関連審決 | 不服2002-19590 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 周知技術 / 機能の共通性 / 上位概念 / 着想 / 容易に想到(容易想到性) / 拒絶査定 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
459号
審決取消請求事件
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原告 X1 原告 X2 原告ら訴訟代理人弁護士 加藤静富,野末寿一,宮田逸江 同弁理士 入江一郎 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 神崎潔,藤井俊明,鈴木久雄,高橋泰史,大橋信彦 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/07/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告らの求めた裁判
「特許庁が不服2002-19590号事件について平成15年9月1日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
本件は,原告らが,後記本願発明の特許出願に対して拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明 出願人:原告ら 発明の名称:「自動車」 出願番号:特願2002-32972号 出願日:平成14年2月8日 (2) 本件手続 手続補正:平成14年2月12日 手続補正:平成14年7月22日 拒絶査定日:平成14年8月29日 審判請求日:平成14年10月8日(不服2002-19590号) 手続補正:平成14年10月28日 手続補正:平成15年2月14日 審決日:平成15年9月1日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成15年9月25日(原告らに対し) 2 本願発明の要旨(上記各手続補正後のもの。以下「本願発明」) ドアーミラを有する自動車であって,ドアガラスの内,運転者の略目線より上に位置する前記ドアガラスの全部分を紫外線の量に応じて自動的に調整する調光材料で形成し,前記運転者の略目線より下に位置する前記ドアガラスの部分に前記紫外線の量に応じて自動的に調整する調光材料を有せず,透明であることを特徴とする自動車。 3 審決の理由 審決は,別紙審決書写し記載のとおり,本願発明は,特開昭58-49514号公報(甲5,以下「引用例」)に記載された発明(以下「引用発明」)に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。なお,以下,特開昭52-51412号公報 (甲6)を「周知例1」,特開昭52-98541号公報 (甲7)を「周知例2」,特開昭59-167323号公報(甲8)を「周知例3」,実願昭63-43757号(実開平1-145816号)のマイクロフィルム (甲9)を「周知例4」,特開昭64-24740号公報(甲10)を「周知例5」という。 |
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原告らの主張の要点
審決は,引用発明の認定を誤り,本願発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),相違点2の認定判断を誤り(取消事由2),相違点3の認定判断を誤り(取消事由3)その結果,本願発明の進歩性を誤って否定したものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用発明認定の誤り,一致点認定の誤り) (1) 審決は,引用例の「調光カラー部」の作用に関する記載は,実質上,光透過量を調節することを開示した記載と解し得ると認定したが,これは,引用例が開示している事実の範囲を超えて認定したもので,誤りであり,このような誤った引用発明の認定に基づく一致点の認定もまた誤りである。 