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関連審決 不服2013-4417
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事件 平成 26年 (行ケ) 10080号 審決取消請求事件

原告X
訴訟代理人弁護士 廣田逸平
訴訟代理人弁理士 廣田雅紀
同 山村昭裕
被告特許庁長官
指定代理人加藤友也
同 中村達之
同 窪田治彦
同 根岸克弘
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/12/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2013-4417号事件について平成25年11月20日に した審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 原告は,平成22年12月10日を出願日,発明の名称を「重力発電装 置」とする特許出願(請求項数11。特願2010-276373号。パリ 条約の例による優先権主張日:平成22年7月16日,優先権主張国:台湾。
以下「本願」という。)の出願人である(甲1,3)。
特許庁は,平成24年2月16日付けで拒絶理由を通知し,原告は,同年 6月14日付け手続補正書により,本願の特許請求の範囲の補正をした(請 求項数9。甲2)。
特許庁は,平成24年12月5日付けで拒絶査定をしたため(甲3),原 告は,平成25年3月6日,これに対する不服の審判を請求するとともに, 同日付け手続補正書により本願の特許請求の範囲及び明細書の補正をした (以下「本件補正」という。請求項数9。甲4)。
特許庁は,これを不服2013-4417号事件として審理し,平成25 年11月20日,本件補正は適法なものであるとした上で,「本件審判の請 求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その 謄本は,同年12月2日,原告に送達された。
原告は,平成26年3月31日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提 起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲 4)。以下,本件補正後の請求項1に記載された発明を「本願発明」といい, その明細書(甲1,4)を,図面を含めて「本願明細書」という。
【請求項1】 多数の重力物体,ロータを有する発電機,ベルトコンベア,多数の磁性部材, 及びベルトコンベア動力供給機構を備える重力発電装置であって, 前記重力物体は,それぞれ磁性を有し, 前記重力物体が重力により重力軌道を通る際,前記ロータを回転させて電力 を発生させ, 前記ベルトコンベアは,前記重力物体を最低地点から最高地点へ搬送した後, 重力物体が重力により前記重力軌道へ通し, 前記磁性部材は,前記重力軌道に配置されてコイルに巻きつかれ, 前記コイルが前記ベルトコンベア動力供給機構に接続し, 前記ベルトコンベア動力供給機構は,前記ベルトコンベアへ動力を供給し, 前記重力軌道が有する重力伝動機構により,前記重力物体を最高地点周辺で 前記重力伝動機構と係合させて,重力により前記重力伝動機構が下方へ引っ張 られ,前記発電機の前記ロータが前記重力伝動機構に駆動させること, 前記重力物体が前記重力軌道を通る際,前記磁性部材の磁束量を変化させ, 前記磁性部材の前記コイルに誘導電流を発生させ,前記ベルトコンベア動力供 給機構に電磁誘導電流を供給すること, を特徴とする重力発電装置。
3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本 願明細書の記載によると,本願発明は,各種産業に電力を供給する発電装置の 発明であるから,発電装置の駆動によって,継続的に電力を発生させて,供給 された電力量よりも電力量を増大させ,増大させた分の電力を外部に供給でき なければならず,また,火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽光 発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電などを使用しな いものであって,発電コストが安く,環境を全く汚染させず,様々な地理環境 や天然資源に乏しい地域で利用できるものでなければならないが,本願明細書 の発明の詳細な説明には,本願発明が,継続的に電力を発生させて,供給され た電力量よりも電力量を増大させ,増大させた分の電力を外部に供給できるこ と及び火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽光発電,潮力発電, 海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電などを使用しないものであって, 発電コストが安く,環境を全く汚染させず,様々な地理環境や天然資源に乏し い地域で利用できるものであることが,当業者が実施できる程度に明確かつ十 分に記載されているとはいえないから,本願明細書の発明の詳細な説明の記載 は特許法36条4項1号の規定する要件(以下「実施可能要件」という場合が ある。)を満たしておらず,本願は拒絶すべきものである,というものである。
当事者の主張
1 原告の主張 取消事由(実施可能要件の判断の誤り)について ア 本件審決は,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明が,継続的 に電力を発生させて,供給された電力量よりも電力量を増大させ,増大さ せた分の電力を外部に供給できること及び火力発電,水力発電,原子力発 電,風力発電,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイ オマス発電などを使用しないものであって,発電コストが安く,環境を全 く汚染させず,様々な地理環境や天然資源に乏しい地域で利用できるもの であることが,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている とはいえないと判断した。
しかしながら,実施可能要件の判断の前提となる「発明」は,「請求項 に記載された事項に基づいて把握される発明」であり,その認定は,発明 の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特 許請求の範囲の記載に基づいてされなければならないのであって,特許請 求の範囲の記載を超えた課題や効果についての構成要素を恣意的に付加し て,実施可能要件を判断することは許されない。本件審決における判断は, 本願発明に係る請求項の記載に基づくものではなく,発明の詳細な説明や 図面にだけ記載された構成要素を恣意的に解釈,付加するものであって, その判断方法自体に誤りがあるというべきである。
イ 本願明細書の記載は実施可能要件を満たすものであること 物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることを いうから(特許法2条3項1号),物の発明については,明細書にその物 を製造,使用する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのよう な記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づ き当業者がその物を製造,使用することができるのであれば,実施可能要 件を満たすというべきである。
そして,以下のとおり,本願明細書には本願発明に係る「重力発電装 置」を製造,使用する方法についての具体的な記載があり,又は本願明細 書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識に基づき,当業者におい て,本願発明に係る「重力発電装置」を製造,使用することができる。
本願発明の実施可能要件を判断するについては,永久機関は存在しな いという大前提の下,本願明細書に実施可能要件を満たし得る「重力発 電装置」の発明が,技術常識(エネルギー保存の法則や熱力学の第1法 則)を小前提とした場合に記載されているか否かを判断すべきである。
本願発明は,ベルトコンベア動力供給機構に外部エネルギーを供給す る「重力発電装置」であって,かつ,当該外部エネルギーとして,電気 エネルギー以外の,例えば火力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸 気が有するエネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネルギー) や,水力,風力等の機械エネルギー等を当然に想定しているものである ことが,当業者には容易に理解できる。
