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事件 平成 25年 (行ケ) 10204号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/10/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年10月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(行ケ)第10204号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年9月24日

判 決

原 告 株式会社ヴィオレッタ

訴訟代理人弁理士 杉 本 勝 徳

同 阿 野 清 孝

同 岡 田 充 浩

被 告 日本マイヤー株式会社

訴訟代理人弁護士 三 山 峻 司

同 松 田 誠 司

訴訟復代理人弁護士 清 原 直 己

訴訟代理人弁理士 蔦 田 正 人

同 中 村 哲 士

同 富 田 克 幸

同 夫 世 進

同 有 近 康 臣

同 前 澤 龍

同 蔦 田 璋 子

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が無効2012−800113号事件について平成25年6月12日

にした審決を取り消す。




第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

原告は,平成20年4月16日,発明の名称を「ジャカード経編地とその

用途」とする発明について特許出願(特願2008−107101号。以

下「本件出願」という。)をし,平成23年9月16日,特許第48252

33号(請求項の数5。以下「本件特許」という。)として特許権の設定登

録を受けた。

被告は,平成24年7月12日,本件特許(請求項1ないし5)に対して

特許無効審判を請求した。

特許庁は,上記請求を無効2012−800113号事件として審理を行

い,平成25年6月12日,「特許第4825233号の請求項1ないし5

に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」と

いう。)をし,その謄本は,同月20日原告に送達された。

原告は,平成25年7月15日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提

起した。

2 特許請求の範囲の記載

本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5の記載は,次のとおりであ

る(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請

求項2に係る発明を「本件発明2」などという。)。

「【請求項1】

一定の繰り返し単位を有する基本組織と前記基本組織から変化させてなる変

化組織を含むジャカード編成組織を備えるが,支持組織が不要な経編地であっ

て,

前記ジャカード編成組織は,2つのハーフセット編みからなり,一方のハー

フセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位置を,他

方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループ形成して補うよう




に,前記2つのハーフセット編みが対になって編成されていることにより,前

記変化組織を含むジャカード編成組織の全ての編目位置においてループが配置

されてなる,

ことを特徴とする,ジャカード経編地。

【請求項2】

前記ジャカード編成組織に加えて,弾性糸が挿入または編み込まれてなる弾

性糸編成組織をも備える,請求項1に記載のジャカード経編地。

【請求項3】

前記ジャカード編成組織が,同一ウェール上に編成された抜き糸部と,前記

抜き糸部の左右に配置される耳部を有し,前記抜き糸部の両側において分割可

能である,請求項1または2に記載のジャカード経編地。

【請求項4】

前記ジャカード編成組織が,部分的な組織変化により緊迫力の異なる複数の

領域を有する,請求項1から3までのいずれかに記載のジャカード経編地。

【請求項5】

請求項1から4までのいずれかに記載のジャカード経編地からなる,衣類。」

3 本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,

@本件発明1は,本件出願前に頒布された刊行物である「甲第1号証」(審

判甲1。以下,単に「甲1」という。)又は「甲第2号証」(審判甲2。以

下,単に「甲2」という。)に記載された発明であるから,特許法29条

項3号の規定により特許を受けることができない,A本件発明2は,甲2に

記載された発明であるから,同号の規定により特許を受けることができない,

B本件発明3は,甲1又は甲2に記載された発明であるから,同号の規定に

より特許を受けることができない,C本件発明4は,甲1又は甲2に記載さ

れた発明及び甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をするこ




とができたものであるから,同条2項の規定により特許を受けることができ

ない,D本件発明5は,甲1又は甲2に記載された発明であるから,同条1

項3号の規定により特許を受けることができないというものである。

本件審決が引用した甲1,甲2及び甲6は,以下のとおりである。なお,

甲1の原本は本訴の「乙1の1」,甲1の写しは本訴の「甲1の1」,甲1

の訳文は本訴の「乙1の2」であり,また,甲2の原本は本訴の「乙2の1」,

甲2の写しは本訴の「甲2の1」,甲2の訳文は本訴の「乙2の2」である。

「甲1」 「Kettenwirk Praxis 04/2003号,第51頁」

「甲2」 「Kettenwirk Praxis 04/2002号,第50頁」

「甲6」 「特開2007−297748号公報」

本件審決は,以下のとおり,甲1に記載された発明(以下「甲1発明」と

いう。),甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という。),本件発明

1と甲1発明の一致点及び相違点(以下「相違点a」という。)を認定した。

ア 甲1発明

「極端に軽いハニカム構造を有するジャカード経編地は,ランジェリー

用であり,この経編地の特別なラッピングは,2本の分割ジャカードバー

が逆方向にラッピングするだけで,グランドガイドバーを追加することな

く生成されたものであり,

2本の分割ジャカードバーによる基本組織が,

JTB1.1 1-0/1-2//

JTB1.2 1-2/1-0//

であるジャカード経編地。」

イ 甲2発明

「スポットネットのジャカード経編地は,ランジェリー及び衣類用であ

り,2本のジャカードバーのみが,編地の外観を得るのに必要とされ,こ

れら2本のジャカードバーが,パワーネットの地組織を作ると同時に,パ




ターンを作り込み,グランドガイドバーは,エラスタンを用いて,編地に

機能性を付与した,軽量で,透明であり,長さ方向の弾性に優れたジャカ

ード経編地であって,

2本の分割ジャカードバーによる基本組織が,

JTB1.1 1-0/1-2//

JTB1.2 1-2/1-0//

であるジャカード経編地。」

ウ 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点a

(一致点)

「一定の繰り返し単位を有する基本組織と前記基本組織から変化させて

なる変化組織を含むジャカード編成組織を備えるが,支持組織が不要な経

編地であって,

前記ジャカード編成組織は,2つのハーフセット編みからなる,

ジャカード経編地。」である点。

(相違点a)

本件発明1では,一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではル

ープが形成されない編目位置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは

非変位によってループ形成して補うように,前記2つのハーフセット編み

が対になって編成されていることにより,変化組織を含むジャカード編成

組織の全てが編目位置においてループが配置されてなるのに対し,甲1発

明では,ジャカード経編地の編成組織がそのようになっているかは明確で

ない点。

第3 当事者の主張

1 原告の主張

取消事由1(本件発明1と甲1発明の同一性の判断の誤り)

本件審決は,相違点aについて,甲6の記載事項及び本件出願の願書に添




付した明細書(以下,図面を含めて,「本件明細書」という。甲9)の記載

事項から「安定した経編地を編成するには,全ての編目位置においてループ

を形成する必要があること」は技術常識であると認定した上で,甲1発明の

ジャカード経編地の編成組織は,相違点aに係る本件発明1の構成の「一方

のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位

置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループ形成し

て補うように,前記2つのハーフセット編みが対になって編成されているこ

とにより,変化組織を含むジャカード編成組織の全てが編目位置においてル

ープが配置されてなる」ものと認められるから,相違点aは,本件発明1と

甲1発明の実質的な相違とは認められず,本件発明1と甲1発明には実質的

な相違はない旨判断した。

しかしながら,本件審決の判断は,以下のとおり誤りである。

ア 理由不備

まず,本件審決は,相違点aに係る本件発明1の構成のうち,「一方の

ハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位

置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループ形成

して補うように,前記2つのハーフセット編みが対になって編成されてい

ることにより,変化組織を含むジャカード編成組織」の部分を甲1発明が

備えていることについて実質的な評価,判断をしていないから,相違点a

は実質的な相違とは認められないとした本件審決には,理由不備の違法が

ある。

イ 甲1における相違点aの構成の不開示

本件審決は,安定した経編地を編成するには,全ての編目位置において

ループを形成する必要があるから,ジャカード編成組織のみからなる甲1

の編地では,当然にジャカード編成組織の全ての編目位置でループが配置

されているとして,相違点aは本件発明1と甲1発明との実質的な相違で




はないと認定判断したものである。

しかしながら,当業者において,全ての編目位置においてループを形成

する必要性を認識したとしても,その具体的な手段を把握できない限り,

ジャカード編成組織の全ての編目位置においてループが配置されてなる経

編地が甲1に開示されていることにはならないが,甲1の記載事項から,

そのような具体的な手段を把握することはできない。

また,本件審決は,甲6の記載事項等から,全ての編目位置においてル

ープを形成する必要があることは本件出願時の技術常識であると認定した

が,上記認定は,甲6の具体的記載を離れて,その技術内容を不当に抽象

化,一般化ないし上位概念化するものであるから,許されない。かえって,

甲6,甲5(特開2002−317361号公報)及び甲15(特開20

02−371453号公報)の各記載事項によれば,本件出願の当時,ジ

ャカード編成組織は,個々のゲージ位置ごとに異なる編成動作を行わせる

ことができる「ジャカード筬」(ジャカードバー)によって,規則的な基

本組織を部分的に変位させることで,伸縮特性の異なる複数の領域や柄模

様などを構成するものであり,異なる領域の境界部分においては,ループ

が形成されない編目位置(透孔あるいは目抜け)が生じることがあること,

そのため,全ての編目位置でループを形成するための具体的な手段として,

1枚の筬が全てのゲージ位置で編成動作を行う「通常の筬」ないし「地

筬」(グランドガイドバー)で編成され,全ての編目位置でループを形成

する編成組織である「支持組織」をジャカード編成組織と組み合せること

技術常識であったものである。この技術常識参酌しても,当業者は,

通常の筬による編成組織を備えず,支持組織が存在しない甲1の編地にお

いて,全ての編目位置でループを形成するための具体的な手段を把握する

ことはできない。

もっとも,甲1には,2本のジャカードバーの「基本動作」について,「J




TB1.1 1-0/1-2//」,「JTB1.2 1-2/1-0//」との記載があるが,この基本動

作のみでジャカード経編地(ジャカード編成組織)が編成されているはず

はなく,甲1のジャカード編成組織を把握する上では,ジャカードバーに

よる変位制御こそが本質的な事項である。

しかしながら,甲1には,その変位制御に関する具体的な記載は一切な

く,どのような変位制御がされてジャカード編成組織が編成されたのかそ

の具体的な手段を把握することはできない。

そうすると,当業者は,全ての編目位置においてループを形成する必要

性を認識したとしても,甲1の記載事項及び本件出願時の技術常識から,

甲1の編地において,全ての編目位置でループを形成するための具体的な

手段を把握することはできないから,甲1において,相違点aに係る本件

発明1の構成が開示されているものとはいえない。

ウ 被告の主張について

被告は,本件審決が甲1の記載事項(1e)として認定した箇所に示さ

れている「経編地」(別紙1参照)の現物を分析して拡大したものとされ

特許法29条1項3号

の「刊行物に記載された発明」であるとした上で,本件発明1は上記発明

と同一である旨主張する。

しかしながら,本件審決が甲1の記載事項(1e)として認定した箇

所に示されているのは,甲1に両面テープで貼り付けられた編地見本の

現物のコピー(写真)であり,被告が主張する甲1に貼り付けられた編

地見本の現物を分析して得られる情報(編地見本の現物に化体されてい

る情報)は,本件審判において審理の対象とならなかった事実であって,

本件審決において判断されておらず,本件の審理範囲に含まれないから,

甲1に記載された発明を把握する上で一切考慮されるべきではない。

すなわち,本件審判において審理の対象とされた甲1は,「Kettenwi




rk Praxis 04/2003号,第51頁」の「写し」であり,同写しには編地

見本の現物ではなく,そのコピー(写真)が記載されているにすぎない。

このことは,被告作成の平成24年7月12日付け審判請求書(甲22)

の19頁の「8.証拠方法」の項における「甲第1号証の1 Kettenwi

rk Praxis 04/2003号 表紙,第51頁,裏表紙の各写」との記載や,同

6頁の「[1]の甲第1号証」の項における「甲第1号証(Kettenwirk

-Praxis 04/2003号)は,カールマイヤー社が発行する「Kettenwirk-Pr

axis」(経編の実務)の2003年04号の写しである。」との記載などから

明らかである。

もっとも,被告は,本件審判において,「参考資料1」として編地見

本の現物が貼り付けられた「甲1の1の原本」なるものを提出したが,

編地見本の現物においては,編組織をルーペ等で拡大して観察したり,

分解したりして詳細に分析することは可能であるが,編地見本のコピ

ー(写真)においてはそのような分析は不可能であるから,編地見本の

現物とそのコピーは,異なる証拠方法である。被告による「参考資料1」

の提出は,甲1とは異なる証拠の差し替え又は追加に当たり,特許を無

効にする根拠となる事実の新たな主張であるから,審判請求書の請求の

理由の要旨変更(特許法131条の2第1項)に当たり,許されない。

そして,審決取消訴訟においては,審判手続において審理判断されな

かった公知事実との対比における無効原因は,審決を違法とし,又はこ

れを適法とする理由として主張することができないから,本件において,

被告提出の「参考資料1」に貼り付けられた編地見本の現物に化体され

ている情報との対比における無効理由は,本件審決を適法とする理由と

して主張することは許されない。

したがって,被告が主張する甲1に貼り付けられた編地見本の現物に

化体されている情報は,本件審判において審理の対象とならなかった事




実であり,本件の審理範囲に含まれないから,甲1に記載された発明を

把握する上で一切考慮されるべきではない。



布された刊行物」とは,「公衆に対し頒布により公開することを目的と

して複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体であって,

頒布されたもの」を指す(最高裁昭和55年7月4日第二小法廷判決・

民集34巻4号570頁参照)が,甲1に両面テープで貼り付けられた

実際の編地見本(経編地の現物)は,それ自体が他の編地見本とは別個

独立に製造されたオリジナル(原型)であって,複製物ではないから,「複

製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体」に該当しない。

また,甲1に貼り付けられた編地見本それ自体の形状等を分析して得

られる情報(編地見本の現物に化体されている情報)は,文書,図面,

写真などに文字,図形,画像などとして示された情報と比べると,情報

明確性,正確性,情報伝搬力などの点からみて,性質及び内容が大き

く異なるものである。

すなわち,情報の明確性についてみると,甲1に貼り付けられた編地

見本の編組織は,一見して直ちに理解できるものではなく,ルーペで観

察したり,編地を分解して分析したりすることが必要である点で,文書

等に類する程度の情報の明確性を備えるものとはいえない。

情報の正確性についてみると,編地見本はそれぞれ別個に製造されて

紙に貼り付けられているものであるから,それぞれが同一であるとの保

証はなく,貼り付けられた編地見本を容易に取り外すこともできるし,

編地見本の貼り付けがいつ行われたかも分からず,改変が容易であると

いう意味においても,文書等に類する程度の正確性を認めることはでき

ない。

情報伝搬力についてみると,編地見本を見た当業者において,同一の




情報量が化体された編地見本を直ちに製造できるものではなく,同一の

情報量をもって容易に拡散され得る伝播力はない。編地見本を撮影した

写真であれば文書類似の情報伝播力を備えるものといえるが,伝播され

る情報は稀釈化されたものであり,編地見本と同一の情報量は保持され

ていない。

このように甲1に貼り付けられた編地見本それ自体の形状等を分析し

て得られる情報(編地見本の現物に化体されている情報)は,文書,図

面,写真などに文字,図形,画像などとして示された情報と比べると,

情報の明確性,正確性,情報伝搬力などの点からみて,性質及び内容が

大きく異なるものといえるから,「文書,図画その他これに類する情報

伝達媒体」に該当しない。

さらには,編地見本は,甲1に係る刊行物の複製作業とは別にジャカ

ード編機によって編成され,所定の大きさに裁断された後,両面テープ

という簡易な手段で紙に貼り付けられているだけにすぎず,甲1に貼り

付けられた編地見本と甲1記載の説明文とは,製造過程においても,物

理的にも,一体性が希薄である。

したがって,甲1に貼り付けられた編地見本と甲1記載の説明文とを

一体のものとして「文書,図画その他これに類する情報伝達媒体」に該

当するということはできない。

以上によれば,甲1に貼り付けられた編地見本(経編地の現物)を分

析して得られる情報(編地見本の現物に化体されている情報)は,特許

29条1項3号の「刊行物に記載された」事項とはいえず,当該「経

編地」の現物を分析して把握される発明は,同号の「刊行物に記載され

た発明」であるとはいえない。

仮に編地見本が特許法29条1項3号の「刊行物」に当たると解釈す

ることになれば,同法が同項1号から3号において新規性阻却事由を類




型化して規定していることの意味を失わせることになり,妥当でない。

さらに,通常の筬ないし地筬によって編成された全ての編目位置にル

ープが形成された支持組織を備えないジャカード経編地において,ルー

プが形成されない編目位置が存在する場合,安定した編地にはならない

が,その編成自体は可能であり,少なくとも使用や洗濯に供し得る編地

が存在し得る。また,一般的にも,実用性が未だ不十分であるが,従来

にない着想に基づく研究開発の成果を刊行物などによって公開すること

はよくあることであり,優れた効果を奏するための手段を明らかにする

ことなく,その効果のみを研究開発の成果として公開することもよくあ

ることである。

したがって,甲1に上記支持組織を備えないジャカード経編地が記載

されているとしても,そのジャカード経編地は,安定性を犠牲にして薄

地化・軽量化を志向した試作的・実験的な経編地である可能性もあるし,

また,安定性を犠牲にしないように何らかの手段が講じられているが,

それが秘匿されているという可能性もあるから,そのことから直ちに甲

1において,全ての編目位置にループが形成された,上記支持組織を備

えないジャカード編成組織が開示されているということにはならず,相

違点aに係る本件発明1の構成が開示されているということはできな

い。

また,甲1には,JTB1.1とJTB1.2の給糸量(ランナー値)(Run-in p

er rack)が,それぞれ,685mm/rackと745mm/rackとして異なる値となっ

ている。編成糸の張力は,編成糸の種類のほか,給糸量,ラッピング運

動の態様に影響を受け,具体的には,給糸量が少ないほど,また,ラッ

ピング運動が大きい(例えば,左右に大きく振られて編成される)ほど,

編成糸の張力は大きくなる。そして,JTB1.1とJTB1.2に導糸される編成

糸は同種であり,JTB1.1とJTB1.2の給糸量は上述のとおり異なる値をと




っていることからすると,JTB1.1とJTB1.2が同じようなラッピング運動

をする場合,特別な工夫をしない限り,給糸量の少ないJTB1.1の編成糸

の張力の方がJTB1.2の編成糸の張力を上回ることとなるから,JTB1.1とJ

TB1.2の編成糸の張力のバランスが保てないはずである。

したがって,甲1の記載に基づいて当業者が編地を製造可能であるの

か否かという点においてさえ疑問がある。

以上の次第であるから,被告の主張は理由がない。

エ 小括

以上によれば,相違点aは本件発明1と甲1発明の実質的な相違とは認

められず,本件発明1と甲1発明には実質的な相違はないとした本件審決

の判断は誤りである。

取消事由2(本件発明1と甲2発明の同一性の判断の誤り)

