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事件 |
平成
25年
(行ケ)
10300号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2014/11/04 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成26年11月4日判決言渡 平成25年(行ケ)第10300号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成26年10月9日 判 決 原 告 X 訴訟代理人弁護士 宮 嶋 学 同 大 野 浩 之 同 高 田 泰 彦 同 柏 延 之 被 告 独 立 行 政 法 人 産 業 技 術 総 合 研 究 所 訴訟代理人弁理士 江 藤 保 子 同 綿 谷 晶 廣 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 特許庁が無効2012−800203号事件について平成25年9月30日 にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) 被告は,平成18年8月24日に出願され,平成24年7月27日に設定 1 登録された,発明の名称を「炭化珪素半導体装置の製造方法」とする特許第 5046083号(以下「本件特許」という。請求項の数は4である。)の 特許権者である。 原告は,平成24年12月11日,特許庁に対し,本件特許を無効にする ことを求めて審判の請求をした。特許庁は,上記請求を無効2012−80 0203号事件として審理をした結果,平成25年9月30日,「本件審判 の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同年10月10 日,原告に送達した。 原告は,同年11月7日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起し た。 2 特許請求の範囲の記載(甲12) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,以下のとおりであ る(以下,同請求項1に記載された発明を「本件発明1」のようにいう。ま た,本件発明1ないし4を併せて「本件発明」といい,本件特許の明細書及び 図面をまとめて「本件明細書」という。。 ) 「【請求項1】 ショットキー電極の終端領域の下の第1導電型の低濃度の炭化珪素膜に,イ オン注入により第2導電型の領域を形成し高温活性化処理する工程を含む炭化 珪素半導体装置の製造方法において, 上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は,結晶学的面指数が(0001)面 又は(000−1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されてお り, 上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立っ て,上記高温活性化処理する工程後に,上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工 程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし,50nm未満を除 く)の二酸化珪素層を除去する工程を備えたことを特徴とする炭化珪素半導体 2 装置の製造方法。 【請求項2】 犠牲酸化によって形成された140nm未満の二酸化珪素層を除去するこ とを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。 【請求項3】 犠牲酸化によって形成した140nm以上の二酸化珪素層を除去することを 特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。 【請求項4】 表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上の二酸 化珪素層を除去する工程を,複数回繰り返して行うことを特徴とする請求項1 に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。」 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであるが,その要旨は, 本件発 明1は,「Kiyoshi Tone, Jian H Zhao, Maurice Weiner and Menghan Pan, "4H-SiC junction-barrier Schottky diodes with high forward current densities", SEMICONDUCTOR SCIENCE AND TECHNOLOGY, (イギリ ス), IOP Publishing, 2001 年, Vol. 16, No. 7, p. 594-597」(甲1。以下「甲 1」という。)記載の発明(以下「甲1記載発明」という。)及び周知技術に基 づいて,又は,「LIHUI CAO, 4H-SiC Gate Turn-Off Thyristor and Merged P-i-N and Schottky Barrier Diode, (アメリカ合衆国), UMI Dissertation Services, 2000 年, p. 64-91」(甲6。以下「甲6」という。)記載の発明(以 下「甲6記載発明」という。)及び周知技術に基づいて,いずれも当業者が容 易に発明することができたものではなく,特許法29条2項により無効とする ことはできない, 同様に,本件発明2ないし4は,甲1記載発明及び周知 技術に基づいて,又は,甲6記載発明及び周知技術に基づいて,いずれも当業 者が容易に発明することができたものではなく,特許法29条2項により無効 3 とすることはできない,というものである。 審決が認定した甲1記載発明の内容,本件発明1と甲1記載発明との一致点 及び相違点,並びに,甲6記載発明の内容,本件発明1と甲6記載発明との一 致点及び相違点は以下のとおりである。 甲1記載発明の内容 「マルチステップ接合終端延長(MJTE)を有する4H−SiC ジャン クションバリアショットキー(JBS)ダイオードの製造方法であって, n − 4H−SiCエピタキシャル層が,n + 4H−SiC基板上に設けら れたn型4H−SiCエピタキシャルウエハに,Alイオンの注入によっ て,JBS及びMJTEのp+注入領域を同時に形成する工程と, 続いて,注入されたAl原子を,1400℃で熱的に活性化する工程と, 続いて,MJTE用の段をエッチングで形成する工程と, 続いて,ウエハに,60nmの厚みの熱酸化膜と,1.0μmの厚みのL PCVD酸化膜を形成して不動態化する工程と, 続いて,緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって,不動態化された酸化 膜内に開口を形成する工程と, 続いて,Ni層に続いてAl層をスパッタ堆積することで,ショットキー バリア(SB)接触をn−4H−SiCエピタキシャル層表面に形成する工 程を備えたことを特徴とする4H−SiC JBSダイオードの製造方 法。」 本件発明1と甲1記載発明の一致点 「ショットキー電極の終端領域の下の第1導電型の低濃度の炭化珪素膜に, イオン注入により第2導電型の領域を形成し高温活性化処理する工程を含む 炭化珪素半導体装置の製造方法において, 上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は,第1導電型の炭化珪素基板上に 堆積されており, 4 上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立 って,上記高温活性化処理する工程後に,上記炭化珪素膜表面を酸化する工 程,及び酸化により形成された40nm以上(ただし,50nm未満を除 く)の二酸化珪素層に対する処理工程を備えたことを特徴とする炭化珪素半 導体装置の製造方法。」である点。 