そして,これらの電気エネルギー以外の外部エネルギーをベルトコン ベア動力供給機構に供給し,ベルトコンベアを駆動することは,この分 野の常套手段ともいい得ることである。
本願発明は,多数の重力物体,ロータを有する発電機,ベルトコンベ ア,多数の磁性部材,及びベルトコンベア動力供給機構から構成される。
まず,本願明細書には,当業者において,「多数の重力物体」,「ロータを有する発電機」,「ベルトコンベア」,「多数の磁性部材」を製造し得るに十分な記載があることは明らかである。
さらに,「ベルトコンベア動力供給機構」についても,「前記コイルが前記ベルトコンベア動力供給機構に接続し,前記ベルトコンベア動力供給機構は,前記ベルトコンベアへ動力を供給し」との特許請求の範囲の記載,「ベルトコンベア動力供給機構は,前記ベルトコンベアへ動力を供給」(段落【0010】),「前記コイルを前記ベルトコンベア動力供給機構に接続し,前記ベルトコンベア動力供給機構に電磁誘導電流を供給することが好ましい」(段落【0011】),「ベルトコンベア動力供給機構103(本実施形態ではベルトコンベアモータである)は,ベルトコンベア101へ動力を供給するために用いる」(段落【0024】)等の本願明細書の記載に加えて,本願明細書には記載されていないものの,火力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸気が有するエネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネルギー)や,水力,風力等の機械エネルギー等の外部エネルギーをベルトコンベア動力供給機構103に付与するという,本願の優先権主張日当時の技術常識を加味すると,当業者は,本願発明における「ベルトコンベア動力供給機構」が,電気エネルギー及び電気以外の外部エネルギーを得て,ベルトコンベアを駆動させるハイブリッド機構であることを理解することができる。すなわち,当業者であれば,エネルギー保存の法則から,本願発明において,電気エネルギーを供給するのみでは,その供給以上の電力供給を得られないことを当然に認識するから,電気エネルギー以外のエネルギー源を供給することを想起し,電気エネルギー及びその他のエネルギーの双方を供給することを考える。そして,本願の優先権主張日当時の技術常識からすれば,当業者が,ハイブリッド機構として外部エネルギーを 特定の動力供給機構に供給することを想起,設定し,製造することは極めて容易であった。このことは,例えば,電動アシスト自転車は,平成5年に発売されており(甲9),ハイブリッドカーは,平成9年に発表されている(甲10)ことからも明らかである。
以上によれば,当業者において,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識に基づいて,本願発明に係る「重力発電装置」を製造することができることは明らかであり,これを製造するについて当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤複雑高度な実験等を要するものでもない。
次に,使用についてみると,本願明細書の「多数組の多数の前記重力物体と多数の前記重力軌道とを互いに並列に配列し,1組の多数の前記重力物体が1つの前記重力軌道に対応し,互いに隣接した各組の前記重力物体が交互に前記ロータを引っ張ることにより,前記ロータに均一な力を与えて前記発電機を駆動させ」との記載(段落【0012】),「各重力物体102は,多数組の磁性積層重力部材1028をそれぞれ有する。発電機106は,1組の多数の重力物体102が重力により重力軌道1021を通り,発電機106の伝動ギア109を回転させて発電を行うために用いる」(段落【0024】)との記載,「発明を実施するための形態」の記載(段落【0023】〜【0050】)及び図面の記載(図1〜6)に加えて,本願明細書には記載されていないものの,火力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸気が有するエネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネルギー)や,水力,風力等の機械エネルギー等の外部エネルギーをベルトコンベア動力供給機構103に付与するという,本願の優先権主張日当時の技術常識を加味すると,当業者が本願発明に係る「重力発電装置」を使用できることは明らかであり,これを使用するについて当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複 雑高度な実験等を要するものでもない。
ウ 本件審決は,本願発明においては,火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電等の利用を想定していない旨判断した。
しかしながら,本願明細書には,本願発明の重力発電装置に外部エネルギーの供給が不要であるとの記載はなく,また,「発明が解決しようとする課題」に関する段落【0009】には,「本発明の主な目的は,重い物を高い所から落とすことにより,位置エネルギを運動エネルギに変えて発電機を駆動し,電気エネルギを発生させ,発生された誘導電流により重い物を搬送する重力発電装置を提供することにある。」と記載されているのみであって,段落【0002】〜【0008】に記載された背景技術に係る問題点を解決する発電装置を提供することを課題とするものであるとは記載されていないのであるから,本願発明が,火力発電,原子力発電,水力発電及び風力発電等の従来の発電方式の問題点や太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電等の発電方式の問題点を解決する発電装置を提供することを課題とするものであるとはいえない。
加えて,本願明細書には,火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電等の利用を想定していない旨の記載はないのであるから,本願発明が,火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電等の利用を想定していないとする本件審決の判断は誤りである。
そして,本願発明の「重力発電装置」が,本願明細書に記載された効果を奏し得るものであることは,例えば,本願発明の重力発電装置のベルトコンベア動力供給機構に外部エネルギーとしての風力エネルギーとのハイブリッド機構を採用すると,風力の強弱にかかわらず,安定的に電力を取 り出すことができることからも明らかである。
すなわち,風力が強いときには少ない電力をベルトコンベア動力供給機 構に供給し,風力が弱いときには大きな電力をベルトコンベア動力供給機 構に供給することにより,常に一定速度でベルトコンベアを駆動して,継 続的に安定した電源(出力)を確保することができ,常に一定速度でベル トコンベアを駆動することにより,エネルギー損失を低減させ,かつ円滑 にベルトコンベアを駆動することができるのであるから,このような「重 力発電装置」は,発電コストが安く,メインテナンスが容易であり,重量 を変えることにより発電量を自在に調整することができる上,環境を全く 汚染させず,様々な地理環境や天然資源に乏しい地域で利用して産業の発 展にも役立つとの効果を奏するものであるといえる。
エ 以上のとおり,本願の優先権主張日当時の技術常識に鑑みれば,本願発 明の製造及び使用には外部エネルギーの投入が必要不可欠であること,並 びに投入する外部エネルギーの種類及び投入方法は,本願明細書に記載す るまでもなく,当業者において容易に想起し,設定し得ることであるから, 本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者において,本願発明の実 施をすることができる程度,すなわち,本願発明に係る「重力発電装置」 を製造し,かつ,使用することができる程度に明確かつ十分に記載された ものであるというべきである。
したがって,本件審決における実施可能要件の判断は誤りである。
まとめ 以上によれば,本件審決における本願明細書の発明の詳細な説明の記載が 特許法36条4項1号の規定する要件を満たしていない旨の判断には誤りが あり,本件審決の結論に影響を及ぼすものであるから,本件審決は,違法で あるとして取り消されるべきである。
