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事件 |
平成
25年
(行ケ)
10285号
審決取消請求事件
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2015/01/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成27年1月22日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官 平成25年(行ケ)第10285号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成26年12月17日 判 決 原 告 エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー 訴訟代理人弁理士 津 国 肇 同 小 澤 圭 子 同 小 國 泰 弘 被 告 特 許 庁 長 官 指 定 代 理 人 村 守 宏 文 同 井 上 雅 博 同 齋 藤 恵 同 井 上 猛 同 根 岸 克 弘 主 文 1 特許庁が不服2012−2605号事件について平成25年6 月10日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文と同じ。 1 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 原告は,平成18年1月24日,発明の名称を「イバンドロネート多形A」 とする発明について国際特許出願(特願2007−553502号。パリ条 約による優先権主張日:平成17年2月1日,優先権主張国:欧州特許庁(E P)。以下「本願」という。)をし,平成22年12月1日付けで拒絶理由通 知を受けたため,平成23年6月7日付け手続補正書(請求項数11)を提 出して特許請求の範囲の補正(以下「本件補正」という。)を行ったが,同 年10月3日付けで拒絶査定を受けたことから,平成24年2月9日,これ に対する不服の審判を請求した(甲2の1〜3,甲3〜5,8,9の1)。 特許庁は,前記 審判請求を不服2012−2605号事件として審理 し,平成25年6月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決 (以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年6月25日,原告に 送達された。 原告は,平成25年10月22日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を 提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲2 の2,甲5)。以下,この請求項1に記載された発明を「本願発明」といい,本 願に係る明細書及び図面(甲2の1・3)を併せて「本願明細書」という。 【請求項1】 角度2θで示す特性ピークを 角度2θ±0.2° 10.2° 11.5° 15.7° 2 19.4° 26.3° に有する,CuKα放射線を用いて得られたX線粉末回折パターンを特徴と する,3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン −1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一水和物(イバンドロネート)の結 晶多形。 3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,以下の 引用例に記載された発明(以下「先願発明」という。)の後願排除の基準日 は,優先日である平成16年8月23日であって,本願の優先日である平成 17年2月1日よりも前であるところ,本願発明と先願発明との相違点は実 質的な相違点ではないから,本願発明は先願発明と同一であり,しかも,本 願発明の発明者が先願発明の発明者と同一の者ではなく,また,出願時にお いてその出願人と先願発明の出願人とが同一の者でもないので,本願発明は 特許法29条の2の規定により特許を受けることができない,というもので ある。 引用例:平成17年8月23日に国際特許出願(特願2006−5369 48号。パリ条約による優先権主張:平成16年8月23日,優 先権主張国:米国。パリ条約による優先権主張:平成17年6月 16日,優先権主張国:米国。以下「先願」という。)され,平成 18年3月2日に国際公開(国際公開第2006/024024 号)された国際出願日における国際出願の明細書,特許請求の範 囲及び図面(以下,併せて「先願明細書」という。甲1の1)。 本件審決が認定した先願発明は,次のとおりである。 2θが6.2°,15.7°,17.6°,19.4°,26.3°,2 6.9°,31.7°,32.6°,35.6°及び38.7°±0.2° 3 に特性ピークを有する,図21のX線粉末回折パターン(1.5418Åの 銅放射線を使用)を示す,3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1− ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一水和物の結晶 形(フォームT)。 【図21】 本願発明と先願発明との対比 本件審決が認定した本願発明と先願発明との一致点及び相違点は,以下の とおりである。 ア 一致点 角度2θで示す特性ピークを 角度2θ±0.2° 15.7° 19.4° 26.3° に有する,CuKα放射線を用いて得られたX線粉末回折パターンを特徴 とする,3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロ 4 パン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一水和物(イバンドロネート) の結晶多形。 イ 相違点 特性ピークを示す角度2θ±0.2°として,本願発明では, 10. 「 2°」 及び「11.5°」も特定されているのに対し,先願発明では,「10. 2°」及び「11.5°」が特定されていない点。 4 取消事由 先願発明の認定の誤り,一致点の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由 1) 相違点についての判断の誤り(取消事由2) 先願発明の後願排除の基準日の認定の誤り(取消事由3) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(先願発明の認定の誤り,一致点の認定の誤り及び相違点の看過) について 〔原告の主張〕 本件審決は, 上で,本願発 定した。 先願発明の認定の誤り ア しかし,先願発明に係るフォームTは,3−(N−メチル−N−ペンチ ル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウ ム塩一水和物ではない。 すなわち,熱重量分析(TGA)は,温度の関数として試料の重量を測 定して,溶媒和物の化学量論を求める方法であるが,本願発明の3−(N −メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジ ホスホン酸一ナトリウム塩一水和物の分子量は359.24であり,水の 5 分子量は18.02であることから,当業者は,3−(N−メチル−N− ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナ トリウム塩一水和物のTGAによる乾燥に基づく損失は5%と計算でき る。しかるに,先願明細書(甲1の1)の表3には,フォームTのTGA による乾燥に基づく損失は6.0%とされている。このことは,先願発明 に係るフォームTが,3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒ ドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩当たり1.2分 子の水の非化学量論的溶媒和物相を表しているだけで,3−(N−メチル −N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン 酸一ナトリウム塩の個別化された化学量論的な一水和物であることを何 ら示していない。そして,このフォームTのTGAによる乾燥に基づく損 失6.0%の値は,水が蒸発した場合の予測値5%と比較すると,20% も相違し,単なる誤差の範囲内とはいえない。そもそも,TGAは,多形 中に含まれる溶媒の性質を解明できる技術ではなく,加熱によって失われ る重量が測定されるにすぎず,TGA単独では,多形中に含まれるどの溶 媒が蒸発したのかまでは解明することができない。 イ 特許法29条の2の「他の出願の当初明細書等に記載された発明」とし て認定されるためには,先願明細書に化学物質名又は化学構造式により化 学物質が示されている場合においても,当業者が先願発明の出願時の技術 常識を参酌して,先願発明に係る3−(N−メチル−N−ペンチル)アミ ノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一水 和物の結晶形(フォームT)が製造できることが明らかであるように記載 されている必要がある。 しかし,以下の とおり,先願明細書において「イバンドロネー トナトリウム」がどのようなものを意味するのか不明瞭であり,少なくと も,3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン 6 −1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一水和物であると理解することは できないから,先願明細書には,3−(N−メチル−N−ペンチル)アミ ノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一水 和物の結晶形フォームTを製造することができるように記載されている ということができず,当該結晶形を先願発明として認定することはできな い。 本願の発明者であるベルンハルト・クニップ博士は,宣言書(甲12) において,先願明細書の実施例で出発物質として使用された製品「イバ ンドロネートナトリウム」は自分の知る限りでは存在しない,「イバン ドロネートナトリウム」の本質及びそれがどのようにして製造されたか について先願明細書には一つの具体的な指示もないので,先願明細書で 言及された実験を再現することは不可能である旨記載している。 