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事件 平成 26年 (行ケ) 10025号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年11月27日判決言渡

平成26年(行ケ)第10025号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年10月28日

判 決



原 告 株 式 会 社 ト プ コ ン



訴訟代理人弁理士 三 澤 正 義

同 榎 並 智 和

同 北 上 日 出 登



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 信 田 昌 男

同 森 林 克 郎

同 相 崎 裕 恒

同 堀 内 仁 子

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が不服2012−20825号事件について平成25年12月10日に

した審決を取り消す。

第2 前提事実

1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。)

原告は,発明の名称を「眼底観察装置」とする発明につき,平成18年1月1




0日を出願日とする特許出願(特願2006−3065号。以下,「本願」とい

う。)をしたが,平成24年7月12日付けで拒絶査定を受けたため,同年10月

23日付けで拒絶査定に対する不服の審判(不服2012−20825号)を請求

するとともに,同日付けの手続補正書により,特許請求の範囲等についての補正を

行った(以下「本件補正」という。。


特許庁は,平成25年12月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との

審決をし,その謄本を,同月24日,原告に送達した。

2 特許請求の範囲の記載

本件補正後の本願の特許請求の範囲(請求項の数は1である。)の請求項1の記

載は,以下のとおりである(甲8。以下,同請求項に記載された発明を「本願発

明」という。また,本件補正後の本願の明細書及び図面を併せて「本願明細書」と

いう。。


「【請求項1】

被検眼の眼底に照明光を照射する照明光学系と,前記眼底を経由した照明光を第

1の検出手段により検出する撮影光学系とを有し,該第1の検出手段による検出結

果に基づいて前記眼底の表面の2次元画像を形成する第1の画像形成手段と,

前記照明光とは異なる波長の光を出力する光源と,該光源から出力された前記光

を前記眼底に向かう信号光と参照物体に向かう参照光とに分割し,前記眼底を経由

した信号光と前記参照物体を経由した参照光とを重畳させて干渉光を生成する干渉

光生成手段と,該生成された干渉光を検出する第2の検出手段とを有し,該第2の

検出手段による検出結果に基づきフーリエドメインOCTの手法を用いて前記眼底

の断層画像を形成する第2の画像形成手段と,

前記撮影光学系により形成される撮影光路と前記眼底に向かう信号光の光路とを

合成するとともに,前記撮影光路と前記眼底を経由した信号光の光路とを分離する

光路合成分離手段と,

固視標を表示する手段を含み,該表示された固視標を前記眼底に投影する手段と,




を備え,

前記撮影光路に前記合成された前記信号光は,前記撮影光路を介して前記眼底に

照射され,

前記撮影光路から前記分離された前記信号光は,前記干渉光生成手段により前記

参照光と前記重畳され,

前記第2の画像形成手段は,

前記光路合成分離手段よりも前記第2の検出手段側に設けられ,前記固視標が投

影された前記眼底上において前記信号光を主走査方向及びこれに直交する副走査方

向に走査する一対のガルバノミラーを有し,

前記第1の画像形成手段による前記2次元画像の形成と同時に行われる前記主走

査方向及び前記副走査方向の走査に基づいて複数の前記断層画像を形成し,該複数

の断層画像に基づいて3次元画像を形成する,

ことを特徴とする眼底観察装置。」

3 審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願出

願前に頒布された特開平10−33484号公報(甲1。以下「刊行物1」とい

う。)に記載された発明(以下「引用発明」という。 ,国際公開2005/040


718号(以下「刊行物2」という。)に記載された技術(以下「刊行物2発明」

という。)並びに特開2005−300655号公報(甲3。以下「刊行物3」と

いう。)及び特開2003−185927号公報(甲4。以下「刊行物4」とい

う。)に記載された常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたも

のであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないという

ものである。

審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は以

下のとおりである。

(1) 引用発明の内容




「対物レンズ100と,孔あきミラー200’と,リレーレンズ300と,撮影

光源500と,観察光源600と,合焦レンズ700と,結像レンズ800と,ダ

イクロイックミラー900と,撮像手段950とから構成されている眼底カメラの

光学系30000Cを備え,

第1のダイクロイックミラー910で反射された800nm近傍の波長の光は,

第2のダイクロイックミラー920に入射され,第2のダイクロイックミラー92

0を透過した800nm近傍の近赤外光は,赤外感度のCCDセンサー954上に

結像され,そしてCCDセンサー954で得られた眼底画像信号は,モニター装置

952でモニターすることができ,

コヒーレンス長の短い20nm以下程度,例えば840nmの光源1000から

光を導くための第1のファイバー5100と,

第1のファイバー5100からの光を参照用光ファイバー5300と測定用光フ

ァイバー5200とに分岐するためのものであり,測定対象物20000から反射

され測定用光ファイバー5200により導かれた光と,参照ミラー2000から反