ア 本件審決は,本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は,本件発明1

と甲1発明の一致点及び相違点と同様なものであり,甲2発明の2本の分

割ジャカードバーによる基本組織であるJTB1.1 1-0/1-2//,JTB1.2 1-2/1

-0//は,本件明細書の段落【0027】及び【0039】において説明さ

れているジャカード編成組織の基本組織(基本動作)と一致していること,

甲2発明のジャカード経編地は2本のジャカードバーのみが編地の外観を

得るのに必要とされることなどから,本件発明1と甲1発明と同様に,本

件発明1と甲2発明には実質的な相違はない旨判断した。

しかしながら,甲2には,「新規なラッピングにより製造されるこの編

地は,「スポットネット」と呼ばれ,全くもって新規です」との記載があ

るが,その「新規なラッピング」なるものは,当業者が把握できる程度に

具体的に開示されているものではなく,ジャカード編成組織の全ての編目

位置においてループを形成するための具体的な手段の記載はないから,前





件発明1の構成が開示されているものとはいえない。

イ 被告は,この点に関し,本件審決が甲2の記載事項(2e)として認定

した箇所に示されている「経編地」(別紙2参照)の現物を分析して拡大



条1項3号の「刊行物に記載された発明」であるとした上で,本件発明1

は上記発明と同一である旨主張する。



る甲2に貼り付けられた編地見本の現物を分析して得られる情報(経編地

の現物に化体されている情報)は,本件の審理範囲に含まれないから,甲

2に記載された発明を把握する上で一切考慮されるべきではないし(なお,

被告が本件審判において「参考資料2」として編地見本の現物を提出した

ことは,審判請求書の請求の理由要旨変更に当たり許されない。),同

号の「刊行物に記載された」事項ともいえない。

また,甲2に通常の筬ないし地筬によって編成された全ての編目位置に

ループが形成された支持組織を備えないジャカード経編地が記載されてい

るとしても,そのことから直ちに甲2において相違点aに係る本件発明1

の構成が開示されているということはできない。



きく異なるものであり,甲2における「2本のジャカードバーが,パワー

ネットの地組織を作ると同時に,パターンを作り込みます」との記載は,

当業者に対し,甲2の経編地がいかなる編成組織によって編成されている

かを理解する手掛かりをほとんど与えないものといえる。また,甲2には,

JTB1.1とJTB1.2の給糸量(ランナー値)が,それぞれ,1040mm/rackと890

mm/rackとして異なる値となっておりJTB1.1の方がJTB1.2よりも多く編成

糸を供給しているのに,JTB1.1から給糸される編成糸とJTB1.2から給糸さ

れる編成糸のそれぞれの比率が同じ「37.8%」となっているのは極め




て不可解であり,甲2にいう「パワーネットの地組織」や「パターン」に

ついては,甲2の他の記載を参酌しても,当業者にとって理解し難いもの

である。加えて,JTB1.1とJTB1.2が同じようなラッピング運動をする場合,

特別な工夫をしない限り,給糸量の少ないJTB1.2の編成糸の張力の方がJT

B1.1の編成糸の張力を上回ることとなるから,JTB1.1とJTB1.2の編成糸の

張力のバランスが保てないはずであることからすると,甲2の記載に基づ

いて当業者が編地を製造可能であるのか否かという点においてさえ疑問が

ある。

したがって,被告の上記主張は理由がない。

ウ 以上によれば,本件発明1と甲2発明には実質的な相違はないとした本

件審決の判断は誤りである。

取消事由3(本件発明2ないし5に関する判断の誤り)

本件審決が,本件発明2ないし5が特許法29条1項3号又は同条2項の

規定により特許を受けることができないと判断した理由は,本件発明1が,

甲1発明又は甲2発明と実質的に同一であることを前提とするものである



実質的な相違がある。

したがって,本件審決の上記判断には,その前提において誤りがある。

2 被告の主張

取消事由1に対し

ア 甲1は,カール・マイヤー社が平成15年4月に発行した「Kettenwirk

Praxis 04/2003」(副題「Textilinformationen」)と題する刊行物の5

1頁部分である。「Kettenwirk Praxis 04/2003」は,カール・マイヤー

社が編地業者に対してニッティング・編地の流行や提案の情報と共に編機

を紹介し,その購入等を勧誘する目的で頒布された刊行物である。

そこには,各頁ごとに編機と編地の編成組織などが説明され,それらの




説明に対応して編まれた編地見本が同じ頁に各々両面テープで貼り付けら

れている。各頁の記載は,編地見本と共に記載されている編機及び編地の

説明文が一体となったものであり,読者は,説明文とこれに対応する編地

見本を一体のものとして理解する。

したがって,「Kettenwirk Praxis 04/2003」の51頁部分である甲1

は,編地見本(「PATTERN」欄に両面テープで貼り付けられたもの)と共に

記載されている編機及び編地の説明文が一体となったものとして,「公衆

に対し頒布により公開することを目的として複製された文書」又は「その

他これに類する情報伝達媒体」に当たるから,特許法29条1項3号の「頒

布された刊行物」に該当する。

甲1における説明文と編地見本を見れば,以下のとおり,甲1に開示

された編地が「ループ欠損のない,全ての編目位置においてループが配

置された編地」であることは一目瞭然であり,甲1には,相違点aに係

る本件発明1の構成が開示されているといえる。

すなわち,筬(ガイドバー)は,編針に対し前後方向に運動するスイ

ング運動と,編針(ニードル)に対し前方又は後方の位置で編機幅方向

に運動するショギング運動を組み合わせたラッピング運動を行い,これ

によって,筬の各導糸針(ガイドニードル)に通された糸を編針のフッ

クに掛けたり,編針の前方で編機幅方向に変位させることで経編の編成

を行う。ジャカード経編地とは,ジャカード制御されるジャカード筬(ジ

ャカードバー)を備える経編機により編成され,ジャカード編成組織を

有する経編地をいい,基本的に,ジャカード筬自体のショギング運動に

よる基本動作と,ジャカード制御によって,ジャカード筬の各導糸針ご

とに基本動作に対してさらに1針分の変位(ショギング動作)を適宜組

み合わせることにより,ジャカード経編地は所望の柄(ジャカード柄と

もいう。)に編成される。




そして,およそ経編地であれば,それがジャカード経編地であれ何で

あれ,全ての編目位置において少なくとも一つのループを形成する必要

があることは,技術常識である。この技術常識は,特定の公知文献に基

づかなくとも,経編は,編目となるループの連続であり,新たなループ

が前のコース(編地の横方向(幅方向)の編目列)のループに引き込ま

れることで,前のコースで形成されたループの形態が保持されるもので

ある。そのため,新たなループが形成されない場合には,古いループが

編針から脱出したときに,ループの形態を保持できないことになり,こ

れがさらに前のコースのループにも伝播し,編地の形態を保持できない

ことになることから,上記技術常識は,各編目位置で順次形成されるル

ープを経方向に連続させることで保持するという経編の編成原理自体か

ら導き出される。甲6等の公知文献には,ジャカード編成組織にループ

が形成されない個所が生じた場合の問題を解決するために,通常の筬な

いし地筬によって編成された全ての編目位置にループが形成された支持

組織を使用することで,透孔や目抜けの問題が生じないことが記載され

ているが,その前提として,目抜けのない安定した編地を得るためには,

全ての編目位置に少なくとも一つのループが必要なことが示されている

といえる。

また,一対(2つ)のハーフセットの分割ジャカードバーのみにより

ループを形成して編成するハーフセット編みのジャカード経編地につい

ては,一定の繰り返し単位を有する基本組織(即ち,基本動作)と,基

本組織から変化させてなる変化組織を含み,2枚の分割ジャカードバー

のハーフセット編みによるループの数は,それぞれ全ての編目位置の数

の2分の1ずつであるから,全ての編目位置においてループを形成する

ようにするためには,一方のハーフセット編みの基本組織からの変位あ

るいは非変位ではループが形成されない編目位置を,他方のハーフセッ




ト編みの変位あるいは非変位によってループを形成して補うように,こ

れら2つのハーフセット編みが対になって相互補完的に編成されている

ことは,当業者であれば当然に認識する自明の事項である。

甲1には,@4本のグランドガイドバーと1本のジャカードバー(「J

TB1.1」,「JTB1.2」の2枚のガイドバー(分割ジャカードバー)が一体

となった一体型のジャガードバー)を備えたラッシェルトロニク 機製

の編機によって,4本のグランドガイドバーを使用せずに,1本のジャ

カードバー(2枚の分割ジャカードバー)だけを使用して編成した編地

であること,A2枚の分割ジャカードバー「JTB1.1」,「JTB1.2」は,

そのチェーン表(「Lapping」)が表す基本組織(即ち,基本動作)は「J

TB1.1 1.1 1-0/1-2//」,「JTB1.2 1-2/1-0//」であって,ハーフセット

編みの「対」になっており,原則的に,「JTB1.1」のジャカードバーは「1

-0/1-2//」の動きを,「JTB1.2」のジャカードバーは「1-2/1-0//」の動

きをし,それぞれの運動方向は1コース毎に互いに逆方向となり,「逆

方向にラッピング」すること,B編地は,「ハニカム構造」を有するこ

との説明が記載され,「PATTERN」欄に編地見本が両面テープで貼り付け

られている。

そして,甲1記載の編地は,ループの形成がジャカード制御されるジ

ャカードバーを備える経編機により編成される経編地のみであるから,

通常の筬ないし地筬によって編成された全ての編目位置にループが形成

された「支持組織」なしの編地であることは自明である。

上記のとおり,甲1に編地が「ハニカム構造」を有することの記載が

あり,「ハニカム構造」(honeycomb structure)とは,「蜜蜂の巣」を

意味し,2枚の板状外皮の間に蜂の巣状の芯材を挟んだ構造で,正六角

形又は正六角柱を隙間なく並べた構造を示す用語であるから(乙21,

22),全ての編目位置にループが形成されていることを容易に理解で




きる。

また,甲1の編地見本は,いずれも目抜けのない安定した編地であり,

全ての網目位置にループが形成されている。

そうすると,甲1記載の編地は,2枚の分割ジャカードバーのみを用

いて編成された上記「支持組織」なしのハーフセット編みであり,基本

動作にジャカードバーによる変位制御を加えることにより,全ての編目

位置にループが形成されているのであるから,一方のハーフセット編み

の変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位置に,他方のハ

ーフセット編みの変位あるいは非変位によってループを形成して補うよ

うに編成されているものといえる。

したがって,甲1には,相違点aに係る本件発明1の構成が開示され

ている。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

甲1における説明文の記載内容と両面テープで貼り付けられている編



すなわち,ジャカード編成組織により編まれた編地を分析すれば,当

業者は,基本組織(即ち,基本動作)がどのようなもので,基本組織か

らどのようにジャカードバーを変位させたのかが理解できる。編地の分

析は,糸1本の動きを書き出し,それがどの位置(糸入れ)に入ってい

るかを拾い出して基本組織(即ち,基本動作)を分析する。ジャカード

の生地分解の場合,ガイドニードル1本ごとに右から左に1ゲージ分変

位できるようになっているので,糸1本ごとの縦方向と横方向の繰り返

し分の動きを書き出し,そのネット組織や柄組織に基づいて基本となる

ガイドバーの動き(基本組織(即ち,基本動作))を導き出して行う。

簡単な編地は分解鏡で組織がわかるが,密度の高い編地や複雑な編地は

糸を分解しながら意匠紙で組織を分析する(乙24)。





ジャカードバーによる「JTB1.1 1-0/1-2//」,「JTB1.2 1-2/1-0//」の

基本組織と,この基本組織からジャカード制御させた変化組織とを適宜

に組み合わせて,全ての編目位置でループ形成しながら,所要のコース

で隣接するウエール(編地の縦方向の編目列)にわたるシンカーループ

を渡らせないで編成し(図(a)及び(b)),編成後に,幅方向(横方向)

に引張(拡幅)してヒートセットすることにより,シンカーループが渡

っていない個所を開口させてハニカム状の透孔としているものであ

り(図(c)),ループが形成されない編目位置が生じていないことが明

らかである。このように甲1の編地見本の経編地には,全ての編目位置

においてループが形成されており,編目の欠損がないから,一方のハー

フセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位置

に,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループを形

成して補うように編成されているものといえる。

原告は,これに対し,甲1に貼り付けられた編地見本と甲1記載の説

明文とは,製造過程においても,物理的にも,一体性が希薄であり,甲

1に貼り付けられた編地見本それ自体の形状等を分析して得られる情報

は,文書,図面,写真などに文字,図形,画像などとして示された情報

とは,情報の明確性,正確性,情報伝搬力などの点からみて,性質及び

内容が大きく異なるから,特許法29条1項3号の「文書,図画その他

これに類する情報伝達媒体」に該当するとはいえない旨主張する。

しかしながら,甲1において,編地見本を物理的な物としての編地見

本としてだけ参照し,説明文の記載内容と別個に切り離して考える者は

いないから,編地見本と説明文とは,製造過程においても,物理的にも,

一体性が希薄であるということはできない。

を見れば,




甲1に開示された編地が「ループ欠損のない,全ての編目位置において

ループが配置された編地」であることは一目瞭然であるから,わざわざ

編地見本の性状分析をするまでの必要はない。被告が編地見本の別紙組



するためではなく,甲1における説明文の記載内容とその補足資料とし

ての両面テープで貼り付けられている編地見本が矛盾しないことを示す

ためである。

さらに,本件審判においても,被告は,審判長の求めに応じて,甲1

の原本を平成24年10月31日付け上申書(乙3)添付の参考資料と

して提出し,甲1に貼り付けられた編地見本と甲1記載の説明文が一体

の証拠(説明文は文書に当たり,編地見本部分は文書に準ずる物件とし

て民訴法231条の準文書に当たる。)として取り調べられている。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

次に,原告は,@本件審決は,相違点aに係る本件発明1の構成のう

ち,「一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成

されない編目位置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位に

よってループ形成して補うように,前記2つのハーフセット編みが対に

なって編成されていることにより,変化組織を含むジャカード編成組織」

の部分を甲1発明が備えていることについて実質的な評価,判断をして

いないから,相違点aは実質的な相違とは認められないとした本件審決

には,理由不備の違法がある,A本件審決は,甲6の記載事項等から,

全ての編目位置においてループを形成する必要があることは本件出願時

技術常識であると認定したが,上記認定は,甲6の記載事項等を不当

に抽象化,一般化ないし上位概念化するものであり,許されない,B甲

1の記載事項及び本件出願時の技術常識から,甲1の編地において,全

ての編目位置でループを形成するための具体的な手段を把握することは




できないから,甲1において,相違点aに係る本件発明1の構成が開示

されているものとはいえない旨主張する。



編目位置で何れかの少なくとも一つのループを形成する必要がある」こ

とが技術常識であると認識されていると認定した上で,当該技術常識

参酌して,2枚の分割ジャカードバーのみを用いて編成された「支持組

織」なしのハーフセット編みの甲1の編地においては,当然に相違点a

に係る本件発明1の構成と同様の構成により,全ての編目位置でループ

を形成しているものと把握できると判断したものであり,本件審決の判

断に,理由不備はなく,その判断に誤りはない。



形成されない個所が生じた場合の問題を解決するために,通常の筬ない

し地筬によって編成された全ての編目位置にループが形成された支持組

織を使用することで,透孔や目抜けの問題が生じないことが記載されて

いるが,その前提として,目抜けのない安定した編地を得るためには,

全ての編目位置に少なくとも一つのループが必要なことが示されている

といえるから,本件審決の技術常識の認定に誤りはなく,甲6の記載事

項等を不当に抽象化,一般化ないし上位概念化するものではない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