そもそも引用例記載の「調光カラー部」なる語は,技術用語として当該技術分野において一般的に使われているものではないので,その内容は,引用例の明細書の記載により解釈するほかないところ,同明細書には,「調光カラー部4は,明るい所ではフィルター作用を行うと共に暗い所ではフィルターの作用を停止し通常の無着色透明ガラスの作用を行う」(1頁右欄9行〜12行)と記載され,フィルター作用をするか(ON),しないか(OFF)のいずれかしかない技術の開示がされているにすぎない。これに対し,本願発明は,直射日光の強弱に応じて光透過量を無段階にほどよく調節する技術であるから,ONとOFFしかない引用発明の技術とは別種のものである。 しかるに,審決は,引用例の「調光カラー部」は光透過量を調節する作用を有すると認定しており,これは引用例が開示している事実の範囲を超えて認定したものである。 (2) また,審決は,引用例の「窓ガラス」の上端に沿って帯状に設けられた「着色部」が,「調光カラー部」とともに,直射日光に対してフィルター作用を行う光透過量調節手段を構成していると認定しているが,これも誤りである。 すなわち,引用例の「着色部」は,審決も認めるとおり,光透過量を常時一定量制限するのみで,調節する機能は持たない。それゆえ,「着色部」は,それ自身「光透過量調節手段」となり得ず,その構成部分にもなり得ない。そして,上記のとおり,引用例の「調光カラー部」に関する記載には光透過量をほどよく調える機能は開示されていないのであるから,「着色部」と「調光カラー部」を組み合わせても,直射日光の強弱に応じて光透過量を無段階にほどよく調節する機能は持ち得ない。 しかるに,審決は,作用の全く異なる「着色部」と「調光カラー部」を一括りにし,引用例に記載されていない「光透過量調節手段」なる独自の概念を作り上げたものであり,誤りである。 2 取消事由2(相違点2の認定判断の誤り) (1) 審決は,周知例3ないし5を挙げ,自動車用ドアガラスにおける,光透過量調節手段を施す部分の全体を,光透過量を可変とする部材で形成することは,当該技術分野において通常採用されている構成であると認定している。 しかしながら,周知例3には,ガラス板間の極小間隙に電圧を加えると半透明になる液晶を封入した遮光シートを側方窓の上方に設けることが,周知例4には,ドアガラスの上方に液晶からなる減光部を設けることが,また周知例5には,自動車のフロントガラス,リアガラスの遮光ガラスとして板ガラスと板ガラスの間に部分的にフォトクロミック材料を含有する中間樹脂膜を位置させたものを設けることが,記載されているだけであり,その上位概念としての「光透過量調節手段」なる記載はどこにも存在しない。 このように,周知例に記載されていない上位概念が記載されていると認定することは誤りである。 (2) また,審決は,「引用発明では,『調光カラー部』と『着色部』との価格の相違等,なんらかの事情を考慮して,あえて両者を併用したものと解されるが,そのような事情を考慮しなくてもよいというのであれば,引用発明においても,光透過量調節手段を施す部分の全体を,上記の周知例に示されているような,<紫外線の量に応じて(光透過率を)自動的に調整する>ものとして,上記相違点2で指摘した本願発明と同様の構成にすることは格別困難とはいえない。」(審決書4頁32行〜38行)と説示している。 しかしながら,引用発明は,何らかの事情ないし意図の下に,あえて「着色部」の下に「調光カラー部」を設けた構成にしたのであるから,「そのような事情を考慮しなくてもよいというのであれば」などと勝手にその前提を覆した上で,引用例と周知例を結びつけることは論理的に許されず,引用例からは光透過量の調節を行う部分全体を「調光カラー部」にするという着想は容易には出てこない。 審決は,引用例及び周知例3ないし5記載の技術を引用例及び同各周知例に記載されていない「光透過量調節手段」なる上位概念で把握する誤りを犯したが,これは引用例の「調光カラー部」の材料を周知例1,2,5のフォトクロミックス材料と強引に結びつけて,本願発明が引用発明から容易に想到できるとの結論を導き出すためである。しかし,本来比較されるべきは,本願発明の構成と引用例及び各周知例の具体的な記載内容とであり,審決にはかかる比較をした上で本願発明が引用発明から容易に想到できるとの論理は示されていない。 