本件発明1と甲1記載発明の相違点 ア 相違点1 「本件発明1は,「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は,結晶学的面 指数が(0001)面又は(000−1)面を有する第1導電型の炭化珪 素基板上に堆積されて」いるのに対し,甲1記載発明は,「上記第1導電 型の低濃度の炭化珪素膜は,第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」 いるものの,本件発明1の「第1導電型の炭化珪素基板」に対応する「n + 4H−SiC基板」の結晶学的面指数が特定されていない点。」 イ 相違点2 「「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に 先立って,上記高温活性化処理する工程後」に備えている「上記炭化珪素 膜表面を酸化する工程,及び酸化により形成された40nm以上(ただ し,50nm未満を除く)の二酸化珪素層に対する処理工程」が,本件発 明1は,「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形 成された40nm以上(ただし,50nm未満を除く)の二酸化珪素層を 除去する工程」であるのに対し,甲1記載発明は,「60nmの厚みの熱 酸化膜と,1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する 工程」と,「続いて,緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって,不動態 化された酸化膜内に開口を形成する工程」である点。」 甲6記載発明の内容 「デバイスの終端にフローティングフィールドリングを有する4H−SiC 5 pn・ショットキーバリア融合ダイオード(MPS)の製造方法であって, n+4H−SiC基板上に設けられたn型ドリフト層の表面に,MPS及 びフローティングフィールドリングのためのp領域を形成するために,Al をイオン注入する工程(15)と, 不純物を活性化するために1550℃でアニールする工程(17)と, 1100℃で1時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第1熱酸 化層を形成し,緩衝フッ酸(BHF)で第1熱酸化層を除去する工程(1 9)と, 1100℃で5時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第2熱酸 化層を形成する工程(21)と, 表面側ショットキー金属パタ−ン形成のためのリソグラフィを行う工程 (25)と, 第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)と, 表面側ショットキー金属(Ni)をスパッタ堆積する工程(27)と, リフトオフにより,開口内に表面側ショットキー金属(Ni)のパタ−ン を形成する工程(28)とを備えたことを特徴とする4H−SiC MPS の製造方法。」 本件発明1と甲6記載発明の一致点 「ショットキー電極の終端領域の下の第1導電型の低濃度の炭化珪素膜に, イオン注入により第2導電型の領域を形成し高温活性化処理する工程を含む 炭化珪素半導体装置の製造方法において, 上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は,第1導電型の炭化珪素基板上に 堆積されており, 上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立 って,上記高温活性化処理する工程後に,上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化す る工程及び犠牲酸化により形成された二酸化珪素層を除去する工程を備えた 6 ことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。」である点。 本件発明1と甲6記載発明の相違点 ア 相違点3 「本件発明1は,「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は,結晶学的面 指数が(0001)面又は(000−1)面を有する第1導電型の炭化珪 素基板上に堆積されて」いるのに対し,甲6記載発明は,「上記第1導電 型の低濃度の炭化珪素膜は,第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」 いるものの,本件発明1の「第1導電型の炭化珪素基板」に対応する「n + 4H−SiC基板」の結晶学的面指数が特定されていない点。」 イ 相違点4 「本件発明1は,「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化 により形成された40nm以上(ただし,50nm未満を除く)の二酸化 珪素層を除去する工程」を備えているのに対し,甲6記載発明は,「上記 炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された二酸化 珪素層を除去する工程」を備えているものの,本件発明1の「二酸化珪素 層」に対応する「第1熱酸化層」の厚さが不明である点。」 第3 原告の主張 審決には,本件発明1及び4の要旨認定の誤り(取消事由1),本件発明1 と甲1記載発明の一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由2),相違点1に 係る容易想到性の判断の誤り(取消事由3),相違点2に係る容易想到性の判 断の誤り(取消事由4),本件発明1と甲6記載発明の一致点及び相違点の認 定の誤り(取消事由5),相違点3に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由 6)及び相違点4に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由7)があり,これ らの誤りはいずれも審決の結論に影響するものであるから,審決は違法として 取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件発明1及び4の要旨認定の誤り) 7 ア 審決は,「本件発明1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び 犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし,50nm未満を除く) の二酸化珪素層を除去する工程」における「除去する工程」の「除去」対 象物は,「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程」により「形成された」 「二酸化珪素層」である。したがって,本件発明1の当該「除去する工程 は,当該対象物を「除去」する工程,すなわち,取り除く工程であるか ら,「犠牲酸化により形成された」「二酸化珪素層」をすべて取り除くもの と認められる。 (審決書34頁7行目(空白行を含む。 」 )〜13行目)と 判断している。 イ しかし,発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明 細書の特許請求の範囲に基づいてされるべきであるところ(最高裁昭和6 2年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号1 23頁。以下「リパーゼ判決」という。,本件特許の特許請求の範囲の請 ) 求項1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形 成された40nm以上(ただし,50nm未満を除く)の二酸化珪素層を 除去する工程」は,その文言からみて,「犠牲酸化により形成された40 nm以上(ただし50mm未満を除く)の二酸化珪素層」を部分的に除去 する工程と全て除去する工程の両方を含む,すなわち,「除去」は「部分 的に」除去する概念と「全て」除去する概念の上位概念として記載されて いることが明らかである。また,甲33ないし35においても,「除去す る」という文言が必ずしも全てを除去することを意味しないことが示され ている。 