なお,原告は,甲1によれば,JTB1.1とJTB1.2に導糸される編成糸は

同種であるが,JTB1.1とJTB1.2の給糸量(ランナー値)(Run-in per r

ack)が,それぞれ685mm/rackと745mm/rackと異なる値をとっていること

からすると,JTB1.1とJTB1.2が同じようなラッピング運動をする場合,

特別な工夫をしない限り,給糸量の少ないJTB1.1の編成糸の張力の方がJ

TB1.2の編成糸の張力を上回ることとなるから,JTB1.1とJTB1.2の編成糸

の張力のバランスが保てないはずであり,甲1の記載に基づいて当業者




が編地を製造可能であるのか否かという点においてさえ疑問がある旨主

張する。

しかしながら,一対の分割ジャカードバー2列が異なる糸道を持つ2

つのビームポジションから給糸される場合,糸の張力を合わせるように

調整するために異なるランナー値になる。ランナー値の大小は,糸の張

力の調整に加えいろいろな要素が関連してくる。たとえば,ジャカード

柄の作り方によって片方にだけジャカードの変位が多い場合,あるいは

ネットの形状変化,グランド組織の影響に左右されずに編成する場合な

ど,柄や組織が変われば異なる数値になることは一般的で珍しいことで

はない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

エ 以上によれば,本件発明1は甲1に記載された発明と同一であるとした

本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。

取消事由2に対し

ア 甲2は,カール・マイヤー社が平成14年4月に発行した「Kettenwirk

Praxis 04/2002」(副題「Textilinformationen」)と題する刊行物の5

0頁部分である。「Kettenwirk Praxis 04/2002 Kett

enwirk Praxis 04/2003」と同様の刊行物であり,各頁の記載は,編地見

本と共に記載されている編機及び編地の説明文が一体となったものであ

り,読者は,説明文とこれに対応する編地見本を一体のものとして理解す

る。

したがって,「Kettenwirk Praxis 04/2002」の50頁部分である甲2

は,編地見本(「PATTERN」欄に両面テープで貼り付けられたもの)と共に

記載されている編機及び編地の説明文が一体となったものとして,「公衆

に対し頒布により公開することを目的として複製された文書」又は「その

他これに類する情報伝達媒体」に当たるから,特許法29条1項3号の「頒




布された刊行物」に該当する。

甲2における説明文と編地見本を見れば,以下のとおり,甲2に開示

された編地が「ループ欠損のない,全ての編目位置においてループが配

置された編地」であることは一目瞭然であり,甲2には,相違点に係る

本件発明1の構成が開示されているといえる。

甲2には,@4本のグランドガイドバーと1本のジャカードバー(「J

TB1.1」,「JTB1.2」の2枚のガイドバー(分割ジャカードバー)が一体

となった一体型のジャガードバー)を備えたラッシェルトロニク 機製

の編機によって,2本のグランドガイドバーと1本のジャカードバー(2

枚の分割ジャカードバー)だけを使用して編成した編地であること,A

2枚の分割ジャカードバー「JTB1.1」 「JTB1.2」 そのチェーン表 「L
, は, (

apping」 が表す基本組織
) (即ち,基本動作) 「JTB1.1
は 1-0/1-2//」 「J


TB1.2 1-2/1-0//」であって,ハーフセット編みの「対」になっており,

原則的に,「JTB1.1」のジャカードバーは「1-0/1-2//」の動きをし,「J

TB1.2」のジャカードバーは「1-2/1-0//」の動きをすること,B2枚の

分割ジャカードバー「JTB1.1」,「JTB1.2」が,「パワーネットの地組

織を作ると同時に,パターンを作り込」むこと,C2本のグランドガイ

ドバー「GB4」,「GB5」は,そのチェーン表「GB4 1-1/0-0//」,「GB5

0-0/1-1//」が表すように,ループを作らず直線状に経方向に編み込む挿

入組織を編成する挿入筬として使用すること,D挿入組織は,「エラス

タン」(スパンデックスに同じ弾性糸)を用いて,編地に機能性を付与

することの説明が記載され,「PATTERN」欄に編地見本が両面テープで貼

り付けられている。

「パワーネット」は,全ての編目位置でループを配置した柄のない無

地のものであるから,上記の「パワーネットの地組織を作ると同時に,

パターンを作り込」むとは,柄のない無地の「パワーネット」地組織部




分を柄構成部分である変化組織としての丸形部,柱形部,菱形部などの

組織に変位させて柄部のある編地に編み込むことを説明するものであ

る。

そして,甲2記載の編地は,ループの形成がジャカード制御されるジ

ャカードバーを備える経編機により編成される経編地に,グランドガイ

ドバーによって挿入組織が加わっているだけであるから,通常の筬ない

し地筬によって編成された全ての編目位置にループが形成された「支持

組織」なしの編地であることは自明であり,ジャカードバーによって全

ての編目位置にループが形成されていることを容易に理解できる。

また,甲2の編地見本は,いずれも目抜けのない安定した編地であり,

全ての網目位置にループが形成されている。

そうすると,甲2記載の編地は,2枚の分割ジャカードバーを用いて

編成された上記「支持組織」なしのハーフセット編みであり,基本動作

にジャカードバーによる変位制御を加えることにより,全ての編目位置

にループが形成されているのであるから,一方のハーフセット編みの変

位あるいは非変位ではループが形成されない編目位置に,他方のハーフ

セット編みの変位あるいは非変位によってループを形成して補うように

編成されているものといえる。

したがって,甲2には,相違点aに係る本件発明1の構成が開示され

ている。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

甲2における説明文の記載内容と両面テープで貼り付けられている編



すとおりである。



ジャカードバーによる「JTB1.1 1-0/1-2//」,「JTB1.2 1-2/1-0//」の

基本組織と,この基本組織からジャカード制御させた変化組織とを適宜




に組み合わせて,全ての編目位置でループ形成しながら,所要のコース

で隣接するウエールにわたるシンカーループを渡らせないで編成すると

ともに(図(a)及び(b)),他のガイドバー(グランドガイドバー)GB4,

GB5は,弾性糸を導糸し,それぞれ「GB4 1-1/0-0//」,「GB5 0-0/1-1/

/」の挿入組織で編成し(図(a)) 編成後に,
, 幅方向(横方向)に引張(拡

幅)してヒートセットすることにより,シンカーループが渡っていない

個所を開口させたものであり(図(c)。なお,図(b)及び(c)におけ

る挿入糸は,編地の表面側に浮いた部分についてはこれを表現し,編地

の裏側に沈んだ部分についてはその表現を省略している。),ループが

形成されない編目位置が生じていないことが明らかである。このように

甲2の編地見本の経編地には,全ての編目位置においてループが形成さ

れており,編目の欠損がないから,一方のハーフセット編みの変位ある

いは非変位ではループが形成されない編目位置に,他方のハーフセット

編みの変位あるいは非変位によってループを形成して補うように編成さ

れているものといえる。

原告は,これに対し,甲2に貼り付けられた編地見本と甲2記載の説

明文とは,製造過程においても,物理的にも,一体性が希薄であり,甲

2に貼り付けられた編地見本それ自体の形状等を分析して得られる情報

は,文書,図面,写真などに文字,図形,画像などとして示された情報

とは,情報の明確性,正確性,情報伝搬力などの点からみて,性質及び

内容が大きく異なるから,特許法29条1項3号の「文書,図画その他

これに類する情報伝達媒体」に該当するとはいえない旨主張する。



記主張は理由がない。

また,原告は,甲2には,ジャカード編成組織の全ての編目位置にお

いてループを形成するための具体的な手段の記載がないから,本件発明




1と甲2発明には実質的な相違はないとした本件審決の判断は誤りであ

る旨主張する。



いて,相違点aに係る本件発明1の構成が開示されているといえるから,

本件審決の判断に誤りはない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

なお,原告は,甲2によれば,JTB1.1の方がJTB1.2よりも給糸量(ラ

ンナー値)が多いのに,甲2には,JTB1.1から供給される編成糸とJTB1

.2から供給される編成糸のそれぞれの比率が同じ「37.8%」となっ

ているのは極めて不可解である旨主張する。

確かに,甲2において比率が「37.8%」というのは誤記であって,

正確な比率は,JTB1.1が「40.6%」,JTB1.2が「34.94%」,G

B4が「12,23%」,GB5が「12,23%」である。

エ 以上によれば,本件発明1は甲2に記載された発明と同一であるとした

本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。

取消事由3に対し

原告は,本件発明1と甲1発明又は甲2発明には実質的な相違があるから,

本件発明1が甲1発明又は甲2発明と実質的に同一であることを前提に,本

件発明2ないし5が特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を

受けることができないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら,本件発明1が甲1発明又は甲2発明と実質的に同一である



りはない。

したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。

第4 当裁判所の判断

1 取消事由1(本件発明1と甲1発明の同一性の判断の誤り)について




本件明細書の記載事項等について

ア 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のと

おりである。

イ 本件明細書(甲9)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載があ

る(下記記載中に引用する図面については別紙明細書図面参照)。

「【技術分野】

本発明は,ジャカード経編地とその用途に関し,詳しくは,ジャカー

ド編成装置を用いて編成されるジャカード経編地とその用途を対象にし

ている。」(段落【0001】)

「【背景技術】

ジャカード編成装置は,通常のトリコット編機やラッシェル編機では

編成することが困難な複雑で多彩な経編地が編成できる装置である。

ジャカード編成装置の構造上の特徴は,ジャカード筬を備えているこ

とにある。通常の筬は,基本的に1枚の筬が全てのゲージ位置で同じ動

きで編成動作を行なうのに対して,ジャカード筬は,通常の筬と同じ基

本動作に加えて,個々のゲージ位置毎に異なる編成動作を行なわせるこ

とができる。

通常の経編地では,一つのコースでは全てのウェールで同じ編成組織

になるので,コース毎に編成組織を変えて,単純な縞模様などが編成で

きるだけなのに対して,ジャカード経編地では,コース毎およびウェー

ル毎に異なる編成組織を編成させることができ,スポット状の柄組織を

配置したり,文字や図形さらには絵画のような複雑な柄組織を編成した

り,経編地の編方向だけでなく幅方向あるいは斜め方向で機能や特性の

異なる領域を配置したりすることも可能になる。なお,ここでいう機能

とは,例えば,伸縮性などの機能のことであり,特性とは,例えば,引

き裂き強度や破裂強度などの特性のことである。」(段落【0002】)




「【発明が解決しようとする課題】

経編地は,基本的に全ての編目位置にループが形成されていなければ,

機能や特性が安定した編地にはならない。複数の筬を用いて編成される

経編地の場合は,何れか一つの筬が,全ての編目位置でループを形成す

る編成組織を編成する必要がある。

しかし,変化組織はコース毎に編目の位置を任意に変更する。そのた

め,このような変化組織を含むジャカード編成組織は,その編目位置に

よっては,ループが存在しない個所が生じてしまう。

そこで,従来のジャカード経編地では,ジャカード編成組織とは別に,

ジャカード編成組織のループが存在しない個所でもループを形成する支

持組織が必要になる。支持組織は,ジャカード機構を備えていない通常

の 筬 で あ る 地 筬で 編成 さ れ , 全 て の編 目位 置 に ル ー プ を有 して い

る。」(段落【0003】)

「そのため,従来のジャカード経編地は,ジャカード筬で編成される

ジャカード編成組織と,地筬で編成される支持組織との2種類の編成組

織を組み合わせなければならなかった。

上記2種類の編成組織を組み合わせるためには,2種類の編成糸を準

備して,各筬に別の編成糸を供給する作業が必要であり,編成作業に手

間と時間を要することになる。

2種類の編成組織が表裏で2重に重なることになるので,ジャカード

経編地は生地が分厚くなり,重い生地になり易い。

特に,複数の地筬で伸縮性糸を挿入して伸縮機能を向上させようとす

る場合には,余計に筬の枚数が増えて,生地の厚み,重量も増大してし

まうことになる。」(段落【0004】)

「本発明の課題は,前記した従来のジャカード経編地が有する問題点

を解消して,編成作業が容易で能率的に行なえ,得られたジャカード経




編地が薄くて軽量になり,しかも,ジャカード経編地が有する多彩な柄

組織,特性や機能の変化を良好に発揮させることである。」(段落【0

005】)

「【課題を解決するための手段】

本発明にかかるジャカード経編地は,ジャカード編成装置で編成され

るものであり,一定の繰り返し単位を有する基本組織と前記基本組織か

ら変化させてなる変化組織を含むジャカード編成組織を備えるが,支持

組織が不要な経編地であって,前記ジャカード編成組織は,2つのハー

フセット編みからなり,一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位

ではループが形成されない編目位置を,他方のハーフセット編みの変位

あるいは非変位によってループ形成して補うように,前記2つのハーフ

セット編みが対になって編成されていることにより,前記変化組織を含

むジャカード編成組織の全ての編目位置においてループが配置されてな

る,ことを特徴とする。

本発明の上記各構成について以下に具体的に説明する。

〔ジャカード編成装置〕

本発明において,ジャカード編成装置は,基本的には,通常のジャカ

ード編成装置がそのまま使用できる。」(段落【0006】)

「ジャカード編成装置は,ジャカード機構を備えた筬(ジャカード筬)

を備えている。

ジャカード筬の基本構造は,1枚のジャカード筬を全体として一体的

に運動させる,通常の筬と同様の作動機構に加えて,1枚のジャカード

筬において個々のゲージ位置毎に別々に,編成位置を一定方向に変位さ

せるか変位させないかを,任意に選択して作動制御する機構をも備えて

いる。ジャカード筬に特有のこのような作動機構をジャカード機構と呼

ぶ。




ジャカード筬の全体作動は,パターンホイールや電子制御装置(EL

機)などを用いて,一定数のコース毎に繰り返すパターン制御を行なう

ことができる。」(段落【0007】)

「ジャカード筬のゲージ位置毎の作動制御は,予め作製された紋紙(ジ

ャカードカード)を用いることができる。ジャカードカードには,コー

ス毎に,各ゲージ位置での作動,すなわち,ジャカード機構の作用・非

作用あるいは編成位置の変位・非変位の違いを,穿孔などによって物理

的に記録されている。

ジャカードカードを使用せずに,電子的な記憶情報に基づく電子制御

で,ジャカード筬の作動制御を行なうこともできる。この場合,コンピ

ュータに入力された編成組織あるいは柄組織に関するデータから,ジャ

カード筬の各ゲージ位置における作動条件を演算し,その結果をジャカ

ード筬の作動制御命令として出力することができる。」(段落【000

8】)

「本発明のジャカード経編地では,ジャカード筬を,常に一定の条件

を満足させるように確実に作動制御させる必要があり,コンピュータに

組み込まれた演算プログラムによって,ジャカード筬の作動制御を適切

かつ迅速に行なうことが望ましい。

ジャカード編成装置に備えられたジャカード筬は,それぞれが通常の

ジャカード筬と同様のジャカード機構を備えていて,前記したゲージ位

置毎の作用・非作用を制御できる。このようなジャカード筬を用いるこ

とで,本発明のジャカード経編地が編成可能になる。

なお,ジャカード筬は,フルセットで糸通しされるものであってもよ

いが,例えば,1イン1アウトのハーフセットで糸通しされるというよ

うに,2枚以上のジャカード筬を組み合わせることでフルセット分のジ

ャカード編成組織が構成されるものとすれば,複数枚のジャカード筬を




使用しても1枚分の生地の厚みで編成することができるため,好まし

い。」(段落【0009】)

「また,全てのジャカード筬が,支持組織を不要とするために用いら

れるものである必要はなく,本願発明のこのような主たる目的とは別の

目的,例えば,複雑な柄組織を形成するために用いられるものが含まれ

ていても良い。具体的には,例えば,3枚のジャカード筬を用いる場合

に,全ての編目位置において2枚のジャカード筬によるループが配置さ

れ,残りの1枚は専ら複雑な柄組織を形成するために使用されるという

場合も本願発明に含まれるということである。全ての編目位置において

3枚のジャカード筬によるループが配置される場合も本願発明に含まれ

ることは勿論である。

ジャカード編成装置には,ジャカード筬以外に,通常の筬を備えてお

くことができる。通常の筬とは,ジャカード機構を備えておらず,基本

的に,筬の全体を一体的に作動制御させるものである。但し,通常の筬

であっても,筬のうち,複数のゲージ位置を含む一部分を他の部分とは

別個に機械的に変位できる機構,例えば,カットプレッサ機構などを備

えたものを使用することはできる。この場合も,ジャカード筬のように,

個々のゲージ位置毎に任意に変位させることはできない。」(段落【0

010】)