3 取消事由3(相違点3の認定判断の誤り) (1) 審決は,「調光カラー部」の下端の位置に関して,「運転者の略目線」に近い位置にまで及んでいるのが望ましいとした上で,ドアガラスの光透過量調節手段を施す上部と,これを施すことなく透明にする下部とを,「運転者の略目線」を基準として区分することになるのは,ほぼ必然の結果ということができ,このような区分の基準に想到するのが特段の困難を伴うとも認められないと判断したが,誤りである。 (2) すなわち,引用発明では,ドアガラスの上端に沿う帯状の「着色部」の下端に同じく帯状の「調光カラー部」を設けた構成となっているが,これらは運転者の「視野を狭くすることなく」(引用例1頁左下欄17行)設けられるものであるから,もともと「調光カラー部」自体の幅はあまり広くとることはできない。「運転者の略目線」の位置よりも上方全体について「着色部」と「調光カラー部」によるフィルター作用を持たせることは,まさに前方の視野を狭めることになり,運転者,対向車,歩行者等にとり危険である。 実際のところ,引用例の図面でも「調光カラー部」の幅は「着色部」の幅よりも狭く描かれ,両者を併せてもガラスの上端に沿った細い帯状のものが描かれているにすぎない。このことは,自動車のフロントガラスの全面に着色することが法律で規制され,上部の縁部分のみに遮光のための着色が認められていることとも符合する。 (3) そうすると,引用例が全く示唆していないにもかかわらず,審決が,引用例の「調光カラー部」の下端は「運転者の略目線」に近い位置まで及んでいるのが望ましいと認定したのは,甚だ強引で説得力を欠くというべきであり,「調光カラー部」の下端の位置が「運転者の略目線」を基準として区分することになるのはほぼ必然の結果といえる,との審決の認定は,全く根拠のないものである。 |
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被告の主張の要点
以下のとおり,審決の認定判断は正当であり,原告ら主張の取消事由はいずれも存在しない。 1 取消事由1(引用発明認定の誤り,一致点認定の誤り)に対して (1) 原告らは,引用例の「調光カラー部」は,フィルター作用をするかしないかのもの,すなわち,ONとOFFのいずれかの態様しかとらないもの,と主張するが,「調光」という用語は,通常は,日光の強弱等に応じて,光透過量を無段階に調節するという意味を含むものである。したがって,引用例の「調光カラー部」においては,フィルター作用を行う状態と停止する状態との中間の状態(光透過量を変化させる状態)が存在することは明らかであり,引用例はその説明を省略しているにすぎない。 しかも,審決は,引用例の「調光カラー部」の作用に関し,光透過量を調節するものと認定しているが,直射日光の強弱に応じて光透過量を無段階に調節すると記載したわけではない。審決は,相違点2として,引用例には「『調光カラー部』が『紫外線の量に応じて自動的に調整』するものであるか否かについては言及されていない点」(4頁10行〜11行)を挙げている。仮に,「調光カラー部」が,原告らの主張するとおり,フィルター作用をするかしないかのいずれかであるとしても,それも「調整」という概念に含み得ると解すべきである。 したがって,「調光カラー部」が実質上光透過量を調節する作用を有するとの審決の認定に誤りはない。 (2) また,原告らは,審決は,引用例の「着色部」と「調光カラー部」を一括りにして,引用例に記載されていない「光透過量調節手段」なる独自の概念を作り上げたものであると主張する。 確かに,引用例の「着色部」がそれ自体で光透過量調節手段たり得ないことについては被告も争わない。しかしながら,上記のとおり,「調光カラー部」は日光の強弱に応じて光透過量を調節する機能を有すると理解するのが素直であり,その結果,「着色部」と「調光カラー部」とを併せた部分の光透過量は調節されることになる。また,通常のフィルター作用を行う「着色部」と,直射日光に対してはフィルター作用を行う「調光カラー部」とは,少なくとも明るい所でのフィルター作用に共通性があることは明らかで,かかる機能の共通性に着目して,上記二つの部分をまとめて「光透過量調節手段」と認定したことは妥当である。 