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関連審決 異議2001-73290
関連ワード 加工方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  慣用技術 /  発明の詳細な説明 /  援用権(援用) /  参酌 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 476号 特許取消決定取消請求事件
原告 住友電装株式会社
訴訟代理人弁理士 大和田和美
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 渡部利行
同 大野克人
同 小曳満昭
同 宮川久成
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/07/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2001-73290号事件について平成14年8月2日にした決定を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「グロメット」とする特許第3175647号発明(平成9年7月4日出願,平成13年4月6日設定登録,以下,この特許を「本件特許」という。)に係る特許権者である。
その後,本件特許につき特許異議の申立てがされ,同申立ては,異議2001-73290号事件として特許庁に係属したところ,原告は,平成14年5月7日,本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」といい,本件訂正に係る明細書を,願書に添付した図面と併せて「訂正明細書」という。)を請求した。
特許庁は,同事件につき審理した結果,平成14年8月2日,「訂正を認める。特許第3175647号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。
2 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明の要旨 【請求項1】線状体の外周に密着して保持する線状体保持部と,前記線状体が貫通して配索される開口部に係止する係止部と,前記線状体保持部及び前記係止部を傾斜面で連結する傾斜部と,を具備するグロメットにおいて,前記線状体保持部(注,「線状保持部」とあるのは誤記と認める。以下,同じ。)を除く前記傾斜部の外表面の全周にわたり,前記線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて前記係止部まで延設され,前記開口部に摺接する複数条の線状凸部を有し,該線状凸部を本グロメットと同一の材質で本グロメットと一体的に形成したことを特徴とするグロメット。
【請求項2】該線状凸部を前記線状体保持部を除く係止部側で,該線状凸部の上面のみが前記開口部の縁端部に摺接するように形成したことを特徴とする請求項1記載のグロメット。 (以下,上記請求項1及び2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」,「本件発明2」という。) 3 決定の理由 決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件訂正を認めた上,本件発明1及び2は,実願昭62-163108号(実開平1-68625号)のマイクロフィルム(審判甲1,本訴甲5,以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)及び実願昭60-148122号(実開昭62-57332号)のマイクロフィルム(審判甲2,本訴甲6,以下「刊行物2」という。)記載の周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件発明1及び2に係る特許は,同法113条2号の規定に該当し,取り消されるべきものであるとした。
原告主張の決定取消事由