先願明細書において,「イバンドロネートナトリウム」が3−(N− メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジ ホスホン酸一ナトリウム塩一水和物であると明記されているのは,実験 式(段落【0002】)と化学構造(段落【0003】)のみであり,実 施例の出発物質や種々の生成物が一括して「イバンドロネートナトリウ ム」と称されている。しかも,「イバンドロネートナトリウムの化学名 称は,(1−ヒドロキシ−3−(N−メチル−N−ペンチルアミノ)プ ロピリデン)ビスホスホン酸一ナトリウム塩である。」 (段落【0002】) と記載され,「一水和物」とは記載されておらず,上記実験式及び化学 構造と明らかに矛盾する。 「イバンドロネートナトリウム」が,3−(N−メチル−N−ペンチ ル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリ ウム塩一水和物であるならば,「イバンドロネートナトリウム」は結晶 形である必要がある。非晶性の3−(N−メチル−N−ペンチル)アミ 7 ノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一 水和物は存在しないからである。しかるに,先願明細書には,「イバン ドロネートナトリウム」が白色粉末であることが一応記載されているが, 結晶形の性質等に関する情報は一切記載されていないばかりか,非晶性 の「イバンドロネートナトリウム」が単離された旨が記載されている。 先願明細書には,種々のフォームが製造されたことが一応記載されて いるが,いずれのフォームも,製造された各フォームの熱重量分析(T GA)による乾燥に基づく損失が,いずれも3−(N−メチル−N−ペ ンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナ トリウム塩一水和物の理論値5%をはるかに超えており,それらのフォ ームが一水和物であることを何ら証明していない。 先願明細書には,「本発明はまた,イバンドロネートナトリウムの溶 媒和物形を提供する」とも記載され,1/3エタノラート,モノエタノ ラート及びヘミブタノラートについて記載されている。しかし,その一 方で,先願明細書には一水和物に関する記載は一切ない。したがって, 先願明細書では「イバンドロネートナトリウム」は,1/3エタノラー ト,モノエタノラート又はヘミブタノラートのいずれかを意味し,一水 和物を意味しないものというべきである。 被告は,本願優先日時点では,イバンドロネートナトリウムが医薬品 に用いられる場合には,イバンドロネートナトリウム一水和物結晶であ るのが通常であったから,先願明細書においても,イバンドロネートナ トリウムの結晶は,「イバンドロネートナトリウム一水和物」を指すと いうのが当業者の理解であった旨主張する。 しかし,仮に,イバンドロネートナトリウムが医薬品に用いられる場 合に,イバンドロネートナトリウム一水和物結晶であるのが通常であっ たとしても,先願明細書には,イバンドロネートナトリウムの溶媒和物 8 やその固体結晶性のものが提供されることが明記されている上(段落 【0023】【0024】,当該溶媒和物の結晶形を含む医薬組成物に , ) 係る請求項57〜59も記載されている。そうすると,先願明細書にお いて,医薬品に用いられるイバンドロネートナトリウムが一水和物の結 晶とは必ずしもいえないから,被告の上記主張は理由がない。 ウ 結晶形を得るための出発物質にエタノール等の溶媒が残留していると, 残留溶媒が,結晶化の際に水と一緒に共結晶化され,得られた結晶の格子 中に含まれるので,一水和物とはならず,むしろ溶媒和物となるので,予 め残留溶媒を除去する必要がある。このことは,本願明細書の参照実施例 1で,エタノールを除去せずに結晶化を開始して得られた結晶中には,2. 3%のエタノールと3.9%の水が残留していることが確認されていると おりであり,参照実施例1では,3−(N−メチル−N−ペンチル)アミ ノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩の一 水和物の多形は得られておらず(本願明細書の段落【0060】〜【00 62】 ,一水和物を得るためには,出発物質がエタノールなどの残留溶媒 ) を含む場合,それを取り除く必要がある。本願明細書の参照実施例2並び に実施例1及び3では,参照実施例1で得られた3−(N−メチル−N− ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナ トリウム塩を出発物質とし,この出発物質に残留するエタノールを共沸物 として除去することで一水和物を得ている(本願明細書の段落【0063】, 【0066】 【0073】 。なお,エタノール除去工程で一水和物が得ら , ) れることは分析証明書(甲16)で証明されている。 一方で,先願明細書には,このようなエタノール等の残留溶媒の除去工 程がない点に留意すべきである。したがって,先願明細書で得られた各フ ォームが,残留溶媒を含み,その結果,TGA値が3−(N−メチル−N −ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一 9 ナトリウム塩一水和物の理論値の5%を超えるということが至極当然に理 解できる。その上,このことは,先願明細書の実施例の出発物質が実際は 一水和物ではなかったこと,そして,残留溶媒が除去されていなかったこ とを意味するのである。 先願明細書において,フォームTを製造した例52では,原料として「イ バンドロネートナトリウム」は使用されておらず,エタノールも使用され ていないが,得られたフォームTは,熱重量分析(TGA)の重量損失が 3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1, 1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一水和物の理論値の5%よりはるかに大 きな6.0%であることから,何らかの残留溶媒を含み,一水和物ではな いことが明らかである。 したがって,先願明細書には,一水和物が直接的かつ一義的には記載さ れていないというべきであり,先願明細書の記載からフォームTを一水和 物として製造することはできない。 エ 以上のとおりであるから,本件審決の先願発明の認定には誤りがある。 本願発明と先願発明との一致点の認定の誤り及び相違点の看過 前記 のとおり,先願発明に係るフォームTは,3−(N−メチル−N− ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナト リウム塩一水和物ではない。 そうすると,本願発明と先願発明とを対比させた場合,3−(N−メチル −N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸 一ナトリウム塩一水和物(イバンドロネート)の結晶多形であることは一致 点とはいえず,本件審決の認定した前記第2の3 イの相違点に加えて,以 下の相違点(以下「相違点B」という。)も存在することになる。 相違点B:本願発明が3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒ ドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩の一水和物である 10 のに対して,先願発明は一水和物ではない点。 したがって,3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシ プロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩の一水和物であることを, 一致点として認定し,相違点Bを看過した本件審決には誤りがあり,この誤 りは審決の結論に影響を及ぼすことから,本件審決は違法なものとして取り 消されるべきである。 〔被告の主張〕 ア 原告は,本件審決が,先願明細書に記載された結晶形であるフォームT を一水和物として認定した点は誤りである旨主張する。 しかし,先願明細書(甲1の1)には,イバンドロネートナトリウムの 化学構造として,段落【0003】に,次の構造が記載され, さらに「イバンドロネートナトリウムについての実験式は,C 9 H22NO7 P2Na・H2Oである。(段落【0002】 」 )と記載されていることから, 先願明細書においては,特に断りのない限り, 「イバンドロネートナトリウ ム」とは3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロ パン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一水和物を指すとみるのが妥 当である。 また,熱重量分析(TGA)は,結晶水や吸着水の定量にも用いられる が,加熱によって失われる重量が測定されるにすぎない。最終的な重量損 失の値には,結晶水と付着水などの結晶水以外の成分の両方が含まれ,そ れだけでは多形結晶の結晶水の量と必ずしも一致しないことは,医薬の分 野の当業者の技術常識である。したがって,TGAの最終的な重量損失量 11 が一水和物の理論値と完全に一致しない場合であっても,そのことのみで は,先願発明の多形が一水和物ではないことの証拠にはならない。先願明 細書の段落【0046】の「フォームTは,約5〜約7%の重量損失を示 すTGAによりさらに特徴づけられ得る。」との記載は,上記被告の主張と 整合するものである。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 イ 原告は,先願明細書には,イバンドロネート一ナトリウム塩一水和物の 結晶形が製造できるようには記載されていない旨主張する。 しかし,本願優先日前から,医薬品の有効成分として用いられる化合 物が,水和物を含む結晶であっても,水和物を省略した化学名で呼ばれ る場合があることは当業者に周知であった。したがって,本願優先日時 点では,イバンドロネートナトリウムが医薬品に用いられる場合には, イバンドロネートナトリウム一水和物結晶であるのが通常であった(乙 9〜11)ので,先願明細書においても,イバンドロネートナトリウム の結晶は「イバンドロネートナトリウム一水和物」を指すというのが, 当業者の理解であったといえる。そして,上記のとおり,先願明細書に おいて,イバンドロネートナトリウムという記載が一水和物結晶を指す 場合があり,技術常識を踏まえて先願明細書の記載を検討すれば,先願 明細書に記載された例52のフォームTのイバンドロネートナトリウム がイバンドロネートナトリウム一水和物結晶であることは,水を含みエ タノールを含まない溶媒で結晶化していることからも当業者には明らか である。 