2 被告の主張 取消事由(実施可能要件の判断の誤り)についてア 本願明細書の段落【0001】,【0002】及び【0004】ないし 【0009】の記載によると,火力発電,原子力発電,水力発電及び風力 発電等の従来の発電方式には,エネルギ源が将来枯渇したり,取得にかか るコストが高い(例えば火力発電),取り返しのつかないほど自然環境を 汚染させる可能性がある(例えば原子力発電),特殊な環境条件に頼る必 要があり,人為的な方式により発電量を制御することが困難である(例え ば水力発電,風力発電),自然災害が発生したときのリスクが高く,発電 における管理が困難である(例えば原子力発電)等の問題点があり,太陽 光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電等の環境 を保護しながら半永久的に使用でき,未だ普及していない発電方式には, 発電機のエネルギ源が特定の地理領域又は環境条件により左右される,人 為的な方法により,ピーク時間帯及びオフピーク時間帯の発電量を制御す ることは困難であるため,発電量が不足したり多すぎたりし,安定した供 給電力が必要な産業にとって,理想的な発電方式ではない,また,このよ うな特殊な発電所は建設コストが高く,経済性が好ましくない等の問題点 があることから,本願発明は,各種産業に電力を供給するための発電装置 において,上記の問題点を解決する発電装置を提供することを課題とする ものである。
また,本願明細書の段落【0021】及び【0049】の記載によると, 本願発明は,発電コストが安く,メインテナンスが容易であり,重量を変 えることにより発電量を自在に調整することができる上,環境を全く汚染 させず,様々な地理環境や天然資源に乏しい地域で利用して産業の発展に も役立つ,エネルギ源が枯渇せず,メインテナンス時間が短く,組立てが 簡便で安価で,特定の自然環境に頼る必要がなく,自然環境を半永久的に 保護しながら,産業を発展させることができるという効果を奏するもので ある。
明細書の発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているというためには,発明の詳細な説明に,発明の構成要件が,単に形式的に実施することができるのみならず,発明の課題が解決され,発明の効果を奏するような発明として実施することができるように記載されている必要があるというべきであるから,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明の構成要件が,単に形式的に実施することができるのみならず,前記課題を解決し,前記効果を奏するような発明として実施することができるように記載されている必要がある。
イ 本願発明は,その特許請求の範囲の記載によれば,「・・・前記コイルが前記ベルトコンベア動力供給機構に接続し,前記ベルトコンベア動力供給機構は,前記ベルトコンベアへ動力を供給し,・・・前記コイルに誘導電流を発生させ,前記ベルトコンベア動力供給機構に電磁誘導電流を供給する」ものであるから,「ベルトコンベア動力供給機構」に「コイル」から誘導電流が供給され,それが「ベルトコンベア動力供給機構」から「ベルトコンベア」に動力として供給されるものである。
しかしながら,この「コイル」からの誘導電流を全て使用したとしても,重力物体を搬送するベルトコンベアの駆動を続けることはできない。
また,本願明細書の段落【0024】ないし【0047】には,本願発明の一実施形態による重力発電装置1が記載されており,重力発電装置1では,コイル105からの誘導電流及び発電機106による電力が,ベルトコンベア動力供給機構103に供給されるとしているが,重力発電装置1は,コイル105からの誘導電流及び発電機106による電力を全て使用したとしても,重力物体102を搬送するベルトコンベア108の駆動を続けることはできない。
いずれにせよ,不足分の電力を外部から重力発電装置1に供給する必要 があり,その場合,不足分以上の電力を外部から重力発電装置1に供給し たとしても,供給された電力よりも小さい電力しか外部に供給できないも のであるから,継続的に電力を発生させて,供給された電力量よりも電力 量を増大させ,増大させた分の電力を外部に供給することができるもので はなく,そのような装置は各種産業に電力を供給する「発電装置」である とはいえないし,コストが安くなっているともいえない。
さらに,本願発明が外部から電力を供給するものであるとしても,本願 発明の前記アの課題に照らすと,本願発明は,火力発電,水力発電,原子 力発電,風力発電,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電, バイオマス発電等の利用を想定していないところ,本願明細書には,外部 から供給される電力を火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽 光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電等以外の どのようなエネルギ源から得るのか,また,その電力をベルトコンベア動 力供給機構103にどのように供給するのかについて,全く記載されてい ない。
したがって,本願明細書には,本願発明の課題が解決され,本願発明の 効果を奏するものとして発明を実施するための事項についての具体的な記 載はないといわざるを得ない。
ウ 原告は,本願の優先権主張日当時の技術常識に鑑みれば,本願発明の製 造及び使用には外部エネルギーの投入が必要不可欠であること,並びに投 入する外部エネルギーの種類及び投入方法は,本願明細書に記載するまで もなく,当業者において容易に想起し,設定し得ることである旨主張する が,以下のとおり,本願発明の課題を解決し,本願発明の効果を奏するよ うなエネルギー源やその投入方法は,本願の優先権主張日当時の当業者に とって容易に想起し設定し得るものではない。
原告は,外部エネルギーとしては,電気エネルギー以外の,例えば火 力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸気が有するエネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネルギー)や,水力,風力等の機械エネルギー等が当然に想定されている発明であることが当業者には容易に理解できる旨主張する。
しかしながら,本願発明の「ベルトコンベア動力供給機構」には「コイル」から誘導電流が供給されるのであり,本願明細書の段落【0026】,【0031】,【0041】及び【0042】並びに図面の記載によると,ベルトコンベア動力供給機構103には,コイル105上に発生した誘導電流及び発電機106で発生させた電力しか供給されていないから,ベルトコンベア動力供給機構103に供給可能なエネルギーの形態は電気エネルギーだけであるというべきである。
そして,本願明細書の段落【0004】ないし【0009】には,「火力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸気が有するエネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネルギー)や,水力,風力等の機械エネルギー」を除外する記載がある。
そうすると,外部エネルギーとして,電気エネルギー以外のエネルギーを供給すること及び火力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸気が有するエネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネルギー)や,水力,風力等の機械エネルギーを供給することは,本願明細書の記載と矛盾するものであるし,外部エネルギーとして,火力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸気が有するエネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネルギー)や,水力,風力等の機械エネルギーを供給することによっては,本願発明の前記アの課題を解決することができず,また,本願発明の前記アの効果を奏することができないものでもある。
したがって,本願発明が,外部エネルギーとしては,電気エネルギー以外の,例えば火力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸気が有する エネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネルギー)や,水力,風力等の機械エネルギー等が当然に想定されている発明であるなどということは,本願明細書の記載からは,当業者といえども容易に理解できるものではない。
また,原告は,電気エネルギー以外の外部エネルギーをベルトコンベア動力供給機構に供給し,ベルトコンベアを駆動することは,この分野の常套手段ともいい得る旨主張する。
しかしながら,電気エネルギー以外の外部エネルギーを電気エネルギーで駆動されるベルトコンベア動力供給機構に供給することが,常套手段であるなどとはいえないし,本願明細書には,そのようなことは記載されておらず,本願明細書の記載と矛盾するものでもある。
