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関連審決 不服2001-6760
関連ワード 発明者 /  物の発明 /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  前置審査 /  審理終結通知 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 91号 審決取消請求事件
原告 五洋建設株式会社
原告 独立行政法人港湾空港技術研究所
両名訴訟代理人弁理士 佐々木功
同 川村恭子
被告 特許庁長官小川 洋
指定代理人 中田誠
同 木原裕
同 高木進
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/07/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が不服2001-6760号事件について平成14年1月10日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,平成9年10月29日,名称を「薬液注入による砂地盤の固化改良工法」とする発明につき特許出願(平成9年特許願第311613号。以下「本件出願」という。請求項の数は4である。)をし,平成13年3月30日に拒絶査定を受けたので,平成13年4月26日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを不服2001-6760号事件として審理した。原告らは,この審理の過程で,平成13年4月26日付けの手続補正書により,本件出願の願書に添付した明細書の全文の補正(以下「本件補正」という。)をした。特許庁は,審理の結果,平成14年1月10日,本件補正を却下する決定をし(以下「本件補正却下決定」という。),同時に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年1月23日,その謄本を原告らに送達した。
2 特許請求の範囲(【請求項1】)(平成13年1月30日付け手続補正書により本件出願の願書に添付した明細書を全文補正したもの(以下,この明細書と図面とを併せて「本願明細書」といい,この請求項1の発明を,審決と同様に「本願発明」という。別紙図面A参照) 「シリカ系の水溶液型薬液を砂地盤に注入することにより砂地盤中に固結体を形成させる砂地盤の固化改良工法において,砂地盤の深さ方向及び水平方向において球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化するように,更に砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入することを特徴とする,薬液注入による砂地盤の固化改良工法。」 3 本件補正後の特許請求の範囲(【請求項1】)(下線部が本件補正に係る部分である。以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「本件補正発明」という。) 「シリカ系の水溶液型薬液を砂地盤に注入することにより砂地盤中に固結体を形成させる砂地盤の固化改良工法において,薬液の注入により砂地盤の深さ方向及び水平方向において各々球状乃至団子状の且つ一部が相互にオーバーラップした 連接固化構造体を形成させ,この場合に 砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入することを特徴とする,薬液注入による砂地盤の固化改良工法。」 4 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特公昭48-25767号公報(以下,審決と同様に「刊行物」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。別紙図面B参照)及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである。
審決が,上記結論を導く過程において,本願発明と引用発明との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「薬液を地盤に注入することにより地盤中に固結体を形成させる工法において,地盤の水平方向において一部が相互にオーバーラップして連接固化するように薬液を注入する点」 相違点1 「本願発明では,薬液がシリカ系の水溶液型薬液であるのに対し,刊行物に記載の発明(判決注・引用発明)では,薬液の成分が不明な点」(以下「相違点1」という。) 相違点2 「本願発明は,薬液を砂地盤に注入することにより砂地盤中に固結体を形成させる砂地盤の固化改良工法であるのに対し,刊行物に記載の発明では,地盤が砂地盤であるか不明であり,また,薬液注入工法である点」(以下「相違点2」という。) 相違点3 「本願発明では,砂地盤の深さ方向及び水平方向において球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化するように薬液を注入するのに対し,刊行物に記載の発明では,地盤の水平方向において長尺の円柱状に一部が相互にオーバーラップして連接固化するように薬液を注入する点」(以下「相違点3」という。) 相違点4 「本願発明では,砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入するのに対し,刊行物に記載の発明では,そのような構成を有するか否か不明な点」(以下「相違点4」という。) 5 本件補正却下決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件補正発明は,引用発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができない,とするものである。
決定が,上記結論を導く過程において,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「薬液を地盤に注入することにより地盤中に固結体を形成させる工法において,薬液の注入により地盤の水平方向において一部が相互にオーバーラップした連接固化構造体を形成させる点」 「相違点1 本願発明(判決注・本件補正発明)では,薬液がシリカ系の水溶液型薬液であるのに対し,刊行物に記載の発明では,薬液の成分が不明な点 相違点2 本願発明(判決注・本件補正発明)は,薬液を砂地盤に注入することにより砂地盤中に固結体を形成させる砂地盤の固化改良工法であるのに対し,刊行物に記載の発明では,地盤が砂地盤であるか不明であり,また,薬液注入工法である点 相違点3 本願発明(判決注・本件補正発明)では,砂地盤の深さ方向及び水平方向において各々球状乃至団子状の且つ一部が相互にオーバーラップした連接固化構造体を形成するのに対し,刊行物に記載の発明では,地盤の水平方向において長尺の円柱状の一部が相互にオーバーラップした連接固化構造体である点 相違点4 本願発明(判決注・本件補正発明)では,砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入するのに対し,刊行物に記載の発明では,そのような構成を有するか否か不明な点」
原告ら主張の審決取消事由の要点
審決は,本願発明と引用発明との相違点を看過し(取消事由1ないし3),相違点1ないし4についての各判断を誤まり(取消事由4ないし7),本願発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由8),また,本件補正却下決定が違法であるのに,これを前提として,本願発明の要旨を認定したものであり(本件補正却下決定は,本件補正について,審決と同様に,本件補正発明と引用発明との相違点を看過し,上記各相違点1ないし4についての判断を誤り,本件補正発明の顕著な作用効果を看過したことにより,本件補正を却下するとの誤りを犯している。)(取消事由9),さらに,審理不尽の手続違背も犯しており(取消事由10),これらの誤りがそれぞれ結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤りによる相違点の看過) (1) 審決は,刊行物の請求項1及び請求項2の各記載並びに第6図及び第8図の記載に基づき,「刊行物には,「薬液の注入により地盤の水平方向において長尺の円柱状の固結土がラップして一体に連続した固結土の壁体を造成する薬液注入工法。」の発明が記載されている」(審決書2頁下から10行〜下から7行)と認定した。しかしながら,この引用発明の認定は誤りである。