決定は,本件発明1と刊行物1発明との相違点に関する判断を誤り(取消事由1),本件発明2の容易想到性に関する判断を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1に係る相違点の判断の誤り) (1) 決定の認定,判断 決定は,本件発明1と刊行物1発明との一致点として,「『線状体の外周に密着して保持する線状体保持部と,前記線状体が貫通して配索される開口部に係止する係止部と,前記線状体保持部及び前記係止部を傾斜面で連結する傾斜部と,を具備するグロメットにおいて,前記傾斜部の外表面の全周にわたり,前記線状体保持部側から前記係止部まで延設され,前記開口部に摺接する複数条の線状凸部を有し,該線状凸部を本グロメットと同一の材質で本グロメットと一体的に形成したことを特徴とするグロメット』である点」(審決謄本5頁下から第2段落)を,同じく相違点として,「本件発明1の線状凸部は,『前記線状体保持部を除く前記傾斜部の外表面の全周にわたり,前記線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて前記係止部まで延設』されているものであるのに対し,刊行物1に記載された発明(注,刊行物1発明)のリブは,『上記傾斜壁面部より上記環状凹部の上記筒部側の内側面端緑部に至るリブを複数個突設』・・・されているものである点」(同頁最終段落〜同6頁初行)をそれぞれ認定した上,上記相違点について,「刊行物1の・・・記載は『筒部』と『傾斜壁面部』とを区別した上で,『上記傾斜壁面部よ・・・』とリブの開始点を規定するのであるから,そのリブは『筒部を除く』ものであり,すなわち『線状体保持部を除く前記傾斜部』の要件を満たすものである。
また,第1図の図示もそのことを表している」(同頁第2段落,以下「検討a」という。),「刊行物1のグロメットのリブも傾斜壁面部の外周に複数個突設されるものであり,その肉厚と形状は刊行物1・・・に記載された課題,作用効果を満たすものであるが,それらの記載によれば刊行物1のグロメットおよびリブの肉厚と形状は,本件発明1の課題(【0001】から【0007】),作用効果(【0010】,【0030】から【0032】)を達成することができることが認められ」る(同頁第3段落,以下「検討b-1」という。)とし,さらに,「多少の肉厚と形状の相違が存在するとしても,そのような相違は当業者が設計上適宜変更しうることである」(同,以下「検討b-2」という。),「特許権者(注,原告)は,特許異議意見書において参考図(U)を示し,『肉厚な段状に突出』の技術的意味について縷々説明しているが,本件特許明細書(注,訂正明細書)に記載されていないことであるので採用することはできない」(同頁第4段落,以下「検討c」という。)と判断した。
以上のうち,一致点及び相違点の認定並びに相違点についての判断のうち検討a及び同b-1については認めるが,同b-2及び同cは誤りであり,その結果,決定は,上記相違点に関する判断を誤ったものである。
(2) 検討b-2の誤り ア 本件発明1のグロメットは,複数条の線状凸部を形成することにより,挿入抵抗の低減を図るとともに,当該線状凸部の線状体保持部側の端面を肉厚な段状に突出させ,線状体保持部側の先端に段差を発生させることにより,グロメットが車両パネル等の開口部から外れにくくなるという作用効果を有するものであり,挿入抵抗の低減と保持力の増加という相反する課題を解決する発明である。このうち,保持力の増加の点については,別紙参考図(U)の図(A)に示すとおり,本件発明1のグロメットGを車両パネル開口部の縁端部(5)に装着した状態で,グロメットの係止部方向からワイヤーハーネスが引っ張られた場合,線状体保持部(1)の外周面が引っ張り方向へ移動しようとするのに対し,同図(B)に示すとおり,線状凸部2の端面の段差(2a)が圧接した状態で引っ掛かり,線状体保持部(1)の移動を阻止する。このように,本件発明1のグロメットにおいては,線状凸部の線状体保持部側の先端を段状に突出させていることにより,ワイヤーハーネスが引っ張られても線状体保持部の過剰な移動を阻止し得るとともに,傾斜部自体を変形しにくくしているため,係止部(4)は変形せず,車両パネルの開口部の縁端部(5)との間に隙間が発生せず,シール性を確保することができ,したがって,グロメットが開口部から外れることも完全に防止できるものである。
これに対し,刊行物1発明のグロメットは,線状凸部を傾斜部の表面に突設して挿入抵抗を低減し,開口部にグロメットを挿入係止しやすくしている点では,本件発明1と同様であるが,挿入係止後にワイヤーハーネスに引っ張り力が作用した場合において開口部から外れにくくする形状,すなわち,「線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて」との構成を採用しておらず,本件発明1の有する,上記開口部から外れにくくするという作用効果を有していない。刊行物1(甲5)の第1図に明確に示されているとおり,刊行物1発明のグロメットにおいては,線状凸部(リブ)の線状体保持部側の端部は,肉厚な段状に突出させずに,滑らかな隆起の始点となっており,この点で,本件発明1の上記構成とは逆の形状になっている。その結果,刊行物1発明のグロメットは,別紙参考図(T)に示すとおり,開口部にグロメットが装着された状態でワイヤーハーネスが係止部側に引っ張られると,変形しやすく,シール性が劣るとともに,グロメットが開口部から外れるおそれがあるという問題を有する。
