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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10368審決取消請求事件 判例 特許
平成28行ケ10041 審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 25年 (行ケ) 10225号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/10/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年10月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(行ケ)第10225号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年10月1日

判 決



原 告 スタトイル・アーエスアー



訴訟代理人弁理士 曾 我 道 治

同 梶 並 順

同 田 口 雅 啓

同 大 井 一 郎

同 光 永 和 宏

同 渡 邊 明 日 香



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 堀 川 一 郎

同 藤 井 昇

同 井 上 茂 夫

同 根 岸 克 弘

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3

0日と定める。

事実及び理由

第1 請求




特許庁が不服2011−21718号事件について平成25年3月25日に

した審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

原告は,発明の名称を「風力タービン設備のタワーの振動を減衰する方法」

とする発明について,平成18年10月30日(優先権主張日2005年(

平成17年)11月1日,優先権主張国ノルウェー)を国際出願日とする特

許出願(特願2008−538838号。以下「本願」という。)をした。

原告は,平成23年5月27日付けの拒絶査定を受けたため,同年10月

7日,拒絶査定不服審判を請求するとともに,同日付けで本願の特許請求の

範囲について手続補正(以下「本件補正」という。甲2)をした。

特許庁は,上記請求を不服2011−21718号事件として審理を行い,

平成24年7月5日付けで拒絶理由通知をした。これに対し原告は,同年1

1月8日付け意見書を提出した。

その後,特許庁は,平成25年3月25日,「本件審判の請求は,成り立

たない。 との審決
」 (出訴期間の付加期間90日。以下「本件審決」という。)

をし,同年4月9日,その謄本が原告に送達された。

原告は,平成25年8月7日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起

した。

2 特許請求の範囲の記載

本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし12の記載は,次のとおりで

ある(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本願発明1」な

どという。)。

「【請求項1】

フロートセルと,

該フロートセルの上方に配置されたタワーと,




該タワー上に搭載され,風向きに関連して回転可能であり,タービンブレー

ドを有する風力タービンに取り付けられた発電機と,

固定具すなわち海底の基礎に接続された固定ライン機構と

を備えたフロート式風力タービン設備のタワーの剛体セルの移動である振動を

減衰する方法であって,

該方法は,

前記風力タービンの一定の電力範囲又はRPM範囲においてコントローラに

より前記タービンブレードのブレード角を制御することによって,前記風力タ

ービンに対する相対風速の変化に応じて前記発電機を制御することと,

前記風力タービンの前記一定の電力範囲又は前記RPM範囲での前記コント

ローラの制御に加えて,前記タワーの固有振動が打ち消されるように,タワー

速度ドットΔZに基づいて前記タービンブレードの前記ブレード角に増分Δβ

が加えられることによって前記タワーの剛体セルの移動の固有振動数ωeigを

減衰することと

を含み,

周波数ωeigを有するタワー上部の水平な変位ΔZの振動は,前記タワー速度

ドットΔZと前記ブレード角の増分Δβとの伝達関数Hstab(s)を有するス

タビライザにより減衰され,

該スタビライザにはローパスフィルタが設けられ,該ローパスフィルタは,

前記タワーの剛体セルの移動の固有振動数ωeigより大きい範囲の振動数にお

いて前記スタビライザが前記ブレード角に影響しないように配置される方法。

【請求項2】

前記タワー速度ドットΔZと前記ブレード角の増分Δβとの前記伝達関数H

stab(s)と,

前記ブレード角βと前記タワー速度との間の伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)と

は,ループ伝達関数Hβ-ΔZ_dot(jωeig)・Hstab(jωeig)=−bであ




るようなものであり,

これは,

【数1】

Hstab(jωeig)=−b/K・e−jφを意味し,「b」は,前記ブレードのモ

ーメント特性及びスラスト特性に依存する変数である,請求項1に記載の方法。

【請求項3】

前記タワー速度ドットΔZと前記ブレード角の増分Δβとの間の前記伝達関

数Hstab(s)と,

前記ブレード角βと前記タワー速度との間の伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)と

は,ループ伝達関数Hβ-ΔZ_dot(jωeig)・Hstab(jωeig)=−1であ

るようなものであり,

これは,

【数2】

Hstab(jωeig)=−1/K・e−jφを意味する,請求項1または2に記載の

方法。

【請求項4】

前記スタビライザには,低周波数において増幅が提供されないことを保証す

るハイパスフィルタが設けられる,請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。

【請求項5】

前記スタビライザには,位相補償フィルタが設けられ,

前記スタビライザの位相歪みは,前記ブレード角の増分Δβが前記タワーの

剛体セルの移動の固有振動数ωeigに起因するタワー上部の水平な変位ΔZの

振動を減衰するようなものであるように,前記位相補償フィルタが調整される,

請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。

【請求項6】

前記タービンブレードのそれぞれのブレード角βは,個々に制御される,請




求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

【請求項7】

フロートセルと,

該フロートセルの上方に配置されたタワーと,

該タワー上に搭載され,風向きに関連して回転可能であり,タービンブレード

を有する風力タービンに取り付けられた発電機と,

固定具すなわち海底の基礎に接続された固定ライン機構と

を備えたフロート式風力タービン設備の前記タービンブレードのブレード角を

制御するブレード角コントローラであって,

該ブレード角コントローラは,

前記風力タービンの一定の電力範囲又はRPM範囲においてコントローラに

より前記タービンブレードのブレード角を制御することによって,前記風力ター

ビンに対する相対風速の変化に応じて前記発電機を制御し,

前記風力タービンの前記一定の電力範囲又は前記RPM範囲での前記コント

ローラの制御に加えて,前記タワーの剛体セルの移動の固有振動が打ち消される

ように,タワー速度ドットΔZに基づいて前記タービンブレードの前記ブレード

角に増分Δβが加えられることによって前記タワーの剛体セルの移動の固有振

動数ωeigを減衰させ,

周波数ωeigを有するタワー上部の水平な変位ΔZの振動は,前記タワー速度

ドットΔZと前記ブレード角の増分Δβとの伝達関数Hstab(s)を有するスタ

ビライザにより減衰され,

該スタビライザにはローパスフィルタが設けられ,該ローパスフィルタは,前

記タワーの剛体セルの移動の固有振動数ωeigより大きい範囲の振動数において

前記スタビライザが前記ブレード角に影響しないように配置されるブレード角

コントローラ。

【請求項8】




前記タワー速度ドットΔZと前記ブレード角の増分Δβとの前記伝達関数H

stab(s)と,

前記ブレード角βと前記タワー速度との間の伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)と

は,ループ伝達関数Hβ-ΔZ_dot(jωeig)・Hstab(jωeig)=−bであ

るようなものであり,

これは,

【数3】

Hstab(jωeig)=−b/K・e−jφを意味し,「b」は,前記ブレードのモ

ーメント特性及びスラスト特性に依存する変数である,請求項7に記載のブレ

ード角コントローラ。

【請求項9】

前記タワー速度ドットΔZと前記ブレード角の増分Δβとの間の前記伝達関

数Hstab(s)と,

前記ブレード角βと前記タワー速度との間の伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)と

は,ループ伝達関数Hβ-ΔZ_dot(jωeig)・Hstab(jωeig)=−1であ

るようなものであり,

これは,

【数4】

Hstab(jωeig)=−1/K・e−jφを意味する,請求項7または8に記載の

ブレード角コントローラ。

【請求項10】

前記スタビライザには,低周波数において増幅が提供されないことを保証す

るハイパスフィルタが設けられる,請求項7〜9のいずれか一項に記載のブレ

ード角コントローラ。

【請求項11】

前記スタビライザには,位相補償フィルタが設けられ,




前記スタビライザの位相歪みは,前記ブレード角の増分Δβが前記タワーの

剛体セルの移動の固有振動数ωeigに起因するタワー上部の水平な変位ΔZの

振動を減衰するようなものであるように,前記位相補償フィルタが調整される,

請求項7〜10のいずれか一項に記載のブレード角コントローラ。

【請求項12】

前記タービンブレードのそれぞれのブレード角βは,個々に制御される,請

求項7〜11のいずれか一項に記載のブレード角コントローラ。」

3 本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本

願の願書に添付された明細書(以下,図面を含めて「本願明細書」という。甲

11)の発明の詳細な説明の記載は,当業者が請求項1ないし12に記載され

た事項を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないか

ら,特許法36条4項1号に規定する要件(以下「実施可能要件」という。)

を満たしておらず,また,請求項1ないし12に記載された事項は,発明の詳

細な説明を参照しても構成が不明であるから,同条6項2号に規定する要件(

以下「明確性要件」という。)を満たしておらず,さらには,請求項1ないし

12に記載された事項は,同項1号に規定する要件(以下「サポート要件」と

いう。)を満たしていないから,本願発明1ないし12は,特許を受けること

ができないというものである。

第3 当事者の主張

1 原告の主張

取消事由1(実施可能要件明確性要件及びサポート要件の判断の誤り)

実施可能要件及び明確性要件の判断の誤り(取消事由1−1)

本件審決は,@「フロート式風力タービン設備に関し,特に構成を限定

する記載がないから,本願の方法を用いれば如何なる風力タービン設備で

も振動を減衰することができることとなるが,例えば,形状・構造・材質




が異なっても,水平軸風車でも垂直軸風車でも,風車の羽根の数が異なっ

ても,何故一種類の本願の方法で振動が減衰できるのか,その物理的根拠

が不明であり,明細書等には何ら開示が無く不明である。」,A本願明細

書中には,「確かに伝達関数Hstab(s)とは開示があるが,当該伝達関

数が具体的に示されてはおらず,また,型式が異なれば当然にブレードの

具体的な制御方法も異なるはずであるが,当該ブレードの制御方法は何ら

開示が無く不明である。」として,本願明細書の発明の詳細な説明は,当

業者が請求項1ないし12に記載された事項を実施することができる程度

に明確かつ十分に記載されたものでないから,実施可能要件を満たしてお

らず,また,請求項1ないし12に記載された事項は,発明の詳細な説明

を参照しても構成が不明であるから,明確性要件を満たしていない旨判断

したが,以下のとおり誤りである。

風力発電は,風によって風力タービンが回転することで発電機から電

力が発生し,風力タービンの回転速度は風速に依存するため,風速が変

動すれば発電機から発生する電力も変動する。このような変動をできる

だけ抑えるために,風力タービンのタービンブレードのブレード角を変

える制御が行われる。例えば,風速が大きくなる場合には,タービンブ

レードが風をなるべく受けなくなるようにブレード角を変え,逆に風速

が小さくなる場合には,タービンブレードが風をなるべく受けるように

ブレード角を変える。ただし,フロート式風力タービン設備は,固定ラ

イン機構を介して海底の基礎に接続されているものの,海面上に浮かん

でいるので,風及び波からの力により,海面上であらゆる方向に向かっ

て移動するので,たとえ風速が一定であっても,フロート式風力タービ

ン設備が風と平行な方向に移動すると,風の相対速度が変化してしまい,

発電機から発生する電力も変動するため,フロート式風力タービン設備

のタワーの剛体セルの移動である振動を減衰することが重要となる。




本願明細書の段落【0011】の記載によれば,本願発明の目的は,

フロート式風力タービン設備の振動によって風の相対速度が変化し,発

電される電力が変動してしまうことを抑えることにある。

フロート式風力タービン設備は海面上であらゆる方向に向かって移動

し,風も常に一定方向に吹くものではないが,風がどのような方向に吹

いたとしても,風力タービンを回転させるのは,風力タービンのシャフ

トに対して平行な方向の風速の成分である。

そして,本願発明1は,風力タービンのシャフトに対して平行な方向

の風速の成分の変動による電力の変動を抑えるため,フロート式風力タ

ービン設備のあらゆる方向への移動のうち,「当該風速の成分に対して

平行な方向の移動」のみを減衰させる方法であるといえる。

本願明細書には,風速に対して平行な方向の移動のみを減衰するとい

うことが明示的には記載されていないが,本願明細書に記載されたシミ

ュレーションテストの結果を表す図7及び図10(別紙明細書図面参照)