さらに,原告は,ベルトコンベア動力供給機構について,火力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸気が有するエネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネルギー)や,水力,風力等の機械エネルギー等の外部エネルギーをベルトコンベア動力供給機構103に付与するという,本願の優先権主張日当時の技術常識を加味すると,当業者が,ベルトコンベア動力供給機構は,電気エネルギー及び電気以外の外部エネルギーを得て,ベルトコンベアを駆動させるハイブリッド機構であることを理解することができる旨主張する。
しかしながら,火力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸気が有するエネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネルギー)や,水力,風力等の機械エネルギー等の外部エネルギーをベルトコンベア動力供給機構103に付与することは,本願の優先権主張日当時の技術常識であるとはいえず,また,本願明細書の記載と矛盾するものであるし,本願発明の前記アの課題を解決することも,本願発明の前記アの効果を奏することもできないものでもある。
したがって,本願発明の「ベルトコンベア動力供給機構」が,「電気 エネルギー及び電気以外の外部エネルギーを得て,ベルトコンベアを駆 動させるハイブリッド機構」であることは,当業者といえども理解でき るものではない。
エ 以上のとおり,本願明細書には,本願発明の課題が解決され,本願発 明の効果を奏するものとして発明を実施するための事項についての具体 的な記載はなく,又は本願明細書及び本願の優先権主張日当時の技術常 識に基づき当業者が本願発明の効果を奏するような発明を実施すること ができるともいえないから,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は, 当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると はいえないとした本件審決の判断に誤りはない。
まとめ 以上によれば,原告の主張する取消事由は理由がないから,原告の請求は 棄却されるべきである。
当裁判所の判断
1 本願明細書の記載について 本願明細書(甲1,4)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載があ る(下記記載中に引用する図面については,別紙の本願明細書図面目録を参 照。)。
技術分野 「本発明は,重力発電装置に関する。」(段落【0001】) 背景技術 「電力は人々の日常生活にとって必要不可欠なエネルギ源であり,各種産 業も電力供給がなければ発展することができない。」(段落【0002】) 「一般に発電機の動作原理は,電磁石又は永久磁石により形成された磁場 に,巻回した導電線を設置し,磁場の中でコイルを回転軸により回転させ, コイルが巻き付けられた領域が磁場を横切ることにより誘導起電力が発生し,導電線に誘導電流が発生する。」(段落【0003】) 「発電所で使用する発電機は,発生する誘導電流が非常に大きいため,上述したような一般の発電機とは構造が大きく異なる。図6を参照する。図6に示すように,従来技術による発電所で使用される発電機の構造は,回転軸として用いるロータ601が永久磁石又は電磁石6011を上に有し,固定子として用いる導電線が巻回された環状磁芯602が周設され,回転軸によりロータ601が回転されると,固定子602に巻回された導電線に誘導電流が発生する。実際に発電機で発電する際は,回転軸の動力として様々なエネルギー源を利用することができる。」(段落【0004】) 「しかし,従来の発電方式には,以下(1)〜(4)の問題点がある。
(1)エネルギ源が将来枯渇したり,取得にかかるコストが高い(例えば,火力発電)。
(2)取り返しのつかないほど自然環境を汚染させる可能性がある(例えば,原子力発電)。
(3)特殊な環境条件に頼る必要があり,人為的な方式により発電量を制御することが困難である(例えば,水力発電及び風力発電)。
(4)自然災害が発生したときのリスクが高く,発電における管理が困難である(例えば,原子力発電所における放射能漏れや放射性廃棄物の処理など)。」(段落【0005】) 「例えば,火力発電は,石油又は石炭を燃料として大量に消費するため,燃料にかかるコストが高い上,燃料の運送及び燃焼により排出される排気ガスを処理することが困難である。また,過度の開発により石油及び石炭が枯渇する虞がある。また,水力発電の場合,エネルギ源として高所から低所へ流れる大量の水を利用するが,天候に左右される降水量を制御することが困難であるため(例えば,台湾の気候は,冬の降水量は少なく,夏の降水量が 多い),消費電力がピークのときに十分な電力を供給することができない虞がある。また,原子力発電は,放射能が漏れる虞がある上,ウランの埋蔵量も少ない。風力発電機は,風力が強い地域又は季節のときにしか使用することができない上,風力発電機の羽根が損壊しないように,風速が所定範囲のときにしか使用できない。」(段落【0006】) 「環境を保護しながら半永久的に使用でき,未だ普及していない発電方式としては,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電などがある。これらの発電方式は,自然の力を直接利用し,環境を汚染させることが少ない上,エネルギ源が将来枯渇する虞もない。しかし,発電機のエネルギ源が特定の地理領域又は環境条件により左右される。人為的な方法により,ピーク時間帯及びオフピーク時間帯の発電量を制御することは困難であるため,発電量が不足したり多すぎたりし,安定した供給電力が必要な産業にとって,理想的な発電方式ではない。また,このような特殊な発電所は建設コストが高く,経済性が好ましくない。」(段落【0007】) 「そのため,エネルギ源が安定し,環境を汚染させず,産業の経済性が高い上,様々な地理環境の条件下でも使用でき,産業の発展に役立つ発電方式が求められていた。」(段落【0008】) 発明が解決しようとする課題 「本発明の主な目的は,重い物を高い所から落とすことにより,位置エネルギを運動エネルギに変えて発電機を駆動し,電気エネルギを発生させ,発生された誘導電流により重い物を搬送する重力発電装置を提供することにある。」(段落【0009】) 課題を解決するための手段 「上記課題を解決するために,本発明の第1の形態によれば,1組の多数の重力物体,発電機,ベルトコンベア及びベルトコンベア動力供給機構を備える重力発電装置であって,1組の多数の前記重力物体は,それぞれ磁性を 有し,前記発電機は,1組の多数の前記重力物体が重力により重力軌道を通り,前記発電機のロータを回転させて電力を発生させ,前記ベルトコンベアは,前記重力物体のそれぞれを最低地点から最高地点へ搬送し,重力により前記重力軌道へ通し,前記ベルトコンベア動力供給機構は,前記ベルトコンベアへ動力を供給し,前記重力軌道が有する重力伝動機構により,前記重力物体のそれぞれを高所で前記重力伝動機構と係合させ,重力により前記重力伝動機構が下方へ引っ張られ,前記発電機の前記ロータを駆動させることを特徴とする重力発電装置が提供される。」(段落【0010】) 「1組又は多数組の多数の磁性部材をさらに備え,前記磁性部材は,前記重力軌道に対して平行に配置され,前記磁性部材には,コイルが巻回され,多数の前記磁性部材の前記コイルが互いに直列に接続されることにより,前記重力物体のそれぞれが前記重力軌道を通る際,多数の前記磁性部材が発生させる磁束量を変化させ,前記磁性部材それぞれの前記コイルに誘導電流を発生させ,直列接続の前記コイルに電磁誘導電流を発生させ,直列接続の前記コイルを前記ベルトコンベア動力供給機構に接続し,前記ベルトコンベア動力供給機構に電磁誘導電流を供給することが好ましい。」(段落【0011】) 「多数組の多数の前記重力物体と多数の前記重力軌道とを互いに並列に配列し,1組の多数の前記重力物体が1つの前記重力軌道に対応し,互いに隣接した各組の前記重力物体が交互に前記ロータを引っ張ることにより,前記ロータに均一な力を与えて前記発電機を駆動させ,前記重力伝動機構と係合された伝動ギアは,前記発電機の前記ロータを回転させ,前記発電機は,多数組の前記伝動ギアを有し,1組の前記伝動ギアは,1組の前記重力伝動機構に対応し,前記重力伝動機構それぞれの回転により,各組の前記伝動ギアを駆動して前記ロータを回転させ,前記発電機の個数が1つ又は複数であることが好ましい。」(段落【0012】) 「互いに並列するように配置された各組の多数の前記重力物体に対して,前記ベルトコンベア及び前記重力伝動機構をそれぞれ有し,前記重力軌道それぞれの両側には,1組の多数の前記磁性部材がそれぞれ配置されていることが好ましい。」(段落【0013】) 「前記重力物体それぞれの各組の磁性積層重力部材の間には,前記磁性部材それぞれを通す通過空間が形成され,各組の前記磁性積層重力部材に隣接し,対向した側部が異なる磁極を有することが好ましい。」