以上のように,本件発明1の「線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて」との構成及びそれによってもたらされるグロメットが開口部から外れにくくなるという作用効果は,刊行物1には何ら開示されていない。
にもかかわらず,決定は,上記のとおり,本件発明1と刊行物1発明との相違点について,「多少の肉厚と形状の相違」であり,「当業者が設計上適宜変更しうること」であると即断しているが,上記のとおり,両者の線状凸部の形状は明確に異なるし,そこから導かれるグロメットの保持力の有無という作用効果の差異は,グロメットの機能上,重要な差異であるから,決定の上記判断は誤りである。
イ 被告は,本件発明1においては,線状凸部の線状体保持部側の「先端に段差」があることは規定されていない旨主張する。しかしながら,訂正明細書(甲7添付)の特許請求の範囲の請求項1には,「線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて・・・前記開口部に摺接する複数条の線状凸部を有し」と記載されているのであるから,線状凸部の線状体保持部側の端部(先端)が肉厚な段状であることは,この記載自体から明らかというべきである。しかも,訂正明細書発明の詳細な説明には,「なお,図1(a),(b)においては,線状凸部15aを傾斜部14に均等に配置した構成,すなわち,延設長さ,突出高さ,凸部断面形状が均一」(段落【0014】)であると記載されているところ,線状凸部15aの突出高さ及び断面形状が均一であれば,線状凸部の先端と傾斜面との間に段差が発生することは明らかであるし,このことは,図1自体にも示されているところである。
さらに,被告は,線状体凸部の突出に係る位置,形状,厚さ等について具体的な限定がされていないとも主張するが,上記請求項1は,「線状体保持部を除く前記傾斜部の外表面の全周にわたり,前記線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて前記係止部まで延設され,前記開口部に摺接する複数条の線状凸部を有し」と規定しているから,突出の「位置」は,線状体保持部側から突出されたもので,「形状」は,「線状体保持部側から前記係止部まで延設され」たものであることが規定されているし,「厚さ」については,「肉厚な段状に突出され」ることが規定されている。なお,この厚さは,傾斜面と段差を生じる厚さであればグロメットの保持力を高める作用効果があるため,数値等で限定する必要はない。
ウ 被告は,「線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて」との構成が,グロメットが外れにくくなるとの作用効果を有すると認めるべき根拠はない旨主張する。しかしながら,当該構成を有する本件発明1のグロメットが,そうでないものに比して,車体パネル等に係止した状態におけるグロメットの保持力において格段に優れていることは,奈良県工業技術センター所長作成の平成14年12月24日付け報告書(甲14)のとおり明らかである。
(3) 検討cの誤り ア 決定は,原告が審判段階で上記(2)と同旨の主張をしたのに対し,上記のとおり,「本件特許明細書(注,訂正明細書)に記載されていないことであるので採用することはできない」と判断した。
しかしながら,線状凸部を肉厚な段状に突出することにより,車体パネル等の開口部にグロメットを装着した状態で外れにくくするとの作用効果は,訂正明細書(甲7添付)の発明の詳細な説明に明記された「挿入抵抗を低減して容易に係止固定する」(段落【0007】)との課題に沿うものである上,訂正明細書に接した当業者にとって,本件発明1の「線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて」との構成から容易に理解される,自明の作用効果というべきであるから,単に,訂正明細書に記載されていないとの理由で,この点に関する原告の主張を採用しなかった決定の誤りは明らかである(東京高裁平成11年7月15日判決〔平成10年(行ケ)第65号〕,同庁昭和41年4月28日判決〔昭和40年(行ケ)第27号〕,同庁昭和45年11月19日判決〔昭和43年(行ケ)第23号〕,同庁平成元年3月9日判決〔昭和61年(行ケ)第8号〕,同庁平成8年9月5日判決〔平成7年(行ケ)第107号〕各参照)。