には,タワー変位の経過が二次元のグラフで描かれていることから,あ

る一定方向の振動に着目していることは容易に理解できることである。

その上で,フロート式風力タービン設備の振動によって風の相対速度が

変化し,発電される電力が変動してしまうことを抑えるという本願発明

の目的を考慮すれば,本願発明1が,フロート式風力タービン設備のあ

らゆる方向への移動のうち,「風速の成分に対して平行な方向の移動」

のみを減衰させる方法であることは,当業者が容易に理解できるから,

本願明細書に記載されているに等しい事項であるといえる。

本願発明1で「タワーの剛体セルの移動である振動」を減衰する原理

(以下「本願発明の原理」という場合がある。)は,風の相対速度の変

化に応じてタービンブレードのブレード角を調整するほかに,タワーの

固有振動が打ち消されるように,増分Δβの付加によってフロート式風




力タービン設備の移動を抑える方向にブレード角を調整することによ

り,タワーの固有振動を減衰させるものである(本願明細書の段落【0

036】)。すなわち,風に抗してフロート式風力タービン設備が移動

する場合には,風の相対速度が増加する影響に基づいて,風をより受け

なくなる方向にブレード角を調整するほかに,増分Δβの付加によって,

風に抗する方向のフロート式風力タービン設備の移動を抑える方向にブ

レード角を調整し,風と同じ方向にフロート式風力タービン設備が移動

する場合には,風の相対速度が低下する影響に基づいて,風をより受け

る方向にブレード角を調整するほかに,増分Δβの付加によって,風と

同じ方向のタワー設備の移動を抑える方向にブレード角を調整する。

そして,タービンブレードのブレード角に応じて,風力タービンの回

転とフロート式風力タービン設備の移動を抑える「効力」(抗力)とが

決まることを考慮すれば,本願発明の原理は,風力タービンの形状・構

造・材質が異なっても,何ら違いはない。

風力タービンが水平軸風車又は垂直軸風車のいずれかであるかについ

ては,風力タービンを回転させるための風の向きが異なるため,減衰さ

せる振動の向きが異なるだけであり,本願発明の原理自体が異なるもの

ではない。もっとも,本願発明1及び7の特許請求の範囲(請求項1及

び7)に「該タワー上に搭載され,風向きに関連して回転可能であり,

タービンブレードを有する風力タービンに取り付けられた発電機」と規

定されているとおり,本願発明1及び7の「風力タービン」は,「発電

機」が「風向きに関連して回転可能」であることを構成の一つとするも

のであるから,発電機が風に対して無指向性で,風向きに関連して回転

することがないものは含まれない。

さらに,タービンブレードの数が異なれば,確かに風を受ける影響は

異なるが,増分Δβの程度の問題であり,振動を減衰する原理自体に違




いがあるものではない。

したがって,本願発明の原理に基づく本願発明1の方法で,振動が減

衰できる物理的根拠は明らかであり,本願明細書に開示されているとい

える。

本願明細書の段落【0033】に,「タワーの固有周波数ωeigがおよ

そ0.5ラジアン/秒…すなわち,タワーの振動がおよそ12.57s

の周期を有する」場合を一例として,図4(別紙明細書図面参照)に伝

達関数Hstab(s)が具体的に開示されている。

また,タービンブレードがそのブレード角に応じて風を受けることに

より風力タービンが回転することは,風力タービンの型式が異なっても

同じであるから,ブレード角の制御方法が根本的に異なることはあり得

ない。

したがって,本願発明1の「風力タービン」に該当する風力タービン

であれば,型式を問わず,本願発明の原理に応じた制御方法でフロート

式風力タービン設備の振動を減衰することができる。

以上によれば,本願発明1ないし12について実施可能要件及び明確

性要件を欠くとした本件審決の上記判断は誤りである。

実施可能要件及び明確性要件の判断の誤り(取消事由1−2)

本件審決は,「フロート式風力タービン設備の振動には,サージ,スウ

ェイ,ヒーブ,ロール,ピッチ,及びヨー,うねり,非線形波力,風速の

変動,潮力等が影響を及ぼすが,何故本願の方法で様々な振動に影響を及

ぼす要因全てに対処できるのか何ら開示が無く不明である。即ち,フロー

ト式風力タービン設備に振動を与えるのは,風のみならず,波や海流も振

動を与え,これら風,波,海流等は常に定まった一方向からフロート式風

力タービン設備に向かうものではなく,複雑な複数の流れがフロート式風

力タービン設備に向かい,サージ,スウェイ,ヒーブ,ロール,ピッチ,




及びヨーが与えられるから,これら振動に対処するためには,どの様なセ

ンサを用いて各振動を検出し,センサ出力にどの様にして優先順位付けや

重み付けをしてタービンブレードのブレード角を制御するのか何ら開示が

無く不明である。」として,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が

請求項1ないし12に記載された事項を実施することができる程度に明確

かつ十分に記載されたものでないから,実施可能要件を満たしておらず,

また,請求項1ないし12に記載された事項は,発明の詳細な説明を参照

しても構成が不明であるから,明確性要件を満たしていない旨判断した。



々な振動が生じるが,本願発明1の目的は,フロート式風力タービン設備

の振動によって風の相対速度が変化し,発電される電力が変動してしまう

ことを抑えるために,フロート式風力タービン設備の振動を減衰すること

にあるから,本願発明1は,フロート式風力タービン設備のあらゆる方向

への移動のうち,風力タービンのシャフトに対して平行な方向の風速の成

分に対して平行な方向の移動のみを減衰するものであることは当業者であ

れば容易に理解できることである。本願発明1は,本件審決が述べるよう

な「様々な振動に影響を及ぼす要因全てに対処できる」ものではない。



分に対して平行な方向の移動のみを減衰するものであることが開示されて

いる。

したがって,本願発明1ないし12について実施可能要件及び明確性

件を欠くとした本件審決の上記判断は誤りである。

実施可能要件及び明確性要件の判断の誤り(取消事由1−3)

本件審決は,本願発明1には,風車について何ら限定がないから,水平

軸風車と垂直軸風車が考えられる,風車が水平軸風車の場合,伝達関数か

ら得られた結果を用いてタービンブレードのブレード角をどのように制御




するのか具体的手段,即ちブレードをどのように動かすかについての開示

がなく不明であり,ブレード角の制御によってフロート式風力タービン設

備の振動を減衰することができるのか不明である,風車が垂直軸風車の場

合も同様に,伝達関数から得られた結果を用いてブレード角をどのように

制御するのか具体的手段,即ちブレードをどのように動かすかについての

開示がなく不明であり,さらには,垂直軸風車は垂直軸の周りをブレード

が回転するから,その回転に伴ってブレードの制御を変えなければならな

いが,どのように制御を変えるのか開示がなく不明であり,ブレード角の

制御によってフロート式風力タービン設備の振動を減衰することができる

のか不明であるとして,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が請求

項1ないし12に記載された事項を実施することができる程度に明確かつ

十分に記載されたものでないから,実施可能要件を満たしておらず,また,

請求項1ないし12に記載された事項は,発明の詳細な説明を参照しても

構成が不明であるから,明確性要件を満たしていない旨判断した。



軸風車のいずれであっても,振動を減衰する本願発明の原理は同じであり,

制御方法も異なるものではないので,本件審決が水平軸風車と垂直軸風車

とでそれぞれ区別して不明点を指摘していることに意味はない。

どちらの風力タービンであっても,「ブレード角をどのように制御する

のか」については,本願明細書の段落【0036】に開示されているよう

に,風に抗する方向にフロート式風力タービン設備が移動する場合には,

風に抗する方向のフロート式風力タービン設備の移動を抑える方向にブレ

ード角を調整し,風と同じ方向にフロート式風力タービン設備が移動する

場合には,風と同じ方向のタワー設備の移動を抑える方向にブレード角を

調整する。

また,「全てのブレードに同じ制御を行うのか個別に制御するのか」に




ついては,本願明細書の段落【0046】に「すべてのブレードに対して

まとめて,すなわち同じピッチ角βで,又はブレードごとに異なるピッチ

角で個々に制御することができる」と記載されているように,単なる設計

的事項である。例えば,すべてのブレードを同じように制御する場合と,

1つのブレードのみを個別に制御する場合とでは,同じだけブレード角を

変化させるとしたら前者の方が後者に比べてその影響が大きくなることだ

けが異なるのであり,増分Δβの程度の問題であることは容易に理解でき

る。

したがって,風力タービンが水平軸風車又は垂直軸風車のいずれであっ

ても,「ブレード角をどのように制御するのか」,「全てのブレードに同

じ制御を行うのか個別に制御するのか」については本願明細書に開示され

ており,本願発明1ないし12について実施可能要件及び明確性要件を欠

くとした本件審決の上記判断は誤りである。

実施可能要件明確性要件及びサポート要件の判断の誤り(取消事由1

−4)

本件審決は,本願明細書の発明の詳細な説明には,特定の周波数即ちタ

ワー振動の固有周波数ωeigに等しい周波数を有する振動βのみを減衰す

ることが目的として示されているが,フロート式風力タービン設備は,フ

ロートセル,タワー,風力タービン,発電機,固定ライン機構からなって

おり,フロート式風力タービン設備ではなく,「タワー振動の固有周波数

ωeig」のみを減衰して風力タービン設備全体の振動が減衰するのか不明で

ある,しかも,特許請求の範囲には,「タワーの剛体セルの移動の固有振

動数ωeig」と記載されており,発明の詳細な説明の記載と整合性が取れて

おらず,本件出願時の技術常識に照らしても,「タワーの剛体セルの移動

の固有振動数ωeig」まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ない

し一般化できるとはいえないので,当該事項は,発明の詳細な説明に記載




されたものではないとして,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が

請求項1ないし12に記載された事項を実施することができる程度に明確

かつ十分に記載されたものでないから,実施可能要件を満たしておらず,

また,請求項1ないし12に記載された事項は,発明の詳細な説明を参照

しても構成が不明であるから,明確性要件を満たしておらず,さらには,

請求項1ないし12に記載された事項は,サポート要件を満たしていない

旨判断した。

しかしながら,請求項1には「フロート式風力タービン設備のタワーの

剛体セルの移動である振動を減衰する」と記載されているように,本願発

明1の対象となるものは,曲げによるタワー設備の移動ではなく,「剛体

セルの移動」である。そして,タワー設備全体が移動するのではなくタワ

ーのみが移動するのであれば,剛体セルの移動とはならず,フロートセル

に対するタワーの曲げによる移動となってしまうから,当業者であれば,

「タワーの剛体セルの移動の固有振動数ωeig」及び「タワー振動の固有周

波数ωeig」との記載は,タワーのみではなくタワー設備全体の移動である

ことを容易に理解できる。仮にこのように解釈できないとしても,タワー

設備全体はタワーと共に移動するので,タワーの振動を減衰することでタ

ワー設備全体の移動を減衰することができると考えられる。

以上によれば,本件審決の指摘事項は実質的に発明の詳細な説明に記載

されたものであり,また,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記

載とでは,実質的に整合性が取れているといえるから,本願発明1ないし

12について実施可能要件明確性要件及びサポート要件を欠くとした本

件審決の上記判断は誤りである。

実施可能要件及び明確性要件の判断の誤り(取消事由1−5)

本件審決は,@本願明細書には,「伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)」につ

いて,具体的にどのような関数であるのか何ら開示がなく不明であり,こ




の伝達関数が固有振動数ωeigやタワーと具体的にどの様な関係にあるの

か開示がなく不明であり,また,「伝達関数Hstab(s)」について,具

体的にどのような関数であるのか何ら開示がなく不明であり,この伝達関

数が固有振動数ωeigやブレードと具体的にどのような関係にあるのか開

示がなく不明である,A「Hβ-ΔZ_dot(jωeig)・Hstab(jωeig)