射され参照用光ファイバー5300に導かれた光とを合成して,検出用光ファイバ

ー5400に導く機能も有している分波器3000とを備え,

そして,測定用光ファイバー5200による測定反射光束と,参照用光ファイバ

ー5300の参照反射光束とは合成して干渉され,受光器4000に導かれ,

第2のダイクロイックミラー920は,840nm近傍の波長を反射させ,光フ

ァイバー921を介して,光干渉測定用光学ユニット10000の測定用光ファイ

バー5200に至る様に構成されており,

測定用光ファイバー5200は,走査制御部6600により一次元或いは二次元

的に移動走査され,眼底上で測定用光束は移動し,各測定点で干渉測定が行われ,

測定対象眼内の測定対象部分の断面画像信号を形成し,眼底部の一次元或いは二

次元的な断面像を得る眼底カメラ。」

(2) 一致点




「被検眼の眼底に照明光を照射する照明光学系と,前記眼底を経由した照明光を

第1の検出手段により検出する撮影光学系とを有し,該第1の検出手段による検出

結果に基づいて前記眼底の表面の2次元画像を形成する第1の画像形成手段と,

前記照明光とは異なる波長の光を出力する光源と,該光源から出力された前記光

を前記眼底に向かう信号光と参照物体に向かう参照光とに分割し,前記眼底を経由

した信号光と前記参照物体を経由した参照光とを重畳させて干渉光を生成する干渉

光生成手段と,該生成された干渉光を検出する第2の検出手段とを有し,該第2の

検出手段による検出結果に基づきOCTの手法を用いて前記眼底の断層画像を形成

する第2の画像形成手段と,

前記撮影光学系により形成される撮影光路と前記眼底に向かう信号光の光路とを

合成するとともに,前記撮影光路と前記眼底を経由した信号光の光路とを分離する

光路合成分離手段と,

固視標を表示する手段を含み,該表示された固視標を前記眼底に投影する手段と,

を備え,

前記撮影光路に前記合成された前記信号光は,前記撮影光路を介して前記眼底に照

射され,

前記撮影光路から前記分離された前記信号光は,前記干渉光生成手段により前記

参照光と前記重畳され,

前記第2の画像形成手段は,

前記固視標が投影された前記眼底上において前記信号光を主走査方向に走査する手

段を備え,

前記第1の画像形成手段による前記2次元画像の形成と同時に行われる前記主走

査方向の走査に基づいて前記断層画像を形成する眼底観察装置。」である点。

(3) 相違点

「OCTの手法について,本願発明では,フーリエドメインOCTの手法であり,

前記光路合成分離手段よりも前記第2の検出手段側に設けられ,前記信号光を主




走査方向及びこれに直交する副走査方向に走査する一対のガルバノミラーを有し,

主走査方向及び前記副走査方向の走査に基づいて複数の前記断層画像を形成し,

該複数の断層画像に基づいて3次元画像を形成する,のに対して,

引用発明は,タイムドメインOCTの手法であり,

前記固視標が投影された前記眼底上において前記信号光を一次元或いは二次元的に

移動走査する手段を有し,

前記第1の画像形成手段による前記2次元画像の形成と同時に行われる前記一次

元或いは二次元的な移動走査に基づいて前記断層画像を形成するが3次元画像は形

成しない点。」

第3 原告主張の取消事由

1 取消事由1(一致点の認定の誤り)

(1) 固視標について

審決は,引用発明と本願発明の一致点として,「固視標を表示する手段を含み,

該表示された固視標を前記眼底に投影する手段」を備える点を認定した。

しかし,引用発明は刊行物1の第3実施例(以下,単に「第3実施例」とい

う。)であって,刊行物1には,「その他の第3実施例の構成,作用等は,上述の第

実施例及び第2実施例と同様である」 【0075】
( )と記載されているところ,

刊行物1の第1実施例(以下,単に「第1実施例」という。)の「固視標960か

らの光束は,第2のダイクロイックミラー920を透過し,第1のダイクロイック

ミラー910により反射され,被検眼に向け投影する」 【0053】
( )との構成を,

第3実施例の図4の光学系に単純に適用した場合,CCDセンサー954が固視標

960と物理的に干渉するか,第2のダイクロイックミラー920が可視光と近赤

外光と赤外光とを分離する必要が生ずる構成となり,刊行物1には,これらを解消

する手段について開示されているとはいえない。

したがって,引用発明が「固視標を表示する手段を含み,該表示された固視標を

前記眼底に投影する手段」を備えているということはできず,審決の一致点の認定




には誤りがある。

(2) 同時測定について

審決は,引用発明と本願発明の一致点として,「前記第1の画像形成手段による

前記2次元画像の形成と同時に行われる前記主走査方向の走査に基づいて前記断層

画像を形成する」点を認定した。

しかし,審決は,引用発明について,「前記第1の画像形成手段による前記2次

元画像の形成」と「前記主走査方向の走査」を同時に行うという認定をしておらず,

「前記第1の画像形成手段による前記2次元画像の形成と同時に行われる前記主走

査方向の走査に基づいて前記断層画像を形成する」点が,本願発明と引用発明との

共通点であるとはいえない。

また,刊行物1の第2実施例(以下,単に「第2実施例」という。)では,眼底

像を取得するための光路と干渉測定のための光路とを光干渉測定用光学ユニット用

ダイクロイックミラー450によって合成するという特有の構成によって「眼底像

の観察,撮影と干渉測定を同時に行うことができるという効果」 【0064】
( )を

実現しているのに対し,第3実施例においては,光干渉測定用光学ユニット用ダイ

クロイックミラー450と同様の機能について記載も示唆もなく,光干渉測定用光

学ユニット10000の配置が第2実施例と第3実施例とで全く異なることを考慮

すると,第2実施例に記載の技術を第3実施例に適用して当該効果を得ることはで

きない。

したがって,引用発明は,「前記第1の画像形成手段による前記第2次元画像の

形成」と「前記断層画像」の形成を同時に行うという構成を備えておらず,審決の

一致点の認定には誤りがある。

2 取消事由2(相違点の判断の誤り)