イ 被告は,訂正明細書に記載された上記「係止固定」とは,挿入作業の終了により係止部と開口部が係止固定されることを意味するにすぎない旨主張するが,固定とは,挿入時の一時的な固定ではなく,持続された固定である。開口部に係止固定された状態において,ワイヤーハーネスが引っ張られても,グロメットが開口部から外れにくいようにすることは,グロメット本来の機能から当然に要請される課題であり,上記「係止固定」には,係止固定状態でグロメットを開口部から外れにくくすることも当然に含まれる。
また,被告は,上記作用効果が当業者にとって容易に認識し得る自明の作用効果であると認めるべき理由はないとも主張するが,線状凸部の先端を肉厚に突出させて傾斜部と段差を持たせた場合,ワイヤーハーネスが引っ張られた際,線状凸部の先端の段差が線状体保持部の外周面に圧接して線状体保持部の移動を阻止し,その結果,グロメットが開口部から外れにくくなるという作用効果が生じることは,当業者にとっては,本件発明1のグロメットの形状を観察すれば,容易に理解されるものである。
さらに,被告は,訂正明細書の図1(甲2)においては,線状凸部の突出高さは,係止側から線状体保持部側に向かって徐々に低くなっていることが看取されるし,同図4においては,線状凸部自体が係止側から傾斜部の中ほどまでしか設けられていない旨主張するが,上記図1における線状凸部の突出高さが均一であることは,訂正明細書の上記(2)イの段落【0014】の記載から明らかである。また,同図4については,請求項1において,「線状体保持部を除く前記傾斜部の外表面の全周にわたり」,「線状体保持部側から・・・前記係止部まで延設され」と規定したことにより,同図に示される構成は,本件発明1から除外されている。すなわち,前者の「線状体保持部を除く前記傾斜部の外表面の全周」とは,「線状体保持部に近接する位置までの傾斜部の全外表面の全周」を意味するから,線状凸部が線状体保持部の近接位置まで設けられていることを規定するものであり,また,後者の「線状体保持部側から」についても,線状凸部が,傾斜部の線状体保持部に近接した位置から突出されていることを意味するものと解するのが相当であるから,同図に示される構成は,本件発明1の特許請求の範囲には含まれないものである。
2 取消事由2(本件発明2の容易想到性の判断の誤り) 決定は,「本件発明2の規定『該線状凸部を前記線状体保持部を除く係止部側で,該線状凸部の上面のみが前記開口部の縁端部に摺動するように形成した』については,前示のイ,エのaでの検討(注,本件発明1に関する検討を指す。)があてはまるから,本件発明2は,刊行物1に記載された発明(注,刊行物1発明)及び周知慣用技術(刊行物2)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ」る(審決謄本6頁下から第3段落)と判断したが,上記1のとおり,本件発明1に係る決定の判断が誤りである以上,本件発明2に関する上記判断も誤りである。
被告の反論
1 取消事由1(本件発明1に係る相違点の判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明1のグロメットは,複数条の線状凸部を形成することにより,挿入抵抗の低減を図るとともに,当該線状凸部の線状体保持部側の端面を肉厚な段状に突出させ,線状体保持部側の先端に段差を発生させることにより,グロメットが車両パネル等の開口部から外れにくくなるという作用効果を有する旨主張する。
しかしながら,訂正明細書(甲7添付)の特許請求の範囲の請求項1においては,「先端に段差」との記載はなく,発明の詳細な説明にも,「先端に段差」を発生させることや,それによりグロメットが車体パネル等の開口部から外れにくくなるとの効果が生じる旨の記載は全くない。したがって,原告の主張は,訂正明細書の記載に基づかないものであって失当である。
確かに,上記請求項1においては,「線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて」と規定されてはいるものの,その突出に係る位置,形状,厚さ等については具体的な限定がされていないのであるから,様々な態様のものを含み,原告主張のような「先端に段差」があるものに限定されるべき理由はないし,また,「線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて」との構成が,原告主張のグロメットが外れにくくなるとの作用効果を有すると認めるべき根拠はなく,その作用効果が当業者にとって自明ないし容易に認識し得るものであると認めるべき根拠もない。