=−b,Hβ-ΔZ_dot(jωeig)・Hstab(jωeig)=−1」は,所定

の信号に逆位相の信号を与えると所定の信号がキャンセルできることを示

すのみであり,これは通常ノイズ等を減衰させるために用いる手段である

が,本願明細書には,それ以上具体的にブレードをどのように制御するか

は何ら開示がなく不明である,B本願明細書記載の「(1.1)式」は,

位相を表す一般式であり,本願発明の具体的内容を何ら表すものではない

から,(1.1)式から発明を把握することはできず,本願発明の構成は

不明であるとして,実施可能要件を満たしておらず,また,請求項1ない

し12に記載された事項は,発明の詳細な説明を参照しても構成が不明で

あるから,明確性要件を満たしていない旨判断した。

確かに,「伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)」については,本願明細書に

具体的な開示がないが,これは,任意の風力タービンについて,ブレー

ド角を入力とし,タワー速度(タワーの変位の1階微分に相当)を出力

とする伝達関数を特定することは,本願の優先権主張日(平成17年1

1月1日)において,当業者にとって既に周知な事項であったために,

記載を省略したものにすぎず,不明なものではない。例えば,甲7(国

際公開番号WO2005/083266号明細書)の段落【0044】

ないし【0050】には,タワーの下端が地面に固定された固定式風力

タービン設備について,そのピッチ角(本願発明1の「ブレード角」に

相当)を入力とし,タワーの上端付近に取り付けられたナセルの前後方

向(「風速に対して平行な方向」に相当)の振動の加速度(タワーの変




位の2階微分に相当)を出力とする伝達関数を求める手法が記載されて

いる。

甲7記載の手法は,本願発明の対象としているフロート式風力タービ

ン設備とは異なる固定式風力タービン設備に関するものであるため,全

く同じ手法で本願発明の伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)を特定することは

できないが,甲7の手法で利用している,風力タワーを機械振動系とし

たモデル(甲7の図4(a)及び(b))を,フロート式風力タービン

設備の実態にあったモデル(変形せずに剛体として移動するモデル)に

変更することで同様の手法で伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)を特定するこ

とができる。また,両者の出力について,タワーの加速度と速度との違

いがあるが,これらはタワーの変位の1階微分か2階微分かの違いでし

かないため,本質的な相違ではない。

したがって,本願明細書には,伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)の具体例

は開示されていないものの,本願の優先権主張日において,伝達関数H

β-ΔZ_dot(s)を特定する手法は当業者にとって既に周知な事項であ

ったため,伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)が固有振動数ωeigやタワーと具

体的にどのような関係にあるのか不明ではない。

「伝達関数Hstab(s)」については,本願明細書の段落【0033

】に,「タワーの固有周波数ωeigがおよそ0.5ラジアン/秒…すなわ

ち,タワーの振動がおよそ12.57sの周期を有する」場合を一例と

して,図4(別紙明細書図面参照)に具体的な伝達関数が開示されてお

り,タワー速度ドットΔZから増分Δβを求める具体例が開示されている

から,伝達関数Hstab(s)が固有振動数ωeigやブレードと具体的にど

のような関係にあるのかは明確である。

また,「Hβ-ΔZ_dot(jωeig)・Hstab(jωeig)=−b」と「

Hβ-ΔZ_dot(jωeig)・Hstab(jωeig)=−1」は,所定の信号




に逆位相の信号を与えると所定の信号がキャンセルできることを示して

いる。本願明細書の段落【0036】に,「本発明による解決策の原理

は,固有振動が打ち消されるようにタービンブレードのブレード角を制

御することにより,タワーの固有振動を減衰させることである」と記載

されるように,Hβ-ΔZ_dot(jωeig)から得られる,フロート式風力

タービン設備の固有振動数に等しい周波数で振動するタワー速度に関す

る信号に対して,この信号とは逆位相の信号をスタビライザによって与

えることで,固有振動が打ち消されることになるから,上記2式は,本

願発明の原理を明確に示しているものであり,何ら不明確なものではな

い。

さらに,本件審決は,「(1.1)式」(下記参照)は,「位相を示

す一般式であり,本願発明の具体的内容を何等示すものではないから,

(1.1)式から発明を把握することはできず,発明の構成は不明であ

-ΔZ_dot(jωeig)

及びHstab
(jωeig)が明確であり,本願発明の原理が明確である以上,

発明の構成が不明ではない。



以上によれば,伝達関数Hβ-ΔZ_dot(jωeig)は当業者にとって明

らかなものであり,伝達関数Hstab(jωeig)は本願明細書に具体的に

開示されており,本願発明の原理が明確であるから,本願発明1ないし

12について実施可能要件及び明確性要件を欠くとした本件審決の上記

判断は誤りである。

カ 小括

以上のとおり,本願発明1ないし12について実施可能要件明確性

件及びサポート要件を欠くとした本件審決の判断は誤りであり,本件審決

は,違法であるから,取り消されるべきである。




取消事由2(手続違背)



の様なセンサを用いて各振動を検出し,センサ出力にどの様にして優先順

位付けや重み付けをしてタービンブレードのブレード角を制御するのか何

ら開示が無く不明である」として,本願発明1ないし12について実施

能要件及び明確性要件を満たしていない旨判断した。

しかしながら,特許法159条2項で準用する同法50条には,「拒絶

をすべき旨の査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由

を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければ

ならない。」と規定されている。本件審決の上記判断は,平成23年5月

27日付け拒絶査定(甲5)及び平成24年1月16日付け審尋(甲6)

はもちろん,平成24年7月5日付け拒絶理由通知(甲8)でも通知され

ておらず,本件審決で示された新たな拒絶理由である。

しかるところ,本件審判において,原告に対し,上記拒絶理由を通知し,

反論の機会を与えていないから,本件審判には,同条に違反する手続的な

瑕疵がある。



くタワー振動の固有周波数ωeigのみを減衰して風力タービン設備全体の

振動が減衰するのか不明である。しかも,特許請求の範囲には,タワーの

剛体セルの移動の固有振動数ωeigと記載されており,発明の詳細な説明

記載と整合性が取れておらず,出願時の技術常識に照らしても,タワーの

剛体セルの移動の固有振動数ωeigまで,発明の詳細な説明に開示された内

容を拡張ないし一般化できるとはいえないので,当該事項は,発明の詳細

な説明に記載されたものではない。」として,本願発明1ないし12につ

いて実施可能要件明確性要件及びサポート要件を欠く旨判断した。

しかしながら,本件審決の上記判断は,平成23年5月27日付け拒絶




査定(甲5)及び平成24年1月16日付け審尋(甲6)はもちろん,平

成24年7月5日付け拒絶理由通知(乙10)でも通知されておらず,平

成24年11月28日に行われた審判官との第2回面接の際に初めて指摘

された新たな拒絶理由である。これに対して原告は,平成24年12月2

0日付けファクス(甲4)で反論する機会があったが,当該「反論する機

会」は,第2回面接を受けて,原告が自発的に行ったものであり,被告か

ら「拒絶の理由」が通知されてそれに対してされたものではないから,当

然に当該ファクスが,特許法50条に規定された「意見書」ではないこと

は明らかである。特に,この判断は,当該ファクスでも主張したように,

誤記の訂正として補正すれば容易に解消されるものであるが,特許法50

条の規定により,原告に対し,拒絶理由を通知し,反論の機会が与えられ

なければ,原告は,特許法17条の2の規定により補正することはできな

い。

したがって,原告は,特許法159条2項で準用する同法50条に規定

された反論の機会を奪われたといえるから,本件審判には,同条に違反す

る手続的な瑕疵がある。

ウ 以上のとおり,本件審決は,特許法159条2項で準用する同法50条

の規定に違反する本件審判手続によりされたものであり,違法であるから,

取り消されるべきである。

2 被告の主張

取消事由1に対し

ア 取消事由1−1に対し

本願発明1の特許請求の範囲の請求項1における「フロート式風力タ

ービン設備のタワーの剛体セルの移動である振動を減衰する方法」,「

前記風力タービンに対する相対風速の変化に応じて前記発電機を制御す

ること」,「前記タワーの固有振動が打ち消されるように,タワー速度




ドットΔZに基づいて前記タービンブレードの前記ブレード角に増分Δ

βが加えられることによって前記タワーの剛体セルの移動の固有振動数

ωeigを減衰すること」,「周波数ωeigを有するタワー上部の水平な変

位ΔZの振動」との記載によれば,本願発明1は,タワー上部の水平な

変位(振動)を減衰させる方法であることを規定するものである。

しかしながら,請求項1には,「タワーの剛体セルの移動である振動」

のうち,風力タービンのシャフトに対して平行な方向の風速の成分に対

して平行な移動のみを減衰するという特定及び当該風速の成分に対して

平行な移動のみを減衰するための具体的な構成は何ら示されていない。

このことは,請求項7も同様である。

また,本願明細書には,上記風速の成分に対して平行な移動のみを減

衰するという記載がなく,しかも,フロート式風力タービン設備は,風

・波・海流によって働く力で移動するものであり,これらは一定の方向

に働く力ではないから,本願明細書の記載から本願発明1のフロート式

風力タービン設備が特定の方向の移動のみを減衰することを意図するも

のと解釈することはできない。原告が指摘する本願明細書の図7及び図

10記載のタワーの変位は,単位がメートルのスカラー量であって,向

きも考慮するベクトル量ではないから,タワーの変位の方向を表してお

らず,タワーがどの程度変位したかその変位量だけを表しており,また,

本願明細書における図面の説明においても,タワーの変位の方向につい

て記載されておらず,ある一定の方向の振動に着目しているとはいえな

いから,図7及び図10をもって上記風速の成分に対して平行な移動の

みを減衰することの根拠とすることはできない。

さらに,原告作成の平成23年10月21日付け審判請求書手続補正

書(乙1)の「3.本願発明と引用例との対比」の記載事項によれば,

本願発明は,「自由な剛体振動」,即ち,「サージ,スウェイ,ヒーブ,




ロール,ピッチ,ヨー」(乙2の図6参照)の振動を想定し,そのよう

な自由な剛体振動の減衰を目的としたものというべきであり,本願発明

1のフロート式風力タービン設備が上記風速の成分に対して平行な移動

のみを減衰することを意図していたと解釈することはできない。

以上によれば,本願の特許請求の範囲及び本願明細書には,フロート

式風力タービン設備に関連するタワー振動の減衰について,上記風速の

成分に対して平行な移動のみの減衰に限定する記載がなく,また,本願

出願経過に照らしても,そのように限定して解釈しなければならない

とする理由もないから,本願発明1は,「タワーの剛体セルの移動であ

る振動」のうち,上記風速の成分に対して平行な方向の移動のみを減衰

させる方法であるということはできない。

原告は,フロート式風力タービン設備の型式が異なっても,本願発明

1の方法でその振動を減衰させることができる旨主張する。

しかしながら,風力タービンの風車には様々な種類があり(乙3, ,
4)