(段落【0014】) 発明の効果 「本発明の重力発電装置は,発電コストが安く,メインテナンスが容易であり,重量を変えることにより発電量を自在に調整することができる上,環境を全く汚染させず,様々な地理環境や天然資源に乏しい地域で利用して産業の発展にも役立つ。」(段落【0021】) 発明を実施するための形態 「以下,本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお,これによって本発明が限定されるものではない。」(段落【0023】) 「図1を参照する。図1に示すように,本発明の一実施形態による重力発電装置1は,汚染されたり外界の影響を受けたりしないように,チャンバ10内に配置されている。図1は,チャンバ10の側面部の1つを外し,重力発電装置1の内部構造を見えるようにしたときの状態を示す。図1に示すように,重力発電装置1は,1組の多数の重力物体102,発電機106,ベルトコンベア101及びベルトコンベア動力供給機構103を有する。各重力物体102は,多数組の磁性積層重力部材1028をそれぞれ有する。発電機106は,1組の多数の重力物体102が重力により重力軌道1021を通り,発電機106の伝動ギア109を回転させて発電を行うために用いる。ベルトコンベア101は,各重力物体102が重力により最高地点Bか ら重力軌道1021を通って搬送された後,最低地点Aから最高地点Bへ搬送させるために用いる。ベルトコンベア動力供給機構103(本実施形態ではベルトコンベアモータである)は,ベルトコンベア101へ動力を供給するために用いる。多数の磁性部材104(本実施形態では磁性円筒体であるが,他の実施形態では磁性長方体でもよい)は,重力軌道1021の周囲に配置され,磁性部材104の表面に巻回したコイル105を有し,各重力物体102が重力軌道1021を通るときに,多数の磁性部材104の磁束量を変化させ,コイル105に誘導電流を発生させ,ベルトコンベア動力供給機構103に電磁誘導電流を供給する。重力物体102が最低地点Aに達してから,所定距離で平行移動すると,傾斜プレート11の上面に当接されるが,傾斜プレート11の上面が平滑であるため,重力物体102を引き上げる際に発生する摩擦抵抗力を減らし,重力物体102を引き上げる際に必要な力が小さくてすむようにする。重力物体102の上端部には,ベルトコンベア101により平行移動させたり,上方へ引き上げたりする際に,ベルトコンベア101上の横杆108に係合させる凹体120が設けられている(図3及び図4(a)に示す)。重力物体102は,外表面に多数の凸体1024を有する。凸体1024は,最高地点(B)で重力軌道1021の重力伝動機構1023に係合され始め,各重力物体102を重力伝動機構1023へ係合してから,重力により重力伝動機構1023を下方へ引っ張る。
各重力伝動機構1023は,発電機106の伝動ギア109に対応させ,重力伝動機構1023により伝動ギア109を駆動して発電機106を回転させる。本実施形態の重力伝動機構1023はチェーンである。」(段落【0024】) 「図2を参照する。図2に示すように,本発明の一実施形態による重力発電装置は,1組の重力物体102の数は14個である。各重力物体102の重量は,0.3トンであり,同一組の2つの重力物体102の間隔は約1m である。各組の多数の重力物体102は,重力軌道1021,ベルトコンベア101及び重力伝動機構1023をそれぞれ有する。並列に配列された5組の重力物体102は,1つの発電機106を駆動し,定格電力(3.85MW)で駆動される。互いに隣接した各組の重力物体102は,交互にロータを引っ張ることにより,ロータに均一な力を与えて発電機106を駆動させる。ロータが多数組の重力物体102によりスムーズに交互に引っ張られるため,重力物体102が配列順で落下し,ロータを同じ方向で回転させ続けることができる。」(段落【0025】) 「図3を参照する。図3は,本発明の一実施形態による重力発電装置1の上部を示す側面図である。図3に示すように,重力物体102が最低地点Aまで落下し,所定距離で平行移動すると,最高地点Bまで引っ張られた後,重力物体102は,その外表面に設けられた凸体1024が重力伝動機構1023の凹孔1025に係合され,重力軌道1021を介して下方へ移動し,発電機106の伝動ギア109を駆動する。重力物体102が下方へ移動すると,重力物体102の2組の磁性積層重力部材1028間の通過空間1029を磁性円筒体104が通り,磁性円筒体104の表面に巻回されたコイル105の磁束量が変化し(図4(b),図4(c)及び図4(d)に示す),コイル105中に誘導電流が発生する。そして,下端の磁性円筒体104が通過空間1029を通ることにより,この誘導電流はベルトコンベア動力供給機構103に電流が供給され続ける。」(段落【0026】) 「重力物体102が重力伝動機構1023の最も低い地点(最低地点A)まで下降すると,重力伝動機構1023から離れてベルトコンベア101上に移動し,再びベルトコンベア101により最低地点Aから平行移動した後,斜め方向で最高地点Bまで搬送され,次の循環を始める。」(段落【0027】) 「以下,本発明の一実施形態による重力発電装置の詳細な駆動方式を図4 (a)〜図4(d)に基づき説明する。」(段落【0028】) 「図4(a)を参照する。図4(a)に示すように,ベルトコンベア101は,互いに平行な2本のチェーン1011を有する。横杆108は,2つのチェーン1011上に設けられたフランジ支持部材1013間に掛け渡すために,両端にベアリング1012が配置されている。横杆108は,重力物体102の凹体120に位置合わせされて係合されると,重力物体102がベルトコンベア101に固定されて搬送される。このように,重力物体102の凹体120に横杆108が係合されると,ベアリング1012によりベルトコンベア101の水平部位及び斜面部位を移動する際も重力物体102が固定され続け,反転することを防ぐことができる。」(段落【0029】) 「図4(b)を参照する。図4(b)は,本発明の一実施形態による重力発電装置1の上部を示す。ベルトコンベア101は,重力物体102を最高開始地点Cまで搬送した後,ベルトコンベア101の壁面107の内側の垂直面に当接されるまで,重力物体102が水平移動し続ける。壁面107に重力物体102が当接された後もベルトコンベア101,フランジ支持部材1013及び横杆108が水平移動し続けると,重力物体102が横杆108から外れ,重力物体102の外表面に設けられた凸体1024により,重力伝動機構1023と係合されて重力方向に移動し(即ち,下向きに移動する),発電機106の伝動ギア109が回転される。重力伝動機構1023と壁面107との間の垂直空間は重力軌道1021である。重力物体102が重力伝動機構1023に沿って下方へ移動することにより,重力伝動機構1023が回転し,発電機106の伝動ギア109を駆動させる。本実施形態では,好ましくは多数の重力物体102が等間隔で配置され,一定の速度で発電機106を駆動させることが好ましい。また,重力物体102の位置は,重力軌道を通る循環周期によっても変化しない。」(段落【003 0】) 「図4(c)及び図4(d)を参照する。図4(c)及び図4(d)は,多数の重力物体102と多数の磁性円筒体104との相対運動により,ベルトコンベア動力供給機構103に供給する誘導電流を発生させる方法を示す。
多数の磁性円筒体104は,重力軌道1021の2組の磁性積層重力部材1028間の通過空間1029に配置され,本実施形態では,この箇所に磁性積層重力部材1028が2組配置されているが,2組以上配置したり,対応するように2組以上の磁性円筒体を配置したりしてもよい。各磁性円筒体104は,表面にコイル105が巻回されて巻線コイルが形成され,各側部の各巻線コイルは,接線により接続され,1組のベルトコンベア接線セット1026が形成される。各組の磁性積層重力部材1028中の各磁性円筒体の左右両端が有する磁極はそれぞれ異なる。図4(c)では,左側がN極であり,右側がS極である。そのため,磁性円筒体104が通過空間1029を通ると,磁性円筒体104は,左側にN極が誘導され,右側にS極が誘導されて磁場が誘導されるため,各磁性円筒体104の磁束量に変化が発生する。
そのため,コイル105上に誘導起電力が発生し,誘導起電力をコイル105の抵抗で除算すると,コイル105上の誘導電流を算出することができる。