引用発明においては,地盤の所定深さ位置において,所定間隔に多数の横穴を一列に並列状態に形成し,それらの横穴にストレーナーパイプを差し込んで薬液を注入し,これにより長尺の円柱状の固結土が重なって一体に連続した止水性(不透水性)のある平板状の層となる固結土の壁体を形成するものである(参考図2参照。ただし,この参考図2は,原告らにおいて,刊行物における第8図(a),(b)を立体的に示したものである。)。引用発明は,「薬液の注入により地盤の所定深さ位置において,水平方向に一列に並列した多数の長尺の円柱状の固結土がラップして一体に連続した止水性のある平板状の層を形成する固結土の壁体を造成する薬液注入工法。」(下線は,原告らが付加したもの)と認定されるべきであり,審決の上記認定は誤っている。
(刊行物(甲3)第8図) (2) 審決は,「刊行物に記載の発明の「一体に連続した固結土の壁体」が,本願発明の「固結体」に相当する」(審決書3頁7行〜8行)と一致点を認定した。
しかし,審決のこの認定は誤りである。
引用発明における「一体に連続した固結土の壁体」(審決書2頁下から8行)は,止水性(不透水性)を目的とし,あくまでも水平方向に拡がる平板状の層を成すものである。これに対し,本願発明の「固結体」は,止水機能は全く有せず,かつ,層を成さない「球状乃至団子状」のものであり,引用発明の「固結土の壁体」とは明らかに異なるものである。
(3) 審決は,本願発明と引用発明とが,「地盤の水平方向において一部が相互にオーバーラップして連接固化するように薬液を注入する点で一致」(審決書3頁10行〜11行)すると認定した。しかし,この認定は明らかに誤りである。
引用発明は,地盤に対して水平方向に隣接した状態で一列に多数の柱状固結体を形成し,その一列の柱状固結体における隣接同士の一部がオーバーラップして,止水性(不透水性)を有する平板状の壁体と成るように薬液を注入する,というものである。これに対し,本願発明は,砂地盤に対して前後左右方向及び深さ方向に,所定の間隔をもって,球状乃至団子状の固結体を複数個順次形成し,その球状乃至団子状の固結体が上下方向と前後左右方向とに一部がオーバーラップし,かつ,通水が可能な未改良部を残すように薬液を注入する,というものである。両者において技術的に一致する点はない。
2 取消事由2(相違点3の認定の誤りによる相違点の看過) 審決は,相違点3として「本願発明では,砂地盤の深さ方向及び水平方向において球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化するように薬液を注入するのに対し,刊行物に記載の発明では,地盤の水平方向において長尺の円柱状に一部が相互にオーバーラップして連接固化するように薬液を注入する点」(審決書3頁20行〜23行)と認定した。しかし,この認定は誤りである。
本願発明は,砂地盤に対して前後左右及び深さ方向に,所定の間隔をもって,球状乃至団子状の固結体を複数個順次形成し,その球状乃至団子状の固結体が上下方向と前後左右方向とに一部がオーバーラップし,かつ,通水が可能な未改良部を残すように薬液を注入するもの,と認定すべきである。また,引用発明も,地盤の所定深さ位置に,水平方向に長尺の円柱状の固形体を一列に多数個隣接状態で形成し,かつ,隣接状態の円柱状固形体の一部が相互にオーバーラップして連接固化し,止水性を目的とした平板状の壁体を形成するように薬液を注入するもの,と認定すべきである。
このように,本願発明は「前後左右及び深さ方向に,所定の間隔をもって,球状乃至団子状の固結体を複数個順次形成」されるのに対し,引用発明は,「水平方向に 長尺の円柱状の固形体を一列に多数個隣接状態で形成」するものである点,及び,本願発明は「通水が可能な未改良部を残すように薬液を注入するもの」であるのに対し,引用発明は「止水性を目的とした平板状の壁体を形成するように薬液を注入するもの」である点が異なるのである(下線付加)。審決は,本願発明と引用発明の認定を誤ったことにより,相違点3を上記のとおり誤って認定し,これにより本願発明と引用発明との上記相違点を看過したものである。
3 取消事由3(相違点4の認定の誤りによる相違点の看過) 審決は,相違点4を「本願発明では,砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入するのに対し,刊行物に記載の発明では,そのような構成を有するか否か不明な点」(審決書3頁25行〜27行)と認定した。しかし,この認定は誤りである。
本願発明は,設定された領域内における砂地盤の改良率が,各球状乃至団子状の固形体の周囲に残存する未改良部によって,約70%までに留まるように薬液を注入するものであるのに対し,引用発明は,そのような構成を全く有しないものである。審決は,相違点4を上記のとおり明確に認定すべきである。
4 取消事由4(相違点1についての判断の誤り) 審決は,「シリカ系の水溶液型薬液は,例えば,特公平5-16495号公報(判決注・甲27号証,以下「甲27文献」という。)に記載のように周知技術にすぎず,刊行物に記載の発明において,薬液としてシリカ系の水溶液型薬液を用いることは当業者が適宜なし得ることである。」(審決書3頁28行〜31行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
甲27文献に開示された使用薬液は,「溶液型水ガラス系(瞬結型)ゲル化タイム10sec」と特定され,しかも,インターバル施工という特殊な施工方法に使用されるゲル化タイムの極めて短い特殊なものである。このようなゲル化タイムの極めて短い特殊な溶液型水ガラス系薬液を,引用発明に使用したとき,隣接状態の円柱状固形体の一部が相互にオーバーラップして連接固化し,平板状の壁体を形成できるか否かは疑わしい。当業者が,引用発明について,甲27文献に記載されたゲル化タイムの極めて短い特殊な溶液型水ガラス系薬液を適用することは困難である。
5 取消事由5(相違点2についての判断の誤り) 審決は,「薬液を砂地盤に注入することにより砂地盤中に固結体を形成させる砂地盤の固化改良工法は,例えば,同じく特公平5-16495号公報(判決注・甲27文献)に記載のように周知技術にすぎず,刊行物1(判決注・「刊行物」の誤りと認める。)記載の薬液注入工法により砂地盤の固化改良を行うことは当業者が適宜なし得ることである。」(審決書3頁32行〜4頁3行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
砂地盤中に固結体を形成させたからといって,それが直ちに砂地盤の固化改良ということにはならない。引用発明は,地中に円柱状固形体を隣接状態でかつ一部を相互にオーバーラップさせて形成することにより,平板状の壁体を形成するというものであり,形成される固形体の形状によっては単に地下構造物となるだけで,砂地盤の固化改良には結びつかないものである。したがって,甲27文献に記載された砂地盤の固化改良工法が存在するからといって,それが直ちに引用発明に結びつくものではない。