タービンブレードのブレード角を制御するには,各ブレードがどの場所

にあるかを判断し,各ブレードに対する風の向き・強さやタワーの振動

をも考慮しなければならない。例えば,水平軸風車で風車が複数あって

風車の各々の軸が主軸に対して傾きを有している場合(乙3の図1,2,

7),各風車に当たる風の向き・強さが異なるから,各風車がどの場所

にあって,その各風車の各ブレードがどの場所にあるかを判断しなけれ

ばならず,各ブレードに対する風の向き・強さやタワーの振動をも考慮

しなければならない。

また,垂直軸風車の場合,風に対して無指向性であるから,全周のい

ずれの方向から吹く風に対しても振動を考えなければならない。例えば,

ダリウス型の垂直軸風車の場合(乙4の図1,2),風が一方向から吹

いたとしても,風車の回転によるブレードの位置の変化によって風の受




け方が異なるが,当然周囲360°様々な方向から風が吹くから,風車

の各ブレードがどの場所にあるかを判断しなければならず,各ブレード

に対する風の向き・強さやタワーの振動をも考慮しなければならない。

しかるところ,本願明細書には,センサとして加速度計を有すること

のみが記載されているにすぎず(段落【0045】),加速度計を用い

て,これらのファクターをどのように総合的に判断してブレード角を制

御するかについての記載がない。

さらに,ブレードに対する制御を「個別」に行うのか,あるいは「全

て」のブレードに対して同じ制御を行うかについても(本願明細書の段

落【0046】),具体的な開示がなく不明である。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

原告は,本願明細書の図4(別紙明細書図面参照)に具体的な伝達関

数が開示されている旨主張する。

しかしながら,本願明細書には,図4に示されたスタビライザの伝達

関数の例を「フロート式風力タービン設備」に適用する場合,どのよう

に各部材を制御すれば伝達関数どおりにブレード角を所望の角度とする

ことができ,振動が減衰されるのか,さらには,伝達関数を構成する部

材(スタビライザ)がどのように具体的に動くのかが示されていない。

また,本願発明3の特許請求の範囲の請求項3には,伝達関数につい

て,「前記タワー速度ドットΔZと前記ブレード角の増分Δβとの間の

前記伝達関数Hstab(s)と,前記ブレード角βと前記タワー速度との

間の伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)とは,ループ伝達関数Hβ-ΔZ_dot(

jωeig)・Hstab(jωeig)=−1であるようなものであり,これは,

【数2】 Hstab(jωeig)=−1/K・e−jφを意味する」と記載さ

れている。そこに示されている伝達関数は,単に所定の信号に逆位相の

信号を与えると所定の信号がキャンセルできることを一般論として示す




だけであり,「サージ,スウェイ,ヒーブ,ロール,ピッチ,ヨー」と

いった「フロート式風力タービン設備」に生じる自由な剛体振動を減衰

するものとして具体的ではない。

さらに,解析対象の装置を機械振動系としてモデル化し,そのモデル

化されたものから振動の方程式を求めて,想定される振動を解析する手

法が,一般的に行われている解析手法であり,伝達関数を求めるために

は,甲7に示されているように振動系のモデルが通常必要である。

しかしながら,本願明細書には,本願発明1のフロート式風力タービ

ン設備の振動系が示されておらず,また,フロートセル,タワー,発電

機及びタービンブレードの形状・構造,固定ライン機構の形状・構造,海

水の状態といったモデルを求めるための要件が一切記載されていない

し,また,洋上における様々な風速,風向,海流等の任意の物理的条件

をどのように考慮して演算処理するのか何ら記載がない。

このように本願明細書には,「フロート式風力タービン設備」の機械

振動系について具体的な説明はないから,伝達関数を求めることはでき

ない。

したがって,本願明細書には,ブレード角の制御を当業者が実施でき

る程度に伝達関数が明確に開示されているといえないから,原告の上記

主張は理由がない。

以上によれば,本願発明1の方法を用いれば,いかなる風力タービン

設備でも振動を減衰することができるとする物理的根拠が不明であり,

また,風車の型式が異なれば当然にブレードの具体的な制御方法も異な

るはずであるが,ブレードの制御方法については,本願明細書に何ら開

示がなく,不明である。

したがって,本願発明1ないし12について実施可能要件及び明確性

要件を満たしていないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の




取消事由1−1は理由がない。

イ 取消事由1−2に対し



ート式風力タービン設備に関連するタワー振動の減衰について,風力タ

ービンのシャフトに対して平行な方向の風速の成分に対して平行な移動

のみの減衰に限定する記載がなく,また,本願の出願経過に照らしても,

そのように限定して解釈しなければならないとする理由もない。

また,本願明細書には,原告が主張する「フロート式風力タービン設

備の振動によって風の相対速度が変化し,発電される電力が変動してし

まうことを抑える」ことが本願発明1の目的であるとの記載はない。か

えって,本願明細書の「本発明による解決策の原理は,固有振動が打ち

消されるようにタービンブレードのブレード角を制御することにより,

タワーの固有振動を減衰させることである。」(段落【0036】)と

の記載によれば,本願発明1は,「固有振動数の減衰」を目的とするも

のであり,タワーの固有振動数による振動は様々な方向に発生し,様々

な振動(サージ,スウェイ,ヒーブ,ロール,ピッチ及びヨー)がある

から,本願発明1は,フロート式風力タービン設備のあらゆる方向への

移動のうち,上記風速の成分に対して平行な方向の移動のみを減衰する

ものであるということはできない。

仮に,本願明細書に原告主張の本願発明1の目的が記載されていると

しても,フロート式風力タービン設備の振動は様々な振動があり,風ば

かりではなく波や潮流が振動に影響を及ぼすから,風より波・潮流の影

響が大きければ振動は波・潮流に支配され,かつ,風・波・潮流の方向

は常に同一方向ではないから,フロート式風力タービン設備の振動の減

衰から,上記風速の成分に対して平行な方向の移動のみを減衰すること

を導き出せるものではない。しかも,フロート式風力タービン設備は海




に浮いているものであり,風・波・潮流の影響を受け,様々な振動があ

るが,上記風速の成分に対して平行な方向の移動しか発生させない海は

存在しない。

さらに,原告は,本願発明1により風速の成分に対して平行な移動の

みを減衰する場合として,風力タービンが水平軸風車であって,ブレー

ドが水平軸に直角に設けられ,海面に風が平行に吹き,風の方向は水平

軸方向であるもの(乙5の添付図面,第1回面接時に原告代理人が提出)

を想定しているものと考えられるが,本願明細書には,そもそもそのよ

うな事例の記載はないし,風が水平軸に対して角度をもって吹いた場合

(水平軸下方から吹いた場合,水平軸上方から吹いた場合,水平軸横方

向から吹いた場合),加速度計(本願明細書の段落【0045】)のみ

を用いてどのように制御するのかについても何ら開示がない。

一方で,本願明細書の「システムの固有周期に関連して働く力がまだ

ある(うねり,非線形波力,風速の変動,潮力等)。このような力は,

許容できない移動を発生させるべきではない場合に大きすぎてはなら

ず,システムは関連する周期を減衰しなければならない。」(段落【0

006】)との記載によれば,本願発明1は,システムの固有周期に関

連して働く,少なくとも,うねり,非線形波力,風速の変動,潮力等の

力によって発生する許容できない移動(周期)の減衰を技術的課題とし

たものといえるから,「様々な振動に影響を及ぼす要因全てに対処でき

る」ものであることを前提とするものといえる。

以上によれば,本願発明1は,フロート式風力タービン設備のあらゆ

る方向への移動のうち,風力タービンのシャフトに対して平行な方向の

風速の成分に対して平行な方向の移動のみを減衰するものであるという

ことはできないから,本願発明1ないし12について実施可能要件及び

明確性要件を満たしていないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告




主張の取消事由1−2は理由がない。

ウ 取消事由1−3に対し



の風の受け方が異なるが,本願明細書には,各々の風車において,伝達

関数から得られた結果を用いてブレード角をどのように制御するかにつ

いての具体的な開示がなく不明である。

また,本願明細書の段落【0036】には,固有振動を減衰させるこ

との記載はあるが,原告が主張する風とブレード角の関係(「風に抗す

る方向にフロート式風力タービン設備が移動する場合には,風に抗する

方向のフロート式風力タービン設備の移動を抑える方向にブレード角を

調整し,風と同じ方向にフロート式風力タービン設備が移動する場合に

は,風と同じ方向のタワー設備の移動を抑える方向にブレード角を調整

する。」)の記載はない。

原告は,全てのブレードを同じように制御することと,ブレードごと

に異なるピッチ角で個々に制御することは,単なる設計事項である旨主

張する。

しかしながら,そもそも風車の全てのブレードを同じように制御する

ことと,ブレードごとに異なるピッチ角で制御することとは,機能,作

用の点で異なるものであり,両技術を単なる設計事項と解すべき合理性

はないし,また,ブレードごとに異なるピッチ角で個々に制御する場合,

個々のブレードをどのような基準で選択し,異なるピッチ角をどのよう

な基準で異なるピッチ角を選択するのか不明であり,単なる設計事項で

あるとはいえない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

以上によれば,風力タービンが水平軸風車又は垂直軸風車のいずれで

あっても,「ブレード角をどのように制御するのか」,「全てのブレー




ドに同じ制御を行うのか個別に制御するのか」については本願明細書に

開示されているとはいえないから,本願発明1ないし12について実施

可能要件及び明確性要件を満たしていないとした本件審決の判断に誤り

はなく,原告主張の取消事由1−3は理由がない。

エ 取消事由1−4に対し

原告の主張は,本願発明1は,フロート式風力タービン設備のあらゆ

る方向への移動のうち,風力タービンのシャフトに対して平行な方向の

風速の成分に対して平行な移動のみを減衰するものであることを前提と

するものであるが,本願の特許請求の記載及び本願明細書の記載に基づ

のとおり,失当である。

また,原告が主張するように,風向き及び風速が一定で,波の力を受

けてタワーの剛体セルが移動し,波の周期に応じて固有振動させようと

するならば,風,波及び海流の条件が特定の条件に限られ,かつ,波が

風力タービン設備を固有振動数と同じ周波数(例えば,本願明細書の段

落【0033】には,0.0795Hzとある。)で振動させなければ

ならないが,このような状況は,海上では一般に想定し得ない状況であ

る。

さらに,原告が本件審理段階で提出した乙5の貼付図面では,フロー

トセルが棒状であり,このフロートセルを海底に向けて張った固定ライ

ン機構により固定されたフロート式風力タービン設備が示されており,

上記貼付図面のような,棒状のフロートセルを,海底に向けて張った固

定ライン機構で固定したような設備が,往復の振動(サージ)をすると

は理解できない。そもそも,原告は,本件審判手続における第2回面接

時に,タワーの剛体セルの移動の固有振動とは,ピッチに相当する振動

のことと説明しており,往復の振動(サージ)とは説明していなかった

ものであり,このことは,上記貼付図面の固定ライン機構による固定,




及び「固有周波数は振子のようにひもの長さが決まると周期が決まるの

と同じ理由」(乙11)とも符合する。

このように原告の固有振動に関する主張に一貫性はなく,依然として,

本願発明1の「固有振動」はどのような振動を意味するのか不明という

ほかはない。

以上によれば,原告主張の取消事由1−4は理由がない。

オ 取消事由1−5に対し

原告は,本願発明1の「伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)」は,本願優先

権主張日において当業者にとって既に周知の事項であったため本願明細

書における具体的な記載を省略したにすぎず,不明なものではない旨主

張する。

しかしながら,仮に当業者にとって既に周知の事項であっても,当該

周知の事項を本願発明1に用いることが本願明細書に何ら記載されてい

ない以上,当該周知の事項が明細書に記載され,又は記載されているに

等しいとすることはできない。

しかも,原告が周知の事項であることの根拠として挙げる甲7は,そ

もそも「固定式風力タービン設備」に関するものであり,本願発明1の

対象としている「フロート式風力タービン設備」とは機械振動系が全く

異なるものである。本願発明の対象としている「フロート式風力タービ

ン設備」は,甲7の図4(b)に示されるような片持ち支持された機械

振動系とは異なり,少なくともタワーを配置する「フロートセル」や,

フロートセルを係留する「固定ライン機構」をも含む機械振動系である。

仮に甲7に基づいて「固定式風力タービン設備」に関する伝達関数が

周知であると解し得たとしても,本願発明1の「フロート式風力タービ

ン設備」に関する伝達関数までもが周知であると解すべき合理性はない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。