(1) 引用発明に刊行物2発明を適用する動機付けについて

審決は,タイムドメインOCT(Optical Coherence Tomo

graphy)が技術の進展によって,フーリエドメインOCTに発展し,3次元




画像の作成が可能になったのであるから,タイムドメインOCTを刊行物2発明の

フーリエドメインOCTに置き換え,3次元画像の作成をすることは,当業者であ

れば十分動機付けがあり,何ら困難性がない旨判断した。

しかし,タイムドメインOCTでも3次元画像の作成が可能であったことは明ら

かであるから,「タイムドメインOCTが技術の進展によって,フーリエドメイン

OCTに発展し,3次元画像の作成が可能になった」という点は,タイムドメイン

OCTをフーリエドメインOCTに置き換え,3次元画像を作成するという動機付

けにはならず,他に引用発明に刊行物2発明を適用する動機付けになるような事情

はない。

したがって,引用発明に刊行物2発明を適用することはできないから,審決の相

違点の判断は誤りである。

(2) 引用発明に刊行物2発明を適用した場合に想到する構成について

ア XYスキャナヘッドの配置場所について

審決は,刊行物2の図5には,光路合成分離手段よりも検出手段側に設けられた,

信号光を主走査方向及びこれに直交する副走査方向に走査する手段が記載されてい

ると判断した。

しかし,審決は,刊行物2の図5の部材の中で,どの部材が「光路合成分離手

段」や「検出手段」に相当するかを特定していない。仮に,同図において,ビーム

スプリッタ4が「光路合成分離手段」に相当し,読取り素子9が「検出手段」に相

当し,XYスキャナヘッド10が「走査する手段」に相当するとしても,同図では,

XYスキャナヘッド10(「走査する手段」)は,ビームスプリッタ4(「光路合成

分離手段」)よりも読取り素子9(「検出手段」)側に設けられてない。

したがって,当業者であれば,刊行物2発明から,「光路合成分離手段よりも検

出手段側に設けられた,信号光を主走査方向及びこれに直交する副走査方向に走査

する手段」という構成を容易に想到するということはできない。

イ 一対のガルバノミラーの使用について




審決は,刊行物2にXYスキャナヘッドを用いる構成が記載されているところ,

刊行物3及び刊行物4の記載等から,XYスキャナヘッドとして一対のガルバノミ

ラーを有する構成は常套手段であるから,当業者であれば,引用発明に刊行物2及

び常套手段を適用すれば,一対のガルバノミラーを有する構成を容易に想到するこ

とができると判断した。

しかし,XYスキャナヘッドは,一対のガルバノミラーに限らず,MEMS(甲

12)や,レゾナントミラー(共振ミラー。甲13),ポリゴンミラー等の種々の

光学部材により構成することが可能であり,一対のガルバノミラーがXYスキャナ

ヘッドにおける常套手段であるといえるか否かについては,適用される技術分野に

依存するものである。この点,刊行物3及び4は,「走査型レーザ顕微鏡」に関す

るものであるところ,物体の表面をスキャンする「走査型レーザ顕微鏡」にはスキ

ャンの高速性が求められるのに対し,物体の所望の断面をスキャンする「OCTの

技術が適用された装置」には,多様なスキャンパターンが求められるから,「走査

型レーザ顕微鏡」と「OCTの技術が適用された装置」等とでは,求められる性能

や制約条件等が異なる。

したがって,「OCTの技術が適用された装置」でも「眼科装置」でもない「走

査型レーザ顕微鏡」においてXYスキャナヘッドとして一対のガルバノミラーが適

用された構成が開示されているからといって,「OCTの技術が適用された装置」

や「眼科装置」において,XYスキャナヘッドとして一対のガルバノミラーが適用

された構成が常套手段であるとはいえない。

よって,XYスキャナヘッドとして「一対のガルバノミラー」を有する構成が常

套手段であるとする審決の判断は誤りであり,引用発明に刊行物2発明を適用して

も,「一対のガルバノミラー」を有する構成に想到することはできない。

第4 被告の反論

1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し

(1) 固視標について




原告は,第3実施例の図4の光学系に第1実施例を単純に適用した場合,CCD

センサー954が固視標960と物理的に干渉するか,第2のダイクロイックミラ

ー920が可視光と近赤外光と赤外光とを分離する必要が生ずる構成となってしま

う旨主張する。

しかし,第3実施例の図4の光学系の構成及び常套手段を踏まえると,第3実施

例において固視標を配置する場合,固視標は,照明側に配置するのが自然であって,

当業者であれば,少なくとも,赤外光側に入れることは検討しないから,原告が主

張するような弊害は生じない。

したがって,原告の主張は理由がない。

(2) 同時測定について

原告は,「前記第1の画像形成手段による前記2次元画像の形成と同時に行われ

る前記主走査方向の走査に基づいて前記断層画像を形成する」点が,本願発明と引

用発明との共通点であるとはいえない旨主張する。

しかし,第3実施例の眼底カメラの光学系30000Cでは,第2のダイクロイ

ックミラー又は跳ね上げミラーが採用可能であるところ(【0074】 ,審決が認


定した引用発明は,第2のダイクロイックミラーを用いる構成であって,ダイクロ

イックミラーのような特殊な波長選択性能を具備するミラーを用いる趣旨は,同時

測定を可能とするためであるから,引用発明は,眼底像の観察,撮影と,干渉測定

を同時に行うことができる装置である。

したがって,原告の主張は理由がない。

2 取消事由2(相違点の判断の誤り)に対し

(1) 引用発明に刊行物2発明を適用する動機付けについて

原告は,タイムドメインOCTでも3次元画像の作成が可能であったことは明ら

かであるから,引用発明のタイムドメインOCTをフーリエドメインOCTに置き

換え,3次元画像を作成する動機付けはないと主張する。

しかし,審決は,タイムドメインOCTが発明された後,タイムドメインOCT




に比べて桁違いの速さで画断層画像情報を取得できるフーリエドメインOCTが発

明され,実用的な患者の眼の網膜の3D体積測定が可能となったという技術の流れ

を踏まえ,「タイムドメインOCTが技術の進展によって,フーリエドメインOC

Tに発展し,3次元画像の作成が可能になった」と判断したものである。そして,

引用発明は,眼科装置であるから,測定時間の短縮に対する要求は自明であり,引