以上のとおり,先願明細書における「イバンドロネートナトリウム」 という記載は明確であるし,本願優先日時点で,イバンドロネートナト リウム一水和物を有効成分とする医薬品も既に販売されており,イバン ドロネートナトリウム一水和物の存在は当業者に明らかであったから, 12 先願明細書の記載からイバンドロネートナトリウム一水和物が理解でき ず,その製造ができないというものではない。 先願明細書には,段落【0163】において,フォームTの製造に関 して,出発原料である公知の非晶性3−(N−メチル−N−ペンチル) アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸から出発して, これを溶解する溶媒の組成と量,ナトリウム塩とするための水酸化ナト リウムの量と添加方法,塩形成反応の温度と時間,結晶を得るための沈 殿物の採取と乾燥方法,温度及び時間が具体的に記載され,また,粉末 X線回折(先願明細書の図21)でピークが存在することにより結晶で あることが確認され,さらに「フォームTは,TGAにおいて約5%か ら約7%の重量損失を示す。」と記載されているように,一水和物である ことと矛盾しない物性値を得たことから,例52において, 「イバンドロ ネートナトリウム結晶形Tを得た。」と記載したものといえる。そして, 先願明細書において,結晶について「イバンドロネートナトリウム」と いうときは, 「イバンドロネート一ナトリウム一水和物」を指すと解され ることは, りであるから,例52で得られた結晶形フォー ムTは,イバンドロネートナトリウム一水和物の結晶である。 以上のとおり,技術常識を考慮して先願明細書の記載を検討すれば, 先願明細書に記載されたイバンドロネートナトリウムのフォームTがイ バンドロネートナトリウム一水和物の結晶であることは明確であって, 先願発明であるイバンドロネートナトリウム一水和物の結晶フォームT は,先願明細書に記載された製造方法に従って,当業者が得ることがで きるものである。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 原告は,本件審決は,一水和物である点を含めて,本願発明と先願発明の 一致点として認定し,相違点を看過した誤りがある旨主張する。 13 あるフォームTを3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキ シプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一水和物と認定した点に 誤りはないから,一致点及び相違点の認定についても,原告主張に係る誤り はない。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件審決は,先願発明は,先願明細書の図21のX線粉末回折パターンを 示すものであり,図21を拡大した下図によれば,2θが,10.2°,1 1.5°±0.2°においても特性ピークを示すことが読み取れるから,先 願発明は,特性ピークを示す角度2θ±0.2°として「10.2°」及び 違点ではないと判断した。 しかし,先願明細書において,フォームTの特性ピークを示す角度2θ± 0.2°として明記されているのは,6.2°,15.7°,17.6°, 19.4°,26.3°,26.9°,31.7°,32.6°,35.6° 及び38.7°±0.2°のみであり(甲1の1,段落【0046】,請求項 50),それ以外に,特性ピークがあることは先願明細書には記載も示唆もさ れていない。本件審決は,2θが,10.2°,11.5°±0.2°に おいて特性ピークを示すことを読み取るために ,わざわざ図21を拡大し たが,このようにしないと読み取れないものをおよそ特性ピークというこ 14 とはできないし,これらを特性ピークとすべき理由も示されていない。 また,図21では,10°近辺の突起がノイズで失われているので,10. 2°及び11.5°(角度2θ±0.2°)のピークの存在を見出すことは できない。ノイズで失われる突起は,低くても10°を中心とするか,ある いは,それを超えさえしている。 本願明細書の図1と比較すればわかるとおり,先願明細書の図21のX線 回折パターンは非常に解像度が悪く,本件審決のように拡大したとしても解 像度がよくなるわけではない。正確に特徴づけられた本願発明に係る多形と, 先願発明のフォームTとの相違点を検討するために,非常に解像度の悪い先 願明細書の図21を考慮することは許されない。 また,図21の大部分のピークはノイズに紛れ込んでいるので,ノイズと ピークの間のどこに境界線を置いて,両者を客観的に識別し得るのか理解で きない。そのため,図21から特性ピークを客観的に見出すことはできない。 そもそも前記1の〔原告の主張〕のとおり,先願発明に係るフォームTは, 3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1, 1−ジホスホン酸一ナトリウム塩の一水和物ではないのだから,図21は3 −(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1 −ジホスホン酸一ナトリウム塩一水和物のX線回折パターンとはいえず,図 21を相違点の検討において考慮することはできない。 以上によれば,先願発明は,特性ピークを示す角度2θ±0.2°として 「10.2°」及び「11.5°」も含むものとはいえず,本件審決の前記 であり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすことから,本 件審決は違法なものとして取り消されるべきである。 〔被告の主張〕 本願発明の特許請求の範囲の請求項1における「特性ピーク」とは,本願 発明を定義するために出願人が選んだピークという以上の意味は読み取れず, 15 請求項1に挙げられた角度2θ±0.2°が10.2°,11.5°に対応 するピークがあればその特性ピークを有するといえる。 先願明細書の図21のピークの位置は客観的に識別することができ,角度 2θ±0.2°が10.2°,11.5°の位置にピークが存在するのだか ら,フォームTのX線回折パターンはそのような特性ピークを有するという ことができる。 本願発明における多形AのX線回折図(本願明細書の図1)と,先願発明 のフォームTのX線回折図(先願明細書の図21)とは,測定のステップの 大きさと測定にかける時間が異なるものであるから,2θのピーク位置と強 度の測定値が完全に一致しているわけではない。しかし,粉末X線結晶回折 は,回折角θ及び結晶格子の面間隔dとX線の波長λの関係式であるブラッ グの法則をその原理として利用するものであり,このことは,言い換えると, 2θは,X線の波長λと面間隔dの関数であるから,同じ波長のX線を用い て測定した粉末X線回折図において,2θにおけるピーク位置の一致が全体 として確認できるのであれば,解像度の良否自体を本願発明と先願発明との 同一性の判断の観点から問題にする直接の意味はない。 以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(先願発明の後願排除の基準日の認定の誤り)について 〔原告の主張〕 本件審決は,先願は平成16年8月23日の米国特許出願第60/604 026号(以下「P1出願」という。)及び平成17年6月16日の米国特許 出願第60/690867号(以下「P2出願」という。)を基礎としたパリ 条約による優先権主張を伴うものであって,優先権証明書が適法に提出され ているところ,先願の出願人であるテバ・ファーマシューティカル・インダ ストリーズ・リミティド(以下「テバ社」という。)は,その出願時点で,P 1出願をした発明者であるリフシツリロン・リビタル,バイヤー・トーマス 16 及びアロンヒメ・ジュディス(以下,まとめて「先願発明者」という。)の正 規の承継人となってパリ条約による優先権主張ができる状態にあったと強く 推認されるし,そう解するのが相当であり,先願のP1出願に基づく優先権 主張については,真実性についての合理的な疑義は認められず,そうであれ ば,先願のP1出願に基づく優先権主張の適法性が推認され,先願発明につ いては,後願排除の基準日は,先願のパリ条約による優先権主張の基礎とな ったP1出願の出願日である平成16年8月23日とすることができる旨判 断した。 先権の利益を享受することができないから,特許法29条の2の他の出願と して引用される場合は,第1国出願日ではなく,国際出願日の平成17年8 月23日を後願排除の基準日とすべきところ,本願の優先日は同年2月1日 であるから,先願は,特許法29条の2の本願優先日前の他の出願とはいえ ない。したがって,先願発明について,後願排除の基準日を,先願のパリ条 約による優先権主張の基礎となったP1出願の出願日である平成16年8月 23日と認定した本件審決は誤りであり,その誤りが審決の結論に影響を及 ぼすことから,本件審決は取り消されるべきである。 先願の出願人は,P1出願及びP2出願の出願人でも承継者でもないから, 先願はP1及びP2出願に基づく優先権の利益を享受することはできないこ と。 ア 優先権を主張できる者は第1国出願の出願人又はその承継者である(パ リ条約4条A(1) 。しかるに,先願の出願人は,テバ社であるのに対し ) て,P1及びP2出願の出願人は,発明者である先願発明者であり,米国 特許庁のホームページを調査してもテバ社がP1及びP2出願を承継した 記録も証拠もない。 イ 米国特許出願第11/644568号(以下「568出願」という。 は, ) 17 P1及びP2出願に基づく優先権を主張し,米国特許出願第11/211 062号(以下「062出願」という。)及び米国特許出願第11/410 825号(以下「825出願」という。)の継続出願であり,先願と同一の 発明の主題を開示するものであるばかりか,P1及びP2出願,062, 825及び568出願並びに先願の発明の主題はすべて同一であり,これ らの出願時の請求項もすべて同一といえる。この568出願は,平成18 年12月22日に出願され,その後,出願のみならず発明の主題や優先権 もテバ社に承継されているが,出願人である発明者全員が568出願の譲 渡証に署名したのは平成19年2月21日であり,先願を出願した平成1 7年8月23日の時点では,テバ社はP1及びP2出願を含むこれらの出 願やその優先権を承継していない。 先願の出願人は,平成19年2月19日以前には,P1及びP2出願の発 明者であるピンカソフ・ミカエルの権利を取得していないから,P1及びP 2出願に基づく優先権の利益を享受することができないこと。 ピンカソフ・ミカエルは,P1及びP2出願の発明者ではないが,それら と発明の主題が同一である825出願及び568出願では発明者として追加 されている。