原告は,「伝達関数Hstab(s)」については,本願明細書の図4(

別紙明細書図面参照)に具体的な伝達関数が開示されている旨主張する。



角の制御を当業者が実施できる程度に伝達関数が明確に開示されている

といえないから,原告の上記主張は,理由がない。

原告は,(1.1)式に関し,Hβ-ΔZ_dot(jωeig)及びHstab

(jωeig)が明確であり,本願発明の原理が明確である以上,発明の構

成が不明ではない旨主張する。

しかしながら,(1.1)式は,位相を表す一般式であって,Hβ-

ΔZ_dot(jωeig),Hstab(jωeig)は明確ではなく,本願発明の具

体的内容を何ら表すものではないから,(1.1)式から発明を把握す

ることはできず,発明の構成は不明である。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

以上によれば,本願明細書には,「伝達関数Hstab(s)」及び「伝

達関数Hβ-ΔZ_dot(s)」が当業者が実施できる程度に明確に開示さ

れているとはいえないから,原告主張の取消事由1−5は理由がない。

カ 小括

以上によれば,本願発明1ないし12について実施可能要件明確性

件及びサポート要件を満たさないとした本件審決の判断に誤りはないか

ら,原告主張の取消事由1は理由がない。

取消事由2に対し

ア 本件審決の「これら振動に対処するためには,どの様なセンサを用いて

各振動を検出し,センサ出力にどの様にして優先順位付けや重み付けをし

てタービンブレードのブレード角を制御するのか何ら開示が無く不明であ

る」との判断は,本願発明がブレード角を制御するために当然に必要な情

報が開示されていないことを示したものである。




そして,審判合議体は,平成24年7月5日付け拒絶理由通知(乙10)

において,「この出願の発明の構成は不明である。…何故本願の方法で様

々な振動に影響を及ぼす要因全てに対処できるのか何ら開示が無く不明で

ある」と拒絶理由を示している。

したがって,本件審決の上記判断は,新たな拒絶理由に該当しない。

イ 本件審決は,「何故フロート式風力タービン設備ではなくタワー振動の

固有周波数ωeigのみを減衰して風力タービン設備全体の振動が減衰する

のか不明である。しかも」と判断しており,「しかも」の前段部分で,本

願発明1の構成が不明であるから特許法36条の規定を満たしていないの

で特許を受けることができないと判断しているのであって,「しかも」の

後段部分は付加的に説示したものであり,審決の結論に影響を及ぼすもの

ではない。言い換えれば,「タワーの剛体セルの移動の固有振動数ωeig」

が新規事項であってもなくても,本願が不明確なことに変わりはない。

なお,原告は,上記の点について,平成24年11月28日の第2回面

接(乙11)で初めて指摘された旨主張するが,同年6月27日の第1回

面接(乙5)で「本願の伝達関数の具体的内容等,不明な点について質問

を行った」とあるように,本願発明1の振動を減衰することに関して,「

タワーの剛体セルの移動の固有振動数ωeig」と「タワーの固有振動数ω

eig」 見かけ上似ているため,
が, その違いについて代理人に質問しており,

その後,本件審判段階で拒絶理由を通知し,かかる内容について,「更に,

本願が目的とするタワー振動の減衰は,特定の周波数即ちタワー振動の固

有周波数ωeigに等しい周波数を有する振動βのみを減衰することを目的

とするのか否か不明であり,…しかも,その特定周波数の振動のみを減衰

して何故風力タービン設備全体の振動が減衰するのか不明である。」と指

摘している。しかし,原告からは意見書のみが提出されたため,平成24

年11月28日の第2回面接において,「タワーの剛体セルの移動の固有




振動数ωeig」について改めて質問したものであるから,この点は,第2回

面接で初めて指摘されたものでない。

ウ 以上によれば,原告主張の本件審判における手続違背は認められないか

ら,原告主張の取消事由2は理由がない。

第4 当裁判所の判断

1 取消事由1−2(実施可能要件及び明確性要件の判断の誤り)について

本件の事案に鑑み,まず,原告主張の取消事由1−2のうち,本件審決にお

ける実施可能要件の判断の誤りの有無について判断する。

本願明細書の記載事項等について

ア 本願発明1ないし12の特許請求の範囲(請求項1ないし12)の記載

は,前記第2の2のとおりである。

イ 本願明細書(甲11)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載が

ある(下記記載中に引用する図面については別紙明細書図面を参照)。

「【技術分野】

本方法は,風力タービン設備,特にフロート式風力タービン設備に関

連するタワーの振動を減衰する方法に関する。フロート式風力タービン

設備は,フロートセルと,フロートセルの上方に配置されたタワーと,

タワー上に搭載され,風向きに関連して回転可能であり,風力タービン

に取り付けられた発電機と,固定具すなわち海底の基礎に接続された固

定ライン機構とを備える。」(段落【0001】)

「【背景技術】

かなり深いところでも使用可能な固定されたフロート式風力タービン

設備の開発は,海での風力エネルギーを拡大する分野の利用可能性を強

力に高めるであろう。海に配置された風力タービンの現行技術は,水深

およそ30m未満の浅い場所での常設タワーに大幅に制限されている。」

(段落【0002】)




「水深30mを超える場所への常設は,一般に,技術的な問題及び高

コストに繋がる。これは,今までは,水深およそ30m超が風力タービ

ンの設置にとって技術的且つコスト的に好ましくないと見なされてきた

ことを意味している。」(段落【0003】)

「より深い海でフロート式の解決策を使用すれば,複雑で労働集約的

な設置に関連する基礎的な問題及びコストを回避することができる。」

(段落【0004】)

「フロート式の基礎に搭載された風力タービンは,風及び波からの力

により移動するであろう。良好な風力タービンの基本的なデザインは,

剛体セルの移動(サージ,スウェイ,ヒーブ,ロール,ピッチ,及びヨ

ー)のシステムの固有周期が,およそ5秒〜20秒である海の波の周期

範囲外であることを保証するであろう。」(段落【0005】)

「システムの固有周期に関連して働く力がまだある(うねり,非線形

波力,風速の変動,潮力等)。このような力は,許容できない移動を発

生させるべきではない場合に大きすぎてはならず,システムは関連する

周期を減衰しなければならない。」(段落【0006】)

「本発明は,解決策,より正確には,風力タービン設備のタワーの振

動を効率的に減衰する方法を表す。シミュレーションテストでもたらさ

れた結果は,本発明による方法を使用して,システムの固有周期に関連

して振動がおよそ10分の1に減衰されたことを示す。」(段落【00

07】)

「本発明について,例を使用し,添付の図面を参照して以下において

さらに詳細に説明する。」(段落【0010】)

「【発明を実施するための最良の形態】

風が風力タービン設備に対して働くと,風からの力が基礎の移動に寄

与するであろう。しかし,風力タービンからの力は,タービンがどのよ




うに制御されるか,すなわち,タービンブレードのRPM及びピッチが

風速に伴ってどのように変化するかに依存する。制御アルゴリズムは,

風速に伴って変化するであろう。陸上ベースの風力タービンの典型的な

制御哲学を図1に示す。この図を参照すると,以下のことが分かる。

・開始範囲では,小さな力が風力タービンに対して働く。風力は,移動

にわずかな影響しか有さないであろう。移動が風力により影響を受ける

場合,およそ可変RPM範囲でのようにタービンを制御することが可能

である。

・可変RPM範囲では,タービンブレードのピッチ角はおよそ一定であ

る。この目的は,タービンに対して瞬間相対風速がある場合はいつでも

最大電力を発電できるようにタービンのRPMを制御することである。

相対風速は,平均風速と,風速の変動と,タワーの移動(速度)とから

成る。これは,風が増大するときにタービンからの電力及びスラストが

増大することを意味する。そしてまた,システム(基礎を含む風力ター

ビン)が,ピッチの移動とサージの移動との組み合わせで風に逆らって

移動する場合,これにより,必然的に,タービンの風速が増大し,スラ

ストが増大する。これは,減衰力(速度に反して働く力)に等しい。し

たがって,この風速範囲では,タービンに対する風力は,システムへの

正の減衰に寄与するであろう。これは,システムの固有周波数に関連し

て移動の低減の一因となるであろう。

・一定のモーメント範囲では,タービンの定格電力に達する。次に,通

常,およそ一定のRPMが保たれ,タービンブレードのピッチ角を調整

することにより,モーメントひいては電力が制御される。この目的は,

およそ一定の電力を保つことである。風速が増大すると,ピッチ角が広

げられて,モーメントを低減する。これは,風速の増大にもかかわらず,

スラストの低減ももたらす。このように,可変RPM範囲で発生する結




果とは異なり,負の減衰効果という結果をもたらす。標準制御システム

は,タービンに対する相対風速の変化に起因するすべての電力変動を調

整しようとするであろう。これは,相対速度の変動にもかかわらず,タ

ービンのモーメントが一定に保たれるように,ブレードのピッチ角を変

更することにより行われる。これにより,風力タービンは結果的に負の

システム減衰に寄与し,固有周期に関連してタワーの移動を増大させる

結果となるであろう。これは,許容できない大きな移動を発生させ得る。」

(段落【0011】)

「本発明により,風力タービンの制御とシステムの移動の制御との間

の負のリンクを回避するために,制御アルゴリズムを変更しなければな

らないことが分かる。」

(段落【0012】)

「「一定のモーメント」の範囲で,およそ一定のRPM及びモーメン

トを保つことが望ましいが,以下においてさらに詳細に説明する適切な

フィルタリング及び制御アルゴリズムを使用して,タービンが,共振に

関連する負の減衰を供給することは依然として回避される。実際に,概

説する制御哲学は,共振に関連する正の減衰を供給し,それにより,シ

ステムの移動を低減するであろう。一方で,本発明による制御哲学によ

り生じる発電量の変動は小さい。これは,数値シミュレーションにより

実証されている。さらに,移動の低減は,風力タービン及びタワー構造

への負荷の低減に大きく寄与するであろう。」(段落【0013】)

「図2は,比例積分制御(PI)を有するブレード角コントローラの

部分及びブレード角βと水平タワー速度との間の伝達関数Hβ-ΔZ_dot
(s)

の概略図を示している。これは,相対速度が変化したときに,タービン

の一定の電力を保つために必要なタービンブレード角の変更である。」

(段落【0014】)




「タワー振動の固有周波数ωeigに等しい周波数を有する振動βは,伝

達関数Hβ-ΔZ_dot(s)を介して,ωeigの場合のHβ-ΔZ_dot(s)の振幅及

び位相により与えられるタワー速度」(段落【0015】)

「【数1】



」(段落【0016】)

「(以下,「ドットΔZ」と称する)になるであろう。」(段落【0

017】)

「【数2】



」(段落【0018】)

「が与えられる。

周波数ωeig を有する振動βを減衰するために,ループ伝達関数H β-Δ

(jωeig)・Hstab(jωeig)=−bであるようなドットΔZとΔβと
Z_dot


の間の伝達関数Hstab(s)を有するスタビライザを設計することが可能

である。これは,」(段落【0019】)

「【数3】




」(段落【0020】)

「を意味する。

式中,「b」は可変制御増幅器である。これは,タワーの振動の可能

な限り最大の減衰を得られることと,同時にタービンブレードのモーメ

ント特性及びスラスト特性に依存する他の固有周波数の不要な励振を回

避することとに基づいて選択される。」(段落【0021】)

「このような伝達関数は,ブレード角が,タワーの固有周波数と関連




して発生する速度変動に応じて調整されないことを保証するであろう。

これは,周波数依存減衰を発生させるであろう。タワーの固有周波数と

関連して,この減衰は,一定のピッチシステムで発生する減衰に等しい

であろう。増幅が増大する場合,減衰をさらに増大させることができる。

増幅が低減する場合,減衰は,およそゼロ減衰寄与の限界に達するまで

低減されるであろう。」(段落【0022】)

「スタビライザが,タワー振動の固有周波数とかなり異なる周波数で

βに対して不要な影響を及ぼさないことを保証するためには, stab
H (s)

がこれらの周波数をフィルタリングするのに必要なフィルタを有するこ

とが重要である(後のセクションを参照)。」(段落【0023】)