用発明のタイムドメインOCTをフーリエドメインOCTに替えて3次元画像を作

成することには,強い動機付けがある。

したがって,原告の主張は理由がない。

(2) 引用発明に刊行物2発明を適用した場合に想到する構成について

ア XYスキャナヘッドの配置場所について

原告は,刊行物2の図5には,光路合成分離手段については明示されていない旨

主張する。

しかし,引用発明と刊行物2発明を組み合わせるに際して,仮に,刊行物2発明

のXYスキャナヘッド10及び走査用光学系12を,第2のダイクロイックミラー

により光路合成された後に配置すると,引用発明のCCDセンサーに入力する近赤

外光がスキャンされ,眼底画像信号をモニターできなくなる。したがって,「光路

合成分離手段よりも検出手段側に設けられた,信号光を主走査方向及びこれに直交

する副走査方向に走査する手段」の構成は,引用発明と刊行物2発明を組み合わせ

るに際して,必然的に導かれる構成である。また,刊行物1の図4においても,走

査手段は,図示された詳細な光学系には見当たらず,第2のダイクロイックミラー

よりも光干渉測定用光学ユニット側に設けられていると考えられるから,原告が指

摘する構成は,いずれにせよ,引用発明と刊行物2発明を組み合わせたものが具備

する構成である。

以上によれば,当業者であれば,引用発明に刊行物2発明及び周知技術を適用し

て,「光路合成分離手段よりも検出手段側に設けられた,信号光を主走査方向及び

これに直交する副走査方向に走査する手段」という構成を容易に想到することがで




き,刊行物2の図5に光路合成分離手段が明示されていない点は審決の結論を左右

しない。

したがって,原告の主張は理由がない。

イ 一対のガルバノミラーの使用について

原告は,OCTの技術分野において,ガルバノミラーが常套手段とはいえないと

主張する。

しかし,刊行物2の図5にはXYスキャナヘッドが記載されており,当業者であ

れば,OCTの技術分野にとらわれることなく,XYスキャナにおける常套手段で

あるガルバノミラーを想起する。また,OCTの技術分野における文献についてみ

ても,本願の出願前に刊行された特表2003−516531号公報(乙5) 「臨


床眼科(第59巻第7号,2005年7月15日発行)(甲10。以下「刊行物1


0」という。,特開2005−283155号公報(乙6)にもガルバノミラーが


示されており,ガルバノミラーは常套手段である。

したがって,原告の主張は理由がない。

第5 当裁判所の判断

1 本願発明及び引用発明について

(1) 本願発明の要旨

本願明細書によれば,本願発明は,被検眼の眼底を観察するために用いられる眼

底観察装置に関するもので(【0001】 ,同装置については,眼底の表面,すな


わち網膜の状態の観察のために眼底カメラが広く用いられており,近年,網膜の深

層に存在する脈絡膜や強膜といった組織の状態を観察するためにOCT技術を応用

した装置(光画像計測装置,光コヒーレンストポグラフィ装置)の実用化も進んで

いる(【0002】【0032】【0033】 。しかし,眼底の状態(疾患の有無な


ど)を詳細に把握し,総合的に判断するためには,網膜の状態と深層組織の状態と

の双方を考慮することが望ましいところ(【0035】【0036】,従来の眼底観


察装置では,眼底カメラによる眼底の表面の2次元画像と光画像計測装置による眼




底の断層画像や3次元画像との双方を取得することは困難で,特にこれら双方の画

像を同時に取得することは困難であるという課題があった(【0038】 。そこで,


本願発明は,眼底の表面の2次元画像を形成する第1の画像形成手段と,フーリエ

ドメインOCTの手法を用いて眼底の断層画像を形成する第2の画像形成手段と,

前記第1の画像形成手段における撮影光路と前記第2の画像形成手段における眼底

に向かう信号光の光路とを合成するとともに,撮影光路と眼底を経由した信号光の

光路とを分離する光路合成分離手段とを備えることで,眼底表面の画像と眼底の断

層画像との双方を取得することが可能であり,特に,これら双方の眼底画像を同時

に取得することを可能とする眼底観察装置を提供するものである(【0039】【0

040】。


(2) 引用発明

ア 刊行物1には,次のとおりの記載がある(甲1。図1,3,4及び7につい

ては,別紙引用発明図面目録参照)。

「【特許請求の範囲】」

「【請求項2】 眼底照明光を被検眼眼底に投影するための眼底照明系と,この

眼底照明光により照明された眼底を観察及び撮影するための眼底観察撮影光学系と,

ショートコヒーレントの測定光を出射させるための光源部と,この光源部から光を

導くための第1のファイバーと,この第1のファイバーからの光を参照用光ファイ

バーと測定用光ファイバーとに分岐して導くための光束分岐手段と,前記参照用光

ファイバーからの光を反射させる参照反射鏡と,前記測定用光ファイバーから出射

され被検眼眼底から反射され測定用光ファイバーに導かれた光と該参照反射鏡から

反射された光とで,前記参照用光ファイバーに導かれた光を合成して受光器に導く

ための検出用光ファイバーとからなる光干渉測定用光学ユニットからなり,被検眼

眼底と共役な位置に配置した前記測定用光ファイバーの光出射端面からの光を,前

記眼底照明系又は前記眼底観察撮影光学系の一方の光路に導くために,前記測定光

と,眼底を観察させるための光とを選択的に反射させるための波長選択反射部材を




備えた眼科装置。」

「【発明の詳細な説明

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は眼科装置に係わり,特に,測定対象眼内の測定

対象部分の断面画像信号を形成するための眼科装置に関するものである。

【0002】

【従来の技術】従来,生体眼内の測定対象物の断面画像を得る技術は,可干渉距離

が短い光源の光を採用しており,この光源を測定光束と参照光束とに分離し, 測

定光束をスポット光として測定対象部分に照射する一方,参照光束の光路長を変化

させる様に構成されている。

【0003】そして,反射されて戻ってくる参照光束と測定光束とを合成して干渉

信号を形成し,参照光路に設けられた反射ミラーを移動した際の干渉信号から測定

対象部分の断面画像を得る様になっている。

【0004】更に本出願人より,眼底カメラにこの種の干渉装置を組み込んだ装置

に関する出願もなされている。(特開平8−38422号)