また,1組の多数の重力物体102の重力軌道1021の両側のベルトコンベア接線セット1026をベルトコンベア動力供給機構103に接続し,コイル105上に発生した誘導電流をベルトコンベア動力供給機構103へ供給してもよい。」(段落【0031】) 「誘導起電力をコイル105の抵抗値で除算すると,コイル105上の誘導電流を算出することができる。この誘導電流がベルトコンベア接線セット1026を介してベルトコンベア動力供給機構103に供給され,ベルトコンベア101に動力を供給したり,余分な電力を発電機106へ送って保存したりすることができる。また,多数の磁性円筒体104と重力物体102 との間の距離を小さくしたり,多数の磁性円筒体104と重力物体102との間の磁性を大きくしたりすることにより,コイル105上に発生する電磁誘導電流を大きくすることができる。」(段落【0041】) 「さらに,発生した誘導電流が不足し,ベルトコンベア動力供給機構103が重力物体102をベルトコンベア101に沿って搬送することができない場合,ベルトコンベア動力供給機構103に必要な動力を発電機106により供給してもよい。」(段落【0042】) 「図2を再び参照する。図2に示すように,本発明の他の実施形態による重力発電装置は,並列に配列された多数組の多数の重力物体102を有する。各組の多数の重力物体102は,重力軌道1021,ベルトコンベア101及び重力伝動機構1023をそれぞれ有する。各重力軌道1021は,多数の磁性円筒体104をそれぞれ有する。発電機106は,多数組の伝動ギア109,1091,1092,1093,1094を有し,多数組の伝動ギア109,1091,1092,1093,1094が多数組の重力伝動機構1023により駆動されると,発電機106の回転速度が正常に維持される。」(段落【0043】) 「さらに他の実施形態では,重力発電装置がさらに多数の発電機106を有し,それぞれに対応した多数の重力物体102,ベルトコンベア101,ベルトコンベア動力供給機構103及び多数の磁性円筒体104を設けてさらに多くの電力を供給してもよい。多数の発電機106を配置する場合,多数の発電機106に接続されたマイクロスイッチと,マイクロスイッチに接続された1組又は2組のバックアップ発電機とを付加的に設置してもよい。
バックアップ発電機は,通常,起動されないが,多数の発電機106が故障し(即ち,回転が停止する),マイクロスイッチがトリガされた後,非常に短い時間(約1〜2秒間)でバックアップ発電機が起動されるため,電力供給が中断されることがない。」(段落【0044】) 「また,本発明の一実施形態による重力発電装置は,重力物体102の重 量,ベルトコンベア101の長さ又はベルトコンベア101の最高地点 (B)の高さを変えることにより,発電機106の発電量を調整することが できる。また,多数の発電機106には,さらに多くの電力を供給すること ができるように,対応した多数組の多数の重力物体102,ベルトコンベア 101,ベルトコンベア動力供給機構103及びコイル105の磁性円筒体 104を組み合わせてもよい。互いに並列するように配置された各組の多数 の重力物体102は,ベルトコンベア101及び重力伝動機構1023をそ れぞれ有する。」(段落【0047】) 「上述したことから分かるように,本発明の重力発電装置は,エネルギ源 が枯渇せず,メインテナンスが容易であり,メインテナンス時間が短く,組 立てが簡便で安価で(重力発電装置が故障したり損壊したりしても,その部 分だけを交換することができるため,全体を交換する必要がない),特定の 自然環境に頼る必要がなく,自然環境を汚染させない長所を有し,自然環境 を半永久的に保護しながら,産業を発展させることができる。」(段落【0 049】) 「当該分野の技術を熟知するものが理解できるように,本発明の好適な実 施形態を前述の通り開示したが,これらは決して本発明を限定するものでは ない。本発明の主旨と領域を逸脱しない範囲内で各種の変更や修正を加える ことができる。従って,本発明の特許請求の範囲は,このような変更や修正 を含めて広く解釈されるべきである。」(段落【0050】)2 取消事由(実施可能要件の判断の誤り)について 原告は,本件審決が,「本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明が, 継続的に電力を発生させて,供給された電力量よりも電力量を増大させ,増 大させた分の電力を外部に供給できること及び火力発電,水力発電,原子力 発電,風力発電,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイ オマス発電などを使用しないものであって,発電コストが安く,環境を全く汚染させず,様々な地理環境や天然資源に乏しい地域で利用できるものであることが,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」として,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから,実施可能要件を満たしていない旨判断したのに対し,本願の優先権主張日当時の技術常識に鑑みれば,本願発明の製造及び使用には外部エネルギーの投入が必要不可欠であること,並びに投入する外部エネルギーの種類及び投入方法は,本願明細書に記載するまでもなく,当業者において容易に想起し,設定し得ることであるから,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者において,本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであって,本件審決の判断は誤りである旨主張するので,以下検討する。
本願発明の「重力発電装置」についてア 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2記載の とおり, 「多数の重力物体,ロータを有する発電機,ベルトコンベア,多数の磁 性部材,及びベルトコンベア動力供給機構を備える重力発電装置であって, 前記重力物体は,それぞれ磁性を有し, 前記重力物体が重力により重力軌道を通る際,前記ロータを回転させて 電力を発生させ, 前記ベルトコンベアは,前記重力物体を最低地点から最高地点へ搬送し た後,重力物体が重力により前記重力軌道へ通し, 前記磁性部材は,前記重力軌道に配置されてコイルに巻きつかれ, 前記コイルが前記ベルトコンベア動力供給機構に接続し, 前記ベルトコンベア動力供給機構は,前記ベルトコンベアへ動力を供給 し, 前記重力軌道が有する重力伝動機構により,前記重力物体を最高地点周 辺で前記重力伝動機構と係合させて,重力により前記重力伝動機構が下方 へ引っ張られ,前記発電機の前記ロータが前記重力伝動機構に駆動させる こと, 前記重力物体が前記重力軌道を通る際,前記磁性部材の磁束量を変化さ せ,前記磁性部材の前記コイルに誘導電流を発生させ,前記ベルトコンベ ア動力供給機構に電磁誘導電流を供給すること, を特徴とする重力発電装置。」というものである。
イ 次に,前記1の本願明細書の記載事項によれば,本願明細書には,次の 点が開示されていることが認められる。
従来技術による発電所で使用される発電機の構造は,回転軸として用 いるロータが永久磁石又は電磁石を上に有し,固定子として用いる導電 線が巻回された環状磁芯が周設され,回転軸によりロータが回転される と,固定子に巻回された導電線に誘導電流が発生するというものであり, 実際に発電機で発電する際は,回転軸の動力として様々なエネルギー源 を利用することができる(段落【0004】)。
しかしながら,従来の発電方式としては,火力発電,水力発電,原子 力発電,風力発電があるが,@火力発電は,石油又は石炭を燃料として 大量に消費するため,燃料にかかるコストが高い上,燃料の運送及び燃 焼により排出される排気ガスを処理することが困難であり,また,過度 の開発により石油及び石炭が枯渇するおそれがある,A水力発電の場合, エネルギ源として高所から低所へ流れる大量の水を利用するが,天候に 左右される降水量を制御することが困難であるため,消費電力がピーク のときに十分な電力を供給することができないおそれがある,B原子力 発電は,放射能が漏れるおそれがある上,ウランの埋蔵量も少ない,C 風力発電は,発電機を風力が強い地域又は季節のときにしか使用することができない上,発電機の羽根が損壊しないように,風速が所定範囲のときにしか使用できない,などの問題がある(段落【0005】,【0006】)。
また,環境を保護しながら半永久的に使用することができ,未だ普及していない発電方式としては,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電などがある。これらの発電方式は,自然の力を直接利用し,環境を汚染させることが少ない上,エネルギ源が将来枯渇するおそれもない一方で,@発電機のエネルギ源が特定の地理領域又は環境条件により左右される,A人為的な方法により,ピーク時間帯及びオフピーク時間帯の発電量を制御することは困難であるため,発電量が不足したり多すぎたりし,安定した供給電力が必要な産業にとって,理想的な発電方式ではない,B特殊な発電所は建設コストが高く,経済性が好ましくないという問題がある(段落【0007】)。