「図3は,ブレード角とタワー速度との伝達関数及びタワーの振動の

固有周波数を有する振動を減衰するスタビライザの伝達関数の一例を示

している。」(段落【0024】)

「図3に示されるシステムをよく見て,左側から入力される信号(ブ

レード角の振動)をβ0と呼ぶ場合,タワー速度ドットΔZの式を,以下

のように設定することができる。」(段落【0025】)

「【数4】




」(段落【0026】)

「タワーの振動の場合,以下の式が得られる。」(段落【0027】)

「【数5】




」(段落【0028】)

「ここで,Hls(s)は,スタビライザを含む,β0からドットΔZま




での閉ループの伝達関数である。」(段落【0029】)

「所与の周波数ωeigでタワーの振動を減衰するさらなる減衰は,以下

の式を満たすことにより設計することができる。」(段落【0030】)

「【数6】




」(段落【0031】)

「タワーの振動を低減する,(2.3)の基準に従って設計されあら

ゆるスタビライザが,安定化に十分な減衰を必ずしもシステムに供給す

るとは限らないことに留意されたい。したがって,さらに,対象となっ

ているタービンのコントローラパラメータを選択する際にシステムが安

定していることを要求する必要がある。」(段落【0032】)

「一例は,タワーの振動の固有周波数ωeigがおよそ0.5ラジアン/

秒(feig≒0.0795Hz)に等しいこと,すなわち,タワーの振動

がおよそ12.57sの周期を有することに基づいた。固有周波数で振

動するタワーの振動を減衰するように製作された本発明によるスタビラ

イザは,次に図4に示されるような伝達関数を有した。」(段落【00

33】)

「この伝達関数のボード線図を図5に示す。この図は,設計されたス

タビライザの周波数応答を示している。矢印は,タワーの動力学の固有

周波数に関連する振幅及び位相を定義している。」(段落【0034】)

「図6に示される基本図では,スタビライザの解決策が本発明による

制御の解決策に含まれ,この図は,スタビライザからの出力信号がター

ビンのブレード角βを変調するためにどのように設計されるかを示して




いる。」(段落【0035】)

「したがって,本発明による解決策の原理は,固有振動が打ち消され

るようにタービンブレードのブレード角を制御することにより,タワー

の固有振動を減衰させることである。スタビライザは,タワーの振動の

固有周波数ωeigの近傍の周波数範囲において,ブレード角に影響する必

要があるだけであるように設計される。ハイパスフィルタが,低周波数

で増幅が提供されないこと(ゼロ増幅)を保証し,ローパスフィルタが,

高周波数で増幅が提供されないこと(ゼロ増幅)を保証する。さらに,

追加の減衰Δβ(+又は−)が,タワーの振動の固有周波数ωeigにより

発生するドットΔZの振動を減衰するようなスタビライザの位相歪みに

なるように,位相補償フィルタを調整しなければならない。換言すれば,

これは,ブレード角が,周波数ωeigを有するタワーの振動を減衰するよ

うにタワー速度ドットΔZに関連する振幅及び位相により影響されるこ

とを意味する。」(段落【0036】)

「スタビライザの使用により,スタビライザが使用されない状況と比

較して,タワーの固有振動からの影響を大幅に低減して相対風速を受け

るタービンになる。さらに,スタビライザが使用される場合,物理的に,

タワーの振動ははるかに少ない。

」(段落【0037】)

「シミュレーションテスト

上述した制御の解決策に基づいて,平均風速17.43m/秒及び2

0.04m/秒を有する2つの風の場合で,シミュレーションテストを

実施した。これらの速度は,減衰の必要性がこのように高い風速で,す

なわち,タービンが一定の電力モードで動作する場合に最も高いため選

択された。」(段落【0038】)

「図7及び図8は,タワーの振動を減衰するスタビライザがある場合




及びない場合の17.43m/秒での風のシミュレーションの結果から

選択されたものを示している。」(段落【0039】)

「図7は,タービンが一定の電力モードで稼働し,スタビライザが使

用されない場合に,かなりのタワーの振動があることを示している。こ

れは,グリッドに供給される電力の大きな変動にも繋がる(図8参照)。

タワーの振動の高い振幅は,以下のように説明することができる。」(

段落【0040】)

「一定のRPM範囲では,風速が増大すると,スラストが低減する。

タワーが後方速度をとる場合,タワーが受ける相対風速は低減する。ブ

レード角(ピッチ)は,モーメントひいては一定の電力を保つように調

整(増大)されるであろう。したがって,相対風速が低減するにもかか

わらず,スラストも増大するであろう。したがって,タワーが風向きと

逆の速度で移動する場合,相対風速が増大するであろう。ブレード角(

ピッチ)は,モーメントを低減するように調整(低減)されるであろう。

これはスラストも低減するであろう。したがって,このタービン調整方

法は,タワーの移動と同じ方向に働くスラストの変動,すなわち負の減

衰を発生させるであろう。これは,特に,移動が減衰により制御される

タワーの共振周期近傍でのタワーの振動の増幅に繋がるであろう。これ

らは,上記のスタビライザが減衰するように設計されたタワーの振動で

ある。問題となっている例では,振動は大きすぎて,タービンが一定の

電力モードで稼働している場合であっても,一定の電力を供給すること

はできない(図8)。」(段落【0041】)

「本発明によるスタビライザが使用される場合,図7は,タワーの振

動が良好に減衰されることを示し,図8は,電力変動も大幅に低減する

ことを示している。したがって,スタビライザは所望の効果を生み出す。

シミュレーションの部分では,タワーの振動の振幅が,スタビライザが




ない場合の10m超からスタビライザがある場合の1m未満に低減す

る。」(段落【0042】)

「図9及び図10は,風速20.04m/秒の場合の結果を示してい

る。スタビライザなしの場合,タービンがおよそ一定の電力を供給する

(図9)が,タワーの振動が徐々に蓄積されて大きな変動になる(図1

0)ことが分かる。スタビライザが使用される場合,タワー速度の大幅

な低減が実現されながら,電力はおよそ一定のままである。」(段落【

0043】)

「図11は,本発明によるスタビライザを含む風力タービンの概略図

を示す。図の凡例:

Ut−結果として生じるタービンでの風速

β−ブレード角

Tturb−シャフトのタービン側の機械的モーメント

Tg−シャフトの発電機側の機械的モーメント

ωt−シャフトのタービン側のRPM

ωg−シャフトの発電機側のRPM

ng−ヨー変換(本明細書では,これは1に等しい)

uf−永久磁石発電機の内部電圧

f1−永久磁石発電機のターミナル電圧の周波数

Ps−永久磁石発電機から供給される有効電力

Us−永久磁石発電機のターミナル電圧

Ud−DC中間回路の電圧

fn−本線電圧の周波数

Qnet−風力タービンからグリッドに供給される無効電力」(段落【

0044】)

「手短に言えば,スタビライザは,加速度計又は類似のものの形の(




図示しない)センサからのタワー速度ドットΔZの変化に関連する信号

を受け取ることにより働く。信号はスタビライザにより「処理」され,

スタビライザは,ロータブレードにブレードのピッチ角Δβを変更させ

て,上述したようにタワーの振動の所望の減衰を達成する新しい信号を

コントローラに発する。」(段落【0045】)

「本発明は,特許請求の範囲に規定されるように,上述した例に限定

されない。したがって,風力タービンのタービンブレードのピッチは,

すべてのブレードに対してまとめて,すなわち同じピッチ角βで,又は

ブレードごとに異なるピッチ角で個々に制御することができる。」(段

落【0046】)

「さらに,本発明は,フロート式風力タービン設備を対象として特に

開発されたが,タワーの柔軟性を,比較的高いフロート式風力タービン

タワー設備,又はフロート式風力タービン設備とフレキシブルタワーと

の組み合わせに使用することも可能である。」(段落【0047】)

実施可能要件の判断の誤りについて

原告は,本件審決が,「フロート式風力タービン設備の振動には,サージ,

スウェイ,ヒーブ,ロール,ピッチ,及びヨー,うねり,非線形波力,風速

の変動,潮力等が影響を及ぼすが,何故本願の方法で様々な振動に影響を及

ぼす要因全てに対処できるのか何ら開示が無く不明である。即ち,フロート

式風力タービン設備に振動を与えるのは,風のみならず,波や海流も振動を

与え,これら風,波,海流等は常に定まった一方向からフロート式風力ター

ビン設備に向かうものではなく,複雑な複数の流れがフロート式風力タービ

ン設備に向かい,サージ,スウェイ,ヒーブ,ロール,ピッチ,及びヨーが

与えられるから,これら振動に対処するためには,どの様なセンサを用いて

各振動を検出し,センサ出力にどの様にして優先順位付けや重み付けをして

タービンブレードのブレード角を制御するのか何ら開示が無く不明である。」




として,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1ないし12に

記載された事項を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたも

のでないから,実施可能要件を満たしていない旨判断したのに対し,フロー

ト式風力タービン設備には様々な振動が生じるが,本願発明1の目的は,フ

ロート式風力タービン設備の振動によって風の相対速度が変化し,発電され

る電力が変動してしまうことを抑えるために,フロート式風力タービン設備

の振動を減衰することにあるから,本願発明1は,フロート式風力タービン

設備のあらゆる方向への移動のうち,風力タービンのシャフトに対して平行

な方向の風速の成分に対して平行な方向の移動のみを減衰するものであるこ

とは当業者であれば容易に理解できることであり,本願発明1は,本件審決

が述べるような「様々な振動に影響を及ぼす要因全てに対処できる」もので

はなく,また,本願明細書には,本願発明1が当該風速の成分に対して平行

な方向の移動のみを減衰するものであることが開示されているから,本件審

決の上記判断は誤りである旨主張する。

ア 本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,

「フロートセルと,

該フロートセルの上方に配置されたタワーと,

該タワー上に搭載され,風向きに関連して回転可能であり,タービンブ

レードを有する風力タービンに取り付けられた発電機と,

固定具すなわち海底の基礎に接続された固定ライン機構と

を備えたフロート式風力タービン設備のタワーの剛体セルの移動である振

動を減衰する方法であって,

該方法は,

前記風力タービンの一定の電力範囲又はRPM範囲においてコントロー

ラにより前記タービンブレードのブレード角を制御することによって,前

記風力タービンに対する相対風速の変化に応じて前記発電機を制御するこ




とと,

前記風力タービンの前記一定の電力範囲又は前記RPM範囲での前記コ

ントローラの制御に加えて,前記タワーの固有振動が打ち消されるように,

タワー速度ドットΔZに基づいて前記タービンブレードの前記ブレード角

に増分Δβが加えられることによって前記タワーの剛体セルの移動の固有

振動数ωeigを減衰することと

を含み,

周波数ωeigを有するタワー上部の水平な変位ΔZの振動は,前記タワー

速度ドットΔZと前記ブレード角の増分Δβとの伝達関数Hstab(s)を

有するスタビライザにより減衰され,

該スタビライザにはローパスフィルタが設けられ,該ローパスフィルタ

は,前記タワーの剛体セルの移動の固有振動数ωeigより大きい範囲の振動

数において前記スタビライザが前記ブレード角に影響しないように配置さ

れる方法。」というものである。

請求項1の記載によれば,本願発明1の「フロート式風力タービン設備

のタワー」は,「剛体セル」で構成されていること,「タワーの固有振動」

は,「固有振動数ωeig」(「周波数ωeig」)を有することが規定されて

いる。

そして,請求項1の記載によれば,「固有振動数ωeig」「周波数ωeig」
( )