ウ また,本件発明は,劣化した炭化珪素表面の上にショットキー電極を形 成すると,漏洩電流の問題が発生し,高耐圧のショットキーバリアダイオ ード(以下「SBD」という。)を効率良く製造することができないこと を課題とする。この課題を考慮すれば,ショットキー電極が形成される予 8 定の場所に位置する二酸化珪素を除去すればよく,ショットキー電極が形 成される予定以外の場所に位置する二酸化珪素を必ずしも除去する必要は ない。「犠牲」という文言が使用されているからといって,全てを除去す ることを意味するものではないことは,甲32ないし甲35の記載からも 明らかである。 審決は,上記の特許請求の範囲の記載を超えて「すべて」という文言を 付加したものであって,リパーゼ判決に反しており,本件発明1の要旨の 認定を誤ったものである。 エ 被告は,犠牲酸化層を残存させると種々の問題が発生する旨主張する。 しかし,被告の主張する上記問題点はいずれも本件明細書に記載のない ものである。むしろ,犠牲酸化層もSiO2 の層であり,電気的に絶縁性 を示すのであるから,本件発明の課題である漏洩電流の問題を解決するも のである。また,特開2004−289041号公報(甲5。以下「甲 5」という。)の「デバイス性能の低下や不安定」が何を意味するのかは 明らかではなく,少なくとも本件発明の解決課題である漏洩電流に関する ものではない。 また,本件発明1について述べたのと同様の理由から,審決の本件発明4 の要旨認定にも誤りがある。 2 取消事由2(本件発明1と甲1記載発明の一致点及び相違点の認定の誤り) 審決は,本件発明1と甲1記載発明の相違点2として,前記第2の3 イの とおり認定している。 しかし,前記1 のとおりに本件発明1を正しく要旨認定すれば,本件発明 1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された 40nm以上(ただし,50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工 程」は,例えばショットキー電極を形成する予定の部分といった二酸化珪素層 の一部を取り除くことも含む。 9 したがって,本件発明1と甲1記載発明との間には,審決が相違点2で示し たような相違点は存在せず,審決の一致点及び相違点2の認定は誤りである。 3 取消事由3(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り) 審決は,本件発明1は,本件発明1の各構成を採用することにより,漏洩電 流の少ないSBD(逆方向電圧を100V印加した時に流れる電流値が10−6 A/cm2以下のSBD)の割合が0%より大きくなる(当該割合が100% に近付く)という効果を奏するものである一方,甲1記載発明の「n+4H− SiC基板」の結晶学的面指数は特定されておらず,本件発明1の上記効果を 当然に備えているとはいえないし,甲1には,活性化後に生じる汚染又は損傷 等に起因する漏洩電流に関して,記載も示唆もなく,活性化後に行う犠牲酸化 で表面から取り除く量を一定値以上とすることで漏洩電流が劇的に減少する点 について,記載も示唆もない,甲5の「基板表面に約20〜40nmの一過性 の酸化膜(1100℃,DRY酸化)を成長させ,成長した酸化膜を希釈フッ 酸溶液(DHF)で直ちに取り除く。この工程によって,イオン注入と活性化 熱処理で基板表面に生じた結晶不整層,注入損傷層,各種汚染層,炭化層を効 果的に除去することができる。( 」【0023】)との記載も,本件発明1の「犠 牲酸化により形成された」「二酸化珪素層」の除去厚さを下回るものである し,甲5における「一過性の酸化膜」の形成及び除去は,残存させる「熱酸化 膜9」に結晶の汚染や欠陥が取り込まれることによるデバイス性能の低下や不 安定の原因を解消するためのものであって,活性化後に生じる汚染又は損傷等 により劣化した炭化珪素表面上のショットキー電極形成による漏洩電流の問題 を解決するためのものではない,甲5には,活性化後に生じる汚染又は損傷等 に起因する漏洩電流に関して,記載も示唆もなく,活性化後に行う犠牲酸化で 表面から取り除く量を一定値以上とすることで漏洩電流が劇的に減少する点に ついて,記載も示唆もない,とした上で,たとえ相違点1に係る「第1導電型 の低濃度の炭化珪素膜は,結晶学的面指数が(0001)面又は(000− 10 1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されていること」が周知技 術であるとしても,甲1の記載,及び周知ないし公知の技術(甲2〜5)に基 づいて,当業者が本件発明1の上記効果を予測することができたものではな く,本件発明1は甲1記載発明と比較した有利な上記効果を有するものである から,甲1記載発明において,「n + 4H−SiC基板」の結晶学的面指数を (0001)面又は(000−1)面とし,上記相違点1に係る本件発明1の 構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない,と認定判断した (審決書32頁下から2行目〜33頁9行目)。 しかし,審決の指摘する「有利な上記効果」は, 「n+4H−SiC基板」 「 の結晶学的面指数を(0001)面又は(000−1)面と」することが要因 となっているものではない。 すなわち,本件発明1の「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は,結晶学 的面指数が(0001面)又は(000−1)面を有する第1導電型の炭化珪 素基板上に堆積されており」という記載は,本件発明の課題を解決したり効果 を得るための構成要素ではなく,サポ−ト要件(特許法36条6項1号)に違 反していることから必要となった構成要素である。 他方,炭化珪素半導体装置において(0001面)又は(000−1面)を 利用することは周知技術(甲2〜4,26〜28)であり,当業者であれば当 然試みるアプロ−チであって,これを甲1記載発明に対して適用する動機付け が存在する。 したがって,審決の相違点1に係る容易想到性の判断には誤りがある。 4 取消事由4(相違点2に係る容易想到性の判断の誤り) 審決は,甲1記載発明の「60nmの厚みの熱酸化膜」につき,様々な目的 が考えられるから,上記の熱酸化膜は,活性化後に生じた汚染又は損傷等によ り劣化した炭化珪素表面を取り除くことを目的としたものとはいえない,とし (審決書33頁26行目〜33行目),甲1に本件特許の目的に対応する記載 11 がないことをもって,本件発明1が甲1記載発明に対して優れた効果を有して いるかのような判断をしている。 しかし,同じ対象物に対して同じ処理を行えば同じ結果がもたらされるのは 当然のことであり,その目的が開示されているか否かは重要ではない。本件発 明1と甲1記載発明とでは,「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショッ トキー電極形成に先立って,上記高温活性化処理する工程後に,上記炭化珪素 膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただ し,50nm未満を除く)の二酸化珪素を除去する」ことで共通しており,同 じ対象物に対して同じ処理を行っているのであるから,同じ結果(同じ効果) が得られる。 したがって,審決が,目的を問題にしているのは当を得ていない。 5 取消事由5(本件発明1と甲6記載発明の一致点及び相違点の認定の誤り) 審決は,本件発明1と甲6記載発明の相違点4として,前記第2の3 イの とおり認定した。 しかし,前記1 のとおり,本件発明1における二酸化珪素層の「除去」 は,二酸化珪素層の一部を取り除くことも含むのであるから,厚さ方向の一部 を除去することも含む。 そして,本件特許の特許請求の範囲の請求項3及び本件明細書の【001 5】の記載に照らすと,本件発明1の「犠牲酸化によって形成された40nm 以上(ただし,50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する」という文言 は,複数回の犠牲酸化(熱酸化)で犠牲酸化膜(熱酸化膜)を除去する態様を 含んだものであるというべきである。 