
しかしながら,本件発明1の「関連ユーザ端末」が入力機能を備えるものであるとしても,本件請求項1の記載からすれば,現場情報の入手,現場情報のリアルタイムの管理において「関連ユーザ端末」の入力機能部分が本件発明1の構成要件とされているものとは認められず,「関連ユーザ端末」のうち構成要件として記載されているのは,現場情報を入手する手段としての面,すなわち出力機能の面に限られているから,その意味において,引用発明1の「ディスプレイ32」は,本件発明1の「関連ユーザ端末」に相当するものということができる(なお,本件審決が,上記「ディスプレイ32」と「関連ユーザ端末」とが,その機能上,すべての点において一致するものと認定した訳ではないことは,本件審決の相違点2,3の認定内容に照らして明らかである。)。
因みに,証拠(乙4ないし9)によれば,「端末装置」の語は,引用発明1の「ディスプレイ」のように,コンピュータによる情報管理システムの中で出力機能のみを備えた装置をも意味するものとしても使用される場合もあることが明らかである。
イ(ア) 前記(1)に認定したとおり,引用発明1においては,「前記ホストコンピュータ30には,前記各状態検出センサ21乃至26のうち前述した状態監視用カメラからの映像信号が入力され,その映像,即ち,前記各作業機械11乃至16の動作状態の映像が,ホストコンピュータ30に付設されたディスプレイ32上に表示されるようになっている」ものであり,「ディスプレイ32」はホストコンピュータ30に付設されるものであることが明記されている。しかして,「ディスプレイ32」が映像信号の出力装置として機能するためには,「ディスプレイ32」と「ホストコンピュータ30」とが電気的に(通信可能に)接続されている必要があることは技術常識に照らして明らかであり,「ディスプレイ32」が「ホストコンピュータ30」に「付設され」と表現されたとしても,そこには電気的には受信が可能なように接続されているものとみることができる。
(イ) 他方,本件請求項1によれば,本件発明1は,「各現場に設置された現場ユーザ端末と,該現場ユーザ端末と通信網を介して接続されるホスト・センタと,前記通信網を介して前記ホスト・センタと接続される,関連営業所に設置された関連ユーザ端末」とからなるものとされている。
原告らは,本件発明1における関連ユーザ端末は,「本社や支社,請負業者,工事用材料の供給業者,工業用機械のメーカー,他の建物現場や搬送業者等の関連営業所に複数設置される」ものであり,したがって,「接続され」とは,ホスト・センタとこれと隔離された地にある「関連営業所」との間で「通信網を介して送受信が可能なように接続され」の意味と解するべきである旨主張する。
しかしながら,本件請求項1には,「関連ユーザ端末」が設置される場所として,単に「関連営業所」と記載されているだけであり,本件発明に係る請求項2,5,6におけるように,「関連営業所」を特定して記載していない。また,「関連ユーザ端末」が複数の「関連営業所」に設置されるものである点についても何ら規定されていない。
そうすると,本件発明1が「建設現場又は資材や機材のストック現場における・・・各種の現場情報を管理するための現場管理システム」であることからして,本件発明1における「関連営業所」は,上記現場と関連を有する現場以外の場所を意味するものと考えられるものの,本件請求項1の記載から,それ以上にこれを特定することはできないといわざるを得ない。加えて,本件請求項1には,「ホスト・センタ」が設置される箇所も特定されておらず,「接続」という語自体も接続される物同士の位置関係を規定する意味を有しないから,本件請求項1における「接続され」の語について,「ホスト・センタ」とこれと隔離された地にある「関連営業所」との間で「接続」されるという意味に解することはできず,本件発明1は,「関連ユーザ端末」と「ホスト・センタ」とが同一の場所に設置されることも想定したものというほかない。
また,原告らは,本件発明1において「接続され」とは「通信網を介して送受信が可能なように接続され」の意味を有するものである旨主張するが,前記アで説示したとおり,本件請求項1の記載からすれば,本件発明1において,「関連ユーザ端末」のうち構成要件として規定されているのは,現場情報を入手する手段としての面,すなわち出力機能の面に限られているから,上記請求項1の「通信網を介して前記ホスト・センタと接続される」との文言も,少なくとも現場情報の入手のための受信が可能なように接続されているという意味合いしか有しないものと解される。
(ウ) そうすると,引用発明1の「付設され」は,本件発明1の「接続され」に相当するものということができる。
ウ 以上検討したとおり,本件審決の一致点の認定に原告ら主張の誤りはない。
(3) 相違点2,3についての認定について ア 相違点2について (ア) 本件請求項1において,「関連ユーザ端末」が現場の情報をその入力装置により直接管理する機能を有するものかどうかの特定はなく,引用発明1の「ディスプレイ32」が本件発明1の「関連ユーザ端末」に相当することは前記(2)アに説示したとおりである。