【0005】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来の装置においては,光学配

置が制約される上,本格的な眼底カメラに簡便に装着することができないという問

題点があった。

【0006】更に,小型化が困難な上,撮影像に各種の悪影響が生じるという問題

点があった。」

「【0011】「原理」

【0012】ここで,本発明に応用される干渉技術の原理を説明する。

【0013】図7に示す様に,光干渉測定用光学ユニット10000は,光源10

00と,参照ミラー2000と,分波器3000と,受光器4000と,光ファイ

バー5000とから構成されている。




【0014】光ファイバー5000は,光源1000から光を導くための第1のフ

ァイバー5100と,測定対象物20000まで導くための測定用光ファイバー5

200と,参照ミラー2000まで導くための参照用光ファイバー5300と,受

光器4000に導くための検出用光ファイバー5400とから構成されている。」

「【0018】分波器3000と参照ミラー2000までの光路長が,分波器3

000から測定対象物20000である眼の眼底部までの光路長と基本的に等しく

なる様に,参照ミラー2000が移動制御される。なお参照ミラー2000は,参

照反射鏡に該当するものである。」

「【0020】そして,測定用光ファイバー5200による測定反射光束と,参

照用光ファイバー5300の参照反射光束とは合成して干渉され,受光器4000

に導かれる様になっている。」

「【0040】「第1実施例の眼底カメラの光学系30000A」

【0041】第1実施例の眼底カメラの光学系30000Aの基本構成を図1に基

づいて説明する。・・・」

「【0053】また,被検眼の視線を定めるための固視標960からの光束は,

第2のダイクロイックミラー920を透過し,第1のダイクロイックミラー910

により反射され,被検眼に向け投影する様に構成されている。

【0054】以上の様に構成された本第1実施例の眼底カメラの光学系30000

Aは,跳ね上げミラー400により,撮影光源500及び観察光源600と,光干

渉測定用光学ユニット10000との光路を光波分割することができる。更に,波

長選択性素子200により,眼底カメラの撮影光路と,光干渉測定用光学ユニット

10000の光路とを光波分割可能に構成されている。

【0055】そして,測定対象物20000である眼の眼底部と,光干渉測定用光

学ユニット10000の測定用光ファイバー5200の出射端面とが,共役な位置

に配置されている。

【0056】また,参照ミラー2000と参照用光ファイバー5300とで形成さ




れた参照光路は,第1実施例の眼底カメラの光学系30000Aの光路長を考慮し

て定められる。

【0057】ここで,光干渉測定用光学ユニット10000の測定用光ファイバー

5200は,前述した走査制御部6600により一次元或いは二次元的に移動走査

される様になっている。この走査による眼底上で測定用光束は移動し,各測定点で

干渉測定が行われ,この干渉測定により眼底部の一次元或いは二次元的な断面像を

得ることができる。また,この様に測定用光ファイバー5200を走査させること

により,眼底部への投影測定光束を移動走査する代わりに,固視標960を走査制

御部6600により移動走査することにより,被検眼の視線方向を変え,測定光束

が到達する眼底位置を変えることによる,前述の移動走査と同じ機能を果たすこと

もできる。」

「【0059】「第2実施例の眼底カメラの光学系30000B」

【0060】第2実施例の眼底カメラの光学系30000Bの基本構成を図3に基

づいて説明する。・・・

【0061】光干渉測定用光学ユニット用ダイクロイックミラー450は,第1実

施例の跳ね上げミラー400に代えて採用したものである。光干渉測定用光学ユニ

ット用ダイクロイックミラー450は,840nm近傍の波長を透過し,800n

m近傍の近赤外光及び可視光を反射させるものである。従って,撮影光源500及

び観察光源600からの光を反射させ,波長選択性素子200に導くことができる。

そして840nm近傍の赤外光は,光干渉測定用光学ユニット用ダイクロイックミ

ラー450を透過し,ミラー541で反射された後,第2の合焦レンズ452を介

して,光干渉測定用光学ユニット10000の測定用光ファイバー5200の出射

端面に至る様になっている。なお,光干渉測定用光学ユニット用ダイクロイックミ

ラー450は,波長選択反射部材に該当するものである。」

「【0064】以上の様に構成された第2実施例の眼底カメラの光学系3000

0Bは,眼底像の観察,撮影と,光干渉測定用光学ユニット10000による干渉




測定をミラー等の可動部を必要とせずに同時に行うことができるという効果がある。

【0065】その他の第2実施例の構成,作用等は,上述の第1実施例と同様であ

るから,説明を省略する。

【0066】「第3実施例の眼底カメラの光学系30000C」

【0067】第3実施例の眼底カメラの光学系30000Cの基本構成を図4に基

づいて説明する。第1実施例 の眼底カメラの光学系30000Cは,対物レンズ

100と,孔あきミラー200’と,リレーレンズ300と,撮影光源500と,

観察光源600と,合焦レンズ700と,結像レンズ800と,ダイクロイックミ

ラー900と,撮像手段950とから構成されている。

【0068】ダイクロイックミラー900は,第1のダイクロイックミラー910

と,第2のダイクロイックミラー920とからなり,第1のダイクロイックミラー

910は,800nm近傍の近赤外光及び840nm近傍の赤外光を反射し,可視

光を透過させる特性を有している。そして第2のダイクロイックミラー920は,

840nm近傍の波長を反射し,800nm近傍の近赤外光を透過させるものであ

る。

【0069】第1のダイクロイックミラー910を透過した可視光は,写真フィル

ム951上に結像する様になっている。更に第1のダイクロイックミラー910で

反射された800nm近傍の波長の光は,第2のダイクロイックミラー920に入

射される。第2のダイクロイックミラー920は,840nm近傍の波長を反射さ

せ,光ファイバー921を介して,光干渉測定用光学ユニット10000の測定用

光ファイバー5200に至る様に構成されている。

【0070】第2のダイクロイックミラー920を透過した800nm近傍の近赤

外光は,赤外感度のCCDセンサー954上に結像される。

【0071】そしてCCDセンサー954で得られた眼底画像信号は,モニター装

置952でモニターすることができる。

【0072】なお,ダイクロイックミラー900は,波長選択反射部材に該当する




ものである。

【0073】以上の様に構成された第3実施例の眼底カメラの光学系30000C

は,従来からの眼底カメラの光学系をそのまま利用することができるという効果が

ある。

【0074】なお,第2のダイクロイックミラー920に代えて,跳ね上げミラー

を採用することもでき,この跳ね上げミラーは,観察光源600からの光を逃がし,

撮影光源500の光を取り込む様に構成されている。

【0075】その他の第3実施例の構成,作用等は,上述の第1実施例及び第2実

施例と同様であるから,説明を省略する。」

「【0082】

【効果】以上の様に構成された本発明は,眼底照明光を被検眼眼底に投影するため

の眼底照明系と,この眼底照明光により照明された眼底を観察及び撮影するための

眼底観察撮影光学系と,ショートコヒーレントの測定光を出射させるための光源部

と,この光源部から光を導くための第1のファイバーと,この第1のファイバーか

らの光を参照用光ファイバーと測定用光ファイバーとに分岐して導くための光束分

岐手段と,前記参照用光ファイバーからの光を反射させる参照反射鏡と,前記測定

用光ファイバーから出射され被検眼眼底から反射され測定用光ファイバーに導かれ

た光と該参照反射鏡から反射された光とで,前記参照用光ファイバーに導かれた光

を合成して受光器に導くための検出用光ファイバーとからなる光干渉測定用光学ユ

ニットからなり,被検眼眼底と共役な位置に配置した前記測定用光ファイバーの光

出射端面からの光を,前記眼底照明系又は前記眼底観察撮影光学系の一方の光路に

導くために,前記光路に挿脱自在に配置した光反射部材を備えた構成となっている

ので,光学配置が限定されず,眼底カメラに簡便に装着することができるという卓

越した効果がある。」

イ 上記記載からすれば,引用発明は,特に,測定対象眼内の測定対象部分の断

面画像信号を形成するための眼科装置に関するもので(【0001】 ,原告は,従





来から眼底カメラに干渉装置を組み込んだ装置に関する出願をしていたが(【00

04】,従来の装置においては,光学配置が制約される,本格的な眼底カメラに簡


便に装着することができない,小型化が困難,撮影像に各種の悪影響が生じるとい

う課題があった(【0005】【0006】。そこで,引用発明は,眼底照明光を被


検眼眼底に投影するための眼底照明系と,この眼底照明光により照明された眼底を

観察及び撮影するための眼底観察撮影光学系と,ショートコヒーレントの測定光を

出射させるための光源部と,この光源部から光を導くための第1のファイバーと,

この第1のファイバーからの光を参照用光ファイバーと測定用光ファイバーとに分

岐して導くための光束分岐手段と,前記参照用光ファイバーからの光を反射させる

参照反射鏡と,前記測定用光ファイバーから出射され被検眼眼底から反射され測定

用光ファイバーに導かれた光と該参照反射鏡から反射された光とで,前記参照用光

ファイバーに導かれた光を合成して受光器に導くための検出用光ファイバーとから

なる光干渉測定用光学ユニットからなり,被検眼眼底と共役な位置に配置した前記

測定用光ファイバーの光出射端面からの光を,前記眼底照明系又は前記眼底観察撮

影光学系の一方の光路に導くために,前記光路に挿脱自在に配置した光反射部材を

備えた構成とすることで,光学配置が限定されず,眼底カメラに簡便に装着するこ

とができるという効果があるものである(【0082】。


2 取消事由1(一致点の認定の誤り)について

(1) 固視標について

原告は,第1実施例の「固視標960からの光束は,第2のダイクロイックミラ

ー920を透過し,第1のダイクロイックミラー910により反射され,被検眼に

向け投影する」 【0053】
( )との構成を,第3実施例の図4の光学系に単純に適

用した場合,CCDセンサー954が固視標960と物理的に干渉するか,第2の

ダイクロイックミラー920が可視光と近赤外光と赤外光とを分離する必要が生ず

る構成となるから,引用発明が「固視標を表示する手段を含み,該表示された固視

標を前記眼底に投影する手段」を備えているということはできない旨主張する。




しかし,第3実施例については,「その他の第3実施例の構成,作用等は,上述

の第1実施例及び第2実施例と同様であるから,説明を省略する。(
」【0075】)