そうすると,本件発明1と甲6記載発明との間には,甲6記載発明では「第 1熱酸化層」の厚みと「第2熱酸化層」の厚みの合計値について明記されてい ないという相違点が存在するのみであり,審決が相違点4として挙げるような 相違点は存在しない。 12 6 取消事由6(相違点3に係る容易想到性の判断の誤り) 前記3において相違点1について述べたのと同様の理由により,相違点3に ついて容易想到性を否定した審決の判断は誤りである。 7 取消事由7(相違点4に係る容易想到性の判断の誤り) 前記5のとおり,本件発明1と甲6記載発明との間には,甲6記載発明に は,「第1熱酸化層」の厚みと「第2熱酸化層」の厚みの合計値について明記 されていないという相違が存在するだけである。 そして,審決は,甲6記載発明では,「第1熱酸化層」の厚みと「第2熱酸 化層」の厚みとの合計値が明記されていないが,甲1に記載された公知ないし 周知の事項を甲6記載発明に適用し,「第2熱酸化層」の厚さを60nm以上 とすることは容易であると判断している(審決書46頁下から4行目〜2行 目)。したがって,甲6記載発明において,「第2熱酸化膜」の厚み(この結 果,「第1熱酸化層」の厚みと「第2熱酸化層」の合計値)を60nm以上と することは,当業者にとって容易なものである。 そうすると,甲6記載発明において,相違点4に係る構成を本件発明1の構 成とすることは,当業者が容易になし得たものといえ,これを否定した審決の 判断には誤りがある。 第4 被告の反論 1 取消事由1(本件発明1及び4の要旨認定の誤り)について ア 原告は,本件発明1は,「犠牲酸化により形成された40nm以上(た だし50nm未満を除く)の二酸化珪素層」を部分的に除去する工程と全 て除去する工程の両方を含むものである旨主張する。 しかし,「除去」とは,広辞苑(乙1)にもあるように,「とりのぞく」 ことであり,除去した後には残らないことを意味しており,「除去する」 といえば,「部分的に除去する」あるいは「一部分を除去する」などの限 定がない限り,全てを除去することを意味するのが通常である。 13 なお,甲6の記載からも明らかなように,半導体技術分野においては, 「除去する」という用語を,表面酸化層に「開口を開ける」ことと区別し て用いるのが技術常識である。 審決において,「すべて」という文言を付加して記載しているのは,本 件発明の「犠牲酸化により形成された・・・二酸化珪素を除去する工程」 が,甲1の「不動態化された酸化膜」又は甲6の「表面熱酸化層」に「開 口を開ける」工程とは異なることを明らかにするためであると理解でき る。審決の記載は,「犠牲酸化により形成された・・・二酸化珪素を取り 除く工程」という記載を,その記載のとおり認定するものであり,構成要 件を付加するものではないから,リパーゼ判決に反するものではない。 イ 犠牲酸化とは「犠牲」という用語が示すとおり,除去することを前提と した酸化のことである。犠牲酸化により形成された二酸化珪素層は,その 中に活性化で生じた汚染又は損傷等の層が取り込まれるものであるから (本件明細書【0015】,取り除かれることを前提として形成されるも ) のであり,何らかの特段の事情がない限り,残存させることはない。 ウ 甲5(【0024】)には,「従来技術では上記一過性の熱酸化膜を形成 することなく,熱酸化膜を形成しているので,酸化した膜中に結晶の汚染 や欠陥が取り込まれる。このような結晶の汚染や結果(「欠陥」の誤記と 認められる。)の取り込みは,デバイス性能の低下や不安定の原因とな る。」と記載されており,ここでいう「一過性の酸化膜」が,その後に形 成される熱酸化膜への結晶の汚染や欠陥が取り込まれることを防止する目 的で形成された「犠牲酸化膜」であり,除去されることを前提とした膜で ある。 また,電極が形成される部分のみを除去し,それ以外の犠牲酸化によっ て形成された二酸化珪素層を取り除かずに残しておくと,@炭化珪素基板 表面のキャリアは,犠牲酸化膜の欠陥に捕獲されたり放出されたりして, 14 形成されたデバイスの雑音を増加させ,A不純物が取り込まれた犠牲酸化 膜の場合は,当該不純物がイオン化して表面のキャリア濃度を設計値と異 なる状態にしてしまうので,形成されるデバイスの耐圧,リーク電流を望 まない方向へ変化させてしまうという問題を発生させることは,本件出願 時の技術常識であり,このことは甲5の上記記載からも明らかである。し たがって,犠牲酸化層について電極部分以外を残すことはない。 本件発明1について述べたのと同様の理由により,審決の本件発明4の要 旨認定にも誤りはない。 2 取消事由2(本件発明1と甲1記載発明の一致点及び相違点の認定の誤り) について 原告は,本件発明1を正しく要旨認定すれば,本件発明1の「上記炭化珪素 膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただ し,50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」は,例えばショッ トキー電極を形成する予定の部分といった二酸化珪素層の一部を取り除くこと も含むから,本件発明1と甲1記載発明との間には,審決が相違点2で示した ような相違点は存在しない旨主張する。 しかし,前記1 のとおり,二酸化珪素層の一部を取り除くものは,本件発 明1の「除去する」には含まれないのであるから,原告の主張はその前提にお いて誤りである。 また,甲1に記載された「不動態化された酸化層」は,保護層であり,存在 することにより保護機能を発揮させるものであって,犠牲酸化層とは兼用ので きない別個の層であること,犠牲酸化層の形成工程と保護層の形成工程とは別 個の工程であること(甲5,6)は,いずれも技術常識である。しかも,保護 層の一部を電極に置き換える操作手順の一部である開口を開ける工程が,犠牲 酸化により形成された犠牲酸化層の除去の工程に該当することや,犠牲酸化に より形成された犠牲酸化層と保護層との兼用が可能であることを示す証拠の提 15 出もない。 以上によれば,甲1に記載された「不動態化された酸化層」は,本件発明1 の犠牲酸化により形成された犠牲酸化層ではない。 したがって,相違点2を認定した審決の認定に誤りはない。 3 取消事由3(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り)について 原告は,本件発明1の「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は,結晶学的 面指数が(0001面)又は(000−1)面を有する第1導電型の炭化珪素 基板上に堆積されており」という記載はサポ−ト要件に違反していることから 必要となった構成要素であり,審決の指摘する本件発明1の各構成を採用する ことにより,漏洩電流の少ないSBD(逆方向電圧を100V印加した時に流 れる電流値が10 −6 A/cm 2 以下のSBD)の割合が0%より大きくなる (当該割合が100%に近付く)という効果は, 「n+4H−SiC基板」の 「 結晶学的面指数を(0001)面又は(000−1)面と」することが要因と なっているものではない,そして,炭化珪素半導体装置において(0001 面)又は(000−1面)を利用することは周知技術であるから,これを甲1 記載発明に対して適用する動機付けが存在する旨主張する。 確かに,原告が主張するように,相違点1に係る構成はサポ−ト要件(特許 法36条6項1号)に違反しているという拒絶理由に対して,補正により追加 された事項である。 しかし,下地基板の結晶学的面指数が異なれば,その上に堆積される炭化珪 素膜の技術課題や解決方法や作用効果が異なることは,半導体技術分野におい て技術常識である。 したがって,相違点1及び2に係る構成は,いずれも,審決の指摘する本件 発明1の上記効果と密接不可分であり,本件発明1の効果に関して技術的意義 を有するものである。そして,上記効果は,甲1記載発明等から当業者が容易 に予測し得る範囲内のものではない。 