6 取消事由6(相違点3についての判断の誤り) 審決は,相違点3について,「地盤の深さ方向において球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化するように薬液を注入することは,例えば,刊行物の従来例として,及び特開昭53-96212号公報(判決注・甲28号証,以下「甲28文献」という。)に記載のように周知技術にすぎず,刊行物に記載の発明において,長尺の円柱状にかえて,地盤の深さ方向において各々球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化するように薬液を注入すれば,当然,水平方向においても球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして地盤が連接固化されるから,刊行物に記載の発明に周知技術を適用して相違点3に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得ることである。」(審決書4頁4行〜13行)と判断した。しかし,審決のこの判断は明らかに誤っている。
審決の相違点3についての認定には前記のとおり誤りがある。相違点3を前記のとおり正しく認定すれば,審決の相違点3についての判断が誤りであることは明らかとなる。引用発明に上記周知技術を適用しても,単に格子状を呈する平板状の壁部が形成されるだけである。これは,本願発明のように,球状乃至団子状の各固結体が上下方向と前後左右方向とに一部が連接固化し内部に改良領域の外部と連通する間隙部分(未改良部)を有する立方構造体のものとは明らかに異なるものである。本願発明のような立方構造体の構成は,当業者といえども,引用発明と周知技術から容易に想到し得るものではない。
7 取消事由7(相違点4についての判断の誤り) 審決は,「薬液の注入量は,必要とされる地盤強度,対象地盤の土質,注入方式等に応じて適宜決定されるものであり,刊行物に記載の発明において改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入することは当業者が適宜なし得ることである。」(審決書4頁22行〜25行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
引用発明は,地盤の所定深さ位置に,長尺の円柱状の固形体を水平方向に一列に複数個隣接状態で形成し,かつ,隣接状態の円柱状固形体の一部が相互にオーバーラップして連接固化し,止水性を目的とした平板状の壁体を形成するように薬液を注入するものであるから,設定された領域の地盤における改良率を全く問題としていない。
仮に,審決がいうとおり,「薬液の注入量は,必要とされる地盤強度,対象地盤の土質,注入方式等に応じて適宜決定される」(審決書4頁22行〜23行)ものであるとしても,引用発明のような,地盤中に止水性を目的とした平板状の壁体を形成する技術については,本願発明におけるような「改良率が約70%迄に留まる」との構成についての発想は,生じ得ない。
8 取消事由8(本願発明の顕著な効果の看過) 審決は,「全体として本願発明によってもたらされる効果も,刊行物に記載の発明及び周知技術から当業者が当然に予測できる程度のものであって顕著なものとはいえない。」(審決書4頁26行〜28行)と判断した。しかし,審決のこの判断は誤りである。
本願発明は,砂地盤に対して前後左右及び深さ方向に,所定の間隔をもって,球状乃至団子状の固結体を複数個順次形成し,その球状乃至団子状の固結体が上下方向と前後左右方向とに一部がオーバーラップして連接固化し,各球状乃至団子状の固形体の周囲に通水が可能な間隙部分(未改良部)を残し,設定された領域内における砂地盤の改良率が,各球状乃至団子状の固形体の周囲に残存する未改良部によって,改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する,という発明である。本願発明は,それによって,施工効率が良好であり,砂地盤の固化改良効果においても従来の全面改良法と比較する場合に遜色がなく,砂地盤の液状化防止対策を経済的に実施することができる,という独特で顕著な効果を奏するものである。
本願発明のこのような施工効率と経済的な面における顕著な効果については,引用発明及び周知技術では全く言及されていないものであり,予測し得ないものである。
9 取消事由9(本件補正を却下したことによる誤り) 本件補正発明は,出願の際,独立して特許を受けることができるものであるにもかかわらず,できないものと誤って認定判断され,これにより,本件補正が却下されたものである。本件補正を誤って却下した上でなされた審決は,判断の対象となるべき本願発明の要旨の認定を誤ったことになる。 本件補正却下決定が誤っている理由は,審決の取消事由1ないし6と同旨である。
本件補正却下決定は,本件補正発明と引用発明との相違点を前記のとおり認定した上で,その相違点について次のとおり判断した。
「そこで,相違点1について検討すると,シリカ系の水溶液型薬液は,例えば,特公平5-16495号公報に記載のように周知技術にすぎず,刊行物に記載の発明において,薬液としてシリカ系の水溶液型薬液を用いることは当業者が適宜なし得ることである。
次に,相違点2について検討すると,薬液注入工法として,薬液を砂地盤に注入することにより砂地盤中に固結体を形成させる砂地盤の固化改良工法は,例えば,同じく特公平5-16495号公報に記載のように周知技術にすぎず,刊行物1記載の薬液注入工法により砂地盤の固化改良を行うことは当業者が適宜なし得ることである。
次に,相違点3について検討すると,地盤の深さ方向において各々球状乃至団子状の且つ一部が相互にオーバーラップした連接固化構造体を形成することは,例えば,刊行物の従来例として,及び特開昭53-96212号公報に記載のように周知技術にすぎず,刊行物に記載の発明において,長尺の円柱状の固結土にかえて,地盤の深さ方向において各々球状乃至団子状の且つ一部が相互にオーバーラップしたものを形成すれば,水平方向においても球状乃至団子状の且つ一部が相互にオーバーラップした連接固化構造体が当然に形成されるから,刊行物に記載の発明に周知技術を適用して相違点3に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得ることである。
次に,相違点4について検討すると,本願発明の「砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する」の意味するところは必ずしも明確ではないが,本願明細書に記載された数式「V1=(V)x(n)x(a)x(λ) V1:薬液の注入量, V:改良すべき砂地盤の体積, n:砂地盤の間隙率であって,0.4-0.5, a:薬液の充填率であって,0.7-0.9, λ:砂地盤の改良率」(段落【0004】)を参酌すると,「砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する」とは,上記数式において,λを約0.7以下として算出した量の薬液を地盤に注入することを意味すると解される。しかしながら,薬液の注入量は,必要とされる地盤強度,対象地盤の土質,注入方式等に応じて適宜決定されるものであり,刊行物に記載の発明において改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入することは当業者が適宜なし得ることである。
そして,全体として本願発明によってもたらされる効果も,刊行物に記載の発明及び周知技術から当業者が当然に予測できる程度のものであって顕著なものとはいえない。
したがって,本願発明は,刊行物に記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 しかし,本件補正却下決定は,審決と同様に,@本件補正発明と引用発明との一致点の認定の誤りによる相違点の看過,A本件補正発明と引用発明との相違点3の認定の誤りによる相違点の看過,B本件補正発明と引用発明との相違点4の認定の誤りによる相違点の看過,C本件補正発明と引用発明との相違点1についての判断の誤り,D本件補正発明と引用発明との相違点2についての判断の誤り,E本件補正発明と引用発明との相違点3についての判断の誤り,F本件補正発明と引用発明との相違点4についての判断の誤り,G本件補正発明の顕著な効果の看過,の各誤りを犯しており,その理由は,審決について既に述べたところと同じである。