(2) 原告は,線状凸部を肉厚な段状に突出することにより,車体パネル等の開口部にグロメットを装着した状態で外れにくくするとの作用効果は,訂正明細書(甲7添付)の発明の詳細な説明に明記された「挿入抵抗を低減して容易に係止固定する」(段落【0007】)との課題に沿うものである旨主張する。しかしながら,そこでいう「係止固定」とは,挿入作業の終了により係止部と開口部が係止固定されることを意味するにすぎず,いったん挿入係止した後,ワイヤーハーネスに引っ張り力が作用しても,開口部から外れにくくするとの課題を説明しているものではない。
また,原告は,上記作用効果は,本件発明1の構成から,当業者が容易に理解する自明の作用効果である旨主張する。しかしながら,訂正明細書には当該作用効果に関する記載がなく,本件発明1の構成が原告主張の作用効果を有するものに限定されないことは,上記(1)のとおりである上,当該作用効果が当業者にとって容易に認識し得る自明の作用効果であると認めるべき理由もない。訂正明細書の図1には,線状凸部15aの先端に段差が図示されているようにも見えるが,訂正明細書には,そのことについて何らの説明もなく,この図1だけを根拠に,原告主張の上記作用効果が当業者にとって容易に理解し得るものであるとすることはできない。逆に,訂正明細書の上記図1においては,線状凸部の突出高さは,係止側から線状体保持部側に向かって徐々に低くなっていることが看取されるし,同図4においては,線状凸部自体が係止側から傾斜部の中ほどまでしか設けられていないのであるから,これらの図によっても,原告主張の作用効果を認めることはできない。
2 取消事由2(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)について 上記1のとおり,本件発明1に係る決定の判断に誤りはないから,本件発明2の容易想到性に関する判断にも誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1に係る相違点の判断の誤り)について (1) 決定は,本件発明1と刊行物1発明との一致点として,「『線状体の外周に密着して保持する線状体保持部と,前記線状体が貫通して配索される開口部に係止する係止部と,前記線状体保持部及び前記係止部を傾斜面で連結する傾斜部と,を具備するグロメットにおいて,前記傾斜部の外表面の全周にわたり,前記線状体保持部側から前記係止部まで延設され,前記開口部に摺接する複数条の線状凸部を有し,該線状凸部を本グロメットと同一の材質で本グロメットと一体的に形成したことを特徴とするグロメット』である点」(審決謄本5頁下から第2段落)を,同じく相違点として,「本件発明1の線状凸部は,『前記線状体保持部を除く前記傾斜部の外表面の全周にわたり,前記線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて前記係止部まで延設』されているものであるのに対し,刊行物1に記載された発明(注,刊行物1発明)のリブは,『上記傾斜壁面部より上記環状凹部の上記筒部側の内側面端緑部に至るリブを複数個突設』・・・されているものである点」(同頁最終段落〜同6頁初行)をそれぞれ認定した上,上記相違点について,「刊行物1の・・・記載は『筒部』と『傾斜壁面部』とを区別した上で,『上記傾斜壁面部より・・・』とリブの開始点を規定するのであるから,そのリブは『筒部を除く』ものであり,すなわち『線状体保持部を除く前記傾斜部』の要件を満たすものである。また,第1図の図示もそのことを表している」(同頁第2段落,検討a),「刊行物1のグロメットのリブも傾斜壁面部の外周に複数個突設されるものであり,その肉厚と形状は刊行物1・・・に記載された課題,作用効果を満たすものであるが,それらの記載によれば刊行物1のグロメットおよびリブの肉厚と形状は,本件発明1の課題(【0001】から【0007】),作用効果(【0010】,【0030】から【0032】)を達成することができることが認められ」る(同頁第3段落,検討b-1)とし,さらに,「多少の肉厚と形状の相違が存在するとしても,そのような相違は当業者が設計上適宜変更しうることである」(同,検討b-2),「特許権者(注,原告)は,特許異議意見書において参考図(U)を示し,『肉厚な段状に突出』の技術的意味について縷々説明しているが,本件特許明細書(注,訂正明細書)に記載されていないことであるので採用することはできない」(同頁第4段落,検討c)と判断した。