その上で,審決は,本願発明では光透過量調節手段の全部分を紫外線の量に応じて自動的に調節する調光材料で形成するのに対し,引用発明は「調光カラー部」と「着色部」とを併用していること,及び「調光カラー部」が紫外線の量に応じて自動的に調節するものであるか否かについて言及されていないことを,相違点として指摘し,この点について検討しているのである。 したがって,「着色部」が「調光カラー部」とともに光透過量調節手段を構成するとした審決には事実誤認の違法はない。 2 取消事由2(相違点2の認定判断の誤り)に対して (1) 原告らは,周知例には「光透過量調節手段」なる上位概念は記載されていない旨指摘するところ,確かに,原告らの指摘するとおり,各周知例には,「光透過量調節手段」という語句が,全く同じ表現形態をとって記載されているわけではない。しかしながら,いずれの周知例にも,液晶あるいはフォトクロミック材料などを用いて,光の透過量を調節する技術が開示されていることは明らかであり,審決はかかる手段の共通性に着目して「光透過量調節手段」と表現しているのであって,審決に誤りはない。 (2) また,原告らは,審決が,引用発明で「調光カラー部」と「着色部」が併用されている「事情を考慮しなくてもよいというのであれば」とした点について,勝手に前提を覆したものであり,引用例からは光透過量の調節を行う部分全体を「調光カラー部」にするという発想は容易に出てこないと主張するが,審決の上記説示は,引用例に各周知例で開示されている構成の採用を妨げるべき特段の事情が見当たらないとの趣旨にすぎず,原告らが主張するように前提を覆した上で無理な論理を構築しているものではない。 そもそも,自動車のドアガラスにおける光透過量調節手段を施す部分の全体を光透過量を可変とする部材で形成すること,あるいは,自動車のドアガラスのうちその上部全体を光透過量を可変とする部材で形成することは,周知例3,4に見られるように当該技術分野において普通に採用されている構成であり,また,紫外線の量に応じて光透過量を自動的に調節することも,同じく周知例1,2,5に見られるように,光透過量調節手段として普通に採用されている技術である。 したがって,引用例において,光透過量調節手段を施す部分の全体(ドアガラスの上部全体)を,周知例1,2,5に示されているような,紫外線の量に応じて光透過量を自動的に調節する調光材料で構成して,本願発明と同様の構成にすることは格別困難とはいえず,審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3(相違点3の認定判断の誤り)に対して (1) 原告らは,引用例の「調光カラー部」の下端の位置が「運転者の略目線」を基準として区分することになるのは,ほぼ必然の結果といえる,との審決の認定は,全く根拠のないものであると主張する。 (2) しかしながら,引用例には,「乗物の窓には外の景色を見え易くするため透明ガラスが用いられているが,窓ガラスを透明体とした場合日光が車内の人に当り易くなり目に刺激を与え易くなる。」(1頁左下欄11行〜14行)との記載があり,「調光カラー部」のフィルター作用の主要な目的が,直射日光が車内の人の目に入らないようにして,運転操作を容易にするとともに居住性を向上させることにあることが開示されている。 また,早朝や夕暮れ時には,直射日光が水平状態にかなり近い角度で前方ないし側方から照射して車内の人の目に入り,運転操作や居住性を損なう場合があることは,通常,日常的に経験するところである。 このような日常的な経験と引用例の示唆に照らせば,直射日光が車内の人の目に入らないようにするため,フィルター作用をする「調光カラー部」の下端は「運転者の略目線」に近い位置にまで及んでいるのが望ましいとすることは,極めて自然である。 審決は,確かに,「調光カラー部」の下端は,可及的に上方に位置する必要性があると説示しているが,この点のみを独立の条件として挙げているのではなく,「調光カラー部」の下端は「運転者の略目線」に近い位置にまで及んでいるのが望ましいという点も考慮した上で,「運転者の略目線」を基準として区分することになるのはほぼ必然の結果としているのであり,前者の必要性のみを取り上げて容易想到性の問題を論じるのは審決の適切な理解の仕方とはいえない。 (3) 以上によれば,「調光カラー部」の下端の位置について,「運転者の略目線」を基準として区分することになるのはほぼ必然の結果といえるとした審決の認定判断には,十分な根拠がある。