とされている。そこで,第1実施例についてみると,「また,被検眼の視線を定め

るための固視標960からの光束は,第2のダイクロイックミラー920を透過し,

第1のダイクロイックミラー910により反射され,被検眼に向け投影する様に構

成されている。(
」【0053】,
)「ここで,光干渉測定用光学ユニット10000の

測定用光ファイバー5200は,前述した走査制御部6600により一次元或いは

二次元的に移動走査される様になっている。この走査による眼底上で測定用光束は

移動し,各測定点で干渉測定が行われ,この干渉測定により眼底部の一次元或いは

二次元的な断面像を得ることができる。また,この様に測定用光ファイバー520

0を走査させることにより,眼底部への投影測定光束を移動走査する代わりに,固

視標960を走査制御部6600により移動走査することにより,被検眼の視線方

向を変え,測定光束が到達する眼底位置を変えることによる,前述の移動走査と同

じ機能を果たすこともできる。(
」 【0057】)との記載があり,固視標を用いる構

成となっていることからすれば,第3実施例も固視標を用いる構成とすることが自

然である。

そこで,第1実施例における固視標の配置場所について検討すると,固視標から

の可視光は,第2のダイクロイックミラー920を透過し,第1のダイクロイック

ミラー910で反射して,被検眼に向けて投影するように構成されており,「第1

のダイクロイックミラー910は,眼底撮影に使用する可視光の殆どは透過し,可

視光の一部及び赤外(近赤外を含む)を反射する特性を有し,第2のダイクロイッ

クミラー920は,赤外光を反射し,可視光を透過する」 【0051】
( )という特

性を有している。これに対し,第3実施例においては,「第1のダイクロイックミ

ラー910は,800nm近傍の近赤外光及び840nm近傍の赤外光を反射し,

可視光を透過させる特性を有している。そして第2のダイクロイックミラー920

は,840nm近傍の波長を反射し,800nm近傍の近赤外光を透過させる」





【0068】)という特性を有しているものであって,第1実施例と第3実施例の

「第1のダイクロイックミラー910」及び「第2のダイクロイックミラー92

0」は,各々名称は同一であるものの,全く異なる特性を有している。そして,固

視標からの光束は可視光束であって,第1実施例の「第1のダイクロイックミラー

910」では反射されている(反射される可視光の一部)と考えられるのに対し,

第3実施例の第1のダイクロイックミラーは可視光を全て透過するものであるから,

当業者であれば,第3実施例に固視標を設ける場合には,固視標からの光束は「第

1のダイクロイックミラー910」を透過して被検眼に向けて投影するようにする

必要があることを認識し,固視標からの可視光束と写真フィルム951に結像させ

る可視光束を分離合成するために,第1のダイクロイックミラーと写真フィルム9

51との間に第1実施例の「第1のダイクロイックミラー910」と同様の光学特

性を有するダイクロイックミラーを配置するなどして,固視標を用いる構成を選択

すると認められる。

したがって,引用発明は「固視標を表示する手段を含み,表示された固視標を前

記眼底に投影する手段」を備えていると認められ,第1実施例の構成を第3実施

に単純に適用することを前提とする原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。

(2) 同時測定について

原告は,引用発明は,「前記第1の画像形成手段による前記第2次元画像の形

成」と「前記断層画像」の形成を同時に行うという構成を備えていない旨主張する。

しかし,第2実施例は,「眼底カメラの光学系30000Bは,眼底像の観察,

撮影と,光干渉測定用光学ユニット10000による干渉測定をミラー等の可動部

を必要とせずに同時に行うことができるという効果がある。(
」【0064】)もので

あるところ,「その他の第3実施例の構成,作用等は,上述の第1実施例及び第2

実施例と同様である」 【0075】
( )とされている。そして,@第2実施例の「光

干渉測定用光学ユニット用ダイクロイックミラー450」及び第3実施例の「ダイ

クロイックミラー900」は,いずれも請求項2の「波長選択反射部材」として共




通すること(【0061】【0072】,A第2実施例について「光干渉測定用光学


ユニット用ダイクロイックミラー450は,第1実施例の跳ね上げミラー400に

代えて採用したものである。(
」【0061】)と記載され,第3実施例について「な

お,第2のダイクロイックミラー920に代えて,跳ね上げミラーを採用すること

もでき,この跳ね上げミラーは,観察光源600からの光を逃がし,撮影光源50

0の光を取り込む様に構成されている。(
」【0074】)と記載されていることによ

れば,第2実施例の「光干渉測定用光学ユニット用ダイクロイックミラー450」

と第3実施例の「第2のダイクロイックミラー920(ダイクロイックミラー90

0)」は同様の役割を有していると認められること,B第3実施例の「ダイクロイ

ックミラー900」は,可視光の光路,近赤外光の光路及び赤外光の光路を分離・

合成するものであること(【0068】)からすれば,第3実施例(引用発明)にお

いても,眼底像を取得するための光路(可視光の光路及び近赤外光の光路)と干渉

測定のための光路(赤外光の光路)とをダイクロイックミラー900によって合成

するという構成によって「眼底像の観察,撮影と干渉測定を同時に行うことができ

るという効果」【0064】
( )があるものと認められる。

なお,審決は,引用発明について,「前記第1の画像形成手段による前記2次元

画像の形成」と「前記主走査方向の走査」を同時に行うという認定をしていない。

しかし,上記判示したとおり,引用発明は,「前記第1の画像形成手段による前記

第2次元画像の形成」と「前記断層画像」の形成を同時に行うものであるから,上

記認定をしていない点は,審決の結論を左右するものではない。

したがって,原告の主張は理由がない。

3 取消事由2(相違点の判断の誤り)に対し

(1) 刊行物2発明

ア 刊行物2には,次のとおりの記載がある(刊行物2の翻訳文である甲2によ

り認定した。図3及び5については,別紙刊行物2発明図面目録参照)。

「【発明の詳細な説明




【技術分野】

【0001】

本発明は,スペクトル干渉装置及びスペクトル干渉法に関し,それらの装置及び

方法は,反射率対光路差の明確なプロファイルを与え,正の値の光路差と負の値の

光路差とを識別するために用いることができる。」

「【0003】

チャネルドスペクトル法は,センシング及び光ファイバセンシングの分野におい

て用いられてきた。・・・スペクトル法の利点は,OPD情報がチャネルドスペク

トル内のピーク及びトラフの周期性に変換されることであり,たとえば,組織の光

コヒーレンストモグラフィ(OCT)において,物体を深さ方向に走査するために

機械的な手段は不要である,ということである。さらに,そのような方法では,多

重化されたセンサアレイ内のOPDを調べるのに機械的な手段は不要である。組織