「通常の筬の枚数は,1枚以上の任意の枚数に設定できる。通常は4

枚程度までである。ジャカード経編地に弾性糸編成組織を加える場合に

は,少なくとも1枚以上,通常の筬を備えておく。但し,従来のジャカ

ード経編地で必須であった支持組織は不要であるから,支持組織に占有

されていた筬は省け,その分だけ必要な筬の数は少なくなる。

〔ジャカード編成組織〕

ジャカード編成組織は,上述のジャカード筬によって編成される。




ジャカード筬のそれぞれで編成される組織を互いに関連させるよう適

切に設計することで,目的とするジャカード経編地を編成することが可

能になる。」(段落【0011】)

「ジャカード編成組織は,柄を構成しない無地部分であって機能や特

性が一定である基本組織と,柄を構成したり機能や特性が基本組織とは

異なっていたりする変化組織を含む。

基本組織は,例えば6コース毎など,一定数コース毎に同じパターン

を繰り返す比較的に単純な編成組織であって,その例としては鎖編,デ

ンビ編,アトラス編などがある。繰り返し単位としては,具体的には,

10/12//などが挙げられる。この基本組織だけでは,ジャカード

編成組織における柄組織や機能,特性の違いを自由に変化させることが

できない。

ジャカード編成組織が変化組織を含むことで,目的とするジャカード

柄組織や場所による機能などの違いを与えることが可能になる。例えば,

変化組織において,基本組織とは振り幅や振り方向が異なる個所を設け

ることができる。振り幅の違いは,その部分の糸密度あるいは生地厚さ

の違いとして表れたり,緊迫力や伸びの違いになったりする。隣接する

編成糸が逆方向に振られて互いに交差する個所は,編成糸の重なりで厚

みが生じたり拘束作用が生じたりする。また,このような編成組織の違

いが複数コースあるいは複数ウェールにわたって任意に組み合わせられ

ることで,経編地の一定領域における柄組織として現出したり,機能や

特性の違う領域が生じたりする。このような変化組織による柄組織ある

いは機能・特性の変化自体は,通常のジャカード編成組織においても達

成されていたことである。」(段落【0012】)

「本発明のジャカード編成組織においては,前記変化組織を含むジャ

カード編成組織の全ての編目位置において,ジャカード筬によるループ




が配置されてなることを特徴としている。したがって,基本組織の全て

の編目位置において,ジャカード筬によるループが配置されてなること

は言うまでもないが,本発明におけるジャカード筬で編成される変化組

織も,前記変化組織を含むジャカード編成組織の全ての編目位置におい

て,ジャカード筬によるループが配置されるようにする。

具体的には,ジャカード編成組織を編成するそれぞれのジャカード筬

の変位を,全ての編目位置において,ジャカード筬がループを形成する

ように互いに関連させて制御するのである。」(段落【0013】)

「例えば,特定のゲージ位置で,1枚のジャカード筬がジャカード機

構を作用させて変位させた場合,別のジャカード筬はジャカード機構を

作用させず変位させない,というような関連制御を行なう。

それぞれのジャカード筬を,全く同じように変位させるか変位させな

いかを決めるのではなく,常に,他のジャカード筬の変位・非変位に合

わせて,適切に変位・非変位を設定することになる。

ジャカード筬では,個々のゲージ位置毎に変位・非変位が選択できる

ので,特定のゲージ位置に存在するジャカード筬同士の関連だけでなく,

その隣りのゲージ位置に存在する別のジャカード筬の作動にも関連させ

るようにする。そのため,ジャカード編成組織の全体で,それぞれのジ

ャカード筬における全てのゲージ位置における変位・非変位の作動を統

一的に制御することが必要になる。」(段落【0014】)

「従来は,パターンホイールなどで設定される基本動作がそのまま基

本組織として編地に反映されるので,2枚のジャカード筬を使用しても,

同じ編目位置には互いのループが重ならないように基本動作が設定され

ている。

本願発明においても,上記従来の方法のような基本動作を設定しても

良いが,例えば,それぞれのジャカード筬に1イン1アウトのハーフセ




ットで糸通しされた2枚のジャカード筬を用いる場合に,2枚のジャカ

ード筬によるループ同士が,同じ編目位置(ゲージ位置)に配置される

基本動作を採用しても良い。ただし,この基本動作を採用する場合,2

枚のジャカード筬の基本動作をそのまま用いて本発明の条件を満たす基

本組織を編成することはできない(全ての編目位置でループを配置する

ことができない)ので,基本組織と変化組織のいずれにおいても,すな

わち,編地全体について,各ゲージ位置で少なくともいずれかのジャカ

ード筬を変位させて,全ての編目位置でループを配置するよう関連制御

を行なうようにする。」(段落【0015】)

「〔ジャカード経編地〕

ジャカード経編地は,ジャカード筬によって編成されるジャカード編

成組織だけで構成することもできるし,ジャカード編成組織に別の編成

組織を組み合わせて構成することもできる。

別の編成組織として,ジャカード筬とは異なる筬によって弾性糸が挿

入または編み込まれてなる弾性糸編成組織を備えることができる。弾性

糸編成組織を備えることで,ジャカード経編地に優れた伸縮性を付与す

ることができる。弾性糸編成組織が挿入組織であれば,伸縮性はより高

まる。」(段落【0016】)

「ジャカード編成組織における部分的な組織変化だけでは,領域毎の

緊迫力や伸びなどの特性に大きな差を付けることには限界があるが,弾

性糸編成組織が加わると,領域毎の特性の差を格段に大きくすることが

できる。

別の編成組織として,非弾性糸による編成組織も勿論加えることがで

きる。非弾性糸による編成組織で,ジャカード経編地の表面特性や機能

性などを向上させることができる。

ジャカード経編地に要求される機能や特性に合わせて,さまざまな別




の編成組織の採用,組み合わせを変更することができる。

但し,ジャカード経編地として,薄くて軽量であるものを要求される

場合は,出来るだけ,ジャカード編成組織以外の別の編成組織は少なく

しておくほうが良い。ジャカード経編地に要求される機能や特性は,出

来るだけ,ジャカード編成組織を最適に設定することが達成されるよう

にしておくことが望ましい。」(段落【0017】)

「ジャカード経編地として,分割可能な構造を設けることができる。

ジャカード経編地の一部に,抜き糸,抜き糸の左右に配置される耳部な

ど,通常の分割可能な経編地と同様の編成組織を付加することができる。

このような分割可能な構造を構成するための編成組織を,ジャカード編

成組織の一部に組み込むことができる。ジャカード筬で編成する変化組

織の一部を,抜き糸や耳部になるように変化させれば,分割構造を構成

するために余分の筬を使う必要がなくなる。

〔編成糸〕

ジャカード経編地の編成に用いる編成糸としては,通常の経編地に使

用されている糸種および糸条件の範囲で,目的に合わせて設定でき

る。」(段落【0018】)

「非弾性糸としては,ナイロン,ポリエステルなどの合成繊維,レー

ヨン,アセテートなどの再生繊維,木綿,絹などの天然繊維などからな

るものを,ジャカード経編地の用途や要求性能に合わせて適宜に選択し

て使用することができる。複数の繊維材料を組み合わせた複合糸も使用

できる。

弾性糸としては,ポリウレタン繊維などの弾性繊維からなるものが使

用できる。

弾性糸に非弾性糸を被覆した被覆弾性糸や,非弾性繊維と弾性繊維と

を組み合わせた複合糸なども使用できる。




非弾性糸と弾性糸とは,伸び率によって区別することができる。通常,

非弾性糸は伸び率100%未満であり,弾性糸は伸び率150%以上,

好ましくは200%以上である。」(段落【0019】)

「<ジャカード編成組織用の糸>

ジャカード編成組織は,基本的に,非弾性糸で編成するが,弾性糸を

用いることもできる。

ジャカード編成組織の編成糸としては,太さ16〜470dtexの

範囲に設定できる。より好ましくは,22〜235dtexである。

ジャカード編成組織を編成する各ジャカード筬には,全ての針位置に

同じ編成糸を糸通しするのが一般的であるが,太さや種類が異なる編成

糸を組み合わせることもできる。

<弾性糸編成組織用の糸>

弾性糸編成組織は,もちろん,弾性糸で編成する。弾性糸を単独で使

用してもよいし,同種あるいは異種の弾性糸を複数本組み合わせて編成

することもできる。」(段落【0020】)

「編成糸としては,太さ11〜3730dtexの範囲に設定できる。

より好ましくは,22〜1240dtexである。

弾性糸編成組織として,弾性糸を複数本揃えて編成すると,前記した

ジャカード編成組織の部分的な組織変化による領域毎の緊迫力や伸びの

違いを,さらに増大させることができる。弾性糸編成組織に,弾性糸が

単独で編成される個所と,弾性糸を複数本揃えて編成する個所とを含ん

でいると,弾性糸が単独の個所と,弾性糸が複数本の個所とで,特性の

違いをより大きくできる。

〔ジャカード経編地の製造〕

前記したジャカード編成装置で特定条件を備えるジャカード編成組織

を編成すること以外は,基本的に,通常のジャカード経編地と共通する




製造技術がそのまま適用できる。」(段落【0021】)

「編成糸の準備,ジャカード編成装置への糸通し,糸の供給条件,編

成条件,編成後の加工処理,染色加工など,通常のジャカード経編地と

同様の処理工程が行なわれる。弾性糸編成組織を含むジャカード経編地

では,熱セット加工やモールド加工などで,弾性糸の固定を行なうこと

ができる。

〔ジャカード経編地の用途〕

本発明で得られるジャカード経編地は,従来のジャカード経編地が使

用されていた各種の用途分野に好適に利用できる。特に,ジャカード編

成による多彩な柄組織や機能,特性の変化に加えて,生地の薄さや軽量

さが要求される用途分野に適している。」(段落【0022】)

「具体的には,ファンデーションやインナーウェア,スポーツウェア,

アウターウェアなどの衣料分野およびカーテンなどの資材分野に使用で

きる。ファッション性が高く,高品質・高機能な衣料品・資材が提供で

きる。

ジャカード編成組織を利用して,分離構造の経編地を編成することが

できる。経編地の端辺にヘム構造を設けることもできる。」(段落【0

023】)

「【発明の効果】

本発明にかかるジャカード経編地は,ジャカード筬によって編成され

るジャカード編成組織のみで経編地を構成することができる。従来のジ

ャカード経編地のように,ジャカード筬に加えて,地筬による支持組織

を組み合わせる必要がない。支持組織のための地筬を削減できることで,

編成作業の能率化を図ると同時に,使用する編成糸も少なくて済み,編

成される経編地の厚さを薄く軽量化することが可能になる。

その結果,生地の薄さや軽量性が要求されると同時に,バラエティに




富んだ柄組織を備えることなど意匠性にも強い要求があるインナーウェ

アなどのファッション性の高い衣料品の製造において,生産性の改善お

よび品質性能の向上,商品価値の増大に,大きく貢献することができ

る。」(段落【0024】)

「【発明を実施するための最良の形態】

〔ジャカード経編地〕

図1は,ジャカード経編地の外観を示している。

ジャカード編成組織は,何れも1イン1アウトで交互に配置された2

枚のジャカード筬により編成された編成糸で構成されている。

前記編成糸は何れも,全てのコースでループを形成するとともに,適

宜に交差して編地組織を構成している。ジャカード編成組織の全体にお

いて,全ての編目位置に,何れか一方の編成糸によるループが配置され

ている。ジャカード経編地は,このような編成糸によるジャカード編成

組織だけで構成されている。」(段落【0025】)

「前記編成糸同士の交差や重なりによって,ジャカード柄組織が形成

される。具体的には,図1に示すように,概略菱形のジャカード柄部P

を,ジャカード経編地Sの全体に千鳥状に間隔をあけて配置することが

できる。

〔ジャカード経編地の編成〕

本発明にかかるジャカード経編地の好適な実施形態では,前記ジャカ

ード編成組織は,2つのハーフセット編みからなり,一方のハーフセッ

ト編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位置を,他

方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループ形成して補

うように,前記2つのハーフセット編みが対になって編成されている。

以下では,本発明に好適なこの実施形態を例にして説明を行なう。 (段


落【0026】)




「図2は,ジャカード編成組織を編成する際に,ジャカード筬のパタ

ーンホイールに設定される基本動作を示している。

2枚のジャカード筬Jb1,Jb2のうち,一方のジャカード筬Jb

1に編成糸10が糸通しされる。他方のジャカード筬Jb2に編成糸2

0が糸通しされる。それぞれの基本動作は,図2(a)に示され,以下

の繰り返し単位を有する。

Jb1:10/12//

Jb2:12/10//

ジャカード筬Jb1とジャカード筬Jb2とで,左右対称の基本動作

になっている。何れのジャカード筬Jb1,Jb2でも,図2(a)に

矢印で示すように,個々のコース毎に,編目位置を変位させるか変位さ

せないかを,全ての編目位置において,何れか一方のジャカード筬がル

ープを形成するように互いに関連させるという条件の下で,任意に設定

することができる。」(段落【0027】)

「図2(b)に示すように,Jb1とJb2とが,1ゲージずれてお

り,互いにループが重なる部分があるため,この基本動作だけで経編地

を編成することはできない。

従って,前記図1において,ジャカード柄組織を形成しない地の部

分(基本組織),ジャカード柄組織の部分(変化組織),のいずれにつ

いても,少なくともいずれかのジャカード筬の基本動作にジャカード機

構による変位制御を加えることで,所定の変化を与えたものとなってい

る。

図3は,ジャカード編成組織を構成する編成糸10,20における基

本動作に変化を与えて編成された組織の具体例を示している。図3(a)

に示す編成糸10−1と編成糸20−1との組み合わせ,図3(b)に

示す編成糸10−2と編成糸20−2との組み合わせはそれぞれ,図1




に示すジャカード柄組織を構成している編成組織から,対になる1組の

ジャカード筬Jb1,Jb2で編成される編成組織を取り出したもので

ある。」(段落【0028】)

「ジャカード柄組織を形成しない地の部分である上下の一定の領域A

も,上下の途中にあってジャカード柄組織を形成する領域Bも,少なく

ともいずれかのジャカード筬の基本動作に変位を加えて編成されてい

る。変化組織では,一方の編成糸10−1,10−2を基本動作から変

化させると,それに合わせて他方の編成糸20−1,20−2の編成動

作を適切に調整している。同じ組の編成糸10−2と編成糸20−2と

でも,領域Aと領域Bとの配置割合が異なっている。

このような編成糸10,20による基本動作からの変化の組が多数集

まって,図1における,概略菱形のジャカード柄組織が形成されてい

る。」(段落【0029】)

「〔変化動作の態様〕

図4は,ジャカード編成組織を編成するための基本動作からの変化態

様を,模式的に具体例で示している。

図4(a)は基本動作である。基本動作は,ジャカード筬Jb1,J

b2とも,10/12//の繰り返し単位を有し,同じゲージ位置から

スタートしている。それぞれの筬に糸通しされたそれぞれの編成糸(実

線および点線で区別して表示)が,全く同じ編成で互いに重なった状態

になって,1ウェールおきに配置される。この基本動作のままでは経編

地は編成できない。」(段落【0030】)

「「1C」「2C」はコース番号を表す。編成は下から上に進むので,

コース1Cからコース2Cへと編成される。

「1a〜3a」はジャカード筬Jb1の各ゲージ位置に対応し,「1

b〜3b」はジャカード筬Jb2の各ゲージ位置に対応する。図4(a)




に示す基本動作では,何れのジャカード筬Jb1,Jb2も,全てのゲ

ージ位置で,ジャカード機構を作用させない「H」状態である。コース

2Cについても同様である。

図4(b)は,基本動作に変化を加えて編成される組織である。この

編成組織では,コース2C,コース1Cの何れでも,ジャカード筬Jb

2の各ゲージ位置1b〜3bでジャカード機構を作用させる「T」状

態(矢印で示す)にする。その結果,ジャカード筬Jb1とジャカード

筬Jb2とで,同じ編成組織が,1ウェール毎に交互に配置されて,全

ての編目位置にループが形成されることになる。」(段落【0031】)

「なお,図4(b)とは逆に,ジャカード筬Jb2の各ゲージ位置1

b〜3bはH状態で,ジャカード筬Jb1の各ゲージ位置1a〜3aで

ジャカード機構を作用させる「T」状態にしても,同様の編成組織が構

成される。実線で表示された編成糸と,点線で表示された編成糸とが,

入れ替わった組織になる。

以下に説明する各編成組織においても,Jb1とJb2との各ゲージ

位置1a〜3a,1b〜3bにおける作用・非作用の状態を逆にすれば,

上記と同様にして,実線で表示された編成糸と,点線で表示された編成

糸とが,入れ替わった対称構造の編成組織が編成できる。説明が重複す

るので以下では説明を省略する。」(段落【0032】)