これに対し,原告は,本件発明1のグロメットは,複数条の線状凸部を形成することにより,挿入抵抗の低減を図るとともに,当該線状凸部の線状体保持部側の端面を肉厚な段状に突出させ,線状体保持部側の先端に段差を発生させることにより,グロメットが車両パネル等の開口部から外れにくくなるという作用効果(以下「グロメットの保持力増大の作用効果」ということがある。)を有するなどとして,決定の相違点に関する判断中,検討b-2及び同cの判断は誤りである旨主張するので,以下,検討する。
(2) 本件発明1の要旨は,上記第2の2のとおり,「線状体の外周に密着して保持する線状体保持部と,前記線状体が貫通して配索される開口部に係止する係止部と,前記線状体保持部及び前記係止部を傾斜面で連結する傾斜部と,を具備するグロメットにおいて,前記線状体保持部を除く前記傾斜部の外表面の全周にわたり,前記線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて前記係止部まで延設され,前記開口部に摺接する複数条の線状凸部を有し,該線状凸部を本グロメットと同一の材質で本グロメットと一体的に形成したことを特徴とするグロメット」である。
訂正明細書(甲7添付)には,発明の詳細な説明として,「本発明の目的は,車両パネルの開口部への挿入係止作業に際し,挿入抵抗を低減して容易に係止固定することができるとともに,成形金型の加工コストおよび加工時間を低減することができるグロメットを提供することにある」(段落【0007】),「上記の目的を達成するために,請求項1記載の発明は,線状体の外周に密着して保持する線状体保持部と,前記線状体が貫通して配索される開口部に係止する係止部と,前記線状体保持部及び前記係止部を傾斜面で連結する傾斜部と,を具備するグロメットにおいて,前記線状体保持部を除く前記傾斜部の外表面の全周にわたり,前記線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて前記係止部まで延設され,前記開口部に摺接する複数条の線状凸部を有し,該線状凸部を本グロメットと同一の材質で本グロメットと一体的に形成したことを特徴としている」(課題を解決するための手段,段落【0008】),「このような構成のグロメットによれば,傾斜部を構成する傾斜面の全周にわたり,グロメットの挿入方向に延設された線状凸部を設けることにより,グロメットを所定の開口部に挿入,係止する作業の際に,線状凸部の上面のみが開口部の縁端部に摺接するため,グロメットと開口部との接触面積を小さくして,挿入抵抗を低減することができ,挿入係止作業時の引き込み力を削減して,ワイヤーハーネスの装着作業性を向上させることができる。また,傾斜部に延設された線状凸部は,機械加工法を用いて成形金型の傾斜部に,切削加工を施すか,あるいは,あらかじめ尾根状部分を形成するように加工することにより,極めて容易かつ短時間で所望の線状凸部を有するグロメットを形成することができるため,金型の加工方法及び加工時間を複雑,長期化することなく,金型加工コストを抑制することができる。また線状凸部を線状体保持部を除く係止部側のみに形成すれば,グロメットの挿入抵抗をより一層低減することができる」(段落【0010】〜【0011】),「なお,図1(a),(b)においては,線状凸部15aを傾斜部14に均等に配置した構成,すなわち,延設長さ,突出高さ,凸部断面形状が均一で,図1(a)に示されるように,線状凸部15aは長さ方向両端の線状体保持部側端面および係止部側端面は傾斜部14の外表面から厚肉な段状に突出しているとともに,ワイヤーハーネス保持部11から均一な角度で均一な放射形状で形成された構成であるが,本発明はこの構成に限定されるものではないことはいうまでもない」(段落【0014】),「以上説明したように,本発明に係るグロメットによれば,傾斜部を構成する傾斜面の全周にわたり,グロメットの挿入方向に延設された線状凸部を設けることにより,グロメットを所定の開口部に挿入,係止する作業の際に,線状凸部の上面のみが開口部の縁端部に摺接するため,グロメットと開口部との接触面積を小さくして,挿入抵抗を低減することができ,挿入係止作業時の引き込み力を削減して,ワイヤーハーネスの装着作業性を向上させることができる。また,線状凸部をグロメットと同一の材質でグロメットと一体的に形成したので,傾斜部に延設された線状凸部は,機械加工法を用いて成形金型の傾斜部に,切削加工を施すか,あるいは,あらかじめ尾根状部分を形成するように加工することにより,極めて容易かつ短時間で所望の線状凸部を有するグロメットを形成することができるため,金型の加工方法及び加工時間を複雑,長期化することなく,金型加工コストを抑制することができる。