のような多層化された物体がイメージングされる場合には,各層は,その深さに応

じて,その層自体のチャネルドスペクトル周期性を残すことになり,そのスペクト

ル変調の振幅はその層の反射率の平方根に比例する。電荷結合素子(CCD)信号

のスペクトルの高速フーリエ変換(FFT)は,チャネルドスペクトルの周期性を,

種々の周波数のピークに変換し,その周波数が経路不平衡に直に関連する。そのよ

うなプロファイルはOCTにおけるAスキャンと呼ばれており,それは,すなわち

深さ方向の反射率のプロファイルである。」

「【0104】

図3に示される装置は,光源1と,コリメータ素子2と,ビームスプリッタ4と

を備える。ビームスプリッタ4から目標物体55に導く第1の光路41が装置内で

画定される。ビームスプリッタ4から,平行移動ステージ63上に配置される2つ

の再循環ミラー61及び62を介して,ミラー52に導く第2の光路42が装置内

で画定される。ビームスプリッタ4からミラー51に導く第3の光路が装置内で画

定される。ズーム素子32が第2の光路内に配置され,ズーム素子31が第3の光




路内に配置される。スペクトル解析のための光スペクトル分散手段7が,ミラー5

1及び52によって第2の光路及び第3の光路から反射された光ビームを受光する

ように構成される。光スペクトル分散手段7は,光ビームの異なる波長成分を,そ

の波長に応じた種々の角度で,合焦素子8を介して読取り素子9上に分散させる。

読取り素子9は,スペクトルアナライザ91に電気的出力を与える。プロセッサ4

6が,収集速度及び帯域幅に関してスペクトルアナライザ91のパラメータを制御

し,その出力信号を処理すると同時に,それに同期して平行移動ステージ63並び

にミラー51及び52の位置を制御する。

【0105】

図3の装置において,光源1からの光ビームがコリメータ素子2によってコリメ

ートされ,光ビーム3が形成される。この実施形態では,コリメータ素子2は簡単

なレンズであるが,他の実施形態では,アクロマート,又はミラー,或いはレンズ

又はミラーの組み合わせにすることができる。

【0106】

ビーム3からの光はビームスプリッタ4によって2つのビームに分割され,物体

光学系によって第1の光路に沿って物体ビーム41が形成され,参照光学系によっ

て第2の光路に沿って参照ビーム42が形成される。目標物体55からの戻りでは,

物体ビーム41は,物体光学系内の第3の光路に沿って,ビームスプリッタ4によ

って反射される。第3の光路からの物体ビームはミラー51によって反射されて,

相対的に変位したビーム41’が生成される。参照ビーム42は2つのミラー61

及び62によって反射され,その後,反射素子52によって反射されて,相対的に

変位したビーム42’が生成される。この実施形態では,再循環ミラー61並びに

反射素子51及び52の組み合わせは,図3に破線のブロックによって示される,

変位手段57としての役割を果たす。」

「【0128】

図5は,本発明による,OPDを選択することができるスペクトル干渉装置の第




2の実施形態を示す図である。図5に示される実施形態は,図3に関連して説明さ

れたものと構成に関して類似であるが,さらに,プロセッサ46に接続される発生

器34と,XYスキャナヘッド10と,走査光学系12と,合焦素子15とを備え

る。その装置は,多層物体55からのAスキャンだけでなく,3D断層X線写真体

積測定データも送出するように構成される。

【0129】

XYスキャナヘッド10が駆動されていないときに,そこから現われる物体ビー

ム41の方向が光学軸を規定するものとする。X及びYがその光学軸に対して垂直

な平面内にある座標軸であり,Zがその光学軸に対して平行な座標軸である座標系

を考える。

【0130】

走査用光学系12を介して,横断するように目標物体55にわたって物体ビーム

41を走査するためにXYスキャナヘッド10が設けられる。合焦素子15が,検

査されるべき目標物体55,たとえば組織上に光を合焦する。一般性を損なうこと

なく,物体55の目標エリアとして,図5には目の網膜が示されており,合焦素子

15は眼レンズである。組織55が皮膚である場合には,合焦素子15を通過した

後の光線が標準的には,深さ方向の軸と平行に現われるように,走査用光学系12

変更される。また合焦は,走査用光学系12内の光学素子を変更することによっ

て,又はコリメータ素子2を動かすことによって,又はビームスプリッタ4とスキ

ャナヘッド10との間に適当な光学素子を追加することによっても果たすことがで

きることも理解されよう。別個に,又は一緒に用いられるそのような素子は,目の

網膜又は皮膚のような多層物体55に適用することができる合焦手段の役割を果た

す。その走査は,発生器34の制御下にある。横断面内の点(X,Y)毎に,図3

実施形態と同じ構成要素を用いて,その装置によってAスキャンが生成される。

1つのスキャナが固定される場合,平面(X,Z)又は(Y,Z)内の組織の断面

を得ることができる。ただし,Zの向きは深さ方向に沿っている。これは,超音波




の用語に従って,OCT Bスキャン画像と呼ばれる。Bスキャンが他の座標軸,

それぞれY又はXに沿って繰り返されるとき,組織の全体積を調査することができ

る。別法では,2つの座標は,光学軸に対して直交する横断面内の極にすることが

できる。さらに,スキャナは,横断面内で円形を描くようにして駆動することがで

き,その場合に,Bスキャン画像は,深さ方向の軸に沿って向けられる円柱の横方

向のサイズに沿っている。」

イ 上記記載からすれば,刊行物2発明は,ビームスプリッタ4によって光源1

の光ビームを二つのビームに分割し,一方の光ビームを物体ビーム41として眼底

55に照射し,他方の光ビームを参照ビーム42とし,眼底55からの戻りの物体

ビーム41と参照ビーム42とを干渉させて得た出力に基づきフーリエドメインO

CTの手法を用いて眼底の断層画像を形成する干渉装置であって,装置本体部と眼

底55との間の光路上にXYスキャナヘッド10からなる走査手段を配置すること

により,3次元断層画像を形成する干渉装置を開示するものである。

(2) 引用発明に刊行物2発明を適用する動機付けについて

原告は,タイムドメインOCTでも3次元画像の作成が可能であったことは明ら

かであるから,「タイムドメインOCTが技術の進展によって,フーリエドメイン

OCTに発展し,3次元画像の作成が可能になった」という点は,タイムドメイン

OCTをフーリエドメインOCTに置き換え,3次元画像を作成するという動機付

けにはならず,他に引用発明に刊行物2発明を適用する動機付けになるような事情

はない旨主張する。

確かに,引用発明は,タイムドメインOCTの手法を用いたものであるところ

(甲1【0015】【0018】参照),タイムドメインOCTでも3次元画像の作

成が可能であり,フーリエドメインOCTによって3次元画像の作成が可能になっ

たわけではないから,3次元画像の作成が可能になったという点は,引用発明に刊

行物2発明を適用する動機付けとはならない。

しかし,引用発明も刊行物2発明も,国際特許分類は, “A61B
「 3/”(目