568出願に関して平成19年3月27日に提出された宣誓書 によると,ピンカソフ・ミカエルを含む各発明者は先願と同一の発明の主題 についての発明者であることを証言し,さらにP1及びP2出願の優先権も 請求していた。したがって,ピンカソフ・ミカエルはP1及びP2出願で開 示されたのと同じ発明の主題の適法な発明者である。 しかるに,ピンカソフ・ミカエルが568出願の譲渡証に署名したのは, 平成19年2月19日であるから,先願の出願時点では,テバ社はP1及び P2出願に開示された発明の主題に関する権利並びにこれらの優先権を承継 していない。 平成19年2月21日付けの譲渡証の存在により,優先権の承継が必要な 18 かったとはいえないこと。 568出願の譲渡証の存在から,優先権を取得するのに譲渡に必要がなか ったとはいえず,実際に,先願発明者のうちの一人であるリフシツリロン・ リビタルの発明は,テバ社にいつも決まって承継されていた。 また,平成19年2月21日付けの568出願の譲渡証には,4人の発明 者全員が「1.前記発明,アメリカ合衆国特許証に係る前記特許出願,あり とあらゆる他の国における前記発明の特許証に係るありとあらゆる他の出願, 例えば,すべての分割,更新,代替,継続,及び全部若しくは一部が前記発 明に基づくか又は前記特許出願に基づく条約出願,ならびにありとあらゆる 特許証,再発行証,及び前記発明又は前記特許出願について許可された特許 証の延長に対する,すべての権利,権原,及び利益,ならびに前記発明,前 記特許出願,及び前記特許証に基づくか若しくは基づきうるか又はそれらに 起因するあらゆる優先権を譲受人に譲渡,移転,付与する」ことが記載され ているから,この譲渡証により,発明者は,発明及びこれについてのP1及 びP2出願に係る優先権を譲渡したというべきである。 さらに,568出願の譲渡証において,発明者は,発明をこれまでいかな る他人にも譲渡していなかったこと,各人が発明をテバ社に譲渡する権利を 有していたことを陳述している。 したがって,テバ社は,発明者全員が署名し終えた平成19年2月21日 になって初めてパリ条約4条A(1)でいう承継人になったといえる。 〔被告の主張〕 優先権証明書に基づく優先権主張の適法性の推認について 先願のP1出願に基づく優先権主張については,優先権証明書が実際に提 出されている。 そして,特許協力条約に基づく規則51の2.1 には, 「51の2.2の 規則に従うことを条件として,第二十7条の規則に従い,指定官庁が適用す 19 る国内法令により出願人に提出を要求することができるものは,特に次のも のを含む。…(iii)出願人が先の出願をした出願人でない場合又は先の出願が された日以後出願人の氏名が変更されている場合には,先の出願に基づく優 先権を主張する出願人の資格に関する証明を含む書類…」と規定され,当該 出願人の資格に関する証明を含む書類の提出を要求しない指定官庁において は,優先権の承継の真実性に合理的な疑義がないかぎり,優先権証明書の提 出をもって優先権主張の適法性が推認されるものと解すべきである。 そして,以下の点からみて,先願のP1出願に基づく優先権主張の適法性 は強く推認される。 まず,優先権主張は,優先権主張の基礎となる出願が未公開状態である時 点で第二国に出願しなければならず,優先権主張の基礎となる出願の出願人 から信頼されてその未公開情報を得た承継人のような特別な関係者でなけれ ば,優先権証明書の提出ができない。すなわち,先願の出願人が優先権証明 書を提出したということ自体に,優先権を適法に承継したという強い推定が 働く。 次に,先願は,国際段階で,米国以外の国についてテバ社を出願人としな がら,あえて,米国については発明者を出願人としていたことからみると, テバ社が先願を出願するときに,米国以外の国においてP1出願の出願人か ら意図的に出願人を変更した,すなわち,米国以外の国においては,発明者 から優先権主張も含めてその出願をする権利を譲り受けて,テバ社が出願人 となったと考えるのが妥当である。 さらに,P1出願の発明者から優先権も含めた出願をする権利を適法にテ バ社が承継していないとすれば,発明者はテバ社に対して何らかの対抗措置 を講じるのが自然であるが,先願は,平成24年8月31日に登録が確定し ており,その後,テバ社と発明者との間で冒認等の係争が生じた事実がない のであるから,先願の出願の時点で,発明者がデバ社への承継を了承してい 20 たと考えるのが自然である。 以上のとおり,優先権の承継の真実性に特に合理的な疑義はなく,先願の P1出願の優先権主張の適法性が強く推認されるとした本件審決の判断に誤 りはない。 合衆国法典第35巻261条によれば,特許出願等に係る権利は証書によ って法的に譲渡することができるから,米国特許庁ホームページに譲渡の記 録や証拠がないとしても,そのことで承継がなかったことが裏付けられるも のではない。 また,568出願と先願は,優先基礎出願が共通するものではあるが,そ れぞれ,別の国に出願された別の出願である。したがって,568出願の譲 渡証の効力は,あくまで568出願及び568出願においてP1出願に基づ く優先権主張をする権利の譲渡に限られ,先願においてP1出願に基づく優 先権主張をする権利についてまで及ぶものではない。 さらに,合衆国法典第35巻111条(a) (1)に「特許出願は,本法に 別段の定めがある場合を除き,長官に対する書面によるものとし,発明者に よって行われるか又は出願することについて発明者の委任を受けていなけれ ばならない。」と規定されるように,米国においては,出願人は原則として発 明者でなければならず,出願前に特許を受ける権利の譲渡を受けたとしても 出願人にはなれない。このために,その譲渡を米国特許庁へ登録しようとし た米国出願である568出願は,発明者を出願人として出願され,譲渡証に 譲渡対象の出願番号が記載できるようになった後に,発明者がテバ社にその 権利を譲渡する手続がとられた。一方,日本国においては,発明者でなくて も,発明者から特許出願前に特許を受ける権利を承継すれば,発明者からの 譲渡証を必要とせず,特許出願することができるのであるから,日本国出願 である先願において,その出願前にP1出願の優先権を主張する権利を含め, テバ社が発明者から特許を受ける権利を承継していたことに不自然な点はな 21 い。 前 568出願の譲渡証の効力は,先願におけるP1出願に 基づく優先権主張をする権利についてまで及ぶものではなく,先願とは別個 の出願である568出願の出願人にピンカソフ・ミカエルが含まれていたと しても,先願におけるP1出願の優先権の承継とは関係がない。そして,P 1出願の出願人又は発明者には,ピンカソフ・ミカエルが含まれていないか ら,先願におけるP1出願に基づく優先権の承継にあたっては,ピンカソフ・ ミカエルから優先権の譲渡を受ける必要はない。 568出願の譲渡証は,568出願の発明者が米国出願である568出願 に記載された発明と568出願においてP1出願に基づく優先権を主張する 権利の譲渡をしただけであって,568出願とは別の出願である先願におい てP1出願に基づく優先権主張をする権利にまで効力を及ぼすものではない。 また,568出願の譲渡証中の「全部若しくは一部が前記発明に基づくか 又は前記特許出願に基づく条約出願」とは,568出願の発明に基づく条約 出願であり, 「前記発明…に基づくか…それらに起因する…優先権」とは,5 68出願に記載された発明について,568出願に基づいて優先権主張をす る権利と解すべきであって,P1出願の優先権ではない。 そして,譲渡証は,568出願の発明者が米国出願である568出願につ いて,P1及びP2出願に基づく優先権を主張する権利の譲渡をしたことを 証明するだけであるから,当該譲渡証に,その権利を発明者が譲渡時点まで いかなる他人にも譲渡していないとの記載があることが,568出願以外の 出願においてP1出願に基づく優先権主張をする権利を譲渡していないこと を裏付けるものではない。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(先願発明の認定の誤り,一致点の認定の誤り及び相違点の看過) について 22 先願明細書(甲1の1)の記載事項 先願明細書は,発明の名称を「固体及び結晶イバンドロネートナトリウム 及びその調製方法」とする発明を開示するものであって,以下の事項が記載 されている。 ア 特許請求の範囲 「【請求項1】 非晶性イバンドロネートナトリウム。 【請求項2】 水中,イバンドロネートナトリウムの溶液を噴霧乾燥する段階を含んで 成る,非晶性イバンドロネートナトリウムの調製方法。 【請求項3】 a) 約 4.7,5.0,17.2,18.3 及び 19.5±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; b)約 4.8,9.3,18.5,23.1 及び 36.1±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; c)約 4.6,4.8,5.3,9.3 及び 34.7±0.2°2θでのx−線反射により特徴 づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; d)約 4.9,5.1,6.0,20.0 及び 36.4±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; e)約 4.7,9.2,17.4,18.4 及び 19.9±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; f)約 4.8,5.7,17.3,19.5 及び 26.0±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; g)約 4.6,9.2,18.3,19.6 及び 25.6±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; h)約 5.0,5.9,17.2,20.0 及び 25.9±0.2°2θでのx−線反射により特 23 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; i)約 5.1,6.1,17.3,20.1 及び 21.5±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; j)約 5.1,6.2,17.3,19.7 及び 20.1±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; k)約 5.0,6.1,17.2,25.7 及び 