10 取消事由10(審理不尽) 原告らは,本件の審判請求の手続において,平成13年12月19日付け上申書(甲25号証)を提出し,本願明細書の補正の機会と,面接の機会を与えてほしい旨を上申すると共に,本願発明の要旨を更に減縮する用意がある旨を上申した。
しかし,上申書による上記申し出は一切無視され,平成13年12月28日付けで審理終結通知書が発送され,審決がなされた。
被告は,出願人(審判請求人)の補正の意向・面接の要望を無視し,本願発明に係る本質的な事項の説明の機会を与えずに,異常な早さで審理を終結したことにより,誤った審決に至ったものである。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 審決は,本願発明との関連において,刊行物の明細書及び図面の記載をもとに具体的な摘示を行い,引用発明として,「薬液の注入により地盤の水平方向において長尺の円柱状の固結土がラップして一体に連続した固結土の壁体を造成する薬液注入工法。」(審決書2頁28行〜29行)との認定を行ったものである。
刊行物の第6図には,地表から鉛直方向に長尺の円柱状固結土15’を造成することが記載されている。この点は,刊行物の「つぎに第6図は地中に竪方向に長尺の円柱状の固結土を造成する場合を示す説明図」(甲3号証1頁左欄28行〜30行),「以上地中に横方向に長尺の円柱状の固結土を造成する場合について説明したが,上記に準ずる注入工法によつて,第6図に示すように,地中に竪方向に長尺の円柱状の固結土15’を造成することが出来る。つぎに実際の薬液注入工事においては,長尺の円柱状固結土は並列して多数造成されるのが普通であり,この場合は,第8図図aに示すように,上記した本発明の薬液注入工法を適当間隔を置いて順次的に施工しても良いか,普通予めストレーナーパイプ7を多数並列して地中に貫入残置し,これに同時あるいは順次的に薬液を圧入して並列する長尺の円柱状固結土15または15’を造成するものである。つぎに上記した並列施工において,各ストレーナーパイプ7の間隔を適当に小さくすることによつて,第8図図bに示すように,造成される長尺の円柱状の固結土を相互にラツプせしめて一体に連続し,固結土の壁体17を造成することが出来るものである。」(同3頁左欄12行〜30行)と記載されていることからみても明らかである。
原告らが認定すべきと主張する刊行物に記載された発明は,審決において摘示を行っていない,刊行物の第3図ないし5図に記載された別の実施例である。
(2) 本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,「水平方向において球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化する」と記載されており,球状乃至団子状の固結体が水平方向に一部がオーバーラップすると記載されているものの,球状乃至団子状の固結体が前後左右方向に一部がオーバーラップするとは記載されておらず,また,通水が可能な未改良部を残すように薬液を注入するとも記載されていない。
本願発明についての原告らの主張は,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づかないものであって失当である。
2 取消事由2(相違点3の認定の誤りによる相違点の看過)について 本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,「水平方向において球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化する」と記載されており,球状乃至団子状の固結体が水平方向に一部がオーバーラップする,と記載されているものの,球状乃至団子状の固結体が前後左右方向に一部がオーバーラップする,とは記載されておらず,また,各球状乃至団子状の固形体の周囲に通水が可能な間隙部分(未改良部)を残すように薬液を注入する,とも記載されていない。本願発明についての原告らの主張は,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づかないものであって失当である。
3 取消事由3(相違点4の認定の誤りによる相違点の看過)について 本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,各球状乃至団子状の固形体の周囲に残存する未改良部によって,改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する,とは記載されていない。本願発明についての原告らの主張は,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づかないものであって失当である。
4 取消事由4(相違点1についての判断の誤り)について 審決は,相違点1についての判断に当たり,本願発明の「シリカ系の水溶液型薬液」が本件出願前に周知であったことを示すために,その一例として甲27文献を示したものにすぎない。
5 取消事由5(相違点2についての判断の誤り)について 引用発明は,「薬液を浸透させ,多数の長尺の円柱状の固結土がラップして一体に連続した固結土の壁体を造成する」(甲3号証,請求項2)ものであるから,薬液により地盤を固結し,地盤を固化改良するものとみることができる。薬液を砂地盤に注入することにより砂地盤中に固結体を形成させる砂地盤の固化改良工法が審決に示すように周知技術である以上,引用発明の薬液注入工法により砂地盤の固化改良を行うことは当業者が適宜なし得ることである。
6 取消事由6(相違点3についての判断の誤り)について 本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,「水平方向において球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化する」と記載されており,球状乃至団子状の固結体が水平方向に一部がオーバーラップする,と記載されているものの,球状乃至団子状の固結体が前後左右方向に一部がオーバーラップする,とは記載されておらず,また,各球状乃至団子状の固形体の周囲に通水が可能な間隙部分(未改良部)を残すように薬液を注入する,とも記載されていない。本願発明についての原告らの主張は,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づかないものであって失当である。
7 取消事由7(相違点4についての判断の誤り)について 本願発明の「砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する」との構成は,改良しようとする領域aに対する改良部分となる球状乃至団子状の固形体bの割合が約70%迄に留まるように薬液を注入することを意味する。
しかし,改良しようとする地盤に薬液を注入する際に,改良しようとする領域aに対する改良部分となる固形体bの割合が実際にどれだけであるかを確認しながら地盤に薬液を注入することは困難であり,本願明細書においても固形体bの割合を確認しながら薬液を注入する方法については記載されていない。
実際の砂地盤は,砂の締まり具合や砂の粒度が不均一であり,また,粘土やれきの混入,間隙水,地下水の影響等の種々の要因により薬液の浸透距離にばらつきが生じ,実際に形成される固結体の形状は,本願明細書の図面に記載された固結体の想像図のような理想状態とはかなり異なるものとならざるを得ない。
地盤の固化改良を行う際には,改良しようとする地盤のボーリング調査等により改良しようとする地盤全体の性状の予測を行うとしても,地盤全体の性状を正確に予測することは実際上は不可能である。不完全な予測に基づいて薬液の量を適切に設定したとしても,実際に形成される固結体の体積は設計どおりにはならないものである。