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明認定の誤り,一致点認定の誤り)について 原告らは,審決には,引用発明認定の誤り及び一致点認定の誤りがあると主張するので,判断する。 (1) 原告らは,審決が,引用例の「調光カラー部」について,実質上,光透過量を調節することを開示した記載と解し得ると認定したのは,引用例が開示している事実の範囲を超えて認定したもので,誤りであり,また,審決が,これに基づいて,本願発明と引用発明の一致点を,光透過量を調節する調光材料で形成した部分を含む光透過量調節手段をドアガラスの上部に施した点であると認定したのも誤りである,と主張する。 確かに,引用例には,「調光カラー部」について,「明るい所ではフィルター作用を行うと共に暗い所ではフィルターの作用を停止し通常の無着色透明ガラスの作用を行う。」(1頁右下欄10〜12行)との記載がされているが,同記載からは,「調光カラー部」が明るい所で「フィルター作用」を行うことは認められるものの,それ以上の「フィルター作用」の具体的内容は明らかでない。 しかしながら,引用例においては,「フィルター作用」を行う「調光カラー部」とともに「通常のフィルター作用」を行う「着色部」が設けられており,「調光カラー部」の「フィルター作用」は,「着色部」の「通常のフィルター作用」とは異なることが当然の前提となっている。このうち,「着色部」が光透過量を常時一定量制限する作用を行うことは当事者間に争いがない。そして,「調光カラー部」が外部の明又は暗に応じてフィルター作用を行い又はこれを行わないことは引用例に記載のとおりであり,これに「調光」(光を調える)という用語の通常の意味内容も併せ考慮すれば,「調光カラー部」はドアガラスの透過光量を調節する作用を有すると理解するのが自然である。 実際のところ,周知例1及び2によれば,引用発明の出願時,日光による変色に基づいて光の透過量を自動的に調節する作用を有するフォトクロミック材料によるガラスは周知であったと認められる。すなわち,周知例1には,「ホトクロミック(判決注:フォトクロミックの意)性レンズは・・・ホトクロミック効果の可逆性のため・・・紫外線又は青色光線に曝露されると透過性が低くなるが,活性化放射線の照射レベルが低い環境では高透過性を回復する。」(4頁左上欄12〜17行),「永久着色,又は永久染色眼鏡レンズは照明レベルが低い場合,即ち幾分暗い環境で使用する場合には光の透過率が低い欠点がある。・・・この欠点は市販のホトクロミック性を有する・・・ガラス又はプラスチックレンズでもある程度は克服できる。」(3頁左上欄6〜12行)などと記載され,周知例2にも同旨の記載がある。これによれば,引用発明の出願時,フォトクロミック材料を使ったガラスを利用することにより光の透過量を自動的に調節する技術は既に周知であったものと認められる。 以上の検討の結果からすると,引用例の「調光カラー部」は光透過量を調節する作用を行うものと認定するのが相当である。 この点について,原告らは,「調光カラー部」は明るい所ではフィルター作用を行い,暗い所ではフィルター作用を停止するもので,光透過量をほどよく無段階に調節するものではないと主張する。しかしながら,審決は,「調光カラー部」が光透過量を自動的にほどよく調節する作用と有するとまでは認定していない。そして,「調光カラー部」の「フィルター作用」が光透過量を調節する作用を有すると認定すべきであることは上記のとおりである。 以上によれば,審決が引用例の「調光カラー部」について光透過量を調節することを開示した記載であると認定した点に誤りはない。 (2) また,原告らは,「着色部」が「調光カラー部」とともに直射日光に対してフィルター作用を行う光透過量調節手段を構成していると審決が認定したのは誤りであると主張する。 しかしながら,「着色部」がドアガラスの上端に沿って帯状に設けられ,その下端に沿って「調光カラー部」が同じく帯状に設けられることによって,両部分は一体となって遮光装置としての機能を果たしていると認められるところ,確かに「着色部」は単独では光透過量を無段階に調節する機能を有しないが,上記(1)判示のとおり「調光カラー部」は光透過量を調節する作用を有すると認められるのであるから,光透過量を常時一定量制限する「着色部」と光透過量を調節する「調光カラー部」は,一体となって,自動車のドアガラスを透過する光量を調節する作用を行っていると評価することができる。