(イ) したがって,本件審決が,引用発明1においても,「関連ユーザ端末」に相当するものが存在するとした上で,本件発明1と引用発明1とは,相違点2,すなわち「関連ユーザ端末の設置場所と情報の管理場所」の点で相違するとした本件審決の認定に誤りはない。
イ 相違点3について (ア) 引用発明1には「関連ユーザ端末」に相当する「ディスプレイ」が存在し,この「ディスプレイ」が「ホストコンピュータ」に接続されていることは,前記(2)に説示したとおりである。
そして,刊行物1には,その特許請求の範囲に「ホストコンピュータが前記建設用作業機械の故障の発生を予知乃至検出して,該故障発生の予知乃至検出結果を前記端末機に転送するようにした」と記載され,「発明の詳細な説明」に,「前記ディスプレイ32上に表示された各作業機械11乃至16の動作状態の映像は,前記ホストコンピュータ30のある場所に待機している,専門の知識を有する保守要員(図示せず)によって確認され,その映像中に不審な箇所がある場合には,例えば前記保守要員のキー操作等により保守情報をホストコンピュータ30から端末機20に送出する。」(段落【0009】)と,「これに伴って,各作業現場に設置された前記端末機20の例えばディスプレイやプリンター(共に図示せず)から,前記ホストコンピュータ30にて判別された故障情報や前記保守要員が指示した保守情報が出力され,各作業現場側では,その出力情報に基づいて前記各作業機械11乃至16の状態管理やメンテナンスを行うことができる。」(段落【0010】)と記載されており,この記載からすれば,引用発明1においては,「ホストコンピュータ30」における現場情報管理が行われるほか,保守要員による「状態監視カメラの映像信号」を通じた現場情報管理も行われるということができる。
この点に関し,本件請求項1には,「該現場情報を,前記関連営業所に設置された関連ユーザ端末により入手し」と記載されているだけで,現場情報を入手し,管理する主体については何ら特定されていないから,本件発明1は,情報の管理主体に関して,「関連ユーザ端末」それ自体が現場情報を入手し,管理する場合のほか,オペレータ(例えば,専門の知識を有する保守要員)が「該現場情報を前記関連営業所に設置された関連ユーザ端末により入手」し,管理する場合をも想定しているものと解すべきである。
引用発明1では,本件発明1と異なり,関連ユーザ端末により「該一部の現場情報」が入手されることもなく,管理されることもないとの原告らの主張は,失当である。
(イ) 本件審決は,本件発明1と引用発明1とが,いずれも現場情報を管理している点において共通するものであることを前提に,両者が,管理する現場情報の内容,情報管理の方法等において相違する点を捉えて相違点3を両者の相違点と認定したものであって,この認定に誤りはない。上記(ア)に説示するところと異なる見解に基づき,本件審決の相違点3についての認定誤りをいう原告らの主張は,理由がない。
2 取消事由2(本件発明1の進歩性に関する判断誤り)について (1) 原告らは,引用発明1は,「ホスト・センタ」における現場情報の集中管理方法の発明であるのに対し,本件発明1は,「ホスト・センタ」の設置場所とは無関係に「関連営業所」において現場情報をリアルタイムで管理できる分散管理方法の発明であって,両者は,技術構成も技術思想も全く異なるものであると主張するので,以下検討する。
ア 本件発明1においてはリアルタイムでの管理がなされるとの点について 前記1(1)に認定したとおり,刊行物1には,「状態検出センサ21乃至26」の検出データが該「端末機20」から「ホストコンピュータ30」に転送され,状態監視カメラの映像信号は,「ホストコンピュータ30」に入力され,状態監視カメラの映像信号を「ディスプレイ32」により入手して,現場のみならずこれらの支店や本社等においても「上記センサ21乃至26」の検出データ,状態監視カメラの映像信号を管理する故障管理システムが開示されているところ,故障管理システムというシステムの性格上,常時故障の有無,その発生のおそれを判別するための情報を収集することが必要となるから,刊行物1には,「上記センサ21乃至26」の検出データは,「端末機20」に人手を介することなく自動的に蓄積されるとともに,「端末機20」から「ホストコンピュータ30」に自動的に転送され,また,「上記センサ21乃至26」のうち状態監視カメラの映像信号も「ホストコンピュータ」に自動的に転送され,現場のみならず,支店や本社等においても,リアルタイムで現場情報を管理されることが示唆されているものと認めることができる。