審決は,砂地盤の改良率がどれくらいであるかを実際に確認することが不可能であり,しかも,設計上の固結体の形状及び改良率に対応する量の薬液を注入したとしても実際の固結体の形状及び改良率は設計どおりにはならないとの認識に基づき,「砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する」との構成の意味するところは必ずしも明確ではないとし,一方で,明確に把握することができるのは薬液の注入量のみであることから,「本願明細書に記載された数式「V1=(V)x(n)x(a)x(λ) V1:薬液の注入量, V:改良すべき砂地盤の体積, n:砂地盤の間隙率であって,0.4-0.5, a:薬液の充填率であって,0.7-0.9, λ:砂地盤の改良率」(段落【0004】)を参酌すると,「砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する」とは,上記数式において,λを約0.7以下として算出した量の薬液を地盤に注入することを意味すると解される。」(審決書4頁3段)と判断したものである。そして,薬液の注入量は,必要とされる地盤強度,対象地盤の土質,注入方式等に応じて適宜決定されるものであるから,審決は,「刊行物に記載の発明において改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入することは当業者が適宜なし得ることである。」(審決書4頁16行〜22行)と判断したものである。
8 取消事由8(本願発明の顕著な効果の看過)について 原告らが主張する,砂地盤の固化改良効果においても従来の全面改良法と比較する場合に遜色がなく,という本願発明の効果については,本願明細書に,「これらの試験結果は,改良率を70%程度に設定すれば,従来の改良率100%による完全改良の場合と比較して改良効果において差のないことを示している。」(甲16号証【0016】),「これらの結果は,改良率を70%程度に設定すれば,所望の砂地盤改良効果が得られ,従って改良率を更に高める必要性のないことを意味している。」(同【0017】)と記載されていること,及び本願明細書の図10のグラフからみて,改良率が約70%の場合にのみ奏する効果と認められる。本願発明は,「改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する」(請求項1)との構成であるから,改良率が70%より低いものをも含むものであり,原告らが主張する上記効果は,本願発明に含まれる改良率70%のものの効果であるとしても,本願発明全体の効果であるということはできない。
9 取消事由9(本件補正を却下したことによる誤り)について 原告らは,本件補正却下決定は,審決と同様に,@本件補正発明と引用発明との一致点の認定の誤りによる相違点の看過,A本件補正発明と引用発明との相違点3の認定の誤りによる相違点の看過,B本件補正発明と引用発明との相違点4の認定の誤りによる相違点の看過,C本件補正発明と引用発明との相違点1についての判断の誤り,D本件補正発明と引用発明との相違点2についての判断の誤り,E本件補正発明と引用発明との相違点3についての判断の誤り,F本件補正発明と引用発明との相違点4についての判断の誤り,G本件補正発明の顕著な効果の看過,の各誤りを犯している,と主張する。
しかし,原告らの上記主張は,取消事由1ないし8において述べたのと同じ理由により,いずれも理由がないものである。
10 取消事由10(審理不尽)について 特許を受けようとする発明の内容は,本来,明細書及び図面により十分に説明されるべきものであり,審判の審理は審判請求人が提出した書面に基づいて行われることが原則である。審判合議体が必要と判断すれば面接を行うこともあるものの,本件の審判請求については面接の必要性を認めていない。
本件の審判手続は,特許法の規定に則り行われたものであり,何ら違法性はなく,審決及び本件補正却下決定に何ら誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 原告らは,@引用発明は,地盤の所定深さ位置において,所定間隔に多数の横穴を一列に並列状態に形成し,それらの横穴にストレーナーパイプを差し込んで薬液を注入し,これにより長尺の円柱状の固結土が重なって一体に連続した止水性(不透水性)のある平板状の層となる固結土の壁体を形成するものである,A審決が引用発明の「一体に連続した固結土の壁体」を本願発明の固結体に相当すると認定したのは誤りである,と主張している。
刊行物の図面の簡単な説明の欄には,第6図について「第6図は地中に竪方向に長尺の円柱状の固結土を造成する場合を示す説明図」(甲3号証,1欄28行〜30行),第8図について「第8図はストレーナーパイプを並列して地中に貫入残置して固結土の壁体を造成する態様を示す説明図である。」(同1欄32行〜34行)との記載がある。
刊行物の発明の詳細な説明の欄には,「以上地中に横方向に長尺の円柱状の固結土を造成する場合について説明したが,上記に準ずる注入工法によつて,第6図に示すように,地中に竪方向に長尺の円柱状の固結土15’を造成することが出来る。つぎに実際の薬液注入工事においては,長尺の円柱状固結土は並列して多数造成されるのが普通であり,この場合は,第8図図aに示すように,上記した本発明の薬液注入工法を適当間隔を置いて順次的に施工しても良いか,普通予めストレーナーパイプ7を多数並列して地中に貫入残置し,これに同時あるいは順次的に薬液を圧入して並列する長尺の円柱状固結土15または15’を造成するものである。つぎに上記した並列施工において,各ストレーナーパイプ7の間隔を適当に小さくすることによつて,第8図図bに示すように,造成される長尺の円柱状の固結土を相互にラツプせしめて一体に連続し,固結土の壁体17を造成することが出来るものである。」(同5欄12行〜30行)との記載がある。
刊行物の第6図に記載されたものが,長尺の円柱状の固結土が鉛直方向に造成されたものを表していることは,第6図についての上記説明及び上記発明の詳細な説明中の「竪方向に長尺の円柱状の固結土15’を造成する」等の記載から明らかである。また,刊行物の第8図に記載されたものが,円柱状の固結土を複数個並列して壁体を造成する場合を表していることは,第8図についての上記説明と上記発明の詳細な説明から明らかである。そして,刊行物の第8図記載のものは,円柱状の固結土の方向を,鉛直方向(竪(縦)方向)とも,水平方向(横方向)とも特定しているわけではないことからすれば,鉛直方向と水平方向の両者について,円柱状の固結土が隣接した状態(第8図(a))のものと,円柱状の固結土がオーバーラップした状態(第8図(b))のものを示しているものと認められる。したがって,刊行物の第6図の鉛直方向に円柱状の固結土を造成したものと,刊行物の第8図記載のものとを組み合わせたもの(これが審決が認定した引用発明であると認められる。)は,原告らが主張するような,多数の横穴にストレーナパイプを差し込んで薬液を注入したものではないことは明らかである。
また,刊行物には,円柱状の固結土がオーバーラップした状態(第8図(b))のものと,円柱状の固結土が隣接した状態(第8図(a))のものとが示されていることからすれば,引用発明における個々の円柱状の固結土の間隔,すなわち,円柱状の固結土がオーバーラップする程度は様々であり,オーバーラップする程度を大きくして不透水性にした壁体を造成することも可能であるし,オーバーラップする程度を小さくして,不透水性とはいえない態様の壁体を造成することも可能である。したがって,引用発明を止水性のものと認定すべきとする原告らの主張も採用し得ない。審決が引用発明を「地盤の水平方向において長尺の円柱状の固結土がラップして一体に連続した固結土の壁体」(審決書2頁下から9行〜下から8行)と認定したことに誤りはなく,また,引用発明の「一体に連続した固結土の壁体」が本願発明の「固結体」に相当すると認定したことにも誤りはない。