また,線状凸部を,線状体保持部を除く係止部側のみに形成したので,グロメットの挿入抵抗をより一層低減することができる」(発明の効果,段落【0031】〜【0032】)との記載がある。しかしながら,これらの記載においては,本件発明1の目的ないし作用効果として,専ら,挿入抵抗の低減(並びに成形金型の加工コスト及び加工時間の低減)の点についてのみ説明されており,原告主張に係るグロメットの保持力増大の点に関しては何らの記載も認められない。
(3) 原告は,本件発明1のグロメットは,複数条の線状凸部を形成することにより,挿入抵抗の低減を図るとともに,当該線状凸部の線状体保持部側の端面を肉厚な段状に突出させ,線状体保持部側の先端に段差を発生させることにより,グロメットの保持力増大の作用効果を有するものであり,このような作用効果は,訂正明細書(甲7添付)の発明の詳細な説明に明記された「挿入抵抗を低減して容易に係止固定する」(段落【0007】)との課題に沿うものである上,訂正明細書に接した当業者にとって,本件発明1の「線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて」との構成から容易に理解される,自明の作用効果というべきであると主張し,さらに,グロメットの保持力増大の作用効果に関する説明として,別紙参考図(U)を援用して,同図の図(A)に示すとおり,本件発明1のグロメットGを車両パネル開口部の縁端部(5)に装着した状態で,グロメットの係止部方向からワイヤーハーネスが引っ張られた場合,線状体保持部(1)の外周面が引っ張り方向へ移動しようとするのに対し,同図(B)に示すとおり,線状凸部2の端面の段差(2a)が圧接した状態で引っ掛かり,線状体保持部(1)の移動を阻止する旨主張する。
このような原告の主張自体から明らかなとおり,原告主張に係るグロメットの保持力増大の作用効果を生じるためには,少なくとも,グロメットの傾斜部に設けられた線状凸部が,@線状体保持部側の端面(先端)において段差を有するものであること及びAワイヤーハーネスが引っ張られた場合,線状凸部の端面の段差が線状体保持部に圧接した状態で引っ掛かる位置関係にあること,以上二つの構成が不可欠であるということができるが,訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1においては,上記のとおり,「前記線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて前記係止部まで延設され,前記開口部に摺接する複数条の線状凸部」を有すると規定されているものの,当該線状凸部が,上記@及びAの構成を有するものであることは記載されていない。他方,上記(2)のとおり,訂正明細書発明の詳細な説明では,本件発明1の目的ないし作用効果として,専ら,挿入抵抗の低減(並びに成形金型の加工コスト及び加工時間の低減)の点についてのみ説明されているところ,挿入抵抗の低減という作用効果を発揮するための構成としては,線状凸部は,単に,「肉厚な段状に突出」したものであれば足り,上記@及びAのような限定された構成を採る必要はないから,特許請求の範囲には,発明の詳細な説明に記載した発明を記載しなければならないこと(特許法36条6項1号)に照らし,仮に,発明の詳細な説明参酌するとしても,上記請求項1の規定内容を,上記@及びAのように限定して理解すべき理由はない。加えて,本件発明1の第2実施例として示された図4(甲2)においては,線状凸部が傾斜部の半分程度しかなく,上記Aの構成を備えていないことをも考慮すれば,上記請求項1の規定内容を,上記@及びAのように限定して解釈することができないことは明らかというべきである。
これに対し,原告は,上記請求項1の記載自体から,線状凸部の線状体保持部側の端部(先端)が肉厚な段状であることは明らかである旨主張する。しかしながら,上記請求項1の記載からは,線状凸部が,全体として,「肉厚な段状に突出」したものであることが規定されているとはいえるものの,文言上,その突出に係る位置,形状,厚さ等については具体的な限定がされていないのであるから,線状凸部の線状体保持部側の端部(先端)において,必ず段差が形成されているものに限定する趣旨であるとまではいうことができず,また,そうである以上,原告主張に係るグロメットの保持力増大の作用効果が,原告主張のように,訂正明細書に接した当業者にとって,本件発明1の「線状体保持部側から肉厚な段状に突出されて」との構成から容易に理解される,自明の作用効果であるということもできない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