を有する「タワー上部の水平な変位ΔZの振動」が,「前記タワー速度ド

ットΔZと前記ブレード角の増分Δβとの伝達関数Hstab(s)を有する

スタビライザ」により減衰されるのであるから,本願発明1の「タワーの

剛体セルの移動である振動」は,あらゆる方向に向けての振動ではなく,

「タワーの上部」が「水平な変位」をするものに限定されているものと解

される。もっとも,請求項1には,上記「タワー上部の水平な変位ΔZの

振動」について,「水平な変位」にいう「変位」の方向や,変位の方向と




タワーに対する風向きとの関係等について特に規定する記載はない。



の点が開示されていることが認められる。

風力タービンの典型的な制御においては,風力タービンが一定のモー

メントの範囲で定格電力に達した場合,通常,風力タービンのRPM(

回転速度)はおよそ一定に保たれ,相対風速(平均風速と,風速の変動

と,タワーの移動(速度)とから成る。)の変動があったときに,定格

電力を保つために,タービンブレードのピッチ角(ブレード角)を調整

することにより,モーメントが一定に保たれるように制御する。この制

御では,タワーが風向きと逆の速度で移動する場合(風に逆らって移動

する場合),風速が増大すると,タワーが受ける相対風速が増大するた

め,ピッチ角(ブレード角)が広げられて,モーメントを低減させるが,

一方で,風速の増大にもかかわらず,タワーの移動(速度)に反して働

く力(減衰力)として働くスラストの低減ももたらすため,タワーの共

振周期近傍でのタワーの振動の増幅に繋がり,共振に関連する「負の減

衰効果」をもたらし,振動が大きすぎて,一定の電力を供給することが

できなくなるという問題がある。

「本発明」は,このような風力タービンの制御とシステム(基礎を含

む風力タービン)の移動の制御との間の負のリンクを回避し,「フロー

ト式の基礎に搭載された風力タービン」を移動させる風,波,うねり,

非線形波力,風速の変動,潮力等の力が,「剛体セル」の移動(サージ,

スウェイ,ヒーブ,ロール,ピッチ及びヨー)のシステムの固有周期に

「許容できない移動」を発生させることがないように,風力タービン設

備のタワーの振動を効率的に減衰する方法である。

「本発明」は,上記問題を解決するため,タワーの振動の固有周波数

ωeigに等しい周波数の振動について,タワー速度ドットΔZと前記ブレ




ード角の増分Δβとの伝達関数Hstab(s)を有するスタビライザを使

用し,固有振動が打ち消されるようにタービンブレードのブレード角に

増分Δβを加えて制御することにより,スラストの変動を抑え,タワー

の固有振動を減衰させる構成を採用し,これにより,共振をもたらすよ

うな振動の増幅を回避し,定格電力を保つという効果を奏するものであ

る。

タワーの振動の固有周波数ωeigに等しい周波数の振動βは,伝達関数

Hβ-ΔZ_dot(s)を介して,ωeigの場合のHβ-ΔZ_dot(s)の振幅及び位相

により与えられるタワー速度(「タワー速度ドットΔZ」)となる。

別紙明細書図面の図11記載のスタビライザは,加速度計又は類似の

ものの形のセンサからのタワー速度ドットΔZの変化に関連する信号を

受け取り,その信号を「処理」し,ロータブレードにブレードのピッチ

角Δβを変更させて,タワーの振動の所望の減衰を達成する新しい信号

をコントローラに発する。

前記ア及びイによれば,本願明細書には,本願発明1は,フロート式

風力タービン設備の風力タービンの一定の電力範囲又はRPM範囲にお

いて,コントローラによりタービンブレードのブレード角を制御するこ

とによって,風力タービンに対する相対風速の変化に応じて発電機を制

御する際に,タワーの剛体セルの移動の固有振動数ωeig(「周波数ω

eig」)を有する「タワー上部の水平な変位ΔZの振動」について,タワ

ー速度ドットΔZとブレード角の増分Δβとの伝達関数Hstab(s)を

有するスタビライザを使用し,固有振動が打ち消されるようにタービン

ブレードのブレード角に増分Δβを加えて制御することにより,スラス

トの変動を抑え,タワーの固有振動を減衰させ,共振をもたらすような

振動の増幅を回避し,定格電力を保つという効果を奏することが開示さ

れていることが認められる。




前記アのとおり,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本

願発明1の方法により減衰の対象となる上記「タワー上部の水平な変位

ΔZの振動」について,「水平な変位」にいう「変位」の方向や,変位

の方向とタワーに対する風向きとの関係等について特に規定する記載は

ない。



には,「フロート式の基礎に搭載された風力タービン」は,風及び波か

らの力やうねり,非線形波力,風速の変動,潮力等により,「サージ」

(前後揺れ),「スウェイ」(左右揺れ),「ヒーブ」(上下揺れ),

「ロール」(横揺れ),「ピッチ」(縦揺れ)又は「ヨー」(船首揺れ)

及びこれらを組み合わせた振動が生じることが開示されている。また,

本願明細書には,風力タービンの振動の例として,「システム(基礎を

含む風力タービン)が,ピッチの移動とサージの移動との組み合わせで

風に逆らって移動する場合」(段落【0011】),「タワーが後方速

度をとる場合」及び「タワーが風向きと逆の速度で移動する場合」(段

落【0041】)が記載されているが,本願発明1により減衰の対象と

なる上記「タワー上部の水平な変位ΔZの振動」が上記の例の場合に限

定されることについての記載や示唆はない。

そうすると,本願発明1により減衰の対象となる上記「タワー上部の

水平な変位ΔZの振動」には,上記の「サージ」,「スウェイ」,「ヒ

ーブ」,「ロール」,「ピッチ」又は「ヨー」及びこれらを組み合わせ

た振動のうち,「タワーの上部」が「水平な変位」をする振動成分を有

しないもの(例えば,「ヒーブ」)は除かれるが,それ以外の振動は含

まれるものと解される。

そして,本願発明1は,風力タービンに対する相対風速の変化に応じ

て発電機を制御する際に,タワーの剛体セルの移動の固有振動数ωeig




(「周波数ωeig」)を有する「タワー上部の水平な変位ΔZの振動」に

ついて,タワー速度ドットΔZとブレード角の増分Δβとの伝達関数H

stab(s)を有するスタビライザを使用し,固有振動が打ち消されるよ

うにタービンブレードのブレード角に増分Δβが加えて制御するもので

あるから,その制御を行うには,「タワー上部の水平な変位ΔZの振動」

を検出し,その検出した「ΔZの振動」に基づいて「タワー速度ドット

ΔZ」を導出し,さらには,タワー速度ドットΔZとブレード角の増分

Δβとの伝達関数Hstab(s)を設定しなければならない。



のスタビライザについて,「加速度計又は類似のものの形のセンサ」

からタワー速度ドットΔZの変化に関連する信号を受け取ることの記

載はあるものの,そのセンサの具体的な構成や信号の具体的な検出方

法に関する記載はなく,本願明細書を全体としてみても,本願発明1

の「タワー上部の水平な変位ΔZの振動」を検出する具体的な方法の

開示はない。



Z」は,「タワーの振動の固有周波数ωeigに等しい周波数の振動β」

から「伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)」を介して求めることが記載されてお

り,「伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)」については,周波数ωeigの場合に,




が与えられる旨の記載(段落【0018】,【0019】)はあるも

のの,「タワーの振動の固有周波数ωeigに等しい周波数の振動β」か

ら「伝達関数Hβ-ΔZ_dot(s)」を導出する具体例の開示はない。

c さらに,本願明細書には,「伝達関数Hstab(s)」について,「

周波数ωeigを有する振動βを減衰するために,ループ伝達関数H β-Δ




(jωeig)・Hstab(jωeig)=−bであるようなドットΔZとΔβ
Z_dot


との間の伝達関数Hstab(s)を有するスタビライザを設計することが

可能である。これは,【数3】




を意味する。

式中,「b」は可変制御増幅器である。これは,タワーの振動の可

能な限り最大の減衰を得られることと,同時にタービンブレードのモ

ーメント特性及びスラスト特性に依存する他の固有周波数の不要な励

振を回避することとに基づいて選択される。」(段落【0019】な

いし【0022】)との記載があり,また,「一例は,タワーの振動

の固有周波数ωeigがおよそ0.5ラジアン/秒(feig≒0.0795

Hz)に等しいこと,すなわち,タワーの振動がおよそ12.57s

の周期を有することに基づいた。固有周波数で振動するタワーの振動

を減衰するように製作された本発明によるスタビライザは,次に図4

に示されるような伝達関数を有した。」(段落【0033】)との記

載があり,別紙明細書図面の図4には,「伝達関数Hstab(s)」の

一例が示され,図5には,その伝達関数の「ボード線図」が示され,

さらには,平均風速17.43m/秒を有する風と平均風速20.0

4m/秒を有する風についてそれぞれスタビライザがある場合及びな

い場合のシミュレーションテストの結果が別紙明細書図面の図7ない

し10(段落【0038】ないし【0043】)に示されている。

しかるところ,本願発明1により減衰の対象となる「タワー上部の



「水平な変位」をする振動成分を有しないものは除かれるが,それ以

外の振動が含まれ,例えば,「サージ」(前後揺れ),「ピッチ」(




縦揺れ)又はこれらを組み合わせた振動が含まれる。そして,「ピッ

チ」の振動の場合又は「サージ」と「ピッチ」を組み合わせた振動の

場合,タワーが受ける風の風向きが同じであっても,タワー上部が円

弧移動するように傾いて振動するため,風力タービンのシャフトに対

して平行な方向における相対風速が経時的に変化し,また,タワー速

度ドットΔZのうち,風向きに対して平行な成分が経時的に変化する

という複雑な挙動となるから,「ピッチ」の振動の場合又は「サージ」

と「ピッチ」を組み合わせた振動の場合におけるブレード角に増分Δ

βを加えて行う制御は,「サージ」の振動の場合に比べて,複雑な制

御が必要になり,タワー速度ドットΔZとブレード角の増分Δβとの

伝達関数Hstab(s)は同一なものにはならないと考えられる。

しかしながら,@本願明細書には,別紙明細書図面の図4記載の「

伝達関数Hstab(s)」が前提とするタワーの振動がどのような態様

であるかについての記載はなく,また,別紙明細書図面の図7ないし

10に係るシミュレーションテストの結果が,いかなる機械的振動系

を前提とするシミュレーションであるのか,そのタワーの振動がどの

ような態様であるかについての記載もないこと,A上記のとおり,本

願発明1により減衰の対象となる「タワー上部の水平な変位ΔZの振

動」に含まれる「ピッチ」の振動の場合又は「サージ」と「ピッチ」

を組み合わせた振動の場合におけるブレード角に増分Δβを加えて行

う制御は,「サージ」の振動の場合に比べて,複雑な制御が必要にな

ると考えられること,Bさらには,本件証拠上,当業者にとってその

ような制御を行うことが容易であることをうかがわせる技術常識が存

在することを認めるに足りる証拠はないことからすると,別紙明細書

図面の図4記載の「伝達関数Hstab(s)」に示された情報及び図7

ないし10に係るシミュレーションテストの結果に基づいて,上記「




ピッチ」の振動や「サージ」及び「ピッチ」を組み合わせた振動につ

いて,具体的な「伝達関数Hstab(s)」を設定することは,当業者

に過度の試行錯誤を強いるものといえる。

以上によれば,当業者が,本願明細書の記載事項及び本件出願の優先

権主張日当時の技術常識に基づいて,本願発明1の「タワー上部の水平

な変位ΔZの振動」の振動成分を有する各振動について,それぞれ「Δ

Zの振動」を検出し,その検出した「ΔZの振動」に基づいて「タワー

速度ドットΔZ」を導出し,さらには,タワー速度ドットΔZとブレー

ド角の増分Δβとの伝達関数Hstab(s)を設定し,固有振動が打ち消

されるようにタービンブレードのブレード角に増分Δβを加えて制御を

行うには過度の試行錯誤を強いるものといえるから,本願明細書の発明

の詳細な記載は,当業者が本願発明1を実施することができる程度に明

確かつ十分に記載したものであるとはいえないというべきである。

また,本願発明2ないし6の特許請求の範囲(請求項2ないし6)は,

請求項1を引用し,その内容に本願発明1の構成を含む「方法」であり,

さらには,本願発明7の特許請求の範囲(請求項7)及び同請求項を引

用する本願発明8ないし12の特許請求の範囲(請求項8ないし12)