(2) 原告らは,本願発明は,砂地盤に対して前後左右方向及び深さ方向に,所定の間隔をもって,球状乃至団子状の固結体を複数個順次形成し,その球状乃至団子状の固結体が上下方向と前後左右方向とに一部がオーバーラップし,かつ,通水が可能な未改良部を残すように薬液を注入するもの,と認定すべきである,と主張する。
本願明細書には,「【0004】【発明が解決しようとする課題】・・・従来の工法は改良すべき砂地盤の体積に対して薬液の所要注入量が多い点並びに薬液の注入速度が低いので施工に長時間を要する点に課題がある。」,「【0005】【課題を解決するための手段】・・・【0006】薬液注入による従来の砂地盤の固化改良工法においては,既述のように,削孔ピッチ及び薬液注入部材における薬液放出部のピッチが比較的小に設定され且つ砂地盤の改良率が 100%に設定されるので,薬液が固化する場合に球状とはならずに密に重なり合って均質な且つ一体的な固結体を形成することになるが,改良率を低めに設定し,これにより互いに一部がオ-バ-ラップして結合した球状固結体からなる構造体が形成される ならば,この構造体は内部に固化していない部分を有していても全体として一体的な構造体として振る舞い,その結果従来技術による工法により形成された完全固結体と同様に砂地盤の流動化防止に寄与するものと考えられる。【0007】従って,本発明者等は・・・薬液の注入により互いに一部がオ-バ-ラップして結合した球状の固化体が形成される ならば,この連結球状固化体からなる構造体は内部に固化していない部分を有していても全体として一体的であり,従来技術工法による均質・一体型の完全固結体における場合と同様の挙動を示すことが事実であり,所要薬液量が減少するので経済的であり且つ施工所要時間も短縮することが判明し,斯くて本発明の端緒を得た。【0008】そこで,更に検討を重ねた処,所期の改良効果をもたらしつつ砂地盤の改良率を適正な値に設定するためには,形成されるべき球状固化体の直径が小であるのは施工効率等の点から好ましくなく,削孔ピッチ及び薬液注入部材における薬液放出部のピッチを従来における約1mから2-4m程度に変更すべきであること,シリカ系の水溶液型薬液は砂地盤への浸透能力において,このような条件を満たすこと並びに上記のような大径の球状固化体を形成する場合には注入すべき薬液量が当然のことながら大となり,注入所要時間も長くなるので注入途中で薬液に固化が生じることが懸念され,従って薬液の注入速度も従来より高く設定すべきであることが直径約4mの球状固化体を砂地盤内に作成し得たことにより検証・確認され,これによって本発明を完成するに至った。」,「【0021】【発明の効果】従来の薬液注入工法は薬液注入用の削孔のピッチ及び該削孔内に立設される薬液注入部材における薬剤放出部のピッチをそれぞれ約1mに設定し,改良率を100%に設定し且つ薬液の注入速度を毎分約10リットルに設定して行われてきたが,本発明による砂地盤の固化改良工法は削孔のピッチ及び薬液放出部のピッチが共に2m又はそれ以上であり,改良率は50-70%程度であり,薬液の注入速度は毎分約20リットル又はそれ以上であるために,施工効率が良好であり,砂地盤の固化改良効果においても従来の全面改良法と比較する場合に遜色がなく,従って砂地盤の液状化防止対策を経済的に実施することができる。」(甲16号証)との記載がある(下線付加)。
本願明細書のこれらの記載からすれば,本願発明は,従来のものが改良率を100%に設定していたものを,改良率を70%以内に設定して薬液を注入することにより,互いに一部がオ-バ-ラップして結合した球状固結体からなる構造体が形成されるならば,この構造体は内部に固化していない部分を有していても,従来技術による工法により形成された完全固結体と同様に砂地盤の流動化防止に寄与するものであり,砂地盤の液状化防止対策を経済的に実施することができる,ことを特徴とする発明であると認められる。本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)においては,これを「砂地盤の深さ方向及び水平方向において球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化する」と記載したものである。この特許請求の範囲の記載によれば,本願発明の薬液注入により形成される球状乃至団子状の固化体は,「砂地盤の深さ方向及び水平方向において・・・一部が相互にオーバーラップ」するもので,且つ,「砂地盤の改良率が70%迄に留まる」ものであればよく,本願発明の「水平方向」については,これを「前後左右方向」と限定して解すべき理由はない。
確かに,本願明細書の【図3】(改良率を70%に設定した場合に砂地盤中に形成される球状固化体相互と,球状固化体が形成される部位における砂地盤の体積との関係をイメージした図面),【図6】(改良率を50%に設定した場合に砂地盤中に形成される球状固化体相互の関係を示す平面図),【図9】(改良率を50%に設定した場合に砂地盤中に形成される球状固化体が相互に接した状態で結合し,一体的な固結構造体を形成していることをイメージする斜視図)等には,改良率70%若しくは50%に設定した場合の球状固結体が,深さ方向及び前後左右方向にオーバーラップして連接固化しているものが示されている(甲4号証,16号証)。しかし,本願明細書の上記各図面に記載されたものは,本願発明の実施例を表した図面にすぎないものである。そして,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)は上記のとおりのものであり,本願明細書の発明の詳細な説明において,「水平方向」を定義している記載もないのであるから(甲16号証),本願発明の「水平方向において・・・一部が相互にオーバーラップして連接固化する」とは,文言の通常の解釈からして,砂地盤の表面と平行な方向であればよく,その方向が一方向のものも,前後左右の二方向のもの(直交して交差するもの)も,また,それ以外にも,三方向に交差するもの(60度で交差するもの)も,「砂地盤の深さ方向」において「一部が相互にオーバーラップして連接固化する」もので,かつ,「砂地盤の改良率が70%迄に留まる」との構成を満たす限り,すべて包含すると解すべきである(本願発明の「砂地盤の改良率が70%迄に留まる」との構成は,改良率が70%以内という意味であるから,改良率が50%,30%あるいはそれ以下のものも包含し得るものであり,「球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化する」との構成と組み合わせて考えてみても,本願発明の特許請求の範囲の範囲は,相当広範囲のものを包含する記載となっている。)。原告らが主張するように,本願発明の「水平方向において」との構成を「前後左右方向において」とのみ限定して解釈すべき理由はない。
2 取消事由2(相違点3の認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 原告らは,本願発明は,砂地盤に対して前後左右方向及び深さ方向に,所定の間隔をもって,球状乃至団子状の固結体を複数個順次形成し,その球状乃至団子状の固結体が上下方向と前後左右方向とに一部がオーバーラップし,かつ,通水が可能な未改良部を残すように薬液を注入するもの,と認定すべきである,と主張する。
しかし,本願発明は,深さ方向及び上記の意味の水平方向において,球状ないし団子状に,一部が相互にオーバーラップして連接固化するように薬液を注入する方法であると解すべきであり,原告らが主張するように,本願発明の「水平方向において」との構成を「前後左右方向において」とのみ限定して解釈すべき理由はないことは上記のとおりである。