16 よって,当業者が上記効果を予測することができたものでなく,上記相違点 に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことではないと する審決の判断に誤りはない。 4 取消事由4(相違点2に係る容易想到性の判断の誤り)について 原告は,同じ対象物に対して同じ処理を行えば同じ結果がもたらされるのは 当然のことであり,本件発明1と甲1記載発明とでは,「第1導電型の低濃度 の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って,上記高温活性化処理す る工程後に,上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成 された40nm以上(ただし,50nm未満を除く)の二酸化珪素を除去す る」ことで共通しており,同じ対象物に対して同じ処理を行っているのである から,同じ結果(同じ効果)が得られる旨主張する。 しかし,甲1に記載された「60nmの厚みの熱酸化膜と,1.0μmの厚 みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」と「続いて,緩衝フッ酸 (BHF)エッチングによって,不動態化された酸化膜内に開口を形成する工 程」は,本件発明1とは明らかに異なる処理であり,原告が主張するように, 同じ対象物に同じ処理を行うものではない。 5 取消事由5(本件発明1と甲6記載発明の一致点及び相違点の認定の誤り) について 原告は,本件発明1と甲6記載発明の間には,「第1熱酸化層」の厚みと 「第2熱酸化層」の厚みの合計値について明記されていないという相違が存在 するだけである旨主張する。 しかし,甲6には,「第1熱酸化層」及び「第2熱酸化層」のそれぞれの層 の厚みの記載はなく,これを特定することはできないから,原告の主張は誤り である。 また,原告の主張における「第1熱酸化層」及び「第2熱酸化層」は,それ ぞれ,甲6に記載された(19)の工程及び(21)の工程で形成された酸化 17 層を意味しているものと解されるが,甲6の(19)の工程が本件発明1にお ける犠牲酸化であり,(21)の工程の「ウェット熱酸化」は本件発明1にお ける犠牲酸化ではない。 よって,相違点4を認定した審決の認定判断に誤りはない。 6 取消事由6(相違点3に係る容易想到性の判断の誤り)について 原告は,前記第3の3と同様の理由により,相違点3について容易想到性を 否定した審決の判断は誤りである旨主張するが,審決の相違点1に関する容易 想到性の判断に誤りがないことは前記3のとおりであるから,審決の相違点3 に係る容易想到性の判断にも誤りはない。 7 取消事由7(相違点4に係る容易想到性の判断の誤り)について 原告は,本件発明1と甲6記載発明との間には,甲6記載発明には,「第1 熱酸化層」の厚みと「第2熱酸化層」の厚みの合計値について明記されていな いという相違が存在するだけであり,甲6記載発明において「第2熱酸化層」 の厚さを60nm以上とすることは容易である以上,審決の相違点4に係る容 易想到性の判断に誤りがある旨主張する。 しかし,前記5のとおり,原告の主張はその前提において誤っている。ま た,原告の指摘する審決の記載は,「甲1の「60nmの厚みの熱酸化膜」 と,甲6記載発明の「第2熱酸化層」とは,パッシベーション膜を形成する 「熱酸化膜」という点で,機能が共通している。」との判断を根拠とするもの であり,甲6記載の「第2熱酸化層」の厚さを「60nm」にするにとどま り,甲6に記載された「第1熱酸化層」と「第2の熱酸化層」の合計値につい て言及するものではない。 したがって,審決の相違点4に係る容易想到性の判断に誤りはない。 第5 当裁判所の判断 当裁判所は,原告主張の各取消事由のうち,取消事由1,2,4,5及び7 には理由がないから,その余の取消事由について判断するまでもなく,甲1又 18 は甲6を主引用例とする原告の主張を排斥した審決の結論に誤りはなく,その 他,審決にはこれを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以 下のとおりである。 1 取消事由1(本件発明1及び4の要旨認定の誤り)について 原告は,審決が本件発明1の要旨を「本件発明1の当該「除去する工程」 は,当該対象物を「除去」する工程,すなわち取り除く工程であるから, 「犠牲酸化により形成された」「二酸化珪素層」をすべて取り除くものと認 められる。(審決書34頁11行目〜13行目)と認定したことについて, 」 特許請求の範囲を超えて「すべて」という文言を付加したものであって,リ パ−ゼ判決に反し,本件発明1の要旨の認定を誤ったものであると主張する (前記第3の1 )。 この点,「除去」の辞書的意味は,広辞苑(乙1)によれば,「とりのぞ く」ことである。もっとも,本件特許の特許請求の範囲の請求項1には, 「犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし,50nm未満を除く) の二酸化珪素を除去する工程」における除去の対象につき,二酸化珪素層の 全部であるのか,又は,全部及び一部の両方を含むのかにつき,これを明示 する記載はなく,同請求項の記載から一義的に明確に理解できるとまではい えない。したがって,本件においては,本件明細書の記載を参酌することが 許されるものというべきである。なお,このような参酌はリパーゼ判決に反 するものではない。 本件明細書には,以下の記載がある(甲12)。 ア「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,炭化珪素半導体装置の製造方法に関し,特に炭化珪素基板上 に形成したショットキーバリアダイオード(以下SBDと略称する)の製 19 造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 炭化珪素(SiC)は,シリコン(Si)と比較して,1.バンドギャ ップが広い,2.絶縁破壊強度が大きい,3.電子の飽和ドリフト速度が 大きいなどの優れた物性を有する。したがって,炭化珪素(SiC)を基 板材料として用いることにより,シリコン(Si)の限界を超えた高性能 の高耐圧な電力用半導体素子が製造できる。 【0003】 また,炭化珪素(SiC)には,シリコン(Si)等の半導体と同様 に,金属を表面に堆積させることにより整流特性のあるSBDを製造でき る。これらの理由から,炭化珪素(SiC)を基板材料とした高耐圧で低 オン抵抗のSBDが実現できると考えられ,数多くの研究開発が行われて いる。 【0004】 炭化珪素SBDの耐圧を上げる方法として,ショットキー電極の終端領 域にイオン注入でガ−ドリングを形成した構造が使われている・・・。 図1(判決注・別紙図1参照)は,一般的な構造の断面図である。この 構造では,高濃度n型基板1上に低濃度n型ドリフト層2が堆積されてい る。その後,p型不純物をイオン注入法によってp型領域3が形成され る。イオン注入されたp型不純物は格子間に留まったままであるためキャ リアを放出せずp型領域として動作しない。そのため,活性化と呼ばれる 高温処理を行うことによって,p型不純物は格子サイトに置換(活性化) されp型領域として動作する。その後,高濃度n型基板1上にオーミック 電極(金属又はシリサイド)5を形成し,低濃度n型ドリフト層2上にシ ョットキー電極4として2上に金属を堆積させる。ショットキー電極4の 20 終端はイオン注入と活性化によって形成したp型領域3と重なるように形 成される。その結果,逆方向に高電圧をかけたときのショットキー電極終 端部での電界集中が緩和され,所定の阻止特性を有する高耐圧SBDとし て動作する。 【0005】 イオン注入されたp型不純物の活性化を行うために1600℃以上の温 度でアルゴン雰囲気中で高温処理されるが,活性化によりSiCの表面が 汚染又は損傷等を受けているため,活性化後の炭化珪素2表面上にショッ トキー電極4を堆積させると電気特性が劣化する。電気特性の劣化は漏洩 電流に顕著に現れ,高耐圧SBDとして動作しない。このため,高温の活 性化を行うプロセスで漏洩電流の少ないSBDを歩留まりよく製造はでき ない問題がある。 【0006】 炭化珪素(SiC)は,熱酸化によって二酸化珪素層を炭化珪素(Si C)表面上に形成する。