「図4(c)は,図4(b)の状態からさらに変化させた組織である。

コース2Cは,図4(b)と同様に,Jb1の1a〜3aがH状態,J

b2の1b〜3bがT状態である。コース1Cでは,Jb1の1a,3

aをH状態,2aだけをT状態にする。それに対応させて,Jb2の1

b,3bをT状態,2bをH状態にする。2a,2bの部分で編成糸が

交差する部分が生じている。

図4(d)も,図4(b)の状態からさらに変化させた組織である。




コース2Cで,Jb1の1a,3aはH状態,2aはT状態にする。J

b2の1b,3bはT状態,2bはH状態である。コース1Cも,コー

ス2Cと同じ作用・非作用状態に設定する。図4(b)と類似する編成

組織であるが,実線の編成糸と点線の編成糸とが交互に3組配置されて

いる図4(b)に対して,図4(d)では,中央の組で,実線の編成糸

と点線の編成糸とが入れ替わっている。図4(d)の編成組織を応用す

れば,右側の組あるいは左側の組で,実線の編成糸と点線の編成糸とを

入れ替えることもできる。」(段落【0033】)

「実線の編成糸と点線の編成糸とは異なる糸であっても同じ糸であっ

ても良いが,同じ糸を使っていれば,図4(b)と図4(d)とで実質

的な違いはない。しかし,コース1Cの前のコース,あるいは,コース

2Cの次のコースとの関係によって編成組織が変化する。例えば,図

4(d)の編成組織の前のコースに,図4(b)の編成組織を組み合わ

せるか,図4(c)の編成組織を組み合わせるかで,全体の編成組織に

違いが生じる。

図4(c)(d)のように,コース1Cにおける各ゲージ位置1a〜

3a,1b〜3bの作用・非作用の状態は同じであっても,その次のコ

ース2C,さらにその次のコースにおける状態が違うと,編成される編

成組織の態様が違ってくることが判る。」(段落【0034】)

「以上に説明した様々な変化の態様を,コース毎に任意に組み合わせ

ることで,より複雑で変化に富んだ編成組織を構成することができ

る。」(段落【0035】)

「【実施例】

本発明にかかるジャカード経編地として,下記実施例1,実施例2に

かかるジャカード経編地を製造した。実施例2のジャカード経編地につ

いてはその性能の評価も行った。




編成装置としては,カールマイヤー社製のRSJ4/1を用いた。

実施例1〕

実施例1にかかるジャカード経編地は,ジャカード編成組織が,同一

ウェール上に編成された抜き糸部と,前記抜き糸部の左右に配置される

耳部を有し,前記抜き糸部の両側にて分割可能な経編地である。

<糸使いと編成組織>

図5に示すジャカード編成組織を,下記の糸使いで編成した。図5中,

変化組織Xは抜き糸部,変化組織Yは耳部,変化組織Zはその他の領域

の編成組織を構成している。」(段落【0036】)

「Jb1 (変化組織X):Nylon56/2dt−ブライト糸(東

レ社製)

Jb1,Jb2(変化組織Y):WoolyNylon22dt−

ブライト糸(東レ社製)

Jb1,Jb2(変化組織Z)
:Nylon44dt−セミダル糸(東

レ社製)

なお,パターンホイールなどで設定される基本動作を示す,2枚のジ

ャカード筬Jb1,Jb2に対応する図については,図2に示す基本動

作と共通するため省略する。Jb1,Jb2は,1イン1アウトのハー

フセットで糸通しした。

また,実施例1の編地は,通常の筬GB2,GB3,GB4で編成さ

れる弾性糸編成組織も有するが,図示を省略する。各弾性糸編成組織は,

下記の糸使いで編成した。」(段落【0037】)

「GB2,GB3,GB4:Lycra310dt−クリヤー糸(オ

ペロンテックス社製)

通常の筬GB2,GB3で編成される弾性糸は,変化組織Y(耳部)

が形成される領域以外の領域に挿入され,編地にとって好ましい伸縮性




を付与するための挿入組織である。GB2,GB3は,1イン1アウト

のハーフセットで糸通しした。通常の筬GB4で編成される弾性糸は,

変化組織Y(耳部)が形成される領域に挿入され,編地に伸縮性を付与

し,変化組織Xからなる抜き糸を抜いた際に編地が両側へと分割するの

を補助するためのものである。いずれの弾性糸編成組織も挿入組織であ

って,従来のジャカード経編地に必須であった,支持組織を構成するも

のではない。」(段落【0038】)

「各編成組織は,具体的には,以下の繰り返し単位からなる。

(基本動作)

Jb1:10/12//

Jb2:12/10//

GB2:00/11//

GB3:11/00//

GB4:11/22/00/22/11/33//

(変化組織X:抜き糸部)

Jb1:10/01//

(変化組織Y:耳部)

Jb1:10/12/21/23/21/12//

Jb2(図5において抜き糸左側):23/21/12/21/1

2/21//

Jb2(図5において抜き糸右側):12/21/12/10/1

2/21//

(変化組織Z)

Jb1:10/12/21/23/21/12//

Jb2:23/21/12/10/12/21//

実施例2〕




実施例2にかかるジャカード経編地は,ジャカード編成組織を部分的

に変化させることにより,緊迫力の異なる複数の領域を有するものであ

る。」(段落【0039】)

「<糸使いと編成組織>

図6に示すジャカード編成組織を,下記の糸使いで編成した。

Jb1,Jb2:Nylon44dt−ブライト糸(東レ社製)

パターンホイールなどで設定される2枚のジャカード筬Jb1,Jb

2の基本動作を示す図については,実施例1と同様,図示を省略する。

Jb1,Jb2は,1イン1アウトのハーフセットで糸通しした。

また,実施例2の編地は,通常の筬GB2,GB3で編成される弾性

糸編成組織も有するが,図示を省略する。各弾性糸編成組織は,下記の

糸使いで編成した。GB2,GB3は,1イン1アウトのハーフセット

で糸通しした。」(段落【0040】)

「GB2,GB3:Lycra310dt−クリヤー糸(オペロンテ

ックス社製)

これらの弾性糸編成組織も,実施例1と同様,編地に好ましい伸縮性

を付与するための挿入組織であり,従来のジャカード経編地に必須であ

った,支持組織を構成するものではない。

各編成組織は,具体的には,以下の繰り返し単位からなる。低緊迫領

域の編組織は図6(a),高緊迫領域の編組織は図6(b)に対応する。

(基本動作)

Jb1:10/12//

Jb2:12/10//

GB2:00/11//

GB3:11/00//

(低緊迫領域の編組織)




Jb1:10/12/21/23/21/12//

Jb2:23/21/12/10/12/21//

(高緊迫領域の編組織)

Jb1:10/23//

Jb2:23/10//

<性能評価>

上記実施例2にかかるジャカード経編地について性能を評価した。な

お,編地全体としては,図1におけるジャカード柄部Pで示す領域にジ

ャカード柄に代えて高緊迫領域を配置し,それ以外の領域に低緊迫領域

を配置させるようにした。」(段落【0041】)

「【産業上の利用可能性】

本発明のジャカード経編地は,例えば,ファンデーションやインナー

ウェア,スポーツウェア,アウターウェアやカーテンなどの,薄く軽い

ことと多彩な柄組織を必要としたり,部分的に特性や機能に変化を付け

たりすることが望ましいとされる各種衣料や資材の製造に有用であ

る。」(段落【0049】)

ウ 前記ア及びイの記載を総合すれば,本件明細書(甲9)には,次の点が

開示されていることが認められる。

ジャカード筬は,筬を全体として一体的に運動させる「通常の筬」な

いし「地筬」と同様の作動機構に加えて,個々のゲージ位置毎に別々に,

編成位置を一定方向に変位させるか変位させないかを任意に選択して作

動制御するジャカード機構を備えているため,ジャカード筬を備えたジ

ャカード編成装置を用いて編成されるジャカード経編地では,複雑で多

彩な柄組織を編成したり,部分的に特性や機能に変化を付けることが可

能である。

一方で,経編地は,基本的に全ての編目位置にループが形成されてい




なければ,機能や特性が安定した編地にはならないが,ジャカード経編

地では,コース毎に編目の位置を任意に変更する編成組織を含み,その

編目位置によっては,ループが存在しない個所が生じてしまうことにな

るため,従来のジャカード経編地では,ジャカード筬で編成されるジャ

カード編成組織とは別に,ジャカード機構を備えない通常の地筬で編成

されてなる全ての編目位置にループが存在する「支持組織」との2種類

の編成組織を組み合わせていたが,2種類の編成組織を組み合わせるた

めには,各筬に別の編成糸を供給する作業が必要であり,編成作業に手

間と時間を要することになり,また,2種類の編成組織が表裏で2重に

重なることになるので,ジャカード経編地は生地が分厚くなり,重い生

地になり易いという問題があった。

「本発明」は,従来のジャカード経編地における上記の問題点を解消

し,編成作業を容易で能率的に行うことができ,得られたジャカード経

編地が薄くて軽量になり,しかも,ジャカード経編地が有する多彩な柄

組織,特性や機能の変化を良好に発揮させることを課題とし,その課題

を解決するための手段として,一定の繰り返し単位を有する基本組織と

基本組織から変化させてなる変化組織を含むジャカード編成組織が,2

つのハーフセット編みからなり,一方のハーフセット編みの変位あるい

は非変位ではループが形成されない編目位置を,他方のハーフセット編

みの変位あるいは非変位によってループ形成して補うように互いに関連

させて制御を行うことにより,2つのハーフセット編みが対になって編

成され,地筬によって全ての編目位置にループが存在するように編成さ

れた支持組織を必要とすることなく,変化組織を含むジャカード編成組

織の全ての編目位置においてジャカード筬によるループが配置されてな

るジャカード経編地の構成を採用した。

「本発明」は,上記構成を採用することにより,従来のジャカード経




編地のようにジャカード経編地に地筬によって編成された上記支持組織

を組み合わせる必要がなく,ジャカード筬によって編成されるジャカー

ド編成組織のみで経編地を構成することができるため,上記支持組織の

ための地筬を削減し,編成作業の能率化を図ると同時に,使用する編成

糸も少なくて済み,編成される経編地の厚さを薄く軽量化することが可

能になり,その結果,インナーウェアなどのファッション性の高い衣料

品の製造において,生産性の改善及び品質性能の向上,商品価値の増大

に,大きく貢献することができるという効果を奏する。

本件審判で審理された甲1について

ア Kettenwirk

Praxis 04/2003号,第51頁」を引用している。本件審決を全体としてみ

ても,甲1につき,特に「写し」であるとの記載がないことからすると,

本件審判においては,「Kettenwirk Praxis 04/2003号,第51頁」 「原


本」が証拠として審理の対象となったものと認められる。

そして,「Kettenwirk Praxis 04/2003号,第51頁」の「原本」(乙

1の1)及びその訳文(乙1の2)と弁論の全趣旨によれば,「Kettenwi

rk Praxis 04/2003」は,ドイツ法人のカール・マイヤー社が平成15年

4月に発行した雑誌(英語版)であり,本文60頁で構成され,その42

頁から59頁までの各頁には,カール・マイヤー社のパターンナンバー 「K


ARL-MAYER PATTERN av)で特定された各編地についての説明文と両面テ

ープで添付された編地見本の現物が掲載されていること,甲1は,「KARL

-MAYER PATTERN 62/2003」とのパターンナンバーが付された編地につい

ての説明文及び編地見本の現物が掲載された上記雑誌の51頁部分である

ことが認められる。

また,証拠(乙14,15)及び弁論の全趣旨によれば,甲1を含む「K

ettenwirk Praxis 04/2003」は,平成16年2月9日に特許庁工業所有権




総合情報館資料部及び国立国会図書館に各1冊受け入れられたことが認め

られ,上記雑誌は,本件出願日(平成20年4月16日)の前に公衆の閲

覧の用に供されたものと認められる。

イ 原告は,これに対し,被告作成の平成24年7月12日付け審判請求

書(甲22)の19頁の「8.証拠方法」の項における「甲第1号証の1

Kettenwirk Praxis 04/2003号 表紙,第51頁,裏表紙の各写」との記

載や,同6頁の「[1]の甲第1号証」の項における「甲第1号証(Kett

enwirk-Praxis 04/2003号)は,カールマイヤー社が発行する「Kettenwir

k-Praxis」(経編の実務)の2003年04号の写しである。」との記載などに

よれば,本件審判において審理の対象とされた甲1は,「Kettenwirk Pra

xis 04/2003号,第51頁」の「写し」であり,その写しには編地見本の

コピー(写真)が記載されているにすぎないから,編地見本の現物は本件

審判の審理の対象とされていない旨主張する。

しかしながら,@前記アのとおり,本件審決を全体としてみても,甲1

につき,特に「写し」であるとの記載がないこと,A平成24年7月12

日付け審判請求書(甲22)の「8.証拠方法」の項(19頁)には,「甲

第1号証の1 Kettenwirk Praxis 04/2003号 表紙,第51頁,裏表紙の

各写」,「甲第2号証の1 Kettenwirk Praxis 04/2002号 表紙,第50

頁,裏表紙の各写」との記載がある一方で,「追って,甲第1号証の1及

び甲第2号証の1の原本については,必要であれば,口頭審理の際に持参

致します。」との記載があること,B被告作成の特許庁審判長あての平成

24年10月31日付け上申書(乙3)には,「平成24年7月12日付

け審判請求書において,甲第1号証の1として提出の「Kettenwirk Praxi

s 04/2003号」の第51頁に添付されている経編地,及び甲第2号証の1と

して提出の「Kettenwirk Praxis 04/2002号」の第50頁に添付されている

経編地については,それぞれ実際の経編地が貼り付けられている頁をその




ままコピーして作成したものであり,実際の組織構成が不明確であると思

われるので,ここに,甲第1号証の1の「Kettenwirk Praxis 04/2003号」

及び甲第2号証の1の「Kettenwirk Praxis 04/2002号」の原本を,それぞ

れ参考資料1及び参考資料2として提出する。」(1頁末行〜2頁7

甲第1号証の1の

原本 (Kettenwirk Praxis 04/2003号)

参考資料2 甲第2号証の1の原本 (Kettenwirk Praxis 04/2002号)

正本1通及び副本2通)」(4頁)との記載があること,C被告作成の平

成25年2月7日付け口頭審理陳述要領書(乙6)に,「このことは,上

申書により提出した甲第1号証の第51頁に添付の経編地を観察すれば,

上申書で説明しているとおり,それぞれがハーフセット編みとなる分割ジ

ャカードバーJTB1.1及びJTB1.2により,…一方のハーフセッ

ト編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない網目位置を,他方

のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループを形成して補う

ように,前記2つのハーフセット編みが対になって編成されていること(C

構成),前記変化組織を含むジャカード編成組織の全てが網目位置におい

てループが配置されてなること(D構成)からも明らかである。」(5頁

3行〜14行),「また,甲第2号証の経編地は,上申書において説明し

たとおり,…ジャカード編成組織が他の支持組織を不要にするもの,つま

りは支持組織を兼ねる編成組織であることは明らかである。」(6頁4行

〜9行),「すなわち,甲第1号証の原本に添付されているジャカード経

編地は,本件特許発明1の構成に相当し,また甲第2号証に添付のジャカ

ード経編地は,本件特許発明1の構成に,さらには本件特許発明2の構成

にも相当するものである。従って,本件特許発明1及び本件特許発明2は,

甲第1号証又は甲第2号証に添付の経編地の構成をそのまま文章で表現し

ているだけに過ぎないということもできる。」(6頁10行〜15行)と




の記載があることを総合すると,被告は,平成24年7月12日付け審判

請求書に,証拠方法として「甲第1号証の1 Kettenwirk Praxis 04/200

3号 表紙,第51頁,裏表紙の各写」と記載したが,一方で,同審判請求

書に「追って,甲第1号証の1及び甲第2号証の1の原本については,必

要であれば,口頭審理の際に持参致します。」との記載があるように,「K

ettenwirk Praxis 04/2003号 第51頁」の「原本」を証拠とする趣旨で

本件審判の請求を行ったものであり,その後,同年10月31日付け上申

書添付の「参考資料1」として「Kettenwirk Praxis 04/2003号」の原本を

特許庁に提出し,さらには,本件審判の口頭審理において,「Kettenwirk

Praxis 04/2003号」の原本に基づいて甲1の記載事項に関する陳述を行っ

たことが認められる。

上記認定事実によれば,本件審判において審理の対象とされた甲1

は,「Kettenwirk Praxis 04/2003号,第51頁」の「原本」であるとい

うべきである。

また,平成24年7月12日付け審判請求書に添付された「Kettenwirk

Praxis 04/2003号 第51頁」の「写し」は,被告が「Kettenwirk Praxi

s 04/2003号」の原本を複写して作成したものであって,その作成時期は本

件出願後であり,しかも,上記写しそれ自体が頒布された事実をうかがわ

せる証拠はなく,上記写しそれ自体は「本件出願前に頒布された」刊行物

に当たらないことは明らかである。この点に照らしても,被告は,「Kett

enwirk Praxis 04/2003号 第51頁」の「原本」を証拠とする趣旨で本件

審判の請求を行い,その原本が本件審判において審理の対象とされたもの

とみるのが合理的である。なお,特許法施行規則50条1項は,審判の請

求書に関し特許庁に提出する書面には,必要な証拠方法を記載し,証拠物

件があるときは,添付しなければならない旨規定し,同条2項は,前項の

証拠物件が文書であるときはその写しを提出しなければならない旨規定し




ており,被告が,雑誌「Kettenwirk Praxis 04/2003」の51頁部分である

甲1を「文書」の「証拠物件」とする趣旨で,その写しを上記審判請求書

に添付することは,同条1項及び2項の規定に反するものではない。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