従来の発電方式や未だ普及していない発電方式には,これらの問題があるため,エネルギ源が安定し,環境を汚染させず,産業の経済性が高い上,様々な地理環境の条件下でも使用でき,産業の発展に役立つ発電方式が求められていた(段落【0008】)。
本願発明の主な目的は,「重い物を高い所から落とすことにより,位置エネルギを運動エネルギに変えて発電機を駆動し,電気エネルギを発生させ,発生された誘導電流により重い物を搬送する重力発電装置」を提供することにある(段落【0009】)。
そして,上記目的の解決手段として,本願発明では,前記ア記載の請求項1に規定する構成を採用した。
本願発明の「重力発電装置」は,前記アの構成を採用することにより, 発電コストが安く,重量を変えることにより発電量を自在に調整するこ とができ,エネルギ源が枯渇せず,メインテナンスが容易であり,メイ ンテナンス時間が短く,組立てが簡便で安価で(重力発電装置が故障し たり損壊したりしても,その部分だけを交換することができるため,全 体を交換する必要がない),特定の自然環境に頼る必要がなく,自然環 境を汚染させない長所を有し,自然環境を半永久的に保護しながら,産 業を発展させることができる,という効果を奏する(段落【0021】, 【0049】)。
ウ 前記アの請求項1の記載によれば,本願発明の「重力発電装置」は,重 力物体を最高地点から最低地点へ重力により移動(落下)させることによ り,発電機のロータを回転させて電力を発生させる発電装置であることが 規定されている。本願明細書の発明の詳細な説明にも,「発電機106は, 1組の多数の重力物体102が重力により重力軌道1021を通り,発電 機106の伝動ギア109を回転させて発電を行うために用いる。」, 「重力物体102は,外表面に多数の凸体1024を有する。凸体102 4は,最高地点(B)で重力軌道1021の重力伝動機構1023に係合 され始め,各重力物体102を重力伝動機構1023へ係合してから,重 力により重力伝動機構1023を下方へ引っ張る。各重力伝動機構102 3は,発電機106の伝動ギア109に対応させ,重力伝動機構1023 により伝動ギア109を駆動して発電機106を回転させる。」(いずれ も段落【0024】)と記載されているとおりである。
また,前記アの請求項1の記載によれば,本願発明の「重力発電装置」 において,重力物体の最低地点から最高地点への搬送は,ベルトコンベア によってされ,ベルトコンベアは,磁性を有する重力物体が最高地点から 最低地点へ移動(落下)する際に,その軌道に配置され,かつコイルに巻 回された磁性部材の磁束量を変化させることでコイルに電磁誘導電流を発 生させ,この電磁誘導電流をコイルが接続するベルトコンベア動力供給機構に供給し,ベルトコンベア動力供給機構から当該電磁誘導電流の供給を受けることで動かされる,すなわち,重力物体はベルトコンベアにより搬送され,ベルトコンベアは重力物体が最高地点から最低地点へ移動(落下)する際に,コイルに発生させる電磁誘導電流を用いて動かされること,が規定されている。本願明細書の発明の詳細な説明にも,「ベルトコンベア101は,各重力物体102が重力により最高地点Bから重力軌道1021を通って搬送された後,最低地点Aから最高地点Bへ搬送させるために用いる。ベルトコンベア動力供給機構103(本実施形態ではベルトコンベアモータである)は,ベルトコンベア101へ動力を供給するために用いる。多数の磁性部材104(本実施形態では磁性円筒体であるが,他の実施形態では磁性長方体でもよい)は,重力軌道1021の周囲に配置され,磁性部材104の表面に巻回したコイル105を有し,各重力物体102が重力軌道1021を通るときに,多数の磁性部材104の磁束量を変化させ,コイル105に誘導電流を発生させ,ベルトコンベア動力供給機構103に電磁誘導電流を供給する。」(段落【0024】)と記載されているとおりである。
さらに,本願明細書には,「さらに,発生した誘導電流が不足し,ベルトコンベア動力供給機構103が重力物体102をベルトコンベア101に沿って搬送することができない場合,ベルトコンベア動力供給機構103に必要な動力を発電機106により供給してもよい。」(段落【0042】)と記載されていることから,本願発明においては,重力物体が最高地点から最低地点へ移動(落下)する際にコイルに発生させる電磁誘導電流を用いてベルトコンベアを動かすだけでなく,重力物体を最高地点から最低地点へ移動(落下)することにより発電機のロータを回転させて発生させた電力を用いてベルトコンベアを動かすことも開示されているといえ る。
これに対し,本願明細書には,ベルトコンベアを外部からのエネルギーの供給により動かすことを開示又は示唆する記載は全くない。
本願明細書には,「本発明の主な目的は,重い物を高い所から落とすことにより,位置エネルギを運動エネルギに変えて発電機を駆動し,電気エネルギを発生させ,発生された誘導電流により重い物を搬送する重力発電装置を提供することにある。」(段落【0009】),「この誘導電流がベルトコンベア接線セット1026を介してベルトコンベア動力供給機構103に供給され,ベルトコンベア101に動力を供給したり,余分な電力を発電機106へ送って保存したりすることができる。」(段落【0041】),「発生した誘導電流が不足し,ベルトコンベア動力供給機構103が重力物体102をベルトコンベア101に沿って搬送することができない場合,ベルトコンベア動力供給機構103に必要な動力を発電機106により供給してもよい。」(段落【0042】)などの記載があり,これらの記載によれば,本願発明に係る「重力発電装置」において,ベルトコンベアを外部からのエネルギーの供給により動かすこと,すなわち外部のエネルギーを用いて発電することは想定されていないものと認められる。
したがって,本願発明の「重力発電装置」は,重力物体を搬送するベルトコンベアを重力物体が最高地点から最低地点へ移動(落下)することにより得られる電力(電流)のみを用いて動かすものであって,重い物を高い所から落とすことにより得られるエネルギーのみを用いて発電する装置であると認められる。
実施可能要件について 記載のとおり,重力物体を搬送するベルトコンベアを,重力物体が最高地点から最低地点へ移動(落 下)することにより得られる電力(電流)のみを用いて動かす装置であるが,重力物体を最低地点から最高地点まで搬送するベルトコンベアを,同じ重力物体が最高地点から最低地点へ移動(落下)することにより得られる電力(電流)のみで動かすことができないことは,エネルギー保存の法則から明らかであり,原告もこれを認めるところである。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が,重力物体が最高地点から最低地点へ移動(落下)することにより得られるエネルギー(重力)のみによって発電する「重力発電装置」を生産し,かつ使用することができる程度に明確かつ十分に記載されたものということはできない。
原告の主張について 原告は,本願発明は,ベルトコンベア動力供給機構に外部エネルギー を供給する「重力発電装置」であって,かつ,当該外部エネルギーとし て,電気エネルギー以外の,例えば火力,原子力,地熱,バイオマス等 による蒸気が有するエネルギー(水蒸気の形態で蓄えられる力学的エネ ルギー)や,水力,風力等の機械エネルギー等を当然に想定しているも のであることを,当業者であれば容易に理解することができ,これらの 電気エネルギー以外の外部エネルギーをベルトコンベア動力供給機構に 供給し,ベルトコンベアを駆動することは,この分野の常套手段ともい い得ることである,当業者であれば,本願発明における「ベルトコンベ ア動力供給機構」は,電気エネルギー及び電気以外の外部エネルギーを 得て,ベルトコンベアを駆動させるハイブリッド機構であることを理解 することができるなどと主張する。
しかしながら,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本願明細 書の記載事項によれば,本願発明に係る「重力発電装置」において,ベ ルトコンベアを外部からのエネルギーの供給により動かすこと,すなわ ち外部のエネルギーを用いて発電することは想定されていないものと認 記載のとおりである。
さらに,本願発明の「重力発電装置」は,ベルトコンベアを,重力物体が最高地点から最低地点へ移動(落下)することにより得られる電力(電流)のみで動かすことはできないことは,らかであるが,以下に述べるとおり,当業者において,ベルトコンベア動力供給機構(本願明細書における実施形態としてはベルトコンベアモータ。段落【0024】)に外部から電力以外のエネルギーを供給することを容易に着想し得たということはできない。