30.9±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; l)約 4.7,6.0,17.2,26.2 及び 31.0±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; m)約 4.9,6.2,25.9,31.0 及び 37.1±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; n)約 5.9,17.1,19.6,20.2 及び 21.3±0.2°2θでのx−線反射により 特徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; o)約 6.1,17.2,19.6,20.3 及び 21.4±0.2°2θでのx−線反射により 特徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; p)約 6.1,17.2,19.6,20.1 及び 21.5±0.2°2θでのx−線反射により 特徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; q)約 6.1,17.3,19.6,21.5 及び 30.8±0.2°2θでのx−線反射により 特徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; r)約 6.2,25.9,26.7,31.1 及び 37.2±0.2°2θでのx−線反射により 特徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; s)約 5.3,6.0,17.2,18.7 及び 20.0±0.2°2θでのx−線反射により特 徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; t)約 4.8,5.1,5.3,5.4 及び 6.1±0.2°2θでのx−線反射により特徴 づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形; u)約 6.2,15.7,26.3,32.6 及び 35.6±0.2°2θでのx−線反射により 24 特徴づけられるイバンドロネートナトリウム結晶形から成る群から選択 されたイバンドロネートナトリウム結晶形。… 【請求項50】 フォーム T と称する,約 6.2,15.7,26.3,32.6 及び 35.6±0.2°2θで のx−線反射により特徴づけられ,そして約 17.6, 19.4, 26.9, 31.7 及び 38.7±0.2°2θでのx−線反射によりさらに特徴づけられる請求項3記載 のイバンドロネートナトリウム結晶形。 【請求項51】 図 21 に実質的に示されるような粉末x−線回折図を有する請求項 50 記 載のイバンドロネートナトリウム結晶形。」 イ 発明の詳細な説明 技術分野 「【0001】 発明の分野: 本発明は,イバンドロネートナトリウムの固体状態化学に関する。」 背景技術 「【0002】 発明の背景: イバンドロネートナトリウムについての実験式は,C9H22NO7P2Na・H2O である。イバンドロネートナトリウムの化学名称は, (1−ヒドロキシ− 3−(N−メチル−N−ペンチルアミノ)プロピリデン)ビスホスホン酸 一ナトリウム塩である。イバンドロネートナトリウムの化学構造は,次 の通りである: 25 【0003】 【化1】 【0004】 イバンドロン酸(IBD−Ac)の化学構造は,次の通りである: 【化2】 【0005】 イバンドロネートナトリウムは,脂肪族第三アミン側鎖により特徴づ けられる第三−世代窒素含有ビスホスホネートである。イバンドロネー トナトリウムは白色粉末である。 アメリカ特許第 4,972,814 号は,ジホスホン酸誘導体,その調製方法, 及びそれを含む医薬組成物を開示する。 【0006】 Boniva(商標)(イバンドロネートナトリウム)は,骨疾患,例えば悪 性の高カルシウム血症,骨溶解,バジェット病,オステオポローシス及 び転移性骨疾患の処理のために Hoffmann-La Roche により開発された。 それは,2〜3ヶ月ごとに投与される静脈内注射として,及び経口製剤 として利用できる。 Boniva(商標)はまた,癌関連の骨合併症のために,名称 Bondronat (商標)としてヨーロッパにおいて市販されている。Bondronat(商標) は,1mg のイバンドロン酸に応答する,1.125mg のイバンドロン酸一ナ 26 トリウム塩一水和物を含む注入のための溶液のための 1ml の濃縮物を含 むアンプルにおいて入手できる。」 発明を実施するための最良の形態 「【0023】 発明の特定の記載: 本発明は,イバンドロネートナトリウムの新規結晶形,及びイバンド ロネートナトリウムの非晶形を提供する。1つの態様においては,本発 明は,他の結晶形を実質的含まない,すなわち約5%以下のもう1つの 結晶形を含む個々の結晶形を提供する。本発明はまた,それぞれ記載さ れるイバンドロネートナトリウムの固体形の調製方法を提供する。 本発明はまた,イバンドロネートナトリウムの溶媒和物形を提供する。 そのような溶媒和物に関する溶媒含有率の範囲は,下記に定義される: 【0024】 溶媒和物形: 溶媒含有率の範囲(重量による) 1/3 エタノラート 4-5% モノエタノラート 8-12% ヘミブタノラート 8-10% 本発明は,固体結晶性イバンドロネートナトリウムアルコラートを提 供する。 本発明は,固体結晶性イバンドロネートナトリウムエタノラートを提 供する。 本発明はまた,固体結晶性イバンドロネートナトリウムヘミブタノラ ートを提供する。 【0025】 1つの態様においては,本発明は,フォーム C と称するイバンドロネ ートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム C は,4.7, 5.0, 17.2, 27 18.3 及び 19.5±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけられ る。フォーム C はさらに,17.6, 19.7, 20.2, 20.6 及び 23.8±0.2°2 θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム C は,一 水和物及び/又はモノエタノラートであり得る。フォーム C は,約 15〜 約 16%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0026】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム D と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム D は,4.8,9.3, 18.5,23.1 及び 36.1±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム D はさらに,15.3, 19.9, 26.3, 27.2 及び 30.4±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム D は,六 水和物であり得る。フォーム C は,約 24〜約 26%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0027】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム E と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム E は,4.6,4.8, 5.3, 及び 34.7±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけら 9.3 れる。フォーム E はさらに,18.6, 23.3, 24.5, 27.1 及び 30.1±0.2°2 θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム E は,ヘ ミブタノラート及び/又はセスキ水和物であり得る。フォーム E は,約 14〜約 21%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0028】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム F と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム F は,4.9,5.1, 6.0,20.0 及び 36.4±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム F はさらに,18.6, 26.0, 28.5, 30.4 及び 31.3±0.2° 28 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム F は,約 10〜約 32%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0029】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム G と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム G は,4.7,9.2, 17.4,18.4 及び 19.9±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム G はさらに,10.1, 15.2, 18.7, 26.3 及び 27.1±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム G は,六 水和物であり得る。