本願発明を,球状乃至団子状の固結体を複数個「順次形成」し,「通水が可能な未改良部を残すように薬液を注入するもの」と解すべきである,との原告らの上記主張も,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)においては,「球状乃至団子状に・・・連接固化する」と記載されているところから,複数の球状乃至団子状を形成することはそのとおりであるものの,「順次」との要件は,本願明細書の特許請求の範囲には記載されておらず,また,特許請求の範囲には,「砂地盤の改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する」との構成は記載されているものの,「通水が可能な未改良部を残すように薬液を注入する」との構成は記載されていないのであるから,この点を本願発明の構成として認定することができないことは明らかである。原告らの上記主張は,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づかない主張であるから,採用することはできない。
(2) 原告らは,引用発明を,地盤の所定深さ位置に,水平方向に長尺の円柱状の固形体を一列に多数個隣接状態で形成し,かつ,隣接状態の円柱状固形体の一部が相互にオーバーラップして連接固化し,止水性を目的とした平板状の壁体を形成するように薬液を注入するもの,と認定すべきである,と主張する。
しかし,引用発明については,これを「水平方向に長尺の円柱状の固形体を・・・形成し」とも,「止水性を目的とした平板状の壁体」とも認定する必要がないことは,前記のとおりである。原告らの主張は採用し得ない。
3 取消事由3(相違点4の認定の誤りによる相違点の看過)について 原告らは,本願発明は,設定された領域内における砂地盤の改良率が,各球状乃至団子状の固形体の周囲に残存する未改良部によって,約70%までに留まるように薬液を注入するものである,と主張する。
しかし,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,「各球状乃至団子状の固形体の周囲に残存する未改良部によって」との記載はない。原告らの上記主張は,本願明細書の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。
もっとも,本願明細書においては,「改良率」について「砂地盤の改良率とは,一辺が任意長さの砂正立方体に薬液注入部材を用いて薬液を圧入することにより球状の砂固化体を形成させた場合に,砂正立方体の体積を100%とする際の形成された球状砂固化体の体積比率を意味する。」,「未改良部を残存させない場合には砂地盤の改良率が100%,即ち1.0である」(甲16号証,【0004】)と明確に定義されている。これによれば,「未改良部」とは,薬液によりできた球状乃至団子状の固形体の外側の砂地盤部分からなるものと認められるから,原告らの上記主張が誤った内容のものである,というわけではない。しかし,改良率については,本願明細書に上記のとおり定義されているのであるから,審決が本願発明の構成を認定するに当たり,その特許請求の範囲における「改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する」との構成に加えて,「各球状乃至団子状の固形体の周囲に残存する未改良部によって」という構成を追加して認定しなければならない理由はないし,このような構成を追加しなければ,相違点4の認定が誤りになるとする理由もない。
また,審決は,引用発明について「改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する」という構成を有するかどうか不明であるとして,これを相違点として,相違点4についての判断をしているのであるから,相違点認定の誤りによる相違点の看過がないことは明らかである。
4 取消事由4(相違点1についての判断の誤り)について 原告らは,当業者が,引用発明について,甲27文献に記載されたゲル化タイムの極めて短い特殊な溶液型水ガラス系薬液を適用することは困難である,と主張している。
しかしながら,審決は,「シリカ系の水溶液型薬液は,例えば,特公平5-16495号公報に記載のように周知技術にすぎず」(審決書3頁下から6行〜下から5行)と認定しているのであり,シリカ系の水溶液型薬液が,本件出願前に周知であったことを示すために,甲27文献記載のものをその一例として挙げたにすぎないものである。シリカ系の水溶液型薬液が出願前周知であることは,本願明細書においても,その特許請求の範囲(請求項1)においてシリカ系の水溶液型薬液を特定のものに限定していないこと,本願明細書の発明の詳細な説明においても,「【課題を解決するための手段】シリカ系の水溶液型薬液は調製直後は粘度が1.5cpsの水のような状態であり,所定時間を経過すると急激に固化して100kPa(1.0kgf/cm2)程度の一軸圧縮強度を発現する性質を有しており,砂地盤の削孔内に立設された注入部材の薬液放出部から上記の薬液を周囲の砂層内に注入すれば砂地盤に浸透して行き,所定時間経過後に急激に固化するが,薬液の注入速度を遅くすると均等な且つ球状に近い形状の固結体を形成することが知られている。」(甲16号証【0005】)と記載され,シリカ系の水溶液型薬液の一般的な性質が記載されているだけであること,本願明細書には,本件発明の試験例として,シリカ系の水溶液型薬液として,市販のものを使用することが記載されているだけであること(甲16号証【0012】)から明らかである。審決は,本件出願時において,シリカ系の水溶液型薬液が周知の技術事項であることを示すために,甲27文献記載のものを示しただけであり,同文献記載の薬液がたまたまゲルタイムが短いものであるとしても,このことは,本件出願時において,シリカ系の水溶液型薬液が周知の技術事項であるとの審決の認定を左右すべきことではない。
原告らの主張は失当である。
5 取消事由5(相違点2についての判断の誤り)について 原告らは,引用発明は,地中に円柱状固形体を隣接状態でかつ一部を相互にオーバーラップさせて形成することにより,平板状の壁体を形成するというものであり,形成される固形体の形状によっては単に地下構造物となるだけで,砂地盤の固化改良には結びつかないものである,したがって,甲27文献に記載された砂地盤の固化改良工法が存在するからといって,それが直ちに引用発明に結びつくものではない,と主張する。
しかしながら,刊行物において,円柱状の固結土がオーバーラップした状態(第8図(b))のものと,円柱状の固結土が隣接した状態(第8図(a))のものとが示されていること(甲3号証)から明らかなように,引用発明においては,各円柱状の固結土がオーバーラップする程度は様々であり,オーバーラップの程度を大きくして不透水性にした壁体を造成することも,オーバーラップの程度を小さくして不透水性とはいえない態様の円柱状の固結度の壁体を造成することも,いずれも可能であることは上記のとおりである。引用発明における,長尺の円柱状の固結土がオーバーラップして一体に連続した固結土の壁体は,薬液により地盤が固結されているものであるから,引用発明に砂地盤の改良工法の周知技術を適用すれば,引用発明の薬液注入工法によって砂地盤の固化改良を行うことに想到することは,当業者にとって自明なことである。
6 取消事由6(相違点3についての判断の誤り)について 原告らは,相違点3を前記のとおり正しく認定すれば,審決の相違点3についての判断が誤りであることが明らかとなる,引用発明に甲28文献記載の周知技術を適用しても,単に格子状を呈する平板状の壁部が形成されるだけであり,これは,本願発明のように,球状乃至団子状の各固結体が上下方向と前後左右方向とに一部が連接固化し内部に改良領域の外部と連通する間隙部分(未改良部)を有する立方構造体のものとは明らかに異なる,と主張する。
しかしながら,取消事由2(相違点3の認定の誤りによる相違点の看過)で述べたとおり,本願発明において「水平方向」を「前後左右方向」と限定的に解釈することはできないし,本願発明の構成を「内部に改良領域の外部と連通する間隙部分(未改良部)を有する」ものと認定することはできないのであるから,原告らの主張は,その前提において誤っており,採用することはできない。また,引用発明の薬液注入工法によって砂地盤の固化改良を行うことに想到することは,当業者にとって自明なことであることは前記のとおりであるから,引用発明に甲28文献に記載された周知技術を適用すれば,単に格子状を呈する平板状の壁部が形成されるだけであるとする原告らの主張が理由がないことが明らかである。