甲1に添付された編地見本の現物部分の刊行物該当性について

特許法29条1項3号の「刊行物」とは,「公衆に対し頒布により公開す

ることを目的として複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒

体」(最高裁昭和55年7月4日第二小法廷判決・民集34巻4号570頁

参照)をいうものと解される。

原告は,@甲1に貼り付けられた編地見本の現物は,それ自体が他の編地

見本とは別個独立に製造されたオリジナル(原型)であって,複製物ではな

いから,「複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体」に該当

しない,A甲1に貼り付けられた編地見本それ自体の形状等を分析して得ら

れる情報は,文書,図面,写真などに文字,図形,画像などとして示された

情報と比べると,情報の明確性,正確性,情報伝搬力などの点からみて,性

質及び内容が大きく異なるから,「文書,図画その他これに類する情報伝達

媒体」に該当しない,B編地見本は,甲1に係る刊行物の複製作業とは別に

ジャカード編機によって編成され,所定の大きさに裁断された後,両面テー

プという簡易な手段で紙に貼り付けられているだけにすぎず,甲1に貼り付

けられた編地見本と甲1記載の説明文とは,製造過程においても,物理的に

も,一体性が希薄であるとして,甲1に貼り付けられた編地見本の現物と甲

1記載の説明文とを一体のものとして「文書,図画その他これに類する情報

伝達媒体」に該当するということはできないから,甲1に貼り付けられた編

地見本の現物部分は,特許法29条1項3号の「刊行物」に該当しない旨主

張するので,以下において判断する。

ア 「Kettenwirk Praxis 04/2003号,第51頁」の「原本」(乙1の1)




及びその訳文(乙1の2)と弁論の全趣旨によれば,甲1に貼り付けられ

た編地見本の現物は,「KARL-MAYER PATTERN 62/2003」とのパターンナ

ンバーが付された編地の見本であり,そのパターンナンバーで特定される

編成組織を有する編地が作成された後,所定の大きさに裁断され,その裁

断された編地部分の一つが,甲1と同じ印刷物である「Kettenwirk Praxi

s 04/2003」の51頁に両面テープで貼り付けられたものであること,裁

断され,貼り付けられた各編地部分は,それぞれが物理的には別体ではあ

るが,いずれもがパターンナンバー「KARL-MAYER PATTERN 62/2003」で

特定される編成組織の特徴を備えていることが認められる。

上記認定事実によれば,裁断された上記各編地部分は,それぞれがパタ

ーンナンバー「KARL-MAYER PATTERN 62/2003」で特定される編成組織を

有する編地の複製物であるものと認められる。

そして,編地見本の現物について,その編成組織を視認し,あるいはル

ーペや分解鏡を用いて編成組織を拡大して観察し,その視認又は観察した

情報から編成組織を分析して編地の編成方法を確認することは,経編地を

取り扱う業者において普通に行われていることであることに鑑みると,当

業者は,裁断された上記各編地部分の一つである甲1に貼り付けられた編

地見本の現物からパターンナンバー「KARL-MAYER PATTERN 62/2003」で

特定される編地の情報を把握することができるものと認められるから,裁

断された上記各編地部分は,「情報伝達媒体」に当たるものと認められる。

そうすると,裁断された上記各編地部分の一つである甲1に貼り付けら

れた編地見本の現物は,「複製」された「文書,図画に類する情報伝達媒

体」に該当するものといえる。

Kettenwirk

Praxis 04/2003」は,相当数の複製物が作成された雑誌であり,本件出願

前に,特許庁工業所有権総合情報館資料部及び国立国会図書館に各1冊受




け入れられ,公衆の閲覧の用に供されたものと認められるから,「公衆に

対し頒布により公開することを目的として複製された」ものといえること

からすると,「Kettenwirk Praxis 04/2003」の51頁部分である甲1は,

説明文及び甲1に貼り付けられた編地見本の現物が一体として,「複製さ

れた文書,図画その他これに類する情報伝達媒体」に当たるものと認めら

れる。

したがって,甲1は,編地見本の現物部分も含めて,特許法29条1項

3号の「刊行物」に該当するというべきである。

イ 原告は,これに対し,甲1に貼り付けられた編地見本の現物は,それ自

体が他の編地見本とは別個独立に製造されたオリジナル(原型)であって

複製物ではなく,また,編地見本は,甲1に係る刊行物の複製作業とは別

にジャカード編機によって編成され,所定の大きさに裁断された後,両面

テープという簡易な手段で紙に貼り付けられているだけにすぎず,甲1に

貼り付けられた編地見本と甲1記載の説明文とは,製造過程においても,

物理的にも,一体性が希薄である旨主張する。

しかしながら,前記ア認定のとおり,甲1に貼り付けられた編地見本の

現物は,パターンナンバー「KARL-MAYER PATTERN 62/2003」で特定され

る編地が作成された後,所定の大きさに裁断されたその編地部分の一つが,

印刷物である「Kettenwirk Praxis 04/2003」の51頁に両面テープで貼

り付けられたものであり,上記所定の大きさに裁断された各編地部分は,

それぞれが物理的には別体ではあるが,いずれもがパターンナンバー「KA

RL-MAYER PATTERN 62/2003」で特定される編成組織を備えているものと

認められるから,甲1に貼り付けられた編地見本の現物は,上記編成組織

を有する編地の複製物である。

また,甲1の原本(乙1の1)の形状等に照らすと,甲1における説明

文部分と編地見本の現物部分の一体性が希薄であるということはできな




い。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

ウ また,原告は,甲1に貼り付けられた編地見本それ自体の形状等を分析

して得られる情報は,文書,図面,写真などに文字,図形,画像などとし

て示された情報と比べると,情報の明確性,正確性,情報伝搬力などの点

からみて,性質及び内容が大きく異なるから,「文書,図画その他これに

類する情報伝達媒体」に該当しない旨主張する。

しかしながら,前記アのとおり,編地見本の現物について,その編成組

織を視認し,あるいはルーペや分解鏡を用いて編成組織を拡大して観察し,

その視認又は観察した情報から編成組織を分析して編地の編成方法を確認

することは,経編地を取り扱う業者において普通に行われていることであ

り,当業者は,甲1に貼り付けられた編地見本の現物から編地の情報を把

握することができるものと認められるから,甲1に貼り付けられた編地見

本は,「文書,図画に類する情報伝達媒体」であるといえる。

また,編地見本の現物から把握される編地の情報を把握する方法におい

て文書とは異なる点があるとしても,そのことが,編地見本の現物から把

握される編地の情報の明確性,正確性及び情報伝搬力を否定する事由にな

るものとはいえない。

したがって,原告の上記主張,採用することができない。

エ 以上によれば,甲1は,編地見本の現物部分も含めて,特許法29条

項3号の「刊行物」に該当するというべきであるから,甲1の編地見本の

現物部分は同号の「刊行物」に該当しないとの原告の主張は,理由がない。

甲1の記載事項について

「甲1」の原本(乙1の1。原文英語・訳文乙1の2)には,次のような

記載がある。

また,甲1の「PATTERN」欄には,別紙1記載の編地見本の現物が両面テー




プで貼り付けられている。

ア 「(純粋主義的(伝統にこだわる)ハ二カム構造

カールマイヤーパターンNo.62/2003

ラッピング配置No.S-2004108 デザインNo. J 8286

4本のグランドガイドバー及び1本のジャカードバーを用いたRascheltro

nic より。」

イ 「この透明で,極端に軽くて純粋主義的なハニカム構造は,肌,シルエ

ット,女性的な魅力という最も重要な様相を強調します。斜めに走る高密

度の交差部は,この洗練されたランジェリーのシンプルさに,刺激をもた

らします。この製品の特別なラッピングは最も重要です。このラッピング

は,複数の分割ジャカードバーが逆方向にラッピングするだけで,グラン

ドガイドバーを追加することなく生成します。そのため,材料の大幅な節

約を確実に実現します。」

ウ 「サンプル(仕上がり生地)

打ち込み :50 M/cm(セット:35.3 M/cm)

重量 :31 g/m2

仕上がり生地 :116%巾

仕上げ加工 :リラックス,洗浄,セッティング,染色,

乾燥,テンターニング

機械

タイプ :RSJ 5/1 ラッシェルトロニック

ゲージ :E28(ニードル/25.4mm =1")

編幅 :130"(330cm)

筬枚数 :5 (1枚使用)

パターンホイール数 :2

機械スピード :1100[min-1]




生産(仕上がり生地) :13.2 m/h 」

エ 「糸 比率 ランナー(Run-in per rack)

JTB1.1 dtex 44 f 34 ナイロン 48% 685mm/rack

6.6,プレーン,ブライト,

ラウンド

JTB1.2 dtex 44 f 34 ナイロン 52% 745mm/rack

6.6,プレーン,ブライト,

ラウンド 」

オ 「組織(Lapping) 糸入れ(Threading)

JTB1.1 1-0/1-2// 総詰(fully set)

JTB1.2 1-2/1-0// 総詰(fully set)」

カ 「PATTERN…」(別紙1参照)」

甲1に記載された発明と本件発明1の同一性について

原告は,@本件審決は,相違点aに係る本件発明1の構成のうち,「一方

のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位

置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループ形成し

て補うように,前記2つのハーフセット編みが対になって編成されているこ

とにより,変化組織を含むジャカード編成組織」の部分を甲1発明が備えて

いることについて実質的な評価,判断をしていないから,相違点aは実質的

な相違とは認められないとした本件審決には,理由不備の違法がある,A本

件審決は,甲6の記載事項等から,全ての編目位置においてループを形成す

る必要があることは本件出願時の技術常識であると認定したが,上記認定は,

甲6の具体的記載を離れて,その技術内容を不当に抽象化,一般化ないし上

位概念化するものであり,許されない,B当業者は,全ての編目位置におい

てループを形成する必要性を認識したとしても,甲1の記載事項及び本件出

願時の技術常識から,甲1の編地において全ての編目位置でループを形成す




るための具体的な手段を把握することはできないから,甲1において,相違

点aに係る本件発明1の構成が開示されているものとはいえないなどとし

て,相違点aは本件発明1と甲1発明の実質的な相違とは認められず,本件

発明1と甲1発明には実質的な相違はないとした本件審決の判断は誤りであ

る旨主張するので,以下において判断する。

ア 甲1における一致点の構成の記載の有無について

本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明1の「一定

の繰り返し単位を有する基本組織と前記基本組織から変化させてなる変

化組織を含むジャカード編成組織」にいう「基本組織」及び「変化組織」

の用語の意義を規定する記載は存在しないが,本件明細書(甲9)の段

落【0012】に「ジャカード編成組織は,柄を構成しない無地部分で

あって機能や特性が一定である基本組織と,柄を構成したり機能や特性

が基本組織とは異なっていたりする変化組織を含む。」との記載がある

ことを参酌すると,本件発明1の「基本組織」は,ジャカード編成組織

において,一定の繰り返し単位を有し,柄を構成しない無地部分であっ

て機能や特性が一定である編成組織部分をいい,本件発明1の「変化組

織」は,ジャカード編成組織において,基本組織から変化させてなり,

柄を構成したり機能や特性が基本組織とは異なる編成組織部分をいうも

のと解される。

一方で,本件明細書には,「ジャカード編成装置の構造上の特徴は,

ジャカード筬を備えていることにある。通常の筬は,基本的に1枚の筬

が全てのゲージ位置で同じ動きで編成動作を行なうのに対して,ジャカ

ード筬は,通常の筬と同じ基本動作に加えて,個々のゲージ位置毎に異

なる編成動作を行なわせることができる。」(段落【0002】),「ジ

ャカード筬の基本構造は,1枚のジャカード筬を全体として一体的に運

動させる,通常の筬と同様の作動機構に加えて,1枚のジャカード筬に




おいて個々のゲージ位置毎に別々に,編成位置を一定方向に変位させる

か変位させないかを,任意に選択して作動制御する機構をも備えている。

ジ ャ カ ー ド 筬 に特 有の こ の よ う な 作動 機構 を ジ ャ カ ー ド機 構と 呼

ぶ。」(段落【0007】),「〔変化動作の態様〕 図4は,ジャカ

ード編成組織を編成するための基本動作からの変化態様を,模式的に具

体例で示している。図4(a)は基本動作である。…この基本動作のま

までは経編地は編成できない。」(段落【0030】),「図4(b)

は,基本動作に変化を加えて編成される組織である。この編成組織では,

コース2C,コース1Cの何れでも,ジャカード筬Jb2の各ゲージ位

置1b〜3bでジャカード機構を作用させる「T」状態(矢印で示す)