フォーム G は,約 22〜約 25%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0030】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム H と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム H は,4.8,5.7, 17.3,19.5 及び 26.0±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム H はさらに,18.5, 20.1, 23.8, 31.1 及び 37.1±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム H は,約 13〜約 16%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0031】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム J と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム J は,4.6,9.2, 18.3,19.6 及び 25.6±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム J はさらに,17.5, 18.9, 21.7, 22.9 及び 29.5±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム J は,六 水和物であり得る。フォーム J は,約 22〜約 23%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0032】 29 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム K と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム K は,5.0,5.9, 17.2,20.0 及び 25.9±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム K はさらに,18.5, 19.7, 21.4, 26.5 及び 31.1±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム K は,約 10〜約 15%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0033】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム K2 と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム K2 は,5.1,6.1, 17.3,20.1 及び 21.5±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム K2 はさらに,18.6, 19.6, 26.1, 26.8 及び 31.1±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム K2 は, 約 9〜約 10%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0034】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム K3 と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム K3 は,5.1,6.2, 17.3,19.7 及び 20.1±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム K3 はさらに,18.5, 21.5, 23.8, 25.8 及び 31.1±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム K3 は, 約7〜約8%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0035】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム Q と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム Q は,5.0,6.1, 17.2,25.7 及び 30.9±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム Q はさらに,16.8, 21.4, 26.7, 29.1 及び 36.9±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム Q は,一 30 水和物〜六水和物であり得る。フォーム Q は,約5〜約 25%の重量損失 を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0036】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム Q1 と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム Q1 は,4.7,6.0, 17.2,26.2 及び 31.0±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム Q1 はさらに,19.5, 21.4, 25.8, 29.1 及び 37.1±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム Q1 は, 二水和物〜三水和物であり得る。フォーム Q1 は,約 9〜約 16%の重量損 失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0037】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム Q2 と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム Q2 は,4.9,6.2, 25.9,31.0 及び 37.1±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム Q2 はさらに,16.9, 17.3, 19.0, 26.6 及び 29.2±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム Q2 は, 二水和物〜四水和物であり得る。フォーム Q2 は,約 8〜約 17%の重量損 失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0038】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム Q3 と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム Q3 は,5.9,17.1, 19.6,20.2 及び 21.3±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム Q3 はさらに,18.0, 18.5, 23.6, 24.7 及び 30.8±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム Q3 は, 約 7〜約 9%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0039】 31 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム Q4 と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム Q4 は,6.1,17.2, 19.6,20.3 及び 21.4±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム Q4 はさらに,16.9, 18.1, 18.5, 23.7 及び 24.8±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム Q4 は, 約 7〜約 8%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0040】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム Q5 と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム Q5 は,6.1,17.2, 19.6,20.1 及び 21.5±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム Q5 はさらに,16.8, 24.7, 25.7, 29.0 及び 30.9±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム Q5 は, 約 5〜約 11%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0041】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム Q6 と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム Q6 は,6.1,17.3, 19.6,21.5 及び 30.8±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム Q6 はさらに,16.9, 20.2, 25.6, 26.9 及び 29.1±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム Q6 は, 約 9〜約 10%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0042】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム QQ と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム QQ は,6.2,25.9, 26.7,31.1 及び 37.2±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム QQ はさらに,16.9, 17.3, 21.5, 24.7 及び 29.2±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…この結晶形は,例 32 えば 40℃で 100%相対的湿度下で3日間,貯蔵される場合,5%以上, 他の多形現象形に転換しない。フォーム QQ はまた,100μ以下,好まし くは 60μ以下の粒度分布を有する。フォーム QQ は,一水和物〜三水和 物の範囲で存在することができる。