また,原告は,訂正明細書の段落【0014】の「図1(a),(b)においては,線状凸部15aを傾斜部14に均等に配置した構成,すなわち,延設長さ,突出高さ,凸部断面形状が均一」であるとの記載及び図1(甲2)を援用するが,上記記載及び図1は,飽くまで,本件発明1の第1実施例についての説明にすぎず,同段落に,「本発明はこの構成に限定されるものではないことはいうまでもない」とあるとおり,仮に,その記載等を参酌しても,本件発明1の線状凸部が,すべて「延設長さ,突出高さ,凸部断面形状が均一」であることを要するとまでは解することができないから,採用の限りではない。
さらに,原告は,上記請求項1において,「線状体保持部を除く前記傾斜部の外表面の全周にわたり」,「線状体保持部側から・・・前記係止部まで延設され」と規定したことにより,訂正明細書の図4(甲2)の構成は本件発明1から除外されているとも主張する。しかしながら,訂正明細書においても,本件発明1の第2実施例として,上記図4が引用されている(段落【0024】〜【0025】)ところ,上記請求項1の「線状体保持部を除く前記傾斜部の外表面の全周にわたり」との限定については,設定登録時の特許請求の範囲の記載(甲2)において,単に,「前記傾斜部の外表面の全周にわたり」と規定されていた(ここでいう「傾斜部の外表面の全周」とは,線状凸部が,傾斜部の円周方向に満遍なく設けられるものであることを規定する趣旨であったことは明らかである。)ものにつき,その後,本件訂正により「線状体保持部を除く」との限定を付加したものであることからすれば,原告主張のように,「線状体保持部に近接する位置までの傾斜部の全外表面の全周」を意味するものとは解されず,単に,線状凸部が,傾斜部の円周方向に満遍なく設けられるものであることを規定するとともに,線状凸部が線状体保持部には設けられないことを確認的に規定したものと解するほかはない(さもなければ,当該要件を付加した本件訂正が新規事項の追加に当たることにもなろう。)。また,上記請求項1の「線状体保持部側から・・・前記係止部まで延設され」の「線状体保持部側から」については,「側」という語を含むことから,必ずしも,原告主張のように,線状凸部が「傾斜部の線状体保持部に近接した位置から」突出されていることを意味するものであることが,文言上,一義的に明確であるとはいえず,むしろ,上記図4及び訂正明細書の上記段落【0024】〜【0025】の記載を参酌して,当該第2実施例をも含むように,「線状体保持部方向から」程度の広い意味に理解するのが相当というべきである。したがって,原告の上記主張は採用の限りではない。
(4) 以上によれば,原告の主張は,その主張に係る構成自体が,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,採用することができない。さらに,原告は,決定が,グロメットの保持力増大の作用効果に関する原告の主張を採用しなかったことは違法であるとして,るる主張しているが,そもそも,当該作用効果自体が,特許請求の範囲に記載された構成に基づくものとは認められず,また,当該構成から自明な事項であるともいえないことは上記判示のとおりであるから,これを顧慮しなかった決定の判断に誤りはない。
したがって,その余の点につき検討するまでもなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)について 決定は,「本件発明2の規定『該線状凸部を前記線状体保持部を除く係止部側で,該線状凸部の上面のみが前記開口部の縁端部に摺接するように形成した』については,前示のイ,エのaでの検討(注,本件発明1に関する検討を指す。)があてはまるから,本件発明2は,刊行物1に記載された発明(注,刊行物1発明)及び周知慣用技術(刊行物2)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ」る(審決謄本6頁下から第3段落)と判断したところ,原告は,本件発明1に係る決定の判断が誤りである以上,本件発明2に関する上記判断も誤りである旨主張する。
しかしながら,本件発明1に係る決定の判断に誤りがないことは,上記1のとおりであるから,原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 早田尚貴