したがって,「着色部」が「調光カラー部」とともに「光透過量調節手段」を構成しているとした審決の認定に誤りはない。 (3) 以上によれば,原告らの主張する取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点2の認定判断の誤り)について 原告らは,相違点2についての進歩性を否定した審決の認定判断は誤りであると主張するので,判断する。 (1) 審決は,相違点2を「ドアガラスの上部に施す光透過量調節手段に関して、 本願発明では『全部分を紫外線の量に応じて自動的に調整する調光材料で形成』するのに対し、引用発明では、『調光カラー部』(調光材料で形成される部分)に加えて、(光透過率を)調整する機能をもたない『着色部』を併用するものであって、また、上記調光カラー部が『紫外線の量に応じて自動的に調整』するものであるか否かについては言及されていない点」(4頁6行〜11行)と認定した。 (2) その上で,審決は,相違点2について,@周知例3ないし5によれば,自動車用ドアガラスにおける、光透過量調節手段を施す部分の全体を、光透過量を可変とする部材で形成することは、当該技術分野において通常採用されている構成といえる,A周知例1,2,5によれば,紫外線の量に応じて光透過量を自動的に調節することは、極めて普通に採用されている光透過量調節手段といえる,Bそうすると、引用発明では、「調光カラー部」と「着色部」との価格の相違等の事情を考慮して、あえて両者を併用したものと解されるが、そのような事情を考慮しなくてもよいというのであれば、引用発明を本願発明と同様の構成にすることは格別困難とはいえない,として本願発明の進歩性を否定した。 (3) これに対し,原告らは,審決の判断は,まず,周知例3ないし5記載の周知技術がそれぞれ異なるにもかかわらず,これらの周知技術をそのいずれの周知例にも記載のない「光透過量調節手段」なる上位概念で一括りにしたことは誤りであると主張する。 しかしながら,周知例3におけるガラス板間の極小間隙に封入され,電圧を加えると半透明になる透明遮光シート,周知例4における上下に階層をなす液晶素子体群で構成され指示スイッチの指示により透過光量を減ずる防眩装置,周知例5における板ガラスと板ガラスの間に設けられる少なくとも部分的にフォトクロミック材料を含有する中間樹脂膜は,いずれもドアガラスを透過する光の量を調節する手段であることは明らかであり,同各周知例において「光透過量調節手段」という用語自体は使われていないものの,その機能に照らし「光透過量調節手段」と表現し得るものである。 したがって,審決が,周知例3ないし5の装置等の共通性を「光透過量調節手段」と表現したことに誤りはない。 (4) 次に,原告らは,引用例が「着色部」と「調光カラー部」をあえて設けているのであるから,引用発明からは光透過量の調節を行う部分全体を「調光カラー部」にするという着想は容易には出てこないはずであるにもかかわらず,審決は引用例が両部分を併用した事情を「考慮しなくてもよいというのであれば」などとして,その前提を勝手に覆した上で進歩性の判断をしたのは違法であると主張する。 そこで,まず,引用例が「着色部」と「調光カラー部」を設けた理由について検討する。 引用例には,光量にかかわらず一定量の透過を制限する「着色部」と光量に応じて光透過量を調節する「調光カラー部」を併せて設けた理由は記載されていない。 しかしながら,一般に,ドアガラスの上部になればなるほど前方の視界確保の必要性は低くなるのであるから,ドアガラス上縁に近い部分に遮光効果をより重視した光透過量調節手段を設けることが可能になることは自明の理である。 周知例5においても,「フォトクロミック材料の濃度は縁部ほど高く中央部に向かうほど低く構成すれば,従来の染料などにより着色された遮光ガラスと同様に,太陽光を遮光して眩しさ,暑さを防止するとともに,中央部から他方の縁部は無色透明であるため視界を良好に維持し,外界の色の識別が確実である」(3頁左下欄4行〜10行)と記載され,ドアガラスの上部領域では,防眩が重視され,下部領域では,視界を良好にすることが重視されている。 