にする。」(段落【0031】)との記載があることを総合すると,本

件明細書においては,ジャカード編成装置における「基本動作」は,ジ

ャカード筬がジャカード機構を作動させないで,通常の筬と同様に全て

のゲージ位置で同じ動きを行う編成動作をいい,この「基本動作」は,

ジャカード筬がジャカード機構を作動させて行う基本動作からの変化態

様である「変化動作」と区別して用いられているといえる。

そうすると,本件発明1の「基本組織」は,本件明細書にいう「基本

動作」によって編成される編成組織と必ずしも対応関係にあるものでは

なく(このことは,上記段落【0030】に「この基本動作のままでは

経 編 地 は 編 成 でき ない 。 」 と の 記 載が ある こ と か ら も 明ら かで あ

る。),「基本動作」及び「変化動作」によって編成される編成組織を

も含み,同様に,本件発明1の「変化組織」は,基本組織から変化させ

てなるものであれば,「基本動作」及び「変化動作」によって編成され

る編成組織をも含むものといえる。

次に,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載,本件明細書





書の開示事項によれば,本件発明1の「ジャカード経編地」が「支持組

織が不要な経編地であって,前記ジャカード編成組織は,2つのハーフ

セット編みからな」るとの構成は,一定の繰り返し単位を有する基本組

織と前記基本組織から変化させてなる変化組織を含む「ジャカード編成

組織」が,1イン1アウトのハーフセットで糸通しされた2枚のジャカ

ード筬によって編成される「ハーフセット編み」からなり,ジャカード

機構を備えない通常の地筬で編成されてなる全ての編目位置にループが

存在する「支持組織」を含まない「経編地」の構成を意味するものと解

される。

カールマ

イヤーパターンNo.62/2003」の編地は,4本のグランドガイドバーと1

本のジャカードバー(「JTB1.1」及び「JTB1.2」の2枚の分割ジャカー

ドバーで構成されたもの)を備えた「RSJ 5/1 ラッシェルトロニック 」

との名称の編機によって,「グランドガイドバーを追加することな

く」(上記グランドガイドバーを使用せずに),2枚の分割ジャカード

バー(筬枚数としては「1枚」)のみを使用して生成した「ハーフセッ

ト編み」からなるジャカード編成組織で構成されるジャカード経編地で

あり,そのジャカード編成組織は「ハニカム構造」を備えていることが

認められる。

そして,甲1記載の「カールマイヤーパターンNo.62/2003」の編地は,

グランドガイドバー(地筬)を使用せずに,2枚の分割ジャカードバー(ジ

ャカード筬)のみを使用して生成した「ハーフセット編み」からなるジ

ャカード経編地であるから,ジャカード機構を備えない通常の地筬で編

成されてなる全ての編目位置にループが存在する「支持組織」が「不要

な経編地」であるといえる。

また,「ハニカム構造」とは,一般に,「蜜蜂の巣」を意味し,2枚




の板状外皮の間に蜂の巣状の芯材を挟んだ構造で,正六角形又は正六角

柱を隙間なく並べた構造」をいうが(乙21,22),甲1に添付され

た編地見本の現物(乙1の1。別紙1参照)をみると,多数の六角形の

格子状の編成組織が隙間なく並べられ,その一部には複数の高密度の部

分が存在し,柄を形成していることを確認することができるから,「ハ

ニカム構造」を有しているものといえる。

そして,甲1記載の「カールマイヤーパターンNo.62/2003」の編地が

上記のような「ハニカム構造」を編成するには,「一定の繰り返し単位

を有する基本組織」と「その基本組織から変化させてなる変化組織」が

必要なことは,自明である。

以上によれば,甲1には,甲1記載の「カールマイヤーパターンNo.6

2/2003」の編地が,「一定の繰り返し単位を有する基本組織と前記基本

組織から変化させてなる変化組織を含むジャカード編成組織を備える

が,支持組織が不要な経編地であって,前記ジャカード編成組織は,2

つのハーフセット編みからなる,ジャカード経編地。」の構成(本件審

決認定の一致点に係る構成)を備えていることが記載されているものと

認められる。

イ 甲1における相違点aの構成の記載の有無について

本件明細書には,本件発明1の「一方のハーフセット編みの変位ある

いは非変位ではループが形成されない編目位置を,他方のハーフセット

編みの変位あるいは非変位によってループ形成して補うように,前記2

つのハーフセット編みが対になって編成されていることにより,変化組

織を含むジャカード編成組織の全てが編目位置においてループが配置さ

れてなる」との構成(相違点aの構成)に関し,「本願発明においても,

上記従来の方法のような基本動作を設定しても良いが,例えば,それぞ

れのジャカード筬に1イン1アウトのハーフセットで糸通しされた2枚




のジャカード筬を用いる場合に,2枚のジャカード筬によるループ同士

が,同じ編目位置(ゲージ位置)に配置される基本動作を採用しても良

い。ただし,この基本動作を採用する場合,2枚のジャカード筬の基本

動作をそのまま用いて本発明の条件を満たす基本組織を編成することは

できない(全ての編目位置でループを配置することができない)ので,

基本組織と変化組織のいずれにおいても,すなわち,編地全体について,

各ゲージ位置で少なくともいずれかのジャカード筬を変位させて,全て

の編目位置でループを配置するよう関連制御を行なうようにする。(段


落【0015】),「2枚のジャカード筬Jb1,Jb2のうち,一方

のジャカード筬Jb1に編成糸10が糸通しされる。他方のジャカード

筬Jb2に編成糸20が糸通しされる。それぞれの基本動作は, (a)
図2

に示され,以下の繰り返し単位を有する。

Jb1:10/12//

Jb2:12/10//

ジャカード筬Jb1とジャカード筬Jb2とで,左右対称の基本動作

になっている。何れのジャカード筬Jb1,Jb2でも,図2(a)に

矢印で示すように,個々のコース毎に,編目位置を変位させるか変位さ

せないかを,全ての編目位置において,何れか一方のジャカード筬がル

ープを形成するように互いに関連させるという条件の下で,任意に設定

することができる。」(段落【0027】),「図2(b)に示すよう

に,Jb1とJb2とが,1ゲージずれており,互いにループが重なる

部分があるため,この基本動作だけで経編地を編成することはできない。

従って,前記図1において,ジャカード柄組織を形成しない地の部

分(基本組織),ジャカード柄組織の部分(変化組織),のいずれにつ

いても,少なくともいずれかのジャカード筬の基本動作にジャカード機

構による変位制御を加えることで,所定の変化を与えたものとなってい




る。」,「図3は,ジャカード編成組織を構成する編成糸10,20に

おける基本動作に変化を与えて編成された組織の具体例を示している。

図3(a)に示す編成糸10−1と編成糸20−1との組み合わせ,図

3(b)に示す編成糸10−2と編成糸20−2との組み合わせはそれ

ぞれ,図1に示すジャカード柄組織を構成している編成組織から,対に

なる1組のジャカード筬Jb1,Jb2で編成される編成組織を取り出

したものである。」(以上,段落【0028】)との記載がある。

上記記載及び別紙明細書図面の図1ないし図3によれば,本件明細書

には,相違点aに係る本件発明1の構成の一例として,1イン1アウト

のハーフセットで糸通しされた2枚のジャカード筬「Jb1」及び「J

b2」が,それぞれ「Jb1:10/12//」,「Jb2:12/1

0//」の左右対称の基本動作を行うが,「Jb1」及び「Jb2」が

1ゲージずれており,互いにループが重なる部分があるため,この基本

動作だけで経編地を編成することはできないため(図2(a) (b) ,
, )

ジャカード柄組織を形成しない地の部分(基本組織),ジャカード柄組

織の部分(変化組織)のいずれについても,少なくともいずれか一方の

ジャカード筬の基本動作にジャカード機構による変位制御を加えること

で,所定の変化を与えた構成(図3(a),(b))が示されている。

ところで,経編は編目となるループの連続であって,各編目位置で順

次形成されるループを経方向に連続させることでループを保持するとい

う経編の編成原理(甲13の「たて編」の項(88頁),甲14の「4.

1 一般のラッシェル機の編成機構とその基本的組織」の項(49頁〜

53頁)参照)によれば,「安定した経編地を編成するには,全ての編

目位置においてループを形成する必要があること」は,本件出願時の技

術常識であったものと認められる。

カールマイヤーパ




ターンNo.62/2003」の編地は,女性の「ランジェリー」用のジャガード

経編地であることが認められるから,その経編地は,「安定した経編地」

であることを前提とするものといえる。また,甲1に添付された編地見

本の現物によれば,その編地は,目抜けの存在しない「安定した経編地」

であることを確認できる。

そうすると,甲1の上記記載事項及び上記技術常識によれば,甲1に

は,甲1記載の「カールマイヤーパターンNo.62/2003」の編地が,全て

の編目位置においてループが形成された安定した経編地であることが開

示されているものと認められる。

カールマイヤーパター

ンNo.62/2003」の編地は,グランドガイドバー(地筬)を使用せずに,

2枚の分割ジャカードバー「JTB1.1」及び「JTB1.2」のみを使用して生

成した「ハーフセット編み」からなるジャカード編成組織で構成される

ジャカード経編地であって,地筬で編成されてなる全ての編目位置にル

ープが存在する「支持組織」が存在しないから,甲1に接した当業者は,

甲1記載の「カールマイヤーパターンNo.62/2003」の編地は,分割ジャ

カードバー「JTB1.1」又は「JTB1.2」のいずれかの編成動作によって,

全ての編目位置においてループが形成されていることを理解するものと

いえる。

ドバ

ー「JTB1.1」及び「JTB1.2」は,それぞれ「JTB1.1 1-0/1-2//」,「J

TB1.2 1-2/1-0//」の左右対称の基本動作を行うが,それらの基本動作

のみによって甲1記載の「カールマイヤーパターンNo.62/2003」の編地

の「ハニカム構造」を編成することができないことは自明であるから,

甲1に接した当業者は,分割ジャカードバー「JTB1.1」又は「JTB1.2」

のいずれか一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが




形成されない編目位置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変

位によってループを形成して補うように,2つのハーフセット編みが編

成されていることにより,ジャカード編成組織の全てが編目位置におい

てループが配置されていることを理解するものといえる。このことは,

被告が甲1に添付された編地見本の現物の「ハニカム構造」の編地の一

部を拡大鏡(Nikon製の実体顕微鏡SMZ)を用いて拡大して観察・分析

JTB1

.1」及び「JTB1.2」のいずれの編成動作においても上記基本動作からの

変位のある個所がみられることからも裏付けることができる。

以上によれば,甲1記載の「カールマイヤーパターンNo.62/2003」の

編地は,「一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが

形成されない編目位置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変

位によってループ形成して補うように,前記2つのハーフセット編みが

対になって編成されていることにより,変化組織を含むジャカード編成

組織の全てが編目位置においてループが配置されてなる」構成(相違点

aに係る本件発明1の構成)を備えているものと認められる。

したがって,相違点aは,本件発明1と甲1に記載された発明(甲1

発明)の実質的な相違とは認められず,甲1発明は本件発明1に含まれ

るものと認められる。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

ウ 原告の主張について

原告は,本件審決は,相違点aに係る本件発明1の構成のうち,「一

方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない

編目位置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってル

ープ形成して補うように,前記2つのハーフセット編みが対になって編

成されていることにより,変化組織を含むジャカード編成組織」の部分

を甲1発明が備えていることについて実質的な評価,判断をしていない




から,相違点aは実質的な相違とは認められないとした本件審決には,

理由不備の違法がある旨主張する。

しかしながら,本件審決は,本件発明1と甲1発明は,「一定の繰り

返し単位を有する基本組織と前記基本組織から変化させてなる変化組織

を含むジャカード編成組織を備えるが,支持組織が不要な経編地であっ

て,前記ジャカード編成組織は,2つのハーフセット編みからなる,ジ

ャカード経編地。」である点で一致すると認定した上で,相違点aにお

いて一応相違するものと認められるが,「安定した経編地を編成するに

は,全ての編目位置においてループを形成する必要があること」が技術

常識であることを参酌すると,甲1発明は,相違点aの構成によって全

ての編目位置でループを形成しているものと把握できると判断したもの

と理解できる。

したがって,本件審決が,相違点aに係る本件発明1の構成のう

ち,「一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成

されない編目位置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位に

よってループ形成して補うように,前記2つのハーフセット編みが対に

なって編成されていることにより,変化組織を含むジャカード編成組織」

の部分を甲1発明が備えていることについて実質的な評価,判断をして

いないものとはいえないから,原告の上記主張は理由がない。

原告は,本件審決は,甲6の記載事項等から,全ての編目位置におい

てループを形成する必要があることは本件出願時の技術常識であると認

定したが,上記認定は,甲6の具体的記載を離れて,その技術内容を不

当に抽象化,一般化ないし上位概念化するものであるから,許されない

旨主張する。

しかしながら,「安定した経編地を編成するには,全ての編目位置に

おいてループを形成する必要があること」は,経編は編目となるループ




の連続であって,各編目位置で順次形成されるループを経方向に連続さ

せることでループを保持するという経編の編成原理から導出される本件



また,本件審決は,「安定した経編地を編成するには,全ての編目位

置においてループを形成する必要があること」が技術常識であったこと

の根拠として,甲6の段落【0007】の記載事項を引用している。上

記段落【0007】の記載は,「〔支持組織〕…伸縮性経編地の地編組

織であり,ジャカード編組織における変位あるいは組織変化によって,

一部の編み目位置に,透孔あるいは目抜けと呼ばれる状態が生じても,

全ての編み目でループを形成する支持組織が存在していれば,編地とし

ては透孔や目抜けは生じない。」というものであり,「支持組織」と「ジ

ャカード編組織」を組み合わせた編地に関するものであるが,上記記載

から「透孔や目抜けは生じない」縦編地とするには,全ての編目でルー

プを形成する必要があることを読み取ることができるから,本件審決が,

甲6の具体的記載を離れて,その技術内容を不当に抽象化,一般化ない

上位概念化したということもできない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

原告は,甲1には,2本のジャカードバーの基本動作について,「JT

B1.1 1-0/1-2//」,「JTB1.2 1-2/1-0//」との記載があるが,その変位

制御に関する具体的な記載は一切なく,どのような変位制御がされてジ

ャカード編成組織が編成されたのかその具体的な手段を把握することは

できないから,当業者は,全ての編目位置においてループを形成する必

要性を認識したとしても,甲1の記載事項及び本件出願時の技術常識

ら,甲1の編地において全ての編目位置でループを形成するための具体

的な手段を把握することはできず,甲1において,相違点aに係る本件

発明1の構成が開示されているものとはいえない旨主張する。




時の技術常識によれば,甲1記載の「カールマイヤーパターンNo.62/20

03」の編地は,グランドガイドバー(地筬)を使用せずに,2枚の分割

ジャカードバー「JTB1.1」及び「JTB1.2」のみを使用して生成した「ハ

ーフセット編み」からなるジャカード編成組織で構成されるジャカード

経編地であって,地筬で編成されてなる全ての編目位置にループが存在

する「支持組織」が存在しないから,甲1に接した当業者は,甲1記載

の「カールマイヤーパターンNo.62/2003」の編地は,分割ジャカードバ

ー「JTB1.1」又は「JTB1.2」のいずれかの編成動作によって,全ての編

目位置においてループが形成されていることを理解するものであり,ま

た,2枚の分割ジャカードバーの「JTB1.1 1-0/1-2//」,「JTB1.2

1-2/1-0//」の左右対称の基本動作のみによって甲1記載の「ハニカム

構造」の編地を編成することができないことは自明であり,いずれか一

方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない

編目位置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってル

ープを形成して補うように,2つのハーフセット編みが編成されている

ことにより,ジャカード編成組織の全てが編目位置においてループが配

置されていることを理解するものといえる。

したがって,甲1には,相違点aに係る本件発明1の構成が開示され

ているものと認められるものであり,甲1において2本のジャカードバ

ーの基本動作からの変位制御に関する具体的な記載がないことは上記認

定を妨げるものではない。



視認し,あるいはルーペや分解鏡を用いて編成組織を拡大して観察し,

その視認又は観察した情報から編成組織を分析して編地の編成方法を確

認することは,経編地を取り扱う業者において普通に行われていること




であるから,当業者は,甲1に貼り付けられた編地見本の現物から2本

のジャカードバーの基本動作からの変位制御に関する具体的な情報を把

握することができるものと認められる。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

なお,原告は,上記主張に関連して,甲1によれば,JTB1.1とJTB1.2

に導糸される編成糸は同種であるが,JTB1.1とJTB1.2の給糸量(ランナ

ー値)が,それぞれ,685mm/rackと745mm/rackとして異なる値となって

いることからすると,JTB1.1とJTB1.2が同じようなラッピング運動をす

る場合,特別な工夫をしない限り,給糸量の少ないJTB1.1の編成糸の張

力の方がJTB1.2の編成糸の張力を上回ることとなるから,JTB1.1とJTB1

.2の編成糸の張力のバランスが保てないはずであり,甲1の記載に基づ

いて当業者が編地を製造可能であるのか否かという点においてさえ疑問

がある旨主張する。

しかしながら,JTB1.1とJTB1.2の編成糸のランナー値が異なるからと

いって直ちに張力のバランスが保てないということはできず,原告の上

記主張は採用することはできない。

小括

以上によれば,本件発明1は甲1に記載された発明と同一であるとした本

件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。

2 取消事由2(本件発明1と甲2発明の同一性の判断の誤り)について

原告は,本件審決は,本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は,本件発

明1と甲1発明の一致点及び相違点と同様なものであり,甲2発明の2本の分

割ジャカードバーによる基本組織であるJTB1.1 1-0/1-2//,JTB1.2 1-2/1-0//

は,本件明細書記載のジャカード編成組織の基本組織(基本動作)と一致して

いること,甲2発明のジャカード経編地は2本のジャカードバーのみが編地の

外観を得るのに必要とされることなどから,本件発明1と甲1発明と同様に,




本件発明1と甲2発明には実質的な相違はない旨判断したが,甲2には,ジャ

カード編成組織の全ての編目位置においてループを形成するための具体的な手

段の記載はなく,甲1発明について述べたのと同様の理由により,甲2におい

て,相違点aに係る本件発明1の構成が開示されているものとはいえないから,

本件審決の上記判断は,誤りである旨主張するので,以下において判断する。

本件審判で審理された甲2について

ア Kettenwirk

Praxis 04/2002号,第50頁」を引用している。本件審決を全体としてみ

ても,甲2につき,特に「写し」であるとの記載がないことからすると,

本件審判においては,「Kettenwirk Praxis 04/2002号,第50頁」 「原


本」が証拠として審理の対象となったものと認められる。

そして,「Kettenwirk Praxis 04/2002号,第50頁」の「原本」(乙

2の1)及びその訳文(乙2の2)と弁論の全趣旨によれば,「Kettenwi

rk Praxis 04/2002」は,ドイツ法人のカール・マイヤー社が平成14年

4月に発行した雑誌(英語版)であり,本文64頁で構成され,その50

頁から64頁までの各頁には,カール・マイヤー社のパターンナンバー 「K


ARL-MAYER PATTERN av)で特定された各編地についての説明文と両面テ

ープで添付された編地見本の現物が掲載されていること,甲2は,「KARL

-MAYER PATTERN No.314/02」とのパターンナンバーが付された編地につい

ての説明文及び編地見本の現物が掲載された上記雑誌の50頁部分である

ことが認められる。

また,証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,甲2を含む「Ketten

wirk Praxis 04/2002」は,平成15年2月17日に国立国会図書館に1

冊受け入れられたことが認められ,上記雑誌は,本件出願日(平成20年

4月16日)の前に公衆の閲覧の用に供されたものと認められる。

イ 原告は,これに対し,本件審判において審理の対象とされた甲2は,「K




ettenwirk Praxis 04/2002号,第50頁」の「写し」であり,その写しに

は編地見本のコピー(写真)が記載されているにすぎないから,編地見本

の現物は本件審判の審理の対象とされていない旨主張する。

被告は,平成24年7月1

2日付け審判請求書(甲22)に,証拠方法として「甲第2号証の1 Ke

ttenwirk Praxis 04/2002号 表紙,第50頁,裏表紙の各写」と記載した

が,一方で,同審判請求書に「追って,甲第1号証の1及び甲第2号証の

1の原本については,必要であれば,口頭審理の際に持参致します。」と

の記載があるように,「Kettenwirk Praxis 04/2002号 第50頁」の「原

本」を証拠とする趣旨で本件審判の請求を行ったものであり,その後,同

年10月31日付け上申書(乙3)添付の「参考資料2」として「Ketten

wirk Praxis 04/2002号」の原本を特許庁に提出し,さらには,本件審判の

口頭審理において,「Kettenwirk Praxis 04/2002号」の原本に基づいて甲

2の記載事項に関する陳述を行ったことが認められる。

上記認定事実によれば,本件審判において審理の対象とされた甲2

は,「Kettenwirk Praxis 04/2002号,第50頁」の「原本」であるとい

うべきである。

また,平成24年7月12日付け審判請求書に添付された「Kettenwirk

Praxis 04/2002号 第50頁」の「写し」は,被告が「Kettenwirk Praxi

s 04/2002号」の原本を複写して作成したものであって,その作成時期は本

件出願後であり,しかも,上記写しそれ自体が頒布された事実をうかがわ

せる証拠はなく,上記写しそれ自体は「本件出願前に頒布された」刊行物

に当たらないことは明らかである。この点に照らしても,被告は,「Kett

enwirk Praxis 04/2002号 第50頁」の「原本」を証拠とする趣旨で本件

審判の請求を行い,その原本が本件審判において審理の対象とされたもの

とみるのが合理的である。なお,特許法施行規則50条1項は,審判の請




求書に関し特許庁に提出する書面には,必要な証拠方法を記載し,証拠物

件があるときは,添付しなければならない旨規定し,同条2項は,前項の

証拠物件が文書であるときはその写しを提出しなければならない旨規定し

ており,被告が,雑誌「Kettenwirk Praxis 04/2002」の50頁部分である

甲2を「文書」の「証拠物件」とする趣旨で,その写しを上記審判請求書

に添付することは,同条1項及び2項の規定に反するものではない。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