の検査装置;眼の診察機器)」を含むものであって(甲1,2),技術分野が共通す

る。また,タイムドメインOCTもフーリエドメインOCTもOCTであって,タ

イムドメインOCTは参照ミラーを物理的に動かす必要があるが(甲1【001

8】 ,フーリエドメインOCTは広帯域の光源(甲2【0004】
) )を用いること

から参照ミラーを動かす必要がない(測定時間の短縮などが図られる)という利点

があるため(甲2【0003】,引用発明及び刊行物2発明に接した当業者であれ


ば,被検眼を対象とする引用発明において,測定時間を短縮するために,タイムド

メインOCTの手法に代えて刊行物2発明のフーリエドメインOCTの手法を採用

することの動機付けがあるといえる。さらに,一般的に,診断材料を増やしてより

綿密な診断を行うことができるようにすることが望ましいことからすれば,引用発

明及び刊行物2発明に接した当業者であれば,眼底の2次元断層画像を形成するの

に代えて刊行物2発明の「主走査方向及び副走査方向の走査に基づいて複数の断層

画像を形成し,該複数の断層画像に基づいて3次元画像を形成する」ようにするこ

とにより,眼底の断層画像をより多く取得しようとすることの動機付けがあると認

められる。

以上からすれば,引用発明に刊行物2発明を適用する動機付けがあるというべき

であって,原告が主張する点は審決の結論を左右しない。

したがって,原告の主張は理由がない。

(3) 引用発明に刊行物2発明を適用した場合に想到する構成について

ア XYスキャナヘッドの配置場所について

原告は,刊行物2の図5には,「光路合成分離手段よりも検出手段側に設けられ

た,信号光を主走査方向及びこれに直交する副走査方向に走査する手段」は記載さ

れておらず,引用発明に刊行物2発明を適用して,同構成を容易に想到するという

ことはできない旨主張する。

確かに,刊行物2発明は,本願発明のように眼底カメラと干渉装置を一体的に統

合した装置ではなく,干渉装置のみに関するものであるから,刊行物2には,「前




記撮影光学系により形成される撮影光路と前記眼底に向かう信号光の光路とを合成

するとともに,前記撮影光路と前記眼底を経由した信号光の光路とを分離する光路

合成分離手段」は記載されていない。

しかし,刊行物1の「測定用光ファイバー5200は,走査制御部6600によ

り一次元或いは二次元的に移動走査される様になっている」 【0057】
( )及び

「第2のダイクロイックミラー920は,840nm近傍の波長を反射させ,光フ

ァイバー921を介して,光干渉測定用光学ユニット10000の測定用光ファイ

バー5200に至る」 【0069】
( )との記載によれば,引用発明の走査手段は,

第2のダイクロイックミラー920よりも光干渉測定用光学ユニット10000の

受光器4000側に配置されるものと認められる。そして,第2のダイクロイック

ミラー920は,「光路合成分離手段」に相当し,光干渉測定用光学ユニット10

000の受光器4000が「第2の検出手段」に相当するものであるから,引用発

明に刊行物2発明を適用すると,当業者であれば,光路合成分離手段よりも検出手

段側にXYスキャナヘッドである「信号光を主走査方向及びこれに直交する副走査

方向に走査する手段」を設けるという構成を容易に想到することができる。

したがって,原告の主張は理由がない。

イ 一対のガルバノミラーの使用について

原告は,XYスキャナヘッドとして「一対のガルバノミラー」を有する構成が常

套手段であるとする審決の判断は誤りであり,引用発明に刊行物2発明を適用して

も,「一対のガルバノミラー」を有する構成に想到することはできない旨主張する。

しかし,刊行物2の図5の「XYスキャナヘッド10」を見ると,符号10の枠

内に軸MXを有する四角形状の要素Aと軸MYを有する別の四角形状の要素Bとが

離間して配置され,光源1からの物体ビーム41が要素Bで反射されて要素Aに入

射され,要素Aで反射されて走査用光学系12を経由して眼底55に到達する状態

が記載されている。そして,刊行物3の「前記スキャンヘッド6は,光ファイバ8

により伝播されてきたレーザ光を平行光に変更するコリメートレンズ11と,直交




する2つの軸線回りに回転させられる2枚のガルバノミラー12a,12bによっ

て水平2方向にレーザ光を偏向するレーザ走査部12と,該レーザ走査部12から

出射されたレーザ光を集光して中間像を形成する瞳投影レンズ13と,該瞳投影レ

ンズ13によって中間像を形成したレーザ光を再度平行光にする結像レンズ14と

を筐体15内に備えている。(
」【0026】)との記載,刊行物4の「図示しないガ

ルバノミラーにより,検体505上を2次元的に走査し,各走査位置での検出光を

電気信号に変換し,図示しないモニタ上に2次元像として表示することになる。」

(【0008】)との記載,刊行物10の「リファレンスミラー固定のまま,2軸ガ

ルバノミラーによりこの点を含む等光路面内で走査し,・・・3次元画像構築す

る。 (1136頁右欄)との記載によれば,
」 「信号光を主走査方向及びこれに直交

する副走査方向に走査する一対のガルバノミラー」は走査手段の要素技術として周

知であると認められる。

そうすると,当業者であれば,刊行物2の図5の「XYスキャナヘッド10」を

みれば,「一対のガルバノミラー」を想起すると認められ,引用発明に刊行物2発

明を適用して,一対のガルバノミラーを有する構成を容易に想到することができる

というべきである。

なお,原告は,XYスキャナヘッドに何を用いるかは適用される技術分野に依存

するところ,刊行物3及び4は,「走査型レーザ顕微鏡」に関するものであって,

本願発明の「OCTの技術が適用された装置」等とでは,求められる性能や制約条

件等が異なるから,一対のガルバノミラーが常套手段であるとはいえない旨主張す

る。しかし,刊行物10は眼科装置に関する文献であり,一対のガルバノミラー

(2軸ガルバノミラー)は,眼科装置においても,3次元画像を形成するための走

査手段として用いられる常套手段ないし周知技術であると認められる。

したがって,原告の主張は理由がない。

4 まとめ

以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,本願発明は引用発




明,刊行物2発明並びに刊行物3及び刊行物4に記載された常套手段に基づいて当

業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に

より特許を受けることができないとした審決の結論に誤りはない。

第6 結論

よって,原告の請求は理由がないから,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部




裁判長裁判官 設 樂 一




裁判官 大 寄 麻 代




裁判官 平 田 晃 史





(別紙)

引用発明図面目録



【図1】




【図3】





【図4】




なお,右上の「1000」は,「10000」の誤記であると認められる。



【図7】





(別紙)

刊行物2発明図面目録

【図3】




【図5】