そうすると,引用例の「調光カラー部」は,ドアガラスの上部の下方に位置することから,視界を良好にすることを主眼として設けられたものであり,「着色部」は,ドアガラス上部の周辺部に位置することから,遮光性を重視して設けられたものであると理解するのが自然である。 このように,引用例の「着色部」は遮光性を重視して設けられていると理解することができるので,「着色部」が設けられたドアガラスの上縁に近い部分について高い遮光性を期待しないのであれば,引用例においても,光透過量調節手段を施す部分の全体を「調光カラー部」とすることに格別困難はなかったと認められる。 なお,審決の「そのような事情を考慮しなくてもよいというのであれば」との説示は,「着色部」併用の事情を検討し,それが本願発明の容易想到性の判断に実質的な影響を与える性質のものではないという判断を示したものと解され,その判断の過程に格別不当な点は見当たらない。 (5) そもそも,周知例3では,自動車のドアガラスにおいて,電圧を加えると半透明になる遮光シートとしての液晶を遮光しようとする区画全体に封入し,スイッチ操作により当該区画を透過する光量を調節する技術が開示されており,周知例4では,自動車のドアガラス上部に沿って液晶素子体群からなる減光部を設け,スイッチ操作により当該部分の透過光量を調節する技術が開示されている。同各周知例においては,いずれも,自動車のドアガラスのうち遮光する部分全体に光透過量調節手段が施されてあり,このような技術は,本願発明の出願当時,周知となっていたと認めることができる。 (6) また,周知例1及び2では,上記判示のとおり,フォトクロミック効果の可逆性のため,紫外線又は青色光線に暴露されると透過率が低くなるが,活性化放射線の照射レベルが低い環境では高透過率を回復するフォトクロミック性レンズが開示されており,同各周知例にはフォトクロミック性ガラスが市販されている旨の指摘がある。また,周知例5では,フォトクロミック材料が濃度分布を有して含有される中間樹脂膜によって光透過量を調節する技術が開示されている。これらの周知例によれば,本願出願当時,紫外線の量に応じて光透過量を自動的に調節する材料が,自動車のドアガラスなどの光透過量の調節手段として一般的に採用されていたということができる。 (7) 以上のとおり,本願発明出願当時,自動車のドアガラスのうち,光透過量を調節しようとする部分全体に光透過量調節手段を設けること,及び,光透過量調節手段として紫外線の量に応じて光透過量を自動的に調節する部材を利用することは,いずれも周知技術であり,引用例においても「着色部」と「調光カラー部」を併用する代わりに「調光カラー部」のみを設けることは技術的に格別に困難ではなかったのであるから,こうした引用発明及び周知技術から,本願発明の上記構成を想到することは容易であったというべきである。 (8) したがって,原告らの主張する取消事由2も理由がない。 3 取消事由3(相違点3の認定判断の誤り)について 原告らは,審決の相違点3についての認定判断は誤りであると主張するので,判断する。 (1) 審決は,相違点3を「ドアガラスの光透過量調節手段を施す上部と,同じく施すことなく透明にする下部とを,本願発明では,『運転者の略目線』を基準として区分しているが,引用例にはこのような区分の基準についての言及がない点」(4頁13行〜15行)と認定し,その上で,早朝や夕暮れ時には,直射日光が水平状態にかなり近い角度で照射する場合もあり得ることを考慮すれば,引用例の「調光カラー部」の下端は「運転者の略目線」に近い位置にまで及んでいるのが望ましいが,他方,視界を確保及び安全性の維持の見地からは「調光カラー部」の下端は,可及的に上方に位置する必要性もあり,この2つの条件のいずれをも満たすためには,ドアガラスの光透過量調節手段を施す上部と,同じく施すことなく透明にする下部とを,「運転者の略目線」を基準として区分することになるのは,ほぼ必然の結果といえるし,このような区分の基準に想到するのが特段の困難を伴うこととも認められない,と判断した。 (2) これに対し,原告らは,審決が,引用例の「調光カラー部」の下端は「運転者の略目線」に近い位置まで及んでいるのが望ましいと認定したのは強引で説得力を欠き,また「調光カラー部」の下端の位置が「運転者の略目線」を基準として区分するのは必然の結果といえるとしたのも全く根拠のないものであると主張する。 (3) そこで,検討する。 ア 引用例には,「視界を狭くすることなくかつ直射日光に対してはフィルター作用を行いしかも薄暗い所や夜間ではフィルター作用を伴わない窓ガラスを提供しようとするもの」(1頁左下欄17行〜右下欄2行)との記載がある。すなわち,引用発明の目的は,視界の確保という要請と十分な遮光という要請を両立させて,運転操作の容易化と居住性の向上を図ることにあると理解することができる。 イ 引用例記載の「調光カラー部」の下端の位置については,引用例には明確な記載はない。しかし,「調光カラー部」が運転者の目に入る光量を調節するものである以上,引用例には明示的な記載はないとしても,「調光カラー部」の下端を定める上で,運転者の目線の高さと日光の入射角が重要な考慮要因となるのは自明の理である。周知例4でも「運転者と助手席の乗員とのアイポイントの高さが異なっている場合や,道路状況等によって運転席と助手席とに入射光の入射状態に差がある場合に,減光部の減光領域を運転席側と助手席側とで別異に設定して各々の最適状態を得ることができる。」(9頁12行〜17行)との記載がされており,アイポイント(目線の高さ)と入射状態が減光領域を定める上で重要であることが示唆されている。 ウ また,自動車を運転する際,水平線近くから入射する日光が目に入って運転操作に支障が生じることがあることは,日常的に経験することである。周知例3にも「水平線近傍の朝日や夕日はこの種の日よけ装置(a)では遮光することができない欠点を有していた」(1頁右下5行〜6行)との記載があり,周知例4には,「朝夕の太陽光などのように入射光の入射角度が小さい場合には,指示スイッチ部15の所望のスイッチボタンに触れればよい。」(7頁16行〜18行)との記載があり,自動車を運転する上で水平線近くから入射する日光を遮断することが重要な課題であることが指摘されている。 エ このように,自動車のドアガラスに光透過量調節手段を設ける範囲については,目線の高さと入射角が重要となるところ,水平線近くから入射する朝日や夕日が目に入るのを遮るためには,光透過量調節手段がドアガラスの「運転者の略目線」まで及んでいることが望ましいことは論理的な帰結である。したがって,審決が,ドアガラスの光透過量調節手段を施す上部と,同じく施すことなく透明にする下部とを,「運転者の略目線」を基準として区分することになるのはほぼ必然の結果といえるとしたことは正当というべきである。 オ これに対し,原告らは,引用例の「調光カラー部」は視野を狭くしないために設けるものであることを前提に,その幅をあまり広くとることができないと主張しているが,これは引用例の「調光カラー部」の目的のうち,視界の確保のみを強調するもので,引用発明の目的を正解しないものである。 また,原告らは,引用例の図面でも「調光カラー部」の幅は「着色部」の幅よりも狭く描かれ,両者を併せてもガラスの上端に沿った細い帯状のものが描かれているにすぎないと指摘する。確かに,引用例の図面からは「調光カラー部」の下端の位置ははっきりしないが,明らかに「運転者の略目線」より上方に位置するとは認められず,上記判示のとおり,その位置は「運転者の略目線」が基準になっていると理解するのが自然である。 さらに,原告らは,自動車のフロントガラス等の全面に着色することを法律が規制していることに言及しているが,本願発明も引用発明もフロントガラス等の全面に光透過量調節手段を設けるものではないから,この点は取消事由3の判断に何ら影響を及ぼすようなものではない。 (4) 以上のとおり,ドアガラスの光透過量調節手段を施す上部と,これを施すことなく透明にする下部とを,「運転者の略目線」を基準として区分することになるのは,ほぼ必然の結果ということができ,その進歩性を否定した審決の判断が誤りということはできない。原告ら主張の取消事由3は理由がない。 4 結論 原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がないので,原告らの請求は棄却することとする。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 田中昌利 |
裁判官 | 佐藤達文 |