フォーム QQ は,約5〜約 12%の重 量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0043】 光学顕微鏡は,粒子の最大サイズ及び形状を直接的に観察し,そして 評価するために使用され得る。材料の懸濁液(シリコーン流体における サンプルとしての)がスライド上に配置され,そして顕微鏡の異なった レンズにより観察される。粒子のサイズは,検量された内部規則により 評価され得る。 【0044】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム R と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム R は,5.3,6.0, 17.2,18.7 及び 20.0±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム R はさらに,20.5, 25.0, 26.5, 29.1 及び 31.0±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム R は,ヘ ミエタノラート及び/又は一水和物であり得る。フォーム R は,約 10〜 約 11%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0045】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム S と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム S は,4.8,5.1, 5.3,5.4 及び 6.1±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけら れる。フォーム S はさらに,10.5, 21.0, 26.3, 33.0 及び 38.2±0.2°2 θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。…フォーム S は,ヘ ミエタノラート及び/又は一水和物であり得る。フォーム S は,約 11〜 33 約 12%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0046】 もう1つの態様においては,本発明は,フォーム T と称するイバンド ロネートナトリウム固体結晶形を提供する。フォーム T は,6.2,15.7, 26.3,32.6 及び 35.6±0.2°2θでのx−線粉末解析反射により特徴づけ られる。フォーム T はさらに,17.6, 19.4, 26.9, 31.7 及び 38.7±0.2° 2θでのx−線粉末回折反射により特徴づけられる。図 21 は,フォーム T についての代表的な粉末x−線回折図を示す。フォーム T は,約 5〜約 7%の重量損失を示す TGA によりさらに特徴づけられ得る。 【0047】 もう1つの態様においては,本発明は固体非晶性イバンドロネートナ トリウムを提供する。…非晶形はさらに,約 6.8〜約 24.4%の重量損失 を示す TGA により特徴づけられる。 もう 1 つの態様においては,本発明は,イバンドロネートナトリウム を溶媒に溶解し,そしてその反応混合物がイバンドロネートナトリウム の結晶形を単離する段階を包含する,イバンドロネートナトリウム結晶 形の調製方法を提供する。 【0048】 もう1つの態様においては,本発明は,水酸化ナトリウムとイバンド ロン酸,好ましくは非晶性イバンドロン酸,及び溶媒とを組合し,そし てその組合せからイバンドロネートナトリウムの結晶形を単離する段階 を包含する,イバンドロネートナトリウムの結晶形の調製方法を提供す る。溶媒は,有機溶媒,例えば C3-C7 ケトン又はエステル,C1-C3 アルコ ール又はアセトニトリル;水;又はそれらの混合物であり得る。本発明 のこの態様への使用のための好ましい溶媒は,アセトン,メタノール, エタノール,イソプロパノール,アセトニトリル,水及びそれらの混合 34 物を包含する。水酸化ナトリウムは,固体又は水性であり得るか,又は 好ましくは水酸化ナトリウムは,水酸化ナトリウム及びイバンドロン酸 が組み合わされる溶媒における溶液において存在する。結晶性イバンド ロネートナトリウムは好ましくは,約3〜約5,好ましくは4の pH を有 する溶液から沈殿せしめられる。 【0080】 もう1つの態様においては,水酸化ナトリウムとイバンドロン酸とを, 約 20:80 の比の水:アセトンの混合物において組合し,そしてその反応 混合物からイバンドロネートナトリウムフォーム T を単離することを包 含する,イバンドロネートナトリウム T の調製方法を提供する。好まし くは,前記方法は,反応混合物を,ほぼ還流温度で約1〜約5時間,最 も好ましくは約 1.5 時間,攪拌することを包含する。好ましくは,前記 方法はさらに,反応混合物を,ほぼ室温に冷却することを包含する。 【0103】 …本発明を記載して来たが,本発明はさらに,次に非制限的例により 例示される。表1〜3は,下記にさらに詳細に記載される例の要約を表 す。」 35 36 37 38 実施例 「【0107】 x−線粉末回析: X−線粉末回折データを,固体状態検出器を備えた SCINTAG 粉末 X−線 回折測定器モデル X TRA を用いて,当業界において知られている方法に より得た。1.5418Åの銅放射線を使用した。丸型のゼロのバックグラウ ンド石英プレートを有する丸型アルミニウムサンプルホルダーを使用し た(25(直径)*0.5(深さ)mm の穴を有する)。 走査パラメーター: 範囲:2〜40° 2θ(±0.2° 2θ) 走査モード:連続走査 段階サイズ:0.05° 走査速度:5°/分 【0108】 熱重量分析(TGA); 熱重量分析(TGA)を,Mettler モデル TG50 装置を用いて,10℃/分の 加熱速度で行った。サンプルサイズは,7〜15mg であった。 還流媒体を用いる例においては,還流媒体は,溶媒の混合物である。 そのような混合された溶媒還流媒体の組成は,体積/体積(v/v)に基づ いての比率として表わされる。還流媒体に添加されるべき水の量は,次 の式に従って計算される: 【0109】 (1g の IBD-Ac当たり 10 体積のアルコール×100)/X%のアルコール=Y Y が,アルコール及び水の合計量である場合; Y×(100−X)%の水/100=Z Z が,添加されるべき水の体積である場合。 39 【0110】 示差走査熱量法: 示差走査熱量(DSC)分析を,Mettler Toledo DSC 821e 熱量計により 行った。穴開けされた(3個の穴)るつぼに保持される約3〜約5mg の サンプルを,10°/分の加熱速度で分析した。 【0111】 噴霧乾燥: 噴霧乾燥を,水に関しては1L/時及び有機溶媒に関しては,それより も早い蒸発能力を有する VuchiMini Sproh 乾燥器 B−290 上で行った。 最大温度入力は 220℃であり,空気流は最大 35m2/時であり,そして噴霧 ガスは 200〜800L/時及び5〜8バールでの圧縮された空気又は窒素で あった。ノズル直径は 0.7mm(標準)であり,そしてノズルキャップは 1.4mm 及び 1.5mm であった。 【0163】 イバンドロネートナトリウムフォーム T: 例 52: 水:アセトン(20:80 v/v, 9ml)中,水酸化ナトリウム(0.63g) の溶液を,水:アセトン(20:80 v/v, 49ml)中,非晶性イバンドロン 酸(5g)の溶液に還流温度で滴下した。反応混合物を,還流温度でさ らに 1.5 時間,加熱し,4.0 の pH を得た。次に,反応混合物を室温に冷 却した。さらなる冷却を,氷−浴を用いて行った。沈殿物を濾過し,ア セトン(1×50ml)により洗浄し,そして 50℃で 21 時間,真空オーブ ンにおいて乾燥し,3.8g のイバンドロネートナトリウム結晶形 T を得た。 フォーム T は,TGA において約5%〜約7%の重量損失を示す。」 図面の簡単な説明 「【0182】 40 … 【図21】図21は,イバンドロネートナトリウムフォーム T の X−線 粉末回折図である。…」 「【図21】 」 類の固体結晶形フォームの全てについて熱重量分析(TGA)による重量損失 が示されているものの,溶媒和物の形態に関しては,そのうちフォームC, D,E,G,J,Q,Q1,Q2,QQ,R及びSの11種類についてしか 記載されておらず,フォームTについては,これが溶媒和物なのか,また溶 媒和物であるとするとその形態は何かについての記載が全くない(段落【0 023】〜【0048】【表1】〜【表3】 。したがって,先願明細書に接 , ) した当業者は,フォームTが溶媒和物であるか否かは判然としないと理解す るものというべきである。 ,フォームTについて,熱重量分 析(TGA)による重量損失が約5〜約7%(表3の具体的データは,6.0%) であること(【表3】,段落【0163】,水酸化ナトリウムとイバンドロン ) 41 酸とを,約 20:80 の比の水:アセトンの混合物において反応させ,反応混 合物をほぼ還流温度で約1〜約5時間攪拌した後,ほぼ室温に冷却すること で調製されること(段落【0080】 【0163】 , )が記載されている。こ のように,結晶化を水とアセトンの混合溶媒で行っていることからすれば, 結晶フォームTには何らかの形で水分子が含まれており,熱重量分析(TGA) による重量損失は水の蒸発によるものである可能性が高いと考えられる。 ところで,証拠(乙1〜3)によれば,一般に,医薬化合物等の結晶に含 まれる水は水和物を形成する結晶水と結晶表面に付着する付着水とに大別 されるところ,医薬化合物等の結晶のTGAにおいて,付着水による重量減 少はTGA測定の昇温開始と同時に生じ始め,緩慢と進行する場合が多く, 重量減少量も湿度等に影響を受けるが,結晶水による重量減少は,一定の決 まった温度範囲で生じ,その量は湿度等の影響を受けず,化合物の分子量に 対し一定の比となること,当該医薬品化合物等の結晶についてDSC測定 (示差走査熱量法。先願明細書の段落【0110】参照。)を行うと,付着 水の場合には吸熱ピークが観測されないのに対し,結晶水の場合には,結晶 から水が離脱する際の熱的変化のピークが観測される場合があることから, 熱分析で付着水か結晶水かの推定を行うことが可能とされていることが認 められる。 そうすると,先願発明において,フォームTのTGAによる重量損失に関 わった水が,付着水か結晶水のいずれであるかは,非等温的 TG 曲線の解析 やDSC測定の解析をするなどして,重量減少と温度の関係を観察しなくて は推定することができない。したがって,上記のようなフォームTの調製方 法や熱重量分析の結果を検討しただけでは,フォームTが一水和物であると 認めることはできない。 