7 取消事由7(相違点4についての判断の誤り)について 原告らは,引用発明のような,地盤中に止水性を目的とした平板状の壁体を形成する技術については,本願発明におけるような「改良率が約70%迄に留まる」との構成についての発想は生じ得ない,と主張している。
しかし,刊行物において,円柱状の固結土がオーバーラップした状態(第8図(b))のものと,円柱状の固結土が隣接した状態(第8図(a))のものとが示されていること,及び,引用発明においては,各円柱状の固結土がオーバーラップする程度は様々であり,オーバーラップの程度を大きくして不透水性にした壁体を造成することも,オーバーラップの程度を小さくして不透水性とはいえない態様の円柱状の固結度の壁体を造成することも,いずれも可能であることは,上記のとおりである。原告らの主張は,引用発明が地盤中に止水性を目的とした平板状の壁体を形成する技術であることを前提とするものであり,その前提が誤りであることは明らかである。
本願発明における砂地盤の改良率とは,上記のとおり,「一辺が任意長さの砂正立方体に薬液注入部材を用いて薬液を圧入することにより球状の砂固化体を形成させた場合に,砂正立方体の体積を100%とする際の形成された球状砂固化体の体積比率」(甲16号証【0004】)であり,改良率と薬液注入量の関係は, 「V1=(V)x(n)x(a)x(λ) V1:薬液の注入量, V:改良すべき砂地盤の体積, n:砂地盤の間隙率であって,0.4-0.5, a:薬液の充填率であって,0.7-0.9, λ:砂地盤の改良率」(同【0004】)と定義されている。
砂固化体は地中に形成されるものであり,本願明細書に,改良率を測定しながら薬液を注入するとの記載はないことからすれば(甲16号証),本願発明は,改良率それ自体を測定しながら薬液を注入する方法であるとは考えられない。本願明細書の上記式とその説明からすれば,本願発明は,地盤の状態の事前調査等により,改良すべき砂地盤の体積,砂地盤の間隙率,薬液の充填率を推定して,それらと目的とする砂地盤の改良率とから薬液注入量を計算して薬液注入を実施するものと認められる。
刊行物の第8図(a),(b)に示された引用発明は,透水性を小さくするためには,固化体同士の間隔を小さくし,固化体同士をオーバーラップさせ,透水性をそれ程小さくする必要がないときには,固化体同士の間隔をより大きくし,固化体同士をオーバーラップさせる割合を少なくするものである。本願発明においては,本願明細書における「砂地盤の改良率を適正な値に設定するためには,・・・削孔ピッチ及び薬液注入部材における薬液放出部のピッチを従来における約1mから2-4m程度に変更すべきである」(甲16号証【0008】)との記載から明らかなように,削孔ピッチ及び薬液注入部材における薬液放出部のピッチを従来より大きくすることにより,改良率を従来より小さくすることが開示されている。このように,引用発明と本願発明とは,いずれも改良率を小さくする(透水性を大きくする)ために固化体の間隔を大きくするものであり,各固化体の間隔調整による改良率(透水性)のコントロールという点で同じ発想のものであると解することができる。
そして,目的とする透水性の程度(改良率の程度)に応じて固化体の地盤中での間隔を適切なものに設計し・施工することは当業者が適宜行うものと認められ,本願発明の「改良率」を約70%迄に留まるようにすることもその範囲のものであり,格別困難な選択を行ったものではない,というべきである。審決が「刊行物に記載の発明において改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入することは当業者が適宜なし得ることである。」(審決書4頁24行〜25行)とした判断に誤りはない。
8 取消事由8(本願発明の顕著な効果の看過)について 原告らは,本願発明の優れた効果として,施工効率が良好であり,砂地盤の固化改良効果において従来のものに比し遜色がなく,液状化防止対策を経済的に実施することができる,という独特で顕著な効果を奏する,と主張する。
しかし,仮に,本願発明の改良率70%程度において従来の改良率100%のものと同程度の液状化防止対策が行えるという経済性が本願発明の効果であると認められるとしても,本願発明は,「改良率が約70%迄に留まるように薬液を注入する」との構成であるから,改良率70%未満のもの,例えば,改良率50%あるいは改良率30%のもので同様の効果が得られるかどうかは明らかではない。本願発明の効果が改良率70%の近辺においてのみ実現できる効果であるとすれば,本願発明の「約70%迄」との構成に含まれるものすべてにおける効果ではないから,それを本願発明の効果として主張することはできない。原告らの主張は採用し得ない。
9 取消事由9(本件補正を却下したことによる誤り)について 原告らは,本件補正却下決定は,審決と同様に,@本件補正発明と引用発明との一致点の認定の誤りによる相違点の看過,A本件補正発明と引用発明との相違点3の認定の誤りによる相違点の看過,B本件補正発明と引用発明との相違点4の認定の誤りによる相違点の看過,C本件補正発明と引用発明との相違点1についての判断の誤り,D本件補正発明と引用発明との相違点2についての判断の誤り,E本件補正発明と引用発明との相違点3についての判断の誤り,F本件補正発明と引用発明との相違点4についての判断の誤り,G本件補正発明の顕著な効果の看過,の各誤りを犯している,と主張する。
しかし,原告らが主張する各事由は,いずれも審決について主張された取消事由1ないし8と同旨であり,いずれも理由がないものであることは,上記のとおりである。本件補正却下決定について誤りがない以上,本件補正が認められないことを前提としてなされた,本願発明についての審決の要旨認定に誤りはない。
10 取消事由10(審理不尽)について 原告らは,審判請求の手続において,本願明細書の補正の機会と,面接の機会を与えてほしい旨を上申したのに,この申し出を無視されたことを審理不尽と主張している。
しかし,原告らが,審判手続において再度の補正手続をするためには,再度の拒絶理由の通知がされることが前提となるが,本件においては,再度の拒絶理由通知はなく,また,審判官の合議体において,再度の拒絶理由通知をすべき義務があったとも認めることはできない。
本件については,特許法162条の規定による前置審査において,審査官が平成13年7月23日に出願人ら代理人と面接をして,後日,出願人らにおいて補正案を作成するとの面接結果についての記録がある(甲21号証)。しかし,本件においては,その後審査官により特許査定がなされることはなく,被告は,平成13年12月7日付け審査前置解除通知により,審査前置を解除し,審判官の合議体が審判をする旨を原告らに通知した(甲23号証)。審判請求人ら(原告ら)は,平成13年12月19日付け上申書により,本願発明の特許請求の範囲の補正案を提出し,補正及び面談の機会を与えてほしいとの上申をしたが(甲25号証),審判官の合議体は,平成13年12月27日付けの審理終結通知を経て(甲26号証),審決をするに至ったものである。
原告らは,上記上申書による申し出が容れられなかったことをとらえて,審理不尽をいうが,本件において,審判官の合議体に,そのような補正及び面談の機会を与えなければならない義務はないから,これを与えなかったとしても,これをもって審理不尽の違法があるといえないことは明らかである。その他,本件の審判手続に審理不尽の違法があることは認められない。
11 結論 以上に検討したところによれば,原告らの主張する取消事由は,いずれも理由がないことが明らかであり,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告らの本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 瀬順久