この二酸化珪素層をフッ化水素酸によって処理す ることにより取り除くことができる。この方法は炭化珪素(SiC)表面 を新たな損傷を与えることなく取り除くことができる。炭化珪素(Si C)表面の汚染又は損傷等した層を取り除く方法として知られており,犠 牲酸化と呼ばれている。さらに,二酸化珪素の厚さは酸化時間と温度によ り制御できるため,炭化珪素表面の研削厚さを制御することが可能であ る。 【0007】 SBD製造工程において,高温活性化の後ショットキー電極を形成する 前に,この犠牲酸化を行う製造工程は知られている・・・。 【0008】 しかしながら,活性化後に行う犠牲酸化で表面から取り除く量が少なけ 21 れば漏洩電流の劇的な減少が見られないことが発明者らの実験によって明 らかになった。」 イ「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は,炭化珪素半導体装置において,活性化後に生じる汚染又は損 傷等により劣化した炭化珪素表面上のショットキー電極形成による漏洩電 流の問題を解決し,高耐圧SBDを効率良く製造するプロセスを提供する ことを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明は,活性化により劣化した炭化珪素(SiC)表面を除去する方 法を,酸化により形成された二酸化珪素層をフッ化水素酸等により除去 し,除去する量を酸化により形成された二酸化珪素層を40nm以上とす ることを特徴とする。 より詳細には次のような手段により解決される。 ショットキー電極の終端領域の下の第1導電型の低濃度の炭化珪素 膜に,イオン注入により第2導電型の領域を形成し高温活性化処理する工 程を含む炭化珪素半導体装置の製造方法において,第1導電型の低濃度の 炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って,上記高温活性化処理 する工程後に,上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化によ り形成された40nm以上の二酸化珪素層を除去する工程を備えたことを 特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。・・・ 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば,炭化珪素半導体装置において,活性化後に生じる汚染 又は損傷等により劣化した炭化珪素表面上のショットキー電極形成による 22 漏洩電流の問題を解決し,高耐圧SBDを効率良く製造することができ る。」 ウ「【発明を実施するための最良の形態】 【0012】 図2(判決注・別紙図2参照)は,本発明に係る実施例である炭化珪素 SBDの製造工程説明図である。図2Aにおいて,たとえば,1×1018 cm −3 の窒素がドーピングされた厚さ300μmの(0001)面を有 する高濃度n型基板1表面上には,たとえば,5×10 15cm −3 の窒素 がドーピングされた厚さ6μmの低濃度n型ドリフト層2が堆積される。 【0013】 前記炭化珪素基板に,終端構造用のp型領域を形成するために図2Bに おいて,たとえば,アルミニウム(Al)を注入する。注入するアルミニ ウムイオンの入射エネルギーと注入量は,たとえば,200keVで4× 1016/cm2,120keVで2×10 16/cm2 ,70keVで1. 6×10 16 /cm2,30keVで1×10 16 /cm 2の4段階で行い, Al濃度3×1020/cm3で厚さ0.3μmの領域3を形成する。 【0014】 前記炭化珪素基板で,終端構造用のp型領域3を形成するために注入さ れたアルミニウムを活性化するために,図2Cにおいて,たとえば,Ar 雰囲気中において1800℃で30秒間の活性化を行う。活性化後汚染又 は損傷等の層6が生じる。 【0015】 前記炭化珪素基板から,図2Dにおいて,活性化後に生じた汚染又は損 傷等の層6を除去するため,たとえば,1200℃の酸素雰囲気中で18 0分の酸化を行い50nmの二酸化珪素層7を形成する。その結果,活性 化で生じた汚染又は損傷等の層4を二酸化珪素層7の中に取り込まれる。 23 その後,たとえば,5%フッ化水素酸に10分間さらすことにより炭化珪 素基板上に形成された二酸化珪素層7を除去する(図2E)。この酸化, フッ化水素酸処理を,たとえば,3回繰り返すことにより合計150nm の二酸化珪素層7と同時に活性化で生じた汚染又は損傷等の層6が除去さ れる。 【0016】 図2Fにおいて,前記炭化珪素基板上に,たとえば,ニッケルを9.0 ×10 − 8 Torrで蒸着することによりショットキー電極4を形成す る。ショットキー電極4の終端部分は,SBDを高耐圧素子として動作さ せるために,たとえば,ショットキー電極4の端とp型領域3が4μm重 なるようにする。たとえば,裏面にオーミック電極5を形成する場合は, たとえば,ショットキー電極4の形成前にニッケルを50nm蒸着してア ルゴン雰囲気中において1000℃で2分の処理を行う。・・・ 【0020】 以上,本発明の実施例を詳述したが,本発明は前記実施例に限定される ものではない。そして,本発明の趣旨を逸脱することがなければ,種々の 設計変更を行うことが可能である。 前記発明を実施するための最良の形態において,ある終端構造を持つ炭 化珪素SBDにおける断面図に従って説明したが,イオン注入を伴うSB Dの構造であれば,本発明の趣旨を逸脱しない範囲の構造を持つSBDに 対応させることができることはいうまでもないことである。 例えば,図6に示すように,幾つもの第2導電型のリングでショットキ ー接合部を取り囲むことにより,ショットキー接合部の周囲の電界を緩和 し高耐圧を実現するフィールドリミッティングリング(FLR)構造を持 つSBDや,図7に示すように,ショットキー接合面にpn接合を混在さ せることにより逆電流を抑えようとするジャンクションバリアショットキ 24 ー(JBS)ダイオードにも適用できる。」 エ 別紙のとおり,本件明細書には,犠牲酸化によって形成された二酸化珪 素層を全て取り除く例(図2)が記載されている。 他方,本件明細書には,イオン注入を伴うSBDの構造であれば,本発 明の趣旨を逸脱しない範囲の構造を持つSBDに対応させることができる 旨の記載はあるものの,二酸化珪素層の一部のみを取り除くことについて は明示の記載はない。 前記 の本件明細書の記載に基づいて検討する。 本件発明の課題は,炭化珪素半導体装置において,p型不純物の活性化後 に生じる汚染又は損傷等により劣化した炭化珪素表面上のショットキー電極 形成による漏洩電流の問題を解決し,高耐圧SBDを効率良く製造するプロ セスを提供することにある(【0009】 。従来技術として,SBD製造工 ) 程において,高温活性化の後,ショットキー電極を形成する前に,犠牲酸化 を行う製造工程が知られているが,活性化後に犠牲酸化で表面から取り除く 汚染又は損傷等した層の量が少なければ,漏洩電流の劇的な減少が見られな かった(【0007】 【0008】 。そこで,本件発明1では,二酸化珪素 , ) 層を40nm以上とすることによって,取り除く汚染又は損傷等した層の量 を確保し,これをフッ化水素酸等により除去することによって,漏洩電流の 問題を解決し,高耐圧SBDを効率良く製造することができるようにした, というものである。 上記の本件発明の課題及びその解決手段によれば,本件発明は,量的に十 分な二酸化珪素層を形成しこれを除去することによって,炭化珪素表面の汚 染又は損傷等により劣化した層を除去しようとするものであるから,量的に 十分に確保された二酸化珪素層を全部除去することによって,漏洩電流の問 題を解決しようとするものであると理解するのが自然である。 しかも,前記 エのとおり,本件明細書には,二酸化珪素層を全部取り除 25 く例の記載はあるものの,二酸化珪素層の一部を取り除くことについての明 示の記載はない。 