イ 刊行物2(甲3)には,社内各部コンピュータ,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社のパソコン(本件発明1の「関連ユーザ端末」に相当)がVAN(同「通信網」に相当)を介してVANホストコンピュータ,大阪本店ホストコンピュータ(同「ホスト・センタ」に相当)に接続することが記載されており,社内各部コンピュータ,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社のパソコンは,それぞれ社内各部,鉄骨会社,カーテンウオール会社及び設備会社(同「関連営業所」に相当)に設置されることは明らかである。また,刊行物1(甲2)には,現場以外の場所である支店や本社等において現場情報を管理することが記載されているところ,端末装置をどこに設置しても,ホストコンピュータからそこに集積された現場情報を入手し得ることは技術常識に照らして明らかである。
したがって,引用発明1に,刊行物2に開示されたパソコン間の接続に関する上記技術事項を適用して,「ホスト・センタ」に転送された現場情報を「関連ユーザ端末」から入手し,これを「関連営業所」で管理する本件発明1を構成することは容易というべきである。
(2) 本件発明1においては「ホスト・センタ」の設置場所と無関係に「関連営業所」に自由に設置される関連ユーザ端末において現場管理が行われるとの点について 本件請求項1において,「関連ユーザ端末」は「関連営業所」に設置されるものとされているが,「ホスト・センタ」の設置場所は何ら特定されておらず,また,「関連営業所」の数も特定されていないから,本件発明1は,唯一の関連営業所にのみ「関連ユーザ端末」が設置された場合を排除しているものとはいえず,その場合,「関連ユーザ端末」と「ホスト・センタ」とが同一の場所に設置されていることも想定し得るものである。
そうすると,「ホスト・センタ」と「関連ユーザ端末」の設置の位置関係については,本件発明1と引用発明1とで実質的に変わりはないというべきであり,本件発明1が「関連営業所」が「ホスト・センタ」と隔離された地に複数設置され,現場情報管理を行う方式を採用していることを前提に,集中管理方式を採用する引用発明1とはその点で相違するかのようにいう原告らの主張は,その前提を欠くものである。
のみならず,本件明細書(甲6,8)及び刊行物1(甲2)の記載によれば,本件発明1も引用発明1もいずれもネットワーク管理(ネットワーク化されたシステムにおける情報の管理)を行うものであることは明らかであるところ,証拠(乙3)によれば,ネットワーク管理は,ネットワークの利用者が満足する品質のよいサービスを提供するとともに,管理部門の作業効率等を高めることを目的とするのであること,そして,ネットワーク管理の方法に,ネットワーク管理のためのセンタを設置して,1元的に管理する集中管理方式と,管理主体ごとに独立してネットワーク管理を行う分散管理方式の2つが存在することは,本件特許出願の前に周知の事項であったことが認められる。したがって,引用発明1において,複数箇所に現場情報の管理場所を設置して,それぞれ独立した管理を行わせる,いわゆる分散管理方式を採用することは,当業者において適宜なし得たことというべきである。
(3) 本件発明1においては,情報管理に当たり関連営業所に蓄積された専門知識が活用できるとの点について 原告らは,本件発明1によれば,「各関連営業所に蓄積された専門知識を活用できる」との効果が得られる旨主張するが,そのような効果は,「関連営業所」において現場情報を入手して,現場の管理を行うという構成を採用することにより予測される範囲の効果に過ぎず,格別のものということはできない。
3 取消事由3(本件発明2の進歩性に関する判断誤り)について 原告らは,@本件発明2と引用発明1との一致点,相違点についての本件審決の認定,A本件発明2の進歩性に関する本件審決の判断は,本件発明1に関して述べたと同様の誤りがあるとして,本件発明2の進歩性に関する本件審決の判断には誤りがあると主張するが,前記1,2に説示したのと同様の理由により,上記@,Aの認定,判断に誤りはないというべきである。原告らの主張は,その前提を欠き,理由がない。
4 取消事由4(本件発明3及び4の進歩性に関する判断誤り)について 本件発明2の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがないことは前記3に述べたとおりであり,したがって,上記判断に誤りがあることを前提に本件発明3及び4の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとする原告らの主張は,その前提を欠き,理由がない。
5 取消事由5(本件発明7の進歩性に関する判断誤り)について 本件発明1ないし4の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがないことは,前記1ないし4に述べたとおりであり,したがって,上記判断に誤りがあることを前提として本件発明7の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとする原告らの主張は,その前提を欠き,理由がない。
6 以上の次第で,原告らが取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,本件審決に他にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 沖中康人