以上によれば,本件審決が,先願発明であるフォームTを一水和物と認定 したことには誤りがあるというほかない。 42 ア 被告は,この点について,先願明細書には「イバンドロネートナトリウ ム」の化学構造及び実験式として一水和物が記載されていることから,先 願明細書においては,特に断りのない限り「イバンドロネートナトリウム」 は一水和物を指すと解すべきであって,フォームTは一水和物である旨主 張する。 ム」として,一水和物以外にも,非晶形のものや,溶媒和物形として,1 /3エタノラート,モノエタノラート,ヘミブタノラート,二〜六水和物, セスキ水和物等の結晶形のものが記載されている(段落【0023】 【0 〜 027】【0029】【0031】【0035】〜【0037】【004 , , , , 2】【0044】【0045】【0048】 。また,乙7〜11はいずれ , , , ) も本願優先日前に刊行された文献であるところ,先願明細書の段落【00 06】に記載されている商品名「Bondronat」の有効成分を,乙7(医薬 品安全性情報Vol.1 No.18(2003.8.8)11頁)では 「イバンドロン酸ナトリウム水和物」と,乙8(欧州医薬品庁のウェブサ イトに掲載された Bondronat の製品情報)及び乙9(欧州医薬品庁のウェ ブサイトに掲載された Bondronat の承認情報の付録T 製品の特徴のサ マリー)では「イバンドロン酸」と各記載し,同じく先願明細書の段落【0 006】に記載されている商品名「BONIVA」の有効成分を,乙10(米国 医薬食品局のウェブサイトに掲載された BONIVA の承認情報)では「イ バンドロネートナトリウム」と,乙11(米国医薬食品局のウェブサイト に掲載された BONIVA の承認時の添付文書 Page4)では「イバンドロネ ートナトリウム」又は「3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1− ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸,一ナトリウム塩,一水和物」 と各記載するなどしていることから明らかなように,本願優先日前から, 溶媒和物の形で存在する医薬化合物について,溶媒を省略した化学名で呼 43 ばれる場合があることは当業者に周知であったと認められる。そうすると, 先願明細書において「イバンドロネートナトリウム」が原則一水和物を指 すとは認めることができないし,特にフォームTを一水和物であると認め ることができないことは のとおりである。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 イ 被告は,熱重量分析により測定される重量損失が理論値と必ずしも一致 しないことは,医薬の分野の当業者の技術常識であるから,先願明細書に 記載されたフォームTの重量損失「約5〜約7%」が一水和物の重量損失 の理論値5%と一致しないからといって,そのことのみでは,フォームT が一水和物ではないことの証拠にはならない旨主張する。 しかし,先願明細書の記載からは,フォームTが一水和物であると認め るに足りないことは のとおりであって,被告の上記主張は採用す ることができない。 以上のとおり,本件審決の先願発明の認定には誤りがある。そして,本件 審決は,先願発明を一水和物であると誤って認定した結果,次の相違点(以 下「相違点B’」という。)を看過した誤りがある。 相違点B’ :本願発明は3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒ ドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩の一水和物である のに対して,先願発明においては水分子の存在形態が不明である点。 そして,この相違点B’により,本願発明は先願発明と同一であるとはい えないことから,本件審決による先願発明の認定の誤り,一致点の認定の誤 り及び相違点の看過は,審決の結論に影響を及ぼすものである。 したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 本願発明の特許請求の範囲の請求項1は,前記第2の2記載のとおりであ るところ,本願明細書(甲2の1・3)には次の記載がある。 44 「【0001】 本発明は,次の式: 【0002】 【化1】 【0003】 を有する3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパ ン−1,1−ジホスホン酸一ナトリウム塩一水和物(イバンドロネート)の 新規な多形結晶形およびその製造方法に関する。 【0005】 イバンドロネートは,種々の多形で存在し得ることが見出されている。 【0009】 本発明の目的は,特にイバンドロネート多形Aを単離し,特徴づけること, およびイバンドロネート多形Aの製造方法を開発することである。 【0010】 本発明の目的は,本発明で特許請求される,イバンドロネートの結晶多形 Aの同定,およびその製造方法により達成された。 【0015】 本発明のイバンドロネート結晶多形Aは,角度2θで示す特性ピークをお よそ: 45 【0016】 【表2】 【0017】 に有するX線粉末回折パターンを特徴とすることができる。 【0053】 実施例 X線粉末回折測定 イバンドロネート結晶多形AおよびBそれぞれのX線粉末回折パターンを, Bruker D8 Advance AXS 回折法(ジオメトリ:Bragg-Brentano:放射線: CuKα角度範囲2θ=2〜40°:Cu第2モノクロメーター:0.02° のステップスキャン,および測定時間たとえばステップ当たり4.0秒)を 用いて記録した。重さおよそ500mgのサンプルを,キャリヤウエルに用 意し,CuKα放射線にさらした。格子レベルで回折された放射線は,シン チレーションカウンターによって電子信号に転換され,そしてソフトウエア パッケージ「Diffrac plus」により処理される。イバンドロネート結晶多形A …のX線粉末回折パターンを図1…に示す。」 46 【図1】 特許請求の範囲請求項1の記載によれば,本願発明は,CuKα放射線を 用いて得られた粉末X線回折パターンにおいて,角度2θ±0.2°として, 10.2° ,11.5° ,15.7° ,19.4° 及び26.3°に特 性ピークを有すると特定されている。 一方, のとおり,先願明細書には,先願発明であるフォームTの 銅放射線を用いて得られたX線粉末回折パターンとして図21が記載され, 角度2θ±0.2°として,6.2°,15.7°,26.3°,32.6° 及び35.6°により特徴づけられ,さらに,17.6°,19.4°,2 6.9°,31.7°及び38.7°で特徴づけられるとされている(段落 【0046】。 ) そして,本願明細書には「特性ピーク」という用語について特段の説明や 定義はないが,「特性」の通常の用語例からすれば,「その結晶を特徴づける 特有のピーク」と解するのが相当であり,先願明細書において「特徴づけら れる」として挙げられ,図21からも看取できる上記10個のピークも,こ れと同様の意味で用いられているものと解される。そうすると,先願明細書 47 には,フォームTの特性ピークとして,2θが10.2±0.2°及び11. 5±0.2°のものが記載されているということはできない。 また,先願明細書中でフォームTが「特徴づけられる」ピークであるとし て挙げられている10個のピークは,いずれも,図21において相応の強度 を有し,明確に把握できるものである。これに対して,図21において,本 件審決が特性ピークとして挙げた2θが10.2±0.2°及び11.5± 0.2°の位置には,たとえピークが把握できるとしても極めて強度の低い 不明瞭なものしかなく,ことさらこれらを「特性ピーク」として取り上げる べきものではない。 したがって,本件審決が,先願発明は,特性ピークを示す角度2θ±0. 2°として「10.2°」及び「11.5°」も含むものであり,本願発明 と先願発明との したことには誤りがあるというべきである。 ア 被告は,この点について,本願において「特性ピーク」とは発明を定義 するために出願人が選んだピークという意味しかないのだから,先願明細 書の図21において角度2θ±0.2°が10.2°,11.5°の位置 にピークが存在する以上,先願発明と本願発明との間に実質的な相違はな い旨主張する。 しかし,本願発明の特許請求の範囲の請求項1において,単なる「ピー ク」ではなく, 「特性ピーク」として特定されている以上,前記 のとおり, 「その結晶を特徴づける特有のピーク」と解するのが相当である。そして, 先願明細書において「特徴づけられる」として挙げられている の10個のピークは,いずれも図21において明確に見て取れるピークで あるのに対して,2θが約8°から約15°の範囲では明確なピークを把 握することができない。少なくとも,明確なピークを見出すことのできな い部分にあえて着目して,先願明細書においても指摘されていない10. 48 2±0.2°及び11.5±0.2°の位置にフォームTの特性ピークが あるということはできない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 イ 被告は,本願明細書の図1と先願明細書の図21において,ピーク位置 の一致が全体として確認できるのであれば,解像度の良否は,本願発明と 先願発明との同一性の判断の観点から問題にする意味はない旨主張する。 しかし,先願明細書の図21は,解像度が低く,2θが約5°から約1 5°の範囲のピークの有無は不明というほかなく,解像度を上げればピー クが明確化するのか否かさえ判然としないものであるから,本願明細書の 図1とピークの位置及び面積が全体として一致していると認めるには足り ない。 したがって,被告の上記主張も採用することができない。 以上のとおり,先願発明のX線粉末回折パターンには10.2±0.2° 及び11.5±0.2°の2θに特定ピークが含まれるとは認められず,本 願発明と先願発明と 実質的な相違点と いうべきである。そうすると,本件審決は相違点についての判断を誤るもの であり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。 したがって,原告主張の取消事由2は理由がある。 3 結論 以上によれば,原告主張の取消事由1及び2はいずれも理由があるから,取 消事由3について検討するまでもなく,本件審決は取消しを免れない。 よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 富 田 善 範 49 裁判官 大 鷹 一 郎 裁判官 田 中 芳 樹 50 |