さらに,本件明細書には,熱酸化により炭化珪素表面上に形成された二酸 化珪素層をフッ化水素酸によって処理することができる旨記載され(【00 06】 , ) 【課題を解決するための手段】にも,酸化により形成された二酸化 珪素層をフッ化水素酸等により除去することが記載されているほか(【00 10】 , ) 【発明を実施するための最良の形態】においても,5%フッ化水素 酸に10分間さらすことにより炭化珪素基板上に形成された二酸化珪素層を 除去する方法が記載されている(【0015】 。他方,ショットキー電極を ) 含む炭化珪素半導体装置の一般的構造が図1のようなものであることに照ら すと,炭化珪素基板の上に形成される二酸化珪素層が,ショットキー電極の 形成部分についてのみ全部除去され,他の部分については一部除去されると いう製造方法を採るためには,本件明細書に記載された上記方法とは別の工 程(例えば,甲1におけるエッチング)が必要になるものと解されるが,本 件明細書にはそのような工程を予定していることを読み取れるような記載は ない。 以上によれば,本件明細書の記載を参酌すると,本件発明1の「二酸化珪 素層を除去する工程」とは,犠牲酸化により形成された二酸化珪素層の全部 を除去する工程を意味するものであると解するのが相当である。 したがって,上記と同旨の審決の本件発明1の要旨の認定に誤りはない。 また,上記と同様の理由により,審決の本件発明4の要旨の認定にも誤り はない。 原告の主張について 原告は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「上記炭化珪素膜表面を 犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし,5 0nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」は,その文言からみ 26 て,「犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし50mm未満を除 く)の二酸化珪素層」を部分的に除去する工程と全て除去する工程の両方を 含むことが明らかであり,甲33ないし35においても,「除去する」とい う文言が必ずしも全てを除去することを意味しないことが示されている旨主 張する(前記第3の1 )。 この点,甲33記載の「犠牲絶縁膜」並びに甲34及び35記載の「犠牲 層」は,犠牲酸化により形成された層ではなく,上記甲号各証の記載を直ち に本件発明1における「除去」の意味の解釈に用いることができるかどうか は疑問である。その点をおくとしても,本件特許の特許請求の範囲の請求項 1の記載のみからは「除去」される二酸化珪素層の範囲が一義的に明確では なく,本件明細書の記載を参酌すると,本件発明1の要旨は,二酸化珪素層 の全部を除去するものであると認められることは前記 ないし に説示した とおりである。 また,原告は,本件発明1の課題を考慮すれば,ショットキー電極が形成 される予定の場所に位置する二酸化珪素を除去すればよく,ショットキー電 極が形成される予定以外の場所に位置する二酸化珪素を必ずしも除去する必 要はない,「犠牲」という文言が使用されているからといって,二酸化珪素 層の全部を除去することを意味するものではないことは,甲32ないし甲3 5の記載からも明らかである旨主張する(前記第3の1 )。 しかし,本件発明1が原告の主張する上記構成を前提としていると認定で きないことは前記 ないし の説示のとおりである。 よって,原告の上記各主張はいずれも採用することができない。 また,同様の理由により,本件発明4の要旨認定の誤りに関する原告の主 張も採用することができない。 2 取消事由2(本件発明1と甲1記載発明の一致点及び相違点の認定の誤り) について 27 甲1には,前記第2の3 記載の内容の発明が記載されているものと認め られる(甲1。原告も争っていない。。 ) そして,前記1説示の点を前提として本件発明1と甲1記載発明とを対比 すると,前記第2の3 記載の一致点及び同 記載の各相違点を認定するこ とができる。 したがって,審決の本件発明1と甲1記載発明の一致点及び相違点の認定 に誤りはない。 原告は,本件発明1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲 酸化により形成された40nm以上(ただし,50nm未満を除く)の二酸 化珪素層を除去する工程」は,例えばショットキー電極を形成する予定の部 分といった「二酸化珪素」の「一部」を取り除くことも含むので,本件発明 1と甲1記載発明との間には,審決が相違点2で示したような相違点は存在 しない旨主張する(前記第3の2)。 しかし,前記1の説示のとおり,本件発明1において,「除去」という文 言は,二酸化珪素層の全部を取り除くことを意味するのであるから,原告の 主張はその前提を欠き採用することができない。 3 取消事由4(相違点2に係る容易想到性の判断の誤り)について 原告は,同じ対象物に対して同じ処理を行えば同じ結果がもたらされるの は当然のことであり,その目的が開示されているか否かは重要ではないと し,本件発明1と甲1記載発明とでは,「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜 上へのショットキー電極形成に先立って,上記高温活性化処理する工程後 に,上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された 40nm以上(ただし,50nm未満を除く)の二酸化珪素を除去する」こ とで共通すると主張する(前記第3の4)。 原告の上記主張は,本件発明1の要旨認定において,「除去」という文言 が,二酸化珪素層の一部を取り除くことも含むことを前提とし,本件発明1 28 と甲1記載発明が同一の構成を有する以上,両者が共通するものであること を主張する趣旨と解されるが,原告の主張は「除去」の意味につきその前提 を欠くことは前記1の説示のとおりであるから,原告の上記主張は採用する ことができない。 また,甲1記載発明は,「60nmの厚みの熱酸化膜と,1.0μmの厚 みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」を行い,「続いて,緩 衝フッ酸(BHF)エッチングによって,不動態化された酸化膜内に開口を 形成する工程」を行うことにより,「開口」以外の部分に「60nmの厚み の熱酸化膜」と「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」からなる「不動態 化された酸化膜」を残存させるものである。そして,半導体装置において, 水分や酸素を遮断する必要があるため,半導体装置の最上層には,酸化シリ コン等の無機系の絶縁膜からなるパッシベーション膜と呼ばれる表面保護層 が設けられることは,当業者にとって明らかである(甲17【0003】及 び【0004】 。そうすると,上記「不動態化された酸化膜」は, ) 「n − 4 H−SiCエピタキシャル層表面」を覆うパッシベーション膜(表面保護 膜)として機能させるために形成したものであると認められる。 したがって,甲1記載発明における「開口」以外の部分の「60nmの厚 みの熱酸化膜」と「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」からなる「不動 態化された酸化膜」は,本件発明1における犠牲酸化のための二酸化珪素層 とは,その目的が異なり,その結果,機能も異なると解されるから,原告が 主張するように,構成が共通であることのみを理由として両者を共通するも のとみることもできない。 よって,原告の上記主張は採用することができない。 原告の主張に鑑み,念のため,当業者において,甲1記載発明に基づき本 件発明1の相違点2に係る構成を容易に想到し得るかについて判断する。 前記 に説示したとおり,甲1記載発明における「開口」以外の部分の 29 「60nmの厚みの熱酸化膜」と「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」 からなる「不動態化された酸化膜」は,パッシベーション膜(表面保護膜) として機能させるために形成されたものであり,残存することが予定される ものである。 