甲2に添付された編地見本の現物部分の刊行物該当性について

原告は,甲2に貼り付けられた編地見本の現物部分は,特許法29条1項

3号の「刊行物」に該当しない旨主張する。

そこで検討するに,「Kettenwirk Praxis 04/2002号,第50頁」の「原

本」(乙2の1)及びその訳文(乙2の2)と弁論の全趣旨によれば,甲2

に貼り付けられた編地見本の現物は,「KARL-MAYER PATTERN No.314/02」と

のパターンナンバーが付された編地の見本であり,そのパターンナンバーで

特定される編成組織を有する編地が作成された後,所定の大きさに裁断され,

その裁断された編地部分の一つが,甲2と同じ印刷物である「Kettenwirk P

raxis 04/2002」の50頁に両面テープで貼り付けられたものであること,

裁断され,貼り付けられたた各編地部分は,それぞれが物理的には別体では

あるが,いずれもがパターンナンバー「KARL-MAYER PATTERN No.314/02」で

特定される編成組織の特徴を備えていることが認められる。

上記認定事実によれば,裁断された上記各編地部分は,それぞれがパター

ンナンバー「KARL-MAYER PATTERN No.314/02」で特定される編成組織を有す

る編地の複製物であるものと認められる。



視認し,あるいはルーペや分解鏡を用いて編成組織を拡大して観察し,その

視認又は観察した情報から編成組織を分析して編地の編成方法を確認するこ




とは,経編地を取り扱う業者において普通に行われていることであることに

鑑みると,当業者は,裁断された上記各編地部分の一つである甲2に貼り付

けられた編地見本の現物からパターンナンバー「KARL-MAYER PATTERN No.31

4/02」で特定される編地の情報を把握することができるものと認められるか

ら,裁断された上記各編地部分は,「情報伝達媒体」に当たるものと認めら

れる。

そうすると,裁断された上記各編地部分の一つである甲2に貼り付けられ

た編地見本の現物は,「複製」された「文書,図画に類する情報伝達媒体」

に該当するものといえる。

Kettenwirk P

raxis 04/2002」は,相当数の複製物が作成された雑誌であり,本件出願前

に,国立国会図書館に1冊受け入れられ,公衆の閲覧の用に供されたものと

認められるから,「公衆に対し頒布により公開することを目的として複製さ

れた」ものといえることからすると,「Kettenwirk Praxis 04/2002」の5

0頁部分である甲2は,説明文及び甲2に貼り付けられた編地見本の現物が

一体として,「複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体」に

当たるものと認められる。

したがって,甲2は,編地見本の現物部分も含めて,特許法29条1項

号の「刊行物」に該当するというべきである。

以上によれば,原告の上記主張は,理由がない。

甲2の記載事項について

「甲2」の原本(乙2の1。原文英語・訳文乙2の2)には,次のような

記載がある。

また,甲2の「PATTERN」欄には,別紙2記載の編地見本の現物が両面テー

プで貼り付けられている。

ア 「消灯,スポットオン−「スポットネット」




カールマイヤーパターンNo.314/02

ラッピング配置No.S-4003241 デザインNo. J 8279

4本のグランドガイドバー及び1本のジャカードバーを用いたRascheltro

nic より。」

イ 「従来の機械を用いた新規なラッピングにより製造されるこの編地

は,「スポットネット」と呼ばれ,全くもって新規です。2本のジャカー

ドバーのみが,編地の外観を得るのに必要とされます。「パターンをあて

がうのでなくパターニングを行う」というモットーのもとで,これら2本

のジャカードバーが,パワーネットの地組織を作ると同時に,パターンを

作り込みます。グランドガイドバーは,エラスタンを用いて,編地に機能

性を付与します。このようにして,必要とされるグランドガイドバーの数

を減らし,編他の重量を減らし,機械操作全体をシンプルなものにします。

結果的に,軽量で,透明であり,長さ方向の弾性に優れ,関心を引くパタ

ーン効果を有する編地が得られます。

4つの辺により結ばれる点からなる標準パターンに,点を長方形で置き

換える割り込みが,偶然の配置に見えるように行われます。これにより,

伝統的なデザインに対して,非常にダイナミックで,スポーティな感覚を

付与する。

ですので,ランジェリー及び衣類の分野で,消灯して,「スポットネッ

ト」のすばらしい外観に,スポットオンしてください。」

ウ 「サンプル(仕上がり生地)

打ち込み :65/cm(セット:35.3 /cm)

重量 :100g/m2

仕上がり生地 :76 %巾

仕上げ加工 :リラックス,セッティング,洗浄,染色,

テンターニング




機械

タイプ :RSJ 5/1 ラッシェルトロニック

ゲージ :E28(ニードル/25.4mm =1")

編幅 :130"(330cm)

筬枚数 :5 (3枚使用)

パターンホイール数 :4

機械スピード :1000[min-1]

生産(仕上がり生地) :9.2 m/h 」

エ 「糸 比率 ランナー(Run-in per rack)

JTB1.1 dtex 33 f 10 ナイロン 37.8% 1040mm/rack

6.6,プレーン,セミダル

JTB1.2 dtex 33 f 10 ナイロン 37.8% 890mm/rack

6.6,プレーン,セミダル

GB 4 dtex 156 エラスタン 12.2% 110mm/rack

(ライクラ 136C,65% プレテンション)

GB 5 dtex 156 エラスタン 12.2% 110mm/rack

(ライクラ 136C,65% プレテンション) 」

オ 「組織(Lapping) 糸入れ(Threading)

JTB1.1 1-0/1-2// 総詰(fully set)

JTB1.2 1-2/1-0// 総詰(fully set)」

GB 4 1-1/0-0// 1 イン, 1 アウト

GB 5 0-0/1-1// 1 イン, 1 アウト 」

カ 「PATTERN…」(別紙2参照)」

甲2に記載された発明と本件発明1の同一性について

ア 甲2における相違点aの構成の記載の有無について

カールマ




イヤーパターンNo.314/02」の編地は,4本のグランドガイドバーと1本

のジャカードバー(「JTB1.1」及び「JTB1.2」の2枚の分割ジャカード

バーで構成されたもの)を備えた「RSJ 5/1 ラッシェルトロニック 」

との名称の編機によって,2枚の分割ジャカードバー「JTB1.1」及び「J

TB1.2」のみを「編地の外観を得る」ために使用して「パワーネットの地

組織を作ると同時に,パターンを作り込み」,2本のグランドガイドバ

ー「GB 4」及び「GB 5」を用いて「エラスタン」(弾性糸)を挿入して「編

地に機能性」を付与して生成したジャカード編成組織で構成されるジャ

カード経編地であり,「スポットネット」の名称が付されていることが

認められる。

そして,甲2記載の「カールマイヤーパターンNo.314/02」の編地は,

2枚の分割ジャカードバー(ジャカード筬)のみを使用して「編地の外

観」を生成した「ハーフセット編み」からなるジャカード経編地である

から,ジャカード機構を備えない通常の地筬で編成されてなる全ての編

目位置にループが存在する「支持組織」が「不要な経編地」であるとい

える。なお,2本のグランドガイドバー「GB 4」及び「GB 5」は,地筬

ではあるが,その動作はそれぞれ「GB 4 1-1/0-0//」,「GB 5 0-0/1-

1//

から,全ての編目位置にループが存在する「支持組織」を編成するもの

とはいえない。

カールマイ

ヤーパターンNo.314/02」の編地は,「4つの辺により結ばれる点からな

る標準パターンに,点を長方形で置き換える割り込みが,偶然の配置に

見えるように」編成されているのであるから,「一定の繰り返し単位を

有する基本組織」と「その基本組織から変化させてなる変化組織」が必

要なことは,自明である。




以上によれば,甲2には,甲2記載の「カールマイヤーパターンNo.3

14/02」の編地が,「一定の繰り返し単位を有する基本組織と前記基本組

織から変化させてなる変化組織を含むジャカード編成組織を備えるが,

支持組織が不要な経編地であって,前記ジャカード編成組織は,2つの

ハーフセット編みからなる,ジャカード経編地。」の構成(本件審決認

定の一致点に係る構成)を備えていることが記載されているものと認め

られる。

「安定した経編地を編成するには,全ての編目位置においてループを

形成する必要があること」は,本件出願時の技術常識であったことは,



カールマイヤーパ

ターンNo.314/02」の編地は,「ランジェリー及び衣類」用のジャガード

経編地であることが認められるから,その経編地は,「安定した経編地」

であることを前提とするものといえる。また,甲2に添付された編地見

本の現物(乙2の1。別紙2参照)によれば,その編地は,目抜けの存

在しない「安定した経編地」であることを確認できる。

そうすると,甲2の上記記載事項及び上記技術常識によれば,甲2に

は,甲2記載の「カールマイヤーパターンNo.314/02」の編地が,全ての

編目位置においてループが形成された安定した経編地であることが開示

されているものと認められる。

カールマイヤーパターンN

o.314/02」の編地は,2枚の分割ジャカードバー「JTB1.1」及び「JTB1

.2」のみを使用して編地の外観を生成した「ハーフセット編み」からな

るジャカード編成組織で構成されるジャカード経編地であって,地筬で

編成されてなる全ての編目位置にループが存在する「支持組織」が存在

しないから,甲2に接した当業者は,甲2記載の「カールマイヤーパタ




ーンNo.314/02」の編地は,分割ジャカードバー「JTB1.1」又は「JTB1.

2」のいずれかの編成動作によって,全ての編目位置においてループが形

成されていることを理解するものといえる。

JT

B1.1」及び「JTB1.2」は,それぞれ「JTB1.1 1-0/1-2//」,「JTB1.2

1-2/1-0//」の基本動作を行うが,それらの基本動作のみによって甲2

記載の「カールマイヤーパターンNo.314/02」の編地を「4つの辺により

結ばれる点からなる標準パターンに,点を長方形で置き換える割り込み

が,偶然の配置に見えるように」編成することができないことは自明で

あるから,甲2に接した当業者は,分割ジャカードバー「JTB1.1」 「J
又は

TB1.2」のいずれか一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではル

ープが形成されない編目位置を,他方のハーフセット編みの変位あるい

は非変位によってループを形成して補うように,2つのハーフセット編

みが編成されていることにより,ジャカード編成組織の全てが編目位置

においてループが配置されていることを理解するものといえる。このこ

とは,被告が甲2に添付された編地見本の現物の編地の一部を拡大鏡(N

ikon製の実体顕微鏡SMZ)を用いて拡大して観察・分析して作成した

JTB1.1」及び「JT

B1.2」のいずれの編成動作においても上記基本動作からの変位のある個

所がみられることからも裏付けることができる。

以上によれば,甲2記載の「カールマイヤーパターンNo.314/02」の編

地は,「一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形

成されない編目位置を,他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位

によってループ形成して補うように,前記2つのハーフセット編みが対

になって編成されていることにより,変化組織を含むジャカード編成組

織の全てが編目位置においてループが配置されてなる」構成(相違点a




に係る本件発明1の構成)を備えているものと認められる。

したがって,相違点aは,本件発明1と甲2に記載された発明(甲2

発明)の実質的な相違とは認められず,甲2発明は本件発明1に含まれ

るものと認められる。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

イ 原告の主張について

原告は,@甲2には,「新規なラッピングにより製造されるこの編地

は,「スポットネット」と呼ばれ,全くもって新規です」との記載がある

が,その「新規なラッピング」なるものは,当業者が把握できる程度に具

体的に開示されているものではなく,ジャカード編成組織の全ての編目位

置においてループを形成するための具体的な手段の記載はないから,甲2

において,相違点aに係る本件発明1の構成が開示されているものとはい



きく異なるものであり,甲2における「2本のジャカードバーが,パワー

ネットの地組織を作ると同時に,パターンを作り込みます」との記載は,

当業者に対し,甲2の経編地がいかなる編成組織によって編成されている

かを理解する手掛かりをほとんど与えるものではない,B甲2には,JTB1

.1とJTB1.2の給糸量が,それぞれ,1040mm/rackと890mm/rackとして異なる

値となっておりJTB1.1の方がJTB1.2よりも多く編成糸を供給しているの

に,JTB1.1から給糸される編成糸とJTB1.2から給糸される編成糸のそれぞ

れの比率が同じ「37.8%」となっているのは極めて不可解であり,甲

2にいう「パワーネットの地組織」や「パターン」については,甲2の他

の記載を参酌しても,当業者にとって理解し難い,CJTB1.1とJTB1.2が同

じようなラッピング運動をする場合,特別な工夫をしない限り,給糸量の

少ないJTB1.2の編成糸の張力の方がJTB1.1の編成糸の張力を上回ることと

なるから,JTB1.1とJTB1.2の編成糸の張力のバランスが保てないはずであ

ることからすると,甲2の記載に基づいて当業者が編地を製造可能である




のか否かという点においてさえ疑問がある旨主張する。



技術常識によれば,甲2には,相違点aに係る本件発明1の構成が開示

されているものと認められ,甲2において2本のジャカードバーの基本動

作からの変位制御に関する具体的な記載がないことは上記認定を妨げるも

のではない。



し,あるいはルーペや分解鏡を用いて編成組織を拡大して観察し,その視

認又は観察した情報から編成組織を分析して編地の編成方法を確認するこ

とは,経編地を取り扱う業者において普通に行われていることであるから,

甲2に貼り付けられた編地見本の現物から2本のジャカードバーの基本動

作からの変位制御に関する具体的な情報を把握することができるものと認

められる。被告が甲2に添付された編地見本の現物の編地の一部を拡大

鏡(Nikon製の実体顕微鏡SMZ)を用いて拡大して観察・分析して作成し

JTB1.1」及び「JT

B1.2」のいずれの編成動作においても上記基本動作からの変位のある個所

がみられることからも裏付けることができる。なお,甲2にJTB1.1とJTB1

.2の給糸される糸の比率がそれぞれ「37.8%」と記載されているが,

ランナー値(給糸量)がJTB1.1は1040mm/rack,JTB1.2は890mm/rack,GB4

は110mm/rack,GB5は110mm/rackであることに照らすと,上記比率の記載は

原告が指摘するように明らかな誤りであり,正しくは,被告が指摘するよ

うに,JTB1.1の比率は「40.6%」,JTB1.2の比率は「34.94%」

であることが認められる。もっとも,このような誤りがあるからといって

上記2本のジャカードバーの基本動作からの変位制御に関する具体的な情

報を把握することができないということにはならない。

JTB1.1とJTB1.2の編成糸のランナー




値(給糸量)が異なるからといって直ちに張力のバランスが保てないとい

うことはできない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

小括

以上によれば,本件発明1は甲2に記載された発明と同一であるとした本

件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。

3 取消事由3(本件発明2ないし5に関する判断の誤り)について

原告は,本件発明1と甲1発明又は甲2発明には実質的な相違があるから,

本件発明1が甲1発明又は甲2発明と実質的に同一であることを前提に,本件

発明2ないし5が特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受け

ることができないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら,本件発明1が甲1発明又は甲2発明と実質的に同一であるこ

とは,前記1及び2で説示したとおりであるから,本件審決の上記判断に誤り

はない。

したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。

4 結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審

決にこれを取り消すべき違法は認められない。

したがって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文

のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範





裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 柵 木 澄 子





(別紙1)





(別紙2)





(別紙) 組織図(1)





(別紙) 組織図(2)





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(別紙) 明細書図面





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