来の発電方式(火力発電,水力発電,原子力発電及び風力発電)や環境を保護しながら半永久的に使用することができるが,未だ普及していない発電方式(太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電及びバイオマス発電)には様々な問題が存するという背景技術(発電技術)の状況に鑑み提供される,「重い物を高い所から落とすことにより,位置エネルギを運動エネルギに変えて発電機を駆動し,電気エネルギを発生させ,発生された誘導電流により重い物を搬送する重力発電装置」であって,これにより,発電コストが安く,重量を変えることにより発電量を自在に調整することができ,エネルギ源が枯渇せず,メインテナンスが容易であり,メインテナンス時間が短く,組立てが簡便で安価で,特定の自然環境に頼る必要がなく,自然環境を汚染させない長所を有し,自然環境を半永久的に保護しながら,産業を発展させることができる,という効果を奏するものであることが開示されているから,本願発明の「重力発電装置」においては,火力発電,原子力発電,水力発電及び風力発電といった従来の発電方式や,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電及びバイオマス発電といった環境を保護しながら半永久的に使用することができるが,未だ普及していない発電方式を利用して エネルギーを供給することは排除されているというべきであるし,本願明細書に接した当業者においても,そのように理解するものといえる。
そうすると,仮に,当業者において,ベルトコンベア動力供給機構に外部から電力エネルギーを供給することを想起したとしても,本件証拠上,本願の優先権主張日当時,火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電及びバイオマス発電という発電方式を利用する方法によらずに,電力エネルギーを供給する方法や具体的な供給方法の構成を当業者において想起し,設定することが容易であることをうかがわせる技術常識が存在したことを認めるに足りる証拠はないから,当業者が,本願発明の「重力発電装置」のベルトコンベア動力供給機構に外部から電力エネルギーを供給する方法を容易に想起し,設定し得たとはいえない。
また,本願明細書には,ベルトコンベア動力供給機構に電力以外のエネルギーを供給することを開示又は示唆する記載は全くないことに加え,本件証拠上,本願の優先権主張日当時,ベルトコンベア動力供給機構に外部から電力以外のエネルギーを供給する方法や具体的な供給方法の構成を当業者において想起し,設定することが容易であることをうかがわせる技術常識が存在したことを認めるに足りる証拠もないから,当業者が,本願発明の「重力発電装置」のベルトコンベア動力供給機構に外部から電力以外のエネルギーを供給することや,その供給方法を容易に想起し,設定することができたともいえない。
ハイブリッド機構についても,本願の優先権主張日当時,ヤマハが電動アシスト自転車「PAS」を既に発売していたとしても(甲9),また,トヨタがハイブリッドカーである「プリウス」を既に発表していたとしても(甲10),これらの事実から,ベルトコンベアを火力,原子力,地熱,バイオマス等による蒸気が有するエネルギー(水蒸気の形態 で蓄えられる力学的エネルギー)や,水力,風力等の機械エネルギー等 で動かすことや,これらのエネルギーと電気エネルギーとのハイブリッ ド機構によりベルトコンベアを動かすことが本願の優先権主張日当時の 技術常識であったとはいえない上,前記1で認定した本願明細書の記載 には,当業者に上記ハイブリッド機構を想起させるような記載は全くな いから,当業者であれば,本願発明における「ベルトコンベア動力供給 機構」は電気エネルギー及び電気エネルギー以外の外部エネルギーを得 て,ベルトコンベアを駆動させるハイブリッド機構であることを理解す ると認めることはできない。
以上によれば,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,本件審決における,「本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明が,継続的に電力を発生させて,供給された電力量よりも電力量を増大させ,増大させた分の電力を外部に供給できること及び火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電などを使用しないものであって,発電コストが安く,環境を全く汚染させず,様々な地理環境や天然資源に乏しい地域で利用できるものであることが,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない」との判断は,本願発明に係る特許請求の範囲の請求項の記載に基づくものではなく,発明の詳細な説明や図面にだけ記載された構成要素を恣意的に解釈,付加するものであって,その判断方法自体に誤りがある旨主張する。
しかしながら,本件審決は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に基づき本願発明を認定した上で,本願明細書の発明の詳細な説明の記載が当業者において本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるかを判断しているのであって,実施可能要件の判断に当たり,請求項に記載されていない構成を付加するものではない。
また,実施可能要件を満たすというためには,単に発明の構成要件を形式的に再現できるのみならず,明細書に記載された所期の作用効果を奏する発明として実施することができる程度に発明の詳細な説明の記載が明確かつ十分にされていることを要するというべきであるから,本件審決が,本願明細書の発明の詳細な説明が,そこに記載された本願発明の所期の作用効果を奏する発明として実施することができる程度に明確かつ十分にされているかを判断した点に誤りがあるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告は,本願発明は,火力発電,原子力発電,水力発電及び風力発電等の従来の発電方式の問題点や太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電等の発電方式の問題点を解決する発電装置を提供することを課題とするものではなく,本願明細書には,火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電等の利用を想定していない旨の記載はないのであるから,本件審決が,本願発明においては,火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電等の利用を想定していないとしたのは誤りである旨主張する。
しかしながら,本願発明の「重力発電装置」においては,火力発電,原子力発電,水力発電及び風力発電といった従来の発電方式によってエネルギーを得て,これを外部エネルギーとして供給することや,太陽光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電及びバイオマス発電といった環境を保護しながら半永久的に使用することができるが,未だ普及していない発電方式によってエネルギーを得て,これを外部エネルギーとして供給することは排除されているというべきであることは,前記ア記載のとおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
小括 以上によれば,本願発明の「重力発電装置」が,どのようにして発電装置 として機能し得るのかについて,本願明細書に明確に記載されているという ことはできないから,本願明細書の発明の詳細な説明の記載が,当業者が本 願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるということ はできない。
本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明が,継続的に電力を発生さ せて,供給された電力量よりも電力量を増大させ,増大させた分の電力を外 部に供給できること及び火力発電,水力発電,原子力発電,風力発電,太陽 光発電,潮力発電,海洋温度差発電,地熱発電,バイオマス発電などを使用 しないものであって,発電コストが安く,環境を全く汚染させず,様々な地 理環境や天然資源に乏しい地域で利用できるものであることが,当業者が実 施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず,実施可能要件を 満たしていないとした本件審決の判断は,上記と同旨をいうものと認められ, その判断に誤りはない。
したがって,本件審決における実施可能要件の判断に誤りはないから,原 告主張の取消事由は理由がない。
結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれ を取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 富田善範
裁判官 大鷹一郎
裁判官 柵木澄子