そうすると,甲1記載発明において,「60nmの厚みの熱酸化膜と, 1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」及び 「続いて,緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって,不動態化された酸化 膜内に開口を形成する工程」を,本件発明1の相違点2に係る構成(二酸化 珪素層を除去する工程)とすることには阻害要因があるものというべきであ る。 また,他に,甲1記載発明に基づき,当業者において本件発明1の相違点 2に係る構成に容易に想到し得ることを認めるに足りる証拠もない。 以上によれば,相違点2の容易想到性に係る審決の判断に誤りはない。 4 取消事由5(本件発明1と甲6記載発明の一致点及び相違点の認定の誤りに ついて 甲6には,前記第2の3 記載の内容の発明が記載されているものと認め られる(甲6。原告も争っていない。。 ) そして,前記1説示の点を前提として本件発明1と甲6記載発明とを対比 すると,前記第2の3 記載の一致点及び同 記載の各相違点を認定するこ とができる。 したがって,審決の本件発明1と甲6記載発明の一致点及び相違点の認定 に誤りはない。 原告は,本件発明1は,二酸化珪素層の一部を取り除くことも含むのであ るから,厚さ方向の一部を除去することも含むことを前提に,本件特許の特 許請求の範囲の請求項3及び本件明細書の【0015】の記載に照らすと, 本件発明1の「犠牲酸化によって形成された40nm以上(ただし,50n 30 m未満を除く)の二酸化珪素層を除去する」という文言は,複数回の犠牲酸 化(熱酸化)で犠牲酸化膜(熱酸化膜)を除去する態様を含んだものである というべきであり,本件発明1と甲6記載発明との間には,甲6記載発明で は「第1熱酸化層」の厚みと「第2熱酸化層」の厚みの合計値について明記 されていないという相違点が存在するのみであると主張する(前記第3の 5)。 しかし,前記1の説示のとおり,本件発明1において,「除去」という文 言は,二酸化珪素層の全部を取り除くことを意味するのであるから,原告の 主張はその前提を欠くものである。 また,原告の主張は,甲6記載発明において,「第2熱酸化層」が本件発 明1の二酸化珪素層に対応するものであることを前提に,「第2熱酸化層」 の「開口」された部分についてみると,2回犠牲酸化がなされているという 理解のもと,「第1熱酸化層」の厚みと「第2熱酸化層」の厚みの合計値を 問題とするものであると解される。 しかし,甲6記載発明の内容に照らすと,「第2熱酸化層」は「開口」さ れた部分を除き残存させられることが予定されているものである。そして, 前記3 の説示のとおり,半導体装置において,水分や酸素を遮断する必要 があるため,半導体装置の最上層には,酸化シリコン等の無機系の絶縁膜か らなるパッシベーション膜と呼ばれる表面保護層が設けられることは,当業 者にとって明らかであることに照らすと,甲6記載発明は,「開口」を有す る「第2熱酸化層」を形成するために,すなわち,「n型ドリフト層の表 面」の「表面側ショットキー金属(Ni)のパターン」が形成されない部分 を覆う「第2熱酸化層」からなるパッシベーション膜(表面保護膜)を形成 するために,「1100℃で5時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表 面に第2熱酸化層を形成する工程(21)」と,「第2熱酸化層に開口を開け る工程(26)」を備えるものである。したがって,甲6記載発明の「第2 31 熱酸化層」は本件発明1における二酸化珪素層とはその性質を異にするもの である。 そうすると,本件発明が複数回の犠牲酸化(熱酸化)で犠牲酸化膜(熱酸 化膜)を除去する態様を含んでいるとしても,甲6記載発明の「開口」され た部分について「第1熱酸化層」と「第2熱酸化層」とを併せて本件発明1 における二酸化珪素層に対応するものということはできず,したがって,本 件発明1と甲6記載発明において,「第1熱酸化層」の厚みと「第2熱酸化 層」の厚みの合計値について明記されていないという相違点が存在するのみ であるともいえない。 よって,原告の上記主張は採用することができない。 5 取消事由7(相違点4に係る容易想到性の判断の誤り)について 原告は,本件発明1の要旨認定において,「除去」という文言に,二酸化 珪素層の一部を取り除くことも含むことを前提とし,本件発明1と甲6記 載発明との間には,甲6記載発明には,「第1熱酸化層」の厚みと「第2熱 酸化層」の厚みの合計値について明記されていないという相違が存在する だけであり,甲6記載発明において,甲1に記載された事項を適用し,「第 2熱酸化層」の厚み(この結果,「第1熱酸化層」の厚みと「第2熱酸化 層」の厚みの合計値)が60nm以上となることは,当業者にとって容易 なものである旨主張する(前記第3の7)。 しかし,原告の主張は「除去」の意味につきその前提を欠くことは前記 1の説示のとおりである。また,本件発明1と甲6記載発明との間には, 甲6記載発明には,「第1熱酸化層」の厚みと「第2熱酸化層」の厚みの合 計値について明記されていないという相違が存在するにすぎないとの点 も,前記4に説示したとおり採用することができない。そうすると,原告 の上記主張はその前提を欠き採用することができない。 原告の主張に鑑み,念のため,甲6記載発明に甲1に記載された事項を 32 適用することにより,当業者において,本件発明1の相違点4に係る構成 を容易に想到し得るかについて判断する。 甲6記載発明の「第1熱酸化層」は,本件発明1の二酸化珪素層に対応す るものであり,犠牲酸化を行うために形成されたものであると解される。他 方,前記3説示のとおり,甲1記載発明における「開口」以外の部分の「6 0nmの厚みの熱酸化膜」と「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」から なる「不動態化された酸化膜」は,パッシベーション膜(表面保護膜)とし て機能させるために形成したものであり,犠牲酸化のために形成されたもの とは性質を異にする。 そうすると,甲6記載発明に甲1記載発明を適用する動機付けは存在せ ず,甲6記載発明に甲1に記載された事項を適用することにより,当業者に おいて,本件発明1の相違点4に係る構成を容易に想到し得るとはいえな い。 なお,既に説示したとおり,甲6記載発明における「第2熱酸化層」はパ ッシベーション膜(表面保護膜)としての機能を有するものである。したが って,前記3 において説示したのと同様の理由により,甲6記載発明にお ける「第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)」を,本件発明1の「犠牲 酸化により形成された40nm以上(ただし,50nm未満を除く)の二酸 化珪素層を除去する工程」と置き換えることには阻害要因があるものという べきである。そうすると,この観点においても,甲6記載発明に甲1に記載 された事項を適用することにより,当業者において,本件発明1の相違点4 に係る構成を容易に想到し得るとはいえない。 また,他に,甲6記載発明に基づき,当業者において本件発明1の相違点 4に係る構成に容易に想到し得ることを認めるに足りる証拠もない。 以上によれば,相違点4の容易想到性に係る審決の判断に誤りはない。 6 まとめ 33 以上によれば,その余の原告主張の取消事由について判断するまでもなく, 原告の主張に基づいて審決に取り消すべき違法があるものということはできな い。 第6 結論 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお り判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 石 井 忠 雄 裁判官 西 理 香 裁判官 神 谷 厚 毅 34 別紙 図1 1 高濃度n型基板,2 低濃度n型ドリフト層,3 p型不純物イオン注入領 域,4 ショットキー電極,5 オーミック電極(金属又はシリサイド) 35 図2 1 高濃度n型基板,2 低濃度n型ドリフト層,3 p型不純物イオン注入領域, 4 ショットキー電極,5 オーミック電極(金属又はシリサイド),6 活性化 により生じる劣化層,7 熱酸化によって生成される二酸化珪素層 36 |