は,請求項1を直接には引用していないが,その内容に本願発明1の構

成を含む「ブレード角コントローラ」であるから,上記と同様の理由に

より,本願明細書の発明の詳細な記載は,当業者が本願発明2ないし1

2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであると

はいえないというべきである。

そうすると,「どの様なセンサを用いて各振動を検出し,センサ出力

にどの様にして優先順位付けや重み付けをしてタービンブレードのブレ

ード角を制御するのか何ら開示が無く不明である。」として,本願明細

書の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1ないし12に記載された事




項を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない

から,実施可能要件を満たしていないとした本件審決の判断は,上記と

同旨をいうものと認められ,その判断に誤りはない。

エ 原告は,これに対し,フロート式風力タービン設備には様々な振動が生

じるが,本願発明1の目的は,フロート式風力タービン設備の振動によっ

て風の相対速度が変化し,発電される電力が変動してしまうことを抑える

ために,フロート式風力タービン設備の振動を減衰することにあるから,

本願発明1は,フロート式風力タービン設備のあらゆる方向への移動のう

ち,風力タービンのシャフトに対して平行な方向の風速の成分に対して平

行な方向の移動のみを減衰するものであることは当業者であれば容易に理

解できることであり,本願発明1は,本件審決が述べるような「様々な振

動に影響を及ぼす要因全てに対処できる」ものではなく,本願明細書には,

本願発明1が当該風速の成分に対して平行な方向の移動のみを減衰するも

のであることが開示されているから,実施可能要件を満たしていないとし

た本件審決の判断は,誤りである旨主張する。

しかしながら,前記アで述べたとおり,本願発明1の特許請求の範囲

の請求項1の記載によれば,「固有振動数ωeig」(「周波数ωeig」)

を有する「タワー上部の水平な変位ΔZの振動」が,「タワー速度ドッ

トΔZと前記ブレード角の増分Δβとの伝達関数Hstab(s)を有する

スタビライザ」により減衰されるのであるから,本願発明1の「タワー

の剛体セルの移動である振動」は,あらゆる方向に向けての振動ではな

く,「タワーの上部」が「水平な変位」をするものに限定されているも

のと解されるが,請求項1には,上記「タワー上部の水平な変位ΔZの

振動」について,「水平な変位」にいう「変位」の方向や,変位の方向

とタワーに対する風向きとの関係等について特に規定する記載はない。





動の例として,「システム(基礎を含む風力タービン)が,ピッチの移

動とサージの移動との組み合わせで風に逆らって移動する場合」(段落

【0011】),「タワーが後方速度をとる場合」及び「タワーが風向

きと逆の速度で移動する場合」(段落【0041】)が記載されている

が,本願発明1により減衰の対象となる上記「タワー上部の水平な変位

ΔZの振動」が上記の例の場合に限定されることについての記載や示唆

はない。

そうすると,本願発明1により減衰の対象となる上記「タワー上部の

水平な変位ΔZの振動」には,上記の「サージ」,「スウェイ」,「ヒ

ーブ」,「ロール」,「ピッチ」又は「ヨー」及びこれらを組み合わせ

た振動のうち,「タワーの上部」が「水平な変位」をする振動成分を有

しないもの(例えば,「ヒーブ」)は除かれるが,それ以外の振動は含

まれるものと解されるから,本願発明1は,フロート式風力タービン設

備のあらゆる方向への移動のうち,風力タービンのシャフトに対して平

行な方向の風速の成分に対して平行な方向の移動(振動)のみを減衰す

るものであるということはできない。

原告は,本願発明1が,フロート式風力タービン設備のあらゆる方向

への移動のうち,風力タービンのシャフトに対して平行な方向の風速の

成分に対して平行な方向の移動(振動)のみを減衰するものであること

の根拠として,@本願明細書には,風速に対して平行な方向の移動のみ

を減衰するということが明示的には記載されていないが,本願明細書に

記載されたシミュレーションテストの結果を表す図7及び図10(別紙

明細書図面参照)には,タワー変位の経過が二次元のグラフで描かれて

いることから,ある一定方向の振動に着目していることは容易に理解で

きること,A「フロート式風力タービン設備の振動によって風の相対速

度が変化し,発電される電力が変動してしまうことを抑える」という本




願発明1の目的を挙げる。



いし10に係るシミュレーションテストの結果が,いかなる機械的振動

系を前提とするシミュレーションであるのか,そのタワーの振動がどの

ような態様であるかについての記載もないから,ある一定方向の振動に

着目しているとしても,それがいかなる方向の振動であるのか明らかで

はなく,上記シミュレーション結果から本願発明1が,フロート式風力

タービン設備のあらゆる方向への移動のうち,風力タービンのシャフト

に対して平行な方向の風速の成分に対して平行な方向の移動(振動)の

みを減衰するものであるということはできない。



典型的な制御においては,風力タービンが一定のモーメントの範囲で定

格電力に達した場合,通常,風力タービンのRPMはおよそ一定に保た

れ,相対風速の変動があったときに,定格電力を保つために,タービン

ブレードのピッチ角(ブレード角)を調整することにより,モーメント

が一定に保たれるように制御するが,一方で,この制御では,スラスト

の変動ももたらすため,タワーの共振周期近傍でのタワーの振動の増幅

に繋がり,共振に関連する「負の減衰効果」をもたらし,振動が大きす

ぎて,一定の電力を供給することができなくなるという問題があること,

A「本発明」は,上記のような風力タービンの制御とシステム(基礎を

含む風力タービン)の移動の制御との間の負のリンクを回避し,「フロ

ート式の基礎に搭載された風力タービン」を移動させる風,波,うねり,

非線形波力,風速の変動,潮力等の力が,「剛体セル」の移動(サージ,

スウェイ,ヒーブ,ロール,ピッチ及びヨー)のシステムの固有周期に

「許容できない移動」を発生させることがないように,風力タービン設

備のタワーの振動を効率的に減衰する方法であることが開示されている




ことに照らすと,原告がいうように「フロート式風力タービン設備の振

動によって風の相対速度が変化し,発電される電力が変動してしまうこ

とを抑える」ことが本願発明1の目的であるとしても,本願発明1が,

フロート式風力タービン設備のあらゆる方向への移動のうち,風力ター

ビンのシャフトに対して平行な方向の風速の成分に対して平行な方向の

移動(振動)のみを減衰するものであるということはできない。

以上のとおり,本願発明1が,フロート式風力タービン設備のあらゆ

る方向への移動のうち,風力タービンのシャフトに対して平行な方向の

風速の成分に対して平行な方向の移動(振動)のみを減衰するものであ

ることを前提に,本件審決における実施可能要件の判断の誤りをいう原

告の主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。

小括

以上によれば,本件審決における実施可能要件の判断に原告主張の誤りは

ないから,原告主張の取消事由1―2のうち,実施可能要件の判断の誤りに

関する部分は理由がない。

2 取消事由2(手続違背)について

原告は,「これら振動に対処するためには,どの様なセンサを用いて各

振動を検出し,センサ出力にどの様にして優先順位付けや重み付けをして

タービンブレードのブレード角を制御するのか何ら開示が無く不明であ

る」として,本願発明1ないし12について実施可能要件及び明確性要件

を満たしていないとした本件審決の判断は,平成23年5月27日付け拒

絶査定及び平成24年1月16日付け審尋はもちろん,平成24年7月5

日付け拒絶理由通知でも通知されておらず,本件審決で示された新たな拒

絶理由に当たるが,原告に対し,拒絶理由を通知し,反論の機会を与えて

いないから,本件審判には,特許法159条2項で準用する同法50条

違反する手続的な瑕疵がある旨主張する。




そこで検討するに,平成24年7月5日付け拒絶理由通知(甲8)の「

理由」中には,

「この出願は,特許請求の範囲,明細書及び図面の記載が下記の点で,

特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。



この出願の発明の構成が不明である。…更に,フロート式風力ター

ビン設備の振動には,サージ,スウェイ,ヒーブ,ロール,ピッチ,及

びヨー(【0005】),うねり,非線形波力,風速の変動,潮力等が

影響を及ぼすが,何故本願の方法で様々な振動に影響を及ぼす要因全て

に対処できるのか何ら開示が無く不明である。…」(1頁)

「更に,本願が目的とするタワー振動の減衰は,特定の周波数即ちタ

ワー振動の固有周波数ωeigに等しい周波数を有する振動βのみを減衰

することを目的するのか否か不明であり,仮に特定の周波数のみを減衰

するとすれば,洋上のフロート式風力タービン設備の振動は,風力のみ

ならず波力も原因となるから,何故特定の周波数に等しい周波数を有す

る振動のみを減衰するのか,その物理的根拠が不明であり,しかも,そ

の特定周波数の振動のみを減衰して何故風力タービン設備全体の振動が

減衰するのか不明である。…」(2頁)

との記載がある。

理由であるとする上記事項は,

平成24年7月5日付け拒絶理由通知で示された拒絶理由に含まれるもの

であって,新たな拒絶理由に当たらないから,原告の上記主張は理由がな

い。

イ 次に,原告は,「何故フロート式風力タービン設備ではなくタワー振動

の固有周波数ωeigのみを減衰して風力タービン設備全体の振動が減衰す

るのか不明である。しかも,特許請求の範囲には,タワーの剛体セルの移




動の固有振動数ωeigと記載されており,発明の詳細な説明の記載と整合性

が取れておらず,出願時の技術常識に照らしても,タワーの剛体セルの移

動の固有振動数ωeigまで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ない

し一般化できるとはいえないので,当該事項は,発明の詳細な説明に記載

されたものではない。」として,本願発明1ないし12について実施可能

要件,明確性要件及びサポート要件を欠くとした本件審決の判断は,平成

23年5月27日付け拒絶査定及び平成24年1月16日付け審尋はもち

ろん,平成24年7月5日付け拒絶理由通知でも通知されておらず,本件

審決で示された新たな拒絶理由に当たるが,原告に対し,拒絶理由を通知

し,反論の機会を与えておらず,しかも,拒絶理由を通知していれば,原

告が誤記の訂正として補正することにより容易に解消されたものであるか

ら,本件審判には,特許法159条2項で準用する同法50条に違反する

手続的な瑕疵がある旨主張する。



あるとする上記事項のうち,「何故フロート式風力タービン設備ではなく

タワー振動の固有周波数ωeigのみを減衰して風力タービン設備全体の振

動が減衰するのか不明である。」との点は,平成24年7月5日付け拒絶

理由通知で示された拒絶理由に含まれるものであって,新たな拒絶理由に

当たらない。

また,原告が新たな拒絶理由であるとする上記事項のうち,「特許請求

の範囲には,タワーの剛体セルの移動の固有振動数ωeigと記載されてお

り,発明の詳細な説明の記載と整合性が取れて」いないとの点は,その点

のみをもって独立した拒絶理由を構成する趣旨のものとは解されないか

ら,原告に対し,拒絶理由を通知し,反論の機会を与えていないからとい

って,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものとはいえ

ない。




したがって,原告の上記主張は理由がない。

以上によれば,本件審判に特許法159条2項で準用する同法50条に違

反する手続的な瑕疵があるとの原告主張の取消事由2は,理由がない。

3 結論

以上のとおり,原告主張の取消事由1―2のうち,実施可能要件の判断の誤

りに関する部分及び取消事由2はいずれも理由がないから,その余の取消事由

について判断するまでもなく,本願を拒絶すべきものとした本件審決の判断に

誤りはない。

したがって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文

のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 柵 木 澄 子





(別紙) 明細書図面


【図1】




【図2】 【図5】




【図3】




【図6】
【図4】





【図7】 【図9】




【図8】 【図10】




【図11】